平成28年12月20日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成27年(ワ)第28698号特許権侵害差止請求事件口頭弁論終結日平成28年10月20日判決 原告 デビオファーム・インターナショナル・エス・アー 同訴訟代理人弁護士 大野聖二 大野浩之 木村広行 同訴訟代理人弁理士 松任谷優子 被告 沢井製薬株式会社 同訴訟代理人弁護士 小松陽一郎 藤野睦子 中原明子 同訴訟復代理人弁護士 原悠介 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載1~3の製剤(以下「被告製品」と総称する。)の生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出をしてはならない。 2 被告は,被告製品を廃棄せよ。 第2 事案の概要 本件は,発明の名称を「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」とする特許権を有する原告が,被告に対し,被告製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して,特許法100条1項及び2項に基づく被告製品の生産等の差止め及び廃棄を求める事案である。 1 当事者間に争いのない事実 当事者原告は,医薬品等の製造,販売及び輸出等を業とし,スイス法に準拠して設立された法人である。 被告は,医薬品等の製造,販売,輸入等を業とする株式会社である。 原告の特許権 ア 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その を業とし,スイス法に準拠して設立された法人である。 被告は,医薬品等の製造,販売,輸入等を業とする株式会社である。 原告の特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請求項1に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である。 特許番号第4430229号出願日平成11年2月25日(特願2000-533150号)優先日平成10年2月25日登録日平成21年12月25日イ本件特許権の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」といい,その特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)「 オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であ- 3 -り,緩衝剤の量が,以下の:(a)5×10-5M~1×10-2M(b)5×10-5M~5×10-3M(c)5×10-5M~2×10-3M(d)1×10-4M~2×10-3M,または(e)1×10-4M~5×10-4Mの範囲のモル濃度である,組成物。」ウ本件発明は,以下の構成要件に分説される(以下,それぞれの構成要件を「構成要件A」などという。)A オキサリプラチン,B 有効安定化量の緩衝剤およびC 製薬上許容可能な担体を包含するD 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,E 製薬上許容可能な担体が水であり,F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,G 緩衝 体を包含するD 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,E 製薬上許容可能な担体が水であり,F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,G 緩衝剤の量が,以下の:(a)5×10-5M~1×10-2M(b)5×10-5M~5×10-3M(c)5×10-5M~2×10-3M(d)1×10-4M~2×10-3M,または(e)1×10-4M~5×10-4Mの範囲のモル濃度である,組成物。 エ原告は,本件特許に係る無効審判の手続において,平成26年12月2日付けで訂正請求をした(以下,この訂正請求に係る請求項1記載の発明を「本件訂正発明」という。)。本件訂正発明は,以下の構成要件に分説- 4 -される(下線部は訂正箇所)。