平成24(た)1 再審請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年7月11日 大津地方裁判所 その他
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判決文本文165,016 文字)

平成24年(た)第1号再審請求事件決定aに対する強盗殺人被告事件について,平成7年6月30日大津地方裁判所が言い渡した有罪の確定判決に対し,請求人らから再審の請求があったので,当裁判所は,請求人ら,検察官及び弁護人の意見を聴いた上,次のとおり決定する。 主文 本件について再審を開始する。 目次第1 本件再審請求の概要等 1 本件再審請求の概要 2 事件発生から本件再審請求に至るまでの経緯の概要第2 確定判決等の存在及びその証拠構造 1 確定判決の内容 2 確定判決の証拠構造捜査段階の自白積極的間接事実消極的間接事実 結論 3 控訴審判決の証拠構造捜査段階の自白間接事実アリバイ主張の虚偽性 結論 4 確定判決等の証拠構造のまとめ第3 再審請求の理由 第4 当裁判所の判断 1 主張の適法性 2 証拠の新規性,明白性 3 aの知的能力等について 4 自白の信用性及び間接事実双方に関する事情本件金庫の強取ア序イ本件金庫の開扉方法ウ本件金庫を持ち出した時刻エ本件金庫を放置するに至った経緯オ金庫発見場所の知情性カ小括被害者の死体の遺棄被害者方における物色範囲手首の結束方法犯行動機 5 自白の信用性殺害日時殺害場所被害者方への出入り殺害態様被害品自白内容に基づく検討のまとめ自白した状況まとめ 6 自白の任意性 7 間接事実序証人c1及び証人c2の各目撃供述等本件後のaの行動アリバイ間接事実に関するまとめ 検討のまとめ自白した状況まとめ 6 自白の任意性 7 間接事実序証人c1及び証人c2の各目撃供述等本件後のaの行動アリバイ間接事実に関するまとめ第5 結語別紙目録1 弁護人提出証拠一覧表別紙目録2 検察官提出証拠一覧表別紙目録3 押収物番号一覧表(平成24年押第5号)別紙図面1実況見分調書〔甲16〕)別紙図面2(死体発見調書)別紙図面3 見取図2(金庫発見調書)別紙図面4 現場見取図3(金庫引当調書)別紙図面5 現場見取図4(金庫引当調書)別紙図面6 現場見取図3(平成2年1月23日ないし24日実施の検証調書)別紙図面7 見取図4(死体引当捜査復命書)別紙図面8 証人c10作成の鑑定書(再弁A31)18頁左側別紙図面9 外表損傷所見1 前頸部~左頸部別紙図面10 外表損傷所見2 前頸部~右頸部・顔面別紙図面11 外表損傷所見3 前頸部・下顎部別紙図面12 外表損傷所見4 後頸部 理由 本決定中の表記等については,別紙「参照語句一覧表」による。 第1 本件再審請求の概要等 1 本件再審請求の概要本件は,請求人らが,請求人b1の配偶者であり,かつ,請求人b2,請求人b3,請求人b4の父親である亡a(平成23年3月18日死亡。)が,平成7年6月30日,大津地方裁判所で強盗殺人罪により無期懲役に処せられた確定判決(同裁判所昭和63年(わ)第103号事件)について再審請求をした事件である。 同確定判決が認定した犯罪事実は,「aは,かねて客として出入りしていた酒類小売販売店経営者被害者(当時69歳)を殺害して金品を強取しようと考え,昭和59年12月28日午後8時過ぎ した事件である。 同確定判決が認定した犯罪事実は,「aは,かねて客として出入りしていた酒類小売販売店経営者被害者(当時69歳)を殺害して金品を強取しようと考え,昭和59年12月28日午後8時過ぎ頃から同日午後9時頃までの間,滋賀県蒲生郡日野町大字Aa番地所在の同店内及び同町大字Bb甲団地宅造地分譲番号313号地付近を含む同町内若しくはその周辺地域において,同女の頸部を手で締め付け,同女を頸部圧迫に基づく窒息により死亡させて殺害した上,その頃から同月29日未明頃までの間に,滋賀県蒲生郡日野町大字Aa番地所在の同店内において,同女所有にかかる10円硬貨,5銭硬貨他16点(時価不詳)在中の手提金庫1個(時価2000円相当)を強取したものである。」というものである。 2 事件発生から本件再審請求に至るまでの経緯の概要確定記録及び当審で取り調べた関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 被害者は,滋賀県蒲生郡日野町大字Aa番地所在の自宅(以下「被害者方」という。)において,酒類小売販売店を経営していたところ,昭和59年12月28日(以下「本件当日」という。)の夜から同月29日(以下「本件翌日」という。)の朝(午前10時過ぎ頃)までの間に行方不明となった。なお,被害者方店舗及び住居部分の間取りは,別紙図面1のとおりである。 昭和60年1月18日,同町大字Bb甲団地宅造地分譲番号313号地(以下「本件分譲地」という。)「死体発見場所」という。)において,被害者の死体が発見された(甲1)。 その死因は窒息死であり,消化程度は食後約30分前後,死亡推定時刻は解剖着手時(昭和60年1月20日午後2時30分)の約20日ないし25日前と推定された(甲9)。 昭和60年4月28日,警察官は,滋賀県蒲生郡日野町大字石原字Cc番 約30分前後,死亡推定時刻は解剖着手時(昭和60年1月20日午後2時30分)の約20日ないし25日前と推定された(甲9)。 昭和60年4月28日,警察官は,滋賀県蒲生郡日野町大字石原字Cc番地のd付近にあるA電力B線c号鉄塔(以下「本件鉄塔」という。)から伸びる工事道(以下「本件工事道」という。)の本件鉄塔東方約55m地点の北側路肩から,北方へ約15mの地点にある松の木(以下「本件松の木」という。)の根元西側約33㎝の場所(別紙図面3の☒地点かつ拡大図におけるⒶ地点。以下「警察官金庫現認場所」という。)において,被害者方にあった被害者所有の時価2000円相当の手提げ金庫(甲22,〔昭和63年押第40号符号2,〕平成24年押第5号符号324。以下「本件金庫」という。)を破壊された状態で現認し,その周辺において,本件金庫内に保管されていたとみられる10円硬貨,5銭硬貨他16点を現認した(甲20)。 aは,本件以前より,店頭で酒を買って飲酒するいわゆる壺入り客として,被害者方店舗に頻繁に出入りしていた。警察官は,昭和60年9月17日,aを警察署に任意同行し,被害者に対する強盗殺人事件について取調べを実施したが,aは事件への関与を否定した。取調べの際,aから採取された指紋と,被害者方の各所から採取された指紋とを照合した結果,被害者方母屋店舗6畳間にあるタンス(以下「本件タンス」という。)の手前北壁隅にある小さい座り机(以下「本件机」という。)の左側引き出しに在中していた直径15㎝大の丸型両面鏡(甲76,〔昭和63年押第40号符号3,〕平成24年押第5号符号325。以下「本 件丸鏡」という。)から採取された3個の指紋がaの指紋と合致した(甲16ないし19)。 捜査はその後難航したが,警察は,昭和63年3月9日から同月11 24年押第5号符号325。以下「本 件丸鏡」という。)から採取された3個の指紋がaの指紋と合致した(甲16ないし19)。 捜査はその後難航したが,警察は,昭和63年3月9日から同月11日までの連日,aを警察署に任意同行してほぼ一日中取調べを実施した。 aは,当初,アリバイを主張して事件への関与を否認したが,同日に至り,被害者を殺害して本件金庫を奪ったことを認める供述をした。aは,その日は自宅に帰り,同月12日も警察署に任意同行を求められて取調べを受け,自白を維持し,同日夜に通常逮捕された。その後,aは,捜査機関に対し,捜査段階を通じ一貫して自白を維持した。 aは,昭和63年3月21日実施された本件金庫投棄場所に対する引当捜査(以下「金庫引当捜査」という。)において,本件金庫を開扉し放置した場所として警察官金庫現認場所とほぼ一致する地点を案内し(ただし,aが,誰かから教えられたわけでもないのに,警察官金庫現認場所につき正しい知識を有していた事実が認められるか否かの点について,これを肯定する検察官と否定する弁護人との間で主張に対立がある。),同月29日実施された死体を遺棄した場所に対する引当捜査(以下「死体引当捜査」という。)において,被害者の死体を遺棄した場所として死体発見場所とほぼ一致する地点を案内した(甲24,73)。 aは,昭和63年4月2日,被害者に対する強盗殺人事件で起訴された。起訴状の公訴事実は,犯行日時を「昭和59年12月28日午後8時40分頃」と,犯行場所を「被害者方店内」とそれぞれ特定していた。 aは,昭和63年5月17日実施の第1回公判期日において,一転して全面的に否認し,以後は一貫して犯行への関与を否認した。 大津地方裁判所は,平成7年6月30日,前記1のとおり,その犯行日時について「昭和59年 年5月17日実施の第1回公判期日において,一転して全面的に否認し,以後は一貫して犯行への関与を否認した。 大津地方裁判所は,平成7年6月30日,前記1のとおり,その犯行日時について「昭和59年12月28日午後8時過ぎ頃から同日午後9時頃までの間」と,犯行場所について「被害者方店内及び甲団地宅造地 分譲番号313号地付近を含む日野町内若しくはその周辺地域において」とそれぞれ認定した上で,aを無期懲役に処する旨の有罪判決をした。 aは,これを不服として控訴したが,大阪高等裁判所は,平成9年5月30日,控訴棄却の判決を言い渡した(同裁判所平成7年(う)第885号事件。以下「控訴審判決」といい,同判決に至る公判審理を「控訴審」という。)。aは,上告したが,最高裁判所第三小法廷は,平成12年9月27日,上告棄却の決定をし(同裁判所平成9年(あ)第797号事件),aの異議申立てに対しても,同年10月13日,申立棄却の決定がなされ(同裁判所平成12年(す)第409号事件),これにより前記⑻の第1審判決が確定した(以下,第1審判決を「確定判決」といい,控訴審判決と併せて「確定判決等」という。確定判決に至る公判審理を「確定審」といい,控訴審と併せて「確定審等」という。)。 aは,平成13年11月14日,確定判決について再審請求をしたが(以下「第1次再審請求」という。),大津地方裁判所は,平成18年3月27日,請求棄却の決定をした(同裁判所平成13年(た)第1号事件。以下,同決定に至る審理を「第1次再審請求審」という。)。aは,これを不服として即時抗告したが,その審理係属中である平成23年3月18日に死亡したため,大阪高等裁判所は,同月30日,終了宣告決定をした(同裁判所平成18年(く)第135号事件。以下,同決定に至る審理を「第1 て即時抗告したが,その審理係属中である平成23年3月18日に死亡したため,大阪高等裁判所は,同月30日,終了宣告決定をした(同裁判所平成18年(く)第135号事件。以下,同決定に至る審理を「第1次再審請求即時抗告審」という。)。 請求人らは,平成24年3月30日,確定判決について本件再審請求をした。 第2 確定判決等の存在及びその証拠構造 1 確定判決の内容確定判決が認定した犯罪事実は,前記第1の1記載のとおりである。 2 確定判決の証拠構造 捜査段階の自白確定判決は,次のとおり判断した。まず,aが犯行を認めた自白の任意性は認められるとした(43丁)。 自白の信用性に関しては,本件金庫に在中していた古銭類や積立預金通帳類が被害品と考えられるのに,aの自白では欠落している,犯人は被害者方母屋奥6畳間の家具調据え付け金庫の開扉を試みたと認められるがaの自白では欠落している,aは,殺害行為に及ぶ前に,被害者は本件金庫を傍らに置いて記帳をしていたと自白するが,被害者はそのようにして記帳をする習慣はない,本件金庫が破壊された場所は,警察官金庫現認場所とは異なる可能性もあるなどの点で,aの自白には他の証拠と明らかに矛盾する部分があり,これらは,被害者の殺害直前の仕事の様子,その後の物色,被害品の奪取に関わる重要な事柄であり,事件発生から自白まで3年以上の時の経過を考慮しても,忘却等では説明できないとした。 また,aの自白のうち,犯行の動機,死体搬送の経路等には,不自然さがあり,aの狼狽や知的能力の低さから合理的に行動することができなかったと説明することはできるが,果たしてaの体験を供述したのかについて疑問を抱かざるを得ない点が多く認められるとした。 さらに,自白の根幹部分が一貫しているとはいえ,その根幹部分 することができなかったと説明することはできるが,果たしてaの体験を供述したのかについて疑問を抱かざるを得ない点が多く認められるとした。 さらに,自白の根幹部分が一貫しているとはいえ,その根幹部分(被害品,物色場所等)にも矛盾点があり,これに重きを置くことはできないこと等を総合すると,aが任意に自白に至ったという事実自体は注目に値するが,その自白内容に従った事実認定ができるほど自白の信用性が高いとは考えられず,したがって,aと犯人の同一性の認定については,専ら自白以外の証拠を中心に判断すべきであるとした(88~89,91~92丁)。 積極的間接事実(以下,単に「間接事実」という。)確定判決は,aが,本件当日夜,被害者方店舗(兼住居)におり,犯行に及ぶ機会があったこと,aが同店舗内で物色行為をした痕跡(指紋)があること,aは,本件犯行に関わった者でなければ知り得ない死体発見場所及び金庫発見場所を知っていたこと,aが,被害者の失踪後,被害者の捜索活動及び葬儀等に出かけるのを避け,公判で虚偽のアリバイを主張し,その理由としては,本件犯行以外には考え難いことが認められるとし,これらは,いずれもaが被害者を殺害して本件金庫を奪取した犯人であるとの結論を合理的に推認させる間接事実であって,その推認力は一つずつを取り出しても,程度の差はあるとはいえ,かなり強固であるが,これらの間接事実が経時的に存在し,相互に関連し結合していることによって,更に揺るぎなく証明しているとした(148丁)。確定判決が認定した間接事実の詳細は後記アないしオのとおりである(145~148丁)。 ア aが犯行時間帯に被害者方店舗にいたこと(犯行の機会)確定判決は,被害者の殺害日時を本件当日午後8時頃から午後9時頃までの間と認定した上,証人c1の供 りである(145~148丁)。 ア aが犯行時間帯に被害者方店舗にいたこと(犯行の機会)確定判決は,被害者の殺害日時を本件当日午後8時頃から午後9時頃までの間と認定した上,証人c1の供述から,aが,本件当日午後7時40分ないし45分頃の数分後に,被害者方に近い交差点を歩行していたこと,証人c2の供述から,本件当日午後8時頃,被害者方店舗において,被害者が,客である可能性の高い人物と会話していたことをそれぞれ認定し,同交差点付近に,被害者方店舗の他にaの立ち回り先があったとは考えられないこと,aは被害者方店舗の常連壺入り客であったことを総合して,aが前記殺害日時頃に被害者方店舗にいたと推認した。 イ aが被害者方店舗内で物色行為をしたこと確定判決は,被害者方店舗6畳間にある本件机の引き出し内にあった本件丸鏡からaの指紋が採取された事実は,被害者が同店舗内にいる限 り,aが同引き出し内を触ることはできないにもかかわらず,被害者が死亡又は不在となったため,aが同店舗内でほしいままに行動する機会が生じ,その際に,同引き出し内を物色したことを推認させるものであり,その機会は,本件当日午後8時頃から,aが自宅に帰り着いたという本件翌日午前8時30分までの間であるとした。 ウ aが,被害者の死体発見場所及び本件金庫の発見場所について知識(認識)を有していたこと確定判決は,aが,警察官らから何らの教示,誘導を受けることなく,犯人でなければ特定できないと思われていた本件金庫の投棄(発見)場所を正しく指摘し,さらに,死体遺棄(発見)場所も正確に指示するなどしていることから,少なくとも,aは被害者方にあった本件金庫の発見場所及び被害者の死体の発見場所を知っていたものと認められ,aは,被害者の死につながる犯行及び被害者方店 見)場所も正確に指示するなどしていることから,少なくとも,aは被害者方にあった本件金庫の発見場所及び被害者の死体の発見場所を知っていたものと認められ,aは,被害者の死につながる犯行及び被害者方店舗から本件金庫を奪う犯行に関わったものと推認することができるとした。 エ aが,被害者の失踪後,同女との関わりを避けていたこと確定判決は,被害者の失踪,死亡等が判明した後,aは,被害者に相当世話になっていたにもかかわらず,その捜索活動や葬儀等に参加せず,その理由について納得できる説明をしておらず,被害者との関わりを避けようとするなどしたことからすると,被害者との関わりから心理的に逃避し,又は素直にそれらの行動に出られないこだわりが心理的に働いていたからであると推認され,aが被害者に対し,自己の心中にそのような精神的証跡を残すような行動をしたものと推測できるとした。 オ aが本件犯行の隠ぺいのため虚偽のアリバイ主張をしていること確定判決は,aが,本件当日夜の行動について主張を変遷させた上,最終的には,本件当日,証人c3とd方(滋賀県蒲生郡蒲生町石塔e番 地所在)にお浄めに行った後,証人c3方(滋賀県蒲生郡日野町大字Df番地所在)で飲酒し,本件翌日まで証人c3方に宿泊したというアリバイ主張を始めているが,かかる主張は関係者の供述と全く一致しておらず,虚偽であったと認定し,aが本件犯行以外に秘匿すべき事情を何ら提示していないことに徴すると,本件犯行を隠し立てするために虚偽のアリバイ主張をしていると推認するほかないとした。 消極的間接事実他方,確定判決は,aの経済状況からaに動機がないということはできない,指紋が本件丸鏡からしか発見されなかったことも十分理解することができる,自白に虚偽が含まれていても,aが犯人であると他の証 他方,確定判決は,aの経済状況からaに動機がないということはできない,指紋が本件丸鏡からしか発見されなかったことも十分理解することができる,自白に虚偽が含まれていても,aが犯人であると他の証拠によって認定することの妨げにはならないなどして,弁護人の主張するいずれの事情も,犯罪事実の認定を阻害せず,aが犯人であるとの認定に合理的な疑いをさしはさむ余地がないとした(148~151丁)。 結論 aの自白調書の内容は必ずしも信用できないとするものの,その他の間接事実によって,aが本件犯行の犯人であると結論付けた。 3 控訴審判決の証拠構造捜査段階の自白ア控訴審判決は,aの自白は任意性が認められるとした(10頁)。その上で,自白内容のうち不自然・不合理な諸点について,捜査官も疑問を抱いてaに何度も確かめたが,aが,本当のことを言っているのだと突っぱねて供述が変わらなかった点もあり,捜査官は疑問を抱きつつも,aの供述するとおり自白調書として録取したものと認めるのが相当であるとした。 そして,aの自白内容は,疑問の残る部分もあるが,①金庫引当捜査 の際,捜査官の想定した経路と異なる経路を指示して発見現場に到達し得たこと,②死体引当捜査の際の言動(すなわち,死体遺棄当時と死体引当捜査時とでは現場の状況が変わっているという趣旨の発言をしたこと),③事件発生後3年以上を経過した後の自白であり,自白時の時の経過,④任意の事情聴取の際に自白した状況,⑤精神鑑定書によるaの特性等を併せ考えると,自白の基本的根幹部分は十分信用できると説示した(28~29頁)。 イ控訴審判決の指摘する前記各事情を見ると,①,②及び④については,積極的に自白の信用性を肯定する事情,③及び⑤については,疑問の残る部分,すなわち不自然・不合理な諸点 した(28~29頁)。 イ控訴審判決の指摘する前記各事情を見ると,①,②及び④については,積極的に自白の信用性を肯定する事情,③及び⑤については,疑問の残る部分,すなわち不自然・不合理な諸点があるにもかかわらず,それらが自白の基本的根幹部分の信用性を否定しない理由と整理することができる。 ウそして,aの自白のうち不自然・不合理な諸点について,控訴審判決犯行動機について,取調べを担当した警察官e1は,酒代欲しさからの犯行であるとする自白について,aが本当に酒好きなので,あながちお人が被害者方母屋奥6畳間で物色をした又はその合理的疑いがあるこついて,警察官e1は,疑問を抱いてaに何度も確かめたが,供述が変わらなかった旨証言しており,第三者が放置当時の状態を変更した余地警察官e1は,疑問を抱いてaに何度も確かめたが,供述が変わらなかった旨証言している(28頁)といった諸点を指摘している。 な点ではないと解したものと考えられる。控訴審判決が指摘した自白内 容の不自然・不合理な諸点とは,主にはが判断を示し控訴審判決が判断を示していない,本件金庫に在中していた古銭類や積立預金通帳類について被害品と考えられるのに,aの自白で欠落していること,及びaは,殺害行為に及ぶ前に,被害者は本件金庫を傍らに置いて記帳をしていたと自白するが,被害者はそのようにして記帳をする習慣はないことなどを指していると考えられる。 間接事実控訴審判決は,aと本件犯行を結び付ける間接事実として,被害者方母屋店舗6畳間の本件机の引き出し内に収納されていた本件丸鏡からaの右手拇指,右手示指及び右手中指の3つの指紋が検出されたこと,証人c1は,本件当日午後7時40分過ぎ頃,被害者方近くの交差点でaを目撃したこと,被害者方の向かいに位置する家の住人である証 鏡からaの右手拇指,右手示指及び右手中指の3つの指紋が検出されたこと,証人c1は,本件当日午後7時40分過ぎ頃,被害者方近くの交差点でaを目撃したこと,被害者方の向かいに位置する家の住人である証人c2は,本件当日午後8時から始まるプロレス番組の放映中に,客を相手に話していると思われる被害者の声を途切れ途切れに聞いており,聞き取れた言葉は,「神さんを信心する」,「珍しいなあ」,「お加持をする」などであり,aは宗教Aを信仰していたこと,被害者の死体の手首に巻かれていた紐の結束方法は,精肉店で肉を竹の皮に包む際の特殊な結束方法と類似しており,aは以前に精肉店で働いていたことがあり,その結束方法を習得していたことが認められることを説示している(15~16頁)。 アリバイ主張の虚偽性控訴審判決は,aのアリバイ主張は,証人c3方でともに飲酒したと主張する相手方4名及びお浄めを受けた関係者3名全員の供述に反し信用できない旨説示した(44頁)。 結論 aと本件犯行を結 aの自白内容等と併せ勘案すれば,本件犯行の犯人がaであり,aが金品奪取の意思で被害者を殺害して本件金庫を奪取したものと認めるのが相当であると結論付けた(44頁)。 4 確定判決等の証拠構造のまとめ以上のとおり,確定判決は,aの自白の信用性を否定し,aと犯人の同一性については,専ら自白以外の間接事実を総合して認定し,犯行の日時,場所については,自白以外に特定する証拠がないため,概括的な認定をした。 これに対し,控訴審判決は,間接事実だけではaと本件犯行を結びつけられないものの,基本的根幹部分について信用性が認められる自白内容等を併せ勘案すれば,aが金品奪取の意思で被害者を殺害して本件金庫を奪取したものと認定でき,犯行の日時,場所についても,自白に従い起 られないものの,基本的根幹部分について信用性が認められる自白内容等を併せ勘案すれば,aが金品奪取の意思で被害者を殺害して本件金庫を奪取したものと認定でき,犯行の日時,場所についても,自白に従い起訴状記載の主位的訴因を認定することができると判断した。 このように,両者は,有罪判断の理由が異なることから,その双方の証拠構造を踏まえて,自白の任意性や信用性,間接事実(アリバイもこれに含めて検討する)の認定及びその評価の検討が必要となる。 第3 再審請求の理由 1 弁護人の主張は,要するに,当審において新たに取り調べた証拠は,aの自白の任意性若しくは信用性を動揺させ,犯人性に関する間接事実の認定を動揺させ,若しくはその推認力を減殺し,又は消極的間接事実の存在を疑わせる証拠であり,新旧証拠を併せて検討すると,確定判決の事実認定には合理的な疑いが生じるといえるから,「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当するので,確定判決には刑事訴訟法435条6号の再審事由があるというものである。 aの自白についての弁護人の主張を若干敷衍すると,自白の信用性に関する主張は,自白には,秘密の暴露やこれに準じるような自白の信用性を高める事情は認められないところ,強盗殺人事件における根幹部分(根幹部分又は核心部分。以下同じ。)である殺害行為,財産の強取を含む多くの重要な点に,数多くの変遷,客観的事実・証拠との不整合,不自然・不合理が存在しており,信用性は動揺しているというものである。 また,自白の任意性に関する主張は,4日間の任意取調べの状況,aと家族とのやり取り,aの特性,aが接見時に弁護人に話した内容等を総合的に評価すれば,任意性も動揺しているというものである。 2 検察官の意見は,要するに,弁護人が提出し又は援用する証拠は,刑事訴訟法435条6号 り,aの特性,aが接見時に弁護人に話した内容等を総合的に評価すれば,任意性も動揺しているというものである。 2 検察官の意見は,要するに,弁護人が提出し又は援用する証拠は,刑事訴訟法435条6号の新規性,明白性を欠くから,本件再審請求には理由がないというものである。 第4 当裁判所の判断 1 主張の適法性先行する再審請求事件で再審事由として主張され既に判断を経た証拠ないしこれに関する主張について,同一の証拠関係に基づき更に再審理由として主張することは,刑事訴訟法447条2項との関係で,その適法性が問題となり得る。本件に関しても,弁護人が,第1次再審請求審及び第1次再審請求即時抗告審において提出された資料を改めて提出し,これらにも基づいて再審事由を主張する点の適法性について,一応問題となり得るところである。 しかしながら,第1次再審請求は,第1次再審請求即時抗告審においてaの死亡に係る終了宣告決定により終局するという経過をたどったものであり,同即時抗告審においては,実質的な再審事由の判断を経ていない。また,本件再審請求において,弁護人が新たな証拠を多数新証拠として付加している点も踏まえれば,本件再審請求における弁護人の主 張は,再審請求棄却決定があったときは「何人も,同一の理由によっては,更に再審の請求をすることができない」とする同条2項に違反するものとも,その趣旨に抵触するものともいえない。当審において,弁護人及び検察官も,そのような理解を前提としているものと解される。 2 証拠の新規性,明白性事実の取調べ当裁判所は,確定記録全部及び第1次再審請求の記録全部を取り寄せた他,弁護人提出の別紙目録1記載の証拠,検察官提出の別紙目録2記載の証拠及び当事者が提出し当裁判所が領置した別紙目録3記載の証拠物について事 は,確定記録全部及び第1次再審請求の記録全部を取り寄せた他,弁護人提出の別紙目録1記載の証拠,検察官提出の別紙目録2記載の証拠及び当事者が提出し当裁判所が領置した別紙目録3記載の証拠物について事実の取調べを行い,弁護人が証人申請した,いずれも確定審当時の警察官e2,検察官f1,警察官e3及び医師である医師g1の証人尋問を実施した。 以下,「再弁」を付して表示する番号は別紙目録1記載の証拠の番号を,「再検」を付して表示する番号は別紙目録2記載の証拠の番号をそれぞれ示す。また,「甲」,「乙」,「弁」,「職」を付して表示する番号は,確定審における検察官,弁護人の各請求証拠,職権で採用した証拠の番号を示す。 証拠の新規性証拠の新規性とは,確定審裁判所によって実質的な証拠価値の判断を経ていない証拠をいうものと解するのが相当である。弁護人は,第1次再審請求において新規に提出した証拠についても,当審で新証拠として提出しているところ,刑事訴訟法435条6号所定の「あらた」な証拠とは,確定審等段階で実質的に判断の基礎とされた証拠であるか否かによって判断されるべきものであるから,第1次再審請求審において提出されていることは,当審で証拠の新規性を認める障害にはならないと解する。 また,鑑定のような代替性のある証拠についても,鑑定内容が従前の鑑定と結論を異にするか,あるいは結論を同じくする場合であっても,鑑定の方法又は鑑定に用いた基礎資料が異なったり,新たな鑑定人の知見に基づき検討が加えられたりして,証拠資料としての意義,内容において従前の鑑定と異なると認められるときは,新規性が認められると解するのが相当である(最高裁判所平成21年12月14日第二小法廷決定・集刑299号1075頁,東京高等裁判所平成20年7月14日決定・判例タイ 鑑定と異なると認められるときは,新規性が認められると解するのが相当である(最高裁判所平成21年12月14日第二小法廷決定・集刑299号1075頁,東京高等裁判所平成20年7月14日決定・判例タイムズ1290号73頁,札幌高等裁判所昭和44年6月18日決定・高等裁判所刑事裁判速報集68号1頁等参照)。 当審で取り調べた証拠のうち,少なくとも,以下の理由中に新証拠として摘示した証拠については,いずれも新規性が認められると判断する(なお,必要に応じ,補足して説明する。)。 証拠の明白性刑事訴訟法435条6号にいう無罪を言い渡すべき「明らかな証拠」とは,確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせ,その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいうものと解するのが相当である。 そして,「明らかな証拠」であるかどうかは,もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば,はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から,当の証拠と他の全証拠と総合的に評価して判断すべきであり,この判断に際しても,再審開始決定のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において,「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用されるものと解すべきである(最高裁判所昭和50年5月20日第一小法廷決定・刑集29巻5号177頁,いわゆる白鳥事件再審請求に関する特別抗告事件に係る決定)。 本件における判断方法等そこで,以下において,aの供述ないし言動の全体的な評価に関わるaの知的能力等の検討を行った上で,自白の信用性及び間接事実双方に関係する事情,その余の事実のうち自白の信用性のみに関係する事情,自白の任意性に関する事情,アリバイ ないし言動の全体的な評価に関わるaの知的能力等の検討を行った上で,自白の信用性及び間接事実双方に関係する事情,その余の事実のうち自白の信用性のみに関係する事情,自白の任意性に関する事情,アリバイを含む間接事実の順に従い,確定判決等が判断の基礎としたすべての証拠(以下「旧証拠」という。)に,新証拠を加えてこれらを総合評価し,aに無罪を言い渡すべき合理的な疑いが存在するか否かの点について検討する。 なお,新証拠により,確定判決等の自白の信用性や間接事実による犯人性推認等の判断に動揺が生じた場合,それでもなお確定判決等の前記判断が維持できるかを検討するために,確定判決等の前記判断の際に考慮された事情等の証明力などについて,新証拠により直接影響を受けないとしても検討することがあるが,かかる検討は,再審請求審がみだりに確定審の心証形成に介入することには当たらず,再審の構造に何ら反するものではないと考える。 3 aの知的能力等について主な旧証拠鑑定人h1作成の精神鑑定書(職11)及び同人の確定審における証人尋問調書を中心とする旧証拠によれば,aは生来的に境界線級の精神発達遅滞であることが認められる。 前記鑑定書は,aは,毎日繰り返されるような日常茶飯事の出来事については,生活歴も手伝って,比較的難なく行動することができるが,不意の出来事に対しては想像力を働かせたり,臨機応変に処理したりする能力が弱い,往々にして物事を深く考えておらず,一貫した見通しのある行動をとることはできにくいし,深刻性に欠ける傾向がある,情緒的には,周囲の環境や他者の言動にあまり左右されにくく,むしろ自分 勝手な思い込みによって未分化な情動が変化する傾向があるなどと指摘し,aの供述調書作成時の知的能力について,質問の背景,その質問がaにとっていかなる の言動にあまり左右されにくく,むしろ自分 勝手な思い込みによって未分化な情動が変化する傾向があるなどと指摘し,aの供述調書作成時の知的能力について,質問の背景,その質問がaにとっていかなる利害を持つかという,状況からして当然かつ重要な配慮が感じられない,過去の事柄に対する記憶力の低さ,具体的には,生活に密着した,具体的で意味のある内容についての記憶は比較的保持されやすいが,自分の生活に関連の薄い,意味をなさない記憶は保持されにくい,連続する公判の文脈に対する思慮のなさがうかがわれ,論理的な思考力に乏しく,その場限りの対応が目立ち,このパターン自体は一貫しており,変動が見られない,aは,本人にとって慣れ親しんだ,日常的で通常それほど敵対的ではない環境であれば,周囲と協調的で友好的な関係を作ることができるといった点を指摘している。 また,鑑定人h1は,確定審の証人尋問において,aの作話能力について,全く新しく話を作っていく能力は低く,他から一定の示唆を与えられて話を作っていくこともできにくいと思う旨述べている。 確定判決等ア確定判決は,aが境界線級の精神発達遅滞であることなどを前提として,取調べ時に暴行,脅迫があったなどと作話する能力は認められると判断した他(32丁),犯行動機(55丁),金庫発見場所までの経路(61丁),絞頸に使用した紐で手首を結束したこと(58丁)についてのaの自白が不自然であることに関し,aの知的能力の低さにより説明が可能である旨指摘している(89丁)。 イ控訴審判決は,aの自白内容は,疑問の残る部分もあるが,精神鑑定書によるaの特性なども併せ考えると,aの自白の基本的根幹部分は十分信用することができるというべきであるとする(29頁)。 主な新証拠ア鑑定人h1が確定審後に作成した意見書 あるが,精神鑑定書によるaの特性なども併せ考えると,aの自白の基本的根幹部分は十分信用することができるというべきであるとする(29頁)。 主な新証拠ア鑑定人h1が確定審後に作成した意見書(再弁A51)は,前記鑑定 書を補充するもので,aが低い知的能力の持ち主であること,作話能力や記憶,表現及び叙述能力が低いということの具体的な内容を指摘する他,aが,通常人にとっては脅迫といえない発言であっても畏怖してしまう特性を有していることや,恐怖体験が単純化して記憶されたり,誇張を含めて記憶されたりすること,一般人ができるような説明ができないこと,自白における犯行態様とaの知的能力の低さに起因する行動特性との間にかい離があることなどを指摘するものである。同意見書は,鑑定資料が追加されているから,新規性のある証拠と認められる。 イ人間科学の専門家であるi助教授(当時)作成の鑑定意見書(再弁A52)は,aの公判供述を鑑定資料として,供述心理学におけるコミュニケーション分析に基づき,aのコミュニケーション特性を解明するというものであり,aには回答の内容よりも対話者との関係を優先するという特性と,未来への予測や展望を持つことよりも現在を何とかやり過ごすことを優先させる特性があるなどの点を指摘するものである。前記意見書は,一般的な経験則,論理則を超え,供述心理学,すなわち認知心理学,教育心理学,社会心理学,エスノメソドロジー,会話分析学,言語学等の専門的知見に基づいて,専門的経験則を裁判所に補充した上でaの供述の特性を分析したものであるから,新規性のある証拠と認められる。 新旧証拠による検討新旧証拠を総合すれば,aが境界線級の精神発達遅滞であること,その記憶,すなわち記銘(経験し,学習したことを覚え込むこと),保持(記銘さ ,新規性のある証拠と認められる。 新旧証拠による検討新旧証拠を総合すれば,aが境界線級の精神発達遅滞であること,その記憶,すなわち記銘(経験し,学習したことを覚え込むこと),保持(記銘された経験内容が,量的・質的に変化しつつも維持される過程),及び再生(以前に経験した事象,学習し保持した事柄や内容を思い出すこと),表現並びに叙述能力(以下,総称して「記憶能力等」という。) に制約があること,全く経験したことのない虚偽の話を作り出す能力は低いこと,aは,敵対的でない環境であれば,周囲と協調的で友好的な関係を作ることができる特性を有し,コミュニケーションにおいて,回答の内容よりも対話者との関係を優先するという特性と,未来への予測や展望を持つことよりも現在を何とかやり過ごすことを優先させる特性を有していることなどが認められ,aの言動を評価するに当たっては,これらの点を正確に考慮した上で判断する必要がある。 この点について,確定判決は,aが本件で検挙されるまでの間は,特段の問題も起こさずに社会生活を営んでいたものであって,このような経験によって得られた生活上の知恵といったたぐいのものは,相当豊かと推測されるなどと指摘している(32丁)。もっとも,事件発生から任意取調べまで3年以上の時が経過していること,確定審において7年以上の審理期間が費やされていること,aは,逮捕後平成5年8月頃に一時勾留執行を停止された他は身体拘束を受けていたことなどからすれば,aの捜査段階及び確定審の公判段階における言動において,記憶能力等の制約が及ぼした影響は決して軽視できないものと考えられ,aが特段の問題を起こさずに社会生活を営んでいたことなどを指摘する確定判決等もかかる影響を完全に否定しているものとは解されない。 4 自白の信用性及び間接事実 響は決して軽視できないものと考えられ,aが特段の問題を起こさずに社会生活を営んでいたことなどを指摘する確定判決等もかかる影響を完全に否定しているものとは解されない。 4 自白の信用性及び間接事実双方に関する事情本件金庫の強取ア序旧証拠である昭和60年5月8日付け実況見分調書(甲20。以下「金庫発見調書」という。)及びこれを作成した警察官e4の確定審における証人尋問調書によれば,警察官e4が初めて現認した際の被害者方から紛失した本件金庫の位置は,本件松の木の根元西側約33㎝の警察官金庫現認場所(別紙図面3の☒地点であり,拡大図におけ るⒶ地点)である。本件金庫を発見したjは,警察官e4に対し,発見時,本件金庫は蓋が開いたまま,裏返しすなわち上下逆の状態で,同じく裏返し状態の中箱(木製)の上にあった,jが本件金庫を表に向けた際に本件金庫を警察官金庫現認場所に「置きました」などと指示説明している。そして,本件金庫の中箱は,本件金庫の南側かつ本件松の木の根元西側約35㎝の場所(同別紙図面3の拡大図におけるⒷ地点。以下「j金庫発見場所」といい,j金庫発見場所ないし警察官金庫現認場所を併せて「金庫発見場所」ということがある。)にあった。金庫発見調書添付の見取図2(別紙図面3と同じ)において,警察官金庫現認場所は,本件松の木北西側に記されている一方,j金庫発見場所は,本件松の木南西側に記されており,各場所は明確に区別されている。 なお,jについて,昭和63年3月25日,警察官調書(甲30,確定審において弁護人不同意のため検察官が請求を撤回した。)が作成されているが,本件金庫発見当時の供述から変更,訂正又は追加はなかった警察官e5の確定審第27回公判における証人尋問調書1073~1075丁〔以下,確定審における証人尋問 が請求を撤回した。)が作成されているが,本件金庫発見当時の供述から変更,訂正又は追加はなかった警察官e5の確定審第27回公判における証人尋問調書1073~1075丁〔以下,確定審における証人尋問調書又は被告人供述調書については,丁数は公判調書(供述)群中の丁数を記載する。〕)。 本件金庫に関するaの自白は,本件翌日未明,本件金庫を被害者方から持ち出し,石原山山中でホイルレンチを用いて開扉して,現金約5万円を取り出し,それ以外の物はそのまま放置したというものである。そして,aは,金庫引当捜査において,本件金庫を開扉し放置した場所として警察官金庫現認場所とほぼ一致する地点を案内した。 確定判決は,aが,誰かから教えられたわけでもないのに,金庫発見場所について正しい知識を有していたことが認められるとして,犯人性を推認させる間接事実とした。 控訴審判決は,金庫引当捜査の際,aが捜査官の想定した経路と異なる経路を指示して金庫発見場所に到達し得た点をaの自白の基本的根幹部分の信用性が認められる理由の一つとした。 しかしながら,当審において提出された新証拠であるネガ現像写真の撮影及び調査結果報告書(再弁D7),関連ネガ写真集1(再弁D21)等によれば,金庫引当捜査の際に,引当開始地点であるAりんご園(以下「りんご園」という。)と野出道との分岐点から金庫発見場所に至るまでの経路(以下「往路」という。)だけでなく,引当が終了して金庫発見場所から野出道に停車した警察車両に戻る経路(以下「復路」という。)においても,aが経路を案内しているような写真が撮影され,それらの写真が,昭和63年3月26日付け実況見分調書(甲24。以下「金庫引当調書」という。)において,往路においてaが経路を案内している旨の記載とともに使用されていた事実が認め な写真が撮影され,それらの写真が,昭和63年3月26日付け実況見分調書(甲24。以下「金庫引当調書」という。)において,往路においてaが経路を案内している旨の記載とともに使用されていた事実が認められる。そこで,前記新証拠の証拠価値を判断するに当たり,aの本件金庫の奪取から放置に至るまでの自白等について,その他の新旧証拠を総合して検討を加える。 イ本件金庫の開扉方法aの自白この点に関するaの自白は,本件翌日未明,石原山山中において,本件金庫を,自己の所有する軽トラックに積載されていたL字型ホイルレンチ(以下「本件ホイルレンチ」という。aの自白ではクリップ抜き)を用いて開扉したというものである。その具体的な開扉方法は,①本件金庫の蓋を開けるため,本件ホイルレンチの刃先部(マイナスドライバーの形になった先)を本件金庫の本体と蓋の隙間に差し込んで上下にこじた,②本件金庫表側の金具の隙間に本件ホイルレンチの刃先部を差し込み,本件金庫蓋中央部に本件ホイルレンチを当てて,テコを応用して鍵を壊そうとした,③本件金庫ダイヤル部分を,本件ホイルレンチのナ ットを回す端部(曲がった太い方)で叩いた,④本件金庫本体と左右にある各ダイヤルの隙間に本件ホイルレンチを差し込み,上側の蓋の部分に本件ホイルレンチを当てて数回こじ,テコを応用してダイヤルを壊し取り外したなどというもので,本件金庫蓋の前側中央辺(上角部中央付近を指す)にある一部へこんだ跡は,前記②の際にできたというものである(乙16)。 主な旧証拠鑑定人h2作成の鑑定書(職14)及び同鑑定書の誤記訂正書(職15),同人の証人尋問調書,「照会事項の回答について」と題する書面(甲192)(以下,これらを総称して「鑑定人h2鑑定」という。),証人c4の各供述(甲44,証人尋問調書 同鑑定書の誤記訂正書(職15),同人の証人尋問調書,「照会事項の回答について」と題する書面(甲192)(以下,これらを総称して「鑑定人h2鑑定」という。),証人c4の各供述(甲44,証人尋問調書),証人c5の証人尋問調書,領置調書(甲47)等によれば,鑑定人h2鑑定は,確定審が押収している手提金庫(甲191,〔昭和63年押第40号符号50,〕平成24年押第5号符号370。以下「参考金庫」という。)及びL字型ホイルレンチ(甲48,〔昭和63年押第40号符号7,〕平成24年押第5号符号327。 以下「参考ホイルレンチ」という。)を利用して開扉方法について鑑定を実施したものであり,本件金庫の開扉方法及び損傷の成傷機転を次のとおりであるとしている。 参考ホイルレンチは本件ホイルレンチと同種のものであり,参考金庫は本件金庫と外観上若干の相違があるものの大きな違いはなく,施錠装置も同じ機構であり,同じ製造会社製の同型式の手提金庫である。 鑑定人h2鑑定によれば,aが自白するように,参考ホイルレンチの刃先部,すなわちマイナスドライバー状になった端部を参考金庫の本体と蓋の隙間に差し込んで上下に複数回こじること(前記①)によって開扉することができ,aの自白する方法によって施錠された状態の本件金庫を開扉することは可能と考えられる。 もっとも,aが言及する蓋の前面中央辺にある一部へこんだ跡,すなわち本件金庫の蓋の上角部中央付近にある凹損(前記鑑定書記載の痕跡ンチの刃先部を本件金庫本体にあるネームプレート(HANDSAFENO.2等と記載されたもの。以下「本体ネームプレート」という。)裏面又はハンドル(本体ネームプレート中央にある円形ツマミ。以下「本件ハンドル」という。)と本体との間に差し込み,本件ホイルレンチの軸部を上角部に当て支点とし 。以下「本体ネームプレート」という。)裏面又はハンドル(本体ネームプレート中央にある円形ツマミ。以下「本件ハンドル」という。)と本体との間に差し込み,本件ホイルレンチの軸部を上角部に当て支点としてこじた場合の変形と,大きさ及び形状が異なり,本件ホイルレンチにより印象されたものとは考え難く,aの自白する方法(前記②)で形成されたと判断することには矛盾がある。 本件ホイルレンチのような円柱状のものではなく,側面が平板なバール等の工具を本体ネームプレート又はハンドルと本体の間に差し込んでこじる方法や,ハンマーで殴打する方法であれば,本件凹損のような底部が平らな損傷が生じ得る。 確定判決等確定判決は,aの自白どおりの方法で本件凹損を発生させることは無理であるという意味で,aの自白には体験していないことが述べられているとしつつ,本件金庫蓋にあるネームプレート(TIMESSTEELCASHBOX等と記載されたもの。以下「蓋ネームプレート」という。)と蓋本体との間の隙間部分に,上方から本件ホイルレンチの刃先を差し込んで,テコの要領でこじたならば,本件凹損のような凹損を作ることができると考えられるとし,金庫破壊に使用した工具が本件ホイルレンチ以外の工具であるとまでは認められないと判断し,事件発生から3年以上経過した後の自白であることを考慮すれば,具体的な痕跡の発生機序について記憶を有しておらず,思い込みで誤った説明を加えたとしても,特別不審とはいえず,時の経過によって失念してしまった として説明は可能であるとした(83~84丁)。 控訴審判決は,鑑定人h2鑑定では本件凹損の解明が尽くされていないが,aが本件ホイルレンチを使用し,試行錯誤しながら,本件金庫を開扉する過程で,工具を蓋の上角部に当ててこじた際,工具と上角部と 控訴審判決は,鑑定人h2鑑定では本件凹損の解明が尽くされていないが,aが本件ホイルレンチを使用し,試行錯誤しながら,本件金庫を開扉する過程で,工具を蓋の上角部に当ててこじた際,工具と上角部との接点が移動して本件凹損が発生したと見る余地がある,参考素材が犯行当時のそのものではないことによる制約を考慮する必要があるなどとして,本件金庫は,aが自白する開扉方法によって開扉することが可能である旨鑑定されていることと対比して,aの自白が不合理であるとはいえないと判断した(24~27頁)。 主な新証拠証人c6作成の鑑定書(再弁A34)及び同人の証人尋問調書(再弁B9)(以下,これらを総称して「証人c6意見」という。)の内容は, なお,証人c6意見で用いられたホイルレンチ(以下「証人c6ホイルレンチ」という。)は,本件ホイルレンチと同じ製造会社で製造され,同じナット規格17㎜のホイルレンチである(再弁A35。ただし,再弁A35中の「1.7㎜」は,再弁A34等に照らし,17㎜ないし1. 7㎝の誤記と認める。)。参考ホイルレンチの方が証人c6ホイルレンチよりも若干長く,刃先部とナット回し部分の向きが異なるが,軸部の太さは同程度である。 本件凹損底部の平坦部の幅は約15㎜,平坦部が蓋上面となす角度は約44度,凹損底部の平坦部の深さは約2.5㎜である。 