平成28(う)1115 覚せい剤取締法違反(変更後の訴因 覚せい剤取締法違反,関税法違反)被告事件

裁判年月日・裁判所
平成29年5月11日 大阪高等裁判所
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判決文本文18,196 文字)

平成28年(う)第1115号覚せい剤取締法違反(変更後の訴因覚せい剤取締法違反,関税法違反)被告事件平成29年5月11日大阪高等裁判所第1刑事部判決主文原判決を破棄する。 被告人は無罪。 理由 本件控訴の趣意は,主任弁護人渡部一郎及び弁護人服部弘作成の控訴趣意書及び主任弁護人渡部一郎作成の控訴趣意書訂正上申書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。 論旨は,事実誤認の主張である。 第1 控訴趣意の要旨原判決は,原判示1の覚せい剤の営利目的輸入(覚せい剤取締法違反)及び同2の輸入してはならない貨物である覚せい剤の輸入未遂(関税法違反)の事実について,被告人が,A,B及びCらと共謀の上,関西国際空港において,覚せい剤が入ったスーツケース2個を,ドバイ国際空港発の航空機から搬出させて本邦に輸入し(原判示1),次いで,上記スーツケース2個に入った覚せい剤を輸入しようとして税関職員の検査を受けたが,同職員に発見されたため,未遂に終わった(同2)との事実を認定して,有罪としたが,被告人は,上記スーツケース2個のうち1個については,全く関与しておらず,他の1個については,これがイスタンブールで被告人がCらに渡したスーツケースだとしても,その中に覚せい剤が入っていたことを認識しておらず,A,B及びCらと共謀して上記の犯行を行ったことはないから,無罪であり,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。 第2 原審の経過等 1 事案の概要 公訴事実の要旨本件公訴事実(訴因変更後のもの)の要旨は,「被告人は,A,B,Cらと共謀の上,1 営利の目的で,みだりに,平成22年10月22日,関西国際空港において,同空港関係作業員らをして,覚せい剤約3825.94g在 実(訴因変更後のもの)の要旨は,「被告人は,A,B,Cらと共謀の上,1 営利の目的で,みだりに,平成22年10月22日,関西国際空港において,同空港関係作業員らをして,覚せい剤約3825.94g在中の機内手荷物であるスーツケース2個を,アラブ首長国連邦所在のドバイ国際空港発エミレーツ航空316便から搬出させ,前記覚せい剤を本邦に輸入し,2 同日,前記関西国際空港内大阪税関関西空港税関支署旅具検査場において,輸入してはならない貨物である前記覚せい剤を前記スーツケース2個に隠匿して同支署税関職員の検査を受けたが,同職員に発見されたため,これを輸入するに至らなかった。」というものである。 被告人は,トルコ共和国イスタンブールからアラブ首長国連邦ドバイを経由して帰国しようとしていたC及びBに,イスタンブールで前記スーツケース2個を引き渡したとして,共謀共同正犯の責任を問われている。 基本的事実関係関係証拠によると,本件の基本的事実関係は以下のようなものである。 ア B及びC(以下「Cら」という。)は,平成22年10月18日(以下,特に記載のない限り,年は全て平成22年である。),航空機に乗って,関西国際空港を出発し,アラブ首長国連邦所在のドバイ国際空港を経由して,同月19日,トルコ共和国イスタンブール所在のアタチュルク空港に到着した。 イ Cらは,トルコ共和国に滞在した後,同月21日(現地時間。以下,トルコ共和国内での出来事は,同国の現地時間),スーツケース2個(以下「本件スーツケース」という。)を機内手荷物として載せた航空機に乗って,アタチュルク空港を出発し,ドバイ国際空港を経由して,同月22日,関西国際空港に到着した。 ウ関西国際空港に到着後,Cは,本件スーツケースのうち紺色スーツケースを,Bは紫色スーツケースを, て,アタチュルク空港を出発し,ドバイ国際空港を経由して,同月22日,関西国際空港に到着した。 ウ関西国際空港に到着後,Cは,本件スーツケースのうち紺色スーツケースを,Bは紫色スーツケースを,それぞれ所持して,大阪税関関西空港税関支署旅具検査場で税関職員による入国検査を受けたところ,紺色スーツケース内に覚せい剤5包 み(合計約2011.20g)が,紫色スーツケース内に覚せい剤4包み(合計約1814.74g)が,それぞれ隠匿されていることが発見された。 2 原審における当事者の主張の要旨原審において,検察官は,① Cらの原審公判供述によれば,被告人が,本件スーツケースの中に覚せい剤を含む違法薬物が隠されていることを知っていたこと,Cらに覚せい剤が隠された本件スーツケースを渡した上,Cらに対し日本に運ぶよう説得したりして,重要な役割を果たしたことが認められるから,被告人には,覚せい剤を含む違法薬物を密輸入することについての共謀が認められる,② Aの原審公判供述によれば,被告人が,この事件の約3か月前にも,マレーシアにおいて,組織の中で,違法薬物の入ったスーツケースを渡す仕事をしていたことが認められ,Cらの原審公判供述と合わせると,被告人がCらに本件スーツケースを渡したのは,その組織の仕事の一環であることが認められるから,より強い理由で,上記共謀が認められる,と主張した。 