平成24年12月26日判決言渡平成21年(ワ)第30360号損害賠償請求事件判決主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。事実及び理由第1 請求 1 被告らは,原告aに対し,各自5636万1785円及びこれに対する平成19年2月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告bに対し,各自5636万1785円及びこれに対する平成19年2月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告らが,被告学校法人c大学(以下「被告c大学」という。)の運営するc大学附属病院(以下「被告病院」という。)の小児歯科を受診して治療を受けていた亡d(以下「d」という。)が腫瘍崩壊症候群を発症し腸管穿孔を発症して死亡したのは,被告e(以下「被告e」という。)ら被告病院の歯科医師が血液検査の実施をけ怠し腫瘍性疾患(バーキットリンパ腫)の診断及び治療が遅滞したことによるものであるなどと主張して,被告らに対し,不法行為又は債務不履行に基づき損害賠償金及び平成19年2月26日(dの死亡日)からの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠〔[]内は当該証拠の関係頁である。 以下同じ。〕により容易に認定できる事実) 当事者等ア原告aと原告b(以下「原告b」という。)は,平成8年4月11日に婚姻の届出をした夫婦であり,d(平成9年3月17日生,平成19年2月26日死亡)は,同夫婦の長男である。原告らのほかに,dの相続人はいない。 イ被告c大学は,被告病院を運営する学校法人である。被告eは,被告病院(小児歯科)の歯科医師であり,日本小児歯科学会の認定医 日死亡)は,同夫婦の長男である。原告らのほかに,dの相続人はいない。 イ被告c大学は,被告病院を運営する学校法人である。被告eは,被告病院(小児歯科)の歯科医師であり,日本小児歯科学会の認定医である。 診療経過等ア dは,平成19年1月22日(以下,月日のみ記載するときは,全て平成19年である。),歯牙の疼痛,左上E歯(上顎左側第2乳臼歯)の頬側歯肉の膨隆(以下「頬側歯肉の膨隆」という。)の出現等を訴えて,原告bと共に医療法人社団f 会g 歯科医院(以下「g 歯科医院」という。)に赴き,h歯科医師(以下「h歯科医師」という。)の診察を受けた。 h歯科医師は,dを左上E歯の根尖性歯周炎と診断し,その根管を開放する処置を実施するとともに,ケフラール(抗菌薬)及びフロベン(消炎鎮痛薬)を処方した。なお,h歯科医師は,1月26日にも,ケフラール及びフロベンを処方している。(甲A7)イ dは,1月29日,原告bと共にg 歯科医院に赴き,h歯科医師の診察を受けた。 h歯科医師は,症状に変化がないことから,dを被告病院に紹介することにした。(甲A7,乙A5)ウ dは,1月30日,原告bと共に被告病院(小児歯科)に赴き,被告eの診察を受けた(以下,これを「1月30日の診察」という。)。 被告eは,dを慢性化膿性根尖性歯周炎,歯肉膿瘍と診断し,左上E歯を抜歯して経過観察をすることにした。(乙A1の1,2)エ dは,1月31日,原告bと共に被告病院に赴き,被告eの診察を受けた。 被告eは,頬側歯肉の膨隆が若干縮小したことから,経過観察を継続することにし,フロモックス(抗菌薬)及びカロナール(鎮痛薬)を処方した。(乙A1の1,2)オ dは,2月2日,原告bと共に被告病院に赴き,被告病院のi歯科医師(小児歯科長。日本小 継続することにし,フロモックス(抗菌薬)及びカロナール(鎮痛薬)を処方した。(乙A1の1,2)オ dは,2月2日,原告bと共に被告病院に赴き,被告病院のi歯科医師(小児歯科長。日本小児歯科学会認定医指導医。以下「i歯科医師」という。)の診察を受けた(以下,これを「2月2日の診察」という。)。 i歯科医師は,経過観察を継続することにしたが,頬側歯肉の膨隆が依然消失しないこと,左上4番歯(上顎左側第1小臼歯)から6番歯(上顎左側第1大臼歯)までの頬側に膨隆が認められること,膨隆部に弾性があり,圧痛を訴えていること,左上4番歯及び6番歯に動揺があることから,j歯科医師(歯科麻酔・全身管理科。日本口腔外科学会専門医。以下「j歯科医師」といい,i歯科医師と併せて「i歯科医師ら」という。)に診察を依頼した。j歯科医師は,i歯科医師に対し,オルソパントモグラフ撮影を実施するよう指示をしている。(乙A1の1,2)カ dは,2月4日頃,腹痛,下痢,嘔吐感等の症状が出現したことから,同月6日朝,原告bと共に,k医院に赴き,l医師(内科医。以下「l医師」という。)の診察を受けた。 l医師は,腹部の膨隆を認めて急性胃腸炎と診断し,ブスコパン(胃腸炎等に対する鎮痙薬)を点滴投与するとともに,ムコスタ(胃炎,胃潰瘍治療薬)及びビオフェルミンR(整腸薬)を処方した。(乙A31)キ dは,2月6日,原告bと共に被告病院に赴き,被告eの診察を受けた。 被告eは,j歯科医師の指示に従いオルソパントモグラフ撮影を実施した上,抜歯窩を掻爬し,バラシリン(抗菌薬)を処方した。(乙A1の1,2,乙A6)ク dは,2月7日,原告bと共に被告病院に赴き,被告eの診察を受けた。 