主文 1 1審被告の控訴に基づき,1審第1事件について,原判決主文第1項及び第3項を次のとおり変更する。 (1) 1審被告が,1審原告に対し,平成12年7月5日付けでした1審原告の平成11年分の所得税に係る過少申告加算税賦課決定処分のうち,過少申告加算税額12万9000円を超える部分を取り消す。 (2) 1審原告のその余の1審第1事件に係る請求をいずれも棄却する。 2 1審被告のその余の控訴を棄却する。 3 1審原告の控訴を棄却する。 4 訴訟費用は,第1,2審とも1審原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求める裁判 1 1審原告の申立て(1) 原判決中,1審原告敗訴部分を取り消す。 (2)(1審第1事件)ア 1審被告が1審原告に対し,平成12年3月13日付けでした1審原告の平成8年分の所得税に係る更正処分のうち,課税総所得金額2億5988万7000円,納付すべき税額1億0374万3900円を超える部分を取り消す。 イ 1審被告が,1審原告に対し,平成12年3月13日付けでした1審原告の平成9年分の所得税に係る更正処分のうち,課税総所得金額5775万7000円,納付すべき税額1002万3700円を超える部分を取り消す。 ウ 1審被告が,1審原告に対し,平成12年3月13日付けでした1審原告の平成10年分の所得税に係る更正処分のうち,課税総所得金額1億0169万8000円,納付すべき税額4205万3500円を超える部分を取り消す。 エ 1審被告が,1審原告に対し,平成12年7月5日付けでした1審原告の平成11年分の所得税に係る更正処分のうち,課税総所得金額1億6169万3000円,納付すべき税額5671万0700円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定 し,平成12年7月5日付けでした1審原告の平成11年分の所得税に係る更正処分のうち,課税総所得金額1億6169万3000円,納付すべき税額5671万0700円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,原判決により一部取り消された後のもの。)のうち過少申告加算税額6万3000円を超える部分を取り消す。 (3)(1審第2事件)1審被告が,1審原告に対し,平成13年9月26日付けでした1審原告の平成12年分の所得税に係る更正処分のうち,課税総所得金額2595万6000円,納付すべき税額451万2200円を超える部分を取り消す。 (4) 1審被告の控訴を棄却する。 (5) 訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。 2 1審被告の申立て(1) 原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。 (2) 同取消しに係る1審原告の請求を棄却する。 (3) 主文第3,4項同旨第2 事案の概要本件は,1審原告が,平成8年分ないし平成12年分の所得税について,自己の勤務していたコンパックコンピュータ株式会社の親会社であるアメリカ合衆国(以下「米国」という。)テキサス州所在のコンパックコンピュータコーポレーション(CompaqComputerCorporation)から付与されたストック・オプション(stockoption,株式購入選択権。会社が自社又は子会社の従業員,役員等に対して付与する,自社株式を一定の期間内に予め定められた権利行使価格で購入することができる権利)を行使して得た利益(オプションの行使により取得した株式の時価と取得価額との差額)を一時所得として申告したところ,1審被告が,同利益は給与所得に当たるとして平成8年分ない平成12年分の各所得税に係る更正処分並びに平成11 プションの行使により取得した株式の時価と取得価額との差額)を一時所得として申告したところ,1審被告が,同利益は給与所得に当たるとして平成8年分ない平成12年分の各所得税に係る更正処分並びに平成11年及び12年の各所得税に係る過少申告加算税賦課決定処分をしたことから,1審原告が,これらの処分は違法であるとして,平成8年分ないし平成11年分の各所得税に係る更正処分及び平成11年度の所得税に係る過少申告加算税賦課決定処分のうち,いずれも上記利益を一時所得又は譲渡所得として算定した金額等を超える部分のそれぞれ取消しを求めるとともに(1審第1事件),平成12年分の所得税に係る更正処分のうち,上記利益を一時所得又は譲渡所得として算定した金額等を超える部分及び同過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求めた(1審第2事件)。これに対し,1審被告が,上記利益は給与所得に該当し,仮にそうでないとしても雑所得に該当するので,平成8年分ないし平成12年分の各所得税に係る更正処分並びに平成11年及び12年の各所得税に係る過少申告加算税賦課決定処分はいずれも適法であると主張して争う事案である。 原審は,1審第1事件の1審被告が1審原告に対し平成12年7月5日付けでした1審原告の平成11年分の所得税に係る過少申告加算税賦課決定処分のうち,過少申告加算税額12万円を超える部分を取り消すとともに,1審第2事件の1審原告に対し平成13年9月26日付けでした1審原告の平成12年分の所得税に係る過少申告加算税賦課決定処分を取り消し,1審原告のその余の請求をいずれも棄却したので,これに対し,当事者双方が各敗訴部分を不服として控訴した。 第3 基礎となる事実次のとおり付加・補正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第3 基礎となる事実」記載のとおりであるから,これを 対し,当事者双方が各敗訴部分を不服として控訴した。 第3 基礎となる事実次のとおり付加・補正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第3 基礎となる事実」記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決5頁4行目「乙2号証」を「乙2号証の①②」に改める。 2 同頁10行目から同11行目にかけて「乙2号証」とあるのを「乙2号証の①②」に改める。 3 同9頁8行目冒頭から同9行目末尾までを,以下のとおり改める。 「 1審原告は,平成3年に日本コンパック社のαに就任し,その後同社β,γ及び顧問等を経て平成10年7月に同社を退社した〔甲27号証,55号証〕。」 4 同頁12行目「(以下「本件コンパック・プラン」という。)」を「(乙13号証。以下「本件コンパック・プラン」という。)」に改める。 5 同頁15行目「第2条(i)」を「第2条(a)及び(i)」に改める。 6 同12頁22行目「国税不服審判所長は」から同23行目末尾までを,以下のとおり改める。 「国税不服審判所長は,平成14年8月27日付けで,審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした〔甲29号証〕。」第4 本件各課税処分の根拠に関する当事者の主張次のとおり付加・補正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第4 本件各課税処分の根拠に関する当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決14頁1行目の次に行を改め,以下のとおり加える。 「 また,一般的に譲渡所得の「譲渡」の概念が広くとらえられているから,本件権利行使利益に対しては譲渡所得として課税することもできる。 したがって,本件権利行使利益は,一時所得又は譲渡所得に該当するから,本件各課税処分はいずれも違法であり取り消すべきである。」第5 争 に対しては譲渡所得として課税することもできる。 したがって,本件権利行使利益は,一時所得又は譲渡所得に該当するから,本件各課税処分はいずれも違法であり取り消すべきである。」第5 争点原判決14頁5行目「一時所得」の次に「,譲渡所得」を加えるほか,原判決の「事実及び理由」中の「第5争点」記載のとおりであるから,これを引用する。 第6 争点に関する当事者の主張次のとおり付加・補正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第6 争点に関する当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決16頁10行目冒頭から同17頁8行目末尾までを,以下のとおり改める。 「すなわち,所得税法36条1項の「収入金額とすべき金額」とは,いまだ収入がなくとも「収入すべき権利の確定した金額」をいう。これは,課税に当たって常に現実収入のときまで課税することができないとしたのでは,納税者の恣意を許し,課税の公平を期しがたいので,徴税政策上の技術的見地から,収入の原因となる権利の確定した時期を捉えて課税することとしたものである。 所得税法が採用する権利確定主義によると,①「現実収入」と「(現実)収入の原因となる権利」とを区別し,②「現実収入」があったときに「収入金額」(所得税法36条1項)が発生したとして課税することを原則としつつ,③いまだ「現実収入」はないが「(現実)収入の原因となる権利」が確定したときには,その時点で「収入金額」(同条1項)が発生したとして課税することができるというものである。 そして,上記「現実収入」に対しては所得税が課税されるから,「現実収入」に該当するためには,経済的・実質的観点から,所得税課税にふさわしい内実のある利益等でなければならず,容易に現金に換価され そして,上記「現実収入」に対しては所得税が課税されるから,「現実収入」に該当するためには,経済的・実質的観点から,所得税課税にふさわしい内実のある利益等でなければならず,容易に現金に換価され得るものを受領した場合であることを要する。また,「収入の原因となる権利」は,「現実収入」の交付ないし引渡しを請求する権利(債権)である。 イこれをストック・オプションについてみると,付与されたストック・オプション自体は,インセンティブ報酬としての目的を達成するために譲渡が禁止されており,付与された本人以外の者が行使することは認められていないし,これを取引の対象とする市場も存在しない。