令和6年11月12日宣告令和5年(わ)第1203号電子計算機使用詐欺被告事件 主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実(令和6年7月22日付け訴因変更請求書に基づく訴因変更後のもの)及び争点本件の公訴事実は、「被告人は、株式会社甲(以下「本件本社」という。)の代理店として同社の携帯電話機等を販売することを業とする乙株式会社が経営する東京都国分寺市ab 丁目c 番d 号の丙店(以下「本件店舗」という。)において従業員として勤務していたものであるが、A(以下「本件実行犯」という。)及び氏名不詳者と共謀の上、不正に携帯電話機の通信サービス契約を締結して本件本社が管理する通信回線を利用できる地位を得ようと考え、令和4年9月3日、別表記載(別表省略)のとおり、10回にわたり、本件店舗が同店西側の丁駅前広場内に設置した出張販売ブース又は同店内において、真実は、本件実行犯又は氏名不詳者が、B(以下「本件名義人①」という。)ほか1名(当該1名の氏名はC(以下「本件名義人②」という。))になりすまして前記通信サービス契約を締結しようとしているのに、本件名義人①ほか1名本人が前記通信サービス契約を締結しようとしているかのように装い、同店に配備されたタブレット端末を被告人が自己のID又は同店従業員D(以下「本件チーフ」という。)のIDで起動させて使用し、通信回線を介し、日本国内に設置された同社の通信サービス契約等の事務処理に使用する電子計算機であるサーバコンピュータに対し、対面による本人確認をした旨並びに本件名義人①ほか1名の氏名、生年月日及び住所等を入力し、さらに、署名部分に本件実行犯又は氏名不詳者が本件名義人①ほか1名の署名をした5Gサービス契約申込書等のデータを送信して、携帯電話機の通信に 本件名義人①ほか1名の氏名、生年月日及び住所等を入力し、さらに、署名部分に本件実行犯又は氏名不詳者が本件名義人①ほか1名の署名をした5Gサービス契約申込書等のデータを送信して、携帯電話機の通信に必要な甲UIM(SIM)カード合計10枚の通信サービス契約を締結する旨の虚偽の情報を与え、その頃、前記サ ーバコンピュータに、本件名義人①ほか1名が前記通信サービス契約を締結した旨の財産権の得喪に係る不実の電磁的記録を作り、よって、前記甲UIM(SIM)カード合計10枚について、同社が管理する通信回線を利用できる契約上の地位を本件実行犯が取得し、もって人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報を与えて財産権の得喪及び変更に係る不実の電磁的記録を作り、財産上不法の利益を得た」というものである。 本件について、共犯者とされている本件実行犯が、本件名義人①及び同②の運転免許証を持参し、それぞれのなりすまし役を連れ、本件本社(大手電気通信事業者)の携帯電話機等の販売店である本件店舗を訪れ、受付担当者が被告人かどうかはさておき、判示事実どおりの行為を行い、SIMカード合計10枚に係る通信回線を利用できる契約(以下「SIM契約」といい、本件名義人①及び同②に係る契約を合わせて「本件各契約」という。)の契約上の地位を取得したという点は、被告人も争っておらず、証拠上明らかに認められる。本件の主たる争点は、被告人が本件名義人①の契約手続きを行ったか否か(争点1)、また、被告人が本件実行犯らと共謀し、なりすましと分かりながら、名義人本人が契約を締結するとの虚偽の情報を電子計算機に与えるなどしたか(争点2)である。 第2 当裁判所の判断 1 前提となる事実本件各契約に直接関係する事情として、信用できる本件実行犯の供述に加え、後掲証拠から認めら 偽の情報を電子計算機に与えるなどしたか(争点2)である。 第2 当裁判所の判断 1 前提となる事実本件各契約に直接関係する事情として、信用できる本件実行犯の供述に加え、後掲証拠から認められる事実は、以下のとおりであり、これに反する被告人の供述は、他の証拠と整合せず、不自然、不合理であるため、信用できない。 ⑴ 本件実行犯は、E(以下「本件指示役」という。)を指示役とし、使用目的を偽って集めた外国人の運転免許証等を利用して、本件店舗や同系列の携帯電話機等の販売店において、名義を偽ってSIM契約を締結し、同名義でスマートフォンを購入するなどの詐欺行為を繰り返していた。