平成27年6月16日判決言渡平成26年(行ウ)第205号退去強制令書発付処分等取消請求事件(以下「A事件」という。)平成26年(行ウ)第207号退去強制令書発付処分等取消請求事件(以下「B事件」という。)平成26年(行ウ)第208号退去強制令書発付処分等取消請求事件(以下「C事件」という。) 主文 1 裁決行政庁が,原告ら各自に対し,平成25年9月5日付けでした,出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決をいずれも取り消す。 2 処分行政庁が,原告ら各自に対し,平成25年11月6日付けでした,退去強制令書を発付する処分をいずれも取り消す。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要 1 本件は,バングラデシュ人民共和国籍の外国人家族(夫婦とその子)である原告らが,各自,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)所定の退去強制対象者に該当する(退去強制事由はA事件原告(夫)が不法入国,B事件原告(妻)とC事件原告(子)が不法残留)との認定に係る異議の申出には理由がない旨の裁決及び退去強制令書を発付する処分を受けたのに対し,A事件原告(夫)とC事件原告(子)が難病等により本邦での治療を必要としており,B事件原告(妻)がその看護をすることが必要であるなどの事情があるにもかかわらず,原告らの在留を特別に許可しなかった上記裁決及びこれを前提としてされた上記処分はいずれも違法であると主張して,これらの取消しを求める抗告訴訟(取消訴訟)である。 2 前提事実以下に掲げる事実は,当事者間に争いのない事実,顕著な事実又は証拠等により容易に認めることのできる事実である。なお,認定に用いた証拠等は,そ を求める抗告訴訟(取消訴訟)である。 2 前提事実以下に掲げる事実は,当事者間に争いのない事実,顕著な事実又は証拠等により容易に認めることのできる事実である。なお,認定に用いた証拠等は,その旨又はその番号(特に断らない限り枝番を含む。)を各事実の末尾に括弧を付して掲げる。 (1) 原告らの身分事項等(争いのない事実,甲1の2)ア A事件原告(以下「原告父」という。)は,1970年(昭和45年)▲月▲日にバングラデシュ人民共和国(以下「バングラデシュ」という。)において出生した,同国の国籍を有する男性である。 イ B事件原告(以下「原告母」といい,原告父と原告母とを併せて「原告父母」という。)は,1982年(昭和57年)▲月▲日にバングラデシュにおいて出生した,同国の国籍を有する女性である。 ウ原告父と原告母は,2003年(平成15年)▲月▲日,バングラデシュにおいて婚姻した。 エ原告母は,2009年(平成21年)▲月▲日,本邦において,長男であるC事件原告(以下「原告子」といい,原告父と原告子とを併せて「原告父子」と,原告母と原告子とを併せて「原告母子」とそれぞれいう。)を出産した。原告子の法律上の父は原告父であり,原告子の国籍はバングラデシュである。 (2) 原告父の出入国及び在留等の状況(争いのない事実,乙1の1)ア原告父は,平成9年10月8日,成田国際空港(以下「成田空港」という。)において,東京入国管理局(以下では入国管理局を「入管」という。)成田支局入国審査官から,在留資格「留学」及び在留期間「1年」とする上陸許可を受けて上陸した。 イ原告父は,上記アから平成13年4月8日までの間は,在留期間の更新又は変更を受けて在留していたが,同月9日以降は,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過し 上陸許可を受けて上陸した。 イ原告父は,上記アから平成13年4月8日までの間は,在留期間の更新又は変更を受けて在留していたが,同月9日以降は,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する状態(以下「不法残留」という。)となった。 ウ原告父は,平成14年8月8日,「P1」名義の身分事項により,情を知らない東京入管局長から,在留資格「就学」及び在留期間「1年」とする在留資格認定証明書の交付を受けた。 エ原告父は,平成15年3月4日,東京入管に出頭して入管法違反を申告し,同月14日,退去強制令書の執行を受けて自費により退去した。 オ原告父は,平成15年5月23日,成田空港において,P1名義の旅券(以下「本件旅券」という。)を行使し,情を知らない東京入管成田支局入国審査官から,在留資格「就学」及び在留期間「1年」とする上陸許可を受けて本邦に上陸した。 カ上記オから後記キまでの間における原告父の出入国及び在留等の状況は,別紙2「原告父の出入国及び在留等の状況」第1のとおりである。 キ原告父は,平成19年9月3日,名古屋入管において,P1名義の身分事項により,情を知らない名古屋入管局長から,在留資格「人文知識・国際業務」及び在留期間「1年」とする在留資格の変更の許可,及び数次の再入国の許可(以下「本件再入国許可」という。)をそれぞれ受けた。 ク原告父は,平成19年9月14日,成田空港から出国した(以下「本件最終出国」という。)。 ケ原告父は,平成19年11月18日,中部空港において,本件旅券を行使し,本件再入国許可により本邦に入国した(以下「本件最終入国」という。)。 コ本件最終入国から後記サまでの間における原告父の出入国及び在留等の状況は,別紙2「原告父の出入国及び在留等の状況」第2のとおり 再入国許可により本邦に入国した(以下「本件最終入国」という。)。 コ本件最終入国から後記サまでの間における原告父の出入国及び在留等の状況は,別紙2「原告父の出入国及び在留等の状況」第2のとおりである。 サ原告父は,平成22年9月8日,本件旅券を行使し,情を知らない東京入管局長から,在留期間「2日」(在留資格「特定活動」)とする在留期間の更新許可を受けた。 シ原告父は,平成22年9月11日以降,表見上は不法残留となった。 (3) 原告母の出入国及び在留等の状況(争いのない事実,甲1の2,乙1の2)ア原告母は,平成17年7月13日,東京入管において,夫をP1とする虚偽の婚姻証明書(以下「本件婚姻証明書」という。)を提出し,情を知らない東京入管局長から,在留資格「家族滞在」及び在留期間「1年」とする在留資格認定証明書の交付を受けた。 イ原告母は,平成17年9月16日,成田空港において,夫の氏名がP1と記載された旅券を行使し,情を知らない東京入管成田支局入国審査官から,在留資格「家族滞在」及び在留期間「1年」とする上陸許可を受けて本邦に上陸した。 ウ上記イから後記エまでの間における原告母の出入国及び在留の状況は,別紙3「原告母の出入国及び在留等の状況」のとおりである。 エ原告母は,平成22年7月15日,東京入管局長から,在留期間「2月」(在留資格「特定活動」)とする在留期間の更新許可を受けた。 オ原告母は,平成22年8月24日,東京入管局長に対して在留期間の更新許可申請をしたが,同年9月8日,同申請を取り下げた。 カ原告母は,平成22年9月16日以降,不法残留となった。 (4) 原告子の在留等の状況(争いのない事実,乙1の3)ア原告子は,平成21年7月13日,名古屋入管において,名古屋入管入国審査官から 原告母は,平成22年9月16日以降,不法残留となった。 (4) 原告子の在留等の状況(争いのない事実,乙1の3)ア原告子は,平成21年7月13日,名古屋入管において,名古屋入管入国審査官から,在留資格「家族滞在」及び在留期間「1年」とする在留資格の取得許可を受けた。 イ上記アから後記ウまでの間における原告子の在留等の状況は,別紙4「原告子の在留等の状況」のとおりである。 ウ原告子は,平成22年9月8日,東京入管局長から,在留期間「2日」(在留資格「特定活動」)とする在留期間の更新許可を受けた。 エ原告子は,平成22年9月11日以降,不法残留となった。 (5) 原告らの外国人登録の状況(争いのない事実,乙1)原告らの外国人登録法(平成21年法律第79号による廃止前のもの)に基づく登録の状況(原告父については平成15年6月2日以降のみ)は,別紙5のとおりである。 (6) 原告らに対する退去強制令書の執行に至る経緯ア原告らは,平成24年10月4日,東京入管に出頭し,それぞれ入管法違反を申告した(以下,この申告を「本件出頭申告」という。)。 (争いのない事実)イ東京入管入国警備官は,平成24年12月26日,原告父が入管法24条1号(不法入国)に,原告母子が同条4号ロ(ただし,平成26年法律第74号による改正前のもの。以下同じ。)(不法残留)に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,収容令書により原告らを収容し,原告らを東京入管入国審査官に引き渡した。なお,原告父の収容令書の「容疑事実の要旨」欄には,本件最終入国をもって入管法3条の規定に違反して本邦に入った旨が記載されていた。(争いのない事実,乙11の1)ウ東京入管入国審査官は,平成24年12月26日,原告らについて審査を行った結果,原告父が入管法2 って入管法3条の規定に違反して本邦に入った旨が記載されていた。(争いのない事実,乙11の1)ウ東京入管入国審査官は,平成24年12月26日,原告らについて審査を行った結果,原告父が入管法24条1号に該当する旨を認定するとともに,原告母子がそれぞれ同条4号ロに該当し,かつ,出国命令対象者に該当しない旨を認定し,原告らにその旨を通知した。(争いのない事実)エ原告らは,平成24年12月26日,入管法48条1項に基づき,東京入管特別審理官に対して口頭審理の請求をした。(争いのない事実)オ東京入管主任審査官は,平成24年12月26日,原告らを仮放免した。(争いのない事実)カ東京入管特別審理官は,平成25年8月8日,原告父について口頭審理を行った結果,上記ウの認定に誤りがないと判定し,原告父にその旨を通知した。原告父は,同日,入管法49条1項に基づき,法務大臣に対して異議の申出をした。(争いのない事実)キ東京入管特別審理官は,平成25年8月9日,原告母子について口頭審理を行った結果,上記ウの認定に誤りがないと判定し,原告母子にその旨を通知した。原告母子は,同日,入管法49条1項に基づき,法務大臣に対して異議の申出をした。(争いのない事実)ク法務大臣から権限の委任を受けた東京入管局長は,平成25年9月5日,上記カ,キの各異議の申出にはいずれも理由がない旨の裁決(以下「本件各裁決」という。)をするとともに,原告らには在留を特別に許可すべき事情は認められないから,入管法50条1項の規定は適用しない旨を決定した(以下「本件各不許可判断」という。)。同局長は,同日,本件各裁決の結果を東京入管主任審査官に通知した。(争いのない事実,乙22)ケ東京入管主任審査官は,平成25年11月6日,原告ら各自に対し,本件各裁決を 許可判断」という。)。同局長は,同日,本件各裁決の結果を東京入管主任審査官に通知した。(争いのない事実,乙22)ケ東京入管主任審査官は,平成25年11月6日,原告ら各自に対し,本件各裁決を通知するとともに,送還先をバングラデシュなどとする退去強制令書を発付する処分(以下「本件各退令発付処分」という。)をした。(争いのない事実,乙25)コ東京入管入国警備官は,平成25年11月6日,上記ケの各退去強制令書を執行し,原告らを収容したが,東京入管主任審査官は,同日,原告らを仮放免した。(争いのない事実)(7) 本件訴えの提起原告らは,平成26年5月1日,本件訴えを提起した。(顕著な事実) 3 争点本件の争点は,本件各裁決及び本件各退令発付処分の適法性である。 すなわち,本件の具体的な争点(主たる争点)は,法務大臣から権限の委任を受けた東京入管局長が本件各裁決をするに当たり,原告らに入管法50条1項4号所定の「特に在留を許可すべき事情」(以下「在特許可事情」という。)があるとは認められないとして,原告らの在留を特別に許可しなかったこと(本件各不許可判断)について,① その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるか否か,② 憲法及び条約に違反する違法があるか否か,である。 なお,原告らが退去強制対象者に該当すること,すなわち,① 原告父が入管法24条1号に該当すること,及び,② 原告母子がそれぞれ入管法24条4号ロに該当し,かつ,出国命令対象者に該当しないことについては,当事者間に争いがない。また,原告らは,本件各退令発付処分の違法事由として,同処分の前提としてされた本件各裁決の違法性以外の事由を主張していない。 第3 主たる争点についての当事者の主張の要旨 1 争点①(本件各不許可判断に裁量権の逸 件各退令発付処分の違法事由として,同処分の前提としてされた本件各裁決の違法性以外の事由を主張していない。 第3 主たる争点についての当事者の主張の要旨 1 争点①(本件各不許可判断に裁量権の逸脱又は濫用があるか否か)について(1) 原告らの主張本件各不許可判断には,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法がある。 ア司法審査の在り方在留特別許可に関する判断は,事実の基礎を欠く場合又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかな場合には,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる。 しかるところ,法務省入国管理局は,「在留特別許可に係るガイドライン」(甲18。以下「ガイドライン」という。)を定めた上,これに基づき在留特別許可をすべきか否かを判断しているから,この基準から大きく離れた判断は,特段の事情のない限り,平等原則又は比例原則に違反し,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと解される。 また,後記2(1)によれば,上記裁量権の行使に当たっては,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)12条1,2,児童の権利に関する条約(以下「児童条約」という。)