平成23(ワ)22024 地位確認等請求事件(通称 日本相撲協会解雇)

裁判年月日・裁判所
平成24年5月24日 東京地方裁判所
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判決文本文29,650 文字)

- 1 -平成24年5月24日判決言渡平成23年(ワ)第22024号地位確認等請求事件 主文 1 本件訴えのうち,(1) 本判決確定の日の翌日から毎月25日限り月額103万6000円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員の支払請求に係る部分(2) 本判決確定の日の翌日から毎年8月及び12月の各末日限り103万6000円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員の支払請求に係る部分(3) 本判決確定の日の翌日から毎奇数月末日限り16万円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員の支払請求に係る部分(4) 本判決確定の日の翌日から毎年12月末日限り24万円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員の支払請求に係る部分(5) 本判決確定の日の翌日から毎年1月,5月及び9月の各末日限り2万5000円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員の支払請求に係る部分をいずれも却下する。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求- 2 - 1 原告が,被告に対し,被告の十枚目力士としての権利を有する地位にあることを確認する。 2 被告は,原告に対し,平成23年5月から,毎月25日限り,月額103万6000円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告に対し,平成23年から,毎年8月及 3年5月から,毎月25日限り,月額103万6000円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告に対し,平成23年から,毎年8月及び12月の各末日限り,103万6000円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告は,原告に対し,平成23年5月から,毎奇数月末日限り,16万円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告は,原告に対し,平成23年から,毎年12月末日限り,24万円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。 6 被告は,原告に対し,平成23年5月から,毎年1月,5月及び9月の各末日限り,2万5000円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。 7 被告は,原告に対し,2400万円及びこれに対する平成23年4月14日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,被告が力士である原告を解雇したところ,原告が,当該解雇は無効であると主張して,被告に対し,地位確認及び解雇後の給与等の支払並びに不法行為又は債務不履行に基づく慰謝料等の支払を求めた事案である。 2 前提事実(争いのない事実。各掲記の証拠及び弁論の全趣旨による認定事実)(1) 当事者等- 3 -原告は,モンゴル国籍を有している者であるが,平成14年11月に入門し,平成14年11月場所に初土俵を踏んだ被告に所属する力士であり,平成23年1月場所での番付は,東十両9枚目であった。 被告は,日本固有の国技である相撲 者であるが,平成14年11月に入門し,平成14年11月場所に初土俵を踏んだ被告に所属する力士であり,平成23年1月場所での番付は,東十両9枚目であった。 被告は,日本固有の国技である相撲道の維持発展等を目的とし,力士,行司等の育成,力士の相撲競技の公開実施等の事業を行う財団法人である。 (2) 原被告間の契約関係ア原告は,平成14年11月から被告に所属し,本件解雇の意思表示時の平成23年4月14日時点で,被告に所属する十枚目力士の地位にあった(以下,原告・被告間の契約関係を「本件役務提供契約」という。)。なお,十枚目とは,いわゆる十両の正式名称である。 イ被告は,被告寄附行為施行細則給与・手当支給規定により,十枚目以上の力士に給与を支給している。平成23年の十枚目力士である原告への支給額は,月額103万6000円(毎月25日当月分払い)であった。 ウ被告は,本件解雇当時,十枚目力士に対し,次の金員を支給していた。 (ア) 賞与年2回(8月中旬頃,12月中旬頃)各103万6000円(イ) 力士褒賞金年6回(場所ごとに支給)各16万円以上(本場所は,毎年,1月場所,3月場所,5月場所,7月場所,9月場所,11月場所と行われ,奇数月に開催されている。)(ウ) 巡業参加手当 1日あたり8000円(エ) 力士補助費年3回(1月,5月,9月) 各2万5000円(3) 本件解雇平成23年4月11日,被告は,原告に対し,「平成23年1月場所7日目のAとの取組等において,故意による無気力相撲を行った」ことを処分事由(以下「本件処分事由」という。)として,引退届の提出期限を同月13日午後5時と定めて引退勧告をした(以下「本件引退勧告」という。)。し の取組等において,故意による無気力相撲を行った」ことを処分事由(以下「本件処分事由」という。)として,引退届の提出期限を同月13日午後5時と定めて引退勧告をした(以下「本件引退勧告」という。)。しかし,原告は,上記期限までに引退届を提出しなかった。 - 4 -同月14日,被告は,原告に対し,理事会から引退勧告の処分を受けたのに,期限までに引退届を提出しなかった行為は,協会内の秩序を乱す行為であるとして,原告を解雇するとの意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。 (4) 平成23年1月場所の取組被告の開催する平成23年1月場所で次の各取組が組まれた(以下「本件各取組」という。)。括弧内の勝敗は当該取組前の当該力士の勝敗,括弧内の○が当該取組の勝者,●がその敗者である。同場所当時の番付は,原告が東十両9枚目,Bが東十両11枚目,Aが東十両13枚目であった。同場所2日目には,Bと原告は東の支度部屋,Aは西の支度部屋を利用した。(乙5,10の3,27)ア 2日目 A(1勝,○) 対 B(1敗,●)イ 3日目 B(2敗,○) 対原告(2勝,●)ウ 7日目原告(4勝2敗,○) 対 A(4勝2敗,●)(5) 被告,師匠及び力士との関係等ア被告は,国技である相撲道を研究し,相撲の技術を練磨し,その指導普及を図るとともに,これに必要な施設を経営し,相撲道の維持発展と国民の心身の向上に寄与することを目的として設置された財団法人であり,この目的を達成するため,相撲教習所の維持運営,力士等の養成,力士の相撲競技の公開実施等の事業を行っている。 イ被告の寄附行為によれば,被告には力士をおき,力士は相撲道に精進するものとされている。 被告は,力士の技量を審査するための相 ,力士の相撲競技の公開実施等の事業を行っている。 イ被告の寄附行為によれば,被告には力士をおき,力士は相撲道に精進するものとされている。 被告は,力士の技量を審査するための相撲競技(本場所相撲)等の事業を実施し,一般に公開し,原則として有料である本場所相撲での勝負の判定,取組の編成,番附の審査編成,力士,行司に対する賞罰に関する事項等を行うために審判部を,また,本場所での故意による無気力相撲を防止し,監察し,懲罰するためにC委員会を設置するとされている。 - 5 -ウ力士を志望する者は,義務教育を終了した23歳未満(新弟子検査日)の男子で,師匠を経て,被告に親権者の承諾書,志願者本人の意思確認書を添えて力士検査届を提出する。被告の指定する医師の健康診断及び身長・体重・基礎体力・運動能力等の検査に合格すれば,力士として登録され,被告に所属する。力士となった者は,師匠が手続をとることにより,被告の人別帳に登録され,これによって,初めて相撲をとれるようになる。 エ被告には,新たに登録された力士を実技と教養に分けて教育し指導することを目的として,相撲教習所が設けられており,新たに登録された力士は,実技及び教養講座のそれぞれについて定められた単位を6か月間の教育期間内に習得すると相撲教習所を卒業することができるとされている。 