判決平成14年3月29日神戸地方裁判所平成13年(ワ)第187号損害賠償請求事件 主文 1 被告らは連帯して原告に対し,金533万円及び内金485万円に対する被告甲及び被告会社は平成12年11月23日から,被告乙は平成13年2月7日から各完済まで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを15分して,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。 4 この判決の1項は仮に執行することができる。 事実 第1 当事者の求める裁判 1 原告(請求の趣旨)(1) 被告らは連帯して,原告に対し,金585万円及び内金535万円に対する平成12年11月23日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (3) この判決は仮に執行することができる。 2 被告(請求の趣旨に対する答弁)(1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 第2 当事者の主張 1 原告(請求原因)(1) 当事者ア原告(昭和11年12月生)は,若干の老後資金を手元に置き,子供がなく,亡夫の遺族年金で一人で暮らしている女性である。 イ被告会社は,信用調査等を目的とする資本金1000万円の会社であり,被告甲は被告会社の従業員であり,被告乙(被告甲の妻)は被告会社の代表取締役である。 (2) 被告甲の違法行為ア 5万円の取得(ア) 原告は,平成12年11月20日午後7時ころ,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告甲に対し,相談したいことがあるので自宅に来て欲しい旨を伝えた。 (イ) 万円の取得(ア) 原告は,平成12年11月20日午後7時ころ,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告甲に対し,相談したいことがあるので自宅に来て欲しい旨を伝えた。 (イ) そして,原告は,同日午後7時30分ころ,自宅を訪れた被告甲に対し,「近隣の宗教団体の人達に,盗聴や盗撮をされている。桶川ストーカー事件の被害者と同じような立場にある。殺されるかもしれない。」と訴え,被告から事情聴取した菊水西交番勤務のA巡査部長が消されているかもしれないとのメモ書きを渡し,「B氏に会って話したいので,アポをとってもらえないか。」と頼んだ。 すると,被告甲は,原告に対し,「奥さんを守ります。」「自分がちゃんと調査します。」と述べ,帰りがけに,「お金をいくらか欲しい。」と要求した。そこで,原告は,その場で,被告甲に対し,Bの現住所探索の調査料名目で5万円を渡し,被告甲から領収証(甲14)を受領した。 (ウ) しかし,原告は,同日午後8時ころ,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告甲に対し,「現住所探索の調査を断るので,5万円を返して欲しい。」と伝えた。すると,被告甲は,原告に対し,「明日返しに行きます」と答えた。 (エ) 被告甲は,翌日(平成12年11月21日)午後7時ころ,原告宅を訪れたが,原告とはインターホン越しの応答だけで,顔を会わせていない。原告は,被告甲に対し,「写真に撮られるのが嫌だから,領収証は郵便受けに入れてあるので,郵便受けに5万円を入れて帰って下さい。」と答えた。しかし,被告甲は,郵便受けに5万円を入れず,領収証だけを持って帰ってしまった。 (オ) そこで,原告は,同日午後8時ころ,被告会社に電話をすると,被告乙が出た。原告が被告乙に対し,被告甲 被告甲は,郵便受けに5万円を入れず,領収証だけを持って帰ってしまった。 (オ) そこで,原告は,同日午後8時ころ,被告会社に電話をすると,被告乙が出た。原告が被告乙に対し,被告甲が5万円を返さずに帰ったことを話すと,被告乙は「明日送ります」と答えた。 イ 480万円の取得(1) 原告は,翌日(平成12年11月22日)午前9時30分ころ,5万円を返してもらうために,被告会社へ行った。 原告は,被告会社には昼過ぎまでいて,被告甲に対し,所持していた印鑑,キャッシュカード,自宅の鍵,金庫の鍵を全部机の上に出し,「私は殺されてしまうかもしれない。」などと口走った。さらに,自分の家,原告の兄及び妹の家が盗聴されているなどの言動を繰り返し,妄想,不安定の心理状態を示した。 