証人c6ホイルレンチの刃先部を本件ハンドルと本件金庫本体との間に差し込み,刃先部を支点,蓋の上角部との接点を作用点,ナット回し部分寄りの部分を力点として証人c6ホイルレンチに力を加えた場合,蓋の上角部に接するときの証人c6ホイルレンチ軸部の角度は68 度又は71.6度であるから,蓋の上角部に本件凹損のように平坦部の角度44度である凹損を形成できない。また,ホイルレンチの円柱状の の上角部に接するときの証人c6ホイルレンチ軸部の角度は68 度又は71.6度であるから,蓋の上角部に本件凹損のように平坦部の角度44度である凹損を形成できない。また,ホイルレンチの円柱状の軸部で平坦な凹損を作るためには,少しずつ作用点の位置を変えながら円柱状の痕跡を重ねていくか,又は,一定の力を加えながら作用点を横に移動させていくことが必要であるが,蓋の上角部の強度を考えれば,深さ約2.5㎜の凹損ができる前に本件ハンドルが破壊されるから,そのような作業が可能であるとは到底思われない。以上から,本件凹損は前記の場合にできた痕跡と矛盾する。 ホイルレンチの刃先部を本体ネームプレートと本件金庫本体との間に差し込む場合も同様である。 ホイルレンチの刃先部を蓋ネームプレートと本件金庫本体(蓋)との間に差し込み,同様の方法で力を加えた場合,蓋ネームプレートの方が変形・破損するし,蓋ネームプレートには差し込んだと思われる痕跡が認められない。以上から,本件凹損を,前記の場合にできた痕跡と考えることは合理的ではない。 証人c6ホイルレンチの一端を持ち,他端で蓋の上角部に打撃を加えた場合について検討するに,ナット回し部分の外形が痕跡の平坦部の部分より大きいことと,ナット回し部分で打撃を加えると六角形のソケット部分の形状が印象されることになるところ,平坦部にそのような痕跡が見当たらないことから,ナット回し部分で打撃を加えて本件凹損を形成することは困難である。また,ホイルレンチの軸部で打撃を加えて平坦な凹損を作るためには,多数の円柱状の痕跡を重ねてほぼ平坦な凹損を作る作業が必要なため,特別な打撃装置を使用せずに手作業で実現することは極めて困難である。したがって,本件凹損は前記の場合にできた痕跡と矛盾する。 結局,本件凹損は,バールのよ ほぼ平坦な凹損を作る作業が必要なため,特別な打撃装置を使用せずに手作業で実現することは極めて困難である。したがって,本件凹損は前記の場合にできた痕跡と矛盾する。 結局,本件凹損は,バールのような平坦な部分のある物を利用したと しても,本件ハンドルを外す過程では44度の角度を形成することは考えにくく,何か平坦な物を打ち付けたか平坦な場所に落としたかにより生じた可能性が高い。 新旧証拠による検討鑑定人h2鑑定によれば,aが自白する,本件金庫の蓋を開けるため,ホイルレンチの刃先部を本件金庫本体と蓋との隙間に差し込んで上下にこじたという開扉方法は,現実に開扉が可能であるから,客観的事実に整合しているといえる。 他方,鑑定人h2鑑定及び証人c6意見によれば,aが自白する,本件金庫表側の金具の隙間に差し込み,蓋中央部にホイルレンチを当ててテコを応用して鍵を壊そうとしたとする本件凹損の形成過程は,客観的事実である本件凹損の状況と整合しない。また,新旧証拠によれば,軸部が円柱状であり,ナット回し部分が本件凹損より大きいホイルレンチでは,底部が平坦な本件凹損を形成することは基本的に不可能であると考えられるし,角度もこれを裏付けている。そして,本件ホイルレンチも軸部が円柱状であり,ナット回し部分が約15㎜よりも大きいことが認められるから,本件ホイルレンチで本件凹損を形成することはできないというべきである。したがって,本件ホイルレンチで本件凹損を形成したとするaの自白は,客観的事実に整合しないものといわざるを得ない。 ところで,本件凹損は,平坦な物を打ち付けたか,平坦な場所に落としたかにより形成された可能性が高いところ,本件凹損の位置からすれば,本件金庫を開扉しようとした際にそのような行為が行われたと考えるのが自然である。ま 損は,平坦な物を打ち付けたか,平坦な場所に落としたかにより形成された可能性が高いところ,本件凹損の位置からすれば,本件金庫を開扉しようとした際にそのような行為が行われたと考えるのが自然である。また,被害者が,本件金庫を何者かが開扉しようとした痕跡と見られる本件凹損があるにもかかわらず本件金庫を使用していたと考えるのは不合理であることからすれば,犯人が本件時に本件 金庫を開扉しようとして平坦な物を使用したか平坦な場所に落としたことによって本件凹損が形成された可能性が高いというべきである。 そして,本件金庫を落として本件凹損が生じるような平坦な場所が,金庫発見場所付近にあるとはうかがわれないことからすると,犯人がバール等の平坦な部分のある物を使用したか,金庫発見場所以外の場所で本件金庫を落としたことによって本件凹損が形成された可能性が高いものと考えられる。 以上までに判断したところによれば,徒歩で石原山山中の金庫発見場所に行き本件ホイルレンチを使用して本件金庫を開扉して放置したとするaの自白は,本件金庫を開扉した場所が異なる疑い,又は,本件ホイルレンチに加えてバール等の平坦な部分のある物を携帯し(なお,仮に,平坦な部分のある物のみで本件金庫を開扉できるとすれば,これのみを携帯した可能性もある。),開扉する際に使用した疑いがある。そして,これらのいずれの疑いも,本件金庫内にあった現金5万円という財物取得に直結する本件金庫の開扉方法に関するものであり,周辺的な事情ではなく,むしろ根幹部分に関するものであるから,事件発生から3年以上経過した後の自白であり,本件凹損の形成過程が本件金庫の開扉そのものでない点を踏まえても,記憶の欠落やaの低い知的能力等では説明できない疑いがある。 また,aは,取調べにおいて,本件金庫を示され,本 した後の自白であり,本件凹損の形成過程が本件金庫の開扉そのものでない点を踏まえても,記憶の欠落やaの低い知的能力等では説明できない疑いがある。 また,aは,取調べにおいて,本件金庫を示され,本件凹損の形成過程につき自らが体験していない供述をしたことになるところ,かかる経緯も見過ごすことはできない。 したがって,新旧証拠によれば,aの本件凹損の形成過程に係る自白は,客観的事実に整合せず,確定判決等が指摘するような記憶の欠落等では説明できない疑いがあるから,この点はaの自白の信用性を動揺させ得るものと考えられる。 ウ本件金庫を持ち出した時刻aの自白本件金庫を被害者方から持ち出した時間についてのaの自白は,次のとおり変遷している。すなわち,昭和63年3月22日時点の自白では,腕時計で午前5時頃になったのを確認した上で,今頃ならまだ人通りもないし,人に見つかることもないと思って本件金庫を持って被害者方を出て,本件金庫を壊してその中の書類等を見ている時は,まだ夜が明けきっていないが月明かりがあったかも知れないというものである(乙10)。同月29日時点の自白では,被害者方を出たのは明け方であり,全体としては暗く,外灯もついていなければ周りの様子も分からない程度の暗さだったが,空がほんの少し明るくなりかけるという程度だったというものである(乙14)。同月30日時点の自白では,山の中で本件金庫を壊している時,真っ暗ではなく少し明るくなっていたような感じがあるので,よく考えてみると被害者方を出たのは午前6時少し前頃になり,本件金庫を壊していたのはそれから10分後か20分後くらいになると思うので,本件金庫を壊して金を取ったのは午前6時30分前後位になると思うというものである(乙15)。 主な旧証拠昭和63年3月26 庫を壊していたのはそれから10分後か20分後くらいになると思うので,本件金庫を壊して金を取ったのは午前6時30分前後位になると思うというものである(乙15)。 主な旧証拠昭和63年3月26日付け犯罪捜査復命書(甲188)によれば,本件翌日の日の出時刻は午前7時3分であった。 平成2年1月24日実施にかかる検証調書によれば,石原山山中の同日早朝の明るさは次のとおりである。すなわち,午前5時10分から午前5時30分までは,畦道から斜面を上がるまでの足元の道は判別できるものの,途中の経路は暗くて何も分からず,金庫発見場所付近では空を通して木立の形は判別できるがその他は分からない。午前6時10分から午前6時30分までは,山林の中は足元の枯れ葉の形も見え,本件 鉄塔から先の道の形もはっきり見え,本件工事道から金庫発見場所へ下りる下降口の木立の切れ目もわかり二,三m先の足元が見え,金庫発見場所付近では,目から十四,五㎝の位置に紙幣を近づけるとその識別もできるとされている。 確定判決等確定判決は,検証実施日の日の出時刻と本件翌日の日の出時刻はほとんど差がないと推測できるので,本件翌日早朝の明るさは,検証実施日と同じと考えることができ,aが被害者方を午前6時前に出発したとすれば,懐中電灯等を所持していなくても,本件金庫と本件ホイルレンチを持って,金庫発見場所に至り,金庫を破壊することは可能であったと認められ,金庫運搬・破壊に関する自白に,具体性や臨場感に欠ける感のあることは,事件発生から自白まで3年以上の時が経過し,詳細な記憶が脱落しているとも考えられる上,aが境界線級の知能の持ち主であり,言語能力,表現能力が乏しいために,その程度の供述しかできなかったとも解されるのであって,直ちに信用性に疑いを抱かせるものとはいい難いと しているとも考えられる上,aが境界線級の知能の持ち主であり,言語能力,表現能力が乏しいために,その程度の供述しかできなかったとも解されるのであって,直ちに信用性に疑いを抱かせるものとはいい難いとした(60~61丁)。 控訴審判決はこの点について特に判断を明示していない。 主な新証拠実験結果報告書(再弁C1)及び日野町事件現場照度測定結果報告(再弁C2)平成18年12月27日実施にかかる実験結果であり,その内容は概ね次のとおりである。 A 平成18年12月27日の方が検証実施日の平成2年1月24日よりも,本件翌日の月齢,月の出・月没・日の出時刻に近い。 東近江における本件翌日午前6時頃の気温は,零下1.6度,午前7時頃は零下1.3度である。 B 第1班は,乙10の自白に合わせて被害者方を午前5時に出発し,午前5時14分に山林入口から山林内に入り,午前5時18分に本件鉄塔地点にたどり着き,午前5時20分に金庫発見場所への下降口地点に到着し,午前5時22分に金庫発見場所に到着したが,同所までは明かりがないと何も分からず行動不可能である。 C 第2班は,乙15の自白に合わせて被害者方を午前6時に出発し,午前6時20分に山林入口から山林内に入り,午前6時23分に本件鉄塔地点にたどり着き,午前6時26分に金庫発見場所への下降口に到着し,午前6時29分に金庫発見場所に到達した。山林内に入る際に山林の入口は判別できるが山林内の足元は見えず,倒木等も見えないので懐中電灯(原文ではライト)を点灯して歩行する必要がある。また,下降口から金庫発見場所への経路は足元がよく見えないので懐中電灯を使用する必要がある。 D 第3班は,乙14に合わせて,近辺が「全体としては,暗く,外灯もついていなければ,周りの様子も分からない程度の から金庫発見場所への経路は足元がよく見えないので懐中電灯を使用する必要がある。 D 第3班は,乙14に合わせて,近辺が「全体としては,暗く,外灯もついていなければ,周りの様子も分からない程度の暗さでしたが,空がほんの少し,明るくなりかける,という程度」(原文どおり)となった午前6時33分に出発し,午前6時43分に石原山に到着した際,周囲はほとんど明るく,通常の行動が可能であった。 kの昭和63年3月27日付け警察官調書(再弁C4)アマチュア天文家であるkが,昭和63年3月27日,本件翌日の薄明りの状態,すなわち日の出前に夜が白けて(原文どおり)くる状態について供述したものであり,日の出が午前7時3分頃であれば午前6時3分頃には,夜が白けてきて明るくなったことを一般人であっても感じることができ,この頃になると山道と雑木林の区別がつき,目から20㎝離した状態で新聞の大きな活字を読み取ることができるというものである。 新旧証拠による検討新旧証拠によれば,平成18年12月27日の方が平成2年1月24日よりも本件金庫を投棄したとされる本件翌日に条件が近いことが認められる。そうすると,弁護人らが平成18年12月27日に行った実験に基づいて,本件翌日午前5時ないし6時頃に被害者方を出発し,直ちに金庫発見場所に行く場合,懐中電灯等を使用せずにたどり着くことは困難であるといえる。仮に,aが,途中で時間を空費していた場合,周囲が明るくなるから,懐中電灯等がなくとも金庫発見場所にたどり着くことができるといえるが,aの自白や引当捜査における案内において,そのような時間の空費をうかがわせる事情はない。ただし,金庫発見場所に到達するまでに時間を空費していたことはやや些末な事情ともいえ,確定判決が指摘するとおり,具体性や臨場感に における案内において,そのような時間の空費をうかがわせる事情はない。ただし,金庫発見場所に到達するまでに時間を空費していたことはやや些末な事情ともいえ,確定判決が指摘するとおり,具体性や臨場感に欠ける点は,aの低い知的能力及び時の経過からすれば,直ちに自白の信用性を動揺させるものでないとの見方も可能と思われる。しかしながら,aが,金庫引当捜査において,客観的には極めて正確に金庫発見場所を案内できていることと対比すると,具体性や臨場感に欠ける前記自白は,不自然であるとの感を生じさせる。 ところで,aは,当初(昭和63年3月22日),腕時計で午前5時と確認した上で被害者方を出たと具体的に供述していたところ,その後,空がほんの少し明るくなりかけるとか午前6時少し前頃と供述を抽象的なものに変遷させているが(同月29日及び同月30日),この変遷は,新証拠によれば,kの供述(同月27日)等を踏まえた警察官からの働きかけによるものと考えるのが自然であり,確定判決も,かかる供述部分の体験性は乏しいと明確に指摘している(51丁)。 したがって,新旧証拠によれば,本件金庫を持って被害者方を出発した時間に関する供述は,具体性や臨場感に欠け,不自然な点が見られる ものの,それ自体だけでは信用性を動揺させないが,体験性が乏しいに止まらず,警察官からの働きかけにより供述が抽象的なものに変遷した疑いが生じたといえる。もっとも,確定判決も同様の見解に立っているものと解されるから,新たに自白の信用性を大きく動揺させるものではない。 エ本件金庫を放置するに至った経緯aの自白等本件金庫を放置するに至った経緯についてのaの自白は,石原山山中で本件金庫を壊した(乙6),山へ上がったところで本件金庫を開けた(乙7),中箱を取り除きその下に入ってい 至った経緯aの自白等本件金庫を放置するに至った経緯についてのaの自白は,石原山山中で本件金庫を壊した(乙6),山へ上がったところで本件金庫を開けた(乙7),中箱を取り除きその下に入っていた現金を取り,それ以外の領収書のようなもの等は,そのまま本件金庫ごとその場に残した(乙14)などというものである。そして,aは,金庫引当捜査において,本件金庫を開扉しかつ放置した場所として警察官金庫現認場所を案内した。 主な旧証拠金庫発見調書(甲20)によれば,別紙図面3のとおり,警察官金庫現認場所は,本件松の木の根元西側付近であり,本件金庫の内容物と思料される16点の物品(甲145ないし160)のうち,10点は本件金庫周辺から,6点は本件工事道と本件松の木の間の斜面上から,それぞれ発見された。 鑑定人h2鑑定,警察官e4の証人尋問調書等によれば,本件金庫にはもともと本体前面の左右2箇所にダイヤル錠が付いており,これはダイヤル,ツマミ,ダイヤルウケ,ダイヤル軸等の部品(以下「ダイヤル部品」という。)により構成されていたところ,同ダイヤル錠はいずれも破壊されており,ダイヤル部品は本件工事道を含む金庫発見場所付近から発見されていない。 確定判決等確定判決は,金庫発見場所で本件金庫が開扉されたか否かについて,ダイヤル部品は,現場から発見された10円硬貨とそん色ない大きさであって,紙製である診察券や名刺が遺留されていたにもかかわらず,ダイヤル部品を動物や犯人又は通りかかった第三者が持ち去るとも考えられないのに,金庫発見場所で一切発見されていないことは奇妙といわざるを得ず,別の場所で金庫の破壊行為を行った上,金庫発見場所に投棄したとも考えられるのであり,aの自白には疑問を入れる余地のあることは否定できない,本件金庫及び 切発見されていないことは奇妙といわざるを得ず,別の場所で金庫の破壊行為を行った上,金庫発見場所に投棄したとも考えられるのであり,aの自白には疑問を入れる余地のあることは否定できない,本件金庫及び内容物の発見状況に加えて,本件工事道から金庫発見場所の見通し,距離を併せ考えると,犯人は他所で本件金庫を破壊した後,本件工事道上から金庫発見場所付近を目掛けて,本件金庫を内容物とともに投棄したと考える方がはるかに自然かつ合理的であるとした。もっとも,事件発生後,4か月経過後に本件金庫が発見されるまでの間に第三者が本件金庫を見つけ,発見時の状態に棄て,その後風により軽い紙片が飛び散った可能性も否定できず,本件金庫が一応重量もあり,投棄しやすい形状ではなく,金庫発見場所まで林の中の木々の幹や枝に衝突することなく投棄できるかは疑問であり,これが可能であったとの証拠もないから,本件工事道から本件金庫を投棄したというのは,一つの仮説にすぎないとした。その上で,本件金庫を棄てた状況の自白は,桐箱の下に入っていた現金を取り,それ以外の領収書のようなもの等は,そのまま本件金庫ごとその場に残したというものであり,本件金庫等の発見時の状況とは異なっているが,この点は自白の信用性を減ずるものとまではいえないとする一方,本件金庫は,他所で破壊された疑いがあることは否定できず,この点は自白の信用性に疑問を入れる余地があるとした。また,aが誰から教えられたわけでもないのに,金庫発見場所について正しい知識を有していたとする間接事実の判 断に関連して,犯人が,他所で本件金庫を破壊し,金目の物を抜き取った後,山中に壊した本件金庫を運び,金庫発見場所に棄てたと見る余地もないではなく,このような疑問は残るにせよ,前記間接事実自体は非常に重いとした(78~79,123~ 庫を破壊し,金目の物を抜き取った後,山中に壊した本件金庫を運び,金庫発見場所に棄てたと見る余地もないではなく,このような疑問は残るにせよ,前記間接事実自体は非常に重いとした(78~79,123~124丁)。 控訴審判決は,この点について特に言及していないものの,自白の基本的根幹部分の信用性を認めていることからすると,本件金庫を放置するに至った経緯についてのaの自白は,前記基本的根幹部分の信用性を否定しないと判断したものと解される。 主な新証拠実験結果報告書(再弁C1の実験項目⑤)及び石原山における紙片に関する実験報告書(再弁C3)は,金庫発見場所の周辺に散乱していた紙片10点と同質の紙片28枚(7種類×4枚)を準備し,これらを本件松の木の幹から内径約58㎝ないし83㎝の楕円形内に放置し,約4か月(平成18年12月28日から平成19年4月28日まで)経過後の状況を確認したところ,約9割に当たる25枚はその楕円形内から発見され,残りの3枚は楕円形外にて発見されたものの,いずれも同所より谷側(北側),すなわち本件工事道と反対側で発見されたというものである。 実験結果報告書(再弁C9)は,本件金庫と同様の金庫内に,本件金庫と一緒に発見された物(甲145ないし160)と同様の模擬証拠物及び木箱を収納したものを準備し,これを本件工事道の本件鉄塔東方59mの地点から,本件松の木に向けて,8回にわたり投棄した実験結果によると,ほとんどの模擬証拠物は,投棄地点と金庫落下地点との間に散乱するか,もしくは金庫内にとどまることが判明したというものである。 新旧証拠による検討 本件金庫及び内容物の発見状況等A まず,旧証拠によれば,本件金庫の内容物である複数の紙片が本件工事道付近と金庫発見場所との間に散乱していることが認め ある。 新旧証拠による検討 本件金庫及び内容物の発見状況等A まず,旧証拠によれば,本件金庫の内容物である複数の紙片が本件工事道付近と金庫発見場所との間に散乱していることが認められ,本件工事道付近から本件金庫が投棄された際に,内容物が本件金庫から飛び出したものと考えられる。また,jが本件金庫を発見した際,本件金庫は蓋が開いたまま裏返し,すなわち上下逆の状態で,同じく裏返した状態の中箱の上にあった事実が認められ,本件金庫が投棄された際に蓋が開いたまま裏返しの状態で落下しそのまま着地したため,蓋が開いた裏返しの本件金庫が裏返しの中箱の上に乗ったものと考えられる。 そして,相当の点数から成るダイヤル部品は,その形状や材質からしてそれなりの重量があったと考えられるのに,それらが一つも金庫発見場所付近から発見されていないという事実は,軽くて紛失し易いはずの紙片等が相当数発見されていることとの対比において奇妙である。確定判決の指摘するとおり,第三者又は犯人がダイヤル部品のみを一つ残らず持ち去るとも考えられない。 したがって,旧証拠から認められる本件金庫及び内容物の発見時の状況等からすれば,犯人が他所で本件金庫を破壊した後,本件工事道付近から谷側に向けて本件金庫を内容物とともに投棄した結果,結果的に,本件金庫が,j金庫発見場所に静止したと考える方が,aの自白よりも,はるかに自然かつ合理的であるといえる。 B 次に,新証拠である弁護人の紙片の放置実験結果(再弁C1,C3)は,その過程に特に不自然・不合理な点もなく,信用することができる。 また,本件工事道から本件松の木に向けた投棄実験結果(再弁C9)は,本件松の木と金庫発見場所の位置関係からすれば,投棄したと予測される地点が,実際には投棄実験における投棄地点より西側であったと る。 また,本件工事道から本件松の木に向けた投棄実験結果(再弁C9)は,本件松の木と金庫発見場所の位置関係からすれば,投棄したと予測される地点が,実際には投棄実験における投棄地点より西側であったと考えられることや,投棄時の風向きが明らかでないことなどを考慮しても,そ の過程に特に不自然・不合理な点はなく概ね信用することができる。 これらによれば,金庫発見場所周辺に4か月間程度紙片を放置しても,同所からそれほど移動しないか,又は同所より谷側の地点に移動する可能性が高く,放置された場所よりも本件工事道側に移動する可能性は著しく低いものと認められ,本件金庫やその内容物の発見時の状況とは大きく異なっている。むしろ,本件工事道付近から本件金庫を投棄した投棄実験の結果の方が,本件工事道付近と本件金庫の落下地点との間に紙片が散乱するなどの点で,本件金庫及びその内容物の発見状況により類似しているということができる。また,金庫発見場所が本件工事道から斜面を下がった位置にあるなどの周囲の状況や構造からすれば,本件工事道付近から投棄した本件金庫が,木々の幹や枝に衝突することなく金庫発見場所付近に落下することも可能であったと認められる(投棄実験において,8回のうち第7回のみが樹木にぶつかって投棄地点付近に落下したに過ぎない。他方,第4回及び第6回は,優に本件松の木付近まで到達している。)。なお,投棄実験において,本件金庫が本件松の木の東側に複数回落下した点は,前記のとおり投棄場所がより西側だったと考えられることからすれば,また,紙片が本件金庫より西側に落下している場合もある点は,投棄時及び放置期間中の風向きにより変動し得ることからすれば,いずれの点も本件金庫が本件工事道付近から投棄されたという認定の妨げにはならない。さらに,犯人が,本件工事道上で している場合もある点は,投棄時及び放置期間中の風向きにより変動し得ることからすれば,いずれの点も本件金庫が本件工事道付近から投棄されたという認定の妨げにはならない。さらに,犯人が,本件工事道上ではなく,本件工事道から若干北側に下りたところから投棄した可能性もあることも踏まえると,本件金庫の重量を考慮しても,本件工事道付近から投棄した本件金庫が金庫発見場所に達するとしても不自然ではない。 そうすると,新証拠によれば,犯人が本件金庫を本件工事道付近から金庫発見場所方向へ投棄した可能性は,さらに高くなると考えられる。 C ところで,本件金庫が発見されるまでの間に第三者が本件金庫を見つ け,その者が本件金庫を発見時の状態に放置し,その後風により軽い紙片が飛び散った可能性についてみるに,これを具体的にうかがわせる事情はなく,抽象的な可能性にとどまるというべきである。仮に,そのような事態が生じていたとすれば,かえって,aが警察官金庫現認場所とほぼ一致する場所を案内した事実からは,aが犯人であることを推認することができない疑いが生じる。そのため,確定判決も,第三者が本件金庫を警察官金庫現認場所に置いた(移動させた)可能性を高いものとはとらえていないと考えられる。 D したがって,新旧証拠から認められる本件金庫及び内容物の状況,金庫発見場所付近の状況,構造等を総合考慮すれば,犯人は,金庫発見場所とは別の場所で本件金庫を開扉し,本件工事道付近から,本件金庫を谷側に向けて投棄したと考えるのが最も自然かつ合理的であり,このように推認することが相当である。既に判示したとおり,確定判決が指摘件工事現場付近から本件金庫が投棄されたという前記推認について,これを仮説にとどまるとした確定判決の前記判断は動揺している。 aの自白の不合理性金庫発見 る。既に判示したとおり,確定判決が指摘件工事現場付近から本件金庫が投棄されたという前記推認について,これを仮説にとどまるとした確定判決の前記判断は動揺している。 aの自白の不合理性金庫発見場所に至る本件翌日の行動についてのaの自白をみると,懐中電灯を所持せず,サンダル履きの状態でありながら,道路に車を停車させ,本件金庫を開扉するためにわざわざ暗がりの石原山を徒歩で上がろうと考えること自体不可解である。また,本件金庫を工具で破壊して開けるのであれば,本件鉄塔下の平地部分で行えばよいのに,わざわざ林の中に分け入る必要があったかは疑問であり,その行動は不合理である。もっとも,この点に関する自白内容の不合理性は,確定判決等も前提としているものと解される。 小括 以上をまとめると,新旧証拠により認められる客観的状況からすれば,犯人は,別の場所で本件金庫を開扉し,本件工事道付近から,本件金庫を投棄した事実が推認されるところ,本件金庫を金庫発見場所で開扉し,放置したとするaの自白は,前記推認と矛盾する上,内容自体も不自然・不合理なものといわざるを得ず,信用性が動揺している。 そして,aが自白するとおり,本件の動機が本件金庫に在中する現金を強取するというものである場合,本件金庫の内容物を取得したことは,被害品の奪取に関わる根幹部分であると考えられる。そうすると,どのような場所においてどのような方法で本件金庫から内容物を取得したかは記憶,印象に残りやすい事柄であるし,aの自白によれば,本件金庫の開扉,内容物の取得及び本件金庫の放置は金庫発見場所における一連の流れであるから,本件金庫の放置に至る経緯も内容物の取得と合わさって,ますます記憶,印象に残りやすい事柄であるといえる。したがって,本件金庫の放置に至る経緯についてのaの自白 発見場所における一連の流れであるから,本件金庫の放置に至る経緯も内容物の取得と合わさって,ますます記憶,印象に残りやすい事柄であるといえる。したがって,本件金庫の放置に至る経緯についてのaの自白に客観的状況と整合しないおそれが生じていることは,事件発生から自白まで3年以上の時の経過を考慮しても,記憶の欠落や変容等では説明がつかない。 仮に,aが犯人であるとすれば,故意に虚偽の供述をしたと見ざるを得ないが,強盗殺人について全面的に自白していたaが,本件金庫を開扉した場所や,本件金庫を本件工事道付近から投棄したことについて,虚偽の供述をする理由は見当たらない。 したがって,本件金庫を金庫発見場所で開扉し,放置したとするaの自白の信用性が動揺していることは,aの金庫発見場所についての説明全体の信用性を動揺させるものである。 また,犯人が,別の場所で本件金庫を開扉し,本件工事道付近から本件金庫を投棄したことが推認されることからすれば,犯人が,投棄した本件金庫が静止した正確な場所を記憶しているとも考え難く,犯人は, 本件金庫が放置されていた正確な位置すら認識していない可能性がある。 仮に,aが誰から教えられたわけでもないのに,金庫発見場所について正確な知識を有していたとしても,かかる事実がaの犯人性を推認させる力は,やや減殺されるというべきである。 オ金庫発見場所の知情性aの自白等前記のとおり,aが本件金庫の放置場所について金庫引当捜査前にした自白は,警察官e1に対し,石原山山中で本件金庫を壊したというもの(乙6),検察官f1に対し,被害者方から町道石原鳥居平線(通称:農免道路)を越え,野出方向に走った途中で車を停め,道路から田圃の畦を通り,山へ上がったところで金庫を開けたこと,その山には松の木や雑木が生えていたという 対し,被害者方から町道石原鳥居平線(通称:農免道路)を越え,野出方向に走った途中で車を停め,道路から田圃の畦を通り,山へ上がったところで金庫を開けたこと,その山には松の木や雑木が生えていたというもの(乙7)などである。そして,aは,金庫引当捜査において,本件金庫を開扉しかつ放置した場所として,警察官金庫現認場所とほぼ一致する地点を案内した。 主な旧証拠前記のとおり,金庫発見調書,警察官e4の証人尋問調書によれば,警察官金庫現認場所は,本件松の木の根元北西側約33㎝の場所(別紙図面3の☒地点かつ拡大図におけるⒶ地点)であり,j金庫発見場所は,本件金庫の南側かつ本件松の木南西側約35㎝の場所(同拡大図におけるⒷ地点)である。証人c7は,jとともに,昭和60年4月28日に実施された金庫発見場所の実況見分に立ち会った。 金庫引当調書(甲24),警察官e2の確定審における供述(同人の確定審における証人尋問調書,以下「警察官e2旧供述」という。),検察官f1の確定審における供述(同人の確定審における証人尋問調書,以下「検察官f1旧供述」という。)によれば,金庫引当捜査の内容は以下のとおりである。 A 金庫引当捜査は,昭和63年3月21日に実施された。金庫引当捜査に立ち会ったのは,見分責任者である警察官e2,見分指揮者である警察官e6,補助者の警察官e7,補助者で写真担当の警察官e8,補助者でいわゆる綱持ち(護送員,以下同じ)の警察官e9に加え,一切口を挟まないという明確な方針の下,警察官e5,検察官f1,警察官e1が同行した。警察官e1はaの取調べを担当し,警察官e8はaの取調べ時に多数回書記を務めたことがあった(乙5,8,10ないし12,15ないし19)。aが乗る捜査車両には,警察官e2,警察官e7及び警察官e9が同 察官e1はaの取調べを担当し,警察官e8はaの取調べ時に多数回書記を務めたことがあった(乙5,8,10ないし12,15ないし19)。aが乗る捜査車両には,警察官e2,警察官e7及び警察官e9が同乗した。 B 金庫引当調書の内容は以下のとおりである。 農免道路の県道石原八日市線(通称:野出道)に入る交差点から見分を開始したところ,aは野出道を進行するよう指示し,見分開始地点から北東方へ目測550m進行した地点(別紙図面4〔金庫引当調書現場見取図3と同じ〕のⒶ地点,滋賀県蒲生郡日野町大字石原字Eg番地のh先。以下「停車地点A」という。)で停車を指示した。同所からは本件鉄塔を望見することができる(金庫引当調書添付写真③)。 その後,aは,野出道東側の田圃南側にある畦道に入るよう指示し(同写真⑤,⑥),同畦道の途中(別紙図面4のⒷ地点)で山林に入るよう指示し(同写真⑦,復路の写真〔新証拠である後記再弁D7,再弁D21によれば,復路に撮影した写真と認められる。以下同じ〕),山林の中を約9.5m進み,前ヶ谷溜の堤防に上がった地点(別紙図面4のⒸ地点)で右折し(写真なし),雑木林の中にある幅員約1mの山道を南方に向けて歩き出し(同写真⑧,復路の写真)山林内を約90.05m歩いて(同写真⑨,⑩,いずれも復路の写真),本件鉄塔にたどり着いた(同写真⑪)。 その後,aは,本件鉄塔から本件工事道を東方に向けて歩き(同写真⑫,復路の写真),本件鉄塔から約59.6m進行した本件工事道上の地 点(別紙図面5〔金庫引当調書現場見取図4と同じ〕の2△。以下「本件下降口」という。)で立ち止まり,「この付近で少し中に入った」と説明した。さらに,aは,周囲を見渡しながら,一時(原文どおり)考えた後,同所北側のくぬぎ,松等の混在林を覗き見るようにした上(同写 件下降口」という。)で立ち止まり,「この付近で少し中に入った」と説明した。さらに,aは,周囲を見渡しながら,一時(原文どおり)考えた後,同所北側のくぬぎ,松等の混在林を覗き見るようにした上(同写真⑬,⑭,いずれも復路の写真),林の中に入り,付近が少し平らになった地形の所に立ち止まった。aは,本件松の木の根元付近を指示して,「この付近で金庫を壊し,中の金を取り金庫を棄てた」と説明した。金庫引当調書現場見取図4には,「被疑者が案内した場所」として,本件松工事道から傾斜地を北方に約13.6m下りた混在林で,同所から北方に下りると前ヶ谷溜へと続いている。 C 警察官e2旧供述の内容は,次のとおりである。 警察官e2は,金庫引当捜査を実施する前にaの供述調書を読んだが,aが取調べの段階で供述していた「下の方から上がっていった」という経路は漠然としており,はっきりとはわからなかった。 金庫引当捜査において,写真撮影のためにaを停止させた場合,必ずaに次の行き先を告げさせた後に撮影者を前に出して撮影するよう指示していた。金庫引当調書添付写真⑬,⑭は,aが立ち止まったため,aに確認して写真を撮った,aが立ち止まったり,写真撮影をしたりすれば,必ずその点を金庫引当調書に記載している。 aは,本件鉄塔からりんご園の方にしばらく歩いた後,混在林付近でいったん立ち止まり,周囲を見渡すように見て,しばらくしてから少し下がったところを向いて入っていった。aは,一旦10m余り下がると,やや平たくなった場所に少し目印になるような本件松の木があり,本件松の木の根元付近を指示して,ここで本件金庫を壊して棄てたと指示し,警察官e2は確認するため,aにこの場所かどうか話しかけた。 警察官e2は,aの後方を10m位離れて追従し,確認するときには近づき,確認が を指示して,ここで本件金庫を壊して棄てたと指示し,警察官e2は確認するため,aにこの場所かどうか話しかけた。 警察官e2は,aの後方を10m位離れて追従し,確認するときには近づき,確認が終わると後方に下がった。aの任意の案内のもとで実施するため,自分が近くにいると案内しにくいと考え,警察官e2は必ず下がるように配慮していたが,その場にとどまっていたこともあった。 自分の更に後方には,警察官e6,検察官f1及び警察官e5が同行していた。 D 検察官f1旧供述の内容は,次のとおりである。 検察官f1は,昭和63年3月13日にaが経路を供述した際,その供述する経路で投棄現場付近に至ることが可能であるのか不安を持ちながら検察官調書(乙7)を作成した。検察官f1は,その経路の内容を警察に知らせなかったし,その経路の略図を作らせる指示もしなかった。 金庫引当捜査時,停車地点Aから,aを先頭に,捕縄を持っている警察官,そのすぐ後ろあたりに見分責任者の警察官e2や検察官f1がついて行き,更にその後方に警察官e6,警察官e5が続いているという状況で,少し進行する度に停止を指示して写真を撮るという作業を繰り返した。写真撮影の際,aはその位置に止まり,写真撮影担当者が自分の考えた角度から撮影し,捕縄係以外の警察官は全て撮影範囲から外れるように移動した。 aは,停車地点Aから,畦道を通り,排水口が設置してある地点から斜面を上がって池の横に出て,山の中に入って本件鉄塔にたどり着くまで,迷うことなくスムーズに案内した。aは,本件鉄塔を通った後,迷わず東進し,いったん本件下降口を通り過ぎたものの,周囲を見ながら戻ってきて,そこから沢の方へ下っていった。aが下りようとした際,警察官e5が「もっとあちこち確認して考えたらいいんやぞ」と声をかけたが,a し,いったん本件下降口を通り過ぎたものの,周囲を見ながら戻ってきて,そこから沢の方へ下っていった。aが下りようとした際,警察官e5が「もっとあちこち確認して考えたらいいんやぞ」と声をかけたが,aは「ここでいいんです」と言って下りて行った。急勾配になっていて地面が若干えぐれており,倒木もあって下りにくい場所である にもかかわらず,aが勢いよく下りようとしたため,警察官がもう少しゆっくりと下りるように声をかけた。aは,付近の木をよく見た上,本件金庫を棄てたのはここだと指示した。検察官f1がそばにいた警察官e5に小声で,「あそこでいいんですか」と聞くと,警察官e5は,「ああ,ここでいいんです」と答えた。 aの確定審における供述aの確定審第36回公判期日における供述の内容は,次のとおりである。 昭和63年3月9日に任意の取調べを受け始めた際には,金庫発見場所が石原山であることは新聞等で知っていたと思う。石原山が大体どの辺にあるかということも知っていた。 金庫引当捜査の前日,警察官e1から,「金庫の棄て場所,鉄塔があったなあ,あったやろ」というふうに聞かれた。また,「その途中にため池があるなあ」とも言われた。 金庫引当捜査の際,車中から鉄塔を探していたところ,野出道へ行く手前側に高圧線が見えたので,野出道の方へ曲がるよう指示した。野出道に入ってから外を覗いていたら鉄塔が見えたので,そこで車を停めてもらった。その付近に鉄塔のある場所へ通じる道路や山道があるということは全然分からなかった。田の畦道を通って,山の中を上がっていくと,中間辺りでため池が見えた。その後本件鉄塔に着くまでの間,警察官からは何も言われなかった。 本件鉄塔の下に出ると,警察官から「おい,どこらや,場所どこや,こっちと違うか,こっちかい」と言われ,右,左を 辺りでため池が見えた。その後本件鉄塔に着くまでの間,警察官からは何も言われなかった。 本件鉄塔の下に出ると,警察官から「おい,どこらや,場所どこや,こっちと違うか,こっちかい」と言われ,右,左を教えてくれるなどしたので,ふと後ろを向いたら,話し声がぷつっと切れた。その後,本件鉄塔から走っている高圧線が通っているところをまっすぐ歩いて行ったところ,ちょうど下を見たらきれいな所があった。左側のため池も見 えてたので,斜面になっている所を下りて行ったら,土が盛り上がった所があり,その横がちょっと堀になっていたので,そこを指示した。盛り上がった所にちょうど何かが落ちたように,盛りの所が掘れていたので「ここで開けました」と言った。その場所には松の木が生えていたが,下はきれいだった。雑草もみな刈られており,雑木の太いのが生えているくらいであった。本件鉄塔から本件下降口に至るまでの間に,自分の前を警察官が歩いたり,前から写真を撮られたりした記憶はない。 確定判決等確定判決は,aの自白について,その自白内容に従った事実認定ができるというほど自白の信用性が高いとは考えられないとする一方(92丁),aが,誰から教えられたわけでもないのに,金庫発見場所について正しい知識を有していたことが認められるとした。その上で,犯人が,他所で本件金庫を破壊し,金目の物を抜き取った後,山中に壊した本件金庫を運び,金庫発見場所に棄てたと見る余地もないではなく,このような疑問は残るにせよ,aが,警察官に教えられることなく,また,他から情報を入手していたとも考えられない以上,金庫発見場所を知っていることは,少なくともaが本件金庫の投棄に関与していたと考えざるを得ず,aが被害者の殺害や本件金庫の奪取にも関与していると推測するのが最も自然であるとして,この点を ない以上,金庫発見場所を知っていることは,少なくともaが本件金庫の投棄に関与していたと考えざるを得ず,aが被害者の殺害や本件金庫の奪取にも関与していると推測するのが最も自然であるとして,この点を犯人性を推認させる間接事実とした(123~124丁,146丁,148丁)。 控訴審判決は,aが,金庫引当捜査の際,捜査官の想定した経路と異なる経路を指示して金庫発見場所に到達し得た事実を,自白の基本的根幹部分の信用性が認められる理由の一つとした(28頁)。 主な新証拠ネガ現像写真の撮影および調査結果報告書(再弁D7),関連ネガ写真集(再弁D21)は,金庫引当調書には,復路において撮影された写真 が,往路における引当時の写真として使用されていたというものである。 警察官e2の当審における供述(以下「警察官e2新供述」という。)の内容は,次のとおりである。すなわち,警察官e2は,金庫引当捜査においてaに任意に案内させるよう配慮し,aが任意に金庫発見場所を案内した,往路で何らかの原因で撮影されていなかった場合に備えて,復路でも要所で写真撮影を行った,金庫引当調書に往路と復路の写真を混在して使用したのは,それらの写真が混ざった状態で,できる限り捜査官が映り込んでいない写真を選んだからである,確定審において,往路で撮影した写真が金庫引当調書に使用された旨証言し,復路で写真撮影したことにつき証言しなかった理由は,証人尋問が金庫引当捜査から5年以上経過して行われ,証人尋問に先立ち金庫引当調書のみを確認したため,記憶が減退していたからである。 検察官f1の当審における供述(以下「検察官f1新供述」という。)の内容は,次のとおりである。すなわち,検察官f1は,金庫引当捜査においてaに任意に案内させるよう配慮しており,aは自発的に金庫 検察官f1の当審における供述(以下「検察官f1新供述」という。)の内容は,次のとおりである。すなわち,検察官f1は,金庫引当捜査においてaに任意に案内させるよう配慮しており,aは自発的に金庫発見場所まで案内した。検察官f1は,aが金庫発見場所を案内できるかの点に関心を持っており,案内できたことで気持ちが緩んでしまい,復路で撮影した写真が金庫引当調書で使用されていた事実だけでなく,復路で写真撮影がされていたこと自体に気付かず,知らなかった。 昭和60年5月10日付けA新聞記事(再弁A32の1)は,本件金庫が被害者方から北東約2.6㎞の日野町内の山林に棄てられていた旨報道されていたというものである。 新旧証拠による検討問題の所在旧証拠によれば,aが金庫引当捜査時に農免道路と野出道の交差点か ら警察官金庫現認場所まで,結果的には案内できた事実が認められる。 そこで,進んで,aが,誰から教えられたわけでもないのに,警察官金庫現認場所について正しい知識を有していたことが認められるか,また,仮に,aが警察官金庫現認場所につき正しい知識を有していたとしても,それが,aの自白の信用性を高めたり,aが犯人であることを推認させたりすることができるかの点について検討する。 なお,aは,金庫引当捜査前に前記のとおり自白しているが,その際,経路図等も作成しておらず,その供述内容も具体性に欠ける抽象的なものに過ぎなかった。そうすると,aの自白した経路と実際にaが案内した経路とは,前記交差点から野出方向に行ったという限度では一致するといえるものの,停車地点A及び同地点から警察官金庫現認場所への経路が事前にした自白と一致するかどうかは必ずしも明確ではなく,金庫引当捜査におけるaの案内経路をaが金庫引当捜査前に供述していたかは判然としな のの,停車地点A及び同地点から警察官金庫現認場所への経路が事前にした自白と一致するかどうかは必ずしも明確ではなく,金庫引当捜査におけるaの案内経路をaが金庫引当捜査前に供述していたかは判然としない。 本件鉄塔から警察官金庫現認場所までA 旧証拠による検討旧証拠によれば,aは,本件鉄塔から本件工事道を東に進みいったん本件下降口を通り過ぎてりんご園の方に少し行った後,本件下降口まで戻り,下りようとしたこと,その際,口を挟まない方針の下同行していた警察官e5が「もっとよくあちこち確認して考えたらいいんやぞ」と声をかけ,aが「ここでいいんです」と応えて本件下降口を下りて行き,本件松の木根元の北西付近を案内し,ここで金庫を破壊して,棄てたと述べたこと,aが案内した地点は,本件松の木との位置関係に照らし,警察官金庫現認場所とほぼ一致することが認められる。 そもそも,前記のとおり,aが低い知的能力の持ち主で,記憶能力等に制約があること,事件発生から金庫引当捜査まで3年以上の時が経過 していること,aの自白によれば,aは,本件翌日明け方に飲酒した状態で,それまで行ったことのなかった金庫発見場所に行き本件金庫を投棄し,しかも投棄した以降,金庫発見場所に行っていないということであるから,仮にaが真実,警察官金庫現認場所に本件金庫を放置したのだとしても,円滑にないしは独力で,警察官金庫現認場所を案内するには相当な困難を伴うものであったといえる。 ところで,金庫引当調書現場見取図4によれば,aが本件金庫を放置した場所として示した地点は,本件松の木の北西側の警察官金庫現認場所とほぼ一致する。しかしながら,第一発見者であるjが発見したときには,本件金庫は,本件松の木の南西側に位置するj金庫発見場所において,中箱の上にあった。それにもかか の木の北西側の警察官金庫現認場所とほぼ一致する。しかしながら,第一発見者であるjが発見したときには,本件金庫は,本件松の木の南西側に位置するj金庫発見場所において,中箱の上にあった。それにもかかわらず,aが案内したのは,jが移動させた(前記jの指示説明によれば,jが「置きました」)後の本件金庫の位置である警察官金庫現認場所である。そして,金庫発見調書見取図2を確認している捜査官らは,警察官金庫現認場所を把握しているものの,犯人がこれを把握していることは考え難い。そうすると,aが警察官金庫現認場所とほぼ一致する場所を案内したのは,何らかの方法でaが捜査情報,具体的には金庫発見調書見取図2の情報を得たためと考えるのが自然かつ合理的である。aは警察官金庫現認場所を指示するに当たり,本件松の木からの位置関係等の特別な根拠を述べてもいない。 ⒝ なお,犯人が投棄した本件金庫が偶々警察官金庫現認場所に落下した後,jが発見するまでに,何らかの事情により,本件金庫がj金庫発見場所に移動された可能性も全く想定できないものではないが,極めて抽象性の高い可能性に過ぎないというべきである。 ⒞ 以上によれば,そもそも仮にaが犯人であったとしても,金庫発見場所を案内することは相当困難であったと考えられるところ,aが指示し た場所が,犯人が知らず,その場に居合わせた捜査官らが知っていると考えられる警察官金庫現認場所とほぼ一致することからすれば,aが警察官金庫現認場所を本件金庫を放置した場所として案内したのは,aが捜査官が有する警察官金庫現認場所の情報を何らかの方法で得たためと考えるのが最も自然かつ合理的である。 ⒟ いかにしてaが捜査官の有する警察官金庫現認場所の情報を得たかの点について検討を進めるに,捜査官らのみならずa自身も,捜査官がaに対 かの方法で得たためと考えるのが最も自然かつ合理的である。 ⒟ いかにしてaが捜査官の有する警察官金庫現認場所の情報を得たかの点について検討を進めるに,捜査官らのみならずa自身も,捜査官がaに対し直截的に警察官金庫現認場所を教示したことを否定する供述をしている。また,検察官f1は,警察官に対し,取調べ方法として特に重要事項については誘導をしないことや,aに他の証拠内容を教えるような方法での取調べ又はその他の証拠内容をaに察知されるような取調べをしないよう指揮していた旨供述していることからすると,警察官が検察官f1が同行している面前で,その指揮に明らかに反する態様で経路を教えることは考え難い。確定判決等も,aが警察官金庫現認場所をほぼ正確に案内した事実を指摘する一方で,捜査官からの直截的な教示はなかったことを認定している。 そこで,捜査官らによる直截的な誘導がなされた以外の方法で,aが捜査官の有する情報を得て警察官金庫現認場所にたどり着けるかの点について検討する。 B 直截的な誘導以外の可能性⒜ 旧証拠によれば,本件の捜査官らは,aが任意に自白したものと信じ,それゆえ,aが犯人であると確信していたものと解される。そのような中,aの自白の信用性の増強又は犯人性推認のための極めて重要な捜査である金庫引当捜査を行うに当たって,捜査官らは,濃淡の差こそあれ,aが,捜査官らが正解と誤解した警察官金庫現認場所にたどり着けることを強く期待していたものと解される。