令和3刑(わ)2811 背任

裁判年月日・裁判所
令和4年10月6日 東京地方裁判所
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判決文本文13,560 文字)

- 1 - 令和4年10月6日東京地裁刑事第11部宣告令和3年刑(わ)第2811号背任被告事件 主文 被告人を懲役2年6か月に処する。 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。 理由 【犯罪事実】被告人は、学校法人A大学(以下「A大」という。)が全株式を保有する会社で、A大から委託を受けるなどした業務の遂行等により、A大の経費削減に寄与すること等を目的とする株式会社B(以下「B社」という。)がA大から委託を受けた、医 療機器等の発注先の選定、仕様及び価格の適正等を確保するための助言等のコンサルティング業務に関し、B社からその再委託を受けた株式会社C(以下「C社」という。)の代表取締役としてこれを補助していたもの、Dは、B社の取締役営業統括として上記コンサルティング業務を統括していたもの、Eは、Dの知人であり、株式会社F(以下「F社」という。)を実質的に経営し、かつ、事業実態のない株式会 社G(以下「G社」という。)の全株式を保有していたものであるが、Dが上記コンサルティング業務を行うに当たっては、A大がB社に業務を委託した目的等に照らし、A大に不必要な債務を負担させること等を避けるなどして、A大のために誠実にその職務を遂行すべき任務があるのに、被告人は、D及びEと共謀の上、第1 「H」一式ほか6式(以下「本件医療機器」という。)をB社が調達してA大 学付属I病院(以下「I病院」という。)に納入するに当たり、Eが経営又は保有する会社を調達経路に介在させる必要がないにもかかわらず、これを介在させること等により、A大をして、本件医療機器を導入するための契約を高値で締結させた上 いう。)に納入するに当たり、Eが経営又は保有する会社を調達経路に介在させる必要がないにもかかわらず、これを介在させること等により、A大をして、本件医療機器を導入するための契約を高値で締結させた上、Eが経営又は保有する会社に売買差益を得させるなどの方法により、D及びEらの利益を図る目的をもって、Dにおいて、上記任務に背き、本件医療機 器は、販売会社等を通じてB社が購入して調達した上、これをB社がリース会社- 2 - に売却し、A大がリース会社との間でリース契約を締結して、A大がリース会社から本件医療機器のリースを受けてリース料を支払うものであるところ、令和2年12月22日頃、B社からA大に対し、本件医療機器の納入価格につき、本来調達経路に介在させる必要のないF社を介在させ、これに得させる売買差益分を加算して税抜き価格合計13億7135万円と算出した見積書を提出し、令和3 年2月26日頃までに、A大をして、本件医療機器をI病院に導入するため、同見積書の価格からリース会社の割引分を控除した物件価額にリース会社の利息分を加算した金額でリース会社との間でリース契約を締結することを決定させて、同年3月11日頃から同月29日頃までの間、東京都千代田区(住所省略)所在のA大学会館において、A大をして、リース会社であるJ株式会社(以下「J社」 という。)ほか1社との間で、同社らがB社から本件医療機器を購入してA大にリースする旨のリース契約をそれぞれ締結させた上、同年5月28日頃から同年8月18日頃までの間、A大が本件医療機器の引渡しをそれぞれ受けたことにより、同各リース契約に基づく各リース料支払債務として、F社の各売買差益相当額合計1億3860万円にそれぞれ上記各リース会社による割引分を控除した物件価 格に同各社の利息分を ぞれ受けたことにより、同各リース契約に基づく各リース料支払債務として、F社の各売買差益相当額合計1億3860万円にそれぞれ上記各リース会社による割引分を控除した物件価 格に同各社の利息分を加算した金額である不必要額合計1億3131万3960円分を含む税込価格合計14億6327万9760円の債務を負担させ、もってA大に合計1億3131万3960円の財産上の損害を加え、第2 「K」ほか一式(以下「本件電子カルテ関連機器等」という。)