被告甲は,このような異常言動を示している原告の心理状態を利用し,5万円を返すどころか,言葉巧みに,さらに原告宅,原告の兄及び妹宅の張り込み調査をする方向へ原告を導き,何の書類か全く分かっていない原告に,せかせてサインさせた。これが甲第21,22号証の調査依頼書である。 (2) 被告甲は,同日昼過ぎ,「原告の自宅へ送ってあげる,お金ももらわんといかんし。」と言って,原告を車に乗せて自宅まで送って行った。そして,被告甲は,自宅前に停めた車の中で,原告に対し,480万円と書いたメモ書き(甲16)を渡し,これを支払えと要求した。 そこで,原告は,480万円を支払わなければならないと思い込み,被告甲の車に乗せられて播州信用金庫兵庫支店へ行き,そこで1000万円の定期預金を解約した(甲17,18)。そして,同日午後4時過ぎころ,播州信用金庫兵庫支店の前で,被告甲に対し,張り込み調査料名 被告甲の車に乗せられて播州信用金庫兵庫支店へ行き,そこで1000万円の定期預金を解約した(甲17,18)。そして,同日午後4時過ぎころ,播州信用金庫兵庫支店の前で,被告甲に対し,張り込み調査料名目で480万円を渡した(甲19)。 (3) ところが,原告は,同日午後5時30分ころ,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告甲に対し,「張り込み調査はいらない。480万円を返して欲しい。」と頼んだ。すると,被告甲は,全部は駄目だが,返しに行きます。」と答えた。 しかし,被告甲は,何の張り込み調査もしないまま,全く金員を返還しない。 ウ被告甲の違法行為被告甲は,原告が支離滅裂な言動をしており,明らかに精神状態に異常があることを知りながら,それを巧みに利用し,自らの手数料稼ぎのために,異様に高額な金員を調査料の名目で原告より受領しており,被告甲の行為は違法である。 (3) 被告らの責任被告甲には民法709条の不法行為責任があり,被告会社は民法715条の使用者責任がある。 被告乙は,被告会社の代表取締役として,被告甲の任務遂行について監視義務があるところ,悪意又は重大な過失によりこれを看過したものであるから,代理監督者として民法715条2項の責任を負うほか,商法266条ノ3第1項の取締役の第三者に対する責任を負う。 (4) 原告の損害原告は,被告甲の違法行為により,次のとおり合計585万円の損害を被った。 ア被告甲に調査料名目で取られた485万円。 イ慰藉料50万円。 ウ弁護士費用50万円。 (5) 結論よって,原告は,被告らに対し,次の各金員の連帯支払を求める。 ア調査料名目で取られた485万 イ慰藉料50万円。 ウ弁護士費用50万円。 (5) 結論よって,原告は,被告らに対し,次の各金員の連帯支払を求める。 ア調査料名目で取られた485万円,慰藉料50万円,弁護士費用50万円,以上合計585万円の損害賠償金。 イ内金535万円(上記合計額から弁護士費用50万円を控除した金額)に対する平成12年11月23日(不法行為後)から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金。 2 被告ら(請求原因に対する認否,反論)(1) 請求原因(1)(当事者)について請求原因(1)アは不知,同(1)イは認める。 (2) 請求原因(2)(被告甲の違法行為)についてア請求原因(2)ア(5万円の取得)について(ア) 認否請求原因(2)ア中,次の事実は認めるが,その余は否認する。 a 原告は,平成12年11月20日,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告甲に対し,相談したいことがあるので自宅に来て欲しい旨を伝えた。 b 原告は,同日,自宅を訪れた被告甲に対し,「近隣の宗教団体の人達に,盗聴や盗撮をされている。桶川ストーカー事件の被害者と同じような立場にある。殺されるかもしれない。」と訴え,「B氏に会って話したいので,アポをとってもらえないか。」と頼んだ。 c すると,被告甲は,原告に対し,「奥さんを守ります。」「自分がちゃんと調査します。」と述べ,原告は,その場で,被告甲に対し,現住所の探索調査料名目で5万円を渡し,被告甲から領収証(甲14)を受領した。 d その後,原告は,同日午後8時ころ,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告甲に対し,「調査をお断りしますので 探索調査料名目で5万円を渡し,被告甲から領収証(甲14)を受領した。 