主文 被告人を懲役1年4か月に処する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 酒気を帯び,呼気1リットルにつき約0.4ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態で,平成14年1月20日午後9時ころ,神戸市a区b町cd番地付近道路において,普通乗用自動車(神戸×××g××××号)を運転し,第2 前記日時ころ,業務として前記自動車を運転し,前記場所先道路を西から東に向かい時速約50キロメートルで進行するにあたり,同所は右方に湾曲する道路であったから,前記道路状況に応じて,ハンドル,ブレーキを的確に操作して進路を適正に保持しつつ進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,漫然前記速度で右にハンドルを切り過ぎた過失により,自車を対向車線に進出させ,折から対向直進してきたA(当時41歳)運転の普通乗用自動車を前方約19メートルの地点に認め,急制動の措置を講じたが及ばず,同車右前部に自車右前部を衝突させ,よって,同人に加療約1年間を要する上顎骨,下顎骨骨折,左眼窩底骨折,右外傷性股関節脱臼骨折等の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)―括弧内の検で始まる数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(補足説明)被告人は,判示第2の事実(以下,この事実に関する判示被告人運転車両と被害者運転車両の衝突を「本件事故」と,本件事故発生場所を「本件現場」と,判示被告人運転車両を「被告人車両」と,判示被害者運転車両を「被害者車両」という。)につき,自分は本件現場付近道路(県道h線)を東から西に向かって走行していたのであり,同道路を西から東へ向かいセンターラインを超えて走行してきたのは被害者車両である旨弁解し,弁護 者車両」という。)につき,自分は本件現場付近道路(県道h線)を東から西に向かって走行していたのであり,同道路を西から東へ向かいセンターラインを超えて走行してきたのは被害者車両である旨弁解し,弁護人も被告人のこの弁解に沿って無罪の主張をする。当裁判所は,関係各証拠によれば判示第2の事実は優に認められると判断したので,その理由を以下説明する(以下,括弧内の検で始まる数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号,弁で始まる数字は証拠等関係カード記載の弁護人請求証拠番号である。)。 1 被害者の供述とその信用性等被害者は,被害者車両を運転して県道h線を東から西に向けて走行中,自車進行車線上を西から東に向けて対向走行してきた車両を発見し,自分が進行している車線上になぜ車がいるのかと思った瞬間相手方車両と衝突したとして(検甲26),本件現場道路を西から東へ向かいセンターラインを超えて走行してきたのは被告人車両である旨供述する。この被害者の供述は,以下の点より十分信用できるものといえる。 (1) 第1に,被害者は本件現場付近道路に至るまでにたどった経路について,「姉方のある神戸市i区j町からk市(兵庫県。以下同様)l町にある自宅に向かって,mトンネルを抜けてn有料道路を通り,o料金所で有料道路を出て本件現場に向かっていた」旨述べている(検甲26)。 この点,まず,関係証拠によれば,o料金所とはn有料道路p料金所(以下単に「p料金所」という。)のこと(oオフランプとの呼称もある。)であり,同料金所からk市l町方面に向かうには本件現場付近道路を東方から西方に向かうのが通常であると認められる(検甲10,21ないし23)。 次に,本件事故直後に本件現場付近道路を自動車を運転して通りかかったBの公判供述,Bの後から同人同様本 近道路を東方から西方に向かうのが通常であると認められる(検甲10,21ないし23)。 次に,本件事故直後に本件現場付近道路を自動車を運転して通りかかったBの公判供述,Bの後から同人同様本件現場にさしかかったCの警察官調書(検甲28),同日午後9時15分ころ本件事故に関する110番通報があった旨記載されている捜査報告書(検甲1)によれば,本件事故発生時刻は午後9時ころであると認められる。また,本件事故当日の午後8時54分の少し前から午後11時57分までに同料金所で回収された回数券(100円券)から,被害者の所有する回数券綴りと同一の番号が印字された回数券が発見されている(検甲20,21等)。そして,mトンネルを抜けてn有料道路を通り,p料金所(oオフランプ)で一般道路に出る場合の同道路の通行料金は100円であり,また,p料金所から本件現場付近までは,自動車を制限速度で走行させて16分46秒程度かかることが認められる(検甲32)。 