【DRY-RUN】主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第一 請求 一 被告が原告に対して昭和五九年一二月一八日付けでした労働者災害補償保険法 による遺族給付
主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第一 請求 一 被告が原告に対して昭和五九年一二月一八日付けでした労働者災害補償保険法 による遺族給付及び葬祭給付を支給しない旨の処分を取り消す。 二 訴訟費用は被告の負担とする。 第二 事案の概要 一 争いのない事実 1 原告の夫Aは、株式会社集英社に勤務し、昭和五八年二月ころは同社の月刊誌 「プレイボーイアイズ」の編集主任として巻頭グラビアとその他数本のレギュラー 記事を担当していたところ、同月一九日午前四時二五分ころ同社を退社し、オート バイで帰宅途中同四時三五分ころ首都高速七号線下り線両国インター付近の照明ポ ールに衝突して死亡した。 2 原告は、右Aの死亡は通勤災害に該当するとして、被告に対して労働者災害補 償保険法による遺族給付及び葬祭給付の請求をしたところ、被告は、昭和五九年一 二月一八日付けで通勤災害とは認められないとして、右遺族給付及び葬祭給付の不 支給処分をした。 原告は、右処分を不服として東京労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を したところ、同審査官は、昭和六〇年七月一五日付けでこれを棄却する旨の決定を した。原告は、更にこの決定を不服として労働保険審査会に対して再審査請求をし たが、同審査会において昭和六二年五月二八日付けでこれを棄却する旨の裁決がさ れ、右裁決書は昭和六二年六月二日又は三日に原告に送達された。 3 そこで原告は、被告のした不支給処分の取消しを求めて昭和六二年九月一日本 訴を提起した。 二 争点 本件の争点は、Aの死亡が通勤災害といえるか、に尽きるが、この点に関する当 事者双方の主張は、次のとおりである。 1 原告の主張 (一) Aは二月一八日午後四時三〇分ころまで社内で勤務した後、社外に出て深 夜帰社しているが、その間の社外で えるか、に尽きるが、この点に関する当 事者双方の主張は、次のとおりである。 1 原告の主張 (一) Aは二月一八日午後四時三〇分ころまで社内で勤務した後、社外に出て深 夜帰社しているが、その間の社外でのAの行為は、すべて業務行為というべきであ り、帰社後もAは、海外ロケの準備等の仕事をしていたのであるから、帰宅行為と 業務との間に関連性があることは明らかである。 (二) Aは、オートバイを運転した際酒気を帯びてはいたが、泥酔の状態ではな く、時間を節約するためオートバイを利用したのであるから、合理的通勤方法であ ったといえる。 2 被告の主張 (一) Aの帰宅行為は、労働者が就業に関して住居と就業の場所を往復したもの ということはできず、業務との関連性がない。すなわち、Aは、二月一八日午後九 時ころ業務行為を終了していたもので、その後は私的に飲食してから会社に戻り、 休憩するなどした後翌一九日午前四時二五分ころ退社したのであるから、帰宅行為 と業務との関連性は失われている。 (二) Aの帰宅行為は、合理的通勤方法ということができない。すなわち、酒酔 い酩酊の状態で、二月の厳寒の朝に、会社で禁止されているオートバイを運転した もので、通勤手段として危険であり、不適当であったといわざるを得ない。 第三 争点に対する判断 一 本件災害発生前のAの行動については、乙第一号証、第六号証ないし第一三号 証、第一七号証、第一八号証、第一九号証の一ないし四、証人B、同C、同D、同 Eの各証言によると、次の事実が認められる。 1 Aは、昭和五八年二月一八日午前一一時二六分ころ集英社に出勤し、午後四時 三〇分ころまで同社内で勤務した後、午後五時三〇分ころ渋谷区<以下略>所在の Fカメラマンの事務所に赴き、海外ロケの打合せ等を行った。Aは、同事務所に午 後七時三〇分ころまでいたが、その際打合せ終 四時 三〇分ころまで同社内で勤務した後、午後五時三〇分ころ渋谷区<以下略>所在の Fカメラマンの事務所に赴き、海外ロケの打合せ等を行った。Aは、同事務所に午 後七時三〇分ころまでいたが、その際打合せ終了後ビール一本とラーメンを飲食し た。 2 野村事務所を出たAは、モデルのGと同モデルのマネージメントを依頼するこ ととしてた株式会社エステー企画の代表取締役Dの待つ新宿の料理屋「かかし」に 行き、午後八時近くから同モデルの海外ロケ等の打合せを行った。右打合せをしな がら、Aは、ビール一、二本、ウイスキーの水割り二杯位、焼おにぎり等を飲食 し、午後九時ころまで「かかし」にいた。 3 「かかし」を出た後、AとDは、モデルのGと別れ、二人で同じビルにあった クラブ「エル」に行き、午後一一時三〇分ころまで飲食したが、その間Aは、ウイ スキーの水割り三杯位を飲んだ。「エル」では、ギャラの問題や着用する水着をど うするかなどGのロケに関する細かい打合せや、別の企画についての相談など仕事 上の話もする一方、雑談したり、カラオケで歌ったりした。 4 AとDの二人は、「エル」を出て帰途に着いたが、途中でお茶漬け屋に寄り、 お茶漬けを食べて暫く雑談をした後、一二時三〇分近くになって別れた。 