被告eは,顕著な変化はないものの,頬側歯肉の膨隆が縮小傾向を示し,発赤も消退傾 )を処方した。(乙A1の1,2,乙A6)ク dは,2月7日,原告bと共に被告病院に赴き,被告eの診察を受けた。 被告eは,顕著な変化はないものの,頬側歯肉の膨隆が縮小傾向を示し,発赤も消退傾向を示していることから,j歯科医師と相談した上,経過観察を継続することにした。(乙A1の1,2)ケ dは,2月9日朝,原告bと共にk医院に赴き,l医師の診察を受けた。 l医師は,腹痛等の症状が改善しないこと,腹部が膨隆し軽度の抵抗があることから,腸閉塞を疑い,dをm病院(以下「m病院」という。)に紹介した。(甲A4の1,乙A31)コ dは,2月9日午前11時頃,原告bと共にm病院に赴き,n医師(小児科。以下「n医師」という。)の診察を受けた。 n医師は,血液検査,尿検査,胸部,腹部及び頭部エックス線検査並びに頭部CT検査を実施し,口腔外科医にも診察を依頼した上,① 縦隔腫瘍等の悪性疾患あるいは血栓等による血管閉塞性病変が疑われる,② 頬側歯肉の膨隆は抜歯を原因とする左側上顎洞炎であると診断して,dをo大学医学部附属o医院(以下「o医院」という。)に紹介した。 (乙A32[10,23])サ dは,2月9日,原告bと共にo医院に赴き,直ちに同医院に入院した。 o医院の医師は,2月11日,悪性リンパ腫に伴う腫瘍崩壊症候群の発症を疑い,急性腎不全に対応するため透析を実施するとともに,全身状態の維持を目的として,プレドニン(副腎皮質ホルモン製剤)の投与(以下「ステロイド治療」という。)を開始した。 o医院の医師は,2月14日,頬側歯肉の膨隆につき組織診断を実施し,悪性リンパ腫と診断した上,プレドニンを増量投与し,同月17日には,ビンクリスチン(抗がん剤)の投与を開始した。 o医院の医師は,2月20日,dをバーキットリンパ腫と診断( につき組織診断を実施し,悪性リンパ腫と診断した上,プレドニンを増量投与し,同月17日には,ビンクリスチン(抗がん剤)の投与を開始した。 o医院の医師は,2月20日,dをバーキットリンパ腫と診断(確定診断)し,小児がん等の専門医の団体である東京小児がん研究グループ(TCCSG)作成に係るレジメン(がん治療において投与する薬剤の種類,量,手順等を示した計画書)に従い,キロサイド(抗がん剤)の投与を開始した。 o医院の医師は,2月21日,腹水が便汁様であること,腹部エックス線検査により腹腔内遊離ガス(freeair)を認めたことから,腸管破裂(腸管穿孔)を疑い,緊急開腹手術を実施したが,dは,汎発性腹膜炎,播種性血管内凝固症候群(DIC),急性呼吸窮迫症候群(ARDS)等を発症し,同月26日午前4時57分,ARDSを直接の原因として死亡した。(甲A3,乙A33[14,27,56,68,72,74,108,110]) 医学的知見等ア悪性リンパ腫,バーキットリンパ腫悪性リンパ腫は,リンパ組織(リンパ節,脾臓,扁桃,骨髄等の免疫機能を担う組織)から発生する悪性腫瘍である。一般に,その発症可能性は年齢に応じて増加し,小児に発症することは比較的少ないとされている(ただし,バーキットリンパ腫は,小児に発症することが多い。)。悪性リンパ腫(多くは頸部,顎下部リンパ節に初発し,口腔内に初発することはまれである。)を発症すると,口腔粘膜の膨隆,潰瘍,発赤,歯牙の動揺,疼痛,口唇部の知覚麻痺等の症状が出現するほか,発熱,体重減少,倦怠感,食欲不振等の全身症状が出現する。 バーキットリンパ腫は,悪性リンパ腫の一種であり,それ自体は極めてまれな疾患である。バーキットリンパ腫(多くは腸管に初発する。)を発症すると,腹部膨隆,腹痛,嘔 食欲不振等の全身症状が出現する。 バーキットリンパ腫は,悪性リンパ腫の一種であり,それ自体は極めてまれな疾患である。バーキットリンパ腫(多くは腸管に初発する。)を発症すると,腹部膨隆,腹痛,嘔吐感等の消化器症状が出現するほか,口腔内に歯冠を被覆するような膨隆が出現したり,歯牙の動揺,疼痛,口唇部の知覚麻痺等の症状が出現したりする。 バーキットリンパ腫は,急激に拡大する特徴を有するものの,化学療法が実施された場合における生存率は高い(Ⅳ期〔骨髄に浸潤があるもの〕の場合でも80ないし90%に上る。)。もっとも,化学療法の実施に伴いリンパ腫細胞が急激に崩壊することにより,腎不全等(腫瘍崩壊症候群)を招来することがあるほか,リンパ腫細胞が正常な細胞と置換し腸管壁を構成するに至っている場合には,腸管壁が脆弱となって腸管穿孔を招来することもある。 なお,腫瘍性疾患,炎症性疾患の鑑別は,第1次的には,血液検査を実施し,LDH値(乳酸脱水素酵素値),尿酸値,CRP値(C反応性蛋白値)等を確認することにより行うが,腫瘍性疾患の確定診断をするためには,組織診断,細胞診断等を行うことが必要となる。(甲B1[1,5],甲B2[264~267],甲B3[151],甲B8[158,160],甲B10の1,2,甲B12[3],甲B18,甲B19,甲B20[262],甲B21[168],甲B27[278],甲B28[584,585,589,590],乙B1[202,203,802,803,807],乙B2[9~12],乙B3[21,22],乙B8[526~529],乙B9[1427~1430])イ炎症,慢性化膿性根尖性歯周炎炎症は,細菌等の感染,外傷等の有害な刺激に対する防衛反応の一種であり,その症状は,膨隆(腫脹),発赤,疼痛,局所熱感 529],乙B9[1427~1430])イ炎症,慢性化膿性根尖性歯周炎炎症は,細菌等の感染,外傷等の有害な刺激に対する防衛反応の一種であり,その症状は,膨隆(腫脹),発赤,疼痛,局所熱感等である。 