また,幕下以下の力士は,力士養成員として,師匠が養成にあたるものとされ,力士養成員1人につき月額7万円の養成費が師匠に支給される。他方,十枚目以上の力士は,力士養成員の指導にあたるとともに,自己の人格の陶冶・技量の練磨に努めるとされ,師匠がこれを養成する旨を直接定めた規定は見当たらない。もっとも,力士の養成・教育・給与等に関し寄附行為施行細則に定めがないものは,師匠において処理する 自己の人格の陶冶・技量の練磨に努めるとされ,師匠がこれを養成する旨を直接定めた規定は見当たらない。もっとも,力士の養成・教育・給与等に関し寄附行為施行細則に定めがないものは,師匠において処理する,十枚目以上の力士を養成した師匠には,養成奨励金を支給することができるとされ,その1人当たり1場所ごとの額は,階級の区分に応じて,横綱30万円,大関20万円,関脇・小結10万円,幕内5万円,十枚目3万円と定められ,さらに,師匠に対し相撲部屋維持費及び稽古場経費等を支給することができるとされ,その額は力士1人当たり1場所ごとに相撲部屋維持費が11万5000円,稽古場経費が5万5000円と定められている。 オ被告の番附編成要領によれば,力士の番付は,審判部の部長,副部長,委員で組織され,本場所終了後3日以内に開催される番付編成会議で作成され(1条~3条),力士の階級順位の昇降は,その本場所相撲の勝星により協議の上決定するものとされている(6条)。 - 6 -カ力士は有給とされ,十枚目以上の力士の給与(月給制)は,階級の区分(本場所の開催月より,本場所の番付の階級による。)により,1か月当たり,横綱282万円,大関234万7000円,三役169万3000円,幕内130万9000円,十枚目103万6000円とされている。 幕下以下の力士養成員は,階級の区分に応じて,本場所手当を支給するものとされ,1場所ごとの金額は,幕下15万円,三段目10万円,序二段8万円,序ノ口以下7万円とされている。 キ力士には,本場所及び地方巡業への参加が義務付けられ,本場所及び地方巡業では,被告の定めたタイムスケジュールに従って,土俵入りや取組を行うこととされているが,力士の所定労働時間を定めた規定はない。 ク被告の相撲規則によれば,「 義務付けられ,本場所及び地方巡業では,被告の定めたタイムスケジュールに従って,土俵入りや取組を行うこととされているが,力士の所定労働時間を定めた規定はない。 ク被告の相撲規則によれば,「相撲競技は,土俵内(競技場)で競技者の力士が2人で勝負を争う個人競技である」とされ,被告は,相撲規則及び審判規則で,力士の服装や所作の他,禁じ手等を定めているが,力士の技量を審査するための本場所相撲で,力士がどのような相撲を取るかについて被告が指揮命令できる旨を定めた規定はない。 ケ被告の生活指導部規則によれば,相撲部屋の師匠は生活指導部の委員とされ,師匠である委員は配属された力士を指導するものとされている。 コ被告は,力士に対する賞罰として,理事会の議決により,けん責・給与減額・出場停止・番附降下・解雇の5種類を行うことができる。被告は,「力士として,相撲の本質をわきまえず,被告の信用もしくは名誉を毀損するがごとき行動をなしたる者,あるいは品行不良で被告の秩序を乱し,勤務に不誠実のためしばしば注意するも改めざる者」に対しては,弁明の機会を与えた上で,理事会及び評議員会で,理事・評議員のそれぞれ現在数の4分の3以上の特別決議をすることにより,除名することができる。 サ力士が引退する場合は,当該力士ではなく師匠が引退届を被告に提出することで当該力士は引退扱いとなり,番付から外されて相撲を取ることが- 7 -できなくなる。師匠は,当該力士の資質や技術をみて引退届を提出するか否かを判断するとされており,被告で用いられている力士の引退届には,師匠の署名押印欄は設けられているが,力士の署名押印欄は設けられていない。なお,引退し又は解雇された力士は,再び協会に所属することはできないとされている。 (6) 故意による無気 引退届には,師匠の署名押印欄は設けられているが,力士の署名押印欄は設けられていない。なお,引退し又は解雇された力士は,再び協会に所属することはできないとされている。 (6) 故意による無気力相撲懲罰規定被告は,「本場所相撲に於ける故意による無気力相撲を防止し,監察し,懲罰するため」(1条),故意による無気力相撲懲罰規定を設け,昭和47年1月から施行している。 同規定は,故意に無気力相撲をした力士及びこれに関与したものに対する懲罰として,けん責,給与減額,出場停止,引退勧告,除名の5種類を定め(6条,8条),懲罰を受けた力士の師匠も連帯してその責任を負うものとする(7条)。また,故意による無気力相撲を防止し,監察するため,C委員会を設置し(2条),同委員会は,故意による無気力相撲を防止するため指導普及部と連携して力士を指導し(3条),本場所相撲を常時監察し,故意による無気力相撲と思われる相撲があった場合は審判部長と協議し,故意による無気力相撲の結論を出した場合は理事長に提出し(4条),これを受けて理事会がその決議により懲罰を決定するとしている(5条)。(甲2,3,乙12)(7) 取組編成被告の取組編成要領によれば,取組は,本場所の初日の2日前に初日,2日目の取組を,その後は前日に取組を編成して発表するものとし,各階級別に番附順位により編成することとされている。 (8) 被告は,原告に対する給与を支給する際,健康保険料及び厚生年金保険料を控除し,所得税を源泉徴収していたが,原告を含む力士は,労災保険及び雇用保険には加入していない。(甲7)- 8 - 3 争点及び当事者の主張(1) 本件役務提供契約の法的性質(争点1)(原告の主張)ア本件役務提供契約の法的 保険及び雇用保険には加入していない。(甲7)- 8 - 3 争点及び当事者の主張(1) 本件役務提供契約の法的性質(争点1)(原告の主張)ア本件役務提供契約の法的性質は,労働契約である。後述のとおり,原告が八百長相撲を行った事実はないから,本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められず,無効である。 したがって,原告は,被告に対し,被告の十枚目力士としての権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,民法536条2項に基づき,本件解雇後の賃金として,①平成23年5月から,毎月25日限り月例給月額103万6000円,②同年から,毎年8月及び12月の各末日限り賞与103万6000円,③同年5月から,毎奇数月末日限り力士褒賞金16万円,④同年から,毎年12月末日限り巡業参加手当24万円(地方巡業開催日は年間30日を下らないから,30日分相当。),⑤同年5月から,毎年1月,5月及び9月の各末日限り力士補助費2万5000円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払ずみまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 イ本件役務提供契約が労働契約であることの根拠は,次のとおりである。 まず,原告は,師匠である親方を通じて,被告の指揮監督下にあった。 すなわち,力士は,稽古,本場所,巡業のいずれでも,被告から場所的・時間的拘束を受け,稽古,本場所及び巡業での業務遂行(土俵入りの参加等)において,被告の指揮監督が及んでいた。また,力士は,稽古の参加,本場所及び巡業への出場について,然るべき事情の存在を前提に被告に申し出た上で,参加・出場を見合わせることはあるが,諾否の自由はない。 力士は,直接には各所属部屋の親方の指導監督下に置かれる の参加,本場所及び巡業への出場について,然るべき事情の存在を前提に被告に申し出た上で,参加・出場を見合わせることはあるが,諾否の自由はない。 力士は,直接には各所属部屋の親方の指導監督下に置かれるものの,親方衆も被告の協会員であり,被告より給与を受け(甲4・2条),必要に応じて被告指導普及部の指導を受ける立場にあること(甲3・指導普及部規- 9 -定5条),力士に対する指導不足があれば親方も責任を負い(例えば,甲3・故意による無気力相撲懲罰規定7条参照),被告の懲罰権が及ぶ(甲2・88条,89条)等,被告の指揮監督下にあるから,ひいては力士も親方衆を通じて被告の指揮監督下にあるということができる。 力士の日々の稽古については属する部屋によって異なるが,原告が属していたD部屋の関取は,毎日午前8時~午前10時過ぎ,部屋の稽古場での稽古が課され,日々の鍛錬が必要なことから,土日を問わず午前中の稽古が課されていた。寝坊などすれば親方から叱責を受けるし,病気怪我等で稽古を休むときも親方と相談した上でなければならなかった。稽古中も手を抜いていれば,親方から注意される。