をB社が調達してI病院に納入するに当たり、Eが経営又は保有する会社を調達経路に介在さ せる必要がないにもかかわらず、これを介在させること等により、A大をして、本件電子カルテ関連機器等を導入するための契約を高値で締結させた上、Eが経営又は保有する会社に売買差益を得させるなどの方法により、D及びEらの利益を図る目的をもって、Dにおいて、上記任務に背き、本件電子カルテ関連機器等は、販売会社等を通じてB社が購入して調達した上、これをB社がリース会社に 売却し、A大がリース会社との間でリース契約を締結して、A大がリース会社か- 3 - ら本件電子カルテ関連機器等のリースを受けてリース料を支払うものであるところ、令和3年4月6日頃までに、B社からA大に対し、本件電子カルテ関連機器等の納入価格につき、本来調達経路に介在させる必要のないF社を介在させ、これに得させる売買差益分を加算して税抜き価格合計8億2360万円と算出した見積書を提出するなどし、A大をして、本件電子カルテ関連機器等をI病院に導 入するため、同見積書の価格からリース会社の割引分を控除した物件価額にリース会社の利息分を加算した金額でリース会社との間でリース契約を締結することを決定させて、同年5月18日頃までに、上記A大学会館におい ため、同見積書の価格からリース会社の割引分を控除した物件価額にリース会社の利息分を加算した金額でリース会社との間でリース契約を締結することを決定させて、同年5月18日頃までに、上記A大学会館において、A大をして、J社との間で、同社がB社から本件電子カルテ関連機器等を購入してA大にリースする旨のリース契約を締結させた上、その頃、F社に代えてG社を本件電子カ ルテ関連機器等の調達経路に介在させることとし、同年6月23日頃、A大が本件電子カルテ関連機器等の引渡しを受けたことにより、同リース契約に基づくリース料支払債務として、G社の売買差益相当額6740万円に上記リース会社による割引分を控除した物件価格に同社の利息分を加算した金額である不必要額6753万7800円分を含む税込価格合計9億0784万9800円の債務を負 担させ、もってA大に6753万7800円の財産上の損害を加えた。 【事実認定の補足説明】 1 弁護人の主張等判示の外形的な事実関係に概ね争いはなく、弁護人は、これを前提としても被告人に背任の共同正犯は成立せず、幇助犯が成立するにとどまると主張する。 また、被告人は、公判において、A大がF社やG社の介在を了承していると思っていた、A大に損害を及ぼすとは思っておらず、Dに利益が流れるとも思っていなかったなどとして、本件における任務違背の認識のほか、損害の事実やその認識、更には図利目的の内容について一部曖昧な供述をするので、以下、これらも併せて検討する。 2 前提事実- 4 - 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ A大の収支改善に向けた取組等ア A大においては、平成20年以降、財政基盤の確立のため、新たな収入源の確保と支出の抑制等を図るべく収益事業会社の設立に向けた検討が 、以下の事実が認められる。 ⑴ A大の収支改善に向けた取組等ア A大においては、平成20年以降、財政基盤の確立のため、新たな収入源の確保と支出の抑制等を図るべく収益事業会社の設立に向けた検討が進められていたところ、B社は、平成22年1月、A大の資本金全額の出資により、事業活動 の収益を寄付・還元することでA大の新たな収入源を確保するとともに、事業を通じて経費削減を支援し、A大の財政基盤の確立に寄与することを目的として設立された。 