令和6年7月22日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4年(行ウ)第108号懲戒免職処分等取消請求事件口頭弁論終結日令和6年4月22日判決 主文 1 名古屋市教育委員会が令和4年5月26日付けで原告に対してした懲戒免職処分を取り消す。 2 名古屋市教育委員会が令和4年5月26日付けで原告に対してした退職手当支給制限処分を取り消す。 3 訴訟費用は、被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文と同旨第2 事案の概要本件は、被告において学校給食の調理員として勤務していた原告が、名古屋市 教育委員会(処分行政庁。以下「市教委」という。)から、原告が調理場に保存食として冷凍されていた廃棄前の食品を窃取したことを理由とする懲戒免職処分(以下「本件懲戒免職処分」という。)を受けたことに伴い、職員退職手当条例(昭和31年8月31日名古屋市条例第20号。令和3年条例第20号による改正後のもの。)17条1項1号(以下「本件規定」という。)により、退職手当管 理機関である市教委から、一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分(以下「本件退職手当不支給処分」という。)を受けたため、被告を相手に、上記各処分の取消しを求める事案である。 1 関連法令等の定め等⑴ 地方公務員法(以下「地公法」という。) 地公法29条1項は、職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該 職員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができるとし、同項1号はこの法律に違反した場合を、同項3号は全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合をそれぞれ定めている。 ⑵ 市教委における懲戒処分の 、停職又は免職の処分をすることができるとし、同項1号はこの法律に違反した場合を、同項3号は全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合をそれぞれ定めている。 ⑵ 市教委における懲戒処分の基準市教委は、「名古屋市教育委員会における懲戒処分の取扱方針」(以下「本件 取扱方針」という。甲4)を定めている。本件取扱方針によれば、具体的な処分量定の決定に当たっては、①非違行為の原因、動機、態様及び結果はどのようなものであったか、②故意又は過失の度合いはどの程度であったか、③非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか、その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか、④他の職員、地域及び社会に与える影響は どのようなものであるか、⑤過去に非違行為を行っているかなどのほか、適宜、日頃の勤務態度や非違行為後の対応等も含め総合的に考慮の上、判断するものとされている。 また、本件取扱方針には、非違行為の類型ごとに処分の量定の標準例が定められており、「公金物品取扱い関係」について、「公金又は物品を窃取した職員」 は「免職」とされている。ただし、個別の事案の内容によっては、標準例に掲げる量定以外とすることもあり得るとされている。 ⑶ 被告の職員退職手当条例17条1項1号(本件規定)の定め本件規定は、退職をした者(以下「退職者」という。)が、懲戒免職等処分を受けて退職をした者に該当するときは、当該退職に係る退職手当管理機関は、 当該退職者に対し、当該退職者が占めていた職の職務及び責任、当該退職者の勤務の状況、当該退職者が行った非違の内容及び程度、当該非違に至った経緯、当該非違後における当該退職者の言動、当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する信頼に及ぼ 該退職者の勤務の状況、当該退職者が行った非違の内容及び程度、当該非違に至った経緯、当該非違後における当該退職者の言動、当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案して、当該一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができる 旨を規定する(乙13)。 ⑷ 退職手当の支給制限(21総給第135号。27総給第90号による改正後のもの。以下「本件支給制限基準」という。甲5)被告の本件支給制限基準は、本件規定に基づいて一般の退職手当の支給制限を行う場合には、その全部を支給しないこととすることを原則とした上で(1条)、その一部を支給しないこととする処分にとどめることを検討する場合は、 本件規定の「当該退職をした者が行った非違の内容及び程度」について、次のアないしエのいずれかに該当する場合に限定し、また、その場合であっても、公務に対する信頼に及ぼす影響に留意して、慎重な検討を要するものとする(2条)旨を規定する。 