d その後,原告は,同日午後8時ころ,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告甲に対し,「調査をお断りしますので,5万円を返して下さい。」と伝えた。すると,被告甲は,原告に対し,「明日返しに行きます」と答えた。 e 被告甲は,平成12年11月21日,原告宅を訪れた。 (イ) 主張被告会社が原告から5万円を取得した経過は,次のとおりである。 a 原告は,平成12年11月20日午後2時40分ころ,被告会社に電話をかけ,被告甲に対し,次のように伝えて調査の依頼をした。 (a) 原告はストーカー行為を受けているので,犯人を特定したい。 (b) 桶川女子大生ストーカー殺人事件の著者であるB氏に会って相談したい。 (c) 詳しい話しをしたいので,自宅まで来て欲しい。 b 被告甲は,同日午後4時ころ原告宅を訪問し,原告から,原告が受けているストーカー行為による被害状況の説明を受けた。 そして,被告会社は,原告との間で,調査目的をBの現住所探索とし,調査基本料金100万円,手付金5万円,残金95万円は後日振り込むとの調査委託契約を締結し(甲21),原告から,調査料の手付金5万円を受領した。 c ところが,原告は,同日午後8時ころ,被告会社に電話をし,電話に出た被告甲に対し,現住所探索調査を中止して,手付金5万円を返して欲しいと伝えてきた。そこで,被告会社は,現住所探索調査を中止することにした。 d 被告甲は,翌日(平成12年11月21日)午後4時30分ころ,原告宅を訪問し,原告に対し手付金5万円を返金した。 ,被告会社は,現住所探索調査を中止することにした。 d 被告甲は,翌日(平成12年11月21日)午後4時30分ころ,原告宅を訪問し,原告に対し手付金5万円を返金した。 その際,B(テレビ朝日のザ・スクープのキャスターでもある。)の話しが出たので,被告甲がテレビ朝日のザ・スクープの記者と面識があると,同記者の名刺を見せたら,原告は,そこまでしてもらったら,手付金は費用としてとるようにと言って,5万円を返した。 イ請求原因(2)イ(480万円の取得)について(ア) 認否請求原因(2)イ中,次の事実は認めるが,その余は否認する。 a 原告は,平成12年11月22日,被告会社に来社し,被告甲と懇談した。 b 被告甲は,その後,原告を車に乗せて,原告の自宅まで送り届けた。 c 原告は,その後,被告甲運転の車で播州信用金庫兵庫支店へ行き,定期預金を解約して,被告甲に対し,張り込み調査料名目で480万円を渡した。 d ところが,原告は,その後,被告会社に電話をかけ,被告甲に対し,「張り込み調査はしていらない。480万円を返し欲しい。」と伝えた。 (イ) 主張被告会社が原告から480万円を取得した経過は,次のとおりである。 a 原告は,平成12年11月22日午前11時ころ,手土産を持って被告会社を訪れ,被告甲に対し,ストーカーの実行行為者の確認のため,原告宅と原告の兄及び妹宅を30日間,午前9時から連続12時間調査してほしいとの張り込み尾行調査依頼をしてきた。 そこで,被告会社は,原告との間で,調査基本料金980万円で張り込み尾行調 宅と原告の兄及び妹宅を30日間,午前9時から連続12時間調査してほしいとの張り込み尾行調査依頼をしてきた。 そこで,被告会社は,原告との間で,調査基本料金980万円で張り込み尾行調査をする旨の調査委託契約を締結し,原告は契約書(調査依頼書)に署名・捺印した(甲22)。 b 原告から,調査料金については,定期預金を解約して支払う,ついては,定期預金証書と印鑑を自宅に取りに帰ってから銀行に行きたい,との申出があったので,被告甲が原告を自宅まで送り届けた。 c 原告宅に着いてから,原告からの申出により,原告と被告会社は,原告宅と原告の兄宅だけを20日間張り込むことに変更し,調査料を480万円に変更した。そして,被告甲は,原告を車に乗せて,播州信用金庫兵庫支店まで連れて行き,原告が解約した定期預金の中から480万円を受け取った。 d ところが,原告は,同日午後8時ころ,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告甲に対し,張り込み尾行調査の中止を申し出た。 しかし,被告甲が,「再々の中止は被告会社の業務に支障があり,今回は料金も入金されているので,張り込み尾行調査の打ち切りはできない。」と申し入れると,原告は,「それならとりあえず調査して下さい。」とのことであった。 