【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄する。 被告人を懲役七月に処する。 原審における未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入する。 この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶
主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役七月に処する。 原審における未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入する。 この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。 理由 本件控訴の趣意は、被告人本人の控訴趣意書及び弁護人伊達秋雄、同佐藤博史、同山嵜進連名の控訴趣意書(ただし、弁護人伊達秋雄の上申書により訂正するほか、同趣意書六〇頁四行目に「関連に」とあるのを「関連は」と、同八八頁七行目に「ナンバー」とあるのを「メンバー」と訂正した。)に、これに対する答弁は、検察官親崎定雄の答弁書及び意見要旨に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。 弁護人らの控訴趣意第一点及び被告人本人の控訴趣意冒頭の部分のうち爆発物取締罰則(以下、「同罰則」と略称する。)三条による公訴提起は公訴棄却されるべきであつたと主張する点について所論は、原判決は同罰則三条、火薬類取締法五九条二号、二一条違反の訴因による本件公訴を適法なものとして受理し、被告人を同罰則六条により有罪であるとしたが、本件公訴は同罰則三条の罪の嫌疑なくして提起された、いわゆる嫌疑なき見込み起訴であり、したがつて公訴権濫用を理由に公訴を棄却されなくてはならなかつたのであつて、原判決は不法に公訴を受理した違法がある、というのである。 しかし、原審記録によれば、本件の爆発物たるダイナマイト四本は昭和四七年九月中旬ごろから同年一〇月下旬ごろまでの間前後四回にわたり被告人によつて兵庫県宝塚市aのトンネル工事現場で拾得されたものであるが、被告人はこれと共にかなりの破壊力を持つ黒色火薬ようのもの約一八八グラムを昭和五一年一〇月一八日までの約四年間の長期にわたり、しかも四回の住居移転につれて、すなわち前記トンネル工事現場宿舎 あるが、被告人はこれと共にかなりの破壊力を持つ黒色火薬ようのもの約一八八グラムを昭和五一年一〇月一八日までの約四年間の長期にわたり、しかも四回の住居移転につれて、すなわち前記トンネル工事現場宿舎、大阪府池田市内のA方、東京都板橋区内のB荘のC方、同都中野区内のD荘の自室及び同都板橋区内の自宅において所持していたこと、昭和五一年一〇月一三日E派の最高幹部たるFが爆発物取締罰則違反の容疑で逮捕されたところ、たまたま同人の居室から押収されたG名義の報告メモの中に同派幹部HことIに関する報告等と共に「その他の荷物の保管場所」として、被告人の住所、氏名が記載され、被告人がE派の協力者か、或はシンパとも推定されたので同月一八日に被告人方を捜索した結果、本件ダイナマイト四本、花火をほぐして集めた黒色火薬ようのもの約一八八グラム、マツチの軸木の頭薬を削つたようなもの約二・四グラムと共にE派の機関誌「J」及び「K主義」各一部が発見されたこと、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書の内容などから、検察官は、被告人を同罰則三条の罪で起訴相当と解したものと理解できるのである。 したがつて、本件起訴がいわゆる嫌疑なき見込み起訴であつたとは考えられないから、他の論点に対する判断をまつまでもなく本件公訴提起が公訴権濫用を理由として棄却さるべきであつたといえないことは明らかである。 そうすると、原判決には不法に公訴を受理した違法はなく、論旨は採用することができない。 