ア停職以下の処分にとどめる余地がある場合に、特に厳しい措置として懲戒 免職等処分とされた場合イ懲戒免職等処分の理由となった非違が、正当な理由がない欠勤その他の行為により職場規律を乱したことのみである場合であって、特に参酌すべき情状のある場合ウ懲戒免職等処分の理由となった非違が過失(重過失を除く。)による場合 であって、特に参酌すべき情状のある場合エ過失(重過失を除く。)により禁錮以上の刑に処せられ、執行猶予を付された場合であって、特に参酌すべき情状のある場合⑸ 学校給食における保存食に関する定め等文部科学大臣は、学校給食法9条1項に基づき、学校給食衛生管理基準 刑に処せられ、執行猶予を付された場合であって、特に参酌すべき情状のある場合⑸ 学校給食における保存食に関する定め等文部科学大臣は、学校給食法9条1項に基づき、学校給食衛生管理基準(学 校給食の実施に必要な施設及び設備の整備及び管理、調理の過程における衛生管理その他の学校給食の適切な衛生管理を図る上で必要な事項について維持されることが望ましい基準)を定めているところ、同基準は、保存食について、毎日、原材料、加工食品及び調理済食品を食品ごとに50g程度ずつビニール袋等清潔な容器に密封して入れ、専用冷凍庫に-20℃以下で2週間以上保存 することと規定する(乙11・10頁)。 保存食は、学校給食において食中毒等の事故が発生したときに、その原因を明らかにするための検査に使用される。保存食の食材に係る経費は、学校の設置者が負担しており、公立の小学校における保存食は、本件取扱方針にいう「公金又は物品」(以下「公金物」という。)に該当する。(乙12、弁論の全趣旨) 2 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠により容易に認められる事実) ⑴ 原告は、平成9年4月1日に、被告に採用され、以後、学校給食の調理員(地公法57条が規定する単純な労務に雇用される者)として勤務した。なお、原告において、本件懲戒免職処分以外に、懲戒処分歴はない。 ⑵ 原告は、令和4年2月3日、A小学校(以下「本件小学校」という。)の調理場において、勤務中、保存食として冷凍保存されていた油揚げ2袋、クロワッ サン1個及びリンゴロールパン1個(以下、併せて「本件物品」という。)を、自宅に持ち帰り食べることを目的として、自分の鞄に入れた(以下「本件非違行為」という。)。 ⑶ 市教委は、令和4年5月26日 1個及びリンゴロールパン1個(以下、併せて「本件物品」という。)を、自宅に持ち帰り食べることを目的として、自分の鞄に入れた(以下「本件非違行為」という。)。 ⑶ 市教委は、令和4年5月26日付けで、原告に対し、本件非違行為が地公法29条1項1号及び同項3号に該当するとして、本件懲戒免職処分をするとと もに、本件規定により、一般の退職手当等(1149万1148円)の全部を支給しないこととする本件退職手当不支給処分をした(甲1、2)。 ⑷ 原告は、令和4年8月16日付けで、市教委に対し、本件退職手当不支給処分の取消しを求め、審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした(乙1)。 ⑸ 原告は、令和4年11月21日、本件訴えを提起した(当裁判所に顕著)。 ⑹ 市教委は、令和5年3月24日付けで、本件審査請求を棄却する旨の裁決をした(乙8)。 3 争点⑴ 本件懲戒免職処分の違法性の有無(争点1)⑵ 本件退職手当不支給処分の違法性の有無(争点2) 4 争点に対する当事者の主張 ⑴ 争点1(本件懲戒免職処分の違法性の有無)について(原告の主張)次のアないしカの各事情によれば、本件懲戒解雇処分は、社会通念上著しく相当性を欠き、処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして、違法である。 ア本件非違行為の原因、動機は、ストレスによる偶発的なものであり、また、態様としても、すぐに発見されるような状態で鞄に入れたものであるから、非違の程度は軽微である。また、本件物品は、少量である上に、リンゴロールパン1個を除き保存食としての役割を終了して、廃棄期限が到来していたものであったし、すぐに回収されていることからしても、その損害は軽微 程度は軽微である。また、本件物品は、少量である上に、リンゴロールパン1個を除き保存食としての役割を終了して、廃棄期限が到来していたものであったし、すぐに回収されていることからしても、その損害は軽微で あり、かつ、実害も生じていない。さらに、本件非違行為の危険性について、保存食がその役割を実際に果たす場面は給食に異常が生じるという稀有な事態であることからして、抽象的、観念的なものにすぎない。 イ本件非違行為について、原告の遵法意識の欠落や反規範人格態度の現れという要素は希薄で、当時の心身の不調が手伝った可能性が高い。 ウ保存食の持出について、学校給食の調理員であるがゆえの領得、流用の誘惑はあるが、その職務に反することにより非難可能性が高まるという関係にはない。また、原告は、単純労務職員であるところ、学校給食の提供義務の安全性、適正運営の責任を負うのは、当該学校の管理職、管理者であり、調理員のみが直接にその責任を負っているものではない。 エ本件非違行為が、本件小学校の業務や、地域・社会に、何らかの影響を及ぼしたという事実はない。 