平成13(行ウ)14 温泉掘さく不許可処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成14年10月31日 岐阜地方裁判所 公物・公企業など
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判決文本文7,628 文字)

主文 1 被告が原告に対し平成13年7月10日付けをもってなした,原告が岐阜県武儀郡α557番1において温泉を掘さくすることを不許可とした処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,原告が,平成13年法律第72号による改正前の温泉法3条1項に基づき温泉掘さくの許可申請をしたのに対して被告が行った不許可処分の取り消しを求めた事案である。 1 争いのない事実(1) 原告は,被告に対し,平成13年2月27日,原告が所有する岐阜県武儀郡α557-1の土地について,温泉法(平成13年法律第72号による改正前のもの,以下,単に「法」ということがある。)3条1項に基づく温泉の掘さくの許可申請をした(本件申請)。 (2) 被告は,原告に対し,平成13年7月10日,本件申請は以下の①ないし③の点において法4条の「その他公益を害する虞がある」ものと認められるとして,本件申請を不許可とする旨の行政処分(本件不許可処分)を行い,同月14日ころ,これを原告に通知した。 ①村民の代表者である洞戸村長の反対を始め,洞戸村議会の不同意決議,村内全区長の反対があること。 ②温泉開発に伴い,優れた自然環境と住環境への影響が懸念されること。 ③温泉開発に伴う交通の混雑が予想され,アクセス道路である農道及び林道を拡幅する必要があるが,道路管理者である洞戸村と道路敷地の所有者の同意が得られる見込みがないこと。 2 争点…本件不許可処分は違法か否か(原告の主張)本件不許可処分は以下の理由により違法であり,取消しを免れない。 (1) 温泉の利用権は,所有権など土地利用権(以下,「土地所有権等」という。)の効果であり,法令に特別の規定又は慣習のない限り温泉を利用することは所有権者など土地の利用 であり,取消しを免れない。 (1) 温泉の利用権は,所有権など土地利用権(以下,「土地所有権等」という。)の効果であり,法令に特別の規定又は慣習のない限り温泉を利用することは所有権者など土地の利用権を有する者(以下,「土地所有者等」という。)の自由とされるべきものであり,法3条1項が定める,温泉をゆう出させる目的で自己が利用権を有する土地を掘さくするのに都道府県知事の許可を受けなければならないとの規制は,土地所有権等に対する重大な制約となる。同項がこのような規制を定めた趣旨は,温泉は重要な資源であり,かつ,温泉の掘さくが周囲の温泉等に重大な影響を及ぼすおそれがあるからである。 したがって,同項の許可申請に対しては,この制約の趣旨に反しない限り許可をしなければならないとするのが法の考え方というべきである。法4条前段が「都道府県知事は,温泉のゆう出量,温度若しくは成分に影響を及ぼし,その他公益を害する虞があると認めるときの外は,前条第1項の許可を与えなければならない。」としているのも,その考え方の現れである。 以上のような立法趣旨からすると,法4条前段の「その他公益を害する虞がある」場合とは,「温泉のゆう出量,温度若しくは成分に影響を及ぼす」に例示されるような,温泉の掘さくそのものによって直接生ずる結果,影響でなければならない。また,前記のとおり,本来自由に行使することができる温泉利用権を例外的に制限しようとするのであるから,「公益を害する虞」の内容は,有毒ガスが発生するとか,崖崩れが生じるなど,具体的で,明白かつ重大なものでなければならない。そして,このような事情がない限りは,温泉の掘さくを許可しなければならないのであり,それは,講学上のいわゆる覊束裁量である。 被告が本件不許可処分の理由として挙げる上記の理由は,地域住民などの意向 そして,このような事情がない限りは,温泉の掘さくを許可しなければならないのであり,それは,講学上のいわゆる覊束裁量である。 被告が本件不許可処分の理由として挙げる上記の理由は,地域住民などの意向(上記①)や,温泉掘さくの結果,温泉がゆう出した後に,原告が何らかの営業活動をした場合に生ずるであろう影響(上記②③)であり,いずれも,温泉の掘さくにより直接生ずる事柄ではないから,これらは,いずれも不許可の理由となり得るものではない。