【DRY-RUN】主 文 本件控訴をいずれも棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事 実 第一 当事者の求めた裁判 一 控訴人 原判決を取り消す。 控訴人が被控訴人の労働者として期間の定めの
主文 本件控訴をいずれも棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 第一当事者の求めた裁判一控訴人原判決を取り消す。 控訴人が被控訴人の労働者として期間の定めのない労働契約上の地位にもとづく権利を有することを確認する。 被控訴人は控訴人に対し二万九六四八円及び昭和四七年五月から一か月につき五万四〇六〇円を毎月二二日限り支払え。 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。 との判決二被控訴人本件控訴をいずれも棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 との判決第二主張当事者双方の原審における主張は、原判決事実摘示のとおりであり、当審における新たな主張は次のとおりである。 一控訴人 1 使用者の懲戒権を実質的に基礎づけるものが、使用者が労働力を使つて営利活動を行うための共同作業を円滑に遂行するうえでの合理的な規律である以上、職場秩序の紊乱が存在しない限り懲戒の余地はないし、本件において職場秩序の紊乱という事態はまつたくなかつた。すなわち控訴人の従事した労働は肉体作業、汚染作業、狭溢作業、高所危険作業、単純作業等と表現される種類のものであり、もともと学歴、経験、家族関係が問題とされるようなものではありえなかつた。現に被控訴人会社が現業員を採用するに当つては、各職種とも経験不問とし、とにかく大量に採用し、実際の作業の中で陶汰を行うという態度であつたし、また被控訴人会社は社内制度として「能力主義に基づく昇進管理」、「学歴、年功の排除」が推進されていた。一方控訴人は昭和四六年七月先手から棒心へと昇進したが、この事実は控訴人の作業成績が少くとも中位以上であつたことを示しているし、また控訴人は松本楼事件のさいの逮捕勾留による欠勤を除いては、勤務状況に不良の点もなかつた(右逮捕勾留については結局不起訴とな の事実は控訴人の作業成績が少くとも中位以上であつたことを示しているし、また控訴人は松本楼事件のさいの逮捕勾留による欠勤を除いては、勤務状況に不良の点もなかつた(右逮捕勾留については結局不起訴となつたもので、無罪の推定が働くから控訴人の責に帰すべき欠勤とはいえない。)これらの点からすると、控訴人の職務遂行の点にあたつて何ら具体的支障はなく、またその虞れもなかつた。控訴人が本来労働者の義務とされていない始業時間前の体操に参加しなかつたことが職場秩序と無関係なのは当然のことであり、これをもつて控訴人の協調性の欠除を云々するのは不当である。 2 労働者にはプライバシーの権利があり、幸福追求権、思想信条の自由等がある以上、労働契約成立段階における労働者の真実告知義務は、労働契約の目的との関連でなるべく狭く解せられるべきであり、予定されている具体的な労務提供の内容と関連するもの以外に亘つてはならない。労働契約に関し、信義則を強調することは、企業の労働者に対する全人格的支配を許すことにつながり不当である。 3 控訴人の父が国会議員であることは憲法第一四条にいう門地であり、また控訴人が東京大学中退であつたことも社会的身分にあたるところ、契約の成立過程における自由と解雇の自由とは全く区別されるべきものであるから、これらを理由として控訴人を解雇することは許されない。 4 被控訴人に労働基準法第三条違反、不当労働行為のあつたことを窺わせる次の事実がある。 (一) 造船資本による全造船への組織攻撃(1) 造船資本は戦後国家資金の投入のもとで復興がなされていつたが何度かの造船不況の中で完全な独占化が進み独占の大胆な合理化は昭和四一年には世界一の座を獲得することになつた。 造船における電気溶接・ブロック建造方式は天候に左右されぬ作業、手持ち時間の大巾な削減、流 の造船不況の中で完全な独占化が進み独占の大胆な合理化は昭和四一年には世界一の座を獲得することになつた。 造船における電気溶接・ブロック建造方式は天候に左右されぬ作業、手持ち時間の大巾な削減、流れ作業化作業管理の容易化を可能にした。