平成12(わ)480 傷害

裁判年月日・裁判所
平成14年3月25日 神戸地方裁判所
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判決文本文6,022 文字)

判決平成14年3月25日神戸地方裁判所平成12年(わ)第480号傷害被告事件 主文 被告人を罰金30万円に処する。 罰金を全額納めることができないときは,5000円を1日に換算した期間労役場に留置する。 訴訟費用は被告人に負担させる。 理由 (犯罪事実)被告人は,平成10年12月19日午後11時ころ,神戸市兵庫区(以下省略)先路上で,V(当時46歳)に対し,右手でVの首にのど輪をして突き上げるようにして押し,その場に押し倒す等の暴行を加え,その結果,Vに約10日間の治療を必要とする頚部・腰打撲,左肘擦過傷の傷害を負わせた。 (証拠)・証人V,Kの公判供述・ Tの検察官調書・実況見分調書・写真撮影報告書・診断書(争点に対する判断) 1 被告人は,捜査段階及び公判を通じ,Vを押し倒したことを否認し,本件傷害の事実については無罪である旨主張して争う。 2 しかし,被害者Vの証言によれば,次の事実が認められる。 (1) 本件当時,Vは,Gタクシー株式会社に勤務するタクシー運転手であり,被告人は,Pタクシー株式会社に勤務するタクシー運転手であり,ともに,神戸駅北側タクシー乗り場を客待ちの拠点としていた。Vは,被告人とは,以前に同じタクシー会社で働いていたこともあり,元同僚で顔見知りの間柄にあった。 (2) 本件当日の平成10年12月19日(土曜日)午後10時55分ころ,Vは,神戸駅北側タクシー乗り場で,神戸市北区ひよどり台までの50歳前後の女性客を乗せ,神戸駅から湊川神社西側道路を北上し,文化ホール前の交差点を西へ左折し,山手幹線を西進していた。被告人も,神戸駅北側タクシー乗り場で,V運転のタクシーに続いて客を乗せ, の50歳前後の女性客を乗せ,神戸駅から湊川神社西側道路を北上し,文化ホール前の交差点を西へ左折し,山手幹線を西進していた。被告人も,神戸駅北側タクシー乗り場で,V運転のタクシーに続いて客を乗せ,V運転タクシーと同じ経路を通って,V運転タクシーのすぐ後ろを追従してきていた。 (3) Vは,山手幹線西行き3車線のうちの,最も右側の,中央分離帯横の車線を西進していたところ,後続の被告人運転タクシーが前照灯を上向き(いわゆるハイビーム)にしてきたことから,4,5日前にも被告人から同様のことをされたこともあって,嫌がらせをされていると大いに立腹し,被告人に注意をしようと考えた。 (4) Vは,本件現場である神戸市兵庫区(以下省略)先交差点で,赤色信号により停止し,V運転タクシーを降り,同タクシーのすぐ後ろに停止した被告人運転タクシーの運転席に近付き,被告人に対し,「何しとんじゃ。」と大声で言った。すると,被告人が,黙ってシートベルトを外し,被告人運転タクシーの運転席ドアを自分で開けて,同タクシーから降りてきた。 (5) 被告人運転タクシーの運転席横の道路上で,被告人は,Vに対し,「お前,女けったやろ(女性客の乗車拒否をした,という意味)。」と言い,Vが,被告人に対し,「何でその時言えへんのじゃ。」と言い返すと,被告人運転タクシーの運転席ドア辺りを背にして立っていた被告人は,被告人に向かい合って同道路中央分離帯の生け垣を背にして立っているVに対し,Vの首に被告人の右手でのど輪をし,突き上げるようにして押してきた。そのため,Vは,道路中央分離帯の生け垣(冬場のため木の葉は落ちている。)の中へ,上体からひっくり返り,尻もちをつき,左手をついて,倒れ込んだ。 (6) そして,Vは,立ち上がり,暴力を振るうようなことはしないと思っていた被告人から (冬場のため木の葉は落ちている。)の中へ,上体からひっくり返り,尻もちをつき,左手をついて,倒れ込んだ。 (6) そして,Vは,立ち上がり,暴力を振るうようなことはしないと思っていた被告人から,いきなり前記のような暴力を振るわれて,慌てふためき,被告人に対し,「診断書出すぞ(警察に診断書を出して事件にする,という意味)。」と言って,V運転タクシーの方に逃げかけると,先程倒された位置から約2メートルほど西寄りの同路上の位置で,再び,被告人は,Vに対し,先程と同様,Vの首に被告人の右手でのど輪をし,突き上げるようにして押し,そのため,Vは,前同様に,道路中央分離帯の生け垣の中へ,ひっくり返り,尻もちをつき,左手をついて,倒れ込んだ。 (7) それで,Vは,起きあがり,慌ててV運転タクシーに逃げ帰り,同タクシーに乗り込んで客に謝罪し,その場から同タクシーを発進させた。 (8) Vは,客に謝罪後,客に依頼して,客の名前と電話番号を書いてもらった。 