令和2(わ)844 強盗致傷,詐欺被告事件

裁判年月日・裁判所
令和3年6月24日 札幌地方裁判所
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判決文本文6,720 文字)

主文 被告人を懲役6年に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 中小企業庁が所管する持続化給付金制度を利用して同給付金の名目で金銭をだまし取ろうと考え,氏名不詳者らと共謀の上,令和2年7月3日,日本国内において,氏名不詳者が,インターネット回線に接続されたパーソナルコンピュータ又は携帯電話機等を使用して,同庁から同給付金の給付申請の審査等について業務委託を受けた一般社団法人Aが開設した給付申請用ホームページに接続し,真実は,被告人が個人事業者ではなく,前年同月比の事業収入が50パーセント以上減少した月があるなどの事実が存在しないのに,被告人が個人事業者であり,同事実が存在し,同給付金の給付要件を満たすかのように装い,被告人が総合工事業を営む個人事業者であり,「売上減少月」が令和2年3月,「売上減少月の売上額」が0円,「売上減少月の前年売上額」が8万4869円であるなどの虚偽の情報を入力するとともに,同入力内容に沿う内容虚偽の所得税確定申告書の控え,売上台帳等の画像データを添付し,これらを送信して同給付金の給付申請をし,その頃,東京都内,愛知県内又は千葉県内において,A事務局長補佐Bら審査担当者にこれらを閲覧させ,同給付申請が給付要件を満たす個人事業者からの正当な給付申請であると誤信させ,同年7月9日,Bに,被告人に対する同給付金100万円の給付を決定させ,よって,同月10日,Aから業務委託を受けた株式会社Cの担当者に,株式会社D銀行本店営業部に開設された被告人名義の普通預金口座に現金100万円を振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させ,第2 Eと共謀の上,F(当時20歳)から金品を強取する目的で,同年10月2 社D銀行本店営業部に開設された被告人名義の普通預金口座に現金100万円を振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させ,第2 Eと共謀の上,F(当時20歳)から金品を強取する目的で,同年10月2 3日午後7時18分頃,札幌市(住所省略)所在のビル1階出入口通路において,同人に対し,Eが,その背後からいきなり両腕を回して抱き付き,Fを床に投げ倒して転倒させた上,床に倒れている同人の頭部及び顔面を足で多数回蹴り,拳で多数回殴るなどの暴行を加え,その反抗を抑圧し,同人所有の現金100万6220円在中のクラッチバッグ1個(時価約8万円相当)を奪い,その際,前記暴行等により,同人に加療約1週間を要する頭部・顔面打撲傷等の傷害を負わせた。 (証拠の標目)省略(判示第2の事実認定の補足説明) 1 争点関係証拠によれば,共犯者EがFに対して判示の暴行を加えてクラッチバッグ(以下「バッグ」という。)を強取し,Fに判示の傷害を負わせたことは明らかに認められ,本件の争点は,Fに対して抵抗できなくする程度の暴行を加えて金品を奪うことについて,被告人がEと意思を通じ合っており,強盗致傷の責任を負うかである。弁護人は,被告人の供述に沿って,被告人には暴行を加えることなく単にFから金品を奪うことの認識があったにとどまり,その限度でEと意思を通じ合っていたにすぎないから,被告人は窃盗の責任を負うにとどまる旨主張する。 2 被告人とEとの間のやり取りについて 令和2年10月17日(以下,年月は全て令和2年10月である。)に被告人とEがFからバッグを奪うことを初めて話していたところ,Eは,20日の夜に,Fを待ち伏せ中の車内において,被告人からFの膝や金玉を狙ったり下半身を攻めて走りづらくさせて逃げた方がいいのではないかと提案されたの らバッグを奪うことを初めて話していたところ,Eは,20日の夜に,Fを待ち伏せ中の車内において,被告人からFの膝や金玉を狙ったり下半身を攻めて走りづらくさせて逃げた方がいいのではないかと提案されたのに対し,Fを投げ飛ばし転ばせて,殴ったり蹴ったりして時間を作ってからバッグを奪う方がやりやすい旨を伝え,被告人から暴行の加え方は任せる旨を言われた旨証言する。 