令和5年6月30日判決言渡し・同日原本交付裁判所書記官令和4年(ワ)第24499号名誉毀損事件口頭弁論の終結の日令和5年4月11日判決主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告らは、原告に対し、連帯して、2200万円及びこれに対する令和4年 9月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 被告株式会社TBSテレビは、原告に対し、同被告が制作放送する「A」の番組内において、別紙謝罪放送目録記載の謝罪放送を1回行え。 3 被告Bは、原告に対し、C国際法律事務所のホームページ(http://D)に別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を3か月間掲載せよ。 第2 事案の概要本件は、原告が、被告株式会社TBSテレビ(以下「被告TBS」という。)の制作、放送に係る番組内で、被告B(以下「被告B」という。)が原告の名誉を毀損する発言をしたと主張して、被告らに対し、共同不法行為に基づき、損害賠償金2200万円及びこれに対する上記番組放送日(不法行為の 日)である令和4年9月1日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、名誉回復措置請求権に基づき、被告TBSに対しては謝罪放送を、被告Bに対しては謝罪広告を、それぞれ求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(枝番のある証拠につ き、全ての枝番を含む場合にはその表記を省略する。)及び弁論の全趣旨によ り容易に認められる事実)⑴ 原告は、Eにより昭和27年に大韓民国で設立された宗教団体が、昭和39年に東京都知事の認証を受けて成立した宗教法人である。従前の名称は「 論の全趣旨によ り容易に認められる事実)⑴ 原告は、Eにより昭和27年に大韓民国で設立された宗教団体が、昭和39年に東京都知事の認証を受けて成立した宗教法人である。従前の名称は「世界基督教統一神霊協会」であったが、平成27年、現在の名称に変更された。変更前の名称に基づき、「統一教会」ないし「旧統一教会」と呼称さ れることがある。 (甲1、丙22)⑵ 被告TBSは、放送法による放送事業等を目的とする株式会社であり、「A」と題する情報番組(以下「本件番組」という。)を制作、放送している。被告Bは、弁護士であり、本件番組のコメンテーターを務めている。 (第1文につき甲2)⑶ 本件番組の令和4年9月1日の放送(以下「本件放送」という。)において、被告Bは、原告と自由民主党(以下「自民党」又は「党」という。)との関係性に関連する話題の中で、別紙発言目録記載の発言(以下「本件発言」という。)を行った。 (甲3、乙3) 2 争点及びこれに関する当事者の主張⑴ 本件発言の違法性の有無(被告らの主張)ア本件発言は、原告と自民党議員との関係性を調査することは信教の自由 に反しないとの意見ないし論評であり、そもそも原告の社会的評価を低下させるものではないが、仮に低下させるものであるとしても、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあって、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱するものではないから、違法性がない。 イ原告は、本件発言中、「この教団がやっている外形的な犯罪行為等」と の表現部分(以下「本件表現」という。)が事実の摘示であると主張する。しかし、本件表現は、概括的・抽象的表現にすぎず、犯罪構成要件に該当する事実を何ら摘示す いる外形的な犯罪行為等」と の表現部分(以下「本件表現」という。)が事実の摘示であると主張する。しかし、本件表現は、概括的・抽象的表現にすぎず、犯罪構成要件に該当する事実を何ら摘示するものではないから、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものとはいえない。したがって、本件表現は、事実を摘示するものとはいえない。 むしろ、本件放送の全体の構成、登場した者の発言内容、本件発言の前後の文脈等からすれば、本件発言は、本件放送の他のコメンテーターの意見に対する反論として、原告と自民党議員との関係性を調査することは信教の自由を侵害するものではない旨の意見ないし論評を表明したものであることが明らかであり、一般の視聴者もそのように理解するものである。 