主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中80日を原判決の刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は弁護人近藤節男,同園高明及び同近藤義徳が連名で作成した控訴趣意書及び控訴趣意補充書に,これに対する答弁は検察官林菜つみ作成の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。 第1 訴訟手続の法令違反の主張(控訴趣意第四)について論旨は,要するに,原裁判所は,被告人の捜査段階での供述調書を証拠として採用しているが,これらの供述調書はいずれも任意性がないのであるから,原審の訴訟手続には法令違反があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである,というのである。 しかし,被告人の捜査段階での供述調書の任意性を認め,刑訴法322条により証拠として採用した原裁判所の措置には所論のような訴訟手続の法令違反は存しない。そして,原判決がこれらの供述調書に任意性を認めた理由として説示するところも正当として是認することができる。すなわち,被告人の捜査段階での取調べについては,任意性を疑わせるような事情は全く存せず,かえって,被告人は,原判示第二の土地代金についての業務上横領の嫌疑で平成9年6月26日に逮捕されたが,その2日後には弁護人を選任し,連日のごとく弁護人らの接見を受け,助言を受けており,特に,「供述調書には気にいらなければ署名しなくてもよい,訂正の申入れもできる」などと助言されていたこと,また,弁護人らは,同年7月28日,神奈川県警察本部に内容証明郵便で被告人の取調べに関する「警告書」を送付していること,被告人は供述調書の作成に応じなかったこともあり,さらに,同年8月5日と同年9月5日に開かれた勾留理由開示法廷において,「警察の取調べに屈していない」などと述べていること等に徴すれば,これら ること,被告人は供述調書の作成に応じなかったこともあり,さらに,同年8月5日と同年9月5日に開かれた勾留理由開示法廷において,「警察の取調べに屈していない」などと述べていること等に徴すれば,これらの供述調書の任意性は優に認めることができる。なお,所論のうち黙秘権保障違反をいう点は,その趣旨が明瞭でないが,被告人の上記供述調書の任意性が立証されていないことを前提とするものと解されるので,その前提を欠くことになる。 論旨は理由がない。 第2 事実誤認の主張について(控訴趣意第二及び第三の一ないし三)論旨は,要するに,原判決は,宗教法人A1(以下「A1」という。)の責任役員であり,代表役員でもあるB1(以下「B1」という。)の委任を受けて,A1が所有する不動産等の資産を保管・管理する業務に従事していた被告人が,B1らと共謀の上,平成4年4月から平成6年6月までの間,6回にわたり,A1のため業務上預かり保管中の川崎市a区b町c丁目d番e所在の土地ほか6筆の土地(以下「本件各土地」という。)をそれぞれC1株式会社(以下「C1」という。)等との間で売却する契約を締結し,代金を受領するとともに各所有権移転登記手続を完了して,本件各土地を横領したとの事実を認定し,業務上横領罪の成立を認めているが,被告人による本件各土地の売却行為は,委託の範囲内においてA1のためにしたものであって,横領行為には当たらないというべきであり,被告人には不法領得の意思もなかったから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである(なお,控訴趣意第三の一ないし三は,法令適用の誤りと題しているが,その内容は,原判決の事実認定を批判し,これと異なる事実関係を前提として横領罪が成立しないとするものであるから,同第二と相俟って,ここに要約したとおりの事 ないし三は,法令適用の誤りと題しているが,その内容は,原判決の事実認定を批判し,これと異なる事実関係を前提として横領罪が成立しないとするものであるから,同第二と相俟って,ここに要約したとおりの事実誤認の主張と解される。)。 しかし,原判決が挙示する関係証拠を総合すれば,原判示各事実は優に認定することができる。以下,その理由を説明する。 1 前提事実についてまず,原判決が判示第一ないし第六の事実として認定した本件各土地の売却行為そのものについては被告人も争わず,関係証拠上明白である。 また,原判決がその「補足説明」の中で,[当裁判所が認定した事実関係]として,①被告人の身上・経歴,D1株式会社(以下「D1」という。)及びE1株式会社(以下「E1」という。そして,「D1」と「E1」を「D1等」ということがある。)の設立経緯並びにA1及びD1等における被告人の地位等,②A1及びD1等の経営状況の概要等,③各金融機関のA1,D1,被告人,B1,F1(以下「F1」という。)に対する融資状況及びこれに対する被告人の関与状況等,④借入金の支出状況,⑤被告人が本件各土地を売却するに至った経緯及び売却状況等について詳細に認定しているところは,関係証拠に照らして概ね正当として肯認することができる(若干不正確と見られる部分もあるので,そのうち以下の当裁判所の説明と関連するものについては,括弧書きで注記することとする。)。これを要約しつつ,所論にかんがみ若干補足すると,以下のとおりである。 (1) A1は,神奈川県知事から宗教法人としての認証を受けた仏教寺院であり,被告人の父B1はA1の住職であり代表役員の地位にあった。被告人は,昭和48年4月にA1の僧侶となり,昭和57年4月にはA1の責任役員となって,A1の経営に関与するようになったが,B1 寺院であり,被告人の父B1はA1の住職であり代表役員の地位にあった。被告人は,昭和48年4月にA1の僧侶となり,昭和57年4月にはA1の責任役員となって,A1の経営に関与するようになったが,B1が高齢であったこともあって次第に経営の実権を握るようになり,A1が所有する土地の権利証,A1の印鑑,預金通帳等を管理するようになった。 (2) A1は,境内地約3000坪,境外地約8000坪を所有し,境外地の多くを多数の者に賃貸していたところ,被告人及びB1は,B1の妻F1の発案で,昭和49年2月14日,不動産の管理や賃貸借等を目的とするD1を設立し,F1が代表取締役,被告人及びB1が取締役に就任した。D1を設立した目的は,A1が所有する土地をD1が賃借してこれに賃貸用マンションを建築し賃料収入を得るとともに同土地所有者であるA1に地代を払ってA1の収入を図ること,A1所有の土地を担保にして金融機関から融資を受け,これをA1のために使用することなどにあった。D1の運営は,主としてF1と被告人が当たっていたが,昭和58年11月被告人が代表取締役に就任した(就任登記は同年11月18日)。なお,被告人は,昭和63年12月26日,D1が所有する賃貸マンション等の賃貸借契約の仲介等を行うため,E1を設立してその代表取締役となっている。 (3) 被告人は,D1の事業として,昭和50年ころ,A1所有の土地に抵当権を設定して金融機関から融資を受けて,その資金でA1所有の土地にD1所有名義のマンションを建築し,その建物全体を他に賃貸したのをはじめ,昭和53年ころからは,D1の事業として,A1所有の土地の借地人から借地権を買い取り,A1が所有するこれらの土地をD1がA1から賃借した形にして,これらの土地上にD1所有名義のマンションなど合計12棟の建物を ろからは,D1の事業として,A1所有の土地の借地人から借地権を買い取り,A1が所有するこれらの土地をD1がA1から賃借した形にして,これらの土地上にD1所有名義のマンションなど合計12棟の建物を次々と建築した。その際,被告人やD1にはこれらの建築資金等がなかったことから,A1所有の土地に抵当権を設定した上,A1を連帯保証人(ただし,すべての場合に連帯保証人となっているかどうかは明確ではない。)として金融機関から融資を受け,これをD1の建築資金等の事業資金に充てた。D1がA1に支払うべき地代については,税務対策上から,両者との間で賃貸借契約書ないし不動産管理契約書を作成したことはあるものの,実際に支払われることはなく,D1の顧問税理士であったR1税理士が,税務対策上,地代相当の額をA1のD1に対する貸付金として会計処理していた。 (4) A1及びD1の経営状況並びにA1,D1,被告人,B1及びF1の金融機関からの借入れ状況等は,おおよそ以下のとおりである。 ア A1関係A1の経営状況は,昭和58年度から昭和62年度までは黒字で推移してきたものの,昭和63年度からは大幅な赤字に転落した。融資残高(元利金合計)の推移を見ると,昭和59年度が約2億8100万円(100万円未満は切捨て。以下,(4)の項において約として表示した分については同じ。),昭和60年度が約2億4300万円,昭和61年度が約1億8600万円,昭和62年度が約2億2800万円,昭和63年度が約4億0100万円,平成元年度が約3億2500万円,平成2年度が約3億2100万円,平成3年度が約1億3200万円,平成4年度が約7400万円であった。 A1は,昭和57年から平成2年までの間,G1銀行銀行,H1銀行,I1銀行及びJ1株式会社(以下「J1」という。)から合計8億 平成3年度が約1億3200万円,平成4年度が約7400万円であった。 A1は,昭和57年から平成2年までの間,G1銀行銀行,H1銀行,I1銀行及びJ1株式会社(以下「J1」という。)