弁護人らの控訴趣意第二点及び被告人本人の控訴趣意一について所論は、原判決は同罰則三条の罪の訴因で起訴された被告人に対し、訴因罰条の変更手続を経ることなく、同罰則六条の罪で有罪としたが、同罰則三条の罪の訴因のまま同罰則六条の罪の成立を認めることは許されないから、原判決には審判の請求を受けな で起訴された被告人に対し、訴因罰条の変更手続を経ることなく、同罰則六条の罪で有罪としたが、同罰則三条の罪の訴因のまま同罰則六条の罪の成立を認めることは許されないから、原判決には審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるというのである。 しかし、同罰則三条の罪の訴因には、同罰則一条の目的、即ち「治安を妨げ又は人の身体財産を害する目的」が掲げられているのであるから、右訴因の変更手続を経ずして同罰則六条の罪で処断しても被告人の防禦権を侵害した違法があるということはできない、といえる(最高裁昭和三〇年一〇月一八日第三小法廷判決・刑集九巻一一号二二二四頁参照)。 付言すれば、本件の原審における審理経過をみても、被告人・弁護人は同罰条六条によつて処断されることをも予想し、その防禦に努めてきたことが認められるのであつて、被告人側の防禦に実質的な不利益があつたとは考えられない。 したがつて、原判決には審判の請求を受けない事件について判決をした違法はなく、論旨は理由がない。 弁護人らの控訴趣意第三点及び被告人本人の控訴趣意五について所論は、原判決は、「同罰則六条の罪の成立について」と題して、「前記一の1ないし6の事実によると、被告人に治安を妨げ人の身体財産を害する目的がなかつたとはいえず、右目的の不存在が証明されなかつたことに帰する。」と判示しているが、原判決が認定した右にいわゆる1ないし6の事実のなかには、被告人が治安を妨げ又は人の身体財産を害する目的で本件ダイナマイトを所持していたのではないかとの嫌疑を生ぜしめるものがあることは確かであるとしても、かかる嫌疑を打ち消すに足る、あるいは少なくともかかる嫌疑を打ち消す方向に作用するものも存在するのであつて、被告人が同罰則六条の罪につき有罪であることの理由として原判決が判示するところには しても、かかる嫌疑を打ち消すに足る、あるいは少なくともかかる嫌疑を打ち消す方向に作用するものも存在するのであつて、被告人が同罰則六条の罪につき有罪であることの理由として原判決が判示するところには矛盾撞着がある、原判決の理由に右のごとき、くい違いが生じたのは、原判決において被告人が同罰則六条の罪につき有罪であることの理由として、同罰則三条の罪につき無罪であることを論じた部分全部を援用したためであるが、同罰則三条の罪と同罰則六条の罪とでは主観的構成要件要素につき挙証責任が逆になつているのであつて、検察官の立証責任が尽されなかつたことの判示(同罰則三条の罪の無罪理由)が同時に被告人側の立証責任が尽されなかつたことの判示(同罰則六条の罪の有罪理由)であることは論理的にあり得ないのであつて、原判決には理由を付さない違法及び理由にくい違いのある違法があるというのである。 しかし、原判決が理由中の「(補足説明)一、同罰則三条の罪の不成立について。」と題する項において認定説示するところによれば、原判決はその挙示する関係各証拠により同一の項の1ないし6の事実を認定し、これらの事実によれば、被告人が治安を妨げ、または人(いうまでもなく、被告人以外の他人を意味する。)の身体財産を害する目的で本件ダイナマイトを所持していたのではないかという疑いは残るものの、積極的に右目的をもつていたと認定することは困難であり、同罰則三条については無罪であるとしているのであつて、原審においてこのように被告人が治安を妨げ、または人の身体財産を害する目的で本件ダイナマイトを所持していたのではないかという疑いが残ると解した以上、被告人は同罰則六条にいう第一条に記載したる犯罪の目的にあらざることを証明し得なかつたことにほかならないというべきであるから、原判決が同罰則六条の罪の有罪 たのではないかという疑いが残ると解した以上、被告人は同罰則六条にいう第一条に記載したる犯罪の目的にあらざることを証明し得なかつたことにほかならないというべきであるから、原判決が同罰則六条の罪の有罪理由として同罰則三条の罪の無罪理由を引用したことにつき、原判決自体につき理由不備や理由のくい違いはないのである。 