主文 1 原判決中,上告人が被上告人に対し平成2年6月19日付けでした平成元年度の交際費に係る資金前渡金受払表の摘要欄中の支出の相手方記載部分を非公開とした決定のうち平成元年4月16日,同月22日,同年5月7日,同月26日の1件目及び2件目,同年7月6日,同2年1月26日の3件目ないし6件目,同年2月28日及び同年3月12日の各欄の祝金に係る同文書の摘要欄の支出の相手方記載部分を非公開とした部分を取り消した部分を破棄し,同部分につき被上告人の控訴を棄却する。 2 上告人のその余の上告を棄却する。 3 訴訟の総費用は,これを5分し,その2を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。 理由 第1 上告代理人前堀克彦,同高嶋学,同中村実,同宮本隆司,同大八木操,同小寺泰二の上告理由(香典に関する部分を除く)について 1 本件は,被上告人が平成2年6月5日京都府情報公開条例(昭和63年京都府条例第17号。以下「本件条例」という。)に基づき本件条例の実施機関である上告人に対し平成元年度知事交際費の使途明細(日時,金額,相手先,目的等)についての公文書の公開(閲覧及び写しの交付)を請求したところ,上告人は,平成2年6月19日,交際費に係る資金前渡金受払表(以下「本件公文書」という。)が同請求に対応する公文書に当たるとした上,そのうち摘要欄中の支出の相手方記載部分について,そこに記録されている情報が本件条例5条1号,3号及び6号に- 1 -該当するとして,これを非公開とし,その余の部分を公 する公文書に当たるとした上,そのうち摘要欄中の支出の相手方記載部分について,そこに記録されている情報が本件条例5条1号,3号及び6号に- 1 -該当するとして,これを非公開とし,その余の部分を公開する旨の決定をしたため,被上告人が上記決定のうち名刺印刷代,タバコ代,印刷代及び飲食代以外の支出の相手方記載部分を非公開とした部分(以下「本件処分」という。)の取消しを求めた事案である。 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 (1) 本件条例5条は,「実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については,公文書の公開をしないことができる。」と定めており,その1号には,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,個人が特定され得るもののうち,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」,その6号には,「府若しくは国等が行う審議,検討,調査研究その他の意思形成の過程における情報であって,公開することにより,当該若しくは同種の意思形成を公正かつ適切に行うことに著しい支障が生じるおそれのあるもの又は府若しくは国等が行う取締り,監督,立入検査,試験,入札,交渉,渉外,争訟,許認可その他の事務事業に関する情報であって,公開することにより,当該若しくは同種の事務事業の目的が達成できなくなり,若しくはこれらの事務事業の公正かつ適切な執行に著しい支障が生じるおそれのあるもの」と規定されている。 (2) 京都府知事の交際費の支出は,秘書課の予算として計上され,秘書課長が資金前渡を受け,知事が1件ごとにその裁量によって支出している。本件公文書は,これらの交際費の支出状況を1件ごとに記録したものであり,知事交際費に係る資金前渡金の受領の年月日及び受領額,1件ご 長が資金前渡を受け,知事が1件ごとにその裁量によって支出している。本件公文書は,これらの交際費の支出状況を1件ごとに記録したものであり,知事交際費に係る資金前渡金の受領の年月日及び受領額,1件ごとの交際費の支出の年月日,摘要,支払額等が記載されており,摘要欄には支出目的及び支出の相手方が記載されている。支出目的としては,樒代,生花代,灯籠代,香典,見舞金,祝金,激励金,会費等と記載されている。また,支出の相手方としては,交際の相手方である個人の- 2 -氏名,交際の相手方である団体の名称又は取引業者名が記載されている。 (3) 本件公文書の摘要欄に支出目的として祝金と記載されているもののうち,平成元年4月16日のもの,同月20日のもの,同月22日のもの,同年5月7日のもの,同月26日の1件目及び2件目のもの及び同2年3月12日のものは,いずれも個人に対する結婚祝いであり,支出の相手方として交際の相手方である個人の氏名が記載されている。これらの祝金のうち同元年4月20日のものを除いたもの6件については,知事が結婚披露宴に招待されて出席し,その事実は秘密になっていない。上記6件の祝金(以下「本件結婚祝い」という。)の金額は,同年5月7日のものが1万円,その余のものが3万円である。 (4) 本件公文書の摘要欄に支出目的として祝金と記載されているもののうち,平成元年7月6日のもの,同2年1月26日の3件目ないし6件目のもの及び同年2月28日のものは,いずれも個人に対する受賞祝賀会の祝いであり,支出の相手方として交際の相手方である個人の氏名が記載されている。これらの6件の祝金(以下「本件受賞祝賀会の祝い」という。)