その一方で,捜査官らは,既に 事件発生から自白まで3年以上の時が経過していたこと,aが低い知的能力の持ち主であること,aの自白した本件金庫を放置した場所への経路が捜査官らに疑問を抱かせるものであったことなどから,aが事件の詳細を十分に記憶していない懸念を有していたこともうかが aが低い知的能力の持ち主であること,aの自白した本件金庫を放置した場所への経路が捜査官らに疑問を抱かせるものであったことなどから,aが事件の詳細を十分に記憶していない懸念を有していたこともうかがわれる。検察官f1作成の準抗告申立理由書(補充)(再弁C11)に,aが記憶を喚起して関係場所についての供述をなした場合,その都度速やかに引当てを実施して真偽を確認しておかなければならない旨記載されていることからも,同検察官が,aの記憶喚起がされた上で引当捜査をすることを想定していたことが看取できる。 そのため,aに正解にたどり着いてほしいと強く期待している警察官が,記憶喚起のためaに正解に関する断片的な周辺情報を提供することは,重要事項についての直截的な誘導でないから検察官f1の前記指揮に反しないと考えて,そのような周辺情報を提供したことも想定できるところである。また,警察官が,意識的に正解に関する情報を提供しなかったとしても,警察官が無意識的に行った言動の細部から,正解に関する情報が提供されることも考え得るところである。さらに,aが曖昧な言動をした際,警察官が,それを自己の期待する内容に有利に解釈することも考えられるし,その趣旨を明確にするためにaに確認する際,無意識的に自己の期待する内容を示唆するような確認の仕方をすることも十分に考えられ,aの言動が曖昧であればあるほど,そのような事態が生じる危険性は高まる。 他方,aとしても,否認から自白に転じ,その自白を維持する以上は,その自白を信用してもらうために金庫引当捜査を成功させたいと考えていたとみて不当といえないし,金庫引当捜査には検察官f1を含む多数の捜査官らが同行していることから,少なくとも,金庫引当捜査の成否について捜査官らの関心が高いことを感じ取っていたといえる。 いたとみて不当といえないし,金庫引当捜査には検察官f1を含む多数の捜査官らが同行していることから,少なくとも,金庫引当捜査の成否について捜査官らの関心が高いことを感じ取っていたといえる。 また,aは,捜査官らが正解を把握していることを知っていたから,少しでも情報を得ようと警察官らの言動等に注意を払い,警察官が提供する正解に関する断片的な周辺情報や無意識的に提供する正解に関する情報,またaがした返答について警察官が採用した解釈を取り入れた上,それらに沿う反応をすることも考えられる。aは,低い知的能力の持ち主であるものの,前記のとおり,協調的な関係においては無難に行動できると認められることなどからすると,自白に転じたことにより協調的・融和的な関係を保っている警察官との間で,aがこのような行動をとることは決して不自然なことではない。 以上によれば,捜査において,①記憶喚起等として行われる,警察官による正解に関する断片的な周辺情報の提供に加えて,②警察官が無意識的に行ってしまう正解に関する情報の提供,③警察官がaの曖昧な言動を解釈するに当たって,自己の期待する内容に有利に行う解釈,④これら警察官の作用に対するaの協調的反応及びこれらの相互作用(以下,便宜上,②ないし④の作用を「警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等」といい,①と併せて「警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等」という。)によって,aが結果として警察官の考える正解にたどり着くこと,すなわち金庫引当捜査においては警察官金庫現認場所を案内することができた可能性がないとはいえない。もっとも,一般的に考えれば,このような可能性は,具体性があるとまではいい難いのであるが,前記のとおり,aがj金庫発見場所ではなく警察官金庫現認場 所を案内することができた可能性がないとはいえない。もっとも,一般的に考えれば,このような可能性は,具体性があるとまではいい難いのであるが,前記のとおり,aがj金庫発見場所ではなく警察官金庫現認場所を案内したという引当結果から,aが捜査情報を得ていた可能性が一定の具体性を持つため,更に検討を進めることとする。 ⒟ 旧証拠によれば,前記のとおり,捜査官からの直截的な教示の可能性が否定されるものの,必要以上に多数の,正解を知っている捜査官らが 立ち合い,警察官e1にaに近づかないよう注意するなどしていた(警察官e5の確定審第24回公判における証人尋問調書960丁)警察官e5自身が,本件下降口という重要な場面でaに声をかけたなどの望ましくない状況も認められた。しかしながら,警察官e2及び検察官f1は,確定審において,aが任意に警察官金庫現認場所を案内した旨供述しており(検察官f1旧供述及び警察官e2旧供述),確定判決等は,未だ警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等によって,aが金庫引当捜査において警察官金庫現認場所を案内することができた可能性は十分に具体的なものとはいい難いと判断して,aが任意に警察官金庫現認場所を案内した旨の検察官f1旧供述及び警察官e2旧供述の信用性を肯定したものと考えられる。そこで,新証拠によって,かかる確定判決等の判断が動揺するか否かの点について検討することとする。 C 新旧証拠による具体的検討⒜ そもそも,前記エのとおり,新旧証拠によれば,犯人は,金庫発見場所とは別の場所で本件金庫を開扉し,本件工事道付近から本件金庫を投棄した事実が推認されるから,むしろ犯人が,投棄した本件金庫が静止した正確な場所を記憶しているとも考え難く,本件金庫が放置されていた正確な位置を認 で本件金庫を開扉し,本件工事道付近から本件金庫を投棄した事実が推認されるから,むしろ犯人が,投棄した本件金庫が静止した正確な場所を記憶しているとも考え難く,本件金庫が放置されていた正確な位置を認識していない可能性がある。 ⒝ 新証拠によれば,前記のとおり金庫引当調書は,aが警察官に対し警察官金庫現認場所に至る経路を案内したとして,経路の分岐点においてaが方向を指示説明したという記載とともに,aがこれからの進行方向を向いている写真が添付されているが,それらの写真の多くは,実際には,金庫発見場所までの引当を終えた後の復路で撮影されたものであったことが認められる。すなわち,添付された写真の多くは,往路においてaが指示説明した際に,aの指示説明状況を撮影したものではなかっ た。 かかる金庫引当調書は,金庫引当捜査の経過を正確に記録したものとは到底いえず,事実認定を誤らせる危険性が多分にあるものであり,aに現場へ任意に案内させ,その状況を確認し,証拠を保全するという作成目的に照らして,不適切なものであったというほかない。現に,金庫引当調書を見て記憶を喚起させた警察官e2は,その結果,確定審において,実際の引当経過と異なる警察官e2旧供述をしており,その危険性が現実化したものと評価することができる。 それにもかかわらず,警察官e2新供述によれば,警察官e2が金庫引当調書を作成するに当たり,また,金庫引当捜査をするに当たり,そのような問題意識を有していた様子は全くうかがわれないし,立ち会った他の捜査官らも同様である。そうすると,本件に携わる捜査官らは,金庫引当捜査当時,引当捜査における任意性確保及びこの点についての証拠保全の措置を適切に行っていたとは到底いえないし,そのような意識があったともいえない。金庫引当調書の目的欄に書かれてい 査官らは,金庫引当捜査当時,引当捜査における任意性確保及びこの点についての証拠保全の措置を適切に行っていたとは到底いえないし,そのような意識があったともいえない。金庫引当調書の目的欄に書かれているとおり,引当捜査においては,被疑者に任意に案内させるだけでなく,その証拠を保全することも重要な目的であるから,案内における任意性立証のための証拠保全における重要事項を理解できていないのは,案内における任意性確保における重要事項を理解ができていないことを表すものに他ならず,このような捜査官の軽率な態度は厳しく非難されるべきである。 したがって,そのような任意性確保における重要事項を十分に理解できていない捜査官らが,主観的にはともかく,客観的にaの案内における任意性の確保が十分に徹底できていたとは考えられない。 特に,本件では,前記のとおり,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が生じる可能性が問題となるところ,捜査官らがこのような可能性まで念頭に置いていたこと は一切うかがわれない。 ⒞ 検察官f1による監督の実効性について検討するに,前記のとおり,検察官f1も,本来適切でないにもかかわらず,警察官e5がaに声をかける行為の問題性を全く認識できていなかった。検察官f1は,復路で,数回にわたりaの写真撮影をしている点に気付かなかった上,往路で写真撮影されていない地点での写真が金庫引当調書に添付されていたにもかかわらず(堤防・本件鉄塔間の山林の中,写真⑨,⑩),疑問を抱かなかった点も踏まえると,検察官f1は,往路における写真撮影及びaの指示説明についても十分に注意を払えていなかった疑いがある。 したがって,検察官f1は,主観的にはともかく,客観的には,引当捜査において,捜査官全員の言動の細部に常に ,往路における写真撮影及びaの指示説明についても十分に注意を払えていなかった疑いがある。 したがって,検察官f1は,主観的にはともかく,客観的には,引当捜査において,捜査官全員の言動の細部に常に気を配り,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が生じないよう金庫引当捜査を監督していたということはできない。 ⒟ 警察官e2は確定審及び当審において,aが任意に案内したと供述するが,警察官e2の記憶は,前記のとおり不適切な金庫引当調書を確認したことにより同書に記載されている内容で喚起される程度の,また,記載されていないものについては失われる(ないしは喚起できない)程度の不安定なものであり,直ちに信用することはできないし,警察官e2の供述するところの「任意」が本件で問題となっているような警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が生じていないことまで含意しているとはいえない。 したがって,警察官e2の前記供述は,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等がなかったことの根拠とはならない。検察官f1の同趣旨の供述も同様である。 ⒠ 以上までに判示したところによれば,新旧証拠を総合考慮すると,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう 相互作用等により,aが警察官が有する警察官金庫現認場所の情報を得て,案内することができた疑いが,合理的にみて認められるというのが相当である。また,このような事情からすれば,aが確定審で供述するように,警察官らが「おい,どこらや,場所どこや,こっちと違うか,こっちかい」のような発言をした可能性すら否定できず,aの同供述を不合理として排斥することはできない。 かかる結論は,前記のと ように,警察官らが「おい,どこらや,場所どこや,こっちと違うか,こっちかい」のような発言をした可能性すら否定できず,aの同供述を不合理として排斥することはできない。 かかる結論は,前記のとおり,本件凹損の成傷過程や被害者方を出た時刻等の,本件金庫の強取に関するaの自白部分が警察官からの働きかけにより変遷したことと同根のものであり,これらの点からも間接的に裏付けられる。 D 想定される批判についての検討以上の判断に対し想定される検察官からの批判についても検討を加えておく。 ⒜ まず,金庫引当調書で使用された写真が不適切であることから,現場見取図4において「被疑者が案内した場所」として記載された本件松の しかしながら,aが本件金庫を放置したとして案内する場所は,金庫引当捜査における最重要項目であることが明白であり,aが案内した地点は被告人の犯人性立証の柱となる事項であるとさえいえる。そうすると,警察官e2が,往路と復路の写真を混同して使用するという粗雑な行為をした点や,捜査官らが前記のとおり案内の任意性の確保について徹底できていなかった点を踏まえても,aが金庫投棄場所として案内した場所を正確に図面に記載しないことまではおよそ考えられないというほかない。 したがって,不適切な写真使用等の点を踏まえても,結果的にaが案内した金庫投棄場所の作図自体は,正確になされていると認められる。 aの自白のうち不自然であると思われる内容について,警察官が疑いを抱き,取調べに当たり,事実は違うのではないかと追及したが,aが自白に固執し,供述を変えなかった点を重視すれば,警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等といった事態はなかったのではないかという批判が想定できる。 しかしながら,たとえば,本件金庫の本件凹損に関す ,供述を変えなかった点を重視すれば,警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等といった事態はなかったのではないかという批判が想定できる。 しかしながら,たとえば,本件金庫の本件凹損に関する自白などを見ればわかるとおり,客観証拠(客観的事実)があるにもかかわらず,aの当初の自白がそれと整合しない又は言及しない場合,最終的には,警察官が認識する客観的事実と整合するような自白に変遷している経過が複数認められる。aの供述を子細に検討すれば,客観的事実と矛盾する自白については,一般的に警察官が期待する正解,すなわち警察官が認識する客観的事実と整合するような自白に最終的には到達しており,そのような客観的事実がないものについてのみ,当初の自白を維持しているとみることが可能である。そして,そのような客観的事実の有無は,警察官の追及態度にも差異を生じ,それに対応するaの反応にも差異を生じる(aが最終的に供述を変えない,あるいは変えることができない)ことが自然であるし,aが,客観的事実がある点について曖昧な供述をした場合,警察官は,客観的事実と整合するような供述として解釈した可能性も考えられる。そして,金庫引当捜査に関しては,金庫発見場所という客観的事実が存在する。 したがって,aの当初の自白に不自然と思われる内容が含まれ,警察官の追及ないし確認にもかかわらず,その一部についてその供述が維持されていた事実(たとえば,死体搬送経路が警察署前を通過することなど)は,金庫引当捜査において,警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた疑いを何ら否定するものではない。 aの自白に変遷があること自体,警察官が誘導していないことの現れ であるとする批判も想定できる。 確かに,仮に,警察官が,明示的かつ直截的な誘導をした場合であれ 何ら否定するものではない。 aの自白に変遷があること自体,警察官が誘導していないことの現れ であるとする批判も想定できる。 確かに,仮に,警察官が,明示的かつ直截的な誘導をした場合であれば,供述の変遷もなく,当初から警察官の誘導に沿った供述をすることも考えられる。しかしながら,既に詳述したとおり,本件では,明示的,直截的な誘導はなかったことが認められる一方,aが犯人であると確信しているものの,aの自白内容や記憶に不安を抱いた警察官により,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いたことが疑われているのである。 そうすると,aの自白に変遷があることも,警察官が前記のような不安を抱く一要素となりこそすれ,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性を否定する理由とはなり得ない。 ⒟ さらに,金庫引当捜査の結果は,aがj金庫発見場所にほど近い前記ぼ一致していることは単なる偶然であるとの批判も想定できる。 しかしながら,金庫引当捜査には,金庫発見時の実況見分を行い,jから指示説明を受け金庫発見調書を作成した警察官e4(滋賀県日野警察署〔当時。以下「日野署」という。〕勤務は昭和61年3月まで)及び補助者であった4名の警察官がいずれも同行していないところ,同調書見取図2を一見しただけでは(本文中のjの指示説明及び拡大図を照合して検討しなければ),j発見当時の本件金庫の位置が警察官金庫現認場所であるかのように見える。この状況下において,aが,実際には本件松の木との位置関係に照らしてj金庫発見場所と明確に異なる警察官金庫現認場所をほぼ正確に案内していることからすれば,偶然の事態という説明よりも,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達 木との位置関係に照らしてj金庫発見場所と明確に異なる警察官金庫現認場所をほぼ正確に案内していることからすれば,偶然の事態という説明よりも,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性がより具体性を帯びるという べきである。 E まとめ以上をまとめると,そもそも仮にaが犯人であったとしても,本件金庫を放置した場所に案内することは相当困難であったと考えられるところ,aが案内した場所が,犯人が知らず,立会等を行いその場に居合わせた捜査官らが知っている警察官金庫現認場所であることからすれば,aが警察官らが有する警察官金庫現認場所の情報を何らかの方法で得たと考えるのが最も自然かつ合理的である。そして,本件では,その方法として,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみてあると認められる。 したがって,新旧証拠によれば,aが本件鉄塔から警察官金庫現認場所を案内したことから,aが,誰から教えられたわけでもないのに,警察官金庫現認場所について正しい知識を有していた事実を認めた確定判決等の認定はおおいに疑わしくなったといえる。そうすると,かかる事実を認めた上で,同事実が,aの自白の信用性を高めたり,aが犯人であることを推認したりするとした確定判決等の判断は大きく動揺している。 見分開始地点の交差点から本件鉄塔までの経路Aaが本件金庫が石原山で見つかったことを取調べ以前から知っていた旨供述し,新聞においても被害者方から北東約2.6㎞の日野町山林に棄てられていた旨報道されていたことからすると,aが金庫発見場所が石原山であることを報道等で知った可能性は十分にあると認められる。そして,石原山へは前記交差点から野出道を通っても,りんご 野町山林に棄てられていた旨報道されていたことからすると,aが金庫発見場所が石原山であることを報道等で知った可能性は十分にあると認められる。そして,石原山へは前記交差点から野出道を通っても,りんご園方面に向かっても行くことができる。そうすると,aが野出道を選択した事実が,aを犯人であると推認させる程度はごくわずかである。 B 次に,停車地点Aで停車して,本件鉄塔にたどり着いたことについて, aは,金庫引当捜査の前日,警察官e1から,「金庫の棄て場所,鉄塔があったなあ,あったやろ」というふうに聞かれていたため,野出道に入ってから外を覗いていたら本件鉄塔が見えたので,車を停めてもらったと供述している。確かに,金庫発見場所が本件鉄塔付近であることを知っていれば,本件鉄塔が見える停車地点Aで停車して,本件鉄塔にたどり着くことができる。他方,警察官e1は,確定審において,aが述べるような示唆は一切与えていない旨供述している。 C ところで,aは,金庫引当捜査の際,別紙図面4のⒷからⒸの経路として,田んぼの畔道から道のない山林の中の法面を上っているが,道路を北回りで向かうのが自然とも思われ,不合理な経路を選択しているようにも思える。しかしながら,地図がなく,初めて来た者にとって,Ⓑから北回りでⒸにたどり着けるかどうかは明らかでないし,また,北回りだと本件鉄塔から離れてしまう。他方で,新証拠である金庫引当捜査時の写真(再弁D21,平成24年押第5号符号205のネガ3~6)によれば,Ⓑよりも南だと法面を上るのが相当困難であることがうかがわれる。そのような中,経路がどうであれ本件鉄塔にたどり着くことが最も優先されることだとすれば,Ⓑから法面を上ってⒸに行く経路は,本件鉄塔から離れず,かつ,上ることができる経路と考えられ,合理的といえる。そ のような中,経路がどうであれ本件鉄塔にたどり着くことが最も優先されることだとすれば,Ⓑから法面を上ってⒸに行く経路は,本件鉄塔から離れず,かつ,上ることができる経路と考えられ,合理的といえる。そうすると,aが,Ⓑから法面を上ってⒸに行く経路を選択したこと自体,本件鉄塔を目標にしていることをうかがわせるものであり,自身が犯人でないにもかかわらず,aが,本件鉄塔付近に目的地があることを何らかの方法で知っていた疑いを生じさせるものといえる。 D 確定判決は,警察官らが,何としてもaが正しい場所を指示するするよう仕向けたいと考えていたならば,「鉄塔」や「池」などという迂遠なヒントを与えたりせず,地図等を用いて詳細に経路を教えなければ, aが道を誤る危険が大きく,いかにも手ぬるいなどとして,警察官e1から,金庫発見場所には「鉄塔があったなあ,あったやろ」というふうに聞かれたなどとするaの供述は一見して不自然であり,信用できないとしている(120丁)。 しかしながら,金庫引当捜査には検察官f1が同行しているから,警察官が,検察官f1の前記指示に反する明示的かつ直截的な誘導を引当捜査中にすることは考え難いし,引当捜査開始前であっても,地図や現地の写真等を用いて明示的,直截的な誘導をし,これが痕跡と共に事後的に発覚した場合,捜査上の大問題となることから,警察官がそのような地図などを用いた事前誘導をすることも考え難い。 むしろ,新旧証拠によれば,前記のとおり本件では,aが,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等によって,警察官金庫現認場所の情報を得ていた可能性が,合理的にみて認められる。 そうすると,警察官e1から「鉄塔」,「池」という断片的な情報を与えることによる断片的な誘導を受けていたとする趣旨 等によって,警察官金庫現認場所の情報を得ていた可能性が,合理的にみて認められる。 そうすると,警察官e1から「鉄塔」,「池」という断片的な情報を与えることによる断片的な誘導を受けていたとする趣旨のaの供述を,不自然であるなどとして容易に排斥することはできない疑いがある。併せて,警察官e1とaとの間で無意識的な正解到達に向かう相互作用等が生じた可能性も否定できない。 E また,証人c7の確定審における供述(確定審第8回公判における証人尋問調書268~270丁)及び金庫発見調書(甲20)によれば,証人c7は,昭和60年4月28日に金庫発見場所での実況見分に立ち会い,その際,本件鉄塔まで自動車で行っていた。そして,新証拠である帳簿(再弁A30の1〔74頁〕)及び元帳(再弁A30の2)によれば,aは,同日に加え,同日後も,複数回(5月5日,7日,11日),被害者方店舗に行っていたことが認められ,その際,証人c7と, 警察官が来ていることや被害者の話などをしていた(証人c7の確定審第9回公判における証人尋問調書323~325丁)。そうすると,aと証人c7の会話の中で,証人c7が実況見分に立ち会ったことや本件鉄塔のことが話題として出ていたとしても不自然ではない。 検察官f1旧供述は,検察官f1が,金庫引当捜査の際,本件金庫の発見者(証人c7は本件金庫の発見者ではないから,jのみを指すと考えられる。)から誰にどういうことを言ったかを事情聴取したところ,発見者は誰にも言っていないと話したというものである(検察官f1の確定審における証人尋問調書2774丁)。確定判決は,検察官f1旧供述によれば,警察は本件金庫の発見者や証人c7に対して発見場所を他人に漏らすことがないように注意を与えていたと指摘する(122丁)。しかしながら,前記のとおり 774丁)。確定判決は,検察官f1旧供述によれば,警察は本件金庫の発見者や証人c7に対して発見場所を他人に漏らすことがないように注意を与えていたと指摘する(122丁)。しかしながら,前記のとおり,証人c7が立ち会った金庫発見場所での実況見分当日にaに会っている可能性が相当程度あることなどからすると,一切本件鉄塔の話をしていないと断言することはできないと思われる。そうすると,aが本件金庫が発見された地点の近くに本件鉄塔があることを取調べ以前から知っていた可能性も否定できない。なお,aは証人c7とそのような会話をした旨供述していないが,aが低い知的能力の持ち主であり,記憶能力等に制約があることや事件発生から確定審まで3年以上の時が経過していることなどからすれば,記憶の減退によるものとの説明が可能である。 F なお,aは,前記のとおり,確定審において,金庫引当捜査の際,車中から鉄塔を探していたところ,野出道へ行く手前側に高圧線が見えたので,野出道の方へ曲がるよう指示したなどと供述し,aが,金庫引当捜査の際に,周囲の状況を検討して本件鉄塔が金庫発見場所付近にあるという情報に沿う野出道を選択したことが推認され,その結果,aが野出道を選択したこと自体が,本件鉄塔が金庫発見場所付近にある ということを認識していたことを裏付けるようにも思える。他方,aは,検察官に対し,金庫引当捜査前に野出道を走行したこと自体供述しており(乙7),かかる推認と整合しないように思える。しかしながら,aは検察官に対する前記供述時,野出道を走行した理由については述べていないところ,前記のとおり,aが,取調べ前に証人c7から本件鉄塔についての情報を得た可能性があるため,検察官に対する前記供述時にもその情報を念頭に置いていた可能性も否定できない。 そもそも,金庫 いないところ,前記のとおり,aが,取調べ前に証人c7から本件鉄塔についての情報を得た可能性があるため,検察官に対する前記供述時にもその情報を念頭に置いていた可能性も否定できない。 そもそも,金庫引当捜査自体,野出道と農免道路の分岐点から始まっており,aが野出道方向に走行した旨供述していること,aが低い知的能力の持ち主であり,記憶能力等に制約があることや,確定審での供述が金庫引当捜査から約2年9か月経過してされたものであることを考慮すれば,確定審における前記供述が必ずしも金庫引当捜査当時のaの認識を正しく現しているものともいい難いようにも思える。 したがって,aの前記供述部分の信用性は,前記のとおり,引当当時の状況等から容易に排斥することができない疑いがある,aが警察官e1から教えてもらったとする確定審における供述部分の信用性を否定するものではないし,証人c7から本件鉄塔についての情報を得た可能性を否定するものでもない。 G 以上によれば,aが前記交差点から停車地点Aで停車し本件鉄塔まで案内した事実からは,aが,本件金庫が発見されたのが石原山の鉄塔の近くだという情報を有していたことを推認させるにすぎず,かつ,それらの情報を警察官又は証人c7など第三者から得ていた可能性は否定できないから,aが誰からも教えられずに金庫発見場所の正確な場所を知っていたと推認することはできない。 H この点に関し,控訴審判決は,前記のとおり,金庫引当捜査の際,捜査官の想定した経路と異なる経路を指示して金庫発見場所に到達し得た 事実を指摘している。 捜査官らが,野出道から本件鉄塔に到達する別経路を把握していたことからすれば,aが指示した,捜査官の想定した経路と異なる経路とは,具体的には停車地点Aから本件鉄塔までの経路のことを指すと考えられる。そ 官らが,野出道から本件鉄塔に到達する別経路を把握していたことからすれば,aが指示した,捜査官の想定した経路と異なる経路とは,具体的には停車地点Aから本件鉄塔までの経路のことを指すと考えられる。そして,控訴審判決は,前記事実から,aが捜査官による誘導等なくして正解,すなわち本件鉄塔の情報を得た可能性が認められ,自白の信用性を高めるものと判断したと考えられる。 しかしながら,前記事実は,捜査官が,aに対し停車地点Aから本件鉄塔への具体的経路を誘導等していなかった可能性を示すものであるところ,新旧証拠によって認められる,aが,警察官e1を始めとする警察官から本件鉄塔や池の存在を示唆された可能性,及び証人c7から本件鉄塔についての情報を得た可能性を否定するものでもない。さらに,前記のとおり,aが,誰から教えられたわけでもないのに,警察官金庫現認場所について正しい知識を有していた事実を認めた確定判決等の認定は大きく動揺していること,同事実が,aの自白の信用性を高めたり,aが犯人であることを推認したりするとした確定判決等の判断が大きく動揺していることを否定するものでもない。 したがって,新旧証拠によれば,かかる控訴審判決の指摘する捜査官の想定した経路と異なる経路を指示して金庫発見場所に到達し得た事実が,自白の信用性を高める程度は動揺している。 まとめ整理すると,新旧証拠により,本件では,aが,金庫発見場所のおおよその位置,すなわち本件鉄塔付近であることについて,新聞記事及び証人c7ら第三者から得た可能性があるのに加え,捜査官らが有する警察官金庫現認場所の情報を,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等によって得ていた可能性が,合 理的にみて認められる。 aが警察官金庫現認場所を案内したとして 金庫現認場所の情報を,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等によって得ていた可能性が,合 理的にみて認められる。 aが警察官金庫現認場所を案内したとして,aが,誰から教えられたわけでもないのに,警察官金庫現認場所について正しい知識を有していた事実を認めた確定判決等の認定は大きく動揺している。また,仮に,前記事実が認められるとしても,かかる事実が,aの自白の信用性を高めたり,aが犯人であることを推認したりするとした確定判決等の判断は大きく動揺している。 カ小括以上をまとめると,新旧証拠によれば,aの自白のうち,本件凹損の形成経緯,本件金庫を金庫発見場所で開扉し放置したとする部分は,客観的事実に整合せず,記憶の欠落等では説明できない疑いがあるからaの自白の信用性は動揺している。また,本件金庫の強取に関する取調べや金庫引当捜査に当たり,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められ,aが,誰から教えられたわけでもないのに,警察官金庫現認場所について正しい知識を有していた事実を認めた確定判決等の認定は大きく動揺しているといえる。仮に,前記事実が認められるとして,同事実がaの自白の信用性を高めたり,aが犯人であることを推認したりするとした確定判決等の判断は大きく動揺している。 すなわち,新旧証拠を総合すれば,本件金庫を奪取して,本件ホイルレンチを持って,金庫発見場所まで運んで,本件金庫を破壊して開扉し,放置したとするaの自白は,信用性が大きく動揺しているといえ,aが本件犯人であるとするaの自白全体の信用性を大きく動揺させるものといえる。また,aが,警察官金庫現認場所を案内した事実がaが犯人であることを推認する力は大きく減殺 性が大きく動揺しているといえ,aが本件犯人であるとするaの自白全体の信用性を大きく動揺させるものといえる。また,aが,警察官金庫現認場所を案内した事実がaが犯人であることを推認する力は大きく減殺された。 確定判決等がaを犯人とする理由の主要な部分が,おおいに疑わしく なったものというほかない。 被害者の死体の遺棄ア aの自白等aの被害者の死体の遺棄についての自白は,次のような内容である。 まず,昭和63年3月22日の警察官に対する自白は,被害者の死体を軽トラックの荷台に乗せ,被害者方から県道を通るなどして,バスの車庫まで来たので,山の中に棄てようと思い車庫を過ぎて右折すると,左側に墓地があり,その墓地を過ぎてしばらく行くと左側に回るやや広めの道があったので,その方に行けば山があるだろうなどと考えその道を奥の方に進んだ,何回か道を曲がったり進んだりして行き止まりになっているところに出た,進行方向の右側がやや広い空き地ですすきや小さい木等が少し生えた荒れ地で周りが山のような感じだった,その右側の空き地に四,五m入り草むらに死体を下ろして棄てた,棄てたのは午後9時30分頃ではないかと思うなどというものである(乙10)。 そして,死体引当捜査前日である同年3月28日の検察官f1に対する自白は,夢中で走り車庫前まで行き,鎌掛の方には山がたくさんあるので死体を棄てるのに都合が良いと思いつき,小井口の墓地のところで左へ曲がる道があり,少し走ってすすきが生えている場所へやって来た,当時は宅地とは気が付かず,すすきがたくさん生え小さい木も生えていたので死体を棄てた,被害者を殺した後で興奮しており,冷静に死体の棄て場所やその周辺を観察したわけではないなどというものである(乙13)。 被害者の死体を遺棄した体勢についてのaの自白は 生えていたので死体を棄てた,被害者を殺した後で興奮しており,冷静に死体の棄て場所やその周辺を観察したわけではないなどというものである(乙13)。 被害者の死体を遺棄した体勢についてのaの自白は,右手を首付近に,左手を腰付近に入れて抱きかかえて持ち,そのまま,下ろしたというものである。 aは,死体引当捜査において,被害者の死体を遺棄した場所を案内し たところ,同場所は死体発見場所とほぼ一致した。 イ主な旧証拠昭和60年1月23日付け実況見分調書(甲1。以下「死体発見調書」という。)によれば,被害者の死体は,同月18日,本件分譲地の北西隅で,本件分譲地北西側に隣接する道路(以下「本件道路」という。)の突き当りにある街路燈(以下「本件街路燈」という。)から南約8.2m,本件道路を挟んで本件分譲地の西方に位置する分譲番号311号地と分譲番号312号地(以下,併せて「西側分譲地」という。)との境界標柱(以下「本件標柱」という。)から南東約10.8m,本件道路南東部れた。 被害者の死体は,発見時,高さ1mの,途中で折れ枯れている松の木の辺りを頭部にし,足部を本件道路に向け,左側臥の姿勢であった。死地北東側に面する松林と本件分譲地との境界付近に3本の木が境界に沿遺棄現場」と説明されている。なお,実際には,前記境界付近は林であり,3本を超える本数の木が生えている。 昭和63年4月1日付け犯罪捜査復命書(甲73。以下「死体引当捜査復命書」という。),警察官e3の確定審における供述(同人の確定審における証人尋問調書,以下「警察官e3旧供述」という。)によれば,同年3月29日に実施された死体引当捜査の結果は次のとおりである。 死体引当捜査に立ち会ったのは,同引当捜査の見分責任者である警察官e3,警察官e6,補助者の警察官e1 供述」という。)によれば,同年3月29日に実施された死体引当捜査の結果は次のとおりである。 死体引当捜査に立ち会ったのは,同引当捜査の見分責任者である警察官e3,警察官e6,補助者の警察官e10,補助者の警察官e7,補助者の警察官e11,補助者で写真担当の警察官e8,補助者で綱持ちの警察官e12に加え,同行した警察官e5,検察官f1,警察官e1, 警察官e13らである。aが乗る捜査車両には,運転席に警察官e7,助手席に警察官e8,後部座席に警察官e3,警察官e12及びaが乗車した。 警察官e8は,死体発見時の実況見分に参加し,前記のとおり,aの取調べに書記として多数回立ち合い,金庫引当捜査にも写真係として立ち会っている。警察官e6,警察官e7,警察官e5,検察官f1及び警察官e1は,先行して実施された金庫引当捜査にも立ち会い又は同行している。 死体引当捜査復命書の記載内容は次のとおりである。 引当捜査に当たり,aを捜査車両に乗せて案内させ,被害者方を出発して,途中,日野署前を通り,バスの車庫前に至り,同車庫前を通ってすぐに右折し,県道に入り,南進すると左手に墓地が見え,さらに進むと甲バス停前(別紙図面6の△ 1 )に至った。 aは,同所から左方向に分岐する道路に入り甲団地に向い,直進すると突き当りの丁字路を右折して(同△ 4 ),約25m南進して突き当りの丁字路をさらに左折して(同△)本件道路を約50m東進して丁字路を通過し,団地南隅の行き止まり(同△ 7 )に迷うことなく案内し,「この右側のがさわらの中に死体を棄てた」と指示した。 aは,本件道路の,本件分譲地が接する丁字路から約12.9mかつ本件道路南東部側溝端から約1.8mの地点(別紙図面7の自動車。以下「停車地点B」という。)に捜査車両を停車させた。 た」と指示した。 aは,本件道路の,本件分譲地が接する丁字路から約12.9mかつ本件道路南東部側溝端から約1.8mの地点(別紙図面7の自動車。以下「停車地点B」という。)に捜査車両を停車させた。aは,荷台にある仮想被害者の人形を,右手で首,左手で腰を抱えて抱き上げ,車両前方約3.9mから本件分譲地に四,五m入り,「3年前より草が多く茂っており,付近の状況も道もなくなっています。しかし,私の記憶では,この付近に棄てたのは間違いありません」と指示した(書証の通し丁数1185~1186丁)。aが指示した地点(別紙図面7の「遺棄場所」 と説明されている×地点。以下「a指示地点」という。)は,本件分譲地内であり,本件街路燈から南約8.4mの位置である。なお,本件標柱からの距離は明らかではないが,a指示地点と,同地点から発する線及び本件道路北西部側溝の本件道路側端が垂直に交わる地点との距離は,約8.84m(3.7-1.8+6.94=8.84)と考えられ,少なくとも8.84m以上であると考えられる。死体引当捜査復命書見取図4(別紙図面7と同じもの)には木が描画されていない。 警察官e3旧供述の内容は,次のAないしCのとおりである。 なお,死体引当捜査復命書には,aが,後記Bにおいて「」で引用した具体的発言をした旨の記載がされていない。 また,確定審の警察官e3に対する証人尋問(主尋問)において,検察官f2は,警察官e3に対し,平成2年1月23日ないし24日実施の検証調書添付現場見取図4の写しを示した。同写しには,本件分譲地に面する松林と本件分譲地との境界付近に3本の木が境界に沿って描画され,そのうち最も北側の木付近にⓅの矢印が記載されている。これを受けて,警察官e3は,aが死体を遺棄した場所として案内したa指示地点はⓅの矢印がある 分譲地との境界付近に3本の木が境界に沿って描画され,そのうち最も北側の木付近にⓅの矢印が記載されている。これを受けて,警察官e3は,aが死体を遺棄した場所として案内したa指示地点はⓅの矢印がある付近である旨供述し,同写しにそのように記入した。前記現場見取図4のⓅ地点は,前記検証時に警察官e14が,被害者の死体が発見された場所として指示説明した地点である。 Aaを車に乗せて案内させた際,交差点では必ずどう進むか指示させた上で進行していた。aが,交差点にさしかかって指示しない場合は停まって指示を待ち,交差点にさしかかる前に指示すれば,そのまま行く場合もあった。甲バス停にさしかかった際,aが「甲バス停のところを越えたとこら辺のとこを,甲団地に入ってください」というような指示,又はこの交差点を左に曲がってくれというような形での指示をしたので,そのままずっと曲がったような気もする。その旨の具体的な指示が あったことは死体引当捜査復命書には記載していない。 B 停車地点Bで停車後,aは,荷台から人形を抱きかかえて,右の本件分譲地のがさわらの方に3mくらい入っていき,「うわあ,大分に草が伸びて変わっているな」とつぶやきながら周囲を見回した後,左の西側分譲地に一,二歩入り,周囲を見回して確認した後,「やっぱり右や」というような独り言をつぶやいて,右の本件分譲地に戻り,周囲の状況を確認した後,「刑事さん,ここですわ」,「山肌の欠けた,この木に見覚えがあります」と言って,木の付近の下の方を指示した。aは,遺棄地点を指示した際,「だかえたまま,このような状態で膝をついて,そのままだかえたような状態で,そっとここに下ろしました」と説明した。 C 警察官e3は,aが最初に本件分譲地に入って周囲を確認している際,西側分譲地に入って周囲を確認してい うな状態で膝をついて,そのままだかえたような状態で,そっとここに下ろしました」と説明した。 C 警察官e3は,aが最初に本件分譲地に入って周囲を確認している際,西側分譲地に入って周囲を確認している際及び本件分譲地に再度入って周囲を確認している際のいずれにおいても,「ゆっくり考えて思い出せ」などと声をかけた。 aは,確定審において,死体引当捜査について,次のとおり供述している(確定審第36回公判における被告人供述調書1542丁以下)。 警察への任意同行を求められた昭和63年3月9日当時から,死体発見場所が小井口であることは,新聞で見たか,人に聞いて知っていた。 小井口の場所もバスの車庫から鎌掛の方に行く道の途中にあることを知っていた。 自分がやっていないことを分かってもらいたくて,死体遺棄の際,日野署の前を通ったと説明した。警察官e1から,「そんなはずないやろ。 こんな道通ったん違うやろ,おまえ」と二,三回追及されたが,自分が犯人でないことを分かって欲しくてその供述を通した。 小井口の墓場を越えてもう少し行った所(甲バス停と考えられる)で,自分が停めるように指示したわけでもないのに停車し,助手席に乗って いた刑事に「どこや」と言われた。自分はまごついたが,左の道を上がっていったら山道だと思い,左に行くよう指示して上がっていったら,造成地だった。突き当たりに来て,右前方に山が見えたので,右に曲がるよう指示した。死体を棄てたのは人目につきにくい山の方だろうと思った。再び突き当たり,山がある左に曲がるよう指示した。最後の丁字路では,右にあった小屋が事務所か何かだと思ったので,右折せずに直進した。 車を停め,人形を抱いて車の前を通り,左の西側分譲地に入り,その中間で人形を下ろしたところ(同被告人供述調書1549丁),氏名のわ にあった小屋が事務所か何かだと思ったので,右折せずに直進した。 車を停め,人形を抱いて車の前を通り,左の西側分譲地に入り,その中間で人形を下ろしたところ(同被告人供述調書1549丁),氏名のわからない刑事から「そんな所,違うやろうが」と言われたため,再び人形を抱いて,道路を横切って右の本件分譲地に入り,人形を下ろした。 頭を山の方,すなわち松林のある北東側に向けたところ,警察官e1が,「それは違うやろ」と言って頭を南の方に向けて,体を道路の方に向けて置き直した。 昭和60年1月20日ないし22日頃のB新聞(弁1の1,1の5),C新聞(弁1の3,1の7)及びA新聞(弁1の2,1の9)は死体発見場所を甲団地と報じ,そのうちB新聞及びA新聞は死体発見場所の写真を報じ(弁1の1,1の2),C新聞は死体発見場所を「造成地のはずれ」,「すすきが茂っている」,「造成地の中を走るアスファルト道路から山すそに約10m入っている」などと報じている(弁1の7)。 ウ確定判決等確定判決は,aが,誰からも教えられていないにもかかわらず,死体発見場所について正確な知識を有しており,犯人ならではと思われる発言を漏らすなどしていることは,aが被害者の殺害に関わっていることを強く疑わせる要素となるとしている(130丁)。もっとも,確定判決は,「aが犯人であることを示す徴表」としては,犯人ならではと思 われる発言を漏らしたことを列挙してはいない(148丁)。 控訴審判決は,自白の基本的根幹部分の信用性が認められる理由の一つとして,死体引当捜査の際の言動(死体遺棄当時と死体引当捜査時との現状変更等に関するもの)を指摘している(29頁)。 エ主な新証拠「甲73に関連するネガの調査報告書」(再弁D19),「関連ネガ写真集3」(再弁D23)は,死体 遺棄当時と死体引当捜査時との現状変更等に関するもの)を指摘している(29頁)。 エ主な新証拠「甲73に関連するネガの調査報告書」(再弁D19),「関連ネガ写真集3」(再弁D23)は,死体引当捜査の際に,次の4場面が順に写真撮影されたというものである。すなわち,まず,停車地点Bで,①aが人形を使わないで軽トラック荷台から死体を抱える再現を行う写真が撮影され,②同じく,aが右手で人形の頭,左手で腰を抱きかかえて軽トラック荷台から死体を抱える再現を行う写真が撮影され,次に,a指示地点で,③aが人形を使わずに,崖を背にして前屈みになって両腕を下ろす死体遺棄再現を行う写真が撮影され,④aが右手で人形の頭,左手で腰を抱きかかえて,崖に相対してa指示地点を案内する写真が撮影された。 aが,西側分譲地に入った状況,a指示地点以外を案内している状況,人形を実際に下ろした状況,a指示地点付近にあるとされる「山肌の欠けた,この木」なるもの(位置等の特定がされていないが,便宜上,以下「本件樹木」という。)を指示している状況などは写真撮影されていない。 警察官e3の当審における供述(以下「警察官e3新供述」という。)は,次のとおりである。aは,何分もうろうろするようなことはなく,死体を遺棄した地点をスムーズに案内した。aが人形を持たずに案内していることについて,はっきりした記憶はないものの,aが人形を下ろしたからだと思う。下ろしたタイミングは,根拠はないものの,aが再度本件分譲地に入った後だと思う。下ろしたのは人形が重かったからだ と思う。人形なしで案内させた後,もう一度人形を持って再現してほしいというような指示をしたと思う。人形なので下ろしても人とは関節などが違うため,下ろす作業はあえてやっていないと思う。確定審でaが人形をいった 形なしで案内させた後,もう一度人形を持って再現してほしいというような指示をしたと思う。人形なので下ろしても人とは関節などが違うため,下ろす作業はあえてやっていないと思う。確定審でaが人形をいったん下ろしたことについて供述しなかったが,証人尋問当時すでに死体引当捜査から5年以上経過しており,死体引当捜査復命書を確認して記憶喚起したので,記憶が失われていた。死体引当捜査前に死体発見調書を見たことはなかった。 オ新旧証拠による検討序旧証拠によれば,aの自白したa指示地点までの経路に係る図面等はないから,aの自白した経路と死体引当捜査時にaが案内した経路が同一のものであるかは判然としないものの,aが,死体引当捜査時に被害者方から死体発見場所付近のa指示地点まで,結果として案内した事実は認められる。 そこで,新旧証拠により,aがa指示地点まで案内した事実から,aが,誰から教えられたわけでもないのに,死体発見場所について正しい知識を有していたことが認められるか,aが,その際に死体遺棄当時と死体引当捜査当時との現状変更等に関する言動をしたことが認められるかの各点について検討する。 警察官e3旧供述及び死体引当捜査復命書についてこの点についての主たる旧証拠は,前記のとおり,警察官e3旧供述及び死体引当捜査復命書である。警察官e3旧供述は,死体引当捜査復命書の記載内容に加え,aが,①本件分譲地,西側分譲地,本件分譲地の順に入った,②「うわあ,大分に草が伸びて変わっているな」と発言した,③「山肌の欠けた,この木に見覚えがあります」などと発言してa指示地点を案内したなどというものであり,いずれも死体引当捜査に おいて重要な経過及び発言である。特に本件樹木についての発言は,aが,a指示地点を特定するに至った具体的根拠であって 発言してa指示地点を案内したなどというものであり,いずれも死体引当捜査に おいて重要な経過及び発言である。特に本件樹木についての発言は,aが,a指示地点を特定するに至った具体的根拠であって,極めて重要なものであるといえる。 