- 1 -平成25年6月19日判決言渡平成24年(行ウ)第195号日本国籍不存在確認請求事件 主文 1 原告が日本国籍を有しないことを確認する。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求主文と同旨 2 予備的請求原告が日本国籍を有することを確認する。 第2 事案の概要 1 本件は,日本人の子として出生届が出されて外形的に日本国籍を取得したものの,その後,その日本人の子ではなかった旨の審判が確定した原告が,主位的に,日本国籍を有しないことの確認を,予備的に,日本国籍を有することの確認を,それぞれ求める事案である。 2 前提事実等(証拠及び弁論の全趣旨により認定した事実は当該証拠等を認定部分の末尾に記載する。その余の事実は,当事者間に争いがない。)(1) 日本国籍であるA(昭和▲年▲月▲日生。)と中華人民共和国(以下「中国」という。)国籍であるB(昭和▲年▲月▲日生。)は,平成16年8月6日,中国の方式で婚姻した(甲2)。 (2) Bは,平成▲年▲月▲日,中国福建省福清市で,原告を出産した。 (3) Aは,平成17年3月17日,奈良県大和高田市長に対し,原告をAとBとの間の嫡出子として出生届を提出し,原告はAを筆頭者とする戸籍に入籍した。なお,上記出生届において,原告の日本国籍は留保された(甲1)。 - 2 -(4) AとBは,平成17年9月9日,原告の親権者をBとして協議離婚した。 (5) Bは,平成18年3月16日,日本国籍であるC(昭和▲年▲月▲日生。)と婚姻した。原告は,平成18年8月24日,Cと養子縁組し,同月28日,Cを筆頭者とする戸籍に入籍した。(甲3)(6) (5) Bは,平成18年3月16日,日本国籍であるC(昭和▲年▲月▲日生。)と婚姻した。原告は,平成18年8月24日,Cと養子縁組し,同月28日,Cを筆頭者とする戸籍に入籍した。(甲3)(6) B及びCは,原告の法定代理人として,Aを相手方として,津家庭裁判所伊賀支部に原告とAとの間に親子関係が存在しないことを確認する旨の家事審判法(平成23年法律第61号による廃止前のもの)23条の合意に相当する審判を申し立て(津家庭裁判所伊賀支部平成○年(家イ)第○号),平成23年8月15日,同裁判所は,原告とAとの間に親子関係が存在しないことを確認するとの審判をし,同年9月1日,上記審判は確定して,同月15日,上記確定を消除事由として,Cを筆頭者とする戸籍から原告の記載が全部消除された。 (7) 中国の国籍の取得,喪失及び回復について定める中国国籍法は,3条において,中国公民が二重国籍を有することを認めない旨を,4条において,父母の双方又は一方が中国公民であり,本人が中国で生まれた場合は,中国の国籍を有する旨を,14条において,中国の国籍の取得について,必ず申請の手続を行わなければならない旨を,15条において,国籍の申請を受理する機関について,中国国外では,中国の外交代表機関及び領事機関である旨をそれぞれ定めている(乙3参照)。 3 争点及びこれに対する当事者の主張(1) 国籍不存在確認の訴えの確認の利益の有無(主位的請求に係る本案前の争点)(原告の主張)Bは,中国国籍法の規定に基づき原告が中国国籍を取得するとして,中国領事館に原告の中国国籍取得の申請をしたところ,中国領事館は,原告が日本国籍を有していないことは原告の戸籍消除の記載では足りず,他に日本国 - 3 -籍が存在しないことを証明する公的文書が必要であるとして, の中国国籍取得の申請をしたところ,中国領事館は,原告が日本国籍を有していないことは原告の戸籍消除の記載では足りず,他に日本国 - 3 -籍が存在しないことを証明する公的文書が必要であるとして,上記申請を受け付けなかった。Bは,大阪法務局に,原告が日本国籍を有しないことを証明する公的文書の発行を求めたが,大阪法務局は,上記公的文書の発行を拒絶した。そこで,Bは,中国領事館に問い合わせたところ,中国領事館は,原告が日本国籍を有しない旨の判決があれば,原告が日本国籍を有しないことを証明する公的文書として,原告の中国国籍取得の申請を受け付けると述べた。 したがって,本件の国籍不存在確認の訴えの確認の利益はある。 (被告の主張)ア本件の主位的請求に係る訴えは公法上の法律関係の確認の訴え(実質的当事者訴訟)であり,基本的には私法上の法律関係の確認の訴えと同様,確認の利益が認められることが必要である。すなわち,確認対象として選択した訴訟物が,当事者間の紛争解決にとって有効適切なものでなければならず(確認対象の選択の適否),紛争の成熟性又は即時確定の利益が認められる必要があり(即時解決の必要性),確認の訴えによることが,当事者間の具体的な紛争の解決にとって有効適切なものでなければならない(方法選択の適否)。 イ確認対象の選択の適切性の欠如一般的に,私法上の法律関係の確認の訴えにおいて,その対象は,原則として現在の権利又は法律関係でなければならず,自己の権利の積極的な確認請求ができるときは,原則として自己の権利の積極的確認を求めるべきで,相手方の権利の消極的確認を求めるべきではなく,このことは,公法上の法律関係の確認の訴えにおいても妥当する。 