令和4(ワ)7377 特許権移転登録手続請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年2月8日 東京地方裁判所
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判決文本文36,483 文字)

令和6 年2 月8 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4 年(ワ)第7377 号特許権移転登録手続請求事件口頭弁論終結日令和5 年11 月15 日判決原 告 A 同訴訟代理人弁護士渥美陽子同松永成高同宮本祥平同訴訟復代理人弁護士中村京子被告株式会社ニッスイ 同訴訟代理人弁護士末吉 剛同吉 野 海 希主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求被告は、原告に対し、別紙特許権目録記載の特許権につき、特許法74 条1 項を原因とする移転登録手続をせよ。 2 予備的請求1被告は、原告に対し、別紙特許権目録記載の特許権の移転登録手続をせよ。 3 予備的請求2被告は、原告に対し、別紙特許権目録記載の特許権につき、特許法74 条1 項を原因として、被告の持分の5 分の4 の移転登録手続をせよ。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、原告が、別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件特許権」といい、これに係る特許を「本件特許」という。)に係る特許発明(以下、請求項の番号順に「本件発明1」などといい、これらを併せて「本件各発明」という。)は原告が単独で発明したものであるとして、被告に対し、以下の請求をする事案で ある。 (1) 主位的請求本件特許は本件各発明につき特許 1」などといい、これらを併せて「本件各発明」という。)は原告が単独で発明したものであるとして、被告に対し、以下の請求をする事案で ある。 (1) 主位的請求本件特許は本件各発明につき特許を受ける権利を有しない被告の冒認出願に対してされたものであると主張して、特許法74 条1 項に基づき、本件特許権の移転登録手続請求をするもの。 (2) 予備的請求1仮に、本件各発明につき、原告と被告との間で、特許を受ける権利を譲渡する旨の平成25 年3 月25 日付け譲渡契約(以下「本件譲渡契約」という。)が成立したとしても、同契約は、被告が対価支払義務を負う売買契約又は本件各発明により生じる権利の金銭的な価値評価に見合う金銭を支払うという 被告の負担を伴う負担付贈与契約であり、原告は被告の対価支払義務又は負担の不履行により同契約を解除した旨を主張して、解除による原状回復請求権(民法541 条、545 条1 項、負担付贈与契約につき、更に553 条(いずれも平成29 年法律第44 号による改正前のもの。以下同じ。))に基づき、本件特許権の移転登録手続請求をするもの。 (3) 予備的請求2仮に、本件譲渡契約が成立し、かつ、同契約の解除が制限されたとしても、同契約による移転の対象は原告と被告との間で意思表示の合致した範囲である特許を受ける権利に係る原告の持分5 分の1 に過ぎず、残りの持分5 分の 4 は依然として原告に帰属しているから、その限度で本件特許は本件各発明 につき特許を受ける権利を有しない被告の冒認出願に対してされたものであ ると主張して、特許法74 条1 項に基づき、本件特許権の持分5 分の4 の移転登録手続請求をするもの。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、末尾の証拠及び弁論の全 てされたものであ ると主張して、特許法74 条1 項に基づき、本件特許権の持分5 分の4 の移転登録手続請求をするもの。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同じ。)。) (1) 当事者等ア原告は、平成20 年に東京海洋大学海洋科学部に入学し、平成29 年に同大学大学院応用生命科学専攻にて博士号を取得するまで、同大学に在学していた者である。なお、原告の氏は、平成25 年3 月5 日、養子縁組により「B」から現在の氏に変更された。 イ被告は、水産事業、加工事業等を主たる事業として営む会社である。なお、被告は、令和4 年12 月1 日、旧商号である日本水産株式会社を現商号に変更した。 ウ C(以下「C」という。)は、東京海洋大学教授として研究室(以下「C研究室」という。)を運営する者であり、原告の指導教員であった。なお、 東京海洋大学は、平成15 年10 月1 日、東京水産大学と東京商船大学とを統合して設置された大学である。 Cの経歴は以下のとおりであり、また、その原著論文数は、原告がC研究室に配属される前の平成22 年までで50 報以上である。 平成5 年3 月東京水産大学大学院水産学研究科博士課程修了 平成5 年4 月米国テキサス工科大学農学部博士研究員平成7 年10 月東京水産大学水産学部資源育成学科助手平成15 年東京海洋大学海洋科学部助教授平成24 年東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科教授(以上につき、乙25、56、58) エ D(以下「D」という。)は、平成23 年3 月当時、東京海洋大学准教授 であっ 4 年東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科教授(以上につき、乙25、56、58) エ D(以下「D」という。)は、平成23 年3 月当時、東京海洋大学准教授 であった。 Dの経歴は以下のとおりであり、また、その原著論文数は、平成22 年までで20 報以上である。 平成14 年3 月東京水産大学大学院水産学研究科博士課程修了平成18 年6 月東京海洋大学先端科学技術研究センター助教 平成22 年3 月東京海洋大学先端科学技術研究センター准教授平成24 年3 月平成23 年度水産学奨励賞(日本水産学会)受賞(以上につき、乙46、57、59)オ E(以下「E」という。)は、平成23 年3 月当時、東京海洋大学博士研究員であり、C研究室に所属していた。 Eの経歴は以下のとおりであり、また、その原著論文数は、平成22 年までで15 報以上である。 平成17 年3 月東京水産大学水産学研究科博士課程修了同年4 月CenterforBiomedicalResearch, UniversityofVictoria 博士研究員平成19 年12 月東京海洋大学博士研究員平成23 年8 月東京海洋大学海洋科学部助教平成28 年東京海洋大学海洋科学技術研究科准教授(以上につき、乙48、56、60 の1) カ F(以下「F」という。また、C、D、E及びFを併せて「Cら」という。)は、C研究室の卒業生であり、平成23 年3 月当時、被告従業員であった。 Fの経歴は以下のとおりであり、また、その原著論文数は、平成22 年までで10 報以上である。 平成16 年9 月東京水産大学水産学研究科博士課程修了 従業員であった。 Fの経歴は以下のとおりであり、また、その原著論文数は、平成22 年までで10 報以上である。 平成16 年9 月東京水産大学水産学研究科博士課程修了 平成17 年4 月日本水産株式会社中央研究所博士研究員(以上につき、乙47、56、60)(2) C研究室の主な研究内容等ア Cは、東京水産大学水産学研究科助手として採用された後、魚類の養殖及び繁殖並びに魚類の生殖細胞に関する研究を行っていた。その一例とし て、生殖細胞の異種間移植による代理親魚養殖技術の開発があり、サバのような小型種にクロマグロを代理出産させることを目標の一つとしていた。 (乙25、30、31)イ C研究室は、平成21 年頃から、代理親魚養殖技術における代理親魚としてサバ科魚類のスマに着目し、スマの安定的確保等を図るための繁殖制 御の研究として、GnRHa(生殖腺刺激ホルモン放出ホルモンアナログ)の投与による産卵誘導の実験に着手した。(乙36、38、39、46、64)ウ東京海洋大学は、平成22 年4 月1 日、被告との間で、代理親魚技法を用いた大型海産魚の養殖技術の確立に関する共同研究契約(以下「本件共同研究契約」という。)を締結した。この共同研究における東京海洋大学の 研究担当者はC及びDであり、被告の研究担当者にはFが含まれていた。 (乙47、55)(3) 原告のC研究室での活動等ア原告は、平成23 年3 月頃、東京海洋大学海洋科学部海洋生物資源学科 4 年生としてC研究室に配属された。 原告は、C研究室において海産魚をテーマとするグループに属し、そのセミナー(以下「坂田ゼミ」という。)に出席して、自己の関与する研究の進捗の報告等をしていた。坂田ゼミには、D及びEが参 。 原告は、C研究室において海産魚をテーマとするグループに属し、そのセミナー(以下「坂田ゼミ」という。)に出席して、自己の関与する研究の進捗の報告等をしていた。坂田ゼミには、D及びEが参加し、Cもしばしばこれに参加していた。なお、当時、Cは主として東京海洋大学品川キャンパス(東京都港区所在)にて執務していたが、D及びEは、海産魚の飼 育及び実験設備のある東京海洋大学の施設「館山ステーション」(千葉県館 山市坂田所在)に常駐し、C研究室の研究及び学生の指導等に当たっていた。 (以上につき、甲51、乙25、46、48、証人C)イ Cは、原告がC研究室に配属された際、原告に対し、サバ科魚類の産卵制御技法を卒業論文の研究テーマとすることを提案した。原告は、これに 応じて同テーマでの研究を行った。(甲51、乙25)まず、平成23 年5 月19 日~同月28 日にかけて経口投与を行うゴマサバの産卵誘導の実験(以下「初期ゴマサバ実験1」という。)が実施され、続いて、実験条件等の異なるゴマサバに同年6 月30 日~同年7 月9 日にかけて経口投与を行う産卵誘導の実験(以下「初期ゴマサバ実験2」とい う。)が実施された。しかし、いずれも期待通りの成果は上がらなかった。 (甲9 の1~9 の3)また、同年8 月26 日~同年10 月2 日にかけてスマに対し粗精製GnRHaを経口投与する方法による産卵誘導実験(以下「本件スマ実験1」という。)が実施された。その結果、受精卵の獲得及び孵化に成功した。(甲9 の4~ 9 の6、乙37)さらに、同年12 月29 日~平成24 年1 月17 日にかけてゴマサバに対しGnRHa を経口投与する方法による産卵誘導実験(以下「初期ゴマサバ実験3」という。)が、また 9 の6、乙37)さらに、同年12 月29 日~平成24 年1 月17 日にかけてゴマサバに対しGnRHa を経口投与する方法による産卵誘導実験(以下「初期ゴマサバ実験3」という。)