件名慰謝料請求事件(青梅簡易裁判所平成15年(ハ)第152号平成15年10月28日判決) 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は原告に対し,金5万円を支払え。 第2 事案の概要一請求の原因 1 原告は,平成15年5月25日,同28日,福生市議会議長に陳情書(甲1号証)を提出した。 原告は,陳情書に陳情者の氏名として「大統領」と記載した。 これに対して同議長は,「受理できません」とする文書を原告に送付した。 これは,被告が事務局長をして告知させたものである。 2 被告らは,本件陳情書を受理しない理由として,「住民登録上の氏名」を要件と解して不受理処分とした。 3 しかし,同市議会規則には,氏名について,証明を要件としていない。 4,故に,被告らの行為は,「公務員がその職権を濫用して(中略)権利の行使を妨害したとき」(刑法193条・公務員職権濫用)にあたる。 これにより被告は,原告に精神的苦痛を与えた。 被告は,被告職員の同議長の使用者として債務を負担すべきである。 5 被告は,国家賠償法第1条に規定される「公共団体」である。 二被告の本案前の申立及び主張 1 「原告の訴えを却下する。」との判決を求める。 2 訴状には,当事者の表示が要件とされており(民事訴訟法133条2項1号),訴状等当事者が裁判所に提出すべき書類には,当事者の氏名・住所を記載しなければならないとされ(民事訴訟規則2条1項1号),訴状の原告名は,原告が誰であるかを特定できるよう記載する必要がある。 本訴状において,原告名として「大統領」と記載されているが,この記載のみでは,前記規則に従った記載とはいえず,また,原告が誰であるか他人と識別可能な あるかを特定できるよう記載する必要がある。 本訴状において,原告名として「大統領」と記載されているが,この記載のみでは,前記規則に従った記載とはいえず,また,原告が誰であるか他人と識別可能な程度に特定されているとはいえない。 従って,訴状の原告名の記載に不備があるものであり,本件訴状は却下されるべきである。 三請求の原因に対する認否請求の原因1は基本的に認める。但し,「受理できません」とする文書を事務局長に送付指示をしたのは,福生市議会議長である。 同2の陳情書を受理しなかったことは認める。大統領名では受理出来ないので,住民登録上の氏名を補正して提出すべき旨要求した。 同3については争う。同4は否認ないし争う。 四争点 1 被告の本案前の申立の当否 2 本件慰謝料請求権の有無被告の主張(1) 福生市議会規則131条・137条の陳情書に記載すべき氏名は,住民登録上の氏名であると考えるのが一般的であり,福生市議会議長が,陳情書にはこれを記載すべきものであると解すること自体なんら違法ではない(乙2号証)。 (2) 住民登録上の氏名以外の通称の記載にて同規則131条・137条の氏名の記載要件を満たすといえるためには,その通称が住民登録上の氏名と同程度にその使用者を特定・識別するものとして社会的に定着しているものであることが必要である。 (3) 一般的に「大統領」という呼称が,個人の通称として社会的に認知されることは,「大統領」という言葉の有する本来的な意味から極めて困難であると思われる。従って,「大統領」というような呼称が個人の通称として社会的に定着しているといえるケースは,ジャンボ(尾崎将司)・ミスター(長島茂雄)・ゴジラ(松井秀喜)・イチロー(鈴木一郎)・大魔神(佐々木一浩)・タモリ(森田一義)というよう 称が個人の通称として社会的に定着しているといえるケースは,ジャンボ(尾崎将司)・ミスター(長島茂雄)・ゴジラ(松井秀喜)・イチロー(鈴木一郎)・大魔神(佐々木一浩)・タモリ(森田一義)というような特別な場合しかあり得ず,一般的には考えられないというべきである。 (4) 本件において,「大統領」という呼称は,通称としたいとの使用者本人の内心的意思がいかに強くても,また,通称として使用した回数がいかに多くとも,使用者以外の第三者からみて,住民登録上の氏名と同程度に使用者を特定・識別できるものとして客観的に社会に定着しているとは到底いえないものである。 (5) 以上の理由から,福生市議会議長が,甲1号証の陳情書について,前述の同議会規則の氏名の要件を欠くものとして,これを受理せず,住民登録上の氏名を補正した上で,提出するように求めたことは,適法で適正な手続である。