6条2(別紙6「条約の定め」参照)に照らし,外国人の医療に関する利益が重要な考慮要素とされるべきである。 イ送還による原告父の疾病への悪影響原告父は,平成18年頃から,難病に指定されている潰瘍性大腸炎(原因不明の大腸のびまん性非特異性炎症)に罹患し,再燃と寛解を繰り返しているため,継続的に,通院による投薬治療(平成20年4月には約1か月間にわたって入院もしている。)とともに,食事制限を受けている。原告父は,現在は,処方薬メサラジン(○1,○2)の服用によってその症状を抑えているが,投 院による投薬治療(平成20年4月には約1か月間にわたって入院もしている。)とともに,食事制限を受けている。原告父は,現在は,処方薬メサラジン(○1,○2)の服用によってその症状を抑えているが,投薬治療の継続が必須との診断を受けており,癌等が発生しないよう経過観察も必要である。しかも,その症状が悪化した場合には,投薬内容の変更,入院,手術といった専門的な治療が必要であって,対応が遅れると,結腸癌,潰瘍,肝機能障害等の重篤な症状を生じ,生命に危険を及ぼすおそれもある。現に,原告父は,平成24年2月に症状が悪化したため,医師の指示により投薬量を増やしている。 しかるところ,バングラデシュにおいては,公的な医療環境(設備,医薬品,スタッフの感覚等)が劣悪であり,公立病院は投薬を指示するだけで治療を行わないため,安全な治療を受けるにはプライベート診療を受ける必要があるが,それには1回当たり約5000バングラデシュ・タカ(以下単に「タカ」という。)という,同国での一般的な月収(5000~6000タカ)と同程度の高額の費用を要する。 原告父が服用しているメサラジンは,バングラデシュ政府の定めた必須薬のリストに含まれていない上,同国ではインターネット環境や流通環境が整備されていないことからすると,同国において,これを継続的に入手することは困難である。この点,被告は,同国で流通している○3(メサラジンの製品名)が50包(400mg)361.50タカであるから高額とはいえない旨を主張する(後記(2)カ(イ)参照)が,原告父は1日にメサラジン500mg 錠を6錠服用していることからすると,継続的に○3を購入するには,1月当たり1626.75タカという,同国での一般的な月収の27~32%に相当する高額な費用を要する。しかも,原告父がバングラデシ 錠を6錠服用していることからすると,継続的に○3を購入するには,1月当たり1626.75タカという,同国での一般的な月収の27~32%に相当する高額な費用を要する。しかも,原告父がバングラデシュで治療を継続するには,これまでの経過が記載されたカルテを謄写した上,これをベンガル語に翻訳する必要がある。これらの事情からすると,原告父が送還された場合には,事実上は,上記と同様の投薬治療を継続することができない。 バングラデシュにおいては,水や食料の化学物質による汚染が深刻であるから,大腸の粘膜が炎症を起こしている原告父が送還されると,その体調が悪化するおそれが高い。このことは,原告父が,平成19年9月に一時帰国(本件最終出国)した際,日本から持参した薬(○1直腸注入薬)を使用したにもかかわらず症状が悪化し,同国の医療機関から治療をすることができない旨を告げられたため,同年11月に治療のため日本に戻らざるを得なかったことからも明らかである。 原告父は,食事制限により,牛乳,豆,生野菜,赤魚,スパイス等を摂取しないよう指示されているが,これらはバングラデシュでは中心的な食材である。 以上からすると,原告父は,バングラデシュに送還されると,通常の生活レベルでは潰瘍性大腸炎の治療を確実に継続することができず,その生命及び健康に甚大な被害を及ぼすおそれが高いことは明らかである。 そして,原告母は,妻として,食生活の世話や通院の付添いといった原告父の看護をする必要がある。したがって,原告父母にはガイドライン所定の積極要素1(5)が認められる。 ウ送還による原告子の疾病への悪影響本件各裁決の当時,原告子は,1歳を超えて精巣が腹腔から陰嚢まで自然に下降しない停留精巣に罹患しており,精巣を固定する手術を施すことが必要であった。停留精巣 ウ送還による原告子の疾病への悪影響本件各裁決の当時,原告子は,1歳を超えて精巣が腹腔から陰嚢まで自然に下降しない停留精巣に罹患しており,精巣を固定する手術を施すことが必要であった。停留精巣は,不妊の原因になる上,放置すると悪性腫瘍等を発生するおそれもあるため,上記手術は1歳6か月頃までに施すのが望ましいとされている。しかるに,原告子は,既に上記の年齢を過ぎ,不妊及び癌化のおそれが高まっているにもかかわらず,健康保険を利用できないことから,高額の費用がかかる上記手術を受けることができないでいた。そして,バングラデシュの医療事情は劣悪である(上記イ参照)上,同国の病院施設が非衛生的であるという問題もある(停留精巣に罹患した成人の多くは同国外で治療を受けている。)ことからすると,上記手術を同国で実施するのは困難であった。 本件各裁決の後(本件訴えの係属中である平成26年9月),原告子は,本邦で左停留精巣の手術を受け,快方に向かっているが,今後も経過観察のため通院を継続していくことが必要である。そして,上記のとおりバングラデシュの医療事情は劣悪である上,これまでの経過が記載されたカルテを移管する必要もある(上記イ参照)から,原告子が送還されると,事実上,上記と同様に治療を継続することができない。なお,原告らは,今後,未払となっている高額の手術費用を分割払により支払っていく必要もある。 そうすると,原告子を送還することは,その生命及び健康に甚大な被害を及ぼすことになる上,原告父母は,幼い原告子の親として,原告子の監護及び養育をする必要があるから,原告らにはガイドライン所定の積極要素1(5)が認められる。仮に原告子の停留精巣が難病に当たらないとしても,原告子は,医療水準の高い本邦で早期に手術又は通院による経過観察を受けるべきで があるから,原告らにはガイドライン所定の積極要素1(5)が認められる。仮に原告子の停留精巣が難病に当たらないとしても,原告子は,医療水準の高い本邦で早期に手術又は通院による経過観察を受けるべきである上,未成年であって不法残留については責任もないのであるから,その家族である原告らには人道的配慮を必要とする特別な事情があるから,ガイドライン所定の積極要素2(6)に当たる。 エ自発的な出頭申告原告らは,原告父子の疾病を治療したいという思い,原告父において原告子のため本名を名乗りたいという思いから,自ら東京入管に赴いて本件出頭申告をした(前提事実(6)ア参照)。したがって,原告らにはガイドライン所定の積極要素2(1)が認められる。 オ本邦への定着性原告父は,真摯な動機で本邦に入国して以来,16年以上の間,高い日本語能力を背景に,真面目に留学生活を送ると共に働いてきた上,近隣の人々とも良好な関係を築いているのであって,生活の本拠は本邦にある。 原告母は,13年以上の間,本邦で過ごし,近隣の人々とも良好な関係を築いているのであって,生活の本拠は本邦にある。原告母は,バングラデシュで仕事に就いたこともない。 原告子は,出生時から本邦で過ごし,近隣の人々とも良好な関係を築いており,生活の本拠は本邦にある。そして,原告子を,両親の原告父母から引き離すことは人道的に不可能である。 なお,原告らにはバングラデシュ在住の親族はいるが,原告らと親族とは親密な関係にはないから,原告らは,送還後にその親族から援助を受けることができない。 以上のとおり,原告らは,本邦での滞在期間が長期間に及び,本邦に定着しているから,ガイドライン所定の積極要素2(5)に当たる。この点,被告は,長期間の不法滞在等は消極要素として評価すべきである旨 以上のとおり,原告らは,本邦での滞在期間が長期間に及び,本邦に定着しているから,ガイドライン所定の積極要素2(5)に当たる。この点,被告は,長期間の不法滞在等は消極要素として評価すべきである旨主張する(後記(2)オ参照)が,外国人の入国又は在留が違法であるとしても,当該外国人の本邦への定着性が弱まるという関係にはないから,在留期間と在留の違法性とは切り離して考えるべきである。 カ原告父に関する消極事情について原告父は,ブローカーから在留資格を「留学」から「投資経営」に変更した方が安定するなどと騙されて在留資格を失ってしまったことから,再度来日してやり直すためには,ブローカーの用意した他人名義の本件旅券と在留資格認定証明書を利用するしかなく,その結果として不法入国をしてしまった。したがって,原告父の不法入国には無理からぬ面がある。 原告父は,他人名義で在留資格の変更等を受けて就労していたが,本名を明らかにしなかったというだけで,入管の手続には自らが出頭していたのであるから,この点を悪質なものと評価することはできない。また,原告父は,違反調査で本名を明かさなかったが,本人による証拠隠滅行為が罪にならない以上,この点を考慮することはできない。 後記キのとおり,原告母の入国及び在留を偽装滞在と評価することはできないから,原告父がこれに関与したことに問題はない。 原告父は,外国人登録に当たっては,氏名以外の点は全て真実を届け出ていたから,これを悪質と評価することはできない。 キ原告母に関する消極事情について原告母が,平成22年9月以降に不法残留となったのは,原告父子の疾病を治療するためであったから,やむを得なかった。 原告母による在留資格認定証明書,在留資格の変更許可,在留期間の更新許可の各申請は,夫の氏名が本 2年9月以降に不法残留となったのは,原告父子の疾病を治療するためであったから,やむを得なかった。 原告母による在留資格認定証明書,在留資格の変更許可,在留期間の更新許可の各申請は,夫の氏名が本名ではなかったというだけで,原告父と婚姻していたという点に何ら虚偽はないから,原告母の在留を偽装滞在と評価することはできない。 原告母は,外国人登録に当たっては,世帯主の氏名以外の点は全て真実を届け出ていたから,これを悪質と評価することはできない。 ク原告子に関する消極事情について原告子が,平成22年9月以降に不法残留となったのは,原告父及び自らの疾病を治療するためであったから,やむを得なかった。 ケ評価以上によれば,原告らについては,ガイドライン所定の積極要素が認められる上,原告父子の治療の必要性は重要な考慮要素として扱われるべきであるところ,これらに比べると消極要素は軽微であるから,積極要素が明らかに消極要素を上回るといえる。したがって,原告らに在特許可事情がないとした本件各不許可判断は,重要な事実誤認及び不合理な評価に基づくものであって,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものである。 (2) 被告の主張本件各不許可判断には,その裁量権を逸脱し,又はこれを濫用した違法はない。 ア司法審査の在り方在留特別許可に関する判断については,法務大臣等(法務大臣又は法務大臣から権限の委任を受けた地方入国管理局長をいう。以下同じ。)に極めて広範な裁量が認められていることから,その司法審査の在り方は,法務大臣等と同一の立場に立って在留特別許可をすべきであったか否かを判断するのではなく,法務大臣等の第一次的な裁量判断が存在することを前提として,同判断が裁量権を付与した目的を逸脱し,又はこれを濫用したと認められるか 場に立って在留特別許可をすべきであったか否かを判断するのではなく,法務大臣等の第一次的な裁量判断が存在することを前提として,同判断が裁量権を付与した目的を逸脱し,又はこれを濫用したと認められるか否かという観点から判断すべきである。 そして,在留特別許可をしない判断が裁量権の逸脱又はその濫用に当たるとして違法となり得る場合というのは,法律上当然に退去強制されるべき外国人について,なお在留を認めなければならない積極的な理由があったにもかかわらずこれが看過されたなど,在留特別許可の制度を設けた入管法の趣旨に明らかに反するような極めて特別な事情が認められる場合に限られ,その主張立証責任は原告にある。 この点,ガイドラインは,在留特別許可についての一義的,固定的な基準ではないから,一見するとガイドライン所定の積極事情があると評価し得るとしても,当然に在留特別許可をすべきことにはならず,在留特別許可をしなかったことが裁量権の逸脱又は濫用になるとはいえない。 イ原告父の入国及び在留状況の悪質性以下のとおり,原告父の入国及び在留状況は,出入国管理行政上看過することのできない極めて悪質なものであるから,原告父に対する在留特別許可の判断に当たり,重大な消極要素として考慮すべきである。 (ア) 上陸拒否期間中の不法入国原告父は,平成13年4月8日を超えて本邦に不法残留し,平成15年3月14日,入管法24条4号ロに該当するとして退去強制された(前提事実(2)イ,エ参照)。しかるに,原告父は,虚偽の身分事項により不正に在留資格認定証明書の交付を受けた(同ウ参照)上,上陸拒否事由に当たることを認識しながら,上記の退去強制からわずか約2か月後の同年5月23日,不正に取得した他人名義の本件旅券を行使して不法入国した(同オ参照)。原告父は,その けた(同ウ参照)上,上陸拒否事由に当たることを認識しながら,上記の退去強制からわずか約2か月後の同年5月23日,不正に取得した他人名義の本件旅券を行使して不法入国した(同オ参照)。原告父は,その後も平成19年11月に不法入国(本件最終入国)するまでの間,4回にわたり,不正出国及び不法入国を繰り返した(同カ,ク,ケ)。 このように,原告父は,2年にわたって不法残留を続けて退去強制されたにもかかわらず,入管法(平成16年法律第73号による改正前の入管法5条1項9号参照)の定める上陸拒否期間の制限(退去した日から5年間)を潜脱して更に本邦への不法入国を繰り返した。 (イ) 偽装滞在を前提とした不法就労原告父は,上記(ア)のとおり他人名義を用いて不正に取得した在留資格に基づき,5回の在留資格の変更,8回の在留期間の更新の各許可を受け(前提事実(2)カ,キ,コ,サ参照),約10年2か月にわたって偽装滞在を継続した。しかも,違反調査を受けた際に,虚偽の供述をして真正な身分を明らかにしない(同コ,別紙2第2の4参照)など,偽装滞在の強固な意思を有していた。