これに対して,被告人は,① Cらにスーツケース1個を渡したことはあるが,それは,知人からの頼みをきっかけとして,事情が全く分からないまま善意でしたことであり,他のスーツケース1個を渡したことはない,② マレーシアでAと会ったことはない,などと主張・供述して,共謀の成立を争った。 3 原判決の要旨原判決は,要旨,以下のとおり判示して,共謀の成 あり,他のスーツケース1個を渡したことはない,② マレーシアでAと会ったことはない,などと主張・供述して,共謀の成立を争った。 3 原判決の要旨原判決は,要旨,以下のとおり判示して,共謀の成立を肯定し,公訴事実同旨の事実を認定した。 原審検察官の主張①(被告人がCらに覚せい剤が入った本件スーツケースを引き渡すとともに,それらの中身が覚せい剤であることを示唆する言動をしていたこと)についてCらは,原審公判廷において,本件スーツケースは,10月19日及び同月20日に,イスタンブール市内において,被告人から,各日1つずつを手渡されたものである,被告人は,翌21日,被告人が宿泊していたホテル内で,Cらの面前で, 本件スーツケースに「犬よけ」といってスプレーを大量にかけ,不思議に思ったCが被告人に対し本件スーツケースの中身を尋ねたところ,「クスリ」であると答えた旨,一致して供述している。 Cらの供述は,10月20日,2個目のスーツケースを被告人から受領した後に被告人に市内を案内してもらうなどした際にCが携帯電話機(アイフォン)で撮影したと述べる写真(原審甲92添付資料1ないし5)や,被告人との間の電話やメールでの連絡状況(原審甲91),被告人から飛行機に搭乗する際の注意事項を伝えられた際にCがメモをしたという「カバン開けられてたら入らない。すいてる時も。」などと記載されたメモ(原審甲90添付資料3)等の複数の客観的証拠とよく整合している。 また,Cらが本件スーツケースを密輸入するまでの一連の経過について具体的に供述し,その供述内容も細部を含めて基本的に一致していることや,Cらは当初否認していたが,途中から自白に転じる中で,被告人の言動について細部を含めて一致する供述をするようになったことなどのCらの供述経過,原審 の供述内容も細部を含めて基本的に一致していることや,Cらは当初否認していたが,途中から自白に転じる中で,被告人の言動について細部を含めて一致する供述をするようになったことなどのCらの供述経過,原審公判廷における両名の供述態度にも不審な点はないことなどからすると,Cらは自己の体験した出来事を真摯に供述していると評価できる。 Cらの上記供述は十分信用でき,その供述するとおりの被告人の言動を認めることができる。 原審検察官の主張②(被告人がそれ以前から覚せい剤密輸組織において違法薬物の入った荷物を渡す仕事をしており,本件もその組織による犯行の一環であること)についてAは,原審公判廷において,7月7日にマレーシアのクアラルンプールで,覚せい剤等の密輸組織の首かいであり本件覚せい剤の密輸入の首謀者でもあるDに会った際,勉強がてら組織の仕事を見るようにと言われ,翌8日,Dからその仕事を行うジョアンという女性を紹介された,ジョアンは日本人男性と接触し,「クスリ」などと言いながらスーツケースを渡すなどしていた,平成28年2月に行われた面 割捜査の結果,ジョアンとして被告人の写真を選び出したと供述している。 AはマレーシアでDにジョアンを紹介された経緯やジョアン等との会話の内容,本件犯行においてもDを首かいとする密輸組織の一員として段取りをしていたこと等を具体的に供述しており,それらの供述に何ら不自然な点は認められない。 また,Aが面割台帳1枚に貼られた12枚の顔写真の中から被告人の顔写真を選び出していることに加え,7月8日に被告人がマレーシア国内に滞在していたことや(原審甲95),Cらの供述によれば,その約3か月後である10月19日及び同月20日も被告人が本件スーツケースをCらに手渡した事実が認められるところ,A供述に 人がマレーシア国内に滞在していたことや(原審甲95),Cらの供述によれば,その約3か月後である10月19日及び同月20日も被告人が本件スーツケースをCらに手渡した事実が認められるところ,A供述によれば,この密輸入もDを首かいとする覚せい剤の密輸組織によるものと認められることに照らすと,被告人と良く似た者がこの密輸組織内に別にいたという可能性も考え難く,ジョアンが被告人と同一であるとするAの供述部分も信用できる。 以上のとおり,Cらの供述によって認められる原審検察官の主張①の事実のみからも,被告人がCらに対して本件スーツケースを引き渡したことのほか,被告人がその当時,本件スーツケースの中身が覚せい剤を含む違法薬物であると認識していたと推認できるが,さらに,被告人が本件犯行を実行した覚せい剤密輸組織の一員として本件当時活動していたという意味で,これを裏付ける原審検察官の主張②の事実も認めることができるから,本件に関し,被告人は,Aら密輸組織関係者と意思を通じてCら実行犯に対して覚せい剤を含む違法薬物を密輸入するよう促したと認められ,Cら等との間で共謀があったと認定できる。 被告人供述の信用性被告人は,原審公判廷において,トルコ共和国を旅行中,知人の依頼で,Eと名乗る人物からの指示により,10月19日,トルコ人風の外国人からスーツケース1個を受け取り,日本人の女の子に渡したが,中身は知らなかった,10月20日にも,Eの指示で昼以降にCらと会い,自分の連絡先を教えたり観光案内をしたことはあったが,その日はスーツケースを渡していないなどと供述している。 