- 1 - 主文 1 被告Aは,原告に対し,3億円及びこれに対する平成20年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告Bは,原告に対し,1億円及びこれに対する平成20年9月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は被告らの負担とする。 4 この判決は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要 1 本件の請求(1)第1事件(原告の被告Aに対する主文1項の請求)ⅰ 主位的請求第1事件の主位的請求は,東証2部上場会社であった再生債務者株式会社G(以下「再生債務者」という。)の管財人が,同社の取締役であった被告Aに対し,会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」という。)78条により会社法施行日(平成18年5月1日)より前の行為につき適用される旧商法(平成17年法律第86号による改正前の商法をいう。以下同じ。)266条1項1号(違法配当)及び5号(善管注意義務違反(旧商法254条3項,民法644条)・忠実義務違反(旧商法254条の3)による法令違反,会社法施行日以後の行為については会社法423条1項)に基づき,損害賠償を求めたものである。 原告は,再生債務者において遅くとも第15期(平成15年3月期)以降,架空循環取引による利益の水増しがされ,別紙損害額一覧表のとおり,ⅰ第16期(平成16年3月期)から第18期(平成18年3月期)までの間,各期の配当可能利益がないのに合計2億7928万4000円の利益処分が行われ,ⅱ架空循環取引 - 2 -に関与した取締役であるC並びにD及び被告Aに対する役員報酬(利益処分を除いた額)として第16 の配当可能利益がないのに合計2億7928万4000円の利益処分が行われ,ⅱ架空循環取引 - 2 -に関与した取締役であるC並びにD及び被告Aに対する役員報酬(利益処分を除いた額)として第16期から第19期(平成19年3月期)までの間に合計2億7810万円が支払われたとして,これらを合わせた損害額合計5億5738万4000円から一部弁済金2000万円を除いた残額5億3738万4000円の内金3億円の損害賠償とこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 ⅱ 予備的請求原告は,予備的に不当利得返還請求権に基づき,前記(1)ⅱの役員報酬(利益処分を除いた額)のうち被告Aに対する報酬額5130万円の不当利得返還とこれに対する前同様の遅延損害金の支払を求めた。 (2)第2事件(原告の被告Bに対する主文2項の請求)第2事件は,再生債務者の執行役員営業開発本部副本部長であった被告Bは,C,D及び被告Aの指示のもと,架空循環取引に直接的に関与していたとして,不法行為ないし雇用契約上の義務違反に基づき,ⅰ第15期から第18期までの間,各期の配当可能利益がないのに合計3億2753万2000円の利益処分が行われ,ⅱ利益がなければ支払う必要がない第15期の法人税,事業税,法人都府県民税,法人市民税合計3億4220万2000円の納税がされて更正の余地がなくなったとして,これらを合わせた損害額合計6億6973万4000円の内金1億円とこれに対する前同様の遅延損害金の支払を求めたものである。 2 前提事実以下の事実は,当事者間に争いのない事実又は証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実である。 (1)再生債務者における被告らの職務及び再生手続開始決定株式会社G(再生債務者)は,平成元年7 以下の事実は,当事者間に争いのない事実又は証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実である。 (1)再生債務者における被告らの職務及び再生手続開始決定株式会社G(再生債務者)は,平成元年7月15日に設立された各種通信情報システムの導入に関するコンサルタント業務等を目的とする株式会社である。平成19年1月29日,再生債務者につき再生手続開始決定及び管理命令がされ,原告が - 3 -管財人に選任された。 被告Aは,平成13年10月1日に入社し,営業開発本部コンサルティング事業部に所属し,平成14年4月1日,執行役員営業開発本部コンサルティング事業部事業部長に就任し,平成15年6月26日から平成19年1月19日に辞任するまでは取締役の地位にあり,その間,平成16年4月1日から営業開発本部副本部長,平成17年4月1日から営業開発本部長を務めた。 被告Bは,平成13年10月1日に入社し,営業・開発本部コンサルティング事業部に所属し,平成13年11月1日には同部の担当部長に就任し,平成15年4月1日,同部の大阪コンサルティング部部長に就任し,平成15年7月1日から執行役員を兼務し,平成16年4月1日から営業・開発本部コンサルティング事業部長,平成18年4月1日から平成19年1月19日に懲戒解雇されるまでは営業・開発本部副本部長を務めた。