- 1 -平成24年12月3日判決言渡平成24年(行ケ)第10057号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成24年11月19日判決 原告三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 訴訟代理人弁護士田中千 溝内伸治郎小林幸夫坂田洋一弁理士三枝英二中野睦子宮川直之訴訟復代理人弁理士守山辰雄 被告ツルヤ化成工業株式会社 訴訟代理人弁護士村林隆一井上裕史訴訟復代理人弁護士佐合俊彦 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 - 2 - 事実及び理由 第1 原告の求めた判決特許庁が無効2011-800050号事件について平成24年1月6日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,特許無効審判請求を認容した審決の取消訴訟である。争点は,進歩性の有無である。 1 特許庁における手続の経緯原告は,平成9年3月3日,名称を「酸味のマスキング方法」とする発明につき特許出願をし(特願平9-47929号),平成19年3月16日,特許登録を受けた(特許第3929101号,特許公報は甲9)。 被告は,平成23年4月1日,本件特許の請求項1につき無効審判を請求し(無効20 をし(特願平9-47929号),平成19年3月16日,特許登録を受けた(特許第3929101号,特許公報は甲9)。 被告は,平成23年4月1日,本件特許の請求項1につき無効審判を請求し(無効2011-800050号),その中で,原告は,平成23年6月24日付けで訂正請求をしたところ(甲10),特許庁は,平成24年1月6日,「訂正を認める。特許第3929101号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決をし,その謄本は同年1月16日原告に送達された。 2 本件発明の要旨【請求項1】(本件発明)「クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品に,スクラロースを,該製品の重量に対して0.012~0.015重量%で用いることを特徴とする酸味のマスキング方法。」(下線は訂正箇所) 3 被告主張の無効理由 - 3 -(1) 無効理由1本件発明は,発明の詳細な説明に記載された発明でないため,特許法36条6項1号に規定する要件を欠く。 (2) 無効理由2-1本件発明は,甲1(品川潤等編「STANDARDCOCKTAILBOOKBARTENDER'SGUIDE(改訂再版)」全日本バーテンダー協会発行,1956年11月15日,274頁)を公然実施の証拠方法とする公然と実施された発明,及び甲2~6に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できた発明であるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (3) 無効理由2-2本件発明は,甲3に記載された発明,及び甲2,4~6に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できた発明であるから,特許法29条2項の規定により特許を受けるこ 。 (3) 無効理由2-2本件発明は,甲3に記載された発明,及び甲2,4~6に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できた発明であるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 4 審決の理由の要点(1) 無効理由1及び2-1について審決はこの2つの無効理由を理由なしとした。これらの点は本件訴訟の争点ではないので,これら無効理由についての審決理由の摘示は省略。 (2) 無効理由2-2について① 甲3(浜島教子「基本的四味の相互関係について」調理科学,Vo.8,No.3(1975),132頁~136頁),実質的に以下の発明(甲3発明)が記載されていることが認められる。 「0.1%酢酸溶液に,5~10%のショ糖を添加して,酸味を減少させ,酸味と甘味のつり合いを良くする方法。」② 本件発明と甲3発明の一致点と相違点は次のとおりである。 【一致点】 - 4 -クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は経口利用に酸味を呈する製品に,所定量の甘味剤を用いる酸味のマスキング方法である点。 【相違点】所定量の甘味剤が,本件発明では,「スクラロースを0.012~0.015重量%」であるのに対して,甲3発明では,「5~10%のショ糖」である点。 ③ア甲4(特開昭59-21369号公報)には,アスパルテームが食酢,梅ぼし,有機酸等の酸味の強い調味料又は食品の酸味を味全体のバランスを崩すことなく緩和すること,甲5(特開昭61-177980号公報)には,ステビア甘味料が,酢酸の酸味の緩和を実現すること,甲6(小川俊男「漬物製造学」株式会社光琳,平成元年3月20日発行,124頁)には,サッカリンが刺激的な酸 5(特開昭61-177980号公報)には,ステビア甘味料が,酢酸の酸味の緩和を実現すること,甲6(小川俊男「漬物製造学」株式会社光琳,平成元年3月20日発行,124頁)には,サッカリンが刺激的な酸味をあまり感じさせなくする効果を有し,酢漬けにサッカリンがよいことが記載されているところ,アスパルテーム,ステビア,サッカリンはスクラロースと同様に高度甘味料であることは周知である。 