しかし,被告人の供述は,10月20日午前11時23分にCのアイフォンと被告人の携帯電話との間で通話した履歴があるという客観的事実と整合しない。また,見ず知らず などと供述している。 しかし,被告人の供述は,10月20日午前11時23分にCのアイフォンと被告人の携帯電話との間で通話した履歴があるという客観的事実と整合しない。また,見ず知らずの外国人から中身の分からないスーツケースを受け取り,そのまま他人に渡したなどという被告人の行動自体,通常人の感覚からは信じ難い。その上,被告人の供述を前提とすると,覚せい剤の密輸組織は,偶然旅行中の被告人を探し出し,協力するかどうかも分からない被告人を含む複数の人物を介するなど複雑かつ場当たり的な方法を用いて本件スーツケースのうち1つをCらに交付したことになるが,計画的に覚せい剤の密輸入を実行しようとした密輸組織の行動として明らかに不自然不合理である。 第3 当裁判所の判断原判決の上記判断は,十分な合理性を持つものとは認められず,被告人が,A,Cらと共謀の上,原判示1,2の各犯行を行ったことについては,合理的疑いがあるから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるといわざるを得ない。 その理由は,以下のとおりである。 1 関係者の原審公判供述の要旨 Cらの原審公判供述Cは,原審公判廷において,要旨,次のとおり供述した。また,Bも,おおむね同旨の供述をしている。 「知り合いの男性から,海外旅行に行くモニターを探していると言われ,さらに,同人等を介して紹介されたAから,海外からスーツケースを持ち込む仕事だと聞いた。2人以上で行かないといけないと言われたので,Bを誘った。8月下旬,Aから,高額の小切手が隠されているスーツケースを運ぶ仕事だと聞いた。 10月18日,羽田空港に行く直前,Aから,連絡用の携帯電話や「あけない」と書かれた封筒等を渡された。イスタンブールに到着し,宿泊先のFホテルに着くと,案内人 るスーツケースを運ぶ仕事だと聞いた。 10月18日,羽田空港に行く直前,Aから,連絡用の携帯電話や「あけない」と書かれた封筒等を渡された。イスタンブールに到着し,宿泊先のFホテルに着くと,案内人と名乗る者から電話で,G駅の近くのHというカフェにスーツケースを 取りに行くよう言われ,夕方六,七時にそこに行くと,被告人から声を掛けられ,スーツケースを渡された。その後,ホテルに帰るとき,被告人と途中まで路面電車で同道した。 10月20日朝,案内人と名乗る者から電話があり,I広場の近くのマクドナルドに,2つ目のスーツケースを取りに行くよう言われた。午前10時頃,マクドナルドに行くと,被告人からスーツケースを渡された。引き続き,隣の喫茶店でごはんを食べ,その食事を自分のアイフォンで撮影した(原審甲92資料1)。その際,被告人から携帯電話の番号を書いたメモをもらったり(原審甲90資料2),手荷物検査の通り方などを教えてもらってメモしたりした(同資料3)。一旦解散して,ホテルにスーツケースを持ち帰り,午前11時23分に,自分のアイフォンから,被告人の携帯電話に電話をし,準備ができたか何かと9秒間通話した。その後,J駅近くのカフェで被告人と再び会い,そこで3人で食事をした。平成22年当時のCの供述調書で,被告人からJ駅で待ち合わせというメールが来たとなっているのであれば,そのとおりだと思う。メールや電話に関する捜査報告書(原審甲91)にそのようなメールのやり取りの形跡がないのは,連絡用に渡された携帯電話でやり取りをしていて,Aから,被告人とやり取りしたメールや通話の履歴は全部消すよう言われていたので,全部消したからである。その後,被告人と一緒にショッピングをしたりBの誕生日を祝うケーキを食べたりして,午後8時頃,自分たちのホテルの前で 取りしたメールや通話の履歴は全部消すよう言われていたので,全部消したからである。その後,被告人と一緒にショッピングをしたりBの誕生日を祝うケーキを食べたりして,午後8時頃,自分たちのホテルの前で被告人と別れた。 被告人は,10月21日午前,自分達の泊まっているホテルに来て,スーツケースの荷物を詰め直してくれるなどした。ホテルをチェックアウトした後,スーツケース2つを持って被告人が泊まっているホテルの部屋に行くと,被告人は,「犬よけ用に」と言って,スーツケースにスプレーを吹きかけていた。自分が,中身は小切手ですよねと言うと,被告人は,クスリだよと答え,「この組織は信頼できるから大丈夫」などと励ます感じで話した。被告人から,日本に帰ったら,シンガポール(ただし,Bはマレーシアと供述している。)に住んで,アシスタントをしない かと誘われ,やりたいと答えた。午後,被告人と一緒に空港に行った。被告人が,手荷物検査場に入るタイミングを合図してくれた。」 Aの原審公判供述「平成21年12月頃,Kから誘われたのがきっかけで,海外から薬物を持って帰ってくる仕事をする女性を紹介する仕事をするようになった。運ぶ日時,場所及び量は,Kの上にいる組織が決めると聞いた。 平成22年5月頃,Dから,Kの代わりに覚せい剤の密輸入の段取りをする仕事をしないかと誘われ,同年7月7日から11日までマレーシアに行った。同月7日,クアラルンプールでDと会った。