ウ請求原因(2)ウ(被告甲の違法行為)について(ア) 請求原因(2)ウは否認する。 (イ) 原告の精神異常については,被告甲は全く気付かなかった。そもそも,原告が当時精神異常であったこと自体が疑わしい。当時の録音テープ(乙13の1・2)を聞けば,原告は正常な会話をしており,精神異常でなかったことは明らかである。 (3) 請求原因(3)(被告らの責任)についてア請求 わしい。当時の録音テープ(乙13の1・2)を聞けば,原告は正常な会話をしており,精神異常でなかったことは明らかである。 (3) 請求原因(3)(被告らの責任)についてア請求原因(4)は争う。 イ被告甲には,故意も過失も違法性もないので,不法行為は成立しない。 よって,被告会社には民法715条の使用者責任はなく,被告乙には民法715条2項の代理監督者責任及び商法266条ノ3第1項の監視義務違反の責任はない。 ウ原告は,被告会社との間で,調査依頼書(甲21,22)中で,「本件調査が依頼人の都合により必要がなくって中途解約した場合でも,納入調査料金の返還は請求しません。」と,中途解約しても調査料金返還の請求はしないとの合意をしている。 したがって,原告は,調査依頼契約の中途解約をしても,調査料金の返還請求をすることができない。 (4) 請求原因(4)(原告の損害)についてア請求原因(4)は否認する。 イ被告会社は,平成12年11月22日から28日までの間,原告宅,原告の兄及び妹宅の張り込み調査をしており,その料金は合計279万5000円に達している。したがって,原告の損害額は,480万円から279万5000円を控除した200万5000円となる。 理由 第1 前提事実次の1(2),2,3の事実は当事者間に争いがなく,証拠(甲1~3,原告本人)によると,次の1(1)の事実が認められる。 1 当事者(1) 原告(平成11年12月生)は,若干の老後資金を手元に置き,子供がなく,亡夫の遺族年金で一人暮らしをしている女性である。 (2) 被告会社は信用調査等を目的とする資本金1000万円の会社であり,被告甲は 1年12月生)は,若干の老後資金を手元に置き,子供がなく,亡夫の遺族年金で一人暮らしをしている女性である。 (2) 被告会社は信用調査等を目的とする資本金1000万円の会社であり,被告甲は被告会社の従業員であり,被告乙(被告甲の妻)は被告会社の代表取締役である。 2 5万円の支払(1) 原告は,平成12年11月20日,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告甲に対し,相談したいことがあるので自宅に来て欲しい旨を伝えた。 (2) 原告は,同日,自宅を訪れた被告甲に対し,「近隣の宗教団体の人達に,盗聴や盗撮をされている。桶川ストーカー事件の被害者と同じような立場にある。 殺されるかもしれない。」と訴え,「B氏に会って話したいので,アポをとってもらえないか。」と頼んだ。 (3) すると,被告甲は,原告に対し,「奥さんを守ります。」「自分がちゃんと調査します。」と述べ,原告は,その場で,被告甲に対し,現住所探索調査料名目で5万円を渡し,被告甲から領収証(甲14)を受領した。 (4) その後,原告は,同日午後8時ころ,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告甲に対し,「現住所探索調査を断るので,5万円を返して欲しい。」と伝えた。すると,被告甲は,原告に対し,「明日返しに行きます」と答えた。 (5) 被告甲は,平成12年11月21日,原告宅を訪れた。 3 480万円の支払(1) 原告は,平成12年11月22日,被告会社に来社し,被告甲と懇談した。 (2) 被告甲は,その後,原告を車に乗せて,原告の自宅まで送り届けた。 (3) 原告は,その後,被告甲運転の車で播州信用金庫兵庫支店へ行き,定期預金を解約して,被告甲に対し,張り込み尾行調査料名目で480万円を渡した。 (4) ところが,原告は 届けた。 (3) 原告は,その後,被告甲運転の車で播州信用金庫兵庫支店へ行き,定期預金を解約して,被告甲に対し,張り込み尾行調査料名目で480万円を渡した。 (4) ところが,原告は,その後,被告会社に電話をかけ,被告甲に対し,「張り込み尾行調査は断るので,480万円を返して欲しい。」と伝えた。 第2 事実の認定前記第1の前提事実に,証拠(甲6~11,甲14~27,乙6~12,乙13の1・2,乙15,証人C,原告本人,被告甲本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。 