またこれは単能工から多能工への転換の基礎をつくり出し、そのもとで労働者は複雑かつ多様な知識を要求され、個人成績が明確にされて職制による労務管理が強まつた。 これらのもとで労働密度は精神的な負担とともに飛躍的に高まり混在作業の増加は労働環境の悪化をもたらした。 そして造船資本は合理化や労働者の権利を守つて斗う労働組合に対する組織破壊攻撃を開始する。 (2) 昭和三四年には全造船内部に右派分子により全造船二八会が結成されたが、造船資本により「労使協調路線」を唱える部分によるインフオーマルグループについて積極的な育成策がとられる。 全造船の当時の最強組合があつた三菱長崎造船所においても、二〇万トンドツク稼動開始まもない昭和四〇年九月八日合理化案が提示されたが、同月二八日に右派刷新同志会が全造船長船分会の支部役員を引き上げ、職制と結託、会社のテコ入れで一二月第二組合を結成した。 この後昭和四一年には三菱横浜造船所の分会、昭和四四年には被控訴人会社の三分会(浅野、清水、鶴見)、昭和四五年には石川島播磨重工の各分会、川崎重工の分会、同四六年は住友重機の分会(浦賀、玉島)というように続々と全造船からの脱退ないし第二組合づくりがなされていくのである。 (二) 被控訴人会社における全造船への攻撃(1) 被控訴人会社鶴見造船所においても昭和四〇年鶴見二八会が結成されたが、同四一年実施された作業長制度と新社員制度(資格制度)により組合員である作業長に企業意識を植えつけて企業の代弁者とする一方、成績査定の強化・資格制度による いても昭和四〇年鶴見二八会が結成されたが、同四一年実施された作業長制度と新社員制度(資格制度)により組合員である作業長に企業意識を植えつけて企業の代弁者とする一方、成績査定の強化・資格制度による昇格査定によつて作業長を通じた労働者に対する支配体制を築いた。 作業長・工長については二八会加入が前提とされ、インフオーマルグループ加入の有無と労働者の処遇とが結合されたのである。 (2) このようなもとで労働組合の右傾化は着々とはかられ昭和四三年七月一三日鋼管造船労連が結成されたが、これは被控訴人の労務管理面の統合の要請に応えたものであり、被控訴人はその育成に努めた。 そして同年一一月鶴見分会においては全造船脱退の一般投票が行なわれたがこれは否決された。 (3) この事態に対し控訴人は部課長を集め、「中間管理者は労務管理の先端をになうものだ」とし、研修会活動にとりくんだ。 控訴人の作成した職制研修用のマル秘資料の中では「全造船はもはや古い過去の労働運動」「総評路線の闘争至上主義」「いまや新たな造船戦線再編の時代」とされ、このマル秘資料(「監督者研修資料」)まる写しの主張が全造船脱退派によつてなされたのである。 労働者は職制の監視とおどしの中で自己表現を抑圧されていき、昭和四四年一一月一四日、浅野・清水の分会で一般投票がなされ、全造船脱退が決められた。 しかし右投票は職場からの開票立会人も許さず、投票用紙の閲覧要求に対しても焼却済というまさに異常なものであつた。 鶴見分会では一二月一八日に一般投票がなされたが被控訴人の介入は、「全造船機械二十五年史」によれば次のとおりであつた。 部課長が作戦本部から指揮命令し、下級職制と二八会員はチームを組んで昼は職場夜は社宅へしらみつぶしの切崩に狂奔した。昨年脱退のたくらみを粉砕した「全造船を守る有志の 」によれば次のとおりであつた。 部課長が作戦本部から指揮命令し、下級職制と二八会員はチームを組んで昼は職場夜は社宅へしらみつぶしの切崩に狂奔した。昨年脱退のたくらみを粉砕した「全造船を守る有志の会」は再結集し、良心的な労働者が職場・地域で奮闘した。寮や社宅でしばしば職制たちとはち合せした。会社は「寮、社宅への立ち入り禁止」のはり紙をし、彼等だけが自由に脱退の″票固め″をしていつた。……すべての職場で職制がおどしすかしの票読みをすすめた。……活動家の話に耳をかたむける労働者には職制の目が光り、作業時間に入つてから呼びつけて威圧を加えるということが日課のようにくり返された。 とくに鶴見の場合は、京浜工業地帯にあつて労働者のなかには、住宅問題で慢性的に悩みをかかえており、「社宅入居」の便宜をにおわせた抱き込み工作が目立つた。……このようななりふりかまわぬ会社、職制二八会の策動の結果、鶴見においても全造船脱退が決定された。 (4) 全造船を脱退させた被控訴人は同年一二月二二日「創業以来の大機構改革」を発表し「各人は責任をもつて利益管理をあくまで追及せよ」と厳命した。 そして、昭和四五年四月になり第一次新勤務制度が実施されたが、これは一日の実労働時間一五分間の延長により月一回の土曜休日をつくり、また労働時間概念を狭くすることにより実質的な労働時間の延長をはかるものであつた。 (三) 控訴人の入社と職場状況(1) 控訴人の入社した昭和四五年は右のように被控訴人が労働者の反対部分の抑圧に成功し新しい合理化に着手した時であつた。 新勤務制度が実施された後の昭和四五年五月から同四六年四月までに全労働者の一割強が退職しているが、うち二五歳未満の者がその四分の三近くを占め、勤続年数の少ない者がきわめて多く「仕事があわない」、「健康上の理由」といつた退職 の昭和四五年五月から同四六年四月までに全労働者の一割強が退職しているが、うち二五歳未満の者がその四分の三近くを占め、勤続年数の少ない者がきわめて多く「仕事があわない」、「健康上の理由」といつた退職理由が多い。 おりから造船ブームであつたため被控訴人会社は大企業イメージを最大限利用して次々と採用し、苛酷な労働条件のもとでふるいわけるという政策をとつたのである。 (2) 控訴人が入社した際の職場状況については、企業への全面的忠誠が要求され、苛酷な労働のもとで労災が多発していたのである。 (3) このような潜在的な労働者の不満を、むりやり力づくで抑えつけている状況のもとで被控訴人は労働者としての権利・人権を主張する者に対し強いおそれをいだいていた。 その結果、控訴人の組合大会での発言等について異常な反応が職制らより示され、また昭和四七年の第二次新勤務制度に対する控訴人らによる反対、職場における不満の爆発に対し驚きあわてて被控訴人において経歴詐称を口実に解雇にふみきることになるのである。 (四) 労働者の権利主張に対する被控訴人の圧殺と攻撃(1) 被控訴人会社で人間としての権利、労働者としての権利を守ろうとすればただちに被控訴人からの攻撃を受けることになる。例えば① Aは合理化のもとでの苛酷な労働(足場架設作業)により腰痛になつたが被控訴人は業務上と認めようとせず、労働基準監督署において業務上と判断された後も嫌がらせが続けられた。 ② Bもマーキン作業のもとで腰痛になつたが被控訴人はこれを詐病扱いにし、職制の挑発のもとでのささいなトラブルを理由に昭和四九年九月同人を解雇した。 ③ Cは労災になり休業を要するのに出勤を命じられたため労働基準監督署に訴えたところ報復として理由のない懲戒処分を受け、職制が、同僚にCと話をするなと働きかけたりした。 和四九年九月同人を解雇した。 ③ Cは労災になり休業を要するのに出勤を命じられたため労働基準監督署に訴えたところ報復として理由のない懲戒処分を受け、職制が、同僚にCと話をするなと働きかけたりした。 また同人の安全問題等における追及に対し被控訴人はけんしよう炎を業務上と認めることの拒否、職制による暴力、必要もない応援・配転命令を行い、さらには昭和五四年三月二七日には労働基準法一九条に違反して解雇をなし企業外へ放逐した。 (2) 被控訴人の意図は被控訴人会社鶴見造船所の労働者の全造船加入に対する対応を見ればより明確になるだろう。 ① 昭和五三年一二月被控訴人は二〇〇〇名をこえる人員削減を含む大合理化案を同盟造船重機日本鋼管造船重工労組(以下重工労組という)に示したが、重工労組はこれを受け入れようとした。 ② 労働者にとつて死活の問題である合理化に直面し、重工労組が五五才以上の労働者の実質的な指名解雇をまず認めた時点においてもはや重工労組は労働組合としての生命を失なつたとして鶴見造船所に働くD、Cは昭和五四年二月九日重工労組を脱退し、既に解雇されている控訴人及びBと共に総評全造船機械労働組合に加入して鶴見造船分会を結成した。そして同じ鶴見造船所のE、同Fも同様に重工労組を脱退し全造船鶴造分会に加入したのである。 ③ ところが重工労組は組合規約にない効力要件をもちだし脱退を認めることを拒否し、被控訴人はそれを一理由として全造船及び分会との団体交渉を拒否する(神奈川県地方労働委員会によつて昭和五四年五月一七日、不当労働行為と判断されている)という不当な態度に出た。 そして被控訴人は重工労組を脱退し全造船に加入した四名に対する重工労組の除名処分の「効力発生」を待ちかねたように昭和五四年三月二七日同人らをユニオンシヨツプ条項の適用を理由に解雇したの 度に出た。 