また、原判決が前記(補足説明)の一の「同罰則三条の罪の不成立について」と題する項の1ないし6において認定している事案の中には被告人が治安を妨げ又は人の身体財産を害する目的で本件ダイナマイトを所持していたのではないかとの嫌疑を生ぜしめる事実のほかに、このような嫌疑を打ち消す方向に作用する事実も含まれていることは所論の主張するとおりであるけれども、原判決は後者の事実をも無視できないとしつつ、帰するところ、全体的にみて被告人が治安を妨げ、又は人の身体財産を害する目的で本件ダイナマイトを所持していたのではないかという疑いは残るものの、他方積極的に右目的をもつていたと認定することは困難であるとしているのであるから、原判決自体の理由に矛盾撞着があるとは解されない。 論旨には賛同できない。 被告人本人の控訴趣意二について所論は、原判決は、被告人に同罰則六条の挙証責任を課し、その証明ができなかつた旨認定しているが、そうであるならば被告人が同罰則につき無罪であることを立証するため、E派との関係やダイナマイトを使用する意思などに対する反論として提出した全ての証拠に対し判断と見解を示すべきであるのに、これをしていないのは理由不備であると主張する。 しかし原判決は、被告人が同罰則につき無罪であることを立証するために提出した証拠を含む全証拠を検討し、被告人が治安を妨げ人の身体財産を害する目的をもつて本件ダイナマイトを所持していたのではないかとの疑い し原判決は、被告人が同罰則につき無罪であることを立証するために提出した証拠を含む全証拠を検討し、被告人が治安を妨げ人の身体財産を害する目的をもつて本件ダイナマイトを所持していたのではないかとの疑いは残る、すなわち被告人は同罰則第一条に記載した犯罪の目的がなかつたことを証明できなかつた旨判断しているのであつて、原判決の証拠の標目に掲げられている証拠以外の証拠を考慮しなかつた訳ではない。 なお、同罰則六条の罪の有罪判決の理由として、被告人が無罪を立証するために提出した全ての証拠に対し、個別的に判断を示すことが要求されているわけではないから、原判決が被告人側が提出した全ての証拠に対し判断と見解を示していないとしても、なんら理由不備ではない。 論旨は採用できない。 弁護人らの控訴趣意第五点及び被告人本人の控訴趣意四について所論は、原判決は「被告人が治安を妨げ又は人の身体財産を害する目的で本件ダイナマイトを所持していたのではないかという疑いは残る」として、被告人の本件ダイナマイト所持の目的が、「治安を妨げ人の身体財産を害するためでないことを証明することができないものである。」と認定判示しているが、被告人には原判決のいうような疑いは残つておらず、被告人は本件ダイナマイト所持の目的が、「治安を妨げ人の身体財産を害するため」でないことを証明し得たというべきであるから、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があるというのである。 そこで、所論に対し検討を加える。 まず、原判決が挙示する関係証拠によると、次の事実が認められる。 <要旨>1 被告人は、昭和四七年九月中旬ころから同年一〇月下旬ころまでの間に、当時土工として働いていた兵庫</要旨>県宝塚市内の原判示Lトンネル工事現場で作業中に「ずり」(ダイナマイトの爆発によつて崩れた岩石 被告人は、昭和四七年九月中旬ころから同年一〇月下旬ころまでの間に、当時土工として働いていた兵庫</要旨>県宝塚市内の原判示Lトンネル工事現場で作業中に「ずり」(ダイナマイトの爆発によつて崩れた岩石土砂類)の中で、不発のまま残つていた本件ダイナマイト四本を次々に発見拾得し、昭和四七年一〇月下旬ころから昭和五一年一〇月一八日までの間、前記Lトンネル工事現場宿舎、大阪府池田市bc丁目d番e号M荘のA方、東京都板橋区fg丁目h番i号B荘のC方、同都中野区jk丁目l番m号D荘の自室及び同都板橋区fn丁目o番p号の自宅においてこれを所持していた。 2 本件ダイナマイト四本は、昭和五一年一〇月一八日東京都板橋区fn丁目o番p号の当時の被告人の自宅の押入れの中から、アーモンドスカツチ缶入りの黒色火薬ようのもの約一八八グラム(東京高裁昭和五三年押第三〇五号の4)及ひアルミはく包みのマツチの軸木の頭薬を削つたようなもの約二・四グラム(同号の5)とともに発見されたものである。なお、この時に当時の被告人の自宅からE派の機関紙である「K主義」一六号一冊(同号の1)及び「J」二〇号一部(同号の2)が発見されている。 