令和4年(う)第270号殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、殺人未遂、公務執行妨害、器物損壊、建造物損壊被告事件 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中150日を原判決の刑に算入する。 理由 第1 弁護人の控訴理由被告人を懲役27年に処した原判決の量刑は、重すぎて不当である。 第2 当裁判所の判断原判決が「量刑の理由」の項で述べるところはおおむね相当であり、原判決の量刑が重すぎて不当であるとはいえない。 すなわち、被告人は、職場の同僚である本件殺人未遂の被害者(以下「男性被害者」という。)とトラブルになり、これを止めようとした同じく同僚である本件殺人の被害者(以下「女性被害者」といい、男性被害者と併せて「被害者ら」という。)に傷害を負わせたことなどから、勤め先を辞めることになったが、不当に解雇されたと考えて怒りを募らせるうち、女性被害者が負傷したこと自体にも疑問を持ち、被害者らが結託して被告人を辞めさせるように仕向けたと思い込み、元々女性被害者に恋愛感情を有していたことから、同被害者に対する愛情の裏返しとしての憎しみ等の感情を抱き、これを中心としつつ、元々抱いていた男性被害者に対する不満や上司への怒りなどから、被害者らを殺害し、勤め先の車両や建物等を損壊しようと企てて犯行に及んだものである。被害者らには全く落ち度がなく、その動機に酌量の余地はない。殺人の犯行は強固な殺意に基づく執拗かつ残忍なものであり、殺人未遂の犯行も強固な殺意に基づく危険なもので、与えた傷害結果も軽いものではない。凶器の包丁を購入し、確実に2人を殺害で きるように犯行計画を立てるなど、計画性も高い。勤め先に対する建造 、殺人未遂の犯行も強固な殺意に基づく危険なもので、与えた傷害結果も軽いものではない。凶器の包丁を購入し、確実に2人を殺害で きるように犯行計画を立てるなど、計画性も高い。勤め先に対する建造物損壊及び器物損壊の各犯行は極めて乱暴なもので財産的被害も大きく、被害弁償もされていない。加えて、現場に駆け付けた警察車両を発見すると、自動車を運転してこれに衝突させるという公務執行妨害、器物損壊の犯行にも及んでおり、これも危険な犯行で財産的被害も小さくない。それにもかかわらず被告人には十分な反省の態度は見られない。以上を総合すると、前科関係やその他の一般情状を考慮し、過去の類似の事案における量刑傾向に照らしても、懲役27年という原判決の量刑は決して重すぎるものではない。 弁護人は、女性被害者が負傷したことを利用し、これを口実に被告人を辞めさせようと考え、同被害者が治療費の支払を求めているなどと説明して被告人を解雇しながら、被告人に十分な説明もしないで退社願を作成させ、書類上は自主退職の体裁を整えて会社から追い出した上司の無責任な言動が本件の原因であると主張する。しかし、上司の言動に弁護人が指摘するような不適切な点があったとしても、被害者らとは関係のないことである。弁護人は、上司の言動により被告人が抱いた勤め先に対する怒りが被害者らを含む勤め先全体への破壊工作につながったものであるというが、弁護人指摘の上司の言動を踏まえても、被害者らが結託して被告人を辞めさせるように仕向けたという被告人の思い込みは全く根拠のないものであり、仮に勤め先に対する怒りがそのような思い込みにより被害者らに向かったものであるとしても、その経緯に酌むべき点があるとはいえない。 加えて、被告人は、以前から折り合いが悪かった男性被害者に対してわざと荷物を乱暴に投げるな りがそのような思い込みにより被害者らに向かったものであるとしても、その経緯に酌むべき点があるとはいえない。 加えて、被告人は、以前から折り合いが悪かった男性被害者に対してわざと荷物を乱暴に投げるなどの挑発的な言動を取ってもめごとを起こし、それを止めに入った女性被害者の腕を手で払うなどして打撲傷を負わせたのであるから、勤務先を辞めることになった原因は主として被告人の側にある。なお、弁護人は、上司から口頭で解雇すると言われたという被告人の供述の信用性を否定した原判決は誤っているともいうが、上司が口頭で解雇すると言ったか否かは量刑に影響するような事情ではない。 弁護人は、被告人が女性被害者に対して一方的に抱いていた恋愛感情が満たされなかったために同被害者を殺害したとして、本件殺人をストーカー殺人に類似する事案と整理している原判決の評価は不当であるという。しかし、被告人が犯行直前に書いたレポート用紙の記載内容等によれば、被告人が女性被害者に対して以前から恋愛感情を有しており、同被害者に裏切られたなどと感じて愛情の裏返しとしての憎しみや恨みの感情を抱いたことは明らかである。そして、原判決は、恋愛感情が満たされなかったから女性被害者を殺害したなどとは認定していないし、本件殺人をストーカー殺人に類似したものと評価したとも解されない。 弁護人の主張は、原判決を正解しないものというほかない。 弁護人は、一連の犯行を全体として見れば場当たり的で怒りにまかせたままの衝動的な犯行であり、少なくとも、冷静、緻密に計画を練って実行したものではないから、殺人・殺人未遂について計画性があるとして計画性が高いと評価するのは不当であるという。しかし、被告人の犯行計画において、まず遂げなければならない重要な事項は被害者らの殺害であって、その点について準備等を ・殺人未遂について計画性があるとして計画性が高いと評価するのは不当であるという。しかし、被告人の犯行計画において、まず遂げなければならない重要な事項は被害者らの殺害であって、その点について準備等をしているのであるから、計画性が高いとの評価は何ら間違っていない。 弁護人は、被告人はこれ以上の犯行を重ねたり逃走したりすることに躊躇を覚え、警察車両に自車を衝突させることで自ら犯人であると名乗り出たと見るべきであるから、自首に当たり、これを量刑上も考慮すべきであると主張する。しかし、そのような行為に反省の態度の表れなど見ることはできないし、これがなくても被告人が本件各犯行をしたことは捜査機関に容易に把握され得る状況であったから、自首の成否にかかわらず、これを量刑上有利に考慮すべき余地はない。 (裁判長裁判官長井秀典裁判官杉田友宏裁判官太田寅彦)
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