については,知事又はその代理人が受賞祝賀会に出席し,その事実は秘密になっていない。また,その金額は,同元年7月6日のもの及び同 れている。これらの6件の祝金(以下「本件受賞祝賀会の祝い」という。)については,知事又はその代理人が受賞祝賀会に出席し,その事実は秘密になっていない。また,その金額は,同元年7月6日のもの及び同2年1月26日の6件目のものが3万円,その余のものが1万円である。 3 第1審は,本件公文書の摘要欄に支出の相手方として取引業者名が記載されている交際費に関する情報は本件条例5条1号,3号又は6号に該当しないとして,本件処分のうち本件公文書中これらの交際費に係る支出の相手方記載部分を非公開とした部分を取り消し,原審は,さらに,本件公文書の摘要欄に支出の相手方として交際の相手方である個人の氏名が記載されている交際費のうち同欄に支出目的として樒代,生花代,灯籠代,香典及び祝金と記載されているもの(ただし,香典については平成元年5月13日のもののほか6件に限り,祝金については同年4月- 3 -20日のものを除く。)並びに同欄に支出の相手方として交際の相手方である団体の名称が記載されている交際費のうち同欄に支出目的として樒代,供花代及び会費と記載されているものに関する情報も本件条例の上記各規定に該当しないとして,本件処分のうち本件公文書中これらの交際費に係る支出の相手方記載部分を非公開とした部分をも取り消した。 4 論旨は,原審の上記判断のうち本件結婚祝い及び本件受賞祝賀会の祝いに関する情報が本件条例5条1号又は6号に該当しないとした判断について法令の解釈適用の誤りをいうものである。 そこで,検討すると,所論の点に関する原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1) 知事の交際は,本件条例5条6号にいう交渉その他の事務に該当すると解されるから,これらの事務に関する情報を記録した文書を公開しないことができるか否か ない。その理由は,次のとおりである。 (1) 知事の交際は,本件条例5条6号にいう交渉その他の事務に該当すると解されるから,これらの事務に関する情報を記録した文書を公開しないことができるか否かは,これらの情報を公にすることにより,当該若しくは同種の交際事務の実施の目的が達成できなくなるおそれがあるか否か,又はその公正かつ適切な執行に著しい支障が生じるおそれがあるか否かによって決定されることになる。 ところで,知事の交際事務は,相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的として行われるものであるところ,相手方の氏名等の公表,披露が当然予定されているような場合等は別として,相手方を識別し得るような文書の公開によって相手方の氏名等や支出金額が明らかにされることになれば,一般に,交際費の支出の要否,内容等は,府の相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されるという性質を有するものであることから,不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想される。そのような事態は,交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり,交際それ自体の目的に反し,ひいては交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるというべきである。また,これらの交際費の- 4 -支出の要否やその内容等は,支出権者である知事自身が,個別,具体的な事例ごとに,裁量によって決定すべきものであるところ,交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には,知事においても上記のような事態が生ずることを懸念して,必要な交際費の支出を差し控え,あるいはその支出を画一的にすることを余儀なくされることも考えられ,知事の交際事務の公正かつ適切な執行に著しい支障が生じるおそれがあるといわなければならない。したがって,本件公文書のうち交際の相手方が識別され得るものは, にすることを余儀なくされることも考えられ,知事の交際事務の公正かつ適切な執行に著しい支障が生じるおそれがあるといわなければならない。したがって,本件公文書のうち交際の相手方が識別され得るものは,原則として本件条例5条6号により公開しないことができる公文書に該当するというべきである。 もっとも,知事の交際事務に関する情報で交際の相手方が識別され得るものであっても,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているもの,すなわち,交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関するものなど,相手方の氏名等を公表することによって上記のおそれがあるとは認められないようなものは,例外として同号に該当しないと解するのが相当である。