そして被控訴人は重工労組を脱退し全造船に加入した四名に対する重工労組の除名処分の「効力発生」を待ちかねたように昭和五四年三月二七日同人らをユニオンシヨツプ条項の適用を理由に解雇したのである。(なお分会書記長であるCについては別に同日付で懲戒解雇通知もなされている。)④ 別組合に加入する場合はユニオンシヨツプ条項の適用がないというのが近時の判例といつてもいいが、被控訴人は、大巾な人員削減・合理化に現場労働者が強い不満を持つていることを知りつくしており、このような不満が組織されることを恐れ、あえて同条項を適用して排除したのである。 二被控訴人 1 雇傭関係は、単に労務の提供、報酬の支払いという債権債務の関係にとどまらず、労務の提供に関しては安心して仕事をまかせることができるか否か、同僚との強調を期待できるか否か、上司が適正な管理を行うのに支障がないか否か等の人格的な関係にまで及んでいるのであつて、これらの人格的関係はすべて信頼関係あるいは信義性の有無が基本となつていることはいうまでもない。特に被控訴人会社の行う造船業にあつては、船舶は高価な海上輸送機器として安全上常に高品質が求められ、その製造段階にあつて細心の注意が求められるのであつて、そうした中で控訴人のように平然と嘘をつき詭弁を弄するなど信頼関係を持ちえず、不信義極まりない者をその製造に関与させえないことは当然である。 2 控訴人が被控訴人会社において棒心であつたことはない。棒心とは通常一〇年位の経験を有し、数名の作業者を指示し、自己の判断をもつて一定の業務範囲を完遂する者、いわゆる工長候補者をいうが、控訴人が棒心といつているのは、単に職場の後輩である新規加入者に対する先輩というに過ぎず、控訴人の技能知識は極めて低度のものであつた。 第三証拠(省略)理 わゆる工長候補者をいうが、控訴人が棒心といつているのは、単に職場の後輩である新規加入者に対する先輩というに過ぎず、控訴人の技能知識は極めて低度のものであつた。 第三証拠(省略) 理由 一原判決理由一ないし四に示された事実認定については、当裁判所も同様に認定するものであるから、この記載を引用する。当審証拠調べの結果によつても、これを変更する必要は認められない。 二右認定の控訴人の行為が、「重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき」という解雇事由に該当するか否かについて検討する。まず一たび採用された労働者が右事由に該当するとして解雇されうるのは、当該労働者が虚偽の申告をしたという不信行為に対する制裁としてか、それとも当該労働者が真実の申告をし、使用者にその点についての錯誤がなかつたとしたら当該労働者を採用し、これと労働契約を締結しなかつたであろうという使用者の判断の誤りを救済するためか、それともその両方であるのかという問題が考えられる。ところで、労働契約締結の段階における個々の労働者の立場は、使用者である企業の立場に対し、著しく弱いものであることはいうまでもないから、労働者が採用されるために時として企業に対し虚偽の申告をすることがあるのは、必ずしもこれを深く咎めることができないこと及び労働者に右事由があるときは、法理論上は使用者は要素の錯誤に基づく労働契約の無効を主張するか、又は詐欺による意思表示の取消を主張しうるはずであつて、単に右事由に基づいて労働者を将来に向つて解雇するにとどめることは、労働者の不信義に対し当然受けるべき不利益の程度を越えて制裁を加えることを意味しないことを考慮すると、前記解雇事由は、使用者の前記の判断の誤りを救済することを目的として定められたものと解するのが相当であり、そうで に対し当然受けるべき不利益の程度を越えて制裁を加えることを意味しないことを考慮すると、前記解雇事由は、使用者の前記の判断の誤りを救済することを目的として定められたものと解するのが相当であり、そうであつて見れば「重要な経歴」とは、当該いつわられた経歴につき通常の使用者が正しい認識を有していたならば、当該求職者につき労働契約を締結しなかつたであろうところの経歴を意味すると解すべきであり、又複数の経歴事項にいつわりのあつた場合には、その一つ一つを取つてみれば採否を左右する程重要ではないが、その全部を総合した場合は不採用は避けられないという場合もありうることはもちろんで、このような場合は、右いつわられた経歴事項を総合して重要な経歴をいつわつたとの評価が与えられることとなる。