主文 1 被告は、原告Aに対し、3540万6828円及びこれに対する令和2年4月28日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、2414万8952円及びこれに対する令和2年4月28日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、2414万8952円及びこれに対する令和2年4月28日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用はこれを10分し、その3を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。 6 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告Aに対し、5500万円及びこれに対する令和2年4月28日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、3174万8691円及びこれに対する令和2年4月28日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、3174万8691円及びこれに対する令和2年4月28日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨本件は、被告が設置する菊池広域連合消防本部(以下「消防本部」という。)の職員であった亡Dが、先輩職員であったEの言動により精神疾患を発症して自殺したなどとして、Dの相続人である原告らが、被告に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項又は安全配慮義務違反に基づき、Dの妻である 原告Aについて損害金の一部である5500万円、Dの子である原告B及び原 告Cについて損害金各3174万8 以下「国賠法」という。)1条1項又は安全配慮義務違反に基づき、Dの妻である 原告Aについて損害金の一部である5500万円、Dの子である原告B及び原 告Cについて損害金各3174万8691円及びこれらに対するDが死亡した日である令和2年4月28日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実及び後掲各証拠(以下特記しない限り、枝番号を含む書証は全ての枝番号を含む。)等により容易に認定できる事実) ⑴ 当事者等ア原告ら(ア) D(昭和▲年▲月▲日生)は、平成3年4月に被告の前身である菊池西部地区消防組合に採用され、死亡当時、消防本部通信指令課係長を務めていたが、令和2年4月19日、自殺を図り、同月28日、死亡した。 (甲9、11の1)(イ) 原告Aは、Dの妻であり、原告B及び原告Cは、Dの子である。原告らは、Dの死亡によって、原告Aについては法定相続分である2分の1の割合で、原告B及び原告Cについては同様に各4分の1の割合でDを相続した。(弁論の全趣旨) イ被告は、菊池市、合志市、大津町及び菊陽町によって構成される広域連合であり(地方自治法284条3項)、消防本部を設置している。(公知の事実)ウ Eは、昭和57年4月に菊池西部地区消防組合に採用され、Dの死亡当時、菊池広域連合西消防署消防課課長を務めていた。(甲11の1) ⑵ Dの精神疾患の発症及び自殺ア Dは、令和2年1月18日、不眠、不安焦燥感、胃痛、手足の発汗等の症状が出現し、同月21日、G病院を受診し、反復性うつ病性障害と診断を受け、同月23日、G病院に入院した。(甲2、3、10、11の5)イ Dは、令和2年3月19日に退院し、同年4月3日 の発汗等の症状が出現し、同月21日、G病院を受診し、反復性うつ病性障害と診断を受け、同月23日、G病院に入院した。(甲2、3、10、11の5)イ Dは、令和2年3月19日に退院し、同年4月3日に職場復帰したが、 職場復帰に関する不安から不眠がちとなり、同月13日から再入院した。 (甲3)ウ Dは、令和2年4月19日、G病院の病室で縊頚による自殺を図り、同月28日、縊頚を原因とする低酸素性脳症により死亡した。 (甲1、4、5)⑶ Dの死亡後の経過ア被告は、令和2年6月1日施行の「菊池広域連合消防本部職員の死亡に 関する第三者調査委員会設置条例」に基づき、菊池広域連合消防本部職員の死亡に関する第三者調査委員会(以下「第三者調査委員会」という。)を設置し、第三者調査委員会の委員として、大学教授、精神科医、臨床心理士及び弁護士の4名を選任した。(甲2)イ第三者調査委員会は、令和3年3月2日付けで、Dに係るパワーハラス メント行為の有無や再発防止策等について調査・審議等を行った結果を取りまとめた報告書(以下「第三者調査委員会報告書」という。)を作成した。 (甲2)ウ原告Aは、令和3年3月24日付けで、地方公務員災害補償基金に対し、Dの自殺について公務災害認定請求をしたところ、同基金は、令和4年7 月6日付けで、原告A宛で、同請求につき公務上の災害と認定する旨の通知をした。(甲8、10) 3 争点⑴ Eの言動の国賠法上の違法性⑵ 安全配慮義務違反の成否 ⑶ Eの言動と精神疾患の発症及び自殺との間の相当因果関係⑷ 原告らの損害額⑸ 素因減額の可否 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点⑴(Eの言動の国賠法上の違法性) (原告らの主張) ア Eは、平 び自殺との間の相当因果関係⑷ 原告らの損害額⑸ 素因減額の可否 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点⑴(Eの言動の国賠法上の違法性) (原告らの主張) ア Eは、平成10年頃から令和元年頃までの間、Dの24時間勤務明けに、多いときは月三、四回自宅を訪問し、早くとも正午頃、遅い場合には夕方頃まで滞在し、「反省会」と称して業務指導を行い(以下「言動①」という。)