(甲69)(2)利益処分,法人税等の支払及び利益処分以外の役員報酬の支払再生債務者においては,第15期(平成15年3月期)から第18期(平成18年3月期)までの間,平成15年5月6日(第15期),平成16年4月28日(第16期),平成17年4月28日(第17期),平成18年4月28日(第18期)の各取締役会において,決算で利益を計上して株主総会に利益処分案を提案することにつき承認決議をした上で( 年4月28日(第16期),平成17年4月28日(第17期),平成18年4月28日(第18期)の各取締役会において,決算で利益を計上して株主総会に利益処分案を提案することにつき承認決議をした上で(甲15~22),株主総会決議(甲19~22)を経て,別紙損害額一覧表の利益処分欄記載のとおり利益処分としての配当金(合計2億3553万2000円)及び役員報酬(合計9200万円)の支払がされた(甲23~26)。被告Aは,取締役就任後の第16期以降の取締役会にいずれも出席し,決議に賛成した。利益処分額の合計は,同表のとおり合計3億2753万2000円となり,被告Aが取締役に就任した後に決算された第16期以降の利益処分額の合計は,2億7928万4000円となる。 再生債務者は,別紙損害額一覧表の法人税額等欄記載のとおり,第15期の法人税,事業税,法人都府県民税,法人市民税として,同表課税額欄記載の合計3億4 - 4 -376万4000円を支払った(甲40~47)。そのうち同表「うち利益に対して課される額」欄記載の税額合計3億4220万2000円は,第15期の決算で利益を計上したために納税が必要となったものである。 再生債務者は,取締役であったC,D及び被告Aに対し,被告Aが取締役に就任した後の第16期から第19期までの間,下表のとおり,利益処分を除く役員報酬(ただし,第16期のCとDは,被告Aが取締役に就任した後の平成16年7月以降の9か月分に相当する年額の4分の3)として合計2億7810万円を支払った(甲27~32)。そのうち被告A分は,合計5130万円となる。 役員報酬額(利益処分除く) C分D分被告A分合計 16 期27,000,0009,900,0009,000,00045,900,000 17 期 0万円となる。 役員報酬額(利益処分除く) C分D分被告A分合計 16 期27,000,0009,900,0009,000,00045,900,000 17 期43,200,00015,000,00013,200,00071,400,000 18 期51,600,00018,000,00015,600,00085,200,000 19 期47,700,00014,400,00013,500,00075,600,000合計169,500,00057,300,00051,300,000278,100,000(3)架空循環取引による利益計上再生債務者が,第15期から第18期において利益を計上したのは,架空循環取引による売上げの過大計上を行ったことによるものであり,これを除外すれば,第15期から第18期までの間の各期において計上すべき利益はいずれもなかった(甲33~39,枝番を含む。)。 しかし,国税通則法70条1項1号及び地方税法17条の5により,再生債務者が第15期において利益に基づいて支払った前記(2)の法人税,事業税,法人都府県民税,法人市民税の合計3億4220万2000円については,もはや更正の余地がない。 3 原告の主張 - 5 -(1)被告Aの損害賠償責任(第1事件の主位的請求について)ⅰ 違法配当についての責任(旧商法266条1項1号)原告が,再生債務者の管財人に就任した後,再生債務者の過去の取引の実態を把握すべく会計専門家に調査を依頼した。その結果,遅くとも第15期(平成15年3月期)以降,再生債務者を取引の起点(売上取引)及び終点(仕入取引)とし,複数の会社を間に介在させる架空循環取引による粉飾行為が恒常的に行われていたことが裏付けられた。 くとも第15期(平成15年3月期)以降,再生債務者を取引の起点(売上取引)及び終点(仕入取引)とし,複数の会社を間に介在させる架空循環取引による粉飾行為が恒常的に行われていたことが裏付けられた。この調査の結果をもとに,第15期以降の損益計算書を修正した結果,過去5年間(第15期~第19期)での仮装売上は約1136億7757万円,営業利益の水増しは約161億1110万円にも上ることが判明している。 修正後の各期の損益状況は以下のとおりであって,いずれの期においても,再生債務者には,配当可能な利益は全く存在していなかった。 第15期(平成15年3月期)(甲33の1)前記繰越利益約6833万円が存在するが,当期純損失として約19億1881万円が計上され,約18億5048万円の当期未処理損失が計上される。 第16期(平成16年3月期)(甲34の1)前記繰越損失約21億8572万円が存在する上,当期純損失として約2億0308万円が計上され,約23億8881万円の当期未処理損失が計上される。 第17期(平成17年3月期)(甲35の1)前記繰越損失約28億3980万円が存在するため,当期純利益約11億3705万円が計上されても,なお当期未処理損失約17億0255万円が計上される。 第18期(平成18年3月期)(甲36の1)前記繰越損失約25億7996万円が存在する上,当期純損失として約2億1600万円が計上され,約27億9596万円の当期未処理損失が計上される。 