主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 2 被控訴人主文同旨第2 事案の概要 1 本件は,名古屋市によって設立された特殊法人である名古屋市土地開発公社(公社)が名古屋市の委託により将来名古屋市に譲渡することを予定して先行取得した土地の一覧表である保有土地一覧表について,名古屋市の住民である被控訴人が名古屋市公文書公開条例(本件条例)に基づき公開請求をしたところ,控訴人が同一覧表中,土地の価格等が記載された「取得」欄及び「積上」欄を非公開とする一部公開決定(本件決定)をしたことから,被控訴人がその非公開部分の取消しを求めた事案である。 原審は,被控訴人の請求を認容したところ,控訴人が控訴したものである。 2 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定可能な事実),争点,及び争点に関する当事者の主張は,以下に付加訂正するほか,原判決「第2 事案の概要」の各該当欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 原判決の訂正(1) 原判決6頁25行目の「本件非公開報」を「本件係争情報」と改める。 (2) 原判決10頁22行目及び11頁9行目の「本件係争部分」を,いずれも「本件係争情報」と改める。 (3) 原判決12頁22行目の「実体」を「実態」と改める。 4 控訴人の当審主張(1) 争点(1)(本件条例1号該当性について)ア 「特定の個人が識別され得るもの」本号は,個人のプライバシー権を保護するため,個人情報を非公開と 「実態」と改める。 4 控訴人の当審主張(1) 争点(1)(本件条例1号該当性について)ア 「特定の個人が識別され得るもの」本号は,個人のプライバシー権を保護するため,個人情報を非公開とすることを定めているが,本号に該当するには,「個人の意識…所得,財産,社会活動等に関する情報」であること及び「特定の個人が識別され得るもののうち通常他人に知られたくないと認められる」情報であることの要件を満たす必要がある。 本件係争情報は,土地の取得価格に係る情報(土地を取得する際に支払った補償金の額を含む。)であり,地番を含む所在地,地目,面積及び契約年月日が1筆の土地ごとに分けて掲載されており,これと一般に取得可能である登記簿とを照合すれば,特定の個人が識別されうるものであることから,個人の「所得,財産」に関する情報であって,「特定の個人が識別され得るもの」に該当することは明らかであり,この点については,原判決も同様の判断をしており,妥当である。 イ本件係争情報が「通常他人に知られたくないと認められる」情報に該当すること(ア) 土地の取引価格のプライバシー性について西尾鑑定士陳述書(乙30,31)において,土地の取引価格は「取引等の必要に応じて個別的に形成されるのが通常であり,しかもそれは個別的な事情に左右され」,その鑑定評価は,「高度な知識と豊富な経験及び的確な判断力を持ち,さらに,これらが有機的かつ総合的に発揮できる練達堪能な専門家によってなされるもの」であって,「公示価格と鑑定評価にあたって求められる『公示価格に規準した価格』との間に数段階に及ぶ価格修正を行うことが必要であり,各段階において不動産鑑定士としての専門的な知識と豊富な経験,明確な判断力が要求」され,さらに「地価公示価格と『公示価格に規準した価格』とは一定の乖離 間に数段階に及ぶ価格修正を行うことが必要であり,各段階において不動産鑑定士としての専門的な知識と豊富な経験,明確な判断力が要求」され,さらに「地価公示価格と『公示価格に規準した価格』とは一定の乖離が発生するのが一般的であり,且つ鑑定評価額と『公示価格に規準した価格』との間にも相応の開差が存する」こと,さらには,具体的に容易に地価公示から規準できない例についても説明した上で,「現実の不動産はその存在が極めて複雑多岐であり,公示価格等をもって一般の方々が不動産の正確な価格を推測することは極めて難しい」と記載されているように,土地の取引価格は,非常に個別性が強く,公示価格等をもって一般人が本件係争情報である土地の取得価格を推測することは極めて難しい。 同様に,大阪高裁平成14年4月25日判決(乙34)においても,「土地の価格は,多数の条件に複雑に規定される性質のものであり,一律に算出できるものではない。すなわち,同一地域に存在する土地であっても,各個の土地の間口,奥行,地積,形状,道路との接続状況等の諸要因によって,それぞれ土地の単価は異なるものであるし,また,同一の土地でも,評価時点が異なれば,その価格は変動するものであり,個別性が強いものであるということができる」(3頁12行目から18行目まで)として取引価格の個別性を認定している。 