本件実行犯の役割は、なりすまし役を務める者らとともに店舗に行き、入店前に他人名義 の運転免許証とキャッシュカード等を渡し、同キャッシュカードの暗証番号を教えた上で、一緒に入店し、必要な場合に通訳を行うことであった。また、本件実行犯には、同様に実行犯の立場にあるF(以下「本件仲間」という。)という知人がいた。 ⑵ 本件店舗には、店長1名(G。以下「本件店長」という。)と副店長2名(被告人及びH(以下「本件副店長」という。))の下に、複数人の店員がいた。 本件店舗を含む同系列の販売店では、本件当時、社内ルールとして、SIM契約の締結時に、受付担当者が運転免許証等の顔写真と申込者本人の顔を見比べて本人確認を行うことになっており、契約手続き終了までに、別の店員による再度の本人確認等(以下「二者チェック」という。)を行うことになっていた。さらに、申込者が外国人の場合には、在留カードによる在留期間の確認も必要とされていた。また、通信料等の支払方法を口座振替に指定した際の支払口座は、本人または家族名義の口座しか登録できないこととなっていた。その登録手続き の場合には、在留カードによる在留期間の確認も必要とされていた。また、通信料等の支払方法を口座振替に指定した際の支払口座は、本人または家族名義の口座しか登録できないこととなっていた。その登録手続きは、キャッシュカード等を機械に読み込ませて行うが、口座名義人と申込者の氏名の異同は、受付担当者が目視で確認するほかなく、システム上で口座名義人を読み込み、自動的に登録を拒否するような仕組みにはなっていなかった。 ⑶ 本件実行犯は、本件当日、外国人である本件名義人①、同②及びI(以下「本件名義人③」という。)名義の各5回線分のSIM契約を締結すべく、本来の名義人に性別をそろえたなりすまし役3人を連れて、本件店舗を訪れ、本件指示役(又は本件仲間)の友達であると名乗って、被告人を指名した。 なお、契約締結場所について、本件各契約の際に使用されたのは、被告人と本件チーフの出張用IDでログインされたタブレット端末であると認められるが、契約締結の場所が店舗内であったという点で一致する本件実行犯及び被告人の供述に加え、被告人が、本件店舗では本件本社から出張販売が奨 励されており、その実績であると見せかけるため、店舗内でも出張用アカウントで手続きをすることがあったと、ある程度合理的な説明をしていることからすれば、本件各契約の締結場所は、本件店舗内であったことを前提にすべきである。 ⑷ 被告人は、本件名義人③の契約手続きを行い、なりすまし役が契約書に署名する形で、5回線分のSIM契約の契約手続きをした。 ⑸ 本件チーフの出張用IDで、本件名義人①の契約手続きが行われ、なりすまし役が署名する形で、5回線分のSIM契約の契約手続きがされた。同人の各契約に係る通信料等の支払口座は、実際には本件実行犯名義の口座であるが、契約書上は、本件名義人①名義の 手続きが行われ、なりすまし役が署名する形で、5回線分のSIM契約の契約手続きがされた。同人の各契約に係る通信料等の支払口座は、実際には本件実行犯名義の口座であるが、契約書上は、本件名義人①名義の口座として登録されている。同口座の登録時、本件実行犯は、本件名義人①名義のキャッシュカードを所持していなかったことから、自己名義の前記口座のキャッシュカードを提出して、これを機械に読み込ませて口座番号等を登録させ、暗証番号を入力して支払口座の指定を行った。 ⑹ 前記⑸の手続き開始直後に、本件実行犯が、本件仲間に対し、被告人が疲れたと言っているので、手続きを早めるために3万円を渡したという内容のチャットを送信した。 ⑺ 被告人は、本件名義人②の契約手続きを行い、5回線分のSIM契約の契約手続きをした。 本件名義人②の各契約に係る通信料等の支払口座は、実際には本件実行犯名義の前記⑸とは別の口座であるが、契約書上は、本件名義人②名義の口座として登録されている。同口座の登録時、なりすまし役は、本件名義人②名義の口座のキャッシュカードを提出し、本件名義人②から聞いていた暗証番号を入力したが、エラーが出て登録できなかった。被告人が「どのカードでもいい」などと言ったので、本件実行犯は、本件実行犯名義の前記口座のキャッシュカードを提出して、前記⑸と同様の方法により、本件実行犯名義の 前記口座を支払口座に指定した。 ⑻ 被告人は、担当した契約手続きの際、いずれも、なりすまし役のマスクを外させ、10秒から20秒程度、運転免許証の顔写真となりすまし役の顔を見比べたが、そのまま契約手続きをした。 ⑼ 契約に際して二者チェックをしたことを記載する契約時複数確認管理簿(出張用)には、担当者欄(受付を担当した者の署名欄)、確認者欄(二者チェックを担 見比べたが、そのまま契約手続きをした。 ⑼ 契約に際して二者チェックをしたことを記載する契約時複数確認管理簿(出張用)には、担当者欄(受付を担当した者の署名欄)、確認者欄(二者チェックを担当した者の署名欄)及び情報管理受任者欄(情報管理受任者の資格のある者の署名欄。確認者にその資格があれば、確認者が署名する。)があり、それぞれ担当した者が署名することになっている。本件各契約については、被告人と本件チーフの名が、それぞれ担当者と確認者及び情報管理受任者として記載されているが、これらは被告人がすべて一人で記載したものである。 2 検討⑴ まず、争点1はおいて、争点2について検討する。この点、被告人は、なりすましには気付いておらず、本件実行犯らと共謀していないと供述し、弁護人も同旨を主張する。本件では、被告人が主にやりとりをしていたと認められる本件指示役の供述等の証拠は存在せず、その他、直接的に被告人の故意や共謀の事実を示す証拠はない。検察官は、被告人と本件指示役らとの関係性、本件当日の行動及び本件後の出来事等から、被告人には故意及び共謀の事実が認められると主張するので、以下、検討する。 ⑵ 最初に、本件の契約締結時の状況は前記1⑶ないし⑻のとおりである。すなわち、名義人と性別をそろえたなりすまし役が申込者として来店し、被告人による本人確認を経て、なりすまし役が契約書に署名して契約を締結している。本件名義人①及び同②とそれぞれのなりすまし役は、いずれも外国人であって、名義人本人の顔貌となりすまし役の顔貌とがどれほど似ていたかは明らかでないから、本件名義人らの運転免許証の写真となりすまし役らの 顔を見比べたとき、別人であると見抜けるかどうかは定かではない。そうすると、被告人が、本人確認をしたのにそのまま契約手続きを進め でないから、本件名義人らの運転免許証の写真となりすまし役らの 顔を見比べたとき、別人であると見抜けるかどうかは定かではない。そうすると、被告人が、本人確認をしたのにそのまま契約手続きを進めたとしても、即座に被告人がなりすましと知って契約したということにはならない。むしろ、被告人が本件実行犯らと共謀し、なりすましを知っていたというのであれば、店員の目が少ない出張販売所に、本件実行犯のみが訪れて契約をすればよいところ、わざわざ報酬を支払って性別をそろえたなりすまし役を用意して契約に臨んでいるという点は、なりすましを知らず、共謀もしていないとの被告人の供述とより整合的であるといえる。 また、本件各契約にはほかにも、過去に同様の方法で来店したことがある本件実行犯が、今回も通訳として来店し、複数の契約に同席している点、いずれもが多数回線の契約である点、キャッシュカードの暗証番号を何度も誤った点など、不自然な点が存在した。しかし、正しい暗証番号を思い出せなくなることは通常でもままあるし、その他の点も、必ずしもなりすましによる契約を示唆するものではなく、使用目的が適正ではないとしても、本人の来店による契約など、欺罔行為によらない契約も多く想定し得るものである。 そうすると、本件各契約手続きの際の状況は、不自然な点はあるものの、携帯電話機等の販売店の副店長である被告人が、業務の一環として契約の申込みに対応するなかで、具体的になりすましを疑うべき状況とまではいえない。 ⑶ 次に、本件各契約時の被告人の対応についてみる。本件実行犯の公判供述に加え、前記1のとおりの契約手続き時の状況に照らせば、被告人は、前記契約手続きにおいて、二者チェックを受けていないと思われ、在留カードによる在留期間の確認をしておらず、本人名義でない口座を本人名義として支 前記1のとおりの契約手続き時の状況に照らせば、被告人は、前記契約手続きにおいて、二者チェックを受けていないと思われ、在留カードによる在留期間の確認をしておらず、本人名義でない口座を本人名義として支払口座に登録していると認められる。