平成25年11月12日判決言渡平成24年(ワ)第14574号地位確認等請求事件 主文 1 原告らが,被告に対し,原告らが訴外a株式会社に出向して同社において勤務する労働契約上の義務が存在しないことを確認する。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを3分し,その1を原告らの,その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主文第1項同旨 2 被告は,原告らに対して自ら又はその従業員を使うなどして,原告らに対して,退職を強要する言動を行い,あるいは,業務上の必要性を欠く出向命令や業務指示を行うなどして,原告らを退職に追い込むような精神的圧迫を加えてはならない。 3(1) 被告は,原告bに対し,220万円及びこれに対する平成24年6月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告は,原告cに対し,220万円及びこれに対する平成24年6月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え第2 当事者の主張等 1 事案の概要本件は,原告らが,被告による2011年(平成23年。以下,年は和暦で表示する。)9月10日付け出向命令(甲9,以下「本件出向命令」という。)について,業務上の必要性及び人選の合理性を欠き原告らに著しい不利益を与えるものである上,原告らに自主退職を促す不当な動機・目的に基づくものであるから出向命令権の濫用として無効であるなどと主張して,被告に対し,本件出向命令に基づく出向先において勤務する労働契約上の義務が存在しない の差止め,並びに労働契約上の信義誠実義務違反及び不法行為に基づく損害賠償請求として,各原告に対し220万円及び訴状に代わる準備書面送達の日の翌日である平成24年6月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合 に労働契約上の信義誠実義務違反及び不法行為に基づく損害賠償請求として,各原告に対し220万円及び訴状に代わる準備書面送達の日の翌日である平成24年6月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案である。 2 前提事実(末尾に証拠の摘示がないものは,当事者間に争いがないか,または当裁判所に顕著な事実である。)(1) 当事者等被告は,デジタル複写機,カラー複写機,印刷機,ファクシミリ,デジタルカメラ等の製造・販売等を業とする株式会社である。 原告bは,昭和60年3月31日,新卒採用者として被告に入社した者であり,原告cは,平成14年3月18日,中途採用者として被告に入社した者である。 (2) 被告における経歴及び労働契約内容ア原告b(ア) 被告における経歴昭和60年 3月入社同年 5月複写技術研究所第一研究開発部平成元年 7月複写機事業部第一設計グループ平成 2年 1月画像技術研究所第三研究グループ平成 4年 1月同研究所第三技術開発センター(主任)平成 7年 1月 FCP事業部技術開発室(係長技師)平成 8年10月同事業部 OF-PT(係長技師)平成13年 5月 C&F第三事業部第五設計室(主席係長技師)平成16年10月 d部設計センター第九設計室(主席係長技師)平成19年 4月同センター第四設計室(スペシャリスト2級) 平成19年10月同センター第一PM室(スペシャリスト2級)平成20年10月同センター PM室(スペシャリスト2級)(イ) 本件出向命令前の労働契約内容期間の定めなし職務内容環境対応業務ほか賃金合計 45万2450円基本給 38万3500円役割テーマ手当 (スペシャリスト2級)(イ) 本件出向命令前の労働契約内容期間の定めなし職務内容環境対応業務ほか賃金合計 45万2450円基本給 38万3500円役割テーマ手当 5万円第2基本給 2700円次世代育成支援給付 1万円派遣手当 6000円持ち株会奨励金 250円(ウ) 主な受賞歴原告bは,平成18年6月,「○」にて社団法人eの発明賞を受賞した。 また,本件出向命令までに,被告社内において,平成13年4月のジュニアパテントマスター賞(登録特許50件以上),平成16年4月のパテントマスター賞(登録特許100件以上)を始めとする複数の個人表彰を受けたほか,複数の団体表彰を受けている。 イ原告c(ア) 被告における経歴平成14年 3月入社画像システム事業本部 PF開発センターソフトウェア生産技術開発室(主席係長)平成16年10月 d部 PF開発センター(主席係長)平成17年 4月同(課長代理) 平成18年 4月同(シニア・スペシャリスト)同年10月同事業本部 GW開発センター開発企画室(シニア・スペシャリスト)平成20年 4月コントローラ開発本部開発戦略センター(シニア・スペシャリスト)平成22年 1月 d部 GW開発センター GW開発推進室(シニア・スペシャリスト)なお,「シニア・スペシャリスト」は,被告における資格制度上の資格の一種であり,職種・職務内容とは無関係である。 (イ) 本件出向命令前の労働契約内容期間の定めなし職務内容機能ロードマップ策定とそのプロセス改善ほか賃金合計 52万7000円基本給 45万7000円役割テーマ手当 6万円役割テーマ手当加算部分 1万円(ウ) 主な受賞歴 職務内容機能ロードマップ策定とそのプロセス改善ほか賃金合計 52万7000円基本給 45万7000円役割テーマ手当 6万円役割テーマ手当加算部分 1万円(ウ) 主な受賞歴原告cは,本件出向命令までに,被告社内において,個人表彰及び団体表彰を各2回ずつ受けている。 ウ原告らの賃金支払条件は,毎月末日締め翌月25日払いであり,毎年7月及び12月に賞与が支給されていた。 (3) 希望退職の募集ア被告は,平成23年5月26日,第17次中期経営計画(以下「第17次中計」という。)を発表し,「販売体制・拠点の見直し」,「不採算事業からの撤退」,「生産拠点の統廃合」などとともに,「人員リソース改革」として,約1万5000人を新規・成長領域等にシフトさせ,グルー プ全体で約1万人の人員削減を行う旨を明らかにした(甲4,乙14)。 イ被告は,同年6月29日,募集人員を被告及び国内のグループ会社で1600人程度,募集期間を平成23年7月1日から同年10月31日(予定),退職日を平成23年8月1日から同年11月30日とするとの内容で,希望退職者を募集する旨を発表し,併せて,被告の従業員に対し,正社員については,退職時の勤続年数が7年以上であって,退職時の満年齢が35歳以上40歳未満の資格SP以下の者,又は退職時の満年齢が40歳以上60歳以下の者を本件希望退職の対象とすること,被告本体の募集人員が500名程度であること,退職条件として退職加算金を出すこと,退職事由を会社都合退職とすること,再就職支援サービスを付与すること等の希望退職の内容を説明する文書を発表した(甲5,6,乙20。以下,この希望退職制度を「本件希望退職」という。)。 ウ原告bは,平成23年7月14日,d部副本部長であったfから,原告cは,同 等の希望退職の内容を説明する文書を発表した(甲5,6,乙20。以下,この希望退職制度を「本件希望退職」という。)。 ウ原告bは,平成23年7月14日,d部副本部長であったfから,原告cは,同月13日,GW開発センター長であったgから,それぞれ本件希望退職に応じるよう勧奨された。上記面談後,原告bは同月21日及び同年8月21日の2回にわたり,原告cは同年7月22日,同年8月10日及び同月17日の3回にわたり,本件希望退職に応じるよう勧奨されたが,原告らは,いずれもこれを断った(原告b,同c,証人f,同g,甲A18,甲B10)(4) 本件出向命令ア被告は,平成23年9月10日付けで,原告らに対し,原告らを被告の子会社であるa株式会社(以下「a」という。)へ出向させる旨の出向命令(本件出向命令)を発した。 イ原告bは,同月14日から,αにあるaの物流センターにおいて商品の梱包,検品,ラベル貼り等の業務に従事し,平成24年2月15日には神奈川県内のh営業所に再配置され,入庫業務(荷受け業務)に従事するよ うになった。