Dは,自分自身のことを,海外の密輸組織を仕切っているリーダー的存在であると言っていた。私は,Dの誘いに応じた。翌8日,クアラルンプールで,Dから,一人の女性をジョアンとして紹介され,その女性がスーツケースを運び屋の日本人に渡すのに同行した。ジョアンは,運び屋に,この中はクスリだって知ってるよね に応じた。翌8日,クアラルンプールで,Dから,一人の女性をジョアンとして紹介され,その女性がスーツケースを運び屋の日本人に渡すのに同行した。ジョアンは,運び屋に,この中はクスリだって知ってるよねと言っていた。その後,ジョアンはDに会い,仕事が完了したと報告した。ジョアンは海外に来た運び屋にスーツケースを渡す役目の人だと思った。 マレーシアには,その後,平成22年8月7日から同月11日まで,同年9月27日から同年10月1日までの2回行った。Dには3回とも会っているが,上記の出来事があったのは,1回目の渡航のときである。 平成28年2月に,大阪府警による写真面割りが行われたが,その際に私がジョアンとして選んだ写真は被告人であると警察に教えてもらった。」被告人の原審公判供述「10月17日から28日までの予定でイスタンブールに行き,Lホテルに泊まった。 10月19日,知人のMから,知り合いのEという人が困っているので助けてほしいと頼まれた後,Eから電話があり,GのHというコーヒーショップに行ってくれと言われた。そこに行って,テラス席に座っていると,トルコ人風の男が,片言 の日本語で,Eに頼まれて来たと言って,持っているスーツケース1個を,あそこにいる日本人の女性2人のところに持っていってくれと言われた。Eに頼まれたと言われたので,それを引き受けて,何も考えずに,そのスーツケースをその女性に渡した。Hに戻ると,トルコ人風の男はいなかった。Eからの連絡を待っていると,Eから電話があり,ありがとうございました,用事は終わりました,もういいです,と言われた。 10月20日の昼ちょっと前,Eから電話があり,英語がわからない女の子がいるので,観光案内等の手伝いをしてほしいと頼まれた。そこで,Fホテルに迎えに行くと,日本人の女 もういいです,と言われた。 10月20日の昼ちょっと前,Eから電話があり,英語がわからない女の子がいるので,観光案内等の手伝いをしてほしいと頼まれた。そこで,Fホテルに迎えに行くと,日本人の女性2名がいた。そして,午後1時頃からN通り沿いのシーフードレストランで食事をしたり,ショッピングをしたりして,イスタンブールの街を案内した。その間に,女性2名が前日の人と分かった。レストランで,その女性らから,外国で暮らすにはどうしたらいいのかを後々聞きたいからと言われ,電話番号を書いた紙を渡した。その日の午前11時23分にCからその電話番号に電話があったようだが,心当たりはない。その日の午前中に,その女性らに会ったことも,スーツケース1個を渡したことも,I広場のマクドナルド周辺のレストランで一緒に朝食を食べたということもない。Cに,J駅で待ち合わせというメールを送信したこともない。 10月21日に,Cらのホテルに行ったことも,その後,被告人が宿泊していたホテルでスーツケースに犬よけスプレーをかけ中身が覚せい剤だと言ったこともない。 7月7日にマレーシアに入国して翌8日に出国したが,これはアラブ首長国連邦に行くために,マレーシアを経由したにすぎない。マレーシアでAと会ったことはないし,ジョアンと呼ばれたことも,覚せい剤入りのスーツケースを人に渡したこともない。」 2 当裁判所の判断 原審検察官の主張①(被告人がCらに覚せい剤が入った本件スーツケースを 引き渡すとともに,それらの中身が覚せい剤であることを示唆する言動をしていたこと)について前記のとおり,Cらは,原審公判廷において,10月20日午前に被告人と会ってスーツケース1個を渡された,翌21日にも被告人と会った,その際,被告人は本件スーツケースに犬よけ用と たこと)について前記のとおり,Cらは,原審公判廷において,10月20日午前に被告人と会ってスーツケース1個を渡された,翌21日にも被告人と会った,その際,被告人は本件スーツケースに犬よけ用としてスプレーを吹きかけ,中に薬物が入っていると教え,密輸組織を手伝うことを誘ったなどと供述しており,これらの点で被告人の原審公判供述と対立している。 そして,原判決は,これらの点について,Cらの供述が信用できるとしている。 しかし,原判決がCらの原審公判供述が十分信用できるとする根拠は,十分説得力のあるものではなく,他にその信用性を支えるような客観的事情はない。かえって,同供述のうち,被告人からスーツケース1個を受け取った後に写真を撮影したという部分は,当該写真の位置情報と整合していない可能性があり,Cらが核心部分について事実に反する供述をしている疑いを払拭できない。この点に関するCらの原審公判供述は,直ちに信用できるものではないといわざるを得ない。 ア客観的証拠との整合性等原判決は,まず,Cらの供述は,① Cがアイフォンで撮影したと述べる写真(原審甲92添付資料1ないし5)や,② 被告人との間の電話やメールでの連絡状況(原審甲91),③ 「カバン開けられてたら入らない。すいてる時も。」などと記載されたメモ(原審甲90添付資料3)等の客観的証拠とよく整合しているとしている。 しかし,原判決のいう客観的証拠は,被告人と本件を結びつけるのに十分なものではない。 ①について上記各写真は,被告人の姿や,被告人が同行していたことをうかがわせるものは全く写っていないから,それだけでは,Cらが,当該日時にその写真が撮影された場所にいたことを裏付けているだけで,その際,被告人が一緒に行動していたこと までも証するものではない。 は全く写っていないから,それだけでは,Cらが,当該日時にその写真が撮影された場所にいたことを裏付けているだけで,その際,被告人が一緒に行動していたこと までも証するものではない。 かえって,上記各写真の中には,原審甲92添付資料1(以下「資料1の写真」という。)の写真のように,Cらの原審公判供述と矛盾する可能性があるものがある。 すなわち,Cらは,原審公判廷において,「10月20日午前10時頃,I広場の近くのマクドナルドに行き,被告人からスーツケースを渡され,引き続き,隣の喫茶店でごはんを食べ,その食事を自分のアイフォンで撮影した。その写真が資料1の写真である。」旨供述している。 確かに,原審甲92によると,資料1の写真は,10月20日午前10時20分7秒に,皿に載った食物を撮影したものであり,この点は,Cらの供述と一致している。 しかし,その写真データ上の位置情報は,緯度41.xxxx度,経度28.xxxxxxxxxxxxxx度であり,この位置情報の地点は,イスタンブール市内のO駅付近であり(原審職権1),I広場の北方,地下鉄の駅で2駅分,図測で約3㎞の距離にあり,Cらがいう場所からは,相当離れている(原審甲97資料4の地図及び同地図による図測)。 この点について,原判決は,Cらがその日の夜に上記喫茶店とは別の場所で撮影したと説明する写真(原審甲92添付資料4。以下「資料4の写真」という。)の位置情報が資料1の写真のそれと全く同じものになっていることや,資料4の写真に映っている塔は観光名所のガラタ塔と良く似ているところ,その所在地はO駅付近とは相当離れていることに照らすと,平成22年当時に得られたこれら2枚の写真の位置情報の正確性に疑問があり,Cらの上記供述が客観的証拠と矛盾するとはいえないと判示している。 ,その所在地はO駅付近とは相当離れていることに照らすと,平成22年当時に得られたこれら2枚の写真の位置情報の正確性に疑問があり,Cらの上記供述が客観的証拠と矛盾するとはいえないと判示している。 しかし,捜査報告書(当審検2)によれば,Cが当時使用していたアイフォンの位置情報と実際の位置との間にはずれがあり得るものと認められるが,そのずれがどの程度のものであるかを正確に示す資料はない。O駅付近とI広場付近あるいは ガラタ塔付近との距離は,前者は約3㎞,後者はそれよりも更に離れているから(原審甲97資料2等),上記のずれが位置情報の誤差ということで説明がつくのか疑問であり(当審検2の添付資料の中には,GPSの精度は最大約10mとするもの(資料3)や,GPSをサポートするA-GPSの誤差は室外で5から10m,屋内で20m程度とするもの(資料2)がある。),しかも,関係証拠によると,資料1の写真と資料4の写真が撮影された間に撮影された2枚の写真(原審甲92添付資料2,3)の位置情報は,いずれもCらが宿泊したFホテル付近を示しており,その写真内容等に照らしてもCらの供述と整合するもので,正確と考えられるのに,この2枚をはさんだ資料1の写真と資料4の写真の位置情報だけが実際のものと異なっているというのも不審である。 要するに,資料4の写真の位置情報が,実際のそれと異なっているとしても,その原因は明らかになっておらず,資料1の写真と資料4の写真の位置情報が同一である原因も解明されていないのであって,こういった状況のもとで,資料1の写真の位置情報が実際のそれと一致しないのは,資料4の写真の場合と同様,GPS機能の不十分さに由来すると断定するのは,仮に,資料1の写真の位置情報が正確であるとすると,Cらの供述を覆す大きな根拠となるだけに 置情報が実際のそれと一致しないのは,資料4の写真の場合と同様,GPS機能の不十分さに由来すると断定するのは,仮に,資料1の写真の位置情報が正確であるとすると,Cらの供述を覆す大きな根拠となるだけに,甚だ便宜的な判断といわざるを得ない。 上記のような疑問を放置したまま,資料1の写真を,上記対立点についてのCらの供述を裏付けるものと評価することはできない。 ②についてCの携帯電話から被告人の携帯電話への通信履歴としては,① 10月20日午前11時23分の発信通話履歴(通話時間9秒),② 10月21日午後7時32分の発信通話履歴(通話時間2分23秒),同日午後7時37分と翌22日(アラブ現地時間)のメールの送信履歴がある(原審甲91)。このうち,②の通話履歴等は,Cのアタチュルク空港出発直前以降のものであって,Cらが被告人からスーツケースを渡されたなどという時点からは大きく離れた時のものであるから,上記 対立点についてのCらの供述を裏付けるものではない。 そこで,①の通話履歴についてみると,Cは,この通話について,10月20日午前10時頃I広場近くのマクドナルドで被告人からスーツケースを受け取り,一緒に食事をした際,被告人から連絡先のメモを受け取り,一旦ホテルに帰った後,準備ができたか何かの用件で発信したものであると説明している。そして,実際,Cは,日本への入国審査の際,被告人がその名前と携帯電話の電話番号を記載した「+xxxxxxxxxxxx ○○○○○○」とのメモ(原審甲90資料2)を所持している。