平成12(わ)1442 窃盗,覚せい剤取締法違反,窃盗教唆,盗品等無償譲受け,強盗致傷,強制わいせつ,傷害致死被告

裁判年月日・裁判所
平成14年9月11日 福岡地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-8180.txt

判決文本文14,952 文字)

平成14年9月11日宣告平成12年(わ)第1442号,第1562号,平成13年(わ)第44号,第256号,第504号,第708号窃盗,覚せい剤取締法違反,窃盗教唆,盗品等無償譲受け,強盗致傷,強制わいせつ,傷害致死被告事件判決 主文 被告人を懲役12年に処する。 未決勾留日数中500日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)第1 被告人は,平成12年11月9日,福岡市a区bc丁目d番e号付近路上に駐車中の軽四輪乗用自動車内から,A所有の現金8,537円及び財布等6点在中の手提げバッグ1個(時価合計約10万4,000円相当)を窃取した。 第2 被告人は,法定の除外事由がないのに,平成12年11月8日ころ,福岡市f区gh丁目i番j号の当時被告人が賃借していたe2マンションf2号において,覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を含有する水溶液を自己の身体に注射し,もって,覚せい剤を使用した。 第3 被告人は,Bと共謀の上, 1 平成12年4月3日ころ,福岡市内を走行中の普通乗用自動車内において,Cに対し,上記Bにおいて,「Cさん,申し訳ないけどどうしても車が要るから1台用意してくれんやろうか。」などと,被告人において,「刑務所を出たばかりの人にこんなことを頼んで申し訳ないけど,すいませんけどお願いします。」などとそれぞれ申し向け,前記Cに窃盗の決意をさせて教唆し,よって同人をしてDと共謀の上,同日ころ,同市h区ij丁目k番の月極有料駐車場において,同所に駐車中のE所有の普通乗用自動車1台(時価約280万円相当)を窃取させ,もって,窃盗行為を教唆した。 2 同日ころ,同市l区mn の上,同日ころ,同市h区ij丁目k番の月極有料駐車場において,同所に駐車中のE所有の普通乗用自動車1台(時価約280万円相当)を窃取させ,もって,窃盗行為を教唆した。 2 同日ころ,同市l区mn丁目o番駐車場において,前記Cらから,他から窃取してきた物であることを知りながら,前記普通乗用自動車1台を無償で譲り受けた。 第4 被告人は,Bと共謀の上,平成12年4月3日,福岡市p区qr丁目m番n号付近路上において,被告人が普通乗用自動車を運転して進行し,同車に同乗した上記Bが,同所を通行中のF運転の自転車前籠内から,同女所有の現金約7,000円及び携帯電話機等7点在中の手提げバッグ1個(時価合計約5,500円相当)を引ったくり窃取した。 第5 被告人は, 1 Bと共謀の上,金品を強取しようと企て,平成12年11月5日午前2時ころ,福岡市u区v丁目w番x号G株式会社敷地内において,H(当時31歳)に対し,顔面,腹部等を手拳で多数回殴打し,足を払って転倒させるなどの暴行を加え,同女の反抗を抑圧した上,同女所有の腕時計1個(時価約20万円相当)を強取したが,その際,上記暴行により,同女に加療約2年間を要する脳挫傷,急性硬膜下血腫,外傷性くも膜下出血等の傷害を負わせた。 2 上記日時場所において,上記暴行により,反抗抑圧状態になっている上記Hを認めて,にわかに劣情を催し,強いて同女にわいせつな行為をしようと企て,やにわに,同女のスカート及び下着内に手を入れ,陰部を手指で触って弄び,もって強いてわいせつな行為をした。 第6 被告人は,平成12年11月3日午前1時30分ころ,福岡市y区z番北西側倉庫前において,I(当時47歳)に対し,その顔面及び胸腹部を手拳で殴打し,その顔面及び背部等を足蹴にして同倉庫鉄製扉にその頭部を打ち付けるなどの暴行 月3日午前1時30分ころ,福岡市y区z番北西側倉庫前において,I(当時47歳)に対し,その顔面及び胸腹部を手拳で殴打し,その顔面及び背部等を足蹴にして同倉庫鉄製扉にその頭部を打ち付けるなどの暴行を加え,よって,同人に外傷性硬膜下血腫等の傷害を負わせた上,同月9日午後2時4分ころ,福岡県糟屋郡a2町b2c2番地d2のJ病院において,同人を上記外傷性硬膜下血腫に伴う高度脳腫脹により死亡させた。 (事実認定の補足説明)第1部判示第5の1(強盗致傷)について第1 弁護人の主張弁護人は,被告人とBとの間に強盗の共謀は成立しない,被告人がHに対して暴行を加えたのは金品強取の目的ではなく,Hから「あんたら何ね。組のもんに言うよ。」と言われて立腹したためである,また,被告人はHから腕時計を強取してもいない,したがって,被告人には,傷害罪が成立するに過ぎない旨主張し,被告人も,弁護人の主張に沿う供述をしているので,以下,検討する。 第2 判断 1 被告人とBの関係について見るに,関係各証拠によれば,被告人とBは,平成8年ころ知り合い,平成12年4月ころから一緒に引ったくりや店舗荒らしを共に行っていたこと,被告人は本件当日もBと共に,車上狙い,引ったくりや店舗荒らしなどをするために被告人宅を深夜出発していることが認められる(Bの警察官調書(甲67,70)及び検察官調書の謄本(甲73),被告人の検察官調書(乙42))。本件当日も,被告人及びBは,金目の物を求めて繁華街に向けて出発しており,この時点ではまだ,具体的にどうやって金目の物を手に入れるかは決めていなかったが,被告人とBがそれまでも人を襲い,殴る蹴るの暴行を振るって抵抗できなくし,金目の物を奪うことをやっていたので,Bはそういうことも方法の一つとして考えていたし,被告人も同様の考えを有し ていなかったが,被告人とBがそれまでも人を襲い,殴る蹴るの暴行を振るって抵抗できなくし,金目の物を奪うことをやっていたので,Bはそういうことも方法の一つとして考えていたし,被告人も同様の考えを有していたものと思われる(Bの検察官調書の謄本(甲73))。 次に,犯行当日の行動について検討するに,犯行直前,被告人及びBはひったくり,車上狙い,店舗荒らし等の目的で,Bは普通乗用自動車で,被告人は自動二輪車で福岡市内を走行中,軽四輪乗用自動車から下車して福岡市内の中心部にあるコンビニエンスストアーに入っていくHら女性の2人連れを発見して目を付け,同店から出てきたHらが乗車した軽四輪自動車を追跡するなかで,犯行現場であるG株式会社敷地(以下「本件敷地」という。)内に至っている。被告人は,現場へ向かう途中,Bらを見失ったため,先に現場付近に到着していたBと連絡を取り合い合流した。本件敷地付近で下車したHは,同敷地内に1人で入っていった。続いて,B,被告人の順で入っていった。 2 B及び被告人が本件敷地内に入るまでの状況につき,Bは,捜査段階において,「本件敷地入口付近で普通乗用自動車を止めた際被告人と合流し,このとき自動二輪車に乗った被告人に対して,運転席の窓越しに『今,女が1人で入っていったけん。何か持っとう。行きましょうか。』と告げ,Hの後を追った。Hを追って本件敷地内へ入ると,被告人もBの自動車のすぐ後を自動二輪車で走って付いてきていた。」「被告人の後からHの方に向かって歩いていると,被告人が『何,しょうと。』とHに声をかけ,Hの体を拳骨で殴り付けた。」「私がHの左腕を持ち上げて,手首から腕時計をはずした。私がHから時計を外そうとしているとき,被告人もHの腕時計に手を伸ばし,自分と一緒に時計を外そうとしていた。私が腕時計を外しかかった時 けた。」「私がHの左腕を持ち上げて,手首から腕時計をはずした。私がHから時計を外そうとしているとき,被告人もHの腕時計に手を伸ばし,自分と一緒に時計を外そうとしていた。私が腕時計を外しかかった時点で,被告人は手を引っ込め,それを外すのを私に任せた。」旨供述している(Bの警察官調書(甲70),検察官調書の謄本(甲73))。 この中で,特に,本件敷地入口付近でBと被告人が話をしたという点については,当時現場付近にいてこの状況を目撃したVの供述(同人の警察官調書(甲48),検察官調書(甲49))によって,裏付けられている。したがって,前記Bの供述調書は信用性が高い。 本件当日被告人とBが,ひったくり,車上狙い,店舗荒らし等の目的で福岡市内を徘徊し,その途中で目を付けたHを追跡し,本件敷地入口付近でBが被告人に対して話した,「何か持っとう。行きましょうか。」という文言自体も,Hに対して暴行を加えてでも金品を強奪することを意味するものと理解できるし,これに続いて被告人が直ちにHに対して暴行を加えたことも,金品の奪取に向けられたものと評価できる。したがって,遅くとも,本件敷地入口付近で被告人及びBが話をした時点で,強盗の共謀が成立する。 また,Hは腕時計を奪われた状況につき,検察官に対し,「倒れたとき,Bか被告人のどちらかはっきりしないが,私の左手首あたりを手で持ち,私の手を上の方に持ち上げた。