そして,客を送った帰途の本件当日(12月19日)午後11時50分ころ,兵庫警察署に行き,本件被害を届け出た(正式な被害届の日付は12月21日付けとなっている。)。Vは,本件の翌日の12月20日(日曜日)午前中,救急病院のK病院に行き,被告人から受けた前記暴行による傷害について医師の診察を受け,同日は日曜日のため診断書は出せないということから,翌12月21日(月曜日)に医師から診断書を受け取った。 3 以上のV証言は,証言の流れ,証言内容は自然であり,V証人の警察官調書(弁1号証),検察官調書(弁2号証)と対比して,細部における多少の記憶の違いはあるものの,証言内容は大筋において一貫しており,詳細な反対尋問にも崩れておらず,その信用性は高いというべきである。 4 これに対し,被告人は,捜査段階の平成 対比して,細部における多少の記憶の違いはあるものの,証言内容は大筋において一貫しており,詳細な反対尋問にも崩れておらず,その信用性は高いというべきである。 4 これに対し,被告人は,捜査段階の平成11年3月13日付け陳述書で,本件犯行状況について,(1) Vは,いきなり,被告人の左腰にVの右手をかけ,被告人の右肩にVの左手をかけ,相撲のような体勢をとって,被告人を押し倒そうと押してきた。そのため,被告人は,よろめき,左後ろ側に引き下がった。その結果,被告人は,被告人運転タクシーの運転席ドア辺りに背中がぶつかり,Vは,同タクシーを背にした被告人を,左腰と右肩を持ったまま,同タクシーに押し付けるような体勢となった。 Vは,更に強く被告人を同タクシーに押し付けてきた。そのとき,Vは,丁度Vの足元後ろ側にあった道路分離帯の縁石に足をとられたものと思われるが,ひょろっという感じで,被告人をつかまえたまま,後ろ向きに道路分離帯の植栽に背中から倒れていった。被告人も,倒れまいと踏ん張ったが,Vにつかまえられているから,一緒に前向きにVに重なるような形で,道路分離帯の植栽に向かって倒れた。 (2) 思うに,Vが倒れた原因は,被告人を同タクシーに向かって押し付けるようにした結果,作用反作用の原理でV自身が加えた力がはね返って押し戻され,そのため,よろめいて,丁度足元後ろ側にあった道路分離帯の縁石に足をとられたことにある。 (3) 被告人が,Vを押し倒したようなことは一切ない。 (4) Vは,倒れた後も,被告人の体から手をはなさずにいたため,被告人は,自分で立ち上がるときに,一緒にVを助け起こしてやった。 (5) Vは,特に怪我をした様子もなく立ち上がり,「医者行ったるからな。」と言って,Vの車に普通に歩いて戻って行った。 と供述し,また,公判でも 立ち上がるときに,一緒にVを助け起こしてやった。 (5) Vは,特に怪我をした様子もなく立ち上がり,「医者行ったるからな。」と言って,Vの車に普通に歩いて戻って行った。 と供述し,また,公判でも,以上の陳述書に沿った供述を繰り返している。 5 しかし,以上の犯行状況に関する被告人の供述の核心部分である前記4(2)の点についてみると,反作用といっても,それは,Vが被告人を押し付ける力(作用)と等しく,作用と反作用は釣り合っているのであるから,被告人がいうような,反作用として,Vが被告人をタクシーに押し付けた力がはね返って,V自身が押し戻されてよろめいたというようなことは,全くあり得ないことであって,この点に関する被告人の供述内容は,荒唐無稽の理屈によるものというほかない。この点について,弁護人は,弁論要旨8ページで,「たとえば動かない壁に向かって壁を押そうとすると自分の体を後方に押すことになることと同じである。このため,Vの体は後方に倒れ,」と例をあげて説明を加えているところ,弁護人の前記説明では,動かない壁に向かって壁を押そうとすると,自分の体が後方に倒れてしまい,壁を押し続けることができないということになるが,現実にはそのようなことはおよそあり得ないことであり,弁護人のあげる前記の例からみてもわかるように,被告人の前記4(2)の供述は,全く荒唐無稽のものであることが明らかである。なお,この点に関連して,被告人は,公判で,反動とも供述し,Vが被告人の体を押してきて,被告人の体が被告人のタクシーに当たって前の方にはね返ることが反動であると述べているが,被告人は,この反動を前記の反作用と混同して供述しているところもあるだけでなく,被告人が前方にはね返ったことにより,なぜVが倒れるのか,合理的な説明ができないことからすると,反作用にしても, いるが,被告人は,この反動を前記の反作用と混同して供述しているところもあるだけでなく,被告人が前方にはね返ったことにより,なぜVが倒れるのか,合理的な説明ができないことからすると,反作用にしても,反動にしても,いずれも被告人が経験した事実を基礎にして供述をしているのではなく,頭で考えた理屈を供述をしているにすぎないという疑いが一層大きくなるのである。 