そして,このような偽装滞在を基に,本来は就労することのできない業務に従事していた。 (ウ) 原告母の不正入国等に対する協力原告父は,上記(ア)の不法入国の後,原告母を呼び寄せるため,原告母の夫が他人名義となっている虚偽の本件婚姻証明書を入手し,これに基づき,原告母に在留資格認定証明書を取得させ(前提事実(3)ア,後記ウ(イ)参照),原告母の不正な入国を援助した。さらに,原告父は,原告母が入国した後も,原告母に夫を他人名義とする虚偽の申請をさせるなど,原告母の偽装滞在に協力した(前提事実(3)ウ,エ,後記ウ(イ)参照)。 (エ) 外国人登録法違反原告父は,平成15年5月の が入国した後も,原告母に夫を他人名義とする虚偽の申請をさせるなど,原告母の偽装滞在に協力した(前提事実(3)ウ,エ,後記ウ(イ)参照)。 (エ) 外国人登録法違反原告父は,平成15年5月の入国後,平成24年7月9日に外国人登録法が廃止されるまで,約9年1か月間にわたり,他人名義による虚偽の身分事項で外国人登録をしていた(前提事実(5)参照)。 ウ原告母の入国及び在留状況の悪質性以下のとおり,原告母の入国及び在留状況は,出入国管理行政上看過することのできない極めて悪質なものであるから,原告父に対する在留特別許可の判断に当たり,重大な消極要素として考慮すべきである。 (ア) 不法残留原告母は,在留期限である平成22年9月15日を超えて不法残留した。 (イ) 不正入国及び偽装滞在原告母は,不正なものであることを認識しながら,原告父から夫を他人名義とする虚偽の婚姻証明書を受領し,これを提出して不正に在留資格認定証明書を取得し(前提事実(3)ア参照),これに基づいて不正に入国した(同イ参照)。 原告母は,入国後も,夫を他人名義とする虚偽の申請に基づき,不正に,5回の在留期間の更新,2回の在留資格の変更,2回の資格外活動の各許可を受け,偽装滞在をした(同ウ,エ参照)。そして,このような不正に受けた許可に基づき,不正に就労に従事していた。 (ウ) 外国人登録法違反原告母は,世帯主について,真実の身分事項ではなく,他人名義の虚偽の身分事項で外国人登録をしていた(前提事実(5)参照)。 エ本件出頭申告の評価原告らによる本件出頭申告は,原告父が,平成21年12月に違反調査を受けた際,入国警備官に真正の身分事項を明らかにせず,それから出頭申告に至るまでの約3年にわたって偽装滞在を続けていた(上記イ(イ)参照 による本件出頭申告は,原告父が,平成21年12月に違反調査を受けた際,入国警備官に真正の身分事項を明らかにせず,それから出頭申告に至るまでの約3年にわたって偽装滞在を続けていた(上記イ(イ)参照)ことに鑑みると,自発的なものと評価をすることはできない。 仮に本件出頭申告を自発的なものと評価したとしても,在留特別許可についての法務大臣等の裁量の範囲は広範であって,出頭申告の事実から直ちに当該外国人を特別に取り扱うべき旨を定めた規定が見当たらないことからすれば,この事実を重視しなかったとしても,その評価が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかとはいえない。 オ原告らの在留期間の評価原告らは,在留期間が長期に及んでいることをもって,原告らの本邦への定着度が高く,在留特別許可の積極事情として斟酌されるべきである旨を主張する(上記(1)オ参照)。しかし,上記アのとおり,法務大臣等の在留特別許可に関する裁量の範囲は広いから,原告らの在留期間を積極的に考慮しなければならないわけではない。また,長期間の不法在留又は不法滞在の事実は,違法状態が長期に及んでいることを意味するにすぎないから,法的保護を受け得るものではなく,むしろ消極要素として評価されるべきである。 カ送還による原告父子の疾病への影響について原告らは,疾病に罹患している原告父子にとって,本邦で治療を受けることが必要不可欠である旨を主張する。しかし,以下の理由により,原告父子の疾病は,在留特別許可の判断において格別斟酌すべき事情であるとはいえない。 (ア) 両者に共通する事情外国人は,本来,本邦に引き続き在留することを要求する権利等を保障されていないから,本邦の社会制度や医療水準を前提とした医療を受ける法的地位又は利益を保障されていない。たとえ不法在 共通する事情外国人は,本来,本邦に引き続き在留することを要求する権利等を保障されていないから,本邦の社会制度や医療水準を前提とした医療を受ける法的地位又は利益を保障されていない。たとえ不法在留者又は不法残留者でも治療の必要性を理由にその在留を広く認めることになれば,これに要する人的,物的及び金銭的な負担は我が国ひいては国民が負うことになるが,そのようなことは,現在の我が国の財政及び国民感情に照らし,容易に是認することはできない。確かに,低所得者が十分な医療を受けられない国又は地域は存在するが,当該国又は地域の医療体制を充実させる第一義的な責務を負うのは,当該国又は地域である。 近年,バングラデシュの医療事情は改善していることがうかがわれ,公立病院での診療は原則無料とされるなど,妥当な料金で診療を受けることも可能である。現に,原告父は,平成19年9月の一時帰国(本件最終出国)の際,公立病院で潰瘍性大腸炎の治療を受けている。 そうすると,原告父子は,同国で治療を継続することができないとはいえない。 (イ) 原告父に関する事情潰瘍性大腸炎は,規則正しい生活と服薬によって日常生活を送ることのできる疾病であり,一部の患者を除けば,生命予後は健常人と同等であって,その治療方法も本邦と海外とで大きく異なることはない。 すなわち,その患者は,本邦でも生活環境によっては症状が悪化する反面,海外でも生活環境に留意すれば症状が悪化しない。 しかるところ,原告父は,平成18年以降も一般的な業務に従事して特段の問題なく働いており,その病状が重篤なものであるとは認められない。また,原告らは,平成19年9月の一時帰国(本件最終出国)の際に原告父の症状が悪化したと主張する(上記(1)イ参照)が,原告父が直ちに日本に戻らず漫然と2か月もバングラデ のであるとは認められない。また,原告らは,平成19年9月の一時帰国(本件最終出国)の際に原告父の症状が悪化したと主張する(上記(1)イ参照)が,原告父が直ちに日本に戻らず漫然と2か月もバングラデシュに滞在していたこと,日本に戻った直後の同年11月に作成された診断書では軽症とされていることからすれば,そのような症状悪化の事実はなかったと認められる。さらに,本件各裁決後においても,原告父の症状が特段悪化した様子も認められない。 原告父が服用しているメサラジンは,バングラデシュにおいて,「○3」の製品名(錠剤)で後発医薬品として販売されており,その値段は,50包当たり361.50タカ(日本円に換算して約462円)である。なお,同国では,製薬産業の発展が著しく,後発医薬品により97%の需要を満たすことができている(約100か国に医薬品の輸出もしている。)。しかるところ,公立病院がこのような○3を処方することができないとは考えられず,現に,原告父は,本件最終出国の際,公立病院で潰瘍性大腸炎の治療薬の処方を受けている。 そして,原告父は,同国において,原告母と共に稼働すれば,上記の費用を支払うことはできる。そうすると,原告父が,同国において,公立病院を介するなどして,潰瘍性大腸炎の症状を抑える医薬品を継続的に入手することは可能である。 原告父が現在治療を受けている病院でのカルテの開示,カルテ又は画像(レントゲン等)の謄写,診療情報提供書(いわゆる紹介状)等の各手数料は,原告父が負担できないほど高額ではないから,原告父が,バングラデシュの病院に転院することは可能である。 以上によれば,原告父が潰瘍性大腸炎に罹患している事実は,原告父の在留特別許可に関する判断において,格別斟酌しなければならない事情には当たらない。 (ウ) 原告子に 転院することは可能である。 以上によれば,原告父が潰瘍性大腸炎に罹患している事実は,原告父の在留特別許可に関する判断において,格別斟酌しなければならない事情には当たらない。 (ウ) 原告子に関する事情本件各裁決後の事情ではあるが,原告子の疾病の問題は,原告子が平成26年9月に左停留精巣の手術を受け,これが成功していることから,解消している。 なお,原告らがバングラデシュに送還されたとしても,原告父母が同国で稼働することにより,原告子の上記手術の費用を支払っていくことはできる。 キ原告らの送還による支障の有無原告父母は,本国であるバングラデシュで生まれ育ち,同国で教育を受け,稼働能力を有する成人であり,同国には連絡を取り合っている親族も居住しているから,原告父母は,同国において生計を立て,原告子を監護,養育することができる。 原告子は,その年齢に照らすと,両親と離れて本邦で生活するだけの能力を有しておらず,かえって,その心身の健全な成長のためには,原告父母の庇護の下で生活することが必要である。そして,原告子は,本件各裁決の当時は未就学児(4歳)であり,いまだ環境の変化に対する順応性や可塑性に富んでいるから,ベンガル語の読み書きのできる原告父母の指導を受けるとともに,バングラデシュでの生活を経験することにより,同国の言語や生活習慣を身に付け,その生活環境になじむと考えられる。なお,このような言語や生活習慣の変化は,両親の外国生活中に当該外国で生まれ育った子が,両親と共に帰国する際に一般に生ずる問題であるから,それほど特殊なものとはいえず,現代の国際社会においては,将来の可能性を広げることになるから,必ずしも不利益とはいえない。 以上のとおり,原告らをバングラデシュに送還することに特段の支障はない。また, 特殊なものとはいえず,現代の国際社会においては,将来の可能性を広げることになるから,必ずしも不利益とはいえない。 以上のとおり,原告らをバングラデシュに送還することに特段の支障はない。また,原告らを同国に送還することによって原告らに何らかの支障が生じるとしても,原告らに対して必要な措置を講じるべきなのは,第一次的には国籍国の政府の責任であるから,そのことをもって本件各不許可判断に裁量権の逸脱又は濫用があるとはいえない。 クまとめ以上によれば,原告らに在特許可事情があるとはいえないとした本件各不許可判断は,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとはいえない。 2 争点②(本件各不許可判断が憲法及び条約に違反するか否か)について(1) 原告らの主張本件各不許可判断は,憲法22条1項,社会権規約12条1,2,児童条約6条2,市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)23条1(別紙6「条約の定め」参照)に違反する。 ア我が国は,確立された国際法規を遵守しなければならない(憲法前文,98条2項)ことに加え,人権の保障は,権利の性質上許される限り,外国人にも及ぶ。 イ上記1(1)の各事情に鑑みると,原告らを送還することは,原告父子の有する生命及び健康に対する権利(社会権規約12条1,2,児童条約6条2)に加え,原告らの有する一体的な家族として生活する権利(自由権規約23条1),居住移転の自由(憲法22条1項)をそれぞれ侵害する。 (2) 被告の主張本件各不許可判断は,原告らの指摘する憲法及び条約の各条項に違反しない。 ア我が国に在留する外国人は,入管法に基づく外国人在留制度の枠内でのみ憲法の基本的人権の保障が与えられているにすぎないから,憲法は,在留の許否を決定する国家 憲法及び条約の各条項に違反しない。 ア我が国に在留する外国人は,入管法に基づく外国人在留制度の枠内でのみ憲法の基本的人権の保障が与えられているにすぎないから,憲法は,在留の許否を決定する国家の裁量を拘束するものではない。 イ国際慣習法上,国家は,外国人を自国内に受け入れるか否か,これを受け入れる場合にどのような条件を付すかについて自由に決することができるのが原則であるところ,社会権規約,自由権規約及び児童条約には,この原則を排斥する旨の規定はない。 この点,自由権規約13条(別紙6参照)が,合法的に在留する外国人につき退去強制が行われることを容認しつつ,その制度を具体的に定めていないことからすれば,自由権規約は,退去強制の制度をどのようなものとするかについて締約国の裁量に委ねており,少なくとも,退去強制事由の認められる外国人に対する在留特別許可に関する法務大臣等の裁量権を制限する趣旨であるとは解されない。 また,児童条約9条4(別紙6参照)は,退去強制の措置に基づいて父母と児童とが分離されることを予定しているから,児童条約が外国人に本邦に在留する権利まで保障していないことは明らかである。 第4 当裁判所の判断 1 在留特別許可に関する判断の性質国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付すかを,当該国家が自由に決定することができるものとされているから,憲法上,外国人は,我が国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されているものでもないと解すべきである(最高裁昭和29年(あ)第3594号同32年6月19日大法廷判決・刑 いるものでないことはもちろん,在留の権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されているものでもないと解すべきである(最高裁昭和29年(あ)第3594号同32年6月19日大法廷判決・刑集11巻6号1663頁,最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)。 そして,入管法50条1項に基づく在留特別許可に関し,同項4号において在特許可事情が概括的に記載され,その判断基準が特に定められていないのは,事柄の性質上,外国人の出入国の管理の目的である国内の治安と善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定等の国益の保持の見地に立って,当該外国人の一切の行状,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲など諸般の事情を斟酌し,時宜に応じた的確な判断をするため,その判断を出入国管理行政の責任を負う法務大臣の判断に任せ,その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨からであると解される。 もっとも,上記の法務大臣の判断は,その裁量権の性質に鑑み,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等によりその判断が全く事実の基礎を欠き,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等によりその判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして,違法になるものと解される。 以上の理は,入管法69条の2に基づいて法務大臣の権限の委任を受けた地方入国管理局長についても,別異に解する理由はない。 2 認定事実前提事実,当事者間に争いのない事実,証拠(ただし,認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。なお,認定に用いた証拠は,その番号(特に断らない限り枝番を含む。)を各事 提事実,当事者間に争いのない事実,証拠(ただし,認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。なお,認定に用いた証拠は,その番号(特に断らない限り枝番を含む。)を各事実の末尾に括弧を付して掲げる。 (1) 原告父母の身上,経歴等ア原告父は,バングラデシュで5人きょうだいの5番目として生まれた後,同国で育ち,同国所在の大学を卒業した成人男性である。原告父は,母国語であるベンガル語の読み書き及び会話に不自由はない。原告父の父は既に死亡したが,母及び4人のきょうだいはいずれも同国で生活している。原告父は,その母とは1か月に3~4回は電話で連絡をとる関係にある。(甲23,乙2の1,乙4,5,18,原告父本人)イ原告母は,バングラデシュで3人きょうだいの1番目として生まれた後,同国で育ち,同国所在の大学を中途退学した成人女性である。原告母は,母国語であるベンガル語の読み書き及び会話に不自由はない。原告母の父母及び2人のきょうだいはいずれも同国で生活している。原告母は,その母とは1か月に2~3回は電話等で連絡をとる関係にある。 (甲24,乙2の2,乙7,19)(2) 原告らの出入国及び在留等に関する状況ア原告父は,平成13年4月に不法残留となった後も日本で生活を続けたかったことから,ブローカーの指示に従うなどして,他人であるP1名義の在留資格認定証明書及び本件旅券等を取得し,これらを行使して平成15年5月23日に本邦に上陸した。(前提事実(2)イ・ウ・オ,甲23,乙2の1,乙4,27,原告父本人)イ原告父は,上記アの後,東京都○区所在の日本語学校に入学し,平成17年3月頃に同校を卒業した。(甲23,乙5,27)ウ原告父は,妻である原告母を日本に呼び寄せて同居することを望んだが,既に自ら 原告父は,上記アの後,東京都○区所在の日本語学校に入学し,平成17年3月頃に同校を卒業した。(甲23,乙5,27)ウ原告父は,妻である原告母を日本に呼び寄せて同居することを望んだが,既に自らが虚偽の身分事項により在留していることから,平成17年5月頃,ブローカーに依頼するなどして,原告母に虚偽の本件婚姻証明書を取得させた。原告母は,これを含む書類を入管当局に提出して同年7月13日に在留資格認定証明書の交付を受けることができたことから,同年9月16日に本邦に上陸した。(前提事実(3)ア・イ,乙5,10,18,19,乙28)エ原告父母は,原告母が上陸した後の平成17年9月頃,本邦において同居を開始した。両者は,その後現在まで,いずれかがバングラデシュに帰国した時期を除き,本邦において同居を継続している。(甲23,24,乙5~7,10,19)オ原告父は,原告母と共に本件最終出国をし,その翌日である平成19年9月15日,バングラデシュのダッカに到着した。原告父母は,その後,同年11月18日頃までの間,同国のムンシガンジ市にある両者の実家等に滞在した。原告父は,同日,原告母と共に同国のダッカを出国し,本件最終入国をした(以下,原告父のバングラデシュにおける上記滞在を「本件一時帰国」という。)。(前提事実(2)ク・ケ,同(3)ウ,別紙3の2,甲1の2,甲4,23,24,乙2の1,乙8,18,19,原告父本人)カ原告母は,平成21年 ▲ 月 ▲ 日,愛知県○市において,原告子を出産した。原告父母は,同月30日,同県○市長に対し,原告子の出生を届け出た(もっとも,同届出書には父の氏名がP1と記載されていた。)。原告子は,出生以来現在まで,原告父母と同居している。(乙1の3,乙5~7,10,19)キ原告父は,平成21年1 子の出生を届け出た(もっとも,同届出書には父の氏名がP1と記載されていた。)。原告子は,出生以来現在まで,原告父母と同居している。(乙1の3,乙5~7,10,19)キ原告父は,平成21年12月3日,東京入管新宿出張所入国警備官から,入管法24条4号イ違反(資格外活動)の疑いで違反調査を受けたが,同入国警備官に対して真正な身分事項を告げなかった。その結果,原告父は,同月16日,東京入管横浜支局入国警備官から,違反容疑なしの処分を受けた。(前提事実(2)コ,別紙2第2の4,乙3)ク原告父は,平成24年1月4日,バングラデシュ大使館に申請し,真正の身分事項が記載された旅券の発給を受けた。(甲1の1,乙18)ケ原告父は,平成24年10月4日の本件出頭申告において初めて,入管の職員に対し自己の真正な身分事項を告げた。(乙1の1,乙2の1)コ原告母は,平成25年2月18日,バングラデシュ大使館に申請し,原告母の旅券に記載された夫の氏名を,P1から原告父に訂正した。 (甲1の2,乙18,19)サ原告父は,平成17年5月頃から平成24年11月16日までの間,関東地方(東京都,埼玉県,神奈川県,栃木県,茨城県)又は愛知県において,コック,塗装工又は各種(布団製造,自動車部品の検査,プラスチック加工,自動車部品の製造等)の作業員として働き,原告らの生活費を稼いでいた。平成22年10月頃から平成24年11月頃までの間は,1か月当たり20万円~24万円の給料を得ていた。(前提事実(5),甲23,乙2の1,乙5,8,18,原告父本人)シ原告父は,上記サ以降は,働いておらず,原告らの貯金を取り崩す,本国の親族から父の遺産の送金を受ける,知人から借金するなどの方法により,原告らの生活費を工面している。なお,住居に要する費用は,貸主 原告父は,上記サ以降は,働いておらず,原告らの貯金を取り崩す,本国の親族から父の遺産の送金を受ける,知人から借金するなどの方法により,原告らの生活費を工面している。なお,住居に要する費用は,貸主(原告父の従前の勤務先)の好意により無償である。(甲23,乙5,8,18,19,原告父本人)ス原告母は,平成17年9月の上陸後,本邦において,工員等として一次的に働いたことはあるが,基本的には主婦として,原告ら家族の家事,原告子の育児,原告父の介助等に専念してきた。(甲24,乙7)セ原告子は,上記カの出生以来,本邦で生活しているところ,幼稚園や保育園に通ったことはないが,自宅近辺に居住している児童らと交流するなどして,日本語を習得しつつある。(甲32,33,乙19)(3) 潰瘍性大腸炎の概要P2,P3(公益財団法人P4)消化器系疾患調査研究班(難治性炎症性腸管障害)の提供している情報,特定疾患医療治療研究事業の運用等によれば,潰瘍性大腸炎の概要は,要旨,以下のとおりである。(甲5,26,28,31,乙9,31,32,弁論の全趣旨)ア概念等潰瘍性大腸炎は,大腸に慢性の炎症が起き,潰瘍やびらん(ただれ)ができる炎症性疾患である。その病変は,肛門に一番近い直腸から連続的に上行性(奥の方)に広がる性質があり,直腸だけに炎症が生じるものから,大腸全体に炎症が広がるものまで,様々な態様がある(後記エ参照)。 後記イのとおり原因が解明されていないため,現在はこれを完治する治療法はないが,適切な内科的治療(服薬)と規則正しい生活を送ることにより,発症前と同様に日常生活を送ることができるようになる。しかし,病気の経過中に,中毒性巨大結腸症(腸管が広がってしまう),穿孔(腸の壁に孔が空く),癌等の腸管合併症や,皮膚,眼,関節等の ことにより,発症前と同様に日常生活を送ることができるようになる。しかし,病気の経過中に,中毒性巨大結腸症(腸管が広がってしまう),穿孔(腸の壁に孔が空く),癌等の腸管合併症や,皮膚,眼,関節等の腸管以外の合併症を起こすことがある。合併症が生じた場合には,手術が必要になることもある。 潰瘍性大腸炎は,国(厚生労働省)の特定疾患治療研究事業対象疾患であり,都道府県により同疾患への罹患が認定されると,医療費の全部又は一部の補助を受けることができる。 イ原因この病気が発症する正確な原因は,いまだ解明されていないが,現在では,遺伝的な要因,環境因子(食物,腸内細菌,化学薬品等),免疫の異常等が複雑に絡み合って発症すると考えられている。 ウ症状代表的な自覚症状は,血便,粘血便(粘液と血液の混じった便),下痢又は血性下痢であるが,病変範囲と重症度によって左右される。軽症例では血便を伴わないが,より重症化すると,水様性下痢と出血が混じる,滲出液と粘液に血液が混じる,1日に10回以上も粘血便や血便が出る等の状態になる。 これ以外の症状として,腹痛,発熱,食欲不振,体重減少,貧血等が加わることも多く,関節炎,虹彩炎,膵炎,皮膚症状(結節性紅斑,壊疽性膿皮症等)等の腸管外合併症を伴うことも少なくない。 上記の症状は,緩解(良くなること),再燃(悪くなること)を繰り返す。 エ分類潰瘍性大腸炎は,病変の広がり及び経過等により,以下のとおりに分類される。 (ア) 病変の広がりによる分類全大腸炎,左側大腸炎,直腸炎(イ) 病期の分類活動期,寛解期(ウ) 重症度による分類軽症,中等症,重症,激症上記の分類は,国の特定疾患治療研究事業においては,次の基準に基づいて認定される。 a 軽症以下 病期の分類活動期,寛解期(ウ) 重症度による分類軽症,中等症,重症,激症上記の分類は,国の特定疾患治療研究事業においては,次の基準に基づいて認定される。 a 軽症以下の①~⑥の項目を全て満たすもの。 ① 排便回数 4回/日以下② 顕血便 (+)~(-)③ 発熱 37.5℃以上の発熱がない④ 頻脈 90/分以上の頻脈なし⑤ 貧血 Hb10g/dl以下の貧血なし⑥ 赤沈正常b 中等症軽症と重症の中間に当たるもの。 c 重症以下の①及び②の他に全身症状である③又は④のいずれかを満たし,かつ,以下の①~⑥の6項目のうち4項目を満たすもの。 ① 排便回数 6回/日以上② 顕血便 (+++)③ 発熱 37.5℃以上④ 頻脈 90/分以上⑤ 貧血 Hb10g/dl以下⑥ 赤沈 30㎜/h以上d 激症以下の①~⑤の5項目を満たすもの。 ① 重症基準を満たしている。 ② 15回/日以上の血性下痢が続いている。 ③ 38.5℃以上の持続する高熱である。 ④ 10,000/㎣以上の白血球増多がある。 ⑤ 強い腹痛がある。 (エ) 臨床経過による分類再燃寛解型,慢性持続型,急性激症型,初回発作型オ診断症状,その経過,過去の病歴等の質問に答える問診から始まり,便潜血検査,炎症反応を知るための血液検査,大腸内のより詳しい状態を知るための大腸内視鏡検査又は注腸X線検査,大腸粘膜の一部を採取する生検等が行われ,これらの検査結果から総合的に診断される。 カ治療治療法は以下のとおりであり,国内と海外で大きく変わることはない。 (ア) 内科的治療原則的な治療方法は,薬剤を用いて大腸粘膜の異常な炎症を抑える(寛解導入をする)という内科的治療であり,軽 治療法は以下のとおりであり,国内と海外で大きく変わることはない。 (ア) 内科的治療原則的な治療方法は,薬剤を用いて大腸粘膜の異常な炎症を抑える(寛解導入をする)という内科的治療であり,軽症及び中等症例では5-ASA(アミノサリチル酸)製薬(後記(4)参照)を,無効例又は重症例では副腎皮質ステロイド薬等をそれぞれ用いる。寛解の維持(再燃の予防)には5-ASA製薬を用いるが,導入時にステロイド薬を投与した場合においては,免疫調節薬(アザチオプリン又は6-MP)の使用も考慮する。ステロイド薬の無効例では,シクロスポリン,タクロリムス,インフリキシマブ(○4)等の投与,又は血球成分除去療法(対外循環治療の一種)も考慮される。 再燃を防止するためには,精神的又は身体的なストレスを避けること,脂肪分の多い食物,香辛料やアルコール等の刺激物の摂取を控えること,十分な睡眠をとって疲労を蓄積させないことなども重要である。 内科的治療で改善が見られない,症状の増悪が見られる等の場合には,手術が必要な場合もある。 (イ) 外科的治療(手術)手術適応には,① 絶対的適応である全身症状の急性増悪,重篤な急性合併症(大腸穿孔,中毒性巨大結腸症,大量出血),大腸癌と,② 相対的適応である難治例のQOL障害例,重篤なステロイド副作用が発現するおそれがある例,合併症(大腸,大腸外)がある。 手術の理由としては,発症5年以内では激症例又は内科治療が無効の重症例が多く,5年以降では慢性持続型などの難治例が多い。 手術の方法は,大腸の全摘出であるところ,その際に小腸で人工肛門を作る場合もあるが,近年では,小腸で回腸嚢(便をためる袋)を作成して肛門につなぐ手術が主流となっており,後者の場合には,術後は通常人と同様の日常生活を送ることができる。 ろ,その際に小腸で人工肛門を作る場合もあるが,近年では,小腸で回腸嚢(便をためる袋)を作成して肛門につなぐ手術が主流となっており,後者の場合には,術後は通常人と同様の日常生活を送ることができる。 (ウ) 留意点等重症例の場合には,入院の上,脱水,電解質異常(特に低カリウム血症),貧血,栄養障害等に対する対策が必要である。また,激症例は極めて予後不良であるので,短期間に手術の要否を決定する必要がある。 キ予後発症時の重症度が重く,罹患範囲が広いほど,手術率,死亡率が高くなるが,近年では,生存率は一般と比べて差がないとする報告もある。 多くの患者は,内科的治療によって症状が改善し又は寛解(消失)するが,再発する場合も多いため,寛解を維持するには継続的な内科治療を行うことが必要である。 