1 原告の精神病歴原告は,精神病の持病を有し,昭和63年1月4日から同月13日まで,平成2年7月21日から平成6年8月9日まで,平成8年2月29日から平成8年5月9日まで,湊川病院(精神病院)に入院していた病歴がある(甲6)。 原告は,平成12年11月当時も,自分の周囲の全ての者(親類,知人,友人,近隣者等)が自分を誹謗し(阿保である,物を盗む,兄Cと関係がある等と言い触らす),創価学会員らが無断で自宅に侵入し,物を壊したり,盗んだり,盗聴したり,盗み撮りをしたりする等と訴え,幻覚被害妄想状態を示していた。 2 5万円の支払等(1) 原告は,平成12年11月20日午後2時40分ころ,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告甲に対し,相談したいことがあるので自宅まで来て欲しいと頼んだ。 (2)ア被告甲は,同日午後4時ころ,原告宅を訪問した。原告は,被告甲に対し,「近隣の宗教団体の人達に,盗聴や盗撮をされている。桶川ストーカー事件の被害者と同じような立場にある。殺されるかもしれない。」等と訴え,原告から被害状況を調査した菊水西交番勤務のA巡査部長が消されているかもしれないとのメモ書きを渡し,「B氏に会って 川ストーカー事件の被害者と同じような立場にある。殺されるかもしれない。」等と訴え,原告から被害状況を調査した菊水西交番勤務のA巡査部長が消されているかもしれないとのメモ書きを渡し,「B氏に会って話したいので,アポをとってもらえないか。」と頼んだ。 イ被告甲は,その際の原告の異常な言動から,原告の精神状態が普通ではないことが分かったが,それにつけ込み,現住所探索調査料名目で利益を上げようと考え,原告に対して,「私の方で奥さんを守ります。」「自分がちゃんと調査します。」と答えた。 ウそして,被告甲は,調査目的をB(テレビ朝日のザ・スクープのキャスターでもある)の現住所探索として,調査基本料金100万円,手付金5万円,残金95万円は11月22日に支払う旨を書き込んだ調査依頼書(甲21)を原告に示し,原告に署名捺印させて,原告から手付金5万円を受領し,原告に対し5万円の領収証(甲14)を交付した。 (3) ところが,原告は,同日午後8時ころ,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告甲に対し,「Bの現住所探索調査を断るので,手付金5万円を返して欲しい。」と申し入れた。それに対し,被告甲は,原告からの申出を受け入れることにし,原告に対し,「明日返しに行きます。」と答えた。 (4) 被告甲は,翌日(平成12年11月21日)午後4時30分ころ,原告宅を訪問したが,原告は,インターホン越しで被告甲と応答するだけで,同被告と直接顔を会わせることもしなかった。そして,原告は,被告甲に対し,「写真に撮られるのが嫌だから,領収証は郵便受けに入れてあるので,5万円を郵便受けに入れて帰って下さい。」と言った。 しかし,被告甲としては,5万円を原告に直接渡さず郵便受けに入れておくと,郵便受けが外に出ているので,通行人がこれを 受けに入れてあるので,5万円を郵便受けに入れて帰って下さい。」と言った。 しかし,被告甲としては,5万円を原告に直接渡さず郵便受けに入れておくと,郵便受けが外に出ているので,通行人がこれを持ち去るおそれがあり,後日,原告から,現金5万円が入っていなかったと,文句を言われるのではないかと不安になり,5万円は郵便受けに入れずにそのまま持ち帰った。 (5) そこで,原告は,同日午後8時ころ,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告乙に対し,被告甲が5万円を返さずに持ち帰ったことを話すと,被告乙は,原告に対し,それなら明日送りますと答えた。 3 480万円の支払等(1) 原告は,翌日(平成12年11月22日)午前9時30分ころ,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告乙に対し,「今日,5万円を返してもらいに被告会社に行くので,送ってもらわなくともよい。」と伝えた上で,同日午前11時ころ,被告会社を訪れた。 (2)アそして,原告は,応対に出た被告甲に対し,まず5万円の返還を求めるとともに,所持していた印鑑,キャッシュカード,自宅の鍵,金庫の鍵を全部机の上に出し,「私は殺されてしまうかもしれない。」