平成29年(う)第128号強盗致傷(認定罪名恐喝未遂,傷害)被告事件平成29年9月19日福岡高等裁判所第1刑事部判決 主文 本件控訴を棄却する。 理由 第1 本件事案の概要 1 公訴事実の概要等本件の訴因変更後の公訴事実の要旨は,次のとおりである。被告人は,共犯者であるA,B,C,Dの4名とともに(以下これら5名を「被告人ら」という),被害者に暴行を加えて,被害者にCのEに対する借入元本額96万円の借金全額を代わって支払わせることにより,Cに債務を免れさせようと考えた。そこで,被告人らは,共謀の上,平成28年6月17日午後10時頃から同月18日午前零時頃までの間,福岡県豊前市大字宇島369番地から北方約80メートルの宇島漁港敷地内において,被害者に対し,こもごも,その顔面を手拳で多数回殴打し,その頭部,両腕等を木刀様のものなどで多数回殴打し,被告人が,折れた木刀の先端を被害者の右大腿部等に突き刺した。また,被告人らは,その際,被害者に対し,こもごも,「お前も金もらっとるやないか。お前が返さんか」「金は全部お前が払え」「お前が全部ケツ拭け。お前がケツ拭かな,この話は終わらんぞ」などと言って,その反抗を抑圧し,被害者にCの借金全額を支払わせることによりCに債務を免れさせようとしたが,被害者が警察に申告したため,その目的を遂げなかった。そして,被告人らの前記暴行の結果,被害者は,加療約6週間を要し,左手の握力低下及び左手首の可動域制限の後遺障害を伴う,左尺骨茎状突起剥離骨折等の傷害を負った,というものである。 2 原審における争点と証拠 人らの前記暴行の結果,被害者は,加療約6週間を要し,左手の握力低下及び左手首の可動域制限の後遺障害を伴う,左尺骨茎状突起剥離骨折等の傷害を負った,というものである。 2 原審における争点と証拠調べの内容本件は,公判前整理手続に付され,打合せが6回行われ,その間に争点と証拠の 整理について協議がされた。本件の争点との関連で,その経緯をみると,原裁判所は,前記公訴事実を前提にしても,被告人らの被害者に対する暴行,脅迫と債務免脱との間には時間的,場所的間隔があるから,暴行,脅迫が強度であったとしても,畏怖させて仕方なく債務免脱行為をさせようとしたにすぎないと評価される可能性があり,その場合には,強盗致傷罪ではなく,恐喝未遂罪と傷害罪が成立するとして,原審検察官及び原審弁護人に検討を求めた。これに対し,原審検察官は,被告人らの激しい暴行や強烈な脅迫に加えて,その当時の状況に照らすと,一般人を基準にみて,被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行,脅迫であったことは明らかであり,原裁判所が指摘する時間的,場所的間隔の観点は,暴行,脅迫についての評価に影響するものではないと主張した。他方で,原審弁護人は,犯行を全体としてみれば,被告人らは,被害者を怖がらせ仕方なく金員を支払わせて,Cに債務を免れさせようとしたもので,恐喝未遂罪と傷害罪が成立するにとどまると主張した。このような経緯を受けて,第1回公判前整理手続期日において,争点は,被告人らによる暴行,脅迫が,被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものと評価できるかどうかであることが確認された。 原審公判においては,被害者や共犯者4名等の各証人尋問は,検察官が請求しなかったため行われず,それら関係者の各供述調書抄本のみが取り調べられ,被告人質問が行われている。 3 原判決の要旨 原審公判においては,被害者や共犯者4名等の各証人尋問は,検察官が請求しなかったため行われず,それら関係者の各供述調書抄本のみが取り調べられ,被告人質問が行われている。 3 原判決の要旨原判決は,被告人らの被害者に対する暴行,脅迫について,ほぼ前記公訴事実どおりの事実を認定しながら,被告人らによる暴行,脅迫は,それら暴行,脅迫の態様や程度,被告人側の人数,犯行時間,場所等を前提にすれば,後日被害者が金員を支払うところまで反抗を抑圧されたままになってしまうといえるほどの強いものではなく,警察に助けを求める選択の余地がないほど激しいものだったとも認められないとして,強盗致傷罪の成立を否定し,恐喝未遂罪と傷害罪が成立するとした。 4 控訴の趣意 本件控訴の趣意は,検察官高橋久志作成の控訴趣意書記載のとおりであり,これに対する答弁は,弁護人柏木慎太郎作成の答弁書記載のとおりであるから,これらを引用する。 