そして,スクラロースは,甲2の2(行政文書開示決定通知書,厚生労働省発1220第1 号,平成22年12月20日,「第6章使用基準案に関する資料」,食品衛生調査会毒性・添加物合同部会報告〔食調第5号平成11年1月6日〕の別添資料)の記載から,甘味の付与のために食品に添加されるものとして知られたものであるだけでなく,本件出願前に,ショ糖の600倍という高甘味度で甘みが良質であり,耐熱性があるという性質も知られている周知の人工甘味料である。 また,スクラロースの量の数値限定について,本件発明の「酸味のマスキング」は,訂正明細書には「不快な酸味がマスキングされた」と記載されるだけであり,その判断基準が明らかでないし,0.012~0.015重量%という数値範囲は,実施例に記載されたものを採用したもので,この数値の意義を示す比較例もなく,臨界的意義があるとすることはできない。口頭審理において原告は「数値限定について,進歩性の根拠となる意義はない。」(口頭審理調書,乙1)と認めるところで - 5 -もある。 そうすると,味は食品にとって非常に重要な要素であり,各種人工甘味料の味に関する特性を調べることは至極当たり前のことであるといえ,前記したように高度甘味料であるアスパルテーム,ステビア,サッカリンが酢酸等の酸味を緩和するということが知られていたのであ 種人工甘味料の味に関する特性を調べることは至極当たり前のことであるといえ,前記したように高度甘味料であるアスパルテーム,ステビア,サッカリンが酢酸等の酸味を緩和するということが知られていたのであるから,甲3発明において,ショ糖に代えて,周知の高度甘味料であるスクラロースを採用し,その際に酸味に対してマスキングが起きることを確かめ,スクラロースの濃度を0.012~0.015重量%という範囲に適宜決定することで,本件発明のごとくすることは,当業者が容易になし得たことといえる。 イ審判乙2(濱田正一「1997年注目食品素材の動向」月刊フードケミカル,1997年1月号,Vol.13,No.1,食品化学新聞社,平成9年1月1日発行,57頁~62頁,甲12),審判乙6(「呈味の改善効果(矯味効果)」食品と開発,Vol.32,No.1,UBMメディア株式会社,1997年〔平成9年〕1月1日発行,45頁~46頁,甲16)にトレハロースがレモン汁及び梅干しの酸っぱさを減少させるが,醸造酢の酸っぱさは増加させることが記載され,審判乙3(白川真由美「新規甘味料『ネオテーム』の特徴と食品への応用」食品と科学,2009年2月号,第51巻第2号,78頁~81頁,食品と科学社,平成21年2月発行,甲13)にネオテームが,クエン酸の酸味を増強し,酢飲料の酸味を和らげることが記載され,審判乙8(G.EInglett, "DihydrochalconeSweeteners-SensoryandStabilityEvaluation", JournalofFoodScience,34巻,1969年〔昭和44年〕発行, 101頁~103頁,甲18),審判乙9(中谷弘実「人工甘味料問題と新甘味料」食品開発,Vol.6,No.2,食品研究社,昭和4 FoodScience,34巻,1969年〔昭和44年〕発行, 101頁~103頁,甲18),審判乙9(中谷弘実「人工甘味料問題と新甘味料」食品開発,Vol.6,No.2,食品研究社,昭和46年発行,21頁~24頁,甲19)に,ネオヘスペリジンジヒドロカルコンが酸味を増強することが記載され,審判乙12(伊藤汎等編「食品と甘味料」,株式会社光琳,平成20年10月1日発行,84頁~93頁,甲22)に,果糖が食酢の香りや味を引き立てる働きを持っていると記載され,審判乙13(伊藤汎等編「食品 - 6 -と甘味料」,株式会社光琳,平成20年10月1日発行,196頁~201頁,甲23)に,エリスリトールが酸味を増強することが記載され,審判乙14(原告従業員A作成にかかる実験報告書3,2011年〔平成23年〕11月14日作成,甲24)に,ソーマチンがチューインガムに使用されたクエン酸及び酒石酸の酸味を増強することが記載されていることから,酸味剤と甘味剤の組合せによっては,甘味料が酸味を増強するという対比現象が起こることは事実といえる。 その一方で,甲4~6に記載されるように,アスパルテーム,ステビア,サッカリンが酢酸等の酸味を緩和するという現象も知られていたことである。 そして,甘味剤と酸味剤との相互作用,つまり添加された甘味が酸味の増強又は緩和のいずれに作用するかについて,実際に味見をすることで確認することは慣用の手段であるといえ,各種人工甘味料に対して,味の相互作用が未だ科学的に解明されていない事実並びに酸味を増強するような場合があることも参酌すれば,当業者であれば,酸味との相互作用等の特性を実際に確認することを自然に考えるものである。 したがって,審判乙2,3,6,8,9,12~14に記載された事実は,甲3発明において, も参酌すれば,当業者であれば,酸味との相互作用等の特性を実際に確認することを自然に考えるものである。 したがって,審判乙2,3,6,8,9,12~14に記載された事実は,甲3発明において,ショ糖に代えてスクラロースを用い,酸味がマスキングされるか否かを実際に確かめてみることの阻害要因とはならないといえる。 ウ訂正明細書に記載された効果である長期安定性と熱安定性に優れた酸味のマスキング方法である点,マスキング後の味のバランスを保持し酸味自体の風味を良質なものにする点については,スクラロースの性質である熱安定性及び良質な甘味を有することから,予測し得た効果であり,格別顕著なものとはいえない。 