現在は,同年8月にh営業所がβの物流センターi内に移動したことに伴い,同センター内において入庫業務(開梱業務)に従事している(原告b,甲A18)。 ウ原告cは,平成23年8月30日,うつ病と診断され,同年9月5日,傷病休暇を申請した。以後,現在まで休職している(甲B10,弁論の全趣旨)。 エ原告らは,いずれも,本件出向命令に伴う降格又は降給はされていない(原告b,弁論の全趣旨)。 (5) 労働審判の申立て及び本件訴訟への移行原告は,平成24年2月21日,原告らがaに出向して同社において勤務する雇用契約上の義務がないことの確認とともに,退職強要行為等の差止め及び損害賠償を求めて労働審判を申し立て 及び本件訴訟への移行原告は,平成24年2月21日,原告らがaに出向して同社において勤務する雇用契約上の義務がないことの確認とともに,退職強要行為等の差止め及び損害賠償を求めて労働審判を申し立てた(以下「本件労働審判」という。)。 労働審判委員会は,3回の審理を経て,同年5月22日,原告らがaに出向して同社において勤務する雇用契約上の義務がないことの確認について認容し,その余の申立てについては棄却した(甲18)。 本件労働審判は,前同日,被告が異議を申し立てたことから,本件訴訟に移行した(顕著事実)。 (6) 被告の就業規則等ア就業規則被告の就業規則(乙1)には,以下の規定がある。 (異動の定義)第13条この規則で異動とは,就業場所の変更,職種・職務の変更のほか派遣,出向,転籍をいう。 (異動)第14条会社は,業務の都合または適材適所の配置を効果的に行なうため,社員の能力・適性に応じ異動を命ずることがある。 2 前項の場合,正当な理由がなければ社員はこれを拒むことはできない。 3 社員をj以外に派遣,出向,転籍させる場合は,人事情報等の個人情報を相手先に提供することがある。 イ国内派遣社員規定(ア) 被告の国内派遣社員規定(乙2)には,以下の規定がある。 (派遣先会社の定義)第2条この規定でいう派遣先会社とは,「共営A1001(関連会社管理規定)」で定める関連会社,及び人事本部長が派遣社員に関する覚え書きを取り交わした会社や外部機関等をいう。 (派遣の定義)第3条派遣とは,jの在籍者としての身分を保有したまま一定期間,派遣先会社に勤務することをいう。 (派遣期間)第6条派遣期間は原則として3年とする。 (勤続年数)第9条勤続年数は派遣期間も含めて通算する。 (イ) の身分を保有したまま一定期間,派遣先会社に勤務することをいう。 (派遣期間)第6条派遣期間は原則として3年とする。 (勤続年数)第9条勤続年数は派遣期間も含めて通算する。 (イ) 国内派遣社員規定には,上記の規定の他,年次有給休暇及び特別休暇の付与(第15条,第16条),給与及び賞与の支給基準及び支給日(第17条),表彰(第24条),福利厚生(第26条ないし第28条)等において被告の基準によること,健康保険,厚生年金保険及び雇用保険は被告において継続加入すること(第20条)が定められている。また,出向者が出向先で一定の地位に就任した場合には,被告から各種の加算手当を支給する旨の規定がある(乙2)。 ウ関連会社管理規定被告は,関連会社管理規定(乙3)において,被告の経営に重大な影響 がある会社として特に重点的に管理を行う会社として,aを含む関連会社六十数社を主要関連会社と定めている。 3 本件の争点(1) 出向命令権の根拠の有無(争点1)(2) (争点1が肯定された場合の)本件出向命令の権利濫用該当性(争点2)ア本件出向命令の業務上の必要性イ本件出向命令における人選の合理性(対象人数,人選基準,人選目的等)ウ本件出向命令が原告らに与える不利益(3) 原告らの損害賠償請求の可否(争点3)(4) 労働契約に付随する信義則又は人格権に基づく差止請求の可否(争点4) 4 当事者の主張(1) 争点1(出向命令権の根拠の有無)について(原告らの主張)出向は労務提供先の変更を伴うものであり,就労環境や労働内容など,労働条件全般が大きく変更することから,採用時の出向に対する包括的同意や就業規則の包括的な出向義務の規定だけでは出向命令権の根拠にならず,労働者の個別具体的な同意が必要というべ 環境や労働内容など,労働条件全般が大きく変更することから,採用時の出向に対する包括的同意や就業規則の包括的な出向義務の規定だけでは出向命令権の根拠にならず,労働者の個別具体的な同意が必要というべきである(民法625条1項,労働契約法3条,8条)。 仮に個別具体的な同意なしに,使用者が一方的に作成する就業規則等によって規律されるとしても,出向に伴い労働者に重大な不利益が生じうることからすれば,単に就業規則等に「出向を命じ得る」などといった抽象的な規定があるだけでは足りず,就業規則等において,出向先での労働条件,処遇,出向期間,復帰条件等に関する規定が整備されるなど,個別具体的な同意に代替しうる程度に明確かつ合理的な規定がなければならない。 本件出向命令は,技術系の社員として長年勤務してきた原告らを個別の同意もなく単純作業を行う現場へ移動させるものであるところ,被告では,原 告らの知る限り技術系の業務から物流の現場作業を行う子会社に出向した例は1件もなく,出向者の不利益に配慮した規定も存在しない。労働者の承認はもちろん,原告らの知る限り被告が労働者と協議を行ったこともなく,出向に関する規定も曖昧である。 したがって,本件出向命令はその根拠を欠き,無効である。 (被告の主張)被告及びその関連会社(以下「被告グループ」ということがある。)では,その企業規模からも,グループ間の出向を行う業務上の必要性は高く,それ故,原告らを含め被告に雇用される正社員については,何ら職種,職務内容について限定することなく採用し,就業規則上,被告が関連会社への出向命令権を有する旨の規定が明確に定められている。加えて,被告では,入社時に労働契約書を締結し,誓約書を取得することで,被告の出向命令権について包括的同意を得ており,原告らについても例外では への出向命令権を有する旨の規定が明確に定められている。加えて,被告では,入社時に労働契約書を締結し,誓約書を取得することで,被告の出向命令権について包括的同意を得ており,原告らについても例外ではない(乙4ないし7)。 また,被告では,就業規則において出向命令権の根拠規定を設けるのみならず,国内の関連会社への出向については,国内派遣社員規定を設け,出向期間,出向後における地位,賃金等の労働条件,処遇に関して,出向者の利益に配慮した具体的な基準を設けており,国内派遣社員規定及び「共営A1001(関連会社管理規定)」において,aが出向先として予定された企業であることが具体的に明記されている上,被告グループでは,これまで頻繁に被告グループ間での出向が行われてきたという従来からの慣行も存在する。 以上に鑑みれば,被告が,原告らに対して,主要関連会社であるaへの出向命令権を有していることは明らかである。 (2) 争点2(本件出向命令の権利濫用該当性)について(原告らの主張)ア本件出向命令の業務上の必要性平成23年6月29日に発表された被告のグループ全体の人員削減計画 は,本件希望退職による人員削減(配転・出向対象者も含む。)1600名(被告単体で500名)及び採用抑制等による自然減1800名の合計3400名であり,これらと別枠で派遣社員や契約社員等(以下,合わせて「外部人材」という。)との置き換え(以下「事業内製化」という。)が予定されていたわけではない。被告は,当初から,人員削減対象者に本件希望退職に応募するよう退職勧奨を行い,応募を拒否する者に対しては,有無を言わせず,グループ内の物流と生産部門に異動させる計画だったのである。 そもそも,上記人員削減の必要性については,決算書上の根拠が全く不明である。仮に必要性が ,応募を拒否する者に対しては,有無を言わせず,グループ内の物流と生産部門に異動させる計画だったのである。 そもそも,上記人員削減の必要性については,決算書上の根拠が全く不明である。仮に必要性があったとしても,本件希望退職の募集の結果,被告グループ全体で2340名(被告単体で752名)が応募し,退職に至ったというのであるから(乙42),人員削減の必要性に基づく出向の必要などなかったことは明らかであるし,自然退職による人員削減も進んでいる。