本件の場合、前認定の控訴人の経歴とくに本人の学歴、父の職業、兄の職業、弟の学歴等に関する詐称は、これを総合的に見た場合、通常の使用者であつたならば、控訴人が単純作業に堪えるかどうか、比較的低学歴者による現場の指揮統制が適切に行われるかどうか等に疑念を抱き、これをもつて特に単純作業のみに従事する労働者としては不採用の理由とするであろう程度のものと考えられるので、重要な経歴詐称といわざるをえないし、更に控訴人が、その父であるGの連帯保証に関する署名押印を偽造したことは、仮りに控訴人がGの追認をえられるとの見通しを抱いていたとしても(原審における控訴人本人尋問の結果によれば、当時控訴人はGの厄介にならないと決心していたことが認められるから、むしろそのような見通しを持つていたとは考えにくいのであるが)、採用前に右連帯保証が無効である事実を知つていたら、通常の使用者は採用を手控えたであろうとしか考えられないものであつて、いずれにしても控訴人の行為が「重要な経歴をいつわり、その他詐術 のであるが)、採用前に右連帯保証が無効である事実を知つていたら、通常の使用者は採用を手控えたであろうとしか考えられないものであつて、いずれにしても控訴人の行為が「重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき」に該当するものであることは否定できない。(この点につき、原審における控訴人本人尋問の結果中には、本人の学歴や家族の職業学歴等につき、本当のことをいつたらとても採用してもらえないと思つて虚偽を書いた旨の部分があるがもつともである。)原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は、その政治的信念にもとづき東京大学における学業を中途で放棄し、みずからの肉体的労務によつて生きる決心をし、被控訴人会社に就職したものであることが認められるが、経済的利益の追求を目的とする企業である被控訴人に控訴人の右政治的信念に協力しなければならない義務がある訳でもないから、右の事実は前認定及び判断とはかかわりがない。また近来我国民一般の高学歴化により、いわゆるブルーカラー階層に占める大学卒等高学歴者の占める比率がかつてより高くなつているであろうことも否定できないところであるが、一口に大学といつてもそのうちにはさまざまの評価のものがあるのもやむをえないところで、特段の理由もないのに我国における最高学府とされる東京大学中退者をすすんで現業員に採用する企業があろうとも思われないので、この点もまた右認定及び判断を覆えすものではない。控訴人は、被控訴人が労働者の募集広告において学歴、職業を不問とし、また被控訴人会社内において制度として学歴年功の排除を推進しているものである旨主張しているが、それだからといつて控訴人の行為が右条項に該当しないといえないものであることは多言を要しないところである。 三控訴人は被控訴人のなした解雇の意思表示が無効で 推進しているものである旨主張しているが、それだからといつて控訴人の行為が右条項に該当しないといえないものであることは多言を要しないところである。 三控訴人は被控訴人のなした解雇の意思表示が無効である旨、種々の理由を挙げて主張するので順次判断する。 1 控訴人は、経歴詐称は労働契約成立前の事情であつて、労働契約成立後の経営秩序の問題ではない旨主張する。なるほど仮りに使用者が経営秩序維持のため労働者に対する優越的地位に基づく懲戒権を有することを是認するとしても、労働契約締結前の労働者の行為を理由として懲戒権を行使しうるかについて疑いの存することはもつともである。しかしながら、本件解雇の意思表示は、就業規則第八六条及び労働協約第二八条により、控訴人が「重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき」に該当するとしてなされたものであるところ、右事由に基づく解雇は「懲戒解雇」の文言を用いて表現されてはいるものの、その実質は使用者である被控訴人が個々の労働者につき右事由がある場合に、当該労働者との労働契約を将来に向つて解除しうる旨の一種の約定解除権を留保したものであると解せられるから、その事由がある以上、それが労働契約締結前に生じたものであることは、被控訴人が右約定解除権を行使するのに別段妨げがあるということはできず、控訴人の右主張は採用できない。 