このように,土地の取引価格は個別性が強いものであることに鑑みれば,土地取引価格に対する要保護性について,「取引価格は公示価格から一応の推定が可能であるから,他人に知られることに抵抗感を有することはない」(原判決17頁)とする原審の判断は,公示価格から一応の推定が可能であることを前提とする以上,誤りというほかない。 したがって,このような誤った前提をもとになされた,「健全な社会常識を有す (原判決17頁)とする原審の判断は,公示価格から一応の推定が可能であることを前提とする以上,誤りというほかない。 したがって,このような誤った前提をもとになされた,「健全な社会常識を有する通常の一般人であれば,公有地拡大法7条に基づき公示価格を基礎に客観的に算出された取引価格を他人に知られることにつき抵抗感を有することはない」(原判決17頁17行目)として,1号該当性を否定する原判決の判断は,失当である。 以上述べたように,個別性が強い土地の取得価格に関する情報は,個人の所得や財産に関する情報であって,「通常他人に知られたくないと認められるもの」として,本件条例1号の個人情報に該当し,非公開とされるべきである。 (イ) 補償金について本件係争情報に含まれる補償金の金額は,以下のとおり,営業補償などの生活再建のための補償金や,家財等動産の補償金を含むものである。 a 建物補償(建物本体に対する補償)b 工作物補償(建物に付随している工作物の補償)c 立木補償(庭木等の移植の補償)d 動産移転補償(居住用家財,商品,事務用什器などの屋内動産及び庭石,据え付けをしていない機械器具などの一般動産の移転料)e 移転雑費補償(移転先を選定するのに要した経費,移転先における建築確認,登記等の官公署に対する法令上の手続に要した経費等)f 祭祀料補償(仏壇等を移転させるために要する経費)g 借家人補償(間借り人がいたり,又は賃貸アパート等の移転に伴い借家人が退去する場合に要する補償)h 営業補償(移転に伴い,営業を廃止したり,休止した場合の補償)この補償金については,土地の取得価格と異なり,基準となるような公示価格というものはなく,他人が推定することは不可能であって,直ちに個人の財産状況を示すものにほかならず,土地の取得価 合の補償)この補償金については,土地の取得価格と異なり,基準となるような公示価格というものはなく,他人が推定することは不可能であって,直ちに個人の財産状況を示すものにほかならず,土地の取得価格と同様に扱っている原判決の判断は,誤りである。 補償金の具体的な金額は非常に個別性が強く,また通常他人に知られたくないものと認められるものであり,この補償金の情報についても,本件条例1号に該当することは明らかである。 (2) 争点(2)(本件条例2号該当性について)ア法人等に関する情報であること土地の売却代金は経理など事業活動を行う上での内部管理に関する情報であることは明白であり,この点に関しては原判決も同様の判断をしており,妥当である(原判決18頁14行目以下)。 イ公開することにより当該法人等又は個人に明らかに不利益を与えること前述のとおり,土地の取引価格は公示価格からおよそ推定できない個別具体的なものであり,また,補償金の金額も非常に個別性が強いものであるから,その金額を開示することは,「相手先である売主にとって,資金繰り事情が明らかになること等により」,「当該法人等の正当な利益を害するおそれがある」(乙32の4頁)ものである。 具体的にいえば,開示された1筆の土地の買収価格と,登記簿を比較することで,取引価格総額よりも過去に設定した抵当権等で担保されている債権総額が上回っていることがわかるなど,経理情報の詳細事項が当該法人の意図しないところでわかってしまうということや,また上記のような情報から「あの会社は危ない」というような風評被害を与えるようなことなどが当然予想されるのであり,当該法人等に不利益を与えることは明らかである。 よって,本件係争情報は本件条例2号にも該当する。 (3) 争点(3)(本 というような風評被害を与えるようなことなどが当然予想されるのであり,当該法人等に不利益を与えることは明らかである。 よって,本件係争情報は本件条例2号にも該当する。 (3) 争点(3)(本件条例6号該当性について)ア本件係争情報が,本号の「試験,契約…職員の身分取扱いその他の本市(名古屋市)の機関又は国等が行う事務事業に関する情報」に該当することについて,争いはない。 