これらはいずれも社内ルールに反する手続きであり、本人確認等としてはずさんである。 証拠によれば、本件当時、本件本社としては、特に外国人の契約について、 偽造の証明書を使用した契約やなりますしによる契約があるとして、本人確認等を徹底するよう注意喚起や周知をしていたことが認められる。また、本件店舗及び近隣店舗の間では、外国人の申込みを拒否するとの申し合わせがされていたことが認められ、被告人においても、これらの方針やその理由等を当然理解していたと認められる。しかし、社内ルール上要求されている二者チェック、在留カードの確認、通信料等の支払口座の限定等は、いずれも、なりすましを含む違法な契約の排除に有効とはいえるが、どれかを欠く申込者が、必ず契約に関して欺罔行為を行っているといえるものでもない。したがって、被告人が、前記の社内ルールに反した契約手続きをすることで、不正な契約を見逃す可能性が高まると認識していたとはいえるとして、それによって、目の前の個別の契約について、なりすましであるかもしれないと認識・認容していたと言い切ることはできない。 現に、本件当時、本件本社からの営業目標が高すぎて、不正契約が横行していたとのことであり、契約数を増やすために同社内ルールを守らず、身元が不安定な者でも契約しようという店員が一定数いたことがうかがわれる。 被告人もまた、犯罪に加担するというのではなく、営業成績のため、社内ルールのとおりの本人確認等を行わずに契約を締結していただけであるとの可能性は否定しきれない。後述す 一定数いたことがうかがわれる。 被告人もまた、犯罪に加担するというのではなく、営業成績のため、社内ルールのとおりの本人確認等を行わずに契約を締結していただけであるとの可能性は否定しきれない。後述する被告人と本件店長らとのやりとりも、それを裏付けるものといえる。 さらに、被告人が、本件実行犯名義の口座を本人名義の口座であるとして登録していた点も、被告人が、支払いさえされれば問題ないと考えて、本人や家族名義でない口座を許容していたとすれば、本社の審査を通るように、形式上、本人名義として登録していたとみることもできる。それが社内ルールに反して適切でないのはいうまでもないが、問題のない契約でも家族以外の支払いが必要な場面はあり得、なりすましであることと直接は結び付かないから、これによって被告人の故意及び共謀の事実を認定できるとするのは 困難である。 ここで、争点1についても触れる。弁護人が指摘するとおり、本件名義人①の5回線分のSIMカードの売上処理は、被告人が担当していた本件名義人③の最後の契約の契約開始時刻と同時刻及びその1分後に順次されている。 そうすると、被告人が供述するように、本件名義人①の手続きは、担当者IDのとおり本件チーフが担当していた可能性は十分にある。ただし、仮にそうでないとしても、本件店舗では、手続きが立て込んでいる場合に他の店員のIDを利用して契約手続きを行うことは日常的に行われていたと認められる。また、本件に係る契約時複数確認管理簿の記載を被告人がすべて一人でしていることについても、同管理簿は、場合によっては後でまとめて記載するような運用も常態化し(被告人以外にもすべてを一人で記入している者がいる)、出張販売時には二者チェックがされていなかったこともうかがえる。 そうすると、被告人が本件名義人①の手続きを本 とめて記載するような運用も常態化し(被告人以外にもすべてを一人で記入している者がいる)、出張販売時には二者チェックがされていなかったこともうかがえる。 そうすると、被告人が本件名義人①の手続きを本件チーフのIDを利用して行い、同管理簿に本件チーフの名を記載したとしても、それが被告人の故意や共謀の事実を推認させるとはいいがたい。 ⑷ 続いて、被告人と本件指示役らとの関係についてである。本件実行犯は、被告人がなりすましと分かっていると思っていたと述べる。その理由は、本件指示役から、被告人に頼めば、運転免許証及びキャッシュカードとその暗証番号があれば携帯電話の契約ができると聞いていたことや、本件仲間から、被告人はなりすましと分かっていると聞いていたことである。ただし、本件仲間も、本件指示役から話を聞いただけであり、その話の内容は、本件実行犯と同様か、被告人とは一緒に長く働いていて仲が良いこと、被告人は本人確認をしないので名義人本人がいなくても簡単に契約の手続きができること、何かあったら被告人に言えばいいから他人になりすますことについて心配しなくていいことなどである。 