平成14(わ)473 危険運転致死被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年3月5日 神戸地方裁判所 姫路支部
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判決文本文5,248 文字)

主文 被告人を懲役4年に処する。 未決勾留日数中20日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成14年7月12日午後11時5分ころ,普通乗用自動車を運転し,兵庫県A郡B町c番地先の信号機により交通整理の行われている交差点をD方面からE方面に向けて直進するに当たり,深夜であるため左右道路から同交差点に進入してくる車両がないものと軽信し,かつ,自宅において風邪で寝込んでいる長男のため,買い求めたばかりの熱冷却用シートを届けるべく家路を急ぐあまり,同所の対面信号機が既に赤色の灯火信号を表示していたのに,同信号機が赤色の灯火信号を表示しているか否かについて意に介することなく,これを殊更に無視し,重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約70キロメートルの速度で自車を運転して同交差点内に進入したことにより,折から左方道路から青色信号に従って同交差点内に進入してきたX子(当時20歳)運転の原動機付自転車前部に自車左前部を衝突させ,同人を同原動機付自転車もろとも路上に転倒させ,よって,同人に頭蓋底骨折,外傷性クモ膜下出血等の傷害を負わせ,同月13日午前零時29分ころ,同県F市所在のG病院において,同人を上記傷害により死亡させたものである。 (証拠の標目)省略(補足説明) 1 被告人は,殊更に赤色信号を無視したことはない旨供述し,弁護人も同旨の主張をするので,以下検討する。 2 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち,被告人は,平成14年7月12日夜,普通乗用車でドライブをし,同日午後11時ころ,自宅で熱を出している長男のために熱冷却用シートを購入した後,判示交差点に至る制限時速50キロ 認められる。すなわち,被告人は,平成14年7月12日夜,普通乗用車でドライブをし,同日午後11時ころ,自宅で熱を出している長男のために熱冷却用シートを購入した後,判示交差点に至る制限時速50キロメートルの県道(以下「本件交差点」及び「本件道路」という。)を時速約70キロメートルで走行し,帰宅を急いでいたところ,時速約60キロメートルで走行していたY運転の普通乗用車に追いついた。本件道路は片側1車線で追越し禁止(追越しのための道路右側部分へのはみ出し禁止)の道路であったが,先を急ぐ余り,被告人は,反対車線にはみ出して追越しを開始し,本件交差点の入口から約550メートル手前で同車に並び掛けて追い越し,さらに,その前方を時速約50キロメートルで走行していたZ運転の軽自動車をも本件交差点入り口から約210メートル手前で同様に反対車線にはみ出して追い越し,自車線に戻った。Yは,本件交差点の入口から約220メートル手前で赤信号を確認しており,その前方にいたZは,本件交差点の入口から約160メートル手前で赤信号を確認しているところ,Zがその信号を確認したころ,被告人車両は本件交差点の入口から約140メートル手前の位置にいた。被告人は,本件交差点の手前で交差道路から本件交差点へ進入してくる車両等がいないかを軽く確認した上,対面信号が赤色を表示していたにもかかわらず,本件交差点に進入し,被害者が運転する原動機付自転車と衝突した。 これに対し,弁護人は,赤色信号を確認した地点等を上記のとおり指示説明したZの平成14年7月22日に行われた実況見分の結果(以下「Z第2見分」という。)及びこれに基づく供述は,本件交差点の入り口から約95.1メートル手前で赤色信号を確認したとする本件事故直後の同月13日に行われた実況見分の結果(以下「Z第1見分」という。 「Z第2見分」という。)及びこれに基づく供述は,本件交差点の入り口から約95.1メートル手前で赤色信号を確認したとする本件事故直後の同月13日に行われた実況見分の結果(以下「Z第1見分」という。)と異なっており,信用することができないと主張する。