- 1 -平成19年3月29日判決言渡平成17年(ワ)第16308号損害賠償請求事件口頭弁論終結の日平成19年1月25日判決主文 被告らは,原告に対し,連帯して,150万円及びこれに対する平成17年8月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用はこれを6分し,その1を被告らの負担とし,その余は原告の負担とする。 この判決の第1項中被告国に係る部分は,この判決が被告国に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求被告らは,原告に対し,連帯して,924万0725円及びこれに対する平成17年8月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,乳がんの検査及び治療のために,被告国が開設するA病院(以下「被告病院」という)に通院していた原告が,被告らに対し,当時被告病院。 に勤務して原告の診療を担当した被告B医師(以下「被告医師」という)が。 乳がんの病期の診断を誤り,誤った病期を原告に告知したこと,また,本来不必要な右腋窩リンパ節郭清術を受けることを余儀なくさせたことなどにより,精神的苦痛等の損害を被ったなどと主張して,診療契約の債務不履行又は不法- 2 -行為に基づいて損害賠償を求める事案である。 前提となる事実(当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実)(1)原告(昭和26年10月28日生)は,平成16年(以下,同年については,原則として表記しない)8月,C病院において乳がんの疑いがある。 と指摘され,原告の希望により,9月1日,被告病院を受診した。 (2)被告病院における診療の経過の概要は,次のとおりである ついては,原則として表記しない)8月,C病院において乳がんの疑いがある。 と指摘され,原告の希望により,9月1日,被告病院を受診した。 (2)被告病院における診療の経過の概要は,次のとおりである。 ア原告は,被告病院において,9月1日に胸・腹部CT造影検査を,同月2日に乳腺超音波検査,左乳腺について針生検(CNB。針を刺して採取したしこりの一部の組織を調べる検査,右乳腺について穿刺吸引細胞診)(FNA。しこりに細い注射針を刺して吸引した細胞を調べる検査,同)月7日にマンモグラフィー(MMG。乳房X線検査)及び乳腺CT造影検査,同月9日に全身骨シンチ検査,15日には骨レントゲン検査(骨X線検査)をそれぞれ受けた。 イこれらの検査の結果,被告医師は,原告の乳がんは骨転移が認められるとして,その病期をⅣ期と判断し,これに基づき,原告に対し,原告の治療としては,根治を目的とせず,がんとの共存を目的として治療する旨伝え,10月6日からホルモン剤投与による治療を開始した。 ウその後,原告は,11月22日に,D病院臨床腫瘍科のE医師の,同月)。 24日に,F病院のG医師のセカンドオピニオンを受けた(甲A4,5エ11月29日,原告は,被告医師に対し,セカンドオピニオンを受けたところ,MRIを撮るように言われたと述べた。 オそこで,原告は,被告病院において,同月30日及び12月1日に,骨盤骨,頭蓋骨,頸椎についてMRI造影検査を受けた。 その結果,原告には明らかな骨転移所見は認められないとして,H医長らは,病期をⅢB期と判断した。 - 3 -(3)原告は,平成17年6月30日,F病院において,左胸筋温存乳房切除術,右乳房部分切除術,両側腋窩リンパ節郭清術を受けた(乙A2。 ) 争点 (1)病期の診断を誤り,誤った病期を告知し,また, )原告は,平成17年6月30日,F病院において,左胸筋温存乳房切除術,右乳房部分切除術,両側腋窩リンパ節郭清術を受けた(乙A2。 ) 争点 (1)病期の診断を誤り,誤った病期を告知し,また,適切な措置を採らなかった過失の有無(2)上記過失と右腋窩リンパ節郭清により生じた上腕挙上障害,上腕浮腫等の障害との間の因果関係の有無(3)損害の額 争点についての当事者の主張(1)争点(1)(病期の診断を誤り,誤った病期を告知し,また,適切な措置を採らなかった過失の有無)について(原告の主張)原告は,9月15日当時,乳がんのⅢ期であった。 被告らは,被告病院脳外科I医師と整形外科のJ医長が,9月15日に撮影された原告の骨レントゲンについて所見を示した時点で,MRI検査を行い,原告のがんが骨に転移しているか否かを確認し,骨転移していないと診断した上で,原告に病期を告げ,また,抗がん剤を投与し,手術により乳がんを根治すべき注意義務があったにもかかわらず,被告医師は,MRI検査を行わず,原告の乳がんをⅣ期であると誤診して,これに基づいて原告に誤った病期を告げ,また,抗がん剤投与,外科手術を行って根治して普通の生活に戻れる可能性が極めて高かったにもかかわらず,根治手術を断念して,原告に対し,単に現状の進行をくい止めるにすぎないホルモン療法を行った過失がある。 被告らの過失は以下の事情からも明らかである。 ア被告医師が,原告に3か所の骨転移が認められると診断した際に,診断の材料に供した資料の主なものは,9月15日に撮影した骨レントゲン写- 4 -真とI医師及びJ医長の所見(乙A1の58頁)である。 しかし,I医師は,頭部について「わずかに骨透過性が亢進している,ようにみられます。臨床的に問題があるようでしたら,CT,MRIを行うこ -真とI医師及びJ医長の所見(乙A1の58頁)である。 しかし,I医師は,頭部について「わずかに骨透過性が亢進している,ようにみられます。臨床的に問題があるようでしたら,CT,MRIを行うことをすすめます」と述べ,頸椎については「C5硬化+bone-me。 ,ta(骨組織病変)か」と述べ,骨盤については「硬化像あり転移か」,と述べており,いずれも,骨転移であると確定的に診断しているわけではなく,頭部については,MRIを行うことを勧めている。 また,J医長は,12月ころ,原告に対し,頭部,頸部及び骨盤に転移の疑いがあり,乳がん患者の場合は,転移の可能性が高いので,画像診断上は転移の疑いとの所見を述べたが,診断は主治医の仕事であり,MRIを撮るべきであった,と述べた。 イ被告病院は,グループ診療を行っていると述べながら,被告医師は,指導医であるH医長に相談もしないで,独断で,誤った診断を行ったものである。 ウD病院やF病院の医師らは,前記レントゲン写真を見て,MRIを撮るべきだとのセカンドオピニオンを示している。 エ11月30日と12月1日に,被告病院において,MRI検査を受けると,その日のうちに,原告に骨転移がなかったことが明らかとなっており,骨転移の有無の判断が,MRI検査により容易であったことは明白である。 オ原告は,9月15日までの間に,被告医師から,骨転移していないⅢ期の乳がんであったら,抗がん剤を投与して,がんを小さくしてから,手術により切除する治療方法を採る旨,説明を受けている。 被告らは,Ⅲ期であれば,化学療法を施用し,腫瘍を減少させてから外科手術で治療を行う方針であったのに,途中から,骨転移のあるⅣ期のがんであるとして,急遽,その治療方法を化学療法からホルモン療法に変更したものである。 - 5 -(被 用し,腫瘍を減少させてから外科手術で治療を行う方針であったのに,途中から,骨転移のあるⅣ期のがんであるとして,急遽,その治療方法を化学療法からホルモン療法に変更したものである。 - 5 -(被告らの主張)被告医師が,I医師及びJ医長の骨レントゲンのX線診断レポート(乙A1の58頁)を確認した時点でMRI検査を行わなかったこと,骨転移という診断が結果的には正しくなかった可能性が高いことは認めるが,以下のとおり,骨転移が絶対になかったとは言い切れないし,また,仮に診断を誤っていたとしても,過失と評価されるべきものではない。 ア一般的に,悪性腫瘍の骨転移の有無は,患者の主訴,腫瘍の大きさや性状,腫瘍マーカーの値,骨シンチ検査,CT,骨レントゲンなどの所見を総合して診断される。この中でも,その診断に最も一般的に用いられているのが骨シンチ検査である(乙B2の4頁。 )原告の場合,左乳房の腫瘍のサイズが8㎝×6㎝と大きく,表面に発赤も認められる状態で,腫瘍マーカー(CEA)の値も異常高値を示していた。その他,骨シンチ検査,CT,骨レントゲンの結果などを総合すれば,骨転移と判断し得る状態であった。 この判断は,整形外科で骨転移のエキスパートであるJ医長に直接相談し,上席医である乳腺内科のK医師とも協議してしたものであり,被告医師が単独で行ったものではない。J医長は,骨転移の疑いというレベルに留まるものではなく,骨転移ありと判断して治療を進めて良いと被告医師に述べている。 仮に,現在原告に骨転移が起こっていないとしても,骨レントゲン検査の後,被告病院でのホルモン療法,あるいは,F病院での化学療法等で,骨転移が治癒された可能性は否定できないのであり,骨レントゲン検査やMRI検査をした当時,骨転移が絶対なかったとは言い切れない。 イ原告及びその でのホルモン療法,あるいは,F病院での化学療法等で,骨転移が治癒された可能性は否定できないのであり,骨レントゲン検査やMRI検査をした当時,骨転移が絶対なかったとは言い切れない。 イ原告及びその夫からMRI検査の要請があったけれども,被告医師は,被告病院のMRI検査の待機期間は通常4週間程度かかること,仮に,4週間待ってMRI検査を行い,陰性所見が得られたとしても,偽陰性の可- 6 -能性もあることから,ひとまず全身治療を開始して経過を見る方が良い,MRI検査の結果が判明するまで何も治療を開始しないということは適切でないと判断し,MRI検査を行わずに全身治療であるホルモン療法を開始したものであり,全身療法を開始する前にMRI検査を実施しなかったことが不適切であるとはいえない。 ウこのように,当初におけるⅣ期の診断が必ずしも誤診とは言い切れず,仮に,結果的には誤診であったとしても,そのような診断をしてⅣ期の告知をしたことには,過失がなく,その告知方法も適切なものであったというべきである。 エなお,9月15日までに,被告医師が,原告に対して説明した内容は,もし,骨レントゲン検査で骨転移が否定されれば,病期ⅢB期の局所進行乳がんとして,10月6日から全身治療を開始し,その後,現時点では不可能な手術が可能になれば手術を行う,手術が可能な状態にならなければ放射線治療を行う,全身治療に関しては,化学療法とホルモン療法と緩和療法があり,病気の状態や体調に応じて行うとの趣旨のものである。 オ原告の腫瘍は,ホルモン受容体のうち,エストロゲン受容体が強陽性,プロゲステロン受容体が陽性であり(乙A1の52頁,特にホルモン療)法の効果が上がりやすいタイプであった。このような原告の腫瘍に対し,ホルモン療法としてアリミデックスを投与したもので,実際, 性,プロゲステロン受容体が陽性であり(乙A1の52頁,特にホルモン療)法の効果が上がりやすいタイプであった。このような原告の腫瘍に対し,ホルモン療法としてアリミデックスを投与したもので,実際,ホルモン療法中に明らかな病変の増大は,認められていない。 10月6日から原告に投与されていたアリミデックスは,アロマターゼ阻害薬の一つで,アロマターゼ阻害薬は,ホルモン受容体を有する閉経後乳がんに対する国際的な標準的治療である(乙B3。 )ホルモン療法については,エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体が共に陽性の閉経後乳がん患者に対して行った際の奏功率は50ないし75%(乙B6,あるいは,78%(乙B7)と,抗がん剤投与に匹敵す)- 7 -る効果を挙げることが知られている。実際に,近年,本件で使用されたアロマターゼ阻害剤を使用した術前ホルモン療法の臨床試験の結果が次々と報告されており,それらによると,アロマターゼ阻害剤を使用した術前ホルモン療法による奏功率(臨床腫瘍縮小効果)は50ないし80%(乙B8,あるいは,72%(乙B9)で認められるなど,化学療法に匹敵す)る成績を収めている(乙B9。 )このようなホルモン療法に関する医学的知見等からすると,Ⅳ期と診断してホルモン療法を2か月行ったことが,原告の予後に大きな影響を与えたとは考え難いし,これが過失と評価されるような不適切なものであったとはいえない。 (2)争点(2)(過失と右腋窩リンパ節郭清により生じた上腕挙上障害,上腕浮腫等の障害との間の因果関係の有無)について(原告の主張)ア平成16年9月当時,原告には,右腋窩リンパ節への転移はなく,その切除を要する状態ではなかった。 ところが,上記過失により,被告病院は,原告に対し,2か月間化学療法を実施せず,また,外科的手術実施が 平成16年9月当時,原告には,右腋窩リンパ節への転移はなく,その切除を要する状態ではなかった。 ところが,上記過失により,被告病院は,原告に対し,2か月間化学療法を実施せず,また,外科的手術実施が遅れたことにより,原告の乳がんは右腋窩リンパ節を摘出せざるを得ない状態にまで進行した。 原告は,平成17年6月30日,右腋窩リンパ節を摘出し,これにより,腕の腫れ,痛み,しびれ,肩関節の運動障害,重いものが持てない,横向きに寝ることができないといった後遺障害(後遺障害別等級表12級6号「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの)を負った。 」イ原告のⅢ期の乳がんに対しては,化学療法が適切であった。このことは被告医師が,当初,化学療法をする予定であったが,Ⅳ期と診断するや突然それをホルモン療法に変更したことからも明らかであるし,ホルモン療法が奏功しなかったことは腫瘍マーカーが上昇している(乙A1の34,- 8 -35,42頁)ことからも明らかである。 (被告らの主張)ア原告主張の過失と原告が右腋窩リンパ節郭清を必要としたこととの間には,因果関係がない。 イ12月2日施行の乳腺超音波検査の結果によれば,左右の乳がん及び左の腋窩リンパ節腫大は9月6日と比べて不変,右の腋窩リンパ節腫大も反応性リンパ節腫大との診断であり,右腋窩リンパ節転移は,この時点では否定的であった。 ウ乳房切除の外科手術を選択した以上は,乳がんの進行度とは関係なく,)。 腋窩リンパ節の郭清も併せて行うのが通常である(乙B11の215頁仮に,原告主張のとおり,2か月早く化学療法が行われていたとしても,標準的な治療法に則る限り,外科手術の際には,腋窩リンパ節郭清が必要であったのであり,誤診により治療が遅れたために本来必要ではなかった右腋窩リンパ節郭清を行わなければ 学療法が行われていたとしても,標準的な治療法に則る限り,外科手術の際には,腋窩リンパ節郭清が必要であったのであり,誤診により治療が遅れたために本来必要ではなかった右腋窩リンパ節郭清を行わなければならなくなったわけではない。 そして,腋窩リンパ節郭清を行うと,一定割合で,上腕挙上障害,上腕浮腫等の合併症が生じる。 なお,センチネルリンパ節生検でリンパ節転移の有無を調べ,陰性であれば腋窩リンパ節郭清はしないという方法もあるが,この方法は,術前化学療法実施後の症例では,その妥当性を示す根拠はないとされており,本件のように術前化学療法が実施された症例ではセンチネルリンパ節生検を経ることなく腋窩リンパ節郭清を行うのが標準的治療法である。 