以上に加え,その他力士の養成,教育等について寄附行為施行細則上に定めがないことについては,師匠が処理するものとされること(甲2・68条)に鑑みれば,力士が,一定の時間・場所で師匠の指揮監督下に置かれていたことは明らかである。 本場所についても,明示的な規定はなくとも,力士は出場が義務づけられている(被告の活動を支える収入の大半は,本場所開催による収益であり,力士が勝手に本場所を休場することは全く予定されていない。)。すなわち,被告(審判部)は,一方的に力士の番付を決定し,番付に従って一方的に取組を決めるのであるから,力士は,当然当該取組に出場することが義 勝手に本場所を休場することは全く予定されていない。)。すなわち,被告(審判部)は,一方的に力士の番付を決定し,番付に従って一方的に取組を決めるのであるから,力士は,当然当該取組に出場することが義務づけられており,力士の自由意思で,本場所への参加の有無を決することはおよそ想定されていない。力士は,怪我等のやむを得ない場合に被告に対し医師の診断書を添付して届け出て,初めて本場所の休場を被告から許される場合があるに過ぎない。 原告のような十両力士は,本場所中は,午後2時25分ころに始まる土俵入りへの参加は義務づけられており,それに間に合うように会場に入ることが要求されている。もっとも,頭を結う等の準備もあるので,実際に会場入りするのはそれよりもずっと前であり,原告の場合は午後0時過ぎ- 10 -に会場入りしていた。土俵入り後,被告が定めた取組順により取組を実施することとされていた。このように,関取は,自分の取組をこなせばよいという立場ではなく,土俵入り(厳密には頭を結う等の支度)から自己の取組が終わるまでの間,時間的・場所的拘束を受けていた。このような拘束が,年間90日(15日×6場所)の本場所中には課されていた。 本場所の相撲は,土俵上での所作,立ち振る舞いも重要視され,土俵上で四股を踏むこと,水で口をすすぎ,紙で拭いて塩を撒くこと等,被告の寄附行為施行細則で定められており,これらについても,力士は,被告の指導監督下に置かれている(相撲規則・力士(競技者)規定7条,8条,指導普及部規定4条,5条参照)。 本場所の他にも,被告が全国各地で合計約6週間程度行っている地方巡業でも,力士は,被告の指導監督下に置かれる(地方巡業部規定11条)。 地方巡業も被告の極めて重要な事業の一つであり,全関取が参加を強制さ 所の他にも,被告が全国各地で合計約6週間程度行っている地方巡業でも,力士は,被告の指導監督下に置かれる(地方巡業部規定11条)。 地方巡業も被告の極めて重要な事業の一つであり,全関取が参加を強制され,怪我等の正当な理由がなければ休むことは許されない。地方巡業では,十両力士は,午前7時,8時に会場入りし,午前9時ころから午前10時30分ころに土俵で稽古をし,午後0時ころから,序の口から順に取組を実施し,十両力士は土俵入りを行った後,順次取組を行う。また,力士は,日替わりで,サイン会,握手会やちびっ子相撲等のファンと交流するイベントにも参加する。 被告が行っている海外巡業は,これまで基本的に1週間程度実施され,幕内力士とその付け人のみの参加が通例であったが,平成20年に実施されたモンゴル巡業には,モンゴル出身力士は全員参加を命じられ,原告も参加した。海外巡業における一日の流れは,上記地方巡業と同様である。 巡業では,巡業参加手当が支給されるが,十両力士の場合,1日あたり8000円で,基本的には,月額給与が巡業参加の対価と評価でき,巡業参加手当はこれを補完するものにとどまる。 - 11 -その他にも,力士は,自動車の運転を禁じられているし,外出時の服装について制限される等,被告から強い規律を受けている。 被告は,原告に支払われる金員を給与所得と捉え,源泉徴収をし,厚生年金,健康保険の保険料も徴収している。原告には自己の計算で事業を営む者としての要素(機械・器具・経費の負担,剰余金の取得,危険や責任の引受,他人の雇用等)はなく,被告に使用されて労働の対価を得ている。 被告では,福利厚生(寄附行為39条等)や退職金制度(寄附行為施行細則給与・手当支給規定49条)が設けられ,被告が「退職金」 ,他人の雇用等)はなく,被告に使用されて労働の対価を得ている。 被告では,福利厚生(寄附行為39条等)や退職金制度(寄附行為施行細則給与・手当支給規定49条)が設けられ,被告が「退職金」「解雇」という用語を使用することも,原告の労働者性を肯定する事情である。 ウ仮に本件役務提供契約の法的性質が労働契約でなかったとしても,本件役務提供契約にも労働契約法16条が類推適用される。同条の定める解雇権濫用法理の趣旨は,労働契約が労働者にとって生活基盤となっていることから,労働者には雇用継続について合理的な期待が認められる点にある。原告は専ら被告から支払われる金員を生活の基盤としており,原告が日本に留学した10数年前から相撲一筋であることからその依存の度合いも極めて高いから,同条を類推適用すべきである。 後記のとおり,原告が八百長相撲を行った事実はないから,本件解雇は無効であり,原告は,被告に対し,上記アと同一の確認請求及び支払請求をすることができる。 エ仮に本件役務提供契約の法的性質が準委任ないしそれに類似する契約であったとしても,原告・被告間の継続的契約関係に照らせば,被告の一方的意思表示により契約関係を解消できるのは,原告が契約関係の基礎にある信頼関係を根本から破壊する等,これを継続することが困難であると認められるような特段の事情がなければならないというべきである。 後記のとおり,原告が八百長相撲を行った事実はなく,信頼関係を根本から破壊する等の特段の事情はないから,本件解雇は無効であり,原告は,- 12 -被告に対し,上記アと同一の確認請求及び支払請求をすることができる。 (被告の主張)ア本件役務提供契約の法的性質が労働契約であるとの原告の主張は,否認する。本件役務提 - 12 -被告に対し,上記アと同一の確認請求及び支払請求をすることができる。 (被告の主張)ア本件役務提供契約の法的性質が労働契約であるとの原告の主張は,否認する。本件役務提供契約の法的性質は,準委任契約である。 力士が被告に対して提供する役務は,労働契約上の義務(労務提供)とは異なり,主体的な努力により培った相撲の技能を前提に,本場所相撲に出場することを基本的な内容とする。被告は,こうした力士による相撲競技という一種のパフォーマンスの受託提供に対して,その技量と格付けに応じた報酬を個々の力士に支払うことを約したものである。力士が被告から得る金員は,業務時間と全く関係なく成績により定まり,通常の労働者に比べはるかに高額であること等から,労働の対償たる雇用契約上の給与とは評価できない。 原告は,本場所及び巡業に参加して,相撲競技という一種のパフォーマンスを提供しているに過ぎず,雇用契約上の労務提供は認められない。 すなわち,原告は,相撲競技(本場所相撲)への参加を義務付けられ,土俵入りから取組が終わるまで概ね原告主張のとおりのタイムスケジュールで動いていること,また,地方巡業に全関取が参加を強制され,力士が原告主張のとおりの役割を果たしているが,力士が本場所及び巡業に出場することは準委任契約の本質的内容である。また,土俵上での所作,立ち振る舞いに一定のルールがあることも原告主張のとおりであるが,相撲にも,他の競技と同様に一定のルールがあり,受任者である原告がこれに従って業務を遂行することは当然のことである。したがって,いずれも雇用契約を基礎付ける指揮監督性とは無関係である。 また,D部屋での原告の稽古・生活状況については不知であるが,稽古は自己の鍛錬のために行うものであり,被 ことである。したがって,いずれも雇用契約を基礎付ける指揮監督性とは無関係である。 また,D部屋での原告の稽古・生活状況については不知であるが,稽古は自己の鍛錬のために行うものであり,被告が強制しているものではない。むしろ,力士が師匠に対し稽古をつけてもらうようお願いし,師匠が- 13 -これを受諾するのが稽古の本質であり,専ら自身の成長のために師匠の指導を受けながら相撲部屋で稽古に励むことを,被告のための労務提供と評価することはできない。力士の養成について寄附行為施行細則上に定めがないときは師匠において処理する旨の原告指摘の規定は,施行細則に定めのない事項の処理の方針を定めたものに過ぎず,原告の義務を直接定め,強制するものではない。 原告指摘の指導普及部の規定は,被告が国技としての正しい相撲の伝承のために設置した指導普及部が,力士に対し,正しい相撲の在り方,相撲お技術,土俵態度等を指導する役割を担うことを定めた抽象的規定に過ぎず,原告の義務を直接定め,強制するものではないし,仮に原告がこのような義務を負うとしても,そこから直ちに労務提供に対する被告の指揮監督権の行使と評価できるものではない。 そして,原告が被告から得る金員は,雇用契約上の給与とみることはできない。