相手は私の左手を持ち上げると,その腕時計を私の左手首から外して奪った。」旨供述しているが(Hの検察官調書(甲44)),この供述は,最終的に自己の左手首から腕時計を外される際には,1人から外されたことを供述しているにとどまり,それまでにHの左手首から腕時計を外そうとしていた人物が1人なのか,2人なのかという点についてまでは言及していないのであって,前 時計を外される際には,1人から外されたことを供述しているにとどまり,それまでにHの左手首から腕時計を外そうとしていた人物が1人なのか,2人なのかという点についてまでは言及していないのであって,前記Bの供述と矛盾せず,B供述の信用性を失わせるものではない。 更に,被告人から暴行を加えられた当初の状況について,Hは「尿意を催したことからトイレを探しに本件敷地内へ入ったところ,入口の方から自動車と自動二輪車の入ってくる音がした。被告人が自動二輪車から降りて被害者の方へ近づいて来て,『なにしようとか。』と言ったので,Hが『はぁ。』と答えると,被告人はHの前に回り込み,ほぼ正面に立ち,右手拳骨でいきなりおなかの部分を殴り付けた。その後もう1人(B)が私の後ろ側に回り,私の腕の下側から上側に自分の腕を回し,私の腕を抱え込むようにした。被告人の暴行が続き,暴行をやめさせるために『やくざと一緒なんやけんね。』と言った。その後腕時計を奪われた。」旨供述しているところ(Hの検察官調書(甲44)等),その供述は具体的で,自然かつ合理的であり,前記Bの供述ともほぼ符合している上,Hに虚偽の供述をする理由や必要性は本件記録上うかがえないことをも併せ考慮すると,Hの前記供述も信用し得るものである。したがって,被告人のHに対する暴行は,本件敷地入口付近で,被告人及びBがHから金品を奪うことを共謀した直後に加えられているから,強盗罪における暴行と評価できる。 3 これに対して,被告人は,捜査段階で,「本件敷地入口付近で停車してBと話をしたことはない。Bの自動車が見当たらず,本件敷地内にBがいるのではないかと思い,同所へ入った。すると,Bの自動車が停まっており,その脇にBが立っていたので,Bの方へ行こうとしたところ,Bの左の方からHが近づいてきた。そこで,自動二輪 ,本件敷地内にBがいるのではないかと思い,同所へ入った。すると,Bの自動車が停まっており,その脇にBが立っていたので,Bの方へ行こうとしたところ,Bの左の方からHが近づいてきた。そこで,自動二輪車から降りHの方に歩いた。Hが被告人の顔をにらみつけていたので,「どうしたと。」などと,被告人がHに話しかけると,Hが,「あんたたち,なんね。組のもんに言うよ。」などと言われ,腹が立ったので暴行を加えた。Hから腕時計等を奪うつもりはなく,BがHから腕時計を外したのも見ていない。」旨供述するが(被告人の検察官調書(乙42)),これまで被告人と一面識もなかったHが深夜しかも本件のような場所で被告人に対して被告人が供述するような経緯で前記発言をすることは考え難い上,更に,被告人は自己がHに対して何度となく暴行を加えたことを自認しているが,何故にそのような激しい暴行を加えなければならなかったのか,2人の大人が深夜1人の女性を何故一緒に襲ったのか,被告人が説明する内容や状況は不自然かつ不合理である。しかも,被告人の供述は,本件敷地入口付近で停車してBと話をしたことはないとする点で,前記B及びVの供述とも齟齬しているし,暴力団員の話が出た経緯についても,前記Hの供述と齟齬している。これらの点に照らすと,被告人の前記供述は到底信用できない。 4 以上述べたとおりであり,被告人が,本件犯行直前ころ本件敷地入口付近に到着し,Bが運転席の窓越しに自動二輪車に乗った被告人に対して,「今,女が1人で入っていった。何か持っとう。」等と言った際,被告人とBとの間にHの金品を強取しようとの共謀が成立しており,その直後,被告人が素早くHの前に立ちはだかり,いきなり同女の腹部を右手拳で強打したのは同女から金品を強取する目的で敢行したものと認められる。したがって,この点につい 取しようとの共謀が成立しており,その直後,被告人が素早くHの前に立ちはだかり,いきなり同女の腹部を右手拳で強打したのは同女から金品を強取する目的で敢行したものと認められる。したがって,この点についての弁護人の主張は理由がない。 