エ前記(1)被告らの主張オのとおり,Ⅳ期と診断してホルモン療法を2か月行ったことが,原告の予後に大きな影響を与えたとは考え難い。 腫瘍マーカーは,あくまでも治療の目安の一つにすぎず,それを根拠にして治療の効果判定を行うことは,米国臨床腫瘍学会のガイドラインでも根拠がないとされている(乙B1)ところ,原告の腫瘍の大きさの変化に- 9 -ついては,毎回の受診日に視診,触診,ノギスによる計測で,増悪がないことを確認している。 オまた,被告病院では,本症例と同様の症例に対して術前化学療法を行う場合,初回受診後治療開始までの諸検査の期間と,内科的治療(化学療法)終了後外科治療までの待機期間を合わせると約2か月かかり,化学療法を行う約6か月を加えると,合計約8か月程度はかかるのであり,本件において,原告に対してホルモン療法を2か月行ったためにその後の治療が特段遅れたということはない。 (3)争点(3)(損害の額)について(原告の主張)ア休業損害276万円被告医師が,原告の乳がんの病期がⅣ期であり,がんを根治す か月行ったためにその後の治療が特段遅れたということはない。 (3)争点(3)(損害の額)について(原告の主張)ア休業損害276万円被告医師が,原告の乳がんの病期がⅣ期であり,がんを根治することができないため,がんと共存する治療方法しか採れないなどの害悪の告知をしたことにより,原告は,人生に絶望して死の恐怖におののく精神状態に追い込まれ,幼児リトミックやピアノのレッスンを休まざるを得なくなった。 そのため,その間の幼児リトミックのレッスン料126万円及びピアノのレッスン料150万円の合計276万円を得ることができなかった。 イ慰謝料648万0725円(ア)上記アのような精神状態に追い込まれたことに加え,原告が被告医師に対し,腫瘍マーカーの上昇を阻止してほしいと言ったにもかかわらず,被告医師がこれを放置したことにより,腫瘍マーカーは上昇し続け,手術療法を行うまで6か月もかけて腫瘍マーカーを下げなければならず,実際には,被告医師による誤診と2か月の治療の遅れにより,手術療法を受けるまで合計8か月以上の時間が必要になった。 また,被告病院の院長は,一旦は,被告医師の診断ミスにより原告に- 10 -精神的苦痛を与えたことやその後の治療方針に重大な変更をきたしたことについての管理責任を認めたにもかかわらず,その後原告との面会を拒否するなど不誠実な態度をとった。 このようなことによる原告の精神的苦痛は少なくとも500万円を下らない。 (イ)被告医師の過失により,Ⅲ期を前提とする治療が2か月遅れ,右腋窩リンパ節にも転移が生じ,そのため,本来不要であった右腋窩リンパ節の摘出を余儀なくされ,この摘出により,腕の腫れ,痛み,しびれ,肩関節の運動障害,重いものが持てない,横向きに寝ることができないといった後遺障害を負った。この後遺障害は 来不要であった右腋窩リンパ節の摘出を余儀なくされ,この摘出により,腕の腫れ,痛み,しびれ,肩関節の運動障害,重いものが持てない,横向きに寝ることができないといった後遺障害を負った。この後遺障害は,後遺障害別等級表12級6号「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」に相当し,これによる精神的損害は148万0725円を下らない。 (被告らの主張)争う。 第3争点に対する判断 前記前提となる事実並びに証拠(甲A1,4,5,乙A1ないし3,乙B1,2,原告本人,被告医師本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1)原告は,平成11年ころから左乳房にしこりを感じていたものの放置していたところ,平成16年5月ころから,左右の乳房が痛み出し,しこりも大きくなってきたことから,8月17日,C病院を受診した(乙A2の73頁。 )C病院の担当医師は,原告を診察し,左乳房に皮膚の浮腫を伴う7.5㎝大の腫瘤,リンパ節腫大を触知し,右乳房にも1.5㎝大の腫瘤を触知したが,リンパ節は触知しなかったこと,並びに,超音波検査,マンモグラフィー及び血液検査等の結果から,左はⅢ期の乳がん,右はⅠ期の乳がんの疑い- 11 -と診断し,針生検の後に術前化学療法を行おうとしたが,同月24日,原告の希望により,被告病院を紹介した(乙A1の3,8ないし10頁。 )(2)ア原告は,9月1日,診療情報提供書,胸部写真,マンモグラフィーの結果等を持参して,被告病院を受診した。 原告の診療を担当した被告医師は,触診にて,左乳房体側側下領域(左D領域)に横8㎝×縦6㎝大の腫瘤と左腋窩リンパ節2㎝大を触知し,右乳房体側側下領域(右D領域)に3㎝大の腫瘤を触知した。 被告医師は,診断の確定及び病期の診断のために,必要な諸検査を行うこととし,直ちに胸・ 横8㎝×縦6㎝大の腫瘤と左腋窩リンパ節2㎝大を触知し,右乳房体側側下領域(右D領域)に3㎝大の腫瘤を触知した。 被告医師は,診断の確定及び病期の診断のために,必要な諸検査を行うこととし,直ちに胸・腹部CT造影検査を行ったほか,9月2日に乳腺超音波検査,左乳腺の針生検(CNB,右乳腺の穿刺吸引細胞診(FN)A)を行い,同月7日にマンモグラフィーと乳腺CT造影検査等,同月9日に全身骨シンチ検査を施行した。 イ乳がんの病期は,乳房のしこりの大きさ,乳腺の領域にあるリンパ節転移の有無,遠隔転移の有無によって0期ないしⅣ期の5段階の臨床病期(ステージ)に分類される。Ⅲ期のうち,ⅢA期は,しこりの大きさが2㎝以下で,腋の下のリンパ節に転移があり,しかもリンパ節が互いにがっちり癒着していたり周辺の組織に固定している状態,又は,腋の下のリンパ節転移がなく胸骨の内側のリンパ節(内胸リンパ節)が腫れている場合,あるいは,しこりの大きさが5㎝以上で腋の下か胸骨の内側のリンパ節への転移がある場合をいう。ⅢB期は,しこりの大きさや腋の下のリンパ節への転移の有無にかかわらず,しこりが胸壁にがっちりと固定しているか,皮膚にしこりが顔を出したり皮膚が崩れたり皮膚がむくんでいるような状態をいう。そして,Ⅳ期は,骨,肺,肝臓,脳等の遠隔臓器に転移している場合をいう。 0期ないしⅢA期は,手術可能な乳がんとされる。ⅢB期は,原則として手術ができない乳がんであるけれども,薬物療法や放射線療法を施行し- 12 -て,しこりが小さくなり,手術が可能になれば,手術を行う場合もあるとされる。Ⅳ期は,全身にがんが広がっている状態なので,手術によって乳房を取ることに意味はなく,病理組織学的検査に基づいて薬の治療,すなわち全身治療を行い,がんの進行を抑え,がんによる症状を抑える治 される。Ⅳ期は,全身にがんが広がっている状態なので,手術によって乳房を取ることに意味はなく,病理組織学的検査に基づいて薬の治療,すなわち全身治療を行い,がんの進行を抑え,がんによる症状を抑える治療をするとされている(乙B2。 。 )ウ被告医師は,原告の乳がんは,皮膚にしこりが顔を出してきている状態だったので,少なくとも既に微小転移の存在が想定されるⅢB期以上であろうと考えた。 被告医師は,原告に対し,9月1日,乳がんやその治療等について一般的な説明をしたが,原告は,C病院での説明が簡単であったことから被告病院を受診したのであり,治療方針等について,詳細な説明をするように求めた。被告医師は,検査結果が揃っていないので具体的説明はできないと述べたけれども,原告の不安は強く,治療の具体例を示すように繰り返し強く希望したので,被告医師は,仮定の話として,手術できる状態であるⅢA期を例に取って,治療の流れ等を説明した(乙A1の13頁。 )エ被告医師は,原告に対し,9月2日,病理結果が判明し,病期診断が終了し次第,治療の開始は可能である旨伝えたが,原告は,仕事の引継があるので,治療は10月から開始したい旨述べたので,被告医師は,治療未実施の間に病気が進行するリスクがある旨説明したが,原告はやむを得ない旨応えたため,10月6日から治療を開始することとした(乙A1の14頁。 )(3)原告の検査結果は,おおむね次のとおりである。 ア胸・腹部造影CT検査肺及び肝臓に明らかな転移は認められない。ただし,腹部造影CT検査上,左腸骨に骨転移を疑わせる所見があり,確認が必要であるとされた(乙A1の54,55頁。 )- 13 -イ乳腺超音波検査乳がんにふさわしい所見が認められた(乙A1の46,47頁。 )ウ病理検査左乳腺のしこりは転移の 見があり,確認が必要であるとされた(乙A1の54,55頁。 )- 13 -イ乳腺超音波検査乳がんにふさわしい所見が認められた(乙A1の46,47頁。 )ウ病理検査左乳腺のしこりは転移の能力を持った乳がんで,エストロゲン受容体が強陽性で,プロゲステロン受容体が陽性であり,ホルモン剤が効きやすいタイプの腫瘍であると考えられた(乙A1の50ないし52頁。 )エマンモグラフィー及び乳腺CT造影検査左乳腺のしこりは乳がんと考えられるとの所見であった(乙A1の56,57頁。 )オ全身骨シンチ検査頭の骨に取り込みが見られ,がんの転移の可能性があり,骨レントゲンを撮って確認することを要するとされた(乙A1の59頁。 )(4)9月15日,被告医師は,原告に対し,上記(3)の検査結果を説明するとともに,肺や肝臓等への転移は認められないけれども,左腸骨と頭蓋骨に転移の疑いがあるので,骨レントゲンを撮って確認する,もし,骨レントゲンの結果,異常があればⅣ期となるが,骨転移が否定されれば,病期はⅢB期となる,その場合でも現時点では局所のがんが進行していて根治的手術は困難なので,全身治療を先行させる,その結果局所のがんが十分縮小して手術可能になれば手術をする,もし縮小しないか縮小しても手術を行うのに不十分な程度であれば,放射線治療を行う,全身治療には,化学療法,ホルモン療法,緩和療法がある,化学療法としては,アンスラサイクリン系とタキサン系とがあり,アンスラサイクリン系のCEF療法を3週おきに4回(約3か月,その後,タキサン系抗がん剤を毎週投与し,12回(約3か月)行)うなどと説明し,さらに,抗がん剤の副作用を説明するなどして,同日,骨レントゲン撮影を施行した(乙A1の15ないし17,31,32頁。 )(5)9月15日に施行した骨レ ,12回(約3か月)行)うなどと説明し,さらに,抗がん剤の副作用を説明するなどして,同日,骨レントゲン撮影を施行した(乙A1の15ないし17,31,32頁。 )(5)9月15日に施行した骨レントゲンのX線診断レポート(乙A1の58- 14 -頁)は,次のとおりである。すなわち,頭蓋骨については,診断に当たった,。 脳外科のI医師により「わずかに透過性が亢進しているようにみられます臨床的にも問題があるようでしたら,bonewindow(骨条件)CT(co-ronalreconstruction(冠状断再構成)MRIを行うことをすすめます」)。 と記載され,また,整形外科のJ医長により,頸椎5番には,硬化像があり,「骨転移か」と記載され,また,左腸骨についても「硬化像あり転移,か」と記載されている。 被告医師は,上記X線診断レポートに加え,原発の腫瘍の状態が8㎝×6㎝と非常に大きく,かつ皮膚に顔を出してきており,リンパ節にも転移が疑われるので,この段階でⅢB期以上となり,微小転移が非常に疑われる状態であり,腫瘍マーカーも異常に高値であり,骨レントゲンの結果で合計3か所に骨転移が疑われる場所があり,しかも骨シンチ検査や造影CT検査という複数の検査で骨転移の疑いがあることが指摘されていることから,骨転移があると考えたが,念のため,骨転移の診断において信頼のおける整形外科のJ医長に会って相談したところ,同医師も複数箇所の骨病変であり骨転移と判断してよいとの見解であることを確認し,被告医師は,原告には骨転移)。 があり,病期はⅣ期に当たると最終的に判断した(乙A3,被告医師本人また,被告医師は,乳腺内科の上席医であるK医師に,J医長の見解等も説明した上,今後の治療方針について協議し,MRI検査を行わず,アリミデックスによる 当たると最終的に判断した(乙A3,被告医師本人また,被告医師は,乳腺内科の上席医であるK医師に,J医長の見解等も説明した上,今後の治療方針について協議し,MRI検査を行わず,アリミデックスによるホルモン療法を開始するとの結論に至った。 (6)アそこで,被告医師は,原告に対し,平成16年10月6日,おおむね次のとおり説明した(乙A1の18,32頁,乙A3。 )骨レントゲンの結果,多発骨転移と診断された。頭蓋骨と頸椎5番と左腸骨に転移が指摘されている。臨床進行期はⅣ期となり,がんを根治するのは困難であるので,がんとの上手な共存が治療の目標となる。具体的には,症状をできるだけ少なくし,それをできるだけ長く保つことである。 - 15 -そのためには,治療の効果のメリットと副作用などのデメリットを天秤にかけて考える必要がある。原告の場合,エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体が共に陽性で,ホルモン療法に感受性のあるタイプの乳がんであるから,かなりの高い確率でホルモン療法の効果が期待できるので,ホルモン剤での治療から始めることを勧める。ホルモン剤の効果が現れるのには時間がかかることもあるので,効果の判定は2~3か月後に行う。 イこれに対し,原告は,被告医師に対し,MRI検査をするなどして,再度病期を確認してほしい旨求めた。 被告医師は,仮にMRI検査で陰性の結果が出ても偽陰性の可能性もあり,他の情報で転移の可能性が高いと考えられたことから,早期に全身治療を開始する方が相当と考え,原告に対し,気持ちは分かるが検査をしても結果は同じである旨応えた。 ウ被告医師は,前同日から,ホルモン剤であるアリミデックスと,不眠の訴えに対しロヒプノールを,それぞれ28日分処方して,ホルモン療法を開始した。 (7)原告は,夫にも再度説明してほしいと電話で求め 被告医師は,前同日から,ホルモン剤であるアリミデックスと,不眠の訴えに対しロヒプノールを,それぞれ28日分処方して,ホルモン療法を開始した。 (7)原告は,夫にも再度説明してほしいと電話で求めたので,被告医師は,原告,その夫及び娘に対し,同月8日,2時間近くにわたり,上記とほぼ同様の説明をした(乙A1の19ないし21,33頁。 )この際も,原告は,被告医師に対し,MRI検査を行ってほしい旨申し入れたが,被告医師は,その必要はない旨応えた。 なお,原告は,被告医師に対し,上記面談に先立って,現在の原告の心情や,がん告知についての夫の受け止め方,また,被告医師の夫へのアドバイスの仕方についての希望などを綴った手紙を手渡した(乙A1の60頁。 )(8)10月20日,原告は,被告医師の診察を受け,同月15日から17日に腫瘍が痛み,食欲はなく,最近になって少しずつ食べられるようになった,2週間くらい全然眠れなかったが,今は大丈夫である旨述べた。腫瘍径は,- 16 -7㎝×7㎝であった。 原告及び夫が,再度病状の説明を求めたので,被告医師は,病状を説明した。また,原告及び夫は,ホルモン剤より化学療法を先行させた方が生存期間が延長しないかなどと質問したが,被告医師は,ホルモン剤先行でも生存期間は化学療法先行に劣らず,副作用はむしろ軽減すると説明した。 