主文 総務大臣が,原告に対し,平成18年4月26日付けでした行政文書不開示決定処分を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1請求主文同旨第2事案の概要 前提となる事実(1)原告は,平成18年4月3日,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)3条,4条1項に基づき,総務大臣に対して,清和政策研究会及び平成研究会が政治資金規正法に基づいて提出した平成17年分の収支報告書(以下「本件報告書」という。)の開示を請求(以下「本件開示請求」という。)した(争いがない)。 (2)総務大臣は,同月26日付け通知書(総行収第139号。甲2)をもって,原告に対し,本件報告書に情報公開法5条6号に該当する情報(以下「事務支障情報」という。)が記載されていることを理由として,本件報告書を不開示とする処分(以下「本件処分」という。)をした(争いがない)。 (3)原告は,同年5月2日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 本案前の争点及び当事者の主張本案前の争点は,本件訴えに係る訴訟要件の存否である。 [被告の主張]総務大臣は,平成18年9月上旬ころには本件処分を取り消し,本件報告書を開示する予定である。そうすると,本件訴えは取消しを求める対象たる処分 が消滅することとなるから,訴訟要件を欠き不適法となる。 よって,本件訴えの却下を求める。 [原告の主張]争う。 本案の争点及び当事者の主張本案の争点は,本件報告書記載の情報が事務支障情報に該当するか否かである。 [被告の主張](1)政治資金規正法は,政治資金の収支状況を国民に明らかにし,これに対する国民の監視及び批判によって政治活動の公明を確保し,もって民主主義の発展に寄与することを目的とし(1条),この目的のため (1)政治資金規正法は,政治資金の収支状況を国民に明らかにし,これに対する国民の監視及び批判によって政治活動の公明を確保し,もって民主主義の発展に寄与することを目的とし(1条),この目的のため,政治資金に係る収支報告書の公表(要旨)及び閲覧の制度を定めている(20条1項,20条の2第2項)。また,同法は,公表する収支報告書の内容をより的確なものとするため,収支報告書又はこれに添付し若しくは併せて提出すべき書面(以下,合わせて「収支報告書等」という。)に形式上の不備がある場合や記載事項が不十分である場合の形式審査権を総務大臣又は都道府県の選挙管理委員会(以下「総務大臣等」という。)に付与している(31条)。そうすると,同法は,提出された収支報告書につき同法31条に基づく形式審査(以下「31条審査」という。)を行った上で要旨の公表及び閲覧に供すべきことを企図しているというべきである。 (2)本件開示請求は,本件報告書に係る31条審査が行われている最中にされたものであるところ,上記31条審査の過程においては,収支報告書の数値等の記載内容の訂正が行われる場合があり,仮に31条審査中の収支報告書を公にした場合には,国民に政治資金の収支に関するより的確でない情報が流布することとなり,これにより政治資金の収支に対する国民の監視と批判が政治資金規正法の予定する適正さをもって行われないこととなる上,同 法が想定しないような混乱を国民に生じさせることとなって,政治資金の収支についての的確な情報を国民に提供し,政治資金の収支についての国民の監視と批判を適正ならしめるという同法所定の収支公開事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。 (3)この点,情報公開法の立法段階において,旧自治省から旧総務庁に対し,行政機関の審査後に公開を予定する当該審査 正ならしめるという同法所定の収支公開事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。 (3)この点,情報公開法の立法段階において,旧自治省から旧総務庁に対し,行政機関の審査後に公開を予定する当該審査終了前の文書が同法5条6号に該当するかどうかの照会がされたところ,旧総務庁からは「ご指摘の例については,不開示情報になる場合はあり得ると考えられる。」との回答があった。また,現在の情報公開法所管部局である総務省行政管理局情報公開推進室からも同様の回答を得ている。 (4)よって,本件報告書には事務支障情報が記載されているというべきであるから,これを不開示とした本件処分は適法である。 [原告の主張](1)事務支障情報に該当するのは,「当該事務又は事業の性質上」非公開とすべき情報であって,当該文書の本質的な性質上,公開されるべきでない情報が記載されたものをいうと解されるところ,政治資金規正法は,政治団体の収支報告書につき公表すべきものとしているから(20条1項,20条の2第2項),そもそも収支報告書は事務支障情報が記載された文書たり得ない。 (2)政治団体の会計責任者は,政治資金規正法12条に基づき収支報告書を総務大臣等に提出しなければならず,総務大臣等は,同法20条1項に基づき当該収支報告書の要旨を公表しなければならず,他方,収支報告書に形式上の不備があり又はこれに記載すべき事項の記載が不十分である認めるときは,同法31条に基づき,説明を求め又は訂正を命ずることができる。 このような同法の定めからすれば,収支報告書は提出の段階で独立の完成された行政文書であり,31条審査を経て完成されるものではない。 仮に,収支報告書の記載に不備があっても,それは当該政治団体の実態を表すものであり,しかも総務大臣等は31条審査を行うことを義務付けられてい 文書であり,31条審査を経て完成されるものではない。 仮に,収支報告書の記載に不備があっても,それは当該政治団体の実態を表すものであり,しかも総務大臣等は31条審査を行うことを義務付けられているわけではないから,これを公開することが国の機関が行う事務に支障を及ぼすおそれはない。 (3)よって,本件報告書記載の情報は事務支障情報に該当しないから,本件処分は違法である。 第3争点に対する判断 本案前の争点について被告は,平成18年9月上旬ころに本件処分を取り消し本件報告書を開示する予定であることを理由に本件訴えの却下を求めるが,口頭弁論終結時において本件処分は取り消されていないから,本件訴えで取消しを求める処分が存在しないとはいえず,また,他に本件訴えを不適法というべき点はない。 よって,本件訴えは適法である。 本案の争点について(1)情報公開法5条6号は,国の機関等が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものを不開示情報と定め,同号イないしホの5項目の支障を列挙している。これらは,同号の文理上例示列挙であることが明らかであり,上記「支障」の内容が同号イないしホに限定されるわけではないが,同号が具体的な事項的基準と「当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」という定性的基準とを組み合わせて不開示情報の範囲を規定していること,そもそも情報公開法が公開を原則としていること(同法3条)に照らせば,上記「支障」は,名目的なものでは足りず,実質的な支障であることが必要であり,その「おそれ」も,抽象的なものでは足りず,法的保護に値する程度の蓋然性が必要であると解するのが相当である。 (2)被告は 障」は,名目的なものでは足りず,実質的な支障であることが必要であり,その「おそれ」も,抽象的なものでは足りず,法的保護に値する程度の蓋然性が必要であると解するのが相当である。 (2)被告は,31条審査終了前の収支報告書を公にした場合には国民に政治資金の収支に関するより的確でない情報が流布し,政治資金の収支に対する国民の監視と批判が適正に行われず,また国民に想定外の混乱を生じさせるおそれがあるから,同法所定の収支公開事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると主張するので,以下,検討する。 ア政治資金規正法は,政治団体に会計責任者を置くことを義務付けるとともに(6条1項),その会計責任者に対し,毎年12月31日現在で,当該政治団体に係るその年における収入,支出その他の事項で同法12条1項各号に掲げるものを記載した収支報告書を,原則としてその日の翌日から3月以内に,総務大臣等に提出しなければならないものとしている(同項)。そして,上記収支報告書の様式は,同法12条1項各号,政治資金規正法施行規則9条,第7号様式のとおり明確に定まっており,上記様式の中には政治資金規正法12条各号所定の記載事項が掲記されているほか,記載要領も具体的に記載されている。