その一方で,被告は,新規採用を抑制していない。 被告グループの売上げと純利益の推移,平成23年度の赤字転落の原因が本件希望退職による割増退職金等の費用と過去の特別損失の一括処理にあること,多額の株式配当の継続,繰り返してきた事業買収,大型スポーツイベント等への出資などの事実に照らせば,被告に人員削減の必要性は認められず,本件出向命令を原告らの意に反して強行する業務上の必要性は全くない。 イ本件出向命令における人選の合理性(対象人数,人選基準,人選目的等)使用者が経営上の理由から人員削減を必要と判断したが,整理解雇の要件を満たさず解雇ができないという場合,出向,配転等の人事異動政策によって経費の削減を目指すとしても,そこには自ずから一定の限界があるというべきであり,出向等を必要最小限にとどめなければならないだけではなく,出向者及び出向先の選定は,労働者の能力や経歴に即して適正か つ合理的に行わなければならない。しかし,本件出向命令は,被告が,本件希望退職に応じなかった者に対し,当人のキャリアや適性に関係なく当初から物流・生産部門へ異動させることを予定したものであり,上記の要素がいずれも欠如している。 原告bは,開発系,技術系の業務において,多くの画期的な発明を行い,かつ有用な特許 や適性に関係なく当初から物流・生産部門へ異動させることを予定したものであり,上記の要素がいずれも欠如している。 原告bは,開発系,技術系の業務において,多くの画期的な発明を行い,かつ有用な特許を取得し,本件出向直前も,PM室において,設計プロセス改善業務,戦略関連業務,環境関連業務などの開発系の業務に携わっていた。原告cも,高いスキル・キャリアを有し,一貫して技術系の業務ないしその関連業務に従事してきており,その間,数々の表彰も受け,上司からも評価されてきた。それにもかかわらず,原告らは,本件出向命令によって,機械的,肉体労働的な倉庫の手合作業に従事することとなったのであり,このような人材配置は,適材適所とは到底いえない。 以上に鑑みれば,本件出向命令における人選には全く合理性がなく,退職勧奨を拒否した者への報復的な人事というほかない。本件出向命令は,退職拒否に対する嫌がらせ・報復という不当な動機・目的に基づくものであるから,出向命令権の濫用として無効である。 ウ本件出向命令が原告らに与える不利益一日中立ったままで行うaにおける業務は,既に50歳を超えている原告bにとっても,十二指腸潰瘍を患ったことがある原告cにとっても,身体的な負担が大きい。 また,原告bは,理工学部を卒業後,被告に技術者として採用され,一貫して開発系・技術系の業務に従事してきたものであり,原告cは,技術者としてのスキル・キャリアを買われて被告に採用され,一貫して技術系の業務に従事してキャリアを形成してきたものである。原告らが,今後も,被告において技術者としてキャリアを形成し生かしていけるとの期待を抱くことは極めて合理的であり,法的保護に価するというべきであるところ, 本件出向後の業務は単純作業又は肉体労働であって,原告らがこれまで積んでき キャリアを形成し生かしていけるとの期待を抱くことは極めて合理的であり,法的保護に価するというべきであるところ, 本件出向後の業務は単純作業又は肉体労働であって,原告らがこれまで積んできたキャリアを生かすことも,今後のキャリアやスキルを形成していくこともおよそ不可能である。 以上より,本件出向命令は,原告らに対し,肉体的に負荷を課し,かつ,キャリアを形成し生かしていけるとの原告らの期待権を侵害するものであって,原告らに大きな不利益を課すものである。 (被告の主張)ア本件出向命令の業務上の必要性被告グループは,同業他社との世界的な競争に晒される中,ペーパーレス化の急激な進行による基盤事業の縮小化,人件費を中心とした固定費の高額化が経営を圧迫し,平成23年度には,昭和49年3月期の連結決算導入以降初めて損益分岐点を下回ることが予想される深刻な経営状況となった。本件出向命令を含む出向命令は,第17次中計に基づく固定費削減施策の一環として,正社員により基幹業務における事業内製化を図る目的で,外部人材が多く存在し,かつ経験やスキルがなくとも比較的容易に従事することができる生産・物流部門への出向を命じたものであり,現に相応の固定費削減効果を生んでいる。 なお,原告は,被告グループが,国内の人員削減施策のうち,本件希望退職によるものと採用抑制等の自然減によるものを当初からそれぞれ別枠で設定していた旨主張するが,事実に反する。被告グループは,あくまで人員削減施策としての目標数約3400名の内訳として,それぞれの想定人員数を割り振っていたにすぎない。また,事業内製化を目的とした配転・出向が,人員削減施策とは別枠で当初より計画されていたことは,例えば「○」と題する資料(乙13)によっても明らかである(ただし,上記配転・出向対象者 たにすぎない。また,事業内製化を目的とした配転・出向が,人員削減施策とは別枠で当初より計画されていたことは,例えば「○」と題する資料(乙13)によっても明らかである(ただし,上記配転・出向対象者が結果的に本件希望退職に応募することは当然にあり,その場合は,人員削減施策の目標数約3400名に吸収されることになる。)。 本件出向等は,人員効率化(人員数の適正化)の結果余剰人員となった者を対象としており,解雇を回避した上で雇用維持・調整を図るための人事権の行使である。あたかも被告が原告らについて整理解雇を実施したかのような原告らの主張は明らかに失当であるし,本件出向命令解除の可能性が否定されない以上(国内派遣社員規定〔乙2〕第6条,第7条,第8条2項参照),事実上の転籍であるとの批判も当たらない。原告らは,本件出向等が退職勧奨に応じさせるための威迫につながるとも主張するが,これは,被告グループの事業活動を支える物流・生産部門やそこでの基幹業務に対する蔑視,偏見にほかならない。 また,原告らは,被告グループの業績,設備投資費及び研究開発費,株式配当,企業買収等から,本件出向命令を行う業務上の必要性がなかったとも主張するが,激しい国際競争で生き残り,企業グループ全体として長期的かつ安定的な経営を継続していくためには,競争力を強化し,企業価値を高めるための積極的な経営戦略も不可欠であり,経費削減施策と同時並行でこれを行うことはむしろ当然である。 昨今の急激な景気後退,経済変動により,深刻な経営環境にある国内企業が雇用調整のための施策を数多く実施していることにも鑑みれば,本件出向命令のように,復帰が予定されていないわけでもなく,かつ,厳しい経営状況の中,激化する国際競争の生き残りをかけてグループ企業全体において緊急的な施策として 多く実施していることにも鑑みれば,本件出向命令のように,復帰が予定されていないわけでもなく,かつ,厳しい経営状況の中,激化する国際競争の生き残りをかけてグループ企業全体において緊急的な施策として実施された雇用維持・調整目的の出向命令は,より一層高度の業務上の必要性が認められるというべきである。 イ本件出向命令における人選の合理性(対象人数,人選基準,人選目的等)被告グループは,事業内製化を目的とした出向命令の対象者を人選するに際し,オペレーションの抜本的見直しによる人員効率化(人員数の適正化)という観点から,各部門一律に,余剰人員となる従業員数を全従業員数(ただし,平成23年4月1日時点で在籍する従業員のうち59歳以上 を除く。)の6%と設定し,パフォーマンスが資格や給与に見合わないほど低く,当該部署における今後の貢献も期待できず,他部署へ配転・出向となっても業務上の支障が特段ない従業員を選別することとして,人事評価,資格,給与,年齢・勤続年数,健康状態,従前の部署での役割・責任の程度,従前の部署での今後の貢献に対する期待度等,諸般の事情を総合勘案して個別具体的に人選を行った。 人選手続においても,まず各部門の部門長が,当該部門のオペレーションの具体的な状況を把握した上で第一次的に人選を行い,その後,被告人事本部において再度諸般の事情を勘案して人選及び配転・出向の具体的内容を最終決定している。 