から合計8億3500万円を借り入れており,平成2年11月26日までの金融機関からの借入金の残高(平成8年11月末調査時点)は,合計約6億3300万円(元本合計約5億4500万円,未払利息合計約8700万円)となっている。 イ D1関係D1は,昭和61年度に黒字を計上したものの,昭和62年度からは赤字で推移し,黒字に転じたことはない。 D1の決算報告書によれば,D1の金融機関からの借入金の推移は次のとおりである。すなわち,昭和61年度は,約400万円の黒字となっているが,短期借入金が約1億3400万円,長期借入金が約14億5600万円,支払利息は不明,昭和62年度は,約2300万円の赤字で,短期借入金が1億0600万円,長期借入金が約17億8100万円,支払利息が約1億1300万円,昭和63年度は,約4100万円の赤字で,短期借入金が4億4900万円,長期借入金が約21億1400万円,支払利息が約1億4200万円,平成元年度は,約5600万円の赤字で,短期借入金が3億1600万円,長期借入金が約30億8500万円,支払利息が約1億9800万円,平成2年度は,約7700万円の赤字,短期借入金が約4億4800万円(ただし,うち約1200万円はE1からの借入分),長期借入金が約35億1100万円,支払利息が約2億7200万円,平成3年度は,約8600万円の赤字,短期借入金が約4億4900万円(ただし,うち約400万円はE1からの借入分),長期借入金(貸借対照表上は,長期未払金欄に記載されているが,長期借入金と認められる。)が約36億7100万円,支払利息 期借入金が約4億4900万円(ただし,うち約400万円はE1からの借入分),長期借入金(貸借対照表上は,長期未払金欄に記載されているが,長期借入金と認められる。)が約36億7100万円,支払利息が約2億9600万円,平成4年度は,約2700万円の赤字,短期借入金が約4億7100万円(ただし,うち約4500万円はF1からの借入分),長期借入金が約37億2700万円,支払利息が2億8300万円,平成5年度は,約2600万円の赤字,短期借入金が約4億6900万円(ただし,うち約4200万円はF1からの借入分),長期借入金が約36億7800万円,支払利息が2億5000万円,平成6年度は短期借入金が約4億4200万円(ただし,うち約4200万円はF1からの借入分),長期借入金が約36億5300万円となっている。 D1は,昭和53年から平成5年までの間,G1銀行銀行,H1銀行,K1,J1等の金融機関から合計約48億7500万円を借り入れており,平成5年4月21日までの借入金の残高(平成8年11月末調査時点)は,合計約45億2600万円(元本合計約40億4200万円,未払利息合計約4億8400万円)となっている。 ウ B1関係B1は,昭和59年から平成3年まで,G1銀行,I1銀行及びJ1から合計7億7300万円を借り入れており,平成3年2月27日までの借入金の残高(平成8年11月末調査時点)は,合計約7億2800万円(元本合計約6億7900万円,未払利息合計約4800万円)となっている。 エ F1関係F1は,平成2年8月から平成3年2月まで,I1銀行から合計2億8000万円を借り入れており,平成3年2月27日までの借入金の残高(平成8年11月末調査時点)は合計2億5800万円(未払利息なし)となっている。 オ被告人関係 まで,I1銀行から合計2億8000万円を借り入れており,平成3年2月27日までの借入金の残高(平成8年11月末調査時点)は合計2億5800万円(未払利息なし)となっている。 オ被告人関係被告人は,昭和59年から平成元年まで,G1銀行及びL1から合計約1億4300万円(昭和59年2月時点の借受残高約1400万円を含む。)を借り入れており,平成8年11月末現在の借入金残高は合計約1700万円(未払利息なし)となっている。 カ総括以上のとおり,A1,D1,B1,F1及び被告人の金融機関からの借入金合計額は,平成5年4月までの時点で約69億0600万円となっており,そのうち融資残高が約61億6300万円(元本合計約55億4200万円,未払利息合計約6億2100万円)である。 (5) 上記(4)の金融機関からの融資を受けるに当たっては,A1が借主の場合はもちろん,D1,B1,F1及び被告人が借主の場合でも,被告人が自ら金融機関と交渉し,A1所有の土地に抵当権が設定された。なお,後記責任役員会議事録中には,D1が借主となる場合,A1が連帯保証人となることについての同意が記載されているものとそうではないものがある。 ところで,A1所有の土地に抵当権を設定するなど,A1の資産を処分する場合は,宗教法人法及びA1規則に定める手続を履践する必要がある。すなわち,①代表役員は寺と利益が相反する事項については代表権を有しないから,法類(同じ宗派に属する僧侶)のうちから責任役員の合議で仮代表役員を選任しなければならず(同規則16条1項),また,責任役員も自己と特別の利害関係がある事項については議決権を有しないから,総代及び法類の中から仮責任役員を選定しなければならない(同条2項)。そして,②A1所有の土地を担保に供し,あるいは処分しよう 任役員も自己と特別の利害関係がある事項については議決権を有しないから,総代及び法類の中から仮責任役員を選定しなければならない(同条2項)。そして,②A1所有の土地を担保に供し,あるいは処分しようとするときは,信徒総代の意見を聞き,責任役員(仮責任役員)の同意を得た後,その行為の少なくとも1月前に,壇信徒その他利害関係人に対し,その行為の要旨を示してその旨を公告しなければならない(同法23条,同規則27条)。 しかるに,被告人らにおいて,A1の土地に抵当権を設定するに際し,上記①及び②の手続を履践していないことが明らかである。確かに,一部責任役員会議事録が作成されている分もあるが,被告人は,D1の代表取締役の地位にあり,①の利害関係人に当たると認められるにもかかわらず,被告人が責任役員会の構成員として記載されており,その点で①の規定に反するばかりか,そもそも責任役員会は適式に開催されてはおらず,被告人において,融資を受ける際,自らA1の代表印を無断で使用し,従業員のS1に代表役員であるB1の署名をさせるなどして,形だけのA1責任役員会議事録を作成していた上,②の公告も全く行われていないのであり(公告が行われたとされる場合も,公告の看板を掲げて写真に撮影した上直ちにこれを撤去するなどの工作をしているのであって,適法なものとは認められない。),①,②の手続を履践していなかったことが明らかである。 (6) 借入金の支出状況A1,D1,B1,F1,被告人らの金融機関からの借入れ状況は上記のとおりであるところ,これらの使途は,これを示す明確な資料が不足し,そのすべてを明確にすることは困難である。しかし,資料が存する限度でも,金融機関から借りるに当たって融資目的とされた借地権買取資金,A1本堂の改修資金,賃貸アパート建築資金等の用途に充てら 不足し,そのすべてを明確にすることは困難である。しかし,資料が存する限度でも,金融機関から借りるに当たって融資目的とされた借地権買取資金,A1本堂の改修資金,賃貸アパート建築資金等の用途に充てられた場合も存するが,相当額が融資目的とは異なる目的,すなわち,A1及びD1の金融機関に対する借入金の返済や金利の支払い,被告人が購入したマンション等の代金,被告人を含むM1家の家族個人(以下「M1家個人」という。)の用途に供されたと認められる高級外車の購入代金,デパート等で購入した貴金属品やブランド品等の買物代金等に充てられていることが明らかである。融資目的とは異なる使途に供されたもののうち,M1家個人の関係で費消されたと認められる主要なものを掲記すれば,以下のとおりである。 ア被告人によるリゾートマンション等の購入被告人は,・昭和57年6月30日,実姉のN1又は被告人名義で,fg号棟h号室を代金約3000万円で購入し,・昭和57年10月31日,N1名義で同マンションg号棟7146号室を代金3800万円で購入し,・昭和58年12月22日,N1名義(登記簿上)でij号室を代金4750万円で購入し,・昭和61年2月2日,D1名義でkl号館m号室を代金1380万円で購入し,・同年4月18日,D1名義でkl号館308号室を代金1450万円で購入し,・昭和62年6月8日,被告人名義で千葉県我孫子市の土地を代金1582万5000円で購入し,・同年9月28日,被告人名義で同市内の土地を代金3468万4000円で購入し,・昭和63年9月20日,いずれもD1名義で,no号室を代金2280万円で,n318号室を代金2360万円で,n326号室を代金1900万円でそれぞれ購入し,・同年11月8日,A1名義でpq号室を代金1億9300万円で購入し,・平成3 義で,no号室を代金2280万円で,n318号室を代金2360万円で,n326号室を代金1900万円でそれぞれ購入し,・同年11月8日,A1名義でpq号室を代金1億9300万円で購入し,・平成3年9月11日,N1名義でi駐車場を代金1736万7200円で購入している。 これらの代金の支払は,具体的な融資の経緯は明らかになっていないものが多いものの,結局A1所有の土地を担保に金融機関から融資を受けたものの中から充てられているものと推認される。