令和6(わ)951 殺人

裁判年月日・裁判所
令和7年11月17日 東京地方裁判所 立川支部
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判決文本文2,559 文字)

令和7年11月17日宣告令和6年(わ)第951号殺人事件 主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中330日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (犯行に至る経緯)被告人(昭和29年生まれ)は、歩行に支障を来すようになった実母である被害者(大正11年生まれ。)に頼まれ、平成24年頃から被害者及びA(大正11年生まれ。令和3年1月死亡。)と同居し、被害者のために家事を行い、被害者がポータブルトイレを使用するようになってからはポータブルトイレの排せつ物を処理する などして被害者を介護してきたものであるが、令和6年7月15日頃から、自力でベッド横のポータブルトイレに移動することができなくなった被害者が、被告人に対し、およそ10分おきにポータブルトイレに移動させる介助を求めたため、被告人は腰を痛め、痛み止めを服薬しつつ、トイレ介助を行うなどしていた。同月22日午前4時頃、被告人は、ベッドから落ちた被害者を自力でベッドに戻すことがで きず、119番通報をして助けを求めようとしたが、同じことが起きても次からは通報をしないように言われ、その後、臨場した救急隊が被害者をベッドに戻してくれたものの、覚醒した被害者から繰り返しトイレに行きたいと言われる一方で、これに応えようとしても腰痛により介助ができなくなり、そのような中で、衝動的に被害者の殺害を決意した。 (罪となるべき事実) 被告人は、令和6年7月22日午前6時42分頃から同日午前6時46分頃までの間、東京都国立市内の被告人方において、被害者(当時102歳)に 殺害を決意した。 (罪となるべき事実) 被告人は、令和6年7月22日午前6時42分頃から同日午前6時46分頃までの間、東京都国立市内の被告人方において、被害者(当時102歳)に対し、殺意をもって、その頸部をビニール紐で絞め付けるなどし、よって、その頃、同所において、同人を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害したが、犯行後自ら110番通報をし、自首した。 (量刑の理由)被告人は、相当の時間にわたりビニール紐で被害者の頸部を絞め付けた後、更に包丁で頸部を突き刺すという、被害者を確実に殺害するために危険性の高い行動をとっており、強固な殺意が認められ、その犯行態様は悪質である。係る被告人の行為によって、被害者の死という重大な結果を招いている。 もっとも、被告人が本件犯行に至った経緯をみると、被告人は、12年間にわたり高齢である被害者を介護してきたものであり、被告人自身は被害者が自力でポータブルトイレまで移動することができたときには介護は大変ではなかった旨述べるものの、その間に社会との繋がりを持たず、被告人自身も高齢になっていたことや、医師やケアマネージャーからも疲れている様子が指摘されていたことなどからする と、被告人の介護負担は決して軽いものではなかったとみるべきである。本件は、被告人が、長年の介護により疲労を蓄積させていった中で、本件の1週間前頃からおよそ10分に1回の頻度でトイレ介助を求められるなどして、急激に介護の負担が高まり、被告人の対応能力を超えたことで起きた事件とみるべきであり、本件を12年間の介護負担と切り離してみるべきではない。 また、犯行動機について、被告人は、当公判廷において、被害者の殺害を決意したときのことは覚えていないとしつつ、「この世の中に自分1人しかいなくて 年間の介護負担と切り離してみるべきではない。 また、犯行動機について、被告人は、当公判廷において、被害者の殺害を決意したときのことは覚えていないとしつつ、「この世の中に自分1人しかいなくて、誰も助けてもらう人が思い浮かばないし、自分1人でこれをどうにかしなきゃいけないって思い詰めてしまって、それでもう殺すしかないというふうにだんだん考え方がなっていったのかなって思います。」と述べている。被害者が介護施設に入所するこ とが決まっていた中で被告人が本件犯行に至った点については短絡的であったとい うほかないが、上記の介護の状況に加え、本件が早朝に起きた出来事であったことなどからすると、被告人が自分1人でどうにかしなければならないと思い詰めたことも致し方のない面があったことは否めない。 そのほか、一般情状についてみると、被害者の子である被告人の妹が積極的な処罰を求めていないこと、被告人が犯行直後に自首していること、被告人が罪を認め、 自身に不利に働くことも含めて正直に供述し、被害者に対し、乱暴な死に方をさせてしまい申し訳なかったなどと述べていること、被告人の子が今後は被告人と同居する意向を示していることなどは被告人に有利に考慮することができる事情といえる。 以上を踏まえて検討するに、本件は介護疲れによる事案とみるべきであり、その 上で、上記の事情を併せ考慮し、同種事案(殺人、単独犯、動機:介護疲れ、凶器:あり、処断罪と同一又は同種の罪の件数:1件)の量刑傾向を踏まえて本件に相応しい刑罰を検討した結果、本件については動機、経緯に同情の余地が大きいといえる事案であり、被告人を直ちに実刑に処するのではなく、被告人を懲役3年に処して本件の責任を明確にした上で、その執行については、最大限の5年間猶予して、 社会 機、経緯に同情の余地が大きいといえる事案であり、被告人を直ちに実刑に処するのではなく、被告人を懲役3年に処して本件の責任を明確にした上で、その執行については、最大限の5年間猶予して、 社会内での更生の機会を与えるのが相当であると考えた。なお、本件に至るまでの経緯や生活状況等に照らすと、被告人の更生のためには、子の監督のみでは不安が残り、公的機関による指導も必要と認められるから、被告人を執行猶予期間中保護観察に付することとする。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑:懲役8年)令和7年11月18日東京地方裁判所立川支部刑事第1部 裁判長裁判官杉山正明 裁判官河畑勇 裁判官小草啓紀

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