3 本件ダイナマイト四本等が前記当時の被告人の自宅から発見されるに至つた経緯は次のとおりである。 E派は、自衛隊、警察等の国家権力に対して爆弾等による武装闘争を行うことを主張する政治組織で、これまでに爆発物の使用事件を起したことがあり、昭和五一年一〇月一三日にはそのシンパであるN方から大量のピクリン酸(爆薬)等が発見されていたところ、そのころ同派の最高幹部であるF方から発見されたG名義の報告メモの中に、同派幹部HことIに関する報告等とともに「その他の荷物の保管場所」として被告人の住所・氏名が記載されていたため、被告人がE派の協力者又はシンパとも 部であるF方から発見されたG名義の報告メモの中に、同派幹部HことIに関する報告等とともに「その他の荷物の保管場所」として被告人の住所・氏名が記載されていたため、被告人がE派の協力者又はシンパとも推定され、同派のためになんらかの証拠物を保管しているのではないかと疑われたので、当時の被告人方自宅が捜索されるに至つたものである。 4 前記G名義の報告メモの作成者Gは、E派の組織の一員とみられるOことP(原判決がPことOとしているのは誤りであると認められる。)であるところ、被告人は昭和四六年暮ころ同女と知り合い、昭和五〇年夏以降に同派の闘争方針等を窺い知ることの可能な同派の機関紙「K主義」一六号一冊及び「J」二〇号一部を貰い受けて自宅に置いていたほか、同女から「郵便物を預つて欲しい。公安にマークされているかも知れない。いろいろ困つているので郵便物の配達先を貴方の所にして欲しい。」などと言われ、同女の書類等を預つたり、Qという偽名で郵送されて来る郵便物を受け取つたりし、その一部を池袋の喫茶店まで持参してPに引き渡したこともあつた。 このようなことから被告人の住所・氏名が同女によつてG名義の報告メモに記載されるに至つたものと考えられる。、被告人がPの前記の依頼を引き受けた理由につき、被告人は「自分も左翼的でありたいという心情を持ちながらなにもしていないという、うしろめたさを左翼的な活動をしている人達に感じており、今の自分が最大限同女にしてやれることはこれぐらいのことしかないと思つたためである。」旨供述している。 5 被告人は、本件ダイナマイトを拾得した当時以降の心情について、捜査段階ては、「当時の記憶が薄れ、はつきりはしませんが、使用する目的もありませんでしたので、ただ単に『緊張感を得るがために持ち出した様な感じ』で拾いあげ持ち帰つたので した当時以降の心情について、捜査段階ては、「当時の記憶が薄れ、はつきりはしませんが、使用する目的もありませんでしたので、ただ単に『緊張感を得るがために持ち出した様な感じ』で拾いあげ持ち帰つたのです。」(被告人の司法警察員に対する昭和五一年一〇月一九日付供述調書)、「僕は東京にいた当時から非常に暗い気持で生活していました。大学での学問自体や学生運動に対する僕内部での挫折や失望から大学をやめる決心をし、反対されながら入つた大学をやめたといううしろめたさや対人関係のわずらわしさからアパートを出て家族から消息を絶ちました。その頃うまくいつていなかつた今の妻とふと街で会つたということがきつかけになり、また東京には当時僕の兄がいたということもあつて、急に大阪に行く気持ちになりました。その様な生活の中で反権力という言葉だけを繰り返していたように思います。関西というなれない、また言葉の違う土地で僕の気持は一層内向し緊張していたようです。その緊張の中でダイナマイトを拾いあつめるという行為がなされたと思います。そのダイナマイトを反権力の武器に自分ができるのか、またそのダイナマイトで自分を爆死させることができるのかという破滅的な考えと、まつたく逆にこのような生活の疲れと飯場暮しのみじめさからくる安定した生活をしたいという二つの考えが当時の僕に同居していました。」(被告人の司法警察員に対する同月二五日付供述調書)、「私がダイナマイト四本を花火をときほぐしたり、マツチの軸を削つてためたものに加えて持つておこうという気持になつたのは、そのころそういうものを持つているという緊張感の中で反権力の姿勢を自分なりに持ち続けているのだということのあらわれとして保管していたものなのです。