以上のとおり,第15期から第18期においては,粉飾決算が行われており,そもそも配当可能利益はなかったのであるから,当該各期に行われた利益処分は,全て違法であり,かかる違法な利益処分を行った結果,当該利益処分額相当の損害を - 6 -再生債務者に発生させたものである もそも配当可能利益はなかったのであるから,当該各期に行われた利益処分は,全て違法であり,かかる違法な利益処分を行った結果,当該利益処分額相当の損害を - 6 -再生債務者に発生させたものである。 被告Aは,他の取締役と共に,上記のうち第16期,第17期,第18期の利益処分案の承認等に関する各取締役会に出席し,何らの異議をとどめず,当該取締役会において,利益処分案承認の件について賛成した。したがって,被告Aは,整備法78条により適用される旧商法266条1項1号,2項,3項に基づき,再生債務者に対し,第16期から第18期までの利益処分合計額2億7928万4000円の損害賠償義務を負う。この責任は無過失責任である。 ⅱ 法令違反・任務懈怠に基づく責任(旧商法266条1項5号,会社法423条)再生債務者は,前記ⅰのとおり,急速に架空循環取引を拡大させ,過去5年間で約1136億円もの仮装売上を計上するとともに,約161億円もの利益を水増しするという粉飾決算を行った。かかる取引や経理処理が違法なものであることは論をまたない。上記不正行為は継続的に行われていたものであるところ,整備法78条により,平成18年5月1日より前に行われた行為については旧商法266条1項5号に定める法令違反行為(善管注意義務違反・忠実義務違反,旧商法254条3項,民法644条,旧商法254条の3)となり,同日以降に行われた行為については会社法423条1項に定める任務懈怠行為に該当する。そして,上記のような架空循環取引や同取引にかかる経理処理は,Cを頂点とし,D,被告Aという指揮命令系統により,実行部隊である被告Bらによって行われていたことから,当該違法行為について被告Aの故意ないし過失は明らかである。 自らを起点とする循環取引は,先に販売した価格を上回る価格 いう指揮命令系統により,実行部隊である被告Bらによって行われていたことから,当該違法行為について被告Aの故意ないし過失は明らかである。 自らを起点とする循環取引は,先に販売した価格を上回る価格で買い戻さなければならないことから,必然的に自社に損失をもたらす。かかる取引そのものの違法行為によって,再生債務者は,少なくとも,代表取締役又は取締役としての職分を果たさず,不正取引を指示していたC,D及び被告Aに対し第16期以降に支払われた役員報酬(利益処分として支払われた役員賞与を除く。)合計2億7810万円相当額の損害を被った。上記報酬額は,その全額が違法行為に基づく損害であるとみるべきである。すなわち,再生債務者においては,第15期以降の売上の9割以 - 7 -上が架空循環取引に基づくものであって,いわば違法な架空循環取引を実行することにより会社が存在していた。そして,再生債務者においては,将来に向けて架空循環取引が解消される目途は全く立っておらず,かえって,その規模が年々大きく増加し続けていたことからすれば,会社を存続させること自体が違法行為といえる。 そして,会社を存続させることによって発生した役員報酬は,違法行為に基づく損害の最たるものである。 よって,被告Aは,旧商法266条1項5号ないし会社法423条1項に基づき,再生債務者に対し,2億7810万円の損害を賠償すべき義務を負う。 (2)被告Aの役員報酬相当額の不当利得(第1事件の予備的請求について)被告Aの架空循環取引行為の実行ないし指揮が取締役としての善管注意義務違反・忠実義務違反にあたることは明らかであるから,被告Aは委任の本旨に従った義務を履行したとは到底考えられない。従って,被告Aは,その報酬を請求することはできないはずである(民法648条2項)。しかるに 忠実義務違反にあたることは明らかであるから,被告Aは委任の本旨に従った義務を履行したとは到底考えられない。従って,被告Aは,その報酬を請求することはできないはずである(民法648条2項)。しかるに,被告Aは,前記前提事実のとおり利益処分以外にも役員報酬5130円の支払を受けているから,同金員は,法律上の原因を欠くものとして,不当利得返還請求権に基づき再生債務者に返還されるべきである(民法703条,704条)。 (3)被告Bの損害賠償責任(第2事件の請求について)被告Bは,C,D及び被告Aの指示のもと,架空循環取引に直接的に関与していた。循環取引は,前記(1)ⅱのとおり必然的に自社に損失をもたらすことになる。 よって,被告Bの行為は,再生債務者に対し損失を与えるものとして,不法行為に該当する。 また,再生債務者の就業規則76条には,「従業員が故意または過失によって会社に損害を与えた場合,懲戒処分の他,その被った損害の全部または一部を賠償させる。」旨規定されている(甲12)。したがって,被告Bは,雇用契約上の義務違反にも該当し,再生債務者に対し賠償義務を負う。 被告Bの不法行為ないし雇用契約上の義務違反により,再生債務者が被った損害 - 8 -は,前記(1)の損害のうち,第15期から第18期までの利益処分合計3億2753万2000円及び第15期の利益に対する法人税等の支払額合計3億4220万2000円の合計6億6973万4000円相当額となる。 4 被告Aの主張(1)請求原因について被告Aに対する請求は,被告Aの関与についての主張立証が不十分であり,請求原因に該当する具体的事実の主張が欠けるとして棄却されるべきである。 (2)役員の責任について仮に被告Aが架空循環取引に関与したとされる場合であっても,違法配当責任 の主張立証が不十分であり,請求原因に該当する具体的事実の主張が欠けるとして棄却されるべきである。 (2)役員の責任について仮に被告Aが架空循環取引に関与したとされる場合であっても,違法配当責任,法令違背・任務懈怠責任はいずれも認められない。 被告Aは,平成13年に再生債務者に入社し,平成15年6月末頃に役員に選任されるまでは一般従業員であった者である。そもそもの再生債務者への入社の経緯からしても,Cからの勧誘があったためである。役員の就任時期からしても,原告は平成16年3月期からの違法配当責任を問うが,同期末まで約7か月程度しか役員に在籍していなかった。他方,再生債務者は,もともとCやDが平成元年に設立した会社である。再生債務者では被告Aが入社する1年以上前の平成12年1月頃からCやDらが架空循環取引を行っていたとされており,被告Aは,これらCやDが中心となって画策実施していた架空循環取引に後から引き込まれたに過ぎない。 被告Aは,外部から中途採用され,しかも入社当初は単なる従業員であったのであり,代表者であるCや役員であったDからの指示命令を拒否できる立場にはなかった。結局,被告Aは平成15年6月下旬には形式的には役員の地位を与えられていたが,架空循環取引を行うことについては一般従業員であった時期からCやDからの業務命令があったとされ,役員就任後もこれらの命令を受けざるを得ない低い地位であったものであり,いずれの決議についても,決議に反対する期待可能性がなかったものである。したがって,被告Aについて,違法配当責任及び任務懈怠責任はいずれも生じないというべきである。 - 9 -(3)過失相殺被告Aについて仮に損害賠償責任が認められたとしても,被告Aの行為は,同人が従業員のころからCやDから受けていた業務命令をそのま れも生じないというべきである。 - 9 -(3)過失相殺被告Aについて仮に損害賠償責任が認められたとしても,被告Aの行為は,同人が従業員のころからCやDから受けていた業務命令をそのまま役員就任後も引き続き命じられていたためにこれを実行したものに過ぎないから,民法418条による過失相殺を行うべきである。 5 被告Bの主張(1)請求原因について被告Bに対する請求は,請求原因を基礎づける被告Bの実行行為についての事実主張が不十分であるとして棄却されるべきである。仮に,被告Bに不法行為責任を基礎づける架空循環取引への関与という事実が認められとしても,会社に発生した損害との因果関係が不明である。原告は利益処分及び法人税等の過大申告が,被告Bの行為に帰責されるとするが,利益処分は取締役会の決議事項であり,法人税等の過大申告は会社自らの行為であって,被告Bの行為との因果関係がない。 (2)従業員に対する会社からの損害賠償請求が制限されるべきこと仮に,被告Bが,架空循環取引に関与していたとされる場合であっても,会社からの損害賠償請求は制限され,本件では管財人から被告Bに損害賠償請求をすることはできない。本件では,もともと被告Bに非行はなく,会社からの業務命令として架空循環取引に関与させられたものである。具体的には,C,D及び被告Aからの指示であったとされ,再生債務者の業務命令のラインとしては最も枢要なラインからの命令があったのであり,以上の事実は,原告自ら訴状で自白している。被告Bは,再生債務者入社後に同社がそれまで継続して行っていた違法な取引に業務命令によって引き込まれたに過ぎない。会社に生じた損害を公平に分配するという観点からすると,まさに会社が違法行為を業務として命じた場合に,業務命令に従った従業員に対して損害の賠 いた違法な取引に業務命令によって引き込まれたに過ぎない。会社に生じた損害を公平に分配するという観点からすると,まさに会社が違法行為を業務として命じた場合に,業務命令に従った従業員に対して損害の賠償をさせることは公平に反し信義則に悖る。したがって,会社から積極的に違法行為を業務として命じられた場合には,危険な業務を命じられた場合と同様に,信義則上,会社との関係で従業員の減責・免責が認められるべ - 10 -きである。管財人は会社に代わって損害賠償請求を行っている立場であるから,本件請求は当然昭和51年7月8日最高裁第1小法廷判決(民集30巻6号78頁)を嚆矢とする損害賠償請求権の信義則上の制限を受ける。 被告Bは,もともとシステムエンジニアないしシステム営業職として別会社に勤務しており,勤務成績も良好であった。再生債務者での勤務成績も特段問題のあるものではなかった。また,被告Bは,役員に辞表を提出したこともあるが受理されず,結局会社に居残ることになったのである。他方で,被告Bに対して会社から支払われていた給与は,年額800万円程度である。これはごくありきたりの給与水準であり,他方,会社は,社命により被告Bに架空循環取引を命じておきながら,いったん破綻するや,その社命を実行に移したことを不法行為であるとして給付した年間賃金の10倍以上にも及ぶ高額の損害賠償請求を行っている。道理に反する請求としか言いようがない。 このような業務命令として不法行為を行うことが命じられた場合に,被告Bのようなそれに従った従業員に,会社に生じた損害を分担させるのはおよそ公平でない。 