平成24(行ウ)601 障害給付不支給処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年10月30日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文15,215 文字)

平成26年10月30日判決言渡平成24年(行ウ)第601号障害給付不支給処分取消請求事件 主文 1 処分行政庁が平成22年7月21日付けで原告に対してした厚生年金保険障害給付不支給処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,厚生年金保険の被保険者期間を有する原告が,初診日を平成15年1月20日とする高血圧症(以下「本件高血圧症」という。)に起因する脳出血(平成19年12月9日発症及び初診。以下「本件脳出血」という。)により障害の状態にあるとして,厚生年金保険法47条の2第1項に基づき,事後重症による障害厚生年金保険障害給付の裁定の請求(以下「本件請求」という。)をしたところ,平成22年7月21日付けで,処分行政庁から,本件脳出血と本件高血圧症との間には相当因果関係がないとして,不支給処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,その取消しを求める事案である。 1 法令の定め本件に関係する法令の定めは,別紙「法令の定め」のとおりである。なお,別紙において定めた用語の定義は,本文においても用いるものとする。 2 前提事実(証拠等の掲記がないものは当事者間に争いがない。)(1) 原告原告(昭和33年▲月▲日生)は,厚生年金保険及び国民年金の被保険者期間を有する者である。原告は,昭和56年4月1日,厚生年金保険の被保険者資格を取得したが,平成15年3月6日,同資格を喪失し,平成16 年4月1日,同資格を再び取得したが,平成18年3月1日,同資格を再び喪失し,平成19年12月9日の時点において同資格を有していなかった。 (乙5)(2) 同資格を喪失し,平成16 年4月1日,同資格を再び取得したが,平成18年3月1日,同資格を再び喪失し,平成19年12月9日の時点において同資格を有していなかった。 (乙5)(2) 本件高血圧症原告は,平成15年1月20日,A病院を受診し,高血圧症(本件高血圧症)と診断された。 (3) 本件脳出血原告は,平成19年12月9日,突然,左片麻痺が出現したことによりB病院に救急搬送され,脳出血(本件脳出血)と診断された。(甲4,9)(4) 先行する処分原告は,平成21年6月11日,社会保険庁長官に対し,初診日を平成19年12月9日とする本件脳出血による障害の程度が国民年金法施行令別表に該当するとして障害基礎年金の裁定の請求をした。 社会保険庁長官は,平成21年10月29日付けで,原告に対し,受給権取得年月を同年6月,障害等級を2級15号とする障害基礎年金の裁定(以下「先行処分」という。)をし,原告は,同年金を受給していた。(甲5)(5) 本件処分を含む不支給処分原告は,平成22年1月4日,改めて,処分行政庁に対し,障害の原因である傷病を,①初診日を平成15年1月20日とする本件高血圧症及び②初診日を平成19年12月9日とする本件脳出血として,障害基礎年金の裁定の請求及び本件請求をした。(甲6)処分行政庁は,平成22年7月21日付けで,原告に対し,① 本件請求について,本件高血圧症と本件脳出血との間には相当因果関係がなく,本件脳出血の初診日において厚生年金保険の被保険者であった者に該当しない,② 本件脳出血については,先行処分と同一の傷病であり,重複請求である,との理由により本件処分を含む不支給処分をした。 (6) 審査請求及びこれに対する決定原告は,平成22 ない,② 本件脳出血については,先行処分と同一の傷病であり,重複請求である,との理由により本件処分を含む不支給処分をした。 (6) 審査請求及びこれに対する決定原告は,平成22年9月28日,本件処分を不服として,関東信越厚生局社会保険審査官(以下「社会保険審査官」という。)に対し,審査請求をした。 社会保険審査官は,平成23年3月16日,原告に対し,上記審査請求を棄却する旨の決定をした。 (7) 再審査請求及びこれに対する裁決原告は,平成23年5月12日,上記(6)の決定を不服として,社会保険審査会に対し,再審査請求をした。 社会保険審査会は,平成24年2月29日,原告に対し,上記再審査請求を棄却する旨の裁決をした。 (8) 本件訴訟の提起原告は,平成24年8月29日,本件訴訟を提起した。 3 争点及び争点に関する当事者の主張の要旨本件の争点は,本件処分の適法性であるが,より具体的には,本件脳出血は,初診日を平成15年1月20日とする本件高血圧症に起因する疾病であるか否か(相当因果関係の有無)である。争点に関する当事者の主張の要旨は,以下のとおりである。 (1) 原告ア原告は,本件脳出血につき,高血圧性脳出血と診断されているところ,定義ないし病理上,高血圧と高血圧性脳出血との間に条件関係が認められることは明らかである。 イ原告は,平成14年9月25日に健康診断で高血圧の疑いを指摘され,同年11月の再検査でも高血圧の治療が必要との判断であった。原告は,平成15年1月20日に本件高血圧症と診断され,平成16年10月29日までの間,継続して投薬治療を受けていた。原告は,同日以降,治 療を中断したが,これは原告の仕事の事情によるものであり,本 平成15年1月20日に本件高血圧症と診断され,平成16年10月29日までの間,継続して投薬治療を受けていた。原告は,同日以降,治 療を中断したが,これは原告の仕事の事情によるものであり,本件高血圧症が投薬治療を不要とするほど改善したからではない。原告は,平成18年10月5日,健康診断において高血圧症(疑いを含む。)で要医療との判定を受けている。したがって,原告は,本件高血圧症の初診日から本件脳出血の発症時までの期間のうち,投薬治療が奏功していた平成15年5月10日頃から平成16年7月3日頃までの1年2か月程度を除いては,本件高血圧症が継続しており,これが血管の脆弱化をもたらし,最終的に本件脳出血の発症に至ったということができる。 ウ本件脳出血の発症の原因が本件高血圧症以外の疾患や危険因子である合理的な可能性が全て排除されれば,条件関係が認められるというべきである。 原告は,肥満ではなく,飲酒も過度とはいえず,喫煙もほとんどやめており,糖代謝異常や脂質代謝異常が疑われるような所見もなかった。 脳動脈瘤や脳動静脈奇形の破綻も見当たらない。脳アミロイド血管症は高齢者に多く,脳皮質下が好発部位であり,再発しやすく,また,多発しやすいとされているところ,原告は本件脳出血の発症当時まだ49歳であり,出血箇所は被殻からの1箇所のみであって,再発もしていないのであり,本件脳出血の原因が脳アミロイド血管症である合理的可能性は排除できる。その他の脳出血の原因となり得る疾患もない。 したがって,本件脳出血の発症の原因が高血圧以外の疾患や危険因子である合理的な可能性は全て排除されており,本件高血圧症と本件脳出血との間には優に条件関係が認められる。 エ高血圧から脳出血を発症することが異常な因果経過によるものとはいえず,相当性も認められ る合理的な可能性は全て排除されており,本件高血圧症と本件脳出血との間には優に条件関係が認められる。 エ高血圧から脳出血を発症することが異常な因果経過によるものとはいえず,相当性も認められる。 オ相当因果関係の認定に当たっては,高血圧症に合併する脳血管障害の前駆的症状の存否を問題とするべきではないが,原告の頭痛は,前駆的 症状に該当する可能性が高い。 カ以上によれば,本件高血圧症と本件脳出血との間に相当因果関係があるというべきである。したがって,本件高血圧症と本件脳出血との間に因果関係があることを否定し,本件脳出血が本件高血圧症に起因する疾病とは認められないとしてされた本件処分は違法である。 (2) 被告ア高血圧性脳出血と診断されたからといって,脳出血の原因が高血圧のみにあるとは認められない。 イ脳出血は,脳動脈の硬化性変化の存在により脳動脈が破綻するために発症するものとされているが,この脳動脈の硬化性変化を生じさせる危険因子には,加齢,高血圧,喫煙,飲酒,肥満,糖尿病を含む糖代謝異常,脂質代謝異常,遺伝的要素など様々なものがある。また,高血圧から脳出血を発症する蓋然性が高いとは認められない上,高血圧症によって障害される臓器は脳のほかに心臓等も主要なものとされており,高血圧症から脳出血を発症するのが経験上通常であるとはいえない。さらに,血圧は変動しやすく,その測定時の環境等によっても血圧測定時の変動が生じ得るものであるため,ある時期に高血圧の診断基準を超える数値が認められ,その後のある時期にも高血圧の診断基準を超える数値が認められたとしても,その両時期の間,高血圧の状態が継続していたと認めることは困難である。 したがって,障害認定上,ある時期に高血圧症と診断された者が,その後に脳出血 診断基準を超える数値が認められたとしても,その両時期の間,高血圧の状態が継続していたと認めることは困難である。 