平成27(ネ)10074 商標権侵害差止請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成27年10月21日 知的財産高等裁判所 3部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 平成26(ワ)771
ファイル
hanrei-pdf-85398.txt

キーワード

判決文本文13,698 文字)

平成27年10月21日判決言渡 平成27年(ネ)第10074号商標権侵害差止請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成26年(ワ)第771号) 口頭弁論終結日平成27年9月9日判決 控訴人 興和株式会社 訴訟代理人弁護士 北原潤一 江幡奈歩 梶並彰一郎 被控訴人 テバ製薬株式会社 訴訟代理人弁護士 長沢幸男 笹本摂 向多美子 補佐人弁理士 小谷武 木村吉宏 長谷川綱樹 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、別紙標章目録記載の標章を付した薬剤を販売してはならない。 3 被控訴人は、前項記載の薬剤を廃棄せよ。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 原判決を取り消す。 - 2 - 2 被控訴人は,別紙標章目録記載の標章を付した薬剤を販売してはならない。 3 被控訴人は,前項記載の薬剤を廃棄せよ。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,「PITAVA」の標準文字からなる商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である控訴人が,別紙標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を付した薬剤を販売する被控訴人の行為が控訴人の有する商標権の侵害(商標法37条2号)に該当する旨主張して,被控訴人に対し,同法36条1項及び2項に基づき,上記薬剤の販売の差止め及び廃棄を求めた事案である。 控訴人は,原審において,当初は,指定商品を第5類「薬剤」とする別紙商標権目録記載1の商標権(以下「本件商標権」という。)の侵害を請求原因として主張し,被告標章を付した薬剤の販売の差止め及び廃棄を求めていたが,平成26年11月17日に本件商標権の分割の申請をし,本件商標権は,指定商品を第5類「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とする同目録記載2の商標権と指定商品を第5類「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」とする同目録記載3の商標権(以下「本件分割商標権」という。)に分割されたため(甲19,20の1,2),平成27年2月27日の原審第5回弁論準備手続期日において,請求原因を本件商標権の侵害から本件分割商標権の侵害に変更する旨の訴えの変更(交換的変更)をした。これに対し被控訴人は,上記訴えの変更について異議を述べた。 原判決は,控訴人の上記訴えの変更を適法と認めた上で,①変更後の本件分割商標権の侵害を請求原因とする請求については,被控訴人による被告標章の使用はいわゆる商標的使用に当たらず,また,本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項 後の本件分割商標権の侵害を請求原因とする請求については,被控訴人による被告標章の使用はいわゆる商標的使用に当たらず,また,本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項7号)に該当し,本件商標の商標登録は,無効審判により無効とされるべきものと認められるから,控訴人- 3 -は,本件分割商標権を行使することができないとして,控訴人の請求をいずれも棄却し,②変更前の本件商標権の侵害を請求原因とする請求については,被控訴人による被告標章の使用は商標的使用に当たらず,また,本件商標の指定商品のうち,「ピタバスタチンカルシウム」を含有しない薬剤に本件商標を使用した場合には,需要者等が当該薬剤に「ピタバスタチンカルシウム」が含まれると誤認するおそれがあるので,本件商標は「商品の品質」の誤認を生ずるおそれがある商標(同項16号)に該当し,本件商標の商標登録は無効審判により無効にされるべきものであるから,控訴人は,本件商標権を行使することができないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。 控訴人は,原判決のうち,上記訴えの変更後の本件分割商標権の侵害を請求原因とする請求を棄却した部分を不服として,本件控訴を提起した。 その後,被控訴人は,平成27年9月9日の当審第1回口頭弁論期日において,上記訴えの変更に異議はない旨述べて,変更前の本件商標権の侵害を請求原因とする請求に係る訴えの取下げに同意した。 