すなわち,力士が受け取る金員の額は,従事した時間を考慮せず,相撲競技の勝ち数に応じた番付の昇降によって定まるのであるから,「使用者の指揮監督のもとに一定時間労務を提供した対価」とは評価できず,一般芸能人の出演料や,野球選手に対する報酬等と同様に,力士が提供する相撲競技という一種のパフォーマンスに対する報酬たる性質を有するものである。幕内力士の平均給与は,概算で年間2100万円であり,通常の労働者に比べてはるかに高額である。力士が入幕する 力士が提供する相撲競技という一種のパフォーマンスに対する報酬たる性質を有するものである。幕内力士の平均給与は,概算で年間2100万円であり,通常の労働者に比べてはるかに高額である。力士が入幕するまでは,力士養成員として1場所出場ごとに15万円が支払われるのみであるが,このように入幕の有無によって金銭面を含む待遇が大きく異なることも,給与としての性質とは相容れないものである。さらに,力士の「月給」は,明治時代の東京大角力協会申合規則にある歩方金(興行利益配当金)に由来し,昭和32年5月に,横綱,大関,関脇小結,幕内,十両の各階級区分の直近の年間配当実績の平均を算出し,その12分の1を月ごとに支給するこ- 14 -ととされたものであり,歴史的にも興行利益の配当金という性格を有しているのであり,労働の対価としての性質を有していない。 原告と被告との関係は,江戸時代より受け継がれてきた独特の相撲慣習を基礎として,極めて特殊な部分社会的関係において形成されたものであり,時間外労働手当・有給休暇・解雇予告手当の不支給をはじめ,多くの点で労働法規と整合しない。すなわち,現在の相撲社会は,本場所興行や地方巡業において収益を確保し,その収益を興行・巡業参加者に分配して成り立っているところ,相撲部屋の長である師匠は力士を育成し,個々の力士は,直接被告に参加するのではなく,相撲部屋を通じて参加する。 まず,力士を志望する者は,師匠である年寄(いわゆる親方)を介して被告に力士検査届を提出し,被告の検査に合格した者が力士として登録される。力士は,部屋の親方が手続をとることにより,被告の人別帳に登録され,これによって,初めて相撲をとれるようになる。このように,被告と力士の関係は,本場所興行を主催する被告において,当該力士が参加力士として「 部屋の親方が手続をとることにより,被告の人別帳に登録され,これによって,初めて相撲をとれるようになる。このように,被告と力士の関係は,本場所興行を主催する被告において,当該力士が参加力士として「登録」されているか否かだけの関係であり,プロゴルフやプロ野球で,各選手が協会の名簿に登録し,協会が主催する大会や試合に参加することで賞金等を稼ぐのと同様の関係である。また,力士が引退する場合は,親方が当該力士の引退届を被告に提出し,これにより当該力士は引退扱いとなり,番付から外されて相撲を取ることができなくなるのであるが,師匠が弟子の引退届を提出するか否かは,師匠が当該力士の資質や技術をみて判断するものとされており,師匠が引退届を出すにあたって,当該力士の承諾は不要である(被告で用いられている力士の引退届には,師匠の署名押印欄はあるが,力士本人の署名押印欄は設けられていない。)。 このように,力士と師匠の関係は,江戸時代から受け継がれてきた相撲慣習が「家制度」を基礎としていたことから,師匠に絶対的決定権があるのであり,これは,原告と被告の関係が,雇用関係ではなく,部屋制度を前- 15 -提とした特殊な関係にあることを示すものである。 原告に給与という名称で支給される金銭から厚生年金,健康保険の保険料が控除されていることは原告主張のとおりであるが,給与所得に対する源泉徴収は実施していない。また,労災保険や雇用保険は労働契約における「従属労働」という本質から導かれるものであって,東京労働局の指導により力士及び力士養成員は労災保険に加入できなかった。力士は,雇用保険にも加入していない。被告は,被告の従業員退職金支給規定2条で,本規定の従業員は「力士を除く」と明確に記載し,力士を従業員と区別して扱っている。力士には,退職金ではなく, なかった。力士は,雇用保険にも加入していない。被告は,被告の従業員退職金支給規定2条で,本規定の従業員は「力士を除く」と明確に記載し,力士を従業員と区別して扱っている。力士には,退職金ではなく,力士養老金が支給される。 力士が自動車の運転を禁じられていること,外出時の服装について制限されていることは原告主張のとおりであるが,これは,他の競技選手にもよく課される制限であり,むしろ労働者に上記制限を課す方が稀である。 イ仮に本件役務提供契約の法的性質が雇用契約(労働契約)でなかったとしても,本件役務提供契約には労働契約法16条が類推適用されるとの原告の主張及び仮に本件役務提供契約の法的性質が準委任ないしそれに類似する契約であったとしても,被告の一方的意思表示により契約関係を解消できるのは,原告が当該契約関係の基礎にある信頼関係を根本から破壊する等これを継続することが困難であると認められるような特段の事情がなければならないとの原告の主張は,いずれも争う。 本件役務提供契約は,原告が相撲競技(本場所と地方巡業)に出場し,本場所でのパフォーマンスを提供することに対し,被告がその技量と格付けに応じた報酬を支払うという準委任契約の関係に過ぎず,普段の部屋での生活や稽古は契約の内容に含まれないから,継続的な契約関係であるとはいえず,被告は,民法の定めに基づき,いつでも原告との契約を解除することができる(民法656条,651条1項)。委任契約が信頼関係を基礎とし,民法651条が相手方に不利な事由がある場合でも契約継続で- 16 -はなく損害賠償で解決すべきことを定めているし,相撲の世界は,実力主義の下,激しい人的交代にさらされており,力士の生活保障的な要素は薄く,引退の判断も師匠の責任で行い,当該力士の承諾は不要とさ -はなく損害賠償で解決すべきことを定めているし,相撲の世界は,実力主義の下,激しい人的交代にさらされており,力士の生活保障的な要素は薄く,引退の判断も師匠の責任で行い,当該力士の承諾は不要とされていることからしても,本件役務提供契約の解除は広く認められるべきである。 ウ地方巡業開催日が年間30日は下らないとの原告の主張は,否認する。 平成22年度の地方巡業開催日は19日間であり,平成23年度の地方巡業開催日は0日である。 (2) 本件役務提供契約の終了事由の有無(争点2)(被告の主張)ア原告は,平成23年1月場所7日目のAとの取組(以下「本件取組」という。)で,故意による無気力相撲を行った。 このことは,Eが,本件取組を含む平成23年1月場所の原告,A,Bの各取組について,三者が1勝1敗となるようにするという内容の故意による無気力相撲を仲介した旨を供述し,Aも,本件取組がEの仲介により行った故意による無気力相撲であったと供述していることから,認めることができる。E及びAは,いずれも被告や原告との間に虚偽の供述をするだけの利害関係はなく,偽証罪による刑事罰や原告からの報復等を受ける危険を冒してまで虚偽の供述をする動機はないし,記憶の正確性を疑うべき事情は見当たらず,供述内容も具体的かつ迫真的であって,一貫性・合理性も認められるから,その供述はいずれも信用することができる。原告は,E及びAが,D部屋に所属する原告が故意による無気力相撲を行っていたとの虚偽の供述をすることによって,師匠であるF親方にも責任を取らせ,F親方に対する恨みを晴らそうとした旨主張するが,E及びAは,いずれもF親方に恨みを持っていたことを否定しているし,F親方に対する恨みがあったからといって,直ちに原告の力 るF親方にも責任を取らせ,F親方に対する恨みを晴らそうとした旨主張するが,E及びAは,いずれもF親方に恨みを持っていたことを否定しているし,F親方に対する恨みがあったからといって,直ちに原告の力士生命を奪うことになりかねない重大な虚偽供述をするとも考え難いのである。 - 17 -イ真剣勝負をうたう本場所興行で,原告が,故意による無気力相撲を行ったことは,相撲ファンの信頼を損ない,本場所興行を主体に活動している被告の根幹を揺るがすものである。現に,原告とAとの本件取組を含む一連の故意による無気力相撲の発覚により,被告は,平成23年3月場所の興行を中止するという前代未聞の事態に陥り,社会的信用が失墜し,G放映料等の多額な収入が得られなくなった上,本場所興行中止による莫大な損害賠償請求をされている。 本場所興行における故意による無気力相撲は,被告の根幹を揺るがすものであるため,被告は,故意による無気力相撲について,「故意による無気力相撲懲罰規定」を設け,これに関与した力士に対する厳しい処分を規定し,絶対的に禁止してきた。被告は,審判部や親方を通じて,日々,力士に対し故意による無気力相撲を行わないように強く指導してきた。 