さらに,収支報告書を提出する者は,これに真実の記載がされていることを誓う旨の文書を添えなければならず(同法29条),収支報告書等に虚偽の記入をした者は,5年以下の禁錮又は100万円以下の罰金に処せられる(同法25条1項3号)。また,政党又は政治資金団体にあっては,その会計責任者は,所定の会計監査を行うべき者に対し,当該報告書に係る会計帳簿,明細書及び領収書等についての監査意見を求め,当該意見を記載した書面を収支報告書に添付しなければならない(同法14条1項)。 そして,収支報告書を受理 を行うべき者に対し,当該報告書に係る会計帳簿,明細書及び領収書等についての監査意見を求め,当該意見を記載した書面を収支報告書に添付しなければならない(同法14条1項)。 そして,収支報告書を受理した総務大臣等は,総務省令の定めるところにより,その要旨を,総務大臣にあっては官報,都道府県の選挙管理委員会にあっては都道府県の公報(以下,官報と合わせて「官報等」という。)で公表しなければならないとともに(同法20条1項,2項),当該公表の日から3年間,収支報告書等を閲覧に供しなければならない(同 法20条の2第2項)。 他方において,同法31条は,総務大臣等に対し,収支報告書等を含む同法の規定による届出書類,報告書若しくはその添付書類に形式上の不備があり,又はこれらに記載すべき事項の記載が不十分であると認めるときは,当該報告書等を提出した者に対して,説明を求め,又は当該報告書等の訂正を命ずることができる権限を付与しているが,これらをすべき義務を課してはいない。なお,ここでいう「形式上の不備」とは,添付すべき書面がないとか,記載すべき事項の記載がない場合など,一見して不備が明白な場合をいい,「記載すべき事項の記載が不十分」とは,収支報告書の記載内容が明確でないとか,収入又は支出の積算に誤りがある場合など,記載上の的確性を欠く場合をいい,単なる形式面や記載自体から不十分であることや誤りであることが判明するものをいうと解される。 以上のような同法の規定からすれば,同法は,政治団体の会計担当者に,記載内容が正確な完成された収支報告書を,その責任において提出することを義務付けた上で,総務大臣等がその収支報告書の要旨を官報等において公表し,また収支報告書等を閲覧に供することを予定しており,ただ,形式面の不備や,記載自体から不十分であることや誤りで 提出することを義務付けた上で,総務大臣等がその収支報告書の要旨を官報等において公表し,また収支報告書等を閲覧に供することを予定しており,ただ,形式面の不備や,記載自体から不十分であることや誤りであることが判明するような不備については,総務大臣等において,当該収支報告書等の提出者に説明を求め,又はその訂正を命ずることができるとしたものというべきである。 そうすると,収支報告書は,これが総務大臣等に提出され受理されたときから公表され得ること,形式面や記載自体から誤りであることがわかる不備に限っては訂正される可能性があることが同法上予定された文書であるというべきである。 イこの点,証拠(乙6,9)によれば,政治団体から提出される収支報告書には,提出すべき様式の一部が提出されていない,様式間で数値等の内 容の整合性が取れていない,政治資金パーティーに係る収支がパーティーごとに記載されていない,前年度からの資産の増減が当年の収支に正確に反映されていない等の不備が存在するものが多く,全体の4割ないし5割程度の収支報告書について何らかの訂正が行われていること,大規模な政党においても訂正を求められることがあることが認められる。被告の主張は,このような実態を踏まえ,31条審査前の収支報告書を公にした場合,政治資金の収支に関し,誤った情報が流布し,国民が当該政治団体の収支や活動について誤った印象を持ち,また,誤った情報に基づいて政治団体に対する支持,不支持の判断がされることなどを危惧するものであると解される。 しかし,前記のとおり,収支報告書は,政治団体の会計責任者が総務大臣等に提出した時点ですでに完成された文書であり,31条審査によって是正され得るのが形式的な不備等に限られることに照らせば,その審査終了前に収支報告書が公開されたことにより,被 の会計責任者が総務大臣等に提出した時点ですでに完成された文書であり,31条審査によって是正され得るのが形式的な不備等に限られることに照らせば,その審査終了前に収支報告書が公開されたことにより,被告が主張するような不備のある報告書(例えば,提出すべき様式の一部が提出されていないもの)が国民の目に触れたとしても,通常,それを読んだ国民が当該政治団体の収支や活動について誤った印象を持つという事態は考えにくい。