平成29年8月4日宣告東京高等裁判所第11刑事部判決平成28年(う)第414号業務上横領被告事件主文 原判決中被告人A1及び同A3に関する部分並びに同A2に関する有罪部分を破棄する。 被告人らはいずれも無罪。 理由 第1 控訴趣意等被告人らの本件控訴の趣意は,弁護人宮本英治(被告人A1(主任),被告人A2,被告人A3),同伊東正(被告人A1,被告人A2(主任)),同松村眞理子(被告人A3(主任))ら作成の控訴趣意書及び弁論要旨に記載されたとおりであり,論旨は,理由不備・理由齟齬,訴訟手続の法令違反,事実誤認,法令適用の誤り及び量刑不当の主張であり,これに対する検察官の答弁は,検察官松山佳弘作成の答弁書及び弁論要旨に記載されたとおりである。 第2 原判示各事実の概要並びに弁護人の訴訟手続の法令違反及び事実誤認の論旨(以下,略称及び略語については,当審において別に定めたほかは原判決の例による。)原判決は,罪となるべき事実として,要旨,「被告人A1は企業合併に関するコンサルティング等を目的とするC1社及びC2社の各代表取締役,被告人A2はC1社取締役,被告人A3はC 1社従業員兼C2社取締役であるが,被告人ら3名は,C1社がC3社との間で締結したコンサルタント顧問契約に基づき,C3社の出納経理及びC3社名義の銀行預金口座の出納等の業務に従事し,C3社の銀行預金を業務上預かり保管中,第1,被告人A1及び同A3は,その一部を,ほしいままに,C1社の資金等に流用しようと考え,共謀の上,平成22年7月2日,当時のC1社事務所に設置されたC3社管理部において,情を知らないD1をして,インターネットバンキングシステムを介して,株式会社E1銀行F1支店に開設され ようと考え,共謀の上,平成22年7月2日,当時のC1社事務所に設置されたC3社管理部において,情を知らないD1をして,インターネットバンキングシステムを介して,株式会社E1銀行F1支店に開設されたC3社名義の普通預金口座(以下,「C3社E1銀行F1支店口座」という。)から,本件C2社口座に1億円を振込送金させ,第2,被告人3名は,その一部を,ほしいままに,C1社の資金等に流用しようと考え,共謀の上,平成22年10月4日,E1銀行F2支店において,情を知らないD2をして,同支店に開設されたC3社名義の普通預金口座(以下「C3社E1銀行F2支店口座」という。)から,本件C2社口座に2億8000万円を振込送金させ,もってそれぞれ横領した」という事実を認定した。 これに対し弁護人らは,要旨,本件に関連する資金移動は,C3社の当時の代表取締役であったD3の同意・承諾を得た正常な取引行為であって,横領行為には該当しないから,被告人らはいずれも無罪であるのに,原判示第1について,D3の承諾があることを認めながら,全体的考察を行って,被告人A1及び同A3 に不法領得の意思があったとして業務上横領罪を認定し,原判示第2についても,全体的考察を踏まえて,被告人ら3名に不法領得の意思があったとして業務上横領罪を認定した原判決には,当事者が争点としていなかった全体的考察を行って,被告人らの不法領得の意思を認めた点で,被告人らに対する違法な不意打ちであり,しかも,被告人らに不法領得の意思があると認めた事実認定も論理則,経験則等に反する不合理なものであるから,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反及び事実誤認がある旨主張する。 当裁判所は,原審記録を調査し,当審で取り調べた証拠を併せ考慮した結果,控訴趣意中,訴訟手続の法令違 るから,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反及び事実誤認がある旨主張する。 当裁判所は,原審記録を調査し,当審で取り調べた証拠を併せ考慮した結果,控訴趣意中,訴訟手続の法令違反及び事実誤認の論旨について理由があり,被告人らはいずれも無罪であるから,その余の控訴趣意について判断するまでもなく,原判決は破棄されるべきであるとの結論に達した。以下,その理由を説明する。 第3 原判決の判断 1 争点原審においては,①平成22年7月2日に行われたC3社E1銀行F1支店口座から本件C2社口座への本件1億円の送金及び②同年10月4日に行われたC3社E1銀行F2支店口座から本件C2社口座への本件2.8億円の送金が,被告人3名による横領行為と評価できるか否かが争点となり,原審検察官は,信用できるD3供述によれば,本件各送金については,D3の承諾がな いことが明らかであるから,被告人らには横領罪が成立すると主張した。これに対し,原審弁護人は,D3供述は信用できず,本件各送金については,D3の指示又は承諾があったから無罪であると主張したが,原判決は,委託者の承諾がないこと等は横領罪の成否において成立に傾きやすい重要な事情ではあるものの,それは判断ないし評価事情の一つに過ぎず,結局は,当該行為が受託者の不法領得の意思を実現する行為と評価できるか否かを直截に問題とすべきであるとした。そして,原判決は,まず全体的考察を行った上で本件各送金について検討し,本件1億円については,送金についてD3の承諾はあったものの,それは被告人らの詐欺的手段に基づくものであり,また,本件2.8億円については,送金についてD3の承諾はなく,いずれについても,被告人らがC1社の資金等に流用する意図をもってなされたものであるから,横領罪が成立する 欺的手段に基づくものであり,また,本件2.8億円については,送金についてD3の承諾はなく,いずれについても,被告人らがC1社の資金等に流用する意図をもってなされたものであるから,横領罪が成立するとした。原判決の判断の要旨は次のとおりである。 2 前提事実原判決は,本件の前提事実として,大要,以下の各事実を認定した。 本件1億円の資金移動についてア C2社設立の経緯C2社は,平成21年7月,C3社の収益を増加させるための学校法人M&A等の投資を行うための会社であるという前提で, D3が資本金1億円の全てを出資して設立された(なお,被告人A1は,平成22年7月20日に2000万円,平成23年1月11日に9000万円を出資し,過半数の株式を取得するに至っている)。 イ C3社からC2社への2億円の拠出被告人ら及びD3は,C3社からC2社に2億円の資金を移動する目的で,平成21年9月29日,C3社E1銀行F1支店口座から同支店のI機構名義及びJ協会名義の各口座に各1億5000万円を送金し,平成22年3月31日,I機構名義及びJ協会名義の各口座からC2社に各1億円を送金した。 ウ C2社からJ協会及び関連法人からC3社への資金移動平成22年6月28日,C2社からJ協会に1億円が送金され,同月29日,J協会から1億3500万円,I機構から4500万円が,それぞれC3社E1銀行F1支店口座に送金された。 エ C3社からC2社への本件1億円の送金平成22年7月2日,E2銀行F3支店,E3銀行F4支店及びE4銀行F5支店の各C3社名義の口座から合計1億2355万0898円がC3社E1銀行F1支店口座に送金され,同口座から本件C2社口座に本件1億円が送金された。本件1億円の送金は,D1が被告人A3の 4銀行F5支店の各C3社名義の口座から合計1億2355万0898円がC3社E1銀行F1支店口座に送金され,同口座から本件C2社口座に本件1億円が送金された。本件1億円の送金は,D1が被告人A3の指示により,当時のC1社事務所に設置されたC3社管理部のパーソナルコンピュータを使って,インターネットを介したネットバンキングシステムによって送金手続 をした。 オ本件1億円の送金後の資金移動状況平成22年7月16日,本件C2社口座から5000万円が出金され,そのうち3001万円がE1銀行F1支店のC4社名義の口座に,1999万円がE1銀行F10支店の被告人A1名義の口座にそれぞれ入金された。 同月20日,被告人A1は,同口座からC2社E1銀行F1支店口座に2000万円を送金して同社の増資に充て,C2社の株式400株の割り当てを受けた。 また,同月26日,E1銀行F1支店のC4社名義の口座からE5銀行F6支店の同社名義の口座に3001万円が送金され,その後,C4社からC1社に送金あるいは貸し付けられ,さらにC1社から被告人A1や同A2らに貸し付けられるなどした。 C3社からC2社への本件2.8億円の資金移動等平成22年10月1日午後1時頃,C3社G支店営業部のD4は,被告人A3からの電話で,D3の代理で電話していると告げられ,同日午後2時までに資金移動するよう依頼され,E6信金F7支店のC3社名義の口座からC3社E1銀行F2支店口座に3億5000万円を送金した。同月4日,D2は,E1銀行F2支店において,振込依頼書を記載して,同口座から本件C2社口座に本件2.8億円を送金した。 C1社への合計7億6000万円の資金移動 ア平成23年3月期の3.8億円の資金移動平成23年3月3日,本件C2 頼書を記載して,同口座から本件C2社口座に本件2.8億円を送金した。 C1社への合計7億6000万円の資金移動 ア平成23年3月期の3.8億円の資金移動平成23年3月3日,本件C2社口座とE1銀行F1支店のC2社名義の口座から,E7銀行F8支店のC2社名義の口座を通して,合計3億円がE8銀行F9支店のC3社名義の口座に送金され,同口座からE7銀行F8支店のC1社名義の口座(以下「C1社E7銀行口座」という。)に3億円が送金された。さらに,同月23日から24日,同口座からE5銀行F6支店のC4社名義の口座,E7銀行F8支店のC2社名義の口座,E7銀行F8支店のC3社名義の口座を順次経由して,元のC1社E7銀行口座に8000万円が送金された。 上記3.8億円の資金移動に関し,C3社からC1社に対し,当時一般社団法人H協会という名称であった同法人の公益法人化等の業務を委託し,公益法人化に対する成功報酬等を支払う内容の平成21年8月1日付けFA契約書,それを改める平成22年4月1日付けのFA契約書及び覚書3通が作成された。 イ平成24年3月期の3.8億円の資金移動平成23年4月以降においても,C3社からC1社に対し,別途のFA契約に基づき,同年11月に2億円,同年12月に8000万円,平成24年1月に1億円の報酬が支払われた。 C3社の銀行口座及び銀行届出印の管理状況ア C3社は,東京においては,主要取引銀行のE1銀行F1支店のほか,E4銀行F5支店,E5銀行F6支店及びE8銀行F9 支店にそれぞれ口座を開設していたが,平成22年8月18日にD1がE1銀行F2支店において,平成23年3月23日にD2がE7銀行F8支店において,それぞれC3社名義の口座を開設した。 イ C3社では,実印と銀行届出印を一つ いたが,平成22年8月18日にD1がE1銀行F2支店において,平成23年3月23日にD2がE7銀行F8支店において,それぞれC3社名義の口座を開設した。 