平成19(行ウ)705 免許停止差止請求事件

裁判年月日・裁判所
平成20年1月18日 東京地方裁判所 警察関係
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判決文本文8,292 文字)

- 1 -主文 本件訴えを却下する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求東京都公安委員会は,原告に対し,平成16年6月27日付け踏切不停止を理由とする違反点数2点,同年12月2日付け放置駐車違反を理由とする違反点数2点及び同17年9月15日付け指定場所不停止を理由とする違反点数2点の累積点数6点を理由とする30日間の運転免許停止処分をしてはならない。 第2事案の概要本件は,原告が,東京都公安委員会から道路交通法(以下「道交法」という)に基づき,平成16年6月27日付けで踏切不停止を理由と。 して道路交通法施行令(以下「道交法施行令」という)所定の違反点。 数2点を,同年12月2日付けで放置駐車違反を理由として違反点数2点を,さらに,同17年9月15日付けで指定場所不停止を理由として違反点数2点をそれぞれ付加された結果,累積点数が6点になり30日間の運転免許停止処分をされる状況になったものの,その後2年以上経過しても同処分がされず,他方,原告もその後道交法違反行為を何らしていないにもかかわらず,近い将来同処分をされることになると重大な損害を被るおそれがあるなどとして,同処分の差止めを求める事案である。 - 2 - 前提事実本件の前提となる事実は,以下のとおりである。証拠及び弁論の全趣,,旨により認めることのできる事実は括弧内に認定根拠を付記しておりその余は,当事者間に争いのない事実である。 ( )原告は,東京都新宿区(以下「新宿区」という)において行政 。 書士事務所を営む者であり,東京都公安委員会の運転免許(以下「免許」という)を受けている者である(弁論の全趣旨)。 。 ( )東京都公安委員会は,原告に対し,平成16年6月27日付けで 踏切不停止を理由として違反点数2点 京都公安委員会の運転免許(以下「免許」という)を受けている者である(弁論の全趣旨)。 。 ( )東京都公安委員会は,原告に対し,平成16年6月27日付けで 踏切不停止を理由として違反点数2点を付加した(甲1)。 ( )原告は,東京地方検察庁から,平成16年8月17日,上記( )に 関する道交法違反の容疑について不起訴処分に付された(甲7)。 ( )東京都公安委員会は,原告に対し,平成16年12月2日付けで 放置駐車違反を理由として違反点数2点を付加した(甲1)。 ( )原告は,東京地方検察庁から,平成17年6月30日,上記( )に 関する道交法違反の容疑について不起訴処分に付された(甲6)。 ( )東京都公安委員会は,原告に対し,平成17年9月15日付けで 指定場所不停止を理由として違反点数2点を付加した(甲1)。 ( )原告は,平成19年11月15日,東京地方裁判所に対し,前記 ( ),( )及び( )の各道交法違反による累積点数6点を理由とする3 0日間の免許停止処分(以下「本件免停処分」という)の差止めを。 求める訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。 争点 - 3 -( )本案前の争点1 本件免停処分がされることにより,原告に「重大な損害を生ずるおそれ(行政事件訴訟法37条の4第1項本文)があるか。 」( )本案前の争点2 本件免停処分がされることにより原告に生ずる損害につき「その,損害を避けるため他に適当な方法があるとき(行政事件訴訟法37」条の4第1項ただし書)ではないということができるか(以下,この要件を「補充性の要件」という。 。) 争点に関する当事者の主張( )本案前の争点1(重大な損害を生ずるおそれの有無) (原告の主張)ア原告は ではないということができるか(以下,この要件を「補充性の要件」という。 。) 争点に関する当事者の主張( )本案前の争点1(重大な損害を生ずるおそれの有無) (原告の主張)ア原告は,行政書士事務所を1人で経営している者であり,本件免停処分がされると,30日間,自動車やバイクなどを運転することができなくなり,移動手段を奪われるため,緊急出動や夜間早朝の現地出張をモットーとしている行政書士としての業務にとって,死刑判決の宣告に等しいほどの支障が生じる。 しかも,原告は,平成16年6月27日付けで踏切不停止を理由として違反点数2点を,同年12月2日付けで放置駐車違反を理由として違反点数2点を,さらに,同17年9月15日付けで指定場所不停止を理由として違反点数2点をそれぞれ付加されたものであるが,このうち,前2者については,刑事手続において不起訴処分とされたものである。