なお,急性炎症は,急速に増強する炎症症状を,慢性炎症は,強度の炎症症状が沈静した後,なお一定の限度で持続する炎症症状をいうが,これらは必ずしも明確に区別し得るものではなく,急性炎症が慢性炎症に移行したり(慢性化),逆に慢性炎症が急性炎症に移行したり(急性化)することもある(証人i,同p,被告e本人)。 慢性化膿性根尖性歯周炎は,歯肉等の歯周組織の炎症を伴う疾患の一種であり,う蝕や歯の損傷に伴う歯髄炎等の感染症が根尖部歯周組織に波及したものをいう(甲B26[123])。 2 争点 血液検査義務違反の有無 因果関係の有無 損害の有無及び損害額 3 争点についての当事者の主張 血液検査義務違反の有無(原告らの主張)ア 被告病院の歯科医師らは,1月30日の診察において,① 頬側歯肉の膨隆が歯冠を被覆するような特異な形状で,波動を触れず,排膿も認められないこと,② 左上E歯から6番歯までの頬側歯肉の粘膜が欠損し潰瘍が形成されていること,③ 上顎左側の歯肉頬溝(上顎の歯茎の上部に位置する溝状の凹み)が全体的に膨隆し(以下,これを「歯肉頬溝の膨隆」という。),発赤も認められないこと,④ g 歯科医院において,ケフラールの投与,根管の開放等,炎症性疾患に対する標準的な治療が実施されたにもかかわらず,症状に変化がなかったこと,⑤ 患部に発赤,局所熱感等の症状がないことを認識し又は認識し得たのであるから,同日,腫瘍性疾患(悪性腫瘍)の発症を疑い,炎症性疾患ないし腫瘍性疾患の鑑別を目的として血液検査を実施す なかったこと,⑤ 患部に発赤,局所熱感等の症状がないことを認識し又は認識し得たのであるから,同日,腫瘍性疾患(悪性腫瘍)の発症を疑い,炎症性疾患ないし腫瘍性疾患の鑑別を目的として血液検査を実施すべきであった。 また,被告病院の歯科医師らは,2月2日の診察において,① 新たにフロモックスを投与したにもかかわらず,頬側歯肉の膨隆,歯肉頬溝の膨隆が縮小せず,新たに上顎左側の口蓋及び左上6番歯の頬側歯肉に膨隆が出現したこと,② dの頬部や口唇部にしびれ感が出現したこと,③ 左上4番歯及び6番歯に動揺があること,④ 左上E歯の頬側歯肉の粘膜が大きく欠損し潰瘍が形成されていることを認識し又は認識し得たのであるから,遅くとも同日までに,腫瘍性疾患の発症を疑い,炎症性疾患ないし腫瘍性疾患の鑑別を目的として血液検査を実施すべきであった。 イしかるに,被告病院の歯科医師らは,患者の死亡という重大な結果を招来し得る悪性腫瘍の可能性を現に認識し,しかも,その鑑別には血液検査 という容易な検査を実施することで足りるのに,1月30日の診察においても,2月2日の診察においても,血液検査を実施しなかった。 (被告らの主張)ア 被告病院の歯科医師らは,1月30日の診察において,① 左上E歯にう蝕があり,また,デンタルレントゲン写真上,頬側歯肉の膨隆部分に炎症性疾患の発症を疑わせる顕著なエックス線透過像が認められたこと(膿瘍等の部分は,エックス線透過度が増加する。),② 症状が平成18年12月頃から持続し慢性化していると判断されたこと,③ dがg 歯科医院において根尖性歯周炎の治療を受けていたことから,dを慢性化膿性根尖性歯周炎であり,頬側歯肉の膨隆はこれに伴う歯肉膿瘍である可能性が最も高いと診断した。 また,被告病院の歯科医師らは,2月 医院において根尖性歯周炎の治療を受けていたことから,dを慢性化膿性根尖性歯周炎であり,頬側歯肉の膨隆はこれに伴う歯肉膿瘍である可能性が最も高いと診断した。 また,被告病院の歯科医師らは,2月2日の診察において,① 頬側歯肉の膨隆が縮小傾向を示していたこと,② dが学校でマラソンをするなど活発に活動していたこと,③ 腫瘍性疾患を疑わせる病変の拡大や症状の変化は確認されなかったことから,上記の診断を変更しなかった。 原告らは,頬側歯肉の膨隆の形状,歯牙の動揺等は腫瘍性疾患の発症を疑わせるものであるし,抗菌薬の投与にもかかわらず,dの症状は改善せずむしろ悪化していたのであるから,腫瘍性疾患の発症を疑うべきであった旨の主張をする。 しかしながら,① 炎症性肉芽組織の増殖を伴う慢性期の歯肉膿瘍の場合,歯冠を被覆するような形状を呈することがあること(この場合,波動を触れず,排膿も発赤も認められないことがある。),② 炎症症状が長期間持続した場合,原因歯のみならず隣接歯の歯槽部に骨吸収が生じ,歯牙に動揺が生ずることがあること,③ 慢性炎症の場合,1週間程度の抗菌薬の投与により膨隆が消失するわけではないこと(近時,ケ フラールに対する耐性菌の出現に伴う抗菌力の低下も指摘されている。),④ 慢性炎症の場合,患部に顕著な発赤,局所熱感等の症状が出現しないことがあることなどからすると,原告らの主張する所見から直ちに悪性リンパ腫等の腫瘍性疾患の発症を疑うことは困難であるし,そもそも,バーキットリンパ腫は極めてまれな疾患であり,悪性リンパ腫が小児の口腔内に初発することもまれであること,発熱,体重減少,倦怠感,食欲不振等の全身症状が出現していなかったことをも併せ考えると,被告病院の歯科医師らにおいて,上記疾患の発症を疑うことは極めて困難で 口腔内に初発することもまれであること,発熱,体重減少,倦怠感,食欲不振等の全身症状が出現していなかったことをも併せ考えると,被告病院の歯科医師らにおいて,上記疾患の発症を疑うことは極めて困難であったといわざるを得ない。 