2 前提事実次のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決2頁19行目から3頁5行目までを次のとおり改める。 「(2) 控訴人は,本件商標について,本件分割商標権(別紙商標権目録記載3参照)を有している。」(2) 原判決3頁22行目の「原告商標 決2頁19行目から3頁5行目までを次のとおり改める。 「(2) 控訴人は,本件商標について,本件分割商標権(別紙商標権目録記載3参照)を有している。」(2) 原判決3頁22行目の「原告商標権2」を「本件分割商標権」と改める。 3 争点(1) 被告標章が本件商標と類似するか(2) 被告標章の商標法26条1項6号該当性(3) 被告標章の商標法26条1項2号該当性(4) 本件分割商標権に係る本件商標の商標登録が無効審判により無効とされ- 4 -るべきものと認められ,又は控訴人による本件分割商標権の行使が権利の濫用に当たるか第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(被告標章が本件商標と類似するか)について当事者の主張は,原判決「事実及び理由」の第3の1記載のとおりであるから,これを引用する。 2 争点(2)(被告標章の商標法26条1項6号該当性)について【被控訴人の主張】被控訴人の主張は,次のとおり訂正するほか,原判決9頁14行目から10頁20行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決10頁20行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「(2) したがって,被告商品における被告標章の使用は,商標的使用に当たらず,被告標章は商標法26条1項6号の商標に該当するから,本件分割商標権の効力は,被告標章に及ばない。」【控訴人の主張】控訴人の主張は,次のとおり訂正するほか,原判決7頁19行目から9頁12行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決9頁12行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「(4) この点に関し,原判決は,被告商品の最終の需要者である患者にとっては,被告商品(錠剤)上の表記が販売名であるのか,有効成分の表示であるかについては明確には認識できない 次のとおり加える。 「(4) この点に関し,原判決は,被告商品の最終の需要者である患者にとっては,被告商品(錠剤)上の表記が販売名であるのか,有効成分の表示であるかについては明確には認識できないともいえるが,患者が被告商品の錠剤の「ピタバ」の表示に触れたときに,PTPシート等に記載された「ピタバスタチンカルシウム錠」の頭部分の3文字を略記したものであると認識するものと解され,被告商品の錠剤上の「ピタバ」の文字のみにより商品の出所を識別するものとは解されない旨判断した。 しかしながら,錠剤の表示の捉え方は販売名やメーカー名など様々な捉- 5 -え方があるのであって,患者が錠剤の表示を,「販売名」の表示か,「有効成分」の表示かという二者択一的に見ているという前提で検討している点において原判決の上記判断は誤りであり,また,被告標章は患者において他の商品との識別のために着目されているから,この点においても,原判決の上記判断は誤りである。 (5) 以上によれば,被告標章は,商標法26条1項6号の商標に該当するものとはいえないから,本件分割商標権の効力が被告標章には及ばないとの被控訴人の主張は,理由がない。」 3 争点(3)(被告標章の商標法26条1項2号該当性)について当事者の主張は,次のとおり訂正するほか,原判決10頁23行目から11頁4行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決11頁1行目の「原告商標権2」を「本件分割商標権」と改める。 4 争点(4)(本件分割商標権に係る本件商標の商標登録が無効審判により無効とされるべきものと認められ,又は控訴人による本件分割商標権の行使が権利の濫用に当たるか)について【被控訴人の主張】被控訴人の主張は,次のとおり訂正するほか,原判決12頁2行目から16頁4行目 れるべきものと認められ,又は控訴人による本件分割商標権の行使が権利の濫用に当たるか)について【被控訴人の主張】被控訴人の主張は,次のとおり訂正するほか,原判決12頁2行目から16頁4行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決12頁2行目冒頭から末尾までを「(1) 商標法4条1項7号に該当すること」と改める。 (2) 原判決12頁5行目の「原告商標権2」を「本件分割商標権」と改める。 (3) 原判決12頁15行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「ウさらに,原判決が述べるように,①控訴人による本件商標に係る商標登録出願が,本件特許権の存続期間満了後,控訴人のライセンシー以外の者による後発医薬品の市場参入を妨げるという不当な目的でされたものであることが推認されるばかりか,②本件商標を指定商品「ピタバス- 6 -タチンカルシウムを含有する薬剤」に使用することを控訴人に独占させることは,薬剤の取違え(引いては,誤投与・誤服用による事故)を回避する手段が不当に制約されるおそれを生じさせるものであって,公共の利益に反し,著しく社会的妥当性を欠くと認めるのが相当であるから,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法4条1項7号)に該当するというべきである。」(4) 原判決12頁16行目の「ウ」を「エ」と,同頁17行目,同頁19行目及び同頁20行目の各「原告商標権2」を「本件分割商標権」とそれぞれ改める。 (5) 原判決12頁22行目の「(3)」を「(2)」と,同頁23行目から24行目にかけての「本件商標権(若しくは原告商標権1)又は原告商標権2」を「本件分割商標権」とそれぞれ改める。 (6) 原判決13頁9行目の「本件商標権又は原告商標権2」を「本件分割商標 目から24行目にかけての「本件商標権(若しくは原告商標権1)又は原告商標権2」を「本件分割商標権」とそれぞれ改める。 (6) 原判決13頁9行目の「本件商標権又は原告商標権2」を「本件分割商標権」と改める。 (7) 原判決15頁4行目の「本件商標権又は原告商標権1及び原告商標権2」を「本件分割商標権」と改める。 【控訴人の主張】控訴人の主張は,次のとおり訂正するほか,原判決16頁12行目から18頁5行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決16頁12行目の「(2)」を「(1)」と改め,同頁13行目冒頭に「ア」を加え,同頁17行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「イこの点に関し,原判決は,①控訴人による本件商標に係る商標登録出願が,本件特許権の存続期間満了後,控訴人のライセンシー以外の者による後発医薬品の市場参入を妨げるという不当な目的でされたものであることが推認されるばかりか,②本件商標を指定商品「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」に使用することを控訴人に独占させること- 7 -は,薬剤の取違え(引いては,誤投与・誤服用による事故)を回避する手段が不当に制約されるおそれを生じさせるものであって,公共の利益に反し,著しく社会的妥当性を欠くと認めるのが相当であるから,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法4条1項7号)に該当し,本件分割商標権に係る本件商標の商標登録は,無効審判により無効とされるべきもの(同法46条1項1号)と認められる旨判断した。 しかしながら,原判決の上記判断は,以下のとおり誤りである。 (ア) 上記①の点について製薬会社である控訴人は,平成17年8月30日,自ら本件商標を使用する意思をもって,指定 しかしながら,原判決の上記判断は,以下のとおり誤りである。 (ア) 上記①の点について製薬会社である控訴人は,平成17年8月30日,自ら本件商標を使用する意思をもって,指定商品を薬剤として,本件商標の商標登録出願(以下「本件出願」という。)をし,本件商標権の設定登録を受けたものであり,本件出願日当時において,「ピタバスタチンカルシウム」を「ピタバ」と省略して用いることはなかった。 また,同年9月22日付け薬食審査発第0922001号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「医療用後発医薬品の承認申請にあたっての販売名の命名に関する留意事項について」(以下「本件厚労省通知」という。)によって後発医薬品の販売名に関する規制がされたが,本件出願は,本件厚労省通知が発出される前に行われており,本件出願日当時,後発医薬品の販売名に関する現在のような規制はなく,後発医薬品メーカーがどのような販売名あるいは錠剤の表示にするかなど予想することはできない状況であった。 したがって,控訴人が,ライセンシー以外の者による後発医薬品の市場参入を妨げる目的で本件出願をしたものではないことは明らかであり,実際,控訴人は「ピタバ」の表示を付した商品のみを問題にしているだけであって,およそ後発医薬品の参入自体を問題にしている- 8 -わけではない。 (イ) 上記②の点について甲7及び甲21から明らかなように,薬剤の錠剤に付された表示は,有効成分の名称とは関係のないものがほとんどであって,錠剤に有効成分の名称又はその一部を表示することは一般的でなく,薬剤の取違えを回避するための錠剤の表示としては,様々な表示があるから,有効成分の名称に関する表示をしなければならないという要請はない。 本件においても,仮に,有効成分の名称が分 ことは一般的でなく,薬剤の取違えを回避するための錠剤の表示としては,様々な表示があるから,有効成分の名称に関する表示をしなければならないという要請はない。 本件においても,仮に,有効成分の名称が分かるような表示を錠剤に付したいというのであれば,「ピタバスタチン」と表示すればよいのであって,あえて「ピタバ」と表示する必要性は全くない。