したがって,障害認定上,ある時期に高血圧症と診断された者が,その後に脳出血を発症したとしても,直ちに相当因果関係が認められるものではなく,高血圧症に合併する脳血管障害の前駆的症状が認められる場合に,高血圧症と脳出血との間に相当因果関係が認められるというべきである。 ウ原告は,平成15年1月20日から平成16年10月29日まで通院し て本件高血圧症について投薬治療を受けていたところ,その間の血圧のコントロールは良好であったとされており,実際にも高血圧の診断基準よりも血圧が低下した時期がある。そして,原告は,通院を中止して以降,平成19年12月9日に本件脳出血を発症するまでの間,医療機関をほとんど受診しておらず,その時期の健康状態についての詳細は不明であり,そもそも本件脳出血の発症時まで本件高血圧症が継続していたと認めることはできない。 エ原告が本件高血圧症に合併する脳血管障害の前駆的症状を発症していたかどうかは不明であり,その前駆的症状について医療機関を受診した事実も認められない。 オ以上によれば,障害認定上,本件高血圧症と本件脳出血との間には相当因果関係があるとは認められず,本件脳出血は本件高血圧症に起因する疾病とは認められない。したがって,原告は事後重症による障害厚生年金の支給要件を満たさないから,本件処分は適法である。 第3 当裁判所の判断 1 「起因する疾病」の意義厚生年金保険法47条の2第1項の事後重症による障害厚生年金は,疾病にかかり,又は負傷し,かつ,その傷病に係る初診日において被保険者であった者であって,障害認定日において障害等級に該当する程度の障害の状態になかったもの 2第1項の事後重症による障害厚生年金は,疾病にかかり,又は負傷し,かつ,その傷病に係る初診日において被保険者であった者であって,障害認定日において障害等級に該当する程度の障害の状態になかったものが,同日後65歳に達する日の前日までの間において,その傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったときに支給を請求できる年金である。ここにいう「傷病」には,疾病又は負傷のほか,これらに起因する疾病も含むものであるから(同法47条1項),厚生年金保険の被保険者期間中に,ある疾病につき初めて医師又は歯科医師の診療を受けていた者が,厚生年金保険の被保険者資格を喪失した後に,当該疾病に起因する疾病により障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至った場合におい ても,事後重症による障害厚生年金の支給を請求することができるものである。 そして,この場合において,「起因する疾病」とは,前の疾病がなかったならば後の疾病が起こらなかったであろうというように,前の疾病との間に相当因果関係があると認められる疾病をいうものと解するのが相当である(乙1参照)。 そこで,以下,本件脳出血が本件高血圧症に起因する疾病といえるかどうか,すなわち,本件高血圧症と本件脳出血との間に相当因果関係があるかどうかについて検討することとする。 2 認定事実前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 本件脳出血に至る経緯等ア原告は,昭和56年4月1日,C株式会社(後に「株式会社D」と名称変更。以下,併せて単に「D」という。)に入社し,同日,厚生年金保険の被保険者の資格を取得した。(前提事実(1),甲25,弁論の全趣旨)イ原告は,平成14年9月25日,Dで健康診断を受け,高血圧の疑いを指摘さ に「D」という。)に入社し,同日,厚生年金保険の被保険者の資格を取得した。(前提事実(1),甲25,弁論の全趣旨)イ原告は,平成14年9月25日,Dで健康診断を受け,高血圧の疑いを指摘された。収縮期血圧は136mmHg(以下,他の血圧についても単位は同じであり,単位を省略することとする。),拡張期血圧は110であった。原告は,かねてから頭痛があったが,この頃からその症状が悪化し,1週間に1回ほど,後頭部の辺りが痛むことがあり,市販薬を服用して痛みを抑えるようになった。(甲1,2,25,原告本人)ウ原告は,平成14年11月,再検査を受けたが,収縮期血圧は138,拡張期血圧は116であり,高血圧の治療が必要との診断であった。 (甲1,2,25)エ原告は,平成15年1月20日,A病院を受診し,高血圧症(本件高血圧症)と診断された。