しかし,ア目撃者のZは,何ら利害関係のない第三者であって,被告人車両に追い抜かれてから事故に至るまでの経過について,その都度の心理状況等を挙げながら具体的に述べており,全体として真実性が感じられること,イことに,Z第2見分は,同第1見分が現場を歩きながら特定したのに対し,本件事故当時運転していた車に乗って走らせながら見分したもので,より本件事故当時に近い感覚で地点を特定したことが窺え,同様に信用性が高いと認められるYの供述や見分ともほぼ矛盾なく符合していること,ウ実際,Zは,Z第1見分直後の同月13日の取調べにおいて,「事故現場で追い越してきた車の地点を特定したが,今考えてみるともう少し手前ではなかったかと思う」などと,その結果が少し記憶と異なることを示唆していたが,Z第2見分後の同月29日の検察官に対する取調べにおいては,「実際の車で走ってみると改めて事故当時の状況を正確に思い出すことができました。」としてZ第2見分が最も記憶に合致してると説明していること,エZ第2見分における赤信号確認地点とその時の被告人車両の位置の特定についても,「10人いれば10人必ず信号待ちのために停車するくらいの状況であった」旨の臨場感ある感覚をもって説明していることなどを指摘することができる。これらの諸点に照らすと,Z第2見分に基づく同人の供述は,前の見分や供述を訂正しているにもかかわらず,十分に信用できるといえる。 3 なお,被告人の本件交差点の信号目撃状況に関する供述は,捜査段階以来変遷しており,曖昧で Z第2見分に基づく同人の供述は,前の見分や供述を訂正しているにもかかわらず,十分に信用できるといえる。 3 なお,被告人の本件交差点の信号目撃状況に関する供述は,捜査段階以来変遷しており,曖昧であるが,少なくとも黄色信号についてこれを事前に見ていたとする点は信用できるというべきところ,その黄色信号を確認した地点についても,捜査段階及び公判廷において供述の変遷がある。そのうち,衝突地点から約75.2メートル手前で黄色信号を確認したとする供述(検57,公判廷)及び実況見分の結果(検13)は,前記のとおり信用性の高いZ供述などと明らかに矛盾するもので,被告人自身も,この実況見分を指して,「私の記憶と目撃者の証言とが少し食い違っているようですが,私自身も,正直なところはっきりと覚えておりません。」と供述しているところからしても信用し難い。その一方で,衝突地点から約259.8メートル手前で黄色信号を確認したなどとする供述(検63,66,67,73)及び実況見分の結果(検14)は,YやZの供述(検44,46)及びZ車両を追い越すために要する距離について試算した結果(検23)とも整合していることに加え,被告人がこの実況見分を行った以後の取調べにおいてほぼ一貫して認めていることやこの実況見分を指して,「指示説明をした後で,本件事故当時に運転していた車と同じ車の助手席に乗せてもらい,2回走行した上で各地点を確認しているから間違いがない」旨述べていることからしても,最も信用できるというべきである。 4 以上の事実をもとに被告人が刑法208条の2第2項後段にいう「赤色信号を殊更に無視し」たといえるかどうかを検討するに,被告人は,帰宅を急ぐ中,追越し禁止の道路を法定速度又はそれを超えたスピードで走っていた2台の車を反対車線にはみ出して次々と追い越し,衝突地 赤色信号を殊更に無視し」たといえるかどうかを検討するに,被告人は,帰宅を急ぐ中,追越し禁止の道路を法定速度又はそれを超えたスピードで走っていた2台の車を反対車線にはみ出して次々と追い越し,衝突地点から約260メートル手前で黄色信号を確認しながらも,スピードを緩めることなく,かつ,交差点の手前で左右を確認した上で本件交差点内に進入しているのである。本件道路が直線道路で,その両横には田んぼが続いており,かつ街灯も少ないため,夜間においては信号表示がかなり目立つ状況にあるといえること(検12,20),被告人が本件交差点に進入する約6,7秒前からその信号表示はすでに赤色を示していたこと,現に被告人は本件事故直後の実況見分において赤色信号を確認した地点を自ら特定していたこと(検12)などからすると,被告人は,赤色表示を確認した上であえて交差点に進入した可能性が相当に強いというべきであるが,少なくとも,対面信号の信号表示がどうであれ,そのまま交差点を通過しようとの認識を有していたものと認めるのが相当である。 