、平成30年4月頃から令和元年12月頃までの間、Dに対し、業務時間中に携帯電話や内線電話で頻回に架電し、業務知識に関するクイズを出した り、台帳整理を依頼したりし、Dが質問に答えられないと強く叱責することがあった(以下「言動②」という。)ほか、令和元年10月頃、Dに対し、非特定防火対象物(共同住宅)の台帳(対象物件約2000件、台帳冊数約500~600冊)を市町毎の分類から所轄毎の分類に整理し直すよう依頼し、Dは、同年12月頃までの間、上記の分類作業を余儀なくされた (以下「言動③」といい、言動①及び言動②と併せて「Eの言動」という。)。 イ Eの言動は、通常の公務員として行うべき指導の範囲を遥かに超えたものであり、国賠法上違法な公権力の行使に当たる。 したがって、被告は、国家賠償法1条に基づき、損害賠償責任を負う。 (被告の主張) 争う。 ⑵ 争点⑵(安全配慮義務違反の成否)(原告らの主張)公共団体は、公務員に対し、公務員が国若しくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理に当たって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよ う配慮すべき義務を負っているところ、被告はEの言動によってDの生命及び心身が危険にさらされないよう配慮すべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠った過失がある。 したがって、被 よ う配慮すべき義務を負っているところ、被告はEの言動によってDの生命及び心身が危険にさらされないよう配慮すべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠った過失がある。 したがって、被告は、安全配慮義務違反による損害賠償責任を負う。 (被告の主張) 争う。被告は、DがEとの関係に悩んでいることを知ることができなかっ たから、損害賠償責任を負わない。 ⑶ 争点⑶(Eの言動と精神疾患の発症及び自殺との間の相当因果関係)(原告らの主張)ア Eの言動は、Dに対し強度の心理的負荷を与えるものであり、これにより、Dは不眠、不安症焦燥感、胃痛及び手足の発汗等が出現して、うつ病 等により入院し、自殺するに至ったから、Eの言動と精神疾患の発症及びDの自殺の間に相当因果関係が認められる。 イ G病院におけるDの診療録に、Dの精神疾患の発症及び死亡の原因がEの言動にある旨記載されていないのは、Dが医師に対してEの言動について訴えることができなかったからであった。また、Dの反復性うつ病性障 害の原因疾患は、適応障害であってASDではない上、G病院の精神科医であるF医師は、Dの精神疾患や自殺の原因がASDにあると断じていない。DとEが外形上家族ぐるみの付き合いをしていたとしても、これはDがEに強いられたものであった。 (被告の主張) ①Dは、令和2年1月以降はEの言動等についての言及は少なく、むしろ業務に対する不安感を強めていたこと、②F医師がDについて典型的なASDであると評価していたこと、③EとDとは親密な関係にあったものであり、第三者調査委員会報告書は、DとEとは両価的な共依存の関係であったと推察できるとしていることから、Eの言動がDの精神的不調の主たる原因であ るとは考え難く、また、 密な関係にあったものであり、第三者調査委員会報告書は、DとEとは両価的な共依存の関係であったと推察できるとしていることから、Eの言動がDの精神的不調の主たる原因であ るとは考え難く、また、④仮にEの言動とDの精神疾患の発症との間の因果関係が認められたとしても、精神疾患を発症したものがすべて自殺を選択するものではないから、Eの言動とDの自殺との相当因果関係はない。 ⑷ 争点⑷(原告らの損害額)(原告らの主張) ア Dに生じた損害 (ア) 入院雑費 10万9500円1日当たり1500円、入院期間合計73日(令和2年1月23日から同年3月19日まで、同年4月13日から同月28日まで)(イ) 傷害慰謝料 145万円(ウ) 逸失利益 8023万5266円 a 基礎収入 770万4373円b 生活費控除 30%c 就労可能年数 20年(年3%のライプニッツ係数14.8775)d (計算式)770万4373円×(1-0.3)×14.8775=8023万5266円 (エ) 死亡慰謝料 2800万円(オ) 小計 1億0979万4766円(カ) 原告らによる相続分原告Aについて5489万7383円、原告B及び原告Cについて各2744万8691円 イ原告ら固有の慰謝料原告Aについて300万円、原告B及び原告Cについて各150万円ウ原告Aについての損益相殺原告Aは、遺族補償年金として、600万2950円の支給を受けている。 エ弁護士費用原告Aについて500万円、原告B及び原告Cについて各280万円を下らない。 オ合計原告A 5689万4433円(うち5500万円の支払を請求) 原告B及び原告C 各3174万8691円 いて500万円、原告B及び原告Cについて各280万円を下らない。 オ合計原告A 5689万4433円(うち5500万円の支払を請求) 原告B及び原告C 各3174万8691円 (被告の主張)ア否認ないし争う。 イ損益相殺原告Aは、以下のとおり、遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定しており、これは、Dの死亡逸失利益から控除するのが相当 である。 (ア) 令和2年5月分から令和4年11月分まで(令和4年12月27日支給)600万2950円(イ) 令和4年12月分(令和5年2月支給)から令和6年3月分(令和6 年4月支給)まで284万4800円(年額213万3600円、偶数月に35万5600円支給)(ウ) 令和6年4月分(令和6年6月支給)から令和7年6月分まで269万3745円(偶数月に35万9166円支給) (エ) 合計額は1154万1495円であり、原告Aは、令和7年7月以降も毎月17万9583円の支給を受ける。 ⑸ 争点⑸(素因減額の可否)(被告の主張)過去のうつ病やASDがDの精神疾患の発症及び自殺に重大な影響を及ぼ していること、精神疾患を発症したとしても直ちに自殺に結び付くものではないことを踏まえると、素因減額が行われるべきである。 (原告らの主張)ア F医師は初めてDと面談した日にASDであると診断しており、その診断方法、診断基準の適切さに疑問が残る上、Dには社会的コミュニケーシ ョン及び対人的相互反応における欠陥があったとうかがわせる事情もなか ったから、DがASDであるとの診断は誤りである。 イ仮にDがASDであるとしても、ASDは疾患ではなく、この特性を有する者は珍しくない上、D おける欠陥があったとうかがわせる事情もなか ったから、DがASDであるとの診断は誤りである。 イ仮にDがASDであるとしても、ASDは疾患ではなく、この特性を有する者は珍しくない上、Dが従前、特段の支障なく被告において勤務を継続していたことを踏まえると、その重症度は低いといえるから、Dが同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れ る脆弱性等の特性等を有していたことをうかがわせる事情があるということはできない。 したがって、DがASDであったことをもって素因減額をすることはできないし、仮に素因減額をするとしても、その割合は大きくないというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(後掲各証拠及び弁論の全趣旨等により認められる事実)⑴ EのDに対する言動等ア Dは、平成3年4月に菊池西部地区消防組合に採用され、同年10月、Eと同じ分隊に配属され、以後、平成9年10月のEの異動までの約6年 間、Eとは同じ隊や同じ課で勤務する状況が継続し、Eの上記異動後も、EがDの自宅を訪問したり、飲食を共にするなどの関係が続いた。(甲2、甲11の1)イ Dは、24時間勤務明けには、通常夕方まで寝ていたが、Eは、平成10年頃から令和元年頃までの間、Dの24時間勤務の勤務明け(午前9時 頃)に、多いときは月三、四回自宅を訪問し、早くとも正午頃、遅い場合には夕方頃まで滞在し、「反省会」と称して業務指導を行った(言動①)。 (甲2、10、11の2、11の3、51)ウ Dは、平成26年10月、胃部不快、不眠といった症状が出現したため、複数の医療機関を受診し治療を行うが改善せず、平成27年2月、勤務中 に吐血し医療機関へ救急搬送され、精神科を勧められ受診したところ、う 0月、胃部不快、不眠といった症状が出現したため、複数の医療機関を受診し治療を行うが改善せず、平成27年2月、勤務中 に吐血し医療機関へ救急搬送され、精神科を勧められ受診したところ、う つ病エピソードと診断され、同年4月15日から同年8月27日まで、うつ病の治療のためG病院に入院し、退院後も同年10月14日まで病気休暇を取得した。(甲10)エ Dは、平成28年9月21日、夜勤も含め通常の勤務が行える状態であると診断され、通院治療が終了した。(甲3、10) オ Eは、平成30年4月頃から少なくとも令和元年11月頃までの間、Dに対し、業務時間中に、携帯電話や内線電話で頻回に架電し、業務知識に関するクイズを出したり、台帳整理を依頼したりし、Dが質問に答えられないと強く叱責することもあった(言動②)。(甲2、10、11の2、11の3、11の15) カ Eは、令和元年10月頃、Dに対し、北消防署の書庫に保管されていた非特定防火対象物(共同住宅)の台帳(対象物件約2000件、台帳冊数約500~600冊)を市町毎の分類から所轄毎の分類に整理し直すよう依頼し、Dは、同年12月頃までの間、上記の分類作業を余儀なくされた(言動③)。なお、台帳整理は本来消防本部予防課の担当業務であり、当時 Eが所属していた西消防署消防課の担当業務でも、Dが所属していた北消防署消防課の担当業務でもなかった上、非特定防火対象物の台帳の使用頻度は低く、市町別に整理されているものを所轄毎の分類に整理し直す必要性も乏しかった。(甲2、10、11の2、11の12、11の13、11の17、11の20、11の22、11の23) ⑵ Dが自殺するに至った経緯ア Dは、令和2年1月18日、不眠、不安焦燥感、胃痛、手足の発汗等の症状が出現し 11の12、11の13、11の17、11の20、11の22、11の23) ⑵ Dが自殺するに至った経緯ア Dは、令和2年1月18日、不眠、不安焦燥感、胃痛、手足の発汗等の症状が出現し、同月21日、G病院を受診し、反復性うつ病性障害と診断され、抗うつ剤、催眠薬等の処方を受けた。(甲2、3、10、11の5)イ Dは、同月23日、G病院を受診し、じっとしていられないほどに不安・ 焦燥が強く、日常生活にも支障を来す状況のため、同日から入院した。D は、年末年始に出動回数が多かったことが不調の原因であると述べたが、Dの妻である原告Aは、Dの母(うつ病)の状態が悪化し、その連絡がきた頃から調子が悪くなったと述べた。G病院の精神科医であるF医師は、同月24日、Dについて、幼少期の発育歴、原告Aから聴き取った性格傾向やD自身の発言内容を踏まえ、ASD(自閉症スペクトラム障害)の傾 向が顕著で、単焦点となり切り替えができない、衝動性が高く、待てない印象があり、反復的な枠組み内で適応できていた可能性が高いようであるなどと評価した。