また,これらのリゾートマンションや土地等は,被告人がいかなる目的で購入したのか必ずしも明確ではないものの,A1のために必要とされるものとは考えられないばかりか,D1の事業との関連性も認め難いところであり,結局,被告人が個人的な目的から購入したものといわざるを得ない。 イ被告人は,昭和59年12月から平成8年9月までの間,メルセデスベンツ18台を含む高級外車合計25台を代金合計約2億2100万円で購入している。 これらの代金も,具体的な出処は明らかではないものの,アと同じと推認される。 また,これらの車両のすべてがA1やD1の用途に必要なものであったとは認め難い。 ウ M1家個人のデパート等での物品の購入等被告人をはじめ,M1家の家族は,「O1」,「P1」,「Q1店」等の百貨店や高級ブランド取扱店で,ブランド物の装飾品(ティファニー,エルメス等),高級衣料品,高級呉服,眼鏡,衣料雑貨等の商品を購入している。各年度別の購入代金の合計額と,その年度の支払額の推移をみると以下のとおりである。すなわち,O1については,昭和62年度は,購入代金が合計約2040万円,支払額が合計約1724万円,昭和63年度は,購入代金が合計約2664万円,支払額が合計約2322万円,平成元年度は,購入代金が合計約572 については,昭和62年度は,購入代金が合計約2040万円,支払額が合計約1724万円,昭和63年度は,購入代金が合計約2664万円,支払額が合計約2322万円,平成元年度は,購入代金が合計約5726万円,支払額が合計約6197万円,平成2年度は,購入代金が合計約6504万円,支払額が合計約5498万円,平成3年度は,購入代金が合計約4874万円,支払額が合計約1921万円,平成4年度は,購入代金が合計約1984万円,支払額が合計約4410万円,平成5年度は,購入代金が合計約733万円,支払額が合計約2139万円,平成6年度は,購入代金が合計約1489万円,支払額が合計約1377万円に上っており,また,P1については,昭和63年度は,購入代金が合計約20万円,支払額が合計約15万円,平成元年度は,購入代金が合計約309万円,支払額が合計約464万円,平成2年度は,購入代金が合計約1101万円,支払額が合計約1123万円,平成3年度は,購入代金が合計約938万円,支払額が合計約634万円,平成4年度は,購入代金が合計約578万円,支払額が合計約762万円,平成5年度は,購入代金が合計約157万円,支払額が合計約276万円となっている。さらに,Q1店については,平成3年度は,購入代金が合計約1545万円,支払額が合計約658万円,平成4年度は,支払額のみ合計約888万円,平成5年度は,購入代金が合計約456万円,支払額が合計約372万円,平成6年度は,購入代金が合計約476万円,支払額が合計約548万円となっている。以上のほか,カーレースの費用として,平成元年度は約734万円,平成2年度は約541万円,平成3年度は約652万円を支出し,M1家の家族旅行代金として,平成3年度は10泊の旅行代金として約276万円,平成4年度は4泊の旅行代金と て,平成元年度は約734万円,平成2年度は約541万円,平成3年度は約652万円を支出し,M1家の家族旅行代金として,平成3年度は10泊の旅行代金として約276万円,平成4年度は4泊の旅行代金として約136万円,平成5年度は10泊の旅行代金として約306万円,平成6年度は9泊の旅行代金として約353万円をそれぞれ支出している。 以上の支出額の合計は約10億3000万円に上る。これらの代金,特に買物代金は,いずれもA1やD1名義の口座から支払われているところ,会計処理上は,これらの支払総額をA1及びD1からの被告人に対する貸付金として処理されている。しかし,実際は,被告人においてこれらの貸付金をA1やD1に返済したことはない。これらの代金も,結局,A1が所有する土地を担保にして金融機関から融資を受けた資金の中から支払われたものというほかない。そして,以上のようにして購入した物品はM1家個人の用途に充てられたものと認められ,A1やD1の業務等の用途に充てられたものとは考えられない。 所論は,原判決は,被告人は融資を受けた金員の多くの部分(特に,平成元年以降は,融資を受けた金員のほとんど)を,使用目的以外の支払に充てていることが明らかであると判示しているが,融資目的に適合しない支出から判明するのは,D1,A1,被告人らが金融機関に対する金利返済のために追い貸しを受け,貸手である金融機関も,金利回収のために融資目的に適合しないことを承知で追い貸ししていた事実であり,これは被告人の個人費消の実態とは無関係であるから,原判決の上記の説示は誤っている,という。しかし,金融機関が金利回収のために融資目的以外の目的に充てられることを容認していたということは,これらの融資金をA1のため以外の使途に流用していたということとは別問題であり,後記のとおり, いう。しかし,金融機関が金利回収のために融資目的以外の目的に充てられることを容認していたということは,これらの融資金をA1のため以外の使途に流用していたということとは別問題であり,後記のとおり,被告人らは,D1,A1,M1家個人の借金を渾然一体のものとして,その相互流用を日常的に重ねていた上,そのうちの多くの金員が被告人らM1家家族の個人費消ともつながっているのであって,所論が理由のないことは明らかである。 (7) 上記のとおり,被告人は,A1の責任役員,僧侶として,代表役員のB1に代わってA1の財政全般を担当していたほか,D1の代表者としてD1の営業活動全般を統括していた。しかし,A1においては収支や財産状態を明らかにする帳簿類は一切作成されていないし,D1においても,会計帳簿はほとんど作成されておらず,A1及びD1についての収支の状況を正確に把握することは不可能である。 また,前記のとおり,A1,D1,B1,F1及び被告人がそれぞれの名義で融資を受けた資金のすべてについて使途を確定することは困難であるが,少なくとも,A1名義で借り受けた資金がD1の事業資金等に回され,A1ないしD1名義で借り受けた資金のうちの相当多くの額がM1家個人のために費消された上,このようにして借金を重ねた結果,前記のとおりの多額の元利金の返済の必要に迫られ,そのために更に融資を受けるということを繰り返していたことが明らかである。以上のような点からみれば,被告人は,宗教法人であるA1,株式会社であるD1について,それぞれ法人として厳格な財務会計処理を行うことなく,本来これらの法人に帰属すべき融資金を相互に流用したり,私的な用途に充てるなどしていたというべきであり,被告人が各法人と被告人らM1家個人の会計を峻別することなく渾然一体として処理してきたことは,原判 これらの法人に帰属すべき融資金を相互に流用したり,私的な用途に充てるなどしていたというべきであり,被告人が各法人と被告人らM1家個人の会計を峻別することなく渾然一体として処理してきたことは,原判決が説示するとおりである。 被告人も,捜査段階で,「D1の代表取締役となってから,D1,A1とM1家の収入,支払を厳密に区別してはいない。D1の家賃収入やA1の法務収入をいわばM1家全体(M1家個人,A1及びD1の総称)の収入として考えていた。法人,個人の支払は,各々の収入からするというように厳密に考えてはおらず,M1家全体の収入の中から,D1,A1,M1家個人の支払をするというようにどんぶり勘定的にしていた。それぞれの借入金をだれの名義の債務の支払に充てたかはよく分からない。とにかく,M1家全体の収入の中から,M1家全体の支払をするという感覚だったので,法人間,個人間で預金の振替をしても,貸借ということは意識していなかった。借り入れた金員も,M1家全体のものと考え,D1,A1,M1家個人の債務の返済に充てた」(検察官に対する平成9年7月14日付け供述調書,原審乙10号証),「私はD1の収入やA1の収入を一つの収入と考え,この全体の収入の中から,D1,A1,私たち家族の支払に充てていた。各法人,法人と個人を厳格に区別していなかった」(検察官に対する同月16日付け供述調書,原審乙12号証),「A1,D1,M1家の経理については最終的な責任は私の肩に掛かっていた。A1の通帳に金がないときは,M1家やD1の通帳で,余裕のあるものから金を移し替えて支払に回し,M1家やD1の支払が滞りそうなときには他の余裕のある銀行口座から金を振り替えるなどして支払に回した。A1,D1,M1家,いずれについても金の余裕のあるところから,余裕のないところに金を回してま ,M1家やD1の支払が滞りそうなときには他の余裕のある銀行口座から金を振り替えるなどして支払に回した。A1,D1,M1家,いずれについても金の余裕のあるところから,余裕のないところに金を回してまかなえばよいと考えていた。帳簿上の処理に関しては,D1の会計処理を任せているR1税理士事務所の方で,D1の金をやり繰りして支払を済ませた後始末を不都合がないように処理してくれると考えていた。私の方から貸付金名目で処理してほしいと頼んだものではない。会計処理上R1税理士が貸付金勘定,借入金勘定を起こして処理しているが,これは,これらの3者間のどんぶり勘定としての金の流れを合理的に説明するためであり,現実には貸付けはなかった」(検察官に対する同月16日付け,同月26日付け各供述調書,原審乙12,41号証),「平成2,3年ころには,従業員のS1に命じ,A1,D1,M1家個人の各銀行口座について,支払の差し迫っているところと,預金の余裕のあるところを適宜判断して,支払が滞らないように預金口座間の現金の移動をするように命じて,必要な手続をさせていた。