イ C3社では,実印と銀行届出印を一つの印鑑で兼ね,これをD3が管理していたが,平成22年6月又は7月頃からは,D1が管理部において管理するようになった。そして,その後,前記各銀行及びC3社の各支店が利用する銀行の届出印は,平成23年2月16日にC1社従業員により注文されたC3社名義の新たな印に順次変更された。 3 全体的考察次に,原判決は,全体的考察として,要旨,次のとおり判断した。 本件に関連する一連の資金移動を見ると,C3社の資金が,結局において,被告人A1やC1社に移動したことが窺われるだけでなく,本件各送金に加え,平成24年3月までに,合計7億6000万円がC1社に資金移動されていることが認められる。しかも,C3社の出納業務は,C1社の従業員が「管理部」という部署において取り扱うことによって,被告人らが,C3社の経理関係を把握していたことが認められ,また,C3社の銀行口座が,D3に無断で,E1銀行F2支店(平成22年8月18日開設)とE7銀行F8支店(平成23年3月23日開設)に開設され, これらの口座も含め,C3社名義の各銀行口座に関する銀行届出印が,D3に無断で変更されていることが認められるのであるから,これらの事実によれば,被告人らにおいて,C3社の資金を被告人らの意図に従って,D3に気付かれないようにして,C1社に移動させるようにしているのではないかと窺われる。そして,会長会議メモの記載によれば,被告人らは,本件各送金の前後の数年間を通じて,まずはD6を排除しようとし,さらに,D3をもC3社の実質的な経営から排除するとともに,C3社から いかと窺われる。そして,会長会議メモの記載によれば,被告人らは,本件各送金の前後の数年間を通じて,まずはD6を排除しようとし,さらに,D3をもC3社の実質的な経営から排除するとともに,C3社からC2社等へ資金を拠出することを介しながら,C3社を支配し,D3に悟られず,C3社からC1社等被告人らの支配下に資金を吸収することを検討していたことが強く窺われ,これら会長会議メモ等から窺われる被告人らの意図を踏まえ,実際に行われた資金の移動状況をみると,本件3.8億円は,結局のところ,本件各送金を含む資金移動により,C3社から,C2社,C1社等の複数の口座間を移動した上,C1社の口座に送金されたものと評価でき,また,被告人らにおいても,そのような口座間等の資金の移動状況等が共有され,本件1億円及び本件2.8億円が一体として本件3.8億円の原資として認識されていたことは,D2ノートの図や原審D2供述等から明らかといえる。 以上によれば,被告人らがC2社,C1社へ資金移動を行ったことについては,専らC3社の利益のためというよりも,C3社の資金をD3に悟られずに被告人らの支配下に移動させ,C1社 の資金等に流用する目的があったことが窺われ,被告人らは,C3社の経理の中枢を把握する管理部という部署をC1社の従業員に担当させ,銀行口座や銀行届出印をD3に無断で作り,あるいは変更し,C2社を介し,ときにはC3社の銀行口座をも介すなどしながら,法人間の銀行口座において入出金を繰り返したりしつつ,最終的には自己の利益のための金員をC1社の銀行口座等に入金したということが強く推認される。 そして,原審弁護人は,本件3.8億円の送金については,D3からの指示に基づく節税策であり,D3の承諾を得ていると主張するが,本件3.8億円を節税策とし に入金したということが強く推認される。 そして,原審弁護人は,本件3.8億円の送金については,D3からの指示に基づく節税策であり,D3の承諾を得ていると主張するが,本件3.8億円を節税策としてC1社に支払うことの指示又は承諾をしていない旨のD3の供述の信用性は高く,また,会長会議メモ等においても「節税」が「吸収」と同列に資金獲得のスキームとして検討されていたと窺われることなどにも照らせば,本件3.8億円のC1社への支払は,C3社の節税を真の目的としたものではなく,被告人らが,C3社からD3に悟られずに被告人らの支配下に資金を移動させて,C1社の資金等に流用する意図を有していたと認められる。そうすると,本件各送金のそれぞれについても,被告人らにおいて,同様の意図で行われたものであることが強く推認される。 4 本件1億円(原判示第1)に関する故意ないし不法領得の意思についてそして,原判決は,本件1億円の送金に際して,被告人らの故 意ないし不法領得の意思を認定するにあたって,要旨,次のとおり判断した。 すなわち,全体的考察で検討してきたことに加え,本件1億円の送金に先立つ会長会議メモの記載(被告人らが,本件1億円の送金前から,C2社の資金を被告人ら又はC1社の支配下に移動し,C1社の資金等に流用する意図を有していたことを窺わせること)や,その後の本件1億円の使途(本件1億円の送金の2週間後に5000万円が出金され,被告人A1のC2社への増資資金や被告人らへの貸付資金等となったこと)等によれば,本件1億円の送金は,被告人らにおいて,C1社の資金等に流用する意図をもってなされたものであることが認められる。もっとも,D3の「本件1億円の送金事実を事前に知らなかった」旨の供述は,その信用性に疑問があり,「本件1億 告人らにおいて,C1社の資金等に流用する意図をもってなされたものであることが認められる。もっとも,D3の「本件1億円の送金事実を事前に知らなかった」旨の供述は,その信用性に疑問があり,「本件1億円の送金は,D3の依頼により,C3社の資金繰りのため,一旦C3社に移動させたC2社の資金を戻したものである」という被告人A3の供述は否定できず,D3が,被告人らから,C2社から一旦C3社に返済された投資用資金を再びC2社に戻すものと事前に知らされていた可能性は否定できない。しかし,被告人らは,D3に対し,本件1億円の一部を被告人A1名義でのC2社への増資資金に充てることを伝えていない上,本件1億円の一部をC4社名義の口座に移動した後,同口座から被告人A1及び同A2への貸付,C1社への貸付等に使用しており,このような資金移動をD3が承諾すると は考え難いことからすると,本件1億円の送金自体をD3が事前に承諾していたとしても,それは,被告人らの意図を知らずにした錯誤に基づく承諾であって,そのようなD3の承諾をもって,被告人らに本件1億円の送金を行う権限が与えられていたということはできない。 そうすると,本件1億円の送金については,被告人らにおいて,その一部について被告人A1のC2社の株式取得資金等のために流用する意図が認められるから,故意ないし不法領得の意思があったものと認められる。 5 本件2.8億円(原判示第2)に関する故意ないし不法領得の意思についてまた,原判決は,本件2.8億円の送金に際して,被告人らの故意ないし不法領得の意思を認定するにあたって,要旨,次のとおり判断した。 すなわち,信用できるD3供述によれば,D3は,本件2.8億円の送金を事前に知らされていなかったと認められるところ,C3社からC2社に2.8億円 を認定するにあたって,要旨,次のとおり判断した。 すなわち,信用できるD3供述によれば,D3は,本件2.8億円の送金を事前に知らされていなかったと認められるところ,C3社からC2社に2.8億円という多額の資金を送金する以上,C3社の代表取締役であるD3の指示又は承諾に基づいて行われるべきであるのに,これがないまま行われていることは,被告人らが本件2.8億円の送金をD3に知られては不都合な目的,すなわち,本来の投資以外の目的で行ったことが強く推認される。 また,本件2.8億円を用いた投資活動が一切なされていないこ とからすれば,本件2.8億円の送金が専ら投資用資金の拠出の目的でなされたものではなく,少なくともその一部についてC1社の資金等に流用する意図でなされたものであることが強く推認される。そして,全体的考察で検討してきたことを併せ考えれば,被告人らには,本件2.8億円の送金について,少なくともその一部をC1社の資金等に流用する意図が認められ,したがって,被告人らにおいて,本件2.8億円の送金につき故意ないし不法領得の意思があったものと認められる。 第4 訴訟手続の法令違反について所論は,本件各送金については,D3の指示又は承諾があり,被告人らには,横領の故意や不法領得の意思はないから,被告人らはいずれも無罪であるのに,原判決は,原判示第1については,D3が承諾をしていてもなお被告人らには不法領得の意思があり,原判示第2については,被告人らには不法領得の意思があるという事実誤認を犯している。D3が承諾をしてもなお横領罪が成立するのかといったことは,原審では当事者間において主張も立証もされてこなかったことである。しかも,原判決は,「委託者の承諾がないこと等は横領罪の成否において成立に傾きやすい重要な事情ではあるも 立するのかといったことは,原審では当事者間において主張も立証もされてこなかったことである。しかも,原判決は,「委託者の承諾がないこと等は横領罪の成否において成立に傾きやすい重要な事情ではあるものの,それは判断ないし評価事情の一つに過ぎず,結局は,当該行為が受託者の不法領得の意思を実現する行為と評価できるか否かを直截に問題とすべきである」という被告人側に不利な法解釈を前提とした争点の設定を突如として行ってい る。その訴訟手続はまさに不意打ちであって,被告人側の弁駁の機会を完全に奪った違法なものであると主張する。 そこで,原審における訴訟経過について検討すると,原審検察官は,本件1億円及び本件2.8億円について横領罪が成立するのは,各送金についてD3の承諾がないからであり,D3の承諾がないことについては,原審証人であるD3の「本件各送金を認識していなかった」旨の供述により直接立証するとしていた。そして,原審の訴訟経過を見ても,D3の承諾の有無を巡って,当事者の攻撃防御が展開されていた。しかしながら,原判決は,故意ないし不法領得の意思を横領罪が成立するための要件として位置づけた上,「全体的考察」を行って,被告人らが「D3に悟られず,C3社から被告人らの支配下に資金を移動させ,C1社の資金等に流用する意図を有していた」ものと認められるとし,さらに,本件各送金についても同様の意図で行われたものであることが強く推認されるとした上で,被告人らの故意ないし不法領得の意思が認められるか否かを具体的に検討して,横領罪の成立を認めた。しかし,検察官がD3の承諾の有無を主要な争点とする証拠構造を提示し,これを前提に,被告人・弁護人側が防御のための訴訟活動を行っていたのであるから,原審裁判所が,横領罪の成否は,承諾の有無によって決まるわけで 官がD3の承諾の有無を主要な争点とする証拠構造を提示し,これを前提に,被告人・弁護人側が防御のための訴訟活動を行っていたのであるから,原審裁判所が,横領罪の成否は,承諾の有無によって決まるわけではなく,不法領得の意思の有無によって決まると考えるのであれば,改めて,不法領得の意思の有無を争点として設定し,争点を顕在化させ,それを どのような事実によって主張立証するのかを,当事者に明らかにさせるなどした上,必要があれば,追加や補充の主張や立証を促すべきである。