2 控訴人は、労働者は労働契約締結前に使用者に対し、みずからの労働能力に関する事項以外の事項につき真実を告知する義務を負うものではないから、控訴人の経歴詐称に義務違反はなく、従つて被控訴人の解雇の意思表示は無効であるという。しかしながら、前述したとおり、本件解雇の意思表示は、経歴誤認等の客観的事由にもとづく約定解除権の行使であつて、控訴人の義務違反を論理的前提とするものではないから、右告知 思表示は無効であるという。しかしながら、前述したとおり、本件解雇の意思表示は、経歴誤認等の客観的事由にもとづく約定解除権の行使であつて、控訴人の義務違反を論理的前提とするものではないから、右告知義務の有無は、本件解雇の効力とは関係がないというべきであり、控訴人の右主張は失当である。 3 控訴人は、控訴人の行為によつて被控訴人会社における企業秩序あるいは職場秩序の紊乱を生じたのでない限り、被控訴人は控訴人を解雇することはできないし、かつ本件において右の紊乱はなかつた旨主張する。しかし企業秩序あるいは職場秩序の紊乱とは何か、そもそもその概念内容が曖昧であるのみならず、本件解雇の意思表示は前述したように約定解除権の行使としてなされたと解すべきであり、約定の解除事由は、「重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき」であつて、これを更に「その結果企業秩序あるいは職場秩序の紊乱があつたとき」と解釈しなければならぬ根拠に乏しい。それ故控訴人の右主張は、企業秩序あるいは職場秩序紊乱の有無を問うまでもなく採用することができない。もちろん使用者が労働者を解雇しても何らうるところがなく、もつぱら労働者に害悪を加える目的で解雇したような場合において、該解雇の意思表示が権利の乱用として効力を有しないことがあるのは、別の問題である。 4 控訴人は、本件経歴詐称とされる事項のうち、控訴人の父が国会議員であることは憲法第一四条にいう門地であり、控訴人が東京大学中退の学歴を有することは社会的身分に該るから、これらを理由として控訴人を解雇することは許されないと主張するが如くであるが、本件解雇の意思表示がかかる事由に基づくものでないことは、本件口頭弁論の全趣旨に照らして明らかであり、被控訴人の右主張はその前提において失当というほかはない。 5 控訴人は、控訴 するが如くであるが、本件解雇の意思表示がかかる事由に基づくものでないことは、本件口頭弁論の全趣旨に照らして明らかであり、被控訴人の右主張はその前提において失当というほかはない。 5 控訴人は、控訴人が採用後本件解雇の意思表示を受けるまで被控訴人に対する労働契約上の義務を円滑に履行していた一方、被控訴人は控訴人を解雇しても何らうるところはないから、本件解雇権の行使は権利の乱用にあたり、又は少くとも不当に苛酷な処分であつて、裁量の範囲を逸脱し、無効であると主張するので考えてみる。企業が労働者を雇傭する場合の法律関係は、単に労働者が労務を給付し、使用者がこれに報酬を支払うという労務と金銭の交換のみにとどまるものではなく、企業は労働者の安全に配慮し、労働者はたとえ単純な労務であつてもこれを誠実に履行する義務を負い、互いにみずからの義務の不履行について損害賠償の義務を負担する。更に企業は労働者に対し例えば家族手当、通勤手当等、労務の対価ではないといえないまでも、労働の量と比例しない、労働者にとつて生活保障的な意味合いを有する金銭支払義務を負担するのが通常であり、更に企業は労働者を雇傭することにより、当該労働者との関係で、税法上あるいは社会保険関係法上等その他もろもろの公法上の義務を負う。また我国においては、いわゆる終身雇傭を当然とする意識が一般的であり、労働者がみずから望むか、企業自体がその存立を危うするなどの場合は別として、企業が労働者をその意に反して解雇することは事実上極めて困難である一方、企業にとつて、適材を適所に配置し、適切な処遇を与えていわゆる士気の振興をはかることは、企業が目的とする経済的利益の追求のための不可欠の手段である。これらの点を彼此考え合わせると、企業が個々の労働者につき、現在の労務遂行能力そのものと一見関係のない学歴、職 る士気の振興をはかることは、企業が目的とする経済的利益の追求のための不可欠の手段である。