確定判決等は,警察官e3旧供述の信用性を肯定し,その供述するとおりの経過を認定しているところ,確定判決等が,警察官e3旧供述の信用性を認めた理由は必ずしも明確ではないものの,前記①について,aも,西側分譲地,本件分譲地の順に入った旨供述しており,ある程度供述が一致していることが一つの根拠となったと解される。また,確定判決が,警察官e3旧供述が,甲団地奥に至るまでの走行経過を具体的に説明していることや,捜査車両を停止させた後,死体発見場所の指示に至る経過についても,aの記憶再現の様子を詳細に述べていること(128丁),aが「うわあ,大分に草が伸びて変わっているな」と発言したところ,犯行当時と死体引当捜査時とでは周囲の状況が実際に変化していること(129丁)などを指摘していることからすると,これらの事情も警察官e3旧供述の信用性を肯定する根拠になったと解される。 ところで,新証拠によれば,aは,死体引当捜査時,停車地点Bで,人形を持った状態で被害者を抱きかかえる再現をした後,人形を持っていない状態,すなわち,いったん人形を地面に下ろした状態で案内等を行い,再度,人形を持ち上げて案内等をしていることが認められるところ,警察官e3は,確定審において,aが人形をいったん下ろした事実について供述しなかった。警察官e3は,当審において,その理由として,証人尋問当時既に死体引当捜査から5年以上経過しており,死体引当捜査復命書を確認して記憶喚起したので,記憶が失われていたなどと供述している。 そうすると,警察官e ,当審において,その理由として,証人尋問当時既に死体引当捜査から5年以上経過しており,死体引当捜査復命書を確認して記憶喚起したので,記憶が失われていたなどと供述している。 そうすると,警察官e3旧供述は,記憶が減退していた警察官e3が,死体引当捜査復命書に基づき同書に記載されている内容の限りで喚起さ れ,記載されていないものについては記憶が保持されていない不安定な記憶の状態で供述されたものである。 したがって,警察官e3旧供述が,死体引当捜査復命書に記載されている内容と同程度に具体的かつ詳細な供述をしていたとしても,警察官e3旧供述の信用性を高めるものとはいえない。 警察官e3旧供述のうち,aが「うわあ,大分に草が伸びて変わっているな」とつぶやいたとする点(前記②)については,死体引当捜査復命書にaが「3年前より草が多く茂っており,付近の状況も道もなくなっています」と説明した旨の記載がある。そうすると,警察官e3が,確定審において,前記②のとおり供述したのは,自ら作成した死体引当捜査復命書に前記記載があったからであると推測できるのであり,前記記載が信用できる事情は認められず,他に,aがそのような言動をしたことを裏付ける証拠はない。 したがって,新旧証拠を総合すれば,警察官e3旧供述と死体引当捜査復命書の記載によって,aの前記言動を認めた確定判決等の認定はやや動揺している。 なお,仮に,aが真実,前記②の言動をしていたとしても,その重要性については次のとおり限界があると解される。すなわち,旧証拠でも明らかなとおり,aの自白によれば,aは,本件当日夜,初めてa指示地点に行ったものである上,被害者を殺した後で興奮しており,冷静に死体の棄て場所やその周辺を観察したわけではないから,aが,死体遺棄当時の死体発見場所の状況 によれば,aは,本件当日夜,初めてa指示地点に行ったものである上,被害者を殺した後で興奮しており,冷静に死体の棄て場所やその周辺を観察したわけではないから,aが,死体遺棄当時の死体発見場所の状況についてどの程度正確に知覚していたか疑問があること,aが低い知的能力の持ち主で記憶能力等に制約があることからすれば,aがどの程度正確に,死体遺棄当時に知覚した周囲の状況を記銘し,死体引当捜査当時までその記憶を保持し,再現したかについて疑問がある。したがって,aの前記言動が真に死体遺棄当時の状 況を記憶喚起し,死体引当捜査時の現状と比較し,変更を認識してされたものといえるかについては,疑問を差し挟む余地があり,確定判決等もかかる余地を否定するものではないと解される。 次に,警察官e3旧供述のうち,aが,「山肌の欠けた,この木に見覚えがあります」と発言して,a指示地点を特定したという点(前記③)について,新証拠によれば,aが本件樹木を指示している状況など,本件樹木の存在等をうかがわせる写真は一切撮影されなかった。 仮に,真実,aが「山肌の欠けた,この木に見覚えがあります」と発言して,a指示地点を特定したのであれば,死体引当捜査の最も重要な根幹部分といえるから,死体引当捜査復命書の見取図上に本件樹木の位置を特定して記載したり,指示説明部分に「私の記憶では,この付近に棄てたのは間違いありません」にとどまらず,前記発言をそのまま記載したり,aが本件樹木を指示している状況又はa指示地点と本件樹木の位置関係が明らかになる写真が撮影されたりするのが合理的かつ自然であると考えられる。警察官e3が作成したのは実況見分調書でなく捜査復命書であるが,死体引当捜査における本件樹木の重要性からすれば,前記の判断は左右されない。それにもかかわらず,新旧証拠に かつ自然であると考えられる。警察官e3が作成したのは実況見分調書でなく捜査復命書であるが,死体引当捜査における本件樹木の重要性からすれば,前記の判断は左右されない。それにもかかわらず,新旧証拠によれば,写真撮影等の作業がされなかったと認められる。加えて,検察官f2が,主尋問時に,警察官e3に木の根元にⓅと記載されている前記現場見取図4の写しを示していることも踏まえると,かえって,安定的な記憶保持ができていなかった警察官e3が,証人尋問前に同現場見取図4を見て誤った記憶喚起をした結果,確定審において本件樹木につき言及した疑いさえある。警察官e3が,前記現場見取図4の写しを見て,aが前記③の発言をした旨の正確な記憶を喚起した可能性も否定し切れないものの,前記のとおり,aが前記③の発言をしたのであれば当然されるであろう作業がされていないことからすれば,かかる可能性は抽象的なも のに過ぎない。 以上の新旧証拠を総合すれば,警察官e3旧供述は,記憶が減退していた警察官e3が,死体引当捜査復命書に基づき同書に記載されている内容で喚起されるような,また,記載されていないものについては保持されていないような不安定な記憶の状態で供述されたものである。そして,「山肌の欠けた,この木に見覚えがあります」とaが発言したとする警察官e3旧供述は,その発言があったのであれば当然されるべき作業がされていない上,他方で,警察官e3が,証人尋問前に見た前記現場見取図4に影響を受けている可能性も否定できないから,直ちに信用することはできないといわざるを得ない。新旧証拠によれば,警察官e3旧供述によってaが前記③の発言をした事実を認めた確定判決等の認定は動揺している。 以上のとおり,新旧証拠によれば,aが,「うわあ,大分に草が伸びて変わっているな」と 旧証拠によれば,警察官e3旧供述によってaが前記③の発言をした事実を認めた確定判決等の認定は動揺している。 以上のとおり,新旧証拠によれば,aが,「うわあ,大分に草が伸びて変わっているな」と発言した事実(前記②),「山肌の欠けた,この木に見覚えがあります」などと発言してa指示地点を案内した事実(前記③)を認めた確定判決等の認定は大きく動揺している。 aの案内経路及びa指示地点の指示停車地点Bからa指示地点までA 前記のとおり,aがどの程度正確に,死体遺棄当時に周囲の状況を知覚し,それを記銘し,死体引当捜査当時までその記憶を保持し,再現したか疑問があることからすれば,仮にaが実際に死体発見場所に死体を遺棄したとしても,独力で死体発見場所を案内するには相当な困難を伴うものであったといえる。それにもかかわらず,a指示地点は,本件街路燈から約8.4mと,死体発見場所とわずか20㎝程度しか離れておらず,死体の大きさ(身長155㎝)も勘案すれば,ほぼ完全に一致しているものといえる。確定判決等もかかる事実を前提にしている。 B ところで,既に詳細に判示したとおり,新旧証拠によれば,金庫引当捜査において,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められる。 金庫引当捜査と同様,死体引当捜査も本件において極めて重要な捜査であることはいうまでもないところ,死体引当捜査に立ち会い又は同行した警察官が正解である死体発見場所を知っており,aが正解にたどり着くことを期待していたこと,aの記憶に懸念があり,死体引当捜査前の記憶の喚起も想定されていたこと,aとしても死体引当捜査を成功させたいと考えていたとみるのが不当といえないことなどが指摘できる。 そして,aが,a指示地点を と,aの記憶に懸念があり,死体引当捜査前の記憶の喚起も想定されていたこと,aとしても死体引当捜査を成功させたいと考えていたとみるのが不当といえないことなどが指摘できる。 そして,aが,a指示地点を指示する前に西側分譲地に入っていたことに加え,前記新証拠によれば,aがa指示地点を案内するまでの間にいったん持ち上げた人形を地面に下ろしていたと認められることにも照らすと,aが,a指示地点を案内するまでにむしろ一定以上の時間を要していたものといえ,警察官e3新供述とは異なり,実際はスムーズに正解にたどり着いたわけではないことがうかがわれる。 また,死体引当捜査は,金庫引当捜査の8日後に行われ,立ち会い又は同行した警察官の多くが金庫引当捜査と共通している上,死体発見時の見分に立ち会い,aの取調べにも書記として立ち会っている警察官e8が,aと同じ車両に乗るなどしていることからすれば,死体引当捜査においても,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等を防止する措置が徹底されていたとは到底いえない。現に,警察官e3が,aが周囲を見渡す都度,複数回にわたり,「ゆっくり考えて思い出せ」と話しかけるなどした旨自認していること,aが,いったん下ろした人形を再度抱き上げ,写真撮影が行われているところ,警察官の指示なしにaが自発的にそのような行為をするとは考え難いことなどからすれば,警察官が,aに対する働きかけを徹底して 自制できていたとはいい難い。 さらに,警察官がするaの曖昧な言動についての解釈の危険性の見地からは,たとえば,甲バス停におけるaの指示が「甲バス停のところを越えたとこら辺のとこを,甲団地に入ってください」という,指示内容が曖昧で警察官が解釈する余地があるものか,それとも,この交差点を左に曲がってくれ ば,甲バス停におけるaの指示が「甲バス停のところを越えたとこら辺のとこを,甲団地に入ってください」という,指示内容が曖昧で警察官が解釈する余地があるものか,それとも,この交差点を左に曲がってくれという指示内容が明確なものなのかの間には大きな違いがあるにもかかわらず,警察官e3は,確定審の証人尋問においてもその点についての意識が希薄であったことが指摘できる。 したがって,新旧証拠によれば,前記のように,そもそも,aの能力や置かれた状況に照らして独力で案内するのが相当に困難であったにもかかわらず,結果として死体発見場所とほぼ完全に一致するa指示地点をaが案内することができたことからすれば,金庫引当捜査と同様,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められる。 また,検察官f1が,aがいったん人形を地面に下ろした点や警察官e3がaに声をかけた点を,問題にしていた形跡がないことなどからすれば,検察官f1による監督も金庫引当捜査におけるのと同様,期待することができない。 C 警察官e3は確定審及び当審において,aが任意に案内したと供述するが,警察官e3の記憶は,死体引当捜査復命書に基づき同書に記載されている内容で喚起されるような,また,記載されていないものについては保持されていないような不安定なものであり,軽々に信用することはできないし,警察官e3の供述する「任意」が本件で問題となっているような警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が生じていないことまで含意しているとはいえない。 したがって,警察官e3の前記供述によって,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が存在した疑いを払拭することは いことまで含意しているとはいえない。 したがって,警察官e3の前記供述によって,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が存在した疑いを払拭することはできない。 D よって,aが停車地点Bからa指示地点を案内したことから,aが,誰から教えられたわけでもないのに,死体発見場所について正しい知識を有していた事実を認めた確定判決等の認定は大きく動揺しているといえる。 甲バス停付近から停車地点BまでA 前記旧証拠によれば,既に,死体発見場所が甲団地の山すそであると報道されていることが認められるから,aが,死体引当捜査前,死体発見場所が甲団地の山すそである事実を知っていた可能性は高い。そして,甲バス停では左方向に入れば甲団地に行くことになるし,そこから山を目指せば,停車地点Bに到達できるとうかがわれる。確定判決も,金庫発見場所と比較すれば,死体発見場所の特定はできやすいとしている(128丁)。 また,甲バス停先で分岐道路に入った後,右左折を一回ずつ行うという最少の右左折回数で停車地点Bに到達しているところ,aの捜査段階での自白は,墓地を過ぎて左側に回る道を奥の方に進んだ後,何回か道を曲がったり進んだりして行き止まりになっているようなところに出たというものであり,aが自白した経路と案内した経路が一致しているかについては疑問がある。 B さらに,新旧証拠によれば,前記のとおり,aが停車地点Bからa指示地点を案内した際,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められるところ,aの乗る車両に金庫引当捜査に同行した警察官e7や警察官e8が同乗している一方,検察官f1は同乗しておらず,aへの情 報を遮断するのに適切な乗員構成 た可能性が,合理的にみて認められるところ,aの乗る車両に金庫引当捜査に同行した警察官e7や警察官e8が同乗している一方,検察官f1は同乗しておらず,aへの情 報を遮断するのに適切な乗員構成ではなかった。 C よって,aが報道等で事前に得ていた情報に基づいて案内した可能性や警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められるから,甲バス停から停車地点Bまで案内したことを理由に,aが,誰から教えられたわけでもないのに,死体発見場所について正しい知識を有していた事実を認めた確定判決等の認定は大きく動揺しているといえる。 被害者方から甲バス停付近まで前記のとおり,旧証拠によれば,死体発見場所が,甲団地の山すそであったことが報道されているから,被害者方から甲バス停付近まで案内したことから,aが,誰から教えられたわけでもないのに,死体発見場所について正しい知識を有していた事実を推認することはできない。この点について,確定判決等も当裁判所と同様の見解に立っているものと解される。 aの確定審における供述についてところで,確定判決は,aの確定審における前記供述について,死体引当捜査にaの供述の任意性の確保に神経をとがらせていた検察官f1が同行していたこと,aが供述するように警察官が死体発見場所まで誘導したり,人形の向きを直すなどしたならば,検察官f1がとがめるはずであり,警察官がそのような行為をあからさまにするとは考えられないこと,また,警察官が検察官f1にわからないよう,巧妙にaを誘導したというような事情がaの供述からうかがわれず,aの確定審における前記供述は不自然であるとした。 旧証拠によれば,aの供述のうち,死体を棄てるならば山と考えた点は,死体が山すそで発 妙にaを誘導したというような事情がaの供述からうかがわれず,aの確定審における前記供述は不自然であるとした。 旧証拠によれば,aの供述のうち,死体を棄てるならば山と考えた点は,死体が山すそで発見されたことを報道を通じて知っていた可能性があり,それに着想を得た可能性があり,aが指示していないにもかかわ らず,甲バス停付近で捜査車両が停車したという点は,行き先の指示がない限り交差点で停まるようにしていたとする警察官e3旧供述とも整合する。また,aは,低い知的能力の持ち主で記憶能力等に制約がある者であるから,aが体験した状況を正確に供述できているとは限らないし,仮に警察官が巧妙にaを誘導した場合,そのような事情をaが供述することができないのはむしろ自然なこととも思える。もっとも,これらの事情は,確定判決においても考慮しているものと考えられる。そうすると,確定判決は,これらの事情を踏まえても,aの公判供述が不自然と判断したものであり,その理由としては,検察官f1が死体引当捜査に同行した点を重視したものと考えられる。 しかしながら,新旧証拠によれば,前記のとおり,死体引当捜査に関し,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められるところ,検察官f1がそのような可能性を想定して監督をしていたとはいえない。 現に,検察官f1はaと別の車両に乗っており,死体引当捜査を通して監督することは物理的にも不可能であった。 加えて,新旧証拠によれば,警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められる場合,事柄の性質上,aも警察官自身も同作用等を自覚していた可能性は低いため,そのような事情がaの供述からうかがわれないのも当然と考えられる。 また 相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められる場合,事柄の性質上,aも警察官自身も同作用等を自覚していた可能性は低いため,そのような事情がaの供述からうかがわれないのも当然と考えられる。 また,aが西側分譲地にいったん人形を下ろしたという前記a供述は(確定審第36回公判における被告人供述調書1549丁),実は,新証拠中の客観証拠と整合していたことが明らかになったといえる。 そうすると,新旧証拠によれば,aの確定審における前記供述が不自然なものであるとした確定判決の判断は動揺している。 まとめ これまでに見てきたとおり,死体引当捜査におけるどの過程の経路案内についても,aが報道等で事前に得ていた情報に基づいて案内した可能性や,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められる。したがって,aが死体発見場所を案内したことから,aが,誰から教えられたわけでもないのに,死体発見場所について正しい知識を有していた事実を認めた確定判決等の認定は大きく動揺している。 搬送経路の不合理性aの自白によれば,aは,日野署の前を被害者の死体を覆いもせずに荷台に積んで走行したというものであるところ,確定判決等も指摘するとおり,その自白する経路は不合理なものといえる。 遺棄された被害者の死体の体勢旧証拠によれば,被害者の死体は,頭部を南側にして,ほぼ左側臥の姿勢で両足を揃え,両膝蓋部を「く」の字型に折り曲げた体勢で遺棄されていたところ,被害者の死体の遺棄体勢についてのaの自白は,右手を首付近に,左手を腰付近に入れて抱きかかえて持ち,そのまま,下ろしたというものである。抱きかかえた際の被害者の死体の向きや,下ろした際の被害者の死体の状況等によっては,aの自白によっても は,右手を首付近に,左手を腰付近に入れて抱きかかえて持ち,そのまま,下ろしたというものである。抱きかかえた際の被害者の死体の向きや,下ろした際の被害者の死体の状況等によっては,aの自白によっても,遺棄された被害者の死体の状態と整合しないとはいえないから,被害者の死体の体勢はaの自白の信用性を減殺しない。したがって,被害者の死体の体勢を根拠として,aの自白の信用性が減殺されるとする弁護人の主張は失当であり,採用することができない。 小括以上をまとめると,新旧証拠によれば,aが,誰から教えられたわけでもないのに,死体発見場所について正しい知識を有していた事実を認めた確定判決等の認定は大きく動揺している。また,aが,死体引当捜 査の際に死体遺棄時からの状況変更をうかがわせる発言をした事実を認めた確定判決等の認定も大きく動揺している。さらに,そもそも確定判決が指摘するとおり,aの供述する搬送経路は不合理なものを含んでいる。 その結果,aが死体を被害者方から死体発見場所に搬送したとする自白の信用性は動揺しており,ひいては,前記部分を含むaの自白の基本的根幹部分の信用性は動揺しているといえる。確定判決等がaを犯人とする理由の主要な部分の一つが相当に疑わしくなったというほかない。 被害者方における物色範囲ア aの自白被害者方物色についてのaの自白は,被害者方母屋店舗6畳間にある本件タンスの上側の開き戸を開け,内側の引き出しを開けたり,本件タンスの手前北壁隅にある本件机の引き出しを開けたりして物色した,レジスターについては小銭しか入っていないことを知っていたので物色していない,本件タンスの大きな引き出し等についてはどうせ金が入っていないと思い探していない(乙10),丸型の両面が鏡になった手鏡は見覚えがないが,物色した際 か入っていないことを知っていたので物色していない,本件タンスの大きな引き出し等についてはどうせ金が入っていないと思い探していない(乙10),丸型の両面が鏡になった手鏡は見覚えがないが,物色した際に,本件机の引き出し内やその上付近にあったとすれば手で触れたり持ったりしたことがあるかもしれない(乙16)などというものである。 イ主な旧証拠実況見分調書(甲16),証人c8及び証人c7の証人尋問調書被害者の失踪が発覚した本件翌日以降,多数の関係者が被害者捜索等のため被害者方に出入りし,親族らが物を片付けるなどしていた。被害者方の実況見分が昭和60年1月5日実施され,被害者方離れ,同母屋玄関南側洋間(別紙図面1では「こたつの置いてある間」と表記されて いる。),同母屋台所,同母屋店舗6畳間及び同母屋北側10畳間(別紙図面1では「奥座敷10畳間」と表記されている。)において,ゼラチン紙計83枚の指掌紋が採取され(以下,採取された指掌紋を「現場指掌紋」という。),本件机の左側引き出し内にあった本件丸鏡からもゼラチン紙5枚(採取番号42ないし46。甲109)の指掌紋が採取された。 他方,本件机及び本件タンスから指掌紋は採取されなかった。 証人c8は,前記実況見分時,本件翌日に被害者方母屋奥6畳間の家具調金庫に金庫の鍵が差し込まれており,ダイヤルが動かしてあった旨指示説明し,証人c7は,本件翌日に同店舗6畳間のレジスターに鍵が差し込んであり,現金が3000円ほどあった旨指示説明した。 本件丸鏡は,本来は金具により台に固定された回転式の,一方が平面鏡,他方が凹面鏡の両面鏡であるところ,本件前に金具が取れて鏡部分のみが本件丸鏡として保管されていた。本件丸鏡は,確定審に提出された時点では,鏡のガラスの部分が枠の部分から外れかけていた。 方が平面鏡,他方が凹面鏡の両面鏡であるところ,本件前に金具が取れて鏡部分のみが本件丸鏡として保管されていた。本件丸鏡は,確定審に提出された時点では,鏡のガラスの部分が枠の部分から外れかけていた。 被害者方には本件丸鏡以外に,裏面革張りの片面鏡及び壁に掛けた長方形型の鏡があり,被害者自身は片面鏡を使い,知人のひげを剃るなどの際には壁に掛けた鏡を利用していた。本件丸鏡は本件机の引き出しの中にあったが,被害者や証人c7が客にその引き出しを開けさせることはなかった。 日野警察署長作成の鑑識資料処理票(甲17),滋賀県警察本部刑事部鑑識課技術吏員証人c9作成の現場指紋等確認報告書(甲18),「鏡から採取したaの指紋の付着状態について」と題する書面(甲19),「現場指紋等確認報告書の補充について」と題する書面(甲109),現場指掌紋の対照結果報告書(甲127),「現場指掌紋の対照結果報告書の補充について」と題する書面(甲128)及び確定審における証人c9の証人尋問調書(以 下,これらを総称して「証人c9旧意見」という。)対照者の指掌紋採取(甲128)現場指掌紋の選別対照に当たり,対照用として現場関係者の指掌紋が採取された(以下,現場関係者から採取された指掌紋を「対照指掌紋」という。)。現場関係者は,被害者,l,証人c8を含む被害者親族,被害者方の店員である証人c7及びその家族,被害者方の近隣住民,並びにaなど壺入り客を含む被害者方に出入りのあった関係者等である。 指掌紋対照(甲127)現場指掌紋対照の結果,aの指紋と本件丸鏡から採取したゼラチン紙2枚の現場指掌紋とが一致した。他の現場指掌紋のうち,被害者方離れ冷蔵庫,同母屋玄関南側洋間ホームこたつ天板及び火鉢,同母屋北側10畳間飾り棚上部からそれぞれ採取されたゼラチ から採取したゼラチン紙2枚の現場指掌紋とが一致した。他の現場指掌紋のうち,被害者方離れ冷蔵庫,同母屋玄関南側洋間ホームこたつ天板及び火鉢,同母屋北側10畳間飾り棚上部からそれぞれ採取されたゼラチン紙4枚の指掌紋はいずれの対照指掌紋にも一致せず,ゼラチン紙29枚の指掌紋は被害者,証人c8又は被害者親族の指掌紋と一致し,又は一致が推認でき,ゼラチン紙4枚の指掌紋は明らかに幼児の指掌紋と判断でき,残りのゼラチン紙44枚の指掌紋は指摘特徴点が僅少であるか全くなかったため対照不能であった。 aの確定審における供述aが昭和63年8月16日実施の確定審第3回公判期日において本件丸鏡を示された際,暖かい時分に,mがひげを剃っているときに借りた,その際,鏡には枠がついていたなどと供述し,平成6年8月23日実施の確定審第65回公判期日では,被害者方において,日野署で見せられた本件丸鏡とは違う,横約9㎝,縦約20㎝の四角い鏡を見せてもらったことがあると供述している。 ウ確定判決等確定判決は,aの物色範囲についての自白は,相当長時間,被害者方 母屋店舗にいたにしては,本件タンスの引き出し及び本件机の引き出しを引いて物色したにとどまり,当然現金が入っていると思われるレジスターについては,小銭しか入っていないことを知っていたとの理由で物色しておらず,同店舗6畳間にあり,当然目に付くと思われる小型ロッカーについては,その存在すら言及していないから,内容は合理性に乏しい上(57丁),本件翌日の時点で同奥6畳間に置かれていた家具調金庫の鍵穴に金庫の鍵が差し込まれていたが,ダイヤルが合わなかったために結局金庫が開扉された形跡がなかったことから,犯人が何らかの方法で鍵束を奪取してこの金庫を開けようとしてしたものと推認されるが,aは,この当 庫の鍵が差し込まれていたが,ダイヤルが合わなかったために結局金庫が開扉された形跡がなかったことから,犯人が何らかの方法で鍵束を奪取してこの金庫を開けようとしてしたものと推認されるが,aは,この当然犯人がしたと思われる物色行為とは異なる説明をしていると指摘している(74丁)。 他方,本件机の引き出し内に収納されていた本件丸鏡からaの指紋が採取された事実から,本件丸鏡は,台が失われ,枠からガラスが外れかけているもので映りも悪く,廃物といっても過言ではなく(106丁),被害者らがaに対して本件丸鏡を手渡したということは考えられず(107丁),被害者が前記店舗内にいる限りは,aが前記引き出し内の物を触ることはできないはずであり,また,他にaの指紋が残っていなかったとしても,aが同店舗内を物色したこととの間に矛盾は生じないとして(110丁),aが同店舗内で物色行為をした事実を推認し,その時期については,指紋が比較的明瞭に残っていることから昭和60年1月5日に比較的近接した時点であり(108丁),本件当日の午後8時頃から本件翌日午前8時30分頃までの間であるとして(146丁),これをaの犯人性を推認させる間接事実と位置付けている(148丁)。 控訴審判決は,aの物色範囲についての自白は,aが,本件金庫に五,六十万円くらいの金が入っていると思ったと供述していることなどから,レジスターなどに関心が行かなかったのも不自然ではなく,前記家 具調金庫に鍵が差し込まれている状態である原因は証拠上確定できないから,犯人が前記奥6畳間の物色をした,又はその合理的な疑いがあることを前提として自白の整合性を判断することには疑問があるとしている(21頁)。 また,本件丸鏡からaの指紋が採取されたことは,aが被害者や証人c7の了解なく本件机の引き出しを 合理的な疑いがあることを前提として自白の整合性を判断することには疑問があるとしている(21頁)。 また,本件丸鏡からaの指紋が採取されたことは,aが被害者や証人c7の了解なく本件机の引き出しを開け本件丸鏡に触ったことを示すものであるとして,aと本件犯行を結びつける間接事実と位置付けている(30頁)。 エ指紋鑑定に係る新旧証拠証人c9旧意見,証人c9作成の報告書(再検甲9)及び第1次再審請求審における証人c9の証人尋問調書(再弁B8)(以上,これらを総称して「証人c9補充意見」という。),並びに証人c10作成の鑑定書(再弁A31,A36),反論意見書(再弁A33),回答書(再弁C8の2)及び第1次再審請求審における同人の証人尋問調書(再弁B7)(以下,これらを総称して「証人c10意見」という。)によれば,本件に係る指紋鑑定の内容は以下のとおりである。 本件丸鏡の指紋本件丸鏡から採取されたゼラチン紙採取番号42ないし46号(甲109に記載されている番号に従う。以下,ゼラチン紙についてはそれぞれ採取番号で特定して記載する。)の指紋は以下のとおりである。 採取番号42号は,平面鏡側のスタンド穴付近の指紋を採取したゼラチン紙であり,別紙図面8(証人c10作成の鑑定書(再弁A31)18頁(A3版のもの)の左半分部分と同一のもの)のとおり枠を右側にして右から指紋ア,指紋イ及び指紋ウがある。 採取番号43号は,平面鏡側のスタンド穴付近の指紋を採取したゼラチン紙であり,別紙図面8のとおり枠を右側にして上から指紋ア及び指 紋イがある。 採取番号44号は,凹面鏡側の採取番号45号に接する付近の指紋を採取したゼラチン紙であり,別紙図面8のとおり枠を下部にして左から指紋(基節紋)ア及び指紋(基節紋)イがある。 採取番号45号は 。 採取番号44号は,凹面鏡側の採取番号45号に接する付近の指紋を採取したゼラチン紙であり,別紙図面8のとおり枠を下部にして左から指紋(基節紋)ア及び指紋(基節紋)イがある。 採取番号45号は,凹面鏡側のスタンド穴付近かつ採取番号42号及び43号の裏側付近の指紋を採取したゼラチン紙であり,別紙図面8のとおり枠を左側にして上部左から指紋ア,指紋イ及び指紋ウ,下部左から指紋エ及び指紋オがある。 採取番号46号は,位置不明の指紋を採取したゼラチン紙であり,別紙図面8のとおり指紋が1個ある(以下,指紋については採取番号及び同一ゼラチン紙に複数ある場合付されたカタカナで特定し,たとえば,42ウなどと表記する。)。 このうち,証人c9旧意見は,42ウ及び45オを指摘せず,採取番号44号について隆線が不鮮明な指紋1個を指摘している。 証人c9旧意見及び証人c9補充意見その内容は次のとおりである。 本件丸鏡から採取された指紋(甲109,証人c9供述)証人c9は,「二つの皮膚紋理を同一であると鑑定するためには,12個の一致する特徴点を指摘しなければならない。」とする警察庁指針である12点方式に基づいて現場指掌紋を選別及び対照しているが,現場関係者指掌紋との対照過程においては,指摘特徴点8点以上11点以下の場合でも関係者指紋に一致(推認)扱いとしている。 証人c9旧意見は,12点方式に基づき,①45アはaの右手示指指紋,②45エはaの右手中指指紋と一致しており,この付着状態からすると①と②が同一の機会に印象されることは不可能であること,③43イはaの右手拇指指紋と一致しており,その印象位置から推定して,③ 右手拇指指紋(43イ)と①右手示指指紋(45ア)は鏡を持った同一の機会に印象されたものと推定し,②右手中指指紋(45エ) イはaの右手拇指指紋と一致しており,その印象位置から推定して,③ 右手拇指指紋(43イ)と①右手示指指紋(45ア)は鏡を持った同一の機会に印象されたものと推定し,②右手中指指紋(45エ)とは別の機会に印象されたものと判断し,その余の指紋は鑑定不能としている。 なお,証人c9補充意見は,③右手拇指指紋(43イ)と②右手中指指紋(45エ)とが鏡を持った同一の機会に印象されたものと推定され,①右手示指指紋(45ア)とは別の機会に印象されたものと推定される旨訂正した(再弁B8)。 本件丸鏡以外からのaの指掌紋の不検出証人c9補充意見は,aの手指はどちらかといえば多汗症の部類に属するものの,必ずしも物件に指紋が極めて転写されやすい体質とはいい難いとする。本件の場合,被害者が所在不明となってから指紋採取まで年末年始を挟み,その間,親族等多数が被害者方に出入りし,家屋内の片付けなどしており,そのことも指紋採取の条件を著しく損ねた原因の一つと思料される。また,被害者方は一般的にいって指紋が付着しやすい採取物件があるような状況もうかがえるが,物件に触れたからといって必ず指掌紋が採取できる保証はなく,本件丸鏡以外からaの指掌紋が採取されなかったとしても不自然ではない。 証人c10意見その内容は次のとおりである。 本件丸鏡から採取された指紋A 証人c10意見の鑑定方法は,証人c9旧意見同様,合致特徴点指摘によるが,「証人c10法則」鑑定基準により行った。 「証人c10法則」の合致基準は,合致特徴点が3点から6点を「合致状態」,7点から12点を「合致」とする。「合致状態」とは,現在は「合致」と決定するに至っていないが,両者に合致する特徴点が存在しており,十分な鑑定エリア又は鮮明な原本が確保できたならば「合致」決定 態」,7点から12点を「合致」とする。「合致状態」とは,現在は「合致」と決定するに至っていないが,両者に合致する特徴点が存在しており,十分な鑑定エリア又は鮮明な原本が確保できたならば「合致」決定に至るであろうもの をいう。他方,異なる特徴点が3点あった場合,「不合致」と判定する。 B 証人c10法則によれば,aの指紋と合致又は合致状態となる現場指掌紋は,証人c9旧意見が指摘している,本件丸鏡の平面鏡側スタンド穴付近にあり右手拇指と合致する43イ,凹面鏡側スタンド穴付近にあり右手示指と合致する45ア及び右手中指と合致する45エに加え,平面鏡側スタンド穴付近にあり右手拇指と10点合致の42ア及び6点合致状態の42イである。 また,凹面鏡側にある44ア及び位置不明の46は,aの指紋と不合致である。44イは鑑定不能であるが,44アと同一の機会に印象された連続基節紋である。 C 指紋の位置等から,aの接触行為は3回,本件丸鏡の凹面鏡側を裏側として鏡面を持ち支えているような状況と推定され,その指紋が全てスタンド穴部付近約9㎝エリアにまとまっていることから,スタンドがあったために位置が特定され,そのスタンドを囲むようにして指紋が集まったものと考えるのが合理的である。また,自分で鏡を覗き込むために持った時に付着したものと推定される。 Daの指紋と不合致の指紋(44ア及び46)の接触動作は,左手中指基節紋・左手示指基節紋と左手拇指が,鏡を挟んでほぼ同一箇所に位置し,左手拇指の指先と左手示中指基節紋によって鏡面を触らないように意識して挟み持ちしているような状況と推定され,このことからすると,接触者は,本件丸鏡をその本来の用法に従って使用することを前提としていると考えられ,廃物としての意識はなかったものと推定される。 また,鑑定不能の4 ているような状況と推定され,このことからすると,接触者は,本件丸鏡をその本来の用法に従って使用することを前提としていると考えられ,廃物としての意識はなかったものと推定される。 また,鑑定不能の43アは,拇指であるが,反対側には対応する指紋がないから,拇指の指先をかけ,示指及び環指が鏡の枠を支え持ち,環指を浮き上がらせて鏡面を触らないように意識して挟み持ちしているような状況と推定される。 これらの接触は,接触者が自ら鏡を利用した際に付着したというよりも,鏡を他人に渡す又は移動させる等の行為の際に付着したものと考えるのが合理的である。 E 以上の各接触は,接触形態と回数に照らしていずれも物色時の接触によるものではないと推定される。また,本件丸鏡には,aともう一人以上の人物が接触しているものと認められる。 本件丸鏡の状態現場指掌紋採取時のゼラチン紙への押捺状況からすれば,本件丸鏡から指紋が採取された昭和60年1月5日当時,本件丸鏡の鏡面は落ち込んでおらず,すなわち枠からガラスが外れかけておらず,正常な状態にあったものと推認される。なお,指紋採取の実務の観点からして,本件丸鏡から指紋を採取する際,落ち込んでいる鏡面を裏から押し上げ,枠の部分との段差を小さくして採取するような方法は,証拠を潰してしまう危険があるから採用するはずがなく,転写に伴う指紋像への影響がないと判断したからこそ,採取者が鏡枠と鏡面とを一緒に転写したものと認められる。 本件丸鏡以外からのaの指掌紋の不検出aから採取した対照指掌紋に顕著な白抜き現象が生じていることからすれば,当時のaは,平素又は特別緊張時において,手に著しい汗をかく多汗症の特異体質であると認められる。そうすると,指紋検出条件の一つである分泌物の転写可能性を十分に満たしていると認めら ることからすれば,当時のaは,平素又は特別緊張時において,手に著しい汗をかく多汗症の特異体質であると認められる。そうすると,指紋検出条件の一つである分泌物の転写可能性を十分に満たしていると認められることなどからすれば,aが自白及び確定判決にいう設定条件どおりの行動をとったならば,本件丸鏡以外の場所から最低1個以上の指紋は検出できるものと認められる。 オ新旧証拠による検討物色範囲についての自白の合理性 金品が在中している可能性が高いことを知りながら,レジスターを物色していないとするaの自白は,事件当時,レジスターが容易に開扉でき,かつ数千円の現金が入っていたことが推認されることからすれば,確定判決の指摘するとおり不自然である。控訴審判決は,aが本件金庫に五,六十万円入っていると考えていた旨指摘しているが,aは,本件タンスや本件机を物色していること,被害者方においては未だ本件金庫を開扉できていない状態であったことからすれば,やはり小銭といえども金品がある可能性が高く,容易に確認できるレジスターを物色するのが自然と思える。もっとも,aが,当時飲酒しており,かつ低い知的能力の持ち主であることから,目の前の本件金庫にしか関心が行かなかったとしても,あり得ない事態であるとまではいえない。また,家具調金庫に鍵が差してあったからといって,直ちに物色痕跡ということもできないことは控訴審判決の指摘するとおりである。 そうすると,本件タンス及び本件机しか物色していない旨の自白は確定判決の指摘するとおり不自然といえるが,あり得ないとまではいい難い。 指紋の付着状況本件丸鏡A 証人c9旧意見は,aが2回以上本件丸鏡に触れたことを示し,証人c10意見は,aが更にもう1回本件丸鏡に触れた可能性を示す。証人c10法則に基づく証 難い。 指紋の付着状況本件丸鏡A 証人c9旧意見は,aが2回以上本件丸鏡に触れたことを示し,証人c10意見は,aが更にもう1回本件丸鏡に触れた可能性を示す。証人c10法則に基づく証人c10意見も少なくとも前記可能性を示す限度では信用することができる。もっとも,指紋の付着状況からは,aがどのような目的を持って本件丸鏡に触れたかの点まで特定することはできない。 そして,新証拠によれば,本件丸鏡が,現場指掌紋採取時,台との金具が外れていたものの,鏡面が落ち込んでいないこと,鏡面に第三者の 指紋が付着していることが認められることからすれば,aが触れた当時,本件丸鏡は廃物であるとした確定判決の認定は大きく動揺している。そうすると,被害者や証人c7が,aに対して本件丸鏡を手渡したということは考えられないとした確定判決の認定も大きく動揺している。 また,指紋の付着状況から,aが触れてから指紋採取されるまでの期間,aの指紋が付着した部分について,他の接触行為がなかったことはうかがわれるものの,使用頻度も判然とせず,その期間がどの程度であるかも明らかではないから,aの指紋が付着した具体的時期を判断することはできず,控訴審判決も同様の見解に立っているものと解される。 以上によれば,本件丸鏡にaの指紋が付着している事実は,本件机の引き出し内を物色したとするaの自白と矛盾しないものの,aがひげを剃るために借りた際など他の機会に付着したものとしても矛盾はない。 B ところで,借りた鏡の特徴についてのaの供述が,確定審第65回公判期日において変遷しているが,aの供述する四角い鏡が壁掛けの鏡のことなのか,他のものなのか判然としないし,aが低い知的能力の持ち主であり,対象も同公判期日から10年近く前の日常的な事柄についてのものであること 変遷しているが,aの供述する四角い鏡が壁掛けの鏡のことなのか,他のものなのか判然としないし,aが低い知的能力の持ち主であり,対象も同公判期日から10年近く前の日常的な事柄についてのものであることからすれば,もはや記憶の減退によるものとも考えられ,不自然とはいえない。 C したがって,新旧証拠によれば,本件丸鏡にaの指紋が付着していた事実が,aの自白の信用性を高める程度は減殺している。 また,本件丸鏡が廃物であり,被害者らがaに対して本件丸鏡を手渡したことは考えられないとした確定判決の認定は大きく動揺しており,それゆえ,aが前記店舗内で物色行為をした事実を認めた確定判決の認定,及びaが被害者らの了解なく本件机の引き出しを開け本件丸鏡を触った事実を認めた控訴審判決の認定は動揺している。 本件丸鏡以外からのaの指紋の不検出 aの自白によれば物色したとされる本件机及び本件タンスからは誰の指紋も採取されていないこと,新証拠である住民n1の警察官調書(再検27)によれば,aが本件当日昼頃,被害者方に居たことが認められるにもかかわらず,aの指紋が本件丸鏡以外から検出されていないことからすれば,仮に物件に指紋が付着していたとしても,年末年始の掃除などによって採取又は鑑定不能となったものと考えられる。 したがって,aが自白する物色場所から,aの指紋が検出されていないからといって,これらの場所を物色したとするaの自白と矛盾するものではない。 カ小括よって,aの物色範囲についての自白は,確定判決の指摘するとおり内容が不自然である上,新旧証拠によれば,指紋の付着状況がaの自白の信用性を高める程度が減殺している。 また,新旧証拠によれば,本件丸鏡にaの指紋が付着していた事実は,本件と別の機会に付着したとする可能性があるから,犯人性を 拠によれば,指紋の付着状況がaの自白の信用性を高める程度が減殺している。 また,新旧証拠によれば,本件丸鏡にaの指紋が付着していた事実は,本件と別の機会に付着したとする可能性があるから,犯人性を推認させる間接事実とした確定判決等の判断は動揺している。 確定判決等がaを犯人と認定した理由の主要な部分の一つが疑わしくなったというほかない。 手首の結束方法ア aの自白等被害者の手首の結束についてのaの自白は,被害者の頸部に巻いた紐をライターで焼き切って手首を結んだというものである。 紐の調達方法についてのaの自白は,昭和63年3月13日時点では,カウンターの方に行って近くにあった(乙6),土間のカウンターかこの近くにあった白いナイロン製の紐をカッターナイフで適当な長さに切った(乙7)というものであったところ,同月18日以降,使い差しの紐 を利用した(乙8)と変遷している。 紐を頸部から外した方法についてのaの自白は,昭和63年3月13日にはビニール紐を首から外したと説明し(乙6),同月18日にはライターの炎で紐を焼き切ったと詳しく説明し(乙8), 頸部の紐をライターで焼き切って使った理由については,早く死体を棄てなければいけないという焦りがあったので別の紐を探す余裕がなかった(乙9),気がせいていたし,ビニール紐は火に弱いことを知っていたので,ライターの炎で焼き切った(乙10)と説明している。 手首の結束方法についてのaの自白は,①被害者の両手を手首のところで交差させ,紐を,交差した手首付近に二,三周位に巻きつけ固く縛り,②紐の一方の端を周回させた紐の下に通して結び目を作らずに止めるというものであり,これは,肉屋で働いていた時に肉を竹の皮に包む方法,すなわち,紐の一方の端を包みの下方から横に回し,両側に出した両端 ②紐の一方の端を周回させた紐の下に通して結び目を作らずに止めるというものであり,これは,肉屋で働いていた時に肉を竹の皮に包む方法,すなわち,紐の一方の端を包みの下方から横に回し,両側に出した両端を中央で交差させてそのまま一,二回ねじり,紐の一方の端を肉を包んだ竹の皮に周回させた部分の紐の下側に通す方法と同じであるというものである(乙8等)。 また,aの再現した結束方法は,①紐を,被害者の手首に2周巻き付けて,②紐の両端を,交差させ,左右の部分を持ち替えた上,③紐の一方の部分を,交差部分を支点にして,他方の部分に左巻きに1回転させ,④その部分の端を,周回させた紐の下に通して止めるいうものである(甲70)。 aの自白及び再現は,交差させた後に,紐の一方の部分を,他方の部分に1回巻き付けるかどうかの違いがあるようにも見えるが,自白においても肉を竹の皮に包む方法と同じとして,その方法の説明においてねじることに言及しており,交差部位から両端の部分が絡まる点では共通しているので,実質的には同じものと解される。 イ主な旧証拠被害者の手首に結束されていたポリプロピレン製紐(甲3,〔昭和63年押第40号符号1,〕平成24年押第5号符号323。以下「本件紐」という。)の結束状況等を見分した昭和60年1月24日付け実況見分調書(甲5)によれば,結束方法は,①紐を両手に3周巻き付けて,②紐の両端を右手首下で合わせ交差させて折り返し,③その一方を手首に巻き付けてある紐に軽く挟んだものというものである(確定判決17丁参照)。 証人c11の証人尋問調書によれば,aは,以前に精肉店で働いたことがある,肉を竹の皮に包む際の結束方法は,①紐の一方の端を包みの下方から横に回し,両側に出した両端を,中央で交差させ,②交差した両部分を,そのまま肉 尋問調書によれば,aは,以前に精肉店で働いたことがある,肉を竹の皮に包む際の結束方法は,①紐の一方の端を包みの下方から横に回し,両側に出した両端を,中央で交差させ,②交差した両部分を,そのまま肉を回すことにより2回ねじり,③紐の一方の端を肉を包んだ竹の皮に周回させた部分の紐の下側に通すというものである。 ウ確定判決等確定判決は,紐を頸部から外した方法や調達方法について,事件発生から3年以上経過した後の自白であれば,少しずつ正確なことを思い出したり,最終的に再現見分をして思い違いが明らかになったとしても,ことさら不自然とはいい難いとした(52丁)。また,絞頸に用いた紐を手首の拘束に使用したとする点について,aは気持ちが焦っていたことで説明しているところ,他に紐がなかったなど他の理由があったのではないかと,疑いを差し挟む余地がないわけではないとした(58丁)。 また,確定判決は,被害者の手首の結束方法が,紐を交差させる回数が異なる以外は,一般に精肉店で精肉を竹の皮等で包む際の結束方法と類似した方法であり,aが精肉店に勤務しこの結束方法を利用していたという事実について,肉を竹の皮に包む際の結束方法は,ある程度の年 配者で肉包を目にしたことのある者であればかなりなじみのある方法であること,日野町周辺には食肉さばき職人や精肉店店員が多く,このような結束方法を身に付けた者がa以外にも多数いたとうかがわれることによれば,それほど決定的な事実とはいえないとする一方(114丁),aが再現した結束と実際の結束が,結び目を作らない点や,紐の一端の始末の仕方では一致しており,aがほぼ類似の結束方法を再現できたことは,aと犯人とを結びつける一要素になると思われるとした(115丁)。