主文 控訴人長女の控訴に基づき、原判決中、控訴人長女の敗訴部分を取り消す。 控訴人長女が被控訴人の子であることを認知する。 2 控訴人二女の控訴を棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを2分し、その1を控訴人二女の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 控訴人らがいずれも被控訴人の子であることを認知する。 第2 事案の概要等 1 本件は、いずれも凍結保存精子を用いた生殖補助医療により出生した控訴人らが、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」という。)に基づき男性から女性への性別の取扱いの変更の審判を受けた被控訴人に対し、それぞれ認知を求める事案である。 原審が控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、これを不服とする控訴人らがいずれも控訴した。 なお、被控訴人は、当審の第1回口頭弁論期日において、「控訴人らの控訴を全て認諾する」旨を記載した控訴答弁書を陳述しているが、人事訴訟である認知の訴えにおいては請求の認諾は認められない(人事訴訟法19条2項、民事訴訟法266条参照)。 2 前提事実(掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)控訴人ら母(▲▲▲年▲月▲日生)は、▲▲▲年▲月▲日、控訴人長女を出産した。戸籍上、控訴人長女の父の欄は空欄である。 控訴人ら母と被控訴人(▲▲▲年▲月▲日生)は、▲▲▲年▲月▲日に婚姻し、▲▲▲年▲月▲日に離婚した。 その後、被控訴人は、特例法3条に基づき女性への性別の取扱いの変更の審判を受け、同審判は、▲▲▲年▲月▲日に確定した(以下、この確定審判を「本件審判」という。)。 控訴人ら母は、▲ に離婚した。 その後、被控訴人は、特例法3条に基づき女性への性別の取扱いの変更の審判を受け、同審判は、▲▲▲年▲月▲日に確定した(以下、この確定審判を「本件審判」という。)。 控訴人ら母は、▲▲▲年▲月▲日、控訴人二女を出産した。戸籍上、控訴人二女の父の欄は空欄である。 (弁論の全趣旨) 被控訴人は、▲▲▲年▲月▲日、認知する父を被控訴人、認知される子を控訴人長女及び控訴人ら母の胎児とする各認知の届出(以下「本件各認知届出」という。)を控訴人長女及び控訴人ら母の本籍地であるAにしたところ、Aは、▲▲▲年▲月▲日までに、本件各認知届出に係る各認知(以下「本件各認知」という。)は無効であるとの理由で、本件各認知届出を不受理とした(甲2、3、弁論の全趣旨)。 Aが本件各認知届出を不受理とした理由は、概要、以下のとおりである(調査嘱託の結果)。 ア本件各認知は、いずれも被控訴人が戸籍法60条1号の「父が認知をする場合」として届け出られているが、本件各認知を父のした認知とみることは、「性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、民法その他の法令の規定の適用については、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす」旨を規定する特例法4条1項の規定に反し許されない。すなわち、認知の根拠条文である民法779条には別段の定めはないところ、女性への性別の取扱いの変更の審判を受けた被控訴人について、本件審判後にされた身分行為である本件各認知により父子関係を創設することは、特例法4条1項の規定に反するから、本件各認知を父による認知とみることはできない。 イ実質的にみても、特例法3条1項3号は、「現に未成年の子がいないこと」を性別の取扱いの変更を認めるための要件とするところ、本件各 ら、本件各認知を父による認知とみることはできない。 イ実質的にみても、特例法3条1項3号は、「現に未成年の子がいないこと」を性別の取扱いの変更を認めるための要件とするところ、本件各認知により父子関係の創設を認めることは、同号の趣旨に反する。すなわち、本件各認知を有効なものと認めることは、正に未成年の子について「女である父」を認めるものであって、特例法の立法担当者の意思に反する。 ウ控訴人らは、控訴人ら母による分娩の事実により控訴人ら母との母子関係が認められているから、本件各認知を母による認知とみることもできない。 B株式会社作成に係る「法的DNA型父子鑑定書(以下「本件鑑定書」という。)」