上記の交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に該当するか否かは,当該交際が,その行われる場所,その内容,態様その他諸般の事情に照らして,その相手方及び内容がそれを知られることがもともと予定されている特定の関係者以外の不特定の者に知られ得る性質のものであるか否かという観点から判断すべきである。そうであれば,知事と相手方との交際の事実そのものは不特定の者に知られ得るものであっても,支出金額等,交際の内容までは不特定の者に知られ得るものとはいえない情報は,他に相手方の氏名等を公表することによって上記のおそれがあるとは認められないような事情がない限り,同号に該当するものと解される(最高裁平成3年(行ツ)第18号同6年1月27日第一小法廷判決・民集48巻1号53頁,最高裁平成8年(行ツ)第210号,第211号同13年3月27日第三小法廷判決・民集55巻2号登載予定参照)。 - 5 -(2) 本件条例5条1号は,私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記 ツ)第210号,第211号同13年3月27日第三小法廷判決・民集55巻2号登載予定参照)。 - 5 -(2) 本件条例5条1号は,私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている公文書の公開をしないことができるとしているものと解されるが,知事の交際の相手方となった私人としては,その具体的な費用,金額等までは通常他人に知られたくないと望むものであり,そのことは正当であると認められる。そうすると,このような交際に関する情報は,その交際の性質,内容等からして交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているもの,すなわち,交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関するものを除いては,同号に該当すると解するのが相当である。したがって,本件公文書のうち私人である相手方に係るものは,相手方が識別され得るようなものであれば,原則として,同号により公開しないことができる公文書に該当するというべきである(上記各判決参照)。 (3) なお,本件条例2条1項により,実施機関は,公文書の公開を請求する権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し,運用するものとされており,実施機関において,公文書の公開請求に対し,同項の趣旨をも踏まえて,本件条例5条1号に該当する独立した一体的な情報が記録されている公文書について,当該情報を更に細分化し,そのうち氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分(個人識別部分)のみを非公開とし,その余の部分を公開するなどといった態様の部分公開をその裁量判断により任意に行うことなども,本件条例の許容するところと解される。そして,実施機関がこのような態様の部分公開を任意に行った場合に,これに不服のある請求者は,非公開とされた部分をも公開すべき 裁量判断により任意に行うことなども,本件条例の許容するところと解される。そして,実施機関がこのような態様の部分公開を任意に行った場合に,これに不服のある請求者は,非公開とされた部分をも公開すべきであると主張して,訴訟手続により当該部分に係る非公開決定の全部取消しを求めることができ,裁判所は,当該非公開決定が違法であると判断したときは,これを取り消すことができるものというべきである。本件において,上告人が本件公文書の摘要欄中の支出の相手方記載部分についてのみこれを非公開とし,そ- 6 -の余の部分を公開する旨の部分公開を行ったのも,上記の見解に基づくものと理解することができる。 (4) ところで,前記事実関係によれば,本件公文書に記録された本件結婚祝い及び本件受賞祝賀会の祝いに係る知事の交際に関する情報は,いずれも交際の相手方である個人が識別され得るものであるから,原則として本件条例5条1号及び6号に該当するというべきである。そこで,以下,これらの情報が交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関するものであるか否か等につき検討する。 まず,本件結婚祝いは,上記事実関係によれば,いずれも知事が結婚披露宴に招待されて出席した際に贈ったものであるところ,結婚披露宴に招待されて出席した際には祝いを贈るのが習慣であるとはいえ,これらの祝いは,その贈呈の事実やその内容ないし具体的金額が当該披露宴の出席者等に披露されるようなものではなく,知事が披露宴に出席したことにより,知事から祝いが贈られた事実が当該披露宴の出席者等に知られるところとなったとしても,その内容ないし具体的金額までが知られることは通常は考えられないものである。そうすると,本件結婚祝いについては,少なくとも祝金の具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったと ころとなったとしても,その内容ないし具体的金額までが知られることは通常は考えられないものである。