原告らの人選に際し,一事情として考慮された人事評価の最終結果(評語)についても,期初及び期末の面談並びに日常的な労務管理の中で,評価者が,当該従業員の担当業務の内容やその業務遂行状況等を把握した上で評価し,評語を決定していること,特に原告らのみが恣意的かつ不当な評価を受けたような事情はないこと,そもそも評語は人選基準におい 価者が,当該従業員の担当業務の内容やその業務遂行状況等を把握した上で評価し,評語を決定していること,特に原告らのみが恣意的かつ不当な評価を受けたような事情はないこと,そもそも評語は人選基準において考慮される一事情にすぎないことからすれば,何ら人選基準の合理性を減殺するものではない。 本件が整理解雇事案ではなく,雇用維持・調整目的で行われた出向命令の事案であることに鑑みれば,上記人選基準及び人選手続並びに原告らの人選理由には十分な合理性が認められる。 なお,原告らは,技術系の社員として採用された旨主張するが,そのような事実はない(そもそも技術系の社員というものが被告の雇用管理上どこに位置付けられるのかも不明である。)。原告らが本件出向命令以前に従事していた業務も,技術系の業務経験を特段必要としないいわゆるスタッフ業務であった。原告らは,本件出向命令が自主退職を企図したものであり,不当な動機・目的を有したものであるとも主張するが,上記のとお り,本件出向命令は,被告グループ全体において適正人員化を図った結果,余剰人員となった正社員の就業場所を確保し,雇用と賃金を維持した上で,事業内製化により経費削減を行うことを目的としたものであり,何ら不当な動機・目的は存在しない。 ウ本件出向命令が原告らに与える不利益原告らは,少なくとも被告グループ内においては,すでに本件出向命令発令以前の段階で技術者としての第一線から退いており,かつ,将来においてキャリア形成していく可能性も事実上途絶えていた。技術革新の速度が従来と比較にならないほど速まる中,そのような状況は,被告グループにおいて人事上当然に想定されることであり,それ故,正社員については職種を限定することなく採用し,配転・出向により幅広く職種変更することで,雇用と賃金を維持し まる中,そのような状況は,被告グループにおいて人事上当然に想定されることであり,それ故,正社員については職種を限定することなく採用し,配転・出向により幅広く職種変更することで,雇用と賃金を維持してきた。 特に本件出向命令については,被告グループの経営状況がこれまでになく悪化する中で,技術者としての第一線から退き,将来におけるキャリア形成の可能性も事実上途絶えていた正社員の雇用維持・調整を目的として行われたものであるから,それに伴い,原告らのこれまでのキャリアとは異なる職種に変更されたとしてもやむを得ないというべきである。 加えて,原告らは,本件希望退職を利用して相応の退職支援を受けた上で,被告グループ外に転進してこれまでのキャリアを生かし,かつ形成していくという選択肢を選ばず,これまでのキャリアとは異なる職種に変更されるものの,被告グループ内において雇用と賃金が維持されるという選択肢を選んだのであるから,出向後の業務内容や就労環境の変化を考慮してもなお,本件出向命令により被る不利益は,通常甘受すべき程度に留まるものである。 エ小括以上のとおり,本件出向命令は,余剰人員となった正社員の雇用維持・ 調整目的(解雇回避目的)をも有していることから,高度の業務上の必要性が認められ,また,本件出向命令の人選基準及び人選手続,原告らの個別の人選理由いずれも合理的なものであって,原告らが本件出向命令により被る不利益も,通常甘受すべき程度に留まるものである。 よって,本件出向命令は,労働契約法第14条の下,何ら権利濫用には該当せず,有効である。 (3) 争点3(原告らの損害賠償請求の可否)について(原告らの主張)ア退職に追い込む目的で本件出向命令を発したことに対する損害賠償請求使用者が出向命令権を行使するにあたり, 効である。 (3) 争点3(原告らの損害賠償請求の可否)について(原告らの主張)ア退職に追い込む目的で本件出向命令を発したことに対する損害賠償請求使用者が出向命令権を行使するにあたり,業務上の必要性が存しない場合や,他の不当な目的・動機をもってなされたものであるとき,又は労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときは,当該出向命令は権利濫用となり無効になるとともに,それが労働者の人格権を侵害する場合又はキャリア形成の期待権を侵害する場合には,それ自体が不法行為となる。 前記(2)の「(原告らの主張)」のアで述べたとおり,本件出向命令に業務上の必要性は認められない。また,原告らの経歴に鑑みれば,原告らが,被告におけるキャリア形成に期待を抱くことには合理的な理由があるところ,本件出向命令は,原告らがそれまでに培ってきた経験,知識及び技術を全く生かすことのできない職場に原告らを追いやるものであり,原告らのキャリア形成に対する期待権を侵害するものである。 また,本件出向命令は,原告らを退職に追い込むという不当な動機・目的の下,処遇の低下という不利益処分を明言した上で,これまでのキャリアに全く見合わない肉体労働・単純作業に従事させるものであり,原告cについてはうつ病を発症している。 以上によれば,本件出向命令は,原告らの人格権,キャリア形成の期待 権を侵害するものであり,被告は,原告らに対し,民法709条に基づき損害賠償責任を負う。 イ退職強要に対する損害賠償請求労働契約関係における交渉力上の格差に鑑みれば,使用者は,労働者の自由な意思決定を不当に制約するような退職勧奨を行わない義務を負い,そのための最大限の配慮を義務付けられているというべきである。 被告は,原告らが早々に退職の 上の格差に鑑みれば,使用者は,労働者の自由な意思決定を不当に制約するような退職勧奨を行わない義務を負い,そのための最大限の配慮を義務付けられているというべきである。 被告は,原告らが早々に退職の意思がないことを明示したにもかかわらず,その後も複数回の面談を設定して繰り返し退職を求めており,態様において執拗であるばかりか,人事処遇上の不利益をほのめかして不安をあおった。このような過度に心理的圧迫を加える手段は,もはや説得の域を超え,社会通念上の相当性を逸脱して違法である。 よって,被告が原告らに対して行った第2回以降の面談は,いずれも,退職強要として不法行為となり,被告は,原告らに対し,民法709条に基づき損害賠償責任を負う。 ウ損害原告らは,本件出向命令及びそれに先立つ退職勧奨面談において著しい精神的苦痛を被ったほか,原告bは,本件出向命令に基づき,現在まで約2年間もの長期にわたってaにおいて単純作業に従事させられ,原告cは,十二指腸潰瘍の既往歴があるにもかかわらず肉体労働等を示唆され退職を強要されたことにより,精神的に追い詰められてうつ病を発症し,休職を余儀なくされた。 このような原告らの受けた苦痛を慰謝するには,少なくとも,各200万円が必要である。 また,原告らは,弁護士を依頼して訴訟追行することを余儀なくされており,それぞれ20万円の弁護士費用が認められるべきである。 (被告の主張) ア本件出向命令が不法行為等に該当しないこと本件出向命令は,第17次中計の下,事業内製化により外部人材の削減を図り,外部へのキャッシュアウトを抑制するという固定費削減施策としての目的を有するとともに,オペレーションの抜本的見直しによる人員効率化(人員数の適正化)によって余剰人員となった正社員の雇用維持・調整として へのキャッシュアウトを抑制するという固定費削減施策としての目的を有するとともに,オペレーションの抜本的見直しによる人員効率化(人員数の適正化)によって余剰人員となった正社員の雇用維持・調整としての目的をも有している点で,業務上の必要性に基づき,正当な目的の下で行われており,退職に追い込むための威迫として行われたといったような不当な動機・目的は何ら存在しない。 加えて,原告らは,本件出向命令発令以前において,すでに,少なくとも被告グループ内では技術者としての一線を退いており,将来においてキャリア形成ができる可能性は事実上途絶えていた。このことからも,原告らが被告グループ内においてキャリア形成することに対して一定の期待を抱いていたとしても,それは法的保護に値する程度のものとはいえない。 よって,本件出向命令は何ら不法行為等には該当しない。 