平成18(く)480

裁判年月日・裁判所
平成18年10月16日 東京高等裁判所 棄却
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判決文本文6,252 文字)

18く480東京高裁平成18・10・16316条の15第1項5号イ,6号棄却 主文 本件即時抗告を棄却する。 理由 申立て本件即時抗告の趣意は,主任弁護人C,弁護人D,同E,同F,同G及び同H共同作成名義の即時抗告申立書に記載されたとおりであるから,これを引用する。 論旨は,要するに,原決定には,審理不尽の違法があり,また,刑訴法316条の15第1項5号及び6号の解釈を誤った違法があるから,原決定を取り消し,弁護人の裁定申立てに係る各証拠の開示を命ずる旨の決定を求める,というのである。 申立てに至る経過等本件に関する公訴事実の要旨は,被告人が,Aと共謀の上,平成16年11月24日午後7時ころから翌25日午前零時30分ころまでの間,被告人方において,Aの長女(当時3歳,以下「被害児童」という。)に対し,こもごも,その顔面やほほ等を平手で多数回たたき,さらに,木製写真立て様のもので,臀部,足,肩,腕等を多数回殴打した上,ライターの火で臀部をあぶるなどの暴行を加え,よって,被害児童にびまん性脳損傷等の傷害を負わせ,脳死状態に陥らせて死亡させた,というものである。 本件については,平成17年4月14日の第1回公判期日から22回の公判が開かれたが,原審は,審理終結に向けての見通しがいまだ立っていない進行状況を踏まえ,第21回公判期日の終了後である平成18年5月17日,本件を期日間整理手続に付し,弁護人が,検察官に対し,同年6月23日付けの書面(類型証拠開示請求書。以下「請求書」という。)により類型証拠の開示を請求した。これに対し,検察官は,同年7月20日付けの書面(類型証拠開示請求に対する回答書)において,弁護人の開示請求に係る証拠のうち,既に開示済みのものを含め類型証拠表に記載した36点を刑訴法316条の15(期日 対し,検察官は,同年7月20日付けの書面(類型証拠開示請求に対する回答書)において,弁護人の開示請求に係る証拠のうち,既に開示済みのものを含め類型証拠表に記載した36点を刑訴法316条の15(期日間整理手続についての刑訴法316条の28第2項により準用される公判前整理手続の規定を示す。以下同じ。)の類型証拠に該当するものとして開示に応ずるほか,任意開示証拠表に記載した43点の証拠について,類型証拠には該当しないが,任意にその開示に応ずる旨回答した。さらに,検察官は,弁護人の類型証拠開示に対する求釈明に対し,同年9月5日,開示請求に係る証拠のうち,類型証拠に該当するものはすべて開示済みである旨釈明し,更に一定の証拠の任意開示に応じた上,弁護人の請求書記載の各証拠のうち,第5の①の「被告人宅付近及びA宅付近の各居住者並びにB幼稚園(被告人の長男及び被害児童が通園していた幼稚園)の園児の母親及び同幼稚園の保母の供述録取書等」及び同②の「同人らに対する聞き込みの結果を記載した捜査報告書等」は刑訴法316条の15第1項6号に該当せず,第5の④のうち「検察官請求証人に対する聞き込みの結果を記載した捜査報告書等」は同項5号イに該当せず,また,いずれについても重要性の要件を満たさないとし,その余については,未開示の証拠は存在しない旨の回答をした。そこで,弁護人は,同月15日付けの書面(類型証拠開示に関する裁定申立書。以下「申立書」という。)で,原審に対し,類型証拠開示に関する裁定の申立てをし,その別紙4に記載された番号第2から第5まで及び第7から第12まで(請求書記載の証拠の中から,裁定を求める証拠の番号を改めて抽出しているため,第1及び第6は欠番。)の各証拠の開示に関する裁定を求めた。 これに対し,原審は,検察官の意見(同月21日付け意見書による。)を 書記載の証拠の中から,裁定を求める証拠の番号を改めて抽出しているため,第1及び第6は欠番。)の各証拠の開示に関する裁定を求めた。 これに対し,原審は,検察官の意見(同月21日付け意見書による。)を聴いた上,(1)申立書別紙4の第2から第4まで及び第7から第12までの各証拠について,上記意見書によれば未開示の証拠は存在しないと認められるとし,(2)同第5の①の1から11までの各証拠のうち,被告人宅付近及びA宅付近の各居住者並びに前記幼稚園児の母親及び前記幼稚園の保母の供述録取書等について,検察官に提示を命じた上判断し,いずれも「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」ではなく,刑訴法316条の15第1項6号に該当しないとし(なお,検察官に提示を命じたもの以外の供述録取書等は存在しないと認められるとしている。),(3)同第5の②の1から11までの各証拠については,刑訴法316条の15第1項6号にいう供述録取書等に該当せず,③の各証拠については,上記意見書によれば未開示の証拠は存在しないと認められるとし,(4)同第5の④の1の証拠については,上記意見書によれば未開示の証拠は存在しないと認められ,④の2の証拠については,刑訴法316条の15第1項5号イあるいは同項6号にいう供述録取書等のいずれにも該当しないなどとして,請求を棄却する決定をした。 