この点について,被告人は,上記メモは10月20日午後Cらと行動をともにした際に渡したものだと供述しているが,この供述は,上記通話の発信時刻が午前11時23分であることと整合しないように見える。こうした事情に照らすと, は,上記メモは10月20日午後Cらと行動をともにした際に渡したものだと供述しているが,この供述は,上記通話の発信時刻が午前11時23分であることと整合しないように見える。こうした事情に照らすと,①の通話履歴は,本件対立点についてのCらの供述を強力に裏付けているように見える。 しかし,上記電話の通話時間は相当に短く,その内容も客観的に明らかでない上,仮に,被告人が密輸組織側の人間だとすると,Cは,渡航に先立ち連絡用の携帯電話を渡されたが,その電話の履歴は全部消すよう指示され,実際に全て削除したというのであり,また,上記①の電話の際,被告人から連絡用の携帯電話で電話するよう指示されたというのだから,2回にわたってスーツケースを渡され,組織側の人間であることが明らかな被告人との上記通話履歴をなぜそのまま残していたのか疑問が残る(この点は,上記②の通話履歴等についても同様である。なお,Cは,②の通話履歴等が残っていることについて,連絡用の携帯電話の通話履歴等を削除した後なので,自分の携帯電話を使ったと説明しているが(Cの原審公判供述),少なくとも,①の通話履歴については,そのような説明は成り立たない。)。 また,被告人の供述を前提とすると,本件密輸組織の者は10月19日の段階で,被告人の携帯電話の番号を知っていたことになるから,その頃既に案内役などという組織の者と連絡を取っていたCも,上記メモを渡される前に既に被告人の携帯電話の電話番号を知っていた可能性を否定できない。上記通話履歴の通話時間が9秒 という短いもので,その内容も確定できていないことからすると,この通話履歴等については様々な解釈の余地があり,上記メモの存在によりCらと被告人が10月20日午前中に出会ったことが強力に裏付けられているともいえない。 したがって,上記 ていないことからすると,この通話履歴等については様々な解釈の余地があり,上記メモの存在によりCらと被告人が10月20日午前中に出会ったことが強力に裏付けられているともいえない。 したがって,上記通話履歴の存在等が,上記対立点に関するCらの供述の信用性を強く支えるものとまではいえない。 ③について確かに,「カバン開けられてたら入らない。すいてる時も。」などとCが記したメモ(原審甲90添付資料3)は,Cが,覚せい剤の密輸組織関係の者から空港の手荷物検査場の通り方を教えられてメモしたものと思われるが,これを教えた人物について手掛かりとなるような記載もなく,被告人以外の者から教えられても同様のものになるから,上記メモの存在が,メモの内容を被告人から教えられたというCら供述を裏付けるものとはいえない。 小括以上のとおり,原判決が指摘する客観的証拠は,そのうち,10月20日午前11時23分(現地時間)にCの携帯電話から被告人の携帯電話に9秒間の発信通話履歴等があることが,上記対立点に関するCらの供述を裏付けるものになり得るようにも見えるが,他のものは,それ自体では,被告人との結び付きを直接裏付けるものでなく,中には,かえって,Cらの供述とそごする疑いのあるものもある上,上記通話履歴等の証明力もさほど強いものとはいえないから,Cらの供述が客観的証拠とよく整合しているとまではいえない。 イ供述の具体性等原判決は,Cらの一連の経過についての供述が具体的で,その供述内容も基本的に一致していることや,同人らが捜査段階の途中で自白に転じる中で,被告人の言動について細部を含めて一致する供述をするようになったなどのCらの供述経過,両名の供述態度に不審な点はないことなどからすると,Cらは自己の体験した出来事を真摯に供述していると評価できると判 告人の言動について細部を含めて一致する供述をするようになったなどのCらの供述経過,両名の供述態度に不審な点はないことなどからすると,Cらは自己の体験した出来事を真摯に供述していると評価できると判示している。 確かに,Cらの供述は具体的である上,C供述とB供述の内容はおおむね一致しており,また,供述経過や供述態度にも不審な点はうかがわれない。 しかし,Cらは2個のスーツケースを本邦に持ち込んでいるのだから,10月20日頃にCらにスーツケースを渡した者がいることは明らかであり,その者と被告人とを置き換えることにより,真実に反する具体性な供述をすることは可能であるから,Cらの供述が具体的なものであるからといって,そのことから直ちに,上記対立点についてのCらの供述の信用性が高いとはいえない。 また,確かに,CとBの供述は,一部を除き,かなり細かい点についてまで一致している。しかし,CとBは一緒に行動していたのだから,多くの部分で供述が一致するのは当然であるし,むしろ,CとBの供述が異なっている部分の中には,被告人が「犬よけ用に」と言って本件スーツケースにスプレーをかけた後の状況について,Cは,「部屋中もわっとしたにおいが漂った」旨供述しているのに対し,Bは,「臭いは特になかった」旨供述するという,同一の体験をしたのかどうか,ひいては,実際にそのようなことがあったのかどうか疑問を抱かせるようなものが含まれている。 