令和4(行コ)276 銃砲刀剣類所持等取締法に基づく銃砲所持許可更新不許可処分取消等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和5年3月22日 東京高等裁判所
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判決文本文14,016 文字)

令和5年3月22日判決言渡令和4年(行コ)第276号銃砲刀剣類所持等取締法に基づく銃砲所持許可更新不許可処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和2年(行ウ)第93号) 主文 1 原判決を取り消す。 2 本件訴えのうち、被控訴人の銃砲所持許可の更新許可申請に対する許可処分の義務付けを求める部分をいずれも却下する。 3 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要等 1 本件は、東京都公安委員会から原判決別紙(以下「別紙」という。)物件目録記載1ないし3の各銃(以下「本件各銃」という。)の所持許可を受けていた被控訴人が、本件各銃の所持許可の各更新の申請(以下「本件各更新申請」という。)をしたところ、東京都公安委員会から、銃砲刀剣類所持等取締法(平成29年法律第52号による改正前のもの。以下「銃刀法」という。)5条1項18号に該 当することを理由として更新を認めない旨の各処分(以下「本件各更新不許可処分」という。)を受けたことから、本件各更新不許可処分には裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があると主張して、その取消しを求めるとともに、本件各銃の所持許可の更新許可処分の各義務付けを求める事案である(以下、本件訴えのうち、本件各更新不許可処分の取消しを求める部分を「本件取消請求」 といい、本件各銃の所持許可の更新許可処分の各義務付けを求める部分を「本件 各義務付けの訴え」という。)。 原審は、被控訴人 新不許可処分の取消しを求める部分を「本件取消請求」 といい、本件各銃の所持許可の更新許可処分の各義務付けを求める部分を「本件 各義務付けの訴え」という。)。 原審は、被控訴人の本件取消請求及び本件各義務付けの訴えをいずれも認容したことから、控訴人が控訴した。 2 関係法令の定め、前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次の3のとおり、当審における新たな主張を加えるほか、原判決「事実及び理由」欄の第 2の1から3までに記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決を次のとおり訂正する。 ⑴ 原判決4頁26行目の「同年2月4日」の次に「(以下「本件当日」ともいう。)」を、5頁2行目の「ハコワナ」の次に「(以下「本件ハコワナ」という。)」をそれぞれ加え、5行目の「以下「本件放獣行為」という。」を「以下、本件当 日、本件猪をA大学から本件放獣場所まで搬送した上、本件放獣場所において放獣した一連の行為を「本件放獣行為」といい、そのうち上記搬送の部分を「本件搬送」という。」と改める。 ⑵ 原判決6頁10行目を次のとおり改め、11行目の「」を削除する。 「ア本件放獣行為の危険性 野生の猪は、人の通る道や道沿いをよく利用し、道路や河川、それらののり面や斜面等は簡単に通過することができ、泳ぎが得意であり、有害鳥獣の駆除のために猟師や犬に追われて退路を断たれた場合等には水に飛び込み、気性が激しく、山で捕獲し飼育しようとした場合には、逃げようとして鉄柵に体当たりを繰り返す荒々しさを持ち、人が近づく と暴れ出して危害を加える場合があり、猟などで負傷した場合にはパニックを起こしたり逆上したりして行動が読めなくなるという習性を備えている。 また、近年、東京都内では 、人が近づく と暴れ出して危害を加える場合があり、猟などで負傷した場合にはパニックを起こしたり逆上したりして行動が読めなくなるという習性を備えている。 また、近年、東京都内では、多摩地域を中心に市街地での野生の猪の出没事案が多く発生している。」 ⑶ 原判決6頁25行目と26行目の間に次のとおり加える。 「 本件猪は、人為的に捕獲された後、被控訴人及びBによって人為的に輸送箱に移し替えられ移動させられるなど人が直近に存在する状況下にあったこと、本件搬送の際、輸送箱の中で相当暴れており、捕獲されたことによるパニックや逆上によりその行動が予測できない状態に陥っていた。 したがって、本件猪の駆除に失敗した場合にそれにより生ずる人の死傷と いう結果の重大性に鑑み、本件放獣行為の危険性は極めて高かったと評価すべきある。 本件放獣行為は、本件各銃のうち、散弾銃の使用を当然に予定したものであり、被控訴人は、本件ハコワナで捕獲した本件猪を取り逃がして被害が発生した場合に厳しい非難を受けることを避けるため、十分に周囲の安全が確 認された状況ではなくとも銃砲を使用していた可能性がある。」⑷ 原判決7頁6行目の「本件猪は、」から8行目の「走っていった」までを「被控訴人は、本件搬送の際、本件猪が暴れないように輸送箱にブルーシートをかけていたものの、本件猪は、本件搬送中に輸送箱の中で暴れ、被控訴人がブルーシートのめくれを直そうとした際はさらに暴れており、被控訴人及びBが、 本件放獣場所において、山に向かって輸送箱の扉を開けたところ、本件猪は、輸送箱から飛び出して山林の斜面を駆け上がっていった」と改める。 原判決8頁18行目から19行目にかけての「明らかである。」を「明らかであり、将来に に向かって輸送箱の扉を開けたところ、本件猪は、輸送箱から飛び出して山林の斜面を駆け上がっていった」と改める。 原判決8頁18行目から19行目にかけての「明らかである。」を「明らかであり、将来においても、何らちゅうちょすることなく放獣行為を繰り返すことが想定され、このような規範意識に欠ける者が銃砲の所持を継続した場合、 トラブルとなった相手方に対して行為や言動がエスカレートして銃砲を使用するなどして危害を加えるおそれも否定できないから、将来において他人の生命等に対する危害を発生させる抽象的な可能性が存在する。」と改める。 原判決9頁8行目末尾に「なお、警視庁C警察署(以下「C警察署」という。)は、被控訴人が本件各更新申請をしたため、被控訴人が調査の対象者として指 定した被控訴人の妻、近隣住民、猟友会仲間、従業員等7名について調査した ところ、特段の問題の指摘はなかったが、同調査により得られた情報は限定的であり、それ以前に本件被疑事件の捜査において、D猟友会の会員であるE及びBから被控訴人の粗暴な性格について供述を得ていたことから、他の関係者に対する更なる聴取の必要性を認め、F支部長等の関係者に対する聴取を行ったものであり、被控訴人の性格、言動等についての上記各関係者の供述は信用 することができ、処分行政庁の調査・判断経緯に問題はない。」を加える。 原判決10頁1行目の「必要であるが、」の次に「本件放獣行為の目的は、若手メンバーと猟犬の訓練であるから、若手メンバーに本件猪を仕留めさせることを意図していたもので、被控訴人自身が銃砲を使用して本件猪を仕留めることは想定しておらず、当時、被控訴人が銃砲を所持していた事実も認められ ないのであって、」を加え、2行目の「ではない。」を「ではなく、被控訴人につい 訴人自身が銃砲を使用して本件猪を仕留めることは想定しておらず、当時、被控訴人が銃砲を所持していた事実も認められ ないのであって、」を加え、2行目の「ではない。」を「ではなく、被控訴人について、将来において銃砲の使用により他人の生命等に対する危害を発生させる抽象的な可能性があることを基礎付ける事情ともいえない。」と、5行目の「必要があった。そのため、」を「必要があり、昔から全国的に猪を放獣して猟犬の訓練を行うことが実施されてきた。」と、6行目の「会員は」を「会員 も」と、7行目の「行われてきていた。」を「行ってきた。」と、9行目の「逃げること」を「逃げるところ」とそれぞれ改め、10行目の「山林内であり、」の次に「本件猪が人気のある民家や道路等が存在する河川の方に向かって逃走する可能性はなかったこと、」を、12行目の「行ったこと」の次に「(ただし、被控訴人及びBが本件猪を放獣するに先立ち、本件放獣場所付近に人がいない かを確認したのは、本件猪が住宅等のある方角に逃走する可能性や危険性を想定していたためではない。)」