原告が主張するところの,スクラロースの酸味のマスキング効果が他の甘味料より顕著に優れているとする点については,甘味剤と酸味剤の組合せにより,酸味が減少したり増強したりすること,その程度も様々であることが,審判乙2,審判7(早川幸男編「オリゴ糖の新知識」,食品化学新聞社,1998年〔平成10年〕11月20日,214頁~215頁,甲17),審判乙9に記載されているように本件 - 7 -出願前に知られていたことを考えると,スクラロースのマスキング効果が驚くべきものとすることはできず,当該マスキング特性が他の甘味料から予想される範囲を超えてまで格別に優れているものとはいえない。 エしたがって,本件発明は,甲3に記載された発明,及び甲2,4~6に記載された発明に基づいて,出願前に当業者が容易に想到できた発明である。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(本件発明と甲3発明との相違点〔特異かつ顕著な作用効果の看過〕の認定の誤り)審決は,本件発明と甲3発明の相違点について,単に「スクラロースを0.012~0 主張の審決取消事由 1 取消事由1(本件発明と甲3発明との相違点〔特異かつ顕著な作用効果の看過〕の認定の誤り)審決は,本件発明と甲3発明の相違点について,単に「スクラロースを0.012~0.015重量%」を含むか,「5~10%のショ糖」を含むかという点のみにすぎないと認定した。 しかし,本件発明の明細書には,【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】として,段落【0003】及び【0004】に,本件出願当時,酸味剤によって不快な酸味が増強されて食品の嗜好性に悪影響があるという酸味剤の問題点,呈味成分(例えば糖類)で酸味を緩和しようとすると製品自体の味のバランスが損なわれるという問題点,及びアスパルテームがpHや温度等の条件によって分解し,長時間安定に保存することができないという問題点が記載され,これを受けて,「酸味のマスキング効果を十分に発揮するとともに,製品本来の味のバランスを保持し,さらに長期安定性及び熱安定性にすぐれた酸味のマスキング方法が求められている」ことが記載されている。 そして,段落【0014】【表1】に記載された実施例1においては,スクラロースを用いた場合の酸味が,「酸味がさわやか」であり,甘味が,「こくのある甘み」であること,段落【0015】には,他の甘味料(アスパルテーム,酵素処理ステビア及びサッカリンナトリウム)と対比して,「酸味と甘味とを総合すると,スクラロースが最も高い評価であった。」ことが記載されている。また,実施例2において - 8 -も,スクラロースを用いることで,「不快な酸味がマスキングされ,梅の酸味のさわやかなフィズ」になることが,さらに,実施例3においても,スクラロースを用いることで,「酸味の不快味がマスキングされ」ることが記載されている。さらに,段落【0019】【発明の効果】におい 酸味のさわやかなフィズ」になることが,さらに,実施例3においても,スクラロースを用いることで,「酸味の不快味がマスキングされ」ることが記載されている。さらに,段落【0019】【発明の効果】においては,「本発明によれば,酸味を呈する製品に,スクラロースを添加することにより,製品本来の味のバランスを保持し,さらに長期安定性,熱安定性にすぐれた酸味のマスキング効果を十分に発揮することができる。また,スクラロース自体,甘味剤として良質の甘味を呈する物質であるため,マスキングされた後の酸味自体の風味を良質なものにすることができる。」と記載されている。 そうすると,本件発明が有する作用効果は,単に従来から知られていた糖類やアミノ酸等のように,「酸味を緩和する」という効果に限られるものではなく,① 製品本来の味のバランスを保持する,② マスキングされた後の酸味自体の風味を良質なものにする,③ 長期安定性及び熱安定性にすぐれている,という特異かつ顕著な作用効果を有する。 一方,甲3発明は,審決もその要旨を「酸味を減少させ,酸味と甘味のつり合いを良くする方法」と認定するように,従来から知られた「糖類」の1つであるショ糖(砂糖)の作用効果は,単に「酸味を減少させ,酸味と甘味のつり合いを良くする」のみに限定されるのであって,上記①~③のような作用効果を奏することはない。審決は,本件発明と甲3発明の相違点につき,本件発明が甲3発明に比べて,上記①~③の特異かつ顕著な作用効果を有するという相違点を看過しており,誤りである。 2 取消事由2(本件発明と甲3発明との相違点判断の誤り)(1) 甘味料といっても極めて多数の種類があり,それぞれに固有の分子構造を有し,その酸に対する作用効果も様々であり,全く予想ができないこと審決は,「味は食品に 甲3発明との相違点判断の誤り)(1) 甘味料といっても極めて多数の種類があり,それぞれに固有の分子構造を有し,その酸に対する作用効果も様々であり,全く予想ができないこと審決は,「味は食品にとって非常に重要な要素であり,各種人工甘味料の味に関す - 9 -る特性を調べることは至極当たり前のことであるといえ,前記したように高度甘味料であるアスパルテーム,ステビア,サッカリンが酢酸等の酸味を緩和するということが知られていたのであるから,甲3発明において,ショ糖に代えて,周知の高度甘味料であるスクラロースを採用し,その際に酸味に対してマスキングが起きることを確かめ,スクラロースの濃度を0.012~0.015重量%という範囲に適宜決定することで,本件発明のごとくすることは,当業者が容易になし得たことといえる。」とした。 しかし,一口に甘味料といっても,本件出願当時に限っても極めて多数の物質が知られており,その分子構造はそれぞれに異なっている上,これらの物質が人間の感覚に「甘味」をもたらしたり,「酸味」をマスキングしたりする作用機序については,現在でもなおほとんど解明されていない状況にある。