にもかかわらず,原審は,当事者の設定した争点とは離れて全体的考察を行い,その点について,当事者に十分な攻撃防御の機会を与えることなく,その判断を示しており,このような訴訟指揮は,不意打ちの防止の観点から到底是認することはできない。 しかも,原判決は,原審記録中の種々の客観的資料(メール,メモ,会議資料,業務報告書等の記載)を取り上げて様々な解釈をしているが,原審においては,その多くの点において,資料の作成者にその点を質して説明を求めるなど,通常行われるべき証拠調べがなされていない上,その証拠評価について,当事者に十分な主張立証を尽くさせていないのであり,そのため,論理則,経験則等に反する明白な誤解や牽強付会の解釈をして,誤った証拠評価をしている。 以上によれば,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があり,この点の論旨は理由がある。 第5 事実誤認について 1 所論の大要は,本件各送金については,D3の同意・承諾があり,被告人らに,横領の故意や不法領得の意思はないから,被告人らはいずれも無罪である,というものである。 原審検察官が提示した証拠構造に照らせば,本件においては, 端的に,D3の承諾の有無,そして,その直接証拠である原審D 領得の意思はないから,被告人らはいずれも無罪である,というものである。 原審検察官が提示した証拠構造に照らせば,本件においては, 端的に,D3の承諾の有無,そして,その直接証拠である原審D3供述の信用性を判断し,それを踏まえて,本件各送金についての横領罪の成否を判断すれば足りるのであり,以下においては,まず本件各送金についてのD3の承諾の有無を検討して,横領罪の成否についての判断を示し,その上で,原審が行った全体的考察についても検討する。なお,所論の主張については,必要な範囲で簡潔に示す。 2 本件1億円の送金についての横領罪の成否本件1億円の送金についてのD3の認識と承諾の有無ア原判決の判断原判決は,D3の「本件1億円の送金のことは知らなかった」旨の原審供述について,前記のとおり,その供述は必ずしも信用できないとした。 すなわち,D3は,「C2社からJ協会を通じてC3社に1億円が送金されたことは知らず,J協会の通帳がないので確認もできなかった」とするが,これは「D1がD3に対し,平成22年6月22日に関連2社団の各口座の通帳等を,同年7月5日にC3社E1銀行F1支店口座及び関連2社団の通帳等を渡した」旨記載されているD1の業務日報(原審弁9)と整合しないとした。 また,D3は,平成22年6月27日17時31分,被告人A3宛に,「C5社の支払を29日に実施する。同月28日朝一番に,関連法人からそれぞれ5000万円をC3社E1銀行F1支店口 座に資金移動させ,C3社の各支店からも同口座に送金させるよう指示してください。それと・・C2社+」とのメール➊を送信し,その約40分後,C3社の各支店の担当者宛に,「7月2日に各支店の銀行残高をすべて前記F1支店口座に資金移動してください」とのメール❷を送信し てください。それと・・C2社+」とのメール➊を送信し,その約40分後,C3社の各支店の担当者宛に,「7月2日に各支店の銀行残高をすべて前記F1支店口座に資金移動してください」とのメール❷を送信しているところ,メール❷の送金日がメール❶と矛盾すると読み取れる点について,D3は「メール❷は,6月末までの入金を7月頭に資金移動するよう指示したもので,毎年やっている」旨説明するが,平成23年7月にはそのような資金移動がないからその信用性に疑問があり,また,メール❶の「C2社+」の記載についても合理的な説明がされていないとした。 そして,被告人A3の「D3からのメール❶を見て,これでは6月末の資金需要を充足できない可能性があると考え,D3に電話をかけて協議した。その結果,関連法人からC3社に各4500万円送金することになった。さらに,C3社のC2社に対する関連法人を経由した合計2億円の貸付金のうちの1億円を,7月2日までにC2社に戻すという条件で,C3社の資金繰りのために一時的に返済することになった。その際,D3は各拠点に指示しておくと述べていた。しかし,C2社の資金がC3社に戻った6月29日に,D3が1億円を戻すタイミングを7月末にしたいと言い出したので,6月29日の夜,被告人A1とD3が会い,さらに同月30日の会長会議を経て,約束どおり7月2日に戻す ことになった。当日のC3社E1銀行F1支店口座の残高が1億円に満たなかったので,D3にE4銀行の口座から資金移動するように求めると,D3はこれに応じていたが,その資金移動が確認できなかったため,同口座の管理者に自ら指示した」旨の原審公判供述について,この被告人A3供述は,C2社から関連法人を経由してC3社に1億円が送金された事実や,6月30日の会長会議メモの「KSにお金が貯 かったため,同口座の管理者に自ら指示した」旨の原審公判供述について,この被告人A3供述は,C2社から関連法人を経由してC3社に1億円が送金された事実や,6月30日の会長会議メモの「KSにお金が貯まったらC2社に戻す」との記載と整合する上,メール➊及びメール❷で矛盾すると読み取れる内容のメールが送信されている理由について合理的に説明するものであり,また,D1が本件1億円の送金の前後においてD3に対して関連法人等の通帳を渡した事実からすれば,被告人らが本件1億円の送金をあえて隠そうとしていなかったものと認められ,これは被告人A3供述と整合することからすると,十分信用できるとした。 その上で,基本的に信用できる被告人A3供述や,客観的な事実経過に照らせば,本件1億円の送金を含む,平成22年6月末から7月初めの資金移動の趣旨は,D3の依頼により,C5社への支払に関するC3社の資金繰りのために,一時的にC2社に拠出された1億円をC3社に戻し,C5社への支払後にC3社に各支店の資金が集まって資金繰りに余裕ができ次第,C2社に1億円の資金を戻すこととしたものと認められ,本件1億円の送金はD3も認識,承諾していた可能性を否定できないとした。 イ当審における検察官の主張と当裁判所の判断原判決の判断は正当であり,D3が本件1億円の送金について認識,承諾していた可能性があるとした結論に誤りはない。 これに対し,検察官は,本件1億円の送金をD3が知っていたか否かに関する直接証拠は,D3の供述と被告人A3の供述しかなく,どちらの供述が信用できるかということで認定するほかないとした上で,原判決が,D3供述の信用性を否定する根拠とした点について,次のとおり主張する。すなわち,①D1の業務日報(原審弁9)について,6月22日の記載には, きるかということで認定するほかないとした上で,原判決が,D3供述の信用性を否定する根拠とした点について,次のとおり主張する。すなわち,①D1の業務日報(原審弁9)について,6月22日の記載には,「渡した」という記述がないから,D1は,同日,D3から2社団の通帳を見せて欲しいと依頼されて,Bに行ったものの渡していないとみるのが自然であり,また,7月5日の記載には「本日」お渡ししましたと記載されているから,その日に依頼があったことをその日に実行したのではなく,数日前に依頼され,数日来課題になっていたことが「ようやくその日になって解決した」という意味だと読むのが自然である。そして,D3は,6月29日にはC5社への支払が終了し,2社団の通帳を確認したいという動機が既になくなっていたことから,実際には通帳を見ることがなく,その結果,J協会の通帳を見たことがないという記憶になったとしても不思議ではない。②6月27日にD3が送信した2通のメールは矛盾しているわけではない。すなわち,被告人A3宛に送信したメール(メール➊)は,C5社への支払のための資金移動を指示し た内容のものであり,他方,各拠点の担当者宛に送信したメール(メール❷)は,以前からD3が管理部からの依頼に基づいて行っていた,支払用資金の移動に関する指示に過ぎない。これは,D3が考えて出した指示ではなく,被告人A3ら管理部からの要求をD3の指示の形にしたに過ぎず,D3自身が矛盾した指示をしたというわけではない。D3としては,月末に取引先からの支払がある程度まとまって振り込まれる一方,月初めには税金の支払等,支払用資金が必要であると認識していたことから,7月2日に資金を集めてほしいとの管理部からの要求を特段不自然なものと考えず,その要望に応じただけであったと主張する。 方,月初めには税金の支払等,支払用資金が必要であると認識していたことから,7月2日に資金を集めてほしいとの管理部からの要求を特段不自然なものと考えず,その要望に応じただけであったと主張する。 しかし,①(D1の業務日報)は,D1の業務日報は,管理部に勤務していたD1が日々の業務の内容をその都度記載したもので,実際に行われことが記載された客観的証拠ともいうべきものであり,その記載内容の真実性は相当に高いものと認められる。 そして,6月22日の「9:00,D3社長より2社団の通帳&銀行印送付依頼」,「10:00,外出:Bへ,2社団の銀行印&通帳をD3社長へお渡しするため」という記載に照らせば,D1は,その日の午前9時にD3に依頼され,午前10時にD3に渡すために外出しているのであるから,D3が不在などといった特段の記載がない以上,その日に渡したものと考えるのが自然である。また,7月5日の「連絡事項欄」の「本日,C3社・2社団の通帳&銀行印をD3社長にお渡ししました。」という記載に ついてみても,単にその日にあった出来事が記載されているに過ぎない上,業務日報の「対応業務欄」には,単に「通帳と印鑑をD3社長に渡すため」との記載しかないことに照らすと,渡した通帳と印鑑をより具体的に記載したに過ぎないとも考えられるのであり,7月5日の「連絡事項欄」の記載から「数日来渡せなかったものが,ようやくその日になって渡すことができた」などと考えるのは,単なる憶測でしかない。そうすると,D3は,6月22日と7月5日の両日とも2社団の通帳の交付を受けているものと推認され,また,約2週間のうちに2度にわたって持ってこさせているのであるから,通帳の内容を見ていることも強く推認されるというべきである。そして,D3は,自らの意思で直接D1に指示して いるものと推認され,また,約2週間のうちに2度にわたって持ってこさせているのであるから,通帳の内容を見ていることも強く推認されるというべきである。そして,D3は,自らの意思で直接D1に指示して通帳等の交付を受けているのに,これを否定し,さらに当審においては,ことさら「J協会」の通帳を見ることはできなかった旨強調している態度にも照らせば,D3の供述は,基本的に信用できないというべきである。 