イ以上によれば,いわゆる大学病院について診療契約に基づき要求される医療水準を前提としても,被告病院の歯科医師らにおいて,腫瘍性疾患の発症を疑い,炎症性疾患ないし腫瘍性疾患の鑑別を目的として血液検査を実施すべきであったとはいえず,同歯科医師らに注意義務違反はない。 因果関係の有無(原告らの主張)被告病院の歯科医師らが1月30日,あるいは2月2日までに血液検査を実施し,LDH値等を確認していれば,腫瘍性疾患(悪性腫瘍)の疑いが増強し,その結果,dは,小児がんの治療を専門とする医療機関に転送され,遅くとも同月6日までにステロイド治療を受けることができたはずである。 そして,① バーキットリンパ腫は急激に拡大する特徴を有する一方で,化学療法が実施された場合における生存率は極めて高いこと,② 腸管穿孔を招来した腸管周辺のリンパ腫細胞は,2月6日頃から同月9日にかけて急激に増殖したと推測されること(同月6日時点におけるリンパ腫細胞の量は,同月11日時点〔o医院の医師が実際にステロイド治療を開始した時点〕に比して僅少であったと考えられる。)からすると,同月6日までにステロイド治療が開始され,その後,確定診断の結果に基づき,TCCSG作成に係るレジメンに従った化学療法を開始されていれば,dが,腸管穿孔を招来することも,同月26日に死亡することもなかった。 (被告らの主張)dの死亡が腸管穿孔に起因するものであることは,明らかである。腸管穿孔を招来した原因については,化学療法の実施による腸管壁の脆弱化,自 とも,同月26日に死亡することもなかった。 (被告らの主張)dの死亡が腸管穿孔に起因するものであることは,明らかである。腸管穿孔を招来した原因については,化学療法の実施による腸管壁の脆弱化,自然穿孔,ビンクリスチンの投与による腸管麻痺に起因する腸閉塞等が考えられるが,そのいずれであるにせよ,バーキットリンパ腫を発症した場合の生存率は極めて高く,骨髄に浸潤するまでに進行していても,多くの場合は治癒に至ることからすると,dの死亡は,バーキットリンパ腫の治療過程で生じた極めてまれな合併症(腸管穿孔)によるものというべきで,腫瘍性疾患の診断及び治療の遅滞とdの死亡との間に相当因果関係はない。 また,① 2月2日,あるいは同月6日時点において,腸管は既に広範囲にわたってリンパ腫細胞により浸潤されていたと考えられること,② dの化学療法に対する感受性が高いことからすると,1月30日,あるいは2月2日の診察時点において血液検査を実施し,同日,あるいは同月6日にdをo医院に転送したとしても,dの化学療法に対する感受性が不変である以上,腸管穿孔は回避し得なかった(なお,o医院の医師は,同月9日から同月11日までの間にdの症状が変化したことから,同日,確定診断前であるにもかかわらず,緊急的にステロイド治療を開始したのであり〔オンコロジックエマージェンシー〕,仮に同月2日にdをo医院に転送したとしても,ステロイド治療の開始日は同月11日となったはずである。)。やはり,腫瘍性疾患の診断及び治療の遅滞とdの死亡との間に相当因果関係はないというべきである。 損害の有無及び損害額(原告らの主張)ア dの逸失利益 3248万3570円dは平成9年3月17日生まれの男児(死亡当時9歳。小学生)であり,基礎収入は554万7200円(賃金 損害の有無及び損害額(原告らの主張)ア dの逸失利益 3248万3570円dは平成9年3月17日生まれの男児(死亡当時9歳。小学生)であり,基礎収入は554万7200円(賃金センサス平成19年第1巻第1表,男,全年齢,全学歴),労働能力喪失期間は49年(18歳から67歳まで),生活費控除率は50%とすべきであるから,その逸失利益は3248万3570円(554万7200円×0.5×11.7117〔ライプニッツ係数〕)となる。 イ dの慰謝料 3000万円dの慰謝料は,3000万円とするのが相当である。 ウ原告らの相続分原告らの相続割合は各2分の1であり,その相続分は各3124万1785円となる。 エ原告ら固有の慰謝料合計4000万円原告ら固有の慰謝料は,各2000万円とするのが相当である。 オ弁護士費用合計1024万円弁護士費用は,原告らにつき各512万円である。 (被告らの主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提事実に加え,掲記の証拠(次の認定に反する部分は,いずれも採用することができない。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 dは,1月22日,歯牙の疼痛,頬側歯肉の膨隆の出現等を訴えて,原告bと共にg 歯科医院に赴き,h歯科医師の診察を受けた。 h歯科医師は,dを根尖性歯周炎と診断し,左上E歯に装着されていた複合レジンを除去し根管を開放する処置を実施するとともに,ケフラール及びフロベンを処方した。