そして,個人が他国の国籍を有することを前提として,「日本国籍を有しないこと」とい ,相手方の権利の消極的確認を求めるべきではなく,このことは,公法上の法律関係の確認の訴えにおいても妥当する。 そして,個人が他国の国籍を有することを前提として,「日本国籍を有しないこと」という消極的な法律関係の確認を求める場合については,我が国の裁判所において,当該個人が日本国籍を有しないことを確認したと - 4 -しても,そのことにより当該個人が当然に他国の国籍を取得することができるものではないから,紛争の解決にとって有効適切なものであるとはいえず,当該他国において,当該他国の国籍を有することの確認をすることが,より直接的かつ抜本的な解決となる。 したがって,当該個人が,真実には日本国籍を有していないにもかかわらず,何らかの理由により日本国籍を有する外観が存在し,かつ,日本国籍の存否について我が国との間に争いがある場合で,我が国との間において日本国籍を有しないことを確認しなければ,重国籍禁止等により他国の国籍を取得することができないなど,「日本国籍を有しないこと」の確認判決を得る特段の必要性が認められるときを除き,そのような消極的確認請求は,原則として確認対象としての適格を欠き,訴えの利益は認められないというべきである。 これを本件についてみると,原告は,Aとの間で親子関係がない旨の審判が確定し,その後,Cの戸籍から消除されているのであるから,現時点において日本国籍を有する外観は存在しないし,生物学上の父親がAであることを原因として原告が日本国籍を取得することがないことは上記審判書及び戸籍上の記載で疎明することが可能であることから,中国国籍法上,出生により中国国籍を取得しているはずの原告が,日本国籍を有しないことの確認を受けなければ中国国籍を取得することができないとする法律上の根拠も明らかではない。また,原告 あることから,中国国籍法上,出生により中国国籍を取得しているはずの原告が,日本国籍を有しないことの確認を受けなければ中国国籍を取得することができないとする法律上の根拠も明らかではない。また,原告が,日本国籍不存在の確認判決を取得した場合に,中国国籍を取得できるか否かも明らかではない。 したがって,本件において,上記特段の事情はなく,「日本国籍を有しないこと」という消極的な法律関係の確認を求める原告の主位的請求は,確認対象としての適格を欠く。 ウ即時解決の必要性の欠如被告は,原告が日本国籍を有していないことについては知らず,これを - 5 -争うものであるが,原告の出生時にBが中国公民であったこと,原告の母がBであること,原告が中国で出生したこと,原告とAとの間に法律上及び生物学上の親子関係が存在しないこと並びに原告がAを父とすることを理由として国籍法2条1号による出生による日本国籍を取得していないことは争わない。 また,原告が,法律上及び生物学上の父親との親子関係を証明するための証拠資料を提出し,これにより,原告が中国国籍を有することが一応裏付けられる場合には,被告は,その事実を積極的に争うものではない。 したがって,その場合には,原告の権利又は法的地位に不安が現に存在しない以上,あえて,原告に日本国籍がないことを確認する利益は存在しない。 エ方法選択の適切性の欠如本件では,原告が中国において中国国籍を有することの確認の訴えを提起することが直接的かつ抜本的な紛争解決に資するのであって,日本の裁判所において,日本国籍不存在確認の訴えを提起することが紛争解決において適切であるとはいえない。 オ以上により,本件の主位的請求に係る訴えには確認の利益がない。 (2) 原告の日本国籍の取得原因の有無(主位的請求 国籍不存在確認の訴えを提起することが紛争解決において適切であるとはいえない。 オ以上により,本件の主位的請求に係る訴えには確認の利益がない。 (2) 原告の日本国籍の取得原因の有無(主位的請求及び予備的請求に係る本案の争点)(被告の主張)原告の日本国籍取得原因の有無については不明である。 (原告の主張)原告には日本国籍の取得原因はない。 第3 当裁判所の判断 1 国籍不存在確認の訴えの確認の利益の有無(主位的請求に係る本案前の争点)について - 6 -(1) 本件の主位的請求に係る訴えは,公法上の当事者訴訟の一類型である公法上の法律関係に関する確認の訴え(行政事件訴訟法4条)である。このような確認の訴えについて訴えの利益(確認の利益)があるといえるためには,原告の権利関係や法律的地位に危険・不安定が現存し,かつ,その危険・不安定を除去する方法として,原告・被告間で当該権利関係や法律的地位の存否について判決をすることが有効適切であることが必要であるというべきである。そして,通常は,自己の法律関係の積極的確認の判決を得ることが,上記の危険・不安定を除去する方法として有効適切といえるが,必ずしも積極的確認の訴えによらなければならないというわけではなく,自己の法律関係の消極的確認を求める訴えについても,そのような判決をすることが上記の危険・不安定を除去する方法として有効適切といえる限り,確認の利益が認められるというべきである。 (2) このような観点から本件の主位的請求に係る訴えを検討するに,前記第2の2(7)記載の中国国籍法の定めによると,中国国籍を有する者の子であり,中国で生まれた原告は,日本国籍を取得していなければ,中国国籍を取得し得ることが認められる。したがって,原告とAとの間の親子関係の不存在を確認する 籍法の定めによると,中国国籍を有する者の子であり,中国で生まれた原告は,日本国籍を取得していなければ,中国国籍を取得し得ることが認められる。したがって,原告とAとの間の親子関係の不存在を確認する審判が確定した(前記第2の2(6))現在,原告は出生によりAを父として日本国籍を取得すること(国籍法2条1号)はないため,原告は,上記中国国籍法に基づき,日本に所在する中国の領事機関等に対して,中国国籍取得の申請をすれば,中国国籍を取得することができるとも考えられる。 しかし,証拠(甲7,乙4から乙7まで)及び弁論の全趣旨によれば,①原告の母Bは,在日中国領事館において,原告の中国国籍取得の申請をしたところ,上記領事館の担当者は,原告の日本国籍の不存在を証明する公的文書があれば申請を受け付けるが,上記公的文書がなければ申請を受け付けないと回答したこと,②日本国籍の証明事務については法務省が所管し,法務局又は地方法務局がこれを分掌しているところ,法務局は,これまで日本国 - 7 -籍を有したことのない外国人から日本国籍を有しないことの証明を求められた場合には,日本国籍を有しない旨を調査することが事実上不可能であることを理由として,上記証明書を発行しない取扱いをしており,Bが中国領事館担当者の上記回答を受けて大阪法務局に対して原告が日本国籍を有しないことの証明を求めた際も,同法務局は,原告が上記「これまで日本国籍を有したことのない外国人」に該当するとして証明書の発行に応じなかったこと,③Bは,大阪法務局の上記対応を受けて,原告訴訟代理人に相談し,同代理人とともに,中国領事館の担当者と数回にわたり交渉し,その間,原告側は,領事館担当者に対し,原告が当初から日本国籍を取得していないことは,前記第2の2(6)記載の戸籍の全部事項証明により裏付けら 理人とともに,中国領事館の担当者と数回にわたり交渉し,その間,原告側は,領事館担当者に対し,原告が当初から日本国籍を取得していないことは,前記第2の2(6)記載の戸籍の全部事項証明により裏付けられているなどと説明したが,領事館担当者は,原告の中国国籍の申請を受け付けるには,別途,原告の日本国籍の不存在を証明する公文書が必要であるとの対応を変えなかったものの,最終的には,原告が日本国籍を有しないことを確認する旨の判決があれば,これを原告の日本国籍の不存在を証明する公的文書として扱い,原告の中国国籍取得申請を受け付ける旨回答したことが,それぞれ認められる。これらの事情に加え,原告は日本国籍を有していないと主張しており,被告がそのことを認めず,争っていること,外国国籍の確認の訴えが我が国の裁判権に服さないため(最高裁昭和24年(オ)第24号同年12月20日第三小法廷判決・民集3巻12号507頁参照),原告が中国国籍を取得するためには中国政府にその取得申請をするよりほかないという状況にあることを併せ考慮すれば,原告の国籍関係という公法上の法律的地位に危険・不安定が現存しており,原告の国籍不存在確認の訴えについての判決をすることが,上記危険・不安定を除去する方法として,有効適切というべきである(なお,中国において中国国籍確認の訴えが訴訟類型として認められているかについては不明であるが,仮にそのような訴訟類型が認められているとしても,原告の法律的地位に現存する危険・不安定を除去する方法としてど - 8 -の程度有効適切かはやはり明らかとはならないため,上記結論を左右しない。)。 (3) したがって,本件において,原告の国籍不存在確認の訴えには,確認の利益があるというべきである。 2 原告の日本国籍取得原因の有無(主位的請求に係る本案の ため,上記結論を左右しない。)。 (3) したがって,本件において,原告の国籍不存在確認の訴えには,確認の利益があるというべきである。 2 原告の日本国籍取得原因の有無(主位的請求に係る本案の争点)について国籍を取得していないとして提起された国籍不存在確認請求訴訟においては,国籍の不存在を争う者が国籍取得原因に当たる事実の主張立証責任を負うと解するのが相当である。 したがって,主位的請求については,被告が原告の日本国籍取得原因を主張立証すべきところ,被告は,原告の日本国籍取得原因に当たる事実を何ら主張,立証しない。 よって,原告には日本国籍取得原因があるとは認められない。 3 結論以上によれば,原告の主位的請求は理由があるのでこれを認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官西田隆裕 裁判官斗谷匡志 裁判官栢分宏和
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