検察官の論旨は,要するに,被告人らによる暴行,脅迫は,解放された後の被害者にも著しい心理的影響を及ぼし,後日被害者が金員を支払うところまで反抗を抑圧されたままになってしまうほどの強いものであったことは明らかであるから,被告人らによる暴行,脅迫がその程度までには至っていなかったと認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。 第2 検討記録を調査して検討すると,原判決挙示の関係各証拠から,被告人らによる暴行,脅迫が被害者の反抗を抑圧する程度には至っていないと認定した原判決は,結論において正当であり,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認はない。 その理由は以下のとおりである。 1 関係証拠によれば,次のとおりの事実を認めることができる。 (1) Cが被 論において正当であり,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認はない。 その理由は以下のとおりである。 1 関係証拠によれば,次のとおりの事実を認めることができる。 (1) Cが被害者の紹介によりEから借金した経緯Cは,兄Bの後輩であるAに負っていた借金三十数万円を返済しなければならなかったところ,平成28年2月頃,さらにAに対し,金員を貸し付けてくれる者の紹介を頼み,Aが相談した被害者から30万円くらいの紹介料を要求されたが,それを了解し,被害者と親しいEから金員を借り受けることになった。Cは,同月26日,Eから,翌月の3月10日に利息分24万円,同月26日に元本96万円の合計120万円を返済するという条件で,現金96万円を受領し,引き替えに,Eに,交際相手の女性が所有する軽自動車を担保として引き渡したほか,自分の住民票や,借主欄に自分が署名し,連帯保証人欄に自分の父親と交際相手の女性がそれぞれ署名した金銭借用証書を差し入れた。Cは,受領した96万円の中から,Aに借金の返済分を含めて66万円を支払い,被害者は,Aからそのうちの30万円を紹介料として受け取った。 その後,Cは,約束どおりに返済せず,被害者やEからの電話に出なくなり,そのため,被害者は,Aに対し,Cには暴力団Fの資金源から貸し付けたので,Cが返済しなければ,代わりにAに返済してもらうなどと言ったが,Aも,深入りするのを避けて,被害者らからの電話に出なくなった。 そこで被害者とEは,同年6月9日,Cの実家に押し掛け,Cに返済を迫ったが,Cが警察に通報し,兄のBが現れたことから,騒ぎになった。Bは,被害者とEに対し,Cに返済させることを約束したが,Cが,30万円しかもらっていないと言い出し,紹介料をもらっていることを隠そうとする被害者と口 に通報し,兄のBが現れたことから,騒ぎになった。Bは,被害者とEに対し,Cに返済させることを約束したが,Cが,30万円しかもらっていないと言い出し,紹介料をもらっていることを隠そうとする被害者と口論になった。事情を知らないEが尋ねたところ,CはAが残額を全て持っていったと言うのみで,その場では,96万円のうちの66万円の帰属は明らかにならず,とりあえずCが30万円は支払うことを約束し,後日Aを交えて話し合うことになった。 (2) 被告人らと被害者が宇島漁港に集まるに至った経緯被害者は,犯行当日の平成28年6月17日,EとともにBC兄弟と話し合うことになっていたが,Cが仕事のため会えないと言い出し,さらには,EとともにCに連絡をとった際,Cと上記66万円の帰属について口論になり,Cから挑発されるまま,自分の方からBC兄弟のいる中津に出向くと言い返した。また,Bも,電話で,被害者とEを中津に呼び出し,Aを交えて話し合うことを提案した。 Aは,Bらから,被害者が,自分の悪口を言っている上,回収のため自分の交際相手の女性のところに行くなどと言っていることを聞いて,腹を立て,被害者に暴行を加えて痛めつけようと考え,被害者の言動をDに話して,Dを同調させた。さらに,被告人は,Bから,被害者が,紹介料30万円を取っているのに白を切って,AにCの借金を請求しており,Aの交際相手の女性のところに取立に行くと言っていることを聞き及び,Aと親しい関係にあったこともあり,被害者の態度に腹を立てるようになり,被害者がそのような態度をとり続けるのであれば,Aのために被害者に制裁を加えようと考えるようになった。 