また,上記のような形式上の不備等がある収支報告書が公開されたとしても,それに接する国民は,それが31条審査未了のものであり,今後形式上の不備等が是正され得ることを前提に,その報告書を読むと考えられるため,被告が危惧する事態が生じることは,なおさら考え難い。しかも,その後,上記審査を経て訂正された収支報告書の要旨が官報等によって公表され,これが閲覧に供されれば,その時点で上記不正確な情報は是正されるのであるし,上記審査前後の収支報告書に接する国民は,両者の記載を比べることにより,その政治団体の会計責任者が,不備のある収支報告書を提出したのか,不備のない収支報告書を提出したのかなど,当該政治団体の活動 の一部である収支報告書の作成に対する姿勢も,併せて知ることができるのである。そして,この点を含め,形式的不備がある状態で収支報告書が公開されたことによる不利益ないし責任は,そのような収支報告書を作成し,提出した会計担当者が属する当該政治団体が負えば足りる。 これらの点に加え,収支公開制度が,政治団体の機能の重要性等にかんがみ,その政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするためのものであり(政治資金規正法1条),政治団体が作成した収支報告書を速やかに公開することが同法の上記趣旨に合致すると考えられることをも考慮すれば,仮に の不断の監視と批判の下に行われるようにするためのものであり(政治資金規正法1条),政治団体が作成した収支報告書を速やかに公開することが同法の上記趣旨に合致すると考えられることをも考慮すれば,仮に31条審査終了前の時点で収支報告書が公開されたことにより,当該政治団体の収支について形式的な不備のあるままの状態で情報が公開されたとしても,これによって,同法の定める収支公開事務の適正な遂行に実質的な支障が生じるとは認められない。 実際,少なくとも18の府県において,同法20条2項に基づく府県の公報による公表前でも当該府県の情報公開条例ないしこれに類する条例に基づく公開請求に応ずることとしている(甲7の2,10)が,かかる公表前における収支報告書の公開によって,被告が主張するような支障が生じたことをうかがわせる証拠はまったくない。 なお,被告は,情報公開法の立法段階で,行政機関の審査後に公開を予定する文書を審査終了まで不開示とすることができるかとの照会をしたところ,旧総務庁から「ご指摘の例については,不開示情報になる場合はあり得ると考えられる。」と回答を得たと主張し,旧総務庁情報公開法制定準備室及び総務省行政管理局情報公開推進室の各回答書(乙7,8の2)を証拠として提出するが,これら回答書の内容は,乙第8号証の2が「ご照会の状況が,政治資金規正法が予定した政治資金の収支公開事務の適正な遂行に支障を生じさせるものであれば」「適正な事務又は事業への支障」に該当し得ると回答していることから明らかなとおり,公開請求の対 象となる文書に事務支障情報が記載されていれば不開示とすることができるという当然のことを述べるにすぎず,収支報告書に事務支障情報が記載されていることを裏付けるものではない。 ウこのように,31条審査終了前の収支報告書を公にしたとして ていれば不開示とすることができるという当然のことを述べるにすぎず,収支報告書に事務支障情報が記載されていることを裏付けるものではない。 ウこのように,31条審査終了前の収支報告書を公にしたとしても,被告が主張するような収支公開事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認めることはできない。 (3)したがって,本件報告書に事務支障情報が記載されていると認めることはできず,本案の争点に係る被告の主張は理由がない。 結論 以上によれば,本件処分は違法であって取消しを免れない。 よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部廣谷章雄裁判長裁判官森鍵一裁判官伊藤隆裕裁判官
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