オ原告は、学校給食の調理員として、約25年間、被告の業務に従事してきたが、本件懲戒免職処分を受けるまで、懲戒処分歴は一切ない。なお、原告が、本件小学校のB校長(以下「B校長」という。)から、公金品の窃取に関 して、懲戒免職処分しかなく、退職金も出ないことについて、十分に注意喚 起されていたという事実はない。 カ本件懲戒免職処分は、不適切、不公正な内容である「A小学校給食調理員打合せ・聞き取り・確認事項」と題する書面(乙10の1)に基づきなされたものである。また、本件懲戒免職処分がされるに当たって、原告は、本件非違行為や認識を十分 不公正な内容である「A小学校給食調理員打合せ・聞き取り・確認事項」と題する書面(乙10の1)に基づきなされたものである。また、本件懲戒免職処分がされるに当たって、原告は、本件非違行為や認識を十分に説明する機会もなかった。 (被告の主張)本件非違行為は、公金物の窃取であり、次のアないしカのとおり、本件非違行為における個別的な事情を総合的に考慮すれば、本件取扱方針の標準例に従って免職とした本件懲戒免職処分は、処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用したものではなく、適法である。 ア本件非違行為は、原告が、家に帰ってから買い物に行く気持ちになれず、自宅に持ち帰って食べるという自分本位の目的のもと行われたものである上に、児童の安全を守るための学校給食衛生管理基準に違反するものであり、給食を食べる児童の安全を脅かしたという重大な結果を生じさせた。 イ本件非違行為は、小分け作業により持ち出しを容易にした上で、休憩室に 移動し、鞄に入れるという手順を踏む計画的なものであり、原告は、その違法性や重大性を認識していたし、心身の不調もなかった。 ウ原告は、物資を検収、保管し、安全な学校給食を提供し、学校給食の衛生管理を担う調理員であり、保存食は大切なものであることを当然に認識していたはずであるところ、本件非違行為は、その職責に関連して、公務の信頼 への失墜の程度が重大であるといえる。 エ本件小学校において、本件非違行為の後、原告の代わりに栄養教諭に調理業務に従事してもらう必要や、調理員のまとめ役の立場を別の正規職員に代わってもらう必要が生じたこと、他の調理員の心のケアに当たる必要が生じたことなどがあり、本件非違行為は、その後の本件小学校の調理業務の実施 に多大な影響 理員のまとめ役の立場を別の正規職員に代わってもらう必要が生じたこと、他の調理員の心のケアに当たる必要が生じたことなどがあり、本件非違行為は、その後の本件小学校の調理業務の実施 に多大な影響を及ぼした。 オ本件非違行為の前から、本件小学校では、トマトや牛乳などの給食物資等の所在が不明になる事態が発生していたため、これらの適切な管理について学校全体で取組を行っており、B校長から、原告を含む調理員に対し、給食物資等を窃取した場合には、懲戒免職処分となることを注意喚起されていた中で、原告は、あえて本件非違行為に及んだ。 カ市教委は、その判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するため、原告に対し、自主的に事情聴取を行ったのであるから、本件懲戒免職処分について手続違背はない。 ⑵ 争点2(本件退職手当不支給処分の違法性の有無)について(原告の主張) 本件非違行為は、給食の調理員として勤続約25年にわたり、一切の処分歴なく勤務してきた原告が、不満やストレスの蓄積が行動制御に影響した可能性を排斥できない状態で、保存食を持ち帰ろうとしてしまい、かつ、直ちに把握されてその領得目的を遂げなかったものである。その制裁として、生活保障や賃金後払的な性格を複合的に有する退職手当を全てはく奪するに見合う非難 可能性はなく、本件退職手当不支給処分には、処分行政庁の裁量権の逸脱濫用がある。 (被告の主張)本件非違行為について、本件支給制限基準2条各号に該当する事情は見当たらないから、本件退職手当不支給処分は、合理的である本件支給制限基準に沿 ったものである。また、上記⑴の被告の主張のとおり、本件非違行為は、公務に対する信頼やその遂行に及ぼす影響や支障の程度等 らないから、本件退職手当不支給処分は、合理的である本件支給制限基準に沿 ったものである。また、上記⑴の被告の主張のとおり、本件非違行為は、公務に対する信頼やその遂行に及ぼす影響や支障の程度等が重大であり、また、本件非違行為に及んだ目的や態様が悪質であることなどに照らせば、本件退職手当不支給処分には、処分行政庁の裁量の逸脱濫用はない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実、当事者間に争いのない事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。 ⑴ 本件非違行為に至る経緯(乙10の1、22、23、25の1・3・4、28、証人B、原告本人)ア本件小学校で勤務する原告以外の調理員(以下「他の調理員」という。)3 人は、令和3年9月30日、B校長に対し、原告が給食物資や調味料、学校消耗品等を持ち出している旨の報告をした。 