(甲3、原告A本人・4、5頁)ウ Dは、同年2月3日、F医師との面談において、職場の人間関係で苦労しているなどと述べた。(甲3、10) エ Dは、同月17日、F医師との面談において、Dの母がうつ病で他院に入院したことなどについて相談したが、F医師の助言を受けて不安は軽減した。(甲3)オ Dの状態が回復してきたことから、同年3月3日、職場復帰に向けた消防本部との面談(F医師同席)が行われ、同月中旬に退院し、自宅療養を 経て、同年4月1日に復職予定とすることなどが共有された。また、Dは、上司から理不尽な指示が出ていたことが苦痛であった、現場(救急隊)に戻りたい気持ちはあるが 、同月中旬に退院し、自宅療養を 経て、同年4月1日に復職予定とすることなどが共有された。また、Dは、上司から理不尽な指示が出ていたことが苦痛であった、現場(救急隊)に戻りたい気持ちはあるが、服薬中であるため、復帰当初は事務的な作業や日勤のみの勤務になるだろうと思っているなどと述べた。(甲3、10、11の6) カ消防本部が、慣らし勤務を希望するかについてのDの意向を確認したいということから、同年3月13日、職場復帰に向けた消防本部との面談(G病院の精神保健福祉士同席)が行われた。Dは、体力も戻ってきており、現在服用している薬も減ってきているので、業務について特に不安はないとして、同年4月1日からの職場復帰を希望し、慣らし勤務はしないとの 意向を示すとともに、「このような事態が後輩に出ないように望みます。あ とは、所属を超えて話がある場合は、所属長等を通して欲しいと思います。」「長いときは1時間くらい仕事中に電話がありました。私だけならまだいいが、周囲、特に上司たちはあまりいい顔をしないので、そういったことは止めて欲しいです。」と述べた。(甲3、11の7)キ Dは、同年3月19日に退院し、同年4月1日付けで24時間勤務のあ る消防本部通信指令課係長へ異動となり、同月3日に職場復帰したが、その前日、職場復帰に関する不安から不眠がちとなり、G病院を受診した。 (甲2、3)ク Dは、同月12日に不安が増強し、同月13日、G病院を受診して入院を希望し、同日から再入院した。(甲3、10) ⑶ Dの自殺の状況等ア Dは、令和2年4月19日、G病院の病室で縊頚による自殺を図り、一命はとりとめたものの、H病院に救急搬送されたが、同月28日、同院において、縊頚を原因とする低酸素性脳症により死亡した。 状況等ア Dは、令和2年4月19日、G病院の病室で縊頚による自殺を図り、一命はとりとめたものの、H病院に救急搬送されたが、同月28日、同院において、縊頚を原因とする低酸素性脳症により死亡した。(甲1、4、5)イ Dは、上記縊頚の際、病室の机の上に、Eの名前と「お前を呪ってやる パワハラ、おどしいつもそういう事ばっかり」と記載したメモ書きを残していた。(甲2、3、10)⑷ Dの自殺に係る調査の概要ア被告は、令和2年6月23日、第三者調査委員会に対し、①Dの自殺に至るまでのパワーハラスメントの有無等に関する事実認定、②Dの自殺に 至るまでの関係者の対応及びその考察及び③パワーハラスメントと自殺との因果関係などにつき諮問した。(甲2)イ第三者調査委員会(大学教授、精神科医、臨床心理士及び弁護士の4名で構成)は、関係資料の精査、関係者へのヒアリングや文書での照会及び現地調査を実施した上、令和3年3月2日付けで、報告書(以下「第三者 調査委員会報告書」という。)を作成した。その概要は次のとおりである。 (甲2)(ア) 諮問事項①についてEの言動①ないし③のいずれも、EのDに対するパワーハラスメントであるとの評価を免れない。 (イ) 諮問事項②について Dの自殺に至るまでの関係者の対応状況が不適切であったとは言い難い。 (ウ) 諮問事項③についてEのパワーハラスメントとDの自殺との間には、因果関係(訴訟上の相当因果関係に近い概念である。)が認められる。 ⑸ DSM-5におけるASDの診断基準ア精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)は、アメリカ精神医学会が作成する精神障害に関する国際的な診断基準の一つであり、2013年に第5版であるDSM-5が出版され 5におけるASDの診断基準ア精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)は、アメリカ精神医学会が作成する精神障害に関する国際的な診断基準の一つであり、2013年に第5版であるDSM-5が出版された。DSMは、その実用性の高さ、わかりやすさなどから、臨床、研究、教育の幅広い分野で用いられている。 (甲40、乙10)イ DSM-5は、ASDについて、概要、次の診断基準を定めている。(甲41~43、45、46、乙6、10)A 複数の状況で社会的コミュニケーション及び対人的相互反応における持続的な欠陥があり、現時点又は病歴によって、以下のすべてにより 明らかになる(以下の例は一例であり、網羅したものではない)。 1 相互の対人的-情緒的関係の欠落で、例えば、対人的に異常な近づき方や通常の会話のやりとりのできないことといったものから、興味、情動又は感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることができないことに及ぶ。 2 対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いること の欠陥、例えば、まとまりの悪い言語的・非言語的コミュニケーションから、視線を合わせることと身振りの異常又は身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ。 