所論の検討(1)所論は,原決定の①の判断について,警察から検察官に送致されていない証拠書類も存在しあるいは存在すると思われるのに,検察官の意見書をうのみにしてこれが存在しないと認定した点で,審理不尽の違法があるという。 そこで検討すると,刑訴法316条の15により開示が予定されている証拠は,基本的には検察官が現に保管している証拠を意味するものと解さ してこれが存在しないと認定した点で,審理不尽の違法があるという。 そこで検討すると,刑訴法316条の15により開示が予定されている証拠は,基本的には検察官が現に保管している証拠を意味するものと解され,この点はこれまでの証拠開示に関する一般的な実務の解釈・運用と異なるところはない。このことは,刑訴法316条の27第2項に,裁判所が,被告人側からの開示命令の請求について決定をするに当たり,検察官の保管する証拠であって,裁判所の指定する範囲に属するものの標目を記載した一覧表の提示を命ずることができる旨の規定が置かれていることからもうかがうことができる。したがって,被告人側からの請求に対し,検察官が警察から送致を受けていない証拠を改めて送致させるなどした上,これを被告人側に開示することは,本条に基づく開示としては本来予定されていないものと解される(なお,裁判所が,争点整理の過程において,検察官に対して個別に釈明権を行使した場合に検察官の執るべき対応いかんといった問題は別論である。)。また,本件期日間整理手続における弁護人の証拠開示請求に対する検察官の前記のような具体的な対応状況にかんがみると,本件においては,裁定に関連する検察官保管証拠の標目を把握する手段として,検察官に対して一覧表の提示を求める必要性までは認められない。未開示証拠の不存在をいう検察官の回答は,物理的不存在を意味すると判断するのが相当である。 結局,未開示の証拠は存在しないものと認めた原決定は相当であり,審理不尽の違法がある旨の所論は採用できない。 (2)所論は,原決定の(2)の判断について,開示請求に係る各証拠には,被害児童と被告人との関係及び被告人とAとの関係にかかわる事実並びにAが自宅において平素から被害児童を虐待していた事実について記載されている可能性が高いとして,これら いて,開示請求に係る各証拠には,被害児童と被告人との関係及び被告人とAとの関係にかかわる事実並びにAが自宅において平素から被害児童を虐待していた事実について記載されている可能性が高いとして,これらの証拠が刑訴法316条の15第1項6号に該当する旨主張する。 そこで検討すると,記録によれば,検察官は,被告人とAとの共謀を認定するための間接事実として,「Aが,平素より,被告人に対して非常に気を遣い,被告人の顔色をうかがいながら行動しており,被告人に服従しているような関係であったこと」を主張しており,これを証人I及び同Jの各証言により直接立証しようとしている。したがって,所論の指摘する各証拠がこの事実の有無に関する供述を内容とするものであれば,同号の該当性を認め得る。原審は,このような観点から検察官に証拠の提示を命じた上,各証拠が同号の「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」に該当しないと判断したものと解される。当審において,改めて検察官に証拠の提示を命じ,この点について検討してみたが,当該証拠が同号に該当するものとは認められない。また,開示請求に係る各証拠にはAが自宅において平素から被害児童を虐待していた事実について記載されている可能性が高い旨の所論についてみると,本件において検察官が立証しようとする事実は,前記公訴事実の要旨のとおり,被告人がAと共謀の上,前記日時ころ,被告人方で暴行を加えたか否かであるから,A自身がその自宅において平素から被害児童を虐待していた事実に関する証拠は,同号の「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」には当たらない。 これに対し,所論は,裁判所が提示を求めた上記各証拠の記載内容が,仮に裁判所の目から見て 官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」には当たらない。 これに対し,所論は,裁判所が提示を求めた上記各証拠の記載内容が,仮に裁判所の目から見て重要性に欠けるようなものであったとしても,弁護人から見れば,被告人とAとの共謀及び被告人の実行行為を否定する重要な間接事実となり得ることも十分にあり得るところであるから,開示が認められるべきである旨主張する。しかし,所論は,類型証拠開示の要件に係る判断者について,独自の見解に立つものであるというほかはない。