平成12(ネ)92 保険金請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成13年9月28日 広島高等裁判所 岡山支部
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判決文本文7,419 文字)

主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 申立て 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人A保険株式会社は,控訴人に対し,金560万2500円及びこれに対する平成10年5月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (3) 被控訴人B保険株式会社は,控訴人に対し,金871万6000円及びこれに対する平成10年5月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (4) 被控訴人C保険株式会社は,控訴人に対し,金2842万2000円及びこれに対する平成8年6月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (5) 訴訟費用は第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。 2 被控訴人ら主文と同旨第2 事案の概要事案の概要は,次のとおり改めるほかは,原判決「第二事案の概要」欄に記載されたとおりであるから,これを引用する。 1 9頁3行目「有限会社D牧場」を,「控訴人が代表者を務める有限会社D牧場(以下「D牧場」という。)」と改める。 2 9頁11行目「後遺障害保険金として」の次に,「被保険者に」を挿入する。 3 16頁10行目「原告車」を「本件自動車」と改める。 4 17頁7行目の次に改行の上,「8 被控訴人らはいずれも,損害保険業等を目的とする会社である。」と付加する。 5 18頁3行目「直接の結果として、」の次に,「本件事故発生の日からその日を含め180日以内に」を挿入する。 6 18頁5行目の次に改行の上,「3 控訴人は平成8年5月31日,被控訴人Cに対し,前記各保険金の支払を請求した。」と付加する。 第3 争点に対する判断 1 争点1について(1) 控 る。 6 18頁5行目の次に改行の上,「3 控訴人は平成8年5月31日,被控訴人Cに対し,前記各保険金の支払を請求した。」と付加する。 第3 争点に対する判断 1 争点1について(1) 控訴人は,前記のとおり事故状況については記憶がない旨主張し,当審における本人尋問でもその旨供述しているところ,少なくとも平成8年7月以後に,控訴人から保険会社等に提出された請求書等には,いずれも事故状況として,「運転中がけ下に転落,直前の状況については操作ミスと思うが,あまりよく覚えていない」旨の記載がされている(甲5,乙5,乙7の2)。 したがって,本件事故が急激かつ偶然な外来の事故,とりわけ偶然な事故であるか否かは,他の証拠から事故原因を推認して判断するほかはないところ,証拠(各項中に摘示したもの)によれば,本件事故現場付近の状況等につき,次の事実が認められる。 ア控訴人は,昭和44年2月7日に普通免許を取得して以来,同免許を更新しており,本件事故の当日は,自宅を出て国道373号線を南に向かって進行していたところ,自宅から本件事故現場までは約11キロメートルで,所要時間は約15分である。本件事故現場手前の国道373号線の状況は,人家を過ぎたところで大きな左カーブとなり,これを過ぎると短い右カーブとなり,その後,緩い左カーブとなって本件事故現場付近に至り,本件事故現場付近からやや急な右カーブとなっている。国道373号線は,本件事故現場付近において,南に向かい勾配100分の3の割合で下り坂となっているが,南行き車線の見とおしは前方,後方とも良好であり,黄色の中央線により,対向車線(各車線の幅員はいずれも約3.1メートル,ただし,外側線の外側に幅員0.3メートルの路肩部分がある。)が区分されるとともに,追い越しのための右側部分はみ出 良好であり,黄色の中央線により,対向車線(各車線の幅員はいずれも約3.1メートル,ただし,外側線の外側に幅員0.3メートルの路肩部分がある。)が区分されるとともに,追い越しのための右側部分はみ出しが禁止され,最高速度は50キロメートル毎時に制限されている。