3 人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥で、例え ば、様々な社会的状況に合った行動に調整することの困難さから、想像上の遊びを他人と一緒にしたり友人を作ることの困難さ又は仲間に対する興味の欠如に及ぶ。 B 行動、興味又は活動の限定された反復的な様式で、現在又は病歴によって、以下の少なくとも2つにより明らかになる(以下の例は一例であ り、網羅したものではない)。 1 常同的又は反復的な身 B 行動、興味又は活動の限定された反復的な様式で、現在又は病歴によって、以下の少なくとも2つにより明らかになる(以下の例は一例であ り、網羅したものではない)。 1 常同的又は反復的な身体の運動、物の使用又は会話(例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同運動、反響言語、独特な言い回し) 2 同一性への固執、習慣への頑ななこだわり又は言語的・非言語的な 儀式的行動様式(例:小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順を辿ったり、同じ食物を食べたりすることへの要求) 3 強度又は対象において異常なほど、極めて限定され執着する興味(例:一般的ではない対象への強い愛着又は没頭、過度に限定・固執 した興味) 4 感覚刺激に対する過敏さ若しくは鈍感さ又は環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音、感覚に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光又は動きを見ることに熱中する) C 症状は発達早期に存在していなければならない(しかし社会的要求が 能力の限界を超えるまでは症状は完全に明らかにならないかもしれないし、その後の生活で学んだ対応の仕方によって隠されている場合もある)。 D その症状は、社会的、職業的又は他の重要な領域における現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしている。 E これらの障害は、知的能力障害(知的発達症)又は全般的発達遅延ではうまく説明できない。知的能力障害と自閉スペクトラム症はしばしば同時に起こり、自閉スペクトラム症と知的能力障害の併存の診断を下すためには、社会的コミュニケーションが全般的な発達の水準から期待されるものより 明できない。知的能力障害と自閉スペクトラム症はしばしば同時に起こり、自閉スペクトラム症と知的能力障害の併存の診断を下すためには、社会的コミュニケーションが全般的な発達の水準から期待されるものより下回っていなければならない。 2 争点⑴(Eの言動の国賠法上の違法性)について認定事実⑴イ、オ、カのとおり、Eは、平成10年頃から令和元年頃までの間、Dの24時間勤務明けに、多いときは月三、四回自宅を訪問し、早くとも正午頃、遅い場合には夕方頃まで滞在し、「反省会」と称して業務指導を行い(言動①)、平成30年4月頃から令和元年12月頃までの間、Dに対し、業務時間 中に携帯電話や内線電話で頻回に架電し、業務知識に関するクイズを出したり、台帳整理を依頼したりし、Dが質問に答えられないと強く叱責することがあった(言動②)ほか、令和元年10月頃、Dに対し、Dが所属していた北消防署消防課の担当業務ではないにもかかわらず、非特定防火対象物(共同住宅)の台帳(対象物件約2000件、台帳冊数約500~600冊)を市町毎の分類 から所轄毎の分類に整理し直すよう依頼し、Dは、同年12月頃までの間、上記の分類作業を余儀なくされた(言動③)。これらEの言動は、いずれも業務上の優越的な関係を背景とする言動であって、Dに対し強度の心理的負荷を与えるものであり、業務上の指導等として社会通念上許容される範囲を逸脱したものというべきであるから、国賠法上違法な公権力の行使に該当する。 なお、後記3のとおり、被告は、Eの言動について国賠法1条1項に基づく 損害賠償責任を負うものと認められるから、争点⑵(安全配慮義務違反の成否)については、判断を要しない。 3 争点⑶(Eの言動と精神疾患の発症及び自殺との間の相当因果関係)について 損害賠償責任を負うものと認められるから、争点⑵(安全配慮義務違反の成否)については、判断を要しない。 3 争点⑶(Eの言動と精神疾患の発症及び自殺との間の相当因果関係)について⑴ 上記のとおり、Eの言動はDに対し強度の心理的負荷を与えるものである ところ、Eの言動は、Dが反復性うつ病性障害を発症する令和2年1月19日(甲10・139頁)の直前頃まで継続的に行われていたこと(認定事実⑴イ、オ、カ)や、Dが自殺の際にEの言動に関連すると推察される記載のあるメモ書きを残していたこと(認定事実⑶イ)などを踏まえれば、Dは、Eの言動によってもたらされた強度の心理的負荷の影響を受けて、反復性う つ病性障害を発症し、自殺に至ったというべき高度の蓋然性が認められる。 なお、Dの実母の精神疾患の悪化(認定事実⑵イ、エ)がDに対しある程度の心理的負荷を与えた可能性はあるものの、それ自体が精神疾患を発症させるほどの強度の負荷であるとまではいえない。 したがって、Eの言動とDの精神疾患の発症及び自殺との間には相当因果 関係が認められるというべきであって、被告は、国賠法1条1項による損害賠償責任を負う。 ⑵ これに対し、被告は、①Dは、令和2年1月以降はEの言動等についての言及は少なく、むしろ業務に対する不安感を強めていたこと、②F医師がDについて典型的なASDであると評価していたこと、③EとDとは親密な関 係にあったものであり、第三者調査委員会報告書は、DとEとは両価的な共依存の関係であったと推察できるとしている(甲2・15~16頁)ことから、Eの言動がDの精神的不調の主たる原因であるとは考え難く、また、④仮にEの言動とDの精神疾患の発症との間の因果関係が認められたとしても、精神疾患を発症したものがすべて自殺 ・15~16頁)ことから、Eの言動がDの精神的不調の主たる原因であるとは考え難く、また、④仮にEの言動とDの精神疾患の発症との間の因果関係が認められたとしても、精神疾患を発症したものがすべて自殺を選択するものではないから、Eの言 動とDの自殺との因果関係は認め難いと主張する。 