したがって,ストック・オプションを付与されたのみでは,換価可能性がないものを与えられたにすぎないのであって,いまだ納税資金は確保されておらず,納税が容易になったともいえない。 1審原告が付与されたストック・オプションは,それ自体の経済的価値もいまだ抽象的である上(付与時においては,オプションを行使できるかどうかすら確定していない。),収入金額の算定においても,恣意性を排除することはできないから,現行所得税法の解釈上,所得課税は行い得ないというべきである。 そうすると,付与されたストック・オプション自体は,現実収入とはいえないから,所得税法36条1項所定の「金銭以外の物又は権利」には当たらないというべきである。そして,ストック・オプションにおいては,権利行使利益が「現実収入」であり,ストック・オプションを行使して発生する株式引渡請求権が「収入の原因となる権利」に該当する。 ウもっとも,相続人が被相続人の有していた権利行使可能なストック・オプションという権利を相続した場合,相続時における株価と権利行使価格との差額について 入の原因となる権利」に該当する。 ウもっとも,相続人が被相続人の有していた権利行使可能なストック・オプションという権利を相続した場合,相続時における株価と権利行使価格との差額について相続税を課税する扱いである(財産評価基本通達193-2)。 しかし,相続税の課税では,現時点でオプションを行使したとすれば得られる株式の時価と権利行使価格の差額相当の価値(本質的価値)のみを評価するものであって,相続時の時価評価(相続税法22条)が義務付けられている相続税の場面で評価できることは,所得税の場面で期待権としての価値を評価できることの根拠にはなり得ない。そして,相続税は相続によって取得した財産に対して課税するものであり,所得税は実現した所得(価値の増加)に対して課税するものであって,両者は課税対象を異にするから,相続税法上は相続による財産の取得が認められて課税されても,所得税法上はいまだ「現実の収入」の発生ないし「収入の原因となる権利」の確定のいずれも認められないとして課税されないことがあり得るのである。 また,擬似ストックオプション(会社が,分離型の新株引受権付社債(平成13年法律第128号による改正前の商法341条ノ8第2項5号)を発行した後,新株引受権と社債を分離して,市場から新株引受権証券(ワラント。同法341条ノ3)を買い戻して従業員等に支給するものである。)においては,従業員等が,その新株引受権証券を取得した時点で,当該新株引受権の価額相当部分について給与所得として課税される。 しかし,擬似ストックオプションに利用されるワラント自体は,社債と分離して流通におかれることを予定しており,それ自体客観的に価値を測定できる資産であり,たとえこれを支給する際,従業員等と会社との間で,譲渡禁 擬似ストックオプションに利用されるワラント自体は,社債と分離して流通におかれることを予定しており,それ自体客観的に価値を測定できる資産であり,たとえこれを支給する際,従業員等と会社との間で,譲渡禁止の合意をしたとしても,ワラント自体の譲渡性を奪うものではなく(同法341条ノ8第2項5号),その換価可能性が一たび現実化して客観的な評価が明らかにされているという点で,証券が発行されておらず,およそ譲渡の余地がない本件ストック・オプションとは性質を異にしているのであって,同列に論ずることはできない。 エしたがって,ストック・オプションにおける課税の対象は,権利行使利益であり,その課税時期は権利行使時であり,ストック・オプションについては,所得税法の解釈上,権利行使時より前の時点での所得税課税はできない。 なお,上記のとおり所得税法の解釈をすることは,商法上のストック・オプションに関し,租税特別措置法29条の2及び所得税法施行令84条が,権利行使時における権利行使利益に対する課税を前提としており,ストック・オプション自体の経済的価値に対する課税を前提としていないこととも整合している。」 2 同22頁14行目冒頭から同24行目末尾までを,以下のとおり改める。 「オ権利行使利益の給与所得該当性について(ア) 権利行使利益は,以下のとおり付与会社からの給付である。 ① 自己株式(金庫株)方式による場合自己株式(金庫株)方式による場合には,株式の含み益は,権利行使時に,付与会社から被付与者に移転するものである。 すなわち,客観的・外形的に見て,付与会社が保有する株式の(含み益を含めた)価値が付与会社に帰属し,権利行使時に当該株式が授業員 付与会社から被付与者に移転するものである。 すなわち,客観的・外形的に見て,付与会社が保有する株式の(含み益を含めた)価値が付与会社に帰属し,権利行使時に当該株式が授業員等に移転することによって当該価値が移転していることは明らかである。また,付与会社としては,権利行使価格で株式を譲渡するという合意により,被付与者の権利行使時に自社株を権利行使価格で譲渡する義務を負うが,権利行使されるまでの間は,保有している自社株を任意の価格で売却して含み益を実現することが可能であり,ストック・オプションの付与時以降,会社が自社株を任意の価格で処分することができなくなるとか,株式の含み益はもはや会社に帰属していないなどとは到底いえないから,株式の含み益は,権利行使時に,付与会社から被付与者に移転している。 ② 新株引受権方式による場合新株発行方式の場合には,付与会社は権利行使時において,被付与者に対し,ストック・オプション付与契約に従って新株を発行する義務を負うが,権利行使利益が発生した場合には,当該時点における新株発行により企業が得る資金額は,市場価格(時価)での株式発行の場合より少なく,付与会社にその差額(権利行使利益)に相当する実質的損失(機会損失)が生じている。つまり,付与会社が当該株式を市場で売却(発行)すれば得られたはずのキャッシュフローが被付与者である従業員等に移転していると評価できる。 仮に,ストック・オプションの権利行使利益が,付与会社ではなく,その既存株主の損失において被付与者に与えられるとしても,付与会社が従業員等に対して労務の対価として新株を有利発行した場合に従業員等が得る経済的利益は,当該会社の株式の希釈化による既存株主の損失に基づくものと 主の損失において被付与者に与えられるとしても,付与会社が従業員等に対して労務の対価として新株を有利発行した場合に従業員等が得る経済的利益は,当該会社の株式の希釈化による既存株主の損失に基づくものと考えられるにもかかわらず,給与所得であると解されることに照らせば,権利行使利益が付与会社ではなく既存株主の損失において被付与者に与えられるということは,何ら権利行使利益の給与所得該当性を否定する理由となるものではない。 (イ) 本件の争点は,あくまで従業員等が得た権利行使利益の所得区分の問題であって,必ずしも法人側の会計処理と連動するものではない。給与所得であるか否かは,あくまでも所得税法28条の解釈によって決せられるべきものであり,所得税法上給与所得とされる所得については,法人側でどのような会計処理や課税が行われるかによって給与所得であるかどうかが決せられるべきものではない。 (ウ) 1審原告の勤務していた日本コンパック社が本件ストック・オプションの付与会社である米国コンパック社の100パーセント子会社であることから,日本コンパック社が1審原告の勤労の成果を得る結果,米国コンパック社も利益を受ける関係にある。 そして,米国コンパック社のストック・オプション制度に照らせば,本件ストック・オプションの付与は,1審原告が日本コンパック社に勤務し,同社に対し労務を提供することを基礎として,米国コンパック社が,当該労務提供の対価として,権利行使利益を1審原告に与える趣旨のものと認められる。 (エ) そうすると,本件権利行使利益は,1審原告が日本コンパック社において精勤を継続したことに対し,実質的に,米国日本コンパック社の損失において,1審原告に移転した経済的利益ということができる。 すると,本件権利行使利益は,1審原告が日本コンパック社において精勤を継続したことに対し,実質的に,米国日本コンパック社の損失において,1審原告に移転した経済的利益ということができる。 したがって,本件権利行使利益が給与所得に該当することは明らかというべきである。」 3 同24頁11行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。 「(5) 譲渡所得に該当しないことについて本件権利行使利益は,労務の対価であるから,譲渡所得には該当しない。」 4 同頁12行目「(5)」を「(6)」に改める。 5 同頁20行目冒頭から同末尾までを,以下のとおり改める。 「本件権利行使利益は,所得税法上,一時所得又は譲渡所得に該当する。」 6 同25頁9行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。 「 すなわち,被付与者が付与されたストック・オプションは,株式購入選択権(新株予約権)という権利行使可能時に株式を取得できるという意味での法的権利であり,行使可能の時点においては権利行使をすることにより株式を取得することができるから,付与されたストック・オプション自体は財産的価値を有する。所得税法では権利確定主義が採用されているが,本件ストック・オプション自体は,その行使に制約があるとしても,付与時点において法律上1審原告の権利として所有が確定しており,また権利行使が可能の時点では,1審原告がその利得を自由に管理支配できるので経済的価値がある。したがって,本件ストック・オプションは付与された時点で所得税法36条1項所定の「金銭以外の物又は権利」に該当する。そして,同条2項によれば,1審原告が日本コンパック社から交付された本件ストック・オプションは,その権利の取得時における価額が所得となることは明らかである。」 7 同 以外の物又は権利」に該当する。そして,同条2項によれば,1審原告が日本コンパック社から交付された本件ストック・オプションは,その権利の取得時における価額が所得となることは明らかである。」 7 同26頁13行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。 