そして、本件発言中の本件表現は、犯罪的、違法、反道徳的ないし反社会的な行為全般を指す法的見解の表明として「犯罪行為等」という表現を用い、そのような「犯罪行為等」に含まれるいわゆる霊感商法や高額献金勧誘行為等に原告が関係してきたとされている事実を上記意見ないし論評の前提として摘示したものである。 そして、本件表現の前提事実は真実であり、本件表現は、意見ないし論評としての域を逸脱するものでもないから、本件発言について違法性はない。 (原告の主張)ア本件発言中の本件表現は、証拠等をもってその存否を決することが可能 な他人に関する特定の事項を主張するものに他ならない。そして、本件表現を含む本件発言は、一般の視聴者に、原告が犯罪行為等を現に行っていると認識させるものであり、原告の社会的評価を低下させる。これに対し、被告らは、原告が犯罪行為等を行っていることの真実性について何ら主張立証をしていないから、本件発言の違法性は明らか を現に行っていると認識させるものであり、原告の社会的評価を低下させる。これに対し、被告らは、原告が犯罪行為等を行っていることの真実性について何ら主張立証をしていないから、本件発言の違法性は明らかである。 イ被告らが問題とする本件発言の行われた文脈を考慮しても、被告Bは、 原告を政治的に徹底排除すべきである旨の強固な持論を展開した上、その持論を正当化するために本件表現を行っているのであるから、一般の視聴者は、本件表現について、原告が犯罪行為等を行っていると被告Bが認識の上、これを指摘したものであると理解するものである。 被告らは、犯罪的、違法、反道徳的ないし反社会的な行為全般を指す法 的見解の表明として「犯罪行為等」という表現を用いたと主張するが、それは一般の視聴者の理解とかけ離れた解釈であり、「犯罪行為」の意味に多義性はなく、「等」は犯罪行為に準ずる違法行為を指すと理解されるのが一般である。 いずれにしろ、本件表現の前提事実は真実でなく、本件発言が違法であ ることは明らかである。 ⑵ 被告TBSの過失の有無(原告の主張)被告Bは、かねてから、本件番組内で原告を批判する発言を繰り返していたから、被告TBSは被告Bが原告の名誉を毀損する発言をすることを容易 に予見することができた。したがって、被告TBSは、被告Bに対し、そうした発言をしないよう注意する義務を負っていたところ、これを怠ったのであるから、過失がある。 (被告TBSの主張)争う。 ⑶ 損害の額(原告の主張)本件発言による原告の社会的評価の低下は著しく、その被害を償うに足りる慰謝料は2000万円を下らない。また、その1割に当たる200万円について、弁護士費用相当の損害と認められるべきである。 本件発言による原告の社会的評価の低下は著しく、その被害を償うに足りる慰謝料は2000万円を下らない。また、その1割に当たる200万円について、弁護士費用相当の損害と認められるべきである。 (被告らの主張) 争う。 ⑷ 謝罪放送及び謝罪広告の必要性(原告の主張)本件発言による原告の社会的評価の低下の程度は著しく、金銭賠償のみでは被害回復には十分ではない。よって、相当な名誉回復措置として、謝罪放 送及び謝罪広告が必要不可欠である。 (被告らの主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 前記第2の1の前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、 以下の事実を認めることができる。 ⑴ 令和4年7月8日、F元内閣総理大臣(以下「F元首相」という。)が銃撃されて死亡するという事件が起きたことを契機として、F元首相ないし自民党と原告との関係性が広く問題とされるようになっていった。 そうした中、G内閣総理大臣(以下「G首相」という。)は、令和4年8 月31日に記者会見を行い、「旧統一教会の問題」に触れ、政治家側には、社会的に問題が指摘される団体との付き合いには厳格な慎重さが求められる、自民党議員について、報道を通じ、原告と密接な関係を持っていたのではないかと国民から引き続き懸念や疑念の声をいただいているなどとして、自民党総裁として、党幹事長に対し、次の3点を指示したと説明した。すな わち、① 党所属国会議員を対象に原告との関係性を点検した結果を取りまとめ、公表すること、② 党所属国会議員が原告との関係を絶つことを党の基本方針とし、これを徹底すること、及び③ 今後、社会的に問題が指摘される団体と関係を持つことがないよう、党におけるコンプライアンスチェック体制を強化すること、の3 員が原告との関係を絶つことを党の基本方針とし、これを徹底すること、及び③ 今後、社会的に問題が指摘される団体と関係を持つことがないよう、党におけるコンプライアンスチェック体制を強化すること、の3点である。 また、H自民党幹事長(以下「H幹事長」という。)