しかしながら、上記①については、DはEの言動を念頭において消防組合に対し職場環境の改善を求めていたとも考えられ(認定事実⑵ウ、オ、カ)、その際にEの名前を出していないのは、報復等を恐れてのことであると考えられるから、Eの言動とDの業務に対する不安感との関連性を否定することはできない。上記②については、後記4⑶ウのとおり、Dの自殺にASDの 特性が影響していることは否定できないが、これを素因として考慮すべきであるとしても、相当因果関係の存否とは別問題であるというべきである。上記③については、第三者調査委員会報告書のいう「共依存関係」の意味するところは必ずしも明らかではない上、職員からの聞き取り調査の結果(甲11の2、22、23等)等に照らしても、EとDとが対等な関係にあったと は到底認められず、Eの言動が業務上の優越的な関係を背景としたものであることは否定できない。上記④については、元来、不法行為における相当因果関係は、異例ないし偶発的な損害を排除して、加害者の賠償すべき損害を合理的な範囲に限定するために要求されるものであるところ、うつ病等の精神疾患を発症した者が自殺念慮に基づき自殺するという機序は今日一般に知 られたところの知見であり、Dが、Eの言動によってもたらされた強度の心理的負荷の影響を受けて精神疾患を発症し、自殺に至ったという因果の流れは、Eの言動に内在する危険性が現実化していく過程として首肯し得るものであって、 あり、Dが、Eの言動によってもたらされた強度の心理的負荷の影響を受けて精神疾患を発症し、自殺に至ったという因果の流れは、Eの言動に内在する危険性が現実化していく過程として首肯し得るものであって、Dの自殺が異例ないし偶発的な事態であるということはできない。 以上のとおり、被告の上記主張は、いずれも前記認定判断を左右しないと いうべきである。 4 争点⑷(原告らの損害額)及び争点⑸(素因減額の可否)について⑴ Dに生じた損害ア入院雑費 10万9500円入院期間合計73日(令和2年1月23日から同年3月19日まで、同 年4月13日から同月28日まで)について、1日当たり1500円の入 院雑費を要したと認めるのが相当である。 イ傷害慰謝料 145万円上記入院期間のほか、本件に現れた一切の事情を総合すると、Dの傷害慰謝料は145万円とするのが相当である。 ウ死亡による逸失利益 8023万5266円 (ア) 基礎収入 770万4373円証拠(甲7)によれば、Dの令和元年分の給与収入は770万4373円であると認められるから、同額を基礎収入とするのが相当である。 (イ) 生活費控除率 30パーセント証拠(甲51、原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば、Dは、家計 を支える一家の支柱であったと認められるから、生活費控除率は30パーセントとするのが相当である。 (ウ) ライプニッツ係数 14.8775Dは、死亡時47歳であったから、就労可能年数は67歳までの20年間と認めるのが相当であり、これに対応するライプニッツ係数は上記 のとおりである。 (エ) そうすると、Dの死亡による逸失利益は、以下の計算式により、8023万5266円と認められる。 770万4373円×( り、これに対応するライプニッツ係数は上記 のとおりである。 (エ) そうすると、Dの死亡による逸失利益は、以下の計算式により、8023万5266円と認められる。 770万4373円×(1-0.3)×14.8775=8023万5266円 エ死亡慰謝料 2400万円本件に現れた一切の事情を総合すると、Dの死亡慰謝料は2400万円とするのが相当である。 オ以上合計 1億0579万4766円⑵ 原告らの損害額 ア原告らによる相続 前記⑴のとおり、Dに生じた損害は1億0579万4766円となるところ、原告Aは2分の1の割合で、原告B及び原告Cは各4分の1の割合でDを相続したから(前提事実⑴ア(イ))、原告らが相続した損害賠償請求権の額は、原告Aが5289万7383円(うち逸失利益相当額4011万7633円)、原告B及び原告Cが各2644万8691円となる。 イ原告ら固有の損害本件に現れた一切の事情を総合すると、原告らの精神的苦痛を慰謝する固有の慰謝料として、原告Aについて200万円、原告B及び原告Cについて各100万円を認めるのが相当である。 ウ以上合計 (ア) 原告A 5489万7383円(うち逸失利益相当額4011万7633円)(イ) 原告B及び原告C 各2744万8691円⑶ 素因減額ア判断枠組み 身体に対する加害行為を原因とする被害者の損害賠償請求において、裁判所は、加害者の賠償すべき額を決定するに当たり、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度で斟酌することができる(最高裁昭和59年(オ)第 損害賠償法の理念に照らし、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度で斟酌することができる(最高裁昭和59年(オ)第 33号同63年4月21日第一小法廷判決・民集42巻4号243頁参照)。 この趣旨は、労働者の業務による心理的負荷が過重であることを原因とする損害賠償請求においても、基本的に同様に解すべきものである。 