また,炎症を母地とした癌の発生を合併する例が存在するところ,発癌には罹病期間と罹患範囲とが関係している。発癌リスクが高いのが,発病後7~8年以上が経過し,しかも,炎症が広範囲に及んでいる全大腸炎型である。欧米の報告では,癌合併のリスクが全大腸炎型で6. 3%,左側大腸炎型で1.0%,直腸炎型でリスクなしとされている。 また,累積癌化率は,10年で0~5%,20年で8~23%,30年で30~40%と推定されている。そのため,発病から長期が経過した全大腸炎型に対しては経過観察が重要となる。この点については,近年,5-ASA製薬(メサラジン)の継続投与が大腸癌のリスクを減少させることが報告されている上,定期的に下部内視鏡検査を受けることが早期発見にとって重要であるとされている。 (4) 5-ASA製薬の概要潰瘍性大腸炎の治療薬である5-ASA製薬(上記(3)カ参照)は,持続する炎症を抑える効能を有し,下痢,下血,腹痛等の症状を著しく緩 とって重要であるとされている。 (4) 5-ASA製薬の概要潰瘍性大腸炎の治療薬である5-ASA製薬(上記(3)カ参照)は,持続する炎症を抑える効能を有し,下痢,下血,腹痛等の症状を著しく緩和させるとともに,再燃予防に効果がある。その投与の方法は,経口又は直腸からの注入である。5-ASA製薬には,以下の種類がある。(甲25,乙32,34)アサラゾスルファピリジン(○5)従来からある薬剤で,投与すると,約3分の1が小腸で吸収され,大腸で腸内細菌によってSPと5-ASAに分解されて腸管粘膜に作用する。もっとも,食欲不振,吐き気,嘔吐,口内炎,胃痛,下痢,発疹,かゆみ,光線過敏症,頭痛,めまい,尿路結石といった副作用がある。 イメサラジン(○1,○2)サラゾスルファピリジンの副作用を軽減するために開発された改良新薬で,サラゾスルファピリジンからSPを取り除き,有効成分5-ASAのみを取り出した治療薬である。本邦におけるその価格(平成26年6月現在)は,後発品の○6 1錠が59.3円である。 (5) 原告父の潰瘍性大腸炎の症状及び治療の経過ア原告父は,平成17年11月頃,血便を排出するようになったことから,同月27日,群馬県○市所在のP5病院を受診した。(甲23,27,乙2の1,乙8,9,原告父本人)イ原告父は,平成17年12月9日,上記アの病院において,便検査,血液検査,内視鏡検査,生理病理検査等を受けた。その結果,原告父は,平成18年3月9日,同病院の医師から,潰瘍性大腸炎の病名で,その病態が「慢性持続」,重症度が「軽症」,最近の罹患部位が「直腸」,現在の治療が「5-ASA製剤」,医療上の問題点が「通院,薬物療法が必要である」などと診断された。原告父は,同病院の医師から,5-ASA製剤として○1注腸 症度が「軽症」,最近の罹患部位が「直腸」,現在の治療が「5-ASA製剤」,医療上の問題点が「通院,薬物療法が必要である」などと診断された。原告父は,同病院の医師から,5-ASA製剤として○1注腸液を処方された。(甲27,28,原告父本人)ウ原告父は,平成18年10月当時,潰瘍性大腸炎の治療のため,東京都○区所在のP6クリニックに通院していた。(甲29)エ原告父は,本件一時帰国中,日本の医師から処方されて持参していた治療薬(○1注腸液)を使用していた。原告父は,平成19年9月18日頃から同年11月14日頃までの間,数回程度,バングラデシュの公立病院であるP7病院を受診した。同病院の医師は,原告父を検査することなく,原告父が提示した診断書(日本の医師作成のもの)に基づき,原告父の病名を潰瘍性大腸炎と判断し,また,上記の間,原告の症状は改善されず,かえって悪化の傾向にある旨診断して,薬剤(飲み薬)を処方した。原告父は,○1注腸液に加えて同薬剤を使用したが,症状は改善しなかった。もっとも,原告父の上記症状は,極めて激しいものではなく,原告父は,航空機に搭乗して本邦に再入国することができた。 (甲4,甲23,24,乙2の1,乙8,18,19,原告父本人。上記事実認定の補足説明は後記3のとおりである。)オ原告父は,平成19年11月27日,潰瘍性大腸炎の治療のため,○ 市α区所在のP8クリニックを受診し,○1注腸液を処方された。 (甲26,27,原告父本人)カ原告父は,平成20年1月29日,P8クリニックにおいて,便検査,血液検査等を受けた。その結果,原告父は,同年2月4日,P8クリニックの医師から,潰瘍性大腸炎の病名で,病態が「慢性持続,初回」,重症度「軽症」,最近6か月以内の罹患部位が「直腸」,現在の治療が「5-ASA を受けた。その結果,原告父は,同年2月4日,P8クリニックの医師から,潰瘍性大腸炎の病名で,病態が「慢性持続,初回」,重症度「軽症」,最近6か月以内の罹患部位が「直腸」,現在の治療が「5-ASA製剤」,医療上の問題点等が「坐剤(○1注腸液)一時中止したところ下血・血便などの症状再燃した。今後も継続し治療が必要である」などと診断された。(甲26)キ原告父は,平成20年3月22日,下痢をしたことからP8クリニックを受診し,4日分の治療薬(○7)を処方された。しかし,原告父は,同月31日,下痢が止まらず血便を排出したため,再度,P8クリニックを受診し,病院での精密検査を希望した。その結果,原告父は,同年4月2日から同月28日まで,潰瘍性大腸炎の治療のため, ○ 市β区所在のP9病院に入院した。(甲27,30)ク原告父は,平成21年4月10日,愛知県○市所在のP10病院において,便検査,血液検査,内視鏡検査,生理病理検査等を受けた。その結果,原告父は,同月16日,同病院の医師から,潰瘍性大腸炎の病名で,その病態が「初回発作」,最近1年以内の重症度が「軽症」,最近の罹患部位が「直腸,結腸,盲腸」,現在の治療が「5-ASA製剤」などと診断された。(甲31)ケ原告父は,上記オの後から平成21年9月ころまでの間,潰瘍性大腸炎の治療のため,P8クリニックに通院していた。(甲27,乙9)コ原告父は,平成22年8月,潰瘍性大腸炎の治療のため,埼玉県○市所在のP11医療センターを受診した。(甲6)サ原告父は,平成24年1月30日,P11医療センターの医師から,潰瘍性大腸炎の病名で,「通院加療中。この疾患は根治は難しく,再発再燃を繰り返すものであるため,今後も継続的な加療が必要となる」などと診断された。(甲3の1)シ原告父は 療センターの医師から,潰瘍性大腸炎の病名で,「通院加療中。この疾患は根治は難しく,再発再燃を繰り返すものであるため,今後も継続的な加療が必要となる」などと診断された。(甲3の1)シ原告父は,平成24年6月11日,P11医療センターにおいて,病理診断(大腸の内視鏡検査)を受けた。(乙9)ス原告父は,平成24年11月26日,P11医療センターの医師から,○6(51日分,306錠)を処方された。その用法は,1日に2回(朝,夕)3錠ずつ服用するというものであった。(乙5)セ原告父は,平成25年12月2日,P11医療センターの医師から,潰瘍性大腸炎の病名で,「通院中です。○1・500mg を1日6錠内服で維持治療しています。再燃する可能性のある病気で悪化時は内服増量や,それでも改善しなければ入院やステロイド,免疫抑制剤,内科的治療で寛解導入困難であれば手術が必要となります」などと診断された。 (甲3の2)ソ原告父は,平成26年6月23日,P11医療センターの医師から,○6(90日分,540錠)を処方された。その用法は,1日に2回(朝,夕)3錠ずつ服用するというものであった。(甲25)タ原告父は,平成26年12月29日,P11医療センターの医師から,潰瘍性大腸炎の病名で,「内服加療,通院中です。コントロールは内服していれば良好です。」などと診断された。(甲38)チ原告父は,上記コの後から現在までの間,潰瘍性大腸炎の治療のため,P11医療センターに通院している。(甲8,23,原告父本人)ツ原告父は,平成18年3月以降,P1名義で,当時居住していた都又は県から,特定疾患への罹患を認定されて医療費の全額について助成を受けていたが,平成22年9月10日以降は,在留資格がないなどの理由により,医療費の助成を受けていない 1名義で,当時居住していた都又は県から,特定疾患への罹患を認定されて医療費の全額について助成を受けていたが,平成22年9月10日以降は,在留資格がないなどの理由により,医療費の助成を受けていない。(甲23,29,乙5)(6) 停留精巣の概要P12,P13大学の提供している情報によれば,停留精巣の概要は,要旨,以下のとおりである。(甲10の1,乙33)ア概念停留精巣とは,出生時の男児において,精巣の下降が不完全で陰嚢内に触知しない状態をいう。なお,精巣は,通常,出生近くになると,下腹部側方にある鼠径管(腹部と下肢のももの付根の間に走る管)を通って陰嚢内まで下降してくる。 停留精巣は,左右の精巣が双方とも触知しない場合の両側性,一方が陰嚢内に触知する片側性とに分けられる。 イ影響停留精巣は精巣を高温にさらすことなどから,その患児の妊孕力(将来こどもをつくる能力)が低下するとされ,手術で治療しても,片側性で70~80%,両側性で50%程度に低下するとされている。もっとも,より早期の手術治療をすることで妊孕力の低下を防ぐことができるという考え方がある。 停留精巣は,通常の陰嚢内精巣に比べて悪性腫瘍(精巣腫瘍)の発生頻度が5倍高いとされる(ただし,精巣腫瘍の発生頻度自体は,極めて低い。)。また,停留精巣を放置しておくと,精巣自体が固定されないことから,精索(栄養する血管や精管)が捻れを起こし(精索捻転)やすい,外傷を受けやすい等の影響がある。 ウ治療原則的な治療は,手術をして精巣を本来の陰嚢内に固定することであり,その時期は,生後6か月から遅くとも2歳までに行うのが適当であるとされる。 手術の方法は,超音波検査(場合によりMRI)と内視鏡とを併用し,精巣の位置を検索して固定する。その際,精巣が であり,その時期は,生後6か月から遅くとも2歳までに行うのが適当であるとされる。 手術の方法は,超音波検査(場合によりMRI)と内視鏡とを併用し,精巣の位置を検索して固定する。その際,精巣が痕跡的な組織の場合には摘除術が選択される。 (7) 原告子の停留精巣の症状及び治療の経過ア原告子は,平成24年10月6日,下腹部に痛みがあることから埼玉県○市所在のP14クリニックを受診したところ,同クリニックの医師から,左停留精巣と診断された。(甲7,8,乙9)イ原告子は,平成25年7月4日, ○ 市γ区所在のP15医療センターの医師から,左非触知精巣と診断された。(甲9の1,2)ウ原告子は,平成26年9月9日,P16病院において,左停留精巣,右移動性精巣の治療のため,腹腔鏡補助下左精巣固定術及び右精巣固定術を受けた。同手術は成功した。(甲32,33,原告父本人)(8) バングラデシュにおける医療等に関する状況ア一般的な状況日本国外務省の在外公館医務官情報(平成25年1月現在),独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)によるヒアリング調査(2012年(平成24年)10月実施)の結果等によれば,バングラデシュにおける医療等の一般的状況は,要旨,以下のとおりである。(甲12,乙30)(ア) 医療機関バングラデシュには,公立病院,コミュニティー・クリニック(CC),非政府組織(NGO)が設置する診療所,民間の診療所又は病院等の医療機関があるが,救急疾患(心筋梗塞,脳梗塞,多発外傷等)に常時対応することのできる医療機関はない。また,医師の数は人口約3000人に対して1人であり,看護師は医師の約半数であるなど,医療スタッフの数が不足している。 公立病院は,2012年10月現在で124(ベッド数合計2万3 機関はない。また,医師の数は人口約3000人に対して1人であり,看護師は医師の約半数であるなど,医療スタッフの数が不足している。 公立病院は,2012年10月現在で124(ベッド数合計2万3165)あり,その診察料は安価であり(後記(イ)参照),特定の疾患を専門的に診察する病院もあるが,その大部分は県都や大都市にある上,病院設備や医療サービス等の水準が高いとはいえない。また,人口に比べてその数が十分ではなく,極端な混雑が常態化しているため,医師はごく短時間で患者を診察しようとする。その結果,医師の診察を受けることができずに帰宅する患者も少なくない。バングラデシュで最も患者数の多いP17病院は,内科だけで毎日600~700人を診察している上,重症者や事故患者に対しては,ベッド不足により床の上で治療する場合もある。なお,他の病院では,通常,受入能力以上の患者は入院させない。 コミュニティー・クリニック(CC)は,農村部に設置された小規模な診療所であり,軽度の病気の治療や応急処置,大規模な医療機関への委託等を行う医療機関である。一般的なCCは1か月に約250~300人の患者を診察するが,1か月に500人以上の患者を受け入れるCCもある。バングラデシュ政府は,2009年からCCの活性化に向けた取り組みを進めているが,近年は,妊婦と新生児の健康に重点を置いている。 近年,民間の医療機関の数が増えつつあり,これらは,欧米の先進技術を取り入れるなどして,より高度な医療を提供している。しかし,その大部分は首都であるダッカにある上,高所得者を対象としているため,その診察料は非常に高額である(後記(イ)参照)。国民の多くは農村部に居住する貧困層であるため,民間の医療機関で診療を受ける余裕はない。 なお,バングラデシュでは,病院での勤 象としているため,その診察料は非常に高額である(後記(イ)参照)。国民の多くは農村部に居住する貧困層であるため,民間の医療機関で診療を受ける余裕はない。 なお,バングラデシュでは,病院での勤務を終えた医師が薬局に併設された医院で診察することが一般的に行われている。医院の診察料は低額である(後記(イ)参照)ため,患者の多くはまずは医院を訪れて治療や助言を受けている。医院の医師は,重症であった場合には,患者を病院に転送する。 (イ) 診察料バングラデシュの医療機関における一般的な診察料は,以下のとおりである。 医療機関診察料民間医療機関500~1000タカ薬局に併設された医院100~300タカ公立病院10~50タカコミュニティー・クリニック50~100タカ(ウ) 健康保険バングラデシュには,国民に加入を義務付けている公的な保険制度はない。