R1税理士が,これら3者間のどんぶり勘定としての金の流れを合理的に説明するため,その判断で貸付勘定,借入勘定の科目を用いて適宜処理したもので,私はそのような処理を頼んだ覚えはない」(検察官に対する同月29日付け供述調書,原審乙43号証)などと供述している。以上の供述は,上記認定の実態に沿うものであり,その信用性には疑問の余地がない。 所論は,本件では,A1,D1,M1家個人が別個の銀行口座を有し,それぞれの間の資金の移動はそれらの口座間で行われ,現金で移動する場合も振替伝票が作成されていたこと,その結果,顧問税理士は資金移動の事実を把握し,これを貸付金として処理してきたこと,税務申告においても貸借関係を否 金の移動はそれらの口座間で行われ,現金で移動する場合も振替伝票が作成されていたこと,その結果,顧問税理士は資金移動の事実を把握し,これを貸付金として処理してきたこと,税務申告においても貸借関係を否認されることはなかったことからすれば,A1とD1,M1家個人との間の資金融通は,「渾然一体の処理」とはほど遠いものである,という。確かに,A1,D1,M1家個人それぞれに預金口座を有し,借入金等は各預金口座間でまず移動する形式をとっていることは認められるものの,それはあくまでも形式に過ぎず,これによって具体的な使途先が判明するものではなく,経理状況を把握することは到底できない。顧問税理士が貸付金処理をし,これが税務申告でも否認されることがなかったとしても,A1,D1,M1家個人の間の資金移動のたびに消費貸借契約書が作成されるわけでもなく,消費貸借契約であれば当然問題になるはずの利息,元利金の支払方法等についての約定がなされた形跡も全くないし,実際に例えば被告人からA1ないしD1への借入金の弁済がなされた形跡も存しないのである。税務申告の際に貸付金処理が否認されなかったことから,それが実体に即した適正な処理であったということはできないのである。所論は到底採用できない。なお,所論は,D1からA1に移動した約8億円は,寺院改修,A1の備品購入,A1借入金の元利返済等のために支出されているのであるから,原判決が「D1からA1への貸付けが資産として残存していない」と判示するのは誤りであるといい,被告人も,原審において,「A1本堂の改修費用,内装工事,仏具等の代金,観音堂の補修,通用門の鋪装,庫裏,仮庫裏,書院,仁王門などの建築等の費用として,総額で12億円くらいかかった。これらの資金はD1の借入れでまかなった。当時宗教法人に融資をしてくれる金融機関は 金,観音堂の補修,通用門の鋪装,庫裏,仮庫裏,書院,仁王門などの建築等の費用として,総額で12億円くらいかかった。これらの資金はD1の借入れでまかなった。当時宗教法人に融資をしてくれる金融機関はなかったので,これらの資金を借入れるためにD1が必要だった」旨供述している。しかし,被告人のこの供述を裏付ける資料は存しない(A1の経理関係を詳らかにする帳簿類は作成されていないし,A1の改修や附属施設の建築などを行うについてはA1規則等に定める所定の手続を経る必要があるが,そのような手続は取られていない。)ばかりか,B1は,原審において「昭和63年ころから現在まで,書院の新築,台湾で購入した仁王像を収納するための仁王門の新築,仏具の購入などで2億円くらいの借金があったと思っていた。A1の借入総額が8億2500万円ということであるが,2億円くらい使われたことは分かるが,このような金額が使われたことなど考えられず,あり得ないことである」旨供述し,また,A1の主要な工事を請け負っていた株式会社石井工務店関係の昭和58年度から平成8年度までのA1関係の工事費用総合計は約3億4300万円となっている(石井忠雄の検察官に対する供述調書抄本)。これらの点に徴すれば,A1の工事関係費用として約12億円を要したとの被告人の弁解はそのまま信用することはできず,所論は前提を欠く。 また,所論は,原判決は,A1,D1,M1家個人の収支を一体とする擬制の下に不動産購入,外車購入,デパート等での買物に関する支出を殊更取り上げて,被告人の支出額が10億円を超える旨判示するが,この擬制が不当であることに加えて,本件各土地売却前までの借入金約65億円の使途を網羅したものではない点において不十分であり,支出時期,支出主体を区別せずに列挙・計算した点において意図的である,とい の擬制が不当であることに加えて,本件各土地売却前までの借入金約65億円の使途を網羅したものではない点において不十分であり,支出時期,支出主体を区別せずに列挙・計算した点において意図的である,という。しかし,もともとA1,D1には帳簿類は整備されておらず,正確な経理は全く行われていなかったのであり,税理士が作成した決算書は,特に,A1,D1,M1家個人相互の貸借関係として処理されてはいるものの,これはつじつま合わせといってもよく,実態を伴わないものであることは上記のとおりであり,A1の土地を担保に融資を受けた金員は,A1,D1,M1家個人の必要に応じた用途に充てられていたものと認められ,その実態はまさに渾然一体とした経理処理がなされていたものと認められる。原判決が本件各土地の売却前までの借入金の使途を網羅していないことは,その資料的な裏付けが明確ではないことからやむを得ないところであり,網羅されていないからといって,渾然一体とした経理が行われたとの認定の妨げになるものではないし,原判決が支出時期,支出主体を明確に区別していないことについても,同様のことがいえる。所論は採用できない。 (8) 被告人が本件各土地を売却するに至った経緯A1,D1,M1家個人の借入金は,前記のとおりであるが,平成元年ころには,これらの借入金合計が約50億円を超え,支払利息も月2000ないし3000万円にも上ったことから,金利の支払さえ困難な状況に立ち至り,A1所有の土地を担保にD1,A1,B1,F1名義などで融資を受けて,その中からD1の金利の支払に回さなければならないような状況となり,平成2年ころからはA1の所有地の一部を売却することで借入金の総額を縮小するため金融機関との交渉をするようになった。平成3年初めころのD1,A1,M1家個人の借入金総額は ばならないような状況となり,平成2年ころからはA1の所有地の一部を売却することで借入金の総額を縮小するため金融機関との交渉をするようになった。平成3年初めころのD1,A1,M1家個人の借入金総額は60億円を超え,そのうちD1の借入金は約42億円(同年10月30日現在で約46億2000万円)となっており,毎月の返済額も4000ないし5000万円(年間にして約5,6億円)に上った。被告人は,同年11月ころからは,金融機関からの借入れができなくなり,元金の返済はおろか,金利の支払にさえも窮するようになったことから,A1所有の土地を売却してこれらの借金の返済に充てるほかないと決意し,これをB1に話したところ,同人もこれに賛成した。そこで,被告人としては,面積が広く,将来D1で有効利用ができる土地は売却予定地から除いて,借地人が借地権を有している土地から売却することとし,その旨D1の従業員らに指示した。被告人は,A1の土地を売却する際にも,A1規則に定める手続などは踏まず,B1,F1,妻T1ら身内だけの責任役員の包括的な同意は得たものの,具体的な売却についてはこれらの者に相談をすることはなかった。 (9) 本件各土地の売却と売却代金の使途先本件各不動産の売却に当たっての被告人や共犯者とされているD1ないしE1の従業員らとの共謀関係は原判決が認定するとおりであり,それぞれの売却代金の使途は,以下のとおりである。 ア原判示第一について(ア) 同判示の土地(以下「第一の土地」という。)については,平成4年4月30日,売主をA1(代表役員B1,以下同じ。),買主をC1(専務取締役I2)とする売買契約が締結され,同日所有権移転登記を終えているところ,その代金1億0324万円は,同日,同社振出しの小切手(額面1億0324万2060円)で支払わ 同じ。),買主をC1(専務取締役I2)とする売買契約が締結され,同日所有権移転登記を終えているところ,その代金1億0324万円は,同日,同社振出しの小切手(額面1億0324万2060円)で支払われることになったが,被告人側の要求により,C1側は,同日,同小切手をいったんG1銀行w支店に全額入金した上,同銀行振出しの同日付け小切手4通(額面が3124万円,500万円(原判決69頁8行目に「400万円」とあるのは誤記と認める。),2400万円及び4300万円のもの)を被告人側に交付した。 (イ) そのうちの額面4300万円の小切手は,同日付けでU1株式会社名義の口座に入金された。これは,同会社が同年3月31日,第一の土地に抵当権(後記第3の②の抵当権)を設定してD1に4300万円を貸し付けていたところ,同年4月30日,上記債務の弁済として交付されたものであり,それに伴い,同日,この抵当権が抹消された。上記4300万円の貸付けがなされた経緯は,株式会社V1(U1は,V1とW1が合併して設立されたもの)が平成元年1月13日,A1の不動産を担保に3億円を,同様にW1が平成2年2月9日及び同年5月31日の2回,それぞれ3億円をD1に貸し付けていたが,そのうちの合計6億円の返済期日が平成4年2月となっていたところ,D1が6億円の返済ができなかったことから,D1からの申出により1年間の借換え融資が実行され,その際,これまでの合計9億円に対する延滞利息分,融資手数料分等として4300万円をU1がD1に貸し付け(4300万円のうち,合計4179万7952円が延滞利息等に充当され,残金の120万2048円が同年5月6日にD1に支払われている。),その担保として第一の土地に抵当権が設定されたものである。