原告は,以後,以下のとおり,平成16年10月2 9日まで月1回程度の割合で,A病院を受診したところ,受診の際の収縮期血圧,拡張期血圧及び血圧値の分類は以下のとおりであった。なお,E作成の高血圧治療ガイドラインによれば,血圧値の分類については,至適血圧は,収縮期血圧が120未満かつ拡張期血圧が80未満,正常血圧は,収縮期血圧が130未満かつ拡張期血圧が85未満,正常高値血圧は,収縮期血圧が130ないし139又は拡張期血圧が85ないし89,Ⅰ度高血圧は,収縮期血圧が140ないし159又は拡張期血圧が90ないし99,Ⅱ度高血圧は,収縮期血圧が160ないし179又は拡張期血圧が100ないし109,Ⅲ度高血圧は,収縮期血圧が180以上又は拡張期血圧が110以上とされている。 受診年月日収縮期血圧拡張期血圧血圧値の分類平成15年1月20日 Ⅲ度高血 Ⅲ度高血圧は,収縮期血圧が180以上又は拡張期血圧が110以上とされている。 受診年月日 収縮期血圧 拡張期血圧 血圧値の分類 平成15年1月20日 Ⅲ度高血圧 平成15年2月8日 Ⅲ度高血圧 平成15年3月8日 正常高値血圧 平成15年4月5日 Ⅱ度高血圧 平成15年5月10日 正常血圧 平成15年6月7日 正常高値血圧 平成15年7月5日 正常血圧 平成15年8月9日 至適血圧 平成15年10月4日 正常血圧 平成15年11月25日 正常血圧 平成16年1月17日 正常血圧 平成16年4月10日 正常血圧 平成16年5月8日 正常高値血圧 平成16年6月5日 正常高値血圧 平成16年7月3日 正常高値血圧 平成16年7月31日 Ⅰ度高血圧 平成16年9月25日 Ⅰ度高血圧 A病院においては,原告に対し,○5mgの投与が平成15年2月8日に,○8mgの追加投与が同年4月5日に,それぞれ開始されている。○5mg及び○8mgは,いずれも抹消の血管を拡張して血圧を下げる薬である。原告は,この間も,頭痛の痛みについては,余り変化がなかった。(前提事実(2),甲1,2,17,27,30ないし32,原告本人)オ原告は,この間の平成15年3月5日,Dを退職し,同月6日,厚生年金保険の被保険者の資格を喪失した。原告は,同日,株式会社F(以下「F」という。) ,17,27,30ないし32,原告本人)オ原告は,この間の平成15年3月5日,Dを退職し,同月6日,厚生年金保険の被保険者の資格を喪失した。原告は,同日,株式会社F(以下「F」という。)に就職し,平成16年4月1日,厚生年金保険の被保険者の資格を取得した。原告は,平成15年11月13日,Fで健康診断を受け,収縮期血圧が118,拡張期血圧が70であり,血圧については治療中で今回の検査では正常との所見であった。(前提事実(1),甲25,33,弁論の全趣旨)カ原告は,平成16年10月29日にA病院を受診した後,Fでの仕事が忙しくなり,予約した日に受診することができなくなったことを機に,高血圧症の治療を中断した。(甲25)キ原告は,平成18年2月28日,Fを退職し,同年3月1日,厚生年金保険の被保険者の資格を喪失した。原告は,G小学校で非常勤の  ○として働き始めたが,更に仕事が忙しくなり,医療機関を受診しなかった。 (前提事実(1),甲25,原告本人,弁論の全趣旨)ク原告は,平成18年10月5日,H病院で市の無料の健康診断を受けた。 原告は,受診記録票を記入した際,現在の症状として「頭痛」の箇所に丸 印を付したが,一方で,現在治療中の病気について,「ない」の箇所に丸印を付し,普段の健康状態について,「非常に健康」の箇所に丸印を付した。 健康診断の結果は,原告の肥満度(BMI)は21.5と標準であり,脂質検査や血糖検査でも異常はみられなかったが,収縮期血圧が155,拡張期血圧が120で,疾病分類は高血圧症(疑いを含む。)であり,要医療との判定であった。しかしながら,原告は,仕事が忙しく,医療機関を受診しなかった。なお,原告は,この頃,週3回程度,飲酒していた。また,原告は,受診記録票のたばこに関する いを含む。)であり,要医療との判定であった。しかしながら,原告は,仕事が忙しく,医療機関を受診しなかった。なお,原告は,この頃,週3回程度,飲酒していた。また,原告は,受診記録票のたばこに関する質問で「やめた」の箇所に丸印を付し,47歳まで吸っていたと回答しているが,完全に禁煙していたわけではなかった。(甲3,25,乙12,原告本人)ケ原告は,平成19年12月9日夕方,自宅で突然,左手と左足に麻痺(左片麻痺)が出現し,B病院に救急搬送され,高血圧性脳出血(本件脳出血)との診断を受けた。