なお,この訂正請求については,平成27年7月14日付けでこれを認める審決がされたが,同審決は本件口頭弁論終結時においていまだ確定していない。 A オキサリプラチン,B 有効安定化量の緩衝剤およびC 製薬上許容可能な担体を包含するD 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,E 製薬上許容可能な担体が水であり,F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,G 1)緩衝剤の量が,以下の:(a)5×10-5M~1×10-2M(b)5×10-5M~5×10-3M(c)5×10-5M~2×10-3M(d)1×10-4M~2×10-3M,または(e)1×10-4M~5×10-4Mの範囲のモル濃度である,HpHが3~4.5の範囲の組成物,あるいは (d)1×10-4M~2×10-3M,または(e)1×10-4M~5×10-4Mの範囲のモル濃度である,HpHが3~4.5の範囲の組成物,あるいはI 2)緩衝剤の量が,5×10-5M~1×10-4Mの範囲のモル濃度である,組成物。 被告の行為等ア被告は,被告製品の製造若しくは輸入又は販売をしている。 イ被告製品は,いずれもオキサリプラチン及び水を包含し,構成要件Gの規定するモル濃度の範囲内のシュウ酸が存在しているが,これらのシュウ酸はいずれも外部から添加されたものでない。また,被告製品のpHの値は構成要件Hに規定されている範囲内にある。 2 争点- 5 - 技術的範囲への属否被告は,被告製品が構成要件A,C,D及びEを充足すること並びに被告製品に存在するシュウ酸の量が構成要件G及びIに規定されているモル濃度の範囲内にあることを争っていないから,技術的範囲への属否についての争点は,「有効安定化量の緩衝剤」(構成要件B),「緩衝剤がシュウ酸」(同F)及び「緩衝剤」(同G及びI)の各構成要件充足性となる(なお,前記訂正請求の可否は構成要件充足性に関する判断に影響しない。)。 無効理由の有無被告は,「緩衝剤」にはオキサリプラチン水溶液において分解して生じるすれば,本件特許には次の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)と主張する。なお,後記ア~ウは,本件発明及び本件訂正発明の両発明(以下「本件発明等」という。)に関する無効理由である。 ア国際公開96/04904号公報(以下「乙7の1公報」という。)に記載された発明(以下「乙7発 ,本件発明及び本件訂正発明の両発明(以下「本件発明等」という。)に関する無効理由である。 ア国際公開96/04904号公報(以下「乙7の1公報」という。)に記載された発明(以下「乙7発明」という。)に基づく新規性又は進歩性欠如イ米国特許第5716988号公報(以下「乙9公報」という。)に記載された発明(以下「乙9発明」という。)に基づく進歩性欠如ウ実施可能要件(特許法36条4項1号)及びサポート要件(同条6項1号)違反 3 争点に関する当事者の主張 (同F)及び「緩衝剤」(同G及びI)の充足性)について(原告の主張)- 6 -本件発明は「包含」される「緩衝剤の量」が規定されているのみであり,特許請求の範囲には「添加」という文言は記載されていないこと,シュウ酸はオキサリプラチン水溶液中に存在すれば足り,添加したものであっても,自然に生成したものであっても,その効果は変わらないこと(本件明細書の段落【0022】,【0023】,【0064】の【表8】,【0065】の【表9】,【0074】の【表14】,【0076】の【表15】等)などからすれば,本件発明における緩衝剤としてのシュウ酸とはオキサリプラチン水溶液に包含される全てのシュウ酸をいい,外部から添加したシュウ酸のみならず,オキサリプラチン水溶液において分解して生じるシュウ酸も含まれると解すべきである。そして,被告製品は,いずれも構成要件G及びIに規定されているモル濃度の範囲内にあるシュウ酸を含んでいるから,構成要件B,F,G及びIを充足する。 (被告の主張)本件特許権の請求項1,10~12の文言や本件明細書の記載などからすれば,本件発明における「緩衝剤」とはオキサリプラチン水溶液に添加されたものをいうと解すべきである 足する。 (被告の主張)本件特許権の請求項1,10~12の文言や本件明細書の記載などからすれば,本件発明における「緩衝剤」とはオキサリプラチン水溶液に添加されたものをいうと解すべきである。