「 すなわち,付与会社が与えるのはあくまでもストック・オプションという権利であり,その後従業員等がそれを行使したことによる利益は,あくまでも市場から得られるものであるから,権利行使利益はいわば与えられたオプションの含み益にすぎない。したがって,1審原告が付与されたのは本件ストック・オプションという権利であって,権利行使利益を給付されたわけではない。 また,ストック・オプション付与契約により被付与者が付与会社から与えられたのは,将来の一定時点以降,自由に権利行使して株式を取得することができるという権利(オプション権)であることは明らかであり,仮に,親会社から付与されたストック・オプションが給与所得に該当するという見解を肯定したとしても,その権利は,付与時の価格により評価すべきものである。つまり,株式の時価と権利行使価格との差額相当額(含み益)は,付与契約によって被付与者に帰属しているのであって,権利行使時点で付与会社から被付与者に移転するものではない。ストック・オプション自体は,その行使に制約があるとしても,付与時点において法律上の権利として所有が確定しているのであり,また,権利行使が可能となった時点では,その利得を自由に管理支配することができるのである。 さらに,所得税法36条2項に照らすと,1審原告が付与された本件ストック・オプションは,その権利の取得時における価額が所得となることは明らかである。そして,理論的には,被付与者は,付与会社から付与時あるいは行使可能 36条2項に照らすと,1審原告が付与された本件ストック・オプションは,その権利の取得時における価額が所得となることは明らかである。そして,理論的には,被付与者は,付与会社から付与時あるいは行使可能時点において評価した価格を与えられたものとして,給与所得の課税が可能であるが,評価の困難性ゆえに課税を控えているにすぎない。つまり,ストック・オプションの権利行使利益は,実質的にはストック・オプションの付与時点から行使時点までの株式の値上がり益(含み益)が実現したものであり,この時点で課税所得を構成するのか,また構成するとすればいずれの所得になるかの問題にすぎない。」 8 同28頁21行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。 「キ低額譲渡ではないこと(ア) ストック・オプションは付与会社の損失なしにインセンティブを従業員に与え,かつ,有能な人材を引き止めさせることができるという制度であって,上記のとおり付与会社が与えるのは,あくまでもストック・オプションという権利であり,その後従業員等がそれを行使したことによる利益はあくまでも市場から得られるものである。その結果,既存の株主は,流通する株式が多くなるために生じる株式の希釈化に伴う不利益を被ることになるから,わが国の商法は,ストック・オプションの発行に際して特別決議によるべきことを要求したのである。 ストック・オプション制度は,本質的に,権利行使利益を会社の損失のもとに被付与者に与えるということを予定している制度ではない。被付与者に与えられているのは,あくまで行使の選択権である。その対価は,現行商法280条ノ20第2項2号の新株予約権の発行価額がこれに当たる。その法律関係は,新株予約権(一般的な意味でのストック・オプション)を従業員等以外の者に同条以下の規定に 択権である。その対価は,現行商法280条ノ20第2項2号の新株予約権の発行価額がこれに当たる。その法律関係は,新株予約権(一般的な意味でのストック・オプション)を従業員等以外の者に同条以下の規定によって発行した場合と全く同じである(担税力にも差はない。)。その場合には,新株予約権者が予約権を行使したことによる権利行使利益について会社に損失が認識されることはない。そのことは,新株予約権(ストック・オプション)の行使のすべての場面において共通である。したがって,客観的にストック・オプションの権利行使利益を従業員等に対して労務提供の対価として支給するような法律関係ではなく,もちろん会社において主観的にもそのようなことは考えていない。 なお,ストック・オプションの行使に際して雇用下に留まることを条件として要求するのは,ストック・オプションをインセンティブとして,あるいは優秀な人材を引き留める手段として機能させるためにすぎないのであって,このような条件が付されているからといって,ストック・オプションの権利行使利益が会社から支給されるものであるとの結論を結びつけるのは論理の飛躍である(業務提携のために新株予約権を付与した場合において,その関係の維持・継続が行使の条件とされることがあるが,その場合も会社が提携先に権利行使利益を与えるというものではないことは明らかである。)。 (イ) ストック・オプションの行使に対応して,金庫株を譲渡する場合(自己株式方式)は,低額譲渡にはならない。ストック・オプションの行使に伴う売買は,予め定められたオプションの行使価格で行われるものであり,その時点で低額譲渡をした場合とは異なる。 すなわち,ストック・オプションの行使に伴う株式売買の予約は,既に権利付与日において行われて れたオプションの行使価格で行われるものであり,その時点で低額譲渡をした場合とは異なる。 すなわち,ストック・オプションの行使に伴う株式売買の予約は,既に権利付与日において行われているのであって,その予め約定された譲渡価額によって権利行使の日に譲渡することは当然のことである。法人が予め定められた譲渡価額によって譲渡することは,正常な取引条件によって行われたものとなるのであって,この場合,その権利行使の日の時価を持ち出して,低廉譲渡としていることは誤りである。低廉譲渡かどうかは,権利行使日の時価が基準となるのではなくて,権利付与の時価が基準となるのである。そして,ストック・オプション付与時に会社が権利行使価格で株式を付与することを約していることに着目すれば,その時点で付与会社は(少なくとも被付与者において条件を成就させ権利を行使する機会を持ち続けている限りにおいては)当該合意に拘束され自社株を任意の価格で処分することができなくなる。つまり,ストック・オプションの権利行使を受けた場合には予め定められた価格で売り渡さなければならない自社株を,「市場で売却しうる」とする仮定自体が誤っている。したがって,含み益たる権利行使利益を会社が権利行使時に被付与者に移転するということにはならない。 (ウ) ストック・オプションの行使に対応して,新株を発行する場合(新株引受権方式)には,有利な発行価額による第三者割当とはならない。 すなわち,上記自己株式方式の場合と同様,ストック・オプションの場合の権利行使利益は,あくまで被付与者が,先に定めた譲渡価額により権利行使することによって得た利益であって,付与会社がその権利行使の時点で他に譲渡すれば時価で譲渡できる株式の譲渡を受けたわけではない。新株発行方式によって被付 被付与者が,先に定めた譲渡価額により権利行使することによって得た利益であって,付与会社がその権利行使の時点で他に譲渡すれば時価で譲渡できる株式の譲渡を受けたわけではない。新株発行方式によって被付与者に新株を付与する場合には,付与会社は,予め取締役会等の決議等法令に定められた手続を経て認められた権利行使価格(新株発行の払込価格に相当する。)によって従業員等に対し新株を発行するものにすぎないのであるから,被付与者の権利行使時において付与会社が未発行の株式の含み益を有していたと理解することは困難である。 (エ) したがって,米国コンパック社が1審原告に本件権利行使利益を支給したと考えることはできない。」 9 同頁22行目「キ」を「ク」に改める。 10 同29頁6行目「上記(2)のとおりであり,その他の7つの所得区分にも該当しない。」を「上記(2)のとおりである。」に改める。 11 同頁18行目冒頭から同20行目末尾までを,以下のとおり改める。 「(4) 譲渡所得に該当することについて本件権利行使利益は,含み益,すなわちキャピタルゲインとしての性質を有する所得であるから,一時所得又は譲渡所得として課税されることになる。そして,オプションの行使の制限が解除された後は,たとえその譲渡が禁止されていたとしてもストック・オプションは「資産」と解する余地があり,また,一般的に譲渡所得の「譲渡」の概念が広くとらえられているから,ストック・オプションの権利行使利益に対して譲渡所得として課税することができる。 (5) 雑所得に該当しないことについて上記のとおり,本件権利行使利益は一時所得又は譲渡所得と解すべきであるから,本件権利行使利益は雑所得に該当しない。」 12 同頁21行目「(5)」 雑所得に該当しないことについて上記のとおり,本件権利行使利益は一時所得又は譲渡所得と解すべきであるから,本件権利行使利益は雑所得に該当しない。」 12 同頁21行目「(5)」を「(6)」に改める。 13 同31頁3行目冒頭から同4行目末尾までを,以下のとおり改める。 「 本件権利行使利益を給与所得として課税できる法律上の根拠はない。 仮に,ストック・オプションの権利行使利益の所得区分の解釈の変更が,法律の解釈を適正なものに変更するものであったとしても,約15年間もの長きにわたり課税庁が一時所得として指導してきたことにかんがみると,法律の解釈を課税庁が恣意的に変更することになるので,これは租税法律主義(憲法84条)に違反する。なお,本件では行政内部において,適正な解釈変更の手続を踏み,かつこれが課税庁内で周知徹底されていた形跡はなく,また,国民に対してその解釈変更の内容を告知していないから,1審被告の主張する平成10年の「給与所得」への課税庁の統一解釈というものは存在しない。 したがって,本件各更正処分は租税法律主義に反し違法である。」 14 同頁15行目冒頭から同32頁3行目末尾までを,以下のとおり改める。 「(1) 最高裁判所昭和62年10月30日第三小法廷判決・裁判集民事152号93頁(以下「最高裁昭和62年判決」という。)