平成12(ワ)651 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年2月26日 神戸地方裁判所
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判決文本文7,809 文字)

主文 一原告の請求を棄却する。 二訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び争点第一申立一被告は原告に対し,金438万5024円及びこれに対する平成12年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 二仮執行の宣言第二事案の概要本件は,原告が被告に対し,被告が原告に雇用されていた期間中に原告の金銭を横領したとして,債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償請求をした事件である。 一争いのない事実 1 原告は不動産仲介等を目的とする会社であり,当初は神戸市A区Ba丁目b-c号に本店を設けていたが,平成5年6月9日に同市C区D町Ed番地のeに,平成8年6月1日には同所f番地に本店を移転し,次いで,平成11年9月28日に現在の場所に本店を移転した。 原告の営業は,主として賃貸物件の管理及び不動産賃貸借の仲介であった。 2 被告は,平成元年11月頃,原告と雇用契約を締結し,以後原告の経理事務担当の事務員として原告に勤務し,登記簿上原告の監査役に就任した。 3 被告は,原告の経理事務全般及び現金出納等の業務に従事し,原告代表者の甲から原告の通帳及び銀行印を預かっていた時期もあったが,平成11年9月30日に原告を退職した。 二争点に関する双方の主張(原告) 1 被告は,別表1のとおり,平成6年3月1日から平成11年3月31日までの間,36回にわたり,甲に対する給与支払の名目で,原告のために預かり保管中の保管金から出金額欄記載の金員を出金し,そのうち甲には受領額欄記載の金額しか渡さず,もって,横領額欄記載の合計418万5300円を着服横領した。 2 被告は,別表2のとおり,平成5年9月28日から平成11年3月7日までの間,88回にわたり,原 には受領額欄記載の金額しか渡さず,もって,横領額欄記載の合計418万5300円を着服横領した。 2 被告は,別表2のとおり,平成5年9月28日から平成11年3月7日までの間,88回にわたり,原告のために預かり保管中の保管金から出金し,その都度神戸市内において自己の用途に費消し,もって,横領額欄記載の合計19万9724円を横領した。同表番号1ないし48は食糧品購入のもの,49ないし71は婦人用下着・趣味洋品等購入のもの,72ないし88は薬品購入のものである。なお,横領額欄を除いては,原告主張のうち誤記と認められるものは訂正済みである。 3 甲は,経理に関する知識に乏しく,またパソコンを扱えなかったので,原告の経理事務及び現金出納は被告に任せきりであった。原告の帳簿は被告がパソコンに入力し,フロッピーディスクも被告が管理していた。 4 後記被告の主張3の(1),(2),(3)及び(4)中平成9年6月から平成10年6月まで概ね毎月2万円が被告主張の口座に入金されていることは認める。上記(2)の掛金及び(3)の保険料は,いずれも原告の甲に対する未払給与の清算として処理された。 (被告) 1 被告が横領したことは否認する。 2 被告は,現金出納を含む経理事務を遂行するにあたっては,常に甲の具体的な指揮監督に服していた。 3 別表1については,被告は,ほとんどの場合,出金額全部を甲に渡していた。例外的に全額を渡していない場合には,次のような用途に充てた残額を甲に交付していた。 (1) 事務所を原告と共同利用する関係にあった乙株式会社(以下,「乙」という。)との共同慰安旅行のための積立のため旧阪神銀行E支店の被告名義普通預金口座(番号1554855)が存在し,甲は毎月1万円の積立をしていた。 (2) 甲は,個人で中小 会社(以下,「乙」という。)との共同慰安旅行のための積立のため旧阪神銀行E支店の被告名義普通預金口座(番号1554855)が存在し,甲は毎月1万円の積立をしていた。 (2) 甲は,個人で中小企業事業主退職共済に加入し,その掛金として毎月3万円がさくら銀行F支店の甲名義普通預金口座(番号4683077)で毎月18日に引き落としされていたので,同口座に入金する必要があった。 (3) 甲は個人で郵便局簡易保険に加入し,その保険料として毎月1万8730円が毎月27日に甲名義の通常貯金口座(記号番号14340-51827121)から引き落としされていたので,同口座に入金する必要があった。 (4) 甲は,個人で平成9年5月頃までは不定期に不定額を,同年6月から平成10年6月までは概ね毎月1回2万円を,旧阪神銀行G支店の被告名義普通預金口座(番号1541211)に積み立てていた。 4 別表2については,以下の性格のものが混在している。 (1) 原告から顧客への贈答,事務所の備品・消耗品購入等の原告の正当な支出(2) 甲個人の飲食や昼の弁当代等,本来原告の費用とならない支出について,甲は被告に領収証・レシートと引き換えに,原告の小口手持資金から出金するよう求め,被告が甲に交付したもの(3) 小口裏金作りのための支出被告は,甲から,原告の正当な支出であっても相手先との関係から領収証をもらえないといわれることがあり,また,(2)の支出をしばしば求められることから,甲と協議の上,そのような支出に対応するための別口現金,すなわち裏金を作ることとした。その方法は,被告や甲の個人的支出の領収書類をもって,原告の小口手持資金から架空出金して,それを裏金としてプールし,必要に応じてそこから支出するというものであった。 すなわち裏金を作ることとした。その方法は,被告や甲の個人的支出の領収書類をもって,原告の小口手持資金から架空出金して,それを裏金としてプールし,必要に応じてそこから支出するというものであった。 5 帳簿のパソコン入力については,原告が乙と事務所を共用していた平成5年5月から平成11年9月末までの間,乙のパソコン及び会計ソフト「大番頭」を使用し,期中(4月1日から3月31日まで)はハードディスクに保存し,期末後にフロッピーに保存した上,そのフロッピーを事務所に常置していた。平成5年度から平成10年度までのフロッピーは,原告が平成11年9月末に事務所を移転した際,置いたままにされた。平成11年度分については,被告は期間途中で退職したから,そもそもフロッピー保存はしていない。 理由 一甲54,55及び証人丙,被告本人,原告代表者甲本人(但し一部)によれば,以下の事実が認められる。 1 甲,被告及び丙は,ともに丁株式会社に勤務していたが,平成元年11月,原告が設立され,甲が代表取締役に就任し,被告も監査役に就任した。一方丙は乙を設立して,同社の代表取締役に就任していた。当初は,原告も乙も丁株式会社の事務所を共用していたが,平成5年に同社が倒産したため,原告と乙は,神戸市H区I町Jg番地のhに事務所を移転した。 2 被告の勤務時間は,平成8年7月までは午前10時から午後1時半までであったが,それ以後は午後5時半までと延長された。被告は,原告と乙の経理事務をしていた。 3 被告は,入出金及び振替伝票の起票並びに元帳のパソコン入力,さらには決算書の作成,税務申告等の事務を行っていた。光熱費や事務所の家賃等の恒常的な支出は,特に甲の指示を受けずにしていたが,それ以外の出金・支出は,甲の指示ないしは確認の下に行 のパソコン入力,さらには決算書の作成,税務申告等の事務を行っていた。光熱費や事務所の家賃等の恒常的な支出は,特に甲の指示を受けずにしていたが,それ以外の出金・支出は,甲の指示ないしは確認の下に行っていた。また,被告が勤務を終えて帰った後に,甲が入出金をすることもあった。その場合の伝票処理は,甲が残したメモに基づき,後に被告がしていた。 4 伝票類,領収証類やパソコン入力した元帳は事務所に保管されており,甲もいつでも見られる状況にあり,また,決算や税務申告については,書類に基づき被告が甲に説明してその了解を得ていた。 5 原告は,丁株式会社が倒産後経営が苦しく,甲に対する給与支払もできず,未払給与が蓄積していったので,平成6年頃以降の甲に対する給与(報酬)支払は,常に未払給与の支払としてなされていた。被告に対する給与支払についても同様であり,常時70万円から80万円程度の未払金が存在し,原告退職の際には,原告と被告は,未払給料,立替金等の未払金125万円余り,原告に対する被告の貸付金50万円余り,出資金返還金50万円並びに退職金74万円余りの合計300万円について,原告が被告に平成11年10月から月5万円ずつ分割支払すること等を定めた公正証書を,同年9月30日に作成した。 6 被告が原告に在職中,甲から,被告の会計処理等について,不正の指摘や疑問の提起がなされたことはなかった。 二別表1について以下の認定,説示のとおり,別表1にかかる被告の横領を認めることはできない。 1 別表1の振替伝票欄及び元帳欄に記載の各甲号証と弁論の全趣旨によれば,振替伝票及び総勘定元帳上原告主張のとおりの出金がなされたことを認めることができる。ただし,別表1の番号14については元帳上は31万円となっているが振替伝票上は30万5000円となっており よれば,振替伝票及び総勘定元帳上原告主張のとおりの出金がなされたことを認めることができる。