加えて,被告人は,公判では,Vが,被告人をタクシーに押し付けた後,被告人を引っ張り,Vの後ろにある分離帯の縁石に足を取られたと供述するところ,検察官から,前記陳述書では,被告人は,Vが被告人を引っ張ったことは述べていないことを追及されるや,「陳述書で供述した時点では思いつかなかった。」「思いつかなかったというのは,覚えていないということではなく,言うべきことだったが,言いそびれた,言わなかったということです。」と述べ,また,検察官から,Vが分離帯の縁石に足を取られたのを見たと述べる点について追及されるや,Vにつかみかかられて,体は接近しており,被告人の顔は,Vの顔の方を向いていることを認めた上で,なおも,Vの足が縁石にぶつかって,足を取られるところが,「あのときの状況,感覚からすれば,狭いですから見えていると思う。」「眼球の動きで見えた。」「見えたことを記憶している。」と述べ,極めて不合理,不自然で,強引な供述をしているのであって,真実被告人の体験に基づく供述であるのか疑問であるといわざるを得ない。 以上のような事情に照らすと,被告人の前記陳述書及び公判供述は到底信用することができない。 6 なお,本件当時,V運転タクシーの客であったTの検察官調書によれば,(1) 本件当日夜,Tは,神戸駅前からタクシーに乗り,助手席後ろの後部座席に座った。同タクシーは,走り出して5分くらいして赤 6 なお,本件当時,V運転タクシーの客であったTの検察官調書によれば,(1) 本件当日夜,Tは,神戸駅前からタクシーに乗り,助手席後ろの後部座席に座った。同タクシーは,走り出して5分くらいして赤信号で止まった。このとき,後続車から「プッ」とクラクションを鳴らされた。すると,いきなり,Tの乗ったタクシーの運転手(以下「V運転手」という。)が同タクシーから降りて,後ろの方に行った。 (2) Tは,V運転手がすぐ戻ってくると思い,前方を見ていた。そのうち,後方から,客を取った,取らないという内容の,言い争う男の声が聞こえてきた。それで,Tは,言い争いの内容から,V運転手と別のタクシーの運転手が口げんかをしていると思った。 (3) Tは,この言い争いの声を聞いて,後ろを振り返ってみたが,白色ベストに白色カッターシャツを着た別のタクシーの運転手(以下「被告人」という。)だけが見え,V運転手は見当たらなかった。 (4) それで,Tは,また前方を見ていた。その後,Tは,V運転手が戻ってくるのが余りにも遅いことから,再度後ろを振り返って見た。すると,被告人が,V運転手を植込みの中から引っ張り起こそうとしているところだった。被告人は,V運転手を引っ張り起こすと,「早う客乗せていけ。」と怒鳴った。 (5) そして,V運転手が運転席に戻ってきて,Tに謝り,タクシーを発進させた。 以上の事実が認められる。 以上のTの検察官調書のうち,(3)の,言い争いの直後,被告人だけが見えていて,Vは見当たらなかったこと,及び(4)の,Tが述べる時間の経過を考慮すると,被告人が供述するように,Vが1回しか倒れていないとみるのは甚だ不自然にすぎるものというべきであり,(2)の,当初,Vと被告人が,客を取った,取らないという内容の言い争いをしていたことをも併せ考慮 被告人が供述するように,Vが1回しか倒れていないとみるのは甚だ不自然にすぎるものというべきであり,(2)の,当初,Vと被告人が,客を取った,取らないという内容の言い争いをしていたことをも併せ考慮すると,Tの検察官調書は,前記V証言によりよく符合するものと認められる。 もっとも,Vは,被告人から引き起こされたことを強く否定する証言をしているが,他方で,Vが,暴力を振るうようなことはしないと思っていた被告人から,いきなり暴力を振るわれて慌てふためき,頭が混乱した状態にあったことも証言していることからすると,前記の点の否定証言だけで,V証言全体の信用性が低下することにはならない。そして,Tの検察官調書が,被告人がVを引き起こしたという点で前記被告人の供述と符合していても,前記のとおり,Vが1回しか倒れていないという前記被告人の供述の根幹部分に符合していないと認められる以上,それにより前記被告人の供述の信用性を高めることはできない。 7 以上に検討してきたとおりであって,前記2のV証言は信用するのに十分であり,これに対し,前記4の被告人の陳述書及び公判供述は到底信用できない。よって,前記V証言のほか挙示の証拠によれば,判示の事実は,優に認定することができる。被告人の前記1の主張は,理由がない。 (法令の適用)罰条刑法204条刑種の選択罰金刑労役場留置刑法18条訴訟費用の負担刑訴法181条1項本文平成14年3月25日神戸地方裁判所裁判官白神文弘

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