こうして,被害者は,Bの指定する福岡県豊前市内の待ち合わせ場所に赴き,B C兄弟がそれぞれ運転する2台の自動車に先導され,原判示の宇島 めに被害者に制裁を加えようと考えるようになった。 こうして,被害者は,Bの指定する福岡県豊前市内の待ち合わせ場所に赴き,B C兄弟がそれぞれ運転する2台の自動車に先導され,原判示の宇島漁港敷地内の広場に到着した。他方,被告人は,Dが運転する自動車にAとともに乗り,現場広場に到着し,その際,全体の長さ約90cm の模造刀1本を持参し,Bも木刀を持参しており,現場広場には,そのほかにBC兄弟に加勢する立場の男子7名くらいが集まった。 (3) 被告人らの被害者に対する暴行現場広場において,Aは,模造刀を持って,被害者に近付き,「お前も金をもらっとるやないか」と怒鳴りつけたのに対して,被害者が「確かに,もらったけど,借りているのはCでしょ」などと言い返したところ,被害者に対し,被告人,B及びAが,こもごも,素手,木刀及び模造刀で,頭部,両腕,脇腹等を多数回殴打し,被告人が,折れた木刀の先端を右大腿部に突き刺すなどした。被害者は,上半身を揺さぶったり,顔を振ったりして,攻撃を避け,両腕を上げて肘を曲げるなどして,攻撃を防御したが,反撃はしていない。関係証拠によれば,その場にいた被告人,B及びA以外の人物が被害者に暴行を加えた事実を認定することはできない。 ところで,被害者の検察官調書抄本3通(原審甲84,88,89)には,被告人らから,激しい暴行を受けている最中,Cの借金全額を肩代わりして支払うように求められ,やむを得ずそれを承諾し,その後にEらがやって来た旨の供述記載がある。しかし,他方,Dの検察官調書抄本(原審甲96)には,Aらが被害者の弱った様子を見て満足したのか,そこからは,後になって現場に現れたEらも交えて,金銭の話になり,Aらが30分間くらい被害者を怒鳴って脅し上げ続けたところ,被害者が観念し,自分がCの借金 らが被害者の弱った様子を見て満足したのか,そこからは,後になって現場に現れたEらも交えて,金銭の話になり,Aらが30分間くらい被害者を怒鳴って脅し上げ続けたところ,被害者が観念し,自分がCの借金全額を肩代わりして支払うと言い出した旨の供述記載がある。前記のとおり,A,被告人及びBは,被害者が紹介料の取得について白を切っていること,被害者の取立に関する言動に腹を立てて,被害者に暴行を加え痛めつけようと考えていたのであるから,暴行がいったん収束した後になって,本格的に被害者にCの借金全額の肩代わりを求めるようになった合理的疑いも否定できない。しかも,Cは,Bのいるところで,いったんはEに対して30万円返済 することを認めていたのであり,他方で,Aは,被害者から暴力団の威力を背景にCの借金の肩代わりを求められるのを避ける必要があったのであるから,前記Dの検察官調書抄本のように,Aが自ら率先して被害者にCの借金全額の肩代わりを求めたというのも,十分に理解することができる。本件では,被害者や共犯者らの証人尋問が全く行われていないので,いずれの供述記載が信用できるかを適切に判断することができず,上記の被害者の各検察官調書抄本どおりの事実を認定することはできないというほかない。 (4) その後の状況Eは,被害者に遅れて現場広場に到着し,被害者の状況を見て,被告人らからひどい暴行を受けていたことが分かった。その場で,被害者は,A,Bらから「金は全部お前が払え」と言われ続け,いったんは「ケツ拭きます」と答えたが,Eに同行してきた男性から「言いたいことがあったら,言っておいた方がいいよ」と言われたのを受けて,やはり自分がCの借金全額を肩代わりして支払うのは納得できないと言い返した。すると,Dが激高し,模造刀の刃先を向け,「それだったら, たいことがあったら,言っておいた方がいいよ」と言われたのを受けて,やはり自分がCの借金全額を肩代わりして支払うのは納得できないと言い返した。すると,Dが激高し,模造刀の刃先を向け,「それだったら,また話が違ってくるぞ。このまま,でたらめなこと言いよったら,マジで殺すぞ」と怒鳴りつけた結果,その場では,被害者がCの借金全額を肩代わりして支払うのを承諾した。そこで,被告人らは解散しようとしたが,被害者が指輪を落としたと騒ぎ出したので,一緒に指輪を探し,指輪を発見した後解散した。 