前2者に関して,仮に,原告が受けた警察の- 4 -取締りが適正であり,原告が処罰に値するものであるならば,検察官は不起訴処分にはしなかったはずであり,また,原告を不起訴処分にすることが不当であるにもかかわらず,不起訴処分にしたということであれば,警察は,不起訴処分が不当であると申し立てるは,,,ずであるところ実際にはいずれの道交法違反の事実についても原告は検察官により不起訴処分にされ,警察も不起訴不当であると申し立てることはなかったのであるから,前2者の道交法違反の事実については処罰に値しないという評価が下されたというべきである。そうすると,それにもかかわらず,東京都公安委員会が前2者の道交法違反の事実をも対象に含めて本件免停処分をすることは,筋が通らないものであり,原告の被る精神的な屈辱は甚大である。 イ以上のとおりであり,原告には,本件免停処分 ず,東京都公安委員会が前2者の道交法違反の事実をも対象に含めて本件免停処分をすることは,筋が通らないものであり,原告の被る精神的な屈辱は甚大である。 イ以上のとおりであり,原告には,本件免停処分がされることにより,重大な損害が生ずるおそれがあるというべきである。 (被告の主張)ア「損害の回復の困難性」について「重大な損害」を生ずるか否かを判断するに当たっては,まず,「損害の回復の困難の程度」を考慮することとされている(行政事件訴訟法37条の4第2項。 )すなわち,行政事件訴訟法37条の4第1項にいう損害とは,処分を受けることによって被る損害が金銭賠償不能あるいは現状回復不能のもの,若しくは著しい損害でなくとも,社会通念上それを被ったときはその回復は容易でないと認められる程度のものであれば- 5 -足りると解されている(最高裁平成14年(行フ)第6号同年4月26日第二小法廷決定・訟務月報49巻12号3080頁,最高裁同16年(行フ)第3号同年5月31日第一小法廷決定・訟務月報51巻3号742頁。これを本件についてみるに,本件免停処分)により原告が被る損害は,自動車の運転をすることができなくなることにより発生する経済的損害以外には想定できないから,金銭賠償による回復をもって満足することが可能なものであることが明らかである。 また,仮に,金銭賠償による回復が可能な場合でも,その救済が受けられるまでの間に生活が極度に困窮するなど特別な事情が発生した場合には「回復の困難な損害」ということができないではな,いが,本件免停処分により,原告にそのような特別な事情が発生するということも到底想定することができない。 したがって,本件免停処分により原告が被る損害が「回復の困難な損害」に該当することはあり得ないから,本件における「損害の回 にそのような特別な事情が発生するということも到底想定することができない。 したがって,本件免停処分により原告が被る損害が「回復の困難な損害」に該当することはあり得ないから,本件における「損害の回復の困難性」を勘案しても,本件免停処分により「重大な損害」を生ずるおそれがないことは明らかである。 イ「損害の性質」について原告が,本件免停処分を受けて一定期間自動車の運転ができなくなることによって被る不利益は,タクシー等の代替交通機関を利用する費用や,自動車を運転しなければならない業務に就労することができないといった運転免許の効力停止等の行政処分に通常伴う性- 6 -質の不利益の域を出ないものであるから「損害の性質」という観,点からみても「重大な損害」を生ずるおそれはないというべきで,ある。 また,本件免停処分は,原告の運転免許の効力を30日間停止するというものであるから,本件免停処分を受けることにより,原告の社会的信用や名誉が失われることもあり得ない。 したがって,本件における「損害の性質」を勘案しても,本件免停処分により「重大な損害」を生ずるおそれがないことは明らかである。 ウ「損害の程度」について前記イのとおり,本件免停処分により原告が被る損害は,30日間自動車を運転することができないことにより発生するものにほかならないのであるから,その損害の程度は,極めて軽微なものであることが自明である。 したがって,本件における「損害の程度」を勘案しても,本件免停処分により「重大な損害」を生ずるおそれがないことは明らかである。 エ「処分の内容及び性質」について(ア)免許の効力停止等の行政処分手続が達成しようとしている行政目的について考えると,同手続は,道路交通上危険のある運転者を一定期間道路交通の場から排除して,将来における道 内容及び性質」について(ア)免許の効力停止等の行政処分手続が達成しようとしている行政目的について考えると,同手続は,道路交通上危険のある運転者を一定期間道路交通の場から排除して,将来における道路交通上の危険を防止し,道路交通の安全と円滑を図ることを目的とし- 7 -ているものであり,行政庁が負う責務の本質的な一作用として高度な公益性を有するものである。 そして,免許の効力停止等の行政処分手続がこのような行政目的を念頭において設けられた制度である以上,道交法は,免許の効力停止等の行政処分により,被処分者の移動の自由や活動がある程度制限され,それに伴って経済的あるいは精神的苦痛等の不利益が生ずることも当然に予定しているというべきであるから,免許の効力停止等の行政処分がこのような性質を包含していることは明らかである。 (イ)これを本件についてみるに,3件の道交法違反行為を繰り返し,免許の効力が30日間停止されることとなった原告は,道路交通上危険な運転者にほかならず,このような運転者を一定期間道路交通の場から排除するために本件免停処分を行うことは,正しく,免許の効力停止等の行政処分手続の目的とするところである。 そして,本件免停処分により原告が被る不利益と,原告が道路交通の場から排除されないことにより一般国民が被る道路交通上の安全と円滑が脅かされるという不利益とを比較考量すれば,本件免停処分が原告の不利益を発生させてでも行われるべきものであることは明らかである。 したがって,本件免停処分の内容及び性質を勘案しても,本件免停処分により「重大な損害」を生ずるおそれがないことは明ら- 8 -かである。 ,「」,オ以上のとおり本件免停処分における損害の回復の困難の程度「損害の性質及び程度」並びに「処分の内容及び性質」のすべてを 大な損害」を生ずるおそれがないことは明ら- 8 -かである。 ,「」,オ以上のとおり本件免停処分における損害の回復の困難の程度「損害の性質及び程度」並びに「処分の内容及び性質」のすべてを考慮し,勘案しても,原告に行政事件訴訟法37条の4第1項にいう「重大な損害」を生ずるおそれがないことは明らかであるから,本件免停処分により重大な損害が発生するとする原告の主張は,失当である。 ( )本案前の争点2(補充性の要件の存否) (原告の主張)行政不服申立手続では,回答まで3年以上かかるため,実効性がなく,原告の苦情及び請願に対して何ら問題なしと回答する東京都公安委員会は,正常な審議機関ではないから,本件については,重大な損害を避けるために他に適当な方法がないという補充性の要件を満たしているというべきである。 (被告の主張)差止めの訴えが適法となるには「その損害を避けるため他に適当,な方法があるとき」ではないことが必要であるとされており(行政事件訴訟法37条の4第1項ただし書,他の方法により実効的な救済)が得られるときに,例外的な事前救済の方法である差止めの訴えを許容する必要はないことから,この補充性の要件が設けられていると解されている。そして,前記争点1の(被告の主張)のとおり本件免停処分により発生し得る損害は,本件免停処分の取消訴訟を提起して同- 9 -処分の効力停止を申し立て,同効力停止決定がされることにより,容易に救済を得られるから,本件においては「その損害を避けるため,他に適当な方法があるとき」に当たることが明らかである。 第3争点に対する判断 本案前の争点1(重大な損害を生ずるおそれの有無)について( )本件訴えは,原告が,東京都公安委員会が原告に対して道交法違 反行為を理由としてした道交法施行 である。 第3争点に対する判断 本案前の争点1(重大な損害を生ずるおそれの有無)について( )本件訴えは,原告が,東京都公安委員会が原告に対して道交法違 反行為を理由としてした道交法施行令の定める違反点数の付加行為3件により累積点数が6点になったことから,本件免停処分を受ける蓋然性があるとして,その差止めを求めるものである。 行政事件訴訟法37条の4第1項本文は「一定の処分ところで,,又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合」を差止めの訴えの積極的要件とし,同条2項において「裁判所は,,前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮するものとし,損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘案するものとする」と規定。 差止めの訴えについては,差止めを求める当している。そうすると,該処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合であ「重大な損害が生ずるおそれることが訴訟要件の1つとなっており,がある場合」とは,当該処分の執行を受けることによって,原状回復若しくは金銭賠償によるてん補が不能であるか,又は社会通念上,そのような原状回復,金銭賠償等で損害を回復させるのが容易でなく,若しくは相当でないとみられる程度に達しているというような損害を- 10 -原告が被るおそれがある場合をいうと解するのが相当であり,その判断は,原告が処分の執行によって被る損害が,その性質,内容,程度等に照らし,行政目的を達成する必要性との関連において,やむを得ないものと評価することができず,行政目的の実現を一時的に犠牲にしてもなお原告を救済しなければならない必要性があるか否かという観点からすべきものであると解される。 ( )本件免停処分は,具体的には,30 のと評価することができず,行政目的の実現を一時的に犠牲にしてもなお原告を救済しなければならない必要性があるか否かという観点からすべきものであると解される。 ( )本件免停処分は,具体的には,30日間の免許停止を内容とする ものであるところ,重大な損害が生ずるおそれにつき,原告は,行政書士事務所を1人で経営している者であり,自動車及びバイクの運転が業務に必要不可欠であるところ,簡易迅速な移動手段を奪われることに直結する本件免停処分を受けることは死活問題であり,重大な損害が生ずるのは明らかであり,また,3件の道交法違反行為のうち2件は検察官により不起訴処分を受けたものであるから,その2件について処罰に値しないという評価が下されたものということができるにもかかわらず,原告が本件免停処分を受けるということは,筋が通らないものであり,原告の被る精神的な屈辱は甚大であり,これも「重大な損害」ということができる旨主張する。 ( )そこで検討するに,確かに,原告の主張するとおりの業務形態を 採り,自ら運転する自動車又はバイクを業務の際の移動手段として活用しているのであるならば,本件免停処分を受けることにより,業務の遂行上必要な移動手段を奪われることになり,移動の自由や活動がある程度制限され,ある程度の経済的損害が生じ,またこれに伴い精- 11 -神的苦痛を被ることがあることを容易に推認することができる。しかしながら,前記前提事実のとおり,原告には,本件免停処分の対象となる過去の運転経歴として3件の道交法違反の事実があり,累積点数が6点になっているところ,道交法がそのような者について,所定の手続を経て本件免停処分をすることを定めていること,及び,免許の効力停止等の行政処分手続が達成しようとしている行政目的は,道路交通上危険のある運転者を るところ,道交法がそのような者について,所定の手続を経て本件免停処分をすることを定めていること,及び,免許の効力停止等の行政処分手続が達成しようとしている行政目的は,道路交通上危険のある運転者を一定期間道路交通の場から排除して,将来における道路交通上の危険を防止し,道路交通の安全と円滑を図るこ,,とであることを考慮すると原告が本件免停処分を受けることにより移動の自由や活動がある程度制限され,それに伴って,経済的あるいは精神的苦痛等の不利益が生ずることは当然に予定されているというべきであり,そのような損害を被ることは,道路交通上一定の危険性のある運転者を一定期間道路交通の場から排除して,将来における道路交通上の危険を防止し,道路交通上の安全と円滑を図るという行政目的の実現のため,社会通念上やむを得ないことといい得るものである。原告は,本件免停処分を受けることは,不起訴処分とされた2件の道交法違反の事実を対象に含む点において承服することができず,精神的苦痛が甚大である旨主張するが,刑事手続と行政手続が別個の手続である以上,たとえ行政処分の対象となる道交法違反の行為に,刑事手続において不起訴処分とされた行為が含まれているとしても,前記判断が左右されるものではない。この点に関し,不起訴処分とされた当該道交法違反行為の事実関係を争いたいというのであれば,原- 12 -告としては,東京都公安委員会により本件免停処分がされたときに,本件免停処分の取消訴訟を提起して,不起訴処分とされた2件の道交法違反の事実についての点数付加行為の適法性を争うことができるのであって,また,それで足りるというべきである。 自ら運転する自動車又はバイクを業務の際の移動手段そうすると,おそれ等があることをもって,原として活用することができなくなる告が,本件 ができるのであって,また,それで足りるというべきである。 自ら運転する自動車又はバイクを業務の際の移動手段そうすると,おそれ等があることをもって,原として活用することができなくなる告が,本件免停処分を受けることを是認することができない程度の重大な損害を被るおそれがあるということはできないというべきである。 そして,その他原告の主張するところ及び本件全証拠を検討してみても,本件において,原告が,本件免停処分を受けることを是認することができない程度の重大な損害を被るおそれがあると認めることはできない。 (4)以上によれば,原告が本件免停処分に基づき自動車及びバイクを運転することができなくなることにより被る損害は,社会通念上,金銭賠償による回復をもっててん補するにとどめることもやむを得ない程度のものというべきである。 そうすると,本件免停処分の差止めの訴えについては,損害の回復の困難の程度,損害の性質及び程度,処分の内容及び性質等を総合勘案しても「重大な損害を生ずるおそれがある場合」に該当すると認,めることはできない。 結論 - 13 -よって,本件訴えは,その余の争点について判断するまでもなく,不適法であるから,これを却下することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部杉原則彦裁判長裁判官小田靖子裁判官島村典男裁判官

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