が、また、同月22 日~同月31 日にかけて実験条件等の異なるゴマサバに対し経口投与する方法による産卵誘導実験(以下「初期 ゴマサバ実験4」という。)が実施されたが、いずれも産卵には至らなかった。(甲9 の7、9 の8)ウ原告は、同年3 月、卒業論文「生殖腺刺激ホルモン放出ホルモンアナログの経口投与によるサバ科魚類の人為催熟技術の開発」(甲4。以下「原告卒論」という。)を作成、提出した。 エ同年4 月~同年5 月にかけ、水温を特定の温度に調整した上でGnRHa を経口投与する方法によるスマの産卵誘導実験(以下「本件スマ実験2」という。)が行われた。その結果、受精卵の獲得及び孵化に成功した。(甲 9 の10)オゴマサバの産卵水温期である同年4 月~同年6 月にかけて、ゴマサバに対し、3 回のGnRHa 経口投与の実験が行われ、いずれも産卵が認められ た(甲9 の10、9 の12。このうち、同年4 月23 日~同年5 月2 日に実施された1 回目の実験を「本件ゴマサバ実験1」、同月5 日~同月14 日に実施された2 回目の実験を「本件ゴマサバ実験2」、同月23 日~同年6 月1日に実施された3 回目の実験を「本件ゴマサバ実験3」という。)。 (4) 本件譲渡証書の作成等 ア Cは、本件スマ実験1 の成功を受けて、「魚の産卵に係るホルモン含有飼料」に関する発明として特許出願することを考え、平成23 年11 月16 日、東京海洋大学に対し、上記発明を職務発明とする発明届出書(乙5)を提出した。しかし、東京 、「魚の産卵に係るホルモン含有飼料」に関する発明として特許出願することを考え、平成23 年11 月16 日、東京海洋大学に対し、上記発明を職務発明とする発明届出書(乙5)を提出した。しかし、東京海洋大学は、「全体として、嗜好性を向上させるとか大型魚特有の処方がない限り特許性は低いものと思われる。」、「特許とし ての出願最低要件を備えていない」との発明評価委員会の審議結果を踏まえ、平成24 年2 月10 日、上記発明に係る特許を受ける権利を承継しない旨を通知した(乙6、7)。 そこで、Cは、被告に対し、上記権利の譲渡を前提に、被告において特許出願することの可能性を打診した。被告は、Fを中心に、その出願に向 け、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の検討等を進めることとした。 (乙47)イ本件譲渡契約に係る平成25 年3 月25 日付け「譲渡証書」(乙1。以下「本件譲渡証書」という。)には、譲渡人欄にCら及び原告の氏名等が記載されると共に、その氏名の自署及び押印がされている。また、本件譲渡証 書の宛先である譲受人欄には被告の名称等が記載されている。さらに、譲 渡人らが、譲受人に対し、発明の名称を「海産の魚食性魚類の産卵誘導方法」とする発明に関する特許及び実用新案登録を受ける権利を譲渡する旨が記載されている。他方、被告のCら及び原告に対する何らかの給付に関する記載はない。 (5) 本件特許出願及び本件特許権の設定登録 被告は、平成26 年3 月20 日、平成25 年3 月22 日を優先日とし、Cら及び原告を発明者とする本件特許出願をし、平成31 年1 月25 日、その設定登録を受けた(甲3。以下、願書添付の明細書及び図面を「本件明細書」という。)。 本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は、それ 告を発明者とする本件特許出願をし、平成31 年1 月25 日、その設定登録を受けた(甲3。以下、願書添付の明細書及び図面を「本件明細書」という。)。 本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は、それぞれ、以下のとおりであ る(「/」は改行部分を示す。以下同じ。)。 【請求項1】(本件発明1)サバ亜目魚類の産卵誘導方法であって、/ゴマサバ及びマサバなど春産卵のサバ科魚種であれば18℃~21℃、/スマ、カツオ、マグロなど夏産卵のサバ科魚種であれば24~27℃、/メカジキなど夏産卵のメカジキ科及び マカジキ科であれば 18~22℃で誘導し、/GnRH を経口投与することを特徴とする方法。 【請求項2】(本件発明2)サバ亜目魚類がサバ科魚類である、請求項1 の産卵誘導方法。 【請求項3】(本件発明3) サバ亜目魚類が成魚の体長で30cm 以上の魚種である、請求項1 又は2の産卵誘導方法。 【請求項4】(本件発明4)経口投与が、飼料に混ぜて行うものである、請求項1 から3 のいずれかに記載の産卵誘導方法。 【請求項5】(本件発明5) 飼料がタンパク質含量で5 重量%以上、90 重量%未満である、請求項4の産卵誘導方法。 【請求項6】(本件発明6)GnRH が、人工的に作製したものである、請求項1 から5 のいずれかに記載の産卵誘導方法。 【請求項7】(本件発明7)生殖ホルモンの経口投与に加え、水温を調節するものである、請求項1から6 のいずれかに記載の産卵誘導方法。 【請求項8】(本件発明8)産卵誘導が陸上水槽での飼育下で行われるものである請求項1 から7 の いずれかに記載の産卵誘導方法。 3 主な争点(1) 原告の単独発明者性(争点1)(2) (本件発明8)産卵誘導が陸上水槽での飼育下で行われるものである請求項1 から7 の いずれかに記載の産卵誘導方法。 3 主な争点(1) 原告の単独発明者性(争点1)(2) 本件譲渡契約の成否等(争点2) 4 当事者の主張 (1) 原告の単独発明者性(争点1)(原告の主張)ア本件各発明の特徴的部分従来、魚の産卵誘導方法として、LHRHa(黄体形成ホルモン放出ホルモンアナログ)を移植するインプラント法が存在したが、産卵誘導方法は魚 種によって異なり、回遊性の高い海産の魚食性魚類であるサバ亜目魚類に対する産卵誘導方法については、実用化可能なものが存在せず、課題とされていた。 本件各発明は、このような課題を解決しようとするものであり、サバ亜目魚類の魚食性の高さや、LHRHa の経口投与だけでは上手く産卵誘導さ れないことに着目し、LHRHa を魚の飼料に混ぜて経口投与し、経口投与 と同時に各魚種の産卵適水温で産卵を誘導するという方法を採用したものである。 特に、海産の魚食性魚類であるマグロでは、産卵期に餌の摂取量が低下するといった理由により、GnRH(生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン)を餌飼料に混ぜて経口摂取させる手法では産卵の誘導が試されていなかった。 海産の魚食性魚類のうちサバ亜目魚類にこのような手法を適用することは、従来技術には見られなかった部分である。 したがって、本件各発明の特徴的部分は、海産の魚食性魚類、特にサバ亜目魚類において、生殖ホルモンを適量のタンパク質を含む飼料に混ぜて経口投与し、それと同時に水温調節するという方法を採用したことである。 イ本件各発明の特徴的部分に対する原告の関与原告は、以下のとおり、本件各発明の特徴的部分につい 質を含む飼料に混ぜて経口投与し、それと同時に水温調節するという方法を採用したことである。 イ本件各発明の特徴的部分に対する原告の関与原告は、以下のとおり、本件各発明の特徴的部分について、全て単独で着想し、これを具体化した。これに対し、Cらは、単に研究テーマを与え、発明の過程において一般的な指導や抽象的助言を与えたに過ぎない。 (ア) 卒業論文テーマの選定 原告は、元々魚類の生殖生理に関心があり、サバ、最終的にはクロマグロ等の養殖業界へも貢献できる技術を発明したいと考えていた。C研究室は、館山市の臨海研究所において、実際に海水魚を養殖して実験、研究を行うことができたことから、原告は、同研究室への配属を希望し、希望どおり配属された。 また、原告は、C研究室に配属される以前から、サバ科魚類の産卵誘導に関する従来技術、先行研究として、GnRHa のインプラント法や経口投与法があることを知っていた。 そこで、原告は、平成23 年4 月前半頃、サバ科魚類の産卵誘導方法に関し、従来C研究室で行われていたインプラント法の抱える課題に着 目し、より魚に与えるストレスの小さい方法として経口投与法を卒論の テーマとすることに決めた。 (イ) 実験の計画立案及び実施原告は、卒論のテーマを決定する前後において、ゴマサバを自ら釣るなどして調達し、最初の実験(初期ゴマサバ実験1)にとりかかった。 同実験では、従来型のインプラント法による試験区では産卵が認められ たものの、経口投与区ではほとんど産卵が認められず、失敗といえるものであった。原告は、当時、Cから実験方針や具体的手法について指導を受けておらず、魚の飼育にも慣れていなかったことがその一因である。 原告は、初期の実験の後、失敗の原因を考え、GnR 失敗といえるものであった。原告は、当時、Cから実験方針や具体的手法について指導を受けておらず、魚の飼育にも慣れていなかったことがその一因である。 原告は、初期の実験の後、失敗の原因を考え、GnRHa の投与量、投与回数、経口投与の方法など様々なことを試していった。 他方、原告は、2 週間に1 回、少ない時では2 か月に1 回ぐらいの頻度で開催される坂田ゼミにおいて、C、D及びE等に実験の報告を行い、助言を得ることができた。もっとも、そこでの指導は、グラフの見せ方、話し方等のプレゼンテーションに関するものがほとんどであった。実験内容に関する助言がされたとしても、それを参考に具体的な試験方法を 計画したのは原告であった。 (ウ) 経口投与の方法及び水温調節について原告は、それまでの実験失敗の原因について、魚の消化管内の消化酵素による失活を考え、Cから提案されたカプセルによる経口投与法の予備実験や、リポソームを用いた経口投与法による実験も行ったが、いず れも産卵には至らなかった。これにより、原告は初期ゴマサバ実験2〜 4 において産卵がなかった理由につき、必ずしも消化酵素による失活が原因ではないと考察し、より簡易かつ一般的な方法であるGnRHa 水溶液に漬け込んで乾燥させた餌を与えるという方法を継続した。 原告は、平成24 年4 月、それまでと同じようにゴマサバを用い、水 温調節は行わずに経口投与試験を行ったが、対照区のインプラント区で は産卵があったものの、経口投与区では産卵がなかった。原告は、この結果を受け、それまでの6 回にわたる実験において経口投与区で産卵を確認できたのは初期ゴマサバ実験1 と本件スマ実験1 だけであったことから、産卵適水温帯にある時のみ産卵するものと確信した。 そこ 結果を受け、それまでの6 回にわたる実験において経口投与区で産卵を確認できたのは初期ゴマサバ実験1 と本件スマ実験1 だけであったことから、産卵適水温帯にある時のみ産卵するものと確信した。 