なお,h歯科医師は,1月26日にも,ケフラール及びフロベンを処方しており,同歯科医師がdに対して処方したケフラールは,合計6日分となる。(甲A7,甲A20,原告b本人) dは,1月29日,原告bと共にg 歯科医院に赴き,h歯科医師の診 びフロベンを処方しており,同歯科医師がdに対して処方したケフラールは,合計6日分となる。(甲A7,甲A20,原告b本人) dは,1月29日,原告bと共にg 歯科医院に赴き,h歯科医師の診察を受けた。 h歯科医師は,症状に変化がないことから,dを被告病院に紹介することにし,主要症状を左上E歯の「頬側歯肉の腫れ」とする診療情報提供書(以下「本件診療情報提供書」という。)を作成した。なお,本件診療情報提供書には,治療経過につき,「1月22日に当院に来院されました。投薬,開放で経過をみていきましたが,初診時の状態より変化ありません。尚,抜歯前提の開放してあります」との記載がある。(甲A7,乙A5)ア dは,1月30日,原告bと共に被告病院(小児歯科)に赴き,被告eの診察を受けた(1月30日の診察)。その際,原告bは,被告病院に対し,本件診療情報提供書を提出するとともに,「痛みがある」,「むし歯がある」,「腫れている」,「歯がぐらぐらする」の各欄に印を付した健康調査票を提出している。なお,原告bは,同票の「咳が止まらない,体がだるい,微熱が続いている,慢性の下痢であるなどの不快症状がある」の欄には印を付していない。 被告eは,問診により,① 平成18年12月頃,腫れに気付いたこと,② g 歯科医院においてケフラールの処方を受けたことなどを確認するとともに,視診,触診等により,① 頬側歯肉の膨隆が歯冠を被覆するような形状であること,② 左上E歯及び4番歯に動揺があり打診痛があること,③ 左上E歯にう蝕があり,デンタルレントゲン写真上,同歯の周囲にエックス線透過像が認められることから,i歯科医師及びq歯科医師(小児歯科)の助言を受けて,dを,① 左上E歯のう蝕を長期間放置したことに起因する慢性化膿性根尖性歯周炎,歯肉膿瘍である 同歯の周囲にエックス線透過像が認められることから,i歯科医師及びq歯科医師(小児歯科)の助言を受けて,dを,① 左上E歯のう蝕を長期間放置したことに起因する慢性化膿性根尖性歯周炎,歯肉膿瘍である可能性が高い,②ただし,左上4番歯の中心結節(上下左右の第1,第2小臼歯の咬合面に出現する異常結節)の破折に起因する可能性も否定できないと診断し,排膿を促すために左上E歯を抜歯した上,経過観察をすることにした(被告eは,抜歯の際,排膿があった旨の陳述〔乙A37〕及び供述をするが,診療記録〔乙A1の1,2〕に排膿の有無に係る記載はなく,これを採用することはできない。)。(乙A1の1,2,乙A2,乙A4,乙A7の2,乙A35,乙A37,証人i,被告e本人)イなお,証拠(乙A8,証人p)及び弁論の全趣旨によれば,1月30日の診察時点において,上顎左側の歯肉頬溝が全体的に膨隆し(歯肉頬溝の膨隆。発赤は伴わない。),また,頬側歯肉の膨隆部分に潰瘍(排膿を伴わない。)が形成されていたことが認められる。 dは,1月31日,原告bと共に被告病院に赴き,被告eの診察を受けた。 被告eは,頬側歯肉の膨隆が若干縮小したこと,中心結節破折の痕跡がないことから,当該膨隆は,中心結節の破折に起因するものではなく,慢性化膿性根尖性歯周炎の予後不良であると判断して,経過観察を継続することにし,フロモックス及びカロナールを処方した。(乙A1の1,2,乙A37,被告e本人)ア dは,2月2日,原告bと共に被告病院に赴き,i歯科医師の診察を受けた(2月2日の診察。被告eは,当日,出張のため不在であった。)。 i歯科医師は,問診により,dが2月1日及び来院前に頬部及び口唇部のしびれ感を訴えていたこと(i歯科医師は,診察時点でしびれ感はなく,一過性の症 診察。被告eは,当日,出張のため不在であった。)。 i歯科医師は,問診により,dが2月1日及び来院前に頬部及び口唇部のしびれ感を訴えていたこと(i歯科医師は,診察時点でしびれ感はなく,一過性の症状であること,dが学校でマラソンの練習をしていたことから,これを激しい運動によるものと判断し,安静にするよう生活指導を行った。)を確認し,また,視診,触診等により,① 頬側歯肉の膨隆が依然消失しないこと,② 左上4番歯から6番歯までの頬側に膨隆があること(なお,膨隆部には弾性があり圧痛がある。),また,上顎左側が右側に比しびまん性に膨隆しているように見えること,③ 左上4番歯及び6番歯に中等度以上の動揺があることなどを確認して,j歯科医師に診察を依頼した。 j歯科医師は,デンタルレントゲン写真では左上E歯の周囲のエックス線透過像の一部を確認し得るにとどまることから,i歯科医師に対し,オルソパントモグラフ撮影を実施して,広範囲に症状の波及状況を確認するよう指示している。(乙A1の1,2,乙A35,乙A36,証人i)イなお,証拠(乙A8,証人p)及び弁論の全趣旨によれば,2月2日の診察時点において,頬側歯肉の膨隆が1月30日の診察時点に比し若干縮小していたこと,上顎左側の口蓋及び左上6番歯の頬側歯肉に膨隆が出現していたこと,頬側歯肉の膨隆部分に潰瘍(排膿を伴わない。)が形成されていたことが認められる。 