第2部判示第6(傷害致死)について第1 因果関係について 1 弁護人の主張弁護人は,Iが頭部を打ったとされる倉庫の扉は鉄製ではあるが,極めて薄く,かつ弾力性があるから,この扉に衝突して頭部をぶつけても,Iの死因となった硬膜下血腫を発生させるようなことは考えられない,Iは事件から6日後に死亡しており,死亡までの6日間に死因となるべき傷害を受けた可能性を否定できないのであって,被告人の暴行と死亡という結果との間には因果関係がないから傷害罪が成立するにすぎない旨主張しているので,以下,検討する。 2 前提事実(1) 本件の発生から被害者死亡までの経過,死因等本件は,平成12年11月3日午前1時30分ころ発生しているところ,被害者の様態が悪化した経過をみると,被害者は本件の前日である同月2日外出した際には元気そのものであり,身体に異常を疑わせる点はなかったし,本件直前の時点においても同様であった。11月3日午前1時30分ころ,犯行現場に面するK方において,被告人はIに対して借金のことで文句を言い始め,タオルを借りてIを外に連れだした。このとき,Iの顔や体には傷などはなかった。その後,被害者は,本件により頭部,顔面等を負傷し,被告人とIがK方に戻ってきたときには,Iは上唇,両目が腫れ,特に左目がひどく腫れ上がるなどのけがを負っており,しきりに顔と足を押さえて痛がっていた。その後,Iのけががひどかったので,LらがIを一旦,L方へ連れて帰った。Iは,寝るときになって「頭がずっきんずっきんする。」と言っていた。 のけがを負っており,しきりに顔と足を押さえて痛がっていた。その後,Iのけががひどかったので,LらがIを一旦,L方へ連れて帰った。Iは,寝るときになって「頭がずっきんずっきんする。」と言っていた。11月3日,Iは食欲が乏しかったものの,比較的元気で,腫れ上がっていた目と口を隠すためサングラス,マスクを着けて午前中からパチンコへ行った。同日午後8時ころ,MとLが右足を引きずるIを同人方へ送って行った。翌4日,Iは,頭が痛いと言い出して外出せず,自宅でほとんど寝ていて同日夜はお粥を食べて寝ており,翌5日,Iは,頭が痛いといっており,午前10時前後ころには意識がなくなり,家人が午後2時ころ119番通報をして救急車で病院に搬送され,緊急手術を受けたが,同月9日午後2時4分ころ,外傷性硬膜下血腫に伴う高度脳腫脹により死亡した。 鑑定書(甲81)によれば,「Iの死因は,外傷性硬膜下血腫に伴う脳腫脹と認められ,頭蓋骨に離解骨折を生じさせるような外力を受け,その外傷によって生じた左大脳半球の硬膜下血腫から高度の脳腫脹を来たして死亡したものと考えられる。その外傷性硬膜下血腫は頭部への暴力の作用によって生じたものと考えられる。以上の他,Iには疾病やその他の損傷等の致死的原因は認められない。 成傷器ならびに成傷方法については,頭部のやや粗造な作用面を有する鈍体との衝突,擦過によって形成されたものと考えられ,具体的には路面や壁面との衝突によって生じたことが考え易い。」とされている。 Iが本件後に帰宅してからの状況は前述したとおりであって,同人が11月3日夜帰宅した後には,同人の死亡原因である外傷性硬膜下血腫に伴う高度脳腫脹の原因となるような外力が加わったことはないから,同人の死亡原因が本件以外にあるとすれば,それは本件後から同日午後8時ころ帰宅するまでの間に には,同人の死亡原因である外傷性硬膜下血腫に伴う高度脳腫脹の原因となるような外力が加わったことはないから,同人の死亡原因が本件以外にあるとすれば,それは本件後から同日午後8時ころ帰宅するまでの間に生じたことにならざるを得ない。 (2) 暴行の態様被告人は,Iに対する暴行の態様について,「本件倉庫扉の前付近で,拳でIの左頬辺りを殴り,そこでIが顔を両手でガードしたので,腹部を右手拳で一,二回殴り,Iがうずくまったので,前方から,左足でかかと落としの要領でIの背中を蹴った。このとき,Iは痛みからか,右向きに倒れ,背中を地面につけるようにして右側に転がり,このとき,側にあった本件倉庫扉の地面から20センチメートル位の高さの所に右肩と頭をぶつけていた。その後,再び左に転がって背中を上にして,両膝から下を地面に着き,前傾した中腰のような状態で両手を背中にやって背中を押さえるようにしており,被告人は靴が脱げた左足でIの顔面を下から上に蹴り上げた。Iの顔にまともに当たったようで,Iは後方に少しのけぞるようになり,両腕で顔をガードし,右側に倒れ,右腰から下と右肘を地面に着け,両腕で顔の前をガードし,両足を曲げて縮こまった状態になった。そこで,更にIの顔を足で七,八回蹴った。」