被害者は,同月18日のうちに福岡県春日警察署を訪れて,本件の被害を届け出ており,他方で,A及びBC兄弟は,その日以降,繰り返して被害者及びEに対し,担保として預けていたCの交際相手の女性の自動車を返すように電話をしていたが,被害者は,自分が借りたわけでもないものを返すことに納得がいかないと答えている。これに対し,Bは,「それだったら,また話が違ってくるぞ」と言って,再度暴行を加えることをほのめかして脅している上,Eに電話をし,上記自動車を返す際に被害者を一緒に連れて来いなどと述べている。 また,被害者は,腕時計を売って60万円を作り,それをEに返済しようとした が,Eは,紹介料として受け取った分だけでいいと言い,30万円だけを受け取った。 2 当裁判所は,これらの事実関係を前提にして,次のとおり判断する。 (1) 強盗罪にいう暴行,脅迫は,財物を強取するか,財産上不法の利益を得ることに向けられたものとして,被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものであることを要するが,そのような程度のものであるかどうかは,社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものであるかどうかという客観的基準によって決せられるべきである(昭和23年(れ)第948号 とを要するが,そのような程度のものであるかどうかは,社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものであるかどうかという客観的基準によって決せられるべきである(昭和23年(れ)第948号昭和24年2月8日最高裁判所第2小法廷判決刑集3巻2号75頁参照)。そして,客観的基準によって被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行,脅迫が加えられたと認められる以上,実際に被害者の反抗が抑圧されていなかったとしても,強盗罪にいう暴行,脅迫に当たるということができる。 しかし,本件において,被害者は,暴行,脅迫を受けた宇島漁港の現場広場で財物の交付を求められたのではなく,現場広場を離れた後,自身でEに対して所要の金員を支払うことにより,CがEに負担する借金全額を免れさせて,Cに財産上不法の利益を得させることが求められている。すなわち,被害者には,解放された後,主体的にCの借金全額を肩代わりして支払うという能動的行動が求められている。 したがって,そのような被害者が解放後に主体的に行う能動的行動に向けられたものとしての暴行,脅迫が,被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものであるというためには,犯行現場で直ちに財物の交付を求める場合より,強度な暴行,脅迫でなければならないということができる。 この点,原判決は,本件において被告人らの行為が強盗罪にいう暴行,脅迫に該当するためには,被告人らの暴行,脅迫は後日被害者が金員を支払うところまで反抗を抑圧されたままになってしまうといえるほど強いものでなければならないとしている。しかし,被害者が,いったん客観的基準から反抗を抑圧されるに足りる程度の暴行,脅迫を受けたと認められる以上,その後解放されて反抗を抑圧されてい るとはいえない状態になったとしても,強盗未遂罪が成立するというべきである。 的基準から反抗を抑圧されるに足りる程度の暴行,脅迫を受けたと認められる以上,その後解放されて反抗を抑圧されてい るとはいえない状態になったとしても,強盗未遂罪が成立するというべきである。 (2) そして,被害者の反抗を抑圧するに足りる程度であるかどうかは,前記のとおり客観的基準によって決せられるべきであるにしても,その判断に当たっては,暴行,脅迫の態様にとどまらず,犯行の時刻及び場所,暴行,脅迫が加えられるに至った経緯,加害者と被害者の関係等,当該事案の具体的な状況が考慮されるべきである。 そこで,本件の事実関係に即して,被告人らが被害者に加えた暴行,脅迫が,解放された後の被害者が主体的にCの借金全額を肩代わりして支払うという能動的行動に向けられたものとして,客観的基準に照らし,反抗を抑圧するに足りる程度のものであるかどうかを検討する。 