そこで、同年4 月〜5 月にかけ、スマを用いて人為的に水温を27℃に 調節して実験(本件スマ実験2)を行ったところ、産卵誘発に成功した。 原告はその後3 回同じ実験を繰り返し(本件ゴマサバ実験1~3)、いずれもGnRHa 経口投与による産卵が認められたことにより、産卵適水温が経口投与における産卵誘導に重要であることを見出した。 (エ) 実験に用いる合成ペプチド(GnRHa)の調達、管理 原告は、一連の実験に用いるGnRHa について、その大まかな必要量を計算した上で、C研究室の秘書に依頼してこれを購入し、その在庫量の管理も自ら行っていた。 ウ以上の事情によれば、原告は、本件各発明の特徴的部分について、全て単独で着想してこれを具体化し、遅くとも平成25 年3 月までに、本件各 発明を単独で発明したといえる。これに対し、Cらは、単に研究テーマを与え、発明の過程において一般的な指導や抽象的助言を与えたに過ぎないから、本件各発明の共同発明者とはいえない。 (被告の主張)ア本件各発明の特徴的部分 原告の主張は否認ないし争う。 本件各発明の特徴的部分は、GnRH の経口投与の対象をサバ亜目魚類に特定したこと(特徴1)、及び春産卵のサバ科魚種、夏産卵のサバ科魚種並びに夏産卵のメカジキ科及びマカジキ科の各々について水温範囲を設定したこと(特徴2)である。 イ本件各発明の特徴的部分に対するCらの関与 以下のとおり、原告は、本件各発明の特徴1 及び2 の着想には関与しておらず、その具体化の過程で限定 たこと(特徴2)である。 イ本件各発明の特徴的部分に対するCらの関与 以下のとおり、原告は、本件各発明の特徴1 及び2 の着想には関与しておらず、その具体化の過程で限定的に関与したにとどまる。本件各発明の特徴的部分の着想及び具体化にあたり、Cらの創作的関与は大きく、Cらは、原告と共に本件各発明の共同発明者といえる。 (ア) 特徴1 に関する着想 経口投与の対象として魚食性の高い魚種のうちサバを着想した点については、Cが主たる貢献をした。その背景として、Cが、人工親魚養殖技術に関する研究に長年取り組んでおり、その過程で、人工親魚として用いられるサバの成熟制御に関心を有していたこと、雑食性の魚類に対するGnRHa の経口投与による先行研究に気付いていたこと、研究にお いて抗原としてペプチドを使用した経験があり、さらにはGnRHa 含有ペレットのインプラントによるスマの成熟制御の研究も行っていたため、安価な粗精製GnRHa が安価に得られることに気付いたことが挙げられる。 その後、経口投与の対象として更にスマを着想した点については、C、 D及びEが貢献した。その背景として、D及びEが、スマを用いた研究及び実験に関与しており、主としてEがスマに対するGnRHa 含有ペレットのインプラントによる成熟誘導の実験の作業を担当していたところ、平成22 年9 月~同年10 月に、受精卵の獲得及び孵化に成功したことが挙げられる。その結果を踏まえ、平成23 年のスマの産卵期を迎える際 に、C、D及びEの間で、スマについても経口投与を行うアイデアが浮かんだ。 (イ) 特徴2 に関する着想スマについて産卵期以外の時期にも水温を調整して経口投与による成熟制御を試みるという着想については、C、D及び で、スマについても経口投与を行うアイデアが浮かんだ。 (イ) 特徴2 に関する着想スマについて産卵期以外の時期にも水温を調整して経口投与による成熟制御を試みるという着想については、C、D及びEが貢献した。その 背景として、平成23 年11 月~平成24 年1 月、水温を産卵適水温に調 整し、スマに対するGnRHa 含有ペレットのインプラントによる成熟誘導を試みたところ、受精卵の獲得及び孵化に成功したことが挙げられる。 その結果を踏まえ、経口投与についても、C、D及びEの間で、産卵期以外の時期に水温を調整するというアイデアが浮かんだ。水温が及ぼす影響については、人工親魚養殖技術での知見の蓄積も参考となった。 (ウ) 着想の具体化a ゴマサバゴマサバについては、Cが原告に卒論のテーマを与える際に、経口投与のための複数の方法を指示した。その中には、餌にホルモンを混ぜる方法、ホルモンをカプセル化する方法及びドラッグ・デリバリー・ システムによる方法が含まれていた。したがって、着想の具体化の点においても、Cが大きな貢献をしたといえる。 より具体的な実験のデザイン(経口投与区での投与量の決定を含む。)及び実験の遂行(目的に即したゴマサバの飼育方法、産卵方法、産卵の計測方法の採用及び改良を含む。)については、Cだけでなく、 D及びEが、坂田ゼミ、館山ステーションでの指導及び電話等によって原告を指導した。Fも、被告と東京海洋大学との共同研究のために館山ステーションを訪問する機会に指導に加わった。 坂田ゼミでは、原告が実験結果を発表し、C、D及びEが議論に加わり、各自が意見を出し合って着想の具体化に貢献した。 b スマスマについては、C研究室にて既にスマを飼育していたため、平成 ミでは、原告が実験結果を発表し、C、D及びEが議論に加わり、各自が意見を出し合って着想の具体化に貢献した。 b スマスマについては、C研究室にて既にスマを飼育していたため、平成 23 年の産卵期を迎えると経口投与の実験を行うことができた。具体的な実験は、ゴマサバでの経験を踏まえ、可能な限度で投与量を増やして行われた。スマの実験における着想の具体化については、C、D、 E及び原告が貢献した。D及びEは、それまでのスマの実験の経験が 豊富であり、その貢献は大きかった。 (エ) 実験結果からの本件各発明の抽出上記プロセスを経て、ゴマサバ及びスマについて重要な実験結果及び知見が得られたところ、それらに基づいて本件各発明を抽出し、特許請求の範囲を作成した点については、Fの貢献が大きい。 すなわち、東京海洋大学への発明届出書の提出段階では、GnRH を含有する組成物という物の発明が想定されていたが、Fの貢献により、方法の発明が抽出され、魚種ごとに水温を特定する工程が付加された。さらに、対象とする魚種を、ゴマサバ及びスマを用いた実験結果に基づき、春産卵のサバ科魚種、夏産卵のサバ科魚種並びに夏産卵のメカジキ科及 びマカジキ科とし、それぞれについて水温範囲が特定された。これらの特定は従来技術との差別化及び特許の取得に不可欠であった。 (オ) 小括以上のとおり、本件各発明の特徴的部分に係る着想にはC、D及びEが、着想の具体化にはC、D、E、原告及び(ゴマサバについては)F が、それぞれ創作的に関与し、また、発明の抽出には主にFが創作的に関与した。 したがって、本件各発明は、Cら及び原告の共同発明であり、原告の単独発明ではない。 (2) 本件譲渡契約の成否等(争点2) (被告の し、また、発明の抽出には主にFが創作的に関与した。 したがって、本件各発明は、Cら及び原告の共同発明であり、原告の単独発明ではない。 (2) 本件譲渡契約の成否等(争点2) (被告の主張)ア Cは、本件各発明につき特許出願することを考え、東京海洋大学に発明届を提出した。これは、各共同発明者にとって、研究のための競争的資金を獲得する上で特許出願の発明者となった実績が有利に考慮される場合があること、また、学生の場合、奨学金の支給において特許出願の発明者と なった実績が有利に考慮される場合があること等のメリットがあるためで ある。しかし、東京海洋大学は、本件各発明の特許を受ける権利を譲り受けないことを決定した。 このような事情の下、被告は、C研究室に所属するCら及び原告が特許出願によって享受できる上記メリットを理解し、同人らから特許を受ける権利を譲り受けて特許出願を行うことを提案した。その際、被告は、出願 費用、中間処理及び権利維持に関する費用を自ら負担することとした。その結果、被告は、Cら及び原告との間で、本件各発明に係る特許を受ける権利を譲り受ける旨の本件譲渡契約を締結し、本件譲渡証書が作成された。 このように、本件譲渡契約は、Cら及び原告が、被告に対し、それぞれ保有する本件各発明の特許を受ける権利を譲渡する義務を負い、被告は、 被告の費用にて、本件各発明について特許出願を行い、その特許出願を出願公開する義務を負うと共に、その後、合理的な限度で、中間手続を遂行して特許を得て維持する努力義務を負うという非典型契約であり、被告は、Cら及び原告に対し、対価支払義務を負わない。 本件譲渡契約により、被告は、Cら及び原告から、本件各発明の特許を 受ける権利を適法に譲り受け、特許出願を行った という非典型契約であり、被告は、Cら及び原告に対し、対価支払義務を負わない。 本件譲渡契約により、被告は、Cら及び原告から、本件各発明の特許を 受ける権利を適法に譲り受け、特許出願を行った。仮に、原告の主張のとおり原告が本件各発明につき単独の発明者であったとしても、その特許を受ける権利は全て被告が譲り受けた。 また、被告は、本件特許出願をして特許を得ており、本件譲渡契約における被告の義務を誠実に履行した。すなわち、被告に債務不履行はない。 イ本件譲渡証書には、共同発明者とされる者全員の氏名等が印字されており、原告は、本件譲渡証書への自署及び押印の際に、譲受人だけでなく、Cらが他の共同発明者とされていることを認識していた。 また、本件各発明の特許出願は、基礎出願(平成25 年3 月22 日)、優先権主張を伴う国際出願(平成26 年3 月20 日)、国内移行(特願2015- 506852)との経緯を辿ったところ、原告は、上記基礎出願の直後に、その 願書及び出願書類を入手済みであった。上記願書には、被告が単独の出願人として記載されていると共に、発明者として、Cら及び原告が記載され、また、出願書類には、本件各発明の内容が記載されていた。 このため、原告は、優先日(基礎出願の出願日)頃には、本件各発明が共同発明とされ、被告がその特許を受ける権利を譲り受けたこと、被告が 単独の出願人となっていること及び出願の内容を認識し、異議を唱えなかったといえる。 ウ同時履行の抗弁仮に、原告が、被告に対し、原状回復義務として本件特許権の持分につき移転登録手続を請求し得る場合、被告が出願、中間処理及び特許権の維 持等に要した費用は本件譲渡契約における必要費及び有益費に当たることから、被告は、原告に対し、 務として本件特許権の持分につき移転登録手続を請求し得る場合、被告が出願、中間処理及び特許権の維 持等に要した費用は本件譲渡契約における必要費及び有益費に当たることから、被告は、原告に対し、これらの費用につき返還請求権を有する。原告及び被告が有するこれらの請求権は同時履行の関係にあるから、被告は、原告が上記費用を支払うまで、原告に対し本件特許権の持分を返還しない。 (原告の主張) ア否認ないし争う。 