なお,6億円の貸付金についての追加担保として,D1 延滞利息等に充当され,残金の120万2048円が同年5月6日にD1に支払われている。),その担保として第一の土地に抵当権が設定されたものである。なお,6億円の貸付金についての追加担保として,D1所有の建物とA1所有の土地(神奈川県川崎市a区r町s丁目t番uの土地)に,同年4月30日付けで抵当権が設定されている。 (ウ) また,額面500万円の小切手は,昭和60年4月30日G1銀行w支店がA1に融資した3000万円の返済の一部に充当された(原判決70頁6・7行目に「昭和55年4月8日,右土地に根抵当権を設定して融資を受けていた債務の弁済に充てて,」とあるのは,不正確である。)。これは,第一の土地上に設定されていた同銀行を担保権者とする根抵当権(後記第3の①の根抵当権)を抹消するためである。すなわち,平成4年3月の時点では,同銀行のD1,A1,B1,F1への貸付金残高合計4億5300万円のうちの約1億3200万円が返済されて(D1,B1,F1の預金等で相殺),残額がD1に対する2億8100万円とA1に対する2000万円の,合計3億0100万円となった。そして,同年4月,被告人は,第一の土地を売却するために,同土地に設定されていた抵当権(同銀行を抵当権者とする極度額2500万円の根抵当権)を抹消してほしいと依頼し,同銀行は,同銀行のA1に対する上記貸付金につき担保が不足していたことから,これを抹消する代わりに第一の土地を売却した代金のうちから500万円をその貸付金の返済に充てることを条件として,被告人の申入れに応じることにした。その結果,上記の額面500万円の小切手が上記貸付金の支払として同銀行に交付された。 (エ) 額面3124万円の小切手は,平成4年4月30日付けでG1銀行w支店のA1名義の口座に入金され,そのうちの2073万3 額面500万円の小切手が上記貸付金の支払として同銀行に交付された。 (エ) 額面3124万円の小切手は,平成4年4月30日付けでG1銀行w支店のA1名義の口座に入金され,そのうちの2073万3988円がD1のJ1に対する借入金の返済に,440万6551円がA1のJ1の借入金の返済に,300万円がB1名義のJ1に対する借入金の返済にそれぞれ充てられた。 (オ) 額面2400万円の小切手は,D1が冨樫幸子からA1所有の土地の借地権を購入する資金に充てられた。 イ原判示第二について(ア) 同判示の土地(以下「第二の土地」という。)については,平成4年9月24日,売主をA1,買主を株式会社X1(代表取締役Y1)とする売買契約が締結されて,同日,手付金として150万円が支払われ,同年10月6日所有権移転登記手続を終え,その際,残代金の1350万円が小切手で支払われたことが明らかである(第二の土地の売却代金は1500万円)。 (イ) D1は,上記ア(イ)のとおり,平成元年1月13日,株式会社V1から,第二の土地を含むA1所有の土地に抵当権(共同抵当権,後記第3の③の抵当権)を設定して3億円の融資を受けた(その後,平成2年2月18日借換え)のをはじめ,合計9億円の融資を受けていたが,その元利金の支払が滞っていた。そのような中で,被告人は,第二の土地を売却するに当たって,株式会社U1との間で,同会社に延滞利息等として1500万円を支払うことで,同土地上に設定した抵当権(平成元年1月13日設定,債務者D1,抵当権者株式会社V1)を抹消するという合意ができ,上記X1への同土地の売買代金1500万円がその支払に充てられた。 ウ原判示第三について同判示の土地(以下「第三の土地」という。)については,平成5年2月8日,売主をA1,買 う合意ができ,上記X1への同土地の売買代金1500万円がその支払に充てられた。 ウ原判示第三について同判示の土地(以下「第三の土地」という。)については,平成5年2月8日,売主をA1,買主をM2とする売買契約が締結されて,同日,代金4130万円(小切手)の支払と所有権移転登記がなされたことが明らかである。この第三の土地の代金は,同日,A1名義のO2銀行(現在O2銀行)w支店の普通預金口座に入金された。その後,これが,D1名義のO2銀行w支店の口座(D1はさらにこれをI1銀行w支店の自社名義の口座へ振り替えている。),A1名義のI1銀行w支店の口座,A1名義のH1銀行w支店の口座にそれぞれ分けて振替処理がなされているが,具体的な使途は明確にはなっていない。 エ原判示第四について同判示の土地(以下「第四の土地」という。)については,平成5年2月21日,売主をA1,買主をN2大作とする売買契約が締結され,同日,手付金として40万円が支払われた。同年3月31日,残代金の1560万円がI1銀行w支店のN2名義の口座から同支店のA1名義の口座に振り込み入金されて支払われ,所有権移転登記がなされたことが明らかである(第四の土地の売却代金は1600万円)。A1口座に振り込まれた代金1560万円は,その日のうちに,同支店のA1名義の口座から,250万円が同支店のB1名義の口座に,900万円が同支店のD1名義の口座にそれぞれ振り替えられ,いずれもD1のJ1に対する借入金の金利の支払に充てられた。 オ原判示第五について同判示の土地(以下「第五の土地」という。)については,平成6年2月23日,売主をA1,買主をZ1及びA2とする売買契約が締結され,同日,代金4800万円がO2銀行w支店のA1名義の口座に振り込まれて支払われ,所有 下「第五の土地」という。)については,平成6年2月23日,売主をA1,買主をZ1及びA2とする売買契約が締結され,同日,代金4800万円がO2銀行w支店のA1名義の口座に振り込まれて支払われ,所有権移転登記がなされたことが明らかである。そして,そのうちの1800万円はその日のうちにO2銀行w支店のD1名義の口座に移され,第五の土地の買主の親族であるB2に同額が貸し付けられ(なお,被告人らは,第五の土地の購入資金として,資金に余裕のあったA1の郵便貯金口座からB2に600万円の融資をし,その後,B2に貸し付けられた上記1800万円のうちから,600万円がA1名義の郵便貯金口座に振り込まれて返済された。),同年3月11日,同支店の口座から1000万円が送金小切手として横浜銀行川崎支店に送金され,小切手の持参人であるE1により払い出され,E1の宅地建物取引業の免許交付申請の関係での供託金に充てられた(同日横浜地方法務局川崎支局に供託され,同年9月6日に払戻しを受けている。)。上記以外に,150万円が同月18日O2銀行w支店のD1名義の口座に入金され,200万円が同月24日の被告人らの家族旅行費に充てられるなどしている。 カ原判示第六について同判示の土地(以下「第六の土地」という。)については,平成6年5月19日,売主をA1,買主をC2,D2及びE2とする売買契約が締結され,同年6月10日,代金4885万6000円(小切手及び現金)が支払われるとともに,所有権移転登記がなされたことが明らかである。そして,この第六の土地の代金のうち,4000万円は,同月28日,D1が建物建築や改修等を依頼している株式会社石井工務店への工事代金(D1が同工務店に依頼したもの)として支払われた。 2 業務上横領罪の成否について(1) 以上の事実関 0万円は,同月28日,D1が建物建築や改修等を依頼している株式会社石井工務店への工事代金(D1が同工務店に依頼したもの)として支払われた。 2 業務上横領罪の成否について(1) 以上の事実関係によれば,被告人は,本件各犯行当時A1の責任役員であって,A1の代表役員であるB1の委任を受け,A1が所有する不動産等の資産を保管・管理する業務に従事するとともに,A1所有の不動産の運用・管理を行う目的で設立されたD1及びE1の各代表取締役としてこれらの会社の経営にも当たっていた上,そのため,A1の実印やA1所有不動産の権利証等をも保管・管理していたのであるから,本件各犯行当時,不動産所有者であるA1の委託を受けて本件各土地を業務上占有していたものということができる。 (2) そこで,被告人が本件各土地を売却処分した行為が横領行為といえるかどうかについて検討する。 もともと,A1の所有する土地を売却処分するためには,上記のとおり,宗教法人法及びA1規則の定めに則り,責任役員会の決議,公示等の手続を経ることが必要であるところ,被告人は,A1の代表役員であるB1らと共謀の上,これらの手続を経ることなく本件各土地を他に売却したものであり,それ自体,越権的な処分行為であることが明らかである。そして,A1の所有する本件各土地の売却自体A1の利益を著しく害するものであり,客観的に見て被告人のこのような行為がA1の利益を目的としたものといえないことは明らかである。また,被告人が本件各土地を売却するに至った経緯,売却代金の使途は上記のとおりであり,本件各土地の売却処分は,A1の利益をはかる目的からではなく,A1の土地を担保に融資を受けた金員をD1,A1,M1家個人相互に流用して杜撰な処理をしてきた結果として,融資を受けた金員の返済に窮したことからであり 売却処分は,A1の利益をはかる目的からではなく,A1の土地を担保に融資を受けた金員をD1,A1,M1家個人相互に流用して杜撰な処理をしてきた結果として,融資を受けた金員の返済に窮したことからであり,本件各土地の売却行為が,A1から委託された任務に背くものであることは明らかというべきである。