旨供述している(被告人の検察官調書(乙50)等)。 (3) Iが頭部を打撲した本件倉庫の扉の材質,形状,鋼板の厚み,強度等捜査報告書(甲100)及びNの警察官調書(甲101)等によれば,次の事実が認められる。 被告人が本件当時Iが頭部をぶつけたと供述している倉庫の扉(以下, 「本件倉庫扉」という。)は,O株式会社が販売したものであり,横幅79センチメートル,縦177センチメートル,厚み1.6ミリメートルの鉄製である。本件倉庫扉は鋼製片開き片面フラッシュドアと呼ばれ,同 本件倉庫扉」という。)は,O株式会社が販売したものであり,横幅79センチメートル,縦177センチメートル,厚み1.6ミリメートルの鉄製である。本件倉庫扉は鋼製片開き片面フラッシュドアと呼ばれ,同社が製作する規格品とは大きさが異なるので,同社の外注品と思われるが,販売した品物については,同社が責任を持つことになることなどから,同社の規格品に近い状態で製造されており,鋼板の厚みは規格品と同じ1.6ミリメートルであり,強度も規格品と同等に製作されている。同社の鋼製片開き片面フラッシュドアは,上,下,左右が箱状になっており,下部並びに四隅の強度が強くなっている。 本件倉庫扉は,平面であるが,下部には中央にガラリ(通気孔)がある。本件倉庫扉自体の強度の計測結果は資料がないが,その強度は,同社の規格品(本件倉庫扉と厚み等は同じである。)と同等と考えられるので,同社の規格品で検討すると,屋外面を1平方メートル当たり280キログラムで加圧した場合でも変形しない。また,本件倉庫扉の鋼板は,1枚の鋼板の両側をそれぞれ内側に3回(各90度)折り曲げて両側に各箱形を作り,更に先端(1枚の鋼板の左右を折り曲げる前の左右の各先端)を本件倉庫扉の中央方向へ1センチメートル程度90度折り曲げてその部分を本件倉庫扉の内側(屋内側)に溶接するため,その部分は二重になっている。そのこともあって,本件倉庫扉は,四隅の強度が強い。 更に,左右の強度を比較すると,取っ手は,屋外側から見たときの右側に装着されているので,左側が強い。したがって,本件倉庫扉の強度は屋外からみると,左下部分が最も強いことになる。 3 死亡時期,死亡原因についての鑑定書,鑑定人の証言等の検討鑑定書(甲81)によれば,「Iの死亡原因である損傷は,死亡の1週間程度前に形成されたものと考えられる。」とさ が最も強いことになる。 3 死亡時期,死亡原因についての鑑定書,鑑定人の証言等の検討鑑定書(甲81)によれば,「Iの死亡原因である損傷は,死亡の1週間程度前に形成されたものと考えられる。」とされており,鑑定書を作成した医師である証人Pは,公判廷で「被告人が供述するように,頭部右側を倉庫の扉に打撲したとしても,回転してある程度の加速度が付きながら衝突した場合には,打撲した部位とは反対側の方により大きな損傷を生じるので,頭部左側に硬膜下血腫が生じることは一般的に考えられる。本件倉庫扉を実際に現場で見たが,扉の下から30センチメートル位のところは硬く弾力がなかった。扉の下方の部分に頭をぶつければ,本件のような硬膜下血腫が発生してもおかしくない。暴行を加えた時間とIが死亡した時間に隔たりがある点については,受傷後数時間ないしは24時間程度たってから発症するものもあり,暴行から死亡までの間に数日があったとしても不合理ではない。局所的な腫脹が起こっても,表面部分の腫脹であれば生活に影響を及ぼすようなことはなくてもおかしくない。」旨証言している。 鑑定を行ったPは,実際に本件倉庫扉を見分した上で証言しているのであって,その証言内容に不合理な点は見あたらない。 本件倉庫扉の材質,厚さ,強度検査の結果,屋外からみると左下方部分が最も強いことは前述したとおりであるところ,被告人が犯行を再現した状況によると(実況見分調書(甲91)),Iは,本件倉庫扉の最も強い部分にかなり近い屋外からみたときの左下方部分(同実況見分時には,地面からの高さ約25センチメートルを指示し,検察官調書(乙50),警察官調書(乙47)では地面からの高さ約20センチメートルと供述している。)に頭部をぶつけている。しかも,頭部のぶつけ方は,腹部を殴られて同部を押さえてうずくまってい 指示し,検察官調書(乙50),警察官調書(乙47)では地面からの高さ約20センチメートルと供述している。)に頭部をぶつけている。しかも,頭部のぶつけ方は,腹部を殴られて同部を押さえてうずくまっているIに対して,被告人がその前方から左足でかかと落としの要領でIの背中を蹴ったため,Iは右向きに倒れ,背中を地面につけるようにして右側に転がり,このとき,傍にあった本件倉庫扉に右肩と頭をぶつけたというものである。