などと口走った上で,次のようなことを訴えた。 (ア) 原告は,これまで,弁護士,市会議員,警察官などに,手当たり次第に,被害を訴え続けた。 (イ) その被害というのは,原告に接する全ての人が,原告を誹謗,中傷し,合成写真をばらまくことなどである。 (ウ) 原告の被害調査をした警察官(菊水西交番勤務のA巡査部長)も,行方不明になっている。 イさらに,原告は,被告甲に対し,原告の自宅,兄C宅,妹D宅が盗聴されているなどの言動を繰り返し,妄想,不安定の心理状態を示した。 (3) すると,被告甲は,このよう 方不明になっている。 イさらに,原告は,被告甲に対し,原告の自宅,兄C宅,妹D宅が盗聴されているなどの言動を繰り返し,妄想,不安定の心理状態を示した。 (3) すると,被告甲は,このような異常言動を示している原告の心理状態を利用し,5万円を返すどころか,さらに原告から金を引き出すことを考え,原告に対し,「原告宅,C宅,D宅を監視して,不審者を発見すれば尾行しましょうか(ストーカー対策)。」と申し向け,原告からその同意を取り付けた。 (4) このようにして,被告甲は,同日午後2時30分ころ,次のように記載した調査依頼書(甲22)を原告に示し,原告に署名捺印させた。 アご指定3箇所の監視(ストーカー対策)イ 1.自宅,2.C宅,3.D宅ウ期間は平成12年11月24日から同年12月24日まで毎日,ただし自宅のみ本日より,監視時間は午前9時から午後9時までエ基本料金980万円,本日(平成12年11月22日)支払う。 (5) 原告は,被告甲に対し,980万円は定期預金を解約して支払うので,定期預金証書と印鑑を自宅に取りに行ってから銀行に行きたい,時間がないので自宅まで送ってくれますかと申し出た。そこで,被告甲はこれを了承し,同日午後3時30分ころ,車で原告を自宅まで送り届けた。 すると,原告は,自宅前に着いてから,自宅前に駐車した車の中で,980万円という高額料金に気づき,難色を示した。そこで,被告甲の提案により,張り込み場所及び期間について,原告宅とC宅の2箇所を20日間張り込むことに変更し,基本料金が980万円から480万円に減額になった(甲16)。 (6) その後,原告は,原告だけが自宅に入り,自宅から播州信用金庫の定期預金証書(額面1000万円)と銀行届出印鑑を持ち に変更し,基本料金が980万円から480万円に減額になった(甲16)。 (6) その後,原告は,原告だけが自宅に入り,自宅から播州信用金庫の定期預金証書(額面1000万円)と銀行届出印鑑を持ち出し,再び被告甲運転の車に乗り込み,神戸中央教会に長時間立ち寄った後,播州信用金庫兵庫支店に行き,1000万円の定期預金を解約した(甲17,18)。 そして,原告は,同日午後5時30分ころ,被告甲に対し,張り込み尾行調査料名目で480万円を支払い,同被告から480万円の領収証(甲19)の交付を受けた。 (7) ところが,原告は,480万円でも高すぎることに気づき,同日午後8時ころ,被告会社に電話をかけ,電話に出た被告甲に対し,「張り込み尾行調査はしてもらわなくともよいので,480万円を返して欲しい」と申し出た。しかし,被告甲は,「再々の中止は被告会社の業務に支障があり,今回は料金も入金されているので,調査打ち切りはできない。」と答え,原告の申出を拒否した。 4 原告の保護,入院等(1) 原告は,原告の被害調査をしたA警察官が消されたので,原告の身にも危険が及ぶと思い,平成12年11月23日の夜に大津まで行った。そして,原告は,翌24日午前11時ころ,大津市内の県立堅田看護専門学校に裸足姿で現れ,同校職員に「誰かに追われている」と伝えて,助けを求めた。 驚いた同校職員からの通報により,堅田警察署の警察官が臨場し,原告から事情聴取をしたところ,原告は,意味不明の言葉を繰り返し,相当怯えた様子であり,精神不安定の状態と認められ,堅田警察署に保護された。原告は,警察に保護されている間も,「家族の名前を言ったら皆殺しにされる」等と,意味不明の言動を繰り返した(甲20)。 (2) 原告は,「人に殺される。」「家にい れ,堅田警察署に保護された。原告は,警察に保護されている間も,「家族の名前を言ったら皆殺しにされる」等と,意味不明の言動を繰り返した(甲20)。 (2) 原告は,「人に殺される。」「家にいたら殺されるので,もう病院しか助けてもらえるところはない。」と思い詰め,平成12年12月1日,湊川病院(精神病院)に4度目の入院をした。