イ本件譲渡契約の不成立本件譲渡契約は売買契約としての性質を有するものであり、売買契約は買主による売買代金の支払をその要素とする。しかし、本件譲渡契約においては、本件各発明に係る特許を受ける権利の対価につき、具体的な代金 額もその算定方法等も決定されていなかった。 したがって、本件譲渡契約は、売買契約の要素を欠き、そもそも成立していない。 そうすると、被告による本件特許出願は「その発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願」(特許法123 条1 項6 号)に該当するか ら、本件各発明に係る特許を受ける権利を有する原告は、同法74 条1 項 に基づき、被告に対し、本件特許権の移転請求権を行使できる(主位的請求)。 ウ本件譲渡契約の債務不履行による解除仮に、原告と被告との間で本件譲渡契約が締結されていたとしても、当該契約は売買契約であることを前提としていた。また、仮に、本件各発明 に係る特許を受ける権利の譲渡に対する対価の支払約束の合意が認められないとしても、本件譲渡契約は、被告が、原告に対し、本件各発明から生じる権利について金銭的な価値評価を行い、それに見合う金銭を支払うことを条件とした特許を受ける権利の譲渡であり、負担付贈与契約の法的性質を有する。 しかし、 、原告に対し、本件各発明から生じる権利について金銭的な価値評価を行い、それに見合う金銭を支払うことを条件とした特許を受ける権利の譲渡であり、負担付贈与契約の法的性質を有する。 しかし、被告は、原告に対し、本件各発明に係る特許を受ける権利の譲渡に対する対価を支払っておらず、その支払意思もない。 そこで、原告は、本件の第1 回弁論準備手続期日(令和5 年5 月12 日実施)における原告第1 準備書面の陳述をもって、被告に対し、被告の債務不履行に基づき、本件譲渡契約を解除する旨の意思表示をした。 その結果、被告は、本件特許出願時において、原告から本件各発明に係る特許を受ける権利を承継していなかったこととなるから、本件特許出願は、「その発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願」に該当し、原告は、同法74 条1 項(主位的請求)又は原状回復請求権(民法541条、545 条、負担付贈与契約の場合、さらに553 条。予備的請求1)に基 づき、被告に対し、本件特許権の移転請求権を行使できる。 エ仮に、本件譲渡契約により本件各発明に係る特許を受ける権利の譲渡が成立し、有効であるとしても、その移転の対象として両者の意思が合致していた範囲は特許を受ける権利の5 分の1 の持分に留まる。 すなわち、被告の主張を前提とする場合、本件各発明に係る特許を受け る権利の移転に関して原告・被告間で譲渡の意思の合致があったのは、被 告が原告の持分として認識していた部分に限定されるところ、本件譲渡証書には譲渡人とされる5 名の持分に関する記載はないから、被告は、各譲渡人はそれぞれ持分5 分の1 を有すると認識していたとみられる。そうすると、仮に本件譲渡契約による特許を受ける権利の譲渡があったとしても、原告からの 名の持分に関する記載はないから、被告は、各譲渡人はそれぞれ持分5 分の1 を有すると認識していたとみられる。そうすると、仮に本件譲渡契約による特許を受ける権利の譲渡があったとしても、原告からの権利移転の対象として両者の意思が合致していた範囲は特許を 受ける権利の持分5 分の1 に留まる。本件各発明に係る特許を受ける権利は全て原告に原始的に帰属していたことから、本件譲渡契約が有効であったとしても、被告に移転したのは上記持分5 分の1 の限度に留まり、残る持分5 分の4 は原告に帰属している。 ところが、本件特許は、原告をその出願人に含んでいない。そのため、 本件特許は特許法38 条に違反してされたものであり、同法123 条1 項2号に該当する。 したがって、原告は、被告に対し、同法74 条1 項に基づき、本件特許権の持分5 分の4 につき移転請求権を行使できる(予備的請求2)。 オ同時履行の抗弁について 債権者が償還する義務を負う必要費及び有益費は契約上義務付けられていないものであり、特許出願、出願公開及び特許化が本件譲渡契約上の被告の義務であるならば、原告は、これらの費用を償還する義務を負わない。 特許出願等が本件譲渡契約上の被告の義務でないとしても、特に有益費についてはその償還義務が否定される場合があり、本件の場合、償還する義 務を負う必要費及び有益費は、本件特許に関して特許庁に支払った出願料、審査請求料及び特許料に限定される。しかし、その償還すべき費用の額は明らかでない。 第3 当裁判所の判断 1 原告の単独発明者性(争点1)について (1) 発明者とは、自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者、 すなわち、当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・ の単独発明者性(争点1)について (1) 発明者とは、自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者、 すなわち、当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成するための創作に関与した者を指すと解される。発明者となるためには、一人の者が全ての過程に関与することが必要なわけではなく、共同で関与することでも足りるものの、複数の者が共同発明者となるためには、課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、発明の特徴 的部分の完成に創作的に寄与したことを要する。発明の特徴的部分とは、特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち、従来技術には見られない部分、すなわち、当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分を指すものと解される。 (2) 本件各発明の特徴的部分 ア本件明細書には、次の記載がある。 (ア) 技術分野「本発明は、海産の魚食性魚類の産卵誘導方法に関する。」(【0001】)(イ) 背景技術「近年、動物取扱業といわれる産業、特に魚類を扱う養殖や水族館、 観賞魚販売等において、大型魚類の人工的な飼育が重要となってきている。同時に、品種改良等によって付加価値の高い系統を作出するためであったり、養殖用に若令魚の採捕が行われる魚種においては資源量に与える影響が懸念されたりすることから、人工飼育下での再生産も重要な課題となっている。人工飼育下において魚類の再生産を行わせるために は、適当な飼料を与えて成長を促すだけでなく、適切な環境刺激を与えて性成熟と産卵行動を促すことが必要である。魚類の性成熟および産卵行動は、様々な環境刺激の下、性ホルモンを始めとする種々の内性因子の調節を経て促される。これら成熟に関わる因子や環境刺激がどのように作用して、 産卵行動を促すことが必要である。魚類の性成熟および産卵行動は、様々な環境刺激の下、性ホルモンを始めとする種々の内性因子の調節を経て促される。これら成熟に関わる因子や環境刺激がどのように作用して、性成熟と産卵が引き起こされるのかは、魚種毎に様々であ り、対象種ごとにメカニズムを調査する必要がある。 一方、海産の魚食性魚類である、天然のサバ亜目魚類に属する魚は、回遊しながら春から夏に産卵する。このとき、環境刺激のうち何が刺激となって産卵の誘導が起きるのかは、よく分かっていない。例えばクロマグロでは、天然海域では20℃前後から30℃前後の広い温度帯で仔魚が確認されている一方で、人工飼育下での観察では、少なくとも単純に 特定の水温になると産卵するという単純なメカニズムで制御されているのではなく、23℃から24℃に達するまでの日数が短いことが重要であるとの示唆がある。また、このようにして得られた卵が孵化仔魚まで成長可能な卵であったかどうかは確認されていない…。」(【0002】)「魚類の性成熟は、視床下部-脳下垂体-生殖腺系において、種々の ホルモンが機能することによって制御されることが、サケ科魚類を始めとする多くの魚種を用いた研究から明らかとなっている。まず、視床下部において10 アミノ酸からなるペプチド性のGnRH…が産生される。 続いて、GnRH が脳下垂体に働きかけて生殖腺刺激ホルモン(GTH)の分泌を促す。さらに、GTH は生殖腺に作用し、メスではエストラジオー ル17β(E2)産生を介して卵黄の蓄積による卵母細胞の成長、その後に17α,20β-ジヒドロキシ-プレグネン-3-オン(DHP)を介して最終成熟と排卵を促す。オスでは、11-ケトテストステロン(11KT)産生を介して精巣の発達と精子の よる卵母細胞の成長、その後に17α,20β-ジヒドロキシ-プレグネン-3-オン(DHP)を介して最終成熟と排卵を促す。オスでは、11-ケトテストステロン(11KT)産生を介して精巣の発達と精子の分化、DHP を介して排精を促す。そして、これら一連のカスケードが適切に機能して性成熟が進んだ結果、産卵行動に至る と考えられている。この原理を用いて、筋肉あるいは腹腔内に、GnRHを分泌する徐放剤を外科的に埋め込むこと、又は生理食塩水等に溶解した水溶液の状態で注射することで、飼育環境下では最終成熟や産卵行動がみられない個体にも、最終成熟や自発的な産卵行動を促すことが可能となっている。」(【0003】) 「GnRH は、アミノ酸10 残基から成るペプチドホルモンである。多 くの魚類において3 種類の分子、すなわちGnRH1、GnRH2、GnRH3の存在が知られている。それぞれの分子の生理機能については、種々の魚種において報告されており、GnRH1 がGTH の分泌を介した性成熟の制御を担っていると考えられている。ただし、まだ分かっていないことも多い。…アミノ酸配列の多型と、生体内における生理機能や成熟誘起 能の強弱との関係は詳細に明らかにはされていない。」(【0004】)「多くの魚種において、生理的食塩水等にGnRH を溶解した水溶液、あるいはGnRH を徐放的に放出するコレステロールペレットや生分解性ポリマーを、筋肉中あるいは腹腔内に投与することや、インプラントとして魚の体内に埋め込むことで、成熟の促進や産卵を誘起することが 可能となっている。しかしながら、その効能は対象となる魚種ごとに異なることが知られている。…これらの事実は、外来GnRH 投与による成熟促進効果は、魚種ごとに異なることを示して 起することが 可能となっている。しかしながら、その効能は対象となる魚種ごとに異なることが知られている。