頭部のぶつかった部分は右側と認められる(実況見分調書(甲91),被告人の警察官調書(乙47))。Iが頭部を本件倉庫扉にぶつける際には,ある程度の加速がついていたと思われる上,P証言をも併せて考えると,Iが本件犯行により本件倉庫扉に右頭部をぶつけたため左頭部に外傷性硬膜下血腫を生じ,それが死亡原因となったものと考えるのが合理的である。 4 本件以外の受傷原因の不存在前述したとおり,Iが本件以外の出来事で負傷してそれが死亡原因となったとすれば,その受傷時期は本件後から本件当日の夜帰宅するまでの間,即ち,平成12年11月3日午前1時30分ころから同日夜(午後8時ころ)帰宅するまでの間に生じたことにならざるを得ない。しかしながら,本件後Iは,L方(福岡県糟屋郡a2町)にLらと共に泊まり,翌日パチンコに行き,午後8時ころ帰宅するまでの間,L親子,Qらと共に坂口方,パチンコ店で一緒に過ごした時間が長いのに,誰もIが,本件以外の出来事が原因で頭部に負傷したことに気付いていないし,I自身もそのような話をしてない。Iは帰宅してからも家人に対して,本件以外に受傷したことを窺わせる話を全くしていない。このようなことから考えると,本件以外にIが受傷したことはなかったものと認められる。 5 結論以上述べたとおりであり,Iが頭部を打撲した本件倉庫扉の強 に受傷したことを窺わせる話を全くしていない。このようなことから考えると,本件以外にIが受傷したことはなかったものと認められる。 5 結論以上述べたとおりであり,Iが頭部を打撲した本件倉庫扉の強度は相当強く,Iが頭部を本件倉庫扉の下方に打ち付けたため,Iの左頭部に硬膜下血腫を生じ,それが原因となって死亡したものと認められる。したがって,被告人の暴行とIの死亡との間には因果関係が認められる。この点についての弁護人の主張は理由がない。 第2 自首の成否 1 弁護人の主張弁護人は,仮に被告人に傷害致死罪が成立するとしても,被告人は,平成12年11月20日同罪について取調警察官に申述したことにより自首が成立する旨主張し,被告人も,「窃盗の嫌疑で平成12年11月9日逮捕され,それから1勾留目のときに,Bの妻と面会してIの死亡を知った。そこで,福岡県X警察署における取調の際に,Iに暴行を加え,同人が死亡した旨同署の警察官に話した。この際,警察官はそのことを知っていた様子はなかった。」旨供述するので以下検討する。 2 判断証人Uの公判供述,電話筆記用紙(甲103,109)によれば,以下の事実が認められる。 平成12年11月5日午後2時8分ころ,Iを病院へ搬送した消防署救急隊から電話で同県Y警察署刑事課の防犯係に対して,J病院に搬送したIには顔面や唇等に外傷があるので犯罪の疑いもあるとして通報がなされた。Iは同月9日死亡し,翌同月10日同人の死体解剖が行われ,打撲の原因は犯罪に起因する外傷性の疑いが強くなった。そのような中,Y警察署に対して,同日Rなる者から電話があり,犯人は通称Wで,韓国名がS,暴力団T組の人物で,K方に,K,Qらが集まった際,被告人がIを外に連れ出し,タオルを巻いて殴ったり,頭をコンクリートにぶつけて怪我をさせたと 日Rなる者から電話があり,犯人は通称Wで,韓国名がS,暴力団T組の人物で,K方に,K,Qらが集まった際,被告人がIを外に連れ出し,タオルを巻いて殴ったり,頭をコンクリートにぶつけて怪我をさせたという情報提供があった。犯人が暴力団T組の人物という情報であったのでY警察署の暴力犯係が捜査に携わるようになり,関係者の事情聴取が行なわれ,同月14日Kに対する事情聴取が行われ,一緒にいたQの事情聴取も実施された。その後,同月27日,X警察署からY警察署に対して,被告人がX警察署での取調の中でIに暴行を加えたところ死亡したとの供述をしているとの連絡があった(電話筆記用紙(甲103))。その段階では被告人は暴力団構成員ではないということが判明していたので,強行犯係のUが被告人を取り調べるようになった。これらによれば,捜査機関は,捜査情報がもたらされた同月10日ころには被告人が傷害致死被疑事件の犯人ではないかとの合理的な疑いを持っていたものというべきである。 この点,弁護人は,11月10日撮影にかかる写真が貼付されている写真撮影報告書(同月29日付。