は、同じ日の記者会 見で、G首相(自民党総裁)の上記の指示を受け、自民党の役員会で、党所属国会議員は、今後、原告及びその関連団体とは一切関係を持たないこと、これを党の基本方針とすることを決定した、これを守ることができない議員がいた場合には、自民党では活動できないと考えているといった発言をした。 (乙1の1、乙2)⑵ 本件番組は、タレントによる司会進行の下、複数のコメンテーターが意見やコメントを述べていくというスタイルを基本としているところ、令和4年9月1日の本件放送では、上記⑴のG首相の記者会見がテーマとして採り上げられた。そして、そのコーナーの後半では、G首相がH幹事長に指示した という上記⑴の3点が説明されるとともに、H幹事長の上記⑴の発言内容も紹介された。 これを受け、被告Bを含む複数のコメンテーターが司会者に促されつつ意見交換をし、やがて、地方議会の議員の扱いが問題となったところで、一人のコメンテーターから、信教の自由との関係が指摘された。そして、信教の 自由を侵害しない形で原告との関係性を調査することの難しさが認識される中、司会者から被告Bに対し、信教の自由を侵害しない調査の可否や在り方について、コメントが求められた。本件発言は、この求めに応じて行われたものである。 (甲3、乙3) ⑶ 本件発言後、司会者が、「信教の自由を問うことが、もう今回の問題では逃げだと」と本件発言内容をまとめた。その後、本件放送は、翌週公表予 めに応じて行われたものである。 (甲3、乙3) ⑶ 本件発言後、司会者が、「信教の自由を問うことが、もう今回の問題では逃げだと」と本件発言内容をまとめた。その後、本件放送は、翌週公表予定の自民党の点検結果の内容が納得できるものであるかどうかが重要であるなどとするコメンテーターの意見が述べられて、上記⑴のG首相の記者会見に関するコーナーが終了した。 (乙3) 2 争点⑴(本件発言の違法性の有無)について⑴ テレビジョン放送をされた番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきであるところ、本件発言は、本件表現の趣旨をどのように理解するにせよ、一般の視聴者に対して原告が少なくとも遵法精神を欠く行為を行って きた団体であるとの印象を与えるものといえ、客観的には原告の社会的評価を低下させるものであること自体は認められるといえる。 もっとも、事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があっ たときには、上記行為には違法性がない。また、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域 を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠く(以上につき、最高裁判所平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁、最高裁判所平成16年7月 及ぶなど意見ないし論評としての域 を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠く(以上につき、最高裁判所平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁、最高裁判所平成16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁等参照)。 そして、本件発言が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が公 益を図ることにあることは、上記1認定の本件放送に至る経緯、本件放送の内容等に照らし認めることができるといえる。 ⑵ そこで、進んで、本件発言の趣旨、特に本件表現の趣旨について検討する。 ア被告らは、本件表現のうち「犯罪行為」という部分が概括的・抽象的で あるとして事実の摘示に当たらないと主張するが、本件表現の直前には 「消費者被害を生んだ」という表現も用いられており、本件表現について一定の犯罪類型を想起させる余地はあるといえるのであって、被告らの上記主張は、直ちには採用することはできない。 しかし、上記1⑵認定のとおり、本件発言は、信教の自由を侵害しない形で原告と自民党所属議員との関係性を調査することの難しさが認識され る中、司会者から被告Bに対し、信教の自由を侵害しない調査の可否や在り方についてコメントが求められたのに対して行われたものであるところ、被告Bの本件発言は、原告と自民党所属議員との関係性の調査の問題というよりは、原告に対し一般的に調査を行うことの適否について言及したものとなっている。