平成23(ワ)13780 慰謝料請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年7月20日 東京地方裁判所
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判決文本文12,472 文字)

- 1 -平成23年7月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成23年(ワ)第13780号慰謝料請求事件口頭弁論終結日平成23年6月13日判決神奈川県相模原市<以下略>原告株式会社イー・ピー・ルーム東京都千代田区<以下略>被告国同指定代理人板崎一雄同千田幸司同佐藤一行同大江摩弥子同北村弘樹東京都中央区<以下略>被告 A同訴訟代理人弁護士池田竜一 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求及び答弁 1 請求(1) 被告らは,原告が有していた優先権主張を伴う特許を,特許法第41条「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は,明細書の要旨を変更しないものとみなす。」旨の規定- 2 -に違反して取消し,原告に被らせた損害のうち取り敢えず慰謝料として,被告らは,原告に対し,連帯して金40万円及びこれに対する本訴状送達日の翌日である平成23年5月10日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 (2) 仮執行宣言 2 答弁(被告国)(1) 本案前の答弁原告の被告国に対する訴えを却下する。 (2) 本案の答弁ア原告の被告国に対する請求を棄却す の割合による金員を支払え。 (2) 仮執行宣言 2 答弁(被告国)(1) 本案前の答弁原告の被告国に対する訴えを却下する。 (2) 本案の答弁ア原告の被告国に対する請求を棄却する。 イ仮執行宣言を付する場合は,(ア) 担保を条件とする仮執行免脱宣言(イ) 執行開始時期を判決が被告国に送達された後14日経過した時とする。 3 本案の答弁(被告A)原告の被告Aに対する請求を棄却する。 第2 事案の概要 1 本件における原告の主張は,別紙「訴状」,「請求の原因」記載のとおりであり,その要旨は,特許第2640694号の特許(以下「本件特許」という。)の特許権者として設定登録されていた原告が,被告国,及び,本件特許に対する異議申立てにおいて本件特許を取り消す旨の決定をした審判官の合議体の審判長であった被告A(以下「被告A」という。)に対し,被告Aが,別紙「訴状」添付の取消理由通知書(以下「本件通知書」という。)を送付した上,上記決定をしたことが不法行為に該当する等と主張して,被告らに対し,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づく損害賠償請求として,連帯して慰謝料40万円(一部請求)及びこれに対する訴状送達日の翌日であ- 3 -る平成23年5月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提となる事実(争いのない事実以外は,証拠を項目の末尾に記載する。)(1) 当事者ア原告は,印刷機械,放電加工機の設計製図,製造販売等を目的とする株式会社である。 イ被告Aは,元特許庁審判官であり,平成15年4月1日,特許庁を退職し,弁理士登録をした者である。 (2) 本件特許(甲1~3,7)ア(ア) 原告は,平成2年9月18日,特許出願(出願番号平2-23 告Aは,元特許庁審判官であり,平成15年4月1日,特許庁を退職し,弁理士登録をした者である。 (2) 本件特許(甲1~3,7)ア(ア) 原告は,平成2年9月18日,特許出願(出願番号平2-23962)に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明に基づき,平成5年法律第26号による改正前の特許法(以下「平成5年改正前特許法」という。)42条の2第1項による優先権の主張をし,発明の名称を「加圧及び通電装置」とする特許出願(出願番号平2-248085,以下「本件特許出願」という。)をした。 (イ) 本件特許出願は,平成4年1月14日,公開特許公報(平成4年特許公開第9405号,以下「本件公開公報」という。)