は,租税法律関係ににおいて信義則の法理が適用されるためには,少なくとも,①税務官庁が納税者に対し,信頼の対象となる公的見解を表示したこと,②納税者がその表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したこと,③後に,上記表示に反する課税処分が行われ,そのために納税者が経済的不利益を受けたこと,④納税者が上記表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したことにつき納税者の責めに その信頼に基づいて行動したこと,③後に,上記表示に反する課税処分が行われ,そのために納税者が経済的不利益を受けたこと,④納税者が上記表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したことにつき納税者の責めに帰すべき事由がないことという点を考慮し,租税法規の適用における納税者間の平等,公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存在すること要する旨判示しているところ(以下,上記事項を「信義則適用のための考慮事項」という。)本件においては,以下のとおり信義則適用のための考慮事項が満たされている。 ア税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したこと課税庁は,約15年間もの長きにわたって,本件と同種の事案に関して,一貫して一時所得として申告するように指導してきた。また,昭和60年ころから,国税庁の職員らの執筆による公刊物には,海外の親会社から国内の子会社の従業員等に付与されたストック・オプションの権利行使利益は一時所得に当たるとの見解が掲載されていた。課税庁は,これらの行為により,公的見解を表示していたものというべきである。納税者は,この課税庁の見解を信頼して,一時所得として申告してきたのであり,この信頼は保護されるべきである。 イ納税者がその表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したこと1審原告は,公的見解の表示を信頼し,その信頼に基づいて,平成8年分から平成12年分のストック・オプションの権利行使利益に係る所得税を一時所得とする公的見解を信頼して一定の経済的行為をした。 すなわち,1審原告は,平成8年分の所得税の確定申告をP1税理士に委任した。P1税理士は,平成 利行使利益に係る所得税を一時所得とする公的見解を信頼して一定の経済的行為をした。 すなわち,1審原告は,平成8年分の所得税の確定申告をP1税理士に委任した。P1税理士は,平成8年分の所得税の申告をするに当たり,平成9年3月7日,緑税務署において,当時の資産税特別調査官付P2に対して,ストック・オプションにつき時間をかけて説明し,権利行使利益の所得区分につき確認をしたところ,「譲渡所得」として申告手続をするよう指導を受けた。そこで,1審原告は,同年3月12日,上記権利行使利益を譲渡所得として所得税の申告したところ,P2は,P1税理士に対し,同月13日,上記権利行使利益は譲渡所得ではなく一時所得に該当することになったので来署して欲しい旨の連絡をした。そして,当時の同税務署資産税課第2部統括官P3は,P1税理士に対し,同月14日,一時所得に該当することを納税者によく説明をしてほしい,必要とあれば統括官より直接納税者に説明したいとの申出があった。P1税理士からその旨説明を受けた1審原告は,一時所得であることは,当時の1審原告の認識と一致したので,統括官から説明を受ける必要はないことを伝え,このような訂正が二度とないことをP3統括官に強く念押しをした上,同月17日,訂正確定申告書を提出した。その後権利行使利益を一時所得として申告したことについて問題を指摘されることもなかったため,平成9年分及び平成10年分についても同様の申告の手続をした。 平成8年分ないし平成10年分の所得税につき更正処分がなされた平成12年春ころまで,課税庁から本件権利行使利益が給与所得である旨の説明はなく,1審原告は,本件権利行使利益が給与所得であることを知るよしもなかった。その後,ストック・オプションの権利行使利益の所得区分を一時所得から給 課税庁から本件権利行使利益が給与所得である旨の説明はなく,1審原告は,本件権利行使利益が給与所得であることを知るよしもなかった。その後,ストック・オプションの権利行使利益の所得区分を一時所得から給与所得に突然変更することが他の納税者にも通知され始めたようであるが,法律の改正もなく,またその法的根拠等につき何らの説明もなされないままであったので,1審原告は,平成11年度分及び平成12年度分についても一時所得として確定申告をした。 また,そもそも,ストック・オプションを行使するか否か,いくら行使するかの判断に当たって,権利行使利益に対する税金の額がいくらになるかを検討するのは,経済人として当然の行動であるところ,1審原告は,上記の一時所得であるとの公的見解の表示を信頼し,この信頼に基づき納税すべき額を算出し,その額に基づき本件権利行使をするか否か判断して,ストック・オプションの権利行使をするという行動を取っている。 さらに,1審原告は,上記一時所得であるとの公的見解の表示を信頼し,この信頼に基づき,本件権利行使利益を若い起業家育成活動に提供するという行動及び必ず来る2,3年後の資金需要に備え本件権利行使利益の中から同活動の資金を確保するという行動を取っていた。 仮に,これらが信頼に基づく行動に当たらないとしても,1審原告は,公的見解の表示を信頼し,その信頼に基づいてストック・オプションの権利行使利益を一時所得として確定申告するという行動に出ているのである。しかも,その信頼の対象は,ストック・オプションの権利行使利益が一時所得か給与所得かという税務上の解釈であり,その信頼に基づく行動は確定申告という税務上の行為である。にもかかわらず,税務上の解釈という公的見解の表示を信頼し,この信頼に オプションの権利行使利益が一時所得か給与所得かという税務上の解釈であり,その信頼に基づく行動は確定申告という税務上の行為である。にもかかわらず,税務上の解釈という公的見解の表示を信頼し,この信頼に基づき税務上の行為をした1審原告が確定申告以外には何ら経済的活動をしていないからという理由だけで保護の対象から外される理由はない。 ウ後に,上記表示に反する課税処分が行われ,そのために納税者が経済的不利益を受けることになったこと1審原告は,1審被告から平成12年3月にいきなり過去3年分に遡って本税だけで合計1億7597万6500円の税額の支払いが命じられ,また,同年7月には,平成11年分の所得税について本税だけで5390万4600円の税額の支払いが命じられ,さらに,平成13年9月には平成12年分の所得税について本税だけで920万3000円の支払が命じられた。平成8年分ないし平成12年分の更正処分本税の合計額は2億3908万4100円である。 1審原告は,本件権利行使利益を若い企業家たちの育成のための活動資金に供していた。この活動を成功させるには,企業設立時の資金提供に加え,設立2,3年後に来る資金需要に応える必要があった。 つまり,追加援助ができることが,設立時の資金援助の前提なのである。そのため,1審原告は,設立の資金援助をした企業のため,資金の追加支援の準備をしていた。しかし,本件各更正処分により,追加援助のための準備金は追加の納税の原資となり,これらの企業に対する追加支援ができなくなった。そのため設立時に資金援助をした企業は,他人の手に渡る,債務超過となる,予定の事業を断念するなどの結果に終わった。 すなわち,1審原告は,単に追加支援ができなかったという損失だけではな め設立時に資金援助をした企業は,他人の手に渡る,債務超過となる,予定の事業を断念するなどの結果に終わった。 すなわち,1審原告は,単に追加支援ができなかったという損失だけではなく,投資した企業を失い,設立時の資金提供分の損失も被った。 したがって,1審原告は,経済的不利益を受けた。 エ納税者が上記表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないこと1審原告には,上記表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて責めに帰すべき事由がない。 オ納税者間の平等・公平について(ア) 本件において「納税者間の平等・公平」を理由に信義則の適用を否定するとすれば,それは権利の行使・救済は最終的には裁判所で実現するというわが国の司法制度そのものを否定するに等しい。 権利行使期間内に権利行使をしなかった納税者が裁判上救済されなくなる制度(国税通則法77条)がある以上,この期間を遵守して提訴に至った1審原告と,権利行使期間内に提訴をしなかった他の納税者との間に裁判の結果として異なる取扱いが生ずることは法の予定するところである。 (イ) 1審被告は信義則に違反する違法な税務行政を行ってきたので,権利行使期間内に提訴をしていない他の納税者に対しても過払い分について還付するという方策を講じれば,そもそも平等・不平等という問題は生じなくなる。 (ウ) 平成7年以前にストック・オプションの権利行使利益を一時所得として申告・納税した者は,何ら課税庁から処分を受けることなく一時所得の税額を納付したにとどまっている。これらの者との平等・公平を考えれば,平成8年以降に ストック・オプションの権利行使利益を一時所得として申告・納税した者は,何ら課税庁から処分を受けることなく一時所得の税額を納付したにとどまっている。これらの者との平等・公平を考えれば,平成8年以降にストック・オプションの権利行使をした者についても,ストック・オプションの権利行使利益を一時所得として取り扱うことが,むしろ他の納税者との平等・公平を図ることになる。 (エ) 平成8年以降にストック・オプションの権利行使利益を一時所得として申告・納税した者でも,大多数の者は1審原告らと異なり課税庁から過去に遡った処分を受けずに済んでいる。これらの者との平等・公平を考えれば,平成8年以降にストック・オプションの権利行使をした者についても,ストック・オプションの権利行使利益を一時所得として取り扱うことが,むしろ他の納税者との平等・公平を図ることになることは明らかである。そればかりか,このように課税庁から過去に遡って処分を受けた者がごく一部であり,課税庁のねらい打ちであったという現実を直視すれば,そもそも,1審原告ないし同種ストック・オプション訴訟の納税者に信義則の適用をすると他の納税者の平等・公平を害するという議論自体が当を得ていない。 カ以上のとおり,1審原告が信義則適用のための考慮事項をすべて満たしていることは明らかであり,租税法規の適用における納税者間の平等,公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する。 (2) 予備的主張としての信義則違反本件訴訟は,課税庁が約15年にもわたって一時所得として課税し,また,所得税質疑応答集にも,更に税務相談においても同様の指導をしてきた事案であるから,昭和62年 張としての信義則違反本件訴訟は,課税庁が約15年にもわたって一時所得として課税し,また,所得税質疑応答集にも,更に税務相談においても同様の指導をしてきた事案であるから,昭和62年最高裁判決における信義則適用のための考慮事項のすべてを満たさない事案であったとしても,以下のような諸般の事情を考慮して,信義則を適用すべきである。 すなわち,本件訴訟においては,課税庁は信義則の信頼の対象となる自らの行為について確固たる認識を持っていたし,それは積極的な作為として行われたものである。また,本件訴訟においては,納税者の責めに帰すべき事由は全くない。さらに,本件訴訟は,ストック・オプションの権利行使利益が一時所得か給与所得かという解釈に争いがあった事案であるから,確立した法制度と真っ向から対立するような結果は全く引き起こされない。したがって,本件訴訟は昭和62年最高裁判決の事案とは異にしているから,同判決における信義則適用のための考慮事項のすべてを満たさない事案であったとしても,諸般の事情を考慮して,本件事案において信義則を適用しなければ法の正義に反すると認められるような場合には,信義則が適用されるというべきである。 仮に,昭和62年最高裁判決が租税法律関係に一般的に適用される適用要件であるとしても,信義則適用のための考慮事項が帰納的に導かれるものであること,信義則が従来の法と現実社会の乖離の是正のための最終手段であること等からすると,その要件は変容することが予定されている。そこで,昭和62年最高裁判決の信義則適用のための考慮事項につき,仮にすべての要件を満たさない場合であっても,諸般の事情を一つひとつ衡量した上で,信義則の適用をすべきかどうかを判断するべきである。 (3) したがって,1審被 適用のための考慮事項につき,仮にすべての要件を満たさない場合であっても,諸般の事情を一つひとつ衡量した上で,信義則の適用をすべきかどうかを判断するべきである。 (3) したがって,1審被告が,ストック・オプションの権利行使利益について,従来の指導と異なる見解に立ち,給与所得に該当するとしてした本件各更正処分は,信義則に反し,違法である。」 15 同32頁5行目冒頭から同33頁11行目末尾までを,以下のとおり改める。 「(1) 租税法における信義則の適用について信義則は,法の一般原則として,租税法の分野にも適用されるが,租税法律主義の下に公平な課税を実現しなければならない租税法の分野における信義則の法理の適用は,民法その他の私法を私人間に適用する場合とは事情を異にする。租税法においては,信義則の法理を広く適用し,課税庁の活動を信頼して行動した私人の立場を考慮し,適法な課税処分を取り消すことになると,租税法規に違反する事態を容認することになり,租税法規の平等な適用の要請に背く結果となる。 すなわち,租税法は,強行法であるから,課税要件が充足されている限り,租税行政庁には租税減免の自由はなく,また,租税を徴収しない自由もなく,法律で定められたとおりの税額を徴収しなければならない(合法性の原則)。このように解さなければ,租税法の執行に当たって不正が介在するおそれがあるのみでなく,納税者によって取扱いが区々になって税負担の公平が維持できなくなり,租税公平主義(税負担は,国民の間に担税力に即して公平に配分されなければならないという原則)に反する結果となる。 したがって,租税法の分野にも信義則の法理が適用されて租税法規に適合する課税処分が違法として取り消される場合があるとしても,それは,上 ければならないという原則)に反する結果となる。 したがって,租税法の分野にも信義則の法理が適用されて租税法規に適合する課税処分が違法として取り消される場合があるとしても,それは,上記の合法性の原則や租税公平主義に反する結果が生じることを看過してでも,すなわち,納税者間における課税の平等,公平を犠牲にしてまでも,なお当該納税者の信頼を保護しなければならないような特別の事情が存在する場合に限定されるというべきである。 (2) 本件においては,以下のとおり最高裁昭和62年判決の信義則適用のための考慮事項は満たされておらず,したがって,本件各課税処分は信義則に違反するものではない。 ア税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したとはいえない。 (ア) 税務官庁による「公的見解の表示」は,信義則の法理の適用の前提として,「租税法規の適用における納税者間の平等,公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合」の考慮要素であることからすると,それらの表示は,私的なものであってはならず,行政活動の一環としてなされたものでなければならないし,原則として,一定の責任ある立場の者の正式の見解の表示でなければならないと考えられる(納税相談における税務職員の助言や調査担当職員の申告指導は含まない。)。 ① 所得税質疑応答集について所得税質疑応答集にはストック・オプションに係る所得が一時所得であるとの記載があり,これは当時の課税庁の認識と一致しているが,所得税質疑応答集は,あくまでも執筆者の私的見解を著した著作物であって,税務官庁による公的見解を表示したもの ションに係る所得が一時所得であるとの記載があり,これは当時の課税庁の認識と一致しているが,所得税質疑応答集は,あくまでも執筆者の私的見解を著した著作物であって,税務官庁による公的見解を表示したものではなく,公的見解の表示には当たらない。 1審被告が本件訴訟と同種事件の訴訟において「これが私的見解にとどまると主張するものではない。」と認否した趣旨は,所得税質疑応答集が,課税庁の見解を知るための一助として利用されることを予定した著作であることを踏まえたもので,それ自体をもって公的見解の表示と自認したものではない。 なお,「回答事例による所得税質疑応答集」の平成6年版までは,権利行使利益について,通常,一時所得として課税されますと記載されているものの(乙11号証の①ないし⑦),本件紛争年である平成8年版(平成8年6月発行)では,本件に相当する事例は削除され(乙11号証の⑧),さらに平成10年版(平成10年7月発行)では,権利行使利益は給与所得として課税されますと記載されている(乙11号証の⑨)。 ② 緑税務署における申告相談について税務相談における税務職員の助言・回答それ自体は,公的見解の表示に当たるとは解されない。なお,このような場合の納税者の保護は,専ら過少申告加算税の賦課に関する「正当な理由」(国税通則法65条4項)の問題として図られることが予定されているのである。仮に,このような場合に信義則違反によって本税に係る課税処分が違法として取り消されるとすれば,もはや過少申告加算税に係る「正当な理由」を問題とする余地はないことになる。 ③ 平成11年分及び平成12年分所得税の申告においては既に給与所得に当たるとの税務官庁 るとすれば,もはや過少申告加算税に係る「正当な理由」を問題とする余地はないことになる。 ③ 平成11年分及び平成12年分所得税の申告においては既に給与所得に当たるとの税務官庁の認識が示されていたこと1審原告に対しては,平成11年分確定申告以前における,平成11年11月から行った平成8年分ないし平成10年分各更正処分に係る調査の際に,本件権利行使利益の所得区分は給与所得であるとの課税庁の見解を明確に伝えた上で,平成12年3月13日付けで当該各年分の更正処分を行っているのであり,さらに,平成12年分確定申告以前においては,平成8年分ないし平成10年分各更正処分に係る異議申立てに対する平成12年6月29日付け異議決定において,本件権利行使利益が給与所得に該当する旨を明示し,また,平成12年7月5日付けで本件権利行使利益の所得区分を給与所得とする平成11年分更正処分を行っている。 したがって,1審原告は,平成11年分及び平成12年分確定申告書の提出以前において,課税庁が本件権利行使利益の所得区分を給与所得であるとの見解に立つことを十分認識しており,また,1審被告も,上記の各処分などにより,本件権利行使利益について,その所得区分が給与所得であるとの課税庁の見解を1審原告に明確にしている。 それにもかかわらず,1審原告は,本件ストック・オプションの本件権利行使利益を一時所得として平成11年分及び平成12年分の所得税の確定申告を行っており,少なくとも平成11年分及び平成12年分所得税については,1審原告の主張する「公的見解の表示」がないことは明らかである。 イ納税者が上記表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したとはいえない。 11年分及び平成12年分所得税については,1審原告の主張する「公的見解の表示」がないことは明らかである。 イ納税者が上記表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したとはいえない。 最高裁昭和62年判決の信義則適用のための考慮事項の「信頼に基づいて行動したこと」とは,単なる申告行為以外の経済的行動を指すものである。 1審原告の主張は,ストック・オプションの権利行使をした時点で,権利行使利益の所得区分が一時所得と認識していたというにとどまり,権利行使利益の所得区分が一時所得と信頼したからこそ,権利行使したというものではないから,ストック・オプションの権利行使は,「信頼に基づく行動」には当たらない。そもそも,ストック・オプションに係る権利行使利益の発生の有無及びその多寡は株価の変動に左右され,必ず利益を得られることが保証されているわけではなく,その権利行使には期間制限もあることからすると,権利行使利益が一時所得でなく給与所得として課税されるのであれば,権利行使しなかったであろうという関係に立つものとはいえない。 また,1審原告は,1審原告の平成8年分ないし平成10年分の所得税について,ストック・オプションの権利行使利益が給与所得であるとして更正処分を受け,課税庁が権利行使利益は給与所得であるとの見解に立つことを認識していながら,その後もなお,ストック・オプションの権利行使利益を一時所得として平成11年分及び平成12年の確定申告を行っている。 