そうすると,本件事故発生後に被害者車両がp料金所を通過することがあり得ない以上,本件事故当日午後9時ころ(正確には午後9時のやや後の可能性が高い。)に被害者車両が本件現場付近道路を東から西に向けて走行していた事実が強く推認され,またこれに合致する被害者の供述は信用性が高い。 (2) また,本件事故当日に作成された実況見分調書(検甲6,8)に加え,B及びCの供述によれば,本件事故直後,被害者車両は特に前方を大破した状態(右前部の破損がより大きい。)で,本件現場西行車線上に北ないし北東向きに停車し,被告人車両は右前部が小破した状態で,本件現場付近の東行車線で,被害者車両より東側に停車していたことが認められる。そして,この本件事故直後の状況は,本件現場の西行車線を東から西に向かい進んでいる最中に 告人車両は右前部が小破した状態で,本件現場付近の東行車線で,被害者車両より東側に停車していたことが認められる。そして,この本件事故直後の状況は,本件現場の西行車線を東から西に向かい進んでいる最中に被告人車両と正面衝突したという被害者の説明と客観的に符合する。 (3) さらに,かかる被害者の供述は,被害者立会いの実況見分(検甲7)や警察官の聴取内容(検甲1)からみて一貫していると認められ,その内容も自然かつ合理的であって,十分に信用に足るものであるといえる。 2 そうすると,被害者の供述とこれを裏付ける証拠によれば,被告人車両が本件現場付近道路を東に向かって走行中センターラインを超え被害者車両に衝突した事実が認められることとなるので,これに反する被告人の供述について検討する。 (1)アまず,被告人は,前述のとおり,本件現場付近道路を東に向かって走行しセンターラインを超えてきたのは被害者車両の方であり,被告人自身は同道路を東から西に向かって走行していた旨述べ,それまでの走行経路として,n有料道路をqランプでおり,自宅へ向かったが,途中気が変わって県道h線付近の民家(本件事故現場より西方にある。検甲10)の植木を見に行こうと思いつき,さらに運転を続けることとし,本件現場付近道路に向かっていたと供述し,その走行経路を証明するものとして,本件事故前にp料金所で受領した同有料道路の領収書の写し(弁3)があるとする。そして,同領収書写しの料金表示が250円であることからすると,被告人がp料金所通過後同有料道路qランプまで走行したことが窺われる(検甲22,弁3)。 イしかし,同領収書写しによれば,被告人がp料金所を通過したのは事故当日の午後8時5分であるところ,同料金所から本件現場までは通常自動車で17分弱しかかからない距離しかなく 2,弁3)。 イしかし,同領収書写しによれば,被告人がp料金所を通過したのは事故当日の午後8時5分であるところ,同料金所から本件現場までは通常自動車で17分弱しかかからない距離しかなく(前記1(1)),関係証拠によれば,その後被告人が主張する被告人の自宅をいったん通り過ぎて本件現場に至る経路をとったとしても,被告人がp料金所を通過してから本件現場に至るまでにはその倍程度しかかからないと認められ(検甲10等),被告人自身も第5回公判期日でこれが30分程度であると述べている。そして,前述のとおり,本件事故発生時刻は午後9時ころであると認められるから,仮に同日午後8時5分に被告人がp料金所を通過していたとしても,被告人は遅くとも午後8時40分(の少し前)ころまでには本件現場付近に到着していなければならないのであって,前記領収書写しとこれを前提とする被告人の供述から被告人が本件事故発生当時本件現場付近道路を西行していた可能性があるとすることはできない。 ウなお,この点被告人は,この時間的問題を指摘されてから,本件事故発生時刻がもっと早かった可能性があるかのような弁解をした(第5回公判)が,これまで検討したところに照らしても全く採用できない。 (2) 次に,前記1(2)認定の本件事故直後の状況に関し,前記B及びCの供述によれば,被告人車両は,本件事故発生直後は本件現場付近道路東行車線上で被害者車両のやや東方に停車していたが,被告人がこれを後退させたことにより同道路脇の田に脱輪したものであると認められる。ところが,被告人はこの事実を否定し,本件事故の衝突の衝撃によってそのまま脱輪した旨述べている。しかし,BやCは被害者や被告人とは無関係であり,BとCの供述がよく合致していることにも照らすと,両名の供述は極めて信用性の高い を否定し,本件事故の衝突の衝撃によってそのまま脱輪した旨述べている。しかし,BやCは被害者や被告人とは無関係であり,BとCの供述がよく合致していることにも照らすと,両名の供述は極めて信用性の高いものといえるから,両者の供述との不一致は被告人の供述の信用性をより一層減殺する。 (3) さらに被告人は,事故直後に実施された事情聴取(検甲1),実況見分(検甲8)及び取調べ(検乙2)においては,本件事故現場付近道路を西から東へ向かって走行中にセンターラインを超えて被害者車両に衝突したと明言しながら,翌日以降,その供述を覆して,自己の車両は東から西に向かって走行していたと言い分を変化させている(なお,被告人は,前記実況見分への立ち会いの事実を否定するが,「立ち会い」の意味をいかに解しても,前記各証拠によれば,被告人が本件事故直後の警察官の実況見分時事故状況を説明したこと自体は十分認められる。)。 この点につき,被告人は「事故直後は気が動転していたが,家に帰ってよく考えてみたら自分が西に向かって走行していて本件事故にあったことを思い出した」などと述べているところ,確かに,被告人は,当初の取調べ時においては,「rトンネルを通って,s方面から県道h線を走行するようになった」などと供述しており(検乙2),これは弁護人提出の領収書写し(弁2,3)に照らすと真実と異なる説明である可能性がある。しかし,いかに事故のショックで動転していたとしても,事故直前の進行方向や,自分自身が,右カーブにさしかかった際ハンドルを右に切りすぎてセンターラインを超えるという基本的かつ重大な過失行為を行った等と,真実と全く逆の供述をするという間違いを犯すとは考えられない。 また,被告人自身公判段階では一貫して自分が西に向かって走行していたとの主張を維持し続け,公判 つ重大な過失行為を行った等と,真実と全く逆の供述をするという間違いを犯すとは考えられない。 また,被告人自身公判段階では一貫して自分が西に向かって走行していたとの主張を維持し続け,公判廷においては,衝突直前の記憶は鮮明にあるとまで述べるに至っている(第5回公判期日)が,その一方で,具体的な内容について追及されると「自分の方が間違っている可能性もある」「違うと言われればそれで納得する」などとの供述をも繰り返していたものである上,本件に関する民事訴訟で提出した陳述書では,衝突の瞬間のことはよく覚えていないとしていた(検甲30)のであって,被告人の供述は極めてあいまいなものというほかなく,(1)ウでみたように,不利な点を指摘されると供述を変遷する点までみられる。 (4) これらの事情に加えて,被告人が酒に酔った状態で被告人車両を運転していたことも考え併せれば,被害者の供述とこれに合致する関係証拠(被告人が本件事故当初なした供述中事故状況そのものについてのものを含む。検乙2)に反した被告人の本件事故状況に関する弁解は到底信用できない。 3 そして,被告人が,前記本件事故直後の事情聴取,実況見分,取調べにおいて,本件現場付近道路を走行中右カーブにさしかかった際右にハンドルを切り過ぎて自車を対向車線に進出させ,被害車両を発見して急制動(及び左転把)の措置を講じたが衝突した旨説明,供述していたと認められること,被告人車両と被害者車両の損壊状況や被害者の供述をはじめ他の証拠も,被告人のこの説明等と符合し,例えば被告人が居眠りをして自車を対向車線に進出させたなど他の過失を窺わせるものでないことに照らすと,被告人が本件事故を惹起した過失行為も判示第2のとおり認めるのが相当である(なお,その際の速度については,被告人が第3回公判期日で自分が捜 進出させたなど他の過失を窺わせるものでないことに照らすと,被告人が本件事故を惹起した過失行為も判示第2のとおり認めるのが相当である(なお,その際の速度については,被告人が第3回公判期日で自分が捜査当初時速約50キロメートルで東に向かって進行していたと述べていた旨認めていること(同期日被告人供述調書(一)速記録8ページ)や供述変更後の供述調書(検乙4,5)等から認定できる。)。 4 以上のとおりであって,被害者の供述は極めて信用性が高く,被害者の供述等関係証拠によれば,判示第2の事実は優に認められる。これと対立する被告人の供述は採用できず,弁護人の主張には理由がない。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は平成13年法律第51号による改正前の道路交通法119条1項7号の2,65条1項,平成14年政令第24号による改正前の道路交通法施行令44条の3に,判示第2の所為は刑法211条1項前段にそれぞれ該当するところ,各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年4か月に処し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)本件は,被告人が酒気を帯びて普通乗用自動車を運転した上,右方向に湾曲する道路において対向車線に自車を進出させて,同車線上を走行中の対向車両に正面衝突し,その運転者に加療1年を要する傷害を負わせたという道路交通法違反,業務上過失傷害の事案である。 