により出願公開された。 イ(ア) 原告は,平成7年3月14日,本件特許出願について,平成11年法律第41号による改正前の特許法48条の3第1項に基づく出願審査の請求をするとともに,平成6年法律第116号による改正前の特許法17条1項に基づく同日付け手続補正書による補正(以下「本件第1補正」という。)をした。 (イ) 審査官は,平成9年2月7日,特許法51条に基づき,本件特許出願につき,特許をすべき旨の査定をした。 ウ(ア) 特許庁長官は,平成9年5月2日,平成10年法律第51号による- 4 -改正前の特許法66条に基づき,特許権(特許第2640694号。本件特許。なお,発明の名称は「放電焼結装置」である。)の設定登録をした。 (イ) 本件特許について,平成9年8月13日,特許公報が発行された。 (3) 取消決定(甲5,乙1)ア本件特許については,平成10年2月13日,特許庁長官に対し,平成14年法律第24号による改正前の特許法(以下「平成14年改正前特許法」という。)113条以下に基づく異議申立てがされた(平成10 ア本件特許については,平成10年2月13日,特許庁長官に対し,平成14年法律第24号による改正前の特許法(以下「平成14年改正前特許法」という。)113条以下に基づく異議申立てがされた(平成10年異議第70682号,以下「本件異議申立て」という。)。 イ本件異議申立てについての審判官(以下「本件審判官」という。)の合議体(以下「本件合議体」という。)の審判長は被告Aであった。 ウ被告Aは,特許庁審判官(審判長)として,原告に対し,平成12年5月16日,別紙「訴状」添付の同月28日付け本件通知書を発送した。本件通知書には,「2.本件発明」,「特許第2640694号の出願日は,平成7年3月14日(平成11年9月26日付け取消理由通知書 2.出願日(要旨変更)についてに述べたとおり。)とみなされ,その特許の請求項1乃至3に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1乃至3により特定されるとおりのものである。」との記載がある。 エ本件合議体は,平成13年7月4日付けで,本件特許を取り消す旨の決定(以下「本件取消決定」という。)をし,同決定書の謄本は,同月24日に原告に送達された。その理由の要旨は,本件特許出願に係る平成7年3月14日付けの本件第1補正は,明細書又は図面の要旨を変更するものであり,本件特許出願の出願日は,同日とみなされるから,本件特許の発明は,その出願前に頒布された刊行物1である本件公開公報(平成4年特許公開第9405号)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,本件特許に係る発明は,特許法29条2項に- 5 -違反し,平成14年改正前特許法113条2号に該当するというものである。なお,当初明細書等に記載した事項を補正した結果,要旨変更でないというためには,補正した事項が公知 許法29条2項に- 5 -違反し,平成14年改正前特許法113条2号に該当するというものである。なお,当初明細書等に記載した事項を補正した結果,要旨変更でないというためには,補正した事項が公知であることでは足りず,当初明細書等の記載からみて自明な事項でなければならないが,本件では,これに該当しないとした。 (4) 取消訴訟(乙6,7)ア原告は,本件取消決定について,平成13年,東京高等裁判所に対し,特許庁長官を被告として,本件取消決定の取消しを求める訴訟を提起し(同年(行ケ)第369号,特許取消決定取消請求事件),本件取消決定は,本件第1補正について,平成5年法律第26号附則2条によりなお従前の例によるとされる平成5年改正前特許法41条を適用せず,明細書又は図面の要旨を変更するものと誤って判断したものであり,違法として取り消されるべきであると主張した。 イ東京高等裁判所は,平成15年4月9日,原告の請求を棄却する旨の判決(以下「本件取消訴訟判決」という。)をした。その理由の要旨は,本件第1補正により補正した事項は,当初明細書等の記載から自明であるとは認められないから,本件第1補正は明細書又は図面の要旨を変更するものであるとした本件取消決定の判断に誤りはなく,他に本件取消決定を取り消すべき瑕疵は見当たらないというものである。 