イ本件係争情報が「情報を保有する第三者との信頼関係を著しく損なうおそれがあるもの」に該当すること(ア) 名古屋市での土地買収交渉における買収価格の取扱いa 本件保有土地一覧表に記載されている土地は,名古屋市からの取得依頼に基づき,公社が取得したものであるが,名古屋市から公社へ取得依頼する場合,一般的には土地所有者との用地買収交渉は,名古屋市において行っている。そして用地買収交渉は,買収価格を公表しないという前提で行われており,買収価格を公表しないことは用地買収事務の基本中の基本とされている。 b したがって名古屋市では,土地所有者から買収価格の取扱いについて質問が出た場合には,買収価格は職務上知りえた秘密に当たり,公務員の守秘義務があるため(名古屋市が買収した土地の隣接地の所有者から当該土地の買収価格を聞かれた場合など),第三者から照会された場合でも回答しない旨を説明している。 c わが国においては,民間における個々の土地取引価格を一般に公にする制度習慣はなく,一般社会上の通念として,契約上明示されずとも土地取引価格を公表しないことは黙示的な約束となっている(乙32)。 そして,これは公共事業だからといって変わることはなく,土地所有者は,当然買収価格が公開されないものと信頼しているというべきである。 d このように,わが国においては,土地の買 る(乙32)。 そして,これは公共事業だからといって変わることはなく,土地所有者は,当然買収価格が公開されないものと信頼しているというべきである。 d このように,わが国においては,土地の買収価格を公開しないことが一般的であることから,このような取扱いをすることについて,土地所有者とわざわざ文書を取り交わすことはしていないものである。 (イ) 信頼関係を著しく損なう「具体的おそれ」について公共事業のために住みなれた土地や経営基盤となっている土地を手放さなければならない土地所有者が,当初からそれに積極的に応じることは期待できないことから,相当の日数をかけて粘り強い説得を行うことが必要となる。 そこで用地担当者は,土地所有者を繰り返し訪問し,人間関係をつくり,信頼関係を築きあげることにより,買収交渉を行っているのであるが,そのなかで土地所有者から質問があった場合には,前記(ア)b記載のとおり,土地買収価格は公開しない旨の説明をして買収交渉を行っている。 したがって,このような経緯及びわが国における制度・習慣(前記(ア)c)を無視して,行政による一方的な公開を行えば,土地を売却し,及び買収交渉中の土地所有者に不信,不快の念を抱かせ,長期間にわたって築き上げた名古屋市との信頼関係を崩壊させることは明らかである。 (ウ) 以上のことから,原判決は「控訴人は,一般論として土地買収の際に相手方から土地の価格を絶対に漏らさないようにと言われて契約することが多いと述べるのみで,本件係争情報のうち,どの取引についてそのような約束がなされたか等の具体的事情については何ら主張立証」をしておらず(原判決21頁7行目),「具体的おそれに関する客観的主張立証」がなされていないとして,本件条例6号該当性を否定するが,失当といわざるを得ない。 ウ本 具体的事情については何ら主張立証」をしておらず(原判決21頁7行目),「具体的おそれに関する客観的主張立証」がなされていないとして,本件条例6号該当性を否定するが,失当といわざるを得ない。 ウ本件係争情報が「当該又は同種の事務事業の目的の達成が損なわれるおそれがあるもの」及び「その他本市の行政の公正又は円滑な運営に支障を生ずるおそれがあるもの」に該当すること(ア) 原審が,本件係争情報がこれらの情報に該当しないとして,本件条例6号該当性を否定した論拠は,次のとおりである(原判決20頁)。 a 「買収価格は公示価格を規準」とし「公開されなくとも一応の推定が可能」であり,「各土地ごとに画地条件は異なるのであるから,同一事業のために買収される土地であっても画地条件や売却時期により単価に差異が生じることは当然」であることから,「本件係争情報が公開されても,そのことから直ちに未買収地の買収が困難になるということはできない」。 b 本件係争情報に係る価格が,適正に定められたものであるならば,「当該価格と未買収地の価格との相違点を説明しつつ,新たな買収の時期における公示価格を規準とした適正な価格で交渉を進めれば足りる」。 (イ) しかし,次のとおり,(ア)a記載の論拠は失当である。 a 前述したとおり,土地の取引価格は個別性の強いものであり,一般人が,公示価格等から本件係争情報である土地の取得価格を推測することは,極めて困難なものである。 