本件役務提供契約の解除である本件解雇について,格別の事情が必要とされるものではない。しかし,仮に本件解雇について,雇用契約のような,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であることが必要であるとの見解に立ったとしても,原告は,被告が強く禁止していた故意による無気力相撲を行い,被告の信頼を根幹から揺るがす事態に陥らせたのであるから,被告が本件引退勧告を行い,これに従わなかった原告に対して本件解雇をしたことは,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当である。 (原告の主張) 揺るがす事態に陥らせたのであるから,被告が本件引退勧告を行い,これに従わなかった原告に対して本件解雇をしたことは,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当である。 (原告の主張)ア原告は,これまで一切の取組において,無気力相撲を行ったことも,それを持ちかけたことも,持ちかけられたこともなく,本件取組で故意による無気力相撲を行った事実はない。 本件は,F親方に対する極めて峻烈な恨みを持つH,A及びEが,F親方を陥れるために原告が故意による無気力相撲を行ったという虚偽の供述を行った事案である。そもそも,故意による無気力相撲を行う力士たち- 18 -は,ある取組について故意による無気力相撲を行って未精算の星の貸し借りが発生した後に,当該取組後の各力士の星取り状況等の変化に対応しつつ,故意による無気力相撲を行うグループ全体における星の貸し借りを円滑に精算できるように,未精算の星の貸し借りの精算方法を複数用意しているが,いかなる精算方法を採用するかの選択・判断は,最初の故意による無気力相撲を行う前にするものではなく,当該無気力相撲を行った後,それ以降の各力士の番付及び星取り状況の変化,グループ内の他の力士間の星の貸し借りの状況等を踏まえてなされるものであるから,平成23年1月場所2日目のAとBとの取組の前に,原告を加えた三者で1勝1敗ずつとなるようにする旨を合意したとのE及びAの供述は,この点において既に破綻しており,信用することができない。 イ仮に原告が本件取組において故意による無気力相撲を行っていたとしても,本件解雇は社会通念上相当とはいえない。 被告の「故意による無気力相撲懲罰規定」6条には,故意による無気力相撲を行った力士に対する懲罰として,除名,引退勧告,出場停止,減俸,けん責の も,本件解雇は社会通念上相当とはいえない。 被告の「故意による無気力相撲懲罰規定」6条には,故意による無気力相撲を行った力士に対する懲罰として,除名,引退勧告,出場停止,減俸,けん責の5種類が設けられており,被告は,横綱や大関が故意による無気力相撲を行った場合に比べてその影響は限定的に止まる十両力士である原告に対し,本件取組という1回の故意による無気力相撲を理由として,2番目に重い処分である引退勧告を選択して,本件引退勧告を行い,これに応じなかったことから本件解雇を行った。本件解雇は,処分事由との均衡を失した重過ぎる処分であり,社会通念上相当であるとはいえない。 被告は,これまでマスコミによって繰り返し故意による無気力相撲の存在が指摘され続けてきたことから,故意による無気力相撲の存在を認識していたのに,有効な対策を積極的に行わずに,故意による無気力相撲を黙認してきたのだから,従来黙認されてきた故意による無気力相撲を理由として処分を行うためには,力士らに対し事前に十分な警告を行って,故意- 19 -による無気力相撲を行った場合には処分を受ける可能性があることを認識させる必要がある。ところが,被告は,このような事前の警告を行わずに,これまで黙認してきた故意による無気力相撲を理由として本件解雇を行ったものであり,この点からも社会通念上相当であるとはいえない。 同じ規定に同じ程度に違反した場合には,これに対する懲戒は同じ程度であるべきである。ところが,被告は,故意による無気力相撲を行ったか否かを調査する範囲を恣意的に平成21年以降の取組に限定し,親方衆が過去に故意による無気力相撲に関与していたことを週刊誌等に供述してきた元力士らに対する事情聴取を実施しておらず,調査・処分対象範囲を恣意的に設定した。このよ に平成21年以降の取組に限定し,親方衆が過去に故意による無気力相撲に関与していたことを週刊誌等に供述してきた元力士らに対する事情聴取を実施しておらず,調査・処分対象範囲を恣意的に設定した。このように,本件解雇は,公平性の要請を無視した点においても,社会通念上相当であるとはいえない。 被告は,本件解雇を行うにあたり,原告が提出を快諾した携帯電話の解析を行わず,解析を行った携帯電話2台についてもその終了を待たないで本件解雇を行っており,客観的証拠を吟味しておらず,原告が本件取組で故意による無気力相撲を行ったことを認定した根拠となったE及びAの供述について,反対尋問による供述内容の確認の機会が与えられていない。また,被告は,Eが本件取組で故意による無気力相撲が行われた旨を供述してからわずか2週間で,形式的に1回弁明の機会を設けたのみで,本件引退勧告を行っており,供述証拠について慎重に信用性を吟味していない。さらに,本件引退勧告の検討期間はわずか2日間で,「引退届を出さなければ退職金を出さない」と虚偽の事実を告げて,経済的困窮につけ込んで引退届を提出させようとした。以上,本件解雇は,適正手続を遵守しておらず,社会通念上相当であるとはいえない。 ウよって,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとはいえないから,解雇権を濫用したものとして無効である。 (3) 損害賠償請求の可否(争点3)- 20 -(原告の主張)ア力士である原告は,本件解雇により,相撲勘を養う最高の機会である本場所に出場することができなくなったことに加え,所属するD部屋から追い出され,日々の稽古での鍛錬の機会も奪われたことから,平成12年4月に相撲留学のため単身来日して以来,相撲一筋に精進して鍛え上げてきた 出場することができなくなったことに加え,所属するD部屋から追い出され,日々の稽古での鍛錬の機会も奪われたことから,平成12年4月に相撲留学のため単身来日して以来,相撲一筋に精進して鍛え上げてきた肉体,技術,相撲勘が日々劣化していくことは避けられず,自身の力士生命が事実上潰えてしまうのではないかという恐怖に苛まれている。原告は,本件解雇当時27歳であり,最も実力を発揮することが期待できる時期に,本件解雇によって相撲から離れざるを得なくなったことで,将来的な幕内昇進の可能性が著しく減退し,幕内昇進の有無や在籍期間が給与額,退職金額に影響し,師匠として新たな部屋を持つ条件とされることから,その将来に多大な影響を受けることになった。また,被告における今回の八百長問題は,日本及び祖国モンゴルでも,社会的に極めて高い関心が寄せられ,報道でも大々的に取り上げられたことから,本件解雇により,「八百長力士」として見られるようになった原告の社会的評価は著しく低下し,真剣勝負を貫いてきたプロアスリートとしての原告の誇りは完膚なきまでに叩き潰された。このような原告の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は,2000万円を下らない。 イモンゴル人である原告は,本件解雇を争うための仮処分手続及び本件訴訟手続を追行するために弁護士を選任したほか,証人尋問の実施のために名古屋及び大阪へ移動し,モンゴルに帰国した元力士を証人として来日させることを余儀なくされ,弁護士費用,交通費・渡航費を負担した。 これらの経済的な損害のうち,提訴時の訴訟物の価額の約10分の1に相当する400万円は,本件解雇と相当因果関係ある損害である。 ウ被告は,本件解雇にあたり,E及びAの供述が具体的内容を伴っておらず,両名が供述書の作成も今後の調査協力も拒否する姿勢を示 に相当する400万円は,本件解雇と相当因果関係ある損害である。 ウ被告は,本件解雇にあたり,E及びAの供述が具体的内容を伴っておらず,両名が供述書の作成も今後の調査協力も拒否する姿勢を示していたに- 21 -もかかわらず,原告からの聴取も形だけしか行わず,E,A及び原告の供述の信用性を慎重に検討することなく,原告がAと故意による無気力相撲を行った旨の解雇理由を認定した。 本件解雇は,今後,プロとして相撲を取ることができない事態を招来させるのであるから,被告は,無気力相撲への関与の有無は,犯罪事実の認定に準じ,十分な調査,証拠収集を行って,慎重に判断すべきであったのに,上記のとおり,杜撰な調査によって本件解雇に及んだものであるから,被告に重大な過失があったのであり,本件解雇は不法行為を構成する。