原告の入院当時の症状は,幻覚妄想状態及び精神衰弱状態で,妄想活発,焦燥あり,病名は精神分裂病と診断された(甲7,8)。 そして,原告は,平成12年12月1日から平成13年1月12日まで,湊川病院に入院して治療を受けた。 第3 被告らの責任 1 被告甲の責任(1) 前記第2の2ないし4の事実(特に第2の2(2),第2の3(2)ないし(4)の事実)によれば,被告甲は,原告が支離滅裂な言動をしており,精神状態に異常があることを知りながら,それを巧みに利用し,調査手数料名目で利益を上げようと考え,平成12年11月20日,同月22日に,原告に甲第21,第22号証の調査依頼書に署名捺印させ,原告から調査基本料金の手付金名目で5万円,調査基本料金名目で480万円を受領しており,被告甲のこのような行為は違法であることが認められる。 (2) 被告らは,被告甲は原告の精神異常については全く気付かなかったと主張する。 しかし,被告甲は,平成12年11月20日の時点で,前記第2の2(2)ア(前掲14頁)記載のような異常な言動をしており,また,同月22日には,前記第2の3(2)(前掲16頁)記載のような異常な言動をしている。被告甲は,原告のこのような異常な言動を目の当たりにしながら,原告の精神異常については全く気付かなかったなどということは,考えられないことである。 それゆえ,原 のような異常な言動をしている。被告甲は,原告のこのような異常な言動を目の当たりにしながら,原告の精神異常については全く気付かなかったなどということは,考えられないことである。 それゆえ,原告の前記主張は採用できない。 (3) 以上によると,被告甲は,原告に対し,民法709条の不法行為責任を免れないことが認められる。 2 被告会社の責任被告甲は被告会社の従業員であり,被告会社の職務に関して原告に与えた損害について,前示1のとおり不法行為責任を免れないのであるから,被告会社も,被告甲(被用者)の使用者として,民法715条所定の使用者責任を免れない。 3 被告乙の責任(1) 民法715条2項の責任被告乙は被告会社の代表取締役である。そして,法人の代表者は,その代表機関であるというだけでなく,現実に被用者の選任・監督を担当していたときに限り,当該被用者の行為について,民法715条2項所定の代理監督者の責任を負う(最高裁昭和42年5月30日判決・民集21巻4号961頁)。すなわち,代理監督者といえるためには,現実に被用者の具体的な選任・監督に当たっていることを要する。 ところが,被告乙(妻)については,現実に被告甲(夫,被用者)の具体的な選任・監督に当たっていたことを認めるに足る具体的な主張や的確な証拠がない。それゆえ,被告乙には,民法715条2項所定の代理監督者としての責任があるものとは認められない。 (2) 商法266条ノ3第1項の責任被告乙(妻)は被告会社の代表取締役であり,毎日被告甲(夫)とともに被告会社に出勤し,原告から被告会社にかかってきた電話に出るなどして,被告甲が原告から平成12年11月20日に5万円を受領し,同月22日に480万円を受領し 表取締役であり,毎日被告甲(夫)とともに被告会社に出勤し,原告から被告会社にかかってきた電話に出るなどして,被告甲が原告から平成12年11月20日に5万円を受領し,同月22日に480万円を受領した経緯を承知していたことが認められる(甲26,乙12,乙15,証人Eの証言,原告本人の供述,被告甲本人の供述)。 ところが,被告甲が,原告には精神状態に異常があることを知りながら,それを巧みに利用し,原告から5万円,480万円を取得して,原告に損害を与えるという違法行為をしているのに,被告乙は,故意又は少なくとも重大な過失により,被告甲がこのような違法な行為をしないように監視・監督して,被告会社や原告に損害を与えないようにする義務に違反していることが認められる(甲26,原告本人の供述)。 したがって,被告乙は,原告に対し,商法266条ノ3第1項所定の取締役の第三者に対する責任を負うことが認められる。 4 原告と被告会社間の免責特約被告らは,原告が,被告会社との間で調査依頼書(甲21,22)を交わし,その中で,本件調査依頼を中途解約しても調査料金の返還請求をしないと合意していることを理由に,原告は,本訴調査依頼の中途解約をしても,調査料金の返還請求をすることはできないと主張する。 しかし,原告の本訴請求は,現住所の探索調査依頼,張り込み尾行調査依頼の中途解約を理由に,既払調査料の返還を請求するものではなく,被告甲が原告から調査料名目で5万円,480万円を取得した行為が違法であるとして,不法行為による損害賠償を請求しているものである。 