本件事故現場の手前は,道路右側が山で,道路左側にガードレールが設置されており,同ガードレールが途絶える辺りから,前記のとおりやや急な右カーブとなっているが,この付近の道路左側にだけ,約40メートルにわたって舗装されていない空地(以下「本件空地」という。)があり,本件空地を過ぎる辺りから再び,道路左側にガードレールが設置されている。(乙10,13,14の1,56の1及び2,57)イ本件事故当日の午後4時30分から午後5時15分までの間に,兵庫県E警察署の司法巡査が行った実況見分の結果では,当時の天候はくもりで,アスファスト舗装がなされた国道373号線の路面は乾燥していた。本件空地上には,右曲がりの南行き車線のガードレールの切れ目北端から約20メートル余り過ぎた辺りから,直線で,本件空地の南東端まで延びるタイヤ痕(走行痕)が2本残されており,その長さは,右側が約11メートル,左側が約15.1メートルであった。 そして,本件空地の東方崖下の土手上には,本件自動車の前部バンパーが落ちており,更にその下の佐用川内に本件自動車が転落していた。 なお,この実況見分の結果を記載した実況見分調書には,本件事故現場付近にブレーキ痕やスリップ痕があった旨の記載はない。(乙14の1)ウ本件自動車は,トヨタクラウンハードトップのオートマチック車であり,その長さは4.80メートル,幅は1.75メートル,高さは1.44メートル,重量は1620キログラム(前軸荷重930キログラム,後軸荷重 自動車は,トヨタクラウンハードトップのオートマチック車であり,その長さは4.80メートル,幅は1.75メートル,高さは1.44メートル,重量は1620キログラム(前軸荷重930キログラム,後軸荷重690キログラム)である。本件自動車は,本件事故により,前面が左右おおむね平等に押し込まれ,屋根がわずかに下向きに押しつぶされたほか,後部のトランクルーム等も顕著に破損しており,その破損の部位,程度からすると,一度,前部が地面に衝突した後,前転して屋根,次いで後部を地面に衝突させながら,佐用川に転落したものと推認される。(乙57)エ前記実況見分調書に記載されたタイヤ痕の位置,本件事故現場付近の地形等に基づいて,本件自動車が最初に転落した崖下の土手の位置を推測すると,その位置とタイヤ痕が残された本件空地の末端との高度差は5.9メートル,水平距離は9.2メートルであり,これを前提として計算すると,本件自動車の本件空地からの飛び出し速度は,約30キロメートル毎時と推認される。(乙57,70)(2) (1)に認定した事実に基づいて,本件事故の原因につき検討するに,控訴人は,本件事故の原因として,本件事故現場付近で,①居眠り運転をしていたか,②スピードを出し過ぎていたか,③対向車との衝突を避けようとしたか,④前方不注視のいずれかであった旨主張する。 しかしながら,本件事故現場手前の国道373号線の状況は,前認定のとおり,人家を過ぎたところで大きな左カーブとなり,これを過ぎると短い右カーブとなり,その後,緩い左カーブとなって本件事故現場付近に至り,本件事故現場付近からやや急な右カーブとなっているのであって,連続した緩急の左右カーブを無事通過してきた控訴人が,本件事故現場付近で突然居眠り運転に陥ることは,容易には想定し難い。 至り,本件事故現場付近からやや急な右カーブとなっているのであって,連続した緩急の左右カーブを無事通過してきた控訴人が,本件事故現場付近で突然居眠り運転に陥ることは,容易には想定し難い。 また,スピードを出し過ぎていたとか,対向車との衝突を避けようとしたとする点については,本件事故現場付近には,右曲がりの南行き車線の途中から,直線で本件空地の南東端まで延びるタイヤ痕(走行痕)が2本残されていただけで,ブレーキ痕やスリップ痕が残されていなかったこと,本件空地からの飛び出し速度が約30キロメートル毎時と推認されること,さらには対向車の存在を窺わせる証拠が全くないこと等からすると,これらの事故原因も,容易には想定し難い。 もっとも,前方不注視による事故については,これに沿うものとして,控訴人の平成8年5月8日付け警察官調書(乙10)及び同日付け実況見分調書(乙14の2)の中に,前認定のガードレールが途絶える少し前で,本件自動車内の左下のコンソールの上に置いていた携帯電話が助手席の足元に落ちたので,それを拾うために左下を見始めたため,前方をよく見ていなかった旨の記載部分がある。