を、13行目の「ところ、」の次に「河川ののり面は、ほぼ垂直で、高さは成人男性の背丈を超えるものであるから、」をそれぞれ加え、18行目の「間にはG丘陵が隔てているため」を「間はG丘陵によって隔てられているため」と改め、22行目と23行目の間に次のとおり加え、 同行目の「また」を「なお」と改める。 「 本件放獣行為は、野生の猪を山林内の獣道に向かって放ち、巻狩りの方法によって仕留めるというものであり、D猟友会において本件放獣場所付近で通常行われている狩猟と比べても、狩猟方法、猪の逃走ルート、駆除場所、駆除に失敗した場合の猪の逃走先等において異なるところはないから、通常の狩猟行為よりも危険性の高 猟友会において本件放獣場所付近で通常行われている狩猟と比べても、狩猟方法、猪の逃走ルート、駆除場所、駆除に失敗した場合の猪の逃走先等において異なるところはないから、通常の狩猟行為よりも危険性の高い行為とはいえない。 H駅等の周辺の市街地や民家等が密集している地域も、銃器及びわなを使用する狩猟をすることが可能な区域に指定されており、被控訴人は、D猟友会においても上記区域において、長年にわたって銃砲を用いた狩猟を行ってきたが、その際、猪等が民家等に逃げ込んで、事故や危険が生じたということは一度もなかった。本件放獣場所付近も銃器及びわなを使用する狩猟をす ることが可能な区域であるが、H駅等周辺の上記区域に比べて圧倒的に民家の数が少ないから、同区域において銃砲を使用する狩猟をする場合と比較し、本件放獣場所における放獣は、より危険性が低いと評価されるべきである。 また、被控訴人が本件ハコワナに掛かっている本件猪を発見した際、本件猪は暴れたりパニックに陥っている様子はなく、怪我もしていなかったもの で、本件搬送中や被控訴人及びBが本件放獣場所において輸送箱を明けた際にも本件猪が暴れていた事実やパニックに陥っていた事実はなく、人に危害を与えるおそれのない状態だった。 仮に、本件猪の駆除に失敗しても、本件猪は山中に帰るだけであり、上記野生の猪の習性に鑑みても、本件猪が山林内の獣道を外れて、あえて明るく 人や車が行きかう場所に出没することは考えられない。現に、D猟友会でも猪の駆除に失敗し、猪が逃走する場合があるが、その際、逃走した猪が山から出たことはなく、市街地等に出没して人に危害を加えたこともない。 控訴人が指摘する近年発生している野生の猪が人を襲った事案は、その多くが早朝の時間帯に人に発見され、 その際、逃走した猪が山から出たことはなく、市街地等に出没して人に危害を加えたこともない。 控訴人が指摘する近年発生している野生の猪が人を襲った事案は、その多くが早朝の時間帯に人に発見され、捕獲しようとする人に追いかけられたこ とにより発生しており、本件とは全く状況が異なるため、上記事案が存在す ることをもって、本件放獣行為を危険な行為と評価することはできない。被控訴人にも、本件放獣行為は危険な行為であるという認識はなかった。」 原判決10頁25行目の「もので、」から26行目の「ものではなく、」までを「ものであり、被控訴人の上記供述中には、本件搬送中に本件猪が暴れていたという部分があるが、猟犬が猪の匂いを嗅ぐと興奮するため、本件搬 送中、本件猪を入れた輸送箱を載せたBの運転する軽トラックは、猟犬を乗せた被控訴人の運転する軽トラックの後ろを100m以上離れて走行していたから、被控訴人が本件搬送中の本件猪の様子を知ることはできず、Bの供述調書にも本件猪が本件搬送中に暴れた事実についての記載がなく、被控訴人がBから本件搬送中に猪が暴れていたという話を聞いたこともないか ら、被控訴人が自ら上記供述をすることは不可能であることが明らかなように、被控訴人自身が供述した内容を録取したものではなく、」と改める。 3 当審における新たな主張(控訴人の主張)銃刀法10条1項に違反する行為 被控訴人は、本件各銃につき、いずれもその用途を「狩猟、有害鳥獣駆除」として所持許可を受けていたところ、本件放獣行為の際に猟銃を携帯していた。 