私は具体的にそれらのものを使つて爆弾を作る技術もなければ、そこまでふんぎる思想性もあり う緊張感の中で反権力の姿勢を自分なりに持ち続けているのだということのあらわれとして保管していたものなのです。私は具体的にそれらのものを使つて爆弾を作る技術もなければ、そこまでふんぎる思想性もありませんでしたが、漠然とこのようなダイナマイトなどを武器として権力を粉砕するという破滅的な考えがありました。 また、当時実家から消息を絶ち大阪に流れてきて生活している自分自身の存在に嫌気がさして、このダイナマイトなどで自爆してやろうかという意味での破滅的な考えもありました。ところで一方、私はこのへんで落着いた平穏な生活をしたいという気持もあつて、破滅的な考えと入りまじり、もんもんとしていましたが、落着いた生活をしたいという気持が勝つて東京に戻つてきたわけです。しかしさきに述べた破滅的な気持もぬぐい去ることができず、またダイナマイトのような危険なものをそう簡単に捨てられないということから東京に持ち帰つてきました。しかし、D荘に暮すようになつてからは、もうこのような破滅的な気持はなくなつたのですが、ダイナマイトはそのままずるずると持つていたのです。」(被告人の検察官に対する同月二六日付供述調書)などと供述し、原審公判廷においては、「不発のダイナマイトを拾つて持ち帰つた動機は、改めてじつくり考えれば考えるほど、人に対する言葉による説明がむつかしい気がしますが、基本的には一〇月一九日の調書で述べた気持が言葉としても最も正確ではないかと思います。それ以後の調書にさまざまな具体的な気持の動きをあげていますが、取調官に具体的な説明をしつこく要求されるうちに、あんな気持もあつたのではないか、こんな気持もあつたのではないか、というふうにあげられて、かえつて本当のところから遠くなつているように思います。人に言葉で説明できるほどの理由とか目的などはないというのが本当 もあつたのではないか、こんな気持もあつたのではないか、というふうにあげられて、かえつて本当のところから遠くなつているように思います。人に言葉で説明できるほどの理由とか目的などはないというのが本当のところです。一〇月二六日付検面調書に『漠然とこのようなダイナマイトなどを武器として、権力を粉砕するという破滅的な考えを持つていた』という供述がありますが、当時いろんな破滅的な考えが頭の中でうず巻いていた中で、ダイナマイトを拾つてしまつて、それを目の前にしてそういう方法で自分を破滅させることができると考えたことは否定しませんが、それは取調官の前では恥ずかしくていえなかつたほかのこと、たとえばその当時の恋愛問題とか、「気狂いピエロ」の映画を思い描いて爆死を思つたことなどと同じ次元のことで、ダイナマイトを拾つてから考えたさまざまなことの一つで、そのようなことを思いつめたうえでダイナマイトを拾おうと決心したのでは決してありません。」などと供述している。 6 本件ダイナマイトと一緒に発見されたアーモンドスカツチ缶入りの黒色火薬ようのもの約一八八グラムは、被告人が昭和四七年六月ごろに約二〇本の花火をほぐして缶に入れていたもので、黒色火薬と変わらない成分、効力を持つものであつた。 同じくアルミはく包みのマツチの軸木の頭薬を削つたようなもの約二・四グラムは、被告人がそのころ二、三〇本のマツチの軸木の頭薬の部分を削つてアルミはくに包んでおいたものであつた。 被告人は、これらのものをシヨルダーバツグの中に入れておいたが、同年七月ごろわずかな身の回り品だけを携えて東京から大阪へ行つた際、これらの物も一緒に持つて行き、本件ダイナマイトを拾得した後においては、これらの物をダイナマイトと一緒に保管していた。 これらの物を所持していた理由につき、被告人は捜査段階で「 から大阪へ行つた際、これらの物も一緒に持つて行き、本件ダイナマイトを拾得した後においては、これらの物をダイナマイトと一緒に保管していた。 これらの物を所持していた理由につき、被告人は捜査段階で「花火をときほぐした直接のきつかけはほんの手なぐさみにほぐしてみようということだつたのですが、それを集めて、捨てずにビンに入れるなどして私が所持していたのは、そのころから自分の胸の中でつぶやき始めていた反権力という気持からでした。」(被告人の検察官に対する昭和五一年一〇月二六日付供述調書)と供述している。 