は、DNA鑑定の結果、被控訴人が控訴人長女の父である確率は99.999999%、被控訴人が控訴人二女の父である確率は99.999999%であり、被控訴人が控訴人らの生物学的父親であると判定することができるとの鑑定意見を示した(甲1)。 3 争点本件の争点は、いずれも凍結保存精子を用いた生殖補助医療により出生し、被控訴人との間で生物学的な父子関係が認められる控訴人らが、本件審判によって民法その他の法令の規定の適用についてその性別が女性に変わったものとみなされた被控訴人に対し、それぞれ認知を求める法的地位(形成権である認知請求権を行使し得る法的地位。以下、単に「認知請求権」ということがある。)を有するか否かである。 4 当事者の主張(控訴人らの主張)被控訴人は、▲▲▲年に交際相手であった控訴人ら母に対して、被控訴人の凍結保存精子を提供し、これによって控訴人ら母は懐胎し、▲▲▲年▲月に被控訴人の子である控訴人長女を出産した。また、被控訴人は、本件審判が確定した後である▲▲▲年に、控訴人ら母に対して被控訴人の凍結保存 保存精子を提供し、これによって控訴人ら母は懐胎し、▲▲▲年▲月に被控訴人の子である控訴人長女を出産した。また、被控訴人は、本件審判が確定した後である▲▲▲年に、控訴人ら母に対して被控訴人の凍結保存精 子を提供し、これによって控訴人ら母は懐胎し、▲▲▲年▲月に被控訴人の子である控訴人二女を出産した。本件鑑定書によれば、控訴人らと被控訴人が生物学的な父子関係にある旨の結果が出ている。 被控訴人は控訴人らの認知を望んでいるが、Aが本件各認知届出を不受理とするなどしたため、被控訴人が控訴人らを認知することができない状態に置かれ、また、控訴人らも被控訴人から認知されないことにより、被控訴人との間の法律上の親子関係を形成することができず、著しい不利益を被っている状態にある。 法律上の親子関係が認められないことによって控訴人らが失う利益は、監護・教育・扶養を受ける権利、被控訴人の相続人となる利益、自己の出自を知る権利といった極めて重大なものであり、最大限尊重されなければならず、これらは、養子縁組制度によっては代替できるものではない。養子縁組では、子が15歳未満であれば、実親と養親の協議によって離縁される可能性があり、実親子関係と比較して不安定な親子関係しか形成することができない。 また、控訴人らは、他の男性からの認知を防ぐことができないのであって、望まない認知が行われた場合、事後的に控訴人らから認知無効の訴えを提起しなければならないという不利益を生ずる。 他方、被控訴人は、控訴人らの主張を争わず、むしろ認知を望んでおり、血縁上の親子が既に家族としての社会的実質を備えている。控訴人らと被控訴人との間に法律上の親子関係を認めたからといって、第三者が何らかの影響を被るものではなく、また、何らの公益に反するものでもない。 Aは、本件各 しての社会的実質を備えている。控訴人らと被控訴人との間に法律上の親子関係を認めたからといって、第三者が何らかの影響を被るものではなく、また、何らの公益に反するものでもない。 Aは、本件各認知届出を不受理とした理由として、本件各認知が特例法4条1項の規定に反する点を挙げるが、戸籍上の記載における「父」という概念が必ず法律上の「男」でなければならないという規定は民法にも戸籍法にも特例法にも存在しない。現行法においては、既に「女である父」や「男である母」の存在が認められており、「父」が絶対に法律上の「男」である必然 性も、「母」が絶対に法律上の「女」である必然性も既に失われている。本件において、戸籍上、被控訴人を控訴人らとの関係のみにおいて「父」と記載したところで、同項の趣旨に反するものではない。また、本件は、極めて例外的に生じるケースであり、このような場合に認知を肯定しても、戸籍実務その他の法的安定性を害するものではない。 本件のように、法律上の性別変更後に子との親子関係が生ずる場合について特例法は何ら定めておらず、法の欠缺が生じているところ、このような場合には他の規定の類推適用により解決が図られるべきであり、本件では、子の福祉を保護する必要性から、特例法4条2項の類推適用により、被控訴人は、控訴人らとの関係では「女である父」たる地位が認められるべきである。 Aは、本件各認知届出を不受理とした理由として、本件各認知により父子関係の創設を認めることは特例法3条1項3号の趣旨に反する点を挙げるが、同号が定める要件は、これから性別の取扱いの変更をする場合の要件であり、既に性別の取扱いの変更が済んだ者と子との関係を規律するものではない。本件各認知の訴えは、子である控訴人らの側から実親である被控訴人に対して認知を求めるもので の取扱いの変更をする場合の要件であり、既に性別の取扱いの変更が済んだ者と子との関係を規律するものではない。