Eの証言は,22日以降のEと被告人とのテレグラム上でのメッセージの内容に照らして自然でこれとよく整合したものである。すなわち,①22日には,Eから 「一番問題なのがそいつが足が速いかなのさ」とのメッセージを受信すると,被告人が「速くないよ」「普通」「てかまず」「金玉蹴ったり,膝上蹴ったりしたっけ」「走れないから笑笑」「少なくとも数秒は」と返信し,更にEが「うん」「がんばるわ」と返信している。男性の股間を蹴れば当たり方によって,相手の動きを一時的に止めて,バッグを取られることに抵抗できなくすることができると考えられるから,これらのメッセージは,そのことを念頭に置いたものといえる。また,被告人は,②Eから,Fにつき「半殺しにしていいの?」とのメッセージを受信するなどすると,「してもいいけど」「それはEの自由」と返信し,Eからばれやすくなるのかと問われても,「ばれやすいってか,時間無駄って感じ」「バッグ取ることが目的であって,殴ることがメインじゃないから」と返信したほか,③被告人がFを誘って飲みに行った帰り際にバッグを奪う計画を念頭に「おれのことも軽く殴ってもらいたい」とのメッセージも送信した。そして,②③のメッセージの内容は,暴行を加えること自体を止めるメッセージの送信が一切ないことを併せ考慮すれば,バッグを取られることに抵抗できなくする暴行を加えることを前提としたものと考 送信した。そして,②③のメッセージの内容は,暴行を加えること自体を止めるメッセージの送信が一切ないことを併せ考慮すれば,バッグを取られることに抵抗できなくする暴行を加えることを前提としたものと考えるのが自然である。このように,22日の時点でバッグを取られることに抵抗できなくする暴行を加えることを前提としたやり取りが繰り返されていたことは,それ以前から被告人とEとの間でそのような暴行を加えてバッグを奪うことについて認識の共有があったと考えて不自然でない事情であるから,Eの証言とよく整合するものといえる。 また,被告人は,暴力団関係者からの借金の返済のために100万円を用意する必要に迫られていた上,22日にEに送信した「おれ今日で何としてもやりたい」というメッセージからも,大金が入っているとみたバッグをFから奪うことについて強い意欲を有していたことがうかがわれる。そして,大金が入ったバッグを奪われようとすれば相手が抵抗することは被告人らにおいても容易に想像が及ぶはずであるから,抵抗できなくするための暴行を想定していたと考えるのが自然であり,Eの証言は,このことにも整合する。さらに,17日にFからバッグを奪うことを 初めて話した計画が,20日にFを待ち伏せしている間に具体化していった経緯をいう証言内容も自然である。 加えて,Eは,既に自己の刑事裁判の刑が確定して服役中の身であり,偽証による責任を問われる危険を冒してまで虚偽の証言をする動機はなく,その証言態度は,判示のような暴行を加えることはE自身の発案であり,本当に半殺しにすることまで考えたわけではない旨述べるなど,殊更に被告人を陥れようとするものでもない。 そうすると,Eの証言の信用性は高いというべきである。 これに対し,被告人は,①Fは詐欺をして金を稼いでいたのでバッ で考えたわけではない旨述べるなど,殊更に被告人を陥れようとするものでもない。 そうすると,Eの証言の信用性は高いというべきである。 これに対し,被告人は,①Fは詐欺をして金を稼いでいたのでバッグを奪うだけなら警察に通報したり通行人に助けを求めたりせず,逃げるEが通行人に阻止されるなどして計画が失敗する可能性は極めて低いから,抵抗された場合の対応を想定していなかったとした上,②暴行まで加えればFが警察に通報し又は通行人に通報される可能性があると考え,Eとの間では暴行を加えずにFの不意を突いてバッグを奪うことを計画していたから,Fに対する暴行を容認するようなやり取りをしたという事実はない旨供述する。 