会社法は役員の損害賠償請求を免除することができる規定を置いているが(会社法425条),従業員についてこのような規定は置かれていないのも,このような請求を行う当事者が想定できない およそ公平でない。 会社法は役員の損害賠償請求を免除することができる規定を置いているが(会社法425条),従業員についてこのような規定は置かれていないのも,このような請求を行う当事者が想定できないからに他ならない。ましてや,社命で違法行為を命じておきながら,後に就業規則を持ち出して損害賠償請求を行うことは理不尽そのものである。仮に被告Bに不法行為責任が認められた場合でも,民法722条による過失相殺を行うべきである。 (3)消滅時効仮に被告Bに損害賠償責任が認められたとしても,会社(ないし当時の代表者であるC)はもともとこれを被告Bに命じていたのであるから,損害及び加害者を知っていたものであって,ⅰ原告の主張する,取締役会が行った利益処分に関する従業員の個人責任については遅くとも平成21年6月23日(第18期の株主総会決議日である平成18年6月23日を起算点とする3年間)の経過をもって時効によ - 11 -り消滅し,ⅱ会社が行った平成15年税務申告についての更正ができないことに基づく従業員の個人責任については,遅くとも平成18年中には時効により消滅している。 第3 裁判所の判断 1 認定事実証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1)再生債務者の沿革等平成元年7月,CとDらは,各種通信情報システムの導入等に関するコンサルタント業務等を目的とした株式会社H(再生債務者。同社は,平成9年12月,Iの子会社になり,商号を株式会社Jに変更し,平成11年7月,商号を株式会社Gに変更した。)を設立し,平成2年2月,Cが同社の代表取締役社長に就任した。再生債務者は,平成14年3月,大阪証券取引所ナスダック・ジャパン市場に株式を上場したが,同年5月頃,Iが保有する株式を売却することになり,公開買付け等により ,Cが同社の代表取締役社長に就任した。再生債務者は,平成14年3月,大阪証券取引所ナスダック・ジャパン市場に株式を上場したが,同年5月頃,Iが保有する株式を売却することになり,公開買付け等により,同年10月,株式会社Kの子会社となった。 再生債務者は,平成16年3月,東京証券取引所市場第2部に上場し,平成17年8月,株式会社Lの子会社となった。Cは,平成19年1月29日に再生債務者について民事再生手続が開始され,管理命令により原告が管財人に就任するまで,再生債務者の代表取締役社長の地位にあった。Dは,平成元年7月に取締役に就任し,平成13年10月1日から営業・開発本部コンサルティング事業部長,平成14年10月から常務取締役の地位にあり,平成18年4月1日から営業・開発本部を管掌したが,平成19年1月19日付けで常務及び営業・開発本部管掌の地位を解任され取締役も辞任した(甲69)。 被告Aと被告Bは,平成13年10月,取引先であった株式会社Mから再生債務者に入社し,同年11月にはMからEも入社し,3名ともDが事業部長を務める営業・開発本部コンサルティング事業部に所属し,D事業部長の下で,被告Aが部長,被告Bが担当部長ないし被告Aが事業部長となってからは部長,Eは課長の地位に - 12 -あった。被告Bの年俸額は,平成13年750万円,平成14年844万8000円,平成15年870万円,平成16年912万円,平成17年960万円,平成18年990万円である(甲69)。 再生債務者は,平成18年9月の中間監査において,仕掛品の多さに疑念を抱いた監査法人から,商品の最終的な買主を明示するよう求められたが,それに応じることができなかったため,同年12月,監査法人から同年9月末の中間期決算について監査意見を提出できない旨告知された。 を抱いた監査法人から,商品の最終的な買主を明示するよう求められたが,それに応じることができなかったため,同年12月,監査法人から同年9月末の中間期決算について監査意見を提出できない旨告知された。そのため,再生債務者は,内部に調査委員会を設置して調査した結果,架空循環取引によって,N株式会社に対して約100億円の簿外債務があることが発覚し,被告A,被告B及びEがNとの架空循環取引に関与していたこと,DがNに対して簿外債務の支払を確約する書面等に署名し,個人印を押捺していることなどが判明した。そこで,再生債務者は,平成19年1月19日の取締役会で,Dと被告Aに対して役員の辞任を勧告するとともに,被告B及びEを解雇する旨の決議をしたが,そのころには自力による会社再建は極めて困難な状況に至っていたため,同月21日,取締役会の決議を経て,大阪地方裁判所に民事再生手続開始の申立てをした。同月29日,民事再生手続開始の決定がされ,同年2月22日には上場廃止となり,再生債務者は実質的に破綻した。 (2)架空循環取引再生債務者は,平成11年3月期当初から,当時の親会社であったIの経営指導により,当期における売上高等の目標額である「予算」につき,その達成を強く求められていた。このような状況の下,平成12年1月頃,同年3月期の予算達成が困難な状況となったため,Cは,Dと相談し,最終的な買主が決まらない状況で,ソフトウェアを書類上いったん協力会社へ売り上げた形にして販売実績を水増しすることを計画し,最終的に,協力会社を利用して再生債務者を起点及び終点として資金を循環させ,協力会社には取引差益という形で手数料を支払う架空取引を実行した。