銃刀法は、同法が定める規範を遵守しない行為について、銃砲等による危害発生の危険性を示す一つの徴表として所持許可の取消事由とし、極めて重く規制していることからすれば、被控訴 際に猟銃を携帯していた。 銃刀法は、同法が定める規範を遵守しない行為について、銃砲等による危害発生の危険性を示す一つの徴表として所持許可の取消事由とし、極めて重く規制していることからすれば、被控訴人が銃刀法10条1項に違反する行為をした 事実は、被控訴人の銃砲に対する著しい遵法精神の欠如が発露したものと評価されるべきである。 I市とD猟友会との間で締結された有害鳥獣捕獲業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)に違反する行為本件業務委託契約において、本件ハコワナにより捕獲された猪は、受注者で あるD猟友会の責任で、安楽死後埋設又は焼却処分をすると定められていたに もかかわらず、被控訴人は、本件ハコワナで捕獲した本件猪を本件放獣場所に移動させて放獣したのであるから、本件業務委託契約に違反したことが明らかである。仮に、本件放獣行為当時、被控訴人らD猟友会の会員に対して本件業務委託契約の内容が示されていなかったとしても、被控訴人は、本件ハコワナの管理を任されている立場にあり、本件放獣行為当時までに9頭の猪を本件ハ コワナで捕獲していたにもかかわらず、捕獲した猪の処理方法に係る契約条項の確認を怠ったまま放獣行為をするなど自己の都合によってほしいままに処分していたことになるから、被控訴人の遵法精神の欠如は明らかである。 以上によれば、被控訴人は、銃砲に対する遵法精神の欠如や規範意識の低下が甚だしいものと評価されるべきであり、これらのことを総合考慮すれば、被 控訴人につき、将来における他人の生命等に対する危害を発生させる抽象的な可能性の存在が認められることは明らかである。 (被控訴人の主張) 銃刀法10条1項違反及び本件委託契約違反の各事実は、いずれも本件各更新不許可処分の理由において、被 害を発生させる抽象的な可能性の存在が認められることは明らかである。 (被控訴人の主張) 銃刀法10条1項違反及び本件委託契約違反の各事実は、いずれも本件各更新不許可処分の理由において、被控訴人の遵法精神の欠如の個別事由として一 切考慮されていないから、本件各更新不許可処分の違法性を判断するに当たり、処分行政庁が処分時に処分理由としなかった上記各事実を考慮することは許されない。 そもそも、被控訴人は、普段は狩猟中に一旦自宅に戻るときは銃砲を自宅に置いて行ってしまうことが相当程度あるところ、被控訴人は、本件当日、A大 学に向かう前、本件ハコワナに掛かった猪を輸送するための輸送箱を取りに自宅に戻ったから、その際、銃砲を自宅に置いてきた可能性がある。仮に、被控訴人が本件放獣行為当時、銃砲を携帯していたとしても、被控訴人は、本件当日の朝からD猟友会により行われていた適法な「狩猟」に参加するために銃砲を携帯していたのであるから、銃刀法10条1項に該当する事由は認められな い。 本件業務委託契約において、捕獲した猪の処分方法に関する定めがあることについては、本件放獣行為当時、F支部長からD猟友会の会員全員に対し、周知されておらず、被控訴人も他の会員も一切知らなかった。そのため、本件当日も、その日に捕獲されたJのハコワナに掛かった猪と本件猪を解体した残渣は、山に投棄され、駆除部会の有害鳥獣駆除活動で捕獲した猪等も常に山に投 棄して処分されていた。そうすると、本件放獣行為当時、被控訴人が本件業務委託契約の内容を知らず、同契約において定められた捕獲した猪の処分方法に係る条項のとおりに本件猪を埋設又は焼却しなかったとしても、やむを得ないというべきである。したがって、仮に、被控訴人に本件業務委託契約違 の内容を知らず、同契約において定められた捕獲した猪の処分方法に係る条項のとおりに本件猪を埋設又は焼却しなかったとしても、やむを得ないというべきである。したがって、仮に、被控訴人に本件業務委託契約違反の事実が存在するとしても、同事実をもって被控訴人の遵法精神の欠如を示す事情 と評価することはできない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は、原審と異なり、本件各更新不許可処分は適法であるから、本件取消請求は理由がなく、本件各義務付けの訴えは不適法であると判断する。