イ A大は、令和元年5月頃、A大の運営するI病院を含む病院の調達経費削減等による収支改善を図るため、A大医学部・B社との間において、I病院の収 支改善、病院運用マニュアル策定に関する経営改善コンサルティング業務、更にはI病院の締結する医療機器等の契約に関する発注先の選定や、仕様及び価格の適正を確保するための契約コンサルティング業務をそれぞれB社に委託する業務委託契約を締結した。B社の上記アのとおりの設立経緯や設立目的を素地としたこれら業務委託契約の趣旨、内容に基づき、B社は,医療機器等の調達に当たっては、I病 院の収支改善に繋がるよう、価格削減のための提案や納入業者との交渉等、その経費削減のために業務を遂行することが求められ、これによりDは、B社の取締役営業統括として、上記各コンサルティング業務の全般を統括する中で、A大に不必要な債務を負担させること等を避けるなどして、A大のために誠実にその職務を遂行すべき任務を負う立場にあった。 ウ Dは、以前からI病院等における医療材料納入業務等に関与していたC社の代表取締役である被告人に対し、上記各コンサルティング業務の再委託を打診してその了承を得、B社は、同年6月頃、C社との間で、上記各コンサルティング業務をC社に再委託する契約を締結し 与していたC社の代表取締役である被告人に対し、上記各コンサルティング業務の再委託を打診してその了承を得、B社は、同年6月頃、C社との間で、上記各コンサルティング業務をC社に再委託する契約を締結した。 ⑵ 第1の事実について ア被告人は、上記のとおり受託した各コンサルティング業務を遂行する中- 5 - で、令和元年6月頃、B社に対し、I病院の経営改善策の一つとして老朽化した放射線機器類の入れ替えを提案し、Dの了承を得て本件医療機器の導入に向けた準備を開始した。本件医療機器は、B社が購入した上でリース会社に売却し、リース会社が同売値を反映したリース価格でこれをA大にリースすることが予定されていた。 イ被告人は、令和2年1月頃、Dに対し、A大の支払うリース価格が総額 10億円を超える旨報告したところ、Dから、B社及びF社にそれぞれ少なくとも1億円の利益を得させるよう指示を受けるなどした。 なお、F社は、かねてDと親しく、医療法人L会(以下「L会」という。)を含むL会グループを束ねるEが実質的に経営する会社であったが、本件医療機器に関する具体的な業務は一切担当しておらず、その取引にも何ら貢献する実働はなかった。 ウ被告人は、Dの指示に従い、本件医療機器を巡る販売元からA大に至るまでの一連の商流にF社を介在させ、F社に一定の売買差益を得させることとし、同年10月ないし11月頃、Dに対し、このスキームを説明するとともに、C社もその商流に入って利益を得たい旨を併せて依頼し、いずれもDの了承を得た。また、その際、被告人は、Dから、B社がF社と直接取引するのは駄目だと言われ、F社 の存在を外部に露見させないよう指示を受けるなどした。 エそこで、被告人は、同年12月頃、F社が商流に入っていることが外部に Dから、B社がF社と直接取引するのは駄目だと言われ、F社 の存在を外部に露見させないよう指示を受けるなどした。 エそこで、被告人は、同年12月頃、F社が商流に入っていることが外部に露見しないよう、B社とF社との間に他社を介在させ、B社の契約書類等にF社の名前が出ないよう取り計らうとともに、与信リスクの負担等を踏まえ、最終的に、販売元である株式会社MからN株式会社、C社、F社、株式会社O、B社と順次本 件医療機器を売買する商流を築くこととして、Dの了承を得た。また、被告人は、当初の仕入値に3億6000万円の利益を上乗せした価格をB社の売値とすることをDに報告したところ、Dから、そのうち1億5000万円をB社に、1億3000万円をF社にそれぞれ配分するよう指示を受け、その指示に従って各社の売買価格を調整し、Dや各社の了承を得た。 