b そして,土地の取得価格を推測することが一般人には極めて困難なものであるが故に,本件係争情報が公開されると,「未買収地の地権者は,自己の土地と既買収地の画地条件や評価時点の違いを正しく認識せずに,既買収地の買取価格を前提に自己に有利な価格を主張し,それに固執すること」が十分に考えられ,「提示された買収 「未買収地の地権者は,自己の土地と既買収地の画地条件や評価時点の違いを正しく認識せずに,既買収地の買取価格を前提に自己に有利な価格を主張し,それに固執すること」が十分に考えられ,「提示された買収価格が適正であったとしても,自己が算定した価格にこだわり,買収交渉が難航」するおそれがあるのである。 また,このように買収交渉が難航した場合にも,市から提示される価格は「公共用地の取得に伴う損失補償基準」に基づいて算出された価格であり,私人間の交渉のように,交渉の打開策として買収価格を上積みすること等が,実際上不可能であり,粘り強く土地所有者と交渉を続ける以外に方法がないものであるから,買収交渉成立までに相当の時間を要することとなるのである(乙34の3頁20行目以降)。 (ウ) また,次のとおり,(ア)b記載の論拠は失当である。 a 用地交渉は,原判決が述べるような「相違点を説明」すれば足りるといった安易なものではない。 b すなわち,「未買収地の土地の所有者が既買収地と自己所有地との諸条件の違い等を正しく評価せずに自己に有利な価格を主張してこれに固執した場合には,たとえそれが実効性のあるものとはいい難いにせよ,買収交渉が難航することは明らかであり,未買収地の円滑な買収に支障が生じる」こととなる(乙34の4頁10行目以降)。 c さらにいえば,「売却を希望していないのにもかかわらず公共事業のための用地買収であるために売却交渉に応じざるを得ない地権者の立場で考えると,自己所有地をできるだけ高額で売却したいと考えるのは当然のこと」であり,そして,「地権者は,通常,自己所有地を高く評価するものであり,既買収地の買取価格が明らかにされると,例えば,同じ地積であるにもかかわらず自己所有地が既買収地との諸条件の違いにより低く評価された場合,それ 「地権者は,通常,自己所有地を高く評価するものであり,既買収地の買取価格が明らかにされると,例えば,同じ地積であるにもかかわらず自己所有地が既買収地との諸条件の違いにより低く評価された場合,それが適正な価格であったとしても,納得できないとして買収に応じず,交渉が難航すること」がかなり多くなると推測されるのである(乙34の4頁19行目以降)。 d 以上のことから「既買収地の本件取得価格等は,本件事業に伴う用地買収の進行中にこれが公開されると用地買収の円滑な執行に支障を生じ,ひいては本件事業自体の適切な執行に著しい支障が生じるおそれがある」ものであり(乙34の4頁25行目以降),これは場所的,時間的に近接しているかどうかに関わりない。 e そして,名古屋市が行っている用地買収事務は,別紙のとおり,そのほとんどが現に買収交渉を行っている状況にあり,また,別紙において用地買収状況を終了と分類した事業に係る土地取得価格が公開された場合にも,上述したような支障が生じることは十分に推測されるところである。 なお,別紙において用地買収状況が「継続中」とした具体的な状況の内容は次のとおりである。 (a) 「買取り申出により取得中」「買取り申出により取得中」とは,公有地拡大推進法5条1項の規定により,地権者からの買取申出により取得中の事業をいう。すなわち,都市計画決定により道路,都市公園等公共用地として予定された土地について,予め公有地として確保する必要から,公共団体に対して用地買収に積極的に協力しようとする地権者から用地買収を進めている段階のものである。 今後,事業認可を受け,さらに未買収の土地について用地買収を進めて行くのであるから,まさに事業継続中のものであり,本件係争情報の公開は当該事業用地買収手続に大きな影響を与える。 (b) 「用地 今後,事業認可を受け,さらに未買収の土地について用地買収を進めて行くのであるから,まさに事業継続中のものであり,本件係争情報の公開は当該事業用地買収手続に大きな影響を与える。 (b) 「用地買収中」「用地買収中」とは,「買取り申出により取得中」の段階から当該事業が進捗し,事業としては次の段階である事業認可を受けた道路,都市公園等の予定地(都市計画決定対象外である社会福祉施設等の名古屋市単独の事業を行う予定地も含む)について,事業遂行のため積極的に用地買収を進めている段階のものである。 これも,まさに事業継続中であり,本件係争情報の公開が用地買収手続に大きな影響を与えることは「買取り申出により取得中」と何ら変わるところはない。 (c) 「売却に向けて調整中」「売却に向けて調整中」の土地とは,公共事業用地を取得するために必要とされる代替地として取得した土地である。 なお,代替地については,事業予定地の買収交渉を円滑に進める(買収交渉の過程で提示する等)ため適当な物件を「前もって購入する場合」と,買収交渉の過程で事業予定地の所有者からの「要望をもとにその条件を満たす物件を購入する場合」とがあり,いずれも公社は名古屋市の依頼を受けて購入するものである。 (エ) なお,原審は,「おそれ」が具体的に存する場合として,「未買収地の所有者が上記のような正当な説得に応じず,本件係争情報を悪用するような個別的な特殊事情を有する場合」や「本件係争情報のうちいずれかの売買に関する価格が公示価格を規準とした価格よりも不当に高額なもので,未買収地の所有者に対して公社又は名古屋市が価格の違いが生じる根拠を合理的に説明できない場合」(原判決20頁14行目以降)が考えられると指摘するが,これらの事情は「おそれ」を不当に狭く解釈するもので,失当である。 に対して公社又は名古屋市が価格の違いが生じる根拠を合理的に説明できない場合」(原判決20頁14行目以降)が考えられると指摘するが,これらの事情は「おそれ」を不当に狭く解釈するもので,失当である。 (オ) したがって,本件係争情報が「当該又は同種の事務事業の目的の達成が損なわれるおそれがあるもの」及び「その他本市の行政の公正又は円滑な運営に支障を生ずるおそれがあるもの」に該当しないとして,6号該当性を否定した原審の判断は,失当なものといわざるを得ず,当然に変更されるべきである。 5 被控訴人の当審主張(1) 争点(1)(本件条例1号の該当性について)ア 「個人の意識,信条,身体的特徴,健康状態,職業,経歴,成績,家庭状況,所得,財産,社会活動等に関する情報」であること本件係争情報中,土地の売却の事実や公社の取得価格が上記情報に該当するか否かについて検討する。 土地の売却の事実や公社の取得価格が判明するだけでは,売り主たる個人が不動産を所有していた事実や,取得価格相当額の代金を受領した事実しか判明しない。 しかも,取引価格は,原判決が認定するとおり「公示価格を規準として客観的に算出されたもの」であり,また,売買に至るいきさつも,個人が土地を売却する必要に迫られて売却したものではなく,名古屋市が行政需要を前提として,個人に働きかけて実施されているのであるから,本件情報は,当該個人の経済的状態や財産状態の一般を示す情報ではない。 イ 「通常他人に知られたくないと認められる」情報(ア) この規定は,条文上「通常」「認められる」という文言から明らかなように,当該情報の当事者が当該情報の公開を望まないということ自体が要件となっているのではなく,開示を望まない情報といえるかどうかを客観的な観点から判断せよという趣旨である。 いう文言から明らかなように,当該情報の当事者が当該情報の公開を望まないということ自体が要件となっているのではなく,開示を望まない情報といえるかどうかを客観的な観点から判断せよという趣旨である。 (イ) ところが,控訴人は,本件条例1号の趣旨を単に個人のプライバシーを最大限保護しようとする点にあると誤って解釈する。上記要件は,非公開事由に限定を加えるところに意義を有するのであって,その趣旨は情報の公開を求める権利とプライバシーとの調整を図る点にある。 (ウ) 控訴人は,土地の取引価格に関する情報は非開示情報に該当すると主張する。 しかし,一般人が売却価格について正確な数字を言い当てることができないとしても,当該売買価格が客観的な規準に従って算定されたものである以上,本件各土地の売買価格は,一般人が相当程度の確度で推測できる範囲内であることが通常である。このような観点からすれば,原判決認定のとおり,売買価格についてのプライバシー性は希薄であり,そして,土地保有の情報が登記簿制度などによって広く開示されている現状からすれば,売買価格が上記要件に該当するとはいえない。 (エ) 補償金に関する情報について本件係争情報が公開されたとしても補償金の内訳が全部分かるものではないし,補償金の中でも特に個別性が強いと思われる営業補償が本件には1件もふくまれておらず,最も件数が多い建物補償は客観的な規準によって算定されるものであることからすれば,控訴人の主張は理由がない。 (2) 争点(2)(本件条例2号の該当性について)本件係争情報は,公社または名古屋市が行政需要に基づいて行う土地の買収に関する売買価格に関する情報である。