【DRY-RUN】主 文 本件控訴を棄却する。 当審の未決勾留日数中九十日を原審が言い渡した刑に算入する。 理 由 本件控訴の趣意は弁護人川島政雄作成の控訴趣意書のと
主 文 本件控訴を棄却する。 当審の未決勾留日数中九十日を原審が言い渡した刑に算入する。 理 由 本件控訴の趣意は弁護人川島政雄作成の控訴趣意書のとおりであるからこれを引 用し、これに対し当裁判所は次のように判断する。 原判決挙示の証拠を綜合すると原判示事実はすべて優にこれを認めることができ る。即ちこれによると原判示第一の事実については原審証人AはBと共に判示日時 頃Cという人から麻薬を買つたことは相違ないがそのCという人は被告人ではない と供述している。しかしBの原審公判廷の供述によるとAと共に判示日時頃被告人 Cから麻薬を買つたことは相違ないと供述し、検察官に対しても同様の供述をして おり、Aの原審公判廷における供述中被告人と異なるCであるとの点は輙く信用し 難いのであつて、記録を精査するも原判決の事実認定に所論のような誤のある廉を 発見し得ない。次に第二の事実については論旨は先ず被告人は昭和三十一年十一月 十九日の正午頃を境として麻薬の譲渡に関してはD及びEの両名に対し被告人が所 持していた麻薬を譲渡しその売人としての責任は免れているのであつて被告人がD 及びEにその売人としての責任者の地位を譲渡した以上その後のD等の犯罪につい ては被告人は責任を負担すべきものではないと主張するが、原判決挙示の証拠によ ると被告人はE、Fと共に原判示G方奥三畳間で一昼夜交替の当番制をきめて麻薬 の密売をしていたのであるが、昭和三十一年十一月十八日昼頃Fから千円包六包の 麻薬を受取つて売人の番につきその一部を密売し、その残余を翌十九日昼頃当時の Eに引継いで非番となり、その引継ぎを受けたEは爾後一昼夜の間は自己の当番で あつたが、自宅に用事があるとして一時Dに密売の仕事を代行させたことが明らか があるから、被告人は自己の非番中のE 昼頃当時の Eに引継いで非番となり、その引継ぎを受けたEは爾後一昼夜の間は自己の当番で あつたが、自宅に用事があるとして一時Dに密売の仕事を代行させたことが明らか があるから、被告人は自己の非番中のE、D等の所為に対しても共犯として責任を 負うのは当然である。 次に論旨は原判決は第二の(二)の事実において、Hに対し麻薬代金二千円分を 譲渡せんとしたが捜索差押処分があつたためその目的を遂げなかつたと認定してい るが、本件は未だ代金の授受があつただけで譲渡の実行行為に着手していないから 譲渡未遂罪は成立しないと主張する。よつて原判決挙示の証拠を仔細に調査検討し て見ると、被告人が自己の当番時間を終つて昭和三十一年十一月十九日昼頃、Eに 引継ぎ非番となつた後、当番のEは自宅に用事があるとして一時自宅に行つてくる 間Dに密売の仕事の代行を依頼して外出したところ、その間に買人が二人来たので DはEに代つて麻薬を売つてやつたが、最後にHが麻薬を買いに来て二千円分欲し いと云つて代金二千円を出しDはこれを受取つた、しかし手許にあつた麻薬だけで は二千円分に足りないので、かねて麻薬をかくしておく北川アパートにEが麻薬を とりに行つているものと考え、同人に連絡して麻薬を持つてきてHに引渡すためH をG方に待たせておいて外出した間にG方が警察官の捜索差押処分を受けたため、 右Hに対し二千円分の麻薬の引渡をすることができなか<要旨>つた事実を認めるこ とができる。おもうに麻薬取締法第十二条第一項にいわゆる譲り渡しとは所有権の 移転又</要旨>は処分権の付与に伴う所持の移転と解すべく、その犯罪の実行の着手 は右のような所持の移転に必要な準備的行為を開始したときと解するを相当とす る。本件においては前記認定の如く麻薬密売の仕事を代行していたDがHから麻薬 買受の申込を受けるやこれを承諾して代金を受 の着手 は右のような所持の移転に必要な準備的行為を開始したときと解するを相当とす る。本件においては前記認定の如く麻薬密売の仕事を代行していたDがHから麻薬 買受の申込を受けるやこれを承諾して代金を受領し、手許に所持する麻薬だけでは 買受申込の分量に不足なので、その不足分を他の隠し場所から持つてくるためHを 待たせておいてEに連絡に出掛けたのであるから麻薬譲渡のための所持の移転に必 要なる準備的行為を開始したものと解するを相当とする。然るにその後警察官の捜 索差押処分を受けるに至つたため引渡の目的を遂げなかつたのであるから本件は麻 薬の譲渡未遂罪を構成するものと云わなくてはならない。次に量刑不当の論旨につ いて記録を調査するに、本件記録に顕われた犯罪の動機、態様、被告人の罪歴その 他諸般の情状に照すと原判決の量刑は相当であつて重過ぎるものではない。論旨は いずれも理由がない。 よつて刑事訴訟法第三百九十六条に則り本件控訴を棄却し、刑法第二十一条によ り当審の未決勾留日数中九十日を原審が言い渡した刑に算入することとし主文のと おり判決する。 (裁判長判事 大塚今比古 判事 渡辺辰吉 判事 江碕太郎)
▼ クリックして全文を表示