このとおり、本件指示役は、本件実行犯らにさえ、被告人はなりすましだ と知っていて協力していると明言してはいない。また、本件指示役の説明は、本件実行犯らによる伝聞であり、そもそもその内容の正確性には疑義がある上、本件指示役が、本件実行犯らを安心させて犯罪に協力させるために、被告人との関係や被告人の対応を誇張して述べている可能性もある。そうすると、実際の本件指示役の認識は、被告人が、営業成績のため、本人確認等の社内ルールを遵守せずに契約手続きをするので、結果として、なりすましによる契約が容易であり、本件指示役としては、そういった被告人を利用していた、という程度のも 被告人が、営業成績のため、本人確認等の社内ルールを遵守せずに契約手続きをするので、結果として、なりすましによる契約が容易であり、本件指示役としては、そういった被告人を利用していた、という程度のものであった可能性を否定しきれない。被告人と本件指示役、本件実行犯らが連絡先を交換しており、本件指示役が被告人のいる時を狙って本件実行犯を来店させていたことや、本件指示役がSNSに、被告人と本件店舗前で撮った写真を載せ、「週末までに帰国する人でもフリーSIMなどが受け取れる」などと記載したり、被告人と他の外国人と飲みに行くなどしていたことも、前記のとおりの被告人を利用する行為として十分説明可能である。また、被告人側からみれば、それらの事情や、被告人が少なくとも本件指示役にシフトを知らせていたことも、自らの営業成績を上げるための営業行為の一環として理解可能である。ほかにも、本件実行犯の来店時に被告人と本件指示役が電話で話したことがあると認められるが、電話の内容は定かでなく、この事実によっても、被告人の故意や共謀を十分に推認することはできない。そして、本件指示役は、多数の契約を持ち込む際に、被告人に対して実行犯らに一、二万円を支払わせることがあったと認められ、本件でも、被告人は3万円を受け取った疑いがある(本件実行犯は授受の事実を否定しており、虚偽の供述をする動機は考えられないが、従前の本件指示役の発言と本件実行犯の当日の前記1⑹のメッセージの内容からすれば、金銭の授受があったと考えるのが自然である。)。しかし、被告人はそもそも、本件指示役らに協力することによる定まった報酬は受領しておらず、前記支払いは、被告人が社内ルールを遵守せずに契約手続きをするという便宜を図 っていることや、多数の契約手続きを行ってもらうことに対する心付けのよ ことによる定まった報酬は受領しておらず、前記支払いは、被告人が社内ルールを遵守せずに契約手続きをするという便宜を図 っていることや、多数の契約手続きを行ってもらうことに対する心付けのようなものともとれるから、この金銭授受が仮にあったとしても、被告人の故意や共謀の事実を認める強い根拠とはならない。 ⑸ 検察官は、これらのほか、被告人と本件店舗の店長及び本件副店長とのやりとりについても指摘する。 被告人と本件店長との間では、本件以前に、ベトナム人を含む外国人の契約について、「最近審査を通らない」、「リスクがある」、「やりすぎると寿命が縮まる気が」するなどの発言が交わされていた。また、被告人と本件副店長と間では、本件以前に、被告人が「ベト(ベトナム人を含む外国人の意)の小ボス何人相手にしていると思ってるんだ」、「ベトと共に生きてますからね。(中略)なにかあれば○○(被告人の苗字)、ベトと一緒に撤退しますよ。 ポートイン商材ないのにポートイン作れるのはベトですよね。」などと発信し、さらに、社内ルールに反すると知りながら、在留カードはないがこれがあることにして、運転免許証のみで機種変更手続きを行おうとか、「ベトは断ったのに来ちゃった」ということにしようなどと話し合うなどしていたことがあったほか、本件から約2週間後には、被告人が「捕まるかも」などと発信したこともあった。 これらのやりとりは、被告人が、営業成績として、本件本社から評価の高いポートイン(他社からの乗り換え)の契約数を増やすために、本人確認等の社内ルールに違反してでも、ベトナム人を含む外国人との契約手続きをしていたとの先述の説明を裏付けるものである。