その理由は、次のとおりである。 2 銃刀法5条1項18号所定の欠格事由の判断基準について原判決「事実及び理由」欄の第3の1に記載のとおりであるからこれを引用する。 3 認定事実原判決「事実及び理由」欄の第3の2に記載のとおりであるからこれを引用す る。ただし、次のとおり訂正する。 原判決14頁13行目の「有害鳥獣捕獲業務委託契約」を「本件業務委託契約」と、20行目から21行目にかけての「とされていた。」を「とされ、捕獲等又は採取等の後の処置について「安楽死後に埋設又は焼却」と定められている。」と、24行目の「(」から25行目の「)」までを「(本件ハコワナ)」 とそれぞれ改める。 原判決15頁2行目の「なっていたが、」を「なっており、被控訴人は、上記報告義務について認識していたが、自らが本件ハコワナで捕獲した猪について」と改め、6行目から8行目までを次のとおり改める。 「 被控訴人は、本件ハコワナに掛かった猪を上記クラブハウスに移動した上で、自らが飼育する猟犬の訓練をする目的で放獣することを繰り返していた。」 原判決15頁15行目の「41、」の次に「乙4、」を加え、26行目の「である。 を上記クラブハウスに移動した上で、自らが飼育する猟犬の訓練をする目的で放獣することを繰り返していた。」 原判決15頁15行目の「41、」の次に「乙4、」を加え、26行目の「である。(甲41)」を「であるが、D猟友会において猪の駆除に失敗し、仕留め損ねた猪が逃走することがよくあった(甲41、被控訴人本人)」と改める。 原判決16頁3行目から4行目にかけての「B」を「B」と、10行目の「B」から14行目末尾までを「被控訴人は、乗車していた猟犬用のケージと散弾銃 を入れた猟銃用のロッカーを備え付けた軽トラック(以下「1台目の軽トラック」という。)に猪を輸送するための輸送箱を積み込んでいなかったため、Bと共に被控訴人の自宅に立ち寄り、もう一台の軽トラック(以下「2台目の軽トラック」という。)に輸送箱(以下「本件輸送箱」という。)を積み込んでA大学の敷地に向かった。被控訴人は、上記各訓練のため本件ハコワナに掛かっ た2頭の猪のうち本件猪を放獣することにし、被控訴人及びBは、本件猪を本件輸送箱に移し替え、本件輸送箱にブルーシートをかけて2台目の軽トラックに積み込み、1台目の軽トラックと2台目の軽トラックを各運転して本件放獣場所に向かった(本件搬送)。本件猪は、本件搬送中、本件輸送箱の中で相当暴れていた。被控訴人及びBが、本件放獣場所において、山林に向かって本件 輸送箱の扉を開けたところ、本件猪は、本件輸送箱から飛び出して山林の斜面を駆け上がっていった」と、20行目の「会員」を「会員であるE」とそれぞれ改め、21行目の「乙」の次に「3、」を、22行目の「F支部長は、」の次に「D猟友会の会員であるKから」をそれぞれ加える。 原判決17頁9行目の「無人であった。」を「無人であったが、これらに常 目の「乙」の次に「3、」を、22行目の「F支部長は、」の次に「D猟友会の会員であるKから」をそれぞれ加える。 原判決17頁9行目の「無人であった。」を「無人であったが、これらに常 に人がいないとは限らない。」と改め、21行目から18頁10行目まで及び 19頁23行目から20頁9行目までを削除し、18頁21行目の「D猟友会」から22行目の「契約」までを「本件業務委託契約」と改める。 原判決20頁11行目の「警視庁C警察署」から「)」までを「C警察署」と改め、18行目と19行目の間に次のとおり加え、同行目の「ウ」を「エ」と改める。 「ウ被控訴人は、同年9月8日、C警察署で行われた取調べにおいて、L警察官(以下「L」という。)