また,②(メール❶及びメール❷についての説明)は,当審で取り調べたD3の検察官調書(検10)によれば,D3は,原判決後の検察官の取り調べにおいて,メール❶及びメール❷に関し,「被告人A3ら管理部から,資金が足りないので各支店から資金を移動させて欲しいと言われると,それに従って各支店の担当者に指示を出していた。メール❷は,被告人A3かD1から資金移動をお願いされたからに過ぎない。C2社+は,2社団からの返 済と各拠点からの資金移動で足りなければ,C2社からお金を移してもらって,それを使おうという意味だったと思う」旨供述している。しかし,D3は,それまで,C2社からの資金移動については知らないとしていた上,原判決後,検察官に改めて事情を聞かれ,上記のように,被告人A3宛メール(メール❶)の「C2社+」の記載について,2社団からの返済と各拠点からの資金移動で足りなければ,C2社からの資金移動を行うことを意味するなどと供述するに至ったものの,被告人A3との間でそのような話が出るに至った経緯やその後の被告人A3とのやり取りの内容については,何らの具体的な説明もない。また,メール❷については,資金移動を被告人A3から依頼されただけで,前記被告人A3宛のメール(メール❶)の内容とは無関係であるかのようにいうが,その時期のC3社の資金繰りに関する 的な説明もない。また,メール❷については,資金移動を被告人A3から依頼されただけで,前記被告人A3宛のメール(メール❶)の内容とは無関係であるかのようにいうが,その時期のC3社の資金繰りに関する資金移動であれば,C5社への支払やそのためのC2社からの資金移動と無関係であるとは考えられず,それに関する説明が全くないのも不自然である。この点に関するD3の原審供述が信用し難いことは原判決が正当に指摘するとおりであり,当審で取り調べた供述調書の内容をみても,その供述は,具体性に欠け,全く説得力はないというべきである。 以上によれば,本件1億円の送金に関するD3供述は到底信用できず,検察官の主張は理由がない。 本件1億円の送金後の資金移動と被告人らの流用目的について しかしながら,原判決は,前記の全体的考察や本件1億円送金後の資金移動の状況を踏まえ,本件1億円の送金の時点で,被告人らは,その一部を本件C2社口座から出金して,C1社の資金等に流用しようとすることを考えていたことが強く推認されるから,D3が,本件1億円の送金自体を事前に承諾していたとしても,その一部を被告人A1名義でのC2社への増資資金に充てることやC4社名義の口座に資金移動することを承諾するとは考え難いとし,そうすると,D3の事前の承諾は,被告人らの意図を知らずにした錯誤に基づくものであるから,被告人らに本件1億円の送金を行う権限が与えられていたということはできないとした。 これに対し,所論は,本件1億円の送金は,これに先立つ6月28日のC2社からの1億円の資金移動と一組のものであって,C2社が新たな資金をC3社から得たものではなく,そもそも,本件資金移動時の平成22年7月2日の段階では,C4社への7月16日の資金移動や同年11月以降の被告人らやC1社へ 動と一組のものであって,C2社が新たな資金をC3社から得たものではなく,そもそも,本件資金移動時の平成22年7月2日の段階では,C4社への7月16日の資金移動や同年11月以降の被告人らやC1社への貸付などまだ決まっていなかったのであるから,錯誤による承諾とする前提が欠けているなどと主張する。 そこで検討すると,7月2日に実行された本件1億円の送金は,信用できる被告人A3供述によれば,前記のとおり,C3社の資金繰りのため,C3社から関連2社団を通してC2社に拠出された投資用資金2億円のうちの1億円が,一時的にC3社に戻され, それが再びC2社に戻されたに過ぎないと認められるから,6月28日に実行されたC2社から(J協会経由で)C3社に資金移動された1億円の送金と極めて関連性が強いもので,これらは一組の資金移動ともいうべきものである。 そうすると,この一組の資金移動は,原判決が指摘する本件増資のための資金移動やC4社への資金移動とは関係ないものであるから,本件1億円の送金について,その送金後の資金移動を理由に被告人らの流用目的を認定することはできないというべきである。原判決の事実認定は,本件1億円の送金に関連する事実関係を見誤り,D3の承諾の有効性を判断するにあたり,無関係の事情を殊更考慮したことにより,事実認定を誤ったもので,論理則,経験則等に反するものというほかない。 原判決がD3の錯誤を認める根拠としたその他の事情についてまた,原判決は,D3の錯誤を認めるにあたり,本件1億円の送金の一部を被告人A1名義でのC2社への増資資金に充てることやC4社名義の口座に資金移動することを承諾するとは考え難いとしているので,この点についても,更に進んで,当裁判所の判断を示しておく。 まず,原判決は,本件1億円の送金前後 の増資資金に充てることやC4社名義の口座に資金移動することを承諾するとは考え難いとしているので,この点についても,更に進んで,当裁判所の判断を示しておく。 まず,原判決は,本件1億円の送金前後の会長会議メモの記載内容等を検討した上で,被告人らは,本件1億円の送金前から,C2社への増資を検討し,その増資資金にC2社の資金を用いることを考えていたと認められるとしている。しかし,平成22年 6月30日の会長会議メモ(原審甲57)の記載によれば,被告人らは,その時点で,増資を検討していたものの,D3には伝えていなかったことが認められるところ,増資の原資としてC2社の資金を用いるか否かについては,この記載自体からは明らかでない。また,原判決は,同月4日の会長会議メモ(原審甲57,記録630丁-1808)の記載を指摘する。しかし,その前後の記載によれば,テーマは「新会社を活用する」ことであり,この新会社の「位置付け」が「C8社の吸収」であることに照らすと,この新会社はC9社を指すものであると認められる。そうすると,「C2社からの出資」の記載が意味するところは,D3及び被告人らにおいて,新会社C9社に合計4000万円を資金移動させて支援しようというものであり,その具体的内容として,C1社は,C2社からの貸付金により1円から1000万円の範囲で新会社に出資し,C2社は,C1社が出資した金額を含めて合計4000万円になるように新会社に貸し付ける,ということを表しているものと認められ,これが,C2社に対する,被告人A1の出資内容を検討する内容とは到底認められない。以上のように,原判決は,会長会議メモの内容を誤解し,その評価を誤っているのであり,これに基づく上記の事実認定は,論理則,経験則等に反した不合理なものというほかない。 次に, は到底認められない。以上のように,原判決は,会長会議メモの内容を誤解し,その評価を誤っているのであり,これに基づく上記の事実認定は,論理則,経験則等に反した不合理なものというほかない。 次に,原判決は,同年7月14日の会長会議メモの記載によれば,被告人らは,7月16日に,D3に増資を行うことを伝えた 可能性は否定できないが,C3社からC2社に拠出されている資金は,C3社のための投資用資金として拠出されていたことからすると,D3が,被告人A1名義でのC2社への増資にC3社がC2社に拠出した投資用資金を用いることを承諾するとは考え難いとし,また,被告人らが,D3に対して,5000万円を保証金名目で抜くことや,3000万円をC1社において確保すること等を説明することは考え難いことからすれば,平成22年7月16日にD3に伝えられた可能性があるのは,C2社に対して増資することのみであり,その原資がC2社の資金であることはD3に伝えていなかったと考えるのが自然であるとした。しかし,被告人A1は,この点について,「本件増資はD3から要望されたものであり,当初は断っていた。しかし,断り切れずに増資に応ずることにし,D3に増資資金を貸して欲しい旨申し入れ,C2社資金を増資資金に充てる旨の了解を得た」旨述べており,これを否定するものは,D3供述のみである。そして,原判決も正当に指摘するとおり,本件1億円の送金の承諾の有無に関するD3供述は基本的に信用できない上,本件増資の点についても,これを否定するD3供述を裏付けるような具体的事実は何ら認められない。しかも,被告人A1の供述は,増資の検討状況をうかがわせる前記の会長会議メモの記載(6月30日分,7月14日分)等に相応に整合している上,当時のD3と被告人らの関係が良好であったことに照ら れない。しかも,被告人A1の供述は,増資の検討状況をうかがわせる前記の会長会議メモの記載(6月30日分,7月14日分)等に相応に整合している上,当時のD3と被告人らの関係が良好であったことに照らしても,その信用性を否定できるほど不自然, 不合理なものではない。そうすると,被告人A1の供述の信用性は直ちに否定できないのであって,本件増資に際し,被告人A1がD3から,その資金としてC2社の資金を使う旨の承諾を得ていたとの事実は否定できないというべきである。原判決は,証拠の評価を誤り,論理則,経験則等に反して著しく不合理な判断をしたというほかない。 以上のとおり,D3の事前の承諾に錯誤があったと認めるに足りる証拠は全くなく,原判決のこの点の判断も不合理というほかない。 本件1億円の送金についての横領罪の成否本件1億円の送金について,D3が事前に認識・承諾していたことは明らかで,そこにはなんらの錯誤もないことも明らかというべきであるから,被告人A3が本件1億円の送金を行ったことは権限に基づく有効なものと認められる。被告人らに原判決第1の横領罪は成立せず,この点の論旨は理由がある。 3 本件2.8億円の送金についての横領罪の成否本件2.8億円の資金移動についてのD3の認識ア原判決の判断と所論D3は,本件2.8億円の送金に関し,原審公判において,要旨,「本件2.8億円の送金は知らなかった。C3社からC2社への貸付金は,当初関連法人を介して貸し付け,その後,平成22年9月に直接貸し付ける形になったと聞いた2億円のみと認識 していた」と供述した。 そして,原判決は,D3供述の信用性について,まず,①原判によれば,D3が,平成24年4月4日,被告人A3らに対し,C3社からC2社への貸付金の額が2億8000万 していた」と供述した。 そして,原判決は,D3供述の信用性について,まず,①原判によれば,D3が,平成24年4月4日,被告人A3らに対し,C3社からC2社への貸付金の額が2億8000万円ではなく,2億円ではないのかと指摘した事実が認められ,これによれば,D3がその時点でC3社のC2社への貸付金が2億円であると認識していたことは明らかであるとした。そして,前記のように,本件1億円に関するD3供述の信用性には疑問の点があるものの,その内容は,一旦C2社に提供した投資用資金をC3社の資金繰りのために出し入れしたことに関するものであり,D3として,重要度がそれほど高かったとは考え難く,記憶違いなどもあり得ないとはいえないのに対し,C3社としてC2社に数億円単位の投資用資金を総額でいくら拠出することとしたかなどの重要な事項については,C3社の社長であるD3が誤解することは考え難いとした。