dは,2月4日頃,腹痛,下痢,嘔吐感等の症状が出現したことから,同月6日朝,原告bと共に,k医院に赴き,l医師の診察を受けた。 l医師は,腹部の膨隆(軟膨隆)を認めて,急性胃腸炎(抗菌薬投与によるアレルギー)と診断し,ブスコパンを点滴投与するとともに,ムコスタ及びビオフェルミンRを処方した。(乙A31) dは,2月6日,原 は,腹部の膨隆(軟膨隆)を認めて,急性胃腸炎(抗菌薬投与によるアレルギー)と診断し,ブスコパンを点滴投与するとともに,ムコスタ及びビオフェルミンRを処方した。(乙A31) dは,2月6日,原告bと共に被告病院に赴き,被告eの診察を受けた。 被告eは,問診により,① dの2月5日及び同月6日の体温がいずれも平熱であること(被告eは,i歯科医師らの助言に基づき,原告bに対し,事前にdの体温を測定するよう指示していた。),② 嘔吐感等の症状が出現し内科医を受診したことを確認し,また,オルソパントモグラフ撮影の結果,炎症に伴う不良肉芽が残存していると考えて,j歯科医師の助言に従い,抜歯窩を掻爬し,バラシリンを処方した。 なお,原告bは,その際,被告eに対し,① 学校でマラソンの練習をした後,疼痛はなかったが,2月3日にバスケットボールをした後,左耳が聞き取りづらくなり,口唇部にしびれ感が出現したこと,② 同月4日は食欲がなく,軟便であったことを告げている。(甲A20,乙A1の1,2,乙A6,乙A7の1,原告b本人,被告e本人) dは,2月7日,原告bと共に被告病院に赴き,被告eの診察を受けた。 被告eは,顕著な変化はないものの,頬側歯肉の膨隆は縮小傾向を示し,発赤も消退傾向を示していることから,j歯科医師と相談した上,経過観察を継続することにした。(乙A1の1,2,乙A37,被告e本人) dは,2月9日朝,原告bと共にk医院に赴き,l医師の診察を受けた。 l医師は,腹痛等の症状が改善しないこと,腹部が膨隆し軽度の抵抗があることから,腸閉塞を疑い,dを総合病院であるm病院に紹介した。(甲A4の1,乙A31) dは,2月9日午前11時頃,原告bと共にm病院に赴き,n医師の診察を受けた。 n医師は,血液検査,尿検 ことから,腸閉塞を疑い,dを総合病院であるm病院に紹介した。(甲A4の1,乙A31) dは,2月9日午前11時頃,原告bと共にm病院に赴き,n医師の診察を受けた。 n医師は,血液検査,尿検査,胸部,腹部及び頭部エックス線検査並びに頭部CT検査を実施し,口腔外科医(r)にも診察を依頼した上,① 縦隔腫瘍等の悪性疾患あるいは血栓等による血管閉塞性病変が疑われる,② 頬側歯肉の膨隆は抜歯を原因とする左側上顎洞炎であると診断して,dをo医院に紹介した。(乙A31,乙A32[10,23]) dは,2月9日,原告bと共にo医院に赴き,直ちに同医院に入院した。 o医院の医師は,2月11日,悪性リンパ腫に伴う腫瘍崩壊症候群の発症を疑い,確定診断前ではあるものの,急性腎不全に対応するため透析を実施するとともに,全身状態の維持を目的として,ステロイド治療を開始した。 o医院の医師は,2月14日,頬側歯肉の膨隆につき組織診断を実施し,悪性リンパ腫と診断した上,プレドニンを増量投与し,同月17日には,ビンクリスチンの投与を開始した。 o医院の医師は,2月20日,dをバーキットリンパ腫と診断(確定診断)し,小児がん等の専門医の団体であるTCCSG作成に係るレジメンに従い,キロサイドの投与を開始した。 o医院の医師は,2月21日,腹水が便汁様であること,腹部エックス線検査により腹腔内遊離ガスを認めたことから,腸管破裂(腸管穿孔)を疑い,緊急開腹手術を実施したが,dは,汎発性腹膜炎,DIC,ARDS等を発症し,同月26日午前4時57分,ARDSを直接の原因として死亡した。 (甲A3,乙A33[14,27,56,68,72,74,108,110]) 2 争点(血液検査義務違反の有無)について 1月30日の診察時点ア原告らは,被告 直接の原因として死亡した。 (甲A3,乙A33[14,27,56,68,72,74,108,110]) 2 争点(血液検査義務違反の有無)について 1月30日の診察時点ア原告らは,被告病院の歯科医師らは,1月30日の診察時点において,腫瘍性疾患(悪性腫瘍)の発症を疑い,炎症性疾患ないし腫瘍性疾患の鑑別を目的として血液検査を実施すべきであった旨の主張をする。そして,① 頬側歯肉の膨隆が歯冠を被覆するような形状であること(排膿があったとは認められないのは前記認定のとおりである。また,波動を触れたことを認めるに足りる証拠もない。),② 歯肉頬溝が全体的に膨隆し(歯肉頬溝の膨隆),発赤も伴っていなかったこと,③ 頬側歯肉の膨隆部分に排膿を伴わない潰瘍が形成されていたこと,④ 1月22日以降,g 歯科医院において,根尖性歯周炎の治療が実施され,ケフラールの処方がされたにもかかわらず,症状に変化がなかったこと(抗菌薬の効果は,3日間ないし5日間の投与により判定し得る旨の指摘をする医学文献もある〔甲B24[96]〕。)は前記認定のとおりであるところ,これらは,一応,バーキットリンパ腫等を含む腫瘍性疾患の発症を疑わせる所見といい得るし,日本口腔外科学会の専門医指導医,日本がん治療認定医機構の暫定教育医(歯科口腔外科)であり,腫瘍性疾患につき豊富な臨床経験を有するp教授(s大学医歯学総合研究科。