…これらの事実は、外来GnRH 投与による成熟促進効果は、魚種ごとに異なることを示している。 また、GnRH を餌飼料に混ぜ、経口的に投与することでも成熟や産卵が促進される例も報告されている。餌飼料中のGnRH ペプチドが分解さ れないまま、一部消化管から取り込まれることでGTH 産生を促し、成熟の促進や産卵を誘起すると考えられている。これまでに海産魚での実施例としては、雑食性のギンダラやspottedseatrout において、GnRHの経口投与によって産卵が誘導された例がある…。しかし、これらは海産ではあっても魚食性は低い。さらに、ギンダラやspottedseatrout は、 日長や水温などの飼育環境をコントロールすることで、人工飼育下においても産卵させうる魚種である。このため、これら魚種の人為的な産卵誘発は難易度として高いものではなく、これら魚種で確認されたGnRHの産卵誘起能が、すべての魚種に当てはまるとは言えない。しかも、これらの魚種においても、投与した全ての個体が産卵したわけではなく、 GnRH 投与による成熟誘起の不確実性が示唆されている。特に海産の魚 食性魚類であるマグロでは、産卵期に餌の摂取量が低下することから、これまでこのような手法では産卵の誘導が試されてこなかった…。」(【0005】)(ウ) 発明が解決しようとする課題「本発明は、海産の魚食性魚類において、特にサバ亜目魚類において、 人工飼育下で産卵を、特に卵質のよい卵の産卵を誘導することを課題とする。」(【0008】)(エ) 課題を解決するための手段「海産の魚食性魚類に生殖ホルモンの経口投与を行う 魚類において、 人工飼育下で産卵を、特に卵質のよい卵の産卵を誘導することを課題とする。」(【0008】)(エ) 課題を解決するための手段「海産の魚食性魚類に生殖ホルモンの経口投与を行う。」(【0009】)(オ) 発明の効果 「本発明の一態様によれば、海産の魚食性魚類の、特にサバ亜目魚類の、さらにサバ科魚類回遊性の高い魚種の産卵誘導をすることができる。 また、別の態様によれば、成魚の体長で30cm 以上の海産の魚食性魚類の産卵誘導をすることができる。また、別の態様によれば、卵質のよい卵を誘導することができ、孵化率の高い卵を誘導することができる。さ らに、別の態様によれば、陸上水槽での飼育下で産卵を誘導することができる。」(【0011】)(カ) 発明を実施するための最良の形態「経口投与は、生殖ホルモンを直接投与してもよく、飼料に混ぜて投与してもよい。ペプチドホルモンを飼料にまぜる場合は、ペプチダーゼ の活性が少ない状態の飼料に混ぜるほうが好ましい。飼料中のペプチダーゼは、加熱処理、酸処理、アルカリ処理、乾燥処理、加圧処理などにより活性を少なくすることができる。」(【0021】)「生殖ホルモンを経口投与する場合には、生育温度を適宜調節することが好ましい。魚種により生育温度は様々に異なるが、生育可能な温度 帯の上限付近あるいは下限付近ではストレスにより産卵が誘導されにく い。このため、生育可能な温度の中央値付近で誘導することが好ましい。 水温の調節は、生殖ホルモンの経口投与と同時か、生殖ホルモンの経口投与に先立って、ゴマサバ及びマサバなど春産卵のサバ科魚種であれば18℃~21℃、スマ、カツオ、マグロなど夏産卵のサバ科魚種であれば24~27℃、メカジキなど夏産卵のメカジキ科及びマカ ルモンの経口投与に先立って、ゴマサバ及びマサバなど春産卵のサバ科魚種であれば18℃~21℃、スマ、カツオ、マグロなど夏産卵のサバ科魚種であれば24~27℃、メカジキなど夏産卵のメカジキ科及びマカジキ科であれば ~22℃で誘導することが好ましい。」(【0023】)イ本件各発明の内容及び特徴(ア) 本件特許に係る特許請求の範囲及び本件明細書の各記載によれば、本件各発明は、以下のとおりのものと認められる。 すなわち、人工飼育されている魚類の再生産を行うためには、魚類に 対し、適当な飼料を与えて成長を促すだけでなく、適切な環境刺激を与えて性成熟と産卵行動を促す必要があるが、成熟に関わる因子や環境刺激がどのように作用して性成熟と産卵が引き起こされるのかは魚種によって異なるため、対象種ごとにメカニズムを調査する必要がある。他方、海産の魚食性魚類である天然のサバ亜目魚類に属する魚は、回遊しなが ら春から夏に産卵するが、環境刺激のうち何が刺激となって産卵の誘導が起きるのかは、よくわかっていない。(【0002】)魚類の性成熟は、視床下部-脳下垂体-生殖腺系において、GnRH をはじめとする種々のホルモンが機能することにより制御されることが明らかとなっているところ、多くの魚種において、GnRH を溶解した水溶 液等をインプラント等の方法により魚の体内に埋め込むことで、成熟の促進や産卵を誘起することが可能となっている。また、GnRH を餌飼料に混ぜ、経口的に投与することでも成熟や産卵が促進されることも知られている。従来の海産魚に対するGnRH 経口投与の実施例としては、ギンダラやspottedseatrout に関するものがあるが、これらの魚種で確認 されたGnRH の産卵誘起能が全ての魚種に当てはまる の海産魚に対するGnRH 経口投与の実施例としては、ギンダラやspottedseatrout に関するものがあるが、これらの魚種で確認 されたGnRH の産卵誘起能が全ての魚種に当てはまるとはいえない。特 に、海産の魚食性魚類であるマグロでは、産卵期に餌の摂取量が低下することから、経口投与による産卵誘導が試みられたことはなかった。 (【0003】~【0005】)本件各発明は、こうした状況を背景に、人工飼育下でのGnRH の経口投与による産卵誘導を行う海産の魚食性魚類として、従来その有効性や 影響を受ける環境刺激が明らかでなかったサバ亜目魚類を対象とした上で(【0008】)、産卵誘導に影響を与える環境刺激として、春産卵のサバ科魚種、夏産卵のサバ科魚種、及び、夏産卵のメカジキ科及びマカジキ科の区分毎に産卵誘導温度を特定したものである(特許請求の範囲、【0009】)。 本件各発明は、こうした構成によって、海産の魚食性魚類の、特にサバ亜目魚類の、さらにサバ科魚類回遊性の高い魚種の産卵誘導をすることができるなどの効果を奏する(【0011】)。 (イ) このような本件各発明の解決すべき課題、課題解決手段及び効果に照らすと、本件各発明の特徴的部分は、①人工飼育下でのGnRH の経口投 与による産卵誘導を行う特定の魚食性魚類として、サバ亜目魚類を対象とした点(以下「特徴的部分①」という。)、及び、②産卵誘導に影響を与える環境刺激として、春産卵のサバ科魚種、夏産卵のサバ科魚種並びに夏産卵のメカジキ科及びマカジキ科の区分毎の産卵誘導温度を特定した点(以下「特徴的部分②」という。)にあるものと理解される。 ウ原告の主張について(ア) 原告は、本件各発明の特徴的部分は、海産の魚食性魚類、特にサバ亜 区分毎の産卵誘導温度を特定した点(以下「特徴的部分②」という。)にあるものと理解される。 ウ原告の主張について(ア) 原告は、本件各発明の特徴的部分は、海産の魚食性魚類、特にサバ亜目魚類において、生殖ホルモンを適量のタンパク質を含む飼料に混ぜて経口投与し、それと同時に水温調節するという方法を採用することである旨を主張すると共に、特徴的部分①は本件各発明の技術的課題の前提 条件であること、特徴的部分②については、代理親魚養殖技術に関する 研究におけるインプラント法による産卵誘導において、魚種ごとに水温を調整する方法は本件特許出願時点で公知となっていたこと、特徴的部分①及び②は本件発明1 に対応するものでしかなく、本件発明2~8 の特徴的部分とはいえないことなどを主張する。 (イ) しかし、本件明細書には、「経口投与は、生殖ホルモンを直接投与して もよく、飼料に混ぜて投与してもよい」(【0021】)、「水温の調節は、生殖ホルモンの経口投与と同時か、生殖ホルモンの経口投与に先立って、…誘導することが好ましい」(【0023】)との記載がある。これらの記載によれば、生殖ホルモンを「飼料に混ぜて経口投与」することや、「それと同時に」水温調節することは、本件各発明の課題解決のため必須の構成で あるとはいえない。 (ウ) また、前記(イ(ア))のとおり、本件各発明は、成熟に関わる因子や環境刺激がどのように作用して性成熟と産卵が引き起こされるのかは魚種によって異なるため、対象種ごとにメカニズムを調査する必要があり、かつ、天然のサバ亜目魚類に属する魚において、環境刺激のうち何が刺 激となって産卵の誘導が起きるのかはよくわかっていないとの背景のもと、海産の魚食性魚類において、人工飼育下での産卵を誘導 り、かつ、天然のサバ亜目魚類に属する魚において、環境刺激のうち何が刺 激となって産卵の誘導が起きるのかはよくわかっていないとの背景のもと、海産の魚食性魚類において、人工飼育下での産卵を誘導することを解決すべき課題としたものである。その解決のためには、魚種ごとにGnRH の経口投与の可能性を確認する必要があるというのであるから、その投与の対象となる魚種をサバ亜目魚類とした点は本件各発明の特徴 的部分といえる。このことは、原告が原告卒論のテーマを検討する頃には既に人工種苗を用いたクロマグロの養殖が行われていたこと、サバ科魚類においてホルモン投与による産卵誘発の必要性が認知されていたことなどの事情があったとしても、GnRH の経口投与がサバ亜目魚類において公知の技術であったことを示すものとはいえないことから、異なら ない。 (エ) さらに、原告は、代理親魚養殖技術に関する研究におけるインプラント法による産卵誘導において魚種ごとに水温を調整する方法が本件特許出願時点で公知となっていたことを裏付ける資料としてDのインタビュー記事(乙32)を指摘するけれども、同記事には、「魚の場合、産卵時期や生息環境、とくに水温の影響を強く受けるようなのです」との記載 があるにとどまり、魚の産卵が、産卵時期ではなく水温に依存することを開示するものではない。他に特徴的部分②が本件特許出願時点において公知の技術であったことを認めるに足りる的確な証拠はない。 (オ) 加えて、本件発明2~8 に係る請求項2~8 は本件発明1 に係る請求項 1 の従属項であることに鑑みると、特徴的部分①及び②が本件発明1 の 特徴的部分である以上、本件発明2~8 の特徴的部分でもあるといえる。 (カ) その他原告が縷々指摘する事情を踏ま 請求項 1 の従属項であることに鑑みると、特徴的部分①及び②が本件発明1 の 特徴的部分である以上、本件発明2~8 の特徴的部分でもあるといえる。 (カ) その他原告が縷々指摘する事情を踏まえても、この点に関する原告の主張は採用できない。 (3) 本件各発明に至る経緯前提事実、証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が 認められる。 