また,原判決は,②平成22年9月30日以降,C2社からC3社名義の口座に,毎月24万2465円(2億円に対する年率1.475パーセントの30日分)が振り込まれ,これが1年にもわたって受取利息として会計処理されており,これによれば,D3がC3社のC2社への貸付金が2億円であると考えた根拠については,客観的な証拠と整合しているとした。 これに対し,所論は,本件2.8億円は,関連2社団を通して 拠出された2億円の投資用資金とは別の新たな投資用資金1.8億円と,I機構を通して拠出していた1億円について,既に三者間相殺の処理で直接貸付の形式になっていたものを,実際に資金移動させて貸付を受けたことにするため,その分を合計したものであり,本件2.8億円の送金については,D3の承諾の下に行われているのであるから,原判決が,D3の前記供述は信用できる のを,実際に資金移動させて貸付を受けたことにするため,その分を合計したものであり,本件2.8億円の送金については,D3の承諾の下に行われているのであるから,原判決が,D3の前記供述は信用できるとしたのは,誤りであると主張する。 イ当裁判所の判断そこで,検討すると,原判決がD3供述の信用性を認めたことは,論理則,経験則等に反する不合理なものというほかない。以下,本件2.8億円の送金について承諾したことはないとのD3供述の信用性について,原判決の判断に触れながら,当裁判所の判断を示す。 D3供述の一般的信用性前記のとおり,D3は,自らが作成したメールについてさえ不合理な説明をし,本件1億円の送金に関する承諾の有無という本件の核心部分についての供述が信用できないのであるから,本件2.8億円の送金に関する承諾の有無についても,その信用性は慎重に検討すべきである。しかるに,原判決は,記憶違いの可能性もないではないとして,安易にその信用性を肯定し,被告人らの弁解を排斥している。しかし,本件1億円の送金の有無に関する承諾の有無という事実は,検察官の立証構造からすれば,横領 罪の成否を決める重要な要素であり,核心部分である。D3としても,その点については,捜査機関から十分な事情聴取を受けているはずであり,記憶喚起の機会は十分あったはずである。にもかかわらず,D3は,前記のように,事実に沿わない供述をしているのであるから,虚偽供述をしている疑いすらある。そうすると,その供述の信用性は極めて低いというべきであり,その供述を例外的に信用する場合には,客観的な証拠等により裏付けがなされているか慎重な検討が必要というべきである。 銀行融資についてのD3の認識D3は,前記のとおり,C3社からC2社への貸付金は,関連法人を介し 用する場合には,客観的な証拠等により裏付けがなされているか慎重な検討が必要というべきである。 銀行融資についてのD3の認識D3は,前記のとおり,C3社からC2社への貸付金は,関連法人を介して貸し付けた2億円のみであると認識していたと述べる。そして,原判決は,このことを理由の一つとして,2.8億円の送金に承諾を与えたことはないとのD3供述の信用性を認める。 しかし,会長会議メモ及びC3社会議資料(平成22年7月2日分(原審弁10),同月16日分(原審弁8),同年9月3日分(同),同月17日分(同))の記載等によれば,被告人らとD3は,平成22年7月頃にはC6社やC7社等の4社に対し合計5億円(最大7億円)の投資をすることを検討していたこと,そして,その投資資金についてはC3社から調達する(余剰資金及び銀行借入により賄う)こととして,9月頃にはC3社のE1銀行及びE5銀行からの融資を借り換えて,C2社に拠出するこ とを具体的に検討していたことが窺われる。また,被告人らは,原審において,「平成22年7月頃から9月頃にかけて,C3社がE1銀行から短期貸付を受けていた1億円と,E5銀行から短期貸付を受けていた1億円について,あらたに長期貸付に借り換えるための手続きを取っていた。融資を受けられた分をC2社に新たに拠出することについてD3の承諾を得ていた。融資を受けた2億円分の利息については,C2社が負担することになった。 E5銀行からの融資は,1億円ではなく,8000万円となった。」旨供述しているところ,これは上記C3社会議資料の内容と整合し,E5銀行からの8000万円の融資が平成22年9月30日に実行されたことや(原審甲73,記録630丁-2053など),E5銀行からの融資については,D3も,借換えをしたと供述しているこ と整合し,E5銀行からの8000万円の融資が平成22年9月30日に実行されたことや(原審甲73,記録630丁-2053など),E5銀行からの融資については,D3も,借換えをしたと供述していること(原審記録631丁-201)と合致している。E1銀行からの融資は平成22年9月末頃に実行される見込みであったことを示すD2メール(原審弁16。なお,その内容の解釈について後記)の記載にも沿うものである。しかも,D3が合計2億円もの銀行融資に無関心とは考え難い上,C3社会議資料の記載からしても,D3がその結果の報告を受け,承諾していたものと十分推認でき,また,E1銀行からの融資に際しては,C3社の代表取締役であるD3の個人保証が求められていたことからしても(D2メール(当審弁81),当審被告人A3供述(16,17頁)),D3の承諾や協力がないまま,E1銀 行との手続きが進められていたとは考え難い。これらによれば,上記E1銀行及びE5銀行からの融資について,D3の承諾があったことは否定できないというべきである。 そうすると,新たな投資用資金として,C3社が1.8億円の銀行融資を受け,これをC2社に拠出したとの被告人らの前記供述も否定できないのであり,特段の理由もなく,銀行融資についてD3の承諾があったとする被告人らの供述の信用性を否定し,それを否定するD3供述の信用性を認めた原判決の判断は,上記の証拠やそれらから認められる事実関係を軽視もしくは見落としたもので,論理則,経験則に反する不合理なものというほかない。 本件2.8億円の送金と平成22年10月6日の1億円の送金との関連について被告人らは,本件2.8億円の送金の経緯について,「C3社からI機構経由でC2社に拠出していた1億円については,既に,三者間相殺によって,C3 平成22年10月6日の1億円の送金との関連について被告人らは,本件2.8億円の送金の経緯について,「C3社からI機構経由でC2社に拠出していた1億円については,既に,三者間相殺によって,C3社からC2社への直接貸付の形式となっていたが,この処理は契約上の措置に過ぎないから実際に資金移動させた方がよいとの被告人A2の発案により,一旦C2社からC3社に返済し,再び,C3社からC2社に直接資金移動して貸付を受けることとなった。この貸付を受ける1億円と前記の経緯で新たに投資用資金として拠出されることになった1.8億円を併せて本件2.8億円の送金となった。そして,平成22年10月6日のC2社からC3社への資金移動が,これに対応して一 旦返済することとなった1億円である。D3にも承諾を得ていた。」旨供述する。被告人らの供述は,前記の経緯で銀行融資の借換分合計1.8億円が新たに拠出されることとなったこと,平成22年7月27日付けで三者間相殺の処理がなされていたこと(原審甲12,記録630丁-727),平成22年10月4日に本件2.8億円の送金が行われ,同月6日に本件C2社口座からC3社E1銀行F1支店口座に1億円が送金されたこと,同年10月1日付けで2.8億円の金銭消費貸借契約書(原審甲84)が作成されていることなどの事実経過に整合しており,その供述内容に不自然,不合理な点はない。そうすると,本件2.8億円の送金は,前記1.8億円の銀行融資の借換分の拠出と一体のものとみることができ,その点も含めてD3が認識・承諾していたことは否定できない。 この点,原判決は,前記10月6日の1億円の送金については,D3が本件2.8億円の送金自体を事前に知らなかったと認められることからすると,前記1億円についての被告人らの供述も信用すること ない。 この点,原判決は,前記10月6日の1億円の送金については,D3が本件2.8億円の送金自体を事前に知らなかったと認められることからすると,前記1億円についての被告人らの供述も信用することはできず,前記1億円の送金により,C3社が返済を受けられる1億円の貸付金が全く存在しない結果となっていることからすれば,その真の目的は,C2社のC3社に対する借金がない状態を作出することにあったなどと認定し(原判決71頁),被告人らの前記供述は,その金員の動きの理由を何とかして付けなければならなかったためであって,信用することはできないと している。原判決の趣旨は必ずしも明らかではないが,前記の1億円は,被告人らの供述によれば,I機構を通して拠出された投資用資金1億円を,C3社からC2社へ直接貸し付けた形にするため,当初は三者間相殺という形をとっていたものを(実質は債権譲渡と考えられる),直接資金移動させて貸し付けた形にしたに過ぎず,前記の1億円返済により,三者間相殺によるC3社のC2社に対する1億円の債権が消滅することはあっても,新たな1億円の貸付債権は残っているのであるから,「返済を受けられる1億円の貸付金が全く存在しない結果となっている」との原判決の認定は明らかな誤りである。しかも,原判決が根拠ともしている原審公判におけるD3の説明は(記録631丁―237),全く具体性に欠け,趣旨不明,理解不能なものであり,被告人らの供述を否定する根拠足り得ない。 そうすると,被告人らの前記供述を覆すような事情は全くないのであり,被告人らの供述の信用性を否定し,D3供述の信用性を肯定する原判決の判断は論理則,経験則等に反する不合理なものというほかない。 D2によるD3への資金移動の依頼原判決は,D2メール(原審弁16。平成22年9 信用性を否定し,D3供述の信用性を肯定する原判決の判断は論理則,経験則等に反する不合理なものというほかない。 D2によるD3への資金移動の依頼原判決は,D2メール(原審弁16。平成22年9月30日付け「9月29日業務報告」「☆D3社長に資金移動の依頼済み→一旦,E1銀行F1支店の口座へ」)について,D2メールはD2がD3に依頼した資金移動の内容が何を指すのか明らかでない 上,本件2.8億円の送金はC3社E1銀行F2支店口座から本件C2社口座に送金がなされており,同メールに記載のある「E1銀行F1支店」の口座は本件2.8億円の送金には利用されていないから,同メールを根拠に本件2.8億円の送金について,D3が承諾していたとみることはできないとする。しかし,平成22年9月末当時,D2とD3との間には他の資金移動に関するやりとりは窺えず,D2がD3に依頼する資金移動としては,本件2.8億円の送金以外のものは考えられない。