ただし,別表1の番号14については元帳上は31万円となっているが振替伝票上は30万5000円となっており,また,番号36については元帳上は17万円となっているが振替伝票上は15万円となっており,食い違いがあり,その原因及び実際の出金額はいずれが正しいのかは不明である。 2 弁論の全趣旨によれば,別表1にかかる甲の金銭受領は,すべて未払給与金としてであり,不定期かつ額も一定していないことが認められるところ,原告主張の受領額の根拠は,原告代表者甲本人の供述によれば,甲の記憶と手帳のメモ(甲20ないし22,62の1・2)であるということになる。 しかし,時期も金額も一定していないものを,甲が記憶しているとは考えられないし,手帳のメモについても,必ずしも的確な証拠であるとはいえない上,後記5のような疑問もある。 3 原告代表者甲本人は,未払給与の支払について,その時期や額の決定権は被告にあったかのような供述をするが,被告と甲との関係からすれば,少なくとも甲の意見を被告が無視して金額等を決定していたとは考えられない。 4 乙1によれば,被告は平成7年3月31日から同年4月10日まで神戸市内の中井病院に入院していたことが認められるところ,別表1の番号10はこの入院期間中のことであり,被告自らが出金をしたものでないことは明らかであり,甲もこれを認めている。 原告は,甲が阪神銀行から73万円を出金して(甲7の1,乙2),必要な支出として合計42万8272円を支出し,残金30万1728円を,退院後被告に渡してその中から20万円を受け取り,被告は振替伝票等を作成したと主張するが,甲は何故73万円を出金しながらその残額の一部のみを未払給与として受け取る を支出し,残金30万1728円を,退院後被告に渡してその中から20万円を受け取り,被告は振替伝票等を作成したと主張するが,甲は何故73万円を出金しながらその残額の一部のみを未払給与として受け取ることにしたのかという疑問があり,原告はこの点について納得できる主張・立証をしていない。 また,前記一の2,3の事実によれば,別表1にかかる出金中には,上記番号10以外にも,被告が出金をしたのではないものが含まれている可能性があるということができる。 5 乙9の封筒上のメモは,原告代表者甲本人によれば,甲が平成6年3月1日頃(別表1の番号1関係)に作成したもので,この封筒の中に現金を入れて被告に渡したものであると供述している。そして,「入金265万円,横江氏30万円,長谷氏161万5000円,甲30万円」と縦に記入し,最終行に「43万5000円」と記入した意味は,被告本人が供述するように,横江,長谷及び甲への支払分を265万円から控除した残りの43万5000円を被告に封筒に入れて渡したということでなく,「甲30万円」というのは自分としては30万円欲しいという意味で記入したに過ぎないと,甲は供述する。しかし,この甲の供述は,「435,000」の数字が四角く囲われていることや被告本人に照らして採用できず,被告本人が供述するように,甲の未払給与30万円が控除された残りが被告に交付されたものと認めるのが相当である。 そうすると,甲20の手帳の平成6年3月2日欄の「給25万」とのメモは信用できないというべきである。 さらに,上記認定によると,別表1中には,番号1以外にも,甲があらかじめ自己の未払給与を原告の収入として甲が所持している現金から控除し,その内容をメモで説明して,その残りの現金を被告に渡していた場合があり得ることを否定できな 表1中には,番号1以外にも,甲があらかじめ自己の未払給与を原告の収入として甲が所持している現金から控除し,その内容をメモで説明して,その残りの現金を被告に渡していた場合があり得ることを否定できない。 6 乙3と弁論の全趣旨によれば,原告と乙の共同慰安旅行のための積立金用の口座として,旧阪神銀行E支店の被告名義の普通預金口座(番号1554855)が存在し,甲も毎月1万円の積立金を同口座に入金していたことが認められる。 乙4と弁論の全趣旨によれば,甲は,旧阪神銀行G支店の甲名義の普通預金口座に,少なくとも平成7年10月頃から平成9年4月頃までは不定期に金額も一定しない入金をしており,同年6月以降は毎月2万円の入金をしていたことが認められる。 乙5と弁論の全趣旨によれば,甲は郵便局簡易保険に加入し,その保険料として毎月1万8730円が甲名義の通常貯金口座(記号番号14340-51827121)から引き落としされていたので,この口座に入金する必要があり,現に入金されていたことが認められる。 