CT検査の画像では,出血は,右被殻からであり,1箇所のみである。また,MR検査の画像では,原告の脳に脳動静脈奇形等の異常は見当たらない。もっとも,穿通枝については,直径50から350μmと極めて細いことから,MR検査の画像では,破綻箇所を描出することはできない。(前提事実(3),甲4,11,13,14の1・2,21の1・2,25,28,乙10)コ原告は,症状が安定した後の平成20年1月10日,I病院に転院し,リハビリと高血圧の治療を受けた後,同年5月29日,Jクリニックに転院し,同様の治療を受けた。さらに,原告は,同年7月30日に,K病院のLに入所し,宿泊してリハビリをしながら,併設する病院で月1回診察を受け,高血圧の治療を受けた。 その後,原告は,平成21年11月14日から,A病院に再度通院して,リハビリと高血圧の治療を受けている。(甲25)サ本件脳出血の治療に当たったB医院のM医師は,平成22年10月6日, 本件脳出血について診断書を作成しているが,これによると,原告は,平成19年12月9日に左片麻痺を発症し,CT検査で右被殻からの出血を認め,画像上明らかな異常血管網を認めず,高血圧症があることから, 本件脳出血について診断書を作成しているが,これによると,原告は,平成19年12月9日に左片麻痺を発症し,CT検査で右被殻からの出血を認め,画像上明らかな異常血管網を認めず,高血圧症があることから,本件脳出血の病名を高血圧性脳出血と診断している。(甲11)(2) 高血圧についてア心臓から送り出された血液が血管壁に及ぼす圧力を血圧というところ,高血圧とは,臨床医学的には,大循環系の動脈に異常に高い圧力がかかった状態を意味する。日本では,約4000万人が高血圧であるとされる。 血圧は,患者の体調や精神的ストレスによっても変動しやすい。 (乙10)イ高血圧によって傷害される臓器は,脳,心臓及び腎臓が主要なものであり,中でも脳血管は高血圧の影響を最も受けやすい。(乙6)(3) 脳出血についてア定義及び概念脳出血は,脳梗塞及びくも膜下出血と共に脳卒中の一病型であり,脳を灌流する血管が破綻して脳内に出血を生じる病態であり,形成された血腫により急激に局所神経症状を生じる。(乙9)イ原因,病因及び病理脳出血は,高血圧性脳出血が最も多く,全体の70%を占める。高血圧性脳出血以外の非高血圧性脳出血の原因として,血液疾患,薬剤,脳腫瘍,血管奇形及び脳アミロイド血管症が挙げられる。高血圧性脳出血を部門別にみると,最も頻度が高いのは被殻からの出血で全体の約40%を占め,視床からの出血(約30%),橋からの出血,小脳からの出血と続く。 高血圧性脳出血は,脳深部を灌流する細動脈であり,主幹動脈から鋭角的に分岐するため高血圧による圧力を受けやすい穿通枝が高血圧によりリポヒアリノーシスやフィブリノイド壊死という変性を来して小動脈瘤を形成し,さらに,この小動脈瘤が破綻することにより生じる。もっとも,小 高血圧による圧力を受けやすい穿通枝が高血圧によりリポヒアリノーシスやフィブリノイド壊死という変性を来して小動脈瘤を形成し,さらに,この小動脈瘤が破綻することにより生じる。もっとも,小 動脈瘤の形成がなくとも,動脈硬化病変の直接破綻によっても生じることがある。正常の脳動脈壁は強靱であり,収縮期血圧が300を超える場合であっても直ちに破綻するものではないとされているが,逆に,脳動脈に硬化性変化がある場合には,通常の高血圧の程度でも動脈の破裂が生じ得るとされている。脳動脈の硬化性変化を生じさせる危険因子には様々なものがあるが,よく知られているものとして,加齢,高血圧,喫煙,過度の飲酒,肥満,糖尿病を含む糖代謝異常,脂質代謝異常,遺伝的素因などが挙げられる。 非高血圧性脳出血で最も多いのは脳アミロイド血管症である。脳アミロイド血管症は高齢者において髄膜や脳表の動脈にアミロイドが沈着し,動脈壁が脆弱化して破綻することにより皮質や皮質下から出血を生じるもので,被殻から出血を生ずることはない。脳アミロイド血管症の一部には遺伝的に発生する家系が報告されている。 その他に,白血病や血小板減少症などの血液疾患,血友病や血小板無力症などの出血性素因,抗血栓薬や血栓溶解薬などの薬剤,動静脈奇形や血管腫などの血管異常が原因となる。(甲12の1・2,29,乙9,10,弁論の全趣旨)ウ疫学飲酒と低コレステロール血症は脳出血の危険因子になる。高血圧性脳出血は減少しているが,このこととは対照的に,高齢者の増加により脳アミロイド血管症が増加している。(乙9)エ診断CT検査で脳内に高吸収域を認めれば脳出血である。