もっとも、企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の 業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れる ものでない場合には、裁判所は、労働者の業務による心理的負荷が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格等を心因的要因として斟酌することはできないというべきである(最高裁平成10年(オ)第217号、同第218号平成12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。この 理は、地方公務員についても別異に解すべき理由はない。 イ平成27年頃のうつ病についてDは、平成27年頃にうつ病エピソードで4か月以上にわたって入院し、約半年にわたって仕事を休んでいたことはあるが(認定事実⑴ウ)、平成28年9月には、夜勤を含めて通常の勤務を行うことができる状態にまで回 復しており(同エ)、実際、Dは、同月から令和2年1月までの3年間以上にわたり被告の職員として勤務し、その間に特段の症状や受診歴があったとは認められない。そして、本件で、Eの言動(特に言動②と③)は、Dに再びうつ病の症状が発生する令和2年1月の数か月前に集中しており、仮に同月のDの症状が平成27年頃のうつ病 の症状や受診歴があったとは認められない。そして、本件で、Eの言動(特に言動②と③)は、Dに再びうつ病の症状が発生する令和2年1月の数か月前に集中しており、仮に同月のDの症状が平成27年頃のうつ病エピソードの再発であったと しても、その原因は主としてEの言動によるものであったと考えられる。 これらのことからすれば、Dの平成27年頃のうつ病エピソードは、損害賠償額の決定に当たり、公平の見地から斟酌すべき事情であるとはいえない。 ウ ASDについて (ア) ASD(自閉症スペクトラム障害)は、対人コミュニケーションの障害、強いこだわり等の特性がみられる発達障害であるところ(認定事実⑸イ、甲37の2、3)、G病院の精神科医であるF医師が、Dの入院に際し、幼少期の成育歴、妻(原告A)から聴き取った性格傾向やD自身の発言内容を踏まえ、DについてASDの傾向が顕著であると評価した こと(認定事実⑵イ)は、相応の医学的根拠に基づくものであるといえ る。なお、F医師が診断書や公務災害認定手続における意見書等においてはDの傷病名を「反復性うつ病性障害」「適応障害」などとし、ASDとはしていない(甲4、甲10・119、139、219頁、甲11の5)が、これは、Dに対する病名告知による悪影響を懸念したことや、遺族への配慮によるものであると考えられる(甲3・38、41、43、 49頁参照)のであるから、診断書等の上記記載は上記判断を左右するものではない。 そして、F医師がDについて、ASDの特性が影響し、職場環境への不適応感を強め、不安を募らせるが、単焦点な認知特性のために切り替えが利かず、不安をコントロールすることができないことが問題であり、 抑うつよりも不安が強く、先の見通しが立たないために二次性、反応性 を強め、不安を募らせるが、単焦点な認知特性のために切り替えが利かず、不安をコントロールすることができないことが問題であり、 抑うつよりも不安が強く、先の見通しが立たないために二次性、反応性に抑うつを呈している状態であるなどと評価していること(甲3・37~39、41、43、45頁)も踏まえれば、Dの精神疾患(反復性うつ病性障害)及び自殺の原因については、ASDの特性である不安感受性の高さ等が寄与していたと認めるのが相当であり、上記特性は、労働 者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったと認めるのが相当である。 そうすると、被告にDの精神疾患の発症及び自殺による損害の全部を賠償させることは、公平を失するものといわざるを得ない。 もっとも、ASDの症状の程度は、「スペクトラム(連続体)」と呼ば れているように、社会での生活が困難な程度から、ほとんど日常生活・社会生活に支障がない程度まで様々である(甲37の3)ところ、Dは、平成3年4月の採用以降、平成27年頃のうつ病により病気休暇を取得した(認定事実⑴ウ)ほかは、令和2年1月までの間、特段の問題なく勤務を継続しており、本件全証拠によるも、ASDの特性により職場や 家庭生活に著しい支障を来していたような事情はうかがわれないことか ら、DのASDの程度は軽度のものであったと考えられる。 その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば、本件における素因減額の程度としては、2割を相当と認める。 (イ) これに対し、原告らは、F医師は初めてDと面談した日にASDであると診断しており、その診断方法、診断基準の適切さに疑問が残る上、 Dには社会的コミュニケーション及び対人的相互反応における欠陥があったとうかがわせる事情もなかったから、DがASDで ASDであると診断しており、その診断方法、診断基準の適切さに疑問が残る上、 Dには社会的コミュニケーション及び対人的相互反応における欠陥があったとうかがわせる事情もなかったから、DがASDであるとの診断は誤りであると主張する。 