同記載部分については,控訴人自身,乙56の1の本人尋問調書中で,本件事故当時,携帯電話を車に乗せていたかどうかは記憶になく,警察官から携帯電話の話をされたことも記憶がない旨述べていることや,平成8年6月までに保険会社等に提出された請求書等における事故状況の記載と大きく異なっていること(甲1,2,乙7の1,乙9)等に照らし,その信用性に疑問の余地がある上,本件事故現場付近を何度も通ったことがある控訴人が(乙56の1),前方にやや急な右カーブのあることが一見して明らかな本件事故現場において(乙13,57),携帯電話が落ちたくらいのことで脇見をするであろうかとい 付近を何度も通ったことがある控訴人が(乙56の1),前方にやや急な右カーブのあることが一見して明らかな本件事故現場において(乙13,57),携帯電話が落ちたくらいのことで脇見をするであろうかといった疑問が残ることは否定し得ないが,(1)で認定した事実中に,前方不注視による事故を直ちに否定する根拠となるべき事実は見出し難く,上記の疑問も,必ずしも前方不注視による事故を合理的に疑わせるものとまではいえない。 そして,本件空地の末端から本件自動車が最初に転落した地点までの高度差が5.9メートルもあり,更にその下には佐用川があることや,本件自動車の破損状況等に照らすと,本件空地から転落した場合には,控訴人自身が死亡することも十分にあり得たことであるから,控訴人に自殺を企図したことを窺わせるような事情があれば格別,そうでなければ,本件事故が控訴人の何らかの原因による前方不注視により発生した可能性は,あながち否定し難いところである。 (3) そこで,控訴人に自殺を企図したことを窺わせる事情があるか否かについて検討するに,証拠(各項中に摘示したもの)によれば,次の事実が認められる。 ア D牧場は昭和41年8月,資本の総額を860万円として設立された有限会社で,その目的は農産物,畜産物の生産,仕入れ及び販売等であり,取締役は控訴人のみであった。(乙17)イ本件事故当時,D牧場は少なくとも,次のとおり3億1936万5527円の債務を負担していた。 (ア) 株式会社F銀行G支店関係(乙35) 6674万円a 証書貸付 404万円(分割払いの最終期限:平成13年8月30日)b 証書貸付 1030万円(同:平成11年9月16日)c 証書貸付 3213万円(同:平成10年11月29日) 404万円(分割払いの最終期限:平成13年8月30日)b 証書貸付 1030万円(同:平成11年9月16日)c 証書貸付 3213万円(同:平成10年11月29日)d 手形貸付 500万円(期限:平成8年1月11日)e 手形貸付 500万円(期限:平成8年1月11日)f 手形貸付 500万円(期限:平成8年1月11日)g 商業手形 257万円(期限:平成8年5月15日)h 商業手形 270万円(期限:平成8年3月15日)なお,上記aないしeの債務については,H県信用保証協会による信用保証が付されていたが,同協会は平成8年5月27日,これらの債務につき,元利金5735万5151円を代位弁済した。(甲10)(イ) I信用組合J支店関係(乙36) 2185万円a 証書貸付 680万円(期限:平成9年10月31日)b 証書貸付 1215万円(期限:平成14年9月30日)c 手形貸付 290万円(ウ) K農業協同組合関係(乙34,65,66) 8379万0631円消費貸借 8379万0631円(うち2300万円の期限は平成8年1月31日)(エ) 株式会社L関係(乙19,38) 6550万円(オ) M畜産ことN関係(乙20,50) 8148万4896円a 約束手形金 1600万7944円(期限:平成8年1月25日)b 約束手形金 2514万3942円(期限:平成8年2月1日)c 約束手形金 1000万円(期限:平成8年2月10日)d 約束手形金 1516万6505円(期限:平成8年3月2日)e 約束手形金 1516万6505円(期限 日)c 約束手形金 1000万円(期限:平成8年2月10日)d 約束手形金 1516万6505円(期限:平成8年3月2日)e 約束手形金 1516万6505円(期限:平成8年3月15日)ウ本件事故当時,控訴人は少なくとも,O農業協同組合に対し,次のとおり3494万円の債務を負担していた。(乙18)(ア) 証書貸付 65万円(期限:平成8年1月27日)(イ) 証書貸付 64万円(期限:平成8年3月31日)(ウ) 証書貸付 1030万円(期限:平成8年4月1日)(エ) 証書貸付 90万円(期限:平成8年6月28日)(オ) 証書貸付 360万円(期限:平成8年8月9日)(カ) 証書貸付 85万円(期限:平成8年9月25日)(キ) 証書貸付 800万円(期限:平成8年11月29日)(ク) 証書貸付 450万円(期限:平成9年10月31日)(ケ) 証書貸付 550万円(期限:平成9年10月31日)エ D牧場は平成7年4月25日,臨時社員総会を開催し,牧場の施設整備,負債整理,素牛導入のため,P金融公庫から農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)として,2億円を借り入れることを議決した。