これに対し,被告人は,本件交差点の手前で左右を確認した後,病気で寝ている子供のことが頭をよぎり,信号のことが思い浮かばなかった旨供述する。確かに,注意力が散漫な状態で運転しているような場合には,信号表示が目立つ状態にあったとしても,これを見過ごすことがないわけではないが,被告人の場合には,本件交差点に至るまでの間に反対車線にはみ出しながら高速度で次々と先行車を追い越しており,そのときにおいて一種の緊張した精神状態にあったことが推認される上,本件交差点に進入するに際し,軽くではあっても,他の進入車両等がないか左右の確認をするといった冷静な一面も見せているのであって,それにもかかわらず,その直後の交差点進入時において信号表示に関して意識が飛 交差点に進入するに際し,軽くではあっても,他の進入車両等がないか左右の確認をするといった冷静な一面も見せているのであって,それにもかかわらず,その直後の交差点進入時において信号表示に関して意識が飛んでしまったというのは,不自然であり,到底信用することができない。 5 そうすると,被告人は,本件交差点に進入するに際して,信号の規制自体を無視し,およそ赤色信号であるか否かについては一切意に介することなく,赤色信号の規制に違反して進行したというのが相当であり,刑法208条の2第2項後段の「赤色信号を殊更に無視し」たものというべきである。 なお,弁護人は,衝突時の速度が時速約70キロメートルであったことを捉えて,「重大な交通の危険を生じさせる速度」とはいえない旨主張するが,この場合の重大な交通の危険を生じさせる速度とは,赤色信号を無視して進行した場合に自車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度を意味すると解されるところ,相手方は赤色信号を無視して交差点等に進入してくる車両がないことを前提に,自らの青色信号に従って通常の速度で進入してくるのが一般的であるから,時速約70キロメートルがこの場合の「重大な交通の危険を生じさせる速度」にあたることはいうまでもない。 (法令の適用) 1 罰条刑法208条の2第2項後段 2 未決勾留日数の算入刑法21条(量刑の理由)本件は,前記のとおり,帰宅を急ぐ中,追越し禁止道路において,反対車線にはみ出して決して遅くない速度で走行していた車を次々と追い越すなど交通ルールを無視した無謀運転をした挙げ句,信号による規制に従う態度を見せることなく,これを意に介さずに,高速度で交差点内に進入し,本件事故を起こしたものであって,周囲の危険や迷惑を顧みることなく,交通規範を軽視 視した無謀運転をした挙げ句,信号による規制に従う態度を見せることなく,これを意に介さずに,高速度で交差点内に進入し,本件事故を起こしたものであって,周囲の危険や迷惑を顧みることなく,交通規範を軽視する態度の甚だしい危険な運転行為である。自宅で熱を出している長男のために早く帰宅したかった事情があるにせよ,ひとりで夜間のドライブを遅くまで楽しんだ上,子供の病状は落ち着いており,特に緊急性を要する状況ではなかったのであるから,まことに身勝手な犯行というほかなく,動機に酌量の余地もない。被害者は,青色信号に従って走行していたところ,被告人の無謀運転により,まだ夢も希望もある人生を20歳にして一瞬にして奪われたのであって,生じた結果はあまりにも重大である。被害者の無念さ,遺族や交際相手の悲しみは察するに余りあり,当然のことながら処罰感情も厳しい。 一方で,被告人は,遺族の気持ちを慰謝するまでには至っていないが,被害者の冥福を祈るなど,一応の反省の態度を示していること,業務上過失傷害による罰金前科しかないこと,被告人の妻が当公判廷に出廷し,今後の監督を誓っていること,幼い子供がいることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。 そこで,以上の諸事情等を総合考慮して,主文の刑を量定した。 (検察官萩原良典,私選弁護人岩﨑豊慶各出席)(求刑懲役5年)平成15年3月5日神戸地方裁判所姫路支部刑事部 裁判長裁判官伊東武是 裁判官小倉哲浩 裁判官小倉哲浩 裁判官平城文啓

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