オその後、被告人は、本件医療機器に係るリース契約の締結等について、- 6 - B社職員らと共に、B社によるA大宛ての見積書等、A大内での決裁に必要な書類を作成、提出の上、A大職員への説明を行い、これを受けて、令和3年2月頃、A大内部において所要の決裁がなされたが、その手続の過程において、本件医療機器に係る商流にF社が介在し、売買差益を得ることについては何ら明らかにされていなかった。 カ本件医療機器は、同年3月以降、上記エの商流のとおりに順次売買され、これにより、C社は約5280万円、F社は約1億3860万円、B社は約1億6490万円の利益を得た。A大は、本件医療機器について、判示のとおり、B社を購入業者として、リース会社2社との間でそれぞれリース契約を締結し、その債務を負担した。 ⑶ 第2の事実についてア被告人は、上記各コンサルティング業務 器について、判示のとおり、B社を購入業者として、リース会社2社との間でそれぞれリース契約を締結し、その債務を負担した。 ⑶ 第2の事実についてア被告人は、上記各コンサルティング業務の一環として、保守サービスの終了期限が迫っていたI病院の電子カルテシステムを継続して使用するため、ハードウェアの更新等の延命措置を講ずることとし、令和2年11月頃には、①電子カルテシステムの基盤部分の改修等を販売元であるP株式会社(以下「P社」という。) に、②I病院内のクライアント端末等の調達をQ株式会社(以下「Q社」という。)に、③部門システムの接続調整作業を各ベンダーにそれぞれ依頼するとの方針を立て、Dの了承を得た。 なお、本件電子カルテ関連機器等についても、先の本件医療機器と同様に、B社が購入した上でリース会社に売却し、リース会社が同売値を反映したリース価格で これをA大にリースすることが予定されていた。 イ被告人は、令和3年1月頃から2月頃にかけ、Dに対し、P社やQ社等との交渉経緯を随時報告する中で、本件電子カルテ関連機器等の導入を巡る取引においても、C社を商流に介在させて利益を得たい旨依頼して、その了承を得た。また、その際、Dから、F社を商流に介在させて利益を得させること、取引全体の利 益として20%を確保すること等の指示を受けるなどした。これを受け、被告人は、- 7 - 本件電子カルテ関連機器等の導入に要する費用を約8億円と見込んでいたことから、A大の支払額を10億円程度に設定することとする旨Dに伝えたところ、Dから、B社、F社、C社の各利益配分を1対1対1とするよう指示されるなどした。そこで、被告人は、全体の利益を2億円程度として、B社及びF社への各利益配分を6500万円、C社への利益配分を7000 Dから、B社、F社、C社の各利益配分を1対1対1とするよう指示されるなどした。そこで、被告人は、全体の利益を2億円程度として、B社及びF社への各利益配分を6500万円、C社への利益配分を7000万円程度とする暫定的な方針を提案し、 Dの了承を得た。 ウさらに、被告人は、P社及びQ社がB社との直接取引を希望していたことを踏まえ、上記③の各ベンダーによる部門システムの接続調整作業に係る商流にF社やC社を介在させて売買差益を得させるとの方針を立て、この接続調整作業に要する費用は最大でも3000万円程度と予想されたため、A大が支払う費用を2 億円程度とすれば想定した利益が確保できるなどとして、これをDに提案し、その了承を得た。 エ被告人は、同年2月中旬頃、部門システム担当のベンダーとの交渉を任せていたB社職員に対し、部門システムの接続調整作業費用が合計で2億円となるよう水増しした見積書を各ベンダーに別途作成させるよう指示し、同職員は、その 指示どおり、同接続調整作業を担当する各ベンダーのうち4社から、見積金額を水増しした見積書の提出を受けた。 被告人は、これに上記①②の各取引に係る費用を合わせた見積額を基に、本件電子カルテ関連機器等の導入に向けたB社によるA大宛ての見積書をB社職員に作成させ、同年4月頃、その提出を受けたA大内部において所要の決裁がなされたが、 その手続の過程において、本件電子カルテ関連機器等に係る商流にF社が介在し、売買差益を得ることについては何ら明らかにされていなかった。 