ア Cは、生殖細胞の異種間移植による代理親魚養殖技術の開発に関する研究を行い、その研究成果は、平成16 年~平成19 年にかけて、Nature(乙33)、PNAS(米国科学アカデミー紀要。乙34)及びScience(乙35)に掲載されるなどした。 その過程で、Cは、代理親魚(レシピエント)となるサバの繁殖を制御する技術の必要性に迫られたことから、サバ類の成熟誘導技術の開発に着手することとした。そこで、C研究室は、平成21 年頃から、代理親魚養殖技術における代理親魚としてサバ科魚類のスマに着目し、スマの繁殖制御の研究として、スマに対するGnRHa 投与による産卵誘導の実験に着手し た。 (上記のほか、乙25、証人C)イ東京海洋大学と被告との本件共同研究契約の概要は、以下のとおりである。(乙55)(ア) 研究題目(2 条(1))代理親魚技法を用いた大型海産魚の養殖技術の確立 (イ) 研究目的及び内容(2 条(2))本共同研究は、代理親魚技法を用いて大型海産魚を作出すること及び作出した大型海産魚の事業化を目的とする。内容は、① 大型海産魚を作出するにあたり適切なドナーの育種② ドナー細胞の採取、選別、培養、レシピエントへの供与 ③ レシピエントの育成、評価及び技術開発④ 作出した大型海産魚の特性評価…⑥ 型海産魚を作出するにあたり適切なドナーの育種② ドナー細胞の採取、選別、培養、レシピエントへの供与 ③ レシピエントの育成、評価及び技術開発④ 作出した大型海産魚の特性評価…⑥ 移植を受けた代理親種苗の成熟までの飼育管理…本研究の対象とする大型海産魚の具体的な魚種は、ブリ類、マグロ、シマアジ、カツオ類とする。 (ウ) 研究期間(3 条)平成22 年4 月1 日~平成25 年3 月31 日ウ C研究室は、代理親魚技法によるクロマグロ配偶子の生産を目指した研究により、スマを代理親魚として用いた場合にクロマグロ精原細胞の移植成功率が最も高いという結果を得ていたところ、水槽内におけるスマ親魚 の安定した採卵技術が確立されていないことから、水槽でのスマ親魚へのGnRHa 投与による人為催熟技術の開発を目指すこととした。そこで、C研究室は、平成22 年9 月~同年10 月にかけて、GnRHa の投与による産卵誘導に関する実験において、スマに対し、インプラント法により、GnRHaを含有するペレットを体内に埋め込んで投与したところ、受精卵の獲得及 び孵化に成功した。この産卵誘導実験中の水温は、23.7℃〜26.6℃の範囲 であった。 C、D及びEを含む共同研究者(なお、原告は含まれない。)は、平成23年8 月、Dを筆頭著者として、2011 年(平成23 年)8 月9 日~同月14 日の間にインドで開催された「9thInternationalSymposiumonReproductivePhysiologyofFish」において、その成果を発表した(乙64)。 また、同年9 月29 日、平成23 年度日本水産学会秋季大会においても、上記研究結果に基づき、Cらを含む共同研究者 hysiologyofFish」において、その成果を発表した(乙64)。 また、同年9 月29 日、平成23 年度日本水産学会秋季大会においても、上記研究結果に基づき、Cらを含む共同研究者(なお、原告は含まれない。)により、「70 ㎥水槽におけるスマへのGnRHa 投与による人為催熟」と題する講演が行われた(乙38)。さらに、上記研究成果については、C、D、E及び原告を含む共同研究者が「Aquaculture 442」(2015 年(平成27 年)」 に投稿した論文「70 ㎥陸上水槽におけるGnRHa によるスマの産卵誘導」(乙36。以下「乙36 論文」という。)においても言及がある。 (上記のほか、乙46)エ平成22 年11 月30 日に行われたC研究室の坂田ゼミに係る議事録(乙51)には、平成23 年シーズンにおける同研究室の活動に関し、「E」の項 に「マサバのLHRHa 経口投与について計画」との記載があり、また、「新卒論テーマ候補」として、「経口ホルモン投与」との記載がある。 その背景には、スマに対するインプラント投与の実験(前記ウ)において、高速回遊魚であり、体表も弱いスマに対するインプラント投与の困難性を経験したこと、当時、ニベ、ギンダラ及びコイを投与対象とする GnRHa 経口投与の先行研究(乙26〜28)が存在したこと、ペプチド合成サービスにより、大幅にコストを下げて多量のGnRHa を調達できる目処が立ちつつあったこと、前記ウの実験の成功により平成23 年の産卵期シーズンにインプラント法によって人工親魚養殖技術のための仔稚魚を得る目途が立ち、当該シーズンにおいて、同一の魚を利用して引き続き別の実 験が可能であったこと等の事情があった。 もっとも、この時点では、 って人工親魚養殖技術のための仔稚魚を得る目途が立ち、当該シーズンにおいて、同一の魚を利用して引き続き別の実 験が可能であったこと等の事情があった。 もっとも、この時点では、経口投与の実験をEが担当するか、翌年度の研究室所属学生(学部4 年生)が卒業論文のテーマとして実験作業を担当するかは未だ決まっていなかった。 (以上につき、上記のほか、乙25、46、48、証人C)オ C研究室は、GnRHa の経口投与の実験を進めるため、平成22 年12 月 6 日、業者に対して粗精製GnRHa を2.2g 発注し、さらに、平成23 年3月3 日以前に、別の業者に対しても粗精製GnRHa を4g 発注した。(乙52、53、86)カ原告は、平成23 年3 月頃、C研究室に配属されることとなったところ、その頃、Cは、原告に対し、卒業論文として、サバ科魚類の産卵制御技法 というテーマで研究をすることを提案し、原告はこれに応じた。また、Cは、その頃、原告に対し、魚類の産卵誘導技術に社会的なニーズがあること、魚類に対する産卵誘導技術には経口投与による方法、浸漬法、水中銃を使用したインプラント法が存在すること等を説明した。さらに、Cは、原告に対し、魚類に対するGnRHa の経口投与に関する複数の論文を紹介 し、その参考文献から芋づる式に論文を集めて勉強するように促すと共に、実験を行う上で不可欠な実験技術及び実験手法として、カニュレーション、sera 液の使い方、卵の熟度判別、徐放ホルモンの注射の仕方等を習得するよう指導した。 原告は、これを踏まえて「4 月前半のプラン」と題する書面(甲47)の 不動文字部分を作成し、その内容に対する指摘をメモし、これを浄書して「予定:GnRH 経口投与実験」と題する書面( た。 原告は、これを踏まえて「4 月前半のプラン」と題する書面(甲47)の 不動文字部分を作成し、その内容に対する指摘をメモし、これを浄書して「予定:GnRH 経口投与実験」と題する書面(甲39)を作成した。 (上記のほか、乙25、82、証人C)キ C研究室では、所属する学生が海産魚をテーマとするグループと淡水魚をテーマとするグループとに分けられ、それぞれのセミナー(坂田ゼミ) が2 週間~3 週間に1 度程度の頻度で開催された。学生は、基本的に、所 属するセミナーにおいて、自らの関与する研究の進捗報告として、主に新たな実験データの報告等を行い、それを受けて、教員が学生と質疑や討論を行い、実験結果の考察、次の実験の立案、研究テーマのアップデート等を行っていた。 原告のC研究室におけるテーマは海産魚に関するものであり、海産魚の グループのセミナーには、C、D及びEが参加していた。D及びEは、館山ステーションに駐在し、主に品川キャンパスで執務するCと電話等で連絡を取り合って、C研究室の研究及び学生の指導を担っていた。また、Fも、共同研究の一環として館山ステーションにしばしば訪問して研究を手伝い、学生に実験のデザインや実験結果の解釈等につきアドバイスをする ことがあった(以上につき、乙25、43、46~48、証人C)。 クゴマサバの産卵誘導の実験である初期ゴマサバ実験1においては、平成23年5月19日〜同月28日にかけて、自然水温(17.1℃~21.5℃)下でGnRHaを投与し、投与区(経口投与とインプラント)と非投与区ごとに、産卵頻 度、卵数、水温、卵質などを調査する実験が行われた。(甲9の1)。 ケゴマサバの産卵誘導の実験である初期ゴマサバ実験2 においては、同 与区(経口投与とインプラント)と非投与区ごとに、産卵頻 度、卵数、水温、卵質などを調査する実験が行われた。(甲9の1)。 ケゴマサバの産卵誘導の実験である初期ゴマサバ実験2 においては、同年 6 月30 日〜同年7 月9 日にかけて、水温21.0℃~23.8℃、実験区を投与方法(無投与、インプラント、経口投与)、投与量、餌の種類、投与回数等などにより区分した上でGnRHa を投与し、卵数等を調査する実験が行われ た。その結果、経口3.0mg 区のみで8 日目に産卵が見られ、800 粒の卵が採取されたものの、浮上も受精もせず、孵化仔魚は全く得られなかった。 (甲9 の2、9 の3、本件明細書比較例1−1(【0034】))コ C研究室は、試薬グレードのGnRHa より安価な粗精製GnRHa の有効性を検証するため、同年8 月9 日から、スマの産卵誘導に関する実験にお いて、スマに対し、インプラント法により粗精製GnRHa を投与したとこ ろ、受精卵の獲得及び孵化に成功した。産卵誘導実験中の水温は、24.3℃~27.3℃の範囲であった。その実験結果については、C、D、E及び原告を含む共同研究者により乙36 論文において言及されると共に、C、D、E及び原告の論文「GnRHa の経口投与によるゴマサバおよびスマの産卵誘導」(FisheriesScience 84(2018 年(平成30 年))。乙37)においても言 及されている。 サ原告は、平成23 年8 月24 日、C、D及びEに対し、「スマへのLHRHa経口投与」と題し、「LHRHa の経口投与を始めます。下記の方法で大丈夫か、ご確認をお願いします。」、「3kg のスマ12 尾に、ANYGEN のLHRHa3mg/kgBW・day を朝夕2 回、 口投与」と題し、「LHRHa の経口投与を始めます。下記の方法で大丈夫か、ご確認をお願いします。」、「3kg のスマ12 尾に、ANYGEN のLHRHa3mg/kgBW・day を朝夕2 回、10 日間投与します。経口投与方法は、3 等 分したイカナゴにHPMC カプセルを挿入して、スマ12 尾に72 ケ(朝と夕で36 ケずつ)与えます。」、「カプセルは…500 個発注しようと思っています。発注したカプセルが2,3 日中に届くようであれば、明日からでも投与を始めたいです。」、「LHRHa の総投与量108mg×10(日)」などと記載したメール(甲38 の1)を送信した。 