専門家の各意見(乙8の1,16の1~3,26,27,32,33の1・2)もこの解釈を裏付けている。そうすると,被告製品には緩衝剤としてシュウ酸が添加されていないから,構成要件B,F,G及びIを充足しない。 ア乙7発明に基づく新規性又は進歩性欠如(被告の主張)本件特許の優先日前に頒布された乙7の1公報(なお,特表平10-508289号公報(以下「乙7の2公報」という。)は乙7の1公報に対応する日本の公表特許公報であるから,以下では乙7の2公報の請求項及び頁番号を引用する。)の記載(【特許請求の範囲】請求項1,4頁,6- 7 -~8頁)及び乙7の1公報の追試結果(乙11の3,12の2,13,15の1・2,21の1・2,22,29,31)を総合すれば,乙7の1公報には構成要件Gの規定する範囲内のモル濃度であるシュウ酸を含有したオキサリプラチン水溶液が開示されているということができる。したがって,本件発明等は,乙7発明と同一であるから,新規性を欠く。 仮に,上記各追試結果が乙7の1公報の正確な再現ということができず,本件発明等が緩衝剤のモル濃度の範囲を規定している(構成要件G)のに対し,乙7発明におけるシュウ酸のモル濃度が不明な点で相違するとしても,上記各追試結果におけるオキサリプラチン水溶液中のシュウ酸の濃度は構成要件Gの範囲内である。そして,乙7の1公報の記載及び本件特許の優先日当時の技術常識に基づきオキサリプラチンの濃度を変えるなどして上記オキサリプラチン溶液を調製すること及びそのシュウ酸の濃度を測定す 件Gの範囲内である。そして,乙7の1公報の記載及び本件特許の優先日当時の技術常識に基づきオキサリプラチンの濃度を変えるなどして上記オキサリプラチン溶液を調製すること及びそのシュウ酸の濃度を測定することは容易であるから,本件発明等は進歩性を欠く。 (原告の主張)乙7の1公報には不純物の総量が開示されているのみであり(乙7の2公報の8頁の表),シュウ酸の含有量の記載は一切ない。被告が提出する追試結果は,構成要件Gが規定するシュウ酸の濃度範囲を下回るもの,オキサリプラチンの濃度が乙7の1公報の実施例と異なるもの又は乙7の1公報の実施例と異なる実験条件で行われたものであるから,いずれも正確な再現になっていない。また,乙7の1公報では不純物の主要なものはシュウ酸とされており(乙7の2公報の7頁),これが緩衝剤として認識されることはない。したがって,本件発明等は,乙7発明と同一ではないから,新規性を有する。 乙7発明はオキサリプラチン水溶液の製剤をオキサリプラチンの濃度,pH,安定性等で規定した発明であって,シュウ酸を不要な不純物としている発明であるのに対し,本件発明等は,オキサリプラチン水溶液の製剤- 8 -を含有されるシュウ酸,安定性等で規定した発明であって,シュウ酸の量によって安定性を実現した発明であり,乙7発明とは技術思想が異なるから,進歩性を有する。 イ乙9発明に基づく進歩性欠如(被告の主張)本件特許の優先日前に頒布された乙9公報にはシュウ酸を添加していないオキサリプラチン水溶液に関する発明(乙9発明)が記載されているところ,客観的に自然発生する不純物(主たるものはシュウ酸)の総量より少ない範囲でシュウ酸の量を限定することは格別困難でないから,本件発明等は乙7発明に基づいて容易に発明することができ 載されているところ,客観的に自然発生する不純物(主たるものはシュウ酸)の総量より少ない範囲でシュウ酸の量を限定することは格別困難でないから,本件発明等は乙7発明に基づいて容易に発明することができる。 (原告の主張)乙9公報は,乙7発明の米国出願に係るものであり,前記ア(原告の主張)と同様に,本件発明等とは技術思想が異なる。 ウ実施可能要件及びサポート要件違反(被告の主張)オキサリプラチン水溶液から時間の経過によって自然に生成し変化するシュウ酸の量を発明特定事項として「有効安定化量のシュウ酸」を数値限定することは不可能である。また,本件明細書においては,シュウ酸を添加していない例は比較例である「18(b)」のみであり,しかもシュウ酸の量について記載がなく,そもそもシュウ酸を添加しない場合におけるシュウ酸の濃度の調整方法については一切開示されていない。したがって,本件発明等は実施可能要件及びサポート要件に違反する。 (原告の主張)本件発明等ではシュウ酸の含有量が数値として規定されており,実施することが可能であるから,実施可能要件に反していない。 