もっとも,JETROの上記調査結果によれば,政府(保健省)は,2011年,5000万人の貧困層を健康保険に加入させ,その保険料を一般税収から支払う計画を策定し(2012年に開始予定),当初その対象となるのは国民の31%であるとされている。 一部のNGOは,保険料体系が簡単で効果的な健康保険を運営しているが,加入率は低い。また,民間企業も健康保険を提供しているが,その対象は中流以上の階層である。 (エ) 医薬品バングラデシュにおいて,医薬品は薬局で購入することができるが,高温多湿の中で保管されたまま販売されたり,有効期限が切れている薬品も少なくない。 (オ) 衛生状態バングラデシュにおいては,高温多湿の気候に加え,劣悪な衛生環境(6月~10月の雨期には特に衛生状態が悪化する。)のため,熱帯感染症が多く,腸チフス,コレ 薬品も少なくない。 (オ) 衛生状態バングラデシュにおいては,高温多湿の気候に加え,劣悪な衛生環境(6月~10月の雨期には特に衛生状態が悪化する。)のため,熱帯感染症が多く,腸チフス,コレラ,赤痢,アメーバ赤痢,ジアルジア(ランブル鞭毛虫)他の原虫症,回虫症,鞭虫症等の消化器疾患が頻発している。 イ 5-ASA製薬の入手可能性(ア) バングラデシュの厚生省公衆健康第1部局は,2008年(平成20年)4月8日,専門委員会が推奨し,かつ,同省の顧問が承認した必須薬のリストを公表したが,同リストには,5-ASA製薬(上記(4)参照)が含まれていない。(甲20の1,2)(イ) バングラデシュで医薬品の情報提供を行っている「P18」は,2010年(平成22年)に薬剤師のガイダンスの下で作成したウェブサイトを通じて,潰瘍性大腸炎の治療薬として,下記の薬品を挙げている。(乙35)記ブランド名含有物錠形価格(タカ)○8 メサラジン(5-アミノサリチル酸)400mg錠剤 50包361.50○9 スルファサラジン500mg 錠剤 50包260.00○10 スルファサラジン500mg 錠剤 50包260.00○11スルファサラジン500mg 錠剤 100包943.00○12スルファサラジン500mg 錠剤 30包 156.00(ウ) 2013年(平成25年)9月5日現在の為替レートによれば,1円は0.78121タカ(バングラデシュ・タカ)に換算される。 (乙36)(9) 原告父の転院に要する費用原告父の現在の通院先であるP11医療センターにおいては,カルテ開示等 トによれば,1円は0.78121タカ(バングラデシュ・タカ)に換算される。 (乙36)(9) 原告父の転院に要する費用原告父の現在の通院先であるP11医療センターにおいては,カルテ開示等の手数料(税別)は以下のとおりである。(乙38)① カルテの開示1回につき5000円② カルテの謄写1枚につき20円③ レントゲン,CT等の画像のCD-Rへの謄写CD-R1枚につき2000円④ 担当医師との面談(任意)1回につき5000円⑤ 診療情報提供書(紹介状。日本語のもの)1通につき1万円(健康保険に未加入で転院先が海外の場合) 3 認定事実(5)エの事実認定に関する補足説明(1) 原告らは,本件一時帰国によって潰瘍性大腸炎の症状が著しく悪化したことから,原告父はその治療のために再度来日せざるを得なかった旨を主張し(上記第2の1(1)イ参照),原告父本人もこれに沿う供述をする。 これに対し,被告は,本件一時帰国中に潰瘍性大腸炎の症状が悪化したという原告父本人の供述は信用することができず,そのような事実はなかった旨を主張する。 (2) この点,P7病院の医師が作成した診断書(甲4)によれば,原告父が同病院で診察を受けた事実が認められるところ,上記の診断書には,「原告父の症状は改善されず,かえって悪化の傾向にあった」旨が記載されていることからすると,その受診の動機は,バングラデシュに帰国した後,潰瘍性大腸炎の症状が一時的に再燃したためであると推認される。もっとも,上記の診断書には,具体的な症状や治療内容等が記載されておらず,日常生活を困難にする程度にまで極めて悪化していたことをうかがわせる記載はなく,原告父がバングラデシュで日本と同等又はそれに近い程度の治療を受けることは不可能である旨の記 内容等が記載されておらず,日常生活を困難にする程度にまで極めて悪化していたことをうかがわせる記載はなく,原告父がバングラデシュで日本と同等又はそれに近い程度の治療を受けることは不可能である旨の記載があるにとどまる。そうすると,上記診断書をもって,本件一時帰国中の原告父の症状が日常生活を困難にする程度にまで極めて悪化していたと認めることはできない。 また,認定事実(5)オからキまで,原告父の供述(甲23,乙2の1,乙5を含む。)によれば,原告父は,本件一時帰国を終えた約10日後,P8クリニックを受診したが,平成20年3月22日頃まで(本件一時帰国を終えてから約5か月間)は,自動車部品の塗装や検査の仕事に従事して日常生活を送っていたことが認められるところ,このような経過からすれば,原告父の症状は,本件一時帰国を終えた直後の段階で,直ちに特別の治療を必要とする程度にまで極めて悪化していたとまではうかがわれない。 以上を総合すると,本件一時帰国中,原告父の潰瘍性大腸炎の症状は,一時的に再燃したことがあったものの,日常生活を困難にする程度にまで極めて悪化していたと認めることはできないのであって,この認定に反する原告父本人の供述は採用することができない。 (3) したがって,認定事実(5)エのとおり認定した。 4 争点①(本件各不許可判断に裁量権の逸脱又は濫用があるか否か)について以上を踏まえ,原告らの在留を特別に許可しなかった本件各不許可判断について,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるか否かを検討する。 (1) 原告父についての検討ア退去強制事由前提事実(2)ケのとおり,原告父は,他人名義の本件旅券を行使して,すなわち,有効な旅券を所持しないで本件最終入国をしたから,入管法24条1号(不法入国 原告父についての検討ア退去強制事由前提事実(2)ケのとおり,原告父は,他人名義の本件旅券を行使して,すなわち,有効な旅券を所持しないで本件最終入国をしたから,入管法24条1号(不法入国)に該当するのであって,原則として本邦から当然に退去すべき地位にある。 イ入国及び在留の状況前提事実(2)及び認定事実(2)によれば,原告父は,平成13年4月から不法残留(入管法24条4号ロ)となり,平成15年3月には退去強制されて上陸が許可されない状態となった(平成16年法律第73号による改正前の入管法5条1項9号参照)のに,その退去強制の前にブローカーを通じるなどして他人名義で不正に在留資格認定証明書の交付を受けた上,その退去強制からわずか2か月後の同年5月に,同証明書とともに,ブローカーを通じるなどして入手した他人名義の偽造旅券である本件旅券を行使し,不正に在留資格を取得して本邦に上陸(不法入国)した。 しかも,原告父は,このように不正に取得した他人名義の在留資格に基づき,6回にわたる在留資格の変更許可を,7回にわたる在留期間の更新許可をそれぞれ不正に受け,本件各不許可判断がされるまで10年以上もの間,真正な身分事項を秘匿して不正な在留を継続しつつ就労に従事するとともに,不正に受けた再入国の許可に基づき,4回にわたり,不正出国及び不法入国を繰り返した。 そして,前提事実(3)及び認定事実(2)によれば,原告父は,平成15年に不法入国した後,原告母を日本に呼び寄せるため,ブローカーに依頼するなどして原告母の夫が他人名義となっている虚偽の本件婚姻証明書を入手し,これに基づいて原告母に在留資格認定証明書を取得させ,原告母の不正な入国を援助した。しかも,原告父は,原告母の入国後も,原告母をして,夫を他人名義とする虚偽の申請を る虚偽の本件婚姻証明書を入手し,これに基づいて原告母に在留資格認定証明書を取得させ,原告母の不正な入国を援助した。しかも,原告父は,原告母の入国後も,原告母をして,夫を他人名義とする虚偽の申請をさせ,その結果,2回にわたる在留資格の変更許可を,6回にわたる在留期間の更新許可をそれぞれ不正に受けさせ,本件各不許可判断がされるまで8年以上もの間,原告母の不正な在留の継続に協力した(後記(3)ア参照)。 また,前提事実(5)のとおり,原告父は,平成15年5月の不法入国後,平成24年7月に外国人登録法が廃止されるまで,約9年もの長期にわたり,虚偽の身分事項で外国人登録をし,もって同法18条1項2号に違反していた。 以上のとおり,原告父の入国及び在留の状況は,相当に悪質であって,出入国管理行政上これを看過することができず,原告父の在留特別許可に関する判断に当たり,消極要素として考慮されるべきなのは明らかである。 しかし,他方で,前提事実(6)ア,認定事実(2)ケのとおり,原告父は,遅きに失したとはいえ,本件出頭申告をし,その不正な在留がこれ以上長期化するのを自発的に防止したのであるから,この点は,上記の消極要素を減殺するものとしてある程度の評価をすべきである。 ウ送還による支障(ア) 認定事実(1)アによれば,原告父は,バングラデシュで成育し,母国語であるベンガル語の読み書き及び会話に不自由はなく,親族がいずれも同国で生活していることからすると,原告父が同国で生活すること自体には特段の支障はないものといえる。 (イ) しかし,他方で,認定事実(3)から(5)までによれば,原告父は,平成17年12月頃から本件各不許可判断までの間,発症の原因が解明されておらず,国の特定疾患治療研究事業の対象とされている潰瘍性大腸炎に罹患して で,認定事実(3)から(5)までによれば,原告父は,平成17年12月頃から本件各不許可判断までの間,発症の原因が解明されておらず,国の特定疾患治療研究事業の対象とされている潰瘍性大腸炎に罹患していることが認められる。 認定事実(3)及び(4)によれば,一般に,潰瘍性大腸炎に罹患した患者は,多くの場合,炎症を抑える効能を有し,下血等の症状を著しく緩和させる5-ASA製薬の投与を中心とする内科的治療により,症状が消失して寛解し,発症前と同様に日常生活を送ることができるものの,精神的又は身体的なストレス等が原因となって再燃することがある上,広範囲に及んだ炎症を長期間放置すると癌等の合併症を引き起こす蓋然性もあることから,寛解の状態を維持するには,たとえ重症度において軽症と診断されたとしても,上記の内科的治療を継続的に受けるとともに,定期的に内視鏡検査を受けることが必要であることが認められる。 そして,認定事実(5)によれば,原告父は,平成17年12月に潰瘍性大腸炎を発症してから現在に至るまで,重症度において軽症と診断され,5-ASA製薬の投与を内容とする通院治療によって日常生活を送ることができているものの,平成20年4月には約1か月にわたる入院を必要な状態となったことがあり,また,複数回にわたって内視鏡検査を受診しているところ,原告父は,今後も,本邦において現在と同様の通院治療を継続することができるのであれば,一時的に症状が再燃し入院を必要とするようなことがあっても,引き続き適切な治療を受けて日常生活を送っていくことが可能であると推認される。 なお,原告父は,本件各裁決の当時,5-ASA製薬(メサラジン)を1日当たり3000mg(1錠500mg を6錠)服用していたところ,その値段は,30日分で約1万0674円であって(認定事実 れる。 なお,原告父は,本件各裁決の当時,5-ASA製薬(メサラジン)を1日当たり3000mg(1錠500mg を6錠)服用していたところ,その値段は,30日分で約1万0674円であって(認定事実(4)イ参照),一般の日本国民において支払うことが可能な金額であったものと認められる(しかも,仮に原告父が在留資格を有していれば,都道府県から医療費の助成を受けることができるものとうかがわれる。)。 (ウ) しかるところ,認定事実(5)エ及び上記3のとおり,原告父は,平成19年9月に本件一時帰国をした際,日本の医療機関から処方されていた5-ASA製薬(○1注腸液)を持参して投与していたが,バングラデシュにおいて潰瘍性大腸炎の症状が一時的に再燃したことから,同国の公立病院であるP7病院を受診したところ,必ずしも効果的な治療を受けることができなかった。 しかも,認定事実(5)及び(8)によれば,5-ASA製薬は,バングラデシュ政府が公表した必須薬のリストには含まれていないことが認められるから,同薬は,同国の大多数の国民が利用することのできる医療機関(公立病院等)において,確実に処方される医薬品であるということはできない。 また,認定事実(8)によれば,バングラデシュにおいて利用可能とされる潰瘍性大腸炎の治療薬としては,メサラジン(5-ASA製薬)及びスルファサラジンがあるものの,証拠上,一般人がこれらの治療薬を容易に入手できる環境が整備されているか否かは不明であることに加え,後者のスルファサラジンについては,原告父の潰瘍性大腸炎に確実に効能を有する医薬品であるか否かが明らかではない。他方,5-ASA製薬(ブランド名「○8」)の値段は,1セット(400mg50包)が361.50タカ(本件各裁決の当時の為替レートで約463円)である 能を有する医薬品であるか否かが明らかではない。他方,5-ASA製薬(ブランド名「○8」)の値段は,1セット(400mg50包)が361.50タカ(本件各裁決の当時の為替レートで約463円)であることが認められるところ,上記のとおり,原告父が服用していたメサラジン(5-ASA製薬)の量は1日当たり3000mg であったから,これと等しい量を服用することを前提とすると,原告父が今後も5-ASA製薬の服用を継続するためには,1か月を30日とすると,毎月,「○8」を4.5セット分購入する必要があるのであって,その値段は1626.75タカとなる。しかるに,バングラデシュにおいては,公的な健康保険制度が存在せず,多くの国民が500~1000タカという診察料を支払う経済的余裕がない上,証拠(原告父本人)及び弁論の全趣旨によれば,同国における平均的な収入は5000~6000タカと認められることからすると,証拠上,裕福な家庭環境にあることがうかがわれない原告父が,同国において,原告母子を扶養するなどしつつ,毎月1600タカを超える値段の5-ASA製薬を購入し続けることは,事実上は不可能であるといわざるを得ない。 