Cらの原審公判供述によると,Cらは,いずれも,捜査段階で,当初は覚せい剤の認識を否認し,スーツケースを渡した人物についても,黒人男性(C),あるいは,白人男性(B)と供述していたが,その後,原審公判供述と同様の供述をするに至ったようであり,Cらが実際に体験したことを供述しているからこそ,このような供述同士の一致や も,黒人男性(C),あるいは,白人男性(B)と供述していたが,その後,原審公判供述と同様の供述をするに至ったようであり,Cらが実際に体験したことを供述しているからこそ,このような供述同士の一致や供述経過状況になっていると見ることもできる。しかし,供述の変遷があるということは,やはり,それ自体,供述の信用性に疑問を抱かせる事情の1 つであるし,本件は国際的な覚せい剤の密輸組織が関与している事案であるから,真実を語るにはそれなりのリスクもあると思われるところ,Cらの供述の内容には,被告人以外の者の言動を被告人の言動と置き換えれば可能なものも多い上,CとBは日本に帰国するまで行動を共にし,密輸組織の人物とも連絡を取っていたのだから,種々の思惑や利害から,その間に,被告人の関与があったように口 裏合わせすることもあり得るものと考えられ,他に真実性を保証する客観的裏付けがない限り,供述同士の一致や供述経過状況をもって,Cらの供述の信用性を肯定する確実な事情とまでみることはできない。なお,Cらの供述の中に,供述の真実性に疑いを抱かせるような不一致があることは,前記のとおりである。 ウ結語以上のとおり,原判決が,Cらの原審公判供述が信用できるとした根拠の中には,それなりに有力なものもあるが,いずれも十分確実なものとまではいえず,原判決が挙げる根拠によって,上記対立点に関するCらの原審公判供述が信用できると断定することは困難である。なお,10月19日の行動についての被告人の原審公判供述が不自然,不合理なように見えることは原判決のとおりであるが,本件に国際的な密輸組織が関与していることは明らかであるところ,同組織の企図している犯行の全容は明らかになっていないから,被告人の原審公判供述を直ちに不自然不合理といってよいか疑問があるし, るが,本件に国際的な密輸組織が関与していることは明らかであるところ,同組織の企図している犯行の全容は明らかになっていないから,被告人の原審公判供述を直ちに不自然不合理といってよいか疑問があるし,犯罪の責任を訴求されている者の供述が不自然不合理なものになる理由には様々なものがあるから,被告人の供述が不自然だからといって直ちにCらの供述が信用できることになるわけでもない。上記事情は,まだ上記判断を左右するものではない。 原審検察官の主張②(被告人がそれ以前から覚せい剤密輸組織において違法薬物の入った荷物を渡す仕事をしており,本件もその組織による犯行の一環であること)について前記のとおり,Aは,原審公判廷において,マレーシアでDからジョアンという女性を紹介され,その女性が覚せい剤の運び屋にスーツケースを渡していた旨及びその女性として選んだ面割写真が被告人の写真であると警察から教えられたなどと供述しており,これらの点で被告人の原審公判供述と対立している。 しかし,Aの原審公判供述を根拠に直ちに上記原審検察官の主張②を肯定することはできない。 ア Aがジョアンと会ったという点について 前記のとおり,Aは,原審公判廷では,マレーシアへの1回目の渡航時からDに会い,1回目の渡航のときに,ジョアンという女性を紹介されたなどと供述している。 しかし,Aの原審公判供述によると,Aは,平成22年の捜査段階では,①回目の渡航は,Dではなく,Kに呼ばれたからであり,そのときはDに会っていない,などと供述し,2回目の渡航の際に初めてDと会ったとして,そのときの状況を具体的に供述し,② Kと飲みに行ったときに,キープしてあるボトルのボトルネックにジョアンと書かれていたので,なぜジョアンなのかとKに尋ねると,ボスの名前だと言われたと ったとして,そのときの状況を具体的に供述し,② Kと飲みに行ったときに,キープしてあるボトルのボトルネックにジョアンと書かれていたので,なぜジョアンなのかとKに尋ねると,ボスの名前だと言われたと供述していたこと,すなわち,ジョアンとはDの別名と供述していたことが認められる。 そして,Kも,平成28年2月20日付け警察官調書(当審弁3)中で,ジョアンはDの別名であるとして,次のとおり供述している。 「私は,Dをボスとする密輸組織におり,日本で運び屋を探させたり,旅行の日程を段取りさせたり,運び屋が持ち帰った覚せい剤入りのスーツケースを受け取って取引先に渡したり,売り上げたお金をボスのいるマレーシアまで運んだりする仕事をしていた。 運び屋は別として,海外で見たことのある組織の人物に,私が知る限り,女性は1人もいない。 Dは,タロウという偽名を使っていたが,私は,Dとの連絡用の携帯電話に,Dの番号をジョアンと登録していた。それは,Dが,私がDに電話している際にそのことを私の周りの者に悟られないようにするため,自分に電話するときにはタロウでなくジョアンと呼べと言っていたからである。」このように,Aの捜査段階の供述とKの供述が一致しており,この点に関するKの供述が比較的具体的なものであることからすると,Aが,原審公判廷で,上記のような供述変遷の理由について,自分は,自分の裁判では,中身が覚せい剤だということを知らなかった,Dと会ったものの,Dと認識して会ったわけではなかった と主張していたところ,ジョアンと会って何をしたのかを話せば,自分が覚せい剤と知ってこの仕事に関わっていたことを話すことになるから,隠していたと,それなりに合理的な説明をしていることを考慮しても,Aの供述変更前後の供述のどちらが正しいのか,にわかに決す ば,自分が覚せい剤と知ってこの仕事に関わっていたことを話すことになるから,隠していたと,それなりに合理的な説明をしていることを考慮しても,Aの供述変更前後の供述のどちらが正しいのか,にわかに決することはできず,Dらの密輸組織に,ジョアンという女性がいること自体,疑問の余地があるといわざるを得ない。 