実際,本件商標のように,有効成分の名称の一部と共通する文字から成る商標の登録は一般的にされている(甲22)。 したがって,控訴人が本件商標につき商標権を取得することは,薬剤の取違えを回避する手段を不当に制約することにはならない。 (ウ) 小括以上のとおり,原判決の上記①及び②の判断には誤りがあり,本件商標が商標法4条1項7号に該当するとの原判決の判断は誤りである。」(2) 原判決16頁18行目の「(3)」を「(2)」と,同頁19行目の「(ア)」を「ア」とそれぞれ改める。 (3) 原判決17頁10行目の「(イ)」を「イ」と,同頁17行目の「(ウ)」を「ウ」と,同頁22行目の「(エ)」を「エ」とそれぞれ改める。 (4) 原判決18頁1行目の「(オ)」を「オ」と,同頁3行目の「原告商標権2」を「本件分割商標権」とそれぞれ改める。 第4 当裁判所の判断当裁判所は,被告商品の錠剤に付された被告標章は,「需要者が何人かの業- 9 -務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当するものと認められ,控訴人が有する本件分割商標権の効力は被告標章に及ばないものと認められるから,控訴人の請求は,いずれも理由がないものと判断する。 その理由は,以下のとおりである。 1 判断の基礎となる認定事実次のとおり訂正するほか, 権の効力は被告標章に及ばないものと認められるから,控訴人の請求は,いずれも理由がないものと判断する。 その理由は,以下のとおりである。 1 判断の基礎となる認定事実次のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第4の2に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決19頁8行目の「(1)」を削り,同頁10行目の「ア」を「(1)」と,同頁15行目の「イ」を「(2)」と,同頁23行目の「ウ」を「(3)」と,同頁24行目の「有効であることは広く知られ」を「有効であることは,医師,薬剤師等の医療従事者の間で広く知られ」とそれぞれ改める。 (2) 原判決20頁10行目の「8の1ないし10」を「8の1ないし11」と,同頁11行目の「エ」を「(4)」と,同頁24行目の「オ」を「(5)」とそれぞれ改める。 (3) 原判決21頁1行目から2行目にかけての「(以下「厚労省通知」という。)」を「(本件厚労省通知)」と改め,同頁14行目から17行目までを次のとおり改める。 「(6) 被告商品の包装態様は,錠剤が10錠ずつPTPシートにパッケージされて,その複数のPTPシートが内袋に封入されて外箱に入れられたもの,錠剤が14錠ずつPTPシートにパッケージされて,その複数のPTPシートが内袋に封入されて外箱に入れられたもの,又は錠剤がボトル詰めされ,そのボトルが外箱に入れられたものがある。 被告商品の外箱には,「ピタバスタチンカルシウム錠1mg」と横書きで大きく表示され,その上部には「HMG-CoA還元酵素阻害剤」,その下部には「テバ」,「ピタバスタチンカルシウム錠」と表示される- 10 -とともに,これらの表示の右側(500錠入りのものについては下側)に大きく「1mg」と表示されており,側面にも,「HMG-CoA還元酵素阻害剤」 バスタチンカルシウム錠」と表示される- 10 -とともに,これらの表示の右側(500錠入りのものについては下側)に大きく「1mg」と表示されており,側面にも,「HMG-CoA還元酵素阻害剤」,「ピタバスタチンカルシウム錠1mg「テバ」」との表示がある。 また,被告商品のPTPシートの表面には,「ピタバスタチンカルシウム1mg「テバ」」(二段書き),「ピタバスタチン 1mg」,その裏面には,「PitavastatinCalcium 1mg“TEVA”」,「ピタバスタチンカルシウム「テバ」」,「1mg」との表示がある。さらに,PTPシートを封入する内袋にも,「ピタバスタチンカルシウム錠1mg「テバ」」,「1mg」との表示がある。 さらに,被告商品のボトルの表面には,「ピタバスタチンカルシウム錠1mg「テバ」」(二段書き)との表示がある(以上,乙11)。」(4) 原判決21頁18行目の「キ」を「(7)」と,22頁2行目の「ク」を「(8)」とそれぞれ改める。 (5) 原判決22頁7行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「(9) 被控訴人は,平成25年12月から,ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする被告商品の製造販売を開始した。被控訴人以外の後発医薬品メーカー23社も,同月から,ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする後発医薬品(「HMG-CoA還元酵素阻害剤」)の製造販売を開始した。