高血圧があり,CT検査で好発部位に高吸収域が認められれば高血圧性脳出血と診断される。好発部位でない皮質 している。(乙9)エ診断CT検査で脳内に高吸収域を認めれば脳出血である。高血圧があり,CT検査で好発部位に高吸収域が認められれば高血圧性脳出血と診断される。好発部位でない皮質や皮質下に出血がみられた場合,高齢者では脳アミロイド血管症を疑う必要がある。 また,高血圧性脳出血の前駆的症状としては,めまい,頭痛等が挙げられる。(甲23,24,乙7,9)オ α町研究九州大学大学院医学研究院の研究室は,昭和36年以降,福岡市に隣接したα町の住民を対象に,脳卒中,心血管疾患などの疫学調査を行っているところ,血圧と脳卒中との関連は段階的な強い正の関連がみられており,血圧値の分類が至適血圧の場合,1000人中の脳卒中発症率が7.3人であるのに対し,血圧値の分類がⅢ度高血圧の場合,1000人中の脳卒中発症率は61.7人である。また,投薬治療による高血圧管理により,突然死に占める脳卒中死の割合が40年間で約7分の1に減少している。 (甲15ないし17,22)カ高血圧治療ガイドラインE作成の高血圧治療ガイドラインによれば,血圧値の分類は前記(1)エのとおりであるところ,血圧値の分類が正常高値血圧,Ⅰ度高血圧及びⅡ度高血圧の場合は,生活習慣の改善を治療の中心とし,正常高値血圧及びⅠ度高血圧の場合は,生活習慣の改善を3か月続けても収縮期血圧が140未満,拡張期血圧が90未満に下がらないときは,投薬治療を併せて行い,Ⅱ度高血圧の場合は,生活習慣の改善を1か月続けても収縮期血圧が140未満,拡張期血圧が90未満に下がらないときは,投薬治療を併せて行うこととなる。これに対し,血圧値の分類がⅢ度高血圧の場合は,そのまま放置すると危険であるため,生活習慣の改善と投薬治療を同時に行うことと 拡張期血圧が90未満に下がらないときは,投薬治療を併せて行うこととなる。これに対し,血圧値の分類がⅢ度高血圧の場合は,そのまま放置すると危険であるため,生活習慣の改善と投薬治療を同時に行うこととなる。なお,難治性高血圧と高血圧治療ガイドラインが示す重症度は無関係である。(甲26,27,29) 3 検討(1)ア前記認定事実によれば,脳出血は,高血圧性脳出血が最も多く,全体の70%を占めるところ(認定事実(3)イ),原告の血圧値は,A病院を受 診していた平成15年1月20日から平成16年10月29日までの間,降圧剤の投与によって改善した時期もあったものの,全体としては高めであったことが認められ,特に治療中断前の最後の受診日である平成16年10月29日の近接時期には,Ⅰ度高血圧が続いており(認定事実(1)エ),投薬治療による血圧値のコントロールも難しい状況になっていたと認められる。平成18年10月5日の市の健康診断では,収縮期血圧が155,拡張期血圧が120で,疾病分類は高血圧症(疑いを含む。)であり,要医療との判定を受けており(認定事実(1)ク),血圧値の分類はⅢ度高血圧へと悪化している(認定事実(1)エ)。以上の事実に鑑みれば,本件高血圧症は,平成19年12月9日の本件脳出血発症時まで,悪化しこそすれ,改善することはなかったものと推認するのが合理的である。この点,M医師の回答書(甲28)も,平成16年10月29日以降,平成19年12月9日の脳出血発症時まで,本件高血圧症が継続していたとしている。そして,脳動脈の硬化性変化を生じさせる危険因子には高血圧が挙げられるのであって(認定事実(3)イ),NO大学大学院医学研究科神経内科学分野准教授(以下「N准教授」という。)の意見書(甲29)にあるとおり,本件高血圧症の継続 生じさせる危険因子には高血圧が挙げられるのであって(認定事実(3)イ),NO大学大学院医学研究科神経内科学分野准教授(以下「N准教授」という。)の意見書(甲29)にあるとおり,本件高血圧症の継続が脳動脈の硬化性変化に寄与したことは疑いのない事実であるといえる。 イ前記認定事実によれば,高血圧性脳出血を部門別にみると,最も頻度が高いのは被殻からの出血で全体の約40%を占めるところ(認定事実(3)イ),M医師は,CT検査で右被殻からの出血を認めたと診断している(認定事実(1)サ)。 ウ前記認定事実によれば,原告は,搬送先のB病院において,高血圧性脳出血との診断を受け(認定事実(1)ケ),M医師も,本件脳出血の病名を高血圧性脳出血と診断しており(認定事実(1)サ),N准教授の意見書(甲29)も,本件脳出血を高血圧性脳出血と診断するのは妥当であるとしてい る。 (2)ア一方,前記認定事実によれば,高血圧性脳出血以外の非高血圧性脳出血の原因として,血液疾患,薬剤,脳腫瘍,血管奇形及び脳アミロイド血管症が挙げられ,非高血圧性脳出血で最も多いのは脳アミロイド血管症であることが認められる(認定事実(3)イ)。しかしながら,脳アミロイド血管症は,高齢者において髄膜や脳表の動脈にアミロイドが沈着し,動脈壁が脆弱化して破綻することにより皮質や皮質下から出血を生じるものであり,被殻から出血を生じることはないところ(認定事実(3)イ),原告は本件脳出血発症当時,まだ50歳にも満たなかったのであって(前提事実(1),認定事実(1)ケ),高齢者とはいい難く,また,CT検査の画像では,右被殻からの出血1箇所のみを認めているのであるから(認定事実(1)ケ),脳アミロイド血管症の可能性は明らかに否定される。この点,M医師の回答書(甲28)も とはいい難く,また,CT検査の画像では,右被殻からの出血1箇所のみを認めているのであるから(認定事実(1)ケ),脳アミロイド血管症の可能性は明らかに否定される。この点,M医師の回答書(甲28)も,脳アミロイド血管症の可能性はないと考えるとしている。 また,原告につき,脳アミロイド血管症以外の非高血圧性脳出血の原因を疑わせるような事情もない(認定事実(1)ケ)。 イ前記認定事実によれば,脳動脈の硬化性変化を生じさせる危険因子には,高血圧以外にも,加齢,喫煙,過度の飲酒,肥満,糖代謝異常,脂質代謝異常,遺伝的素因などが挙げられるが(認定事実(3)イ),原告が高齢者とはいい難いことは上記アのとおりである。また,本件脳出血を発症する1年ほど前の市の健康診断では,原告の肥満度は標準であり,脂質検査や血糖検査でも異常はみられない(認定事実(1)ク)。なお,原告は,この頃,週3回程度,飲酒しており,完全に禁煙していたわけでもないが(認定事実(1)ク),これらの事情が上記危険因子の喫煙や過度の飲酒に該当するかは疑問であるし,本件高血圧症の状況にも照らせば,本件脳出血の発症において,本件高血圧症以上に決定的な危険因子となっていたとは考え難い。 (3) 前記認定事実によれば,α町研究では,血圧と脳卒中との関連は段階的な強い正の関連がみられており,血圧値の分類がⅢ度高血圧の場合は,血圧値の分類が至適血圧の場合と比較して,脳卒中発症率が有意に増加するものである上,投薬治療による高血圧管理により,突然死に占める脳卒中死の割合は40年間で約7分の1に減少しているものである(認定事実(3)オ)。また,高血圧治療ガイドラインによれば,Ⅲ度高血圧の場合は,そのまま放置すると危険であるため,生活習慣の改善と投薬治療を同時に行うことともされてい の1に減少しているものである(認定事実(3)オ)。また,高血圧治療ガイドラインによれば,Ⅲ度高血圧の場合は,そのまま放置すると危険であるため,生活習慣の改善と投薬治療を同時に行うことともされている(認定事実(3)カ)。 (4) 前記認定事実によれば,高血圧性脳出血の前駆的症状として頭痛が挙げられるところ(認定事実(3)エ),原告は,かねてから頭痛があったが,本件高血圧症の初診日に近接した頃からその症状が悪化しており(認定事実(1)イ,エ),高血圧性脳出血の前駆的症状を疑わせるものである。 (5) 以上の事実を総合すれば,本件脳出血は高血圧性脳出血であって,本件高血圧症と本件脳出血との間には相当因果関係があると認められるから,本件脳出血は本件高血圧症に起因する疾病であると認めることができる。 なお,被告は,P医師の意見書(乙10)に基づき,本件高血圧症と本件脳出血との間の因果関係を否定するが,同意見書は,本件高血圧症が継続していたことを否定するかのような内容となっており,その前提において問題があるといわざるを得ない。のみならず,同意見書は,本件高血圧症のみが原因で本件脳出血が生じたものと判断することは困難であるとするにとどまっており,本件脳出血が本件高血圧症に起因すること自体を否定するものではないというべきである。 4 本件処分の違法性前記前提事実によれば,原告は,本件脳出血により障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあるとして先行処分を受けているところ(前提事実(4)),上記3で検討したとおり,本件脳出血は本件高血圧症に起因する疾病 であると認められる。そして,前記認定事実によれば,原告は,本件高血圧症の初診日である平成15年1月20日において厚生年金保険の被保険者の資格を有していたものであり(認定事実( する疾病 であると認められる。