また,甘味料によっては,酸に対してマスキング効果を持たず,逆に酸味を強くする(エンハンス)効果があるものや,そのどちらの効果もないものがあり,それらの何れの効果が発現するかを事前に予測することは不可能である(審決自身,5種類もの甘味料が,酸味〔あるいは特定の酸味〕を逆にエンハンスすることを認定している。)。緩和(マスキング)も,増強(エンハンス)もしない甘味料も存在する。さらに,酸味マスキング効果を発揮する物質としては,甘味料というカテゴリーに限らず,前記のアミノ酸類の他,食塩や調味料などの物質が知られていた。 以上のとおり,たった3種類(アス 甘味料も存在する。さらに,酸味マスキング効果を発揮する物質としては,甘味料というカテゴリーに限らず,前記のアミノ酸類の他,食塩や調味料などの物質が知られていた。 以上のとおり,たった3種類(アスパルテーム,ステビア,サッカリン)の物質が,酸味マスキング効果という共通の性質を持ち,たまたま,それらが甘味料という共通の性質をもっていたからといって,当業者が甘味料一般が酸味マスキング効果をもちうると認識したり,その中から,スクラロースを取り上げて,それがマスキング効果をもちうると認識したりすることはありえないのである。したがって,本件出願当時,甘味料・その他の極めて多数の物質のなかから,スクラロースを選択し,そのマスキング効果を確かめてみることは,当業者にとって容易ではなく,審決の判断は誤りである。 - 10 -(2) 本件出願当時,数多の甘味料のなかからスクラロースを取り上げる動機づけは極めて弱いこと本件出願当時,日本国内において,スクラロースを食品に使用することは認可されておらず,世界的にみても,食品添加物として販売されていた国はわずか6か国であり,当業者であっても,容易に入手することはできなかった。また,本件出願当時のスクラロースの高甘味度甘味料の世界市場におけるシェアは,わずか0.047パーセントにすぎなかった。このような状況において,当業者が,あえてスクラロースを選択して酸味マスキング効果を試してみることについては,動機付けがなく,この点からも,甲3に記載された発明から本件発明に想到することは容易でないことは明らかである。 (3) 本件発明には特異かつ顕著な作用効果があり,甲3発明からは,容易に想到できないこと前記1のとおり,審決は,本件発明と甲3発明の作用効果における重要な相違点を看過しており,容易 。 (3) 本件発明には特異かつ顕著な作用効果があり,甲3発明からは,容易に想到できないこと前記1のとおり,審決は,本件発明と甲3発明の作用効果における重要な相違点を看過しており,容易想到性判断の前提において既に誤りを犯している。すなわち,スクラロースには,①製品本来の味のバランスを保持し,②マスキングされた後の酸味自体の風味を良質なものとし,③長期安定性及び熱安定性にすぐれているという,他の酸味マスキング剤には見られない特異かつ顕著な作用効果があるのであり,これについて,当業者であっても,「酸味を減少させ,酸味と甘味のつり合いを良くする方法」を開示するにすぎない甲3発明から,容易に想到することはできない。 なお,スクラロースは,酸味マスキングが求められている製品である「ビネガードリンク」について,平成21年において,46.4パーセントものマーケットシェアを獲得している。また,各種甘味料の価格表(甲38の2)によれば,スクラロースは,他の甘味剤に比して,圧倒的に高価である。スクラロースが高価でコスト的に不利であるにもかかわらず,多くの「ビネガードリンク」に採用されていることは,他の酸味マスキング剤に比しての作用効果の優位性が商業的成功という点において間接的に裏付けられているといえる。 - 11 - 第4 被告の反論 1 取消事由1に対し甘味剤と酸味剤の組合せにより,酸味が減少したり増強したりすること,その程度も様々であることは,甲12(審判乙2),17(審判乙7),19(審判乙9)に記載されているように,本件出願前に知られていたことである。よって,特定の条件で味のバランスがよくなる場合があるとしても,スクラロースのマスキング効果が驚くべきものとすることはできず,当該マスキング特性が他の甘味料から予想される に知られていたことである。よって,特定の条件で味のバランスがよくなる場合があるとしても,スクラロースのマスキング効果が驚くべきものとすることはできず,当該マスキング特性が他の甘味料から予想される範囲を超えてまで格別に優れているものといえないことは審決が指摘するとおりである。 しかも,本件発明の特許請求の範囲には,酸味の程度に関する特定(該製品の酸味剤の濃度に関する限定)がないし,原告は,審判において,添加されるスクラロースの数値限定について,進歩性の根拠となる意義はないことを認めており,本件発明が特定の条件において原告の主張するような特異な作用効果を奏する場合があるとしても,本件発明は当該作用効果を奏する場合に限定されていないのであって,原告の主張には理由がない。 また,原告は,審判において,本件発明の効果について,「本件発明の『酸味のマスキング方法』は,酸味を完全に遮蔽することだけを意味するのではなく,酸味を緩和したり,酸味をマイルドにする方法を,その緩和の程度を問わず,包含するものである」(乙2の9頁23行~25行)と主張している。原告が,本件発明の作用効果について,原告が主張するような限定されたものであると主張することは禁反言により許されない。 本件発明は,酸味を呈する製品にスクラロースを添加して,その緩和の程度を問わず酸味をマスキングするものを広く包含するのであり,本件発明に特異の作用効果があるとの主張は理由がない。 2 取消事由2に対し - 12 -そもそもスクラロースなどの高甘味度甘味料は,砂糖(ショ糖)の代替甘味料として開発されたものである。