したがって,1審原告が納税者として課税庁の表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したとはいえない。 ウ課税処分が行われたことにより1審原告は経済的不利益を受けていない。 したがって,1審原告が納税者として課税庁の表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したとはいえない。 ウ課税処分が行われたことにより1審原告は経済的不利益を受けていない。 (ア) 納税者が,公的見解の表示を信頼して納税したが,その後,正しい税法解釈に基づく課税処分が行われた場合,経済的不利益に当たるのは,課税処分により新たに納税しなければならないことではなく,当該表示を信頼しなければ行わなかった経済的活動を行ったことに伴う経済的損害を指すものである。なぜなら,課税庁が誤った公的見解を表示したからといって,租税法規によって客観的に定まっている税額が減少するいわれはなく,その後に租税法規に適合する課税処分が行われたことにより税額が増加したからといって,その合計額は本来納付すべき税額にすぎない以上,増差税額を課されること自体が,納税者間の平等,公平という要請を犠牲にしてまで保護しなければならないような利益とはいえないからである。 (イ) 1審原告の主張は,まさに課税処分により税額が正しいものに増加されたことをもって経済的不利益と主張しているにすぎない。課税処分により税額が増加したこと自体は信義則において考慮しなければならない「経済的不利益」に当たらない。そして,1審原告は,それ以上に具体的な経済的損害について主張していないから,結局,信義則適用のための考慮事項としての経済的損害が存在することについての主張・立証は全くない。 エ最高裁昭和62年判決の信義則適用のための考慮事項の「特別の事情」を判断する際に加えて考慮されるべき点について本件のような海外親会社から付与されたストック・オプションの権利行使利益に対する課税上の取扱いについては,平成9 「特別の事情」を判断する際に加えて考慮されるべき点について本件のような海外親会社から付与されたストック・オプションの権利行使利益に対する課税上の取扱いについては,平成9年分所得税の確定申告期(平成10年2月ないし3月)以前における現実の取扱いは,必ずしも統一されてはおらず,多くの場合には一時所得として取扱いを容認していたが,課税庁が米国におけるストック・オプション制度の概要を正しく理解して,権利行使利益が一時所得ではなく給与所得であるとの共通の認識が形成され,統一的な取扱いがされるに至ったのは,平成10年分所得税の確定申告期以降である(乙52号証ないし55号証)。 すなわち,昭和60年当時,ストック・オプション制度はわが国には存在せず,米国においてさえ本格的に導入されるようになったのは昭和55年(1980年代)以降であり(乙3号証),ストック・オプションを付与されるのも外資系企業に勤務する従業員等のみに限られていたことから,課税庁において,米国のストック・オプション制度に関する正確な認識に乏しく,制度の本質を十分理解できなかったという事情があり,そのため権利行使利益について一時所得としての申告を容認していた時期があった。その後,平成7年11月にわが国において初めてストック・オプションが導入され,平成9年になってから本格的に導入され,それに伴って,ストック・オプションの課税関係においても,ストック・オプションの権利行使利益を給与所得と正しく認識し,平成10年分所得税の確定申告期以降に統一的な取扱いがなされるようになった。 このように課税庁において,ストック・オプションの課税関係を統一的に執行するまでにある程度の時間を要するのもやむを得なかったというべきであり,反面,スト されるようになった。 このように課税庁において,ストック・オプションの課税関係を統一的に執行するまでにある程度の時間を要するのもやむを得なかったというべきであり,反面,ストック・オプションを付与された納税者は,当然のことながら,ストック・オプション制度の本質を十分承知していたものと認められる。 本件における信義則適用のための考慮事項を検討するに当たっては,このようなストック・オプションの課税関係における特殊性を考慮されるべきである。 (3) 1審原告の信義則に関する主張に対する反論ア信義則の法理が適用される場合には,合法性の原則や租税公平主義に反する結果となるから,その場合に犠牲になる「租税者間の平等,公平という要請」は,単に1審原告と同様にストック・オプションの権利行使利益を申告しなければならない納税者との間の平等,公平ではなく,租税法規に従って正しく納税申告している1審原告以外の納税者との間の平等,公平を考えなければならない。 また,給与所得として課税しなければならない者について一時所得という誤った取扱いにしてこそ平等,公平であるというのは本末転倒である。そして,1審被告は,平成8年分以降の所得税について権利行使利益を一時所得として申告したまま課税漏れとなった納税者が全く存在しないと主張するものではないが,課税庁としては,給与所得との方針の下に,調査して可能な限り課税処分を行っているのであって,1審原告がいうような「ごく一部の者に対するねらい打ち」などということはない。1審原告が,課税処分を受けた納税者が全体の一部にすぎないなどと断定する根拠がまったく不明である。租税法規の正しい解釈に従って本来あるべき課税処分をすることができるのに,これをしないとすることが合理的な 原告が,課税処分を受けた納税者が全体の一部にすぎないなどと断定する根拠がまったく不明である。租税法規の正しい解釈に従って本来あるべき課税処分をすることができるのに,これをしないとすることが合理的な区別であるとは到底いえない。 イ 1審原告は,最高裁昭和62年判決の信義則適用のための考慮事項に該当する事実が存在しないとしても,本件においては信義則が適用されると主張するが,独自の見解を論じるものにすぎず失当である。」 16 同33頁14行目冒頭から同17行目末尾までを,以下のとおり改める。 「(1) 国税通則法65条4項の「正当な理由」についてア過少申告加算税は,申告納税方式による国税において,納税者の申告が納税義務を確定させるために重要な意義を有するものであることにかんがみ,申告に係る納付すべき税額が過少であった場合に,当初から適法に申告・納税した者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正することにより,申告納税制度の信用を維持し,もって適正な期限内申告の実現を図ろうとするものである。 国税通則法65条4項の「正当な理由」がある場合とは,過少に税額を申告したことが納税者の責めに帰することができない客観的な障害に起因する場合など,当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり,納税者に過少申告加算税を課すことが不当若しくは酷になる場合を意味するものであって,その過少申告が納税者の税法の不知又は誤解であるとか,納税者の単なる主観的な事情に基づくような場合までを含むものではない。 そして,上記「正当な理由」の有無の判断に当たっては,(ア)過少申告をした納税者に「正当な理由」に該当する個別具体的な事実が存在するか,(イ)納税者の過少申告と上記「正当な理由」に該当する個別具体的な事実 ,上記「正当な理由」の有無の判断に当たっては,(ア)過少申告をした納税者に「正当な理由」に該当する個別具体的な事実が存在するか,(イ)納税者の過少申告と上記「正当な理由」に該当する個別具体的な事実間の因果関係が存在するか,(ウ)過少申告行為が納税者の責めに帰することができないと評価できるかという点が重視される。 イ 1審原告は,平成11年分確定申告及び平成12年分確定申告について,課税庁の過去の取扱いに基づいて一時所得としての申告をしているわけではなく,それとは無関係に,自らの独自の判断に基づいて本件権利行使利益を一時所得として申告しているのであるから,課税庁が過去にストック・オプションに係る権利行使利益を一時所得として取り扱っていたことを重視することはできない。 東京国税局課税第一部長の「回答事例による所得税質疑応答集」平成6年版までは,一時所得に該当すると記載されていたが,同平成8年版では,所得区分に関する記載がなくなり,同平成10年版(乙11号証の⑨)からは,給与所得に該当する旨記載されるに至っているが,1審原告の平成11年分確定申告書及び平成12年分確定申告書の提出はそれ以降のものである。 1審原告に対して一時所得と指導した平成8年分については,過少申告加算税を賦課していないので,平成11年分及び平成12年分の所得税に係る加算税である本件各賦課決定処分の「正当な理由」に判断において考慮すべきものではない。 ウもともと一時所得とする課税実務の取扱い自体,直接定めた法令や通達によるものではなかったし,また,明文の規定を設けて取扱いを明示しなかったからといって,給与所得としての取扱いを明らかにしたにもかかわらず,国税通則法65条4項の「正当な理由」を認めて過少申告加算税 によるものではなかったし,また,明文の規定を設けて取扱いを明示しなかったからといって,給与所得としての取扱いを明らかにしたにもかかわらず,国税通則法65条4項の「正当な理由」を認めて過少申告加算税を賦課しないとすれば,適正な期限内申告の実現を図るという過少申告加算税の趣旨を全うすることができない。 課税庁とは異なる租税法規の解釈に基づく申告であっても,「一応の根拠」がある限り,国税通則法65条4項の「正当な理由」が認められるというのでは,納税者が課税庁と異なる法解釈に基づいて申告をしてきた場合,課税庁は,当該法解釈の「一応の根拠」の有無に応じて,過少申告加算税を賦課すべきか否かを判断しなければならないことになるが,それは課税庁に不可能を強いるものである。1審原告の行った一時所得としての申告が租税法規の解釈を誤ったものであり,かつ,平成11年分確定申告及び平成12年分確定申告について,1審原告は,一時所得としての申告は誤りで,給与所得としての申告が正しいということを十分に認識できる状況にあった。 