ア Cは,Eから金員の貸付を受けるに当たり,被害者の仲介により,約2週間で24万円という法外な利息の支払と被害者に対する紹介料30万円の支払を条件にして,120万円を返済する約束の下96万円の交付を受け,交際相手の女性の自動車を担保に差し出している。その後,被害者は,Cの返済が滞ったことにより困惑していたにしても,Cが連絡に応じなくなったため,Cの実家に取立てに赴き,警察官が臨場するような事態になっている上,Aに対し,具体的な暴力団名を挙げて,Cが返済しなかった場合の債務の肩代わりを求め,Aも深入りを避けるため被害者との接触を避けるようになっている。このように,被害者は,Cの借入からその返済が滞るまでの経緯において,C,さらにはAに対して,相当に優位な立場にあったということができる。 イ被害者は,宇島漁港の現場広場において被告人らから暴行,脅迫を受けるまでの間,Cとの間で,紹 が滞るまでの経緯において,C,さらにはAに対して,相当に優位な立場にあったということができる。 イ被害者は,宇島漁港の現場広場において被告人らから暴行,脅迫を受けるまでの間,Cとの間で,紹介料30万円を取得していたかどうかで紛議になったが,事実に反して,その取得を否定していた。他方,Aは,被害者から暴力団名を挙げてCの債務の肩代わりの可能性を指摘され,自分の交際相手の女性のところに取立に来られることを危惧していた。Aが被害者の態度に腹を立てたのは,このように被害者から暴力団の威力の下にCの債務を肩代わりさせられるのを恐れていたから であるということができる。そのことは,A及びAと親しい関係にある被告人が,宇島漁港の現場広場において,木刀及び模造刀を使うなどして,率先して被害者に暴行を加えており,その際,被害者に紹介料30万円の取得を認めさせようとしていたことによって裏付けられている。 そうすると,被告人らの暴行,脅迫が激しいものになったのは,紹介料30万円の取得を否定する被害者の態度に腹を立て,それを認めさせようとし,さらには,Aが被害者から不穏当な方法でCの債務の肩代わりをさせられるのに対抗しようとしたことにあるということができる。このように,被告人らが,当初から被害者にCの借金全額の肩代わりをさせることを主眼として,被害者に激しい暴行,脅迫を加えていたとはいえないことは,A,被告人及びBが,暴行がいったん収束した後,被害者にCの借金全額の肩代わりを求めた合理的な疑いがあることとも符合する。 ウ被告人らが被害者に激しい暴行,脅迫を加えた後の状況についても,被告人らは,被害者が,Cの借金全額を肩代わりして支払うのは納得できないと述べるのに対し,それでは容赦しないなどと述べてはいるが,積極的に暴行は加えておらず しい暴行,脅迫を加えた後の状況についても,被告人らは,被害者が,Cの借金全額を肩代わりして支払うのは納得できないと述べるのに対し,それでは容赦しないなどと述べてはいるが,積極的に暴行は加えておらず,被害者にCの借金全額の肩代わりを了承させた後ではあるが,被害者が指輪を探すのに助力している。また,被害者は,宇島漁港の現場広場を離れてからも,引き続き,Bらから脅迫されているが,Cの借金全額を肩代わりして支払うのは納得がいかないと述べている。さらには,被害者は,Eに支払うため,自分が取得した紹介料30万円以上の60万円の現金を用意しているが,Eには,そのうちの30万円を支払ったにとどまり,結局Cの借金全額を支払ってはいない。 エそうすると,被告人らが被害者に暴行,脅迫を加えたのは,C及びAに対して相当に優位な立場にある被害者が,Cに対する借金の取立とそれに関わる紛議のため出向いてきたのに対抗するとともに,被害者に紹介料の取得を認めさせようとしたからであり,Aについては,さらに,被害者からCの債務の肩代わりを求められるのにも対抗するためでもあったということができる。そして,被告人らが本格的に被害者に対してCの借金全額を肩代わりして支払うように求めたのは,激しい 暴行,脅迫が収束した後である可能性があり,それからは,被害者がそれに納得できないと発言しても,それまでと同様の苛烈な暴行,脅迫が再現されてはいない。 被告人らは,被害者に対し,暴行,脅迫の再現を匂わせながら,話し合いの状態を続けていたにすぎず,被害者も,Cの借金全額を肩代わりして支払おうとはしていない。 以上の事実関係の下では,暴行,脅迫が収束して被害者が本格的にCの借金全額の肩代わりを求められた時点において,それまでに受けた暴行,脅迫の影響が,その後のCの借金全 支払おうとはしていない。 