従って,福生市議会議長の行為は,原告の主張する職権濫用に該当しないことは明らかであり,国家賠償法1条の「職務を行うについて,故意または過失によって違法に他人に損害を加えた」ことには到底なりえない。 よって,被告には,国家賠償法1条による責任は存在しない。 原告の主張(1) 原告の「大統領」名が,仮名,通名であり,社会的機能を持たないならば,裁判の事務手続も不能となり,裁判期日も開かれないことになるが,本件訴訟は,問題なく期日が開かれているから,原告の「大統領」名が,氏名として社会的機能を果たしていることは明らかである。 (2) 原告の氏名「大統領」に対する,行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づく,原告「大統領」を被処分者とする次のような行政処分の事例がある。 外務大臣(甲4号証) 防衛庁長官(甲5号証)第3 争点に対する判断 1 争点1について当裁判所は,原告提出 法律に基づく,原告「大統領」を被処分者とする次のような行政処分の事例がある。 外務大臣(甲4号証) 防衛庁長官(甲5号証)第3 争点に対する判断 1 争点1について当裁判所は,原告提出の訴状の原告欄の「大統領」との記載のみでは原告の特定に疑義があるので,本件原告を特定することができるか否かを調査するために,原告に対して「大統領は本名であるか」との旨の質問をしたところ,原告は,戸籍上の氏名はAである旨答えた。 原告は,前記質問に答えた後,原告名を補正するかとの旨の当裁判所の質問に対して,補正しない旨答え,大統領との名称を維持する意向を示した。 そこで,当裁判所は職権により,訴状の原告欄に「大統領」との表示がある事実,前記原告が補正しないと答えた事実及び前記原告が戸籍上の氏名はAであると答えた事実に基づいて,本件の当事者である原告を特定する表示を「大統領ことA」と認定した。 してみると,以上の経過により,本件の原告は,「大統領ことA」と特定できたので,被告の同申立は理由がなくなったものである。 2 争点2について文書作成者の氏名の記載を必要とする文書の氏名記載の意味は,基本的に二つの意味がある。 第1の意味は,文書作成者が誰であるか特定することである。 原告は,本件陳情書の氏名に大統領と記載してあり,それは,原告の氏名として流通している旨の主張をする。しかしながら,大統領という名称は,一国の元首の職名称であって,一個人の特定名称とするには親しまないものであり,この特徴的性質は,原告の提出している甲号各証によるも,覆すことはできないものと解せられる。 第2の意味は,文書作成者の責任の所在を明確にすることである。 この意味で,文書作成者の氏名の記載を必要とする文書には,氏名として本名または社会 も,覆すことはできないものと解せられる。 第2の意味は,文書作成者の責任の所在を明確にすることである。 この意味で,文書作成者の氏名の記載を必要とする文書には,氏名として本名または社会的に定着している特定名称を記載するべきである。 この二つの意味が,表裏一体して,文書作成者の氏名の記載を必要とする文書の正確性と信用性を保持する機能を果たしているのである。 以上述べたことよりすると,文書作成者の氏名の記載を必要とする文書の受理権限者は,文書受理に際し,文書作成者の氏名として本名または社会的に定着している特定名称が記載されているか否かに関して注意を払うのが基本である。そして,注意を払った結果,当該文書に本名または社会的に定着している特定名称が記載されていないことが明らかである場合には,当該文書を受理しないことができるものと解せられる。 乙2号証によると,本件の陳情書は,文書作成者の氏名の記載を必要とする文書であることが認められる。また,甲1号証によると,本件の陳情書は,本名または社会的に定着している特定名称が記載されていないことが明らかであると認められる。この認定によると,福生市議会議長が本件の陳情書を受理しなかった行為は適法と認められる。 してみると,本件慰謝料請求権は認められない。 3 結論以上によると,原告の請求は,理由がないので主文のとおり判決する。 青梅簡易裁判所裁判官栗林道昌
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