原決定は,上記各証拠がそもそも同号の「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」に当たらないとの判断を示し,開示の要件のうちいわゆる類型該当性そのものを否定しているのであるから,所論はその点からしても採用できない。 (3)所論は,原決定の(3)の判断について,刑訴法316条の15第1項6号が「供述録取書」と限定せずに,「供述録取書等」と規定しているのは,伝聞法則の適用がある供述証拠すべてがこれに該当するという趣旨と解すべきであり,被告人以外の者の供述内容が記載された捜査報告書をこれに該当しないとする原決定の解釈は明らかに誤りであるという。 そこで検討すると,刑訴法316条の15第1項6号の「供述録取書等」は,刑訴法316条の14第2号に定義されているとおり,「供述書,供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるもの又は映像若しくは音声を記録することができる記録媒体であって供述を記録したもの」をいう。そして,警察官が捜査の過程で作成する捜査報告書は,警察官の「供述書」と解することができる。しかしながら,刑訴法316条の15は,特定の検察官請求証拠の証明力を被告人側が適切に判断できるようにする 。そして,警察官が捜査の過程で作成する捜査報告書は,警察官の「供述書」と解することができる。しかしながら,刑訴法316条の15は,特定の検察官請求証拠の証明力を被告人側が適切に判断できるようにするために,その証明力の判断に重要であると認められる一定類型の証拠の開示を認めようとするものである(この点,被告人側が明らかにした主張に関連する証拠の開示についての刑訴法316条の20に証拠の類型による限定がないのとは異なる。)。そして,「供述録取書等」が上記のとおり供述者の署名若しくは押印により内容の正確性が担保されているか,機械的正確さによって録取内容の正確性が保障されているものに限られていることをも併せ考慮すると,刑訴法316条の15第1項6号の「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述」を内容とする供述書,供述録取書又は上記記録媒体は,供述者が直接体験した事実を記載したものあるいはその供述を録取・記録したものに限られ,同号にいう「供述」には伝聞供述は含まれないと解するのが相当である。このように解することが,後記の「検察官が証人として尋問を請求した者」の供述を警察官が聞き取ったことを内容とする捜査報告書が同項5号の「供述録取書等」に該当しないとする解釈と整合するものと考える。そうすると,警察官の作成した捜査報告書は,上記のとおり警察官の「供述書」ではあるが,警察官が聞き取った第三者の供述を内容とする捜査報告書は,実質的には第三者の供述を録取した書面であるから,第三者の署名若しくは押印がない以上,同項6号の「供述」を内容とするものとはいえず,同号に該当する証拠と認めることはできない。原決定の解釈に誤りはなく,所論は採用できない。 (4)さらに所論は,原決定の(4)の判断について,刑訴法316条の15第1項5号イ 容とするものとはいえず,同号に該当する証拠と認めることはできない。原決定の解釈に誤りはなく,所論は採用できない。 (4)さらに所論は,原決定の(4)の判断について,刑訴法316条の15第1項5号イの「供述録取書等」にも,「検察官が証人として尋問を請求した者」(以下「証人予定者」という。)の供述を警察官が聞き取ったことを内容とする捜査報告書が含まれると解すべきである旨主張する。 そこで検討すると,刑訴法316条の15第1項5号イは証人予定者の供述録取書等を開示対象類型の証拠としているところ,上記捜査報告書は証人予定者の供述書ではないし,証人予定者の署名若しくは押印のある供述録取書でもないから,「供述録取書等」には該当しない。また,上記捜査報告書を警察官の供述書と見ても,(3)で検討したとおり同項6号の該当性を認めることはできない。所論は,原決定は「重要性」の判断をしていないが,仮に裁判所の目から見ても重要性の要件を満たす供述内容が捜査報告書に記載されていた場合,同項5号イ及び6号の「供述録取書等」に該当しないという形式的判断だけでこれらの開示請求を棄却することになれば,弁護人の防御権が著しく侵害されることになるから不当であると主張する。しかし,このような見解は,法に定められた開示の要件自体を否定するに等しいものというほかはない。結局,原決定の解釈に誤りはなく,所論は採用できない。 結論 以上のとおり,原決定に,所論のいう審理不尽の違法や法令解釈の誤りはない。論旨は理由がない。よって,刑訴法426条1項後段により本件即時抗告を棄却することとして,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・田中康郎,裁判官・石山容示,裁判官・佐藤正信) 主文 のとおり決定する。 (裁判長裁判官・田中康郎,裁判官・石山容示,裁判官・佐藤正信)

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