イ B校長は、令和3年10月7日、原告を含む本件小学校の調理員4人に対し、調理場における給食物資の紛失について心当たりがないかを確認するととともに、不審なことがあったら、写真を撮り、管理職に知らせるように指 示した上で、公金物を盗めば、懲戒免職処分となることなどを伝えた。 ウ他の調理員は、令和3年10月11日、本件小学校のC教頭(以下「C教頭」という。)に対し、原告が牛乳を2本持ち帰った旨の報告をした。 ⑵ 本件非違行為の発生状況(甲8、乙10の1・2、28、証人B、原告本人)ア他の調理員3人は、令和4年2月3日(以下⑵内において同じ。)、時間休 暇又は午後4時の勤務終了であったため、午後4時から午後4時45分までの間は、原告1人の勤務体制であった。 イ原告は、保存食用の専用冷凍庫に、 3日(以下⑵内において同じ。)、時間休 暇又は午後4時の勤務終了であったため、午後4時から午後4時45分までの間は、原告1人の勤務体制であった。 イ原告は、保存食用の専用冷凍庫に、本件物品(油揚げ2袋、クロワッサン1個及びリンゴロールパン1個)を小分けして入れた。原告の上記行動に気付いて不審に感じた他の調理員は、同冷凍庫内の状況を画像(乙10の2) に残し、B校長に対し、その旨を報告した。 ウ B校長及びC教頭は、上記イの報告を受け、当該専用冷凍庫の最下段を確認したところ、報告にあった食材がなくなっていたため、原告に確認すると、原告は、捨てたと回答した。そこで、B校長、C教頭及び原告は、調理室内ゴミ箱、屋外ゴミコンテナを、順次確認したが、当該食材が見当たらなかっ たため、C教頭は、原告に対し、原告の鞄の中を確認させてほしいと申し向 け、原告は、これを承諾した。B校長及び原告が、当該鞄のある休憩室に入ったところで、原告から自分が当該食材を取った旨の申告があり、原告の鞄の中を確認したところ、本件物品が入っていたことが発覚したため、原告は、これらを調理場の外に持ち出すに至らなかった。 本件非違行為の当時、本件物品のうち、リンゴロールパン1個は2週間の 保存期間内であり(保存開始日は令和4年1月28日頃〔乙28〕)、油揚げ2袋及びクロワッサン1個は上記保存期間が経過していた。 ⑶ その後の事情ア原告は、令和4年2月4日、B校長、C教頭及び他の調理員らに対し、本件非違行為について説明した上で、謝罪をした(甲7、乙10の1、23、 証人B、原告本人)。 イ原告は、令和4年2月28日、市教委事務局教職員課における事情聴取において、本件物品について、2週間経っ て説明した上で、謝罪をした(甲7、乙10の1、23、 証人B、原告本人)。 イ原告は、令和4年2月28日、市教委事務局教職員課における事情聴取において、本件物品について、2週間経っていない食材なので絶対に触っていけないものだということは分かっていた、本件非違行為の動機について、家に帰ってから買い物に行く気持ちになれず、持ち帰って食べるつもりであっ た、やってはいけないことをしてしまった旨の発言をした(乙9の1、原告本人)。 ウ市教委は、令和4年5月26日、本件非違行為及び本件懲戒免職処分の概要を公表し、その内容は、同月27日、中日新聞の朝刊で報道された(乙15)。 2 争点1(本件懲戒免職処分の適法性)について⑴ 判断枠組み公務員につき懲戒事由がある場合において、懲戒権者が懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかは、その判断が、懲戒事由に該当すると認められる行為の性質、態様等のほか、当該公務員の上記行為の前 後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に 与える影響等、広範囲な事情を総合してされるべきものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝にあたる懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきであり、懲戒権者が上記の裁量権を行使してした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるもの として、違法とはならないものというべきであり、したがって、裁判所が上記の処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかに 法とはならないものというべきであり、したがって、裁判所が上記の処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分を比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権 を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきである(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁、最高裁平成23年(行ツ)第263号、同年(行ヒ)第294号同24年1月16日第一小法廷判決・裁判集民事239号253頁等参照)。 ⑵ 検討上記⑴の判断枠組みに基づき、本件懲戒免職処分が社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者である処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものと認められるか否かについて検討する。 