イジョアンと被告人の同一性について仮に,Aが,ジョアンという女性とマレーシアで会ったとしても,その女性が被告人と断定できるかについても疑問の余地がある。 すなわち,原判決は,① Aが面割台帳1枚に貼られた12枚の顔写真の中から被告人の顔写真を選び出したことに加え,② 7月8日に被告人がマレーシア国内に滞在していたこと,③ Cらの供述によれば,その約3か月後に被告人が本件スーツケースをCらに手渡した事実が認められ,被告人とよく似た者がこの密輸組織内に別にいたという可能性も考え難いとして,ジョアンが被告人と同一であるとするAの供述部分も信用できると判示している。 しかし,①については,Aが上記写真面割りを受けたのは,平成28年2月というAがジョアンに会ったという平成22年7月から5年以上経過してからのことである上,Aの原審公判供述によれば,Aは,警察官から,1枚の台紙に12枚の女性の写真が貼ってある写真面割台帳3枚(原審弁12)を順次示されて面割りを受けたが,自ら写真を選ぶことができたのは,原審弁12添付資料2のみであり,同資料3の写真の中からも被告人の写真を選んでいるが,これは,警察官から,資料2と同じ人物がいないかよく見てほしいといわれて,熟視したからであり,同資料1からは被告人の写真を選び出すことはできなかったというのであり,実際,上記写真面割りの約7か月後の平成28年9月14日の原審第3回公判期日における証人尋問の際には,被告 熟視したからであり,同資料1からは被告人の写真を選び出すことはできなかったというのであり,実際,上記写真面割りの約7か月後の平成28年9月14日の原審第3回公判期日における証人尋問の際には,被告人とジョアンの同一性を識別できなかったのだから,上記写真面割りの信ぴょう性には疑問があるといわざるを得ない。 ②については,被告人がその当時マレーシアに渡航していた事実は,被告人とA が会うことが可能であったことを裏付けるにすぎず,多数の者がいるクアラルンプール市内で両者が会ったことを積極的に推認させるものではない。 ③については,原判決は,被告人がDらの密輸組織の一員としてCらに本件スーツケースを渡したることはできない。 ジョアンが被告人と同一である根拠として原判決が挙げた点はいずれも採用できず,その他,ジョアンが被告人と同一であると認めるに足りる証拠はない。 ウ結語以上の次第で,Aの前記供述は,Aが平成22年7月にマレーシアに渡航した際,Dから密輸組織の一員としてジョアンという女性を紹介されたことについても,その女性が被告人であることについても,合理的疑いがあるから,Aの原審公判供述によって,被告人がDを首謀者とする薬物の密輸組織に属していたと認めることはできない。 結論 以上のとおり,原判決が共謀成立の根拠とした,被告人が,10月20日午前にCらと会ってスーツケース1個を渡した上,翌21日にも同人らと会い,本件スーツケースに犬よけ用としてスプレーを噴霧した上,その中身が覚せい剤であることを示唆する言動をした事実や,被告人がDを首謀者とする薬物の密輸組織に属していた事実を認めることはできず,他に,本件覚せい剤の輸入について,被告人が,A,C及びBらと共謀したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,被告人 ,被告人がDを首謀者とする薬物の密輸組織に属していた事実を認めることはできず,他に,本件覚せい剤の輸入について,被告人が,A,C及びBらと共謀したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,被告人の原審公判供述の信用性について子細に検討するまでもなく,本件公訴事実(訴因変更後のもの)については,犯罪の証明がないというほかない。 被告人が,A,C及びBらと共謀の上,原判示の犯行を行ったと認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな誤認があるといわざるを得ない。 論旨は理由がある。 第4 破棄自判 そこで,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄した上,同法400条ただし書により,被告事件について,当裁判所において更に次のとおり判決する。 本件公訴事実の要旨(訴因変更後のもの)は,前記のとおりであるが,前記のとおり,同事実については犯罪の証明がないから,刑訴法336条後段により被告人に対し無罪の言渡しをする。 よって,主文のとおり判決する。 平成29年5月11日大阪高等裁判所第1刑事部 裁判長裁判官福崎伸一郎 裁判官福井健太 裁判官野口卓志は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官福崎伸一郎

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