イ個別面談が不法行為等に該当しないこと本件希望退職に伴って実施された個別面談は,オペレーションの抜本的見直しによる人員効率化(人員数の適正化)によって余剰人員となった正社員について,事業内製化を目的とした配転・出向を行うことにより,雇用及び賃金は確保されるものの,従前のキャリアとは異なる業務に従事することが想定されることから,一方で,本件希望退職を利用し,相応の退職支援を受けた上で,被告グループ外に転進し,これまでのキャリアを活かし,また,将来においてキャリア形成していくという選択肢もあることについて,具体的な検討を促す機会を提供する目的で実施されたものである。 加えて,本件希望退職における退職条件は,一般と比較しても高水準な内容となっており,十分検討に値するものであったこと,個別面談は,約 2か月間に4ないし5回(うち最終回は本件出向命令の内示を目的とした面談)実施したに過ぎず は,一般と比較しても高水準な内容となっており,十分検討に値するものであったこと,個別面談は,約 2か月間に4ないし5回(うち最終回は本件出向命令の内示を目的とした面談)実施したに過ぎず,1回当たりの所要時間も平均30分程度に留まっていること,個別面談時に面談担当者が原告らに対して人格や尊厳を否定するような発言は一切行っていないし,本件出向命令発令後は,原告らに対して退職勧奨と評価されるような行為は行っていないこと等に鑑みれば,退職強要として社会通念上相当と認められる範囲を逸脱したものとは到底いえない。 以上から,原告らに対する個別面談は何ら不法行為等には該当しない。 (4) 争点4(労働契約に付随する信義則又は人格権に基づく差止請求の可否)について(原告らの主張)上記のとおり,被告は,労働契約に付随する信義則に基づき,意に反する退職勧奨を行わない義務を負っているというべきであるが,被告は,原告らに対し,違法な退職強要を実施した。 被告は,極めて長期にわたって原告らの退職を強要する言動を行っており,しかも,団体交渉においてもこれらを撤回せず,さらには今後の原告らの降格降給さえ予告している。これらの事情に鑑みれば,今後も,被告がこれらの退職強要を会社の施策として繰り返す危険性は極めて高いものといわざるを得ない。 よって,原告らは,労働契約上の地位ないし人格権に基づき,原告らの意に反する退職強要の差止めを求める。 (被告の主張)本件希望退職に伴って被告が原告らに行った個別面談は,何ら不法行為等には該当しないから,本件において,退職強要等に関する差止請求権を認めるべき事情も何ら存在しない。 第3 判断 1 争点1(出向命令権の根拠の有無)についてア出向は,労務提供先の変更を伴うものであり,出向 おいて,退職強要等に関する差止請求権を認めるべき事情も何ら存在しない。 第3 判断 1 争点1(出向命令権の根拠の有無)についてア出向は,労務提供先の変更を伴うものであり,出向する労働者が労働条件その他の待遇に関する基準において不利益を被るおそれがあることに鑑みれば,使用者が労働者に出向を命ずるに当たっては,当該労働者の同意その他出向命令を法律上正当とする明確な根拠を要するというべきである。 なお,この点について,原告らは,出向により就労環境等の労働条件全般が大きく変更することを理由に,出向には労働者の個別具体的な同意が必要である旨主張するが,労働者の同意がない場合であっても,これに代わる明確かつ合理的な根拠があれば,使用者には出向命令権があると解すべきであるから,原告らの主張は採用できない。 イそこで,被告に出向命令権があるか否かについて検討するに,被告の就業規則には,業務の都合等により社員の能力や適性に応じた異動(出向を含む。)を命ずる場合がある旨の定めがあり(就業規則第13条,第14条〔乙1〕),国内の関連会社の出向に関する規定である国内派遣社員規定にも,出向先における労働条件及び処遇について配慮する内容の規定が設けられていることは,「第2」の「2 前提事実」の(6)ア及び同イに記載したとおりである。 加えて,原告らと被告との労働契約において,職種や職務内容に関し特段の限定がないこと(乙4,5),原告らは,被告に入社するに際して,就業規則その他服務に関する諸規則を遵守すること,業務上の異動,転勤及び関係会社間異動の命令に従うこと等を約束する誓約書を差し入れていること(乙6,7),国内派遣社員規定及び関連会社管理規定において,aが出向先として予定された企業であることが具体的に明記されていること(前提事実) の命令に従うこと等を約束する誓約書を差し入れていること(乙6,7),国内派遣社員規定及び関連会社管理規定において,aが出向先として予定された企業であることが具体的に明記されていること(前提事実)等も併せ鑑みれば,本件では,労働者の個別の同意に代わる明確かつ合理的な根拠があるというべきである。 したがって,本件出向命令には法律上の根拠があるというべきであり,被告は,原告らに対し,aへの出向を命じる出向命令権があるというべきであ る。この点に関する原告らの主張は採用できない。 2 争点2(本件出向命令の権利濫用該当性)について(1) はじめに出向命令権に法律上の根拠がある場合であっても,使用者は,これを無制約に行使しうるものではなく,出向命令権の行使が権利濫用に当たる場合には,当該出向命令は無効となる(労働契約法14条)。そして,権利濫用に当たるか否かの判断は,出向を命ずる業務上の必要性,人選の合理性(対象人数,人選基準,人選目的等の合理性),出向者である労働者に与える職業上又は生活上の不利益,当該出向命令に至る動機・目的等を勘案して判断すべきである。 (2) 認定事実前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認めることができ,この認定を左右するに足りる証拠はない。 ア被告及びその関連会社の経営状況被告グループは,複写機,複合機を中心とする事務機器の製造,販売及び保守(販売した事務機器に関するメンテナンスのほか,用紙,トナー等の販売を含む。)を基盤事業とし,かかる事業が被告グループの売上の9割程度を占めているが,中でも利益率が高い保守業務が被告グループ全体の利益を支えている。 被告グループは,平成20年の世界同時不況以降のいわゆるペーパーレス化の進行により,売上げ(特に保守業務におけるも を占めているが,中でも利益率が高い保守業務が被告グループ全体の利益を支えている。 被告グループは,平成20年の世界同時不況以降のいわゆるペーパーレス化の進行により,売上げ(特に保守業務におけるもの)の減少,市場の縮小に伴う同業他社との競争激化が予想されたことから,平成20年度以降,経費節減及び新事業の創出を目的とした活動(コーポレート・リストラクチャリング・アンド・グロース・プログラム,以下「CRGP」という。)を展開し,経費節減策として事務用品等の新規購入の抑制,交際費等の抑制,出張の制限,新規の中途採用・外部人材活用の抑制,残業の抑 制等の施策を進めた。その結果,連結販売費及び一般管理費(以下「連結販管費」という。)は,平成21年度が7563億円(前連結会計年度に比べて-3.0%),平成22年度が7298億円(同-3.5%)となり,一定の削減に成功した。 しかし,連結売上高が平成21年度に2兆0163億円(同-3.6%),平成22年度に1兆9420億円(同-3.7%)と,連結販管費の削減幅を超えて減少したのに加え,東日本大震災の発生,米ドル及びユーロに対する大幅な円高等の影響もあり,被告グループでは,平成23年4月時点で,平成23年度の連結売上高が損益分岐点を下回ることが予想される状況となった。 そこで,同業他社と比較して売上高に占める割合が高水準にある固定費の一層の削減が避けられないとして,被告グループでは,人件費を中心にこれまでにない大規模な経費削減施策を講じることとした。 (以上,証人k,乙8ないし11,13,33,34,弁論の全趣旨)イ第17次中計の策定及び発表(ア) 上記のような状況の中で,被告グループは,「体質改造」と「成長」をスローガンとした第17次中計(平成23年度から平成25年度まで ,34,弁論の全趣旨)イ第17次中計の策定及び発表(ア) 上記のような状況の中で,被告グループは,「体質改造」と「成長」をスローガンとした第17次中計(平成23年度から平成25年度までを対象とした経営計画)を策定した(証人k,乙14ないし16)。 (イ) 平成23年3月3日,被告グループの役員及び社員に向けた第17次中計の発表会が外部発表に先駆けて開催された。そこでは,第17次中計の基本方針として, グローバル経営の加 環境経営の加速の4つが示され,「高効率経営の実現」に向けた具体的な施策の一部に,「仕事の見直し,人材配置の見直し」及び「成長分野へのリソースシフト」の2点の人事施策が掲げられていた(乙15)。 なお,後述する第17次中計の具体的内容は,この内部発表会の時点で既に確定していたが(証人k),この発表会において,一般の社員に対し,事業内製化又は人員削減により人件費を削減するとの方針が説明された形跡はない。 (ウ) 同年4月28日,被告のl室は,同日付けで「○」と題する資料を作成し,同日に開催された説明会の参加者に配布した(なお,後述するように,資料の配付先が厳密に制限されていたことからすれば,同説明会は,参加者を一部の幹部に限定し,厳密に情報統制を図った上で開催されたものと推認される。)。 同資料では,効率経営の実現のために体質改造が必要であり,競合他社と比べても売上高に占める比率が高く「連結で見て年平均8.0%,基盤事業で見て年平均8.4%アップ」である固定費の削減が急務である旨,国内外で900億円(販売〔国内〕が販社統廃合効果の刈り取りにより200億円,販売〔国外〕が統合シナジーの最大化により500億円,生産が拠点の統廃合,人員効率化などで100億円,管理・間接が業務廃止・集約 900億円(販売〔国内〕が販社統廃合効果の刈り取りにより200億円,販売〔国外〕が統合シナジーの最大化により500億円,生産が拠点の統廃合,人員効率化などで100億円,管理・間接が業務廃止・集約・効率化により100億円)の固定費削減を目標とすオペ人員再配置(グルー一歩踏み込んだ人員最適化,という人事施策のその概要によれば,「面談を実施し,グループ外へのキャリア転向を検討して頂く」こととされている。 同資料は,配付先をナンバー管理した上で配布されており,二次配布も厳禁とされた。 (以上,乙13)(エ) 同年5月26日,被告は,投資家及び報道各社を招いた会社説明会 において,第17次中計の具体的内容を発表した。そこでは,第17次中計の基本方針のうち, 高効率経営の実現を中心として説明が行われ,「高効率経営の実現」では,将来の成長に向けた投資を行うとともにCRGPの一環として一歩踏み込んだ体質改造を行うこと,人員リソース改革として,人事制度の改革,新規・成長領域等への約1万5000人の人員シフトと並び,グループ全体で約1万人の人員削減を行うこと等が掲げられた(乙14)。 (オ) 同日,被告グループ内部に向けて,被告代表取締役名義で「17次中期経営計画の外部発表について」と題する通達が出された。同通達では,人員リソース改革等が第17次中計の具体的内容として示され,第17次中計で掲げた施策を実現し,成長を維持するために実施する人事役員,理事及び社員1人1人に高い目標へ挑戦高い目標に挑戦可能な人材がさらに活躍できる人事制度高い目標に挑戦できない,又は賃金や資格に見合った成果を発揮できない人材には,成果に見合った相応の処遇とする, 外を問わずより適正な場で仕事をすることを自ら検討してもらう,グル る人事制度高い目標に挑戦できない,又は賃金や資格に見合った成果を発揮できない人材には,成果に見合った相応の処遇とする, 外を問わずより適正な場で仕事をすることを自ら検討してもらう,グループ外への転身を決めた者には十分な支援を行う,と記載されている(乙16)。 (カ) 被告グループでは,固定費削減に向けた人事施策として,3年間で正社員3400名及び外部人材1500名を純粋に削減し,外部人材3500名を事業内製化により置き換えることとし,具体的には,正社員3400名の削減は,本件希望退職の実施及び採用抑制等による自然減によって行うこと,その内訳は,本件希望退職によるものを1600名(うち,被告単体では500名),自然減によるものを1800名とすることとされた。 また,事業内製化を目的とした配転・出向の対象は,オペレーション の見直しにより適正な人員配置を図った結果として余剰人員となった正社員とされ,配転・出向先としては,現に相当数の外部人材を活用し,配転・出向した正社員が早期に戦力化できる業務である生産部門又は物流部門が当てられることとなった。 (以上,証人k,乙42)ウ余剰人員の選定被告の人事本部人事部組織人事グループ(以下「人事グループ」と略称する。)は,平成23年4月時点で在籍する正社員(ただし,59歳以上を除く。)を対象に,被告単体においては6%を目標に,業務効率が資格及び給与に見合わない,又は削減しても業務上支障のない人材を余剰人員として選ぶこととし,CRGP国内重点施策説明会実施後,各部門に対し,各部門一律に6%の割合で余剰人員を選定するよう依頼して,対象者の氏名,所属,役職,資格,年齢,過去2年の人事考課結果及びそれを得点化したもののリストを参考資料として提供し,一次的な人選を各部門の長 各部門一律に6%の割合で余剰人員を選定するよう依頼して,対象者の氏名,所属,役職,資格,年齢,過去2年の人事考課結果及びそれを得点化したもののリストを参考資料として提供し,一次的な人選を各部門の長及び人事担当者に一任した。 その結果,平成23年6月10日までに,余剰人員として,原告らを含む1614名(被告単体から554名)が選ばれ,確定した。 なお,人事グループが余剰人員の割合を6%と設定したの競合他配転・出向先である生産・物流部門が具体的に業務上支障のない余剰人員と想定される割合を勘案したことによる。 (以上,証人k,同f,同g,乙42,乙A5,乙B3)エ本件希望退職の公表及び募集被告は,平成23年6月29日,執行役員による経営意思決定機関であるグループマネジメントコミッティにおいて希望退職者の募集が決定したとして,同日付けで,募集人員を被告及び国内のグループ会社で1600 人程度,募集期間を平成23年7月1日から同年10月31日(予定),退職日を平成23年8月1日から同年11月30日とするとの本件希望退職の概要を発表し,併せて,被告の社員に対し,本件希望退職の対象者の範囲のほか,被告本体の募集人員が500名程度であること,退職条件として退職加算金を出すこと等の本件希望退職の内容を説明する文書を発表した。 本件希望退職には,被告グループ全体で2340名(被告単体で752名)が応募し,本件希望退職により退職した。余剰人員とされた1614名(被告単体から554名)からも,1462名(被告単体から484名)が応募し,同様に退職した。 (以上,前提事実,乙42)オ余剰人員の人選から本件出向命令に至るまで(原告b)(ア) 平成23年4月当時,原告bは,fが所長を務めるd部事業戦略センターの )が応募し,同様に退職した。 (以上,前提事実,乙42)オ余剰人員の人選から本件出向命令に至るまで(原告b)(ア) 平成23年4月当時,原告bは,fが所長を務めるd部事業戦略センターのPM室戦略グループに所属していた。 fは,人事グループから,現在又は将来的に資格に見合ったパフォーマンスが期待できない,削減されても現在の業務に支障がないといった点を考慮して,全体の6%の割合で,d部事業戦略センターにおける余剰人員を人選するよう依頼され,対象者が異動となった場合の業務上の支障の有無,対象者の上司の意見(原告bの受賞歴に対する評価を含む。)及び直近の人事評価の内容を勘案し,余剰人員としてbを含む4名を人選した。 なお,fが原告bの上司となったのは,組織変更により戦略グループがd部事業戦略センターの下に入った平成23年4月以降のことであり,それまで,fは,原告bと仕事上の接点もなく,会話を交わしたこともなかった。 (以上,証人f,乙A5) (イ) 原告bは,平成23年7月7日ころ,fから人事に関する面談として呼出状を交付され,同月14日,fと面談した。fは,原告bに対し,退職金計算書及び再就職支援に関する資料を示しながら,今の仕事を続けられる状況ではなくなったので,本件希望退職に応募してはどうか等と話し,2回目の面談を設定した。 同月21日,2回目の面談が行われ,原告bは,fに対し,本件希望退職に応じる意思はない旨を伝えた。