そして,前記認定事実によれば,原告は,本件高血圧症の初診日である平成15年1月20日において厚生年金保険の被保険者の資格を有していたものであり(認定事実(1)ア,エ,オ),また,原告につき,厚生年金保険法47条の2第2項により準用される同法47条1項ただし書に該当する事実があるとの主張立証はないから,本件請求は事後重症による障害厚生年金の支給要件を満たすものということができる。したがって,本件請求を却下した本件処分は違法である。 第4 結論よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官増田 稔 裁判官齊藤充洋 裁判官佐野義孝 (別紙)法令の定め (1) 厚生年金保険法47条1項本文は,障害厚生年金は,疾病にかかり,又は負傷し,その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)につき初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)において被保険者であった者が,当該初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内にその傷病が治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。以下同じ。)があるときは,その日とし,以下「障害認定日」という。)において,その傷病により,同条2項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にある場合に,その障害の程度に応じて,その者に支給する旨規定している。 (2) 厚生年金保険法47条1項ただし書は,当該傷病に係る 傷病により,同条2項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にある場合に,その障害の程度に応じて,その者に支給する旨規定している。 (2) 厚生年金保険法47条1項ただし書は,当該傷病に係る初診日の前日において,当該初診日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり,かつ,当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2に満たないときは,この限りでない旨規定している。 (3) 厚生年金保険法47条2項は,障害等級は,障害の程度に応じて重度のものから1級,2級及び3級とし,各級の障害の状態は,政令で定める旨規定している。 (4) 厚生年金保険法47条の2第1項は,疾病にかかり,又は負傷し,かつ,その傷病に係る初診日において被保険者であった者であって,障害認定日において,同法47条2項に規定する障害等級(以下,単に「障害等級」という。)に該当する程度の障害の状態になかったものが,同日後65歳に達する日の前日までの間において,その傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったときは,その者は,その期間内に同条1項の障害厚生年金の 支給を請求することができる旨規定している。 (5) 厚生年金保険法47条の2第2項は,同法47条1項ただし書の規定は,同法47条の2第1項の場合に準用する旨規定している。 (6) 厚生年金保険法47条の2第3項は,同条1項の請求があったときは,同法47条1項の規定にかかわらず,その請求をした者に同項の障害厚生年金を支給する旨規定している。 (7) 厚生年金保険法施行令3条の8は,厚生年金保険法47条2項に規定する障害等級の各級の障害の状態は,1級及び2級についてはそれぞれ国民年金法施行令別表に定める1級及び2級の障害の している。 (7) 厚生年金保険法施行令3条の8は,厚生年金保険法47条2項に規定する障害等級の各級の障害の状態は,1級及び2級についてはそれぞれ国民年金法施行令別表に定める1級及び2級の障害の状態とし,3級については厚生年金保険法施行令別表第1に定めるとおりとする旨規定している。 (8) 国民年金法施行令別表は,障害の程度が2級15号である障害の状態は,前各号に掲げるもののほか,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする旨規定している。 以上

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