温泉施設の建築,営業に伴って生ずる問題点は,温泉掘さくの許可とは別の次元の問題であり,建築,営業などの許可申請が実際になされた時点で,個別具体的に検討すべき事柄である。 (2) 仮に,掘さく許可の判断に被告が主張する上記のような事情を考慮することができるとしても,①の理由は,原告が洞戸村民からとったアンケートでは過半数の住民が原告の温泉掘さくに賛成しているから,事実誤認があり,②の理由は,抽象的であって具体的にいかなる懸念があるのか指摘がなく,③の理由は,未だ温泉掘さく後の見通しは明らかではなく,掘さくにより温泉がゆう出するか,それが入浴等に適するものかさえ不明な現段階で議論することはできないから,これらはいずれも不許可の理由にはならない。 (被告の主張)本件不許可処分は以下の理由により適法である。 (1) 法4条所定の不許可事由である「その他公益を害する虞」についての解釈については,立法当初想定していたように,温泉掘さくが一部の温泉地に限定されていた時期であれば,他の財産権等との利益調整に絞った規制に限られるとの解釈にも妥当性があるが,掘さく技術の発達に伴い全国的に広範な地域で温泉掘さくが可能となり,自然ブームや温泉ブームを背景に観光化の目玉として濫開発の中核になり,温泉掘さくが温泉開発を必然的に伴うのが通常 にも妥当性があるが,掘さく技術の発達に伴い全国的に広範な地域で温泉掘さくが可能となり,自然ブームや温泉ブームを背景に観光化の目玉として濫開発の中核になり,温泉掘さくが温泉開発を必然的に伴うのが通常になってきた現状においては,その規制目的の正当性,規制の必要性及び規制方法手段の相当性を裏付ける立法事実に明らかな変遷がみられるのであるから,それに伴って上記不許可事由の解釈にも変更が生じるべきものであり,その規制目的は単なる消極的規制を超えて,福祉国家的観点から積極規制に至っているものと解すべきである。このような解釈は,法1条が「温泉を保護しその利用の適正を図り,公共の福祉の増進に寄与すること」を目的として掲げており,上記積極的規制を排斥するものではないことなど,温泉法の全体構造を見ても何ら無理なものではない。 したがって,温泉の掘さく許可にあたって考慮すべき事情として,温泉掘さくそのものによって直接生ずる結果だけではなく,温泉開発により生ずるであろう利益,不利益の調整も加味すべきであり,それは規制の手段方法としても裁量内の相当なものである。 原告は,掘さく後の温泉開発に伴って生じる問題点については,建築,営業などの許可申請が実際になされた時点において,個別具体的に検討すべきであると主張するが,現実に温泉掘さくがなされた段階においては,それに伴う開発行為は,建築確認申請や営業許可申請に伴って,建築確認基準に適合しているか,営業許可基準に適合しているかという極めて狭い視点で検討されるだけであり,これらによっては温泉開発により生じるであろう利益,不利益が総合的に判断されないので,法1条の「公共の福祉の増進」という目的にとって不十分である。また,深掘に伴う温泉掘さく費用の増加という現状を考えると,最終の営業許可段階で温泉開発が不許可になった場 益が総合的に判断されないので,法1条の「公共の福祉の増進」という目的にとって不十分である。また,深掘に伴う温泉掘さく費用の増加という現状を考えると,最終の営業許可段階で温泉開発が不許可になった場合のように,行政判断が後手に回ってしまうと,掘さく者自身の経済的不利益にも直結するので,早い段階で温泉開発に伴う影響を視野に入れた判断を行うことは,申請者にとっても不利益ではない。 (2) 被告が本件不許可処分の理由として挙げた3つの理由は,抽象的な理念によるものではなく,以下のとおりいずれも具体性を有し,正当なものである。 ア掘さく許可にあたっては周囲の環境との調和が考慮されるべきであり,環境の享受主体である地元住民がほとんど反対しているのは,申請が周囲の環境と調和しておらず,ひいては,優れた自然環境と住環境への影響が懸念されることの現れである。洞戸村は,村民憲章に「美しい自然と香り高い文化の里洞戸村民であることに誇りと責任を持ち住みよい村づくりを目指して努力する。」と掲げている土地柄であり,自然と共生した地域づくりを実践しているところであるが,原告は,相当大規模な施設の建設を想定しており,そのような施設への来訪者の増加に伴って当然に予想されるゴミやし尿処理など自然環境や地域の住環境に与える具体的懸念に対し,地元説明会などで地元住民を納得させるに足りる対応策を提示できなかったため,地元住民のほとんどが反対に回り,洞戸村議会の反対決議を始め,全自治会,利害関係を有する団体全てが反対の要望書を提出している。 