fは,原告bに対し,改めて,被告に残るのであれば意に沿わない仕事になるだろう,生産系の作業的な仕事,物流系の倉庫での仕事,販売系の作業的な仕事に就いてもらうことになる等とし,納得できるように話し合いの場を設けた方がよいと述べて3回目の面談を設定した。 同年8月21日,3回目の面談が行 な仕事,物流系の倉庫での仕事,販売系の作業的な仕事に就いてもらうことになる等とし,納得できるように話し合いの場を設けた方がよいと述べて3回目の面談を設定した。 同年8月21日,3回目の面談が行われ,原告bは,fに対し,本件希望退職に応じる意思はない旨を改めて伝えた。 (以上,原告b本人,証人f,甲8の1ないし3,甲A18)(ウ) 平成23年8月23日,原告bは,fから,同年9月10日付けでaに出向となる旨(本件出向命令)の内示を受けた。 カ余剰人員の人選から本件出向命令に至るまで(原告c)(ア) 平成23年4月当時,原告cは,gが所長を務めるd部GW開発センターのGW開発推進室実用化チームに所属していた。 gは,同年5月ころ,人事グループから,パフォーマンスが資格及び給与に見合わない,抜けても業務に影響がないといった点を考慮してd部GW開発センター(平成23年4月当時の正社員数は246名)における余剰人員を15名程度人選するよう依頼された。gは,部下の各室長に対し,庶務3名を除く人員から,対象者及び対象候補者として合計30名を選ぶよう指示した。 その結果,対象者及び対象候補者として28名が選ばれ,gと各室長 との協議の結果,原告cを含む16名が対象者として選ばれた。 なお,gは,平成22年1月から平成23年3月まで,d部GW開発センターのGW開発推進室室長の地位にあり,原告cの直接の上長であった。 (以上,証人g,乙B3)(イ) 原告cは,平成23年7月13日,gに呼び出され,同人と面談した。gは,原告cに対し,第17次中計の内容を説明した上で,与えられる仕事はなくなったとして,本件希望退職への応募を勧めた。なお,この面談において,gは,出向に関する話を一切しなかった。 同月22日,2回目の面談が行わ ,第17次中計の内容を説明した上で,与えられる仕事はなくなったとして,本件希望退職への応募を勧めた。なお,この面談において,gは,出向に関する話を一切しなかった。 同月22日,2回目の面談が行われ,原告cは,gに対し,本件希望退職に応じる意思はない旨を伝えた。gは,会社として今の場所で仕事を与え続けることはできない,キャリアを生かすのであれば社外に転身した方がよい等とし,退職を前向きに考えるように述べて3回目の面談を設定した。 同年8月10日,3回目の面談が行われ,原告cは,gに対し,本件希望退職に応じる意思はない旨を改めて伝えた。gは,原告cに対し,同人の技術は今のgの下では生かせないとして,他への転身を勧めた。 同月17日,4回目の面談が行われ,原告cは,gに対し,本件希望退職に応じる意思がないことは変わらない旨を伝えた。gは,原告cに対し,被告に残るのであれば生産や物流といったところに出向になり,派遣社員が担当している作業業務になるため処遇は下がる等と話した。 (以上,原告c本人,証人g,甲8の1ないし3,甲B10)(ウ) 平成23年8月24日,原告cは,gから,同年9月10日付けでaに出向となる旨(本件出向命令)の内示を受けた。 (3) 判断上記認定事実に基づき,以下判断する。 ア本件出向命令の業務上の必要性(ア) 平成23年4月当時,被告グループの経営環境が悪化していたこと,競合他社と比較して,被告グループの固定費の割合が高かったことは,認定事実のとおりであり,証拠(証人k,乙11,12)によれば,2兆円規模で売り上げても,税引前利益が450億から570億円程度しか出せない構造となっていた事実を認めることができる。 上記に鑑みれば,固定費削減の具体的な方策の一つとして,作業手順や人員配置を見 兆円規模で売り上げても,税引前利益が450億から570億円程度しか出せない構造となっていた事実を認めることができる。 上記に鑑みれば,固定費削減の具体的な方策の一つとして,作業手順や人員配置を見直し,それによって生じた余剰人員を外部人材と置き換えること(事業内製化)で人件費の抑制を図ろうとすることには,一定の合理性があるというべきである。 (イ) この点,原告は,本件希望退職による人員削減が当初予定されていた1600名(被告単体で500名)を上回り,被告グループ全体で2340名(被告単体で752名)に上ったこと,被告が,採用人数を抑制しつつも新規採用自体は継続していること(証人k),本件出向命令が出された平成23年は連結決算で営業損失を出したものの,営業損失を出したのはその1年のみであり,営業損失計上の原因も,本件希望退職による割増退職金等の費用と過去の特別損失の一括処理にあること(乙11,12),赤字に転落した一方で,新たに事業を買収し,株式配当やスポーツイベント等への出資は継続していたこと(甲27ないし29,乙12)等を挙げ,本件出向命令を行う業務上の必要性はないなどと主張する。 しかし,全体で11万人弱もの従業員を抱える(乙26の32頁)被告グループの人員規模に鑑みれば,純粋に人員を削減する正社員の数として,3年間で3400名を想定すること自体が不合理とまではいえず,本件希望退職によってその人員削減目標が達成できなかった以上,人員削減の必要性はいまだ否定されないというべきである。 また,被告の,企業としての経営判断は,特段の事情がない限り尊重されるべきであるところ,被告の人材採用,事業の買収,会計処理,株式配当及びイベントへの出資については,いずれも,将来の成長又は新事業への投資,株主への利益還元,公器とし ,特段の事情がない限り尊重されるべきであるところ,被告の人材採用,事業の買収,会計処理,株式配当及びイベントへの出資については,いずれも,将来の成長又は新事業への投資,株主への利益還元,公器としての社会貢献活動等であって,被告グループが継続的に成長し,存続していくための経営戦略として明らかに合理性を欠くとはいえない。 (ウ) 上記に加え,事業内製化により,実際に,一定の固定費削減効果が出ていること(乙21,42)も併せ鑑みれば,原告が主張するような諸般の事情を考慮しても,事業内製化による固定費の削減を目的とするものである限りは,本件出向命令に業務上の必要性を認めることができるというべきである。 イ本件出向命令における人選の合理性(対象人数,人選基準,人選目的等)(ア) 認定事実記載のとおり,原告らは,いずれも,人事グループが見積もった「6%」いう割合に沿って,余剰人員として選ばれたものである。 しかし,そもそも,業務上支障のない余剰人員の割合を6%とする客観的,合理的な根拠自体が明らかとはいえない。各部門一律に同じ割合で余剰人員を人選するよう割り振られていることからみても,6%という割合は,事業実績や将来の経営予測に基づくきめ細やかな検討によって算出されたものではなく,競合他社と比較した,売上げに対する人件費率の目標値から機械的にはじき出された数値であることがうかがわれる。 (イ) また,人事グループが掲げた,「業務効率が資格及び給与に見合わない,又は削減しても業務上支障のない人材」という人選基準は,客観的な数値に還元し難い,抽象的な基準というほかないが,人事グループは,余剰人員の人選を各部門の長及び人事担当者にほぼ一任し,各部門によって人選された対象者はそのまま余剰人員と扱い,人事グループと して人事評価, 象的な基準というほかないが,人事グループは,余剰人員の人選を各部門の長及び人事担当者にほぼ一任し,各部門によって人選された対象者はそのまま余剰人員と扱い,人事グループと して人事評価,職歴,年齢等を参照して全体のバランスを調整することはしなかったことがうかがわれる。余剰人員の人選が,人事グループによる依頼後わずか1か月強で終了していること,一般の従業員が第17次中計の大規模な人員削減方針を知った,平成23年5月26日の時点では,既に余剰人員の人選が相当程度進行していたと思われること等も併せ鑑みれば,被告における余剰人員の人選が,基準の合理性,過程の透明性,人選作業の慎重さや緻密さに欠けていたことは否めない。 (ウ) そして,第17次中計の大規模な人員削減方針が公表されたわずか半月後に本件希望退職が発表されたこと,本件希望退職の公表後間もなく,余剰人員とされた従業員の面談が開始され,結果としてその9割近くが本件希望退職に応募し,退職していること,原告らの面談では,その当初から,本件希望退職に基づく退職金の計算結果が具体的に示され,本件希望退職への応募を継続して勧められていること,原告らが断るとさらに面談が重ねられ,f及びgが本件希望退職への応募を数度にわたって勧めた末に本件出向命令が発令されたことは,認定事実記載のとおりである。これらに加え,人選担当者であるf及びgが,本件出向命令の内示に至るまで原告らの具体的な出向先及び業務内容を知らなかったこと等も併せ鑑みれば,余剰人員の人選は,事業内製化を一次的な目的とするものではなく,退職勧奨の対象者を選ぶために行われたものとみるのが相当である。 この点,被告は,余剰人員の人選は事業内製化を目的としたものである旨主張するが,事業内製化のための配転者及び出向者が平成24年9月末 職勧奨の対象者を選ぶために行われたものとみるのが相当である。 この点,被告は,余剰人員の人選は事業内製化を目的としたものである旨主張するが,事業内製化のための配転者及び出向者が平成24年9月末日時点で220名,平成25年2月末日時点で270名に留まっていること(証人k)に鑑みれば,被告が,事業内製化にどれほど重きを置いていたかは疑問であり,その主張はにわかに採用し難い。 ウ原告らに与える職業上又は生活上の不利益,その他 aにおける作業は立ち仕事や単純作業が中心であり,原告ら出向者には個人の机もパソコンも支給されていない(原告b本人,甲A18)。それまで一貫してデスクワークに従事してきた原告らのキャリアや年齢に配慮した異動とはいい難く,原告らにとって,身体的にも精神的にも負担が大きい業務であることが推察される。 また,f及びgとの面談においても,本件希望退職への応募を勧める理由として,生産又は物流の現場への異動の可能性がほのめかされていたこと,原告らと同様に余剰人員として人選され,本件希望退職への応募を断った者(原告らを含め152人)は,全員が出向対象とされ,aを含む生産又は物流の現場への出向を命じられたこと等の事実に鑑みれば,本件出向命令は,退職勧奨を断った原告らが翻意し,自主退職に踏み切ることを期待して行われたものであって,事業内製化はいわば結果にすぎないとみるのが相当である。 (4) 小括以上に鑑みれば,本件出向命令は,事業内製化による固定費の削減を目的とするものとはいい難く,人選の合理性(対象人数,人選基準,人選目的等)を認めることもできない。したがって,原告らの人選基準の一つとされた人事評価の是非を検討するまでもなく,本件出向命令は,人事権の濫用として無効というほかない。この点に関する被告の主張は 人選目的等)を認めることもできない。したがって,原告らの人選基準の一つとされた人事評価の是非を検討するまでもなく,本件出向命令は,人事権の濫用として無効というほかない。この点に関する被告の主張は採用できない。 3 争点3(原告らの損害賠償請求の可否)について(1) 本件出向命令の不法行為該当性ア使用者のした出向命令が人事権の濫用に当たるとしても,そのことから直ちに当該出向命令が不法行為に該当するわけではなく,当該出向命令の内容,発令に至る経緯,労働者が被る不利益の内容及び程度等を勘案して不法行為該当性の有無を判断すべきである。 イ本件出向命令の内容及び発令に至る経緯は,認定事実記載のとおりであ り,aにおける業務内容は,前記のとおり,原告らにとって身体的,精神的負担の大きいものであることは否定できない。 しかし,a自体,半世紀近くの歴史を持つ会社であり,事務機器の製造,販売及び保守を基盤事業とする被告グループの事業を支える主要会社の一つである。原告らが行う業務は,aにおける基幹業務であること,就業場所も東京又は神奈川であり,原告らの自宅からは通勤圏内であること,本件出向命令後,原告らの人事上の職位及び賃金額に変化はないこと,結果として事業内製化の一端を担っていること等も併せ鑑みれば,本件出向命令が不法行為にあたるとはいえない。 よって,この点に関する原告の主張は失当である。 (2) 退職勧奨の不法行為該当性ア退職勧奨は,勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるから,説得活動のための手段及び方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り,使用者による正当な業務行為としてこれを行いうると解するのが相当であるが,使用者の説得活動が,労働者の自発的な退職意思の形成を のための手段及び方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り,使用者による正当な業務行為としてこれを行いうると解するのが相当であるが,使用者の説得活動が,労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるという本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる程度を超えて,当該労働者に対し不当な心理的圧力を加えたり,その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりして,その自由な退職意思の形成を妨げたような場合は,当該退職勧奨行為は,もはやその限度を超えたものとして不法行為を構成するというべきである。 イこれを本件についてみるに,平成23年7月から8月にかけて,原告bは3回にわたってfから,原告cは4回にわたってgから,いずれも面談において本件希望退職への応募を勧められているところ,原告らが本件希望退職への応募に消極的な態度,又は明確な拒絶を示しているにもかかわらず,f及びgは,複数回にわたって面談の機会を設けて勧誘を継続して おり,やや執拗な退職勧奨であったことは否めない。 しかし,本件希望退職に応募した場合には,本来の退職金に加え,原告bについて2000万円の,原告cについて1600万円の退職金上積み措置があったこと,本件希望退職が時限的な制度であったこと等からすれば,f及びgが,複数回にわたって慎重に原告らの意思を確認した方がよいと考えたとしても無理からぬところがある。認定事実記載のとおり,f及びgが,原告らに対し,本件希望退職に応募しない場合には生産や物流の現場で仕事をすることになる等と述べた事実はあるが,f及びgには,出向を命ずる権限も出向先を決める権限もないのであるから,上記発言は,単に,予測される将来の不利益を述べたに過ぎないというべきである。加えて,本件出向命令の内示以降は,現在に至るまで退職勧奨は行わ 出向を命ずる権限も出向先を決める権限もないのであるから,上記発言は,単に,予測される将来の不利益を述べたに過ぎないというべきである。加えて,本件出向命令の内示以降は,現在に至るまで退職勧奨は行われていないことも併せ鑑みれば,平成23年7月から8月にかけての一連の退職勧奨は,説得活動として社会通念上相当と認められる範囲の正当な業務行為であったというべきである。なお,本件出向命令自体が退職勧奨であるとの原告らの主張は,前記(1)イ後段に記載した事情に鑑み,採用の限りではない。 ウしたがって,原告らに生じた損害について検討するまでもなく,原告らの主張は採用できない。 4 労働契約に付随する信義則又は人格権に基づく差止請求の可否(争点4)差止請求は,その前提として,行為が反復継続し,今後もこれが継続するおそれがあることをその要件とするが,証拠(原告b,証人k)及び弁論の全趣旨によれば,f及びgによる面談以外の場で,原告らに対し,退職勧奨が行われた事実はない。 したがって,この点に関する原告の主張は失当である。 第4 結論よって,原告の請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余につ いては理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第11部 裁判官篠原絵理
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