すなわち,本件売買については,法人が財政的に窮して所有土地を売却したとか,経営方針の変更により土地を売却したなどの事情とは 市が行政需要に基づいて行う土地の買収に関する売買価格に関する情報である。すなわち,本件売買については,法人が財政的に窮して所有土地を売却したとか,経営方針の変更により土地を売却したなどの事情とは無関係に売買がされているのであるから,売買価格が明らかになったとしても,当該法人の財務状態を推認することは一般的に不可能である。 また,売買価格はあくまでもその時点での不動産の価値から客観的に決められるはずであるから,控訴人の主張は理由がない。 (3) 争点(3)(本件条例6号の該当性について)ア控訴人が,本件係争情報が行政運営情報に該当する,と主張する理由は,取得情報の公開によって①第三者との信頼関係を害する,②用地買収が円滑にすすまなくなる,という点にある。 このうち,①に関するものとしては,土地所有者との間で土地の買収価格を開示しないという前提で控訴人の用地買収がなされており,土地所有者との信頼関係を害すること,などと主張され,②については「個々の土地の相違に耳を貸さず,買い主が公開された価格をもとに交渉をするようになるため,交渉が円滑にすすまない」「情報が公開されることになると,それをおそれ,買収には応じない者があらわれる」という点にある。 しかし,①については原審認定のとおり,控訴人においてもかかる形態での買収交渉が恒常的になされていることの根拠が示されておらず,合理性のある主張とは言えない。 ②の問題は,公開された価格を基礎とした価格で土地所有者が買い取りを求める,などの事態が本件係争情報の公開によって発生することが予想される職務執行への障害と評価してよいか,という点である。 そもそも,土地所有者がより高額で土地を売ろうとして,さまざまな買収価格の事例を示す,という事態はほとんど全ての事例に関して見られる 想される職務執行への障害と評価してよいか,という点である。 そもそも,土地所有者がより高額で土地を売ろうとして,さまざまな買収価格の事例を示す,という事態はほとんど全ての事例に関して見られる。しかし,かかる交渉において,土地所有者が示した過去の売買事例が,交渉時と異なる経済状況や交渉時と異なる地価が形成されている状況下でなされた場合や,交渉対象の土地と場所的に離れている場合,土地の形状を異にするような場合などは,当該売買事例が買い取り価格決定の根拠として不合理であることを,買い主である名古屋市側は容易に主張できるのである。土地所有者のかかる不合理な主張は,たとえばバブル期の土地の売買事例をもとに,同額の買い取り価格を主張する等,情報の公開とは無関係にいくらでも発生する筈である。そして,この観点から見れば,仮に土地所有者が主張する価格が,情報の公開によって入手した過去の売買価格をもとにしたものであったとしても,当該情報が交渉対象の土地とは離れた場所の売買価格であったり,経済状況や地価の異なる過去の売買価格であった場合には,地主の主張の不合理さという面では,本件係争情報以外の過去の売買事例をもとに買い取りを要求する場合との相違はない。また,いずれの場合にも名古屋市職員は土地所有者の主張の不合理性を説明しながら,粘り強く用地買収の交渉を行うことが要求されることも同様である。 したがって,過去の売買価格の事例をもとに買い取りを求める者があらわれたとしても,これは土地取得という職務に常時随伴する現象であり,当該地主の特異な土地観や売り主のパーソナリティ等,情報公開制度と無縁の要因に起因するものであること,交渉に携わる名古屋市職員も,売り主の主張の不合理性を説明しながら,名古屋市が相当と考える価格で土地を売却するよう説得することが本来の ソナリティ等,情報公開制度と無縁の要因に起因するものであること,交渉に携わる名古屋市職員も,売り主の主張の不合理性を説明しながら,名古屋市が相当と考える価格で土地を売却するよう説得することが本来の職務であることに鑑みれば,たまたま,情報公開で入手した売買事例を交渉の材料とする地主があらわれたとしても,少なくとも当該地主の主張の不合理性の説明が土地取得担当の名古屋市職員の本来的な職務執行にあたるのであり,本来の職務を執行する義務が生じるからといって,これを情報の公開による弊害とは評価できない。 イ過去の売買事例の持つ意味本件係争情報は,現在進行中の買収交渉からみれば,過去の名古屋市の購入事例である。そして名古屋市においては,土地取得価格は毎年土地価格の鑑定を行い,あらたな鑑定結果にもとづいて算定しているのであるから,仮に土地の形状,面積をほぼ等しくする隣地の売買事例が本件係争情報に含まれていたとしても,本件係争情報に含まれる隣地の売買価格の公開が当該土地の買収交渉において,交渉担当職員の本来的な説得,説明業務の妨げになる,とは言えない。 