イまた,原告が温泉掘さく後に建設を想定している大規模な温泉利用施設へのアクセス道路は,未整備かつ法面崩落の危険がある道路であり,利用者増加に伴う道路の維持管理上の問題が発生することは明らかな状況であるところ,これら道路の拡幅,整備のために必 大規模な温泉利用施設へのアクセス道路は,未整備かつ法面崩落の危険がある道路であり,利用者増加に伴う道路の維持管理上の問題が発生することは明らかな状況であるところ,これら道路の拡幅,整備のために必要な地権者の同意や村の財政問題について原告は何らの対応策も示していない。 ウ原告は,温泉掘さくそのものと,その後の利用形態やそれに伴う問題は分けて考えるべきである旨主張するが,温泉の掘さくは,その利用を企図して行われるものであって,一連の行為であるという実態があり,温泉掘さくの許可処分も,それを前提として行うのを通例としている。原告の上記主張は,縦割り行政の弊害を是としかねないものであり,被告はそれをよしとしない。 第3 争点に対する判断 1 温泉を掘さくして利用することは,本来,土地所有権等の内容の一部であって,土地所有者等の自由に任される性質のものと解されるところ,法は,「温泉を保護しその利用の適正を図り,公共の福祉の増進に寄与する」(1条)との目的を掲げて温泉の掘さく及び利用を都道府県知事の許可に係らしめており,以下(1)及び(2)に記載するとおり,温泉の保護(第2章・法3条から11条),温泉の利用(第3章・法12条から18条の3)の2つに分けてその規制内容を定めている。 (1) 温泉掘さくについて,法3条1項は,「温泉をゆう出させる目的で土地を掘さくしようとする者は,環境省令の定めるところにより,都道府県知事に申請してその許可を受けなければならない。」とし,法4条前段は,「都道府県知事は,温泉のゆう出量,温度若しくは成分に影響を及ぼし,その他公益を害する虞があると認めるときの外は,前条第1項の許可を与えなければならない。」と規定して,温泉掘さくにあたっては都道府県知事の許可を受けることを要求し,都道府県知事は,法4条前段所定の事由があ 益を害する虞があると認めるときの外は,前条第1項の許可を与えなければならない。」と規定して,温泉掘さくにあたっては都道府県知事の許可を受けることを要求し,都道府県知事は,法4条前段所定の事由がある場合を除いては,温泉掘さくの許可を与えなければならないとしている。既に温泉を掘さくする許可を受けている者が,温泉のゆう出路を増掘したり,温泉のゆう出量を増加させるために動力を装置しようとするときのように,新規の掘さくと同視できる場合にも,同様の規制がなされている(法8条)。 そして,法3条1項に基づく申請の際には,①申請者の住所,氏名及び生年月日(法人の場合は,その名称,所在地,代表者の住所,氏名及び定款又は寄附行為の写),②温泉利用の目的,③掘さく地の地目及び地番並びに附近の状況,④口径,深さその他工事の施行方法,⑤著手及び完了の期日,⑥工事費の予算,⑦申請者が土地所有権等を有することの証明を記載した申請書を都道府県知事に提出するものとされている(平成14年環境省令第6号による改正前の温泉法施行規則1条)。 また,法3条1項,法8条1項の規定による処分をする場合において,都道府県知事は,隣接都道府県における温泉のゆう出量,温度又は成分に影響を及ぼすおそれがあるときは,あらかじめ環境大臣と協議したり,関係都道府県の利害関係者の意見を聴くことを要求している(法10条)。 (2) 掘さく後の温泉の利用について,法は,温泉を公共の浴用又は飲用に供しようとする者は,都道府県知事の許可を受けなければならず(法12条1項),温泉の成分が衛生上有害であると認めるときは,この許可をしないことができると定めている(同条2項)。 そして,都道府県知事は,温泉利用施設の管理者に対して,温泉のゆう出量,温度,成分,利用状況その他必要な事項について報告をさせ(法1 ときは,この許可をしないことができると定めている(同条2項)。 そして,都道府県知事は,温泉利用施設の管理者に対して,温泉のゆう出量,温度,成分,利用状況その他必要な事項について報告をさせ(法16条1項),これらの事項を検査するため,当該吏員に立入検査をさせることができ(法17条1項),公衆衛生上必要があると認めるときは,法12条1項の許可を取消したり,温泉の利用の制限や危害予防の措置を命ずることができるとしている(法18条)。 