被控訴人以外の後発医薬品メーカーの薬剤の販売名は,本件厚労省通知に従って,「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」(沢井製薬が製造販売する薬剤)などと命名されている(甲7,乙14の1ないし5,17の1,2,19)。」 2 争点(2)(被告標章の商標法26条1項6号該当性)について(1) 被控訴人は,需要者である患者は,被告 売する薬剤)などと命名されている(甲7,乙14の1ないし5,17の1,2,19)。」 2 争点(2)(被告標章の商標法26条1項6号該当性)について(1) 被控訴人は,需要者である患者は,被告商品(錠剤)上の「ピタバ」の表示をもって,「有効成分としての」ピタバスタチンカルシウムを意味するも- 11 -のと認識するとともに,商品の品質,原材料の表示(説明的表示)であると理解するし,被控訴人が被告商品の錠剤に被告標章を表示しているのは,医療事故を防止するための表示であり,自他商品識別機能を奏するために表示しているものではなく,被告商品における被告標章の使用は,いわゆる商標的使用に当たらないから,被告標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当する旨主張する。 アそこで検討するに,前記前提事実(前記第2の2)及び前記1の認定事実によれば,①被告商品は,一般的名称(JAN)を「ピタバスタチンカルシウム」とする化学物質を有効成分とする「HMG-CoA還元酵素阻害剤」であり,医療用後発医薬品(ジェネリック医薬品)であること,②平成17年9月22日付けで発出された本件厚労省通知は,医療用後発医薬品の承認申請に当たっての販売名の命名に関し,「販売名の記載にあたっては,含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)を付すこと」を定めており,被告商品の販売名である「ピタバスタチンカルシウム錠1mg「テバ」」は,本件厚労省通知に従って命名されたこと,③被控訴人を含む後発医薬品メーカー24社は,平成25年12月から,ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする後発医薬品(「HMG-CoA還元酵素阻害剤」)の製造,販売を開始し,被控訴人以外の2 こと,③被控訴人を含む後発医薬品メーカー24社は,平成25年12月から,ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする後発医薬品(「HMG-CoA還元酵素阻害剤」)の製造,販売を開始し,被控訴人以外の23社も,本件厚労省通知に従って,上記後発医薬品の販売名を命名し(例えば,「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」),剤型及び含量が同じであれば,被告商品との販売名の違いは「会社名(屋号等)」だけであること,④「スタチン系薬剤」又は「スタチン系化合物」は,医師,薬剤師等の医療従事者の間において,HMG-CoA還元酵素阻害剤の総称として一般に知られていたこと,⑤「スタチン系薬剤」又は「スタチン系化合物」に属する具体的な物質を表記する場合,「スタチン」の用語を除外し- 12 -た部分を略称として使用することが一般的であるとまではいえないが,「スタチン系薬剤」又は「スタチン系化合物」を説明する際に,「ピタバスタチン」,「アトルバスタチン」,「ロスバスタチン」等について「ピタバ」,「アトルバ」,「ロスバ」等の略称で表記する場合もあり,医師,薬剤師等の医療従事者であれば,「スタチン系薬剤」又は「スタチン系化合物」を説明する文献又は文脈の中で,上記表記がされた場合,それらが「ピタバスタチン」,「アトルバスタチン」,「ロスバスタチン」等を意味することを理解すること,⑥本件厚労省通知には,「有効成分の一般的名称については,その一般的名称の全てを記載することを原則とするが,当該有効成分が塩,エステル及び水和物等の場合にあっては,これらに関する記載を元素記号等を用いた略号等で記載して差し支えないこと。また,他の製剤との混同を招かないと判断される場合にあっては,塩,エステル及び水和物等に関する記載を省略することが可能であること。」との記載があることが認めら いた略号等で記載して差し支えないこと。また,他の製剤との混同を招かないと判断される場合にあっては,塩,エステル及び水和物等に関する記載を省略することが可能であること。」との記載があることが認められる。 上記認定事実によれば,被告商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被告標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」について,その塩であることを示す部分(「カルシウム」)の記載及び「スタチン」の記載を省略した「略称」であることが認められる。 イ次に,被告商品の包装態様は,錠剤がPTPシートにパッケージされて,その複数のPTPシートが内袋に封入されて外箱に入れられたものと,錠剤がボトル詰めされ,そのボトルが外箱に入れられたものがあり(前記1(6)),被告商品の錠剤は,通常は,PTPシートから取り出して服用することが想定されているといえる。 