以上の点に加え,認定事実(8)のとおり,バングラデシュにおいては,大多数の国民が利用することのできる公立病院等の医療サービスの水準が高いとはいえない上,衛生状態もよくなく消化器疾患が頻発していることなどにも鑑みると,仮に原告父の潰瘍性大腸炎の症状が再燃した場合において,これを適切に治療することは,なお一層困難になることは明らかである。 (エ) 以上を総合考慮すると,原告父が,バングラデシュに帰国した場合において,適切な薬剤を治療に必要な数量入手して,潰瘍性大腸炎に対する効果的な治療を継続することができるかについては,相当の疑念を抱 ) 以上を総合考慮すると,原告父が,バングラデシュに帰国した場合において,適切な薬剤を治療に必要な数量入手して,潰瘍性大腸炎に対する効果的な治療を継続することができるかについては,相当の疑念を抱かざるを得ない。そして,潰瘍性大腸炎は,薬剤を用いて内科的に大腸粘膜の異常な炎症を抑えることができなければ,症状が重症化し,外科的治療が必要となる場合もあり得るとされ,また,大腸癌の発症リスクが高まること等に備えて定期的に内視鏡検査を受ける必要があるとされているところ,これらの外科的治療等が,バングラデシュにおいて適切に行なわれることになるのかについても疑問がある。 そうすると,原告父は,難病とされる潰瘍性大腸炎により本邦での治療を必要としていると認められ(なお,この事情は,ガイドライン(甲18)第1の1(5)において「特に考慮する積極要素」とされている。),同国に送還することには支障があるというべきである。 エ本件各不許可判断の当否被告の主張(上記第3の1(2))によれば,本件各不許可判断をした東京入管局長は,原告父が潰瘍性大腸炎に罹患しているとの事実を認識していたものの,治療方法は本邦と海外とで大きく異なることはないこと,原告父の病状が重篤ではないことなどから,難病等により本邦での治療を必要としているとはいえず,送還に支障はない旨判断したことがうかがわれる。 しかしながら,上記ウで認定判断したとおり,原告父がバングラデシュに帰国した場合,適切な薬剤を治療に必要な数量入手して潰瘍性大腸炎に対する効果的な治療を継続すること,潰瘍性大腸炎の症状が再燃した場合に適切に治療すること,症状が重症化して外科的措置が必要となった場合に適切に治療を行うことには,いずれも困難が伴うものというべきであり,原告父については,難病とされる潰瘍 大腸炎の症状が再燃した場合に適切に治療すること,症状が重症化して外科的措置が必要となった場合に適切に治療を行うことには,いずれも困難が伴うものというべきであり,原告父については,難病とされる潰瘍性大腸炎により本邦での治療を必要とする立場にあることが認められる。したがって,東京入管局長の上記の判断には,判断の基礎とされた重要な事実に誤認があるか又は事実に対する評価が明白に合理性を欠いているものといわざるを得ない。 このことに加えて,社会権規約12条1が,「この規約の締結国は,すべての者が到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を有することを認める」と定め,同条2が,「この規約の締結国が1の権利の完全な実現を達成するためにとる措置には,次のことに必要な措置を含む」として,「病気の場合にすべての者に医療及び看護を確保するような条件の創出」を挙げている(別紙6「条約の定め」参照)趣旨を勘案すれば,東京入管局長が上記の事実誤認等により原告父につき在留特別許可を与えるべきではないとした判断は,原告父の入国及び在留の状況が相当に悪質であるという消極要素(上記イ)を考慮してもなお,考慮すべき積極要素を過少評価したものであって,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるというべきである。 (2) 原告子についての検討ア退去強制事由前提事実(4)エのとおり,原告子は,平成22年9月10日を超えて,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留したから,入管法24条4号ロ(不法残留)に該当し,原則として本邦から当然に退去すべき地位にある。 イ入国及び在留の状況もっとも,前提事実(2)カのとおり,原告子は,本邦に在留していた原告父母の子として出生し,そのまま本邦に留まることによって不法残留 から当然に退去すべき地位にある。 イ入国及び在留の状況もっとも,前提事実(2)カのとおり,原告子は,本邦に在留していた原告父母の子として出生し,そのまま本邦に留まることによって不法残留となった上,不法残留が成立した当時はわずか1歳であったから,原告子には不法残留となったことについて何ら責めに帰すべき事由はなく,その境遇には同情すべき点がある。 しかも,前提事実(6)アのとおり,原告子は,親権者である原告父母と共に本件出頭申告をし,その不法残留が長期化することが防止されている。 以上の点は,原告子の在留特別許可に関する判断に当たり,積極要素として考慮されるべきである。 ウ送還による支障(ア) 認定事実(6)及び(7)によれば,本件各不許可判断の当時,原告子は,停留精巣に罹患し,手術を実施する必要性が高かったのであって,これを放置しておけば,妊孕力が低下するとともに,精索の捻転や外傷等によって精巣に悪影響を生じ,悪性腫瘍の発生頻度も高くなることが懸念されていたものと認められる。しかも,認定事実(8)のとおり,バングラデシュにおいては,医療スタッフの数が慢性的に不足しており,大多数の国民が利用することのできる公立病院等の医療サービスの水準が高いとはいえない上,衛生状態もよくないことが認められることに照らすと,原告子は,同国に帰国した場合には,早期に上記の手術を受けることができず,また,適切な治療を受けることができない結果,深刻な事態が生じていた可能性も高かったと認められる。 この点,認定事実(7)ウのとおり,原告子は,平成26年9月,停留精巣を治療するための手術を受け,これが成功したことが認められる。しかし,この事実は本件各不許可判断の後に生じた事情である上,停留精巣の性質等に照らすと,同手術の後も定期的に経 平成26年9月,停留精巣を治療するための手術を受け,これが成功したことが認められる。しかし,この事実は本件各不許可判断の後に生じた事情である上,停留精巣の性質等に照らすと,同手術の後も定期的に経過観察を受けていく必要があることが推認されるところ,上記のようなバングラデシュの医療事情等に鑑みると,原告子が同国に帰国した場合に適切な診療を受けることができるかについては,疑念を抱かざるを得ない。 (イ) また,認定事実(2)によれば,原告子は,これまで一貫して本邦で生活してきたのであり,保育園や幼稚園に通ったことはないものの,近所の児童らとの交流を通じるなどして日本語を習得しつつあり,本邦の生活環境に適応していることがうかがわれる。そうすると,原告子がバングラデシュに帰国すると,周囲の環境や生活環境が変化することによって,大きな心理的負担を受けることになると予想される。 他方で,本件各不許可判断の当時,原告子は4歳といまだ幼く,環境の変化に対する順応性を十分に有していることが推認されるから,両親である原告父母と共にバングラデシュに帰国するのであれば,時間が経過するにつれて同国の生活環境に慣れ親しむことは十分に可能であるということができる。 しかし,上記(1)のとおり,原告父がバングラデシュに送還されることにつき特段の支障があると認められる以上,原告子の在留特別許可に関する判断に当たっては,原告父が同国に帰国するのを前提とすることはできない。そして,児童条約3条1,9条1(別紙6「条約の定め」参照)の趣旨に照らせば,原告子がそのような原告父から分離されないことが,原告子にとっての最善の利益であると考えられる。 (ウ) したがって,原告子は,本件各不許可判断の当時,停留精巣により本邦での治療を必要としていた上,バングラデシュへの送 父から分離されないことが,原告子にとっての最善の利益であると考えられる。 (ウ) したがって,原告子は,本件各不許可判断の当時,停留精巣により本邦での治療を必要としていた上,バングラデシュへの送還につき特段の支障のある原告父から分離されないことが必要であるから,同国に送還されることにつき特段の支障があるというべきである。 エ本件各不許可判断の当否以上を総合考慮すれば,原告子は,その境遇に同情すべき点があり,自ら入管に出頭している上,本件各不許可判断の当時,本邦での治療を必要とし,又は人道的配慮を必要とする事情があったことも認められるから,原告子の在留特別許可に関する判断に当たっては,これらの点が積極要素として考慮されるべきであった。 しかるに,被告の主張(上記第3の2(2))によれば,本件各不許可判断をした東京入管局長は,上記の治療の必要性を認めず,また,上記の事情を格別に斟酌すべきものとは判断しなかったことがうかがわれる。 したがって,本件各不許可判断のうち原告子に係る部分は,その基礎とされた重要な事実に誤認があり,又は事実に対する評価が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるといわざるを得ない。 (3) 原告母についての検討ア退去強制事由前提事実(3)カのとおり,原告母は,平成22年9月15日を超えて,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留したから,入管法24条4号ロ(不法残留)に該当し,原則として本邦から当然に退去すべき地位にある。 イ入国及び在留の状況前提事実(3)及び認定事実(2)によれば,原告母は,原告父の指示を受けるなどして,ブローカーから夫が他人名義となっている虚偽の本件婚姻証明書を入手した上,平成17年9月,これに基づいて取得した在留資格認 (3)及び認定事実(2)によれば,原告母は,原告父の指示を受けるなどして,ブローカーから夫が他人名義となっている虚偽の本件婚姻証明書を入手した上,平成17年9月,これに基づいて取得した在留資格認定証明書を行使し,不正に在留資格を取得して本邦に上陸した。 しかも,原告母は,その後も,原告父の指示を受けるなどして夫を他人名義とする虚偽の申請を繰り返し行い,その結果,2回にわたる在留資格の変更許可を,6回にわたる在留期間の更新許可をそれぞれ不正に受け,本件各不許可判断がされるまでの8年以上もの間,不正な在留を継続した。 また,前提事実(5)のとおり,原告母は,平成17年9月の入国後,平成24年7月に外国人登録法が廃止されるまで,約7年もの長期にわたり,虚偽の事項で外国人登録をし,もって同法18条1項2号に違反していた。 以上のとおり,原告母の入国及び在留の状況は,出入国管理行政上これを看過することはできず,原告母の在留特別許可に関する判断に当たり,消極要素として考慮されるべきである。 しかし,他方で,前提事実(6)アのとおり,原告母は,遅きに失したとはいえ,本件出頭申告をし,その不正な在留がこれ以上長期化するのを自発的に防止したのであるから,この点は,上記の消極要素を減殺するものとして評価すべきである。 ウ送還による支障認定事実(1)イのとおり,原告母は,バングラデシュで成育し,母国語であるベンガル語の読み書き及び会話に不自由はなく,親族がいずれも同国で生活している上,健康状態にも特段の問題はないことからすると,原告母自身にとっては,同国へ送還されることに特段の支障はないものといえる。 しかし,上記(2)のとおり,本件各不許可判断の当時,原告子は,本邦での治療を必要とし,又は人道的配慮を必要とする事情があったと認 っては,同国へ送還されることに特段の支障はないものといえる。 しかし,上記(2)のとおり,本件各不許可判断の当時,原告子は,本邦での治療を必要とし,又は人道的配慮を必要とする事情があったと認められるところ,認定事実(2)スのとおり,原告母は,当時4歳の原告子の母親として,その主たる監護養育を担当していたのであるから,引き続き,上記のように本邦に在留する必要のある原告子と同居し,その監護養育を行っていく必要があることは明らかである。また,児童条約3条1,9条1(別紙6「条約の定め」参照)の趣旨に照らせば,原告子が原告母から分離されないことが,原告子にとっての最善の利益であると考えられる(上記(2)ウ参照)。 したがって,原告母は,バングラデシュへの送還につき特段の支障のある原告子から分離されないことが必要であるから,結局,同国に送還されることにつき特段の支障があるというべきである。 エ本件各不許可判断の当否以上を総合考慮すれば,原告母は,自ら入管に出頭している上,本件各不許可判断の当時,難病等により本邦での治療を必要としている原告子を看護することが必要と認められ,又は人道的配慮を必要とする事情があったことが認められるから,原告母の在留特別許可に関する判断に当たっては,これらの点が積極要素として考慮されるべきであった。 しかるに,被告の主張(上記第3の2(2))によれば,本件各不許可判断をした東京入管局長は,上記の治療の必要性を認めず,また,上記の事情を格別に斟酌すべきものとは判断しなかったことがうかがわれる。 したがって,本件各不許可判断のうち原告母に係る部分は,その基礎とされた重要な事実に誤認があり,又は事実に対する評価が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるといわざるを得ない。 (4) 被告 ,本件各不許可判断のうち原告母に係る部分は,その基礎とされた重要な事実に誤認があり,又は事実に対する評価が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるといわざるを得ない。 (4) 被告の主張についてア被告は,外国人は本邦の社会制度や医療水準を前提とした医療を受ける法的地位又は利益を保障されておらず,低所得者でも十分な医療を受けることのできる体制を充実させる第一義的な責務を負うのは当該外国人の本国であるから,原告父子の疾病は,原告らの在留特別許可に関する判断に当たって格別斟酌すべき事情には当たらない旨を主張する(上記第3の2(2)カ参照)。 