本件役務提供契約が原告の生活基盤に関わる継続的契約関係であることに照らせば,被告には,懲戒処分をするに際し,原告の生活基盤や名誉等を不当に害しないようにする信義則上の義務があり,杜撰な調査によって本件解雇に及んだことは,この義務に違反する債務不履行を構成する。 エよって,原告は,被告に対し,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償金2400万円及びその遅延損害金の支払請求をすることができる。 (被告の主張)原告の主張は争う。上記(1)及び(2)のとおり本件解雇は有効であり,完全に適法なものである。 第3 当裁判所の判断 1 将来の給付の訴えの利益について原告が被告に対し本件役務提供契約上の権利を有する地位の確認と同時に,将来の同契約上の対価を請求する場合,同契約上の権利を有する地位を確認する判決の確定後も被告が原告からの役務提供の受領を拒否して,対価請求権の存在を争うことが予想される を有する地位の確認と同時に,将来の同契約上の対価を請求する場合,同契約上の権利を有する地位を確認する判決の確定後も被告が原告からの役務提供の受領を拒否して,対価請求権の存在を争うことが予想される等特段の事情が認められない限り,対価請求のうち判決確定後に係る部分については,「あらかじめその請求をする必要」(民訴法135条)がないと解すべきである。本件において,上記特段の事情を認めるだけの具体的な根拠はない。 - 22 -したがって,本件訴えのうち,本判決確定の日の翌日から,①毎月25日限り月額103万6000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員,②毎年8月及び12月の各末日限り103万6000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員,③毎奇数月末日限り16万円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員,④毎年12月末日限り24万円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員,⑤毎年1月,5月及び9月の各末日限り2万5000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員の各支払請求に係る部分は,あらかじめその請求をする必要がなく,不適法である。 2 争点2(本件役務提供契約の終了事由の有無)について(1) 本件処分事由は,平成23年1月場所での7日目のAとの本件取組が,故意による無気力相撲であったことであり,対戦相手のAと,仲介役をしたとするEは,これを肯定する供述をし,一方,原告は,これを否定する供述をする。そこで,A及びEの各供述の信用性を検討することが必要となる。この点について,前記前提事実及び証拠(乙3~5,証人I,証人J)によれば,次の事実を認めること 一方,原告は,これを否定する供述をする。そこで,A及びEの各供述の信用性を検討することが必要となる。この点について,前記前提事実及び証拠(乙3~5,証人I,証人J)によれば,次の事実を認めることができる。 ア Eは,被告の特別調査委員会から,平成23年2月3日(1回目),同月8日(2回目),同月16日(3回目),同月19日(4回目),同月26日(5回目),同年3月16日(6回目)及び同月30日(7回目)の,前後7回にわたる事情聴取を受けた。3回目~7回目の事情聴取には,Eが依頼していたK弁護士も同席していた。この間,Eは,力士同士の連絡の伝達役をしたり,星の貸し借りの記録をする等の故意による無気力相撲への関与を認め,警視庁提供メールに名前がある力士以外にも故意による無気力相撲に関与した力士がいることを示唆した。4回目の事情聴取の際,Eは,これまでに伝達役等をしたことがある力士について,自分が力- 23 -士の名前を述べるとどのような影響があるかを気にしながらも,原告を含む9人の力士の名前をあげた。その際,故意による無気力相撲の取組を特定して覚えていないと強調したところ,直前の場所である平成23年1月場所であれば記憶しているのではないかとの質問を受け,同場所の取組のうち,AとBの取組は,故意による無気力相撲であり,このときは携帯電話によるメールではなく,面談して伝達している旨答えた。6回目の事情聴取の際,Eは,5回目までの事情聴取の結果をまとめた供述書に署名を求められると,メールに名前が出ていた人は仕方がないので前の供述書に署名したが,それ以外の人については自分が供述したことにより処分されるのではないか,何があるか分からないではないですか等と述べ,署名はしなかった。 7回目の事情聴取の際,調査委員から,原告につ たが,それ以外の人については自分が供述したことにより処分されるのではないか,何があるか分からないではないですか等と述べ,署名はしなかった。 7回目の事情聴取の際,調査委員から,原告については,Hの供述により具体的な取組が特定できなかったため「シロ」と判断せざるを得ないと告げられ,Eは,「それはおかしいでしょう。AさんやBさんは何も言っていないのですか。」と述べた。調査委員が,これまでAらの供述はないし,具体的な取組が特定できないと故意による無気力相撲をしたと認定することはできないことを改めて説明すると,Eは,平成23年1月場所の星取表を求めて確認した後,「間違いありません。このときの取組は,L,A,Bの3人の星の回しです。自分が仲介しました。」と断言した。 同月31日の朝,Eは自ら調査委員に電話し,ある親方から供述を撤回するよう求められていると述べた。そして,同年4月5日,K弁護士は,調査委員に対し,E自身はどこかに籠もりたいと述べていて事情聴取ができる状況ではないと説明した。 イ Aは,被告の特別調査委員会から,平成23年2月3日(1回目),同月12日(2回目),同月16日(3回目),同月18日(4回目),同月23日(5回目),同月26日(6回目)及び同年3月10日(7回目)- 24 -の,前後7回にわたる事情聴取を受けた。この間,A自身が故意による無気力相撲を行ったこと,警視庁から提供されたメールの内容が故意による無気力相撲に係るものであること,Eが故意による無気力相撲を仲介していたことを認めたが,具体的な取組を特定したかたちで,他の力士の名前を挙げることについては,警視庁から提供されたメールで判明していた取組の相手方,すでに理事会で無気力相撲に関与していた取組の相手方を認めていた以外は,故意 的な取組を特定したかたちで,他の力士の名前を挙げることについては,警視庁から提供されたメールで判明していた取組の相手方,すでに理事会で無気力相撲に関与していた取組の相手方を認めていた以外は,故意による無気力相撲の具体的な取組及びその相手方に関して明言を避け,仲間の名前を出すようなことはできない,メールの履歴などを突きつけられて話すのなら仕方がないが,自分の発言がきっかけで,他の力士が相撲を取れなくなってしまうのは困る等と供述していた。 この間,無気力相撲は3人で回せば1勝1敗になるので,ガチンコでやって2敗するよりましであること,片八百長はなく,必ず合意の下にやること,幕下に落ちる心配がない番付のときは,翌場所に星をもらうために貸すこともあること等を供述している。3回目の事情聴取の際,Aは,Bについても警視庁提供メールがある以上,無気力相撲に関わっていたことを認めざるを得ないとして,平成23年1月場所のBとの取組が故意による無気力相撲であることを認め,4回目の事情聴取で,この取組は,精算の一環だと思うと供述していた。そして,6回目の事情聴取の際は,既に名前の挙がっている力士らのうち,無気力相撲を認める者がいれば自分が名指しをしなくてすむから,彼らが認めるか否か様子を見たい,Hが誰の名前を挙げているのかを開示してほしいという発言をしていた。 同年3月31日,調査委員がAに対し,電話で,平成23年1月場所でのA,原告,Bの3番(本件各取組)がEの仲介による回しによる無気力相撲である旨をEが供述していることを確認したところ,Aは,「Eがそう話したのでしょう。それは事実です。認めます。平成23年1月場所の自分とL,Bの三番は回しによる無気力相撲です。」と述べた。そして,- 25 -同年4月1日の被告の理事会で,Aは,平成23 がそう話したのでしょう。それは事実です。認めます。平成23年1月場所の自分とL,Bの三番は回しによる無気力相撲です。」と述べた。そして,- 25 -同年4月1日の被告の理事会で,Aは,平成23年1月場所での原告との本件取組は,故意による無気力相撲であると明言した。同年4月5日に,調査委員から電話で,原告との取組について改めて面談での事情聴取を要請されたのに対し,それ以上の事情聴取には応じられないと言明した。 ウ Eの証人尋問における供述の要旨は,次のとおりである。 