また,被告商品の外箱には,「ピタバスタチンカルシウム錠1mg」と横書きで大きく表示され,その上部には「HMG-CoA還元酵素阻害剤」,その下部には「テバ」,「ピタバスタチンカルシウム錠」と表示されると- 13 -ともに,これらの表示の右側(500錠入りのものでは下側)に大きく「1mg」と表示されており,側面にも,「HMG-CoA還元酵素阻害剤」,「ピタバスタチンカルシウム錠1mg「テバ」」との表示があり,PTPシートの表面には,「ピタバスタチンカルシウム1mg「テバ」」(二段書き),「ピタバスタチン 1mg」,その裏面には,「PitavastatinCalcium 1mg “TEVA”」,「ピタバスタチンカルシウム「テバ」」,「1mg」との表示があり,PTPシートを封入する内袋にも,「ピタバスタチンカルシウム錠1mg「テバ」」,「1mg」との表示があることは,前記1(6)のとおり 「ピタバスタチンカルシウム「テバ」」,「1mg」との表示があり,PTPシートを封入する内袋にも,「ピタバスタチンカルシウム錠1mg「テバ」」,「1mg」との表示があることは,前記1(6)のとおりである。 さらに,被告商品の外箱,内袋又はPTPシートに記載された「ピタバスタチンカルシウム」,「ピタバスタチン」等の表示と被告商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被告標章)を同じ機会に目にした場合,「ピタバスタチンカルシウム」又は「ピタバスタチン」と「ピタバ」の言語構成から,「ピタバ」が「ピタバスタチンカルシウム」又は「ピタバスタチン」の頭部分の3字を略記したものであることを自然に理解するものと認められる。 ウそして,医師,薬剤師等の医療従事者の間においては,後発医薬品の販売名は含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)から構成されていることは一般的に知られているものと認められるから,医療従事者が,被告商品に接した場合,被告商品が「ピタバスタチンカルシウム錠1mg「テバ」」を販売名とする後発医薬品であることを認識し,被告商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被告標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称であることを認識するものと認められる。 一方で,患者においては,PTPシートに入れられた状態で被告商品の交付を受けた場合,PTPシートから被告商品を取り出して服用する際に,- 14 -PTPシートに記載された「ピタバスタチンカルシウム」等の表示が自然に目に触れ,被告商品は「ピタバスタチンカルシウム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被告商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被告標章)は,被告商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。また,被 ム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被告商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被告標章)は,被告商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。また,被告商品は,医師等の処方箋により使用する「処方箋医薬品」であり(前記1(8)),被告商品と他の薬剤とが一つの袋にまとめて包装される「1包化調剤」により処方される場合があるが(乙28),この場合,患者は,1包化した袋を開封し,その袋内に薬剤が入ったままの状態で服用するので,被告商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示を認識することはないのが通常である。もっとも,患者は,1包化した袋からいったん薬剤を取り出して服用する場合もあるが,その際には,取り出した薬剤を一緒に服用すべきひとまとまりの薬剤として認識し,個々の薬剤の表示が目に触れたとしても,その表示が薬剤の出所を示すものと理解することはないものと認められる。 エ以上によれば,被告商品の需要者である医師,薬剤師等の医療従事者及び患者のいずれにおいても,被告商品に付された「ピタバ」の表示(被告標章)から商品の出所を識別したり,想起することはないものと認められるから,被告商品における被告標章の使用は,商標的使用に当たらないというべきである。 したがって,被告標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当するものと認められる。 (2) これに対し控訴人は,①患者は,自らの症状を治すために薬剤を服用し,薬剤の効果や副作用について興味を持つことはあるとしても,当該薬剤の化学物質である有効成分の名称が何であるかということには興味や知識を持っていないのが通常であるし,医療従事者も,患者に対して薬剤を処方するに- について興味を持つことはあるとしても,当該薬剤の化学物質である有効成分の名称が何であるかということには興味や知識を持っていないのが通常であるし,医療従事者も,患者に対して薬剤を処方するに- 15 -際し,薬剤の効果や副作用についての説明をすることはあるが,通常,当該薬剤の有効成分の名称が何であるかを説明することはないから,患者が,被告標章(「ピタバ」)に接したときに,それが「有効成分」を示すものであると認識するとはいえない,②たとえ,患者が,被告商品のPTPシート等に付された「ピタバスタチンCa錠1mg「テバ」」の表示に接した上で,被告標章(「ピタバ」)に接したときに,「ピタバ」が,販売名たる「ピタバスタチンCa錠1mg「テバ」」のうち「ピタバスタチンCa」の一部の表示又はそれに由来する表示であると認識することがあったとしても,被告商品の有効成分の名称が何であるかということについて興味も知識もなく,説明も受けておらず,「ピタバ」を「有効成分としての」ピタバスタチンCaを意味するものと認識することはない,③被告標章は,被告商品の取引者,需要者である患者において他の商品との識別のために着目されているなどとして,被告標章は,商標法26条1項6号に該当しない旨主張する。 しかしながら,前記(1)ウ認定のとおり,患者は,PTPシートに入れられた状態で被告商品の交付を受けた場合には,PTPシートから被告商品を取り出して服用する際に,PTPシートに記載された「ピタバスタチンカルシウム」等の表示が自然に目に触れ,被告商品は「ピタバスタチンカルシウム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被告商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被告標章)は,被告商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。 次に, が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被告商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被告標章)は,被告商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。 次に,被告商品が「1包化調剤」により処方された場合には,患者は,1包化した袋を開封し,その袋内に薬剤が入ったままの状態で服用するので,個々の薬剤の表示には被告商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示を認識することがないのが通常であり,また,患者が1包化した袋からいったん薬剤を取り出して服用する場合もあるが,その際には,患者は,取り出した薬剤を一緒に服用すべきひとまとまりの薬剤として認識し,個々の薬剤の表示が- 16 -目に触れたとしても,その表示が薬剤の出所を示すものと理解することはないものといえるから,患者において,被告商品に付された「ピタバ」の表示(被告標章)から商品の出所を識別したり,想起することはないものと認められる。 したがって,被告商品における被告標章の使用は,商標的使用に当たらないから,控訴人の上記主張は,採用することができない。 (3) 以上によれば,被告商品の錠剤に付された被告標章は,商標法26条1項6号に該当するから,控訴人が有する本件分割商標権の効力は,被告標章に及ばないというべきである。 3 結論以上の次第であるから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は,いずれも理由がない。 したがって,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であるから,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官大鷹一郎 裁判官大西勝滋 裁判官神谷厚毅 裁判長裁判官大鷹一郎 裁判官大西勝滋 裁判官神谷厚毅 - 17 -(別紙)標章目録 - 18 -(別紙)商標権目録 1 登録番号第4942833号出願日平成17年8月30日登録日平成18年4月7日指定商品第5類「薬剤」登録商標 PITAVA(標準文字) 2 登録番号第4942833号の1出願日平成17年8月30日登録日平成18年4月7日指定商品第5類「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」登録商標 PITAVA(標準文字) 3 登録番号第4942833号の2出願日平成17年8月30日登録日平成18年4月7日(商標登録原簿の甲区欄記載の登録日平成26年12月2日)指定商品第5類「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」登録商標 PITAVA(標準文字)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る