そして,本件各土地の売却代金の使途をみると,原判示第一については,そのほとんどがD1の借入金の支払ないしD1の借地権購入資金等に充てられ,同第二については,全額がD1の借入金利息等の支払に充てられ,同第三については,最終的な使途は必ずしも明らかではないものの,その一部はD1名義の口座に入金されていることが明らかであり,同第四については,D1の借金の金利の支払に充てられ,同第五については,第五の土地の売買に絡んだ融資,E1の関係での供託金,家族旅行等の用途に充てられ,同第六については,そのほとんどがD1の取引先への支払に充てられている。以上のとおり,いずれの売買代金も,その大半が実際にA1の収入となることなく,D1の借入金の金利等に使用されていると認められる。被告人は,本件各土地を売却するに至る原因となった上記各借入金の形成,その使途のほか,本件各土地の売却代金の使途等を実質的にはほとんど一人で取り仕切ってきたものであるところ,検察官に対して「A1の所有地は,宗教法人であるA1のために使用されなければならないのだから,D1や個人を借主とする債務の返済資金を得るため,A1の土地を売却することは,A1の土地を寺のためでないことで,売却したといわれても仕方がないと思う」(上記平成9年7月16日付け供述調書,原審乙12号証),「私は,A1,D1,M1家がA1の所有地を担保にして重ねた借金を返済するため,A1の所有地を売却した。A1の所有地を切り売りしてD1や う」(上記平成9年7月16日付け供述調書,原審乙12号証),「私は,A1,D1,M1家がA1の所有地を担保にして重ねた借金を返済するため,A1の所有地を売却した。A1の所有地を切り売りしてD1やM1家の利益を図ることは分かっていた」(同年8月3日付け供述調書,原審乙18号証)旨供述しているところ,これらの供述の信用性にも問題がない。 上記のような事情を総合すれば,被告人が本件各土地を売却することは,A1の利益を損なうことにこそなれ,A1の利益になる行為とは到底いい得ず,被告人らの本件各土地の売却行為はA1から委託された任務に背き,自己が代表取締役をしていたD1等,被告人個人を含むM1家の家族各人を利するものというべきであり,被告人もこのことを十分認識し,そのために本件各所為に出たものと認められる。 そうすると,被告人は,本件各土地の所有者であるA1から委託された任務に背いて,本件各土地を売却して各所有権移転登記を経由することにより,本件各不動産を不法に領得したものというべきである。 (3) 所論は,原判決が認定するとおり,A1はD1の金融機関からの借入れについて連帯保証人となり,その土地に担保権を設定しており,D1は債務の弁済が不可能ないし困難な状況にあったのであるから,本件各土地を任意で売却しなければ,A1の所有地は,本件土地に限らず担保権が設定されていない利用価値の高いものについても,強制換価されることが当然に予想されたのであり,したがって,被告人が,A1が土地を失うことになるとしても,A1にとってその財産的損失がもっとも少ない方法を選択したことは,委託の趣旨に合致する,という。 しかし,①A1の土地に担保権を設定した行為は,上記のとおりA1規則等により必要とされる所定の手続を経ていないことはもとより,担保権設定に当たっても 択したことは,委託の趣旨に合致する,という。 しかし,①A1の土地に担保権を設定した行為は,上記のとおりA1規則等により必要とされる所定の手続を経ていないことはもとより,担保権設定に当たっても,B1の代表役員印を使用して書類を勝手に作出して体裁を整えた上でなされたものであり,元々有効な担保権設定行為とは認められず,A1がD1を主債務者とする債務の連帯保証人となる契約も同様というべきであり,A1の有効な物上保証と連帯保証契約を前提とする所論は前提を欠くものである。②また,仮に,A1が債権者との関係で民事上の責任を免れないものとしても,そもそもD1名義の金融機関からの借入金は,その多くがD1やM1家個人の用途に充てられているのであるから,被告人らが正規の手続きを踏まず勝手に,その借入金の返済のために本件各土地を処分することも(もっとも,本件各土地の売却代金の使途はこのような借入金の返済に尽きるわけではない。),主としてD1やM1家個人の利益を図るものとみられるのは当然のことというべきである。所論は採用できない。 また,所論は,仮にA1の連帯保証契約が有効でなかったとしても,被告人は本件各土地売却当時,売却代金によってA1の債務を弁済する意思で行為したものであり,また,本件各土地売却の段階では,A1の債務弁済のためないしA1の土地が競売に付されることを回避するために任意売却の必要性,有効性があり,被告人はA1の上記不利益を回避するために,本件各土地を売却したことは明らかであるから,被告人には不法領得の意思を認めることはできない,というが,この所論が失当であることは,上記②で説示したところに照らし,明白というべきである。なお,被告人は,本件各土地を売却したのは,D1がA1に対して有している債権の返済を受けるためであるなどと弁解しているが, が失当であることは,上記②で説示したところに照らし,明白というべきである。なお,被告人は,本件各土地を売却したのは,D1がA1に対して有している債権の返済を受けるためであるなどと弁解しているが,被告人は,そのいうところの債権については,契約書も作っていないし,どういう目的で,幾らA1に貸して,その返済期日をいつとしたのは分からないことを自認しており(検察官に対する平成9年7月3日付け,同年8月1日付け各供述調書,原審乙20,24号証),上記の弁解は不合理というほかない。 なお,所論は,本件各土地売却の利益相反性(A1と被告人らとの間)をも争うが,この主張に理由がないことは,すでに説示してきたところから明らかというべきであって,特に説明を付加するまでもない。 以上のとおり,被告人による本件各土地の売却行為はいずれも横領行為に当たると認められ,原判決に所論のような事実の誤認はない。論旨は理由がない。 第3 法令適用の誤りの主張について(控訴趣意第三の四)論旨は,要するに,原判決は,被告人による判示第一の土地及び第二の土地の各売却行為を業務上横領罪として問疑しているが,いずれの土地についても,先に金融機関から融資を受ける際抵当権が設定されているのであるから,各土地についての抵当権設定行為が横領罪を構成するというべきであり,そうすると,各土地の売却行為は不可罰的事後行為として犯罪を構成しないことになるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。 なお,以下,業務上横領(罪)をも含む趣旨で,横領(罪)という用語を用いることとする。 1 ところで,関係証拠によれば,原判示第一の土地及び第二の土地については,本件各売却に先だって,それぞれにつき抵当権が設定されていることが明らかである。 すなわ う用語を用いることとする。 1 ところで,関係証拠によれば,原判示第一の土地及び第二の土地については,本件各売却に先だって,それぞれにつき抵当権が設定されていることが明らかである。 すなわち,第一の土地については,①昭和55年4月11日受付,極度額2500万円,債務者D1,根抵当権者G1銀行とする順位1番の根抵当権,②平成4年3月31日受付,債権額4300万円,債務者D1,抵当権者U1株式会社とする順位2番の抵当権がそれぞれ設定され,原判示の売却行為に伴い,同年4月30日所有権移転登記がなされるとともに,同日付けで上記①,②の各抵当権が抹消されている。また,第二の土地については,③平成元年1月13日受付,債権額3億円,債務者D1,抵当権者株式会社V1とする抵当権が設定され,原判示の売却行為に伴い,平成4年10月6日所有権移転登記がなされるとともに,同日付けで③の抵当権が抹消されている。そして,①及び③の各抵当権設定行為がそれぞれ第一の土地及び第二の土地を横領したものとしての各横領罪に該当するということになれば,これらの土地についてなされたその後の本件各売却行為(さらには②の抵当権設定行為)は,不可罰的事後行為に当たり,処罰することができないのではないかということが問題になるところである。 2 しかしながら,①の根抵当権(以下,単に抵当権ということがある。)及び③の抵当権は,いずれも他の不動産が共同担保とされているものであるところ(正確にいえば,これらの抵当権が設定された時点では,第一の土地も第二の土地も,それぞれより広い土地の一部であったもので,後に分筆された関係で分筆後も他の不動産が共同担保とされているようである。),これらの抵当権が設定された時期は,本件各土地の売却よりも相当以前であって,仮にこれらが横領罪に当たるものと ったもので,後に分筆された関係で分筆後も他の不動産が共同担保とされているようである。),これらの抵当権が設定された時期は,本件各土地の売却よりも相当以前であって,仮にこれらが横領罪に当たるものとしても,①の根抵当権設定については,つとに公訴時効が完成しているし,③の抵当権設定についても,第二の土地に関する公訴提起がなされた平成9年8月6日より前に公訴時効が完成しているのである。