本件各認知の訴えは、子である控訴人らの側から実親である被控訴人に対して認知を求めるものであって、性別の取扱いの変更の審判を求める場面とは全く局面が異なるから、控訴人らが認知請求権を有するか否かを判断するに当たって、特例法における性別の取扱いの変更を認める要件は直接関係しないというべきである。 Aは、本件各認知届出を不受理とした理由として、控訴人ら母による分娩の事実により控訴人らと控訴人ら母との母子関係が認められているから、本件各認知を母による認知とみることもできない点を挙げるが、母子間の法律上の親子関係の原則が分娩の事実により当然に発生するとしても、性別の取扱いの変更の審判を受けた者が「母」として認知することができる場合も例外的に存在すると解するのが自然である。 民法772条は、あくまで婚姻中に出生した子の嫡出推定についての規定 であって、「出産していない女性は「母」ではない」ということまで読み込める規定ではなく、母である女性が懐胎・出産することが一般的であることを前提にしているにすぎず、何らの例外をも認めない排他性を持つものではない。 最高裁昭和37年4月27日第二小法廷判決(以下「昭和37年判決」という。)は、分娩した女性とその子との親子関係がいかにして発生するかという点についてのみ判断したものにすぎず、「分娩していない女性には親子関係が認められない」と判示しているわけでもなければ、「母は認知ができない」と判示しているわけでもない。また、最高裁平成19年3月23日第二小法廷決定(以下「平成19年決定」という。)は、いわゆる代理出産の事案についての判断であって、法律上の「父」が不存在となっており、血縁上の親 ているわけでもない。また、最高裁平成19年3月23日第二小法廷決定(以下「平成19年決定」という。)は、いわゆる代理出産の事案についての判断であって、法律上の「父」が不存在となっており、血縁上の親に当たる女性が2人いるという本件の事案とは根本的に性質を異にし、本件のように特別養子縁組の方法を用いることができない事案ではない。 むしろ民法779条を素直に読めば、同条は「母」が認知できる場合も存在することを前提とした規定であり、仮に法律上の母子関係が出産のみによってしか発生しないと解するのであれば、同条は無意味なことをあえて定めたことになりかねず、そのような解釈こそ民法の趣旨に反する。昭和37年判決及び平成19年決定は、判例変更がされるべきであるし、そうはいえないとしても、本件のような性別の変更が絡んだ特殊な事案については、例外的に出産によらない母子関係の発生が認められるものとし、同法787条に基づき、「母」である被控訴人に対して認知請求ができると解すべきである。 (被控訴人の主張)控訴人らの主張を争わない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実に加え、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認め られる。 被控訴人は、性自認が女性で、性交渉によっては生殖ができないことから、▲▲▲年又は▲▲▲年頃、出産を希望する不特定の女性に提供する目的で自らの精子を凍結保存する一方、特例法に基づいて男性から女性への性別の取扱いの変更の審判を受けるため、ホルモン注射の治療を受けるなどの準備を進め、▲▲▲年▲月▲日には名を変更した(被控訴人本人〔1、2、5、6頁〕、弁論の全趣旨)。 その間に、被控訴人と控訴人ら母は交際するようになったが、交際中であった▲▲▲年の▲頃、前記の凍結保存精子を利用して子をもうけ 名を変更した(被控訴人本人〔1、2、5、6頁〕、弁論の全趣旨)。 その間に、被控訴人と控訴人ら母は交際するようになったが、交際中であった▲▲▲年の▲頃、前記の凍結保存精子を利用して子をもうけることを考え、控訴人ら母は、▲▲▲年▲月▲日、被控訴人の凍結保存精子を用いた生殖補助医療により、控訴人長女を出産した。戸籍上、控訴人長女の父の欄は空欄である。(前提事実、甲1、被控訴人本人〔2、3頁〕)被控訴人は、▲月頃、性別適合手術を受けたが、いわゆるシングルマザーに対する社会の厳しい目から控訴人ら母を守るとともに、実際の社会生活における利便性などの理由から、▲月▲日、控訴人ら母と婚姻をした。もっとも、被控訴人は、性別の取扱いの変更の審判を受けるためには、「現に婚姻をしていないこと」が要件になっていることから、▲▲▲年▲月▲日に控訴人ら母と離婚をした。(前提事実、被控訴人本人〔2、4、5頁〕)その上で、被控訴人は、控訴人長女の出生の事実は知っていたが、そのことを家庭裁判所に申告しないまま、特例法3条に基づき、女性への性別の取扱いの変更の審判を受け、同審判は、▲▲▲年▲月▲日に確定した(本件審判。