ア本件非違行為は、学校給食の調理員であった原告が、公金物である保存食 を窃取したというものであるが、窃取の対象物である本件物品は、油揚げ2袋及びパン2個であり(上記1⑵ウ)、その財産的価値自体は少額であって、その数も比較的少量にとどまる。また、本件非違行為の当時、本件物品4点のうち3点は保存期間が経過しており、その余の1点も保存開始から6日程度経過していたというのであり、それを検査等に使用することが必要となっ ていたことはうかがわれないから(上記1⑵ウ)、近い時期に廃棄されるこ とが見込まれていたものと認められる。これらのことからすれば、財産的損害の点から見た本件非違行為の結果は、相当に軽微なものであるといわざるを得ない。 他方で、安全な給食を提供する役 とが見込まれていたものと認められる。これらのことからすれば、財産的損害の点から見た本件非違行為の結果は、相当に軽微なものであるといわざるを得ない。 他方で、安全な給食を提供する役割を担う学校給食の調理員が保存食を窃取する行為は、必ずしも財産的損害の程度にかかわらず、学校給食の衛生管 理の適正な遂行及びこれに対する市民の信頼を損なう結果を生じさせ得るものである。しかしながら、このことを踏まえても、本件非違行為は一回的行為であり、原告が本件非違行為のほかに保存食等を窃取していたことを認めるに足りる的確な証拠もないことに加え、保存食の検査等のための本件物品の使用が現実に必要となったことはうかがわれないことを考慮すると、本 件非違行為による公務の遂行及びこれに対する市民の信頼の失墜の程度が重大であるとまではいえない。 さらに、上記1⑶ウのとおり、本件非違行為及び本件懲戒免職処分については、市教委の公表に基づく報道がされていることは認められるものの、原告が出勤しなくなかったことによる人員調整等の支障及び本件非違行為に よる他の調理員の信頼関係の毀損を除くと、本件非違行為により、被告の業務に具体的な支障が生じたことはうかがわれない。 これらのことからすると、原告が、保存食を含む公金物の窃取が懲戒免職処分の対象となる行為である旨の注意喚起を受けていたにもかかわらず、明確な窃取の意思の下で、自己中心的な動機に基づいて本件非違行為に及んだ ものと認められること(上記1⑵イ及び⑶イ)などの被告指摘の事情を踏まえても、本件非違行為が免職を相当とする程度の非難可能性のある行為と評価することはできないというべきである。 イ本件非違行為は、本件取扱方針にいう「公金又は物品を窃取した」に該当し、その処分 件非違行為が免職を相当とする程度の非難可能性のある行為と評価することはできないというべきである。 イ本件非違行為は、本件取扱方針にいう「公金又は物品を窃取した」に該当し、その処分の量定の標準例は「免職」と定められている。しかしながら、 一般に、窃取行為による財産的損害の多寡は、その非難可能性の程度に影響 を及ぼす重要な要素であるところ、本件取扱方針においても、個別の事案の内容によっては、標準例に掲げる量定以外とすることもあり得るとされていることや、免職は懲戒処分の中で最も重い量定であって、本件取扱方針に掲記された各非違行為についてみても、標準例として免職以外の量定が定められているものが少なくないことに照らすと、公金物の窃取に係る上記の標準 例は、窃取行為による結果が軽微であることなどにより、処分の量定として免職を選択することが相当でないと評価すべき事情が認められる場合には、免職以外の処分を選択することを想定したものであると解される。上記アで検討したとおり、本件非違行為については、財産的損害の点から見た結果が相当に軽微であり、他にその結果や態様等の悪質性について重大視すべき事 情は認められないことに照らせば、本件取扱方針の標準例に従って処分の量定として免職を選択することが相当でないと評価すべき事情があるというべきである。このことに加え、上記第2の2の前提事実⑴、上記1⑶ア及びイのとおり、原告が過去に懲戒処分歴を有しておらず、本件非違行為の後に謝罪や反省の態度を示していることなどの各事情を総合的に考慮すれば、原 告に対し、免職を選択することは重きに失するものといわざるを得ない。本件懲戒免職処分は、これらの事情を看過してされたものであって、社会通念上著しく妥当を欠き、処分行政庁において 慮すれば、原 告に対し、免職を選択することは重きに失するものといわざるを得ない。本件懲戒免職処分は、これらの事情を看過してされたものであって、社会通念上著しく妥当を欠き、処分行政庁において、その裁量権の範囲を逸脱したものと認めるのが相当である。 ウしたがって、本件懲戒処分は違法である。 3 結論以上によれば、本件懲戒免職処分の取消しを求める原告の請求は理由があり、また、本件懲戒免職処分を前提とする本件退職手当不支給処分も違法であるから、その取消しを求める原告の請求も理由があるというべきである。 よって、原告の請求を認容することとして、主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官五十嵐章裕 裁判官加藤優治 裁判官竹内峻
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