また、原告は、同月25 日、C及びEに対し、「スマへのLHRHa 経口投与」と題し、「カプセルの納期なんですが1 週間近くかかるようです。試しに、ビタミン剤を添加してドロドロにしたカルミン酸水溶液100ml をイカナゴに下皮注射てみたところ、こんな感じになりました。C先生、6 時ごろにお電話します。」などと記載すると共に画像ファイル2 つを添付した メール(甲38 の2)、「間違いがあったので訂正します。」、「6mg/kgBW・day を濃度18mg/ml の水溶液にして、3 等分のイカナゴに100µ ずつ注射します。バイアルは2gr だけでは足りないので4gr も少し使います。」、「現時点で卵数は7 万、受精率は70%でした。」などと記載したメール(甲38の3)を順次送信した。 シ本件スマ実験1 においては、同月9 日にGnRHa をインプラントしたス マ(前記サ)に対し、同月26 日~同年10 月2 日にかけて粗精製GnRHaの経口投与を行う実験が実施され、受精卵の獲得及び孵化に成功した(甲 9 の6、乙37。本件明 ラントしたス マ(前記サ)に対し、同月26 日~同年10 月2 日にかけて粗精製GnRHaの経口投与を行う実験が実施され、受精卵の獲得及び孵化に成功した(甲 9 の6、乙37。本件明細書試験例2(【0036】))。 Cは、これを受けて、同年11 月16 日、東京海洋大学に対し、一連の研究成果につき発明届出書を提出したが、同大学は、Cに対し、平成24 年2 月10 日、特許を受ける権利を承継しない旨通知した。 ス C研究室は、半閉鎖循環型10 ㎥水槽を用いてスマの産卵適水温を維持し、LHRHa をスマ親魚に投与することで、非産卵期において継続的に産卵を誘発する技術の開発を試みることとし、自然環境下での産卵終息後である平成23 年10 月~平成24 年1 月にかけて、平均飼育水温を25.7℃〜 27.4℃に調整するという条件の下、スマに対し、GnRHa をインプラント法により投与する実験を行い、受精卵の獲得及び孵化に成功した。その実験結果については、C、D、E及び原告を含む共同研究者により、平成25年3 月29 日、平成25 年度日本水産学会春季大会において、「半閉鎖循環型10 ㎥水槽を用いたスマの継続的な産卵誘発」と題する講演がされ(乙 40)、また、論文「温度を上昇させた半閉鎖式再循環システムにおけるホルモン処理によるスマの産卵期前後における産卵誘導及び産卵」(AquacultureResearch 48(2017 年(平成29 年))。乙41)においても言及されている。 セ本件スマ実験2 においては、スマの非産卵期である平成24 年4 月から 同年5 月にかけて、水温を約27℃に調整して、GnRHa の経口投与によるスマの産卵誘導の実験が行われ、受精卵の獲得及び孵化に成功した。(甲9の9、 の非産卵期である平成24 年4 月から 同年5 月にかけて、水温を約27℃に調整して、GnRHa の経口投与によるスマの産卵誘導の実験が行われ、受精卵の獲得及び孵化に成功した。(甲9の9、9 の10。本件明細書試験例3(【0038】))。 また、本件ゴマサバ実験1〜3 においては、産卵期である同年4 月から同年6 月にかけて、ゴマサバでもGnRHa の経口投与による産卵誘導の実 験が行われた(甲9 の10。本件明細書試験例1(【0029】))。 ソ原告は、平成25 年1 月18 日、Fに対し、「サバ産卵データ、水産学会要旨」と題して、「Fさんの名前を水産学会発表要旨にお載せすることを、C先生に了承いただいきました。」などと記載したメールを送信した。これを受け、Fは、同月20 日、原告に対し、「要旨読んで思ったんですが、俺なんにも貢献してないけど。ま、最近データのチェックはしてますが。良 いのかなあ?」と返信した。しかし、原告は、同月21 日、Fに対し、「Fさんにはデータのチェックから、実験のデザイン、サバ飼育のご指導までやっていただいているので、お気になさらないでください。先生方からも満場一致でOK もらっているので大丈夫ですよ!」など返信した。 (乙43)タ Cは、一連の研究成果につき、東京海洋大学が特許を受ける権利を承継 しないことを決定したことから、被告に対して特許出願の検討を依頼し、被告は、Fを中心に、これについて検討した。 上記研究成果に係る発明としては、東京海洋大学への発明届出書の段階ではGnRH を含有する組成物という物の発明が想定されていたが、Fは、産卵誘導方法という方法の発明とすることを考え、その工程として魚種ご との水温の特定を付加し、さらに、対象とする魚種を、ゴ ではGnRH を含有する組成物という物の発明が想定されていたが、Fは、産卵誘導方法という方法の発明とすることを考え、その工程として魚種ご との水温の特定を付加し、さらに、対象とする魚種を、ゴマサバ及びスマを用いた実験結果に基づき、春産卵のサバ科魚種、夏産卵のサバ科魚種並びに夏産卵のメカジキ科及びマカジキ科とし、それぞれについて水温範囲を特定することにより、本件特許に係る特許請求の範囲の記載を完成した。 (乙47) (4) 本件各発明の発明者ア特徴的部分①について(ア) 前記認定のとおり、Cは、遅くとも平成21 年頃にはサバ類の成熟誘導技術の開発においてスマに着目し、GnRHa 投与による産卵誘導の実験に着手し、平成22 年4 月には、被告との間で、代理親魚の育成を研 究内容の1 つとする本件共同研究契約を締結した(前記(3)ア、イ)。そ の後、C研究室においては、同年9 月~同年10 月にかけて、スマへのGnRHa 投与(インプラント法)による産卵誘導実験に成功したところ(前記(3)ウ)、この実験の成功にはDの貢献が大きく関与していたことがうかがわれる。また、同実験を通じてインプラント法による産卵誘導がいかに困難を伴うものかという経験を得たことを主な契機として、C は、より簡易な方法である経口投与法による産卵誘導を開発することを着想し、C研究室は、同年11 月30 日の坂田ゼミにおいて、平成23 年シーズンにおける活動として、Eを中心としてマサバに対するLHRHa経口投与を行うことを計画すると共に、同年度の卒論テーマの1 つとして「経口ホルモン投与」を挙げ、また、平成22 年12 月には、経口投与 に利用される相当量の粗精製GnRHa を発注した(前記(3)エ、オ)。 以上の事情 に、同年度の卒論テーマの1 つとして「経口ホルモン投与」を挙げ、また、平成22 年12 月には、経口投与 に利用される相当量の粗精製GnRHa を発注した(前記(3)エ、オ)。 以上の事情を踏まえると、C、D及びEは、遅くとも、原告がC研究室に配属される前である平成22 年11 月30 日までには、産卵誘導方法としての経口ホルモン投与の対象をサバ亜目魚類の一つであるスマやマサバに特定すること(特徴的部分①)を着想し、その具体化に向けて実 験の準備を進めていたものと認められる。 (イ) 原告の主張についてこれに対し、原告は、Cの研究は代理親魚養殖技術に関するものであり、産卵誘導における経口投与とは発想やアプローチが異なり、本件各発明とは無関係である旨や、代理親魚の仔稚魚を得る目的においては GnRHa 含有ペレットのインプラントによる産卵誘導の成功で足り、その研究からさらにGnRHa の経口投与による産卵誘導技術を着想したとはいえない旨などを主張する。 しかし、サバ科魚類の産卵誘導の研究は、代理親魚養殖技術における代理親魚の仔稚魚を確保する必要性を契機に、同技術を補うために開始 されたものと理解され(前記(3)ア、イ)、代理親魚養殖技術の研究と密接 に関連するものといえる。また、高速遊泳するサバ科の魚類に対し、インプラント法では実験の負担が大きく、実験技術の更なる改良が必要であったことや、他の魚種において経口ホルモン投与の先行研究があったこと等の事情(前記(3)エ)に鑑みると、代理親魚の仔稚魚を得る目的がインプラント法による産卵誘導の成功により十分達成されたといえる状 況にあったとはいえない。 その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用できない。 イ 目的がインプラント法による産卵誘導の成功により十分達成されたといえる状 況にあったとはいえない。 その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用できない。 イ特徴的部分②について(ア) C研究室は、スマの産卵期である平成22 年9 月~同年10 月にかけ て行った実験により、スマに対するGnRHa 投与(インプラント法)による産卵誘導に成功し(前記(3)ウ)、次いで、スマの非産卵期である平成 23 年10 月~平成24 年1 月にかけて行った実験において、水温を産卵期の自然水温と同程度の水温に調整するという条件の下で、スマに対するGnRHa 投与(インプラント法)による産卵誘導に成功した(前記(3) ス)。さらに、C研究室は、スマの非産卵期である同年4 月~同年5 月にかけて、水温を同様に産卵期の自然水温と同程度の水温に調整して、スマに対するGnRHa 投与(経口投与)による産卵誘導実験(本件スマ実験2)を行い、産卵誘導に成功した(前記(3)セ)。 また、原告は、C研究室に配属されてこれら一連の実験に関与するよ うになった後、その実施にあたり、館山ステーションに常駐していたD及びEや、同人らと電話等により随時連絡を取り合っていたCから、日常的なやり取りのほか、坂田ゼミ等を通じて、具体的な実験方法の設計や結果分析に関する指導及び助言を受け、また、必要に応じて、同人らに対し報告及び相談をしたり確認を求めたりしていた(前記(3)キ、サ)。 以上の事情を踏まえると、C、D、E及び原告は、遅くとも平成23 年 月頃には、先行する実験や坂田ゼミ等における議論を経て、産卵誘導に影響を与える環境刺激が水温であること(特徴的部分②)を着想し、これを検証するためその後 、遅くとも平成23 年 月頃には、先行する実験や坂田ゼミ等における議論を経て、産卵誘導に影響を与える環境刺激が水温であること(特徴的部分②)を着想し、これを検証するためその後の実験を重ねたことにより、特徴的部分①及び②に関する着想を具体化したものといえる。 また、当時、C、D及びEがそれぞれ研究者として経験と実績を既に 重ねていた(前提事実(1))のに対し、原告は、学部4 年生から大学院修士課程1 年に当たる時期であったに過ぎず(前提事実(3))、また、原告がC研究室に配属された際に作成した各書面(甲39、47)の内容(前記(3)カ)等を踏まえると、実際にも、研究者としての基礎をこれから構築する段階にとどまっていたことがうかがわれる。