前提事実、被控訴人本人〔3頁〕)。 被控訴人と控訴人ら母及び控訴人長女は、▲▲▲年▲月頃から、同居して暮らすようになった(被控訴人本人〔5頁〕)。 控訴人ら母は、被控訴人と子をもうけることを相談し、▲▲▲年▲月▲日、被控訴人の凍結保存精子を用いた生殖補助医療により、控訴人二女を出産し た。戸籍上、控訴人二女の父の欄は空欄である。(前提事実、甲1、被控訴人本人〔2ないし5頁〕、弁論の全趣旨) 被控訴人は、▲▲▲年▲月▲日、Aに対し、本件各認知届出をしたところ、Aは、▲▲▲年▲月▲日までに、本件各認知届出を不受理とした(前 実、甲1、被控訴人本人〔2ないし5頁〕、弁論の全趣旨) 被控訴人は、▲▲▲年▲月▲日、Aに対し、本件各認知届出をしたところ、Aは、▲▲▲年▲月▲日までに、本件各認知届出を不受理とした(前提事実)。 控訴人らと被控訴人との間には、いずれも生物学的な父子関係が認められる(前提事実、弁論の全趣旨)。 2 判断の前提となる法律関係本件各認知の訴えは、いずれも被控訴人の凍結保存精子を用いた生殖補助医療により出生し、被控訴人との間に生物学的な父子関係が認められる控訴人らが、本件審判によって民法その他の法令の規定の適用についてその性別が女性に変わったものとみなされた被控訴人に対し、民法787条の訴えにより認知請求権を行使するものであるから、以下において、①性交渉に由来しない生殖補助医療により出生した控訴人らが、精子提供者である被控訴人に対して、同条の「子」として認知請求権の行使をすることができるか、②女性に性別が変更されている被控訴人が、同条(及び人事訴訟法42条1項前段)により被告となるべき「父」と認められるかについて検討する。 法律上の実親子関係実親子関係は、身分関係の中でも最も基本的なものであり、様々な社会生活上の関係における基礎となるものであって、単に私人間の問題にとどまらず、公益に深くかかわる事柄であり、子の福祉にも重大な影響を及ぼすものである。したがって、どのような者の間に法律上の実親子関係の成立を認めるかは、その国における身分法秩序の根幹をなす基本原則ないし基本理念にかかわるものであり、実親子関係を定める基準は一義的に明確なものでなければならず、かつ、実親子関係の存否はその基準によって一律に決せられるべきものである(平成19年決定参照)。そうすると、実親子関係を規律する 民法等の法律 める基準は一義的に明確なものでなければならず、かつ、実親子関係の存否はその基準によって一律に決せられるべきものである(平成19年決定参照)。そうすると、実親子関係を規律する 民法等の法律の規定の解釈適用については、強い法的安定性が求められるものであるから、その内容は一義的かつ明確な基準をもって決定されるべきであり、こうした基準に基づき一律かつ安定的に行われてきたこれまでの法的取扱いを、立法手続によることなく、解釈によって変更することは基本的には許されないものと解される。 以上を踏まえて、実親子関係を規律する民法の規定をみると、母子関係については、懐胎・出産という第三者においても明らかな客観的な事実により当然に成立することを前提とした規定を設けているところ(同法772条1項参照)、これは、子の福祉の観点から、出産と同時に母子関係を早期かつ一義的に確定させることにしたものと解することができる。これに対し、父子関係については、母子関係とは異なり、前記のような親子関係を基礎づける客観的な事実が子の出生時には存在しないことから、嫡出推定の規定や認知の規定を設けるなどして法律上の父子関係の成立が認められる場合を規定しており、その内容によれば、法律上の父子関係の成立に関し、生物学的な父子関係の存在に基礎を置いてはいるものの、そのような関係が認められることから直ちに法律上の父子関係が成立するものとはしておらず、生物学的な父子関係が認められる場合であっても、法律上の父子関係が認められない場合があることを認めている。 民法(親族編)の規定の解釈親族関係に関する民法(第四編・親族)の規定は、明治時代に制定された後、昭和22年に全部改正されたものであるが、このうちの実親子関係に関する規定は、当該関係が母と父との間の性交渉に由 解釈親族関係に関する民法(第四編・親族)の規定は、明治時代に制定された後、昭和22年に全部改正されたものであるが、このうちの実親子関係に関する規定は、当該関係が母と父との間の性交渉に由来して母が懐胎した子を出産することによって形成されることを前提に、その成立要件や権利義務関係の内容を定めているもので、これらの規定は、その後長い期間にわたって我が国の身分法秩序の根幹をなす基本原則ないし基本理念として定着してきたものと認められ、前記全部改正当時、性同一性障害を有する者の存在や これを前提とする特例法の制定を想定していたものではなく、また、男性不妊の場合の生殖補助医療も行われていなかったことからすれば、民法は、こうした事情をも想定して実親子関係に関する規定を定めているものとは解されない。 