まず,道路交通法違反(酒気帯び運転)の点については,被告人は,自動車を運転することになることが分かっていながらビール2,3本,日本酒2合という多量(被告人は酔った感じが 上過失傷害の事案である。 まず,道路交通法違反(酒気帯び運転)の点については,被告人は,自動車を運転することになることが分かっていながらビール2,3本,日本酒2合という多量(被告人は酔った感じがなかった等としているが,被告人自身のいう普段の飲酒量を超えている。)の飲酒をした上特に休憩などすることもなく飲酒運転をはじめている上,ドライブをしたかったなどという理由で当初の目的地である自宅を通り過ぎても運転を続け判示酒気帯び運転を犯したものであって,動機や経緯にしん酌できる点はなく,検出されたアルコール濃度にもかんがみると,犯情が悪い。しかも,被告人には平成12年に酒気帯び運転の罪による罰金前科があり,被告人は,飲酒運転の危険性について十分認識し,反省すべき機会を与えられていながら,何ら躊躇なく本件酒気帯び運転に及んでいるのであって,被告人の交通規範軽視の態度は著しい。 次に,業務上過失傷害の点については,被告人は,被告人から見て右カーブという,対向車から自車が発見しにくい道路で対向車線に自車を進入させたもので,被告人の過失は自動車運転者として極めて基本的な注意義務に違反した重大なものであり,また被害者には何ら落ち度がないといえ,本件は被告人の一方的な過失によるものである。また,被害者は,死亡するには至らなかったものの,本件事故により加療1年(うち,当初2月半入院,その後平成14年6月ないし7月にさらに入院)を要する上下の顎骨や眼窩底の骨折等という重篤な傷害を負っており,外出時にはマスクを着用するなど,今なお顔面変形,醜状等の後遺症に悩まされているのであって,結果は極めて重大であり,被害者の心情には察するに余りがある。にもかかわらず,被告人は,現在に至るまで何ら慰謝の措置をとっておらず,示談も被害弁償も未了であり,被害者は被害回復を図 るのであって,結果は極めて重大であり,被害者の心情には察するに余りがある。にもかかわらず,被告人は,現在に至るまで何ら慰謝の措置をとっておらず,示談も被害弁償も未了であり,被害者は被害回復を図るために被告人への民事訴訟の提起を余儀なくされている。そして被告人は,この民事訴訟でも敗訴し(過失を明らかにされ)ながら,本公判に至っても自己のあいまいな記憶に固執して責任を認めようとせず,むしろより不合理な弁解をするにまで至っているのであって,被害者の被害感情が厳しく,被告人の厳罰を望むのも当然である。この点,被告人が本件事故状況を明確に記憶しながらその刑事責任を免れようとして虚偽の弁解を続けているのではなく,記憶が乏しいことによってあいまいな供述をしていた面が強いと考えられることを前提にしても,前述のような民事訴訟を通じた被告人の供述経過等も考慮すると,そもそも本件事故の結果そのものが重大な本件にあっては,被害感情がなお峻烈であることの原因も被告人にあるというほかない(なお,この点,被告人は公判廷で,捜査が不十分であった旨述べているが,自分が不正確な記憶に拘泥していることの原因を捜査官に転嫁するものであって採用できない。)。もちろん,飲酒の上での犯行であることも,酒気帯び運転の成立とは別に業務上過失傷害罪の犯情として悪質といわなければならない。 以上からすると,被告人の刑事責任はまことに重く,被告人が判示第1の酒気帯び運転の事実については素直に認めて反省の態度をみせ,飲酒の上事故に至ったことにつき被害者に悪かったと判示第2の事実についても反省の弁を述べていること,判示第2の被害者がシートベルトを装着していたと認定すべき証拠がないこと,被告人に養うべき家族のいること,被告人がこれまでまじめに仕事を続けてきた社会人であり,罰金以外の前科が 弁を述べていること,判示第2の被害者がシートベルトを装着していたと認定すべき証拠がないこと,被告人に養うべき家族のいること,被告人がこれまでまじめに仕事を続けてきた社会人であり,罰金以外の前科がないこと,主として被告人が供述を変遷させた結果ではあるが本件からすでに約1年10か月が経過していること等,被告人のために酌むべき事情をいかに考慮しても,被告人は主文掲記の実刑を免れない。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年10月17日神戸地方裁判所第11刑事係乙裁判官橋本一
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