しかし,Fに対する暴行を容認していないという点は,先に指摘した前記⑴の①から③のメッセージの内容や,他に直接暴行を止めるメッセージがないことに照らして不自然である。被告人は,前記⑴の①から③のメッセージについて,冗談や言葉のあやなどと不自然な説明しかしていない。また,被告人の供述は,Fが被告人の想定に沿って行動することのみを前提とした不合理なものであり,通行人に助けを求めず逃げるEを追い掛けるなどという被告人が想定するFの行動自体も不自然である。被告人とEとの間のメッセージの中には「失敗もタイミング逃しも許されない」などと単体で見ればFに暴行を加えないことを想定しているとも解釈できるものがあるが,前記⑴の①から③のメッセージと併せてみれば暴行を加えることを前提としたものと考えられるので被告人の供述の裏付けとはいえない。 したがって,被告人の供述は信用できず,Eの証言の信用性を下げるものではない。 以上のとおり,被告人とEとの間のやり取りに関するEの証言は信用できるから,同証言に沿って,20日の時点で,バッグを奪うに は信用できず,Eの証言の信用性を下げるものではない。 以上のとおり,被告人とEとの間のやり取りに関するEの証言は信用できるから,同証言に沿って,20日の時点で,バッグを奪うに当たりFを床に投げ倒して,殴る蹴るの暴行を加えるとEから伝えられて,被告人がこれをEに任せる旨言ったことが認められる。 3 Fに対して抵抗できなくする程度の暴行を加えて金品を奪うことについて被告人がEと意思を通じ合っていたと認められるか前記2で認定した20日の時点におけるEと被告人とのやり取りを前提とすると,被告人は,実行役を担うEの判断次第では,EがFを床に投げ倒して,殴る蹴るといった暴行に及ぶ可能性を想起していたものと認められる。そして,前記のとおり,被告人は,22日にも,Eとの間で,バッグを取られることに抵抗できなくする暴行を加えることを前提としたやり取りを繰り返し,他方で,そのような暴行にEが及ぶことを直接否定する趣旨のメッセージはなく,Fを半殺しにするような暴行に及ぶことにつきEを諫めるにとどまっていることからすれば,被告人が,Fに対して抵抗できなくする程度の暴行を加えて金品を奪うという限度では,Eによる暴行を容認していたことが強く推認される。 また,大金が入っていると目されるバッグを奪われまいとFが抵抗し,EがFの抵抗を排除する程度の暴行を加える事態になり得ることは被告人にも容易に想像が及ぶはずであるから,被告人が大金が入っているとみたバッグを奪うことに強い意欲を有してEに伝えていたという前記2⑴で指摘した事情や,E自身も金に困っていて犯行に意欲的なメッセージを発していたといった事情は,前記推認を補強するといえる。 以上によれば,被告人は,少なくとも,EがFに対して抵抗できなくする程度の暴行を加えることを認識し,この ていて犯行に意欲的なメッセージを発していたといった事情は,前記推認を補強するといえる。 以上によれば,被告人は,少なくとも,EがFに対して抵抗できなくする程度の暴行を加えることを認識し,この点についてEと意思を通じ合っていたものと認められる。 これに対し,弁護人は,被告人の供述やメッセージのやり取りについての被告人の解釈を前提として縷々主張するが,被告人の供述が信用できないからその前 提を欠いている。その他,弁護人は,Eが見張り役を置く提案をしていたこと,被告人らがFのバッグの形状や持ち方のほか,a地区の人出等の多さを認識していたこと,被告人がEに滑り止め付きの手袋を貸したことなども指摘するが,いずれも金品を取られることに抵抗できない程度の暴行を短時間で加えてその後の逃走を容易にしようとしたと考えても矛盾はしない事情であるから,これらは,前記判断を揺るがすものではない。 4 結論これまでの検討によれば,Fに対して抵抗できなくする程度の暴行を加えて金品を奪うことについて,被告人がEと意思を通じ合っていたと認められ,被告人は強盗致傷の責任を負うといえる。 (法令の適用) 1 構成要件及び法定刑を示す規定被告人の判示第1の所為は刑法60条,246条1項に,判示第2の所為は同法60条,240条前段にそれぞれ該当する。 2 刑種の選択判示第2の罪について有期懲役刑を選択する。 