もっとも,「aが犯人であることを示す徴表」としては指摘して の始末の仕方では一致しており,aがほぼ類似の結束方法を再現できたことは,aと犯人とを結びつける一要素になると思われるとした(115丁)。もっとも,「aが犯人であることを示す徴表」としては指摘していない(145丁)。 控訴審判決は,被害者の手首に巻かれていた紐の結束方法は,精肉店で肉を竹の皮に包む際の特殊な結束方法と類似しており,aが以前精肉店で働いていたことがあり,その結束方法を習得していることを間接事実として指摘している(16頁)。 エ主な新証拠弁護人作成の実験結果報告書(再弁A41の1)及びその前提となる測定結果報告書(再弁A40)等は,被害者の手首に結束された本件紐の結束方法は,①紐を手首に巻き付ける途中の1周目又は2周目で紐を交差させて折り返し,②その後,手首に反対向きに2周又は1周(前記①と併せて計3周)巻き付けた後,③紐の一端を周回させた紐の下に通して止めるものと考えられ,実況見分調書(甲5)に記載されている結束方法,aの再現した結束方法及び肉を竹の皮に包む際の結束方法のいずれとも異なるというものである。 オ新旧証拠による検討絞頸に用いた紐を手首の拘束に使用としたする自白について,aは専ら当時気持ちが焦っていたことで説明しているところ,同説明は安直な感が否めない。絞頸の紐を焼き切った際の痕跡が死体や着衣にないとこ ろ,気持ちが焦る中で頸部の紐を焼き切る作業をしたにしては精密な動作がされたとうかがえる点も含め,いささか不自然・不合理に考えられるのは,確定判決が指摘するとおりである。また,この点に関する供述に変遷があることも確定判決の指摘するとおりである。 なお,新証拠によれば,検察官f1は,昭和63年3月13日,aを取り調べた際,aが,紐の調達方法について,白色ナイロン製紐がカウンターかこの 述に変遷があることも確定判決の指摘するとおりである。 なお,新証拠によれば,検察官f1は,昭和63年3月13日,aを取り調べた際,aが,紐の調達方法について,白色ナイロン製紐がカウンターかこの近くにたくさん巻いた状態で置いてあったので,それを適当な長さに切って使用した旨供述し,その旨の検察官調書(乙7)を作成し,同供述は措信するに足ると判断したことが認められる(再検22)。 ところが,aはその後,使い差しの紐を使ったと供述を変遷させている(乙8)。 旧証拠においても,被害者の手首の結束方法と認定された実況見分調書(甲5)記載の結束方法と,肉を竹の皮に包む方法及びaの再現した結束方法とは,紐を手首に巻く点,紐を交差させ,その紐の一端を周回させた紐の下に止める,すなわち,ひと結びという点(なお再弁A42,A43参照)で一致している一方,交差後ひと結びまでの扱い(折り返すか,一方を他方に巻き付けるか,ねじるか)の点で異なることが認められていたところ,新証拠によれば,被害者の手首の結束方法における交差後ひと結びまでの扱いは,実際には折り返すだけでなく,交差後に手首に反対向きに1周又は2周巻くというものであったことが認められる。 一致していた点についてみるに,ひと結びは,紐の止め方として基本的なものであり,肉を竹の皮に包む以外の様々な用途に用いられるものであるから(再弁A42,A43),aがひと結びを知っており,それを再現できたからといって,特段の意味を持たないことが明らかである。 紐を手首に巻く点もこれと同様である。 他方,仮に,肉を竹の皮に包む方法が,控訴審判決の指摘するとおり特殊な結束方法であるとするならば,その特殊性は,基本的な方法であるひと結びではなく,交差後ひと結びまでの紐の扱い,具体的には肉を回転させて行う紐の を竹の皮に包む方法が,控訴審判決の指摘するとおり特殊な結束方法であるとするならば,その特殊性は,基本的な方法であるひと結びではなく,交差後ひと結びまでの紐の扱い,具体的には肉を回転させて行う紐のねじりに起因するものと考えられる。また,aの再現においても,死体を回転させることができないことから,結束方法の特殊性を示すねじりを再現するために紐の一方を他方に巻き付けた点が,同様にaの再現する結束方法の特殊性として指摘できる。しかしながら,新証拠によれば,被害者の手首の結束方法は,折り返すだけでなく,交差後に手首に反対向きに1周又は2周巻くというものであり,肉を竹の皮に包む方法の特殊性及びaの再現する結束方法の特殊性のいずれについても,有しているものではない。 そうすると,新旧証拠によれば,手首の結束方法は,精肉店で肉を竹の皮に包む際の特殊な結束方法又はaの再現した方法のいずれとも類似していない疑いが生じており,かえって,aが実際の結束方法を再現することができなかった疑いさえある。 以上をまとめると,絞頸に用いた紐を手首の拘束に使用したとする自白について,そもそも確定判決が指摘するとおり,いささか不自然・不合理に考えられるところ,新旧証拠によれば,確定判決等がaを犯人とする理由として挙げた手首の結束方法と,肉を竹の皮に包む際の結束方法又はaの再現した結束方法とは類似していない疑いが生じ,かえって,aが実際の結束方法を再現することができなかった疑いさえある。 したがって,被害者の手首の結束方法と類似の結束方法をaが習得又は再現できた事実を認定し,aが犯人であると認定した確定判決等の判断は動揺している。 犯行動機ア aの自白 犯行動機についてのaの自白は,その犯意が生じた時期につき変遷がみられるものの,酒の飲 し,aが犯人であると認定した確定判決等の判断は動揺している。 犯行動機ア aの自白 犯行動機についてのaの自白は,その犯意が生じた時期につき変遷がみられるものの,酒の飲み代等の小遣い銭欲しさである点では一貫している。その詳細は,①酒量を一日大体2合と決められており,それ以上飲もうとすると請求人b1から叱られるため,自宅では2合以上は飲まないようにしていた,②それでは飲み足りないため,被害者方等でつけで飲んでおり,その代金が余りに多いと請求人b1から叱られていた,③aの給料や財産は請求人b1が管理しており,aは少額の小遣い銭しか受け取っておらず,いつも数百円程度の現金しか持ち合わせていなかった,④このような状況から,店でつけをせず,家族に遠慮することなく,自分の持ち金で酒を飲みたいと思っていた,というものである。 イ旧証拠及び確定判決等旧証拠によれば,被害者は資産家であることが認められ,確定判決は,犯行動機に関する自白部分は,全く不合理で荒唐無稽とまではいえないが,重大犯罪の動機としては了解し難い点があるとし(55丁),「aが犯人であることを示す徴表」としては指摘していない(145丁)一方,一応の生活はできているとはいえ,裕福とはいえないaが,被害者が保有しているであろう多額の現金に目がくらみ,強盗殺人という大罪を企図するに至ったとしても,あながち不自然とはいえず,aには動機がないということはできないとして,犯人であるとの認定を阻害する事実ではないとした(150丁)。 控訴審判決は,この点について判断を明示していない。 ウ主な新証拠定額郵便貯金等支払金内訳書等(再弁A3ないしA7〔枝番を含む〕)は,本件事件当時,被告人世帯には2000万円以上の貯蓄があり,家族全員(aのほか妻と成人した していない。 ウ主な新証拠定額郵便貯金等支払金内訳書等(再弁A3ないしA7〔枝番を含む〕)は,本件事件当時,被告人世帯には2000万円以上の貯蓄があり,家族全員(aのほか妻と成人した子3名)がいずれも稼働して安定した収入を得ていたというものである。 エ新旧証拠による検討確定判決が指摘するとおり,交通関係の罰金前科1犯を除いて前科がなかったaにつき,自白する酒の飲み代等の小遣い銭欲しさとする犯行動機は,強盗殺人という重大犯罪の動機としては了解し難い上,これを具体的にうかがわせる証拠はaの自白以外にはない。 また,新証拠によれば,a家が困窮していたとは認められず,むしろ相応の金融資産を有し,一定の世帯収入を継続的に得ていたことが認められる。 aの犯行動機に関する自白に了解し難い点があり,aの自白全体の信用性を高めないものであることはそもそも確定判決の判示するとおりである。加えて,新証拠によって認められるa家の客観的な経済状況からすれば,仮に,aが,被害者が保有しているであろう多額の現金に目がくらみ,強盗殺人という大罪を企図するに至る可能性が否定されないとしても,そのような動機を生じさせた蓋然性は若干減殺されている。 5 自白の信用性殺害日時ア aの自白aの自白は,本件当日午後8時40分頃,被害者方店舗内において被害者を殺害したというものである。 イ主な旧証拠被害者の死体を解剖した医師g2作成の解剖結果報告書(甲9)には,被害者の死体の胃内容について,米飯,菜葉,肉,卵などを混ずる汚穢淡褐色の粘稠物270cc,アルコール飲料臭が「無」となっている。 医師g2は,確定審において,胃の内容物について,食後30分程度で殺害されたと判断する旨供述している。 証人c2は,確定審において, 褐色の粘稠物270cc,アルコール飲料臭が「無」となっている。 医師g2は,確定審において,胃の内容物について,食後30分程度で殺害されたと判断する旨供述している。 証人c2は,確定審において,本件当日午後8時頃,被害者方店舗か ら,「神さんを信心する」,「珍しいなあ」,「お加持をする」などと話す被害者の声を聞いたと供述した(証人c2の証人尋問調書)。 証人c1は,確定審において,本件当日午後7時40分ないし45分頃,証人c12方での忘年会に参加するため,自宅を自動車で出発して証人c12方に向かい,被害者方店舗のすぐ近くである店舗A前交差点を北から東に向けて左折する直前に,同交差点南側道路の住民n2方側同交差点南詰付近で正面を向いて立っている又は歩いているaを五,六m離れた位置から目撃し,その後方には軽トラックのような白っぽい自動車が駐車されていたなどと供述した(証人c1の証人尋問調書)。 店舗A前交差点南詰付近広告柱から被害者方西側倉庫出入口までの距離は41.8mである(平成元年5月19日実施の検証)。 また,証人c12は,確定審において,証人c12方での忘年会が本件当日であったこと,昭和60年4月頃,警察官が証人c12方に本件について聞き込みに来た際,同席していた証人c1が,本件当日に証人c12方に来る際に前記交差点付近でaを目撃したと述べていたなどと供述した(証人c12の証人尋問調書)。 証人c1及び証人c2の各供述に基づいて,確定審において,平成2年1月23日及び同月24日,次のとおりの検証が実施された(弁17)。 まず,証人c1の供述する条件における自動車からの視認状況について検証が実施され,前照灯が下向きの場合,5mの距離であれば被目撃者の顔の状況が良く見えるが,10m以上となると見えにくく,前照灯が上 まず,証人c1の供述する条件における自動車からの視認状況について検証が実施され,前照灯が下向きの場合,5mの距離であれば被目撃者の顔の状況が良く見えるが,10m以上となると見えにくく,前照灯が上向きの場合,15mの距離でも被目撃者の顔の状況が良く見えるというものである。また,証人c2方における被害者方の声の聴取状況について検証が実施され,被害者方のガラス窓を閉めている限り証人c2方では聴取不可というものであるが,その際,証人c8から被害者の声はもっと大きい旨指摘があった。 証人c1の勤務先におけるタイムカード(弁10。なお,再弁D46,再検103)によれば,証人c1は,本件翌日午前8時15分から勤務開始し,同日に勤務先の忘年会に参加したことがうかがわれる。 死体発見時の被害者着衣は,上衣が外側から順に,エプロン(薄茶色,平成24年押第5号符号788),スモック(同号符号789),ベスト(同号符号790),カーディガン(同号符号791),セーター(同号符号792),長袖肌着(同号符号793,794)であり,下衣が外側から順に,ズボン(紫色,同号符号796),靴下(同号符号798),パンスト(同号符号797),毛糸腹巻(同号符号795),緑色パッチ(同号符号799),白色長パンツ(ズロース,同号符号800),パンティー(同号符号801)である(甲6)。証人c7は,昭和60年1月5日に被害者方で実況見分が実施された際,被害者の灰色ズボン,灰色靴下,茶色っぽいエプロンが,本件翌日,被害者方離れにあったと指示説明した(甲16)。そして,証人c7は,確定審において,本件当日の被害者の服装はねずみ色系統で細かい柄の割烹着,下は薄紫のズボンであり,離れにあったズボンとは色が違うなどと供述している(証人c7の証人尋問調書)。 ウ ,証人c7は,確定審において,本件当日の被害者の服装はねずみ色系統で細かい柄の割烹着,下は薄紫のズボンであり,離れにあったズボンとは色が違うなどと供述している(証人c7の証人尋問調書)。 ウ確定判決等確定判決は,間接事実からaが本件犯行の犯人であると認定した上で,間接事実に基づいて,犯行日時を本件当日午後8時過ぎ頃から同日午後9時頃までの間と認定した(154~155丁)。 確定判決は,証人c2の供述について,証人c2が聞き取り,記憶していた言葉の内容が正確か否かには,かなり疑問の余地があるとしつつ,証人c2の供述から被害者が少なくとも本件当日午後8時頃までは生存していたこと,この時間帯に被害者方店舗に訪問者があったか電話がかかったことが認められるとした(103丁)。確定判決は,被害者が食後 約30分で殺害されていることなども指摘している(153丁)。 なお,確定判決は,証人c1の供述から,aが本件当日午後7時40分ないし45分頃の数分後,店舗A前交差点南詰付近の道路を南から北に向けて歩行していたことが認められるとして(99丁),証人c2の前記供述と併せて,aが,犯行時間帯において,被害者方店舗に居たものと推認することができるとして,aの犯人性を認める間接事実の一つと位置付けた。 控訴審判決は,自白の基本的根幹部分は信用できるとして,犯行日時を自白に基づき,本件当日午後8時40分頃と認定できる旨判断した。 なお,控訴審判決は,証人c2の供述に基づき,証人c2が,本件当日午後8時過ぎ頃,客を相手に話していると思われる被害者の声を途切れ途切れに聞いており,聴き取れた言葉は,「神さんを信心する」,「珍しいなあ」,「お加持をする」などであることが認められるとし(15~16頁,36頁~),本件当日午後7時40分か45分頃 の声を途切れ途切れに聞いており,聴き取れた言葉は,「神さんを信心する」,「珍しいなあ」,「お加持をする」などであることが認められるとし(15~16頁,36頁~),本件当日午後7時40分か45分頃過ぎに,被害者方近くの交差点でaを目撃した旨の証人c1の証言は十分信用できるとした(33頁~)。 エ主な新証拠証人c1及び証人c2の供述に関するもの住民n3の平成16年4月26日付け陳述書(再弁A46の1)は,本件後に警察官から聴取を受けた際に,本件当日午後8時過ぎに店舗B横を通ったときに特に変わったことは何もなかったと話していたところ,同場所に車が駐車してあれば邪魔になるので印象に残るはずだから,同場所に軽トラックは停まっていなかったということになるというもので,その裏付けとして出勤ノート(再弁A46の2)がある。 また,請求人b1の平成17年11月13日付け陳述書(再弁A48)は,本件翌日午後7時頃に店舗B横に軽トラックを停めて結婚式の挨拶 のために親戚を回ったというもので,その裏付けとして,aの二女請求人b4の結婚式の写真(再弁A49)がある。 これに対し,証人c1の昭和60年4月13日付け供述調書(再検93)及び証人c12の昭和63年3月17日付け供述調書(再検96)は,確定審における供述と同様に,証人c12方での忘年会が本件当日にあった,その夜に証人c1がaを見たというものである。 また,平成元年2月10日付け犯罪捜査復命書(再検103)は,警察官が,証人c1を証人尋問後に再聴取したもので,証人c1がタイムカードを見た上で,証人c12方の忘年会は本件当日に間違いない,証人c1はaの子と同級生であったのでaを見間違えないなどと述べたというものである。 証人c2と同居する住民n4の平成17年9月11日付け を見た上で,証人c12方の忘年会は本件当日に間違いない,証人c1はaの子と同級生であったのでaを見間違えないなどと述べたというものである。 証人c2と同居する住民n4の平成17年9月11日付け陳述書(再弁A47)は,被害者方店舗での声は,証人c2方において割によく聞こえたというものである。 oの供述「o氏聴取報告書」(再弁D44)は,弁護人が,平成24年10月13日,oから聴取した内容を報告したものである。同報告書によれば,oは,本件当日午後8時頃に被害者方を訪ね,lと3名で水菜や牛肉を煮た鍋を食べ酒を飲むなど酒宴を催した後,被害者と2名で共同浴場に行くことにした,oはいったん帰宅し準備等をした上で共同浴場に行き,午後9時過ぎ頃に被害者と会った,本件翌日に被害者方に行った際被害者が行方不明になったことを知ったなどと述べたのを聴取したというものである。 これに対し,oの昭和60年1月15日付け警察官調書(再検107)は,oが,被害者方で酒宴が催されたのは昭和59年12月27日(以下「本件前日」という。)午後7時頃から午後9時頃までである,被害者 とは共同浴場の前で別れて自宅に帰った,被害者のその時の服装は,えんじ色の上衣,チャック付きのトラ模様のトレーナー,ねずみ色のズボンと思うなどというものである。 lに関するものlは,当時90歳を超える被害者の叔母で被害者と同居していた者である。昭和60年1月11日付け犯罪捜査復命書(再検63)は,警察官がlから聴取したもので,lが,被害者は何も言わずに出て行った,あの晩(同復命書には「日の特定は出きないが,27日の晩と推定される」とかっこ書きで記載されている。)はoが来て3名で酒宴をした,oと被害者が共同浴場に行った,帰ってきた被害者は,oが風呂に一緒に あの晩(同復命書には「日の特定は出きないが,27日の晩と推定される」とかっこ書きで記載されている。)はoが来て3名で酒宴をした,oと被害者が共同浴場に行った,帰ってきた被害者は,oが風呂に一緒に行くと話し風呂の前で別れたが,風呂に入って待っていたのに来なかったなどと独り言で怒って寝た,oが家へ来た晩の朝から被害者がいなくなったと思っていたが勘違いかなどと供述したもので,昭和60年1月25日付け犯罪捜査復命書(再検62)においても,同趣旨の聴取がされている。 共同浴場に関するもの住民n5の平成28年2月27日付け供述調書(再弁D30)は,本件当日夜,共同浴場で被害者と会ったなどというものである。 調査結果報告書(再弁D38),共同浴場関係書写し(再弁D41)は,共同浴場が隔日で営業していたというものであり,住民n6の平成28年6月6日付け供述録取書(再弁D33)は,共同浴場は,本件当日,営業していたと思うというものである。 pの供述pの昭和60年1月16日付け供述調書(再弁A22)及び平成15年8月25日付け陳述書(再弁A23)は,本件当日午後7時30分頃,被害者方を訪ねたところ,被害者が食事中だった,20分ほど被害者方 におり,被害者に店外まで見送ってもらって帰宅した,その行き帰りの際,被害者方付近で人と出会った記憶はなく,不審な車を見かけていない,被害者の服装は,黒っぽい柄入りスモックで手首にはゴム入り,下はズボン,スモックの下のシャツは黄色の横縞模様,サンダルはピンク色であったような気がするというものであり,pは,被害者方への往復の際,被害者方前道路を西から東に下って被害者方に行き,同じ道を通って帰るので,店舗A前交差点を通行しないというものである。 着衣に関するもの昭和60年1月 のであり,pは,被害者方への往復の際,被害者方前道路を西から東に下って被害者方に行き,同じ道を通って帰るので,店舗A前交差点を通行しないというものである。 着衣に関するもの昭和60年1月23日付け犯罪捜査復命書(再弁D28)は,本件翌日朝に,被害者方離れ6畳間で脱ぎ棄てられた状態で発見された被害者の衣類(以下「離れの衣類」という。)について,oが本件前日の酒宴の際に被害者が着ていた服と申し立て,証人c7及び証人c8の供述からも,「失踪発覚前日の昭和59年12月27日夜」まで被害者が着ていた服に間違いないことが判明したというものである。離れの衣類の主要なものは,エプロン(黄土色。なお,黒っぽくも見える。),上衣6着(赤紫色スモック,チャック付き黄色横縞スポーツウェアーを含む。),ズボン2着(ねずみ色で尿が付着したものを含む。)である(再弁D40,平成24年押第5号符号803ないし811)。 なお,oの昭和60年1月15日付け警察官調書(再検107)及び証人c7の同年9月7日付け警察官調書(再検61)からすれば,「失踪発覚前日の昭和59年12月27日」は失踪発覚前日の同月28日の誤記と解するのが相当である。 証人c7の昭和60年1月16日付け警察官調書(再弁A64)は,本件当日午後6時頃の被害者の服装について,上が黒っぽい細い柄の割烹着,下がねずみ色系のズボン姿だったと思うというものであり,同年9月7日付け警察官調書(再検61)は,離れの衣類の中に本件当日に 着ていたエプロンやズボンがあったというものである。 オ新旧証拠による検討証人c2の供述の信用性確定審における検証では,証人c2方で被害者方の声を聴取することはできなかったとされているが,被害者の声は実験者よりも大きかったと考えられるし,新証拠によ による検討証人c2の供述の信用性確定審における検証では,証人c2方で被害者方の声を聴取することはできなかったとされているが,被害者の声は実験者よりも大きかったと考えられるし,新証拠によれば,被害者方と道を挟んで向かい合わせの証人c2方の住人である住民n4も証人c2方で被害者方の声が聞こえる旨陳述しており,この点は事柄の性質上信用できることからすると,証人c2が,本件当日午後8時頃,被害者の声を聞いたとする供述は信用でき,新旧証拠を総合しても,かかる確定判決の判断は動揺しない。 したがって,被害者が同時刻(本件当日午後8時頃)まで生存していたことは認められる。 進んで,被害者の会話の相手方について検討するに,確定判決は,聴き取れた言葉の内容及び会話の相手方の属性,すなわち性別,訪問者か電話の相手方か,客かどうかなどは認定していない。控訴審判決も,確定判決同様,会話の相手方の属性を認定していないし,証人c2が聴き取った被害者の言葉は,「神さんを信心する」,「珍しいなあ」,「お加持をする」などであったと認定しているものの,その言葉が会話の相手方についてのものか第三者についてのものかを認定していない。 証人c1の供述の信用性確定判決は,証人c1の供述を,犯人性推認のための再間接事実と位置付け,かつ,aが被害者を殺害した犯人であることを認定した上でその犯行時刻を判断するに当たって用いている。したがって,論理的に見ればこの項で証人c1の供述の信用性について検討する必然性はないが,証人c1の供述と証人c2の供述の関連性に照らし,便宜上,ここ で検討を加えることとする。 証人c1は,五,六m離れたところから,前照灯でaの顔が見えたと供述する。しかるところ,証人c1は,意識的にaの顔を見たのではなく(全く偶然の機 便宜上,ここ で検討を加えることとする。 証人c1は,五,六m離れたところから,前照灯でaの顔が見えたと供述する。しかるところ,証人c1は,意識的にaの顔を見たのではなく(全く偶然の機会に,犯人であると意識しないで,目撃がなされている。),かつ,夜間,移動中に僅かな時間見たに過ぎないことから視認条件が必ずしも良好ではないという点が,証人c1の供述の信用性を慎重に検討すべき事情として指摘できる。もっとも,確定審における検証によれば,前照灯が下向きであっても顔が見えにくいのは10m以上であること,証人c1も前照灯が下向きと断言しているわけではなく前照灯が上向きであった可能性もあることからすれば,証人c1が供述するとおりの視認をすることは可能であったといえる。また,aと証人c1が顔見知りであることからすれば,証人c1の目撃供述の信用性はなお肯定でき,証人c1が,夜,同所を運転していた機会にaを目撃したことは認められる。 続いて,証人c1が前記目撃をしたのがいつかにつき検討するに,証人c1は,aがいつも軽トラックを店舗A前交差点付近に停めて被害者方に飲みに行っていることを知っていたことからすれば,他の機会に目撃したのを勘違いした可能性もあり得る。 しかしながら,新旧証拠によれば,証人c1は,昭和60年4月頃から一貫して目撃したのは証人c12方での忘年会である本件当日だと述べており,内容もカラオケを準備して行ったなど,相当に具体的である。 加えて,証人c12も一貫して,証人c1が本件当日である証人c12方の忘年会の日に目撃したと話していたと供述をしている。証人c1は,本件翌日の出勤についてタイムカードに反する供述をしているものの,事件からの経過年数やその内容からすれば,勘違いであったという説明も不合理とまではいえない。 いたと供述をしている。証人c1は,本件翌日の出勤についてタイムカードに反する供述をしているものの,事件からの経過年数やその内容からすれば,勘違いであったという説明も不合理とまではいえない。 したがって,本件当日午後7時40分ないし45分頃の数分後,被害者方店舗のすぐ近くである店舗A前交差点南詰付近の道路に居たaを目撃したとする証人c1の供述は,前記のような疑問点を複数指摘することはできるものの,なお信用することができる。 新証拠である住民n3の陳述書は,店舗A前交差点付近に軽トラックが停まっていたかどうかについて,本件当日から20年以上経過して陳述されたものであり,事柄の性質上,その信用性は乏しいといわざるを得ない。また,請求人b1の陳述書も本件当日から20年以上経過して陳述されたものである上,証人c1が本件翌日にaらを目撃したのを勘違いしたことを示唆する内容だが,証人c1が本件翌日に勤務先の忘年会に参加したことがうかがわれることからすると,証人c1が本件当日のことと本件翌日のことを勘違いしたとは考え難い。 新証拠であるpの警察官調書は,事件発生直後に作成されたものであり,内容としても不合理な点はないから,信用することができる。もっとも,pが帰宅の経路において店舗A前を通過していないことに照らすと,aの存在及び軽トラック駐車の各点に関するpの供述と証人c1の供述は両立し得るから,pの供述が信用できるからといって,証人c1の供述の信用性に影響を与えない。 以上によれば,新旧証拠を総合しても,aが本件当日午後7時40分ないし45分頃の数分後,店舗A前交差点南詰付近の道路に立っていた旨の証人c1の供述は信用することができるとする確定判決の判断は動揺しない。 弁護人の主張弁護人は,新証拠により,本件当日午後8 し45分頃の数分後,店舗A前交差点南詰付近の道路に立っていた旨の証人c1の供述は信用することができるとする確定判決の判断は動揺しない。 弁護人の主張弁護人は,新証拠により,本件当日午後8時から午後9時頃までの間,被害者が生存していたこと,及び午後8時頃は,被害者方においてo,l及び被害者が飲食していたことが明らかになったと主張する。 前記聴取報告書(再弁D44)は,弁護人が,oからoが被害者方を訪れた日が失踪前日である本件当日であったと聴取した旨報告するものであるが,聴取は,事件から20年以上経過してされたものであり,内容も,被害者方を訪れた日時,oが共同浴場で被害者と入浴したか否か,酒宴の翌日被害者に会いに行こうとしたか否かという点について,変遷が見られ,かつ,変遷の理由が不明である上,oは内容を確認する前に死亡している。そうすると,その聴取内容の信用性には重大な疑義があるといわざるを得ない。 これに対し,oの前記調書(再検107)によれば,oは,被害者失踪直後の昭和60年1月15日,本件前日に酒宴があった旨供述しているし,日付の特定に至った経緯についても,保険の営業等の経緯を順を追って説明したもので,相当に具体的である。oの前記調書(再検107)は,全体として信用することができる。 lは,被害者失踪直後,被害者は何も言わずに出て行った,あの晩はoが来て酒宴をした,被害者はoが共同浴場に来なかったことを怒っていた旨警察官に述べている。lが被害者の唯一の同居人であったことからすると,lの認識は一定程度考慮すべきではあるものの,「あの晩」とは,被害者が何も言わずに出て行った時のことを指すのか,別の晩を指すのか明確でなく,聴取した同警察官も,oが参加した酒宴の日を特定することができなかったことからすれば,lの あるものの,「あの晩」とは,被害者が何も言わずに出て行った時のことを指すのか,別の晩を指すのか明確でなく,聴取した同警察官も,oが参加した酒宴の日を特定することができなかったことからすれば,lの聴取結果からoが参加した酒宴の日を特定することはできないものといわざるを得ない。 そして,oが酒宴に参加した日を特定するために有用な客観的証拠,たとえば,共同浴場の営業日を特定する客観的証拠や,oの営業活動経過を特定する日誌等はない。また,共同浴場についての他の新証拠も,共同浴場が隔日営業であったことを示すにとどまり,本件当日又は本件前日のいずれが開場日であったかを認めるに足りない。住民n5及び住 民n6の供述調書等は,本件から20年以上経過してされたものであり,これらをもって,本件当日が共同浴場開場日であったと認めることはできない。 弁護人は,被害者の着衣についての関係者の各供述と離れの衣類及び被害者の死体の着衣から,oが参加した酒宴が本件当日だったと主張する。 A まず,被害者が本件当日着ていた服に関するpの供述は「ような気がする」というものにとどまっており,証人c7の供述は当初から「だったと思う」というものにとどまっているため,他の機会に見た服と混同している可能性が否定できないし,証人c7は,確定審における証人尋問において,被害者が着ていたズボンは被害者の死体が着ていた紫色のズボンと一致している旨供述を変遷させており,信用性に疑義がある。 B 仮に各人の供述を前提としても,着衣からoが参加した酒宴の日を特定するのは困難である。すなわち,まず,離れの衣類は上衣6着,ズボン2着から成るところ,それぞれの服を脱いだ時期も放置した意図も不明である。各人の供述との一致から察するに,①oと別れた後にねずみ色のズボン(平成24年押 すなわち,まず,離れの衣類は上衣6着,ズボン2着から成るところ,それぞれの服を脱いだ時期も放置した意図も不明である。各人の供述との一致から察するに,①oと別れた後にねずみ色のズボン(平成24年押第5号符号806と解される。以下同じ。)を脱いだこと,②oと別れた後にトラ模様のシャツ(同号符号811と解される。)を脱いだこと,③pと別れた後に横縞のシャツ(同じく同号符号811と解される。)を脱いだことがうかがわれるものの,①と②の関係及び②と③の関係はいずれも判然としない。 証人c7の初期供述の方がより信用できると仮定した場合,④証人c7と別れた後に被害者がねずみ色のズボンを脱いだことがうかがわれるものの,①と④の関係はやはり判然としない。ねずみ色のズボンには失禁跡が認められるが,被害者の服装に関する行状が明らかでない上,被害者は,oが参加した酒宴の際,自身は失禁に気付いておらず,oもあ えて指摘しなかったことから,被害者が,そのまま失禁に気付かなかった可能性も否定できず,そうであれば,被害者が,酒宴の翌日もねずみ色のズボンを着ることはあり得ないではないから,酒宴が本件前日であった可能性を排除することはできない。 他方,証人c7の確定審での供述がより信用できると仮定した場合,⑤証人c7と別れた後紫色のズボンを脱がずに殺害された可能性が高いことになり,oが参加した酒宴が本件前日であった可能性が高くなるとはいえる。この場合,ねずみ色のズボンが被害者方離れに一定期間放置されていたことになる可能性があるが,被害者が,前記のとおり,失禁に気付かないままであった可能性があることからすると,ねずみ色のズボンが放置されていたとしても,被害者の認識に照らして不自然であるとまではいえない。 結局,各人の各供述及び離れの衣類の状況からは,oが参 かないままであった可能性があることからすると,ねずみ色のズボンが放置されていたとしても,被害者の認識に照らして不自然であるとまではいえない。 結局,各人の各供述及び離れの衣類の状況からは,oが参加した酒宴が本件前日であった可能性を否定することはできない。弁護人の前記主張は採用することができない。 また,仮に,oの参加した酒宴が本件当日であるとした場合,被害者は,酒宴後に共同浴場に行き,帰宅した後殺害されたということになる。 そうすると,被害者の死体の胃内容物や殺害時刻が食後約30分とする医師g2の判断(合理的な判断と思われる)と整合しないと考えられる。 以上によれば,新旧証拠を総合しても,oが参加した酒宴が本件当日であったか,本件前日であったかについては客観証拠がなく,これを特定することはできないというべきである。 したがって,新旧証拠を総合しても,犯行日時が本件当日午後8時頃から午後9時頃の間である可能性は否定できず,犯行日時は証人c2が被害者の声を聞いた本件当日午後8時頃以降であるとする確定判決の認定は動揺しない。本件当日午後8時40分頃に被害者を殺害したとする aの自白の信用性も減殺されない。 殺害場所ア aの自白aの自白は,本件当日午後8時40分頃,被害者方店舗内において被害者を殺害したというものである。 イ主な旧証拠旧証拠によれば,被害者方で被害者と犯人が争った形跡がないこと,被害者が普段使用していたピンク色のサンダルが事件後に紛失している可能性があること,被害者の死体がかなりの枚数の着衣を重ね着していたことが認められる。 旧証拠である実況見分調書(甲16)及び証人c7の証人尋問調書等によれば,別紙図面1のとおり,被害者方から南側道路への出入口は,母屋の西側倉庫部分にある西側倉庫 ね着していたことが認められる。 旧証拠である実況見分調書(甲16)及び証人c7の証人尋問調書等によれば,別紙図面1のとおり,被害者方から南側道路への出入口は,母屋の西側倉庫部分にある西側倉庫出入口,中央店舗部分にある店舗出入口及び母屋の東側にあり中庭に通じる鉄扉の3か所である。母屋から中庭への出入口は,母屋の東側倉庫部分にある東側倉庫出入口及び奥座敷の玄関がある。すなわち,被害者方から道路に出るためには,母屋にある店舗出入口若しくは西側倉庫出入口,又は中庭にある鉄扉を通る必要があるところ,奥座敷は被害者及びlが就寝する部屋であり,東側倉庫出入口は本件翌日朝施錠されていた。そして,西側倉庫出入口及び店舗出入口は,いずれも二枚の引き戸があり,店舗出入口は道路側から施錠できるが,西側倉庫出入口は道路側から施錠することができない。 証人c7は,昭和60年1月5日に実施された被害者方実況見分において,本件翌日朝に被害者方を訪れた際,西側倉庫出入口の内側引き戸は角材を使用し突っかえ棒がしてあった,外側引き戸は施錠されていたと指示説明したが(甲16),確定審において,出入口が実際に施錠されていたか否かを確認しておらず,断言できない,店舗出入口については 内側の引き戸は鍵がかけてあったと思う,西側倉庫出入口について,内側の引き戸の突っかえ棒については覚えがない,外側引き戸について,鍵がしてあったと思うがはっきり覚えていないなどと供述した。証人c7は,鉄扉については,実況見分時から一貫して門は閉まっていたが施錠の有無については覚えていないと述べている。 なお,本件翌日朝,証人c7が被害者方に来た際居合わせた証人c13は,確定審において,店舗出入口が施錠されていることは確認したが,西側倉庫出入口が施錠されていたかについては確認していない ている。 なお,本件翌日朝,証人c7が被害者方に来た際居合わせた証人c13は,確定審において,店舗出入口が施錠されていることは確認したが,西側倉庫出入口が施錠されていたかについては確認していない旨供述した。 証人c7は,確定審において,本件当時,lは目が悪くて耳も聞こえにくく,大分腰を曲げて歩いて,杖代わりに乳母車を押しており,被害者の失踪後,被害者について話しても話が合わなかったと供述した。 ウ確定判決等確定判決は,自白以外の証拠に基づいて,犯行場所を被害者方店舗及び死体発見場所を含む日野町内又はその周辺地域と認定した(153丁)。 確定判決は,前記旧証拠を指摘して,店舗外での犯行の可能性があるとしている(152丁)。また,確定判決は,証人c7の確定審での供述を信用し,西側倉庫出入口は施錠されていた可能性もあるが,反対に施錠されていなかった可能性も認められるとしている(77丁)。 控訴審判決は,自白の基本的根幹部分は信用できるとして,本件当日午後8時40分頃,被害者方店舗内においてaが被害者を殺害した事実が認定できると判断した。 エ主な新証拠昭和60年頃の証人c7の警察官調書(再弁A24〔確定審の不同意書証(甲28)〕,再弁A64,再検61)及び犯罪捜査復命書(再検4 3)は,証人c7が,本件翌日,店舗出入口及び西側倉庫出入口が施錠されていたと供述していたというものである。昭和63年3月16日以降の証人c7の検察官調書(再弁A63〔確定審の不同意書証(甲27)〕),警察官調書(再検25)及び犯罪捜査復命書(再検44)は,証人c7が,西側倉庫出入口の施錠については確認していないと供述していたというものである。すなわち,証人c7は,昭和60年1月5日に実施された被害者方実況見分時から同年9月7日 命書(再検44)は,証人c7が,西側倉庫出入口の施錠については確認していないと供述していたというものである。すなわち,証人c7は,昭和60年1月5日に実施された被害者方実況見分時から同年9月7日まで,店舗出入口,西側倉庫出入口とも施錠され板戸も閉まっていたなどと供述していた。その後,証人c7は,aが逮捕された後の昭和63年3月16日には,警察官に対し,店舗出入口については,内外いずれの引き戸も鍵を開けた記憶があり間違いないが,西側倉庫出入口については,内側外側の引き戸とも閉まっていたが施錠の有無については当時から鍵がかかっていたと話していたものの実はしっかり確認していないなどと供述を変え(再検44),同月27日にはその旨の警察官調書(再検25)も作成された。もっとも,証人c7は,検察官に対しては,同日,店舗出入口についても,施錠は正確には確認していないが,外側から見て開けようとした形跡である隙間があったので外側の引き戸には鍵がかかっていたのだろうと思う,内側の引き戸についても,自身で鍵を回して開けたように思うので鍵がかかっていたような気がすると述べるにとどまった(再弁A63)。 DVD(再弁D37)は,証人c7が被害者方に入るため通った経路を明らかにするもので,東側隣家の庭から,石垣の段差を乗り越えるなどして被害者方の裏庭に入った経路を再現して,通行者の視点から撮影し,録画したものである。 犯罪捜査復命書(再検63),qの供述調書(再弁A25),rの供述録取書(再弁D2)は,lは毎日お寺参りをするなど比較的健康であったものの,腰が曲がっていて乳母車なしでは歩けず,家の中では「はい はい」をして移動していたこと,生まれつき目が悪く,人の気配がしても近づかなければ判別できないが,耳はしっかりと聞こえていたというものであ 曲がっていて乳母車なしでは歩けず,家の中では「はい はい」をして移動していたこと,生まれつき目が悪く,人の気配がしても近づかなければ判別できないが,耳はしっかりと聞こえていたというものである。 sの陳述書(再弁D1),前記rの供述録取書(再弁D2)は,被害者はコードレス電話機を所有しており,外出時にこれを持ち歩いていたというものである。 オ新旧証拠による検討施錠の有無について仮に,東側倉庫出入口が施錠されている母屋で被害者が殺害された場合,lの寝ている奥座敷を通らずに,母屋から死体を道路に搬出するためには,母屋にある西側倉庫出入口又は店舗出入口のいずれかから出る必要がある。 証人c7は,本件翌日朝の被害者方出入口の施錠状況について,鉄扉の施錠の有無は確認していないと一貫して述べているが,母屋の出入口についての供述はaの逮捕前後で前記のとおり変遷している。 昭和60年1月5日の実況見分が証人c7の記憶が新鮮なうちにされたものであること,証人c7が,鉄扉の施錠の有無については当初から確認せずに施錠してあったと思い込んだ旨供述しているのに対し,西側倉庫出入口については当初は施錠してあったと断定していたこと,昭和63年3月27日付け検察官調書によれば,店舗出入口の施錠についても,証人c7の記憶が曖昧になっていることがうかがわれることなどからすると,証人c7の昭和63年3月16日以降の供述(確定審におけるものを含む。)は,記憶の減退によりなされた可能性が相当程度あり,実況見分時の証人c7の指示が正しい説明である可能性がやや高いのではないかと考えられる。 しかしながら,証人c7が本件翌日朝,相当慌てていたことや,施錠 状況が必ずしも記憶に残りやすいものともいい難いことからすれば,確定判決の指摘すると 性がやや高いのではないかと考えられる。 しかしながら,証人c7が本件翌日朝,相当慌てていたことや,施錠 状況が必ずしも記憶に残りやすいものともいい難いことからすれば,確定判決の指摘するとおり,証人c7が思い込みによって指示説明した可能性はやはり否定できないといわざるを得ない。 確かに,弁護人が主張するとおり,証人c7が本件翌日朝に被害者方に入るためにとった経路(再弁D37参照)は,それなりに労力の要するものであったことは認められるものの,証人c7の鉄扉の施錠についての記憶が当初から判然としないことからすれば,前記経路を通ったことをもって,被害者方出入口の施錠を事前に確認したり,出入口の戸を開けた際に施錠を確認したりしたと論理的に推認することまではできない。 結局,証人c7の実況見分時の指示説明が正しく,西側倉庫出入口が施錠されていた可能性は多分にあるものの,確定判決が指摘するとおり,西側倉庫出入口が無施錠であったにもかかわらず,実況見分で誤った思い込みによる説明がなされた可能性も否定できない。 したがって,確定判決の指摘するとおり,施錠状況から,被害者の殺害が被害者方店舗内で行われた可能性を否定することはできない。 弁護人のその他の主張新証拠によれば,lの耳が悪くない可能性があるにもかかわらず,lから本件に関する供述が得られていないことは,被害者が被害者方店舗内で殺害された事実を一定程度疑わせる事情ではある。もっとも,lから有用な供述が得られていない理由は記録上明らかではなく,lは高齢であって,午後8時以降の夜間の時間帯にあっては就寝していた可能性も認められることからすると,前記事情をもって,被害者が被害者方店舗内で殺害された可能性を否定することはできない。 新証拠によれば,被害者はコードレス電話 夜間の時間帯にあっては就寝していた可能性も認められることからすると,前記事情をもって,被害者が被害者方店舗内で殺害された可能性を否定することはできない。 新証拠によれば,被害者はコードレス電話の子機を所有しており,外出時にこれを持ち歩いていたところ,同子機の存在は確認されていない ことが認められる。 もっとも,前記子機に対応する親機の存在も確認されておらず,被害者や犯人が親機まで戸外に持ち出すことは考え難いから,子機のみの所在が不明となっている場合とは事情が異なる。また,被害者失踪後の捜査段階において,前記子機の紛失が問題となった形跡はうかがわれず,証人c7や証人c8もその点に全く言及していない。 したがって,被害者が所有していたと認められる前記子機が未発見であるからといって,被害者が被害者方店舗内で殺害された可能性を否定することはできない。 確定判決が認定するとおり,被害者が普段使用していたピンク色のサンダルが事件後に紛失している可能性があるところ,新証拠であるpの供述は,被害者の履き物はピンク色のサンダルであったような気がするというものにとどまるから,確定判決のとおり,被害者が普段使用していたピンク色のサンダルが事件後に紛失しているとまでは認められず,可能性にとどまる。 確定判決が認定しているとおり,被害者は,死体発見時,室内にいたにしてはかなりの厚着をした状態で発見された。もっとも,上衣の一番上にはエプロンを着用していたし,新証拠であるpの供述によれば,被害者はストーブの火を消した上でpを送り出したと認められるから,被害者が暖房器具を使用せずに,室内で厚着をしていた可能性もないとはいえない。したがって,厚着の点をもって,被害者が被害者方店舗内で殺害された可能性を否定することはできない。 被害者が本件金 ,被害者が暖房器具を使用せずに,室内で厚着をしていた可能性もないとはいえない。したがって,厚着の点をもって,被害者が被害者方店舗内で殺害された可能性を否定することはできない。 被害者が本件金庫を店舗外に持ち出した可能性について検討するに,旧証拠によれば,本件金庫は,普段,日常業務の用途にも,帳簿付けにも使用されておらず,新旧証拠によっても,被害者が,夜間の時間帯に,本件金庫を本件店舗外に持ち出す理由を合理的に推測させる事情はう かがわれないから,被害者が本件金庫を持って外出した可能性が高いとはいえない。 小括以上をまとめると,西側倉庫出入口が施錠されていた可能性は相当程度あるものの,確定判決が判示するとおり,施錠されていなかった可能性を否定することはできない。弁護人が指摘するその他の事情も,被害者方店舗内での殺害を否定するものではないから,被害者を被害者方店舗内で殺害したとするaの自白の信用性を減殺しないし,犯行場所に被害者方店舗を含めた確定判決等の認定は動揺しない。 被害者方への出入りア aの自白は,西側倉庫出入口から被害者方に出入りしたというものである(乙10等)。 イ確定判決は,前記のとおり,西側倉庫出入口は施錠されていた可能性もあるが,反対に施錠されていなかった可能性も認められるとした(77丁)。 控訴審判決は,自白の基本的根幹部分は信用できるとしたものの,この点については特に判断を明示していない。 ウ既に判示したとおり,新旧証拠を総合考慮すると,証人c7の実況見分時の指示説明が正しく,西側倉庫出入口が施錠されていた可能性は多分にあるものの,確定判決が指摘するとおり,西側倉庫出入口が無施錠であったにもかかわらず,実況見分で誤った思い込みによる説明がなされた可能性も否定できない。 また 出入口が施錠されていた可能性は多分にあるものの,確定判決が指摘するとおり,西側倉庫出入口が無施錠であったにもかかわらず,実況見分で誤った思い込みによる説明がなされた可能性も否定できない。 また,aの自白は,被害者の死体を被害者方から搬出する際,店舗土間から西側倉庫出入口へ移動したというものであるところ,確定審において平成5年6月10日に実施された検証によれば,店舗土間から西側倉庫出入口までの経路は一部狭隘な箇所もあると認められるが,死体を 搬送することが不可能とはいえない。 エ以上によれば,新旧証拠を総合しても,aの被害者方への出入りに関する自白は施錠状況等の客観的状況と矛盾しないから,自白全体の信用性を動揺させるものとはいえない。 殺害態様ア aの自白等殺害態様に関するaの自白等(乙5ないし8,10,13,15,甲69の犯行再現を含む。)によれば,aが被害者方母屋店舗土間に立ち,被害者が同店舗6畳間のこたつの南側に北向きに座っていたところ,aは,①座っている被害者の右斜め後方から,右手を頸部の前面に,左手を頸部の後面に当てて,両手の指で前後から挟むようにして絞め付けたところ,被害者は大した抵抗を示すことなく意識を失った,②意識を失った被害者が右横側に倒れる際,被害者の顔が本件金庫上付近に当たったのではないかと思う(乙15),③倒れこんだ後,顔を見ると,被害者の顔色が白く変わった(乙8,10),④右を横にして倒れている被害者の右側頸部から紐を通し,紐を二重又は三重にかけ,左側頸部の位置で縦結びをして絞めたなどというものであり,同②は被害者方での再現後に追加されたところ,その理由として,被害者方で警察官e12を相手に再現したところ(甲69),本件金庫上付近に警察官e12の顔がいっていたからであるなどと というものであり,同②は被害者方での再現後に追加されたところ,その理由として,被害者方で警察官e12を相手に再現したところ(甲69),本件金庫上付近に警察官e12の顔がいっていたからであるなどと説明している。 