再生債務者では,その後,業績が堅調であることを示すため,取引実態がないのに,書類上は,架空の商品売上を計上した上で, 資金を循環させ,協力会社には取引差益という形で手数料を支払う架空取引を実行した。再生債務者では,その後,業績が堅調であることを示すため,取引実態がないのに,書類上は,架空の商品売上を計上した上で,書類上しか存在しない商品を - 13 -協力会社間に転々と流通させ,最終的に再生債務者がこれを買い戻す形で処理する,いわゆる架空循環取引を行っていたが,架空循環取引では,協力会社に対して,取引に協力した対価として手数料を支払う必要があるため,再生債務者には必ず損失が生じることになった。そこで,再生債務者では,売上取引については,当期の期末において売上として計上するが,仕入取引については,当期においては仕掛品又は固定資産として貸借対照表に計上し,一部の仕入取引については仕入自体を翌期に繰り越すなどの方法により,当期の損益計算書に売上原価としては計上せず,売上高や利益などの過大計上を行っていたが,翌期には,前期に資産計上していた仕掛品を原価振替して仕入計上(固定資産は,原価振替して翌期以降に償却費を計上)したり,前期から繰り越した仕入取引について仕入計上する必要が生じるから,翌期に利益を計上するにはこれを上回る売上高を計上しなければならないこととなった。 再生債務者において,当初,実際に架空循環取引の立案,協力会社への根回し等を行っていたのはDであったが,平成14年3月期以降は,Dの指示に基づき,被告Aやその部下であった被告B及びEも架空循環取引の立案,協力会社探し,契約書等必要書類の作成等を行うようになった。なお,被告Aが粉飾に関与するようになってからは,他社間の実際の取引に書類上のみ入って仕入価格と販売価格の差額を利得として得るいわゆるスルー取引においては,仕入の一部又は全部を資産や仕掛材料費に計上して翌期以降に繰り延べたり,別案件の ってからは,他社間の実際の取引に書類上のみ入って仕入価格と販売価格の差額を利得として得るいわゆるスルー取引においては,仕入の一部又は全部を資産や仕掛材料費に計上して翌期以降に繰り延べたり,別案件の仕入と付け替えたりして,売上原価を本来あるべき処理よりも低く計上し,利益をかさ上げするといった手法も用いるようになった。 (3)粉飾決算再生債務者は,平成15年5月6日,取締役会において,第15期(平成15年3月期)につき,粉飾部分を除いた売上高が15億9624万7000円,税引前当期純損失が18億5678万円であったにもかかわらず(甲33の1・2),上記(2)の粉飾の結果,売上高を55億1959万2000円,税引前当期純利益を - 14 -6億1543万6000円とした損益計算書を含む計算書類を承認し,同年6月26日,この計算書類について株主総会の承認を受け,前記前提事実のとおり利益処分を行った。 第16期(平成16年3月期)にも,再生債務者は,平成16年4月28日,取締役会において,粉飾部分を除いた売上高が6億0019万円,税引前当期純損失が1億9930万7000円であったにもかかわらず(甲34の1・2),売上高を113億4572万1000円,税引前当期純利益を8億7865万5000円とした損益計算書を含む計算書類を承認し,同年6月25日,この計算書類について株主総会の承認を受け,前記のとおり利益処分を行った。 第17期(平成17年3月期)にも,再生債務者は,平成17年4月28日,取締役会において,粉飾部分を除いた売上高が8億2124万3000円,税引前当期純損失が11億4083万円であったにもかかわらず(甲35の1・2),売上高を175億7504万3000円,税引前当期純利益を15億7065万8000円とした損益計算 124万3000円,税引前当期純損失が11億4083万円であったにもかかわらず(甲35の1・2),売上高を175億7504万3000円,税引前当期純利益を15億7065万8000円とした損益計算書を含む計算書類を承認し,同年6月24日,この計算書類について株主総会の承認を受け,前記のとおり利益処分を行った。 第18期(平成18年3月期)にも,再生債務者は,平成18年4月28日,取締役会において,粉飾部分を除いた売上高が8億2124万3000円,税引前当期純損失が11億4083万円であったにもかかわらず(甲35の1・2),売上高を401億1832万5000円,税引前当期純利益を36億3919万円とした損益計算書を含む計算書類を承認し,同年6月23日,この計算書類について株主総会の承認を受け,前記のとおり利益処分を行った。 (4)被告らの架空循環取引への関与被告らは,平成13年10月に取引先から再生債務者の従業員として入社して以降,当初はDから指示があり,架空循環取引を行っていた。被告らが架空循環取引に関与するようになった当初,架空循環取引は,Dが行っていたものと,Dの指示の下,被告らが行っていたものがあったが,平成16年3月期以降,Dが行ってい - 15 -たものも,被告らが担当するようになった。このようにして,平成16年3月期以降は,架空循環取引は,主にEが書類作成等のいわゆる現場作業を行い,被告B及び被告Aが順に決裁するものとされた。 