7 被告人はR大学S学部二部(夜間)の学生であつた昭和四四年ごろから、左翼的な思想を持つて学園紛争に参加したりしていたが(当時被告人は大学内のロシヤ文学の研究会にも入つたが、中途退学した。)、いわゆるT闘争が極度に緊張していた昭和四六年九月ごろ、援農をかねて第二次強制収用の模様を見届けるためUへ出かけ、VやWの団結小屋付近をはいかいした後、市民団体のための仮泊所に泊つて援農先をさがし、見付けた援農先に寝泊りして援農をし、その後も何回か援農に出かけていた。 以上認定の事実によれば、被告人が本件ダイナマイトを所持した目的が同罰則一条に記載した犯罪の目的、すなわち「治安を妨げ又は人の身体財産を害せんとする目的」であつたのではないかという嫌疑を生ずることは否定できない。 しかし関係証拠により、さらに検討するとこのような嫌疑を否定するのに役立つ有力な事実が存在することが認められる。 まず、関係証拠によると、昭和五一年一〇月一三日E派の最高幹部F、Xらが逮捕され、同派のシンパであるN方から爆薬であるピクリン酸約五キロ等が発見され、そのことがテレビ等で報道されたため被告人もその事実を知り、妻Yとの間で本件ダイナマイトのことを食卓の話題にしたものの、何ら され、同派のシンパであるN方から爆薬であるピクリン酸約五キロ等が発見され、そのことがテレビ等で報道されたため被告人もその事実を知り、妻Yとの間で本件ダイナマイトのことを食卓の話題にしたものの、何らの措置もとらないまま同月一八日前記の捜索を受けるに至つたこと、被告人は前記認定のようにPから依頼されて書類等を保管してやつていたが、同女は被告人方が捜索される前である同月一六日に被告人方に預けていた書類等を全部引き揚げていつたこと、同女はそのころ被告人の妻の友人であるZ方に預けてあつた書類等をも全部引き揚げていつたことが認められる。 これらの事実によれば、PはE派の最高幹部であるFらが逮捕され、かつ証拠を押収されたことにより、近く被告人方等が警察の捜索を受けることを予想し、被告人方等に預けてあつた書類等を引き揚げて行つたものと考えられるところ、本件ダイナマイトについては何らの措置もとられないまま警察の捜索を受けるに至つているのであつて、このことからすれば本件ダイナマイトはE派とは全く関係のないものであつたと認められるのである。 そうすると、被告人につきE派との関係から同罰則一条の犯罪の目的の嫌疑を肯定することは適当ではないといわなければならない。 次に関係証拠によると、被告人はダイナマイトを爆発させるためには導火線や雷管が必要であることを知つており、被告人が本件ダイナマイトを発見、拾得した前記Lトンネル工事現場ではこれらのものも容易に入手し得たと考えられるのに、被告人がこれらのものを入手し、又は入手しようとしたことはないこと、被告人が本件ダイナマイトを現実に自ら使用しようとしたことはなく、もとより他人をしてこれを使用させようとしたこともないことが認められる。 前記のように、被告人は捜査官に対する供述調書の中で「ダイナマイトを反権力の武器 イトを現実に自ら使用しようとしたことはなく、もとより他人をしてこれを使用させようとしたこともないことが認められる。 前記のように、被告人は捜査官に対する供述調書の中で「ダイナマイトを反権力の武器にできるのかという破滅的な考えがあつた。」とか「ダイナマイトなどを武器として権力を粉砕するという破滅的な考えがありました。」と供述しており、被告人がこのような考えを抱いたことがあつたものと認められ、このような考えが「治安を妨げ又は人の身体財産を害せんとするの目的」と結びつくことは否定し難いのであるが被告人が抱いた考えはダイナマイトを武器に権力を粉砕するという抽象的なものに止まり、それ以上になんらの具体的な内容を持つていなかつたものであつて、被告人がダイナマイトを使用するのに必要な導火線や雷管が容易に入手できる状況にあつたのにこれを入手しようとしたことはなかつたこと、被告人が本件ダイナマイトを現実に使用しようとしたことはなかつたと認められることをも考え合わせると、前記の被告人の抱いた考えはきわめて観念的、非現実的なものであつたといわなければならない。 