この点,確かに,外国人一般について,本邦の社会制度や医療水準を前提とした医療を受ける地位又は利益が法的に保障されているわけではない。 しかしながら,外国人が本邦滞在中に偶々難病とされる疾病等に罹患したことから本邦での治療を開始し,それが奏功している一方,国籍国に帰国すれば十分な治療を受けられず重症化が見込まれるといった事情がある場合は,上記の一般論とは別異に解する余地がある。現に,被告(法務省入国管理局)の定めたガイドライン(甲18)は,在留特別許可に関する判断における考慮事項の積極要素として,「当該外国人が,難病等により本邦での治療を必要としていること,又はこのような治療を要する親族を看護することが必要と認められる者であること」,「その他人道的配慮を必要とするなど特別な事情があること」等を掲げている上,前者については特に考慮する積極要素としている。加えて,我が国が締約国となっている社会権規約12条1が,「この規約の締約国は,すべての者が到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を有することを認める」と定め,同条2が,「この規約の締約国が1の権利の完全な実現を いる社会権規約12条1が,「この規約の締約国は,すべての者が到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を有することを認める」と定め,同条2が,「この規約の締約国が1の権利の完全な実現を達成するためにとる措置には,次のことに必要な措置を含む」として,「病気の場合にすべての者に医療及び看護を確保するような条件の創出」を挙げているのである(別紙6「条約の定め」参照)。 そうすると,当該外国人について上記のような特別の事情がある場合には,人道的な配慮の見地から,これを在留特別許可に関する判断において適切に勘案した上,個々の事案の事情に応じて特別な恩恵を与えるべきことは,我が国の責務であるといわねばならない。 これらの点に鑑みると,被告の上記主張は俄に採用し難いものといわざるを得ない。 イ被告は,原告らによる本件出頭申告は,原告父が違反調査を受けた際に真正の身分事項を明らかにしなかった以上,自発的なものと評価することはできないと主張する(上記第3の2(2)エ参照)。 確かに,認定事実(2)キのとおり,原告父は,平成21年12月に違反調査を受けた際,入管に対して真正な身分事項を告げておらず,その結果,違反容疑なしの処分を受け,その後も約2年10か月の間,不正な在留を継続していたことが認められる。しかし,上記違反調査において虚偽の事項を告げたのは原告父のみである上,原告らが本件出頭申告をしていなかったならば,その不正な在留が今後も継続していたであろうことは明らかであるから,本件出頭申告は,遅きに失したとはいえ,原告らの不正な在留がこれ以上長期化することを防いだという点において,ある程度は積極要素として考慮されるべきである(上記(1)イ,(2)イ,(3)イ参照)。 (5) 小括以上のとおり,原告らの在留を特別に許可 がこれ以上長期化することを防いだという点において,ある程度は積極要素として考慮されるべきである(上記(1)イ,(2)イ,(3)イ参照)。 (5) 小括以上のとおり,原告らの在留を特別に許可しなかった本件各不許可判断は,いずれも,その基礎とされた重要な事実に誤認があり,又は事実に対する評価が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるから,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものといわざるを得ない。 5 本件各裁決及び本件各退令発付処分の適法性以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,本件各不許可判断を前提としてされた本件各裁決は,いずれも違法であって取消しを免れない。 そして,本件各裁決がいずれも違法である以上,これを前提としてされた本件各退令発付処分(入管法49条6項参照)についても,そのいずれもが違法であって取消しを免れない。 第5 結論よって,原告らの各請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用の上,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官谷口豊 裁判官工藤哲郎 裁判官和久一彦(別紙2)原告父の出入国及び在留等の状況 第1 平成15年5月23日~平成19年9月2日(本文第2の2(2)カ) 1 平成15年9月19日,情を知らない東京入管局長から,P1名義で再入国の許可を受け,同月20日,成田空港において,本邦から出国した。同月24日,成田空港において,本件旅券を行使し,同許可により本邦に入国した。 2 平成16年2月25日,情を知らない東京入管局長から,P1名義で再入国の ,成田空港において,本邦から出国した。同月24日,成田空港において,本件旅券を行使し,同許可により本邦に入国した。 2 平成16年2月25日,情を知らない東京入管局長から,P1名義で再入国の許可を受け,同年3月17日,成田空港において,本邦から出国した。 同年4月30日,成田空港において,本件旅券を行使し,同許可により本邦に入国した。 3 平成16年6月11日,情を知らない東京入管局長から,P1名義で,在留期間「6月」とする在留期間の更新許可,及び資格外活動の許可をそれぞれ受けた。 4 平成16年9月15日,情を知らない東京入管局長から,P1名義で再入国の許可を受け,同月17日,成田空港において,本邦から出国した。同年10月15日,成田空港において,本件旅券を行使し,同許可により本邦に入国した。 5 平成16年11月29日,情を知らない東京入管局長から,P1名義で,在留期間「6月」とする在留期間の更新許可,及び資格外活動の許可をそれぞれ受けた。 6 平成17年5月9日,情を知らない東京入管局長から,P1名義で,在留資格「人文知識・国際業務」及び在留期間「1年」とする在留資格の変更許可を受けた。 7 平成17年6月24日,情を知らない東京入管局長から,P1名義で,数次の再入国の許可を受けた。 8 平成18年5月18日,情を知らない東京入管局長から,P1名義で,在留期間「1年」とする在留期間の更新許可を受けた。 9 平成19年5月17日,情を知らない東京入管局長から,P1名義で,在留資格「特定活動」及び在留期間「2月」とする在留資格の変更許可を受けた。 10 平成19年7月17日,情を知らない名古屋入管局長から,P1名義で,在留資格「特定活動」及び在留期間「2月」とする在留資格の変更許可を受けた。 とする在留資格の変更許可を受けた。 10 平成19年7月17日,情を知らない名古屋入管局長から,P1名義で,在留資格「特定活動」及び在留期間「2月」とする在留資格の変更許可を受けた。 11 平成19年8月15日,情を知らない名古屋入管局長から,P1名義で,在留資格「人文知識・国際業務」及び在留期間「1年」とする在留資格認定証明書の交付を受けた。 第2 平成19年11月18日~平成22年9月7日(本文第2の2(2)コ) 1 平成20年9月22日,情を知らない名古屋入管局長から,P1名義で,在留期間「1年」とする在留期間の更新許可を受けた。 2 平成20年10月15日,情を知らない名古屋入管局長から,P1名義で,数次の再入国の許可を受けた。 3 平成21年8月26日,情を知らない名古屋入管局長から,P1名義で,在留資格「短期滞在」及び在留期間「90日」とする在留資格の変更許可,及び資格外活動の許可をそれぞれ受けた。 4 平成21年12月3日,東京入管新宿出張所入国警備官から,入管法24条4号イ違反(資格外活動)の疑いで違反調査を受けたが,同月16日,東京入管横浜支局入国警備官から違反容疑なしの処分を受けた。 5 平成21年12月21日,情を知らない東京入管局長から,P1名義で,在留資格「特定活動」及び在留期間「3月」とする在留資格の変更許可を受けた。 6 平成22年6月3日,情を知らない東京入管局長から,P1名義で,在留期間「4月」とする在留期間の更新許可を受けた。 7 平成22年7月15日,情を知らない東京入管局長から,P1名義で,在留期間「2月」とする在留期間の更新許可を受けた。 (別紙3)原告母の出入国及び在留等の状況 1 平成18年9月19日,東京入管局長から,在留期間「1年」とする在留 から,P1名義で,在留期間「2月」とする在留期間の更新許可を受けた。 (別紙3)原告母の出入国及び在留等の状況 1 平成18年9月19日,東京入管局長から,在留期間「1年」とする在留期間の更新許可を受けた。 2 平成19年9月3日,名古屋入管局長から,在留期間「1年」とする在留期間の更新許可,及び数次の再入国の許可をそれぞれ受け,同月14日,成田空港において,本邦から出国した。同年11月18日,中部空港において,同許可により本邦に入国した。 3 平成20年2月25日,名古屋入管局長から,資格外活動の許可を受けた。 4 平成20年9月22日,名古屋入管局長から,在留期間「1年」とする在留期間の更新許可を受けた。 5 平成20年10月15日,名古屋入管局長から,数次の再入国の許可及び資格外活動の許可をそれぞれ受けた。 6 平成21年9月3日,名古屋入管局長から,在留資格「短期滞在」及び在留期間「90日」とする在留資格の変更許可を受けた。 7 平成21年12月21日,東京入管局長から,在留資格「特定活動」及び在留期間「3月」とする在留資格の変更許可を受けた。 8 平成22年6月3日,東京入管局長から,在留期間「4月」とする在留期間の更新許可を受けた。 (別紙4)原告子の在留等の状況 1 平成21年8月26日,名古屋入管局長から,在留資格「短期滞在」及び在留期間「90日」とする在留資格の変更許可を受けた。 2 平成21年12月21日,東京入管局長から,在留資格「特定活動」及び在留期間「3月」とする在留資格の変更許可を受けた。 3 平成22年6月3日,東京入管局長から,在留期間「4月」とする在留期間の更新許可を受けた。 4 平成22年7月15日,東京入管局長から,在留期間「2月」とする在留 格の変更許可を受けた。 3 平成22年6月3日,東京入管局長から,在留期間「4月」とする在留期間の更新許可を受けた。 4 平成22年7月15日,東京入管局長から,在留期間「2月」とする在留期間の更新許可を受けた。 (別紙6)条約の定め 1 経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)2条 1 この規約の各締約国は,立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため,自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより,個々に又は国際的な援助及び協力,特に,経済上及び技術上の援助及び協力を通じて,行動をとることを約束する。 2以下略12条 1 この規約の締約国は,すべての者が到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を有することを認める。 2 この規約の締約国が1の権利の完全な実現を達成するためにとる措置には,次のことに必要な措置を含む。 (a)~(c) 略(d) 病気の場合にすべての者に医療及び看護を確保するような条件の創出 2 市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)13条合法的にこの規約の締約国の領域内にいる外国人は,法律に基づいて行われた決定によってのみ当該領域から追放することができる。国の安全のためのやむを得ない理由がある場合を除くほか,当該外国人は,自己の追放に反対する理由を提示すること及び権限のある機関又はその機関が特に指名する者によって自己の事案が審査されることが認められるものとし,このためにその機関又はその者に対する代理人の出頭が認められる。 23条 1 家族は,社会の自然かつ基礎的な単位であり,社会及び国による保護を受ける権利を有する。 2~4 略 3 児童の権利に関する条 機関又はその者に対する代理人の出頭が認められる。 23条 1 家族は,社会の自然かつ基礎的な単位であり,社会及び国による保護を受ける権利を有する。 2~4 略 3 児童の権利に関する条約(児童条約)3条 1 児童に関するすべての措置をとるに当たっては,公的若しくは私的な社会福祉施設,裁判所,行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても,児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。 2以下略6条 1 略 2 締約国は,児童の生存及び発達を可能な最大限の範囲において確保する。 9条 1 締約国は,児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし,権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は,この限りでない。このような決定は,父母が児童を虐待し若しくは放置する場合又は父母が別居しており児童の居住地を決定しなければならない場合のような特定の場合において必要となることがある。 2 略 3 締約国は,児童の最善の利益に反する場合を除くほか,父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。 4 3の分離が,締約国がとった父母の一方若しくは双方又は児童の抑留,拘禁,追放,退去強制,死亡…等のいずれかの措置に基づく場合には,当該締約国は,要請に応じ,父母,児童又は適当な場合には家族の他の構成員に対し,家族のうち不在となっている者の所在に関する重要な情報を提供する。(以下略) 主文 いる者の所在に関する重要な情報を提供する。(以下略)
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