オその後、被告人は、部門システムの接続調整作業に係る取引により得られる利益が当初の想定より約3000万円増額する見込みとなったことから、これをDに報告して対応の指示を仰ぎ、その結果、同増額分はC社の利益として配分さ 部門システムの接続調整作業に係る取引により得られる利益が当初の想定より約3000万円増額する見込みとなったことから、これをDに報告して対応の指示を仰ぎ、その結果、同増額分はC社の利益として配分さ れることとなった。 - 8 - カまた、被告人は、先の本件医療機器に係る商流と同様に、F社とB社との直接取引を避ける必要があると考え、そのために介在させる企業をDに確認したところ、R関連企業を商流に入れるよう指示を受けたことから、本件電子カルテ関連機器等につき、各ベンダーからC社、F社、S株式会社、B社と順次売買する商流を築くこととし、各取引の詳細を調整した上、Dと各社の了承を得た。 なお、同年5月下旬頃までには、Eの意向を受け、F社に代わって、Eが全株式を保有する事業実態のないG社をこの商流に介在させることとなった。 キ本件電子カルテ関連機器等は、上記カの商流のとおりに順次売買され、これにより、C社は約1億1000万円、G社は約6740万円、B社は約7160万円の利益を得た。A大は、本件電子カルテ関連機器等について、判示のとおり、 B社を購入業者として、リース会社との間でリース契約を締結し、その債務を負担した。 3 検討以上の前提事実を踏まえ、上記1の弁護人の主張や被告人の供述に現れた諸点について、順次検討を加えることとする。 ⑴ 任務違背の認識についてア本件各商流に介在したF社及びG社(以下、両社を総称して「F社等」という。)は、その経営者であるE個人を含めて考察しても、いずれも本件医療機器、本件電子カルテ関連機器等に係る各取引実現に向けて実働し、貢献した形跡は皆無であり、本件各商流を構築する上で、F社等を介在させる与信上の必要性等も一切 なかったものと認められ も本件医療機器、本件電子カルテ関連機器等に係る各取引実現に向けて実働し、貢献した形跡は皆無であり、本件各商流を構築する上で、F社等を介在させる与信上の必要性等も一切 なかったものと認められる。 そして、Dは、上記2⑴アイのとおり、B社の取締役営業統括として、B社の設立経緯や設立目的を素地としたA大とB社との間の上記各コンサルティング業務委託契約の趣旨、内容に基づき、A大に不必要な債務負担をさせることを避けるなどして、A大のために誠実にその職務を遂行すべき任務を負う立場にあったにも関わ らず、本件医療機器及び本件電子カルテ関連機器等の導入に当たり、これらを調達- 9 - する本件各商流に必要のないF社等を介在させ、A大をして、本来支払う必要のないF社等に得させる利益分が上乗せされた調達価格で各リース契約を締結させ、過大な債務を負担させたと認められるのであるから、このような各行為が、DのA大に対する任務違背に当たることは明らかである。 実際、A大は、各リース契約の締結に至る意思決定の過程において、そうしたF 社等に絡む事実を何ら把握しておらず、仮にこれを把握していれば、各リース契約の締結に至ることはなかったものと認められる。 イその上で、被告人は、B社から上記各コンサルティング業務の再委託を受けたC社の経営者として、当該業務を遂行していたのであるから、A大がI病院等の収支改善に取り組み、不必要な支出を抑制しようとしていたことや、B社の取 締役営業統括であるDが上記任務を負う立場にあることを当然に認識していたものと認められる。また、被告人は、上記2の一連の事実経過から明らかなとおり、その業務遂行の一環として、自ら本件各商流の構築を担っていたもので、こうした被告人の本件各取引への関与の経緯、状況等に照らせば、 認められる。