以下「p教授」という。)も,上記の所見に照らすと,被告病院の歯科医師らは,腫瘍性疾患,特に悪性リンパ腫等の悪性腫瘍の発症を疑い,これを鑑別疾患の一つとして考慮すべきであった旨の陳述(甲B18,甲B22)及び供述をする。 イ しかしながら,炎症性疾患の場合にも口腔内に膨隆や潰瘍が出現することがあり(しかも,炎症が慢性化した場合,波動を触 考慮すべきであった旨の陳述(甲B18,甲B22)及び供述をする。 イ しかしながら,炎症性疾患の場合にも口腔内に膨隆や潰瘍が出現することがあり(しかも,炎症が慢性化した場合,波動を触れず,排膿を伴わないことがある。甲B8[160],乙B1[807],証人i,同p),それ自体を,腫瘍性疾患に特有の所見とまでいうことはできない。 この点,p教授は,頬側歯肉の膨隆が歯冠を被覆するような形状であること,当該膨隆が限局的に発赤し,その中央部分が白っぽく見えること,歯肉頬溝が全体的に膨隆し(歯肉頬溝の膨隆),発赤も伴っていなかったことは,炎症性疾患の発症を否定し,腫瘍性疾患の発症を疑わせる所見である旨の指摘をするが(甲B18,証人p),頬側歯肉の膨隆が発赤を伴うものであったことは,炎症性疾患の発症を疑わせる所見ともいい得る上(頬側歯肉の膨隆の中央部分の色調は,dの口腔内を撮影した写真〔乙A8〕によれば,「光線の具合か…判断つきかねますけれども…少し白っぽいかなという感じ」というにとどまり〔証人p〕,同部分が白っぽく見えることから,腫瘍性疾患に特有の所見があったとまで断ずるのは困難である。),そもそも,膨隆の形状,色調等の評価は,担当医の専門分野,臨床経験等によっても異なり得るもので,これをもって直ちに腫瘍性疾患に特有の所見の有無を判断することには一定の困難が伴うことなどからすると,p教授の上記指摘を考慮しても,1月30日の診察時点において,腫瘍性疾患に特有の所見があったとまでいうのは困難というべきである。 また,g 歯科医院においてケフラールの処方がされたのに症状の変化がなかった点についても,① 急性炎症と慢性炎症とは明確に区別し得るものではなく,問診により,平成18年12月頃に腫れに気付いたことを確認した被告eが,dの症状 フラールの処方がされたのに症状の変化がなかった点についても,① 急性炎症と慢性炎症とは明確に区別し得るものではなく,問診により,平成18年12月頃に腫れに気付いたことを確認した被告eが,dの症状を,一部急性化したとも評価し得る部分があるにせよ,全体としては慢性炎症であると判断したことをあながち不合理とはいえないこと,そして,慢性炎症の場合,1週間程度の抗菌薬の投与によって膨隆が消失するわけではなく,どの程度の期間を経過すれば抗菌薬の効果を判定し得るか必ずしも明らかではないこと(乙B10,証人i,同p),② ケフラールについては,耐性菌の出現に伴う抗菌力の低下も指摘されていること(乙B10,証人p),③ そもそも,被告病院の歯科医師らは,g 歯科医院におけるケフラールの投与状況を具体的に把握していたわけではないことからすると,これも,炎症性疾患の発症を否定し,腫瘍性疾患の発症を疑わせる所見とまでいうことはできない。 そして,他方において,① 左上E歯に,炎症性疾患の感染源であることをうかがわせるう蝕があったこと,② 1月30日の診察時点で,悪性リンパ腫の発症を疑わせる発熱,体重減少,倦怠感,食欲不振等の全身症状につき,何らの申告もなかったこと,③ バーキットリンパ腫は極めてまれな疾患である上,悪性リンパ腫が小児の口腔内に初発することもまれであること(そのためか,総合病院であるm病院の医師は,既にdに腹部膨隆,腹痛,下痢,嘔吐感等の症状が出現し,また,口腔外科医の関与の下,血液検査,尿検査,頭部エックス線検査,頭部CT検査等を実施したにもかかわらず,2月9日時点においてなお頬側歯肉の膨隆を抜歯に起因する上顎洞炎と診断している。),④ 口腔内の腫瘍性疾患(悪性腫瘍)の症状と炎症症状とは共通するものが多く,特に初期の臨 を実施したにもかかわらず,2月9日時点においてなお頬側歯肉の膨隆を抜歯に起因する上顎洞炎と診断している。),④ 口腔内の腫瘍性疾患(悪性腫瘍)の症状と炎症症状とは共通するものが多く,特に初期の臨床所見から腫瘍性疾患と炎症性疾患とを鑑別するのは容易でないことから,対症療法により1週間以内に治癒傾向が認められず,むしろ増悪するものや,病変の経過が比較的長く,かつ,進行性であるもの,病変の進行が迅速なもの,緩徐な経過であったものが途中で迅速になったものなどについて悪性腫瘍を疑うべきであるとの指摘(甲B8[160])や,臨床的に悪性腫瘍を疑うか否かは,症状の進行に伴い疼痛,出血等が出現するか否か,膨隆等が口腔外にも出現するか否かなど,時間的経過に伴う症状の変化を週単位で確認することが重要であるとの指摘(乙B1[807])もあることなどからすると,腫瘍性疾患(悪性疾患)が患者の死亡という重大な結果を招来し得る病態であることを考慮し,また,大学病院について診療契約に基づき要求される医療水準を前提としても,1月30日の診察時点では,血液検査を実施して炎症性疾患と腫瘍性疾患とを鑑別する必要があったとまではいえず,被告病院の歯科医師らが,本件診療情報提供書の内容及び同日の診察により獲得した臨床所見に基づき,左上E歯のう蝕を長期間放置したことに起因する慢性化膿性根尖性歯周炎,歯肉膿瘍である可能性が高いと診断し,このことを前提に,経過観察を継続し,炎症性疾患ないし腫瘍性疾患の鑑別を目的として血液検査を実施しなかったことをもって,注意義務違反とまでいうのは困難である。 