そして,被告人A3は,C3社E1銀行F2支店口座に一旦資金移動してから,C2社口座に資金移動させており,これは,D2メールの「一旦」C3社E1銀行F1支店口座に移動させて,という記載に整合的ともいえる上,「E1銀行F1支店」の記載は単なる勘違い又は記載の誤りとも考えられる。 そうすると,D2がD3に対して,前記メールにより,本件2. 8億円の送金を事前に依頼していたことは否定できないというべきである。原判決は,D2メールの内容を解釈するにあたり,D2本人に質すこともなく,単なる憶測でその内容が明確でないとし,被告人らの主張の根拠にはならないとしたもので,論理則,経験則等に反する不合理なものというほかない。 C3社E1銀行F2支店口座の開設とその利用について原判決は,本件2.8億円の送金に用いられたC 人らの主張の根拠にはならないとしたもので,論理則,経験則等に反する不合理なものというほかない。 C3社E1銀行F2支店口座の開設とその利用について原判決は,本件2.8億円の送金に用いられたC3社E1銀行F2支店口座は,D3に無断で開設されたものであるとし,この ことを理由の一つとして,本件2.8億円の送金に承諾を与えたことはないとのD3供述の信用性を認める。そして,D2やD1が,捜査段階で,「この口座が開設された数日前頃に,C1社の事務所で被告人A2か同A3のどちらかから口座開設を指示され,D1にE1銀行F2支店にC3社の口座を作るよう依頼した。」(原審甲35,記録630丁-1301),「D2に指示されて,E1銀行F2支店でC3社名義の口座を新たに開設する手続をした」(原審甲40,記録630丁-1402)などと供述していることによれば,C3社E1銀行F2支店口座は,D2の指示により,D1が開設したものと認められ,その開設を知らなかった旨のD3供述は信用できるから,被告人らが無断で口座を開設したと認められるとした。 これに対し,所論は,D1の業務日報(原審弁9)の平成22年7月26日の記載によれば,そこには「D3社長より,E1銀行F2支店の口座開設指示あり。」との記載があり,この文言を素直に読めば,同口座の開設はD3の指示によるものであることは明らかであると主張する。 そこで検討すると,上記D1の業務日報は,前記のとおり客観的証拠ともいうべきものであって,その記載内容の真実性は相当に高いものと認められる。そして,所論指摘のとおり,平成22年7月26日の業務として「D3社長より,E1銀行F2支店の口座開設指示あり。」との記載がある以上,特段の事情がない限 り,C3社E1銀行F2支店口座については,同日,D3か とおり,平成22年7月26日の業務として「D3社長より,E1銀行F2支店の口座開設指示あり。」との記載がある以上,特段の事情がない限 り,C3社E1銀行F2支店口座については,同日,D3からD1に対して,口座を開設するよう指示があったものと認めるのが相当である。そして,上記業務日報の同月28日には「E1銀行F2支店へ,口座開設申し込みのため行ってまいりました」との記載が,同年8月18日には「E1銀行F2支店へ,銀行窓口にて手続き・通帳受取り,帰社・D2さんへ報告,口座開設が本日終了しました。通帳は後日D3社長にお渡しするそうです」との記載があり,また,D3が同年8月12日から同月18日の間,海外渡航していたこと(原審甲50,記録630丁-1776)からすると,同日に口座開設手続を終えたD1は,D3に通帳を渡せず,D2に通帳を渡したものと合理的に推認できる。そうすると,上記業務日報の記載と整合しないD2及びD1の各供述調書並びにD3及びD2の各公判供述は,上記業務日報の記載との整合性について納得のいく説明がない限り,直ちに信用することはできないというべきである。にもかかわらず,原判決は,「通帳は後日D3社長にお渡しするそうです」との記載を捉え,業務日報には,D1が「D3の指示」としてD2から伝えられたことが記載されている可能性があるから,実際にD3が同口座の開設を指示したということはできないとする。しかし,関係者に上記業務日報を示すなどしてその際の状況を何ら確認することをせず,何らの具体的根拠もないのに,抽象的な可能性を指摘して,被告人らに不利益な事実を認定することは到底許されない。D3が口 座開設を知っていたこと,すなわち,被告人らがD3に隠れて口座を開設したものでないことは否定できないというべきである。 原判 ,被告人らに不利益な事実を認定することは到底許されない。D3が口 座開設を知っていたこと,すなわち,被告人らがD3に隠れて口座を開設したものでないことは否定できないというべきである。 原判決の判断は,論理則,経験則等に反する不合理なものというほかない。 そして,本件2.8億円の送金に際してC3社E1銀行F2支店口座が利用された理由について,被告人A3は,当審において,「E1銀行F1支店のネットバンキングでの振込限度額が2億円と思っていたので,2.8億円の資金移動をするには窓口振込をするしかないと思った。E1銀行F1支店は管理部があるBから遠いので,近距離のE1銀行F2支店でできればよいと思って聞いてみたところ,他支店の通帳を使うよりF2支店の通帳の方を使う方が手続はスムーズに進むと言われ,F2支店の口座を使うことにした」旨供述しているところ,その内容に不自然,不合理なところはない。しかも,被告人A3は,D3の代理を名乗って,C3社G支店のD4に連絡し,C3社E1銀行F2支店口座に3. 5億円の資金移動を依頼しており,そこに口止めなどの隠蔽工作も窺えないのであり,これらの事実とC3社E1銀行F2支店口座がD3の指示又は承諾の下に開設されたことが否定できないことを併せ考えると,被告人A3が,前記3.5億円の資金移動や本件2.8億円の資金移動を,D3らに隠そうとしていたと認めることはできない。 そうすると,原判決がD3供述の信用性を認める根拠として挙 げる前記の理由は,根拠がないというべきである。 D3の認識に関するその他の事情原判決は,C3社が2億ないし1億8000万円の資金を銀行から借り入れてC2社に提供し,その金利をC2社が負担することなどが協議されていたことを示す平成22年9月3日及び同月17日のC3社 事情原判決は,C3社が2億ないし1億8000万円の資金を銀行から借り入れてC2社に提供し,その金利をC2社が負担することなどが協議されていたことを示す平成22年9月3日及び同月17日のC3社会議の資料(原審弁8)について,そもそもD3に対して用いられたものか疑問があり,同資料の記載からは,被告人らがD3に対して,C3社からC2社に対して本件2.8億円の送金をする旨を説明したと認めることはできないとする。そして,さらに,原判決は,C3社会議の資料のデータの一部が会議終了後に編集された可能性がある上,D2メール(平成23年9月8日分,原審甲17,記録630丁-3115)によれば,被告人らがD3に見せる資料とC1社内で共有する資料の内容が大きく異なっており,そのようなこと自体がC1社内での共通理解とされていたと認められることからすると,それ以外にもD3に見られたくない部分を削除し,加筆・修正するなどした資料がある可能性が否定できず,データが保存されていたC3社会議資料(原審弁8及び原審甲87)が,現にD3が出席した会議において実際に用いられた資料であるかには疑問があるとする。しかし,原判決のいう編集された可能性は,抽象的なものに過ぎず,実際に改変が行われたものがあるのか,行われたとしてどのような内容であるのか,具体的な指摘がない。しかも,前記D2メー ルで示された,2種類のC3社会議資料の存在についても,2種類の資料が存在するときは,そのことを明らかにする資料が別途存在しているなど,2種類の資料がデータとして残っているのであり,D3に示されなかった資料のデータが削除されたり上書きされたりして,抹消されたりなどはしていない。そして,同一日付で1種類の資料しか存在しない場合には,特段の事情がない限り,その資料がC3社会議資 D3に示されなかった資料のデータが削除されたり上書きされたりして,抹消されたりなどはしていない。そして,同一日付で1種類の資料しか存在しない場合には,特段の事情がない限り,その資料がC3社会議資料として用いられたものと認めるのが相当であるから,前記9月3日及び同月17日のC3社会議の資料はD3に示されたものというべきである。具体的な根拠もなく,この点を否定する原判決は,論理則,経験則等に反しているというほかない。そうすると,D3は,C3社が銀行から1.8億円の融資を受け,それをC2社に投資用資金として拠出することについて,事前に説明を受けていたことは否定できず,ひいては,本件2.8億円の送金についても,事前に説明を受けていた可能性を否定できない。 また,原判決は,平成22年9月17日は,D3は,脱税問題で早朝から慌ただしく,元気がない様子であったのだから,C3社から多額の投資用資金を追加で拠出するという緊急性の乏しい話をしてこれを承諾するとは考え難いとする。しかし,前記のとおり2億円もの銀行融資は,C3社や被告人らにとっては重要な事項であり,しかも,融資の実行が9月末に迫っていたのであるから,9月17日に脱税問題が浮上したからといって,被告人ら が融資話を中断(停止)させるとは考え難く,また,被告人らを信頼し,脱税問題についても相応に頼ろうとしていたD3が,被告人らの意向を否定することも考え難いともいえるから,これらの事情をD3供述の信用性判断の決め手とすることは相当ではない。 さらに,原判決は,被告人らの供述からは,そもそもD3の海外渡航中に本件2.8億円の送金を急いで実施する理由があったとも考えられないとする。しかし,被告人A3の供述によれば,D2は9月29日,D2メール(原審弁16)によって,D3に対して もD3の海外渡航中に本件2.8億円の送金を急いで実施する理由があったとも考えられないとする。しかし,被告人A3の供述によれば,D2は9月29日,D2メール(原審弁16)によって,D3に対して,C3社E1銀行F1支店口座への資金移動を依頼していたのであり,これを受けたD3がC3社の支店担当者に指示し,同口座に資金移動をさせる手はずとなっていたこと,そして,9月末までに,同口座からC2社に2.8億円が資金移動されることになっていたことが認められるのであり,これらによれば,被告人らが,10月1日から4日にかけて本件2. 8億円の送金のための手続を行ったことは,「海外渡航中に急いで実施した」というものではなく,D3が資金移動を予定通り実施しないまま海外渡航をしたことから,本来の予定より遅れて被告人A3がD3に代わって指示をして実施したと評価しうるものであって,被告人A3の対応がことさら不自然ということはできない。 また,原判決は,平成22年9月30日以降の2億円に対する 利息(月額24万2465円)を受け取っていたことを根拠に,D3がC3社のC2社への貸付金は2億円であるとしていることは客観的な証拠と整合しているとし,さらに,その利息は,C2社に拠出されていた当初の2億円に対する利息であったと認定している。