そこで検討すると、証拠(甲3・6、7頁)によれば、F医師は、令和2年1月23日、D及び原告Aと面談し、Dについて、「幼少期より自 分から人の輪に入ることが苦手で社交的ではない」、「保育園から一緒の特定の友人との交流を好んだ」、「自分の立てた計画や予定、マイペースを他の人に邪魔されることをひどく嫌い、頑固でこだわりが強く、融通が利かない性格」、「嫌なことは引きずりやすく、切り替えが下手」、「加熱したジャガイモ、カボチャなどヌチャッとした食感のものが嫌いで、 口の中で違った味覚食感の物が混ざることを嫌い、ばっかり食いになりやすい」、「人の話を真に受けやすく、回りくどい遠回しな表現については白黒ハッキリ言ってほしいと感じていた」、「臨機応変に柔軟にというタイプでは決してない」、「人からの説明内容も情報を伝えられるだけでは安心できず、信用せずに自分で確認したがるようなところもある」な どの性格傾向等を聴取した上、「他者への関心が乏しいため自分がよくわからない様子」、「単焦点で切り替えが効かない性格」、「衝動性が高く、待てない性格」、「ASDの特性は顕著」などと評価したことが認められるところ、これらの聴取内容等には、DSM-5におけるASDの診断基準(認定事実⑸イ)に該当するものが複数含まれているといえるから、 F医師は、D及び原告Aとの面談に当たり、DSM-5等のASDの診 断基準を念頭に置いていたものと認められる。そうすると、F医師がDについてASDの特性が顕著であると いえるから、 F医師は、D及び原告Aとの面談に当たり、DSM-5等のASDの診 断基準を念頭に置いていたものと認められる。そうすると、F医師がDについてASDの特性が顕著であると評価したことは、相応の医学的根拠に基づくものであったと認められるから、F医師がD及び原告Aとの初回の面談の翌日に上記の評価を行ったことを踏まえても、その診断方法、診断基準が不適切であるとはいえず、原告らの上記主張は採用する ことができない。 また、原告らは、ASDは疾患でなく、ASDの特性を有する者は100人又は20~40人に1人であると言われており、決して稀ではないのであるから、ASDの特性を素因として考慮すべきではないと主張する。しかしながら、上記のとおりのF医師の所見に加え、F医師が、 DについてASDの特性は顕著であると評価し、援助や告知の必要性を認めていること(甲3・38頁)も併せ考えれば、DのASDは、労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったと認めるのが相当であり、原告らの上記主張は採用することができない。なお、第三者委員会調査報告書は、Dについて「メランコリー親和性のパ ーソナリティ」であったと指摘する(甲2・13~14頁)が、ここで挙げられているDの性格特性には、真面目で責任感が強く、融通が利かない、秩序やルールを重んじる、自身の失敗などに敏感で、いつまでも気にしやすい粘着質なところがあるなど、ASDの特性として矛盾しないものもあるから、上記指摘も上記認定判断を左右するものではない。 エ素因減額後の損害額前記⑵ウの各損害額から2割を減額すると、減額後の損害額は、原告Aが4391万7906円(うち逸失利益相当額3209万4106円)、原告B及び原告Cが各2195万8 エ素因減額後の損害額前記⑵ウの各損害額から2割を減額すると、減額後の損害額は、原告Aが4391万7906円(うち逸失利益相当額3209万4106円)、原告B及び原告Cが各2195万8952円となる。 ⑷ 損益相殺 ア証拠(乙15)及び弁論の全趣旨によれば、原告Aが遺族補償年金とし て支給を受け、又は支給を受けることが確定した額は、次のとおりである。 (ア) 令和2年5月分から令和4年11月分まで(令和4年12月27日支給)600万2950円(イ) 令和4年12月分(令和5年2月支給)から令和6年3月分(令和6 年4月支給)まで284万4800円(年額213万3600円、偶数月に35万5600円支給)(ウ) 令和6年4月分(令和6年6月支給)から令和7年5月分(令和7年6月支給)まで 251万4162円(偶数月に35万9166円支給)(エ) 令和7年6月分及び7月分地方公務員災害補償法においては、年金たる補償の支給は、支給すべき事由が生じた月の翌月から始め、支給を受ける権利が消滅した月で終わり、毎年2月、4月、6月、8月、10月及び12月にそれぞれその 前月分までを支払うものとされている(同法40条1項、3項)。 したがって、原告Aは、本件の口頭弁論終結の日である令和7年7月7日の時点で、同年6月分及び7月分の遺族補償年金35万9166円(同年8月支給)の支給を受けることが確定したものと認められる。 (オ) 以上合計 1172万1078円 イ地方公務員災害補償法の規定に基づく遺族補償年金については、その給付の趣旨に照らし、死亡逸失利益から控除するのが相当であるところ、前記アの遺族補償年金は、原告Aが承継したDの逸失利益相当額3209万 務員災害補償法の規定に基づく遺族補償年金については、その給付の趣旨に照らし、死亡逸失利益から控除するのが相当であるところ、前記アの遺族補償年金は、原告Aが承継したDの逸失利益相当額3209万4106円(前記⑶エ)の損害の填補に充てられたと解するのが相当であり、損益相殺後の原告Aの損害額は3219万6828円となる。 ⑸ 弁護士費用 本件事案の性質、審理経過等の事情を総合すると、本件と相当因果関係のある弁護士費用は、原告Aにつき321万円、原告B及び原告Cにつき各219万円が相当である。 ⑹ 小括したがって、原告らが被告に対して請求することができる金額は、原告A につき3540万6828円、原告B及び原告Cにつき各2414万8952円である。 第4 結論以上によれば、原告らの請求は、原告Aについては3540万6828円及びこれに対する令和2年4月28日から支払済みまで民法所定の年3パーセン トの割合による金員の支払を求める限度で、原告B及び原告Cについてはいずれも各2414万8952円及びこれに対する上記同旨の遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 熊本地方裁判所民事第3部 裁判官山田裕貴 裁判官上阪凌太郎 裁判長裁判官川崎聡子は、転補のため署名押印することができない。 裁判官山田裕貴 田裕貴
▼ クリックして全文を表示