そうすると,本件結婚祝いについては,少なくとも祝金の具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったとはいえないから,これらの祝金に係る知事の交際は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということはできない。また,上記のように,本件結婚祝いについては,その金額が1万円のものと3万円のものの2種類があったというのであるから,この種の祝金の金額は府の相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されていたということができるのであって,これらの祝金について相手方の氏名等を公表することによって前記(1)のおそれがあるとは認められないような事情があるということもできないのである。したがって,これらの祝金に係る知事の交際に関する情報は,本件条例5条1号及び6号に該当するというべきで- 7 -ある。なお,本件結婚祝いについて,前記のとおり,上告人は,被上告人の請求を受けて,支出の相手方記載部分のみを非公開とし,その余の支出金額等を公開しているのであるが,このような態様の公開によってはいまだ当該相手方との関係における交際の内容は公開されていないというべきところ,支出の相手方記載部分をも公開すべきものとすれば,当該相手方との関係において交際の内容が公開されることになるから,これらの祝金に係る知事の交際に関する情報が本件条例5条1号及び6号に該当する以上,支出の相手方記載部分をも公開すべきものとすることはできない。 次に,本件受賞祝賀会の祝いは,上記事実関係によれば,いずれも知事又はその代理人が当該受賞祝賀会に出席した際に贈ったものというのであるが,その贈呈の事実やその具体的金額が一般に公表,披露されるようなものであるとは考えられず, ,上記事実関係によれば,いずれも知事又はその代理人が当該受賞祝賀会に出席した際に贈ったものというのであるが,その贈呈の事実やその具体的金額が一般に公表,披露されるようなものであるとは考えられず,この事実関係のみからは,祝金贈呈の事実又は少なくとも祝金の具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったということはできない。そうすると,これらの祝金に係る知事の交際は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということはできない。また,上記のように,本件受賞祝賀会の祝いについては,その金額が1万円のものと3万円のものの2種類があったというのであるから,この種の祝金の金額は府の相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されていたということができるのであって,これらの祝金について相手方の氏名等を公表することによって前記(1)のおそれがあるとは認められないような事情があるということもできないのである。したがって,これらの祝金に係る知事の交際に関する情報は,本件条例5条1号及び6号に該当するというべきである。なお,本件受賞祝賀会の祝いについても,本件結婚祝いと同様に,その支出金額等が既に公開されているからといって,支出の相手方記載部分をも公開すべきものとすることはできない。 - 8 - 5 【要旨】以上によれば,本件結婚祝い及び本件受賞祝賀会の祝いに係る知事の交際に関する情報が本件条例5条1号又は6号に該当しないとした原審の判断は,法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり,その余の点について判断するまでもなく,原判決中上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件処分のうち本件結婚祝い及び本件受賞祝賀会の祝いに係る交際の相手方である個人 の余の点について判断するまでもなく,原判決中上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件処分のうち本件結婚祝い及び本件受賞祝賀会の祝いに係る交際の相手方である個人の氏名が記録されている本件公文書中の部分を非公開とした部分に違法はないから,この部分については被上告人の控訴を棄却すべきである。 第2 その余の上告理由について所論の香典7件に係る交際費が本件公文書に記載の相手方に香典として贈られた事実を認めるに足りないとした原審の事実認定は,原判決挙示の証拠関係に照らして是認し得ないではなく,上記事実関係の下においては,これらの交際費に関する情報が本件条例5条1号又は6号に該当しないとした原審の判断は,是認するに足りる。論旨は,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するものにすぎず,採用することができない。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官千種秀夫裁判官金谷利廣裁判官奥田昌道)- 9 -
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