そして,同年7月ないし8月ころから借入交渉を開始し,同年12月14日,P金融公庫Q支店で,同公庫の理事及び担当者並びに控訴人が出席して会議が開催されたが,確定的な結論は出ず,同公庫においては,その後もD牧場からの借入申込みにつき,検討を続けていた。(甲6ないし9,36,47,乙53,当審証人Fの証言)オ平成7年7月ないし8月ころ,上記F銀行G支店に対する債務のうち,bの分の約定返済金額が,従前の月額20万円から5万円に,cの分の約定返済金 ないし9,36,47,乙53,当審証人Fの証言)オ平成7年7月ないし8月ころ,上記F銀行G支店に対する債務のうち,bの分の約定返済金額が,従前の月額20万円から5万円に,cの分の約定返済金額が,従前の月額67万円から10万円にそれぞれ変更されたが,D牧場は,平成8年1月11日を期限とするdないしfの債務を履行することができないまま期限を経過し,本件事故後の同月25日,同月26日,同月30日及び同月31日にそれぞれ手形不渡りを出して,同年2月1日に銀行取引停止処分を受けた。(乙35,36)(4) (3)に認定した事実を総合すれば,D牧場は本件事故当時,平成8年1月中に支払が予定されていた債務の決済資金に窮していたものと推認され,本件全証拠を精査しても,それらの債務につき,決済資金の具体的な手当がなされていたことや,債権者との間で弁済猶予等の合意が確実になされていたことを認めるに足りる証拠はない。 この点,控訴人は,当審における本人尋問で,平成7年12月14日に行われた会議において,P金融公庫からスーパーL資金の融資を受けることが内定していた旨供述し,当審証人Fも,控訴人から聞いた話として,これに沿う旨の証言をするが,そもそも「内定」の事実を客観的に裏付ける証拠はないし,仮に「内定」が事実であったとしても,融資実行時期が具体的に決定していたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,売掛金等による具体的な決済資金の手当もされておらず,債権者との間で弁済猶予等の合意も確実になされていない反面,本件事故までに期限が到来した多額の債務があり,期限が直近に迫った多額の債務もあることから,D牧場の経営は早晩立ちゆかなくなり,破綻に瀕する状況にあったことが推認される。 そして,本件事故当時,被控訴人らとの前記各保険契約に 債務があり,期限が直近に迫った多額の債務もあることから,D牧場の経営は早晩立ちゆかなくなり,破綻に瀕する状況にあったことが推認される。 そして,本件事故当時,被控訴人らとの前記各保険契約に基づくものを含め,急激かつ外来な偶然の事故により,控訴人が死亡した場合に支払われる死亡保険金ないし共済金の総額が2億円であったこと(この事実を控訴人は明らかに争わない。)をも考慮すると,スーパーL資金の融資実行時期が具体的に定まらないまま,平成8年1月中に支払が予定されていた債務の決済資金に窮した控訴人が,自らの意思で本件事故を惹起したとしても,あながち不自然なこととはいえない。その上,本件事故に至る経緯,原因についての控訴人の供述や供述記載がさまざまに変遷し,一貫性がなく,にわかに信用することができないことを併せ考慮すると,控訴人には自殺を企図したと窺わせる合理的な事情がある。 (5) そうすると,本件事故が控訴人の前方不注視により発生したと認めるのには躊躇せざるを得ず,本件事故が偶然なものであると認定するには,いまだ合理的な疑いが残るところ,偶然な事故であることについては,控訴人が立証責任を負うべきものであるから,本訴各請求は,その余の判断に及ぶまでもなく,いずれも理由がない。 2 結語以上の次第で,控訴人の本訴各請求を棄却した原判決は相当であるから,本件各控訴をいずれも棄却すべく,控訴費用の負担につき民訴法67条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所岡山支部第一部裁判長裁判官片岡安夫裁判官金馬健二裁判官石原稚也 岡安夫裁判官 金馬健二裁判官 石原稚也

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