したがって,原告と被告会社との間で,上記のとおり,原告が調査等の依頼を中途解約しても,調査料の返還請求ができない旨の合意があるとしても,原告の本件損害賠償請 害賠償を請求しているものである。 したがって,原告と被告会社との間で,上記のとおり,原告が調査等の依頼を中途解約しても,調査料の返還請求ができない旨の合意があるとしても,原告の本件損害賠償請求権の存否に影響を及ぼすものではなく,被告らの上記主張は主張自体が失当である。 第4 原告の損害 1 調査料名目で出捐した485万円(1) 当裁判所の認定前記第2の2,3及び第3の1の認定判断によると,原告は,被告甲の違法行為によって,5万円及び480万円を出捐させられ,同額の同額を被ったことが認められる。 (2) 被告ら主張の検討ア被告ら主張被告らは,次のとおり主張する。 (ア) 被告会社は,平成12年11月22日から28日まで,原告宅,原告の兄及び妹宅の張り込み調査を続けており,その料金は合計279万5000円に達している。 (イ) したがって,原告の損害額は,480万円から279万5000円を控除した200万5000円となる。 イ検討(ア) そもそも,被告会社が,平成12年11月22日から28日まで,原告宅,原告の兄及び妹宅の張り込み調査を続け,その料金は合計279万5000円に達していることを認めるに足る客観的な証拠がない。 (イ) それに,仮に,被告会社が,平成12年11月22日以降,原告宅,原告の兄及び妹宅の張り込み調査を若干していたとしても,それは,被告甲が,原告から張り込み調査料名目で480万円を取り上げた以上,その正当性を装うために,張り込み調査をしている実績をこしらえる必要からであり,また,張り込み調査をしたことを根拠に,返済金額を減らそうと画策した結果に他ならない。 それゆえ,被告会社が,原告宅,原告の兄及び に,張り込み調査をしている実績をこしらえる必要からであり,また,張り込み調査をしたことを根拠に,返済金額を減らそうと画策した結果に他ならない。 それゆえ,被告会社が,原告宅,原告の兄及び妹宅の張り込み調査を若干していたとしても,原告の損害額については,480万円から減額する必要はない。 (ウ) よって,被告らの前記アの主張は採用できない。 2 慰藉料原告が調査料名目で出捐させられた485万円全額の損害賠償請求が認められれば,原告の精神的苦痛も慰謝されるものと認める。それゆえ,原告の慰藉料請求は理由がない。 3 弁護士費用原告の損害賠償金485万円(前記1)の約1割である48万円をもって,被告甲の違法行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用の損害と認める。 4 合計そうすると,原告の損害合計は533万円となる。 第5 結論 1 以上によると,原告の本訴請求は,次の(1),(2)イの限度で理由があるので,これを認容し,その余は理由がないので棄却すべきである。 (1) 被告甲及び被告会社に対する請求被告甲及び被告会社は連帯して原告に対し,損害賠償金533万円,及び内金485万円に対する平成12年11月23日(不法行為よりも後の日)から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。 (2) 被告乙に対する請求ア商法266条ノ3第1項所定の損害賠償債務は,法が取締役の責任を加重するため特に認めたものであり,不法行為に基づく損害賠償債務の性質を有するものではないから,履行の請求を受けたときに遅滞に陥るものである(最高裁平成元年9月21日判決・判例時報1334号223頁)。 イしたがって,被告乙は,原告に対し 賠償債務の性質を有するものではないから,履行の請求を受けたときに遅滞に陥るものである(最高裁平成元年9月21日判決・判例時報1334号223頁)。 イしたがって,被告乙は,原告に対し,損害賠償金533万円,及び内金485万円に対する平成13年2月7日(訴状送達の日の翌日=履行の請求を受けたとき)から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。 2 よって,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部 裁判官紙浦健二・
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