そして、被告Bは、本件発言の中で、本件表現に先 立ち、「これは数々の消費者被害を生んだ、カルト団体(略)の問題だということで、誰もこの統一教会の教義そのものを点検しようなんて話はしていないんですよ。」(以下「本件先行発言部分」という。)と述べて、上記調査が原告による行為の外形に着 、カルト団体(略)の問題だということで、誰もこの統一教会の教義そのものを点検しようなんて話はしていないんですよ。」(以下「本件先行発言部分」という。)と述べて、上記調査が原告による行為の外形に着目して行われるべきもので、教義の内容について調査されるべきものではないことを指摘したものである。そ の上で、被告Bは、「ですから、教義が内容云々でそれをその思想内容を調査しようとしているんではなく、この教団がやっている外形的な犯罪行為等をですね、そういうことに着目しているわけです。」と本件表現を含む発言をしたものである。 このような事情を踏まえつつ、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方 を基準に本件表現をみれば、本件表現は、本件先行発言部分と表現を変えつつ同旨の内容を繰り返す発言をしようとする中で口にされた表現であり、本件表現中の「外形的な犯罪行為等」とは、実質的には、本件先行発言部分における「数々の消費者被害」を言い換えたものと認めるのが相当というべきである。 イ原告は、本件表現について、原告を政治的に徹底排除すべきである旨の 被告Bの強固な持論を正当化するためのものであるとして、一般の視聴者は、原告が犯罪行為等を行っているとの被告Bの認識を指摘したものと理解する旨主張する。しかし、上記アで説示した本件放送の文脈における本件発言の位置付け等を考慮すれば、一般の視聴者が、本件表現について原告が主張するような認識を抱くものとは認められない。 ウ以上によれば、本件発言は、原告が「数々の消費者被害を生んだカルト団体」であることを前提事実とした上、原告の外形的な行為に着目して調査を行う限りにおいては信教の自由を侵害することにはならないとする意見ないし論評を述べたものと認められる。 ⑶ 上記⑵の説示を踏 団体」であることを前提事実とした上、原告の外形的な行為に着目して調査を行う限りにおいては信教の自由を侵害することにはならないとする意見ないし論評を述べたものと認められる。 ⑶ 上記⑵の説示を踏まえ、本件発言の違法性の有無について検討する。 アある団体について「被害を生んだ」との擬人法による表現がされた場合、一般の視聴者は、その団体の代表者の行為によって当該被害が生じたという意味のみならず、その団体の構成員の行為に起因して当該被害が生じたという意味をも含むものと受け止めるものと認められる。したがって、本件発言の前提事実は、原告の構成員の行為に起因するものも含めて 数々の消費者被害が生じたというものと認められる。 そして、証拠(甲7、丙9~12)によれば、原告については、その構成員である信者らが教団の業務に関連して違法な献金や物品購入の勧誘行為を行っていたことを認定した裁判例が複数存在することが認められるから、原告の構成員の行為に起因して数々の消費者被害が生じたとする本件 発言の前提事実は真実であると認めることができる。 イ本件発言は、そのうち本件表現の部分だけを切り出せば、原告が現に犯罪行為を行っているという事実を摘示するものとして、原告の社会的評価を違法に低下させるものとの評価を招きかねないもので、被告Bが弁護士であることをも考慮すれば、発言として不適切な面があったことは否定し 難い。しかし、本件表現ないし本件発言の趣旨は上記⑵の説示のとおりで あり、この趣旨の本件発言が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱するものとは認められない。そうであれば、本件発言の前提事実が真実と認められることは上記ア説示のとおりであるから、結局、本件発言は違法性を欠くものと認められる。 3 結 ないし論評としての域を逸脱するものとは認められない。そうであれば、本件発言の前提事実が真実と認められることは上記ア説示のとおりであるから、結局、本件発言は違法性を欠くものと認められる。 3 結論 以上の次第で、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。よって、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第16部 裁判長裁判官伊藤正晴 裁判官松山美樹 裁判官横山怜太郎
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