そうすると、民法779条及び同法787条の「子」及び「父」は、生物学的な父子関係が、母が父との間の性交渉に由来して懐胎した子を出産することによって形成されるもので、精子の形成や射精などの生殖機能は女性にはなく、男性にしか認められないことを前提として規定されているものであると解される。 民法787条の認知請求権ア認知請求権の内容及び取得時期民法787条は、子が父に対して裁判による認知を請求できる旨を規定しているが、同条は、父が任意に子を認知しない場合において、子が、自分と生物学的な父子関係を有する「父」に対して、同人との間の法律上の父子関係(身分関係)の形成という法的効果を生じさせることを目的とする、子の福祉にとって重要な権利である認知請求権を認めるものであり、子は、「その出生の時から」同条に基づく認知請求権(形成権)を行使し得る法的地位を有するものと解される。 イ民法787条の「子」ところで、民法7 重要な権利である認知請求権を認めるものであり、子は、「その出生の時から」同条に基づく認知請求権(形成権)を行使し得る法的地位を有するものと解される。 イ民法787条の「子」ところで、民法787条にいう「子」は、前記で説示した母と父との間の性交渉に由来して出生した子であり、父との間に生物学的な父子関係を有する者をいうと解される。そして、生殖補助医療により出生した子と凍結保存精子を提供した父との間の父子関係は、性交渉に由来する生物学的な父子関係であるとはいい難いところ、このような場合に、子の精子提供者である父に対する認知請求権が認められるか否かについては、これを明らかとする民法上の規定は存在しておらず、令和2年12月に制定され た「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」においても、上記場合における父子関係に関する明文の定めはない。 しかしながら、性交渉によっては生殖ができない夫が妻との間の子をもうけることを目的として自己の凍結保存精子を提供し、妻が生殖補助医療により夫との間の子を懐胎して出産する場合と同様に、性交渉によっては生殖ができない男性が特定の女性(例えば内縁関係にある妻)との間の子をもうけることを目的として自己の凍結保存精子を提供し、当該女性が生殖補助医療により当該男性との間の子を懐胎して出産したという場合においては、当該男性は子との父子関係の形成を目的として自己の凍結保存精子を提供しているもので、子にとっても、当該男性との間に法律上の父子関係の成立が認められることは、その福祉にとって重要なことであると認められる。また、民法787条に基づく認知の訴えは、通常、被告となる父において任意の認知を拒んでいるだけでなく、子との間の法律上の父子関係の成立を争っている場 、その福祉にとって重要なことであると認められる。また、民法787条に基づく認知の訴えは、通常、被告となる父において任意の認知を拒んでいるだけでなく、子との間の法律上の父子関係の成立を争っている場合に提起されるものであるが、前記のような男性の場合は、子との父子関係の形成を目的として自己の凍結保存精子を特定の女性に対して提供しているものであり(本件の場合は、被控訴人と控訴人ら母とは、控訴人長女の出生後に婚姻関係にあった時期があり、その後、被控訴人において、控訴人らの父であるとして本件各認知届出をしている。)、このような場合においては、子が生殖補助医療により出生したことを理由に、生物学的な父子関係を有する男性に対して民法上の認知請求権を行使することを否定すべき理由はない。したがって、同条が「子」に対して認知請求権を認めた趣旨に照らし、生殖補助医療により出生した子であっても、上記目的を持って凍結保存精子を提供した生物学的な父子関係を有する男性を「父」として、同条に基づき、民法上の認知請求権を行使し得る法的地位を有するものと解すべきである。 ウ民法787条の認知請求の相手方となる「父」次に、民法787条は、精子の形成や射精などの生殖機能が生物学的にみて男性にしか認められないことを前提として規定されたもので、前記で説示したとおり、性同一性障害を有する者の存在やこれを前提とする特例法の制定を想定しておらず、男性不妊の場合の生殖補助医療が行われていない時期に全部改正されたものであるから、同条にいう「父」の解釈としては前記生殖機能を有する生物学的な意味での男性を「父」と規定しているものと解される。 