乙6と弁論の全趣旨によれば,甲は中小企業事業主退職共済に加入しており,その掛金として毎月3万円がさくら銀行F支店の甲名義の普通預金口座(番号4683077)から引き落としされていたので,この口座に入金する必要があり,現に入金されていたことが認められる。 そして,乙7,被告本人に弁論の全趣旨を総合すると,被告は,甲に対する未払給与として出金処理した金銭の一部を,上記の各口座に入金していたことが多数あることが認められる。 そうすると,甲の手元に残された現金が振替伝票の記載金額より少なかったとしても,その分は甲個人の支払に充てられたということになり,被告が横領をしたということにはならないというべきである。 7 前記一の4ないし6の事 元に残された現金が振替伝票の記載金額より少なかったとしても,その分は甲個人の支払に充てられたということになり,被告が横領をしたということにはならないというべきである。 7 前記一の4ないし6の事実によれば,甲は伝票類を確認しようとすればできたこと,被告が在職中その経理処理に疑問を提起したこともないこと,被告には原告に対する相当額の債権が常に存在したことが認められるのであり,こうした事実を前提とすると,被告に横領の動機があったということはできないし,甲も被告に一定の信頼を寄せていたということができる。 8 以上を総合すると,被告が甲の未払給与として出金した金銭の一部を横領したとする甲の供述(甲24,44,45,52,53,63の陳述書を含む。)は採用できず,他にこの事実を認めるに足りる証拠もないというべきである。 三別表2について以下の認定,説示のとおり,別表2にかかる被告の横領を認めることはできない。 1 別表2の振替伝票欄及び領収書欄に記載の各甲号証及び弁論の全趣旨によれば,振替伝票上原告主張の各出金処理がなされ,購入日欄記載の日に購入品欄記載の物品を購入場所欄記載の店舗で購入して,横領額欄記載の代金が支払われたことが認められる。ただし,同表の番号14の横領額は854円,番号40の横領額は9366円,番号69の横領額は1029円であり,また,同表の番号10,13,21,23ないし27,34,35,58,66,67,73,77,81については,横領額(購入額)そのものに対応する振替伝票上の出金はない(原告が備考欄で合算とするものについては,合算金額と振替伝票上の金額が一致しない。)。 2 乙7,証人丙,被告本人及び弁論の全趣旨によれば,原告の事務所では,乙関係者も含めて,会社の負担で弁当,惣菜を購入して昼食にあてたり,食材 いては,合算金額と振替伝票上の金額が一致しない。)。 2 乙7,証人丙,被告本人及び弁論の全趣旨によれば,原告の事務所では,乙関係者も含めて,会社の負担で弁当,惣菜を購入して昼食にあてたり,食材を購入して調理した上食事したりしていたことが認められ,原告代表者甲本人も,別表2の番号16の米については会社用のものであることを認めている。 そうすると,別表2のうち食糧品関係のものについては,原告の会社用に購入されたものが多数含まれていることが推認できるし,購入品がCPU関連とされるものは,原告ではパソコンを使用していたことから,会社用の物品購入である可能性があり,さらに,薬局からの購入についても,トイレットペーパー等の会社用物品購入である疑いがある。 3 乙7,証人丙及び被告本人によれば,平成6,7年頃乙に税務調査が入り,同社が支払った領収証のない紹介料について,経費と認められず,丙に対する貸付金扱いとされたことをきっかけとして,乙及び原告では,若干の簿外金を作るようになったこと,原告でも,領収証のとれない接待費用や先に領収証を交付した売上金について,後に値引きした場合などに備えて,簿外金を準備しておく必要性があったこと,その方法として,甲や被告が個人的な物品購入等の際に受け取った領収証類を原告に持参して,その出金が原告からなされたかのような伝票処理をしていたこと,別表2の中には,このような伝票処理をしたものが含まれている可能性があることが認められる。原告代表者甲本人の供述(前記陳述書を含む。)中,以上の認定に反する部分は採用できない。 4 以上に,前記二の7の認定を総合すれば,別表2にかかる被告の横領に関する甲の供述(前記陳述書を含む。)は採用できず,他にこの事実を認めるに足りる証拠もないというべきである。 四結論 4 以上に,前記二の7の認定を総合すれば,別表2にかかる被告の横領に関する甲の供述(前記陳述書を含む。)は採用できず,他にこの事実を認めるに足りる証拠もないというべきである。 四結論以上のとおりであって,原告は横領の立証ができていないというほかなく,原告の請求は理由がない。 神戸地方裁判所第5民事部裁判官前坂光雄

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