また、被告人は、上記2の一連の事実経過から明らかなとおり、その業務遂行の一環として、自ら本件各商流の構築を担っていたもので、こうした被告人の本件各取引への関与の経緯、状況等に照らせば、本件各取引において、F社等には何らの実働も貢献もなく、商流を構築する上での与信上の必要性等もなかっ たこと、更にはF社等の介在によってA大が支払うリース料が相応に増加し、ひいてはA大に過大な債務負担を強いて、本来A大として承服しかねる結果を招くことについても、当然これを認識するところであったというべきである。 加えて、被告人は、上記2⑵ウエ、同⑶カのとおり、Dの指示を受け、F社等がB社と直接取引するのを避け、A大に対しては、F社等が本件各商流に介在して利 益を得ていることを一切説明せず、F社等の存在やその利得がA大に露見しないよう配意していたのであり、これはまさに、F社等を本件各商流に介在させることがA大の意思に背く行為であることを被告人自身認識していたことの証左とみることができる。 これらからすれば、被告人の本件任務違背の認識に疑いを容れる余地はない。 ウなお、被告人は、公判において、第2の事実について、A大の常務理事- 10 - でありB社の代表取締役でもあるTの部屋で説明をしたから、F社等の介在をA大が了承していると思っていたなどと供述する。 しかし、そもそも、被告人のいう説明の相手方であるA大本部の管財部長Uは、その際、F社等が本件各商流に介在して利益を得ることについて一切説明を受けていなかった旨明確に述べているところ、被告人の上記供述は、全体としてやや曖昧 で、必ずしも具体的な根拠を伴うものではなく、また、仮にT個人の了承があったとしても、そのことのみからA大の意思決定としての了承があったと直ち いるところ、被告人の上記供述は、全体としてやや曖昧 で、必ずしも具体的な根拠を伴うものではなく、また、仮にT個人の了承があったとしても、そのことのみからA大の意思決定としての了承があったと直ちにいえるものでもない。 さらに、被告人は、第1の事実について、F社を商流に介在させたのは、A大とEが経営するL会との間で、何らかの事情があるのかもしれないと考えていたなど とも供述するが、その理由としては、A大とL会との間に、医師の派遣等の大きな取組があるのかもしれないなどとおぼろげながら想像したというにとどまり、これもまた具体的な根拠を伴うものではなく、憶測の域を出ない。 被告人の供述を勘案しても、上記イの認定は揺るがない。 ⑵ 損害の事実及びその認識について ア上記⑴アイで既に言及したとおり、被告人らの任務違背行為により、A大は、本件各取引において、F社等に得させる利益分が上乗せされた過大なリース料を現に負担することとなったのであるから、これが、A大にとっての損害と評価すべきものであることは明らかであり、被告人自身、その認識に欠けるところはなかったものと認められる。 イこれに対し、被告人は、当時、A大に損害を及ぼしているという認識はなかったと供述するが、その趣旨は、要するに、コンサルタントして、これまで、I病院等の収支を大幅に改善し、本件電子カルテ関連機器等の価格も当初提示された額から大幅に抑制することに寄与してきたところ,その貢献を考えれば、これによりA大が得た利益は、本件各取引でA大が過大に負担することとなった債務額よ りも大きいから、全体としてみれば、A大には損害を及ぼしていないというものと- 11 - 解される。 しかし、他の場面でA大の収支改善にどれほど貢献しているからといって、本件 務額よ りも大きいから、全体としてみれば、A大には損害を及ぼしていないというものと- 11 - 解される。 しかし、他の場面でA大の収支改善にどれほど貢献しているからといって、本件各取引において、A大の了承を得ずに、何ら関係のないF社等に利益を得させ、その利益分を上乗せした過大な債務をA大に負担させること、すなわち、本来負担する必要のない債務をA大に負担させることが、C社がB社から再委託されたコンサ ルティング業務委託契約の趣旨に反し、A大に損害をもたらすことは明らかというべきであり、被告人指摘の点は上記損害の認定を左右しない。