に対し、本件放獣行為の際、散弾銃を携帯していたことを認めるとともに、約20年にわたる銃砲についての経験から、ハコワナで捕獲したイノシシを放獣するときに猟銃を携帯していたのは正当な理由といえないことは理解している旨供述し、また、同月11日、 Lに対し、本件当日やそれ以前において何度も、都知事からの有害鳥獣捕獲許可に基づく捕獲であることを装って、本件ハコワナに掛かった猪を自分の猟犬の訓練のために生きたまま別の場所に移動させて、そこで放獣することを繰り返し、その際、自らが銃砲所持の許可を受けた猟銃を常に運搬携帯していた旨供述したほか、本件猪は、本件搬送中に輸送箱の中で暴 れていた旨供述し、さらに、同月25日、ハコワナで捕獲した猪を放獣するときに猟銃を所持していたことは銃刀法に違反していることを理解している旨供述し、上記各供述の内容に誤りがないことを申し立て、各供述調書の各葉の欄外に指印をした上、末尾に署名及び指印をした(甲23~25。以下、上記各供述を併せて「本 法に違反していることを理解している旨供述し、上記各供述の内容に誤りがないことを申し立て、各供述調書の各葉の欄外に指印をした上、末尾に署名及び指印をした(甲23~25。以下、上記各供述を併せて「本件各供述」という。)。」 原判決20頁22行目から22頁18行目までを次のとおり改める。 「事実認定についての補足説明ア被控訴人は、本件当日、A大学の敷地に向かう前に自宅に立ち寄った際、散弾銃を自宅に置いてきた可能性があり、本件各供述は、警察官が勝手に作文したものであり信用できない旨主張し、警察官が、プ リンターから印刷されたものではなく事前に準備していた供述調書 に署名指印を求めたなどと供述をする(被控訴人本人)。 しかし、被控訴人は、本件当日、被控訴人が自宅に戻った際に上記猟銃ロッカーから散弾銃を取り出して別の保管場所に移したことを裏付けるに足りる証拠はない上、上記各供述調書の作成状況についての被控訴人の供述内容は不自然であって、上記各供述調書の作成状況 についてのLの証言に照らしても、採用することができない。本件各供述は信用することができるので、被控訴人の上記の供述及び主張は採用することができない。 イ被控訴人は、本件搬送中、被控訴人は、上記輸送箱を積み込んだ軽トラックの100m以上先をもう1台の軽トラックで走行していた から、被控訴人が本件搬送中の本件猪の様子について知ることができず、Bの供述調書にも本件搬送中に本件猪が本件搬送中に暴れた事実についての記載はないと指摘する。 しかし、前記アで説示したとおり、本件各供述は信用することができ、被控訴人の運転する軽トラックが本件猪を乗せた軽トラックと 離れていた 実についての記載はないと指摘する。 しかし、前記アで説示したとおり、本件各供述は信用することができ、被控訴人の運転する軽トラックが本件猪を乗せた軽トラックと 離れていたとしても、被控訴人が本件猪が暴れていたことを認識していなかったといえず、また、Bの供述調書に本件搬送中の本件猪が暴れたとの事実についての記載がないことは、上記認定を左右しない。 ウ被控訴人は、本件ハコワナに掛かった猪を放獣したのは本件当日だけであると主張し、その旨の陳述及び供述(甲41、被控訴人本人) をする。 しかし、前記アで説示したとおり、本件各供述は信用することができること、被控訴人が平成28年11月頃から平成29年2月4日までの間に本件猪を含めて本件ハコワナを用いて合計9頭の猪を捕獲したにもかかわらず、I市に対し、一度も捕獲した猪について報告 しなかったこと(前記認定事実イ)に照らし、被控訴人の上記主張 は採用することができない。」 4 本件各更新不許可処分の適法性(被控訴人について銃刀法5条1項18号に該当すると認められるか否か)について 本件放獣行為の危険性についてア野生の猪の習性について 野生の猪は、一般的な習性として、暗いところや、山中の崖や岩棚等がある獣道を好んで通り、自分が通ったことのある道を通るとされ、臆病で敏感であるため、少しでも音がすると逃げてしまい、人気があったり車が通ったりする場所には行かないことが多いとされるが、他方で、人の通る道や道沿いをよく利用し、運動能力は高く、跳躍能力に優れ、高さ1m以上の柵を飛 び越えることができ、道路や河川、それらののり面や斜面等は簡単に通過することができ、泳ぎが得意であり、有害 の通る道や道沿いをよく利用し、運動能力は高く、跳躍能力に優れ、高さ1m以上の柵を飛 び越えることができ、道路や河川、それらののり面や斜面等は簡単に通過することができ、泳ぎが得意であり、有害鳥獣の駆除のために猟師や犬に追われて退路を断たれた場合等には水に飛び込むとされ、気性が激しく、山で捕獲し飼育しようとした場合には、逃げようとして鉄柵に体当たりを繰り返す荒々しさを持ち、人が近づくと暴れ出して危害を加える場合があり、猟など で負傷した場合にはパニックを起こしたり逆上したりして行動が読めなくなるという面もある。 