これらの点を彼此考え合わせると、企業が個々の労働者につき、現在の労務遂行能力そのものと一見関係のない学歴、職歴、居住関係、家族関係等に至るまで、その個人的事情に関心を抱くことはあながち不当ということはできないし、これらについて合理的な範囲で、採用前及び採用後に真実の告知を求めることは企業の正当な行為であるといえる(採用前に求職者に真実告知義務があるか否かは別の問題である。)。そうして被控訴人にとつて、控訴人に前認定の「重要な経歴をいつわり、その他詐術を用いて雇入れられたとき」にあたる行為があつたことが明らかになつたにもかかわらず、これを漫然放置しておくことは、将来他の求職者あるいは職員からも右のような事情につき正しい告知をえられない事態を招き(かかる事態は控訴人のいわゆる「企業秩序の紊乱」と評価することもできよう。)、重大な支障を生ずる虞のあることは見易い道理である。それ故、仮りに控訴人が被控訴人会社に採用されてのち、本件解雇に至るまで労務の給付の点において、債務の本旨に従つた履行を忠実になした事実があるとしても(実際には、必ずしもそうでなかつたことは、前認定のとおりである。控訴人は控訴人の逮捕勾留による欠勤も、結局控訴人が不起訴となつたことにより、無罪の推定が働き、控訴人の責に帰すべき欠勤とはいえないというが、刑事責任についての無罪の推定が、ただちに民事上の債務不履行についての不可抗力を推定させるものでないことはいうまでもない。)、それだからといつて被控訴人が本件解雇の意思を表示するに当つて正当な利益を有せず、右意思表示が権利の乱用にあたるとはいえないし、又被控訴人が控訴人に対し、いわゆる懲戒解雇なみの不利益をもたらす解雇処分をすることもできた 訴人が本件解雇の意思を表示するに当つて正当な利益を有せず、右意思表示が権利の乱用にあたるとはいえないし、又被控訴人が控訴人に対し、いわゆる懲戒解雇なみの不利益をもたらす解雇処分をすることもできたのに(本件解雇がいわゆる懲戒権の行使にあたらないことは前述したとおりである。)、それをせず論旨解雇をもつて臨んだことを考慮すると、本件解雇が控訴人に対し不当に苛酷な処置であるともすることができない。ひつきよう控訴人の右主張は採用することができない。なお被控訴人は控訴人の性格、勤怠、技能上の問題点等について種々主張しているが、仮りに被控訴人主張のような問題点が控訴人にあつたとし、これにより被控訴人がなんらかの不利益を受けているとしても、それらがすべて控訴人の詐術の結果招来されたということのできないものであることはもちろんであるし、独立の懲戒事由に当らないような控訴人の問題点をとらえて、本件解雇の合理性を補強できる訳でもない。要するに右の点は本件解雇が権利の乱用にあたるか否かの判断について、何らの影響もないというべきである。 6 本件解雇の意思表示が労働基準法第三条に違反し、もしくは労働組合法第七条第一項にいう不当労働行為に該当し無効である旨の控訴人の主張についての、当裁判所の事実認定ならびに判断は、原判決理由五4に示された原審のそれと同様であるからこれを引用する。当審における証人H、同Iの各証言中右認定に反する部分はにわかに措信しえず、その他当審証拠調べの結果によつても右認定及び判断を変更する必要はない。なお、控訴人は、本件解雇が造船資本あるいは被控訴人会社の全造船労働組合に対する組織的攻撃の一環としてなされたものである旨主張しているが、この事実を認めるに足りる的確な証拠はない。 四以上に述べたとおり、被控訴人のなした本件解雇の意思表示には、これ 社の全造船労働組合に対する組織的攻撃の一環としてなされたものである旨主張しているが、この事実を認めるに足りる的確な証拠はない。 四以上に述べたとおり、被控訴人のなした本件解雇の意思表示には、これを無効とすべき事情はなんら存在しないから、右意思表示の到達により控訴人、被控訴人間の労働契約は昭和四七年四月一四日をもつて終了するに至つたものというべく、控訴人の本件請求はいずれも失当とせざるをえない。 五それ故控訴人の請求をすべて棄却した原判決は結局正当であり、本件控訴は棄却のほかなく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。 (裁判官石川義夫寺澤光子原島克己)
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