イ主な旧証拠確定審における主な旧証拠は,死体解剖写真撮影報告書(甲8)を始めとする被害者の死体の写真等の他,死体を解剖した医師g2の解剖結果報告書(甲9)及び同人の証人尋問調書(確定審第7回公判期日)(以下併せて「医師g2旧意見」という。)であり,一般に扼頸により殺人既遂まで達するには,加害者と被害者との間に相当な体力差を要し,本件 でも,犯人が被害者に馬乗りになって上から手で絞めつけたとするのが一般であると思う,着衣の上から索条体を巻いた場合,頸部の皮膚に索状痕がつかない場合がある,扼頸中被害者の顔面は赤くなるなどというものである。 また,警察官e1は,確定審において,昭和63年3月12日の取調べの際,被害者の頸部に索状痕があることを失念していたところ,aが扼頸した後に紐で被害者の頸部を絞めたと自白したので,解剖結果報告書を確認してaの自白が正しいことを確かめたなどと供述した。他方,aは,確定審の被告人質問において,警察官e1が,被害者が首を絞められて殺されていた,手をくくられていたなどと教えてくれた(確定審第65回公判における証人尋問調書),警察官e1が紐を首に巻いて,自分で手を巻いたなどと供述する(確定審第66回公判における証人尋問調書)。 ウ確定判決等確定判決は,前記②の自白部分は,「犯行を現場で再現してみたところ,こうなったから,本件当日も同様であったと思う」というものであり,犯行再現によりaの記憶が喚起されたというものではなく,体験性は乏しいと指摘する(51丁)。また,わざわざ被害者の後 してみたところ,こうなったから,本件当日も同様であったと思う」というものであり,犯行再現によりaの記憶が喚起されたというものではなく,体験性は乏しいと指摘する(51丁)。また,わざわざ被害者の後方を通って回り込んだ理由について,格別の説明が加えられていないこと,医師g2旧意見からすれば,自白の殺害方法は疑問に思われるが,結局これを検証する手段はないことなどを自白の合理性が疑われる諸点の一つとして指摘している(62~63丁)。さらに,aの自白は,扼殺の場合,顔色は淡い紫赤色を示すことと矛盾していると指摘する(64丁)。その上,失念していたとする警察官e1の供述については,解剖結果報告書はaの取調べを開始する以前からある書類で,警察官e1も事前に目を通しているのであって,aの自白開始時に真実そのことを失念していたかは確 認のしようがないとしている(90丁)。 控訴審判決は,殺害態様に関する自白の信用性について,扼殺の場合,顔色は淡い紫赤色を示すことと矛盾していることについては疑問点として指摘するものの(23頁),その他は明示的には判断せず,自白の基本的根幹部分は十分信用することができるとしている。すなわち,少なくとも医師g2旧意見によっては自白の信用性は否定されないと判断したものと解される。 エ主な新証拠主な新証拠は,解剖記録(平成24年押第5号符号371)及びその写しである剖検記録(再弁A16),t作成の捜査報告書謄本(再検2),死体状況の撮影ネガ(同号符号322)等の被害者の死体の写真等並びにこれらを資料とした,医師g3作成の意見書(再弁A10,A20,A21,A37)及び陳述書(再弁A11,A13,A14)並びに同人の証人尋問調書(再弁B2の1,B2の2,B3)(以下,これらを総称して「医師g3意見」という。 作成の意見書(再弁A10,A20,A21,A37)及び陳述書(再弁A11,A13,A14)並びに同人の証人尋問調書(再弁B2の1,B2の2,B3)(以下,これらを総称して「医師g3意見」という。),第1次再審請求審における鑑定人h3作成の鑑定書(再弁B4,B5)及び同人の証人尋問調書(再弁B6)(以下,これらを総称して「鑑定人h3鑑定」という。),医師g1の私的鑑定書(再弁D36の2)及び当審における供述(以下,これらを総称して「医師g1意見」という。),医師g4の検察官調書(再検113,以下「医師g4意見」という。),医師g2の検察官調書(再検1,4,5,12),警察官調書(再弁A17),検察官作成の医師g2に対する電話聴取書(再検3)(以下,これらを総称して「医師g2補充意見」といい,医師g2旧意見と併せて「医師g2意見」という。)である。 オ新旧証拠により認められる被害者の死体の損傷被害者の死体の主な損傷は,以下のとおりである。 顔面 右眉弓外側端部に皮下出血様変色がある(別紙図面10〔外表損傷所見2 前頸部~右頸部・顔面〕の2h,以下「2h」という。なお,医師g1意見における損傷1)。右頬後部に表皮剥脱及び皮下出血がある(別紙図面10の2g,以下「2g」という。なお,医師g1意見における損傷2)。右耳垂前部に4個の小皮下出血で構成される「く」の字状の表皮剥脱があり(以下「『く』の字状の損傷」という。なお,医師g1意見における損傷3ないし6),その下端部の下方に,同様の暗褐色表皮剥脱・変色がある(医師g1意見における損傷7。以下,「く」の字状の損傷と併せて「『く』の字状の損傷等」という。「く」の字状の損傷等は別紙図面10の2f)。 「く」の字状の損傷等の下端部から右下顎骨に沿って約3㎝の無傷の部分を隔て る損傷7。以下,「く」の字状の損傷と併せて「『く』の字状の損傷等」という。「く」の字状の損傷等は別紙図面10の2f)。 「く」の字状の損傷等の下端部から右下顎骨に沿って約3㎝の無傷の部分を隔てた場所から頤(おとがい)まで長さ約7㎝,幅0.5ないし2㎝の溢血点,表皮剥脱及び皮下出血の存在が認められる(別紙図面9〔外表損傷所見1 前頸部~左頸部〕の1nかつ別紙図面10の2c及び別紙図面11〔外表損傷所見3 前頸部~下顎部〕の3i,以下「溢血点等1n」という,なお,医師g1意見における点状出血Y2〔溢血点又は皮内出血〕)。溢血点等1nの上方に蒼白帯がある(医師g1意見におけるY1蒼白帯,以下「Y1蒼白帯」という。)。 口腔粘膜剥離がやや高度である。 頸部右側頸上部に表皮剥脱があり(別紙図面10の2dかつ別紙図面11の3j,以下「2d」という,医師g2意見,鑑定人h3鑑定及び医師g3意見ではAともいわれている。なお,医師g1意見における損傷9),その直前に皮下出血がある(別紙図面10の2e,以下「2e」という。 医師g1意見における損傷8)。 前頸部左側上縁正中から約2.5㎝左にほぼ左右に並ぶ細かい表皮剥 脱数個(別紙図面11の3h,以下「3h」という。なお,医師g1意見の損傷11及び12が含まれると考えられる。),左下顎骨下縁部正中から約5㎝左に表皮剥脱及びその周囲に皮下出血があり(別紙図面9の1jかつ別紙図面11の3g。医師g3意見は3hと同一とするが,鑑定人h3鑑定によれば誤りと認められる。以下「1j」という。医師g2意見,鑑定人h3鑑定及び医師g3意見ではBともいわれている。なお,医師g1意見における損傷13と考えられる。),左下顎角下部,すなわち正中から約8.5㎝左に表皮剥脱及びその周囲に皮下出血があり(別紙図 鑑定人h3鑑定及び医師g3意見ではBともいわれている。なお,医師g1意見における損傷13と考えられる。),左下顎角下部,すなわち正中から約8.5㎝左に表皮剥脱及びその周囲に皮下出血があり(別紙図面9の1i。医師g3意見は3gと同一とするが,鑑定人h3鑑定によれば誤りと認められる。以下「1i」という,なお,医師g2意見,鑑定人h3鑑定及び医師g3意見ではCともいわれている。なお,医師g1意見における損傷14と考えられる。),左耳付着部下端から約3㎝下やや後方を中心とした左側頸上後端から項部左上端以降部付近に三角形様に見える淡赤褐色変色部がある(別紙図面9の1g,以下「1g」という。)。 索状痕索状痕は,右側頸部及び項部に1条,前頸部から左側頸部にかけて複数条あるとうかがわれるものの,後記のとおりそれらの本数,形状及び連続性等については見解が一致していない。 内景所見食道後壁上端部外膜下に出血がある。 舌骨は右上端部から約1.8㎝の大角部で,末端部が後方に圧迫された形状で骨折している。 両前腕剖検記録等には,左上肢について前腕下部すなわち手関節部から約5㎝上の部位に幅0.5ないし0.6㎝の前腕を一周する蒼白部分(エプ ロンの袖口に相当する),それ以外に手関節部に幅1.5ないし2.0㎝の手関節部をほぼ一周する蒼白帯があるように思われ,右上肢について手関節部から約4㎝上に幅1㎝の前腕を一周するエプロン袖口の跡形,手関節部屈側面に幅約2㎝の蒼白帯があるように見える旨記載されている(再弁A16の6丁)。 死体解剖写真撮影報告書(甲8)には,「右手首の変色は,死後の指紋採取時の薬品付着により変色したものである」と記載されている。 カ新旧証拠による各医師の意見等医師g2意見被害者の死体を解剖した医師g 報告書(甲8)には,「右手首の変色は,死後の指紋採取時の薬品付着により変色したものである」と記載されている。 カ新旧証拠による各医師の意見等医師g2意見被害者の死体を解剖した医師g2の意見は,以下のとおりである。 死因被害者の死因は扼頸による窒息死である。 扼頸についてA 損傷について被害者の死体にある頸部損傷のうち,右側頸上部の2d,左下顎骨下縁部の1j及び左下顎角下部の1iは,指頭による圧迫痕であると考えられる。 右耳垂前部の「く」の字状の損傷は,扼頸後に被害者が顔面を右にして倒れ込んで金庫の角に右顔面を押しつけた際に生じたと考えられるが,加害者の手指によって生じた圧迫痕である可能性もある。 また,舌骨骨折部位の舌骨骨膜下に明らかな出血が認められることから,この舌骨骨折は生前に生じたものである。そして,舌骨右大角部のみが骨折し,甲状軟骨上角部が骨折していなかったからといって,被害者の右前頸部が伸展されていた必然性はないものの,可能性の一つとして考えられる。 B 扼頸態様 右側頸上部の2dは加害者の右手拇指が,左下顎骨下縁部の1j及び左下顎角下部の1iは加害者の右手示指及び中指又は右手示指がずれて発生したと考えられる。すなわち,右利きの加害者が右手拇指つけ根を広げて頸部を前から圧迫したもので,舌骨骨折は右手拇指の圧迫によって生じたものと判断される。 C 扼頸時の体勢体勢については,加害者が仰向けになっている被害者に覆い被さるような形で,右手拇指で右側頸部を,右手示指や中指で左側頸部を圧迫し,自分の体重を利用して絞め付けたというのが最も考えやすい。もっとも,これは一般論であって,解剖所見から被害者が仰臥位,立位又は座位であったかなどを明言することはできない。 加害者 側頸部を圧迫し,自分の体重を利用して絞め付けたというのが最も考えやすい。もっとも,これは一般論であって,解剖所見から被害者が仰臥位,立位又は座位であったかなどを明言することはできない。 加害者が座位の被害者の背後に立ち,右手を被害者の前方に回して被害者の前頸部を絞めつける方法であっても,被害者の頸部が固定され,被害者に比べて加害者の力が強い場合には扼殺が可能である。 そして,aの自白による殺害方法でも,aの左手が被害者の後頸部を支えることになり頸部が固定されること,被害者は小柄でやせ形の老人であり,中年男性のaと比較すれば力の差は歴然としていること,人間は不意をつかれると十分に抵抗できないところ,aと被害者が顔見知りであって不意をつかれた可能性もあることから,殺害は可能であると判断する。 絞頸についてA 解剖記録記載の損傷等(4丁裏)左前頸部を右端とし頸部をほぼ一周する表皮剥脱又は皮下出血がある。 左側頸部では幅約1㎝の表皮剥脱であり,後頸部では幅約1.2㎝の皮下出血様であり(4aのことと思われる),右側頸部では幅約1㎝の皮下出血様変色及び上下縁に軽度の表皮剥脱を伴う(2aのことと思われる)。 右前頸部では,1条はほぼ水平に正中部(胸骨上縁から約8㎝上)に達している。また,右前頸部から山状に(上方に)弧を描いて前頸正中部で終わっているものと,下頸角の約1.5ないし2㎝下部の部位で終わっていると思われるものとがある。 なお,医師g2は,t作成に係る報告書(再検2)の写真番号⑮を見た上で,右前頸部の索状痕が極端な山型の弧を描いて撮影されているなどと供述するが(再検5),前記のとおり,死体を現認した際の解剖記録に,同索状痕が山状かつ上方に弧を描いている旨の記載があることからすれば,程度の差はあるものの,右前頸部に山 描いて撮影されているなどと供述するが(再検5),前記のとおり,死体を現認した際の解剖記録に,同索状痕が山状かつ上方に弧を描いている旨の記載があることからすれば,程度の差はあるものの,右前頸部に山型索状痕があること自体を否定しているものではないと認められる。 B 絞頸態様(再検12等)鑑定人h3鑑定における絞頸態様,すなわち,加害者が索条体を被害者の後方より前方に回し,前頸部で右側から来た索条体が上方を通るように一周させ,まず前頸部右側で交差させ,左より来た索条体の端を上右方へ,右より来た索条体の端を下左方に引いて絞めた後,索条体の交差部位を左側頸部上半後縁に変え,左から来た索条体の端を右下やや前方に,右から来た索条体の端を左後方に引いて再び頸部を絞めたとする態様は,所見に合致し,索状痕の生活反応の強さが部位によって異なる理由も説明がつくもので,その内容は合理的であると考える。 鑑定人h3鑑定第1次再審請求審における鑑定人である鑑定人h3は,剖検記録等の記載及び写真等を鑑定資料として以下のとおり鑑定した。 死因被害者の死因は扼頸による窒息死である。 扼頸(鑑定書7~8頁)A 損傷状況 左下顎角部下方の1i,前頸部正中左側の3h,右眉毛右端右方の2g,右頬部下後縁の「く」の字状の損傷等及び右側頸部上後端の2dは手指の圧迫や擦過によって生じた扼痕と考えられる。なお,「く」の字状の損傷等については,被害者が扼頸と同時に倒れ込んだ際に角ばった物に右の顔面を押さえ付けられたことによって生じたこともあり得るが,右手拇指が2d付近にある場合に倒れ込んだ顔面が押し付けられるとすれば,その部分は左側顔面になるので,一般的には考え難い(証人尋問調書48頁,50頁)。 また,「く」の字状の損傷等の延長線にある溢血点 拇指が2d付近にある場合に倒れ込んだ顔面が押し付けられるとすれば,その部分は左側顔面になるので,一般的には考え難い(証人尋問調書48頁,50頁)。 また,「く」の字状の損傷等の延長線にある溢血点等1nや,1j及び1iの変色部が上下に伴う帯状変色部は,扼痕が形成される際,すなわち手指で圧迫された際の拇指腹から示指腹までの手掌面辺縁部や指腹自体の圧迫,擦過によって生じたものとして矛盾しない。 B 扼頸態様及び体勢前記各扼痕が同一人によって形成されたものとするなら,その位置,並び方及び同伴する皮下出血並びに表皮剥奪の程度及び性状等より,右利きの加害者が被害者の前方から扼頸したと考えるのが一般的には相当である。 この場合,加害者は,仰臥位の被害者を,左手の第2ないし第5指を被害者の右眉毛の右端の2gや右頬部の「く」の字状の損傷等にあてがい,手掌面を大きく広げて拇指を被害者の左耳付着部の下方の1gに当てて,手掌面やその辺縁で口部を被うようにし,被害者に対して後上方に強く圧迫し,被害者の前頸部を伸展させ,これと同時に右手の拇指を2d付近に,第2ないし第4指を1j及び1i付近に当てて,頸部前面を掴むようにし,指先並びに拇指及び第2指の指腹を中心とした手掌面辺縁部で前頸部を被害者に対して後方ないし後上方に強く圧迫したことによって前記各扼痕が生じたと考えられる。 他方,被害者が立位又は座位の場合は,加害者は,被害者の左後方より左右の手を前方に回し各指をほぼ同様の位置に当てて,加害者自身の前胸部で被害者の後頭部を支えながら,被害者の前頸部を同様の方向に強く圧迫したと考えられる。 右甲状舌骨筋背面の出血及び舌骨右大角骨折は,扼頸時の前頸部右側への暴行の作用によって生じたものと考えられる。片側の舌骨大角のみの骨折は,絞頸にしろ扼頸にし 様の方向に強く圧迫したと考えられる。 右甲状舌骨筋背面の出血及び舌骨右大角骨折は,扼頸時の前頸部右側への暴行の作用によって生じたものと考えられる。片側の舌骨大角のみの骨折は,絞頸にしろ扼頸にしろ比較的稀であり,通常は同時に甲状軟骨上角骨折を伴うことが多い。もっとも,前記の扼頸態様の場合,主として拇指腹で前頸部右側上半部が圧迫され,前頸部が伸展され挙上していた舌骨右大角部に局所的に前上方より圧力が加わり,下半部が骨折したことは十分に考えられる。 C 自白の扼頸態様について(補充鑑定書,証人尋問調書29頁,31~32頁)aの犯行再現による殺害方法は,aが被害者の右後方より圧迫したとしている点で,右手がねじれて絞めにくいと考えられること,左手を被害者の項部に当てて後頸部を支えたとしている点で,両手が被害者の顔面及び頸部にかかっている必要があることなどから,客観的事実と整合しない。また,2dとその前にある薄い変色部である2eは連続しているように見えるところ,aの犯行再現によると2dは左手拇指,2eは右手拇指で生じたことになるが,それでは右手拇指の方が強い力が加わっているはずであることとも整合しない。 絞頸A 損傷状況(鑑定書4頁)頸部を一周し左側頸部上半後縁又は項部上半左縁(以下「左側頸部上半後縁」という。)で交差する陥凹があり,その位置及び性状より索状痕と考えられる。その形状は以下のとおりである。 陥凹は,前頸部左側でほぼ甲状軟骨の高さの正中より左方約2.5㎝のところから生じて左方に走り,左側頸部では後ろ上方に走り左側頸部上半後縁に至る(別紙図面9の1b〔1cと1eに分解できる。〕かつ別紙図面11の3f,以下「1b・3f」という。)。陥凹は,左側頸部上半後縁で,後記のとおり項部右側より来て頸部を一周した陥凹( 頸部上半後縁に至る(別紙図面9の1b〔1cと1eに分解できる。〕かつ別紙図面11の3f,以下「1b・3f」という。)。陥凹は,左側頸部上半後縁で,後記のとおり項部右側より来て頸部を一周した陥凹(別紙図面9の1fかつ別紙図面11の3d,以下「1f・3d」という。)に重なる又は交差する(別紙図面9の1e〔1b・3fの一部〕と1f・3dの接点)。 陥凹は,項部では,上半をほぼ水平又は微かに上方に凸弯して左右に走り,項部上半右縁に至る(別紙図面12〔外表損傷所見4 後頭部〕の4a)。 陥凹は,右側頸部では,前半1/3くらいのところまでほぼ上半部を前方に走り,そこより前上方に走り前頸部右上端に至る。陥凹は,前頸部右側では,上左方向に約2㎝程度走った後弧状(山型)を描いて左やや下に方向を変え約2㎝走って前頸部上半ほぼ正中に至る(別紙図面10の2aかつ別紙図面11の3a,以下「2a・3a」という,なお別紙図面9の1aも同一と解される。)。また,陥凹は,前頸部左側上半部では左微か下方向に走り,左側頸部上縁及び前頸部左側上縁の各損傷(3h,1j及び1i等)の後縁部がほぼ上下に走る線状表皮剥脱で比較的はっきり分かれているように見える変色部の下縁を通って,左側頸部上半後縁に至り,前記の下方より来た陥凹(別紙図面9の1e〔1b・3fの一部〕)と重なる(1f・3d)。 陥凹からは,左側頸部中央付近で,上後ろ方向に同様性状の別の陥凹が派生しているようにも見える(別紙図面9の1d)。また,陥凹からは,正中に至る直前の前頸部左側で,下微か左方向に約2㎝走った後左に向きを変え前頸正中部をほぼ左に微かに下方に弧を描いて走る別の陥凹が 派生する(別紙図面11の3c)。派生した陥凹の左端の延長線上に被派生の陥凹(1f・3d)が重なる。 この頸部を一周する 向きを変え前頸正中部をほぼ左に微かに下方に弧を描いて走る別の陥凹が 派生する(別紙図面11の3c)。派生した陥凹の左端の延長線上に被派生の陥凹(1f・3d)が重なる。 この頸部を一周する索状痕には写真上明らかに出血を伴うと考えてもおかしくない部位と,全く出血を伴わない部位が混在している。 B 絞頸態様(鑑定書8頁,証人尋問調書36頁)索状痕の成傷器としては長さ1m近く又はそれ以上あり,幅が1ないし1.2㎝程度又はその程度になり得る比較的軟らかい布や紐の類が考えられる。 この索状痕は,被害者に対する扼頸後十数分以内の未だ被害者の心拍が完全に停止する以前の死戦期に,索条体を被害者の後方より前方に回し,前頸部で右側から来た索条体が上方に通るように一周させ,まず前頸部右側で交差させ,左より来た索条体の端を上右方へ,右より来た索条体の端を下左方に引いて絞めた後,3aにおける山型索状痕を形成し,索条体の交差部位を左側頸部上半後縁(にある1eと1fの接点)に変え,左から来た索条体の端を右下やや前方に,右から来た索条体の端を左後方に引いて再び頸部を絞めたことによって生じたものと考えられ,この2回の絞頸の途中で被害者の心拍は完全に停止したものと考えられる。 1回目の絞頸と2回目の絞頸が連続した動作として行われたか否かは不明であるが,その間に心肺停止が起こったと考えられるので,それほど時間的な間隔は開いていないと思われる。 医師g1意見医師g1は,剖検記録等の記載及び写真等を資料として以下のとおり意見を述べた。 死因被害者の死因は扼頸による窒息死である。 扼頸A 扼頸態様被害者の顔面右側にある「く」の字状の損傷等は,加害者の左手指の圧迫により生じた損傷である。すなわち,左手拇指を左 被害者の死因は扼頸による窒息死である。 扼頸A 扼頸態様被害者の顔面右側にある「く」の字状の損傷等は,加害者の左手指の圧迫により生じた損傷である。すなわち,左手拇指を左下顎後部の1jに当てて圧迫し,口部を手掌部で圧迫しつつ,第2ないし第5指を「く」の字状の損傷等に当てて圧迫したと推認される。また,右手拇指は2dに,右手の第2,第3指は1i,1g,右手第2指腹は左側頸上部の1i,1gに達する蒼白帯部にあったと推認される。これにより,口唇粘膜の損傷並びに右下顎骨に対する圧迫による蒼白帯Y1及び溢血点等1nが生じた。 B 扼頸時の体勢加害者が被害者の胸腹部に馬乗りになって制圧した上,上頸部の上方から,右手拇指及び第2指をのど輪の形に開き被害者の前頸部に当てて腕を真直ぐ伸ばし,ほぼ真下に向け体重をかけて頸椎に対して強く圧迫すれば,頸部を固定した状態で頸動脈及び気道を強く圧迫し閉塞するとともに,甲状軟骨部に圧迫を残さず,舌骨右大角部骨折,食道後壁上端部出血等の上頸部に限局した損傷を生じ得る上,容易に窒息死に至らしめることができる。 自白のように後方から両手で挟み込むような扼圧では,加害者が右肘を支点として右前腕を手前に屈曲しつつ前頸部を圧迫する態様となり,舌骨骨折,食道後壁出血を含む上頸部に限局する損傷を生起することはできない。また,左手第2ないし第5指で強く圧迫した損傷が被害者の左側頸部に,左手拇指で強く圧迫した損傷が右側頸部に,それぞれ相当数できるはずであるが,これを認めることはできない。さらに,右手第2ないし第5指により左側頸部に生じるべき圧迫痕の数・位置も実際のそれらと整合しない。その上,このような態様で扼殺されたと推認でき る死体に接した経験はない(私的鑑定書18頁,23頁)。 立位又は し第5指により左側頸部に生じるべき圧迫痕の数・位置も実際のそれらと整合しない。その上,このような態様で扼殺されたと推認でき る死体に接した経験はない(私的鑑定書18頁,23頁)。 立位又は座位の被害者の後頸部を加害者の胸や腹で支えて扼頸した場合でも,右手が右肘を前に突き出し,折りたたむような形で圧迫する上,右手がのど輪の形になるため,力が加わらず,食道後壁の出血や舌骨骨折が生じるような圧迫はできない(証人尋問調書63~64頁)。 C 抵抗3hは被害者が抵抗して爪を立てた痕跡の可能性がある。 絞頸A 損傷項部及び右側頸部項部及び右側頸部に索状痕Dを認め,右側頸部の索状痕D上にある損傷10は四辺形様の表皮剥脱を認めるところ,索状痕は下辺から項部に,上辺から前方に向っており,四辺形の中に複数の表皮剥脱を認め,同所で索条体が交差しつつ圧迫されたことが示唆される(私的鑑定書11頁,18頁)。 ⒝ 前頸部前頸部右側に索状痕A,前頸部正中付近に索状痕B,前頸部左側に索状痕C(C1)がある。なお,前頸部の各索状痕の形状について,私的鑑定書には,「前頸上部右側の索状痕Aは前頸上部右側で上に弧をなし,左やや下方に向かうが,前頸部正中付近から左に2ないし3㎝途切れ,左側頸上端部の索状痕C1に繋がるように見える,また,途切れた部の下方には下に弧をなす1㎝程度の索状痕様の線状変色を認める(B)。 Bの左端は,右方やや下に向かう索状痕C1の延長線上にあるようにも見える。 索状痕Aと索状痕Dの関係について,医師g1が,索状痕Dが前頸部右側まで至っているとみられるにもかかわらず,前頸部右側の索状痕と して索状痕Aのみ指摘していることからすれば,私的鑑定書の資料5・2Bの9の下にある黄色矢印の趣旨が判然としないものの,索状痕 右側まで至っているとみられるにもかかわらず,前頸部右側の索状痕と して索状痕Aのみ指摘していることからすれば,私的鑑定書の資料5・2Bの9の下にある黄色矢印の趣旨が判然としないものの,索状痕Aと索状痕Dは同一の索状痕と考えられる。 なお,医師g1は,尋問時に,索状痕として,資料5・2Bの損傷11及び12に係る部分に赤線を記入している(証人尋問調書91頁)が,損傷11及び12は加害者の指の圧迫に対する防御創の可能性が否定できないとしていること(私的鑑定書17頁),他の損傷との位置関係,資料8・5Cにおける記入(証人尋問調書91頁)などに照らせば,同赤線は誤記と考えられる。 ⒞ 左側頸部左側頸部の索状痕C2は,左側頸上部から前方やや前下がりに伸び1j下端部位付近で不鮮明となる黄褐色調である。索状痕C1は,左側頸上部から斜前下方に伸び,耳介の下方の点ア(医師g1意見では位置が明らかにされていない。)から前やや下方に伸び前頸中部左側で不鮮明となる黄褐色調である。なお,前記点アから索状痕C1のやや下を後部に向かう索状痕(医師g1意見では呼称が設定されていないが,以下「索状痕E」という。)も認められる(私的鑑定書12~13頁)。医師g1が尋問時に索状痕を記載した資料8・5Cによれば,索状痕C2と索状痕C1とは左側頸部上半後縁で接していることがうかがわれる。 B 絞頸態様索条体による頸部絞搾により死に至った場合,必ず,頸部を一周する索状痕,索状痕の上下にうっ血の有無による皮膚の色調差,並びに圧迫部及び周囲の頸部筋肉内に出血を認めるが,本件では,索状痕は前頸部で連続性を欠き一周していないし,前記色調差も認めない(私的鑑定書18頁)。 また,仮に自白どおり扼頸後,紐を二重又は三重に巻いて結び強く絞 めれば,必ず前頸部に明確 件では,索状痕は前頸部で連続性を欠き一周していないし,前記色調差も認めない(私的鑑定書18頁)。 また,仮に自白どおり扼頸後,紐を二重又は三重に巻いて結び強く絞 めれば,必ず前頸部に明確な索状痕があり,どこかに必ず3条の索状痕を確認でき,少なくとも1条は頸部を一周しているはずであるが,そのような証拠を認めない(私的鑑定書19~20頁)。比較的柔らかいもので絞頸した場合には索状痕が残らない場合があることはあり得るが,そのような例を経験したことはない(証人尋問調書44~45頁)。 被害者の右側頸部に索条体が交差してできた損傷10が存在するが縦結びを説明する所見を認めず,これ以外に交差又は結び目の形を反映しうる損傷を頸部のどこにも認めない。 前腕部の緊縛解剖記録(剖検記録も同じ。)の写真1枚目及び2枚目によれば,被害者の左右上肢にそれぞれ複数の蒼白帯が認められ,最上部の蒼白帯,具体的には左は前腕下部,右は前腕中部にある蒼白帯より末梢の左右手・前腕下部全般に強いうっ血を認め,生前この部分で左右前腕を一周する索条体によって緊縛された後,頸部を圧迫されて死亡したことを示している。この手のうっ血部の境界線となる前記最上部の蒼白帯は,エプロン袖の位置・圧迫力のいずれから判断しても,エプロン袖で生じたものではない(私的鑑定書20~21頁)。前記最上部の蒼白帯は,解剖記録の写真5枚目に写っている左手関節部上部にある蒼白帯よりも上部にあり,同写真には写っていない(証人尋問調書48頁)。 医師g4意見医師g4は,剖検記録等の記載及び写真等を資料として以下のとおり意見を述べた。 死因被害者の死因は頸部圧迫による窒息死である。 扼頸態様及び体勢損傷からすれば,犯人は,被害者の顎を上げて頭部をやや後屈させた 状態で, 資料として以下のとおり意見を述べた。 死因被害者の死因は頸部圧迫による窒息死である。 扼頸態様及び体勢損傷からすれば,犯人は,被害者の顎を上げて頭部をやや後屈させた 状態で,右手を広げて拇指を右側頸部にあて,拇指以外の指を左下顎部に当て,頸部を掴み,いわゆるのど輪のようにして後方に強く圧迫したものと考えられ,このような右手の扼頸により,舌骨右大角に骨折が生じ,気道が強く圧迫された結果,食道後壁に出血が生じたといえる。そして,被害者が座位で,犯人が被害者の後方から右手を前頸部に回して扼頸した場合でも,前記扼頸は可能である。 絞頸態様索状痕は,前頸部において不連続となっているが,後頸部においてはっきりとしていることなどからすれば,索条体が少なくとも一周以上,頸部に巻き付けられている。 前腕部の緊縛解剖記録の写真5枚目に写っている被害者の両前腕部にある各蒼白帯から,末梢部だけでなく,上腕方向にも末梢と同じような変色があることなどからすれば,この両前腕部の変色は,死後,血液が重力に従い身体下面の毛細血管に沈下集合する死斑が生じたことによるものと認められる。 仮に,前記各蒼白帯が,生前に緊縛された痕跡であり,変色がうっ血であるとすれば,前記各蒼白帯より上部に変色が認められないはずであるし,抵抗などによって擦過傷や皮膚の変色が生じる可能性が高いが,前記各蒼白帯やその周辺には,擦過傷や皮膚の変色も認められない。これらのことから,前記各蒼白帯が,エプロン袖口部のゴムの圧迫により生じたものと考えるのが合理的である。 医師g3意見医師g3は,剖検記録等の記載及び写真等を資料として以下のとおり意見を述べた。 死因 被害者の死因は索条体による絞頸である。 絞頸について損傷については,鑑定人h 医師g3意見医師g3は,剖検記録等の記載及び写真等を資料として以下のとおり意見を述べた。 死因 被害者の死因は索条体による絞頸である。 絞頸について損傷については,鑑定人h3鑑定と同じである。もっとも,1dを構成する1cと1eとの間は途絶している。 絞頸態様は,加害者が,予め結節を形成した輪状の索条体を準備し,結節を前にして,これを被害者の背後に位置して頭から被せて頸に通し,左側は側頸部を,右側は頬部付近を通過して頭側に吊り上げるように右斜め方向に索条体を引き上げたものと認められる。 被害者の顔面及び頸部の表皮剥脱等は,前頸部に巻き付けられた索条体を取り除こうとして抵抗したことによる被害者自身の手指によって形成されたものと考えられ,右舌骨大角部骨折は索条体が懸垂された際の結節係蹄部の圧迫によって生じたもので,右甲状舌骨筋背面と筋肉内出血はこの舌骨骨折に伴う出血と考えられる(再弁A10の8頁,再弁A37の4頁)。 キ新旧証拠による殺害態様の検討医師g3意見,鑑定人h3鑑定,医師g1意見及び医師g4意見は,いずれも内容が,医師g2旧意見との間で,形式的に結論を異にしているのみならず,損傷の分析及び想定される殺害態様に関し,用いられた専門的知見及び基礎資料の双方の点において実質的に異なるものであるから,新規性のある証拠と認められる。 そこで,各医師の意見等から本件の殺害態様について検討する。 死因医師g2意見,鑑定人h3鑑定及び医師g1意見によれば,被害者の死因は扼頸による窒息死であることが認められる。医師g4意見は特にこれに反論していないし,医師g3意見のうちこれに反する部分は採用することができない。 扼頸鑑定人h3鑑定,医師g1意見及び医師g3意見によれば,2d,「く」の字 g4意見は特にこれに反論していないし,医師g3意見のうちこれに反する部分は採用することができない。 扼頸鑑定人h3鑑定,医師g1意見及び医師g3意見によれば,2d,「く」の字状の損傷等,1j,1i及び1gは,指による圧迫痕と認められる。 「く」の字状の損傷等について,医師g2意見は,加害者の手指によって生じた圧迫痕である可能性を認めながらも,扼頸後に金庫等の固い物が当たって生じたものと考えるとする。しかしながら,金庫による打撲の場合,角であれば線状の挫創及び表皮剥脱を,面であれば幅の広い皮膚変色を認めること(医師g1私的鑑定書25頁),「く」の字状の損傷等の変色部が,中に表皮剥脱を伴うほぼ円形をなすものが並んでいるものであり,変色程度が扼頸時に形成された2dなどとほぼ同一であること(鑑定人h3鑑定書9頁)からすれば,「く」の字状の損傷等は指先による複数の圧迫痕と認めることができる。 また,各医師の意見等によれば溢血点等1nが,医師g1意見によれば蒼白帯Y1が,それぞれ認められる。 以上の損傷を前提に検討すると,鑑定人h3鑑定及び医師g1意見のとおり,加害者の右手拇指が2dを,拇指以外の右手指のいずれかが1iを,拇指以外の左手指が「く」の字状の損傷等をそれぞれ圧迫したことにより各損傷が形成されたと認めることができる。 左手拇指について,鑑定人h3鑑定は1gを,医師g1意見は1jを圧迫していたとし,拇指以外の右手指について,1iに加えて,鑑定人h3鑑定は1jを,医師g1意見は1gを圧迫していたとする。医師g1意見は根拠として,指先の間隔からすれば,左手拇指が1gには届かないと思われると指摘する(私的鑑定書17頁)。加害者の手の大きさが明らかではないこと,医師g2意見も指摘するとおり,被害者の顔面が頸部より 根拠として,指先の間隔からすれば,左手拇指が1gには届かないと思われると指摘する(私的鑑定書17頁)。加害者の手の大きさが明らかではないこと,医師g2意見も指摘するとおり,被害者の顔面が頸部よりも動きやすく,もがくうちに加害者の指の位置が移動することが考えられることからすれば(再検12の13頁),加害者の左手 拇指が1gを圧迫した可能性も否定できない。いずれにしても,加害者の左手拇指及び拇指以外の右手指が,被害者の前頸部左側及び左側頸部の範囲を圧迫していたという限度では鑑定人h3鑑定と医師g1意見は一致しており,これを認めることができる。 以上によれば,加害者の右手は拇指が2dを,拇指以外の指が前頸部左側及び左側頸部の範囲を,左手は拇指が前頸部左側及び左側頸部の範囲を,拇指以外の指が「く」の字状の損傷等をそれぞれ圧迫していたと認めることができ,医師g4意見及び医師g2意見もこれに反論していない。 鑑定人h3鑑定,医師g1意見及び医師g4意見によれば,右手の扼頸時,被害者の顎が上がり頭部が後屈していたこと,扼頸により強く圧迫されたことにより舌骨右大角が骨折し食道後壁に出血が生じたことが認められ,医師g2意見もその可能性を否定しない(再検12の12頁)。 以上の新旧証拠を総合すれば,加害者の左手は被害者の顔面の主に「く」の字状の損傷等から口を抑えて前頸部左側及び左側頸部の範囲に当てられていたと認められるから,aの自白のうち,左手を頸部の後面に当てていた(前記①の一部)とする点は,死体の損傷状況と整合しないし,扼頸後意識を失った被害者が倒れる際,被害者の顔が本件金庫上付近に当たった(前記②)とする点に関して,「く」の字状の損傷等はその裏付けにはならないし,他に裏付ける損傷は認められない。また,医師g2意見のうちaの自白の方 者が倒れる際,被害者の顔が本件金庫上付近に当たった(前記②)とする点に関して,「く」の字状の損傷等はその裏付けにはならないし,他に裏付ける損傷は認められない。また,医師g2意見のうちaの自白の方法でも可能とする部分は採用することができない。なお,医師g4意見は加害者の左手の位置については特に指摘していない。 続いて扼頸時の体勢について検討するに,医師g1意見は,加害者が仰臥位の被害者に馬乗りした上で扼頸したとし,被害者が座位又は立 位であった可能性を否定する。医師g2意見及び鑑定人h3鑑定は,被害者が仰臥位であった可能性が一般的に高いとしつつも,加害者が立位又は座位の被害者の後頸部を加害者の胸や腹で支えて(固定して)両腕を前に回して扼頸した可能性もあるとしている。医師g4意見も,被害者が立位又は座位であった可能性がある旨指摘する。 医師g1意見は,加害者の腕の形等による力の加わり具合及び指の圧迫の跡などからして,被害者が立位又は座位であった可能性はないと断定する(証人尋問調書67~68頁)。しかしながら,医師g1は,その可能性があり得ないとまで言いながら,その根拠を合理的には説明できていない。医師g2及び鑑定人h3鑑定の前記指摘内容の合理性に照らすと,加害者と被害者の体力,体格差,扼頸時の状況等によっては,立位又は座位の被害者を前記の態様で扼頸することが不可能であるとまで断定することはできないといわざるを得ず,医師g1意見のうち被害者が扼頸時に立位又は座位であった可能性を完全に否定する点については採用することはできない。 したがって,aの自白する扼頸時の体勢のうち,被害者が扼頸時に座位であったとする点は,死体の損傷状況と整合しないとまではいえないものの,被害者の右斜め後方から両手の指で前後から挟むようにして絞めつけ たがって,aの自白する扼頸時の体勢のうち,被害者が扼頸時に座位であったとする点は,死体の損傷状況と整合しないとまではいえないものの,被害者の右斜め後方から両手の指で前後から挟むようにして絞めつけたとする点は,死体の損傷状況から可能性が認められる体勢,すなわち,座位の被害者の後頸部を加害者の胸や腹で支えて(固定して)両腕を前に回して扼頸する体勢,と整合しない。 絞頸医師g1意見は,山型索状痕を明示的には指摘していないが,前記のとおり,私的鑑定書に「索状痕Aは前頸上部右側で上に弧をなし,左やや下方に向かう」などと記載していることから,山型索状痕を指摘しているものと考えられる。そうすると,長さや途絶の程度,形状の細部等 に多少の差異がある可能性はあるものの,医師g1意見も,医師g2意見,鑑定人h3鑑定及び医師g3意見と同様に山型索状痕を指摘しており,医師g1意見の索状痕Aは鑑定人h3鑑定等の2a・3aに,医師g1意見の索状痕Bは鑑定人h3鑑定等の3cに,医師g1意見の索状痕C(C1)は鑑定人h3鑑定等の1b・3fに概ね対応するものと考えられる。 また,医師g1意見も,左側頸部の索状痕として3条(C1,C2,E)を指摘していることからすれば,長さや途絶の程度,形状の細部等に多少の差異がある可能性はあるものの,医師g1意見の索状痕C2は鑑定人h3鑑定等の1f・3dに,医師g1意見の索状痕Eは鑑定人h3鑑定等の1dに概ね対応するものと考えられる。 そして,医師g2意見,鑑定人h3鑑定及び医師g3意見によれば,1f・3dと1b・3fとが左側頸部上半後縁で接していることが認められるところ,医師g1の尋問時の書き込みからすれば,医師g1意見もこれを否定してはいないものと考えられる。また,医師g2意見,鑑定人h3鑑定,医師g1意 とが左側頸部上半後縁で接していることが認められるところ,医師g1の尋問時の書き込みからすれば,医師g1意見もこれを否定してはいないものと考えられる。また,医師g2意見,鑑定人h3鑑定,医師g1意見及び医師g3意見によれば,1dが1b・3fから派生していることが認められる。 また,医師g1意見が指摘する損傷10は,写真からもうかがわれ,医師g4意見も反論していないから,認めることができる。 したがって,新旧証拠によれば,索状痕が前頸部において不連続であること,右側頸部の索状痕の一部が山型を形成しており,同索状痕上に四辺形様の擦過痕(損傷10)があること,左側頸部に索状痕が3条あり,上位索状痕(1f・3d,医師g1意見の索状痕C2)と中位索状痕(1b・3f,医師g1意見の索状痕C1),中位索状痕と下位索状痕(1d,医師g1意見の索状痕E)がそれぞれ接点を有していることが認められる。 右側頸部における紐の交差について,医師g1意見は損傷10を根拠に,鑑定人h3鑑定及び医師g2意見は索状痕の形状が山型であることを根拠にこれを認めている。そして,前記のとおり,山型索状痕及び損傷10のいずれも認められることからすれば,右側頸部において,少なくとも1回以上,紐が交差したことを認めることができる。次に,左側頸部において1f・3dと1e(1b・3fの一部)とが左側頸部上半後縁で接していることからすれば,医師g2意見,鑑定人h3鑑定及び医師g3意見のとおり,同所で,紐が交差した可能性は認められ,医師g1意見のうち交差の可能性を否定する点は採用することができない。 続いて,縦結びの可能性について検討するに,医師g1意見は縦結びを反映し得る損傷がないと指摘するが,索条体を縦結びにした場合,死体に縦結びを反映する損傷が必ず生じるとまではい ることができない。 続いて,縦結びの可能性について検討するに,医師g1意見は縦結びを反映し得る損傷がないと指摘するが,索条体を縦結びにした場合,死体に縦結びを反映する損傷が必ず生じるとまではいえないから,死体に損傷がないからといって,縦結びがされた可能性を否定することはできない。 周数について検討するに,左側頸部に索状痕が複数あること,項部索状痕の性状からすれば,被害者の頸部を索条体が一周以上していたことが認められる。 医師g1意見は,索条体による頸部絞搾により死に至った場合,必ず頸部を一周する索状痕を認める旨指摘するが,死因が扼頸による窒息死であること,索条体と皮膚との間に着衣等が挟まった場合等には皮膚に索状痕が形成されないこともあることからすれば,医師g1意見の前記指摘が仮に,索条体が本件当時,被害者の頸部を一周したことがないとする趣旨であれば,採用することができない。 また,医師g1意見は,aの自白どおりに扼頸した後,紐を二重又は三重に巻いて結び強く絞めれば,どこかに必ず3条の索状痕を確認でき, 少なくとも1条は頸部を一周しているはずと指摘する。左側頸部には3条の索状痕が認められること,前記のとおり皮膚に索状痕が形成されない場合もあることからすれば,絞頸の周数やその強度に関する自白と死体の損傷が整合しないとはいえないから,医師g1意見のうち前記指摘を採用することはできない。 以上を整理すると,被害者の死体の損傷からは,紐が首に少なくとも一周以上巻かれたこと,紐が被害者の右側頸部で少なくとも1回交差されたことが認められ,左側頸部で紐が交差された可能性,縦結びがされた可能性を否定することができない。 したがって,倒れている被害者の右側頸部から紐を通し,紐を二重又は三重にかけ,左側頸部の位置で縦結びをして絞 られ,左側頸部で紐が交差された可能性,縦結びがされた可能性を否定することができない。 したがって,倒れている被害者の右側頸部から紐を通し,紐を二重又は三重にかけ,左側頸部の位置で縦結びをして絞めたとするaの自白のうち,紐が右側頸部で交差されたことについて言及されていない点は死体の損傷状況と整合しないものの,その余の点は死体の損傷状況と整合しないとはいえない。 前腕部の結束について医師g1意見は,被害者の両前腕部にある蒼白帯から,被害者が生前,両前腕部を緊縛されていたと指摘する。医師g1意見の指摘する蒼白帯が,解剖記録の写真5枚目等で確認されている,エプロン袖口に相当すると指摘され,変色部の中にある前腕を一周する蒼白帯のことを指すのか,あるいはそれより上部に変色部との境界となる蒼白帯があり,それを指摘するものなのか,必ずしも判然としない。 まず,前提として,医師g1は被害者の死体を実際に見分しておらず,解剖記録等の写真等を基に検討したものである。 そして,実際に被害者の死体を解剖した医師g2が解剖記録に記録したところによれば,医師g2は,前記のとおり両手関節部の蒼白帯,左手関節部から約5㎝上に幅0.5ないし0.6㎝の前腕を一周する蒼白 帯,及び右手関節部から約4㎝上に幅1㎝の前腕を一周する蒼白帯,すなわち各腕について2本ずつの蒼白帯が指摘するにとどまり,これら2本ずつの蒼白帯は解剖記録の写真5枚目に撮影されている両手首の蒼白帯及び変色部の中にある蒼白帯と認められる。 また,医師g2は,変色部の境界となる蒼白帯を指摘していないところ,仮に,解剖医が解剖時にそのような蒼白帯を確認したのであれば,通常その旨記録化することからすれば,被害者の両腕には,そのような変色部の境界となる蒼白帯がなかったことを強くうかがわせる いないところ,仮に,解剖医が解剖時にそのような蒼白帯を確認したのであれば,通常その旨記録化することからすれば,被害者の両腕には,そのような変色部の境界となる蒼白帯がなかったことを強くうかがわせるものである。 さらに,医師g1と同じく解剖記録等の写真等を確認した鑑定人h3,医師g3及び医師g4のいずれもが変色部の境界となる蒼白帯を指摘しておらず,医師g1以外の医師3名が,いずれも変色部の境界となる蒼白帯を見落としたとは考え難い。 したがって,医師g1が指摘している可能性がある,変色部の境界となる蒼白帯は,写真の見え方による可能性があり,被害者の死体にはそのような蒼白帯があったと認めることはできないと考えるのが合理的である。 以上によれば,被害者の両腕には解剖記録の写真5枚目で確認される変色部の中にある蒼白帯及び手関節部にある蒼白帯以外の蒼白帯を認めることはできないといわざるを得ない。 次に,解剖記録の写真5枚目で確認される変色部の中にある前腕の蒼白帯が生前の緊縛を示すものかについて検討する。 左手の変色は前記蒼白帯の上部にも認められ,前記蒼白帯の上下で色調に差がなく,同程度に変色していることが認められる。また,右手の変色は前記蒼白帯を境界にしておらず,左よりも強く変色していることなどからすると,死体解剖写真撮影報告書に記載されているとおり薬品 によるものと考えられる。以上によれば,両腕の変色は死斑又は薬品によるものと考えられる。加えて,前記蒼白帯がエプロン袖口に相当する部分にあること,被害者の太腿にはズロース(平成24年押第5号符号800)による圧迫痕が認められること(解剖記録の写真4枚目及び6枚目),エプロン袖口とする見解について医師g2,鑑定人h3,医師g4及び医師g3のいずれもが疑問を呈していないことなどから 5号符号800)による圧迫痕が認められること(解剖記録の写真4枚目及び6枚目),エプロン袖口とする見解について医師g2,鑑定人h3,医師g4及び医師g3のいずれもが疑問を呈していないことなどからすれば,これらの蒼白帯はエプロン袖口のゴムの圧迫によるものと認められる。 仮に,被害者が生前に前腕部を緊縛されていたとすれば,その着衣の上から緊縛されたと考えられるところ,被害者の死体の着衣にそのような緊縛をうかがわせる痕跡が認められないし(平成24年押第5号符号788ないし794),死体を見分した警察官も着衣に破損や切創等はなかったとしている(甲5)。 また,仮に,被害者の前腕部が緊縛されていたとした場合,手首に結束し直す必要性がどの程度あるかも判然としない。 したがって,被害者が生前その両前腕部を緊縛されたと認めることはできず,医師g1意見のうち前記指摘は採用することができない。 まとめ以上をまとめると,新旧証拠によれば,aの自白のうち,左手で被害者の頸部の後面を抑えていたという点,右斜め後方から両手を出して扼頸した点及び紐を右側頸部で交差したことについて言及していない点は死体の損傷状況と矛盾しているということができ,被害者が意識を失って倒れる際,被害者の顔が本件金庫上付近に当たったのではないかと思うとする点は「く」の字状の損傷等の形成理由とはなり得ず,本来あるべきと考えられる損傷の裏付けがないということができる。他方,被害者の頸部を右手で扼圧した点,被害者の頸部に紐を二重又は三重に巻 き付けて結んだ点,被害者の左側頸部で紐を交差させた点及び紐を縦結びした点は,死体の損傷状況と矛盾しているとまではいえない。 まず,矛盾していない点についてみるに,右手による扼頸は,加害者が扼頸をしたということさえ知っていれば供 で紐を交差させた点及び紐を縦結びした点は,死体の損傷状況と矛盾しているとまではいえない。 まず,矛盾していない点についてみるに,右手による扼頸は,加害者が扼頸をしたということさえ知っていれば供述することができ,特徴的なものではない。また,絞頸に使用したとされる紐は発見され,再現時に類似した紐を使用しているから,周数については供述することができるし,左側頸部での紐の交差及び縦結びは積極的にこれを裏付けるものはない。