また,本件明細書の記載からすれば,本件発明等の「緩衝剤」にオキサ- 9 -リプラチン水溶液から自然に生成するシュウ酸が含まれることは明らか(原告の主張)),サポート要件を満たしている。 第3 当裁判所の判断原告は,本件発明等における「緩衝剤」の意義につき,外部から添加したシュウ酸のみならず,オキサリプラチン水溶液において分解して生じるシュウ酸も含まれると主張する。この主張を採用することができなければ,被告製品は本件発明等の技術的範囲に属しないことになる。他方,原告の上記主張を前提とした場合に本件特許に無効理由があるとすれば,原告の請求は棄却される 主張する。この主張を採用することができなければ,被告製品は本件発明等の技術的範囲に属しないことになる。他方,原告の上記主張を前提とした場合に本件特許に無効理由があるとすれば,原告の請求は棄却されるべきものとなる。そこで,まず,無効理由の有無について検討する。 (乙7発明に基づく新規性又は進歩性欠如)について 乙7発明に基づく新規性欠如についてア本件特許の優先日前に頒布された乙7の1公報の記載(乙7の2公報の【特許請求の範囲】請求項1,6~8頁)によれば,乙7発明は,濃度が1~5mg/mlのオキサリプラチン,水及びシュウ酸を包含するpHが4.5~6の安定オキサリプラチン溶液組成物であることが認められる。 本件発明等と上記の乙7発明を対比すると,シュウ酸の量につき,本件発明等が構成要件Gに規定するモル濃度の範囲としているのに対し,乙7発明がこれを特定していない点で相違するから,本件発明等は乙7発明との関係で新規性を有するものと認められる。 イこれに対し,被告は,乙7の1公報の追試結果によれば,乙7発明におけるシュウ酸のモル濃度は構成要件Gに規定するモル濃度の範囲内にある旨主張する。 そこで判断するに,乙7の1公報の実施例は水溶液の調製条件としてオキサリプラチンの濃度を2mg/mlとしているところ(乙7の2公報6頁4行目),オキサリプラチンの濃度はオキサリプラチン水溶液から自然に生成するシュウ酸のモル濃度に影響するものと解されるから,被告が提- 10 -出する追試結果のうちオキサリプラチンの濃度を5mg/mlとしているもの(乙11の3,15の1・2及び22のうちオキサリオプラチンの濃度を5mg/mlとするもの,21の1・2,29)は正確な再現結果とはいい難い。 次に,オキサリプラチンの濃度を2mg/mlとして もの(乙11の3,15の1・2及び22のうちオキサリオプラチンの濃度を5mg/mlとするもの,21の1・2,29)は正確な再現結果とはいい難い。 次に,オキサリプラチンの濃度を2mg/mlとしている追試結果(乙13,31)については,乙7の1公報の実施例の調整条件と比較すると,乙13の追試についてはオートクレーブ処理を行っている点,出発原料のオキサリプラチンの製造会社が異なる点,水溶液をガラスバイアル中に無菌的に充填しているとは認められない点で,乙31の追試についてはオキサリプラチン水溶液の容器へ充填する際に不活性雰囲気中で行っていない点でそれぞれ相違しており,これら調整条件の相違が不純物(シュウ酸もこれに含まれる。)の発生量等に全く影響しないとは考え難い。これらのことからすれば,オキサリプラチンの濃度を2mg/mlとする追試結果についても正確な再現結果ということはできない。 なお,被告が提出する追試結果にはオキサリプラチン水溶液のシュウ酸のモル濃度が構成要件Gの下限を下回るもの(乙12の2,15の1・2及び22のうちオキサリプラチンの濃度を2mg/mlとするもの,31の一部)も含まれるが,これらが新規性欠如を裏付ける追試結果とならないことは明らかである。 したがって,被告が提出する追試結果に基づいて乙7の1公報に本件発明等のオキサリプラチン溶液組成物の記載があると認めることはできない。 乙7発明に基づく進歩性欠如についてアと乙7発明は,オキサリプラチン水溶液に包含されるシュウ酸の量につき,本件発明等が構成要件Gに規定するモル濃度の範囲としているのに対し,乙7発明がこれを特定してい- 11 -ない点で相違するので,以下,乙7発明に接した当業者において上記相違点に係る構成に至ることが容易か否かについて検討 定するモル濃度の範囲としているのに対し,乙7発明がこれを特定してい- 11 -ない点で相違するので,以下,乙7発明に接した当業者において上記相違点に係る構成に至ることが容易か否かについて検討する。 