ウ原告は,本件取消訴訟判決について,平成15年,最高裁判所に対し,上告及び上告受理申立てをしたが(同年(行ツ)第197号,同年(行ヒ)第203号),最高裁判所は,同年10月9日,上告棄却及び上告不受理の決定をし,本件取消決定が確定した。 (5) 被告国に対する損害賠償請求訴訟(乙2~4)原告は,平成16年9月21日,東京地方裁判所に対し,本件取消決定は,本件審判官が故意又は過失により職務上 決定をし,本件取消決定が確定した。 (5) 被告国に対する損害賠償請求訴訟(乙2~4)原告は,平成16年9月21日,東京地方裁判所に対し,本件取消決定は,本件審判官が故意又は過失により職務上の義務に違反して行った国賠法1条- 6 -1項の違法行為に該当するとして,被告国に対して損害賠償を求める訴訟を提起したが(同年(ワ)第19959号損害賠償請求事件,以下「被告国前訴」という。),同裁判所は,平成16年12月10日,原告の請求を棄却する旨の判決をした。原告は,同月21日,東京高等裁判所に対し,控訴したが(平成17年(ネ)第162号),同裁判所は,平成17年3月30日,控訴を棄却する旨の判決をし,その後,確定した。 (6) 被告Aに対する損害賠償請求訴訟(弁論の全趣旨)原告は,平成22年,東京地方裁判所に対し,被告Aに対する損害賠償を求める訴訟を提起したが(同年(ワ)第5728号損害賠償請求事件,同年(ワ)第15487号同請求事件,同年(ワ)第31347号同請求事件,同年(ワ)第36356号同請求事件,同年(ワ)第44600号同請求事件,同年(ワ)第47074号慰謝料請求事件,同年(ワ)第48143号同請求事件,以下「被告A前訴」という。),同裁判所は,いずれも原告の請求を棄却する旨の判決をし,その後,確定した。 (7) 本件訴訟の提起等(乙9)ア原告は,平成23年3月23日,東京地方裁判所に対し,被告らに対する損害賠償を求める訴訟を提起した(同年(ワ)第9248号慰謝料請求事件)。 イ原告は,同年4月26日,東京地方裁判所に対し,被告らに対する損害賠償を求める本件訴訟を提起した。 3 当事者の主張(1) 原告ア請求原因被告国は,国の公権力の行使にあたる特許庁審判官審判長の被告Aが,本件特許につ 判所に対し,被告らに対する損害賠償を求める本件訴訟を提起した。 3 当事者の主張(1) 原告ア請求原因被告国は,国の公権力の行使にあたる特許庁審判官審判長の被告Aが,本件特許について,次のとおり,故意又は過失により,平成5年改正前特許法41条に違反して本件取消決定をし,原告に慰謝料40万円の損害- 7 -(一部請求)を与えたから,国賠法1条1項に基づき損害を賠償する義務を負い,被告Aは,被告国と不真正連帯の関係にある。 (ア) 本件第1補正は,昭和63年当時公知であった技術を応用したものであり,当初明細書等に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加ないし変更する補正であるから,平成5年改正前特許法41条により明細書の要旨を変更しないものとみなされる。したがって,本件通知書及び本件取消決定による要旨変更の認定は誤りである。 (イ) そうすると,本件特許出願の出願日は,平成5年改正前特許法40条にかかわらず,本件第1補正をした日に繰り下がらないから,刊行物1である本件公開公報に記載された発明は,特許法29条1項の特許出願前に頒布された公刊物に記載された発明にはあたらず,かかる発明に基づいて容易にすることができた発明は特許を受けることができないとする同法29条2項は本件発明に適用されない。したがって,本件特許は同項に違反するとした本件通知書及び同旨の理由により本件特許を取り消した本件取消決定は誤りである。 (ウ) 被告Aは,上記のような違法な本件通知書の送付及び本件取消決定をして,原告に損害を被らせたので,被告らは原告の損害を賠償する義務がある。 イ被告らの法的主張は,争う。 (2) 被告国ア本案前の答弁の理由被告国前訴と本件訴訟は,本件取消決定という同一の行為によって本件特許という同一の権 告の損害を賠償する義務がある。 イ被告らの法的主張は,争う。 (2) 被告国ア本案前の答弁の理由被告国前訴と本件訴訟は,本件取消決定という同一の行為によって本件特許という同一の権利を侵害されたことに基づく損害(被告国前訴について逸失利益の一部,本件訴訟について慰謝料の一部)の賠償を求める点で,仮に両訴訟が一部請求でなければ,訴訟物を同一にする訴訟と解されるところ,被告国前訴と本件訴訟は,一部請求であるため,訴訟物が異なり,- 8 -被告国前訴の既判力は本件訴訟には及ばないが,金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されず,当該訴えは却下されるべきところ(最判平成10年6月12日,民集52巻4号1147頁),この理は,被告国前訴及び本件訴訟についても妥当し,本件訴訟では,上記特段の事情は主張立証されていない。 したがって,本件訴えを提起することは信義則に反して許されず,本件訴えは不適法であるから,却下されるべきである。 イ原告の請求に理由がないこと(ア) 国賠法1条1項の違法とは,公務員が個別の国民に対して負担する職務上の義務に違反することをいう(最判昭和60年11月21日,民集39巻7号1512頁)。 (イ) 特許異議の申立てについての取消決定に国賠法上の違法があるとされる場合① 平成6年法律第116号による特許法改正により定められ,平成15年法律第47号による特許法改正により廃止された「特許異議の申立ての制度」については,その審理手続は,審判官によって遂行される行政上の手続であり,その結論として示される決定は行政上の処分である。しかし,特許異議の申立てについての決定は,証拠の評価によって事実を確定し,その事実に特許法等の法 続は,審判官によって遂行される行政上の手続であり,その結論として示される決定は行政上の処分である。しかし,特許異議の申立てについての決定は,証拠の評価によって事実を確定し,その事実に特許法等の法令を適用して,上記特許法113条各号の該当性の有無を判断することをその実質的な内容とするものであり,裁判と類似した判断作用を含むものである。また,手続面においては,決定の主体,証拠調べ等について,不公平を避けるための配慮がされており,その公正を確保するために厳格な手続が定められている。さらに,取消決定については,これに対する不服申立ては東京高等裁判所の専属管轄とされており,取消決定は,いわば- 9 -三審制の一審判決に類似する位置付けを与えられていると見ることができ,再審という救済手段も存在する。 ② このように特許異議の申立てについての取消決定は,その性質は行政上の手続であるが,裁判と類似した判断作用を含み,公正確保のために厳格な手続が定められており,取消訴訟等の不服申立手段も認められていることから,特許異議の申立てについての取消決定における証拠の採否,事実認定,法律の適用に違法が存する場合は,取消訴訟で是正するのが法の予定するところというべきである。 ③ したがって,特許異議の申立てについて審判官がした取消決定について,国賠法1条1項にいう違法行為があるとして国の損害賠償責任が肯定されるためには,単に取消決定に取消訴訟等の不服申立制度によって是正されるべき法令違反等の瑕疵が存在するというだけでは足りず,違法な取消決定に対する救済を,当該不服申立制度による取消決定の是正に委ねるものとするだけでは不相当と解されるような特別の事情があることを必要とすると解すべきである(拒絶査定に対する不服の審判につき東京高判平成12年3月22日,東京 服申立制度による取消決定の是正に委ねるものとするだけでは不相当と解されるような特別の事情があることを必要とすると解すべきである(拒絶査定に対する不服の審判につき東京高判平成12年3月22日,東京地判平成10年4月27日・判例時報1647号137頁被告国前訴の判決)。 (ウ) 本件取消決定に国賠法上の違法はないこと① 本件取消決定に法令違反の瑕疵は存在しないこと明細書又は図面の補正が要旨変更でないというためには,補正した事項が公知であるだけでは足りず,出願当初の明細書又は図面の記載からみて自明な事項でなければならない。 本件取消決定も,同様の判断をした上,本件第1補正による補正事項は,本件特許出願当初の明細書又は図面の記載からみて自明な事項といえないと認定したものであり,本件取消訴訟判決も,本件第1補正に係る要旨変更の判断は,本件第1補正が,本件特許出願時の技術- 10 -常識を参酌して,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであるか否かを判断するものであって,補正に係る事項が公知であったか否かによって左右されない旨判示している(乙6,17~18頁)。 