したがって,当業者には,その開発目的から,甲3発明の「ショ糖」をスクラロースで代替しようと考える積極的な動機付けがある。 また,アスパルテーム・ステビア・サ 替甘味料として開発されたものである。したがって,当業者には,その開発目的から,甲3発明の「ショ糖」をスクラロースで代替しようと考える積極的な動機付けがある。 また,アスパルテーム・ステビア・サッカリンが酢酸等の酸味を緩和することが知られていたばかりでなく(甲4~6),トレハロース,ネオテーム,ネオヘスペリジンジヒドロカルコン,果糖,エリスリトール,ソーマチンなど多数の甘味料において,酸味剤と甘味剤の組合せによって,甘味料が酸味を緩和したり,増強する対比減少が起こることが知られていた。そして,スクラロースは本件出願前である平成2年12月12日は新甘味料としてすでに知られていた(甲39別紙6の4頁表1)。よって,当業者は,この新甘味料と酸味との相互作用等の特性を実際に確認することを自然に考えるのは当然である。 さらに,酢酸等の酸味を緩和する効果が知られていたサッカリンは,スクラロースと同様,合成甘味料である。よって,当業者は,同種の合成甘味料であるスクラロースにも同様な特性があるのではないかと予想し,スクラロースと酸味との相互作用等の特性を実際に確認することを考える強い動機付けがある。 以上からすれば,当業者は,甲3発明のショ糖に代えて新規の甘味料であるスクラロースを適用することを容易に想到するというべきである。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(本件発明と甲3発明との相違点〔特異かつ顕著な作用効果の看過〕の認定の誤り)について(1) 訂正明細書(甲9,10)によれば,本件発明につき次のことを認めることができる。 本件発明は,酸味を呈する製品にスクラロースを添加することからなる酸味のマスキング方法に関する発明である。酸味は塩味,苦味,甘味等とともに総合的な味覚の完成に重要な要素であり,通常は酸味剤 きる。 本件発明は,酸味を呈する製品にスクラロースを添加することからなる酸味のマスキング方法に関する発明である。酸味は塩味,苦味,甘味等とともに総合的な味覚の完成に重要な要素であり,通常は酸味剤等を食品に添加することにより付与さ - 13 -れるところ,酸味剤は防腐,保存,抗菌,凝固等の種々の作用を示すため,これらの作用を期待して食品等の製品中に添加する場合があるが,一方で,これにより本来の味のバランスを損なったり,不快な酸味を増強するなど食品等の嗜好性に悪影響を及ぼすという問題があった。これに対して,種々の呈味成分が酸味を緩和するものとして知られていたが,甘味がつきすぎて製品自体の味のバランスが損なわれるとか,甘味剤自体が温度等によって分解しやすく,対象の食品によっては長期間安定に保存することができない場合があった。本件発明は,酸味のマスキング効果を十分に発揮するとともに,製品本来の味のバランスを保持し,さらに長期安定性及び熱安定性に優れた酸味のマスキング方法が求められるという課題の下,酸味を呈する製品に種々の呈味成分を添加することによって検討を行った結果,酸味を呈する製品にスクラロースを添加する酸味のマスキング方法を完成するに至ったものである。 (2) 審決は,本件発明につき,請求項の記載に基づいて,「クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品に,スクラロースを,該製品の重量に対して0. 012~0.015重量%で用いることを特徴とする酸味のマスキング方法」と認定し,かかる本件発明と甲3発明を対比して,一致点・相違点を認定しており,そこに誤りはない。原告の主張は,本件発明と引用発明の相違点を抽出する場合における本件発明の認定について,本件発 グ方法」と認定し,かかる本件発明と甲3発明を対比して,一致点・相違点を認定しており,そこに誤りはない。原告の主張は,本件発明と引用発明の相違点を抽出する場合における本件発明の認定について,本件発明の効果も含めて認定することを前提とするものであるが,本件発明の要旨は,その特許請求の範囲の記載に基づいて認定すべきものであるから,原告の上記主張は採用することができない。すなわち,原告の主張は,顕著な効果の看過を相違点の認定誤りというものであり,この主張をもって相違点認定の誤りとすることはできない。作用効果に関しては,後記2(6)で判断するとおりである。 2 取消事由2(本件発明と甲3発明との相違点判断の誤り)について - 14 -(1) 本件出願時に公知であった文献には次の記載がある。 ア特開昭59-21369号公報(甲4)・「本発明者らは,上記現状に鑑み,酸味の強い調味料又は食品の酸味を味全体のバランスを崩すことなく緩和し,嗜好性,保存性を高める方法を開発すべく鋭意検討を重ねた結果,アスパルテームの添加により,従来の酸味緩和剤に比べて顕著な効果,即ち,いわゆる”酢カド”がとれて,非常にマイルドな酸味になり,しかも,味全体の調和が図られることを見い出し,本発明を完成したものである。」(2頁右上欄13行~左下欄1行)・「本発明方法によれば,アスパルテームを,甘味を付与しないか或は甘味により食品全体の呈味バランスを損わない程度の少量を添加することにより,酢カドのないマイルドな酸味が得られ,例えば,砂糖等の酸味緩和剤に比べて,著しい酸味緩和効果が達成できる・・・」(3頁左下欄1行~6行)イ特開昭61-177980号公報(甲5)・「本発明者は,甘味倍数の高い各種の甘味料と種々の酢との配合について検討 比べて,著しい酸味緩和効果が達成できる・・・」(3頁左下欄1行~6行)イ特開昭61-177980号公報(甲5)・「本発明者は,甘味倍数の高い各種の甘味料と種々の酢との配合について検討を重ね,その結果,食品としての安全性の確保についてはもちろんのこと,良好な味質の付与,酸味の緩和,刺激臭の低減,化学的安定性の維持などを実現し,その上砂糖の併用を皆無とし得るか,あるいは砂糖使用量を大幅に減じ得るのは,いわゆる酢酸発酵によって得られる醸造酢と天然のステビア甘味料との組合せだけに限られることを見出し,本発明に到達したものである。」