納税申告の主要な内容である課税標準等及び税額等は,国税に関する法律により既に客観的な存在として定まっているのであって,納税申告はこれを確定させるものであり,所得区分の解釈も課税標準等及び税額等に直接影響を及ぼすものであることからすると,納税者には,正しい税法の解釈に基づいて算出された税額の申告が期待されているのであり,一時所得としての確定申告が所得税法における所得区分に関する解釈が異なるというに止まるものではない。 エ 1審原告は,平成11年分及び平成12年分の所得税について,ストック・オプションの権利行使利益に関する所得区分が一時所得か給与所得か見解の対立がある中で,課税庁が本件権利行使利益を給 エ 1審原告は,平成11年分及び平成12年分の所得税について,ストック・オプションの権利行使利益に関する所得区分が一時所得か給与所得か見解の対立がある中で,課税庁が本件権利行使利益を給与所得として取り扱うことを十分知りつつ,それでもなお,本件権利行使利益は一時所得であるとの誤った見解に固執して申告している。1審原告は,平成11年分確定申告及び平成12年分確定申告時点において,課税庁の取扱いが明らかでなかったために独自の判断に基づいて申告せざるを得なかったものでも,また,当時申告時の課税庁の取扱いや指導に基づいて申告したが,その後課税庁の取扱いが変更されたというものでもない。 すなわち,平成11年11月から行った平成8年分ないし平成10年分各更正処分に係る調査の際,調査担当者が本件ストック・オプションの付与状況等の具体的事実につ基づき,1審原告に対し,本件権利行使利益の所得区分は給与所得であるとの課税庁の見解を明確に伝えたが,1審原告は当該年分の修正申告書を提出する意思はないとのことであったので,平成12年3月13日付けで当該各年度の更正処分を行った。さらに,平成12年分確定申告以前においては,平成8年分ないし平成10年分各更正処分に係る異議申立てに対する平成12年6月29日付け異議決定において,本件権利行使利益が給与所得に該当する旨を明示し,また,平成12年7月5日付けで本件権利行使利益の所得区分を給与所得とする平成11年分更正処分を行っている。このように平成12年3月14日の平成11年分確定申告書の提出及び平成13年3月13日の平成12年分確定申告書の提出以前において,1審原告は本件権利行使利益の所得区分が給与所得に該当することを十分認識しており,また,1審原告も,上記各処分などにより,本件権利行使利益につ 年3月13日の平成12年分確定申告書の提出以前において,1審原告は本件権利行使利益の所得区分が給与所得に該当することを十分認識しており,また,1審原告も,上記各処分などにより,本件権利行使利益について,その所得区分が給与所得であるとの課税庁の見解を1審原告に明確に示している。 オそうすると,1審原告は,課税庁が本件権利行使利益について給与所得であるとの取扱いを行っていることを熟知しながら,あえて課税庁の取扱いと異なり,本件権利行使利益を一時所得とする自己の見解に従って,平成11年分確定申告及び平成12年分確定申告を行ったというべきである。 したがって,1審原告が,平成11年分確定申告及び平成12年分確定申告の際に,本件権利行使利益を給与所得として申告しなかったことが真にやむを得ない理由によるものであり,1審原告に過少申告加算税を課すことが不当若しくは酷になる場合であるとはいえず,国税通則法65条4項の「正当な理由」があるとは認められない。 (2) 本件各加算税賦課決定処分について1審被告は,1審原告が平成11年分及び平成12年分の各更正処分により新たに納付すべきこととなった税額を基礎として,国税通則法65条1項,2項の規定に基づいて算出した金額の過少申告加算税を賦課決定したものであり,本件各加算税賦課決定処分はいずれも適法である。」 17 同頁19行目冒頭から同20行目末尾までを,以下のとおり改める。 「(1) 国税通則法65条4項の「正当な理由」について上記のとおり1審被告がなした本件各更正処分は信義則に違反する課税処分であるから,国税通則法65条4項所定の「正当な理由」があるのは当然である。そして,課税庁は,少なくとも約15年もの長きにわたり,多く のとおり1審被告がなした本件各更正処分は信義則に違反する課税処分であるから,国税通則法65条4項所定の「正当な理由」があるのは当然である。そして,課税庁は,少なくとも約15年もの長きにわたり,多くの事案で,本件権利行使利益を一時所得として扱ってきたこと,海外親会社から子会社の従業員等に付与されたストック・オプションの課税に関しては明文規定が存在しないこと,これまでのストック・オプションの行使利益を給与所得とした裁判例はなかったことから,1審原告には国税通則法65条4項の「正当な理由」に該当する事情がある。 (2) 本件各加算税賦課決定処分について本件各加算税賦課決定処分は,上記のとおり違法な平成11年分及び平成12年分の各更正処分に基づいてされたものであるから,違法である。」第7 当裁判所の判断1審第1・第2事件のうち,1審原告の平成8年分から平成12年までの所得税に係る各更正処分の取消請求はいずれも棄却し,1審第2事件のうち平成12年分の所得税に係る過少申告加算税賦課決定処分の取消請求を認容すべきであり,1審第1事件のうち平成11年分の所得税に係る過少申告加算税賦課決定処分については,過少申告加算税額12万9000円を超える部分が不当であるので,その限度でこれを取消すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり付加・補正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第7 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決35頁9行目「一時所得」の次に「又は譲渡所得」を加える。 2 同頁12行目「一時所得」の次に「又は譲渡所得」を加える。 3 同頁21行目冒頭から同24行目末尾までを削る。 4 同36頁15行目「(同法28条1項),」の次に「譲渡所得とは,「資産の譲渡(建物又は構築 目「一時所得」の次に「又は譲渡所得」を加える。 3 同頁21行目冒頭から同24行目末尾までを削る。 4 同36頁15行目「(同法28条1項),」の次に「譲渡所得とは,「資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得」と規定している(同法33条1項)。」を加える。 5 同頁23行目「一時所得」の次に「又は譲渡所得」を加える。 6 同50頁25行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。 「(6) 課税対象及び課税時期についてア 1審原告は,所得税法では権利確定主義が採用されているが,本件ストック・オプション自体は,その行使に制約があるとしても,付与時点において法律上1審原告の権利として所有が確定しており,また権利行使が可能の時点では,1審原告がその利得を自由に管理支配できるので経済的価値があるから,本件ストック・オプションは付与された時点で所得税法36条1項所定の「金銭以外の物又は権利」に該当し,更に同条2項によれば,1審原告が日本コンパック社から交付された本件ストック・オプションは,その権利の取得時における価額が所得となると主張する。 しかし,所得税金額につき規定した所得税法36条1項は,「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には,その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」と定め,「収入した金額による」としていないことからすると,同法は,現実の収入がなくとも,その原因たる権利が確定的に発生した場合に 合には,その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」と定め,「収入した金額による」としていないことからすると,同法は,現実の収入がなくとも,その原因たる権利が確定的に発生した場合には,その時点で所得の実現があったものとして,課税所得を計算するという,権利確定主義を採用しているものと解される。そして,何らかの経済的利得が所得税法28条1項所定の給与所得に当たるというためには,当該経済的利得が同法にいう「所得」,すなわち担税力を増加させる経済的利得に該当することが必要である。ところが,ストック・オプションは,自社株式を一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で取得することができる権利であるから,株式の売買の一方の予約又はこれに類似する法律関係から発生した予約完結権であり,それ自体は,株式の引渡しを請求できる権利ではなく,株式譲渡契約を成立させることができる権利にすぎないのであり,付与会社から被付与者にこれが付与された後は継続的勤務を条件とするものであって,原則として譲渡が禁止され,換価可能性もないものである。したがって,このように換価可能性がないストック・オプションを付与されただけでは,いまだ納税資金は確保されておらず,納税が容易になったともいえないから,ストック・オプション自体が所得税の担税力を増加させる経済的利益たる「所得」に該当しその付与時に現実の収入があったとみることはできないし,その付与時に現実の収入の原因となる権利を被付与者が取得したということもできない。 イもっとも,1審原告は,ストック・オプション付与契約により被付与者が付与会社から与えられたのは,将来の一定時点以降,自由に権利行使して株式を取得することができるという権利(オプション権)であって,仮に親会社から付与されたストック・オプションが給与所 により被付与者が付与会社から与えられたのは,将来の一定時点以降,自由に権利行使して株式を取得することができるという権利(オプション権)であって,仮に親会社から付与されたストック・オプションが給与所得に該当するという見解を肯定したとしても,その権利は,付与時の価格により評価すべきものであり,また,課税実務上ストック・オプションの権利行使前において相続が開始した場合の相続税について,相続時における株価と権利行使価格との差額をもってストック・オプションの価格と評価されていることや,擬似ストック・オプションのうち,いわゆる成功報酬型ワラントについて,ワラントの付与時の課税が採用されていることからすれば,ストック・オプション自体も経済的な価値を有するものとして課税の対象となると主張する。 