被告Aは,入社3か月後の平成14年1月には,自ら出資金の全額を負担して有限会社Oを設立して会長に就任し(甲138の10頁),形式上は知人であるFを代表者とした上で,Oを架空循環取引の商流に入れ,その上で,FにO名義の預金口座を開設させ,その預金口座を実質的に管理支配し,平成14年4月 て会長に就任し(甲138の10頁),形式上は知人であるFを代表者とした上で,Oを架空循環取引の商流に入れ,その上で,FにO名義の預金口座を開設させ,その預金口座を実質的に管理支配し,平成14年4月から平成17年11月までの間に,協力会社から上記預金口座に合計9億6673万6915円を振り込ませた。 架空循環取引に関与したために外見上はOが利益をあげているようにみえるため,その金銭のうちにはOの法人税や消費税の支払に充てられたものもあるが,被告Aは,そのうち3億円から4億円程度を自己名義の預金口座に移すなどし,それ以外にも数億円が接待費用や高級クラブ等での飲食代,旅行代,クレジットカードの支払などに用いられ,高級クラブ等での飲食などには,被告BやEも同席することがあった。被告Aのクレジットカード利用額(甲143)は,平成16年が2601万1834円,平成17年が5138万6073円,平成18年が4945万3021円,平成19年が4694万8939円であり,平成19年分のうち,被告Aが再生債務者の取締役を辞任した同年1月19日以前の利用額は136万7826円であり,4558万1118円分は被告Aが再生債務者を退職した後に利用されたものであり,上記クレジットカード支払の目的は,再生債務者のための支払というより,ほとんど被告Aの個人的な支払であったと推認される。 被告A,被告B及びEは,平成19年1月に再生債務者を退職後,同年5月ころから,Oと同じ場所に事務所がある株式会社Pで勤務することとなった。Oは,平成20年5月29日に捜索を受けたが,その前日,被告Aは,Oの事務所(社長室)に,被告BとEを呼び出し,「O側から俺(被告Aのこと)に金が渡ったことを言わないでくれ。現金出金のことは,以前に税務署に説明したとおりに外注先に払った - の前日,被告Aは,Oの事務所(社長室)に,被告BとEを呼び出し,「O側から俺(被告Aのこと)に金が渡ったことを言わないでくれ。現金出金のことは,以前に税務署に説明したとおりに外注先に払った - 16 -と言っておけば大丈夫だから。商品がないじゃないかと言われたら,Eから依頼されて,CDロムを作成して外注先に納めたと言っておけば大丈夫だから。」と述べて口裏合わせを依頼した。そして,被告Aは,被告B及びEとの間で,3人とも平成15年3月終わりころまで架空循環取引を手伝わされていることを明確に認識しないまま,Dの指示どおりに取引先と連絡を取り合ったり,書類を作らされたりしていただけだと答えるように口裏合わせをし,再生債務者関係の資料を処分するなどした。(甲60,甲125,甲136~138,甲140~144,被告A本人) 2 被告Aの責任(第1事件の主位的請求)について前記認定事実によれば,被告Aは,平成13年10月に再生債務者に入社後,Dの指示の下で架空循環取引を始め,その後,自らも架空循環取引を立案実施するようになり,しかも,平成14年1月には,架空循環取引により再生債務者が負担した支払を受けるための受け皿会社を設立して支配し,再生債務者からの支払金を自己の利益のためにも使用していたことが認められる。 上記事実によれば,被告Aは,再生債務者の取締役として,架空循環取引を自己の利益のためにも積極的に拡大実行し,利益がないのに架空の利益を計上する粉飾決算がされていることも知りながら敢えて粉飾決算を承認する決議をしたものと認めるのが相当である。 被告Aは,CやDからの指示命令を拒否できる立場にはなく,決議に反対する期待可能性がなかったために違法配当責任は生じない,被告Aは業務命令に従ったにすぎないから民法418条による過失相殺 ある。 被告Aは,CやDからの指示命令を拒否できる立場にはなく,決議に反対する期待可能性がなかったために違法配当責任は生じない,被告Aは業務命令に従ったにすぎないから民法418条による過失相殺を行うべきであると主張する。しかし,上記認定事実によれば,被告Aの入社当初はDの指示によるものがあったとしても,被告Aは,取締役就任前の入社後間もない時期から,架空循環取引による支払を自己の利益に還流させるなどしながら架空循環取引を支配実行していたのであって,その拡大に積極的な役割を果たしたことが明らかである。したがって,被告Aが,取締役に就任した後も架空循環取引を拒否できる立場になかったと認めることは到底できないし,当初Dからの指示があったことをもって過失相殺すべき理由もない。 - 17 -なお,Cからの指示があったことを裏付けるに足る証拠はない。 したがって,被告Aは,第16期(平成16年3月期)から第18期(平成18年3月期)までの利益処分額合計2億7928万4000円について,旧商法266条1項1号により,再生債務者に対して損害賠償をすべき義務がある。 上記認定事実によれば,被告Aは,架空循環取引によって再生債務者から流出していく資金の受け皿会社を作って支配し,巨額の利益を還流させて自己のものとしながら,他方で,そのことを会社に秘して,再生債務者から,利益処分以外にも取締役としての報酬を得ていたことになる。