イ後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 オキサリプラチンの濃度を5mg/mlとするオキサリプラチン水溶液を,シュウ酸を添加することなく,乙7の1公報に記載された容器,容量,撹拌速度,温度等の条件に準じて調製し(ただし,バイアルの表面処理の有無,栓のコーティングの有無,容器内への窒素充填の有無等の調整条件の一部が異なる。),最長で13週間保管した後,これに含まれるシュウ酸のモル濃度を測定した結果,構成要件Gに規定する範囲内(5~14.4×10-5M)のシュウ酸が検出された。(甲19,乙11の3,15の1・2,21の1・2,22,29) と同様に,オキサリプラチンの濃度を2mg/mlとするオキサリオプラチン水溶液を調製してシュウ酸のモル濃度を測定した結果,構成要件Gに規定する範囲内にあったもの(乙13,31の一部)と,範囲外であったもの(乙12の2,乙15の1・2,22,31の一部)があった。 乙7の1公報には,「クロマトグラムのピークの分析は,不純物の含量と百分率の測定を可能にし,そのうち主要なものは蓚酸であると同定した」として,乙7発明のオキサリプラチン水溶液中のシュウ酸の濃度を測定した旨記載されている(乙7の2公報7頁16~17行)。(乙7の1・2)ウ上記イ濃度を5mg/mlとしたオキサリプラチン水溶液を乙7の1公報に記載された条件に準じて調製すれば,調製条件に多少の差異があったとしても,構成要件Gに規定するモル濃度の範囲内のシュウ酸を含有するオキサリプラチン溶液 lとしたオキサリプラチン水溶液を乙7の1公報に記載された条件に準じて調製すれば,調製条件に多少の差異があったとしても,構成要件Gに規定するモル濃度の範囲内のシュウ酸を含有するオキサリプラチン溶液組成物が生成されると認められる。そして,乙7発明にお- 12 -けるオキサリプラチンの濃度が1~5mg/mlの範囲に設定されていることついてシュウ酸の濃度が測定されていたこと(上記イからすれば,オキサリプラチンの濃度を5mg/mlとするオキサリプラチン水溶液を調製してこのシュウ酸の濃度を測定することは当業者にとって容易であるということができる。また,上のモル濃度を構成要件Gに規定されている範囲内とすることが格別困難であるとはうかがわれない。さらに,本件明細書の記載上,緩衝剤の濃度を上記範囲とすることに何らかの臨界的意義があるとは認められない。 そうすると,乙7発明に接した当業者がオキサリプラチンの濃度を5mg/mlとしたオキサリプラチン水溶液を調製し,そのシュウ酸のモル濃度を構成要件Gに規定する範囲内のものとすること,すなわち本件発明等と乙7発明の相違点に係る構成に至ることは容易であったというべきである。したがって,本件発明等は進歩性を欠くものと認められる。 エこれに対し,原告は,乙7発明はシュウ酸を不要な不純物としている発明であるのに対し,本件発明等はシュウ酸の量によって安定性を実現した発明であり,技術思想が異なるから進歩性は否定されない旨主張する。 を包含したオキサリプラチン水溶液と認定することができるのであり,本件発明等のシュウ酸は水溶液中で分解したもので足りるという原告の主張を前提とする限り,本件発明等と乙7発明はシュウ酸を包含するという構成を備えた組成物(オキサリプラチン水溶液)であるという点で一致しているか シュウ酸は水溶液中で分解したもので足りるという原告の主張を前提とする限り,本件発明等と乙7発明はシュウ酸を包含するという構成を備えた組成物(オキサリプラチン水溶液)であるという点で一致しているから,乙7発明の発明者がシュウ酸を不純物と認識していたことは本件発明等の進歩性の判断に影響しないというべきである。また,乙7の1公報においてシュウ酸が不要な不純物とされている点は,シュウ酸を添加することを要する発明に至る上では阻害要因となるとしても,シュウ酸- 13 -の添加を不要とみる以上は本件において阻害要因となるものでない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 2 結論よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川浩二 裁判官萩原孝基 裁判官中嶋邦人 - 14 -別紙被告製品目録 1 オキサリプラチン点滴静注液50mg「サワイ」 2 オキサリプラチン点滴静注液100mg「サワイ」 3 オキサリプラチン点滴静注液200mg「サワイ」
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