近年、I市に近接する地域において人が猪にかまれたり衝突されたりする事故が発生しており、また、野生の猪が朝方以外の時間にも市街地で人を死傷する事件が発生している。(甲36~39、41、乙17、27、37~ 40)。 イ本件放獣場所の地理的状況について前記認定事実ウのとおり、本件放獣場所から半径約200m圏内には、約20戸の住宅(工場・事務所等を含む。)及び寺院があり、うち13戸については、本件放獣場所とは河川を隔てた場所にあった。本件放獣場所と同 河川を隔てていない住宅のうち1戸については、崖と河川に挟まれた立地で あり、山側から同住宅に行くためには高い勾配の崖を通る必要がある。なお、令和2年3月5日に被控訴人が本件放獣場所及びその付近を調査した際、本件放獣場所に最も近い工場・事務所は人気がなく、寺院も無人であったが、これらに常に人がいないとは限らない。 本件放獣場所から道路を南東方向に進むと、1㎞以内に保育園があり、さ らにその先には病院があった。 ウ本件放獣行為の危険性についてア及びイに本件猪が本件ハコワナに掛かったも 本件放獣場所から道路を南東方向に進むと、1㎞以内に保育園があり、さ らにその先には病院があった。 ウ本件放獣行為の危険性についてア及びイに本件猪が本件ハコワナに掛かったものであり、本件搬送中、本件輸送箱の中で相当暴れていたこと(前記認定事実ア)を考慮すれば、山林に向かって本件輸送箱の蓋を開けたとしても、放獣された本件猪が山林の 方向に向かわず、上記地理的状況にもかかわらず、これら住宅等のある方向に向かい、その付近を通行する人や車両、その付近の居住者等に危害を加える可能性がなかったということはできない。また、本件猪は、実際には、山林方向に向かったものの、本件放獣場所から本件駆除場所まで、直線距離で約3150mもの距離を移動し、この間、公道(都道M号線)が通っている 場所も通過したのであるから、その付近を通行する人や車両等に危害を及ぼすおそれがあった。 さらに、D猟友会において猪の駆除に失敗し、仕留め損ねた猪が逃走することがよくあったこと(同エ)、本件駆除場所は、山林内であったが、半径約200m圏内に2戸の住宅があった上、本件駆除場所から直線を延長し た方向に直線距離で約1280mの地点にはJRH駅があり市街地が広がっていたこと(同ウ)からすると、本件当日、本件猪の駆除に失敗し、本件猪が上記各住宅や市街地の方へ逃げ込むなどして、上記各住宅や市街地の住民や通行人と遭遇する可能性があったことは否定できない。これに反する被控訴人の主張は採用することができない。 被控訴人は、昔から全国的に猪を放獣して猟犬の訓練を行うことが実施さ れてきたのであり、D猟友会で猟犬を飼っている会員は、以前から、猪を放獣して訓練を行うことを年に一、二回慣行として行ってきたと主張し、その 全国的に猪を放獣して猟犬の訓練を行うことが実施さ れてきたのであり、D猟友会で猟犬を飼っている会員は、以前から、猪を放獣して訓練を行うことを年に一、二回慣行として行ってきたと主張し、その旨の陳述及び供述(甲41、被控訴人本人)をする。しかし、乙37の7に記載された猟犬の訓練等の目的に狩人が猪を放獣する行為が行われている地理的状況等が明らかではなく、これをもって全国的に猪を放獣して猟犬の 訓練を行うことが実施されてきたと認めることはできず、D猟友会において上記放獣訓練が行われていたとする点についてはこれを裏付けるに足りる証拠がないから、被控訴人の上記主張は採用することができない。 エ本件放獣行為は、上記のとおり、人に死傷の結果を生じさせるおそれのある極めて危険な行為である上、放獣した猪を捕獲するために銃砲を用いるこ とが想定され、本件ハコワナに掛かった猪を放獣せずに安楽死させていれば生ずることのなかった新たな危険を生じさせるという意味において、通常の狩猟とは全く異なるものである。 ⑵ 被控訴人の遵法精神の欠如について被控訴人は、本件業務委託契約が有害鳥獣の駆除を目的とするものであるこ とを認識した以上、本件ハコワナに掛かった猪を猟犬の訓練の目的で放獣することが本件業務委託契約の趣旨に反することを認識していたものということができる。被控訴人は、本件当日、本件猪を放獣した後、D猟友会の仲間に対して本件猪が本件ハコワナで捕獲した猪であることを隠し、被控訴人があたかも山中で出没した猪を発見したかのように装った(前記認定事実⑵ア)のは、 本件放獣行為が本件業務委託契約に違反することを認識していたことを裏付けている。そうであるにもかかわらず、被控訴人は、本件放獣行為のような放獣行為を繰り返してい た(前記認定事実⑵ア)のは、 本件放獣行為が本件業務委託契約に違反することを認識していたことを裏付けている。そうであるにもかかわらず、被控訴人は、本件放獣行為のような放獣行為を繰り返している(同ウ)。 また、被控訴人は、本件ハコワナで捕獲した猪について本件業務委託契約に違反し、I市に報告したことはなかった(同イ)。 さらに、本件放獣行為は、銃砲を携帯する正当な理由とはならず、被控訴人 が本件放獣行為の際に散弾銃を携帯したことは銃刀法10条1 項に違反する。 以上の点から、被控訴人の遵法精神の欠如は明らかである。 なお、一般に、取消訴訟においては、別異に解すべき特別の理由のない限り、行政庁は当該処分の効力を維持するための一切の法律上及び事実上の根拠を主張することが許されるものと解すべきところ(最高裁昭和53年9月19日 同51年(行ツ)第113号第三小法廷判決・裁判集民事125号69頁)、本件においては、上記特別の理由があるものとは認められないから、本件各更新不許可処分の違法性を判断するに当たり、本件各更新不許可処分の理由において遵法精神の欠如の個別事由として考慮されていない銃刀法10条1項違反及び本件業務委託契約違反の各事実を考慮することができる。 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、東京都公安委員会が人畜を殺傷する機能を有する銃砲について、その将来における危害予防の観点から、被控訴人につき、銃刀法5条1項18号の「他人の生命、身体若しくは財産若しくは公共の安全を害」する抽象的可能性があると認めるに足りる相当な理由があると判断したことは、社会通念上、合理的な根拠をもってされた ものと認めることができ、その判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえ る抽象的可能性があると認めるに足りる相当な理由があると判断したことは、社会通念上、合理的な根拠をもってされた ものと認めることができ、その判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえない。 したがって、本件各更新不許可処分が違法であることを理由とする本件取消請求は理由がない。 5 本件各義務付けの訴えについて 本件各義務付けの訴えは、行訴法3条6項2号のいわゆる申請型の義務付けの訴えであると解されるところ、上記申請型の義務付けの訴えは、「当該処分又は裁決が取り消されるべきもの」に当たる場合に限って訴訟を提起することができるというべきであり(行訴法37条の3第1項2号)、前記5のとおり、本件各更新不許可処分は適法なものであり、本件取消請求には理由がないから、本件各 義務付けの訴えは、行訴法37条の3第1項2号所定の要件を欠き、不適法な訴 えとして却下すべきである。 第4 結論以上によれば、本件訴えのうち、本件各義務付けの訴えは不適法であるからいずれも却下し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却するのが相当であるから、これと異なる原判決を取り消し、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第15民事部 裁判長裁判官中村也寸志 裁判官武藤貴明 裁判官餘多分亜紀

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