3 併合罪の処理刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に法定の加重をする。 4 宣告刑の決定以上の刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処する。 5 未決勾留日数の算入刑法21条を適用して未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 6 訴訟費用の不負担訴訟費用は,刑事訴訟法18 決定以上の刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処する。 5 未決勾留日数の算入刑法21条を適用して未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 6 訴訟費用の不負担訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。 (量刑の理由) 本件で量刑判断の中心となる強盗致傷において重視すべき事情は,犯行計画を隠してFを複数回待ち伏せ,犯行当日には同人を呼び出すなどの準備の下,背後から不意を突いて同人を後ろに投げ倒し,その頭部や顔面を十回以上殴る蹴るなど,執拗で危険性の高い暴行を加えて多大な苦痛を味わわせるとともに,多額の現金等を奪ったという点である。そして,被告人は,金に困っていたことから,友人であるFが多額の現金をバッグに入れて持ち歩いているとの情報を,同じく金に困っていると相談してきたEに提供してFから現金を奪うことを具体的に提案し,犯行当日は同人の呼出しを発案して実施し,襲う場所や逃走後の待ち合わせ場所をEに指示し,抵抗できない程度の暴行を加えること自体は容認してEを励ますなど,金品を奪うことの実現に向けて主導的に行動した。そうすると,Eが実行役を担い意欲的に暴行に及ぶなどし,被告人自身は暴行についてEほど積極的でなかった点を踏まえても,強盗致傷に関して被告人が果たした役割は,少なくともEと同等とみるべきである。さらに,被告人が,事業者救済のための持続化給付金制度に組織的に付け込む悪質な詐欺に加担し,相当額の報酬を得ながら,被害弁償の現実的な見込みがなく,判示第1とは別の持続化給付金詐欺の被害弁償を済ませたEとの責任の相違を考える必要がある点も見逃せない。 このように,本件各犯行に関する事情はかなり悪質である。もっとも,その評価に際し,Fの傷害の程度が比較的軽いものにとどまったことや,Eが取 ませたEとの責任の相違を考える必要がある点も見逃せない。 このように,本件各犯行に関する事情はかなり悪質である。もっとも,その評価に際し,Fの傷害の程度が比較的軽いものにとどまったことや,Eが取り押さえられたことにより現金等が短時間でFの下に戻ったことは,被告人のために考慮できる事情といえる。この点を踏まえると,本件は,同種事案((処断罪)強盗致傷,(共犯関係等)共犯,(強盗の点)既遂,(犯行態様)路上強盗(ひったくり強盗を除く),(凶器等)なし,(処断罪と同一又は同種の罪の件数)1件,(傷害の程度)2週間以内)の量刑傾向の中では,中程度からやや重い部類の間に位置付けられるといえる。 その上で,強盗致傷の点につき不合理な弁解をする被告人には十分な反省が求められるというべきであるものの,被告人が現在21歳と若年で前科もないこと,被 告人の母親が社会復帰後の更生に協力する旨述べたことなど,被告人の今後の反省の深まりによっては,その更生の一助となると考えられる事情があることも併せ考慮して,主文の刑を量定した。 (検察官沼前輝英,同小沼智,国選弁護人田村暢健(主任),同岸田洋輔各出席)(求刑懲役8年,弁護人の科刑意見窃盗罪及び詐欺罪の成立を前提に懲役2年6月〔保護観察付き執行猶予〕)令和3年6月24日札幌地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官石田寿一 裁判官古川善敬 裁判官北村規哲

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