しかし,この当初の2億円はC3社の余剰資金を原資とする拠出であって,拠出当初より利息は全く支払われていなかったのであるから,上記の利息が当初の2億円の利息と考えることは不自然である上,拠出額全体について利息を支払うのではなく,銀行融資を原資とする2億円分について,利息相当額を支払うことになったという,被告人らの供述も不自然,不合理とはいえないから,上記の利息が当初の2億円の利息であるとする根拠もない。また,原判決は,借 行融資を原資とする2億円分について,利息相当額を支払うことになったという,被告人らの供述も不自然,不合理とはいえないから,上記の利息が当初の2億円の利息であるとする根拠もない。また,原判決は,借換金額が2000万円減額になったのに,D3が嫌がると思ったためという理由で2億円に対する金利を送金し続けたのは不自然であるとするが,それ自体,必ずしも不自然とはいえない上,実際の銀行利息はより低率であったのにそのまま支払続けていることに照らしても,不自然とはいえない。そうすると,C2社には,投資資金として,C3社から当初の2億円の資金以外にさらに1.8億円の追加資金が拠出され,このことはD3も了承していたという被告人らの供述を否定することはできないというべきである。 さらに,原判決は,平成22年12月24日のC3社会議において,C2社のC3社からの借入金が2億8000万円である旨 報告されたという点についても,本件2.8億円の送金から2か月以上経過したC3社会議の資料である上,D3は,そのような内容の資料を見て,間違いではないかと指摘した旨述べているから,当該資料の記載から,D3が本件2.8億円の送金を知っていたことを示すとはいえないとする。しかし,被告人らが本件2. 8億円の送金をD3に隠していたなら,被告人らの方から,借入金について資料を見せながら2.8億円と説明すること自体不自然なものと言わなければならない。むしろ,被告人らが資料を示しながら2.8億円と説明したということは,被告人らが本件2. 8億円の送金をD3に隠していなかったことの表れというべきである。また,仮にD3自身が記憶違いなどで,その当時の拠出金を2億円と認識していたのであれば,何故,D3の認識と被告人らの説明が食い違うのか,D3において相応の追及(被告人らに の表れというべきである。また,仮にD3自身が記憶違いなどで,その当時の拠出金を2億円と認識していたのであれば,何故,D3の認識と被告人らの説明が食い違うのか,D3において相応の追及(被告人らに説明を求めること)があってしかるべきである上,被告人らにおいても,D3の誤解に対して何らの説明もしないとは考えられない。そうすると,D3が,本件2.8億円の送金を知っていた可能性は否定できないというべきである。 以上によれば,原判決が,D3供述の信用性を支え,被告人らの供述を否定する根拠とした事実は,いずれも理由がないというべきである。 なお,原判決は,平成24年4月4日,D3が被告人A3から平成23年6月30日時点のC3社からC2社への貸付金の額が 2億8000万円と示された際,2億円ではないのかと指摘した事実が認められる(原審甲88。記録631丁―155)とするが,D3が具体的にどのような理由からそのような指摘をしたかは必ずしも明らかではない上,平成23年4月以降にも,数度にわたりC3社からC2社に投資用資金が新たに拠出されており,D3がこれらの拠出を認識していたことも否定できないのであるから,D3のいう「2億円」や紙片に記載のある「2億円」についても,いつの時点のどの2億円を指すものなのか,明らかではないというべきである。したがって,D3の決裂時の言動やその際に見た資料(原審甲87)等を前提にしても,D3の「C3社からC2社への貸付金は,当初関連法人を介して貸し付け,その後,平成22年9月に直接貸し付ける形になったと聞いた2億円のみと認識していた」という供述は到底信用することができない。 小括以上によれば,1.8億円の銀行融資について,D3が認識していたことは否定できず,D3の承諾を得て,1.8億円の銀行融資を受 のみと認識していた」という供述は到底信用することができない。 小括以上によれば,1.8億円の銀行融資について,D3が認識していたことは否定できず,D3の承諾を得て,1.8億円の銀行融資を受け,これをC2社に拠出したとの被告人らの供述も否定できない上(前記),2.8億円のうちの1億円については,I機構を通して拠出された投資用資金1億円を,C3社からC2社へ直接貸し付けた形にするため,直接資金移動させたもので,このことについては,D3も認識・承諾していたとの被告人らの供述も否定できない(前記)。そして,D2がD3に対して, 本件2.8億円の資金移動を事前に依頼していたことは否定できないこと(前記),C3社E1銀行F2支店口座が隠し口座ではなく,被告人A3らに本件資金移動を隠そうという意図もうかがえないこと(前記)などからすると,「D3に資金移動を依頼して承諾を得ていたが,それをしないままD3が海外出張をしたため,被告人A3がD4に指示をして,資金移動させた」旨の被告人らの供述は否定できず,D3が本件2.8億円の送金を事前に知っていたことや,それについて承諾を与えていた可能性も否定できない。本件2.8億円の送金について知らなかったとするD3供述の信用性を認めた原判決の判断は,重要な客観的事実を軽視もしくは見落としたか,不合理な推認に基づくもので,到底是認できないというべきである。 本件2.8億円についての横領罪の成否以上の検討によれば,本件2.8億円の送金について知らなかったというD3の原審供述は信用できず,本件2.8億円の送金については,被告人らとD3らが従前から協議してきたことに基づいてなされたもので,被告人A3が,D3の承諾の下,C3社G支店の従業員に指示した上で,3.5億円をC3社E1銀行F2支 .8億円の送金については,被告人らとD3らが従前から協議してきたことに基づいてなされたもので,被告人A3が,D3の承諾の下,C3社G支店の従業員に指示した上で,3.5億円をC3社E1銀行F2支店口座に送金させたことは否定できないから,その中から,本件2.8億円の送金をしたことも,D3の承諾に基づく有効なものと認められる。被告人らに原判決第2の横領罪は成立せず,この点の論旨は理由がある。 4 全体的考察について原判決は,全体的考察を行って,本件3.8億円のC1社への資金移動については,C3社の節税を真の目的としたものではなく,被告人らが,C3社からD3に悟られずに被告人らの支配下に資金を移動させて,C1社の資金等に流用する意図を有してい開設と銀行届出印の変更を3.8億円の送金は,D3の指示に基づく節税策によるものであるとの被告人らの主張を排斥しているので,これらの点についても,当裁判所の判断を示しておく。 銀行口座の無断開設と銀行届出印の変更ア銀行口座の無断開設についてまず,C3社E1銀行F2支店口座に関する口座開設については,被告人らがD3に無断で口座を開設したと認められないことは,前記イ(被告人A3がC3社E1銀行F2支店口座に送金したこと)で検討したとおりである。 イ銀行届出印の変更について次に,C3社が利用する銀行口座の届出印が変更されていることについて検討すると,原判決は,D3がその点について知らない旨述べ,決裂時にはそのことを前提に被告人らやD2らを追及していることから,被告人らがD3に無断で銀行届出印を変更し,D3はそのことを知らなかった旨認定している。 これに対し所論は,銀行から旧印鑑が欠けているとの指摘があり,変更の必要があったのであって,D3には銀行印を変更する 無断で銀行届出印を変更し,D3はそのことを知らなかった旨認定している。 これに対し所論は,銀行から旧印鑑が欠けているとの指摘があり,変更の必要があったのであって,D3には銀行印を変更する旨報告し,その包括的な承諾を得ていた上,個々の銀行届出印の変更に対する個別の同意を得ていない場合でも,代表取締役である被告人A2がその権限を用いてC3社の銀行届出印を変更することは可能であって,その後にD3に報告したことも十分に考えられるから,D3に無断で変更したわけではないと主張する。 そこで検討すると,被告人A3(記録631丁-297ないし300)及び被告人A2(記録631丁-415)は,「C3社では,会社代表印と銀行届出印を同一の印(旧印鑑)で兼用していたが,一般の事業者は実印と銀行届出印を分けている上,C3社の旧印鑑の縁の部分が欠けていることを銀行から指摘されていたことから,このまま旧印鑑を銀行印として使い続けることは不都合と感じて,変更することにした。新C3社の設立を検討するにあたり作成してあった銀行印(新印鑑)をそのまま流用してC3社の新しい銀行届出印とした。D3には報告している」旨供述しているところ,その内容は自然で合理的である上,平成23年1月から2月上旬頃に新C3社の設立が検討され始め,同月16日に新C3社のための会社設立印鑑セット(代表取締役印,銀行印,会社印の3本組)が発注されたものの(原審甲77),平成23年2月22日頃に新C3社の設立検討が中断され(以上,原審被告人A3供述等),その後,順次,C3社の銀行口座の届出 印が新印鑑に変更されたという事実経過とも整合している。そして,そもそも,被告人らが,D3に隠れて資金移動をするための準備行為として,隠し口座を開設し,銀行届出印を変更しようとするのであれ 印が新印鑑に変更されたという事実経過とも整合している。そして,そもそも,被告人らが,D3に隠れて資金移動をするための準備行為として,隠し口座を開設し,銀行届出印を変更しようとするのであれば,そのことをD3など被告人ら以外の人物には,できる限り悟られないようにすべきであるが,被告人らは,原判決も指摘するとおり,D1に指示するなどして,管理部が通常管理していないC3社の各支店の口座の銀行届出印まで変更し,さらには,管理部が管理しているとはいえ,D3の目に触れることが多いと考えられる,C3社E1銀行F1支店口座やE5銀行F6支店口座の銀行届出印まで変更している。そこには,銀行届出印の変更をD3に隠しておこうという意図をくみ取ることはできず,むしろ,銀行取引の改善・円滑化のため,届出印を変更しようとする意図しか窺えない。そうすると,個々の届出印変更手続の具体的状況についてはともかく,全体的な銀行届出印の変更については,D3に対して報告があり,包括的な承諾があったと考えるのが自然であるから,上記の被告人らの供述の信用性は高く,これに反するD3供述は信用できないというべきである。 原判決は,上記の客観的事実関係を軽視もしくは見落とした結果,被告人らの供述の信用性判断を誤ったもので,論理則,経験則等に反する不合理な認定というほかない。 