また,原告及び夫は,MRIを行わない理由を尋ねたが,被告医師は,骨シンチ検査とレントゲン,CTとレントゲンと複数の検査方法で検査した上で,整形外科の医師が診断しているし,MRIを行って仮に骨転移が陰性であっても,骨転移を完全に否定することはできないなどと説明し,採血をして,アリミデックスとロヒプノールを28日分処方した(乙A1の22,33頁,乙A3。 )(9)ア原告は,被告医師の説明に納得 あっても,骨転移を完全に否定することはできないなどと説明し,採血をして,アリミデックスとロヒプノールを28日分処方した(乙A1の22,33頁,乙A3。 )(9)ア原告は,被告医師の説明に納得できなかったことから,11月4日,被告医師に対し,F病院乳腺外科のG医師とD病院臨床腫瘍科のE医師のセカンドオピニオンを受けたいとして,紹介状と資料の交付を求めた(乙A1の12,34頁。 )イ11月17日,原告は,被告医師の診察を受け,調子は良い,左乳腺に時々痛みがあったが,2,3日前から治ってきている,食欲はあるが不眠である旨報告した。腫瘍径は,6.3㎝×7㎝であった。 被告医師は,腫瘍マーカーを含む血液検査を行い,アリミデックスとロヒプノールを28日分処方した。 同日,被告医師は,原告に対し,セカンドオピニオンのために,診療情報提供書,フィルム,標本等を交付した(乙A1の11,34,61ないし64頁。 )ウ原告は,11月22日,D病院で,E医師のセカンドオピニオンを受けた(甲A5。 )エ原告は,11月24日,F病院で,G医師のセカンドオピニオンを受け- 17 -た(甲A4,乙A2の2,3,39,73ないし76頁。 )(10)11月29日,原告は,被告病院を受診し,被告医師に対し,セカンドオピニオンを受けたところ,MRIを撮るように言われたと申し出た。また,原告は,被告医師が,シニアレジデントであるにもかかわらず,骨転移について,H医長に相談しなかったなどと批判した(乙A1の35頁。 )被告病院は,その時から,原告の主治医を,被告医師からH医長に変更した。 (11)11月30日,原告の診療を担当することになったH医長は,原告に対し,腫瘍マーカーが上昇傾向にあること,腫瘍径の減少程度が小さいこと,乳房痛も出るなどの臨床症状か からH医長に変更した。 (11)11月30日,原告の診療を担当することになったH医長は,原告に対し,腫瘍マーカーが上昇傾向にあること,腫瘍径の減少程度が小さいこと,乳房痛も出るなどの臨床症状から,アリミデックスの継続は避け,抗がん剤を使用した治療を受けることを勧めた(乙A1の36頁。 )(12)被告病院は,原告について,同日に骨盤骨MRI造影検査を,12月1日に頸椎MRI造影検査及び頭蓋骨MRI造影検査を行った。 (13)これらの骨盤骨,頸椎及び頭蓋骨の各MRI検査の結果からは,明らかな骨転移は認められず,H医長らは,原告の病期をⅢB期であると判断した。 そして,12月1日,J医長は,原告に対し,MRI検査の結果につき,明らかな骨転移の所見は認められなかった旨説明した。 (14)原告は,その後,被告病院院長及び副院長等に面会するなどして,原告に対する治療等について,不服を述べ,謝罪文の交付を求めるなどし,被告病院も文書を交付するなどして対応した(甲B1,2,乙A1の27,28,37ないし39頁。 )(15)ア原告は,平成16年12月8日ころから,F病院で診療を受けるようになった。 イF病院では,アリミデックスの服用を中止し,左炎症性乳がん,右乳がんとの診断の下に,左については手術可能な状態を目指し,右については全身への転移を予防する目的として,3つの抗がん剤を組み合わせて行う- 18 -CAF療法を6コース行うこととし,同月8日から平成17年3月9日にかけて,これを5コース行ったが(乙A2の3,5ないし8,35,43,79,83,118頁,変化がなかったために,3週間ごとにタキソテ)ールを4コース実施することに変更し,平成17年3月30日から同年6月1日にかけてこれを実施した(乙A2の10,11,13,14,34ない ,118頁,変化がなかったために,3週間ごとにタキソテ)ールを4コース実施することに変更し,平成17年3月30日から同年6月1日にかけてこれを実施した(乙A2の10,11,13,14,34ないし37,43,118頁。 )ウこのような治療の結果,部分効果が認められて手術可能な範囲に病巣が縮小したため,平成17年6月30日,原告は,F病院にて,根治目的で,左胸筋温存乳房切除術,右乳房部分切除術,両側腋窩リンパ節郭清術を受けた(乙A2の136ないし149頁。 ) 争点(1)(病期の診断を誤り,誤った病期を告知し,また,適切な措置を採らなかった過失の有無)について(1)原告の病期について前記1(2)イのとおり,乳がんの病期のⅣ期は,骨・肺・肝臓・脳等の遠隔臓器に転移している場合をいうとされているところ,原告には,11月30日に実施した骨盤骨MRI検査並びに12月1日に実施した頭蓋骨及び頸椎のMRI検査の結果,これらの部分に転移が認められなかったことからすれば,10月6日時点における原告の病期は,遠隔臓器に転移のあるⅣ期には当たらず,ⅢB期に当たったというべきである。 この点,被告らは,10月6日から開始したホルモン療法の効果により骨転移がみられなくなった可能があるなどと主張するけれども,(ア)診療録上,11月30日及び12月1日のMRI検査結果の検討の際にそのような可能性について検討されたことを示す記載等がないこと,(イ)アリミデックスを服用した期間が2か月程度であったこと,(ウ)F病院の診療録において「アリミデックスは効いていないようだ」と記載されていること(乙A2の4頁,(エ)被告病院においても,腫瘍マーカーの上昇傾向,腫瘤径の減少程)- 19 -度が小さいこと及び乳房痛が発現したことから,アリミデックス投与の継続は避 だ」と記載されていること(乙A2の4頁,(エ)被告病院においても,腫瘍マーカーの上昇傾向,腫瘤径の減少程)- 19 -度が小さいこと及び乳房痛が発現したことから,アリミデックス投与の継続は避けるという判断をしていること(乙A1の36頁)などに照らすと,ホルモン療法の効果により骨転移がみられなくなった可能性については疑問を抱かざるを得ず,被告らの主張は,採用することができない。 (2)病期の診断に関する過失の有無についてア被告医師は,原告の乳がんを,10月6日の時点で,Ⅳ期であると診断しており,これは,原告の実際の病期であるⅢB期とは異なる診断をしたこととなる。 イ前記1(5)のとおり,被告医師は,骨レントゲンのX線診断レポートにより,骨転移が指摘されたと理解したことに加え,原発の腫瘍の状態が8㎝×6㎝と非常に大きく,かつ皮膚に顔を出してきており,リンパ節にも転移が疑われ,その段階でⅢB期以上となり,微小転移が非常に疑われる状態であり,腫瘍マーカーも異常に高値であり,骨レントゲンの結果で合計3か所に骨転移が疑われる場所があり,しかも骨シンチ検査や造影CT検査という複数の検査で骨転移の疑いが指摘されていることから,骨転移があると考えたが,念のため,骨転移の診断について信頼のおける整形外科のJ医長に会って相談したところ,同医師も骨転移と判断してよいとの見解であることを確認し,被告医師は,骨転移であると最終的に判断し,その後の治療方針については,乳腺内科の上席医であるK医師と協議した上で,決定したことが認められる。そして,証拠(乙A3,被告医師本人)によれば,MRI検査の結果,陰性所見が得られたとしても偽陰性の可能性もあり,必ずしも転移がないと確定できるものではないことが認められる。 