(2頁左上8行~17行)ウ小川敏男「漬物製造学」(甲6)・「表4-10は酸の添加とサッカリンの苦味を試験した結果であるが,クエン酸を0.5%添加した区はいずれもまったく苦みが感じられない。・・・また同表によれば,酸の添加量が多くてもサッカリンの甘味によって味覚的に刺激的な酸味をあまり感じさせないという酸味の面からの効果もみられる。」(124頁5行~10行)エ濱田正一「1997年注目食品素材の動向トレハロース」(甲12〔審判乙2〕) - 15 -・「3.7 矯味・矯臭効果2種類以上の呈味物資を同時に味わうとき,それらの味は互いに関連しあっている。たとえば,・・・酸味食物に砂糖を加えると酸味が減少するなどは日常誰でも経験することである。溶解状態のトレハロースは水分子がいくつも重なった構造であると言われている。このことは水のクラスターを変化させたり,味蕾細胞との相互作用に何らかの影響を与えている可能性がある。実際に,いろいろな食品や素材に少量のトレハロースを加えて官能試験を実施した結果を,表4にまとめた。その中でもトレハロースに特長的なのは塩から味と酸っぱ味である。・・・また, 与えている可能性がある。実際に,いろいろな食品や素材に少量のトレハロースを加えて官能試験を実施した結果を,表4にまとめた。その中でもトレハロースに特長的なのは塩から味と酸っぱ味である。・・・また,酸味料の種類や他の呈味物質の存在により酸味が強調されたり,マスキングされたりする不可解な現象を確認している。」(61頁右欄1行~2頁左欄4行)・表4には「トレハオースの矯味・矯臭作用(添加量域:0.1~7.0%」という表題で,醸造酢の酸っぱ味を増強し,梅干し及びレモン汁の酸っぱ味を減少させることが示されている。(61頁)オ 「シリーズⅥ/トレハオースの食品への利用呈味の改善効果(矯味効果)」(甲16〔審判乙6〕)・「●トレハオースによる矯味・矯臭作用とその応用例(2)酸味梅干しやレモン汁に0.5%加えますと,酸味が減少してマイルドになります。 アスコルビン酸においても同様な結果が得られ,高含有のクエン酸やビタミンC飲料といった健康食品の開発に有効です。一方,食酢そのものに添加しますと,刺激臭や酸味が強調される反面で,醤油などの調味料や砂糖の入った系ではマスキングされるという不可解な現象も確認しています。このことは,ぽん酢やすし酢,あるいは黒酢ドリンクにおける酢のタチを抑えると同時に,酢の風味を長時間保持するのに有効だということを示唆しています。」(45頁中欄6行,19行~33行)・46頁には,「トレハオースによる各食品への嬌味効果」という表題の表1が記載されているところ,この表は甲12の表4と同内容の表である。 - 16 -カ G.EInglett,「DihydrochalconeSweeteners-SensoryandStabilityEvaluation」,JournalofFoodSci -カ G.EInglett,「DihydrochalconeSweeteners-SensoryandStabilityEvaluation」,JournalofFoodScience,34巻(甲18〔審判乙8〕)・「レモネードタイプの飲料において,甘味料は10%のショ糖に相当する濃度で使用した。表4に4種類の異なる甘味料を含有するレモネードの特徴を示す。ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを含有するレモンフレーバー製品に見られる,明らかな,より増強された酸味は,ネオヘスペリジンジヒドロカルコンが柑橘類の風味または酸味に相乗的に作用している可能性を示唆する。」(102頁右欄18行~24行)103頁の表4には,レモネード製品の酸味が,甘味料がショ糖の場合には適度でレモンの酸味であったこと,サッカリン及びチクロの場合にはショ糖より酸味が少なかったこと,ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの場合には酸味がより強く,不快な酸味であったことが示されている。 キ中谷弘実「人工甘味料問題と新甘味料」(甲19〔審判乙9〕)・「〔Ⅱ〕新甘味物質の開発研究の概況について(1) Dihydrochalcone 類1963年Horowitzらが見出した甘味物質で,最近特に注目されるようになった。 甘味の強いものとして,・・・neohesperidindihydrochalcone,・・・などがあげられるが,それぞれの・・・甘味の強さをまとめて第1表に掲げた。・・・Inglett らはおもにneohesperidindihydrochalcone の甘味や安定性を調べ,さらに食品への添加実験を行った。・・・本物質をゼリー様食品やレモン水に加えてその甘さを評価したが,本品を添加した食品では砂糖を加えたものに比較して甘味の出現がお alcone の甘味や安定性を調べ,さらに食品への添加実験を行った。・・・本物質をゼリー様食品やレモン水に加えてその甘さを評価したが,本品を添加した食品では砂糖を加えたものに比較して甘味の出現がおそく,酸性を強く感じたと述べている。」(22頁右欄32行~23頁右欄2行)・23頁の第1表には,neohesperidindihydrochalcone の甘味度が砂糖の約1000倍であることが示されている。 