したがって,本件取消決定には,原告の主張するような法令違反の瑕疵は存在しない。 ② 本件取消決定には取消訴訟等による是正に委ねるだけでは不相当と解される特別な事情は存在しないことa 原告が主張する瑕疵は,仮にそのような瑕疵が存在するとしても,取消訴訟において是正されるべきものであり,また,取消訴訟による是正が可能なものである。 b 実際,原告は,本件取消決定に対し取消訴訟を提起し,同訴訟において,本件訴訟での主張とおおむね同様の主張をしたが,東京高等裁判所は,同主張は理由がないとし,その判断が確定した。 c 本件合議体も,本件取消決定において,前提となる事実 訴訟を提起し,同訴訟において,本件訴訟での主張とおおむね同様の主張をしたが,東京高等裁判所は,同主張は理由がないとし,その判断が確定した。 c 本件合議体も,本件取消決定において,前提となる事実(3)ウの判断をしたが,その際,原告の本件訴訟における主張とおおむね同様の主張は採用できないと判断した。 d 本件合議体の審判長であった被告Aは,本件取消決定に先立ち,原告に対し,平成11年9月20日付け及び平成12年4月28日付けの2回にわたり,特許取消しの理由(特許法29条2項)を通知した。本件合議体は,原告から提出された平成11年12月3日付け及び平成12年6月8日付け意見書等によっても,本件特許を取り消すとした理由が解消されないことから,本件取消決定をした。 e 以上のとおり,本件取消決定には,仮に,原告の主張するような法令違反の瑕疵があったとしても,原告の救済を取消訴訟等の不服申立制度による是正に委ねるものとするだけでは不相当と解されるような特別な事情は存在しない。 - 11 -③ よって,本件取消決定に法令違反の瑕疵はなく,取消訴訟等による是正に委ねるだけでは不相当と解されるような特別の事情は存在しないから,本件取消決定について,被告Aに国賠法上違法とされるような行為があったと認める余地はない。 (エ) 損害の不発生株式会社である原告には精神的損害は観念できない。 エ消滅時効(ア) 国賠法上の損害賠償請求権の消滅時効については,同法4条により民法724条が適用されるところ(最判昭和34年1月22日・訟務月報5巻3号370頁),被害者が国の公権力の行使に当たる公務員としての不法行為であることを知れば,同条前段の「加害者を知った時」に当たると解される(東京高判昭和33年10月21日・下民集9巻10号2137頁) 70頁),被害者が国の公権力の行使に当たる公務員としての不法行為であることを知れば,同条前段の「加害者を知った時」に当たると解される(東京高判昭和33年10月21日・下民集9巻10号2137頁)。本件において,原告は,遅くとも本件取消決定の送達を受けた平成13年7月24日には,被告Aによる本件取消決定の事実を認識していたと認められるから,同時点までには,原告は,損害及び加害者を知っていた。 (イ) 平成16年7月24日が経過した。 (ウ) 被告国は,原告に対し,平成23年6月13日の本件第1回口頭弁論期日において陳述された答弁書において,上記時効を援用するとの意思表示をした。 (3) 被告Aア原告の主張は争う。 イ原告は,前提となる事実(4)のとおり,本件取消決定に対する取消請求訴訟を提起したが,棄却され,前提となる事実(5)のとおり,被告国前訴として国家賠償請求訴訟を提起したが,棄却され,前提となる事実(6)のとおり,被告A前訴として損害賠償請求訴訟等を提起したが,いずれも棄- 12 -却された。本件訴訟は,被告A前訴と同様,本件取消決定が不法行為になることを理由とする損害賠償(慰謝料)請求であり,訴訟物は同一であって,被告A前訴の判決の既判力が及び,本件では基準時以後の新たな事由は認められないことから,被告A前訴の既判力ある判断を前提として請求棄却の判決がなされるべきである。また,原告は,前提となる事実(7)アのとおり,被告らに対する損害賠償請求訴訟を提起しており,同訴訟において,原告は,本件訴訟の訴状を引用して主張を追加している。したがって,原告の訴えは濫訴というべきである。 