昭和32(う)210 虚偽有印公文書作成被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和32年12月24日 福岡高等裁判所 宮崎支部 棄却
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【DRY-RUN】主    文      本件控訴を棄却する。          理    由  本件控訴の趣意は、鹿児島地方検察庁名瀬支部検察官事務取扱検事寺下勝丸作成 名義の控訴趣意書のとおりであるから、これを引用

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判決文本文5,758 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は、鹿児島地方検察庁名瀬支部検察官事務取扱検事寺下勝丸作成名義の控訴趣意書のとおりであるから、これを引用する。 これに対し当裁判所はつぎのとおり判断する。 一論旨第一点(事実誤認)について、(一) 公訴事実二の1)に対する原判示無罪理由に事実の誤認があるとする論旨部分について、所論は、被告人がAから公訴事実二の(1)記載のごとき電報作成を依頼された際、その内容が虚偽であることを知つており、かおつ、「B」「C」なる人物は或は実在しないのではないかとの未必的認識を有していたことは証拠上十分認定し得るのにかかわらず、原判決が内容虚偽であること、および「B」「C」が実在しないことについては、いずれもこれを認めるに足る証拠がないとし、虚偽公文書作成についての犯意を認めなかつたのは事実誤認であるというのである。 よつて、右事実に関する被告人の所為を調査すると、原審において適法に取調べた証拠によると、つぎのとおり認定できる。 被告人はその勤務先であるa地区電報電話局電報課に夜勤として勤務中昭和三〇年九月二一日午後六時頃Aから、「私達は五人組の女ブローカーを作つて自分達の資金を出し合い、不足の分は他から借りて、紬やドルを安く買い、東京、阪神方面に売り捌く商売をしている。グループが集めた品は私の叔父Bが売り捌いて帰つて来ているのだが、一年前からこの仕事を始めて以来一度も失敗したことはなく大変儲かつている。叔父か全責任を持ち、私は女グループの責任を持つている。叔父は成功していま鹿児島まで帰つて来て「品物の売捌が成功したから安心せよ、次のD丸で帰つて来る」という手紙が来ているけれども、グループの人達が手紙だけでは信用できないといつて信用してくれないので困 父は成功していま鹿児島まで帰つて来て「品物の売捌が成功したから安心せよ、次のD丸で帰つて来る」という手紙が来ているけれども、グループの人達が手紙だけでは信用できないといつて信用してくれないので困つている。だから、「セイコウシクオヤカクト二四ヒDニテクツB」と電報を作つてくれ、と申込まれたのに対し、被告人は、「打つてない電報を打つた形で作ることは偽造であるからできない」と拒否し、「Bという人が鹿児島まで来ているのであれば、そんな内容の電報を本人に連絡して本人から打つて貰えばよいのではないか、本人との連絡はしてやる」と言つたところ、Aは、「向うからこちらに連絡はつくけれども、住所が一定していないので、こちらからの連絡はできない」というので、「さつき鹿児島まで来ているといつたではないか、連絡のとれない筈はない。事情はともあれ電報を作ることはできない」と拒絶したところ、Aは、「料金を支払うから鹿児島にいるあなたの友達に頼んで電報を打たせて下さい」というので、二階の電報課通信室で鹿児島回線(海底線)を利用し、鹿児島局を呼んだところEが出た、同人には全然会つたこともなく、未知の間柄ではあつたが、同人につぎのような電報を鹿児島局の窓口から発信してくれませんか、料金は明日早速現金で送るから」といつたところ、Eが引受けてくれたので、Aが紙片に書いてあるとおり、宛名人「名瀬市b町○班C、」通信文、「セイコウシタオヤカタト二四ヒDニテタツB、」発信人「鹿児島電報局気付B」として発信を依頼した。Eは料金二〇〇円を立替え発信紙に右のとおり記載して発信の手続をとつた。それから約一時間後に右のとおりの電報が「至急信」として有線自動通信機によつて着信した。 そこで、テープに印刷されたのを電報用紙に貼布し、着検に持つて行き、着検て日付印、至急電報の印、発信局名、発 それから約一時間後に右のとおりの電報が「至急信」として有線自動通信機によつて着信した。 そこで、テープに印刷されたのを電報用紙に貼布し、着検に持つて行き、着検て日付印、至急電報の印、発信局名、発信番号、受取人名の記録などの諸手続をすませ、階下の配達部門に昇降機で下ろし、被告人も階下に降りて行き、自転車置場のところに待つていたAに電報が来た旨を告げ、配達窓口の配達員に「この人はFであるが、Cさん達と商売仲間でいまからBさんの家に行くそうだから、この人に代理受取をさせてくれ」といつて、配達員からAに交付させた。 