そうすると,いずれの点も,犯人以外の者であっても供述することができる内容であり,特段,自白内容の信用性を高めるものともいえない。 他方,死体の損傷状況と矛盾している点のうち,扼頸時に左手が頸部の後面を抑えていたか口部を抑えていたかの点,右斜め後方から両手を出して扼頸したか後方から胸又は腹で被害者の背部を抑えて(固定して)いたかの点は,扼頸においておよそ些細なものとはいい難く,根幹部分ないしはこれに準ずる部分といえる。すなわち,これらの差異は,行為者が左手に期待する効果が異なるのが一般的であると考えられるし,行為者の手や胸部等の触感や,見える景色が異なると考えられる。そうすると,これらの事項は記憶に強く残るような内容であるといえ,いかにaが低い知的能力の持ち主であり,事件発生から自白まで3年以上の時が経過しており,殺害時に無我夢中であったとしても,aが犯人であれば,記憶を違えるとは考え難く,殺害態様全体の自白の信用性を動揺させるものといわざるを得ない。 aが紐を右側頸部で交差したことを供述していなかったものの,左側頸部で交差した旨供述している点については,実際には交差部位が自分の考えていた部位からずれることがあり得ると考えられる。これを前提として,事件発生から自白まで3年以上の時が経過しており,殺 害時,無 差した旨供述している点については,実際には交差部位が自分の考えていた部位からずれることがあり得ると考えられる。これを前提として,事件発生から自白まで3年以上の時が経過しており,殺 害時,無我夢中であったことからすれば,記憶違いによるものと説明できないこともないと考えられる。 ク自白の経緯「く」の字状の損傷等被害者の顔が金庫上付近に当たったとするaの自白は,前記のとおり,「く」の字状の損傷等の形成理由とはなり得ないものである。 aは,かかる自白をした経緯として,被害者方で警察官e12を仮想被害者として再現したところ本件金庫の上あたりに警察官の顔がいったことを理由としており,確定判決も指摘するとおり,aの記憶が喚起されたようなものではなく,体験性は乏しいものであった。 捜査官らが,前記再現前,「く」の字状の損傷等の成傷機転についてどのような見立てを有していたかについて明らかにする証拠はないが,死体引当捜査と同日に行われ,被害者の「く」の字状の損傷等を把握している警察官らが立ち合い,そのうちの一人を仮想被害者とした再現において,仮想被害者が顔を本件金庫に接触する状態にして倒れこんだのを経て,aが,今までせず,実際には違うが,「く」の字状の損傷等の形成理由のようにみえる供述をしたという経緯は,警察官が「く」の字状の損傷等が本件金庫に当たったことによって形成されたものと考え,aがその旨供述するよう期待して再現に臨み,aが期待どおり前記②の供述をしたことを強く疑わせるものであり,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等の可能性を強く疑わせるものといえる。 警察官e2旧供述によれば,仮想被害者である前記警察官e12は外勤係の巡査で事件に全く関知していないとするが(警察官e2の確定審第58 到達に向かう相互作用等の可能性を強く疑わせるものといえる。 警察官e2旧供述によれば,仮想被害者である前記警察官e12は外勤係の巡査で事件に全く関知していないとするが(警察官e2の確定審第58回公判における証人尋問調書2441丁),他に複数の警察官らがおり,意思疎通が容易な状況にあることからすれば,警察官e2旧供 述によって前記疑いは払拭されない。なお,医師g2は,aの前記供述後である昭和63年4月1日,「扼頸の後に被害者が顔面を右にして倒れ込んで金庫の角に右顔面を押しつけその際にこのような損傷が生じたと考えられ」る旨供述しているが(再弁A17),これをもって,警察官らが,同日まで,「く」の字状の損傷等が本件金庫との接触によるものだと考えていなかったということはできない。 絞頚aが昭和63年3月12日に扼頸と併せて絞頸について自白した際に,警察官e1がこれを失念していたかどうかは,確定判決も指摘のとおり明らかではないから,この事実を判断の前提にすることはできない。 なお,aは,昭和63年3月11日に自白したものの逮捕されなかったところ,検察官f1は,同月12日,警察官e5から,aが被害者を手で絞め殺して同人が動かなくなった後,白色ナイロン製の紐で同人の頸部を絞めつけた旨供述したこと,その際,警察官e1に索状痕について予備知識を与えていなかったなどとする経過等を聞き,自白の経緯,態度及び自白内容からaを逮捕することを了承している(再検22)。 前記経過は,絞頸について失念していたとする警察官e1の供述又は警察官e1がその点について知らなかったのかと感じたとする警察官e5の供述(確定審第24回公判における証人尋問調書955丁,確定審第26回公判における証人尋問調書1038丁)のいずれとも異なる上,検察官f1や警察官e ついて知らなかったのかと感じたとする警察官e5の供述(確定審第24回公判における証人尋問調書955丁,確定審第26回公判における証人尋問調書1038丁)のいずれとも異なる上,検察官f1や警察官e5がaの逮捕に踏み切る判断をした一つの理由となったことがうかがわれる。 そして,新旧証拠によれば,同月9日に,a方から本件に関しポリプロピレン様の紐が複数本押収されているところ,警察官e1が,同月8日,同押収に係るものと推認される捜索の必要性についての犯罪捜査復命書を作成していることからすると(警察官e1の確定審第32回公判 における証人尋問調書1335丁,押収品目録〔再弁A4〕,関係書類追送書〔再弁A60の6。なお再弁A61の3頁〕),警察官e1が同月12日の取調べ時に絞頸について,失念又は知らなかったと認めることはできない(なお同捜査復命書について,弁護人が,当審において,平成24年8月21日付けで証拠開示を求めたが,aを被疑者として絞り込み逮捕するに至った捜査過程に関する証拠として求めたため,検察官は同年10月3日,証拠開示に応じず,当裁判所は同月11日これに関して職権発動しないこととした。)。 いずれにせよ,警察官e1が絞頸を失念していた事実を判断の前提にすることができないことは,確定判決の指摘するとおりである。 他方,警察官e1が教えてくれたとするaの自白につき,確定判決等はその信用性を否定したものと考えられるが,前記のとおり引当捜査だけでなく,殺害態様についての取調べ等においても,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められる。そうすると,確定判決等の前記判断は動揺し得る。 また,前記押収を知ったと推認されるaが,被害者が紐により絞頸等がされたこ 的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められる。そうすると,確定判決等の前記判断は動揺し得る。 また,前記押収を知ったと推認されるaが,被害者が紐により絞頸等がされたことは容易に想定でき,かかる点に着想を得て絞頸を自白したものの,a自身は記憶能力等に制約があるが故に,忘却しているものと考える余地もある。 いずれにせよ,aが絞頸について自白した経緯はaの自白の信用性を高めない。 ケ小括以上をまとめると,新旧証拠によれば,aの殺害態様についての自白は,扼頸態様及び体勢という重要な点について客観的事実と整合していない点がある。また,殺害態様についての自白においても,警察官の断 片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められる。 よって,新旧証拠によれば,aの殺害態様についての自白の信用性は動揺しており,自白全体の信用性は動揺しているというべきである。 被害品ア aの自白被害品についてのaの自白は,被害者方から奪ったものは本件金庫であり,本件金庫の中から現金5万円くらいを奪い,残りは放置した,預金通帳類は奪っていない(乙22)というものである。 イ確定判決等確定判決は,本件金庫の中から現金5万円くらいを奪い,残りを放置したとする自白部分は,証拠によって認められる本件金庫の利用状況と合致していない疑いが濃いし(70丁),本件金庫に在中していたはずの古銭類,及び茶色手提鞄に保管されていた積立預金通帳は,本件犯行の被害品であると考えられるにもかかわらず,自白ではこれらについての言及がなく,通帳類については明確に否定しており,自白の不審点というべきである(74丁,88丁)とした。そして,この点は,被害品の奪取に関わる重要な事柄であ にもかかわらず,自白ではこれらについての言及がなく,通帳類については明確に否定しており,自白の不審点というべきである(74丁,88丁)とした。そして,この点は,被害品の奪取に関わる重要な事柄であり,事件発生から自白まで3年以上の時の経過を考慮しても,忘却や記憶の経時的変化等で説明できるものではなく,仮にaが犯人であるとするならば,これらの点は故意に虚偽の供述をしているとしか思えない(89丁)とする。確定判決は,犯罪事実として被害品を,10円硬貨,五銭硬貨他16点(時価不詳)在中の本件金庫1個(時価2000円相当)と認定した。 控訴審判決は,この点について明示的に判断せず,自白は,疑問の残る部分もあるが基本的根幹部分は信用性が認められるとして,犯行日時及び犯行場所について,検察官の主位的訴因を認定できるとしたものの, 被害品については言及していない(45頁)。確定判決の判断が前記のとおりであるにもかかわらず明示的な判断をしていないことも踏まえれば,控訴審判決は,確定判決と同様,現金5万円につき被害品と認定していないものと考えられる。 ウ検討この点についての新証拠はないところ,旧証拠によれば,確定判決の指摘するとおり,aの自白のうち,現金5万円を奪取した点は,客観的状況と整合しない疑いが強く,aが言及していない本件金庫に在中していたはずの古銭類及びaが否定した積立預金通帳は,本件犯行の被害品である疑いが強い。そして,かかるaの自白は,被害品の奪取という根幹部分について客観的状況に整合していないのではないかとの疑問があり,aの自白全体の信用性を減殺する一要素となるものであったといえる。 確定判決のみならず,自白の基本的根幹部分の信用性を結論的には肯定した控訴審判決も,これと同様の見解に立っていたものと解される。 自白全体の信用性を減殺する一要素となるものであったといえる。 確定判決のみならず,自白の基本的根幹部分の信用性を結論的には肯定した控訴審判決も,これと同様の見解に立っていたものと解される。 自白内容に基づく検討のまとめア確定判決等aの自白について,前記第2の2及び3のとおり,確定判決は,その信用性を否定する一方,控訴審判決は,疑問の残る部分もあるが,①金庫引当捜査の際,捜査官の想定した経路と異なる経路を指示して金庫発見現場に到達し得たこと,②死体引当捜査の際の言動(すなわち,死体遺棄当時と死体引当捜査時とでは現場の状況が変わっているという趣旨の発言をしたこと),③事件発生後3年以上経過した後の自白であるとの自白時の日時経過,④任意の事情聴取の際に自白した状況,⑤精神鑑定書によるaの特性等を併せ考えると,自白の基本的根幹部分は十分信用できると判断した。 そして,これまでに判示したところによれば,新旧証拠を総合すれば,前記①,②の各事実の認定は大きく動揺し,その証明力も減殺された(前aの自白の基本的根幹部分が信用できるとした控訴審判決の判断が維持できるかについて検討する。 イ前記③,⑤の各事実について控訴審判決も指摘するとおり,旧証拠によってもaの自白には疑問の残る部分,すなわち不自然・不合理な諸点が認められる。これに加えて,新旧証拠を総合すれば,a庫の破壊場所及び投棄場所は,金庫発見場所ではないのではないかとい時の扼頸における実際の左手の位置及び体勢は自白と異なるのではなったものである。 そして,前記の新旧証拠によって生じた各疑問及び旧証拠によって認おらず,古銭類及び預金通帳類が含まれるのではないかという疑問は,等に係る自白),客観的状況と整合しない可能性が高いものである。そうすると,事件発生後 旧証拠によって生じた各疑問及び旧証拠によって認おらず,古銭類及び預金通帳類が含まれるのではないかという疑問は,等に係る自白),客観的状況と整合しない可能性が高いものである。そうすると,事件発生後3年以上の時が経過した後の自白であること(前記③)や精神鑑定書によるaの特性(前記⑤),すなわち低い知的能力の持ち主であることや記憶能力等に制約があることのみによっては,説明することができないか,説明が相当に困難である。また,本件金庫の破壊場所及び投棄場所についての疑問は,第三者が,放置後発見までの間に,金庫発見場所において本件金庫の現 状を変えた可能性(前記③)によっては合理的に説明することができない。 仮に,aが犯人である場合,あえて,前記各疑問,すなわち根幹部分について客観的状況と整合しない可能性が高い疑問を,根幹部分に関わる重要なものだけで数点も含む自白をしていることになる。 この点について,確定判決は,真犯人が一応その犯行を認めるに至ったとしても,それが重大犯罪であればあるほど,全部の事実を告げることについては躊躇を覚えるものが少なくないはずであって,少しでも自己の責任を軽くするために,犯行の動機,態様,被害額等に虚偽を混ぜて供述する者がおり,aもこのように真実と虚偽を混ぜながら供述していたことは十分考えられるなどと指摘している(150~151丁)。 しかしながら,a奪ったと自己の責任が重くなる方向の,客観的事実に反する可能性が高い自白をしていることや,前記疑問を含む自白によって何らかの重大な事実を隠匿し,自身の刑事責任を軽減できる事項があることが想定できないことに照らすと,確定判決の前記指摘は本件に該当するとはいえない。そして,他に,仮にaが犯人であるとしても,前記各疑問のある自白をする動機は具体的にはうかがわれ 減できる事項があることが想定できないことに照らすと,確定判決の前記指摘は本件に該当するとはいえない。そして,他に,仮にaが犯人であるとしても,前記各疑問のある自白をする動機は具体的にはうかがわれない。そうすると,aが犯人であるにもかかわらず,前記各疑問のある自白をしている可能性は抽象的なものにとどまる。 以上によれば,控訴審判決が指摘する事件発生から3年以上経過した後の自白であるという自白時の時の経過(前記③),精神鑑定書によるaの特性(前記⑤)は,いずれも新旧証拠により認められる前記各疑問を合理的に説明できないと考えられる。 ウ小括このように,aの自白の基本的根幹部分が信用できるとした控訴審判 決の理由部分(前記①ないし⑤)のうち,前記①,②の認定は大きく動揺し,その証明力は減殺された。また,前記③,⑤は,前記各疑問,すなわち根幹部分について客観的状況と整合しない可能性が高いという数点の疑問を合理的に説明できないと考えられる。 かえって,aの自白等からは,警察官の断片的な誘導及び警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められ。 このように,aの自白の信用性は大きく動揺しているところ,前記④によって,aの自白の基本的根幹部分が信用できるとした控訴審判決の判断がなお維持できるのかという観点から,aが自白した状況につき検討を加える。 自白した状況を省略する。 ア aの供述これまでに判示したとおり,aの自白は,その根幹部分において,客観的状況と整合しない可能性が高く,合理的に説明できない疑いのある疑問が数点あるなどの点に照らし,この時点において既に信用性に大きな動揺が生じた。ところで,控訴審判決は,自白の信用性を肯定する理指摘している。aは,この点について, 合理的に説明できない疑いのある疑問が数点あるなどの点に照らし,この時点において既に信用性に大きな動揺が生じた。ところで,控訴審判決は,自白の信用性を肯定する理指摘している。aは,この点について,確定審第34回ないし第36回公判期日(平成2年10月30日,同年11月16日,同年12月11調べを受けていた3月9日から3月11日までの間,取調官から暴行や脅迫的な言動を受けた旨供述している。 aの取調べ時,取調室内には,警察官e1,警察官e10及び警察官 e14の3名が常時同席していた。 aは,3月9日の夕食後,警察官e1にジャンパーの襟首を持ってねじ上げられ,警察官e14に後ろから左頬を殴られ,警察官e10にボールペン様の物四,五本で肩を突かれるなどの暴行を受けた。また,aは,同日午後8時30分ないし午後9時頃と3月10日午後8時30分ないし午後9時頃にも,前記3名から同様の暴行を受けた。aは,同日,警察官e10から椅子を足で払われ転倒して口から出血したので,警察官e1からもらったティッシュペーパーで拭いた。aは,3月11日,殴られたことにより歯が痛かったため,入れ歯を外して警察署に出頭した。同日午後6時30分ないし午後7時頃,警察官e14に後ろから3回くらい手拳で左頭部を殴られた上,「白状せい,白状せなんだら,お前の娘の行き先を,これからガタガタにしてきたろうか」,「uを手錠をかけて引っ張ってきたろうか」,「日野町を火の海にしたろうか。人は呼んだらどこからでも寄ってくるのや」などと言われ(確定審第35回公判における被告人供述調書1487~1490丁),仕方なく「私がやりました」と自白した。uはaの従兄弟で当時日野消防署長に就いており,aはuの亡父母に世話になってきていたことから,恩義を感じていた。 aは,3月11日に自白 487~1490丁),仕方なく「私がやりました」と自白した。uはaの従兄弟で当時日野消防署長に就いており,aはuの亡父母に世話になってきていたことから,恩義を感じていた。 aは,3月11日に自白した後,やっていないと言えばまた暴力を振るわれるなどされると思い,捜査段階では捜査官に対し一度も否認していない。aは,自白後は暴行を受けたり,脅迫的言動をされたりはしなかった。 イ主な旧証拠請求人b1の確定審における供述(同人の証人尋問調書)請求人b1は,確定審において,次のとおり,aが暴行や脅迫的言動を受けたと話した旨供述している。すなわち,取調べについて,aは,請求人b1に対し,3月9日夜,言うことを聞いてもらえず,言おうと すると暴力を振るうような形をとると話した。aは,3月10日夜,椅子を足蹴りされて机で肩を打ったり,頭の毛を持たれて白状せいと言われ,頭を打たされたこともあった,3人がかりでひどいことをされたと話した。aは,3月11日,被害者を殺した旨の調書に署名をしたと話した。aは,3月12日朝,来てくれた親戚の者(vとw)に対し,もうとことん追い詰められて,娘の家をぐちゃぐちゃにしたるなど言われたため,やむなくハンコをついてきたと話していた。 請求人b3の確定審における供述(同人の証人尋問調書)請求人b3は,確定審において,次のとおり,aが暴行や脅迫的言動を受けたと話した旨供述している。すなわち,取調べについて,aは,請求人b3に対し,3月10日夜,警察官が叩くくらいは当然で,椅子を蹴飛ばす,肩を打つ,髪の毛を後ろから引っ張って,机に頭を押さえつけたり,頬を殴ったりした,歯が痛いなどと話した。請求人b3が見るとaの左頬の下の辺りが少し赤く腫れていた。また,aは,警察官が3人がかりでかかってくる,1名は前 ろから引っ張って,机に頭を押さえつけたり,頬を殴ったりした,歯が痛いなどと話した。請求人b3が見るとaの左頬の下の辺りが少し赤く腫れていた。また,aは,警察官が3人がかりでかかってくる,1名は前から胸倉を掴み,1名は後ろから羽交い絞めにし,1名はaの頭を抱えて,怪我したところを叩くとも話した。請求人b3は,3月11日朝,aに「してへんもんは,してへんと言うて,頑張って来なあかんで」と励まして送り出した。aは,同日夜,請求人b3らに対し,犯行を自白したことを告げ,真犯人であることは否定した上,涙を流しながら,警察官から「娘の嫁ぎ先に行って,ぐちゃぐちゃにしてきたろうか」,「uのおっさんを,手錠をはめて,引きずり回して,ここへ連れてきたろうか」と言われたなどと話した。請求人b3は,自白したことを咎めた上,自分の嫁ぎ先のことは心配しなくていいから,やってないなら正直に話をしてくるよう諭した。aは,そこまで言ってくれるのであれば,明日もう一回行ってひっくり返してくると話した。aは,警察官が,世間には公表しないから自白せいとい うようなことも言ったと話した。 取調官の確定審における供述(各人の証人尋問調書)警察官e1は,確定審において,取調官がaの供述するような暴行や脅迫的言動をしたことを否定する供述をし,警察官e10及び警察官e14も概ねこれに沿う供述をする。 すなわち,警察官e1は,次のとおり供述する。いずれの日も,警察官e1と警察官e10が取調べを担当し,警察官e14は何回か取調室に出入りしただけである。aが3月9日に興奮し,立って大きい声を上げた際,警察官e1は,何回か,肩に手を当てて座らせた。aは,3月11日午後2時前頃にいったん自白した後,否認に転じ,午後6時半頃再度自白した。aの主張するような暴行や脅迫的言動は って大きい声を上げた際,警察官e1は,何回か,肩に手を当てて座らせた。aは,3月11日午後2時前頃にいったん自白した後,否認に転じ,午後6時半頃再度自白した。aの主張するような暴行や脅迫的言動はなかった。警察官e1は,aに対し,捜査が始まれば,村の者全体に迷惑がかかるなどの問題があるから村の人にはできる限り迷惑をかけないようにしていけよということは話したが,個々の名前は話していない。 ウ確定判決等確定判決は,aの供述は数回の暴行がいずれもほぼ同じ手順や役割分担で進められたという点で不自然であること,aは取調状況以外に関する質問に対しては「忘れた」と答える部分や不適切な答えをする部分が目立っているのに,取調官の暴行の手順や態様は異様な詳細さをもって供述しており,この落差は著しく不自然であること,3月11日の取調べ時に警察官e14が述べたという「娘の嫁ぎ先をガタガタにする」,「uを逮捕する」,「日野町を火の海にする」というようなことはおよそ不可能であり,これらの文言を警察官が述べたとは常識に照らして到底信用することはできないこと,aは,自白に転じた理由について暴行だけなら我慢できたが,「娘の嫁ぎ先をガタガタにする」,「uを逮捕する」と言われて我慢できなくなったと供述するが,自白を維持し た理由について身体の苦痛を第一の要因に挙げており,質問に対するその場限りの返答に過ぎないとの印象が拭えないこと,警察官に殴られたので歯が痛くなったというaの供述は虚偽を含んでいること,取調官は2名であり警察官e14は常時在室してはいなかったから,前記3名から暴行を受けたとするaの供述には疑問があることなどの点は,aの供述が虚偽であることを示しているとした(29~32丁)。 控訴審判決は,任意の事情聴取の経過,自白に至る経緯,aの外観 ,前記3名から暴行を受けたとするaの供述には疑問があることなどの点は,aの供述が虚偽であることを示しているとした(29~32丁)。 控訴審判決は,任意の事情聴取の経過,自白に至る経緯,aの外観,暴行を話した日にちについてのaと家族との供述の食い違い,自白後のaと家族とのやり取り,警察官の暴行を聞いた家族の対応,勾留理由開示法廷でのaの発言,私選弁護人の接見の際の助言,捜査段階での一貫した自白の維持,取調官らの確定審における供述などを総合勘案すれば,警察官による暴行・脅迫を受けた旨のaの供述は信用できないと判断した(9~10頁)。 エ取調べの経過等新旧証拠によれば,任意の取調べ以降の客観的・外形的経過は次のとおりと認められ,確定判決等もこれを前提にしている。 aは,昭和60年9月17日,日野署に任意同行の上,本件の被疑者として取調べを受けたことがあった。 その後,aは,(昭和63年)3月9日,日野署に任意同行の上,再度本件の被疑者として取調べを受けるようになった。aは,取調べ当初,犯行への関与を否認し,本件当日は証人c3方で飲酒の上,泊めてもらったとのアリバイ主張をし,3月10日その旨の警察官調書(乙4)が作成された。取調べは,3月9日及び3月10日,午前8時頃から午後10時頃までの間行われ,aは,取調室で昼食及び夕食をとった(再検13)。請求人b1は,3月9日,自宅等の捜索に立ち会った後の同日午後5時頃から午後10時頃までの間,及び3月10日の午前10時頃 から午後10時頃までの間,取調べを受けた(請求人b1の確定審における証人尋問調書)。 aに対する取調べは,3月11日午前8時頃から午後10時頃まで行われ,aは,午後6時30分ないし7時頃,被害者を殺害して金庫を奪い取ったことを認め,概括的な自白を内容と おける証人尋問調書)。 aに対する取調べは,3月11日午前8時頃から午後10時頃まで行われ,aは,午後6時30分ないし7時頃,被害者を殺害して金庫を奪い取ったことを認め,概括的な自白を内容とする警察官調書(乙5)が初めて作成された(再検14)。aは逮捕されず,同日午後11時頃,帰宅した。以後,aは,起訴に至るまで,捜査官に対して自白を維持した。 aは,3月12日午前8時頃,任意同行の上,取調べを受け,自白を内容とする警察官調書(乙18)が作成され,同日午後8時9分,逮捕された(再検15,19)。 aは,3月13日,身柄付きで検察庁に送致され,検察官f1による弁解録取及び取調べが行われ,弁解録取書(乙25)及び自白を内容とする検察官調書(乙7)が作成された。 aは,3月14日,大津地方裁判所における勾留質問手続において,「お読み聞けの事実については,現金は取ったことはありますが,その余のことは分かりません」と弁解し(乙26),勾留された。 いずれも確定審での弁護人である弁護人x1及び弁護人x2は,3月21日ないし22日,aの家族の依頼を受けて本件の私選弁護人を受任した。 弁護人x1は,同月23日,aと接見し,検察官f1宛に上申書(弁30)を提出した。その内容は,aが,3月10日,警察官2名から暴行を受け,今でも,左の頬から頭にかけて時々痛いと思うことがあるし,左耳の調子が悪い,「娘のところも親戚のところにも行ってガタガタにしたるで」と脅された,裁判になってからほんとのことを言えばよいと思って「やった」と言った,検事(原文どおり,以下同じ)の調べに行 くときには,警察官から「暴行を受けたことなんかを言うな」と釘を刺された,だから警察での取調べの実際は検事には話していないなどと供述したとして,この供述の真否につ おり,以下同じ)の調べに行 くときには,警察官から「暴行を受けたことなんかを言うな」と釘を刺された,だから警察での取調べの実際は検事には話していないなどと供述したとして,この供述の真否について,適正な捜査を求めるなどというものである。弁護人x1及び弁護人x2は,3月23日夜,aの家族から事情を聴取した(弁護人x2の証人尋問調書)。 弁護人x2は,3月26日にaと接見し,同月28日に裁判所に勾留場所の変更を求める上申書(弁31)を提出した。その内容は,aが,逮捕に切り替わってからは以前のような暴行を受けていない,弁護人の接見後,刑事(原文どおり)から弁護人とのやり取りについて詮索を受け,無実の主張を取り消すよう言われたなどと話したというものである。なお,弁護人x2は,前記接見の際,aに対し,取調官に対して否認を主張するとともに,自白調書の作成には応じないよう助言した。 aは,3月30日の勾留理由開示手続(弁22,33)において,「妻子を犯罪人の家族にしたくなかったが,警察に呼ばれ2日間にわたって警察官から証拠は揃っているなどと取調べを受け,私には証拠の内容が分からないので警察官の言うとおりにしました」などと述べた。 加えて,aは,勾留理由開示調書(弁22)によれば,「現在でもやっていないと言いたいが,これだけ証拠があればやっていないと言えないと思う」と述べたとされている。弁護人のメモ(弁33)によれば,「やっていないと言いたいのですが,これだけ書類がそろっていればやったようにせねばならないと思ったのです」,「書類も,警察の人の言うとおりにしていただいている」,「日野署の刑事には親切にしてもらっているし,自分の言うことをよく聞いてもらっている」などと述べたとされている。 また,弁護人は,同手続の際,aの供述に先立って うとおりにしていただいている」,「日野署の刑事には親切にしてもらっているし,自分の言うことをよく聞いてもらっている」などと述べたとされている。 また,弁護人は,同手続の際,aの供述に先立って,大部分がaの家族から聴取したものからなるaの受けたとする暴行や脅迫的言動の内 容を盛り込んだ意見書を陳述した(弁護人x2の証人尋問調書)。 aは,4月2日,弁護人x1及び弁護人x2と接見した際,「調書をひっくり返したら,かつて警察に反抗した(ときと同じ)ようになるから,スムース(原文どおり)にやったようにいきたい」,「娘がかわいいのでそれまでなんぼ拷問を受けても死なへんさかいにと思っていたが,娘のこと言われたときには,もう応じなければしょうがないと」,「3月12日以降は,警察官から,暴行や脅迫を受けていない」,「やったと言った限りは,嘘のことでも話を合わせていかないことにはいかんと思って,ずうっとそのように合わした」,「嘘でも言った限りはそれに応じていかんことには,もしそれをひっくり返した場合には,またひどい目に遭ったら自分もつらい。もしひっくり返したら,1年ですむものが,3年も4年もかかると思う」などと述べた。また,aは,歯医者を受診したことについて,弁護人から「殴られたとこか」と聞かれると「いや,殴られたからやないけど,歯が熱もったさかいな」と答え,「それは前から悪かったとこ」と聞かれると「わし入歯やさかいに,歯に刺さって,熱持って歯が痛うなるんやろな」と答え,「でもそっち殴られたほうやろ。左側って」と聞かれると「はい,殴られました」と答えた(弁29)。 オ新旧証拠による検討aの自白及びその維持既に判示したとおり,aは,根幹部分について客観的状況と整合しない可能性が高く,合理的に説明できない疑いのある疑問が数点 」と答えた(弁29)。 オ新旧証拠による検討aの自白及びその維持既に判示したとおり,aは,根幹部分について客観的状況と整合しない可能性が高く,合理的に説明できない疑いのある疑問が数点あることなどから信用性が大きく動揺している自白をし,この自白を捜査段階において維持している。また,既に判示したとおり,金庫引当捜査及び死体引当捜査を始めとする捜査段階において,警察官とaとの間に融和的・協調的な関係が生じ,警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性が,合理的にみて認められる。 そして,控訴審判決が指摘するとおり,aが,任意取調べ中に自白をして,その後一度帰宅して家族に会っても,あるいは,勾留後,私選弁護人の助言があっても,自白を維持した事実が認められるところ,この自白自体の信用性が大きく動揺しているものである。 整理すると,aは,任意取調べ中で,かつ家族の支援を受けていたにもかかわらず,前記のような信用性が大きく動揺している自白をし,その後,私選弁護人の助言等も受けていたにもかかわらず,取調官を含む警察官らと協調的な関係を生じさせ,自白を維持したものである。このようにaの自白は不自然な経緯をたどっているところ,仮に,aが供述するとおり,警察官らが,aの自白に至るまで暴行や脅迫的言動を加えたとすれば,前記外形的・客観的経過を合理的に説明することが可能となる。自白を維持した理由について,aは,暴行を受けるのが怖かったと述べるのみでなく,家族や親戚に迷惑をかけたくなかったとも述べている(確定審第65回公判における被告人供述調書2778丁)。 そうすると,控訴審判決が指摘した前記各事実のうち勾留理由開示法廷でのaの発言や,捜査段階での一貫した自白の維持の点については,自白の信用性が前記のとおり大 判における被告人供述調書2778丁)。 そうすると,控訴審判決が指摘した前記各事実のうち勾留理由開示法廷でのaの発言や,捜査段階での一貫した自白の維持の点については,自白の信用性が前記のとおり大きく動揺しているものであることを併せて考慮すると,かえって,警察官から任意取調べ中に暴行や脅迫的言動を受けたとするaの被害供述や,警察官と自白したaとの間に協調的な関係が生じ,警察官とaとの無意識的な正解到達に向かう相互作用等が働いた可能性を裏付ける事情となり得るものといえる。 この点に関し,確定判決は,前記第4の5偽が含まれていても,真犯人が少しでも自己の責任を軽くするために,虚偽を混ぜて供述することがあることなどを指摘するが,aがした自白内容に照らすと,自己の責任を軽くするためとは考え難いから,確定判決の同指摘が当たらないことは前記のとおりである。 したがって,新旧証拠を総合した結果,aの確定審における,警察官から暴行や脅迫的言動を受けた旨の被害供述を裏付ける事情が認められることになる。かかる事情の存在を前提に,aの確定審における被害供述の信用性が否定されるか検討する(なお,かかる検討は,新証拠の存在に基づいて行うものであり,確定審の心証形成に不当に介入しているものでないことはいうまでもない。)。 aの確定審における被害供述の信用性aの供述経緯aは,任意取調べ(3月12日まで)の11日後で,自白を維持している間の3月23日,弁護人x1に対し,警察官2名から,少なくとも,左の頬から頭にかけて痛くなり,左耳の調子が悪くなるような暴行を受けたこと,「娘の所も親戚の所にも行ってガタガタにしたるで」などと脅されたことなどを申告している。 そして,aが確定審において否認に転じ,詳細かつ具体的な被害供述を行ったのは,平成 るような暴行を受けたこと,「娘の所も親戚の所にも行ってガタガタにしたるで」などと脅されたことなどを申告している。 そして,aが確定審において否認に転じ,詳細かつ具体的な被害供述を行ったのは,平成2年10月30日実施の確定審第34回公判期日以降になってからである。 aの確定審における被害供述は,前記当初申告と比較すると,時間が経過した後に,暴行した警察官の人数が増え,具体的な脅迫的文言として「日野町を火の海にしたろうか」,「人は呼んだらどこからでも寄ってくるのや」が追加され,親戚に対する害悪について「uを手錠をかけて引っ張ってきたろうか」と表現が豊かになって,態様が詳細化されている。また,前記当初申告にいう暴行は,部位からして,確定審における被害供述のうち左頬や頭部を殴られたとする暴行がこれに当たると考えられ,椅子を足で払われたとか,ボールペン様の物で突かれたなどのその余の暴行については,前記当初申告時より追加されていると考えられる。 aが低い知的能力の持ち主であることや,記憶能力等に制約があること,任意取調べから確定審における被害供述までに2年7か月以上経過している点なども考慮すると,aが,確定審における被害供述において,変更,追加又は詳細化した被害内容は,aの制約された記憶保持力から時間の経過により保持していた記憶が単純化され,又は誇張されたという記憶の変容の可能性や,aの制約された表現力,叙述力から供述する際に極端な表現等になった可能性が考えられる。他方,aは,警察官から左頬を殴られるなどの暴行を受けた,「娘の所も親戚の所にも行ってガタガタにしたるで」と脅されたと,任意取調べの11日後から申告を開始しているから,この当初申告部分については,aの低い知的能力や制約された知覚,記銘力を踏まえても,時間の経過やaの制約 にも行ってガタガタにしたるで」と脅されたと,任意取調べの11日後から申告を開始しているから,この当初申告部分については,aの低い知的能力や制約された知覚,記銘力を踏まえても,時間の経過やaの制約された記憶能力等による供述内容の誇張,単純化又は極端化のおそれは,極めて小さいものと考えられる。 そうすると,aの確定審における被害供述につき,暴行がいずれもほぼ同じ手順や役割分担で進められたなど不自然であるとする確定判決の指摘は,aの低い知的能力等及び時の経過による単純化等という理由によって十分に説明できると考えられる。基本的には,前記当初申告時から,aが一貫して申告等している被害供述,すなわち,aが,警察官から左頬を殴られるなどの暴行を受けた事実及び「娘の所も親戚の所にも行ってガタガタにしたるで」との脅迫的言動を申し向けられた事実を述べるものは,容易には排斥することができないものというべきである。 控訴審判決が,確定判決と同様の指摘をしていないのは,当裁判所と同様の見解に立っているものとも考えられる。 aの外観等A 控訴審判決は,aの確定審における被害供述が信用できない理由として,aの外観を指摘している。これは,具体的には,検察官f1が, 確定審において,3月13日の弁解録取の際,aが事実は間違いないけれども,警察官から顔をげんこつで何度も何度も殴られた,その場に引き倒された旨発言したので,警察官に確認し,また,aの顔が腫れているような様子がなかったと供述していることを指す(検察官f1旧供述,検察官f1の確定審における証人尋問調書2766~2767丁)。 aの供述によれば,aは3月11日に自白した以降暴行を受けていないというのであるから,既に最終の暴行から2晩経過した3月13日にaの顔が腫れている様子がうかがえなかったと 2766~2767丁)。 aの供述によれば,aは3月11日に自白した以降暴行を受けていないというのであるから,既に最終の暴行から2晩経過した3月13日にaの顔が腫れている様子がうかがえなかったとしても(なお,前記請求人b3の確定審における供述によれば,3月10日時点で,顔が赤く腫れている程度は少しであった。),それ自体,何ら不自然なことではない。 したがって,仮に検察官f1が確認したaの外観が検察官f1旧供述のとおりであったとしても,そもそもかかる事実がaの被害供述の信用性を減殺する程度はさほど大きくない。控訴審判決も当裁判所と同様の見解に立っているものとも考えられる。 B ところで,aが弁解録取時に警察官から暴行を受けた旨発言したとする検察官f1旧供述がある一方,旧証拠の中には,aの前記発言を否定するものもある。すなわち,aは確定審において,検察官f1に対して同発言をしたと供述しておらず,むしろ,3月23日の接見時,弁護人に対して,警察から口止めされていたから検察官には話していない旨供述している(確定審第35回公判における被告人供述調書1511~1513丁)。弁解録取書(乙25)にはaの前記発言の記載がないし,他に,検察官f1の前記供述を裏付ける客観的証拠は存在しない。それにもかかわらず,確定判決は,検察官f1の供述の信用性を認め,aが検察官f1に対して前記発言をした事実を認定した。 この点について,新証拠である検察官f1の次席検事宛の3月14日付け報告書(「被疑者が自白するに至る捜査経緯について」,再検22) には,弁解録取直後に作成されたにもかかわらず,aの前記発言をうかがわせる記載が一切ない。前記報告書において「被疑者の取調べに関しては,その供述の任意性,信用性を確保するために,警察官に対して具体的に指示すると 直後に作成されたにもかかわらず,aの前記発言をうかがわせる記載が一切ない。前記報告書において「被疑者の取調べに関しては,その供述の任意性,信用性を確保するために,警察官に対して具体的に指示するとともに,その都度これを点検し,検察官自らも十分配慮して取り調べに当たっているところである。」と記載されていることからすれば,供述の任意性及び信用性に疑いを生じさせかねない前記発言を真実,aがしたとすれば,これを記載し,併せて前記発言にもかかわらず,供述の任意性及び信用性については確保されているとする根拠,すなわち,検察官f1旧供述によれば警察に対する確認及びaの外観の確認(検察官f1新供述にも同旨の部分があるが,検察官f1は,関係する旧証拠を検討した上で当審での事実調べに臨んでいるから,この点は,検察官f1旧供述の信用性を高める事情ではない。)を記載して報告するのが合理的かつ自然と考えられる。検察官f1が次席検事に対しあえてあるいは過失により前記発言を省略して報告した可能性も抽象的にはあり得ないではないが,検察官f1がそのような捜査の適正さを記録化する行為を怠り,あるいは失念することは考え難い。また,前記報告書を作成した目的及びaの前記発言の重要性に鑑みれば,aの前記発言に関して口頭報告のみで済ませたとも考え難い。そうすると,新旧証拠を総合すれば,検察官f1旧供述のうち弁解録取時にaから前記発言があったとする部分は信用することができない。他方,aが3月23日に弁護人に申告した内容(前記当初申告,弁30。aが,真実,検察官f1に前記発言をしたのであれば,弁護人に対してこれを否定する虚偽の申告をする理由はない。)も踏まえると,aが確定審で供述するとおり,検察官f1に対し,前記発言をしていないと考えるのが自然である。そして,aが,検察官f1に れば,弁護人に対してこれを否定する虚偽の申告をする理由はない。)も踏まえると,aが確定審で供述するとおり,検察官f1に対し,前記発言をしていないと考えるのが自然である。そして,aが,検察官f1に前記発言をしていないのであれば,検察官f1がaの外観を,強い問題意識をもって確認する契機はなかった と考えられる。 C 結局,新旧証拠によれば,そもそも検察官f1がaの外観を意識的に確認していない可能性がある。また,そのような事実があったとしても,この点,すなわち控訴審判決のいうところのaの外観は,aの被害供述の信用性を減殺しないか,仮に減殺するとしてもその程度はごくわずかである。 請求人b1及び請求人b3の各供述控訴審判決は,請求人b1及び請求人b3の確定審における前記各供述の信用性について明示的に判断しないものの,aの被害供述が信用できないとする理由として,暴行を話した日にちについてのaと家族との供述の食い違い,自白後のaと家族とのやり取り,警察官の暴行を聞いた家族の対応などを指摘する(4~10頁)。これに対し,確定判決は,aが3月10日及び3月11日の帰宅後,取調べ時に暴行や脅迫的言動を受けた旨話したとする請求人b1及び請求人b3の各供述の信用性を認め,aがそのような話をした事実自体は認定している(32~33丁)。 仮に,請求人b1及び請求人b3の前記各供述が信用できるとすれば,aの確定審における前記被害供述と基本的部分が一致し,これを裏付けるものとなる。 他方,仮に,請求人b1及び請求人b3の前記各供述が信用できないとしても,前記のとおり,aが信用性の大きく動揺している自白をし,その後その自白を維持している心理状況からすれば,aが家族を気遣うなどの理由で,暴行や脅迫的言動を受けた旨の真実を話さなかったとしても不 ても,前記のとおり,aが信用性の大きく動揺している自白をし,その後その自白を維持している心理状況からすれば,aが家族を気遣うなどの理由で,暴行や脅迫的言動を受けた旨の真実を話さなかったとしても不自然・不合理とはいえない。aも,確定審において,3月9日及び3月10日の暴行については心配をかけたくないので請求人b1に言っていないと思うなどと,同趣旨の供述もしている。 したがって,いずれの場合であっても,新旧証拠によれば,請求人b1及び請求人b3の各供述のゆえに,aの被害供述の信用性が減殺されることはない。 勾留理由開示法廷等でのaの発言控訴審判決の指摘するとおり,aは,勾留質問時や勾留理由開示法廷の際に,警察官から暴行や脅迫的言動を受けたとの被害供述をしていない事実が認められる。しかしながら,aは,前記のとおり,家族や私選弁護人の支援ないし助言にもかかわらず,信用性が大きく動揺している自白をし,それを維持し続けたものである。また,前記のとおり,aは,検察官f1に対しても被害供述をしていない可能性があり,そうだとすると,aが捜査段階において被害供述をしたのは弁護人及び親族に対してのみということになる。そのような心理状況のaが,裁判官に対し,被害供述をしなかったとしても,不自然ではない。aは,その理由として,やりましたと言わなかったら後で警察官によってひどい目に遭わされると思ったからと,首肯できる供述をしている(確定審第35回公判における被告人供述調書1516丁)。 また,控訴審判決の指摘するとおり,aは,自分の言いたいことを聞いて戴き有り難く思っている,日野署の刑事さんには親切にしてもらっている旨述べている。しかしながら,前者については,勾留理由開示手続で意見を述べることができたことに対する感謝と解する余地があるし( いて戴き有り難く思っている,日野署の刑事さんには親切にしてもらっている旨述べている。しかしながら,前者については,勾留理由開示手続で意見を述べることができたことに対する感謝と解する余地があるし(確定審第37回公判における被告人供述調書1601丁),後者については,警察官とaとの間に自白後の融和的・協調的関係が生じていたと考えれば,むしろ自然な心情の発露とみることができる。 したがって,新旧証拠によれば,勾留理由開示法廷等でのaの発言は,aの被害供述の信用性を減殺しない。 警察官の確定審における供述 控訴審判決の指摘するとおり,取調官である警察官e1ら3名の警察官の供述が一致しているものの,警察官3名はaと利害が直接対立する共通の立場にあり,暗黙のうちにであっても供述を合わせることが容易な状況にあった。また,警察官e1が供述する,aが初めて自白し,いったん否認に転じた上で自白した経緯についても,平板で迫真性に欠ける内容である(控訴審判決は以上の2点を否定する判示をしておらず,当裁判所と同様の見解に立っていると考えられる。)。加えて,本件当時においても,事件の性質や被疑者の特性等によっては捜査官の判断により取調べ状況の録音が行われる実例があったことは公知の事実であり,任意取調べ当時から取調べ状況を録音することは可能であったところ,本件が,強盗殺人事件という重大事件であり,aが当初否認していたこと,aの自白が立証の柱となると考えられたこと,aの知的能力などからすれば,当時の捜査官の立場に立っても,取調べ状況の録音等を実施するべきであった(少なくとも望ましかった)といえ,かつ,録音等を実施することに支障はなく,容易であったといえる。それにもかかわらず,捜査官は,aの任意取調べについて録音等を実施していないことが当審において あった(少なくとも望ましかった)といえ,かつ,録音等を実施することに支障はなく,容易であったといえる。それにもかかわらず,捜査官は,aの任意取調べについて録音等を実施していないことが当審において判明している(検察官の平成24年10月23日付け意見書)。他に,前記警察官3名の供述を客観的に裏付ける証拠は存在しない。 そうすると,前記警察官3名の供述が概ね整合していることを過大評価することは相当ではなく,同供述がaの被害供述の信用性を減殺する程度には限界がある。控訴審判決も当裁判所と同様の見解に立っているものと考えて矛盾しない。 当初申告時の脅迫的言動の文言A 確定判決は,aが供述する脅迫的言動の文言が実現不可能であり,警察官が述べたとは常識に照らして到底信用できないとする。他方,控訴 審判決が文言の内容につき明示の判断を示していない点からすると,控訴審判決は,脅迫的文言が実現不可能であるとは判断していないと考えられ,脅迫的文言の内容ゆえにaの被害供述の信用性を減殺されるとは判断していないものとも考えられる。 Baの被害供述のうち,「日野町を火の海にしたろうか」という脅迫的文言は,警察官が事実上実現不可能なものであることは確定判決の指摘するとおりである。そして,前記文言は,弁護人への当初申告時には言及されていなかったものであるから,意識的にせよ無意識的にせよ,aの制約された記憶保持力から時間の経過により保持していた記憶が単純化され,又は誇張された記憶の変容の可能性や,供述する際に制約された表現力,叙述力から極端な表現等となった可能性が十分にあるものと考えられる。前記脅迫的文言に係るaの被害供述は直ちには信用し難い。 C これに対し,aの弁護人への当初申告における脅迫的文言のうち,「娘の所も親戚の所にも行ってガタガ た可能性が十分にあるものと考えられる。前記脅迫的文言に係るaの被害供述は直ちには信用し難い。 