ウ平成5年改正前特許法41条の適用について本件取消決定は,原告による本件第1補正が,「発明の構成に関する技術的事項」について, 加している。したがって,原告の訴えは濫訴というべきである。 ウ平成5年改正前特許法41条の適用について本件取消決定は,原告による本件第1補正が,「発明の構成に関する技術的事項」について,当初明細書等に記載した事項の範囲内でないものとなったと認定したものである。したがって,当初明細書等に記載していた範囲内の事項に限って適用される同法41条の適用はない。 エ本件取消決定に当たり被告Aには不法行為はなく,被告Aの原告に対する不法行為が成立しないことは明らかであるが,公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うについて故意又は過失により違法に他人に損害を与えた場合,当該職務行為について公務員個人はその責任を負わないことは確立された判例であり(最判昭和30年4月19日・民集9巻5号534頁,最判昭和53年10月20日・民集32巻7号1367頁),本件は,例外的に公務員個人が不法行為責任を負う場合にも該当しない。 第3 当裁判所の判断 1 本案前の答弁について被告国は,被告国前訴と本件訴訟は,本件取消決定という同一の行為によって本件特許という同一の権利を侵害されたことに基づく損害の賠償を求める点で,両訴訟が一部請求でなければ,訴訟物を同一にする訴訟と解され,被告国前訴と本件訴訟は,一部請求であるため,訴訟物が異なるものの,金銭債権の- 13 -数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されず,当該訴えは却下されるべきであるから(最判平成10年6月12日,民集52巻4号1147頁),上記特段の事情の主張立証がされていない本件訴えは,不適法であると主張する。 しかしながら,原告は,被告国前訴においては,本件取消決定には,特許庁の担当審判官らが,異議申立人の利益を図る 7頁),上記特段の事情の主張立証がされていない本件訴えは,不適法であると主張する。 しかしながら,原告は,被告国前訴においては,本件取消決定には,特許庁の担当審判官らが,異議申立人の利益を図る目的で,同社の不利益になる特許公報及び実用新案公報を,故意又は過失により審理することなく決定した違法があり,同違法行為によって逸失利益15億円相当の損害を被ったと主張し,一部請求として内160万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めていたのに対し(乙2),本件訴訟においては,本件通知書の送付及び本件取消決定には,平成5年改正前特許法41条違反の違法事由があり,同違法行為によって慰謝料の損害を被ったと主張し,一部請求として内40万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるものであるから,被告国前訴と本件訴訟では,審理の対象となる本件取消決定における審判官の違法行為及び原告が被った損害等において,いずれも内容を異にしており,本件訴訟を提起することが,実質的には被告国前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,同前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告国の合理的期待に反し,被告国に二重の応訴の負担を強いるものということはできない。 したがって,本件訴えが信義則に反して不適法であると認めることはできず,被告国の上記主張を採用することはできない。 2 被告国に対する請求について(1) 原告は,前記第2,3(1)(原告)のとおり,特許庁審判官であった被告Aが,本件合議体の審判長として,本件異議申立てにつき平成5年改正前特許法41条に違反して本件通知書を送付し,本件取消決定をしたことは,原告に対する不法行為を構成し,被告らは,国賠法1条1項に基づく損害賠償- 14 -として慰謝料の支払義務を負うと主張す 改正前特許法41条に違反して本件通知書を送付し,本件取消決定をしたことは,原告に対する不法行為を構成し,被告らは,国賠法1条1項に基づく損害賠償- 14 -として慰謝料の支払義務を負うと主張する。 (2) そこで検討するに,本件通知書の違法の主張については,被告Aが本件通知書に上記第2,2(3)ウの内容を記載し送付したことは,それによって原告の権利利益を侵害するものではなく,原告に対する何らの違法行為を構成しないから,原告の請求は理由がない。 (3) また,本件取消決定の違法の主張については,特許異議の申立てについては,特許庁の審判官が行う審理及び決定は,行政上の手続及び行政上の処分ではあるが,平成15年法律第47号による改正前の特許法113条各号(本件においては,平成14年改正前特許法113条各号)の該当性の有無を判断することを内容とし,手続においても,審理及び決定は,3人又は5人の審判官の合議体が行い(同法114条1項),審判官は除斥,忌避等の対象となり(同法116条,139条~144条),審理においては,職権による証拠調べや審理をすることができるが,証拠調べ及び証拠保全については民事訴訟法の規定が準用されるなど(同法119条,150条,151条),準司法的な手続により行われており,審判官が行った取消決定に対して不服がある場合には,取消訴訟等の救済手続が定められていることからすると(同法171条,178条1項,平成8年法律第109号による改正前の民事訴訟法420条1項及び2項並びに421条,同改正後の民事訴訟法338条1項及び2項並びに339条),審判官がした取消決定について国家賠償責任が肯定されるためには,取消訴訟等の救済方法で是正されるべき法令違背等の瑕疵等が存在するというだけでは足りず,違法な審理判断に対する救済を上 びに339条),審判官がした取消決定について国家賠償責任が肯定されるためには,取消訴訟等の救済方法で是正されるべき法令違背等の瑕疵等が存在するというだけでは足りず,違法な審理判断に対する救済を上記不服申立手続による救済にゆだねるだけでは不相当と解されるような特別な事情のあることを要するものと解するのが相当である。 本件において,原告は,昭和63年当時の公知技術を斟酌すれば,当初明細書等の要旨の変更には該当せず,平成5年改正前特許法40条は適用されず,同法41条が適用されるのであるから,本件特許が取り消されることはなかっ- 15 -たにもかかわらず,本件審判官はこれを誤って適用した旨主張する。しかしながら,当該主張は,結局は,取消訴訟等の上記不服申立制度で是正されるべき法令違背が存することをいうに帰するものと解される上,前記のとおり,原告は,本件取消決定を不服として平成13年に東京高等裁判所にその取消を求める訴訟を提起したが,同裁判所は,平成15年4月9日に請求棄却の判決をし,その後最高裁判所による同年10月9日付け上告棄却,上告不受理決定により,本件取消決定が確定したことが認められるのであるから,原告が主張する平成5年改正前特許法41条の適用についての主張は,上記取消訴訟等に関する事由であって,上記特別の事情を根拠付けるものではないというべきである。 したがって,原告は,何ら上記特別の事情を主張するものではないから,原告の被告国に対する請求には理由がない。 3 被告Aに対する請求について公権力の行使に当たる国の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国賠法1条1項により,国がその被害者に対して賠償の責めに任ずるのであって,公務員個人はその責めを負わないものと解される(最 務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国賠法1条1項により,国がその被害者に対して賠償の責めに任ずるのであって,公務員個人はその責めを負わないものと解される(最判昭和30年4月19日・民集9巻5号534頁,最判昭和53年10月20日・民集32巻7号1367頁)。 本件においては,被告Aは,国家公務員である特許庁審判官の職務として本件異議申立てについて審理し,本件通知書を送付し,本件取消決定をしたものであるから,国家公務員であった被告個人がその賠償責任を負うことはないというべきであるから,原告の請求は理由がない。 第4 結論以上により,原告の請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 - 16 -裁判長裁判官大須賀滋 裁判官菊池絵理 裁判官森川さつき

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