ク山田貢「甘味料の国際動向とわが国の課題」月刊フードケミカル,株式会社食品化学新聞社,昭和60年5月1日発行(甲39の別紙3) - 17 -・「2.食品添加物としての各国の現状現在,世界で使用されている高甘味度甘味料には,アスパルテーム,サッカリン,チクロ,アセスルファームK,ステビア等数多くある。」(51頁右欄1行~4行)・「3.主な高甘味度甘味料の性質」の項には,サッカリン,アスパルテーム,アセスルファームK,ステビオサイド及びチクロについての説明があり,また,これら説明に続いて,「(6) その他」との見出しで,「TGS(トリクロロ-トリデオキシ-ガラクトサッカロース)等多くの化合物が国内外で研究開発途上にある。」と記載されている。(52頁左欄4行~53頁右欄1行)ケ 「別冊フードケミカル-4」株式会社食品化学新聞社,平成2年12月20日発行(甲39の別紙6)・「甘味料の分類」という表題の表1には,甘味料が,低甘味度甘味料と高甘味度甘味料というカテゴリーに分かれ,また,高甘味度甘味料は,合成甘味料,非糖質天然甘味料及びアミノ酸系甘味料の3種に分かれることが示されている。また,同表には,合成甘味料の主な特徴は,「低カロリー甘味料または低コスト甘味料として使用される。現在日本で使用されているサッカリンの消 甘味料及びアミノ酸系甘味料の3種に分かれることが示されている。また,同表には,合成甘味料の主な特徴は,「低カロリー甘味料または低コスト甘味料として使用される。現在日本で使用されているサッカリンの消費は減少傾向にあるが,新甘味料も近い将来使用される可能性がある。」であること,サッカリン,チクロ(サイクラミン酸ナトリウム),アセスルファムK(アセスルファム・カリウム塩),シュクラロース及びズルチンが,合成甘味料に属することが示されている。さらに,同表には,ステビア甘味料,グリチルリチン,ソーマチン及びモネリンが非糖質天然甘味料に属し,アスパルテーム及びアリテームがアミノ酸系甘味料に属することも示されている(4頁)・「高甘味度甘味料の市場規模」という表題の表4の合成甘味料の項にシュクラロースが記載されている。(15頁)(2) 前記(1)に記載のTGS(トリクロロ-トリデオキシ-ガラクトサッカロース)及びシュクラロースは,いずれもスクラロースの別称であるから,スクラロースは甘味料の中で,高甘味度甘味料に属する甘味料ということができる。また,ス - 18 -クラロースは,カナダでは1991年(平成3年)に食品添加物として認められていた(甲2)。したがって,本件出願時において,スクラロースは高甘味度甘味料として周知の物質であったということができる。 (3) 前記(1)によれば,本件出願時,アスパルテームは,酸味の強い調味料又は食品の酸味を味全体のバランスを崩すことなく緩和すること,ステビア甘味料は,醸造酢の酸味を緩和し,良好な味質を付与すること,サッカリンはクエン酸の刺激的な酸味をあまり感じさせなくする効果を有すること,サッカリンはレモネードの酸味を抑制すること,チクロはレモネードの酸味を抑制すること,トレハロースは,梅干し 与すること,サッカリンはクエン酸の刺激的な酸味をあまり感じさせなくする効果を有すること,サッカリンはレモネードの酸味を抑制すること,チクロはレモネードの酸味を抑制すること,トレハロースは,梅干し,レモン汁及びアスコルビン酸(ビタミンC)の酸味を減少させること,トレハロースを食酢(醸造酢)に添加した場合には,食酢そのものに添加すると酸味が増強されるが,食酢に醤油や砂糖が添加されていた場合には,酸味がマスキングされること,ネオヘスペリジンジヒドロカルコンはレモネードの酸味を増強することを認めることができる。すなわち,甘味料がアスパルテーム,ステビア,サッカリン及びチクロの場合には,酸味をマスキングする効果を有し,トレハロースの場合は,酸味を呈するものによって,酸味をマスキングするか,増強するかは異なり,ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの場合は,酸味を増強するものである。 また,サッカリン,チクロ,アセスルファムK,シュクラロース,ズルチン,ステビア甘味料,グリチルリチン,ソーマチン,モネリン,アスパルテーム,アリテーム,ネオヘスペリジンジヒドロカルコンは高甘味度甘味料に属するものであること,アスパルテーム,ステビア,サッカリン,チクロ及びアセスルファムKが1980年代後半の全世界における主な高甘味度甘味料であったことが認められる。 そうすると,高甘味度甘味料として代表的な物質であったアスパルテーム,ステビア及びサッカリンについては,酸味を呈する食品や調味料でその酸味をマスキングする例が公知であった一方,高甘味度甘味料であるネオヘスペリジンジヒドロカルコンの場合は,酸味を呈する食品で,その酸味を増強する例が公知であったことを認めることができる。 - 19 -以上の認定によれば,甲3発明との間の相違点について審決が「味は食品にと ドロカルコンの場合は,酸味を呈する食品で,その酸味を増強する例が公知であったことを認めることができる。 - 19 -以上の認定によれば,甲3発明との間の相違点について審決が「味は食品にとって非常に重要な要素であり,各種人工甘味料の味に関する特性を調べることは至極当たり前のことであるといえ,前記したように高度甘味料であるアスパルテーム,ステビア,サッカリンが酢酸等の酸味を緩和するということが知られていたのであるから,甲3発明において,ショ糖に代えて,周知の高度甘味料であるスクラロースを採用し,その際に酸味に対してマスキングが起きることを確かめ,スクラロースの濃度を0.012~0.015重量%という範囲に適宜決定することで,本件訂正発明のごとくすることは,当業者が容易になし得たことといえる。」