これは,会社に対する背任行為をしながら,会社から報酬を得るものであって,このような行為は,取締役の会社に対する忠実義務及び善良な管理者の注意義務に違反する行為であり,任務懈怠行為でもあることは明らかである。したがって,被告Aは,平成18年5月1日より前の行為については,旧商法266条1項5号に定める法令違反行為(善管注意義務 理者の注意義務に違反する行為であり,任務懈怠行為でもあることは明らかである。したがって,被告Aは,平成18年5月1日より前の行為については,旧商法266条1項5号に定める法令違反行為(善管注意義務違反・忠実義務違反,旧商法254条3項,民法644条,旧商法254条の3)として,同日以降に行われた行為については会社法423条1項に定める任務懈怠行為として,その行為によって,利益処分以外に受け取った第16期から第19期までの自らの報酬額5130万円について再生債務者に同額の損害を生じさせたものであるから,取締役として上記損害を再生債務者に賠償すべき義務がある。 3 被告Bの責任(第2事件)について前記認定事実によれば, 被告Bは,再生債務者の従業員として,上司であるDや被告Aの指示の下に,粉飾決算をするための架空循環取引を行い,これに基づいて粉飾された決算を取締役会が承認し,更に株式総会の決議を経て,利益処分が行われたほか,会社が利益に基づく法人税等の支払をした事実が認められる。そして,前記認定事実によれば,被告Bは,被告Aによる背任行為を認識しながらこれに積極的に荷担していたものというべきであるから,たとえ上司の指示ないし業務命令があったとしても,それが被告Aの背任の意図を含む違法な命令であることを知りながらこれに従ったにすぎないと認められる。したがって,業務命令に従ったこと - 18 -によって,被告Bの行為が,正当な業務行為とされ,違法性が阻却されるものではない。すなわち,被告Bも,架空循環取引に実行役として関与していたのみならず,被告Aの高級クラブでの遊興などを介して自らも利得を得ていたうえ,被告Aと共に私的な資金流用がなかったことを装う口裏合わせまでをしている。その上,被告Bは,平成15年7月以降には,執行役員という ,被告Aの高級クラブでの遊興などを介して自らも利得を得ていたうえ,被告Aと共に私的な資金流用がなかったことを装う口裏合わせまでをしている。その上,被告Bは,平成15年7月以降には,執行役員という再生債務者の従業員の中でも責任の重い地位にあったからである。このように,被告Bは,単に業務命令に従って架空循環取引に関与していたものではなく,被告らの自己の利得のために積極的に架空循環取引を行っていたものであるから,被告Bの行為について違法性を阻却するような事情や,過失相殺すべき事情は存在しない。したがって,原告から被告Bに対する不法行為に基づく損害賠償請求について,信義則を根拠に制限したり,民法722条による過失相殺をしたりする理由はない。 そして,利益処分及び利益に基づく法人税等の支払は,被告Bが関与した架空循環取引がなければ再生債務者がする必要がなかったものであり,その支払額は,被告Bの上記不法行為によって生じた損害であると認められる。 また,被告Bの消滅時効の抗弁も,以下の理由により採用できない。すなわち,平成18年12月に内部調査委員会によって架空循環取引によるNに対する約100億円の簿外債務があることが明らかとされる以前においては,Dや被告A以外の再生債務者の取締役が架空循環取引を具体的に認識していたことまでは認められないし,まして被告らによる金銭の私的流用が行われていたことについては,被告A以外の取締役が知っていたとは認められず,「被害者が損害及び加害者を知った」(民法724条)とは言えないからである。 4 結論以上によれば,被告Aは,再生債務者に対し,第16期から第18期までの利益処分合計額2億7928万4000円と第16期から第19期までの自らの報酬額5130万円を合わせた合計3億3058万4000円の損害 よれば,被告Aは,再生債務者に対し,第16期から第18期までの利益処分合計額2億7928万4000円と第16期から第19期までの自らの報酬額5130万円を合わせた合計3億3058万4000円の損害から,既に支払った2000万円を控除した残額である3億1058万4000円の損害を賠償すべき - 19 -義務がある。したがって,上記損害額の一部である3億円とこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の第1事件の請求は,すべて理由がある。なお,上記損害以外の損害についての被告Aの責任については,判断の必要がない。 また,被告Bは,再生債務者に対し,第15期から第18期までの利益処分相当額3億2753万2000円及び第15期の利益に対する法人税等の支払額3億4220万2000円相当の損害を会社に生じさせたものであり,不法行為に基づき,会社に対してその損害を賠償すべき義務がある。したがって,被告Bに対し,上記損害合計6億6973万4000円の内金1億円とこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の第2事件の請求は,すべて理由がある。 大阪地方裁判所第13民事部 裁判長裁判官小林久起 裁判官加藤員祥 裁判官田之脇崇洋
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