C これに対し,aの弁護人への当初申告における脅迫的文言のうち,「娘の所も親戚の所にも行ってガタガタにしたるで」は,警察官が娘や親戚方を訪ねて事情聴取したり,警察署へ同行を求めたりすることなどによって,達成できるものであるから,警察官が実現不可能なものとはいえない。現に,警察が突如としてa方を捜索し,aだけでなく請求人b1も3月9日及び3月10日に警察署に任意同行されて長時間取調べを受けているのであるから,aが,警察官が娘や親戚方を訪ねて事情聴取したり,警察署へ同行を求めたりすることなどによって,「ガタガタ」にすることができると考えたことは推認できる。確定審において前記親戚に関して詳細化された「uを手錠をかけて引っ張ってきたろうか」とする文言も,手錠の点を除けば,請求人b1が現に任意同行されていることから,任意同行の限りでは実現不可能とはいい難い。ただし,前記手錠の点は,記憶保持の過程で警察官の逮捕行為の象徴的な内容 として,追加ないし誇張された可能性があることは否定できない。 D そうすると,脅迫的文言の実現可能性の点は,少なくともaの被害供述のうち前記当初申告部分(「娘の所も親戚の所にも行ってガタガタにしたるで」)の信用性を減殺しないか,仮に減殺するとしてもその程度はごくわずかである。控訴審判決も,当裁判所と同様の見解に立っていると考えて矛盾しない。 歯の治療確かに,確定判決の指摘するとおり,警察官に殴られたので歯が痛くなったと思ったとするaの確定審における被害供述は,勾留中に実施された歯科治療がいわゆる虫歯の治療であることがうかがわれ,歯科医師の警察官調書(甲111,112)中にaから暴行の訴えがあったことなどは たと思ったとするaの確定審における被害供述は,勾留中に実施された歯科治療がいわゆる虫歯の治療であることがうかがわれ,歯科医師の警察官調書(甲111,112)中にaから暴行の訴えがあったことなどは含まれていないなどの客観的状況と整合せず,虚偽を含んでいるといえる。 しかしながら,弁29等に照らすと,aは,4月2日の接見当初,弁護人に対し殴られたから痛くなったのではなく,歯が熱を持って痛くなったから歯医者に行ったとありのままに申告したことが認められ,それにもかかわらず,弁護人が思い込み等により警察官の暴行に関連付けようとしたことがうかがわれる。かかる弁護人の認識が,時間の経過及びaの制約された記憶能力等に影響して,aの保持していた記憶を変容させた具体的な可能性がある。 そうすると,aの前記供述が歯の治療経過と整合しないことが,aの被害供述の信用性を減殺する程度はごくわずかである。控訴審判決も,当裁判所と同様の見解に立っているものとも考えられる。 小括したがって,新旧証拠によれば,aは,任意とはいえ比較的長時間の取調べを受けたところ,根幹部分について客観的状況と整合しない可能 性が高く,合理的に説明できない疑いのある疑問が数点ある,信用性の大きく動揺している自白をしたこと,その後も家族や私選弁護人の助言にもかかわらずその自白を維持していること,aが任意取調べに近接した時期から前記当初申告部分に係る被害を供述していることなどによって,任意取調べにおいて,警察官から同申告部分に係る暴行や脅迫的言動,すなわち,左頬部ないし頭部付近に対して殴打するなどの何らかの暴行を受けたこと及び娘の嫁ぎ先や親戚方に行ってガタガタにするといった趣旨の脅迫的文言を申し向けられたことを述べるaの確定審における被害供述は裏付けられている。その一方, して殴打するなどの何らかの暴行を受けたこと及び娘の嫁ぎ先や親戚方に行ってガタガタにするといった趣旨の脅迫的文言を申し向けられたことを述べるaの確定審における被害供述は裏付けられている。その一方,aの供述する被害内容,aの外観等,請求人b1及び請求人b3の各供述,勾留理由開示法廷等でのaの発言,取調官らの確定審における供述,歯の治療など確定判決等が指摘する事情は,いずれもaの確定審における,前記当初申告部分に係る被害供述の信用性を減殺しないか,仮に減殺するとしてもその程度はわずかである。 よって,aは,任意取調べにおいて,長時間の取調べを受ける中,警察官から前記当初申告部分に係る暴行や脅迫的言動を受けたことにより,信用性が大きく動揺している自白をした可能性が,合理的にみて認められる。任意の事情聴取の際に自白した状況が自白の信用性を肯定する理由となるとした控訴審判決の判断も大きく動揺している。 まとめ以上をまとめると,aの自白の基本的根幹部分が信用できるとした控訴審判決の判断は,新旧証拠を総合すれば,殺害態様の点(前記第4の5⑷),金庫発見場所の知情性を中心とする本件金庫の強取の点(前記第4の4⑴),被害者の死体の遺棄の点(前記第4の4⑵),被害者方における物色の点(前記第4の4⑶)という主要な点のいずれにおいても大きく動揺し,その余の点(前記第4の5⑸)においても動揺を来してい る。そして,事件発生後3年以上の時が経過した後の自白であることや精神鑑定書によるaの特性によっては合理的に説明できないと考えられ,任意の事情聴取の際に自白した状況の点も大きく動揺している。新旧証拠を総合しても,他に,aの自白の基本的根幹部分が信用できると認めるに足りる事情はない。 これらの点からすれば,aの自白に,到底,事実認定の基礎とし得 に自白した状況の点も大きく動揺している。新旧証拠を総合しても,他に,aの自白の基本的根幹部分が信用できると認めるに足りる事情はない。 これらの点からすれば,aの自白に,到底,事実認定の基礎とし得る程度の信用性を認めることはできない。 6 自白の任意性弁護人の主張及びaの供述前記5において判示したとおり,aの自白には,事実認定の基礎とし得る程度の信用性が認められないが,弁護人の主張及び事案の経緯等に鑑み,進んでaの自白の任意性についても検討する。 確定判決等ア確定判決は,前記のとおり,aの確定審における被害供述が虚偽であることを示しているとした(29~32丁)ことに加え,aの任意取調べが4日間連続して行われ,しかもいずれの日もかなり長時間行われたことを考慮してもなお,自白の任意性確保に向けてこれを上回る配慮がされていたというべきであるとして,少なくともaの自白の任意性については何らの問題はないとした(43丁)。 イ控訴審判決は,前記のとおり,aの確定審における被害供述は信用できず,aは任意で自白したものと認めるのが相当であると判断した(9頁)。 検討しかしながら,既に詳細に判示したとおり,新旧証拠を総合すれば,aは,任意取調べにおいて,比較的長時間取調べを受ける中,警察官から,前記当初申告部分に係る暴行や脅迫的言動を受けたことにより,事 実認定の基礎とし得る程度の信用性を認めることはできない自白をした可能性が,合理的にみて認められる。すなわち,aは,警察官から,左頬部付近を殴打するなどの暴行を受け,かつ,「娘の所も親戚の所にも行ってガタガタにしたるで」という趣旨の脅迫的文言を申し向けられた結果,信用性に欠ける自白をするに至った合理的疑いが生じている。そうすると,自白の任意性を肯定した確定判 かつ,「娘の所も親戚の所にも行ってガタガタにしたるで」という趣旨の脅迫的文言を申し向けられた結果,信用性に欠ける自白をするに至った合理的疑いが生じている。そうすると,自白の任意性を肯定した確定判決等の判断は大きく動揺しており,aの自白が任意になされたものではない合理的疑いが生じたものと認められる。 7 間接事実序確定判決は,認定した各間接事実及び本件アリバイの虚偽性からaが犯人であると認定した。他方,控訴審判決は,認定した各間接事実は,それだけでは,aと本件犯行を結びつけるものではないとしながら,アリバイ主張の虚偽性,並びに任意性及び信用性の認められるaの自白内容と併せ勘案すれば,aが本件犯人であると認めるのが相当である旨判断した。そこで,新旧証拠を総合することにより,各間接事実及びaのアリバイ主張についての確定判決等の判断が動揺するか否かの点について検討する。 証人c1及び証人c2の各目撃供述等ア主な旧証拠前記のとおり,確定審において,証人c2は,本件当日午後8時頃,被害者方母屋店舗から,「神さんを信心する」,「珍しいなあ」,「お加持をする」などという被害者の声を聞いたと供述し,証人c1は,本件当日午後7時40分ないし45分頃,証人c12方での忘年会に参加するため,証人c12方に向かって自宅を自動車で出発し,同店舗のすぐ近くである店舗A前交差点を北から東に向けて左折する直前に,同交差点南 詰付近の道路で正面を向いて立っているaを目撃し,その後方には軽トラックのような白っぽい自動車が駐車されていたなどと供述した。 イ確定判決等確定判決は,証人c1の供述から,aが本件当日午後7時40分ないし45分頃の数分後,前記店舗のすぐ近くである前記交差点南詰付近の道路を南から北に向けて歩行していたことが認 た。 イ確定判決等確定判決は,証人c1の供述から,aが本件当日午後7時40分ないし45分頃の数分後,前記店舗のすぐ近くである前記交差点南詰付近の道路を南から北に向けて歩行していたことが認められ,同交差点付近には,同店舗の他にaの立ち回り先があったとは考えられない上,証人c2の供述によれば,本件当日午後8時頃,同店舗において,被害者が,客である可能性の高い人物と会話していたことが認められ,aが常連客であったことを併せ考えると,犯行時間帯において,aが同店舗に居たものと推認することができるとして,犯人性を推認させる間接事実の一つとした(145丁)。 控訴審判決は,証人c1が,本件当日午後7時40分過ぎ頃,前記交差点でaを目撃していること,証人c2が,本件当日午後8時過ぎ頃,客を相手に話していると思われる被害者の声を途切れ途切れに聞いており,聴き取れた言葉は,「神さんを信心する」,「珍しいなあ」,「お加持をする」などであり,aは宗教Aを信仰する信者であることを犯人性を推認させる間接事実として挙げている(15~16頁)。 ウ新旧証拠による検討証人c1及び証人c2の各供述を併せることにより,確定判決はaが本件当日午後8時過ぎに前記店舗に居た事実を認める一方,控訴審判決は同事実までは認められないものの,その可能性が認められると解したと考えられる。そして,既に判示したところによれば,新証拠によっても,証人c1の前記供述が信用できるとする確定判決等の判断は動揺しない。また,証人c2の供述に関し,証人c2が聴き取った被害者の言葉が「神さんを信心する」,「珍しいなあ」,「お加持をする」などであっ たとするものの,その言葉が会話の相手方についてのものか第三者についてのものか認定せず,会話の相手方の属性,すなわち性別,訪問者か さんを信心する」,「珍しいなあ」,「お加持をする」などであっ たとするものの,その言葉が会話の相手方についてのものか第三者についてのものか認定せず,会話の相手方の属性,すなわち性別,訪問者か電話の相手方か,客かどうかなども認定していない控訴審判決の事実認定は動揺していない。 他方,aは,証人c1の目撃供述に反し,aが本件当日午後7時40分ないし45分頃の数分後,前記店舗のすぐ近くである前記交差点南詰付近の道路を南から北に向けて歩行していた事実を否定した。aが前記否定供述をした理由は具体的には明らかとなっていないものの,同行者や立回り先等によっては,本件犯行と無関係の目的も十分考えられる。 また,aが,理由を示さない単純な否定に終始したのも,日常的な出来事であり記憶が減退したなどの可能性も十分に考えられるから特に不自然とはいえず,前記否定がaと本件犯行の結び付きを強く推認させるものでもない。控訴審判決も,これと同様の見解に立っているものと解される。 新証拠であり,特に内容に不自然な点がなく信用できる請求人b1の陳述書(再弁A48)を住宅地図(再弁A47等に添付)と照合すれば,前記交差点付近にはaの親戚である住民n2(aの二女請求人b4の結婚式にも出席している,再弁A49。なお,旧証拠である乙10の11丁も参照)や住民n7らも住んでおり,前記交差点付近には前記店舗の他にaの立ち回り先があったことも十分に想定できる。また,同交差点から同店舗までの距離は50mにも満たないにもかかわらず,新証拠であるpの警察官調書(再弁A22)及び陳述書(再弁A23)によれば,pは,本件当日午後7時50分頃まで同店舗におり,同店舗外で被害者に見送られて帰路についた際,一切人影を見ていない。午後7時40分又は午後7時45分過ぎに同交差点に居たaが (再弁A23)によれば,pは,本件当日午後7時50分頃まで同店舗におり,同店舗外で被害者に見送られて帰路についた際,一切人影を見ていない。午後7時40分又は午後7時45分過ぎに同交差点に居たaが同店舗に向ったのであれば,aとpが鉢合わせするか,そこまで行かなくとも互いの存在を認 識する可能性も相当程度あったと考えられることからすると,aが同店舗に行った可能性はそこまで高いものともいい難い。 そうすると,証人c1及び証人c2の各供述は信用できるものの,控訴審判決がいうとおり,各供述内容どおりの事実が認められるにとどまり,すなわちaが本件当日午後8時過ぎ頃に前記店舗に居たとまでは認められず,その可能性にとどまるところ,新旧証拠を総合すれば,その可能性は更に減殺されたといえる。したがって,証人c1及び証人c2の各供述に係る前記事実がaの犯人性を推認する力は,限られたものにとどまる疑いがある。 本件後のaの行動ア旧証拠旧証拠によれば,aが,被害者に世話になったことを自認する供述をしていること及び被害者失踪後,被害者の捜索活動及び葬儀等に参加しなかった事実が認められる。 イ確定判決等確定判決は,aが,被害者失踪後,被害者に相当世話になっていたにもかかわらず,捜索活動及び葬儀等に参加せず,その理由について,納得できる説明をせず,被害者との関わり合いを避けようとしたことなどからすると,aが,少なくとも,被害者との関わりから心理的に逃避し,又は,素直にそれらの行動に出られないこだわりが心理的に働いていたからであると推認され,したがって,aが,被害者に対し,自己の心中にそのような精神的証跡を残すような行動をしたものと推測することができるなどとして,aが被害者失踪後,被害者の捜索活動及び葬儀等に出かけるのを と推認され,したがって,aが,被害者に対し,自己の心中にそのような精神的証跡を残すような行動をしたものと推測することができるなどとして,aが被害者失踪後,被害者の捜索活動及び葬儀等に出かけるのを避けたことはaが本件の犯人であると推測させる徴表であるとした(131丁,147~148丁)。 控訴審判決は,この点について特に言及していない。 ウ新旧証拠による検討新証拠である住民n8の報告書(再弁A54)は,同人の経歴等や合理的な報告内容に照らして信用できるところ,同報告書によれば,被害者の捜索活動に参加したのは,区三役及び隣組組長ら自治会役員並びに被害者の親戚であり,一般人が参加することはほとんどなかったこと,a及び被害者が居住していたA地区では葬儀に必ず参加するのは,親戚関係,区長,故人の属する隣組組長,同隣組内の都合がつく人,地元選出の町議会議員及び故人・家族の交際関係者であること,平成4年度分区前のA地区は人口約1400,世帯数約400と小さくない規模の集落である上,aと被害者は別の隣組であったことが認められる。 そうすると,新旧証拠を総合すると,aが被害者の捜索活動及び葬儀等に参加しなかったとしても何ら不自然であるとはいえず,かかる事実からaの犯人性を推認することはできないというべきである。控訴審判決も当裁判所と同様の見解に立ち,葬儀等不参加の点を間接事実として列挙しなかったものと解される。 アリバイア aのアリバイ主張aの主張するアリバイは,次のとおりである。すなわち,aは,dの具合が悪いため,本件当日,証人c3を連れてd方へ行きお浄めをした,証人c3を証人c3方まで送ると,証人c14,証人c15及び証人c16が,仕事上がりで酒を飲んでおり,「お前も上がれ」と言われたので証人c3方に上が 件当日,証人c3を連れてd方へ行きお浄めをした,証人c3を証人c3方まで送ると,証人c14,証人c15及び証人c16が,仕事上がりで酒を飲んでおり,「お前も上がれ」と言われたので証人c3方に上がり,酒を飲んでその場で寝てしまった,本件翌日,証人c3にコーヒーを入れてもらい帰ったなどというものである(以下「本件アリバイ」という。)。 イ主な旧証拠確定審において,証人c16,証人c14,証人c15,証人c3(以 下,4名を併せて「証人c16ら」という。)及びaがお浄めに行ったd方の関係者である証人c17,証人c18,証人c19(以下,証人c17及び証人c18と併せて「証人c17ら」という。)が以下のとおり供述した(各人の証人尋問調書)。 証人c16の供述は,本件当日,親方の証人c15及び同僚の証人c14と3名で証人c3方で酒を飲んだ,証人c3は飲んでいる途中,縁側の方から3名が飲んでいる部屋に入ってきた,証人c3がそれまで家の中に居たか,外から帰って来たかはわからない(証人尋問調書1971~1972丁),証人c3が入ってきてから五,六分経った午後7時か午後7時過ぎ頃,aが窓越しに部屋の中を覗いていた(同1943~1944丁),aは15分から30分くらい外でもごもごしており(同1975丁,1978丁),何か用事があり待っているのだと考え,aに悪いと思った証人c16は帰ることにして,ガラス戸からaとすれ違って辞去した(同1962丁),証人c16が帰った後,aがどうしたかは知らない,証人c16は,aと一緒に飲んでおらず,aにお酒を注いだことやaの肩を叩いたこと,証人c14がお酒を買いに行ったことの覚えはない(同1954~1955丁)というものである。 証人c15の供述は,本件当日,簡単な忘年会として(再検104も お酒を注いだことやaの肩を叩いたこと,証人c14がお酒を買いに行ったことの覚えはない(同1954~1955丁)というものである。 証人c15の供述は,本件当日,簡単な忘年会として(再検104も参照),証人c14及び証人c16と3名で酒を飲み,証人c3は同じ部屋にいて飲んでいる間外出しなかったように思うし(証人尋問調書2119丁,2133丁,2138丁),証人c16の妻以外は誰も来なかった(同2111丁,2119丁),aはガラス戸のところに立っていなかった(同2119丁),aとは飲んだことも話したこともない(同2137丁),警察が最初に聴取に来た時は証人c14も一緒に働いていた(同2115丁)などというものである。 証人c14の供述は,検察官及び弁護人からの尋問に対して,昭和5 9年12月20日過ぎに給料を持ってきた証人c15及び証人c16と自宅である証人c3方で飲んだ(証人尋問調書2073丁),その際,aは途中から来ていない(同2054~2055丁),証人c16が帰る間際,ガラス戸の外にaを見てはいない(同2063丁),aが証人c3方に上がったことはないし,泊めたこともない(同2056~2057丁),妻の証人c3は,証人c15及び証人c16が来た時,家にいた(同2054丁),aと証人c3がお浄めに行っていたことは知らない(同2056~2057丁)などというものである。a本人が証人c3方で酔いつぶれて寝たことについて尋問すると,証人c14は,「わしは知らんでよ。酔いつぶれたんか,なんや知らんでよ。わしはもう寝てたんか,証人c15と証人c16と飲んだ時は,もう酒が二,三合か残ってるにゃ。 そのときに,わしはもう酔うてたさかいに,もう寝たがな。そんなん覚えないわ。わしは知らんわ。お前が泊まったやら,泊まってへんやら,飲んだやら 証人c16と飲んだ時は,もう酒が二,三合か残ってるにゃ。 そのときに,わしはもう酔うてたさかいに,もう寝たがな。そんなん覚えないわ。わしは知らんわ。お前が泊まったやら,泊まってへんやら,飲んだやら,そら,わし知らんな。知らんもんは知らん。わしは正直なもんや」(同2094丁)と答えた。 証人c3の供述は,検察官及び弁護人からの尋問に対して,aが,証人c3方で,証人c14らと一緒に酒を飲んだことがあるか,証人c3方に泊まったことはあるかと検察官から尋問されたことに対してこれらを否定した他(確定審第48回公判における証人尋問調書1985丁以下),d方にお浄めに行く際は,大体午後4時過ぎに出て,午後6時頃に自宅へ帰る(同2005丁),年末に行った際も午後4時半頃に出た(同2010丁),夫の証人c14から「この宗教に入らへんだら,こんなことない」と言われた(同2025丁)などというものである。証人c3は,a本人が「本件当日,dのとこに二人でお浄め行ったな」と尋問すると,「もう忘れてしまった」(同2033丁),「家に帰ったら証人c15と証人c16と証人c14と酒を飲んでたがな」と尋問すると,「覚え てへんな」(同2034丁),aが酒を飲んで寝てしまったということがあったのかどうか尋問すると,「前のことやでな,忘れたわ」(2037丁),「そういうコーヒーを出してやったようなことは」と尋問すると,「あんまり飲み過ぎると,みな,倒れはるのやわ。それで,誰でもそういう倒れるさかいに,もうそんなもん,ごちゃごちゃに,倒れてたら,また誰と誰とというのも,なんや,誰が帰ったんかなと言うのと一緒で,わからへんし,この人が泊まってたんやろうなというようなことで」(同2038丁)と答えるなどした。 証人c17の供述は,d方に里帰りしたときにaを見た,里 んや,誰が帰ったんかなと言うのと一緒で,わからへんし,この人が泊まってたんやろうなというようなことで」(同2038丁)と答えるなどした。 証人c17の供述は,d方に里帰りしたときにaを見た,里帰りしたのは本件翌日と思われる,その理由としては,仕事納めが本件当日であり,仕事納めの日に会社から帰るのは夕方頃でその後に里帰りすると遅くなるところ,この時は,里帰りの途中でスカートを買って,d方に午後5時半か午後6時くらいに着いたから,本件当日に帰るのは時間的に合わないことを挙げ(証人尋問調書2199丁),仕事納めの日の帰宅時間は,普段よりちょっと早いくらいと思うが(同2197丁),何時まで仕事したかについて日報や出勤簿を確認していない(同2205丁)などというものである。証人c18の供述も同様である。証人c19の供述は,aがお浄めに来た日に証人c17及び証人c18が帰って来た,aは,午後4時半か午後5時頃に来たというものである。 請求人b1の昭和60年9月17日付け警察官調書(甲120)は,本件翌日頃,aが,本件当日,石塔にお浄めに行って,在所まで戻ってきて,一杯呼ばれて泊まっていたと述べていたというものである。d方は,滋賀県蒲生郡蒲生町石塔にある。 証人c20は,確定審において,aが,本件翌日午後3時30分ないし午後4時頃,被害者方店舗を覗き,「いっぱいやなあ」と言って帰ったなどと供述する(証人c20の証人尋問調書)。 ウ確定判決等確定判決は,aの本件アリバイに関する供述は,相当具体性に富んでいるものの,ともに飲酒したと主張する相手方及びお浄めを受けた相手方の供述とは全く一致していないことは明らかであるとした。その上で,証人c16らの各供述の信用性について,①各供述の間では食い違う部分もあるが,aが酒席に加 たと主張する相手方及びお浄めを受けた相手方の供述とは全く一致していないことは明らかであるとした。その上で,証人c16らの各供述の信用性について,①各供述の間では食い違う部分もあるが,aが酒席に加わったことはないとの根幹部分では一致しており,食い違う部分はいずれも微細な問題である,②仮に,aが真実酒席に加わっていたとすれば,親方と人夫の間の個人的な酒宴に全くの部外者が加わったわけであるから,同人らの記憶に残らないはずはない,③そうすると,同人らはaが無実であることを知りながら,口裏を合わせてaを陥れていることになり,偽証になるばかりか,人倫にもとる行為であるが,いずれの証人にもそのようなことまでしてaを罪に陥れる理由は見当たらず,④むしろ,証人の中には,aと同一の信仰を有する証人c3や,親戚関係がある証人c16も含まれているとした(139丁)。⑤また,証人c17らの各供述から,a及び証人c3がd方へお浄めに行った日は本件翌日であると認められるとした。 結論として,確定判決は,本件アリバイが虚偽であると認定し,aが本件犯行以外に秘匿すべき事情を何ら提示していないことに徴すると,本件犯行を隠し立てするために虚偽のアリバイ主張をしていると推認するほかないとして,この事実をaと本件犯行を結びつける間接事実の一つと位置付けている(148丁)。 控訴審判決は,証人c16らが,本件当日に証人c3方で3名で一緒に酒を飲んだことはあるが,aと一緒に飲んだことはない旨明確に証言し,また,証人c14及び証人c3の夫妻が,本件当日にaを証人c3方に泊めたことはない旨明確に証言しており,弁護人やa自らの反対尋問に対しても動揺は見られない,そして,証人c16らに,aを陥れる ために,aの不利になるように,一致して虚偽の証言をするような動機や事情は はない旨明確に証言しており,弁護人やa自らの反対尋問に対しても動揺は見られない,そして,証人c16らに,aを陥れる ために,aの不利になるように,一致して虚偽の証言をするような動機や事情は見当たらないとした。また,証人c17らの供述を総合すれば,a及び証人c3が,d方にお浄めに行った日は本件翌日であると認められるとした(42頁以下)。 結論として,控訴審判決は,aのアリバイ主張は虚偽であると認定し,その主張を排斥し,アリバイ主張の虚偽性を各間接事実及び任意性並びに信用性の認められるaの自白内容などと併せ勘案し,aを犯人と認定している(44~45頁)。 エ主な新証拠一方で,証人c3の確定審における供述の信用性を減殺するものとして,証人c3が,弁護人等の聴取に対し,本件アリバイに沿った供述をした様子を録音録画したビデオテープ等(再弁A44,A45,A58,A59,D3,D4,D31,D32)が,他方で,同信用性を高めるものとして,証人c3が確定審における供述が正しい旨供述した旨の検察官調書(再検11)が提出されている。他に,各証人の供述の信用性を減殺又は高めるものとして,各証人の供述調書等が提出されている。 オ新旧証拠による検討確定判決等による信用性評価の構造確定判決は,aの本件アリバイ主張の経緯が不審であって,aの容疑を強めるものとなることは否定できないとする一方(144丁),控訴審判決はそのような評価を示しておらず(42頁),本件アリバイ主張の経緯自体が不審であるとは解していないとも考えられる。 旧証拠によれば,aは,昭和60年9月17日の事情聴取の際,本件当日は夜勤で出勤していた旨又は自宅で寝ていた旨供述していたものの,その後は,本件アリバイを主張し,昭和63年3月に自白した際,本件アリバイが よれば,aは,昭和60年9月17日の事情聴取の際,本件当日は夜勤で出勤していた旨又は自宅で寝ていた旨供述していたものの,その後は,本件アリバイを主張し,昭和63年3月に自白した際,本件アリバイが虚偽であるといったん述べたが,確定審において,再度本件 アリバイを主張していること,aは,本件翌日,請求人b1に本件アリバイを供述していたことが認められる。そして,aが低い知的能力の持ち主であり,記憶能力等に制約があることや,本件翌日から前記事情聴取まで約8か月の時が経過していることなどからすれば,aは前記事情聴取の際には本件アリバイを失念していたと考えられるから,かかる本件アリバイ主張の経緯が不審であるということはできないと考えられる。 旧証拠によれば,aは,捜査段階において,警察官に本件アリバイが虚偽であり,①本件当日に証人c3方を覗いたことと,②本件翌日にd方にお浄めに行く予定だったこととを併せて作り上げたと供述して,虚偽のアリバイを作出した経緯を説明する。しかしながら,①部屋を覗いただけで参加者が蒲生の親方であることや,タコの造りが出ていることなどが認識できるか疑問であること,②これからd方にお浄めに行くというときに,昨日はd方にお浄めに行ってきたと,必要のない嘘をつくのか疑問であることからすると,虚偽内容の本件アリバイを作出した経緯にかかるaの前記供述は不自然であると思われる。確定判決が,前記のとおり,本件アリバイに関するaの供述内容が具体的であると指摘していることなどに照らすと,確定判決等も,同様の判断を前提にしていると解される。 そうすると,本件アリバイは内容が具体的であるし,aの本件アリバイ主張の経緯に不審な点があるということもできない。それにもかかわらず,確定判決等が本件アリバイを虚偽と認定したのは,本件アリ る。 そうすると,本件アリバイは内容が具体的であるし,aの本件アリバイ主張の経緯に不審な点があるということもできない。それにもかかわらず,確定判決等が本件アリバイを虚偽と認定したのは,本件アリバイと矛盾している証人らの各供述が信用できると判断したからであるといえる。 そして,確定判決等が各証人の供述の信用性に関して指摘する前記各事情の中でも,本件アリバイにおいてaと終始行動を共にしたとされ,aと信仰を同じくする証人c3が,本件アリバイを否定する供述をした 点,及び証人c3の同供述と証人c16,証人c14及び証人c15の供述とが根幹部分において一致しているとみられる点が,最も重要な事情と考えられ,これらと他の各事情を総合的に考慮して本件アリバイ主張を虚偽と断定したものと解される。 証人c3の確定審における供述の信用性ところで,前記エの新証拠によれば,証人c3は,平成17年5月,弁護人に対し,aが本件当日夜,証人c3方で飲酒し,朝まで寝ていたなどと述べ,同年12月,検察官に対し,弁護人に話した内容は虚偽であり,確定審での供述が真実であるなどと述べ,平成18年1月,平成24年6月及び平成28年3月,弁護人,請求人b4,住民n3に対し,aが本件当日夜,証人c3方で飲酒し,寝ていたかのように述べるなどしており,本件当日から長期間経過した後の供述であることを考慮しても,証人c3が会話の相手方によって内容を変え,当該相手方の期待する内容を述べていることが強くうかがわれる。なお,旧証拠において,請求人b1及びaの妹である証人c21は,確定審前に証人c3に対し,aが証人c3方に泊まったことがあるか確認したところ,証人c3がこれを認めた旨供述している。 確定審における証人尋問において,証人c3は,出廷に当たりこの宗教に入らへん 確定審前に証人c3に対し,aが証人c3方に泊まったことがあるか確認したところ,証人c3がこれを認めた旨供述している。 確定審における証人尋問において,証人c3は,出廷に当たりこの宗教に入らへんだら,こんなことないと言うなどした(証人c3の確定審第48回公判における証人尋問調書2025丁)証人c14と同様に証人として,証人c14と婚姻・同居を継続したまま尋問に臨んでおり,検察官から主尋問において,aが,証人c3方で,証人c14らと一緒に酒を飲んだことがあるか,証人c3方に泊まったことはあるかという誘導尋問をされ,これらを否定した。そして,証人c3は,aからの本件アリバイに関する発問に対しては,忘れたとか覚えていないなどとはぐらかすような供述に終始し,aの発問を明確に否定することはなかっ た。 このように新証拠によって認められる,本件アリバイに関する証人c3の供述の変遷及びそれからうかがわれる証人c3の供述ないし発言の傾向を前提として,証人c3の確定審における供述を検討すると,同供述は,そもそも全体として本件アリバイを明確に否定している趣旨とは評価し難い上,証人c3は,質問者に対し迎合的な返答をしている可能性が,合理的にみて認められる。そうすると,新旧証拠を総合すれば,証人c3の確定審における供述の信用性は大きく動揺しており,これに依拠することができない疑いが生じた。 このように,本件アリバイの虚偽性に関する最も重要な根拠と解される証人c3の供述の信用性は大きく動揺しているところ,それでもなお確定判決等が指摘した各事情によって,各人の確定審における各供述のうち本件アリバイを否定する部分の信用性を肯定した確定判決等の判断が維持できるのか,更に検討する。 証人c15及び証人c14の各供述の信用性本件アリ ,各人の確定審における各供述のうち本件アリバイを否定する部分の信用性を肯定した確定判決等の判断が維持できるのか,更に検討する。 証人c15及び証人c14の各供述の信用性本件アリバイは,aが証人c3方での酒席に参加してそのまま宿泊したことをその根幹部分としており,かかる根幹部分を否定する証拠は,証人c15,証人c14及び証人c3の各供述である。確定判決も認めているとおり,証人c16は,aが本件当日,証人c3方に来ていた旨供述しており,自身が辞去した後のことは知らないと述べていることからすれば,証人c16の供述は本件アリバイのうちaが証人c16と酒を飲んだとする点のみを否定するものであって,決して本件アリバイの根幹部分を否定するものではない。 そして,前記のとおり証人c3の供述の信用性が新証拠により大きく動揺しているため,本件アリバイの根幹部分を否定する証人c15及び証人c14の各供述の信用性を肯定した確定判決の判断が,証人c3の 供述の信用性が大きく動揺していることを前提としてもなお維持できるかにつき検討する必要が生じた。 まず,証人c15と証人c14は,警察官に対して本件当日の酒席について供述した昭和60年夏頃,親方・子方(人夫)の関係にあり(再検101,証人c14供述),いずれも,警察官から繰り返し事情聴取等をされることにより,aに対し憤りを感じていたことがうかがわれる。 控訴審判決は,証人c16らが弁護人及びaの反対尋問に対しても動揺は見られないと判断しているところ,確かに,証人c15は反対尋問にも動揺していない。一方,証人c14は,前記のとおりaからの尋問に対して,明確には本件アリバイを否定しておらず,確答を避けており,反対尋問に全く動揺していないとはいえないと考えられ,控訴審判決もこの程度 していない。一方,証人c14は,前記のとおりaからの尋問に対して,明確には本件アリバイを否定しておらず,確答を避けており,反対尋問に全く動揺していないとはいえないと考えられ,控訴審判決もこの程度の動揺は踏まえているものと考えられる。 確定判決は,aが真実酒席に加わっていたとすれば,親方と人夫の間の個人的な酒宴に全くの部外者が加わったわけであるから,証人c16らの記憶に残らないはずはないと指摘する。しかしながら,本件当日の酒席は,個人宅の居間での飲酒に過ぎず,部外者が立ち入れないような体裁が整った公式的なものではないこと,aの本件アリバイに関する供述によれば,aが酒席に参加したのは,証人c15や証人c14がある程度飲酒した後であり,その後,酒席がどの程度続いたか,aがどの程度証人c15及び証人c14と交流したかが判然としないことなどからすれば,必ずしも証人c15及び証人c14の記憶に残るものであるとはいい難いと考えられる。そうすると,確定判決の指摘するように元来は親方と人夫の酒席であったとしても,aの同席の有無について証人c15及び証人c14が記憶違い等をしている可能性は否定できず,控訴審判決もこのような見解に立っているとも考えられる。 控訴審判決は,証人c15及び証人c14にaを陥れるために,aの 不利になるように,一致して虚偽の供述をするような動機や事情が見当たらないと指摘している。もっとも,本件において証人c15及び証人c14は,仮に虚偽の供述をするとしても,ありもしない内容を積極的に作出する必要はなく,酒席へのaの同席を単純に否定するにとどまることや,犯行と直接関連する事項ではないこと,両者がaに対して憤りを感じていることなどからすれば,警察官に対して虚偽を述べ,尋問においてもその虚偽供述を維持する可能性が皆無 単純に否定するにとどまることや,犯行と直接関連する事項ではないこと,両者がaに対して憤りを感じていることなどからすれば,警察官に対して虚偽を述べ,尋問においてもその虚偽供述を維持する可能性が皆無とは言い切れないし,控訴審判決もかかる可能性を否定しているものとは解されない。また,控訴審判決は,証人c15及び証人c14が記憶違いにより事実と異なる供述をする可能性を否定してもいない。 現に,aが証人c3方に来たかどうかについて,証人c16の供述と証人c15及び証人c14の供述との間には齟齬があることは確定判決等も前提としていると解され,証人c15及び証人c14の側についてのみ,記憶の減退又は虚偽供述の可能性を否定することはできないと解される。 以上を整理すると,証人c16の確定審における供述は,そもそも本件アリバイの根幹部分を否定するものではないところ,新旧証拠の総合により,本件アリバイを否定する証人c3の確定審における供述の信用性は大きく動揺している。そして,証人c15及び証人c14の各供述について,これを裏付ける客観的証拠はない上,確定判決等が指摘した証人c15及び証人c14の各供述の信用性を高めるその他の事情は認められるものの,いずれも記憶の減退又は虚偽供述の可能性を否定することまではできない。そうすると,新証拠により,証人c3の確定審における供述の信用性が大きく動揺した結果,これと整合することを主要な根拠として肯定されていた証人c15及び証人c14の各供述の信用性も,その影響を受けて大きく動揺したものといわざるを得ない。 d方でのお浄めaがd方でお浄めした日時について,証人c17と証人c18の確定審における各供述は一致しているところ,証人c18は,証人c17に確認した可能性を認めているから(証人c18の証 d方でのお浄めaがd方でお浄めした日時について,証人c17と証人c18の確定審における各供述は一致しているところ,証人c18は,証人c17に確認した可能性を認めているから(証人c18の証人尋問調書2184丁),かかる一致から直ちに日時についての前記供述の信用性を肯定することには慎重であるべきである。そして,本件翌日に里帰りした根拠は,本件当日に証人c17の仕事納めがあり,里帰り当日にスカートを買ったというものであるところ,新証拠によれば,警察官は,昭和61年4月16日頃には,各具体的根拠を把握していたことが認められる(再検68)から,その頃であれば,裏付け捜査によって証人c17らの日時に関する供述の信用性を吟味するための客観的証拠,たとえば,証人c17の出勤簿ないし日報,スカートの購入履歴等に関する証拠を容易に収集することができたと認められる。それにもかかわらず,警察官は,そのような資料を収集し,証拠化することを怠っている(検察官は,当裁判所の証拠開示の勧告に対し,前記具体的根拠の裏付けを主眼とする証拠は存在しないと回答している。平成29年8月18日付け検察官意見書)。当審において証人c17らの供述に客観的裏付けがないことが判明していること,ひいては捜査機関により本来必要な,客観的な裏付捜査が容易であったにもかかわらずこれがなされていないと認められることは,証人c17らの各供述の信用性を検討するに当たり見過ごすことができず,同信用性を動揺させる余地が残る。 なお,お浄めが本件翌日であったとしても,かかる部分は,証人c3方での宿泊と比較すれば,本件アリバイの根幹部分ではない。したがって,証人c17らの各供述の信用性が肯定されるとしても,それのみでは本件アリバイが虚偽と認められないところ,確定判決等も当裁判所と同様の見 宿泊と比較すれば,本件アリバイの根幹部分ではない。したがって,証人c17らの各供述の信用性が肯定されるとしても,それのみでは本件アリバイが虚偽と認められないところ,確定判決等も当裁判所と同様の見解に立っているものと解される。 まとめ以上をまとめると,新旧証拠を総合すれば,証人c16らの各供述のうち本件アリバイの根幹を否定する部分の信用性は大きく動揺している。 この点は,本件アリバイの虚偽性に関して,極めて重要な意味を有している。加えて,証人c17らの各供述の信用性も動揺する余地があり,また,証人c17らの各供述のみでは本件アリバイが虚偽であると認めることができない。そうすると,証人c16ら及び証人c17らの各供述によって本件アリバイが虚偽であるとした確定判決等の認定は大きく動揺した。 よって,本件アリバイが虚偽であることをaが本件犯人であることの理由とした確定判決等の判断は相当に疑わしくなった。 間接事実に関するまとめア確定判決等は,証拠から認定した各間接事実の内容及び同各間接事実がaが本件犯人であると推認する力について判断を異にしているところ,既に判示したところによれば,新旧証拠を総合することにより,以下のとおり各間接事実の認定が動揺し,あるいは,仮にその間接事実が認められるとしてもその事実がaが本件犯人であると推認する力は減殺された。 証人c1及び証人c2 控訴審判決は,証人c1が,本件当日午後7時40分過ぎ頃,被害者方近くの交差点でaを目撃した事実,被害者方の向かいの家の住人である証人c2が,本件当日午後8時から始まるプロレス番組の放映中に,客を相手に話していると思われる被害者の声を途切れ途切れに聞いており,聞き取れた言葉は,「神さんを信心する」,「珍しいなあ」,「お加持をする」などであ 当日午後8時から始まるプロレス番組の放映中に,客を相手に話していると思われる被害者の声を途切れ途切れに聞いており,聞き取れた言葉は,「神さんを信心する」,「珍しいなあ」,「お加持をする」などであり,aは宗教Aを信仰する信者であった事実を認定した。 確定判決は,証人c1及び証人c2の各目撃供述等により認められる再 間接事実から,aが,本件当日夜,被害者方母屋店舗(兼住居)に居り,犯行に及ぶ機会があったという間接事実を認定した。 しかしながら,新旧証拠を総合しても,証人c2の聞き取った被害者の言葉が相手方に関するものか第三者に関するものか認定できないし,会話の相手方の属性,すなわち性別,訪問者か電話の相手方か,客かどうかも認定できない。また,前記交差点付近に前記店舗の他にaの立ち回り先があったとも考えられる上,aが同交差点付近から同店舗に行ったとすれば,aとpが鉢合わせるなどして,pに認識された可能性が相当程度あったと認められる。 そうすると,控訴審判決がいうとおり,信用できる証人c1及び証人c2の供述によって,各供述する内容どおりの事実,すなわち,前記交差点付近にaがいたという事実及び証人c2が途切れ途切れに被害者の発言を聞いた事実が認められるにとどまるといえる。加えて,新旧証拠によれば,各事実が,aが本件犯人であると推認する力も減殺されている。 本件丸鏡に付着したa 控訴審判決は,被害者方母屋店舗6畳間の本件机の引き出し内に収納されていた本件丸鏡からaの右手拇指,右手示指及び右手中指の3つの指紋が検出された事実は,aが被害者らの了解なく引き出しを開け,本件丸鏡に触ったことを示すとして犯人性を推認させる間接事実と位置付け,確定判決は,前記指紋検出の事実はaが同店舗内で物色行為をした痕跡であると認定した。 しかしなが らの了解なく引き出しを開け,本件丸鏡に触ったことを示すとして犯人性を推認させる間接事実と位置付け,確定判決は,前記指紋検出の事実はaが同店舗内で物色行為をした痕跡であると認定した。 しかしながら,新旧証拠を総合すれば,確定判決の認定は大きく動揺し,控訴審判決の認定した事実は,本件と別の機会に付着したとするaの弁解を排斥できないから,前記指紋検出の事実がaを本件犯人であると推認する力は減殺されている。 控訴審判決は,被害者の手首に巻かれていた紐の結束方法は,精肉店で肉を竹の皮に包む際の特殊な結束方法と類似しており,aは以前に精肉店で働いていたことがあり,その特殊な結束方法を習得していた事実を認定した。 しかしながら,新旧証拠を総合すれば,被害者の手首の結束方法と肉を竹の皮に包む際の特殊な結束方法とは類似していない疑いがあるから,かかる事実がaを本件犯人であると推認する力は減殺されている。 確定判決は,aが,本件犯行に関わった者でなければ知り得ない金庫発見場所及び死体発見場所を知っていた事実を認定した。 しかしながら,新旧証拠を総合すれば,aが誰から教えられたわけでもないのに,死体発見場所及び警察官金庫現認場所を案内したとする認定は大きく動揺しているから,確定判決の前記認定は動揺している。 本件後のa 確定判決は,aが,被害者の失踪後,被害者の捜索活動及び葬儀等に出かけるのを避けた事実を認定した。 しかしながら,新旧証拠を総合すれば,aが,被害者の捜索活動及び葬儀等に参加しなかったとしても不自然とはいえず,かかる事実がaを本件犯人であると推認する力は減殺されている。 確定判決等は,本件アリバイ主張の虚偽性を認定した。しかしながら,新旧証拠を総合すれば,かかる認定は大きく動揺し,本件アリバイ かかる事実がaを本件犯人であると推認する力は減殺されている。 確定判決等は,本件アリバイ主張の虚偽性を認定した。しかしながら,新旧証拠を総合すれば,かかる認定は大きく動揺し,本件アリバイは虚偽のものではなかった疑いが生じている。 イ以上のとおり,新旧証拠により,前記各間接事実の認定が動揺し,あるいは,当該間接事実が認められるとしても,aを本件犯人であると推 認する力は減殺されている。そして,新旧全証拠によって認められる間接事実(確定判決等が認定した前記各間接事実を含む)中に,aが犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係は含まれていない(最高裁判所平成22年4月27日第三小法廷判決・刑集64巻3号233頁参照)。 したがって,前記各間接事実からaの犯人性を認定した確定判決はもとより,前記各間接事実とaの自白とを併せてaの犯人性を認定した控訴審判決の判断も,おおいに疑わしくなったものというほかない。 第5 結語確定判決は,aの自白の任意性を肯定するものの,その信用性を否定し,本件アリバイ主張の虚偽性を含めた間接事実を総合評価することにより,aが本件犯人であると認めた。控訴審判決は,自白の任意性及び信用性を肯定し,自白,間接事実及びアリバイ主張の虚偽性を総合評価することによりaが本件犯人であると認めた。 しかしながら,既に判示したところによれば,新旧証拠を総合することにより,aの自白の任意性及び信用性のいずれもが大きく動揺した。 すなわち,aの自白には,事実認定の基礎とし得る程度の信用性を認めることはできない上,任意性について合理的な疑いが生じた(前記4ないし6)。また,新旧証拠を総合することにより,本件アリバイの虚偽性を含む確定判決等の認定 ,事実認定の基礎とし得る程度の信用性を認めることはできない上,任意性について合理的な疑いが生じた(前記4ないし6)。また,新旧証拠を総合することにより,本件アリバイの虚偽性を含む確定判決等の認定した各間接事実の認定が動揺するか,あるいは仮に当該間接事実が認められるとしてもその事実がaが本件犯人であると推認する力は減殺された(前記4,7)。そして,認められる間接事実中に,aが犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係は含まれていない。 したがって,確定判決等がaが本件犯人であると認めた理由はその主要な部分がおおいに疑わしくなっており,新旧全証拠を総合しても,aが本件犯人であると認めるに足りる事情はないから,確定判決等の事実認定には合理的な疑いが生じるに至ったものといわざるを得ない。 以上を総合すると,当審において取り調べた前記各新証拠が確定審の審理中に提出されていたならば,aを本件犯行について有罪と認定するには,合理的な疑いが生じたものと認められる。したがって,前記各新証拠は「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当し,本件再審請求は,刑事訴訟法435条6号所定の有罪の言渡しを受けた者に対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したときに該当する。 よって,本件再審請求は,理由があるから,刑事訴訟法448条1項,435条6号により,本件について再審を開始することとして,主文のとおり決定する。 平成30年7月11日大津地方裁判所刑事部裁判長裁判官今井輝幸 裁判官湯浅徳恵 裁判官加藤靖之 裁判長 裁判官今井輝幸 裁判官湯浅徳恵 裁判官加藤靖之

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