ところで、同罰則一条は爆発物の使用が「治安を妨げ又は人の身体、財産を害せんとするの目的」をもつこと、すなわち、公共の秩序と安全を侵害し、又は自己以外の他人の生命、身体、財産を損壊する目的をもつことを要件として、いわゆる目的犯として重罰を以て臨んでいることに徴すると、その目的の内容たる事実の認識については相当に明白であつて、確定したものでなければならないと解されるのである。 そうすると、被告人が抱いていた前記のような観念的・非現実的な考えを目して、「治安を妨げ又は人の身体、財産を害せんとするの目的」があつたと言えないことは勿論、被告人がこのような考えを抱いていたことを根拠に「治安を妨げ又は人の身 前記のような観念的・非現実的な考えを目して、「治安を妨げ又は人の身体、財産を害せんとするの目的」があつたと言えないことは勿論、被告人がこのような考えを抱いていたことを根拠に「治安を妨げ又は人の身体、財産を害せんとするの目的」があつた嫌疑があるとすることも相当でないといわなければならない。 その他、被告人が左翼的、反権力的な心情を持つていたとか、被告人がUの農家へ何回か援農に出かけていた等といつた事実も被告人につき「治安を妨げ又は人の身体、財産を害せんとするの目的」があつた嫌疑を肯定する根拠とはならないのである。 結局、被告人が本件ダイナマイトを所持した目的が、同罰則「第一条に記載したる犯罪の目的」すなわち「治安を妨げ又は人の身体、財産を害せんとするの目的」であつた嫌疑はないというべきであつて、被告人において本件ダイナマイト所持の目的が同罰則「第一条に記載したる犯罪の目的にあらざること」を証明し得たものと認められるから、被告人につき同罰則六条の罪は成立しないのである。 そうすると、被告人に、治安を妨げ、人の身体、財産を害する目的がなかつたとはいえず、右目的の不存在が証明されなかつたことに帰するとして、被告人に同罰則六条の罪の成立を認めた原判決には、重大な事実誤認があり、それが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 論旨は理由がある。 よつて、その余の論旨に対する判断のすべてを省略し、刑訴法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い自判する。 被告人の本件行為は爆発物取締罰則六条には該当しないが、それが火薬類取締法五九条二号、二一条に該当することは明らかである。 (罪となるべき事実)被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和四七年一〇月下旬ころから昭和五一年一〇月一八日まての間、兵庫県宝塚市a中国縦貫道L 五九条二号、二一条に該当することは明らかである。 (罪となるべき事実)被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和四七年一〇月下旬ころから昭和五一年一〇月一八日まての間、兵庫県宝塚市a中国縦貫道Lトンネル工事現場宿舎、大阪府池田市bc丁目d番e号M荘のA方、東京都板橋区fg丁目h番i号B荘のC方、同都中野区jk丁目l番m号D荘の自室及び同都板橋区fn丁目o番p号の自宅において、火薬類であるダイナマイト四本を所持したものである。 (証拠の標目)(省略)(一部無罪の理由)被告人に対する本件公訴事実中の爆発物取締罰則六条該当の点については、弁護人らの控訴趣意第五点及び被告人本人の控訴趣意四に対する判断において示したとおり犯罪の証明がないが、右爆発物取締罰則六条該当の訴因を内包する同罰則三条該当の事実は、判示火薬類取締法違反の事実と科刑上一罪の関係にあるものとして起訴されたものと解されるから、特に主文において無罪の言渡をしない。 (法令の適用)被告人の判示所為は、火薬類取締法五九条二号、二一条に該当するので所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内で被告人を懲役七月に処し、刑法二一条により原審における未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。なお、訴訟費用全部については刑訴法一八一条一項但書により被告人に負担させない。 よつて、主文の通り判決する。 (裁判長裁判官藤野英一裁判官門馬良夫裁判官小田健司)
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