しかし,相続人が被相続人の有していた権利行使可能なストック・オプションという権利を相続した場合,相続時における株価と権利行使価格との差額について相続税を課税する扱いであるが(財産評価基本通達193-2),相続税は相続によって取得した財産に対して課税するものであり,所得税は実現した所得(価値の増加)に対して課税するものであるから,両者は課税対象を異にしているというべきである。したがって,相続税法上ストック・オプションが課税対象とされたからといって,所得税法上も課税対象とされなければならないものではない。 また,擬似ストックオプション(会社が,分離型の新株引受権付社債(平成13年法律第128号による改正前の商法341条ノ8第2項5号)を発行した後,新株引受権と社債を分離して,市場から新株引受権証券(ワラント。同法341条ノ3)を買い戻して従業員等に支給するものである。)は,従業員等が,その新株引受権証券を取得した時点で,当該新株引受権の価 ,新株引受権と社債を分離して,市場から新株引受権証券(ワラント。同法341条ノ3)を買い戻して従業員等に支給するものである。)は,従業員等が,その新株引受権証券を取得した時点で,当該新株引受権の価額相当部分について給与所得として課税されるが,擬似ストックオプションに利用されるワラント自体は,有価証券上の権利として,本来的に譲渡性があり,市場における経済的価値を有するため,担税力の点において,証券の発行がなく譲渡の余地がないストック・オプションとは異なることが明らかである。 ウそうすると,ストック・オプションについては,権利行使利益が現実収入として課税対象となるべきところ,その権利行使利益は権利行使時にその価額が確定するので,課税時期は権利行使時である。したがって,ストック・オプションについては,所得税法の解釈上,権利行使時より前の時点での所得税課税はできないというべきである。 (7) 譲渡所得及び一時所得に該当しないことについてア 1審原告は,本件権利行使利益は,含み益,すなわちキャピタルゲインとしての性質を有する所得であり,オプションの行使の制限が解除された後は,たとえその譲渡が禁止されていたとしてもストック・オプションは「資産」と解する余地があり,また,一般的に譲渡所得の「譲渡」の概念が広くとらえられているから,ストック・オプションの権利行使利益に対して譲渡所得として課税することができると主張する。 しかし,本件権利行使利益は,上記のとおりストック・オプションによる権利を行使して付与会社から取得した株式につき,その時価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益であるから,これが譲渡所得に当たらないことは明らかである。 イ上記のように,本件権利行使利益は,給与所得と解され,したがって,一時所得に該当する 時価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益であるから,これが譲渡所得に当たらないことは明らかである。 イ上記のように,本件権利行使利益は,給与所得と解され,したがって,一時所得に該当すると解することはできない。」 7 同52頁2行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。 「 もっとも,1審原告は,仮にストック・オプションの権利行使利益の所得区分の解釈の変更が,法律の解釈を適正なものに変更するものであったとしても,約15年間もの長きにわたり課税庁が一時所得として指導してきたことにかんがみると,法律の解釈を課税庁が恣意的に変更することになるので,これは租税法律主義に違反すると主張する。 しかし,後記4(2)認定のとおり国税庁及び各課税庁は,ストック・オプションの権利行使利益について,昭和60年ころ以降一時所得に該当するものとして取り扱ってきたものの,平成10年分の所得税法の確定申告期以降は,これを給与所得として課税するとの統一的処理をするに至っているが,ストック・オプションの権利行使利益に対する課税は所得税法に基づくものであって,上記解釈の変更は実質的に新たな立法をするものではないから,租税法律主義に違反するものではないというべきである。」 8 同頁17行目から18行目にかけて「乙11,14号証」を「乙11号証の①ないし⑨,14号証,47号証,48号証,52号証ないし56号証」に改める。 9 同54頁14行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。 「 また,そもそも,付与会社のストック・オプションに係る権利行使利益の発生の有無及びその多寡は,当該会社の業績,一般的な経済状況,株式市場などの諸要因による株価の変動に左右され,必ず利益を得られることが保証されているわけではなく,また,その被付与者は権利行使を義務づけ 生の有無及びその多寡は,当該会社の業績,一般的な経済状況,株式市場などの諸要因による株価の変動に左右され,必ず利益を得られることが保証されているわけではなく,また,その被付与者は権利行使を義務づけられないものの,当該権利行使には期間制限もあることに照らすと,権利行使利益が一時所得でなく給与所得として課税されるのであれば,権利行使しなかったであろうという関係に立つものではないというべきであるから,1審原告の主張は,その前提を欠いており,理由がない。 しかも,1審原告は,上記認定のとおり,平成11年9月ころ,緑税務署の税務職員から,本件権利行使利益の所得区分は給与所得であるとの連絡を受けたのであるから,平成11年分及び平成12年分確定申告書の提出以前において,課税庁が本件権利行使利益の所得区分は給与所得であるとの見解に立つことを認識していたにもかかわらず,本件ストック・オプションの本件権利行使利益を一時所得として平成11年分及び平成12年分の所得税の確定申告を行ったものである。したがって,少なくとも平成11年分及び平成12年分所得税の各確定申告については,1審原告の主張する「公的見解の表示」がないことは明らかである。 さらに,1審原告は,予備的主張として,最高裁昭和62年判決の信義則適用のための考慮事項に該当する事実がないとしても,信義則の法理を適用すべき特別の事情があると主張するが,これを裏付ける具体的な事情を認めるに足りる証拠はないから,これを採用することはできない。」 10 同56頁22行目「ところである。」の次に「そして,平成11年9月ころ,1審原告は,緑税務署の税務職員から本件権利行使利益の所得区分は給与所得であるとの連絡を受けたが,本件権利行使利益の所得区分につき課税庁がこのように解釈を変更するについて,1審原告が具体 年9月ころ,1審原告は,緑税務署の税務職員から本件権利行使利益の所得区分は給与所得であるとの連絡を受けたが,本件権利行使利益の所得区分につき課税庁がこのように解釈を変更するについて,1審原告が具体的に合理的な説明を受けたと認めうる証拠はなく,更に課税庁側も上記ストック・オプションの権利行使利益の所得区分の運用の変更を規則,通達等により明示することを怠っていたものである。」を加える。 11 同57頁17行目冒頭から同58頁14行目末尾までを,以下のとおり改める。 「(4) そうすると,平成11年分の所得税に係る賦課すべき過少申告加算税は,同年分の更正処分により新たに納付すべき税額(原判決別紙課税根拠表のとおり更正処分に係る納付すべき税額1億0997万9300円から確定申告に係る納付すべき税額5607万4700円を控除した額)から,1審原告が一時所得として申告した権利行使利益額(1審原告は,所得税法34条3項,69条1項及び22条2項2号の規定を適用した後の一時所得の額として,1億6111万4629円を申告したものであるところ,同法69条1項によって一時所得の金額から控除した額は,不動産所得に係る損失額4384万9765円から給与所得の金額14万0200円及び雑所得の金額438万5176円を控除した3932万4389円と認められ,これを前提に,1審原告が申告の際に基礎とした権利行使利益額は,上記各規定適用前の3億6219万3847円と算出される。)を給与所得として計算した場合に新たに納付すべき税額(同計算に係る納付すべき税額1億0868万3100円(計算過程は本判決別表のとおり)から確定申告に係る納付すべき税額5607万4700円を控除した額)を控除し,控除後の額である120万9000円(国税通則法118条3項適用後のもの)に100分の10 (計算過程は本判決別表のとおり)から確定申告に係る納付すべき税額5607万4700円を控除した額)を控除し,控除後の額である120万9000円(国税通則法118条3項適用後のもの)に100分の10を乗じ,12万9000円と算出される(同法65条1項,4項,同法施行令27条)。 また,平成12年分の所得税については,同年分の更正処分の計算の基礎となった権利行使利益額の全額が一時所得として申告されているから,過少申告加算税を賦課することはできない。 したがって,1審被告が1審原告に対してした,平成11年分の所得税に係る過少申告加算税賦課決定処分のうち過少申告加算税額12万9000円を超える部分及び平成12年分の所得税に係る過少申告加算税賦課決定処分は,いずれも違法である。」第8 結論よって,1審被告の控訴に基づき,1審第1事件について,原判決主文第1項及び第3項を本判決主文第1項のとおり変更し,1審審被告のその余の控訴及び1審原告の控訴をいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担について行訴法7条,民訴法67条,61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第24民事部裁判長裁判官大喜多啓光裁判官河野清孝裁判官水谷正俊は,差し支えにつき署名押印することができない。 裁判長裁判官大喜多啓光
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