ひいては、本件各商流の構築を担った被告人において、その損害の認識がなかったなどともおよそ想定する余地はない。また、被告人が本件電子カルテ関連機器等の取引において価格を抑制したと主張する点についても、受託したコンサルタントとして当然の任務を遂 行したに過ぎず、そのように価格を抑制した分、不要な債務を負担させることが許容されるというものでもない。 これら被告人の供述を勘案しても、本件損害の事実やその被告人の認識に疑いを容れる余地はない。 ⑶ 図利目的の内容について ア D及びEは、判示のとおり、それぞれ自身らの利益を図る目的で、互いに意を通じて本件各取引を行い、事後には,F社等が売買差益を得た謝礼等の趣旨でEからDに相応の金銭が供与された事実が認められる。 イこの点、被告人は、公判において、本件各取引により、利益がEらに渡ることは認識しつつも、これがDに還流されるとは全く思っていなかったなどと供 述する。 しかし、Dは、一貫して、本件各商流にF社等を介在させ、売買差益を得させることにこだわり、被告人に対し、その具体的な利益配分の金額等まで特定して、強 く思っていなかったなどと供 述する。 しかし、Dは、一貫して、本件各商流にF社等を介在させ、売買差益を得させることにこだわり、被告人に対し、その具体的な利益配分の金額等まで特定して、強く指示するなどしていたもので、上記2⑵⑶の経緯にみられるこれら一連のDの言動等に照らせば、Dの指示する内容がD自身の利得に一切繋がらないなどと考える ことは極めて不自然というほかはなく、被告人は、事の詳細までは分からずとも、- 12 - 少なくとも、Dの指示に従うことでそれがD自身の利得にも繋がる可能性を相応に認識していたものと認めるのが相当であり、これを否定する被告人の供述はにわかに信用することができない。 ウしたがって、被告人は、本件各取引のいずれにおいても、D及びEと共に、判示のとおり、「D及びEらの利益を図る目的」を有していたと認められる。 ⑷ 共同正犯の成否についてア関係証拠を総合し、これまでの検討も踏まえれば、被告人は、D及びEと意を通じて本件各取引の実行に寄与し、判示各背任の犯行に関与したものと認められる。 そして、被告人は、いずれもDの指示に基づき、本件各取引に何らの実働も貢献 もしていないF社等に利益を得させるため、F社等を商流に組み込んで売買差益を得させるスキームを考案し、さらに、F社等が介在したことが外部に露見しないよう本件各商流を具体的に構築し、各商流に入る各社と協議しながらそれぞれの調達価格を定めるとともに、F社等の介在を秘した上でA大内での決裁の算段を整え、現実に本件各取引を実行させてF社等にそれぞれ利益を得させ、A大に損害を与え たものである。このように、被告人は、Dらの意図を具体化する犯行スキームの考案をはじめ、本件各犯行を遂行する上で終始核となる地位にあり、重要か てF社等にそれぞれ利益を得させ、A大に損害を与え たものである。このように、被告人は、Dらの意図を具体化する犯行スキームの考案をはじめ、本件各犯行を遂行する上で終始核となる地位にあり、重要かつ必要不可欠な役割を果たしている。 加えて、被告人は、B社で権勢を振るうDとの良好な関係を築き維持することが、今後のA大関連の仕事を確保し、将来的な自身の営業利益に繋がるなどとも考えて その指示に従い、また、Dに対し、自身が代表取締役を務めるC社を本件各商流に介在させて報酬を得たい旨依頼して了承を取り付け、相応の利益を手にしたもので、これが被告人の実働への応分の報酬といった意味合いがあったことも否定できないとはいえ、いずれにせよ、本件各取引を成立させることは、被告人自身やC社の利益の確保に直接繋がるものであったと考えられるのであるから、被告人は、これら の意図をもって主体的かつ積極的に本件各犯行に関与したものと認められる。 - 13 - イこれに対し、弁護人は、被告人の刑責が幇助犯にとどまる理由として、❶ 本件の主犯格はDであり、被告人は、Dの命令に従って本件各取引における事務手続を行ったに過ぎない、❷ 本件は専らDやEらが利益を得る目的で計画、実行されたものであり、被告人はその目的を知らされておらず、図利加害目的について具体的な認識がない上、事件の全貌を把握して行動もしてもいない、❸ 被告人 は、本件各犯行によりF社等が得た売買差益、すなわちDらが得た利益の分配を受けておらず、本件各犯行により自身が利益を得たわけではなく、犯行に加担する積極的動機がない、などと主張する。 しかし、❶については、被告人が、Dの指示に従うことで自身の利益にも繋がるものと考え、主体的かつ積極的に各犯行に加担し、重要かつ必要不可欠な役割を果 行に加担する積極的動機がない、などと主張する。 しかし、❶については、被告人が、Dの指示に従うことで自身の利益にも繋がるものと考え、主体的かつ積極的に各犯行に加担し、重要かつ必要不可欠な役割を果 たしたと認められることは上記アで既に述べたとおりである。また、❷についても、被告人に判示のとおり「D及びEらの利益を図る目的」が認められることは上記⑶で既に述べたとおりであり,これを超えて,被告人が,DとEとの間の利益の分配等の全容を知る立場になかったとしても、何ら本件における共同正犯の成否を左右しない。さらに、❸についても、確かに、被告人は、本件各犯行によりF社等が得 た売買差益そのものから、直接利益の分配を受けたものではないものの、他方において、上記アで既に述べたとおり、被告人は、Dとの良好な関係を築き維持することで将来的な利益を目論み、また、本件各商流に自ら経営するC社を介在させて相応の利益を得ているのであって、本件各取引の成否に強い利害関係を有していたと認められることは明らかというべきであるから、被告人に本件各犯行に加担する積 極的動機がなかったなどとする指摘は的を射ない。 ウそこで、被告人が本件各犯行の遂行に果たした役割やその関与の程度等、上記アでみた一連の事情を適切に総合すれば、本件における被告人の罪責が幇助犯のそれにとどまるなどとは到底評価することができず、被告人は、判示各背任罪について共同正犯としての罪責を免れない。 【量刑の理由】- 14 - 本件各背任の被害額は合計1億9800万円余りにも上り、被害結果は重大である。何らの貢献も実働もない共犯者の会社を各取引の商流に介在させて利益を得させる一方で、その商流の構築に当たっては、これがA大に露見しないよう画策し、A大内部での決裁に にも上り、被害結果は重大である。何らの貢献も実働もない共犯者の会社を各取引の商流に介在させて利益を得させる一方で、その商流の構築に当たっては、これがA大に露見しないよう画策し、A大内部での決裁に必要な書類の体裁を整えるなど、犯行の態様も巧妙である。 被告人は、B社で権勢を振るう共犯者の指示に従うことで、今後もA大関連の取 引に関与して利益を拡大できるなどと考え、各取引の具体的なスキームを自ら立案して実行し、各犯行の遂行に重要かつ必要不可欠な役割を果たしたもので、その刑責は相応に重い。 もっとも、被告人は、B社からコンサルティング業務の再委託を受けた立場にあり、本件各犯行による共犯者の利得そのものから分配を受ける地位にあったもので もない。各犯行への関与になお従属的とみる側面があることは否めない。 そのほか、被告人は、A大の収支改善のためのコンサルティング契約に基づき、かねて多額の赤字を計上していたI病院等の経営改善に取り組み、一定の成果を上げていること、前科前歴はないこと、C社の監査役が今後の監督を約束する旨証言したこと等、被告人のために酌むべき事情もある。 そこで、以上を総合すれば、被告人に対しては、主文の刑を科した上、特に主文の期間その刑の執行を猶予するのが相当である。 (求刑-懲役2年6か月)令和4年10月19日東京地方裁判所刑事第11部 裁判長裁判官神田大助 裁判官向井亜紀子 - 15 - 裁判官池田翔平 裁判官池田翔平

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