と判断した点に誤りはない。 (4) 原告は,甘味料といっても極めて多数の種類があり,それぞれに固有の分子構造を有し,その酸に対する作用効果も様々であり,全く予想ができないと主張する。 しかし,前記のとおり,各種甘味料の中でも高甘味度甘味料として代表的な物質であったアスパルテーム,ステビア及びサッカリンで,酸味を呈する食品や調味料の酸味をマスキングする例が知られていた。そうすると,当業者が,他の高甘味度甘味料についても酸味マスキング作用の可能性を認識し,高甘味度甘味料として当業者において周知であったスクラロースについても,これを酸味を呈する製品に添加することにより,当該製品の酸味がマスクキングできると考えて,その作用効果を確認しようとすることは容易に想到することができたというべきである。 原告は,甘味料が酸味をマスキングする作用機序は解明されておらず,甘味料が酸味をマスキングするか否かは不明である点などとも主張するが,代表 ることは容易に想到することができたというべきである。 原告は,甘味料が酸味をマスキングする作用機序は解明されておらず,甘味料が酸味をマスキングするか否かは不明である点などとも主張するが,代表的な複数の高甘味度甘味料において酸味マスキング作用を有する例が知られていたのであるから,高甘味度甘味料に属するネオヘスペリジンジヒドロカルコンがマスキング作用とは反対の増強作用を有する例が公知であったり,酸味マスクの作用機序が不明であったとしても,高甘味度甘味料が酸味を呈する製品の酸味をマスキングできる可能性を当業者は認識するというべきである。 - 20 -(5) 原告は,本件出願当時,日本ではスクラロースを食品に使用することは認可されておらず,また,わずか6か国においてのみ食品添加物として販売されていたので,当業者であってもスクラロースを容易に入手することはできなかったものであり,また,スクラロースの世界市場におけるシェアはわずか0.047パーセントに過ぎなかったので,当業者が,あえてスクラロースを選択して,酸味マスキング効果を試すことについての動機付けはないと主張する。 しかし,そもそもスクラロースなどの高甘味度甘味料は砂糖(ショ糖)の代替甘味料として用いられてきたものであるところ(甲39の別紙2),酸味食物に砂糖を加えると酸味が減少するといったことは経験的によく知られた味の相互作用であるから(甲3の132頁左欄4行~9行,甲12の61頁右欄5行~6行),当業者には,甲3発明の「ショ糖」を高度甘味度甘味料として周知であったスクラロースで代替しようと考える動機付けがあるというべきである。食品添加物として未認可であったことや,甘味料市場におけるシェアが低いことから,多数ある甘味料の中からあえてスクラロースを選択して,酸味 ラロースで代替しようと考える動機付けがあるというべきである。食品添加物として未認可であったことや,甘味料市場におけるシェアが低いことから,多数ある甘味料の中からあえてスクラロースを選択して,酸味マスキング効果を試すことについての動機付けを否定することはできない。 (6) 原告は,審決が,本件発明の①製品本来の味のバランスを保持する,②マスキングされた後の酸味自体の風味を良質なものにする,③長期安定性及び熱安定性にすぐれている顕著な作用効果を看過していると主張する。 しかし,前記のとおり,高甘味度甘味料として代表的な物質であったアスパルテーム,ステビア及びサッカリンで,酸味を呈する食品や調味料の酸味をマスキングする例が知られていたことからすれば,上記①及び②程度の効果は,これを予測できない顕著な作用効果ということはできない。 また,カナダが1991年に食品添加物として許可した際の許可食品に,調理の過程で加熱されることを前提とするベーキング・ミックスやパンが挙げられていることからすれば,③の安定性は,スクラロース自体の安定性のことであると認められる(なお,本件出願後の文献ではあるが,「スクラロースの食品添加物指定要請」 - 21 -にかかる食品衛生調査会毒性・添加物合同部会報告(食調第5号,平成11年1月6日)の別添資料のうち「第6章使用基準案に関する資料」(甲2の2)に,スクラロースは物理科学的安定な食品添加物であって広範囲の食品への使用が可能であることや通常の保存状態ではほとんど分解しないし,対象食品中でも極めて安定である旨が記載され,対象食品として調理の経過で熱が加えられる焼菓子が挙げられている)。このことは,訂正明細書に,甘味料が経時的に分解し試料中の甘味料の量が減れば,酸味マスキング効果も消失し,これに対して,甘味 載され,対象食品として調理の経過で熱が加えられる焼菓子が挙げられている)。このことは,訂正明細書に,甘味料が経時的に分解し試料中の甘味料の量が減れば,酸味マスキング効果も消失し,これに対して,甘味料が経時的に分解せずに安定であれば,酸味マスキング作用が消失しない旨が記載されている(段落【0010】,【0011】及び図1)ことからも理解できる。このように,③の長期安定性及び熱安定性という効果は,スクラロース自体の公知の特性であり,この特性は,酸味を有する製品の酸味マスキングにスクラロースを用いた場合にのみ生ずる特有の作用効果ではないことからすれば,この効果を酸味のマスキング方法についての発明における顕著な効果とすることはできない。 (7) 結局,審決がした相違点の判断に誤りはない。 第6 結論以上より,原告の主張する取消事由はすべて理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 - 22 - 裁判官真辺朋子 裁判官田邉 実
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