甲80)には,被告人が犯人である旨の記載はなく,証人Uの証言は信用できない旨主張するが,この写真撮影報告書(甲80)は同月29日付で作成されているところ,同日の時点ではY警察署が被告人をIに対する傷害致死罪の被疑者として特定していたことは前記電話聴取書(甲103)に照らし明らかであることを考えると,同写真撮影報告書に被疑者名が記載されていないのは,死体解剖時の写真を撮影したもので,被疑者の特定は必ずしも必要とされていない書面であることに理由があるものと理解できるから,同写真撮影報告書に犯人名の記載がないとしても不合理ではない。 したがって,被告人の申告は犯罪発覚前の申告とはいえず,自首は成立せず,弁 されていない書面であることに理由があるものと理解できるから,同写真撮影報告書に犯人名の記載がないとしても不合理ではない。 したがって,被告人の申告は犯罪発覚前の申告とはいえず,自首は成立せず,弁護人の主張は理由がない。 (累犯前科)被告人は, 1 平成8年10月18日福岡地方裁判所で傷害,覚せい剤取締法違反の罪により懲役3年に処せられ,平成11年8月28日その刑の執行を受け終わり, 2 平成11年2月12日長崎地方裁判所で暴力行為等処罰に関する法律違反の罪により懲役6月に処せられ,平成12年2月28日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は前科調書(乙13)によって認められる。 (法令の適用)罰条判示第1につき刑法235条判示第2につき覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条判示第3の1につき刑法60条,61条1項,235条判示第3の2につき刑法60条,256条1項判示第4につき刑法60条,235条判示第5の1につき刑法60条,240条前段判示第5の2につき刑法176条前段判示第6につき刑法205条刑種の選択判示第5の1につき有期懲役刑累犯加重刑法56条1項,57条(判示第5の1,判示第6の罪については刑法14条の制限内で)併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条,14条(最も重い第5の1の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,窃盗2件(判示第1,第4),覚せい剤の自己使用(判示第2),窃盗の教唆(判示第3の1)及びその際の盗品の無償譲受け(判示第3の2),強盗致傷 事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,窃盗2件(判示第1,第4),覚せい剤の自己使用(判示第2),窃盗の教唆(判示第3の1)及びその際の盗品の無償譲受け(判示第3の2),強盗致傷(判示第5の1)及びこの際に行った強制わいせつ(判示第5の2),傷害致死(判示第6)の各犯行である。 まず,量刑上中核となる判示第5及び第6の各犯行からみていく。第6の犯行をみると,被害者であるIは,被告人から殴る蹴るの暴行を受けて3日後に意識不明の状態に陥り,更にその3日後には帰らぬ人となっており,その結果は極めて重大である。それにより暴行時及びその後にIが受けた肉体的,精神的苦痛には甚大なものがあったことはもとより,47歳にして,妻と生後間もない我が子を残してこの世を去らなければならなかったIの無念さは察するに余りある。被告人は,Iに対して暴行を加えた動機を,同人が被告人に対して返済する金をKが取り上げたのでKに抗議するための口実としてIを殴ったなど供述しており,その身勝手かつ短絡的な動機に酌量の余地はない。Iには,本件のような暴行を受けなければならない理由はなく,Iの遺族の処罰感情が厳しいのも当然である。 次に,判示第5の犯行についてみるに,被告人は,共犯者と共に,ひったくり等を企図し,それぞれ自動車と自動二輪車に乗って襲う相手を探し回り,被害者であるHに狙いを定めるや,同女を追尾して人気のない本件敷地に同女が入るや,強盗を共謀し,被告人においていきなり腹部等を手拳で殴りつけた上,Hを押さえる共犯者と一緒になって同女の頭部,顔面,腹部等を多数回手拳で殴打し,足で蹴るなどの暴行を加えた挙げ句同女から腕時計を強取し,その際同女に加療約2年間を要する脳挫傷,急性硬膜下血腫,外傷性くも膜下出血等の傷害を負わせ,25日間の入院を余儀なくさせて 回手拳で殴打し,足で蹴るなどの暴行を加えた挙げ句同女から腕時計を強取し,その際同女に加療約2年間を要する脳挫傷,急性硬膜下血腫,外傷性くも膜下出血等の傷害を負わせ,25日間の入院を余儀なくさせている。