以上が証拠によつて認定できる公訴事実二(1)に関しての被告人の外形的事実である。そして、検察官の指摘する証拠を綜合すると、なるほど、所論のとおり、被告人はAから依頼された際、電文内容が、或は虚偽で「B」「C」も実在しない人物であるかも知れないとの認識があつたと認定できないこともないようである。 <要旨第一>しかし、電報の偽造ないし、虚偽作成はその電報自体についてであるから、通信士である被告人がたまたま</要旨第一>Aから依頼されて鹿児島局の知人に同局発信の電報を依頼することの便宜を計ること自体は電報自体の作成についての右犯罪の構成にはかかわりのないことであり、その内容が虚偽であることを被告人が認識していても右の結論には影響はない。これは一私人が虚偽の発信を依頼しても、その依頼者が虚偽公文書に関する犯罪を構成しないのと同じで、被告人において通信士という身分を有していたとしてもその理に変りはない。通信士が自ら発信人となつて料金を支払い発信紙による諸手続をすませ、内容虚偽の電報を発信したところで同様である。そして、右のような依頼の結果、そのとおりの電報か鹿児島局から送信され、被告人がそのままこれを受信して電報を作成した場合、電文内容 による諸手続をすませ、内容虚偽の電報を発信したところで同様である。そして、右のような依頼の結果、そのとおりの電報か鹿児島局から送信され、被告人がそのままこれを受信して電報を作成した場合、電文内容が虚偽であることを認識していたとしても、その送信通りの電文を作成することは何等虚偽公文書作成とはならない。たとえ被告人がAから依頼された際、このような電報の発信を鹿児島局に頼むと、そのとおり送信され、被告人が受信することを予見していたとしても、同じである。 そもそも、日本電信電話公社は、電信電話営業規則第一条所定の文字、数字、記号による電報の発信の依頼があれば、そのまま発信する義務があり、その内容の審査をする義務も権利もない。否、審査は、公衆電気通信法第四条、(検閲の禁止)、第五条(秘密の確保)の限度において法禁行為である。これは憲法第二一条につながる問題である。したがつて、発信依頼内容が虚偽であることを確認する術はない。(たとえば、日本電信電話公社社員が知人より「コドモウマレタ」の発信依頼があり、杜員はその知人に子供が生れていないことを知つていたとしても「コドモウマレタ」とは或は別のことを意味する符号として使用されているのかもしれないし、その事実を審査すること自体許されない。本件におけるAの依頼した電文も本当はAのいうところの「成功したから親方と共に二四日Dにて出発する」意味とは縁もゆかりもないことなのかも知れない。 <要旨第二>つぎに、発信人不実在の点について検討する。被告人は鹿児島局のEにはAの指示通り発信人をB</要旨第二>として依頼したのであるが、現実に発信するのはAであるから、発信人欄をBとするのはAがBから委任を受けている場合の外、電信電話営業規則第八条の関係から不当である。しかし、そのゆえに、その電報が発信人のない即ち発信依 あるが、現実に発信するのはAであるから、発信人欄をBとするのはAがBから委任を受けている場合の外、電信電話営業規則第八条の関係から不当である。しかし、そのゆえに、その電報が発信人のない即ち発信依頼のない電報とはいえない。発信依頼はあくまで現実にその行為をした現存人のAであり、AがBの名を使つたところで、それがAが依頼した電報であることの実体には変りはない。そうすると、本件において被告人が発信の依頼のない電報を、発信、受信の形をととのえて電報を勝手に件成したことにはならない。たとえ、電々公社社員において、甲が乙の名を使つて発信していることを認識していてもそのことにより或る場合他罪にふれることのあるのはともかく、虚偽公文書作成の罪に該当するわけのものではない。すなわち、公文書たる電報の偽造、変造ないし虚偽作成とは、(イ)作成権限のないものが作成する偽造、変造、(ロ)発信依頼のないのに勝手に電報自体を件成する、(ハ)発信依頼と異る内容のものを送信し或は受信文と異る内容の電文を作成する場合(日付などをも含む)等をいうのであつて、本件のごときは該当しない。 されば、所論指摘の誤認のあるなしにかかわらず、被告人の当該所為は虚偽公文書作成とならないことの原判決の結論には影響はない。所論は別異の見解に立つて原判決を非議するものであり、採用できない。 (二) 公訴事実二の(2)に対する原判示無罪理由に事実の誤認があるとする論旨部分について、所論は、電文の発信人が実在せず、かつ、電文内容も虚構のもので、Bが発信したものでないことを十分察知しながら、本件電報の送信方を鹿児島局に依頼したもので、電報を発信せしめると、必然的に虚偽電報が作成されることを被告人は職責上十分認識し得たはずであるのにかかわらず原判決が、これらについての認識がなかつたと認定した の送信方を鹿児島局に依頼したもので、電報を発信せしめると、必然的に虚偽電報が作成されることを被告人は職責上十分認識し得たはずであるのにかかわらず原判決が、これらについての認識がなかつたと認定したのは事実の誤認があるというのである。 ところで、原審において適法に取調べえ証拠によつて認定できる右に関する被告人の所為はつぎのとおりである。 被告人はAより前記(1)の依頼を受けてから、四、五日後再び同女より、「叔父が成功したので、四、五円したらG丸で帰るという手紙が来ているが、皆が手紙だけでは信用せず、私達が鹿児島まで行くことになつた。四人一緒に行くと旅費だけでも相当かかるし、旅費は自分が負担せねばならないので困つている。何とか行かなくてすむようにしたいから鹿児島局からの発信した電報をたのむ」旨申込まれたので、有料電話で鹿児島局のHに対し、AかBのいるという鹿児島市c町のI旅館の秀夫に、「来る来るといつて来ないので、何時来るかをはつきりした電報を打つように」と連絡することをたのんだところ、一時間位後にHから被告人に同旅館にはBなる人物は宿泊した形跡はないとの連絡かあつたので、被告人はAにその旨を伝えた。Aは被告人に、「Bは或いは広島に行つているのかも知れない、あなたの友達にたのんで鹿児島から電報を打たせて下さい」としきりに懇願したので、右Hに、料金は後で送ることにしてAの指示通り、発信人「B」名宛人「名瀬市d町△班F」、通信文「GニテカナラズカエルシンパイスルナB」なる電信を送信するようたのんだ。Hは料金を立替えて発信紙に右のとおり記載して発信の手続をとつた。この電報は間もなく鹿児島局から送信され、a地区の通信士Jが受信し、証第四号の電報が作成されAに配達された。 以上が証拠によつて認定できる公訴事実二の(2)に関しての被告人の外形的事 続をとつた。この電報は間もなく鹿児島局から送信され、a地区の通信士Jが受信し、証第四号の電報が作成されAに配達された。 以上が証拠によつて認定できる公訴事実二の(2)に関しての被告人の外形的事実である。そして検察官の指摘する証拠を綜合すると、所論のとおり、被告人において、本件電文の発信人Bが実在せず、電文内容も虚構のものであるかも知れないとの認識があつたと認定できないことはないようである。しかし、前記(一)において判断したと同一の理由により、所論指摘の誤認のあるなしにかかわらず、被告人の当該所為は虚偽公文書作成とならないことの原判決の結論には影響はない。論旨は理由がない。 二論旨第二点(法令適用の誤り)について、論旨は原判決が、被告人が鹿児島局の職員に依頼して発信せしめたのは公務に関してなされたものでないと認定したのは刑法第一五六条の公務の解釈を誤り、その誤りは判決に影響を及ぼすというのである。 しかし、記録によると、被告人が通信士であること、公器である海底線を利用したことは認められるが、被告人がAの求めにより鹿児島局職員に依頼したのは被告人の電信業務に関してなされたものではなく、公器を利用した私用であることが十分認められる。したがつて被告人の右の行為が公務員としての違背となるのは格別公務に関してなしたものでないと判示した原判決は何等法令の解釈に誤りはない。 また、所論引用の大審院判例は戸籍事務を管掌する市町村長において、届出事項の明白な虚偽を知りたる場合の説示で、戸籍簿は人の身分を公証する公簿で、その届出は法律上の効力、効果を伴うため記載事項の適法にして真実に合するを期するため、戸籍吏は形式的審査権を有し、受理に当つては、実体的形式的要件を具備するか否かを槇重に審査することを要する(民法第七四〇条・第七六五条第一項・第八〇 め記載事項の適法にして真実に合するを期するため、戸籍吏は形式的審査権を有し、受理に当つては、実体的形式的要件を具備するか否かを槇重に審査することを要する(民法第七四〇条・第七六五条第一項・第八〇〇条・第八一三第一項等)ところから帰結された判例であつて、本件には適切でない。 さらに論旨中被告人がAと共謀してE、Hを単なる道具に利用したものであるから、被告人が法律上の地位を濫用して虚偽公文書を作成したことに帰するとの所論は一において示した事実上の認定、法律上の判断に照し理由がない。論旨第二点も採用できない。 よつて、本件控訴は理由がないから、刑事訴訟法第三九六条により棄却し、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官二見虎雄裁判官後藤寛治裁判官矢頭直哉)

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