また,証拠(甲A5,乙B14)によれば,Dの 告医師本人)によれば,MRI検査の結果,陰性所見が得られたとしても偽陰性の可能性もあり,必ずしも転移がないと確定できるものではないことが認められる。 また,証拠(甲A5,乙B14)によれば,DのE医師は,骨転移の可能性は高いと判断しており,本件について,主治医が骨シンチ,骨単純X線写真(骨レントゲン)及び整形外科医の判断に基づいて骨転移と診断し- 20 -ていることは,一般医療レベルでは許容される旨の見解を述べている。 これらの事実によれば,被告医師が,原告の病期をⅣ期と判断したことについて,過失はないとも考えられなくはない。 ウしかしながら,証拠(乙A3,乙B2,14及び被告医師本人)及び弁論の全趣旨によれば,ⅢB期と判断されれば,原則として手術のできない状態ではあるけれども,薬物療法及び放射線療法で手術が可能になれば手術を行い,根治も期待されるのに対し,Ⅳ期の場合は,がんの根治は困難で,がんとの上手な共存が治療の目的となり,全身にがんが広がっている状態であることから,手術そのものは意義は乏しく,がんの進行を抑え,がんによる症状を抑える治療を行うこととなり,根治は望めないこととなるので,いわゆる治療のゴールが異なることが認められる。 このように,乳がん患者にとっては,ⅢB期とⅣ期との違いは,単なる病期の段階の相違にとどまらず,根治に向けての治療を続行するか,それを諦めてがんとの共存を目的とした治療を受けるかといった,治療方針が決定的に相違することとなる。 そして,被告医師は,特別の事情が生じない限り,その後は,病期の判断のために骨転移の有無を再確認する予定はなかったのである(被告医師本人。 )エ前記1(5)のとおり,骨レントゲンのX線診断レポート(乙A1の58頁)には,脳外科のI医師により,頭蓋骨については「わずかに透過性 有無を再確認する予定はなかったのである(被告医師本人。 )エ前記1(5)のとおり,骨レントゲンのX線診断レポート(乙A1の58頁)には,脳外科のI医師により,頭蓋骨については「わずかに透過性,が亢進しているようにみられます。臨床的にも問題があるようでしたら,bonewindow(骨条件)CT(coronalreconstruction(冠状断再構成)MRIを行うことをすすめます」と記載され,整形外科のJ医)。 長により,頸椎5番には硬化像があり「骨転移か」と記載され,また,,左腸骨についても「硬化像あり転移か」と記載されている。 ,上記レポートによれば,骨レントゲンの結果は,頭蓋骨,頸椎及び左腸- 21 -骨への転移の可能性を指摘するものではあるけれども,なお疑問を留保しているものであり,臨床的にも問題があれば,MRI検査を行うように勧めている。 そして,セカンドオピニオン診断に当たったDのE医師も,転移の可能性は高いが,骨シンチ検査上は確定診断ではなく,MRI検査等を行うことには意味がある旨判断している(甲A5。また,同医師は,骨転移の)最終的な確定診断は骨生検で行うが,患者への負担が大きく実際的ではないので,現場では,患者の臨床症状,原疾患の広がり,骨シンチ,骨単純X線写真,骨MRI及び整形外科医の判断などを総合した形で臨床診断を行っている旨述べ,MRI検査を,臨床現場での診断における重要な要素の一つとして挙げている(甲A5,乙B14。 )オこのように,腹部造影CT検査,全身骨シンチ検査及び骨レントゲンの結果,骨転移が疑われるとの指摘がされ,原告の臨床症状や諸検査の結果等を総合すると,骨転移が疑われるものの,骨レントゲンの結果等自体は,なお,疑問が留保される内容であって,より確実な診断をするための検査 骨転移が疑われるとの指摘がされ,原告の臨床症状や諸検査の結果等を総合すると,骨転移が疑われるものの,骨レントゲンの結果等自体は,なお,疑問が留保される内容であって,より確実な診断をするための検査としてMRI検査をすることを避けるべき特段の事情も見当たらないこと,及び,乳がん患者にとって,前記のⅢB期とⅣ期との間には,根治に向けた治療を続行するか,それを諦めてがんとの上手な共存を目的とする治療を受けるかという,今後の治療方針に決定的相違があることにかんがみると,被告医師としては,本件においては,なお,MRI検査を行い,原告の乳がんの病期の診断を行うべきであり,これを怠った被告医師には過失があるというべきである。 カこの点,被告らは,被告病院のMRI検査の待機期間は通常4週間程度かかること,仮に,4週間待ってMRI検査を行い,陰性所見が得られたとしても,偽陰性の可能性もあることから,MRI検査を行わずに全身治療であるホルモン療法を開始したものであり,全身療法を開始する前にM- 22 -RI検査を実施しなかったことが不適切であるとはいえない旨主張する。 なるほど,MRI検査を行い,陰性所見が出ても,偽陰性の可能性もあり,骨転移を否定できないことは,被告ら主張のとおりであるけれども,被告ら自身,11月30日及び12月1日に原告に対して行ったMRI検査の結果,骨転移が認められなかったことから,ⅢB期を前提とする治療に変更していることからしても,被告らの主張は,採用することができない。 また,被告らは,MRIの待機期間に通常約4週間かかる旨主張するけれども,11月30日に原告がMRI検査を申し出た際には,直ちにこれを行っていること,被告医師本人尋問の結果によると,特別な事情があれば速やかに検査を行うことが可能であること,乳がんのⅢB期かⅣ期 れども,11月30日に原告がMRI検査を申し出た際には,直ちにこれを行っていること,被告医師本人尋問の結果によると,特別な事情があれば速やかに検査を行うことが可能であること,乳がんのⅢB期かⅣ期かの診断の相違は,患者のその後の治療目標が決定的に異なる重大な相違であり,被告病院は,がん治療においては,日本有数の国立の医療機関の一つであることなどを併せ考えると,被告らの主張する施設上あるいは財政上の制約を考慮しても,それらに対しては適切な対応がされるべきであって,かかる事情があることをもって,MRI検査を行わなかったことの責任を免れると解することはできない。 (3)原告は,被告医師は,病期判断を誤り,適切な措置を採らなかった過失がある旨主張する。 ア被告医師は,原告の場合,ホルモン療法に感受性のあるタイプの乳がんであるから,かなりの高い確率でホルモン療法の効果が期待でき,乳がんの全身治療は,ホルモン療法から始めても抗がん剤から始めても成績に差がないとの臨床試験の結果があり,副作用も少ないことから,原告について,ホルモン剤での治療から始めることとしたことが認められる(乙A1,3。 )イそして,証拠(乙A1の36,52頁,乙B6ないし9)によれば,ホ- 23 -ルモン療法は,化学療法に比べて毒性が極めて低く,有害事象が少なく,エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体が共に陽性である場合,ホルモン療法の奏功率は50ないし75%であるとか,78%であるなどの報告がされており,術前療法としても,本件で使用されたアロマターゼ阻害剤の抗腫瘍効果は50ないし80%であるとか,72パーセントであるなどの報告もされ,化学療法に匹敵するとの見解も示されており,そして,原告の病理検査の結果によると,原告は,エストロゲン受容体が強陽性で,プロゲステ 50ないし80%であるとか,72パーセントであるなどの報告もされ,化学療法に匹敵するとの見解も示されており,そして,原告の病理検査の結果によると,原告は,エストロゲン受容体が強陽性で,プロゲステロン受容体が陽性であったことが認められるから,原告についてホルモン療法を採ったことが,不適切であったとはいえないし,また,前記認定のとおり,腫瘍径の減少程度が小さいなど,当初期待していたほどの効果は見られなかったとはいえるものの,ホルモン療法により原告の病状が悪化したとは認められない。 (4)これらの事実によれば,被告医師の原告の病期についての判断は相当でなく,被告医師が,その判断に基づいて,原告に対し,その病期をⅣ期であると告げたことには過失があるというべきではあるが,原告に対して採った治療方法については適切でなかったとまではいえず,また,それにより,原告のがんの状態を悪化させたなどの事実を認めるには足りないというべきである。 争点(2)(前記過失と右腋窩リンパ節郭清により生じた上腕挙上障害,上腕浮腫等の障害との間の因果関係の有無)について(1)原告は,被告病院の誤診のために化学療法が実施されず,また,外科的手術の実施が遅れたことにより,右リンパ節にも転移が生じ,右腋窩リンパ節を摘出せざるを得なくなり,この摘出手術により,腕の腫れ,痛み等の後遺障害を負った旨主張する。 (2)平成16年12月2日の被告病院における超音波検査の結果では,右腋窩リンパ節腫大は認められているけれども,反応性リンパ節腫大と考えられ,- 24 -),右腋窩リンパ節への転移までは認められていないところ(乙A1の49頁原告が,平成17年6月30日,F病院で,左胸筋温存乳房切除術,右乳房部分切除術,両側腋窩リンパ節郭清術を受けた際,右リンパ節に,術中,明らか 節への転移までは認められていないところ(乙A1の49頁原告が,平成17年6月30日,F病院で,左胸筋温存乳房切除術,右乳房部分切除術,両側腋窩リンパ節郭清術を受けた際,右リンパ節に,術中,明らかな転移を疑うリンパ節は認められなかったものの,術後,標本整理上い)。 くつかの転移の疑いのあるリンパ節が認められている(乙A2の139頁しかしながら,証拠(乙B11,12及び被告医師本人)及び弁論の全趣旨によれば,乳がんの手術においては,乳がんの進行度と関係なく,乳腺のしこりの摘出とともに,その乳腺のある側の腋窩リンパ節の郭清が行われ,その合併症として,上腕挙上障害,上腕浮腫等の障害が生じる場合があることが認められる。なお,このような障害を回避するために,センチネルリンパ節生検により腋窩郭清を回避する方法も試みられているけれども,本件のように術前に化学療法が行われている場合には,この生検により郭清を省略することを妥当とするだけの根拠はないとされている。 (3)そうすると,原告は,被告医師が原告の乳がんの病期の判断を誤った過失の有無にかかわらず,化学療法の後,乳がんの手術を受けることとなれば,右腋窩リンパ節の摘出手術を受けることになったのであり,同手術に伴う合併症として上腕等に障害が生じることになったとしても,この障害と,被告医師が,原告の乳がんの病期の判断を誤った過失との間には因果関係がないというべきである。 ,(4)なお,原告は,原告のⅢ期の乳がんに対しては,化学療法が適切でありこのことは被告医師が,当初,化学療法をする予定であったが,Ⅳ期と診断するや突然それをホルモン療法に変更したことからも明らかであるし,ホルモン療法が奏功しなかったことは腫瘍マーカーが上昇していることからも分かる旨主張する。 しかしながら,原告について,ホルモン療 断するや突然それをホルモン療法に変更したことからも明らかであるし,ホルモン療法が奏功しなかったことは腫瘍マーカーが上昇していることからも分かる旨主張する。 しかしながら,原告について,ホルモン療法を採用したことが不適切であったとはいえないことは,前記2(3)のとおりであるし,ホルモン療法が,- 25 -結果的には期待したほどの効果を生じなかったことは認められるものの,腫瘍マーカーは,治療の目安の一つにすぎず,これをもって治療の効果判定を行うことは,米国臨床腫瘍学会のガイドラインでも根拠がないとされており(乙B1,その他,ホルモン療法により原告の病態が悪化したと認めるに)足りる証拠はない。 争点(3)(損害の額)について(1)前記1の事実並びに証拠(甲A1,2,乙A1,3,原告本人及び被告医師本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア原告は,被告医師から,9月15日,それまでの診察及び検査結果を説明され,臓器等への転移はないけれども,骨シンチ検査の結果,頭蓋骨に取り込みが,左腸骨に造骨性変化が,それぞれ認められたので,骨への転移の有無を確認するために,レントゲン検査をする旨伝えられ,その結果に異常がなければ,10月6日から,抗がん剤の投与により,腫瘍が縮小して手術が可能な状態になれば手術を行う旨の説明を受けた。 イしかし,原告は,被告医師から,10月6日,病期はⅣ期であり,がんを根治することは困難であるため,これからは,がんと共存を目的として治療を行う旨説明された。原告は,この説明を,原告の病気は治らないけれども少しでも長生きできるように治療しようとするものと理解し,死の宣告に等しいものとして受け止めた。 ウ同月8日,原告は夫と娘とともに,被告医師から,同月6日と同様の説明を受けた。なお,原告は,被告医 少しでも長生きできるように治療しようとするものと理解し,死の宣告に等しいものとして受け止めた。 ウ同月8日,原告は夫と娘とともに,被告医師から,同月6日と同様の説明を受けた。なお,原告は,被告医師が夫と面談をするに先立って,被告医師に手紙を渡したが(乙A1の60頁,これには,原告が,がんの告)知の衝撃から立ち直ろうとする心情がうかがわれるとともに,原告の今後の療養に対する夫の対応について,被告医師がアドバイスをしてくれることを求める旨記載されている。 エ原告は,10月20日に,被告医師の診察を受けた際,同月15日から- 26 -17日に腫瘍が痛み,食欲はなく,最近少しずつ食べられるようになった,2週間くらい全然眠れなかったが,今は大丈夫である旨述べた。同日の診察では,腫瘍の径は7㎝×7㎝であった。 オ11月4日,原告は,被告医師に対し,セカンドオピニオンを受けるために,紹介状と資料の交付を求めた。 カ11月17日,原告は,被告医師の診察を受け,調子は良い,左乳腺に時々痛みがあったが,2,3日前から治ってきている,食欲はあるが不眠である旨報告した。腫瘍径は,6.3㎝×7㎝であった。 原告は,セカンドオピニオンのために,被告医師から,診療情報提供書やフィルム,標本等を交付された。 キ11月22日,原告は,Dで,セカンドオピニオンを受けた。 ク11月24日,原告は,F病院で,セカンドオピニオンを受けた。 ケ11月29日,原告は,被告医師に対し,セカンドオピニオンを受けたところMRIを撮るように言われたと報告した。 被告病院では,原告の主治医を,被告医師からH医長に変更した。 コ被告病院は,原告について,11月30日,骨盤骨MRI検査を,12月1日に,頭蓋骨及び頸椎のMRI検査を実施した。これらの結果,明らかな骨転移は認められず, 医を,被告医師からH医長に変更した。 コ被告病院は,原告について,11月30日,骨盤骨MRI検査を,12月1日に,頭蓋骨及び頸椎のMRI検査を実施した。これらの結果,明らかな骨転移は認められず,H医長らは,原告の病期をⅢB期と判断した。 これらの結果に基づき,12月1日,J医長は,原告に対し,明らかな骨転移の所見は認められない旨説明した。 サなお,原告は,10月6日のがん告知による精神的ショックや体調の不良のために,原告が行っていた幼児リトミックやピアノのレッスンを休みがちになったが,かねてから12月4日に開催を予定していた生徒のピアノ発表会は,他人の援助を受けながら,予定通り行った。 (2)以上のとおり,原告は,9月15日の時点では,臓器への転移は認められず,骨レントゲンで骨転移が否定されれば,10月6日以降は,根治を目- 27 -指して抗がん剤の投与や外科手術による治療を受けられるとの期待も抱いていたところ,10月6日には,原告の病期がⅣ期である旨説明され,原告は,これを死の宣告に等しいものと受け取ったものであり,その後,原告が行っていた幼児リトミックやピアノのレッスンを休みがちになったことからしても,その精神的衝撃が深刻なものであったことは想像に難くない。そして,12月1日に,病期判断がⅢB期に変更されたのも,原告自身が,F病院及びD病院でセカンドオピニオンを得たことをきっかけとするものであることなどを併せ考えると,病期Ⅳ期の告知を受けたことにより原告の受けた精神的苦痛は重大というべきである。 他方,前記のとおり,被告医師が,骨レントゲンの結果には疑問の余地があったにもかかわらず,MRI検査を行わずにⅣ期と判断したことには過失があるというべきではあるけれども,その過失の内容は著しいものとまではいえないこと,被告らが原告に対 トゲンの結果には疑問の余地があったにもかかわらず,MRI検査を行わずにⅣ期と判断したことには過失があるというべきではあるけれども,その過失の内容は著しいものとまではいえないこと,被告らが原告に対して採った治療は,不適切であるとまではいえないこと,ホルモン療法により,あるいは,病期判断の遅れにより,原告の病状が悪化したと認めるに足りる証拠はないことなどの事情も認められる。また,前記のとおり,病期ⅢB期の場合でも,原則として手術のできない状態にあり,薬物療法や放射線療法により,手術可能な状態になることが期待されるにとどまり,その予後が必ずしも予断を許すものではなく,ⅢB期との告知を受けたとしても,相応の精神的衝撃を受けざるを得ないものと推測される。 これら,本件に顕れた事情を考慮すると,原告が,病期Ⅳ期との誤った告知を受けたことにより受けた精神的苦痛を慰謝するには,150万円をもって相当というべきである。 (3)ア原告は,被告医師の誤った病期の告知により,休業を余儀なくされた旨主張し,その損害の賠償を求める。 しかしながら,前記のとおり,Ⅳ期である旨の告知を受けた原告の精神- 28 -的衝撃は,十分に理解できるものではあるけれども,ⅢB期との告知を受けたとしても,この段階の乳がんも,原則としては手術はできず,薬物療法や放射線療法等でしこりが小さくなり,手術が可能になれば手術を行う場合もあるという病態にあるから,必ずしも予後が十分期待できるものとまではいえず,その告知により相当の精神的衝撃を受けざるを得ないものである上,原告に対して,ホルモン療法という相当な治療がされていたにもかかわらず,腫瘍の痛みの発生などの症状も現れていたことなどにかんがみると,仮に,ⅢB期との告知を受けたとしても,原告の日常生活については,精神的にも肉体的にも 療法という相当な治療がされていたにもかかわらず,腫瘍の痛みの発生などの症状も現れていたことなどにかんがみると,仮に,ⅢB期との告知を受けたとしても,原告の日常生活については,精神的にも肉体的にも相当の影響が生じたであろうことが推認されるから,原告の休業等をもって,病期Ⅳ期との告知との間に相当因果関係のある損害であるとまで認めることはできず,かかる日常生活等への影響は,前記の慰謝料の算定における一事情として,考慮することが相当である。 イ原告は,被告医師の過失により2か月の治療の遅れを招き,手術を受けるまで8か月もの期間を要し,また,被告病院のその後の原告への対応が不誠実であり,これらにより,いっそうの精神的苦痛を受けた旨主張する。 なるほど,10月6日の病期がⅣ期であるとの判断と,これに基づくホルモン剤による治療の開始から,ホルモン療法の効果が必ずしも十分でないことや12月1日の段階における骨転移は認められないとの判断などにより,抗がん剤による治療に変更するまで,約2か月が経過している。 しかしながら,前記のとおり,病理検査の結果(乙A1の50ないし52頁)によると,原告のがんは,ホルモン剤が効きやすいタイプの腫瘍であり,また,原告に投与されていたホルモン剤は,抗がん剤に匹敵する効果があるといわれているものであり(乙B6ないし9,期待したほどの)効果は見られなかったものの,病期Ⅳ期との判断に基づき約2か月間にされた治療により,原告の病態を悪化させたと認めるに足りる証拠はない。 - 29 -また,乙A第3号証及び弁論の全趣旨によると,術前の化学療法は,通常,6か月程度かかることが認められる。そうすると,病期ⅢB期との判断が遅れたことにより,原告の手術を受ける時期が遅れ,原告の病態を悪化させたと認めるに足りる証拠はないというべきであ 化学療法は,通常,6か月程度かかることが認められる。そうすると,病期ⅢB期との判断が遅れたことにより,原告の手術を受ける時期が遅れ,原告の病態を悪化させたと認めるに足りる証拠はないというべきである。 また,原告は,被告病院の院長が原告との面会を拒否するなど,病期判断を変更した後の被告病院の対応が不誠実であった旨主張する。しかしながら,希望したMRI検査が行われず病期判断を誤ったとの思いから,被告病院に対し,激しい憤りを抑えられない原告の心情は十分に理解できるものではあるものの,原告は,ノートで被告医師の頭を叩きボールペンで手を刺すなどして夫に制止されるなどしており(乙A1の37頁,原告)からの診断ミスがあった旨の謝罪文の交付要求に対し,被告医師らはこれに応じており(甲B1,甲B2,乙A1の27,28,38,39頁,)被告病院の院長及び副院長も原告と面談し,また,院長自ら原告に対して謝罪の手紙を送付していることが認められ(甲A1,乙A1の38,39頁,乙A3,これらの経緯によれば,被告病院としては,原告の心情に)かんがみて誠意をもって対応していることがうかがわれるのであり,被告病院の対応に,慰謝料を発生させるほどの不誠実なものがあったと認めることはできない。 ウまた,原告は,被告医師の過失により,Ⅲ期を前提とする治療が2か月遅れ,その間に右腋窩リンパ節転移が生じ,そのため,本来不要であった右腋窩リンパ節の摘出を余儀なくされ,これにより,腕の腫れ,しびれ等の後遺障害を負ったので,これについても慰謝料が発生する旨主張する。 しかしながら,前記3のとおり,被告医師の過失と右腋窩リンパ節郭清により生じた上腕挙上障害,上腕浮腫等の障害との間に因果関係は認められないから,原告の主張はその前提を欠き理由がない。 。 (4)以上によれば,本 前記3のとおり,被告医師の過失と右腋窩リンパ節郭清により生じた上腕挙上障害,上腕浮腫等の障害との間に因果関係は認められないから,原告の主張はその前提を欠き理由がない。 。 (4)以上によれば,本件過失と相当因果関係のある損害については,慰謝料- 30 -として150万円を認めることをもって相当というべきである。 よって,原告の本件請求は,被告らに対し,連帯して150万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成17年8月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,被告Bについて,仮執行宣言は,相当でないからこれを付さないこととし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第35部裁判長裁判官浜秀樹裁判官本吉弘行裁判官望月千広
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