当該土地の買収事務を担当する名古屋市職員は,交渉相手の地主が近隣の土地の売買事例をもとに買い取り価格の主張をしたとしても,当該売買事例による売買価格が別の時点の鑑定をもとにしたものであることを説明し,地主主張の不合理性を容易に説明することができるからである。 なお,本件決定時の直近の段階で,しかも買収交渉中の予定地の近隣での売買価格が公開された,というような,極めて限定的な場合に限り,本件係争情報の公開にもとづく当該買収交渉への影響が懸念されよう。しかしそもそも,かかる状況において名古屋市側が地主に提案する金額は,公開された隣地の買収価格とほぼ同額ないしは当該価格から合理的に説明できる価 の公開にもとづく当該買収交渉への影響が懸念されよう。しかしそもそも,かかる状況において名古屋市側が地主に提案する金額は,公開された隣地の買収価格とほぼ同額ないしは当該価格から合理的に説明できる価格のはずである。 結局,かかる限定的な場合であっても,用地取得の業務に悪影響を及ぼさないことについては他の情報とは格別の差はない。 第3 当裁判所の判断当裁判所も,被控訴人の請求を認容すべきものと判断するが,その理由は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の「第3 争点に対する判断」のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の訂正) 1 原判決20頁13行目冒頭から22行目末尾までを,「したがって,「当該又は同種の事務事業の目的の達成が損なわれるおそれ」とは,上記の未買収地の所有者が誤解に基づき不当な対価を要求するような場合ではなくて,事務事業の目的の達成が損なわれる具体的おそれを主張,立証する必要がある。しかし,控訴人はこの点につき具体的な主張立証をしないから,本件につき上記おそれがあると認めることはできない。」と改める。 2 原判決21頁7行目の「しかるに,」から12行目末尾までを,「控訴人は,この点につき具体的な主張立証をしないから,本件につき上記おそれがあると認めることはできない。なお,控訴人は,土地買収の際に相手方から土地の価格を絶対に漏らさないように求められる旨主張するが,後記のとおり,用地買収の価格は公的性質を帯びているから,土地所有者が取引価格を知られたくないとの期待があるとしても,そのような期待は保護に値するものとはいいがたい。」と改める。 (控訴人の当審主張について) 1 争点(1)(本件条例1号の該当性)について控訴人は,土地の取引価格は個別性が強いものであることに鑑みれば,公示価格から推定することは不可 たい。」と改める。 (控訴人の当審主張について) 1 争点(1)(本件条例1号の該当性)について控訴人は,土地の取引価格は個別性が強いものであることに鑑みれば,公示価格から推定することは不可能であり,「取引価格は公示価格から一応の推定が可能であるから,他人に知られることに抵抗感を有することはない」とする原審の判断は,誤りというほかない旨主張する。 しかしながら,前記(引用にかかる原判決)のとおり,本件係争情報である土地の取得価格等は,いずれも公示価格を規準として,同一地域においてもそれぞれ異なる間口,奥行き,地積,形状,道路との接続状況等当該土地の有する個別の画地条件を考慮して,算出された公正な価格となっているはずである。このような公正な価格は,当然に公示価格に上記個別の条件により範囲が画された一定の客観的な範囲に存するから,そのプライバシー性は希薄であり,その要保護性に乏しいというべきである。控訴人の同主張は採用できない。 また,控訴人は,本件係争情報に含まれる補償金の金額は本件条例1号に該当する旨主張する。 たしかに,補償金額については,土地の取得価格と異なり,規準となるべき金額は存在せず,個別性がより強いとみられる。しかし,補償金の金額についても,その対象に応じて客観的に公正な金額となっているはずであること,また,当該補償金額によってその個人の全体的経済状況を推認することができるとは考えられず,土地の取得価格と同じく本件条例1号に該当しないというべきである。 2 争点(2)(本件条例2号の該当性)について控訴人は,土地の取引価格ないし補償金の金額を開示することにより,売り主にとって資金繰りが明らかになること等により正当な利益を害するおそれがある等と主張する。 