2月2日の診察時点ア原告らは,被告病院の歯科医師らは,遅くとも2月2日の診察時点において,腫瘍性疾患の発症を疑い,炎症性疾患ないし腫瘍性疾患の鑑別を目的として血液検査 のは困難である。 2月2日の診察時点ア原告らは,被告病院の歯科医師らは,遅くとも2月2日の診察時点において,腫瘍性疾患の発症を疑い,炎症性疾患ないし腫瘍性疾患の鑑別を目的として血液検査を実施すべきであった旨の主張もする。そして,前記ア記載の所見に加え,① フロモックスの投与にもかかわらず,頬側歯肉の膨隆は依然消失せず,左上4番歯から6番歯までの頬側,上顎左側の口蓋及び左上6番歯の頬側歯肉に膨隆が出現していたこと,② 左上4番歯及び6番歯に中等度以上の動揺があったこと,③ 頬側歯肉の膨隆部分に排膿を伴わない潰瘍が形成されていたこと,④ dが口唇部のしびれ感(一過性のしびれ感)を訴えていたことは前記認定のとおりである。 イ しかしながら,口腔内の膨隆や潰瘍自体を腫瘍性疾患に特有の所見とまでいうことはできないこと,膨隆の形状,色調等をもって,直ちに腫瘍性疾患に特有の所見の有無を判断することには一定の困難が伴うこと,慢性炎症の場合,1週間程度の抗菌薬の投与によって膨隆が消失するわけではなく,どの程度の期間を経過すれば抗菌薬の効果を判定し得るか必ずしも明らかではないことも前記のとおりである。 また,歯牙の動揺についても,慢性炎症の場合,原因歯のみならず隣接歯の歯槽部に骨吸収が生じ歯牙に動揺が生ずることがあるのであって(乙B10,証人i,同p),これも腫瘍性疾患に特有の所見とまでいうのは困難である。 さらに,p教授は,dが口唇部のしびれ感(一過性のしびれ感)を訴えていた点について,悪性腫瘍の場合,腫瘍細胞が増大して神経を圧迫したり,神経線維に浸潤してこれを破壊したりすることによって,持続的なしびれ(知覚麻痺)が出現するほか,当該腫瘍に随伴する炎症が神経を圧迫することにより,一過性のしびれも出現し得る旨の指摘もする したり,神経線維に浸潤してこれを破壊したりすることによって,持続的なしびれ(知覚麻痺)が出現するほか,当該腫瘍に随伴する炎症が神経を圧迫することにより,一過性のしびれも出現し得る旨の指摘もするが,① 同教授は,他方において,悪性腫瘍の場合でなくても,高度の急性炎症がある場合,しびれ等の神経症状が出現することがある旨の指摘もすること,② 前記のとおり,急性炎症と慢性炎症とは明確に区別し得るものではないところ,dには,慢性炎症と評価し得る所見のほか,頬側歯肉の膨隆の形状等,高度の急性炎症と評価し得る所見もあったこと,③ 左上E歯に炎症性疾患の感染源であることをうかがわせるう蝕があり,dの訴えた一過性のしびれ感は,炎症性疾患に起因するものと評価し得る所見もあったことからすると,これも,腫瘍性疾患に特有の所見とまではいえない。 そして,他方において,① 悪性腫瘍の場合,通常,抗がん剤の投与をしない限り,当該腫瘍が縮小することはないにもかかわらず(証人p),頬側歯肉の膨隆は,左上E歯の抜歯及び抗菌薬の投与後,縮小傾向を示し,その発赤も消退傾向を示していて,被告病院における治療が奏効していることがうかがわれたこと,② 2月2日の診察時点で,発熱,体重減少,倦怠感,食欲不振等の全身症状は出現しておらず(むしろ,dは,学校でマラソンの練習をするなど,活発に活動していた。),腹痛,下痢,嘔吐感等の消化器症状も出現していなかったことからすると,被告病院の歯科医師らが,初診から3日目にすぎない2月2日の診察時点において,血液検査を実施して炎症性疾患と腫瘍性疾患とを鑑別する必要があったとまではいえず,それまでの診察により獲得した臨床所見に基づき,左上E歯のう蝕を長期間放置したことに起因する慢性化膿性根尖性歯周炎,歯肉膿瘍である可能性 症性疾患と腫瘍性疾患とを鑑別する必要があったとまではいえず,それまでの診察により獲得した臨床所見に基づき,左上E歯のう蝕を長期間放置したことに起因する慢性化膿性根尖性歯周炎,歯肉膿瘍である可能性が高いとの診断を変更せず,このことを前提に,経過観察を継続し,炎症性疾患ないし腫瘍性疾患の鑑別を目的として血液検査を実施しなかったことをもって,注意義務違反とまでいうのは困難である。なお,原告bは,dが2月1日に口唇部のしびれ感を訴えたことから,急遽,同月2日に被告病院を受診した旨の陳述(甲A20)及び供述をするが,仮にそうであったとしても,上記判断は左右されない。 3 以上によれば,本件において,被告病院の歯科医師らが血液検査を実施しなかったことに注意義務違反があったということはできない。 原告らの請求は,因果関係の有無等,その余の点について判断するまでもなく,理由がないからいずれも棄却することにして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部 裁判長裁判官森冨義明 裁判官大澤知子 裁判官西澤健太郎
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