本件各取組について故意による無気力相撲の仲介を行うことになった発端は,A又はBのいずれかから,平成23年1月場所2日目の両者の取組について故意による無気力相撲をお願いしたいという電話がかかってきたことによる。東十両13枚目のAは7勝,東十両11枚目のBは6勝しないと,いずれも幕下陥落のおそれがあったことから,何とかして最低限の白星をあげたいという目的であると理解した。ところが,A及びBともに勝ち星が欲しいということで,何度か調整しようとしたが,AとBの二者間では調整がつかなかった。そこで,平成23年1月場所中に3人で1勝1敗ずつになるように星を回すことにし,東十両13枚目のA及び東十両11枚目のBと番付が近く,故意による無気力相撲を行ってくれる力士として,原告を3人目にすることを考えた。この発案者がA,B又は自分のいずれであるかは覚えていないが,原告に対して故意による無気力相撲の仲介をするのは初めてではないことから,原告に故意による無気力相撲の仲介を持ちかけても問題はないと考えた。平成23年1月場所2日目の土俵入りの前に,支度部屋の裏の通路で,原告に対し,A及びBとの三者で星を回す故意による無気力相撲を行うことを依頼したところ,原告は,自分も厳しい ても問題はないと考えた。平成23年1月場所2日目の土俵入りの前に,支度部屋の裏の通路で,原告に対し,A及びBとの三者で星を回す故意による無気力相撲を行うことを依頼したところ,原告は,自分も厳しいと言ってすぐには了承しなかったが,1勝1敗に持ち込めることを説明して,最終的な承諾を得た。3日目は,土俵入りの前に,支度部屋の裏の通路で,原告に対し,昨日の今日で申し訳ないが,3人で星を回すので,昨日負けたBは今日勝つ番なのでお願いできますかと話した。 三者の精算の日である7日目は,土俵入りの前に,支度部屋で,原告に対- 26 -し,今日は勝つ番である旨を話した。 特別調査委員会の事情聴取で供述書に署名しなかったのは,E自身は仲介をしただけで,仲介した力士が本当に故意による無気力相撲をしたかどうかは分からないこと,供述書に署名をすることによって,自分が名前を挙げた力士の力士生命が絶たれてしまうおそれがあったこと,仲間を売ることはできないという思いがあったこと,自分が名前を挙げた力士からの報復も怖かったこと等からである。 平成23年3月30日に,初めて本件各取組が故意による無気力相撲であることを調査委員に述べたのは,調査委員から処分の見込みについて,E自身は2年間の出場停止処分,自分が名前を挙げた力士のほとんどは引退勧告であるが,原告だけはシロである旨言われ,故意による無気力相撲に関与していた力士の中でなぜ原告だけがシロなのか,不公平であると感じたからである。原告とは,一緒に食事に行く等の個人的付合いはなく,原告に恨みを持つようなことはなかった。 Eは,力士仲間の間で,F親方と調査委員のM弁護士が親密な仲で,関取をかばうという疑いがあるとの噂,野球賭博事件でD部屋の力士が処分を受けなかったのは,F親方の策謀で なことはなかった。 Eは,力士仲間の間で,F親方と調査委員のM弁護士が親密な仲で,関取をかばうという疑いがあるとの噂,野球賭博事件でD部屋の力士が処分を受けなかったのは,F親方の策謀であるとの噂があったことは認識していたが,E自身,約10年前に,九州場所中の福岡で,F親方から,頑張れよ,強くなったら部屋は違っても自分の地元の後援者も紹介してやる等の優しい言葉を掛けてもらったこと等もあり,F親方に対して悪い感情を持っていなかった。 エ Aの証人尋問における供述の要旨は,次のとおりである。 本件各取組で故意による無気力相撲を行うことは,2日目の土俵入り前に決まったが,当初,2日目の取組でAかBのどちらが勝つのかの調整がつかなかったため,経緯はよく分からないが,Eが,支度部屋の裏の通路で自分のところに話を持ってきた段階では,原告を加えた三者で星の回し- 27 -をすることになったことを調整していたと思う。7日目の原告との取組で,故意による無気力相撲を行ったことは,間違いない。 4回目の特別調査委員会の事情聴取の際,平成23年1月場所のBとの取組について精算の一環だと思うと述べたのは,原告の名前を出したくなかったので,本件各取組の星の回しの一部であると言わなかった。 平成23年4月中旬に原告から電話がかかってきた際,故意による無気力相撲を行った者として原告の名前を出したことは悪かった旨の発言はした。原告から,裁判に勝ちたいから協力してくれ,親方に恨みがあるからお前の名前を出したと言ってくれと言われたが,断った。 平成23年1月場所当時,原告の携帯電話の番号やメールアドレスは知らなかったが,原告とは,何人かで一緒に飲みに行ったり,稽古場で話をする等仲がよかった。原告に対し 言われたが,断った。 平成23年1月場所当時,原告の携帯電話の番号やメールアドレスは知らなかったが,原告とは,何人かで一緒に飲みに行ったり,稽古場で話をする等仲がよかった。原告に対し,恨みを持っていることはないし,悪い感情を持ったこともなかった。F親方については,野球賭博問題の際に,弟子をかばったことに対する不信があったが,A自身は,ほぼ毎日のようにD部屋に出稽古に行っていたし,自らの後援会の人がF親方の知人であったことから,F親方にはかわいがってもらったので,F親方を恨んではいなかった。 (2) Eの供述内容とAの供述内容は,本件各取組で故意による無気力相撲が行われた経緯について,その主要部分は符合している。両名とも上述の各供述をする過程で被告に対して必ずしも協力的ではなく,本件訴訟において,最終的に被告に協力しようとした経緯は異なっていたこと(弁論の全趣旨により認められる。)に照らせば,両名の供述内容が主要部分で符合していることは,各供述の信用性を高める事情であるといわなければならない。また,平成23年3月30日に,Eが調査委員に対し本件各取組が故意による無気力相撲であることを供述して以降の両名の供述内容は,基本的に一貫したものであること,各供述内容には客観的状況と矛盾するところも見当たらず,- 28 -それら自体に一定の合理性のあることもまた,これらの各供述内容の信用性を高めるものであるということができる。原告指摘のとおり,本件各取組を故意による無気力相撲にすることを最初に発案したのが,AなのかBなのかという点が,両名とも軌を一にして記憶がはっきりしていないと供述しているが,これは直ちに両名の供述を虚偽であると断定するだけの事情とは言い難い。また,原告は,取組はその前日の夕方に判明するものであるから,本 ,両名とも軌を一にして記憶がはっきりしていないと供述しているが,これは直ちに両名の供述を虚偽であると断定するだけの事情とは言い難い。また,原告は,取組はその前日の夕方に判明するものであるから,本件各取組の最初の取組である平成23年1月場所2日目のAとBとの取組を行う前に,原告を加えた三者間で同場所での星の回しをする旨を合意したとの両名の供述内容は不自然であると指摘するが,前記前提事実のとおり,取組は各階級別に番付順位により編成されることが多いことから,AとBとの取組を行う前の段階で,同場所中に原告とB及びAとの取組が組まれることが確実であるとまではいえないものの,東十両9枚目の原告と,同11枚目のB及び同13枚目のAとの取組が組まれる可能性はかなり高い(結果としても,本件各取組が実現した。)ということができるから,AとBの二者のみでの故意による無気力相撲では,同場所の中だけでは星の精算をすることが絶対に不可能であるとして,AとBの二者間において同場所の取組でいずれが故意による無気力相撲の勝者となるかの調整がつかない場合に,原告を加えた三者による故意による無気力相撲の合意をして,原告とB及びAとの取組が実現すれば(前述の通り,その可能性はかなり高い。),同場所中でA及びBのいずれもが1勝を確保することができることを材料として,AとBとの取組の勝者をAとすることを合意することは,十分に合理的であるということができる。 