そのために被告人がベトナム人を含む外国人を「呼ぶ」(本件店舗に来てもらい契約してもらうとの意味と解釈される。)との表現も 人を含む外国人との契約手続きをしていたとの先述の説明を裏付けるものである。そのために被告人がベトナム人を含む外国人を「呼ぶ」(本件店舗に来てもらい契約してもらうとの意味と解釈される。)との表現も見受けられるから、被告人が窓口として積極的にその契約手続きに関与していたことは認められる。しかし、本件以前のやりとりの中には、被告人らが犯罪行為を行っている認識があるとまで読めるものはない。「リスク」や「ベトとともに撤退」という表現は、少なくとも 社内ルールや近隣店舗との申し合わせに違反しているとの認識がある被告人らにおいて、それが本件本社等に知られれば、社内での評価や地位に関わるという限度の認識であってもされる表現である。なお、「ベトの小ボス」や「ポートインないのにポートイン商材作れる」という表現は、内容として犯罪等を示唆すると疑われるところであるが、その意味するところは一義的に明らかではないし、少なくともなりすましを示唆するものではない。 ただし、本件後には、被告人が「捕まるかも」などと発信しているものがあり、その時点で、被告人が何らかの犯罪行為を行ったとの認識を有していたことがうかがわれる(この発言が冗談であるなどとする被告人や本件副店長らの供述は不合理であり、信用できない。)。他方で、被告人は、本件の約2週間後に、本件とは別に手続きをした契約の名義人から、契約した覚えがないという連絡が入ったことから、本件指示役に対し、本件実行犯の連れてくる「案件やばい」、「警察が、本格的に動いたら面倒くさいことになりそう」などとメッセージを送っており、本件副店長に対する前記チャットは、その翌日に送信されたと認められる(被告人は本件指示役への当該メッセージの送信事実を否定するが、当該メッセージに、本件指示役らが名義人として利用し、被告人が おり、本件副店長に対する前記チャットは、その翌日に送信されたと認められる(被告人は本件指示役への当該メッセージの送信事実を否定するが、当該メッセージに、本件指示役らが名義人として利用し、被告人が契約手続きを行った外国人の名前と一部一致する名前が挙げられていることや、前記各メッセージの時系列からすれば、当該メッセージの送信者は被告人であると認められる。)。そうすると、被告人がこの時点で「捕まるかも」などと、犯罪を行った可能性の認識を前提とした発信をしたことも、本件事件後の別件名義人からの身に覚えがないとする問い合わせを契機にされたものとして矛盾せず、本件以前から被告人が犯罪を行った可能性を認識していた根拠とするには不十分である。 以上からすれば、被告人と本件店長らとのやりとりも、被告人の故意や共謀の事実を裏付けるものとはいえない。 ⑹ 補足として、被告人が、公判廷において、前記⑴ないし⑸で認定・説示し たところ異なる説明をしたことについては、刑事訴追されている場面において、無罪を主張する者が、自己に不利と考える事実を少しでも隠そうとするのは自然で合理的であるから、この点は上記判断を左右しない。 ⑺ 最後に、前記⑴ないし⑸で述べた事情をすべて総合的に考慮し、その他、被告人が、過去に、大量のスマートフォンの受領で委任状の確認を十分にせずに降格人事の対象となっていたとうかがわれることなどの事情を踏まえても、本件の一連の事情は、被告人が、本件各契約はなりすましによる契約であるかもしれないが、そうであっても構わないと認識、認容していなかったとしても、また、本件指示役らとの共謀がなかったとしても説明可能である。 したがって、本件では、本件各契約いずれについても、被告人の故意及び共謀の事実があったとするには合理的な疑いが残り、被告人 ったとしても、また、本件指示役らとの共謀がなかったとしても説明可能である。 したがって、本件では、本件各契約いずれについても、被告人の故意及び共謀の事実があったとするには合理的な疑いが残り、被告人の故意及び共謀の事実を認めるに足りない。 3 結論よって、本件公訴事実については犯罪の証明がないから、刑訴法336条により、被告人に対し、無罪の言渡しをする。 (求刑懲役2年6月)令和6年11月12日福岡地方裁判所第2刑事部 裁判官武田夕子
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