そうすると、一連の実 験の具体的な設計及び結果の分析等については、C、D及びEの貢献が大きく、その貢献は単なる管理者又は指導者による一般的な指導及び助言の程度を超えるものとみるのが相当である。 したがって、本件各発明の特徴的部分の具体化にあたり原告に創作的な寄与があるとしても、C、D及びEも、本件各発明の特徴的部分の具 体化に創作的に寄与したものといえる。 (イ) 原告の主張について原告は、これら一連の実験に係る実験設計について、Cらは原告に一般的助言を与えたに過ぎず、具体的な実験方法等は、原告単独で設計、実行された旨を主張し、これを裏付けるものとして、原告卒論(甲4) のほか、原告の修士論文(甲6)、坂田ゼミ資料(甲9)、実験ノート(甲22~32)等を提出する。 しかし、これらの裏付け資料を仔細に検討しても、原告が、Cらから一般的な指導及び助言の程度を超える関与を受けることなく、自ら単独で本件各発明を着想し、具体化したことを直接的にも間接的にもうかが 。 しかし、これらの裏付け資料を仔細に検討しても、原告が、Cらから一般的な指導及び助言の程度を超える関与を受けることなく、自ら単独で本件各発明を着想し、具体化したことを直接的にも間接的にもうかが わせる記載は見当たらない。むしろ、これらの資料には、「溜まった論文 を読む」(甲9 の1)、「引き続きスマの経口投与/産卵が終息するまで?」(甲9 の4)、「引き続きスマの経口投与…/→いつまでやりますか?」(甲9 の5、9 の6)、「実験・論文・学振のことを相談」(甲9 の16)のように、当時、原告が、自己の担当する実験を含め、CをはじめとするC研究室の指導者的立場にある者による指導及び助言を要する状況にあ ったことをうかがわせる記載が散見される。 また、詳細は不明なものの、原告自身、坂田ゼミにおいて、実験結果等の報告に対し、Cをはじめとする参加者から指導ないし助言を受ける機会があったこと自体は認めている(原告本人)。 これらの事情に加え、前記認定に係るCら及び原告それぞれの研究者 としての経験や実績の程度、一連の研究成果、C研究室の運営のあり方等を踏まえると、本件各発明を原告が単独で着想し、具体化したものとはおよそ考え難い。 以上のとおり、原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用できない。 ウ各実験結果からの本件各発明の抽出についてCは被告に対し本件各発明の特許出願を依頼し、被告はFを中心としてその検討を進めていたところ、Fは、被告側担当者として本件共同研究契約に基づく研究に協力し、自らの養殖技術開発経験を踏まえて、原告に対し、実験のデザインや実験結果の分析等につきアドバイスをしたことがあ り(前記(3)キ、ソ)、それまでのC研究室での議論の状況や各実 づく研究に協力し、自らの養殖技術開発経験を踏まえて、原告に対し、実験のデザインや実験結果の分析等につきアドバイスをしたことがあ り(前記(3)キ、ソ)、それまでのC研究室での議論の状況や各実験結果の分析を踏まえつつ、特許出願すべき発明の構成を検討したものとみられる。 その過程で、Fは、大学への発明届出書記載の「魚の産卵に係るホルモン含有飼料」という物の発明ではなく、「産卵誘導方法」という方法の発明の構成とすることを考え、その発明に係る工程として魚種ごとに水温を特定 する工程を付加することとし、対象とする魚種についても、ゴマサバ及び スマを用いた実験結果に基づき、春産卵のサバ科魚種、夏産卵のサバ科魚種並びに夏産卵のメカジキ科及びマカジキ科とし、それぞれについて水温範囲を特定して、本件特許に係る特許請求の範囲の記載を完成させた(前記(3)タ)。 以上の事情によれば、Fは、自らの養殖技術開発経験に裏付けられた技 術的知見に基づき、各実験結果から、公知の技術と対比して特許性のある部分、すなわち本件各発明の特徴的部分となる技術的事項を抽出し、課題を解決するための具体的な技術的手段の範囲を特定し、特許請求の範囲の記載を完成させたといえる。このようなFの行為は、単なる出願書類の作成担当者が通常行う程度にとどまらず、本件各発明の特徴的部分の具体化 に創作的に寄与したものとみるのが相当である。これに反する原告の主張は採用できない。 エ小括以上のとおり、本件各発明の特徴的部分①の着想にはC、D及びEが、特徴的部分②の着想及びこれらの具体化には、C、D、E及び原告がそれ ぞれ創作的に寄与し、また、Fも、本件各発明の特徴的部分の具体化に創作的に寄与したといえる。 したがって、本件各発明は、Cら 徴的部分②の着想及びこれらの具体化には、C、D、E及び原告がそれ ぞれ創作的に寄与し、また、Fも、本件各発明の特徴的部分の具体化に創作的に寄与したといえる。 したがって、本件各発明は、Cら及び原告の5 名を共同発明者とするものと認められるのであって、原告の単独発明とはいえない。 2 主位的請求並びに予備的請求1 及び2 について (1) 前記のとおり、本件各発明はCら及び原告の共同発明であり、原告の単独発明とはいえないところ、主位的請求並びに予備的請求1 及び2 は、いずれも本件各発明が原告の単独発明であることを前提とする。したがって、このことのみをもってしても、原告の上記請求はいずれもその前提を欠き、認められないといえる。 しかし、事案に鑑み、更に本件譲渡契約の成否等について検討する。 (2) 本件譲渡契約の成否等(争点2)についてア本件譲渡証書(乙1)作成に至る経緯、同証書の記載内容及び同証書にCら及び原告の自署及び押印があること(前提事実(4))に加え、証人Cの供述及び弁論の全趣旨によれば、原告は、Cらと共に、平成25 年3 月25日、被告との間で本件譲渡契約を締結したことが認められる。そうすると、 本件各発明の特許を受ける権利に係る原告を含む共同発明者の持分(各5分の1)は、本件譲渡契約により、その全部が被告に移転したことになる。 したがって、被告による本件特許出願は冒認出願とはいえない。 イ原告の主張について(ア) これに対し、原告は、本件譲渡証書に署名押印した際に特許を受ける 権利が全部被告に譲渡されることを認識していなかったことや、合意内容に原告に対する対価の支払が含まれていないことなどから、売買契約である本件譲渡契約自体成立していない旨主張すると共に、仮 る 権利が全部被告に譲渡されることを認識していなかったことや、合意内容に原告に対する対価の支払が含まれていないことなどから、売買契約である本件譲渡契約自体成立していない旨主張すると共に、仮に契約として成立していたとしても、対価の支払(売買契約の場合)又は本件各発明から生じる権利の金銭的な価値評価に見合う金銭の支払(負担付贈 与契約の場合)を欠き、本件譲渡契約は被告の債務不履行により解除された旨を主張し、さらに、仮に本件譲渡契約により特許を受ける権利が被告に移転したのは持分5 の1 の範囲にとどまる旨をも主張する。 (イ) しかし、まず、原告の上記主張を裏付けるに足りる客観的な証拠はない。また、本件譲渡証書の記載内容や分量に鑑みると、本件譲渡証書作 成当時大学院修士課程に在籍していた原告がその内容を理解せずに署名押印したとは考え難い。 さらに、原告は、本件譲渡証書作成後の平成25 年5 月14 日、Fに対し、本件各発明に係る特許関係の書類を同人が作成中である旨の同年1月29 日付けメールの内容を踏まえ、「特許資料(実践例)」の最終版の送 付を求め、同年5 月16 日に出願書類の送付を受けた(乙2 の1)。その 際送付された「特許願」には、発明者としてCら及び原告の氏名が記載されている(乙2 の2、2 の3)。しかるに、その後、本件訴えの提起に至る以前に、上記記載や対価支払のないことについて、原告が抗議ないし問合せをしたといった具体的事情は見当たらない。 そもそも、特許を受ける権利の譲渡契約の性質については、当然に売 買契約と考えられるものではない。本件の場合、本件譲渡証書の作成は、本件各発明による特許の取得又は少なくとも特許出願を考えたCの被告に対する働きかけを契機とすることなどに鑑みる ては、当然に売 買契約と考えられるものではない。本件の場合、本件譲渡証書の作成は、本件各発明による特許の取得又は少なくとも特許出願を考えたCの被告に対する働きかけを契機とすることなどに鑑みると、被告は、本件譲渡契約に基づき、少なくとも本件各発明に係る特許出願をする義務を負ったものとみられるが、それ以外の対価ないし経済的利益の被告による給 付が本件譲渡契約の内容に含まれることをうかがわせる事情はない。そうすると、本件譲渡契約は売買契約とはいえないし、出願(本件各発明については国際出願もされている。甲3)にあたり必要となる被告による各種費用の負担を考えると、これを贈与契約とみることもできない。 なお、FのC、D、E及び原告宛て平成25 年3 月31 日付けメール(甲 21)には、「LHRH 経口投与法の権利(利益が生じた場合の取扱)について現在、弊社業務課が作成しておりますので出来上がりましたらまたご確認いただければと思います」との記載がある。もっとも、当該記載からはその時点で被告による具体的な給付内容は決まっていないことがうかがわれることなどから、これをもって直ちに、本件譲渡契約につき 売買契約又は負担付贈与契約であると理解することはできない。その他本件各発明の各発明者に対し被告が対価等を支払うことの合意の存在を認めるに足りる証拠はない。 加えて、被告は本件各発明につき特許出願し、本件特許を得たことから、本件譲渡契約に基づく債務(ないし負担)は履行済みといえる。そ うである以上、原告による被告の債務不履行を理由とする本件譲渡契約 の解除は認められない。 本件譲渡契約により被告に移転したのは本件各発明に係る特許を受ける権利の持分5 分の1 の範囲に過ぎないとする点は、前記のとおり、本件各発 する本件譲渡契約の解除は認められない。 本件譲渡契約により被告に移転したのは本件各発明に係る特許を受ける権利の持分5分の1の範囲に過ぎないとする点は、前記のとおり、本件各発明が5名の共同発明である以上、原告の持分全部の譲渡をいうものであり、原告の請求を理由付けるものではない。 その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用できない。 第4 結論 よって、原告の主位的請求並びに予備的請求1及び2はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 小口五大 裁判官 吉野弘子 別紙特許権目録 1 登録番号特許第6468998号 2 発明の名称海産の魚食性魚類の産卵誘導方法 3 出願日平成26年3月20日 4 登録日平成31年1月25日以上

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