5 Dと別れたAは、一九日午前一時ころ集英社に戻ったが、社内に入る時、裏側 受付から一階に通じる段階の途中で帰宅途中の同僚Eと出合った。その際、Eが一 緒に帰ろうと誘ったところ、Aは、「どうしようかな」と言って迷う素振りを示し たが、結局社内に入って行った。 6 その後Aは、午前二時三〇分ころ、再び社外から戻り、裏側受付から社内に入 るところで帰宅途中の同僚Cと出合ったが、酔っていたため一階への階段を登る際 に足をもつれさせ、前に転んだところをCに目撃されている。 7 Aは前記のとおり二月一九日午前四時二五分 裏側受付から社内に入 るところで帰宅途中の同僚Cと出合ったが、酔っていたため一階への階段を登る際 に足をもつれさせ、前に転んだところをCに目撃されている。 7 Aは前記のとおり二月一九日午前四時二五分ころ退社し、同三五分ころ死亡し たものであるが、同日午前一〇時一五分ころ警視庁の死体検案に際し採取したAの 心臓血からは、血液一ミリリットルにつき一・四一ミリグラムのアルコールが検出 された。 二 右事実に基づき、まず一八日夕刻会社を出て翌一九日午前一時ころ帰社するま でのAの社外での行動と業務との関連性につき考えるに、F事務所での打合せが業 務行為であることは明らかであり、その後の「かかし」における打合せも、飲食を 伴うものではあるが、Aの仕事の性格、一時間余りという時間などからみて、すべ てが業務との関連性を有するものであったということができる。 しかしながら、Dと二人で行った「エル」における飲食については問題がある。 確かに証人Dが証言するように、編集者とモデルのマネージメントをする者との間 で、ギャラの問題などにつきモデルを除いた打合せをする必要があることは否定で きず、現にAも「エル」においてDとの間でその打合せを行っている。その限りで は右飲食も業務の一環であるということもできそうであるが、しかし右飲食は二時 間三〇分近くに及んでおり、その間打合せとしての性格を有する話をした時間は、 その具体的内容に照せば僅かであるといえよう。そうすると、「エル」での飲食 は、全体としてみれば、懇親のための私的な飲食としての性格が強く、社会通念上 業務性を肯定することはできないといわざるを得ない。そして、「エル」を出てか らのお茶漬け屋での食事も、同様に私的な行為であるというべきである。 三 次に原告は、Aが一九日午前一時ころ帰社してから退社するまで業務に従事し ていた旨主張する ざるを得ない。そして、「エル」を出てか らのお茶漬け屋での食事も、同様に私的な行為であるというべきである。 三 次に原告は、Aが一九日午前一時ころ帰社してから退社するまで業務に従事し ていた旨主張するので、この点につき判断する。甲第一号証、証人B、同Cの各証 言によれば、雑誌の編集の仕事は、校了と原稿の締切が重なるときなどには非常に 忙しく、朝方まで仕事をしなければならないこともあること、Aが担当していた表 紙、巻頭グラビアの校了日が事故のあった一九日から二二日になっていたこと、事 故の数日後にはAは海外ロケに同行する予定であったことが認められ、これらの事 実によれば、Aが仕事のために帰社した可能性を否定することはできない。 しかし、前記認定のとおり、Aは午前一時ころ帰社した後、再び社外に出て午前 二時三〇分ころ戻っており、しかもその際はかなり酔っていたものであり、この事 実は、Aが帰社後に再度社外で飲酒したことを推認させるものといえる。また、乙 第一七号証によれば、Aと同じく「プレイボーイアイズ」の仕事をしていたHは、 Aが帰社した時、酔っていたので、誰かが暫く休んで帰るように声をかけたのを聞 いており、Aの様子は仕事をするような状態ではないとの印象を受けたことが認め られる。これらの点を併せ考えると、少なくともAが一九日午前一時に帰社した後 に、現実に仕事をしたものと認めることはできないといわざるを得ない。 そうすると、Aは、帰社して業務に復帰したものということはできないことにな り、原告の主張は採用できない。 四 右によれば、Aは業務から離脱して相当時間を経過した後に帰宅し、その途中 事故にあったもので、同人の帰宅行為は、就業に関して住居と就業の場所を往復し たものということはできない。したがって、Aの死亡は、通勤災害とは認められな い。 五 なお付言するに、仮に 帰宅し、その途中 事故にあったもので、同人の帰宅行為は、就業に関して住居と就業の場所を往復し たものということはできない。したがって、Aの死亡は、通勤災害とは認められな い。 五 なお付言するに、仮にAが帰社後業務に復帰していたものとしても、甲第二一 号証によると、前記認定のAのアルコール摂取量は、オートバイの運転にかなり危 険であったと認められ、しかも乙第九号証によると、集英社においては、事故防止 の観点から自家用車による通勤が禁止されており、残業で午後一一時過ぎに帰宅す るときは会社の負担でタクシーを利用することが認められていたのであるから、A の採った帰宅方法は、合理的な範囲を逸脱しているものといわざるを得ない。した がって、この点からも、Aの死亡が通勤災害であるとは認め難い。 (裁判官 相良朋紀)
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