以上の事実関係の下では,暴行,脅迫が収束して被害者が本格的にCの借金全額の肩代わりを求められた時点において,それまでに受けた暴行,脅迫の影響が,その後のCの借金全額をEに支払うという行動に向けられたものとして,反抗を抑圧するに足りる程度までに至っていたかどうかを判断することになるというべきである。そして,前記認定の被告人らと被害者との関係,被告人らが被害者に暴行,脅迫を加えるに至った動機及び経緯,被害者がCの借金全額の肩代わりを求められた経過,その後の状況に徴すると,被害者が本格的にCの借金全額を肩代わりして支払うように求められた時点においては,被告人らがそれまでに被害者に加えた暴行,脅迫の影響は,被害者が主体的にCの借金全額を肩代わりしてEに支払うという能動的行動に向けられたものとして,その反抗を困難にする程度にとどまり,反抗を抑圧するに足りる程度のものとは認められないという余地がある。原判決の認定は,説示にやや簡潔に過ぎるところはあるものの,論理則,経験則に反するまでのものではなく,裁判員を交えて直接審理に臨んで証拠を検討した上での判断として十分に尊重されるべきものであり,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるとはいえない。 (3) 所論は,原判決は,反抗を抑圧するに足りる程度のものといえるためには,被害者が被告人らの言いなりになって金員を支払うか,言いなりにならずに警察や知人に助けを求めるかという選択の余地がないほど激しい暴行,脅迫が加えられることを要求しているが,それはいわゆる2項強盗の場合にだけ精神の自由を制圧して選択の余地を許さないほどの極めて強度の暴行,脅迫を要求するものであり,判例の立場と整合しない,という。原判決の説示は,強盗罪にいう暴行,脅迫に該当 するため 合にだけ精神の自由を制圧して選択の余地を許さないほどの極めて強度の暴行,脅迫を要求するものであり,判例の立場と整合しない,という。原判決の説示は,強盗罪にいう暴行,脅迫に該当 するためには,被告人らの暴行,脅迫が,反抗を抑圧するに足りる程度を超えて,Cの借金全額を肩代わりして支払う以外に選択の余地がないほど激しいものでなければならないようにも受け取れる。しかし,すでに説示したように,被告人らの暴行,脅迫の態様に加えて,被告人らと被害者の関係,被告人らが被害者に暴行,脅迫を加えた動機及び経緯,被害者がCの借金全額の肩代わりを求められた経過,その後の状況等,本件の事案を全体としてみると,Cの借金全額の肩代わりを求められた時点での被告人らによる暴行,脅迫の影響は,被告人の反抗を困難にする程度のものにとどまり,その反抗を抑圧するに足りる程度にまで至っていないという余地がある。 所論は,原判決が,被告人らの暴行,脅迫がかなり激しいものであったことを認めながら,被害者が,解放された後言いなりになって金員を支払うという選択肢と,言いなりにならずに警察や知人に助けを求めるという選択肢とを二者択一に対置させているのは,金員を支払わない場合に必ず警察や知人に助けを求めるとは限らないことからすると,裁判員の判断を不当に歪めるおそれすらある,という。原判決の説示は,被告人らの暴行,脅迫が,被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものといえるか否かという法的概念について,裁判員に理解しやすい中間命題を示したものということができる。しかし,そのような中間命題を用いることは,被害者が解放されて自由になった状態を想定して事実関係を抽象化することで,具体的な事案を離れて被害者の行動様式を一般化したり,必要以上に強度な反抗を抑圧する状態を求めたりすることにつ 用いることは,被害者が解放されて自由になった状態を想定して事実関係を抽象化することで,具体的な事案を離れて被害者の行動様式を一般化したり,必要以上に強度な反抗を抑圧する状態を求めたりすることにつながりかねない。したがって,本件のような中間命題を用いることについては,その表現も含め,公判前整理手続の段階で,検察官や弁護人との間で,認識を共通化するため,議論しておくことが望ましい。