この点、特例法3条1項は、家庭裁判所は、同項各号所定の要件を満たす者の請求により性別の取扱いの変更の審判をする 能を有する生物学的な意味での男性を「父」と規定しているものと解される。 この点、特例法3条1項は、家庭裁判所は、同項各号所定の要件を満たす者の請求により性別の取扱いの変更の審判をすることができる旨を規定し、特例法4条1項は、前記審判を受けた者は、民法その他の法令の規定の適用については、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす旨を規定していることから、成人した子がいる「父」(特例法3条1項3号参照)については、男性から女性への性別の取扱いの変更の審判を受けることによって、「父」の法律上の性別が女性に変更されることを認めている。このため、特例法によって、民法の規定する「父」についての前記の解釈が変更されたと解する余地があるのかが問題となる。 しかしながら、特例法4条2項は、性別の取扱いの変更の審判が確定したとしても、審判前に生じた「身分関係」に影響を及ぼすものではない旨を規定していることから、成人した子がいる「父」については、法律上の性別が男性から女性に変わった後も、男性であった「父」との父子関係が法律上継続することを認めているものと解される。 また、特例法3条1項3号は、性別の取扱いの変更の審判を受けるための要件として「現に未成年の子がいないこと」を定めているところ、事実上、婚姻していない男女間の性交渉によって子が出生した後に、そ の子が未成年者である間に、当該男性が性同一性障害を有する者として前記審判を受けて法律上の性別が女性に変わったという場合も想定されるが、このような場合も、特例法4条2項が、性別の取扱いの変更の審判前に生じた「身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない」旨を規定していることから、前記未成年の子が前記審判前に男性であった父に対し このような場合も、特例法4条2項が、性別の取扱いの変更の審判前に生じた「身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない」旨を規定していることから、前記未成年の子が前記審判前に男性であった父に対して有していた権利義務(法的地位)が、父の性別の取扱いの変更後も法律上存続することを認めているものと解される。 そうすると、特例法が4条2項を規定して、前記のような法律上の取扱いを認めていることからすれば、特例法は、民法による認知請求の相手方となる「父」が生物学的な意味での男性であるとする民法上の前記の解釈を前提として、同項の規定を置いたものと解することができる。 したがって、特例法が制定されたことによって、民法が認知請求の相手方と規定する「父」に関する前記の解釈が変更されたものであるとは解されない。 そこで、以上を前提に、控訴人らの本件各認知の訴えが認められるか否かについて検討する。 3 控訴人長女の被控訴人に対する認知請求権の存否 前記認定事実のとおり、控訴人長女は、被控訴人について特例法3条に基づき女性への性別の取扱いの変更の審判(本件審判)が確定した▲▲▲年▲月▲日より前である▲▲▲年▲月▲日(当時の性別は男性)に、被控訴人の凍結保存精子を利用した生殖補助医療により懐胎した控訴人ら母から出生したことが認められる。 そうすると、控訴人長女は、その出生時において、生物学的な父子関係を有する法律上「男性」である被控訴人に対し、民法787条に基づく認知請求権(形成権)を行使し得る法的地位を取得したものと認められる(前記2ア)(なお、前記のとおり、控訴人長女は、生殖補助医療により出生した子 であるが、性交渉によっては生殖ができない男性であった被控訴人が控訴人ら母との間の子をもうけることを目的として控訴人ら母 )(なお、前記のとおり、控訴人長女は、生殖補助医療により出生した子 であるが、性交渉によっては生殖ができない男性であった被控訴人が控訴人ら母との間の子をもうけることを目的として控訴人ら母に対して自己の凍結保存精子を提供し、控訴人ら母が生殖補助医療により懐胎して出産した子であるから、このような場合において、控訴人長女が、被控訴人に対して、同条に基づく認知請求権を行使し得る法的地位を取得することを妨げられないと解すべきことは前記2イのとおりである。)。 