また,上記認定事実のとおり,E及びAは,特別調査委員会の調査段階のうち,同年3月30日よりも前の段階では,両名とも,本件各取組のうち2日目のAとBとの取組が故意による無気力相撲であることを認めながら,原告のことは供述していなかったのに,同日にEが,Hの供述では原告が故意- 29 -による無気力相撲を行ったこと 件各取組のうち2日目のAとBとの取組が故意による無気力相撲であることを認めながら,原告のことは供述していなかったのに,同日にEが,Hの供述では原告が故意- 29 -による無気力相撲を行ったことが認定できないことを知った後に,初めて原告の関与を認め,AもEの供述内容を知ってこれを認めたという供述経過なのであるが,両名とも供述するとおり,当初は,自己の供述により他の力士が処分をされることを懸念し,警視庁から提供されたメールに名前のあがっていない力士が行った故意による無気力相撲を具体的に特定することに対して非常に消極的な態度であったことには,一定の合理性があると評価できること,上記認定事実のとおり,Eは,特別調査委員会による4回目の事情聴取段階から,具体的な取組の特定はしていないものの故意による無気力相撲の仲介等をしたことがある力士として,他の力士とともに,原告の名前を挙げていたところ,同年3月30日の事情聴取で,Hの供述では原告が行った故意による無気力相撲を特定することができず,Eが名前を挙げた他のほとんどの力士には引退勧告の処分がなされる見込みであるのに,原告だけは処分がされない見込みであると聞き,不公平であると感じて,原告が本件各取組において故意による無気力相撲を行っていたことを供述したとするEの説明には,十分理解する余地があること,Eは,同日の事情聴取で,平成23年1月場所の星取表を確認する前に,AとBが何も言っていないのかと調査委員に尋ねていることに照らせば,「同場所の星取表上,本件各取組がA,B,原告が1勝1敗ずつであったことを奇貨として,この三者の取組が故意による無気力相撲であったとの虚偽の供述を行うことを思い付いた」とする原告の主張とはそぐわないことを考慮すれば,原告が本件取組で故意による無気力相撲を行ったことをそれ 貨として,この三者の取組が故意による無気力相撲であったとの虚偽の供述を行うことを思い付いた」とする原告の主張とはそぐわないことを考慮すれば,原告が本件取組で故意による無気力相撲を行ったことをそれまでは認めていなかったのに,同年3月30日の事情聴取を境に原告が本件取組で故意による無気力相撲を行った旨を揃って供述したことは,両名の供述内容の信用性を損なうものではない。 さらに,原告は,E及びAともに,F親方に対する反感ないし恨みを持っていたため,F親方を陥れるためにD部屋に所属する原告が故意による無気- 30 -力相撲を行ったとする虚偽の供述を行った旨主張するが,上記認定事実のとおり,E及びAとも,力士の間でF親方に対する反感を生じさせるような噂があったことは認識しているものの,F親方に対して反感ないし恨みを持っていたこと自体を否定している(かえって,両名の各供述によれば,この両名は,いずれもF親方には好感を持っている。)ほか,両名とも,原告ないしF親方に対して,ことさらに恨みないし反感を持っていたことを窺わせる事情はなく,この点も,EとAの供述の信用性を低める事情とはならない。 また,原告は,Aが,同年4月13日の電話で,F親方を陥れるために嘘の供述をしたと発言した旨供述するが,Aの証人尋問での供述は,これと真っ向から逆の供述をしていることに照らせば,原告の上記供述は,両名の供述の信用性を否定する根拠にはなり得ない。そして,以上に検討した内容は,特別調査委員会からの事情聴取に対し,いずれも自らの供述により他の力士が処分されることに強い懸念を有していたものの,E及びAともに,ことさらに原告が本件取組において故意による無気力相撲を行ったとする虚偽の供述をするだけの事情が見出せないことを意味するのであり,両名の供述の信用性を認 強い懸念を有していたものの,E及びAともに,ことさらに原告が本件取組において故意による無気力相撲を行ったとする虚偽の供述をするだけの事情が見出せないことを意味するのであり,両名の供述の信用性を認め,同時に原告の供述を採用することのできない根拠ともなり得るのである。 以上の検討結果を前提とすれば,E及びAの各供述には,いずれも信用性が認められるのであり,そうすると,原告が本件取組で故意による無気力相撲を行ったとする本件処分事由の事実は,十分にこれを認めることができる。これに反する原告の本人尋問における,また,陳述書(甲28,31,63)上の各供述は,この判断を覆すものではない。 (3) 前記前提事実のとおり,本場所相撲は,力士の技量を審査するためのものであり,その勝星により当該力士の階級順位の昇降が決定され,当該力士の給与額等その待遇を左右するものであり,被告に所属する各力士は,それが故に若いころから日々厳しい鍛練に耐えて階級順位を上げるために全力を- 31 -尽くすのである。またそうであるが故に被告が興行する本場所相撲は,わが国で国技と称せられる相撲のうちの最高水準のものであるとして,世間から注目され,国民の間に人気を保っているのであって,本場所相撲の興行をしている被告にとって,特に「故意による無気力相撲懲罰規定」とC委員会を設けて本場所相撲における故意による無気力相撲を禁止することは,何物にも替え難い重要な意味を持っているといわなければならない。そうすると,原告が本場所相撲である本件取組において,故意による無気力相撲を行ったことは,被告の存立基盤に影響を与え得るものであって,原告・被告間の信頼関係を大きく損ねる事情にほかならず,継続的な契約関係である本件役務提供契約の維持を困難にすると認めるだけの合理的な理由に当 たことは,被告の存立基盤に影響を与え得るものであって,原告・被告間の信頼関係を大きく損ねる事情にほかならず,継続的な契約関係である本件役務提供契約の維持を困難にすると認めるだけの合理的な理由に当たるものということができるのである。 よって,被告が,原告が本件取組において故意による無気力相撲を行ったとする本件処分事由を理由として,本件役務提供契約の解除をしたこと,すなわち本件解雇は有効であると解するのが相当である。上述の事情に鑑みれば,本件解雇が重すぎる処分であるとは評価できないし,事前の警告なく本件解雇をしたことが,社会通念上不合理であるということはできないのであり,これらを指摘する原告の主張は,いずれも採用できない。 原告は,過去に故意による無気力相撲を行った力士がある程度の数いたのに,これを理由として解雇された者がいないのであって,被告が故意による無気力相撲を行うことを黙認していたと主張する。確かに,E及びAの各供述のみを見ても,原告(ないしこの機会に処分を受けた力士)以外にも,過去に故意による無気力相撲を行った力士がいたことは,はなはだ遺憾ながら十分に窺うことができる。しかしながら,上記のような被告にとって故意による無気力相撲の有する意味あいを考慮すれば,過去に,又は原告の他に,故意による無気力相撲に関与した者がいるからといって,そこから直ちに原告に対する本件解雇が,社会通念上相当でないと断ずることはできないし,- 32 -被告としては,具体的な取組に関して,証拠もない力士に対して,故意による無気力相撲に関与したとして処分を行うことはできない以上,結果として故意による無気力相撲に関与した力士が見逃されたとしても,それから直ちに,本件解雇が違法性を帯びると評価することはできない。さらに,原告は,被告の特別 として処分を行うことはできない以上,結果として故意による無気力相撲に関与した力士が見逃されたとしても,それから直ちに,本件解雇が違法性を帯びると評価することはできない。さらに,原告は,被告の特別調査委員会での調査内容は,十分な検討がなされていないと主張するが,上述のとおり,E及びAともに,特別調査委員会段階ではもちろん,本件訴訟手続においても,必ずしも被告に対して協力的でなく,特に他の力士に関する供述には極めて消極的な供述態度に終始していることに鑑みれば,基本的には,今日の段階と一貫性のあるE及びAの一致した各供述を得た段階で,本件解雇にいたった被告の判断が,社会通念に照らして,不相当であるとはいえない。 以上によれば,本件解雇の根拠となった本件処分事由の存在が認められ,本件解雇が,社会通念に照らして,不合理であるとも不相当であるともいえないから,本件解雇が無効であることを前提とする原告の各請求は,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がないという結論になる。 3 争点3(損害賠償請求の可否)について本件役務提供契約を解除する本件解雇が有効であることは,上記のとおりであり,そうすると,原告が主張する不法行為及び債務不履行は成立する余地はないから,これらを根拠とする原告の被告に対する損害賠償請求には,いずれも理由がないという結論になる。 4 結論以上によれば,本件訴えのうち上記の各将来請求部分はいずれも不適法であるから却下し,原告のその余の各請求にはいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第36部 - 33 -裁判官古庄 研 裁判長裁判官渡邉弘及び裁判官藤井聖悟は,転補により,いずれも署名押印する 東京地方裁判所民事第36部 主文 理由 裁判官古庄研 裁判長裁判官渡邉弘及び裁判官藤井聖悟は,転補により,いずれも署名押印することができない。 裁判官古庄研

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