節税策についてア所論は,被告人らは,本件3.8億円の送金は,D3からの指 示に基づいてC3社の節税を検討する中で,当初はC2社に報酬として支払うことを検討したが,税理士の助言があって,実働したC1社に報酬として支払うことになったものであり,C1社に移動した資金も,後にC3社のための投資に活用することを考えていたと主張する。これに対し,原判決は,①D3が節税策を指示していた可能性はある C1社に報酬として支払うことになったものであり,C1社に移動した資金も,後にC3社のための投資に活用することを考えていたと主張する。これに対し,原判決は,①D3が節税策を指示していた可能性はあるものの,本件3.8億円をC1社に支払うという節税策については,C3社にとって非常にリスクが大きく経済的合理性に欠ける取引であり,このような取引にD3が同意するとは考え難いこと,②平成24年4月5日の会長会議メモ(原審甲102)に「節税の必要性の提案+ねじ込み」との記載があり,仮にD3が本件3.8億円に関する節税について承諾していたとすれば,その時点でD3に対して節税の必要性を提案あるいはねじ込みをする必要性が全くないこと,③税務署の調べが入っている時期に節税をお願いするはずがないとのD3の供述にも理由があることからすれば,本件3.8億円を節税策としてC1社に支払うことの指示又は承諾をしていない旨のD3の供述は信用性が高いとした。 イそこで検討すると,まず③(D3が本件節税策を指示していないこと)については,原判決は,D3による節税策の指示の存在については,「可能性はある」(原判決39頁)としてこれを否定していないところ,被告人らが主張する節税策以外にどのような節税策があったかについて全く言及していない。そして,記録 に照らしても,被告人らの主張する本件節税策以外に具体的な節税策が窺えないのであるから,D3による節税策の指示の存在の可能性を認める以上,後にその指示がD3によって撤回されたなど,特段の事情がない限りは,本件節税策はD3が指示又は承諾したものである可能性が高いというべきである。D3は,税務署の調査が入っている時期に節税策を指示するはずがないというが,税務調査が入った後に,節税策の検討を中止するよう改めて指示したと 示又は承諾したものである可能性が高いというべきである。D3は,税務署の調査が入っている時期に節税策を指示するはずがないというが,税務調査が入った後に,節税策の検討を中止するよう改めて指示したという事情も窺えない上,税務署の調査が入っていたとしても,違法不当なものでなければ,節税策として十分とりうるのであるから,D3の供述は合理的な説明とはいえない。原判決は,D3供述に安易に依拠して不合理な事実認定に至っているというほかない。 また,①(節税策に経済的合理性がないこと)は,被告人らは,D3が指示する節税策とは,とにかく税金を支払いたくない,という趣旨のものであって,税務処理に際して,経費を多くして利益を少なくし,納める税額を減らした上,経費として多く支出した分については,C3社又はD3の将来の収益の増加に結び付く方策を意味するものと理解していた旨供述しているところ,その内容は,相応に合理的で,本件証拠関係に照らしても,被告人らがそのように捉えていたということ自体を否定すべきものは見当たらない。そして,被告人らは,「本件で節税策(平成23年3月期)となったC3社とC1社との間で締結された3.8億円の FA契約は,その時点ではC1社によるM&Aが成功裏に終わっている社団法人について,その社団法人の事業がC3社の事業と関連し,C3社の収益増加に寄与するものであり,M&Aについての報酬の支払いが,税務処理上C3社の経費として認められるとの見込があったから,経費の支払対象として選定したものであり,その点については,C3社の顧問税理士にも相談し,D3にも承諾を得ている」旨供述しているところ,その供述内容に不自然,不合理な点は見当たらない。 原判決(原判決36,37頁)は,原審証人D5や原審証人D2の供述に依拠して,「C3社にと 相談し,D3にも承諾を得ている」旨供述しているところ,その供述内容に不自然,不合理な点は見当たらない。 原判決(原判決36,37頁)は,原審証人D5や原審証人D2の供述に依拠して,「C3社にとって非常にリスクが大きく経済的合理性に欠ける」と判断しているが,D5やD2は税理士や会計士であり,経理・会計事務の専門家ではあっても,M&Aや経営コンサルタントとしての専門家と認めるべき証拠はないから,被告人らが行ったM&Aや本件FA契約の当否を的確に判断することができるか疑問がある。そして,原判決が,M&Aの成否をリスクとして問題としたのであれば,本件節税策においては,既に成功したM&Aを対象としているのであるから,全く当たらない。また,支出額に見合う経済的利益の増加が見込めるか否かを問題としているなら,そもそも,M&Aの対象となった社団法人の事業は,C3社の事業に関連し,その収益の増加に寄与するものと判断されたからこそ,節税策の対象として選定されたのであり,C3社の利益増加に相応に結び付くものとの推認ができるか ら,C3社が得られる具体的利益について審理も尽くさないまま,推測で「C3社にとって非常にリスクが大きく経済的合理性に欠ける取引」と判断することはできないというべきである。さらに,C3社会議資料の記載等によれば,被告人らのM&Aに対する姿勢は,その収益状況や資産状況について相応に調査していることが窺われる上,学校法人M&Aについては,学校経営による収益だけではなく,その所有する不動産等の取得も目指していたことが窺われるから,通常は,支配権を取得した法人自体に,取得した費用に相応に見合う経済的,財産的価値(相応の資産を所有し,他に支配権を再譲渡すれば,相当な対価が得られるということ)があるものと一応推定でき,M&Aの対 常は,支配権を取得した法人自体に,取得した費用に相応に見合う経済的,財産的価値(相応の資産を所有し,他に支配権を再譲渡すれば,相当な対価が得られるということ)があるものと一応推定でき,M&Aの対象となった法人の収支状況や資産状況等を具体的に検討することなく,経済的合理性に欠けると判断することも許されないというべきである。原判決は,証人の立場や経験を見誤り,その意見にわたる部分に不当に依拠し,具体的な事実関係を軽視した事実認定をしており,論理則,経験則等に反しているというほかない。 さらに,②(「節税の必要性の提案+ねじ込み」の記載)は,平成24年4月5日の会長会議メモ(原審甲102)の前後の記載内容,すなわち,「従来→裏スキームでやっていた」「今後→D3社長関与開始。裏スキームを表スキームにしてやっていく」「新スキーム,KSが直接寄附金の実施」「作業工程,D3社長との信頼関係の再構築,節税スキームをD3社長に理解させる, 節税スキームをD3社長が行う」などに照らせば,その記載の意味するところは,学校法人M&Aなどにおいて,従前はC1社において寄付を行っていた「裏スキーム」という節税方法を,今後はC3社において寄付を行う「表スキーム」という節税方法に変更することとし,この変更をD3に提案・説明し,実施していくことを検討したものと認めることができる。そうすると,前記の記載は,被告人らにおいては,C1社が学校法人に寄付を行うことでC3社のために節税策を行っていたことを前提とするものであり,D3がその具体的手法をよく理解していなかったことは窺えるものの,そのこと自体は認識していたと認められ,「節税の必要性の提案+ねじ込み」の記載から,それまで節税策についての説明がなかったことを前提に,D3の承諾もなかったとする原判決の判断 ことは窺えるものの,そのこと自体は認識していたと認められ,「節税の必要性の提案+ねじ込み」の記載から,それまで節税策についての説明がなかったことを前提に,D3の承諾もなかったとする原判決の判断は,会長会議メモの前記の記載を見落としたか,不当に軽視したもので,不合理というほかない。 全体的考察の総括原判決は,被告人らの不法領得の意思を認定するに当たり,全体的考察によって会長会議メモ等の客観的証拠を多岐にわたって拾い上げて検討し,これらについて,D3供述の信用性を補い,さらに,それを超えて独自に高い証明力を持つものとして評価するに至っている。原判決がこのように判断を誤った原因は,原審が,これらの点を争点とせず,当事者に十分な攻撃防御をさせなかったところにあることは明らかである。上記で検討したことに よれば原審記録のみによっても,本件各送金に関するD3供述に信用性がないことは明らかで,検察官の立証の主要な根拠が失われたのであるから,通常であれば,そのまま無罪判決に至るのが自然な訴訟経過といえようが,仮に,原審において直ちに無罪判決をすることが躊躇される事情があると考えたならば,争点整理を改めて行い,その点について,当事者に攻撃防御を尽くさせるべきであったし,それが困難であったとする事情も見当たらない。 そして,再設定した争点を巡って,当事者による攻撃防御が相応になされれば,原判決が陥ったような不合理な評価には至らなかったものといえよう。全体的考察により,不意打ち的に被告人らの有罪を導いた原審の訴訟手続の違法は極めて大きいというほかない。 第6 破棄自判以上のとおり,本件各送金について,被告人らに横領罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり,また,原審の訴訟指揮には不意打ち防止 かない。 第6 破棄自判以上のとおり,本件各送金について,被告人らに横領罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり,また,原審の訴訟指揮には不意打ち防止の観点から是認できない判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるから,原判決は破棄を免れない。そして,以上で検討してきたことに鑑みれば,本件を原審に差し戻して審理を尽くさせるまでもなく,被告人らが無罪であることは明らかであるから,当審において自判することが相当である。そこで,刑訴法397条1項,379条,382条により原判決中,被告人らに係る有 罪部分を破棄し,同法400条ただし書に従い,当裁判所において,被告事件について更に判決することとする。 本件公訴事実の要旨は,原判示第1については,「被告人A1及び同A3は」とあるのを,「被告人3名は」と訂正するほかは,原判示第1の罪となるべき事実記載のとおりであり,原判決第2については,その記載のとおりであるが,これらの公訴事実のうち,被告人A2に関して原審が無罪とした部分以外についても,いずれも犯罪の証明がないことに帰するから,刑訴法336条により,被告人らに対し,いずれも無罪の言い渡しをすることとする。 (検察官松山佳弘出席)平成29年8月4日東京高等裁判所第11刑事部 裁判長裁判官栃木 力 裁判官菱田泰信 裁判官佐藤晋一郎
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