暴行は執拗かつ強力なもので悪質である上,生じた結果も重大である。被告人が本件犯行で果たした役割を見ても現場で最初にHの腹部を殴打し,その後も執拗に何度となく暴行を振るっており,その役割には大きいものがある。さらに被告人は,抵抗できない状態にあるHを見るや,劣情を催し同女に対してわいせつ行為まで行っている。Hが受けた恐怖感,肉体的苦痛,羞恥心は大きかったし,それによるストレスで,現時点でも心療内科に通院を続け,更に同科での入院治療が必要な事態にまで陥っているのであり,犯行がHに及ぼした影響には重大なものがある。被告人は,被害者から金品を強取しただけでなく,自己の暴行により反抗を抑圧された状態にあるHの様子を見て劣情を催してわいせつな行為にまで及んでいるのであり,その利欲的かつ自己中心的な動機に酌量の余地は全くない。さらに,金員奪取の目的がなかったなどと不合理な弁解を繰り返すなど,反省は十分とは言い難い。 さらに,判示第2の覚せい剤使用につき検討するに,被告人は,二二,三歳のころから覚せい剤の使用を始め,これまでに昭和60年9月,平成8年10月と覚せい剤取締法違反の罪で有罪判決を受けて服役し,更生の機会が与えられたのに,前刑の出所後,覚せい剤の使用を再開し,その使用を繰り返す中で本件使用に至っているなど,被告人の覚せい剤に対する依存性,親和性,常習性には顕著なものがある。 その上,被告人は,共犯者と共に知人に対して自動車の窃盗を教唆し(判示第3の1),これにより窃取された自動車を無償で譲り受けた上で(判示第3の2),この自動車を使用して 性には顕著なものがある。 その上,被告人は,共犯者と共に知人に対して自動車の窃盗を教唆し(判示第3の1),これにより窃取された自動車を無償で譲り受けた上で(判示第3の2),この自動車を使用して窃盗行為に及び(判示第4),また,単独でも窃盗を犯す(判示第1)などしており,特に,ひったくりの事犯(判示第4)については,被告人がBと共に,多数回の同種行為を繰り返す中で犯行に及んだことを考えると,この種事案の常習性も認められ,その利欲的動機に酌量の余地はない。加えて被告人は,平成12年2月に刑の執行を終了し,更生に向けて努力すべき立場にいたのに,その1か月余の後には判示第3の各犯行を敢行し,その後も次々と各犯行に及んでいること,窃盗前科や粗暴犯前科も多数あり十分に更生の機会を与えられているにもかかわらず,さらに今回窃盗等の犯行に及んでいることに鑑みれば,被告人の規範意識の欠如には顕著なものがあり,再犯の可能性も認められる。 これらの事情によれば,被告人の刑事責任には極めて重大なものがある。 他方,被告人の知人ら3名の援助により,判示第6につき被害者Iの遺族に対して前記知人らが,Iの借金(元本100万円の元利金)の返済及び同人の墓地・墓石代(156万円)の支払いを約束し,借金について125万円を返済し,墓石等の関係でも139万4,000円を支払い,和解金の内金として20万円を支払っているし,判示第5につき被害者Hとの間では,前記知人らがHに対し,連帯して300万円を支払う旨の合意が成立し,平成14年1月から毎月15万円ずつの支払いが行われている。判示第4の被害者に対しては2万5,000円が被害弁償されている。判示第1,第3の盗品については,被害者らの下へ返還されていること,さらに,前記知人らが被告人の更生に協力する旨法廷で誓約し,被告人 判示第4の被害者に対しては2万5,000円が被害弁償されている。判示第1,第3の盗品については,被害者らの下へ返還されていること,さらに,前記知人らが被告人の更生に協力する旨法廷で誓約し,被告人は,判示第6の犯行については自首は成立しないものの,警察官に自己の犯罪を申告し,被害者らに謝罪の手紙を書くなど一応の反省の情を示していること,臓器提供カードを作成し,社会の役に立ちたいとの意思を示していることなど被告人に有利な事情が認められる。 そこで,これらの諸事情を総合考慮し,主文掲記の刑を科すこととした。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役16年)平成14年9月11日福岡地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官林秀文裁判官一木泰造裁判官永井美奈

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る