しかし,言いなりにならずに警察や知人に助けを求めるというのは,解放された後の行動が制約されていた程度を考察する上では,本件において被害者が主体的にEにCの借金全額を支払うという能動的行動が求められていたことと脈絡を共通にするものであるから,上記表現が,裁判員の判断を不当に歪めるおそれがあるとまではいえない。 所論は,反抗を抑圧するに足りる程度の暴行,脅迫であったか否かの判断は,被害者を解放する前に行われた暴行,脅迫の時点に立ち,行為時の事情を基に一般人を基準に判断すべきであり,解放後の時点に立って判断すべきではないから,原判決が,解放後の被害者を念頭に多くの人は警察に助けを求めるといえると判示しているのであれば,暴行,脅迫の程度を判断すべき時点を取り違えた論理則,経験則違反が認められる,という。すでに説示したように,原判決の趣旨が,宇島漁港の現場広場で加えられた暴行,脅迫は,その時点では反抗を抑圧するに足りる程度であったとしても,本件においては,さらに,その状態を維持し継続するに足りるより強度のものが求められるというものであれば,失当であるというほかない。しかし,本件の事実関係の下では,被告人らが被害者に暴行,脅迫を加えたのは,Cに対して相当に優位な立場にある被害者に対抗して,被害者に紹介料の取得を認めさせ,Aについては,被害者からCの借金の肩 。しかし,本件の事実関係の下では,被告人らが被害者に暴行,脅迫を加えたのは,Cに対して相当に優位な立場にある被害者に対抗して,被害者に紹介料の取得を認めさせ,Aについては,被害者からCの借金の肩代わりを求められるのに対抗しようとしたこともあったのであり,被害者が,被告人らから本格的にCの借金全額を肩代わりして支払うように求められたのは,激しい暴行,脅迫が収束した後であるということができる。しかも,本件において,被害者は,暴行,脅迫が収束した時点で,被告人らから主体的にEにCの借金全額を支払うという能動的行動が求められていたのである。このような事実関係の下では,被告人らによる暴行,脅迫が反抗を抑圧するに足りる程度かどうかは,暴行,脅迫の時点ではなく,被害者が本格的にCの借金全額の肩代わりを求められた時点において,それまでに受けた暴行,脅迫の影響の程度として判断されるべきである。そして,その影響の程度の判断は,その後の主体的なCの借金全額の支払いという能動的行動に向けられたものとして,反抗を抑圧するに足りる程度に至っていたかどうかということになる。これらについてみると,本件では反抗を抑圧するに足りる程度にまでは至っていなかったとみる余地があるというほかない。 所論は,被害者は,解放後直ちに警察に赴いて被害申告をしたものではなく,また,警察に被害申告した後も,CのEに対する借金を自分が返済する覚悟を決め, 大切にしている高級腕時計を売却し,可能な限りの金銭を工面して,Eに対し,本件借金の支払の一部として60万円の支払を申し入れており,この事実は,被害者がその時点まで依然として被告人らによる強盗目的の暴行,脅迫の影響下にあり,引き続き反抗を抑圧されたままになっていたことを示す明らかな事実である,という。しかし,被害者が,Eに対 この事実は,被害者がその時点まで依然として被告人らによる強盗目的の暴行,脅迫の影響下にあり,引き続き反抗を抑圧されたままになっていたことを示す明らかな事実である,という。しかし,被害者が,Eに対し60万円の支払を申し入れたのは,Cに対する融資を仲介したことにより,Eに迷惑を掛けたことを心苦しく考えたからとも考えられ,Eに対する上記申入れの事実をもって,直ちに被告人らの暴行,脅迫による反抗抑圧状態が続いていたと推認するのは,証拠上不明な点について被告人に不利に推測するものであり,相当ではない。また,反抗を抑圧するに足りる程度のものといえるかを判断する上で,被害者が被害を受けたその日のうちに警察に被害申告したことは,解放された後直ちに被害申告したことと比較して,大きな差異があるともいえない。 そのほか所論が縷々主張するところを検討しても,原判決の認定には論理則,経験則に反するところはなく,所論のいうような事実誤認はない。 論旨は理由がない。 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき同法181条3項本文を適用して,主文のとおり判決する。 検察官橋本修明公判出席(裁判長裁判官山口雅高裁判官平島正道裁判官高橋孝治)
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