本件で取り調べられた関係証拠を検討しても,このような過去の時点でのこれらの抵当権設定の経緯やその際の各借入金の使途等はつまびらかでなく,これらの抵当権設定行為が上記のような横領罪を構成するようなものであったか否かは明瞭でないというほかないのである(被告人は,原審公判廷において,本件各所為について無罪を主張しているのであり,もとより,これらの抵当権設定についても自己らのためにほしいいままになしたなどとは述べていない。)。少なくとも,先行行為についての犯罪成立が,既に取り調べられた証拠により明白に認められるか,若干の追加立証により明白に立証できる確実な見込みがある場合に限って,起訴されている後行行為を不可罰的事後行為と認めるべきものと解されるから(後述の判例はいずれもそのような事案につき不可罰的事後行為を認めたものであるし,先行行為につき犯罪の成立する可能性が相当程度あるというだけで,後行行為は不可罰的事後行為ではないかとの疑いが残るとしてこれを無罪とすれば,先行行為と後行行為のいずれにも犯罪の成立を認めることができないという,余りにも不合理な結果を招来することになる。),本件において,第一の土地及び第二の土地の各売却行為を,それぞれ①及び③の各抵当権設定の関係での不可罰的事後行為ということはできない。 なお,仮に,①の根抵当権設定及び③の抵当権設定が横領罪を構成 本件において,第一の土地及び第二の土地の各売却行為を,それぞれ①及び③の各抵当権設定の関係での不可罰的事後行為ということはできない。 なお,仮に,①の根抵当権設定及び③の抵当権設定が横領罪を構成するものであることが,本件の証拠上明らかといえるとしても,前述のとおり,いずれも既に公訴時効が完成しているのであるから,これらにつき被告人を処罰することは最早不可能である。そして,このように先行行為について,公訴時効の完成とか,その他の訴訟条件の欠如や責任能力の欠如等の事由により,犯罪(横領罪)として処罰することができないような事情があるときは,後行行為がそれ自体として犯罪(横領罪)の成立要件を充足していると認められる限り,これを不可罰的事後行為とすることは不合理というべきであって,後行行為を処罰することは許されると解するのが相当である(先行行為を処罰することが不可能な事案につき,後行行為を不可罰的事後行為とした判例は見当たらない。)。そこで,第一の土地及び第二の土地の各売却行為が,それ自体として横領罪の成立要件を充足するといえるか否かを検討すると(ここでは,第一の土地の関係の②の抵当権設定の点は除外して考察する。),先行行為の抵当権設定行為が当該土地の横領に当たると認め得る場合であっても,常にその土地に関する委託に基づく信任関係が直ちに全面的に破壊されるとは限らないのであり,本件においては,従前からの土地の占有関係には変動はなく,被告人は,依然としてA1の責任役員として,A1の土地を管理する業務に従事しているのであって,被告人とA1との間の委託信任関係は,各抵当権設定後も,基本的には継続していると認められるから,上記各売却行為はいずれも横領罪の成立要件を充足するものと解される(もとより,先行行為が処罰できない以上,当該土地が後行の売却行為 関係は,各抵当権設定後も,基本的には継続していると認められるから,上記各売却行為はいずれも横領罪の成立要件を充足するものと解される(もとより,先行行為が処罰できない以上,当該土地が後行の売却行為以前に横領物になっているとみるわけにはいかない。)。したがって,やはり,上記各売却行為を①及び③の各抵当権設定の関係での不可罰的事後行為ということはできない。 なお,以上と同様の理由により,②の抵当権設定もやはり不可罰的事後行為とはいえない。 3 問題は,②の抵当権設定と第一の土地の売却との関係である。なぜならば,②の抵当権設定は,第一の土地の売却の直前ともいうべき時期になされており,前記第2の1(9)ア(イ)で認定した事実関係からして,不動産についての抵当権設定が当該不動産の横領に当たるとする大審院以来の判例の立場に従うならば,被告人は②の抵当権設定により第一の土地を横領したものと認めるべきことになりそうであるからである。 (1) まず,関係証拠により,第一の土地の売却経緯と②の抵当権設定との関係をみると,以下のとおりである。 ア被告人は,D1等を債務者として金融機関から融資を受けていた元利金の返済に行き詰まり,A1所有の土地を売却してこれらの支払などに充てることを計画し,A1の土地を売りに出したものの,なかなか買手が付かない状態であった。そのような経過で,被告人は,平成3年9月ころ,第一の土地の売却の仲介をJ2株式会社v店に依頼し,同店では同土地の売却広告を作成して不動産業者に配布した。 イ C1は,平成3年終わりころ,C1が事務所兼倉庫用地に充てるための土地探しをF2商事(経営者G2)に依頼していた。G2は,平成3年12月ないし平成4年1月ころ,A1の第一の土地の売却広告を見たことから,同年2月か3月ころ,C1のH2に適当な 庫用地に充てるための土地探しをF2商事(経営者G2)に依頼していた。G2は,平成3年12月ないし平成4年1月ころ,A1の第一の土地の売却広告を見たことから,同年2月か3月ころ,C1のH2に適当な土地があるとの連絡を入れ,H2は,G2の案内で現地を見に行き,そのとき,A1の土地であるということを聞いた。H2は適当な立地条件であると判断し,G2に売主(A1)側との交渉を依頼した。その後(やはり同年2月か3月ころ),H2,C1の経理担当専務であったI2が現地に赴き,売主側の仲介業者であるJ2不動産v支店のK2から境界線等の説明を受けた。H2もI2も購入代金の折り合いさえ付けば購入したいと考え,C1社長のL2に伝えたところ,同人も了承した。なお,G2は,第一の土地に①の根抵当権が設定されていたことから,この点をK2に確認したところ,所有権移転手続をするまでにこの抵当権は抹消するとの話であった。 ウ双方の不動産仲介業者を通じて売買代金の交渉をした結果,C1は坪当たり200万円で購入することにして,その旨の第一の土地に関する不動産買付証明書(同年3月24日付け)をA1側の仲介業者であるJ2に差し入れたところ,A1側から,同金額で売却する旨の返答がきて,第一の土地を坪当たり200万円でA1から購入することが決まった。なお,C1としては,一刻も早く第一の土地の所有権を取得して建物を建築したかったことから,一括して代金を支払いたいとの意向を示した。その結果,A1とC1との間で,同年4月30日に第一の土地の代金を一括で支払い,その日のうちにその土地の所有権をA1からC1に移転する登記手続をとる旨の話がまとまった。 エ他方,被告人らは,D1名義で,A1の土地を担保に,平成元年1月V1から3億円,平成2年2月及び同年5月にW1から各3億円の融資を受け A1からC1に移転する登記手続をとる旨の話がまとまった。 エ他方,被告人らは,D1名義で,A1の土地を担保に,平成元年1月V1から3億円,平成2年2月及び同年5月にW1から各3億円の融資を受けていた。その後,V1とW1が合併してU1となり,結局,U1は,D1に対して,合計9億円を融資していることとなった。そして,平成元年1月と平成2年2月に融資した分合計6億円の元本返済期日は,平成4年2月となっていた。D1側は,この元本返済期日ころ,「当初は土地を売却して元本を返済する予定だったが,土地が売却できないので,それらの元本返済はできない。6億円の借入れ分については,1年間の借換えをしたい」との申入れをした。被告人らは,借換え融資を受けるためには,その時点までの延滞利息,借換え手数料が必要となることから,U1に対して,これらの支払に充てる分についての融資を求めたところ,U1側は,D1にこれらの融資をする条件として,9億円の貸付け分の延滞利息の支払,借換え融資をするための新たな貸付けに対し抵当権を設定することなどを伝えた上,借換え融資のための費用としては,延滞利息,新たな融資分の先取り利息,融資手数料などとして合計4300万円が必要となる旨説明した。 オそこで,被告人らは,上記の条件を承諾することとし,すでに売却の話がまとまっている第一の土地の売却代金が得られた時点で返済し抵当権を抹消することを前提として,同年3月31日に②の抵当権を設定してU1からD1を債務者とする4300万円の融資を受けた。そして,この4300万円はD1がU1に支払うべき延滞利息や融資手数料等に充てられた(なお,その残金120万2048円は,同年5月6日U1からD1に返金された。)。 カ同年4月30日,前記ウの約定のとおりに,第一の土地のC1への売却が実行され 延滞利息や融資手数料等に充てられた(なお,その残金120万2048円は,同年5月6日U1からD1に返金された。)。 カ同年4月30日,前記ウの約定のとおりに,第一の土地のC1への売却が実行され,被告人側からあらかじめU1及びC1に協力要請をしていたため,C1が売却代金1億0324万円を額面4300万円のものを含む4枚の小切手にして被告人側に交付し,同日②の抵当権抹消及びC1への所有権移転の各登記手続がなされた。なお,同日①の根抵当権の抹消登記もなされた。 【要旨】(2) 以上の事実関係からすると,被告人らは,まず,第一の土地の売却を計画し,C1との間で売買の話を代金やその支払時期を含めてまとめているところ,その後,その代金支払時期よりも前に,その代金よりは少額の資金需要が生じたため,急遽,②の抵当権を設定して融資を受けることになったものであり,しかも,被告人らは,この融資等を,その返済に土地代金の一部を充て,C1への所有権移転登記と同時に②の抵当権の抹消登記をすることを前提として決めたものであって,実際にも,関係者の協力を得て,第一の土地の売却の実行と同時に②の抵当権も抹消されたものということになる。