2 そこで,上記1記載の法の構成及び各条項等について検討してみると,以下の(1)ないし(5)の諸点を指摘することができ,これらを総合して勘案してみれば,上記のとおり法が温泉の掘さくを都道府県知事の許可にかからしめている趣旨は,既存の温泉源の保護と土地所有者等の新規又はこれに準じる温泉の掘さく及び利用に関する権利との調和を図ることによって,温泉を適正に利用できるようにする点にあると解されるのであり,法4条1項の「温泉ゆう出量,温度若しくは成分に影響を及ぼし」との文言は,それに続く「その他公益を害する虞がある」場合の具体的例示であって,これらの例示に係る事項とは性質を異にする温泉掘さく後の開発行為による環境への影響や,周辺住民の意向のような事情は,同項の「その他公益を害する虞がある」場合には当たらないと解するのが相当である。 (1) 法1条は,その目的を上記のとおり「この法律は,温泉を保護しその利用の適正を図り,公共の福祉の増進に寄与することをもって目的とする。」と定めているが,その文言からは,法それ自体の趣旨目的としては,温泉の保護のための具体的規制を定めるものであって,それ以外の環境全般や民意などに関する問題との調整を目的に含むものと解することは,いささか困難である。 (2) 温泉の掘さくについての規制内容は は,温泉の保護のための具体的規制を定めるものであって,それ以外の環境全般や民意などに関する問題との調整を目的に含むものと解することは,いささか困難である。 (2) 温泉の掘さくについての規制内容は,いずれも「第2章温泉の保護」の章中に規定されているが,同章の各規定内容を検討しても,掘さく予定地周辺の自然環境や住環境の問題に関する規定は見あたらず,法3条1項の掘さく許可申請に関する環境省令によって定められた申請書にも,温泉掘さく後の開発行為についての記載は求められていない。 (3) 温泉掘さく後の規制内容は,温泉のゆう出量,温度,成分や,温泉源保護,利用状況について規定されており(法12条,法13条,法16条ないし18条),温泉掘さくに伴う開発行為についての規定は見あたらず,上記の温泉掘さく前についての規制内容と共通している。 (4) 前記のとおり,法10条は,都道府県知事は,法3条1項の規定などによる処分をする場合において一定の場合には環境大臣と協議をすることと定めているが,同条は協議を要する場合について「隣接都道府県における温泉のゆう出量,温度又は成分に影響を及ぼす虞があるとき」と定めており,そこにも温泉掘さくに伴う開発行為が隣接都道府県に影響を及ぼすような場合の記載がない。 (5) 法4条の「その他公益を害する虞がある」という文言は,「温泉ゆう出量,温度若しくは成分に影響を及ぼし」という文言に続いて記載されており,その法文構成からすると,「温泉ゆう出量,温度若しくは成分に影響を及ぼし」とあるのは,それに続く「その他公益を害する虞がある」ときについての具体的例示と解するのが自然であり,掘さくによって既存の温泉源に与える影響の問題とは関係がない温泉掘さくに伴う開発行為に関する事情を「その他公益を害する虞がある」場合に含めることは困難で についての具体的例示と解するのが自然であり,掘さくによって既存の温泉源に与える影響の問題とは関係がない温泉掘さくに伴う開発行為に関する事情を「その他公益を害する虞がある」場合に含めることは困難である。 3 被告は,前記のとおり,温泉の掘さく,利用に関する情勢の変化により,法の規制の相当性を裏付ける立法事実に変遷があるから,上記不許可事由の解釈もこれに合わせて変更すべきである旨主張するが,上記のとおりの法自体の構成及び各条項の規定内容に照らすと,法自体の解釈として被告の主張を採用することは困難である。 4 そうすると,被告が本件不許可処分において理由として挙げた前記①ないし③の事情は,温泉掘さく後の開発行為による環境への影響や周辺住民の意向を内容とするものであって,いずれも法4条の「その他公益を害する虞」として考慮することはできないものであり,その他,本件全証拠によっても,原告が予定する温泉の掘さくによって,ゆう出量の減少,温度の低下,成分の変化など,既存の温泉源に影響を及ぼすような事情を見出すことはできないから,原告による温泉掘さくの許可申請を不許可とした本件不許可処分は違法である。 第4 結論以上のとおり,原告の請求は理由があるから認容し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 岐阜地方裁判所民事第1部裁判長裁判官中村直文裁判官末永雅之裁判官加藤靖

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