ところで、前記認定事実のとおり、被控訴人は、本件審判が▲▲▲年▲月▲日に確定したことで、特例法4条1項によって「民法その他の法令の規定の適用について」は、性別が男性から女性に変わったものとみなされたものであるが、控訴人長女がその出生時から有する前記認知請求権を行使し得る法的地位を、被控訴人が本件審判を受けたという自己とは関係のない事情によって失うものとすることは相当ではなく、同条2項は、「性別の取扱いの変更の審判前に生じた身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない」旨を規定していることからすれば、控訴人長女は、現時点においても、その出生時において取得した、生物学的な父子関係を有する被控訴人「父」に対する認知請求権を行使し得る法的地位を有するものと解される。 なお、このように解すると、認知の遡及効(民法784条本文)によって本件審判がされた時点で被控訴人には未成年の子(控訴人長女)がいたことになり、特例法3条1項3号の要件を満たしていなかったことになるが、もともと被控訴人は、本件審判当時、認知をしていなかったものの、前記認定 事実 のとおり、生物学的な父子関係にある控訴人長女が出生していることを認識していたものであって(むしろ、本件審判を得るために、控訴人長女に 人は、本件審判当時、認知をしていなかったものの、前記認定 事実 のとおり、生物学的な父子関係にある控訴人長女が出生していることを認識していたものであって(むしろ、本件審判を得るために、控訴人長女に対する認知を遅らせていたともいえる。)、このことは、本件審判の効力に関して問題となることがあるとしても、控訴人長女の前記認知請求権の行使を妨げるべき理由となるものではないというべきである。 以上のとおり、控訴人長女は、被控訴人に対し、現時点においても、被控 訴人を父とする認知請求権を行使し得る法的地位を有すると解されるから、控訴人長女の本件認知の訴えは理由がある。 4 控訴人二女の被控訴人に対する認知請求権の存否 前記認定事実のとおり、控訴人二女は、被控訴人が、特例法3条に基づき女性への性別の取扱いの変更の審判(本件審判)が確定した▲▲▲年▲月▲日の後に、控訴人ら母との間の子をもうけることを目的として控訴人ら母に対して自己の凍結保存精子を提供し、これを利用した生殖補助医療により懐胎した控訴人ら母から出生した子で、被控訴人との間には生物学的な父子関係があることが認められる。 もっとも、被控訴人は、控訴人二女の出生時において、本件審判により、民法の規定の適用において法律上の性別が「女性」に変更されていたもので、民法787条の「父」であるとは認められないから、控訴人二女と被控訴人との間に生物学的な父子関係が認められるとしても、控訴人二女が、その出生時において、同条に基づいて被控訴人に対する認知請求権(形成権)を行使し得る法的地位を取得したものであるとは認められない。 これに対し、控訴人二女は、特例法4条2項を類推適用することにより、被控訴人に対して認知請求権を行使できる旨を主張するが、そもそも前記のとおり控訴人二女は、本 取得したものであるとは認められない。 これに対し、控訴人二女は、特例法4条2項を類推適用することにより、被控訴人に対して認知請求権を行使できる旨を主張するが、そもそも前記のとおり控訴人二女は、本件審判が確定したことによって、被控訴人が、民法その他の法令の適用について女性として扱われることになった後に出生したものであるから、同項を類推適用する前提を欠いているというほかない。 したがって、控訴人二女の被控訴人に対する認知請求権の行使は、これを認めることができない。 なお、控訴人二女は、民法787条により、被控訴人「母」に対する認知請求権が認められるべきであるとも主張するが、控訴人二女と被控訴人との間に生物学的な母子関係を認めるべき事由はないから、同条に基づいて、被控訴人「母」に対する認知請求権の行使を認めることもできないというほか はない。そうである以上、この点に関する控訴人二女の主張を採用することもできない。 5 結論以上によれば、控訴人長女の認知請求は理由があるから認容し、控訴人二女の同請求は理由がないから棄却すべきところ、これと異なる原判決は、控訴人長女に関する部分について失当であり、その余は相当であるから、控訴人長女の控訴に基づき、控訴人長女に関する部分を取り消した上で同控訴人の認知請求を認容し、控訴人二女の控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第5民事部 裁判長裁判官木納敏和 裁判官菊池憲久 裁判官森剛 久 裁判官森剛
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