しかし,本件係争情報の前提となる取引は,当該法人 の取引価格ないし補償金の金額を開示することにより,売り主にとって資金繰りが明らかになること等により正当な利益を害するおそれがある等と主張する。 しかし,本件係争情報の前提となる取引は,当該法人が必要に迫られて土地を売却したものではなく,名古屋市が行政需要を前提として,所有者である法人に働きかけて取引に至ったものであるから,当該法人にとって資金繰りが明らかになること等により正当な利益を害するおそれがあるとは認めることができない。 3 争点(3)(本件条例6号の該当性)について(1) 控訴人は,土地所有者との用地買収交渉は,買収価格を公表しないという前提で行われており,土地所有者にその旨の説明をして交渉しており,信頼関係を著しく損なうおそれがある旨主張する。 しかし,用地買収は,通常の私人間の売買と異なり,定められた手続に従って行われ,その取引価格に土地所有者の主観的事情は考慮されず,客観的に公正な金額となっていて,公的性質を帯びているのであるから,土地所有者が取引価格を第三者に知られたくないとの期待があるとしても,そのような期待は保護に値すべきものとはいえない。したがって,現在,土地所有者との間で取引価格に関する情報を秘密にする前提で買収交渉が行われているとしても,そのことを理由に,「第三者との信頼関係を著しく損なうおそれがある」ということはできない。 (2) 控訴人は,本件係争情報が公開されると,未買収地の地権者は,自己の土地と既買収地の画地条件や評価時点の違いを正しく認識せずに,既買収地の買取価格を前提に自己に有利な価格を主張し,それに固執することが十分に考えられ,あるいは,提示された買収価格が適正であったとしても,自己が算定した価格にこだわり,買収交渉が難航するおそれがある旨主張する。 しかし,土地所有者が自己の算定した に固執することが十分に考えられ,あるいは,提示された買収価格が適正であったとしても,自己が算定した価格にこだわり,買収交渉が難航するおそれがある旨主張する。 しかし,土地所有者が自己の算定した価格にこだわるのは,本件係争情報の公開の有無に関わらないとみられる。もっとも,未買収地の予定価格より既買収地の買取価格の方が高額であった場合には,本件係争情報の公開により,土地所有者が当該土地間の個別の差異を無視して同額での買収を求めることが考えられるが,土地の個別性を考慮しない不合理な要求であり,公社及び名古屋市は,土地所有者に対し未買収地と既買収地との相違点を説明して粘り強く交渉を進めるべきである(しかし,逆に未買収地の予定価格より既買収地の買取価格の方が低額であった場合も考えられるのであるから,抽象的にも,本件係争情報を公開することにより事務事業の目的達成が損なわれるおそれが増加するともいうことができない。)。このことは,用地買収状況が「継続中」,あるいは具体的な状況として「買取り申出により取得中」「用地買収中」「売却に向けて調整中」であったとしても,変わるものではない。 そもそも,土地所有者にとっては,近隣地の買収価格を全く知らされず,公社又は名古屋市からの申し出価格が当該土地の公正な価格であるから信頼してほしいと言われるより,近隣地の買収価格を知り,近隣地と当該土地との相違点を認識する方が,当該土地についての買収申し出を充分検討できるというべきである。公社又は名古屋市が買収交渉において,適正な価格で買収に応じてもらえるように土地所有者を説得することが責務であるとすると,交渉に当たっては,必要な情報は開示し,必要な説明をすることが要求されるというべきである。 控訴人の主張は採用できない。 (3) 控訴人の当審での主張立証を検討し 説得することが責務であるとすると,交渉に当たっては,必要な情報は開示し,必要な説明をすることが要求されるというべきである。 控訴人の主張は採用できない。 (3) 控訴人の当審での主張立証を検討しても,当該又は同種の事務事業の目的達成が損なわれるおそれ,情報を保有する第三者との信頼関係を著しく損なうおそれ,あるいはその他名古屋市の行政の公正又は円滑な運営に支障を生ずるおそれについての,具体的な主張立証はないといわざるを得ないから,本件条例6号に該当するということはできない。 (結語)よって,これと同旨の原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第3部裁判長裁判官青山邦夫裁判官藤田敏裁判官倉田慎也は,転補のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官青山邦夫
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