そうすると,被告人らにとっても,また,客観的にみても,土地売却と②の抵当権設定とでは,土地売却の方がはるかに重要な意味を持つのであって,抵当権設定は,土地代金の支払時期との関係で派生的に行われ,土地売却の実行と同時に予定通り解消されたものであり,被告人らにとっては実質的には土地代金の一部先払いを受けるためのものとみられるのである。他人の土地の売却による横領は,その所有権移転登記が完了した時点で既遂になるが,遅くとも売買契約の内容が確定しその実現が確実となった時点では横領行為の着手があったものと解する余地もあるように思われる。そうすると 売却による横領は,その所有権移転登記が完了した時点で既遂になるが,遅くとも売買契約の内容が確定しその実現が確実となった時点では横領行為の着手があったものと解する余地もあるように思われる。そうすると,本件においては,土地売却による横領についてみれば,当該行為が開始されて継続している最中に,担保余力を大きく残した抵当権設定がなされ,その後当該行為が既遂に達したということになる。また,土地所有者であるA1にとっても,土地売却による損害の方が,②の抵当権設定による損害よりもはるかに大きいのである。このような本件の事実関係に照らすと,②の抵当権設定の方を重視して,第一の土地の売却行為をその不可罰的事後行為とみるのは,本末転倒の感を免れないところである。 してみると,検察官が,第一の土地につき,その売却を横領行為と捉えて公訴提起したのは,極めて合理的なものとして理解できるのであり,裁判所としては,売却を横領行為とみることができる以上は,その訴因に基づき横領罪の成立を認めるべきは当然のことである。確かに,実体法的にみると,先行行為である抵当権設定が当該土地そのものの所有権侵奪的行為として横領に当たるということになれば,後行行為である土地の売却行為は,すでに領得した土地の処分行為ということになり,いわゆる「横領物の横領」として,そもそも横領罪には当たらないということもできよう。しかし,例えば,商店の店員が,自己の机のA1引き出しに保管している店の金から,自己の用途に充てる分を毎日少しずつB1引き出しの中の目立ちにくいところに移して貯め込み,数日毎にその一部を店外に持ち出していたが,費消することなくB1引き出しに戻すこともあり,費消した金額・日時・場所等は証拠上確定できるというような委託金横領の事案において,実務上は,費消行為を横領行為として起訴がな 店外に持ち出していたが,費消することなくB1引き出しに戻すこともあり,費消した金額・日時・場所等は証拠上確定できるというような委託金横領の事案において,実務上は,費消行為を横領行為として起訴がなされ,上記のような費消に至る事実経過が認められても,訴因のとおりの横領罪の成立が認められているものと思われる。実体法的には,店の金をB1引き出しに移す行為や店外に持ち出す行為を,具体的事情如何によっては,横領行為と解することもできるのであって,そうすると,その後の費消行為は「横領金の横領」として横領行為とはいえないことになるのであるが,このような場合に,先行行為のいずれかを横領行為とする訴因変更等を問題とするのは,ありふれた横領行為の処罰を著しく困難にすることになり,不合理というべきである(これらの先行行為については日時・金額・回数等を特定することが困難な場合が少なくない。)。本件のような不動産の横領の場合は,先行行為である抵当権設定を横領行為とする訴因を構成することは容易ではあるが,売却を横領行為とみることもできる以上は,裁判所としては,そのような訴因変更を促すことなく,横領罪の成立を認めてよいし,また,認めるべきものなのである(最高裁第一小法廷昭和59年1月27日決定・刑集38巻1号136頁の趣旨が参考になる。)。 もっとも,本件の事案において,検察官は②の抵当権設定を横領行為として訴因構成することも可能であり,その場合には,裁判所もそのとおりの横領罪を認定すべきことになる。いずれにせよ,このように密接な関係にある売却と抵当権設定については,1回しか処罰できないものと解すべきである(なお,双方が包括的に1個の横領行為を構成すると解することも検討に値するように思われる。)。 (3) 先行する抵当権設定行為を横領とし,後の売却行為を不可罰的 しか処罰できないものと解すべきである(なお,双方が包括的に1個の横領行為を構成すると解することも検討に値するように思われる。)。 (3) 先行する抵当権設定行為を横領とし,後の売却行為を不可罰的事後行為とした判例(原審弁論において弁護人が援用しているもの)との関係について説明を付加する。まず,最高裁第三小法廷昭和31年6月26日判決・刑集10巻6号874頁は,先行行為の抵当権設定行為後なされたこの抵当権者に対する被担保債権の弁済としてその土地そのものが代物弁済に供された事案に関するもの,すなわち,先行行為の抵当権設定行為がその土地の交換価値のほぼ全額を把握していたものであって,それ自体実質的にも土地そのものの処分と同視できるという関係にあり,また,証拠関係も共通で,既に先行行為の抵当権設定についても横領罪として認定することができるだけの証拠が存する事例に関するものであり,本件とは事案を異にするというべきである。次に,東京高裁昭和63年3月31日判決・判例時報1292号159頁の事案は,先行行為の根抵当権設定とその後の譲渡担保契約による所有権移転登記が,約1年2か月隔たっており,先行行為はそれ自体として完結した,後行行為とは別個独立の取引であったのであり,やはり本件の事案とは趣を異にするということができる。なお,大審院明治43年10月25日判決・刑録16輯1745頁の事案はつまびらかではないが,本件のような特殊なもののようには窺われない。 なお,原判決は,「土地を担保に入れるという先行行為は,土地が有する経済的価値のみを侵害する行為であるのに対し,土地の売却という後行行為は,経済的価値を含め,土地が有する価値のすべてを第三者に譲渡するものであって,先行行為に対する違法評価に包含し尽くされていない」という理由で,本件第一の土地及び第 に対し,土地の売却という後行行為は,経済的価値を含め,土地が有する価値のすべてを第三者に譲渡するものであって,先行行為に対する違法評価に包含し尽くされていない」という理由で,本件第一の土地及び第二の土地についての横領罪の成立を認めているが,大審院以来の累次の判例が抵当権の設定行為は土地そのものの領得行為であるとして横領罪の成立を認めてきていることとの関係に言及していないのは遺憾といわざるを得ない。しかし,本件のような事案に即して改めて考えてみると,この原判決の説示には,抵当権の設定が価値権の把握であり,それによって土地そのものの価値をすべて把握するものではないことを指摘する点で傾聴すべきものが含まれているように思われる(なお,本件においては,検察官も原審以来ほぼ原判決と同旨の見解を主張し続けている。)。すなわち,動産に対する質権の設定は,売却処分とほぼ同視できるのが通常であろうが,不動産に対する抵当権設定は,被担保債権額と地価の関係は様々であり得るし,その双方とも弁済や経済情勢により変動し得るのであり,また,所有者にとっては,後の抵当権設定や売却処分は更に被害を大きくするものであり,占有者にとっては,後行の行為は新たに多額の利得をもたらすものであることが少なくないと思われる。また,抵当権の設定は担保余力がある限り何度でも可能であり,売却は最後ということになるが,当初の抵当権設定から相当の時日を経過した後に次の抵当権設定等が行われることもあり得るのである。そうすると,不動産に対する抵当権設定は,これが交換価値のほぼ全部を把握するものでない限りは,横領罪ではなく背任罪を構成するものと解する方が,後行行為につき,更に背任罪や横領罪の成立を無理なく認めうるので,妥当のようにも思われる(抵当権設定がその時点では土地の交換価値の全部を把握するも ,横領罪ではなく背任罪を構成するものと解する方が,後行行為につき,更に背任罪や横領罪の成立を無理なく認めうるので,妥当のようにも思われる(抵当権設定がその時点では土地の交換価値の全部を把握するものであっても,地価が高騰した後に売却等が行われる場合についても,やはり検討の余地がある。)。当裁判所は,今直ちに従前の判例に反対してこのような解釈に踏み切るというわけではないが,この点が慎重な検討に値することは確かであろうと考える次第である。 (4) 以上のとおり,第一の土地の売却行為は,②の抵当権設定との関係でも不可罰的事後行為とはいえず,業務上横領罪に当たると解される。 4 したがって,原判決が第一の土地及び第二の土地の各売却行為につき,業務上横領罪の成立を認めたのは,その結論においては正当であって,原判決に所論のような法令適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における未決勾留日数の本刑算入につき刑法21条を適用して,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官安・文夫裁判官松尾昭一裁判官金谷暁)
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