平成24年9月20日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成23年ワ第12566号不正競争行為差止等請求事件口頭弁論終結日平成24年7月20日判決 原告大幸薬品株式会社 同訴訟代理人弁護士 三山峻司 同 井上周一同木村広行同松田誠司同森田慈心 被告 キョクトウ株式会社同訴訟代理人弁護士藤井邦夫主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。事実及び理由第1 当事者の求めた裁判 1 原告(1)被告は,胃腸薬につき,別紙被告表示目録記載の各表示を使用し又は同表示を使用した胃腸薬を製造し,販売し若しくは販売のために展示してはならない。(2)被告は,別紙被告表示目録記載1の表示を付した包装及び同目録記載2の包装をいずれも廃棄せよ。(3)被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成23年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(4)訴訟費用は被告の負担とする。(5)仮執行宣言 2 被告主文同旨第2 事案の概要 1 前提事実(当事者間に争いがない。)(1)当事者原告は,医薬品及び動物用医薬品,医薬部外品, 費用は被告の負担とする。(5)仮執行宣言 2 被告主文同旨第2 事案の概要 1 前提事実(当事者間に争いがない。)(1)当事者原告は,医薬品及び動物用医薬品,医薬部外品,農業薬品,化粧品の製造,販売並びに輸出入等を目的とする会社である。被告は,医薬品・医薬部外品・動物用医薬品・化粧品・医療用具の製造並びに販売等を目的とする会社である。(2)原告の商品表示原告は,別紙原告表示目録記載1ないし3の各商品表示(以下「原告表示1」ないし「原告表示3」といい,併せて「原告各表示」という。)を使用して,胃腸薬である原告商品(後記4参照)を製造販売している。(3)被告の行為等被告は,平成21年2月ころから,別紙被告表示目録記載2の包装(以下「被告表示2」という。)を使用して,胃腸薬である被告商品(後記4参照)を製造販売している。なお,上記包装を使用して販売することにより,いかなる商品表示を使用しているといえるかについては,後記のとおり争いがある。(4)原告商品及び被告商品原告商品と被告商品は,いずれもクレオソートを主成分とする胃腸薬(以下「本件医薬品」という。)のうち,一般に「糖衣錠」と称される種類の錠剤である。 2 原告の請求原告は,被告の行為が,① 不正競争防止法(以下「法」という。)2条1項2号の他人の商品等表示として著名な原告各表示と同一又は類似の商品表示を使用した商品を譲渡する行為に当たるとして,又は② 法2条1項1号の他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されている原告各表示と同一又は類似の商品表示を使用した商品を譲渡し,原告商品と混同を生じさせる行為であるとして,被告に対し,法3条に基づき,被告各表示の使用差止め並びに被告表示1の表示を付した包装 れている原告各表示と同一又は類似の商品表示を使用した商品を譲渡し,原告商品と混同を生じさせる行為であるとして,被告に対し,法3条に基づき,被告各表示の使用差止め並びに被告表示1の表示を付した包装及び被告表示2の包装の廃棄を求めるとともに,法4条本文に基づき,1000万円の損害賠償及びこれに対する平成23年10月15日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。 3 争点(1)原告各表示は,原告の商品表示として周知著名なものであるか (争点1)(2)被告各表示は,原告各表示と同一又は類似の商品表示であるか (争点2)(3)被告の行為は,原告商品と混同を生じさせるものであるか (争点3)(4)損害額 (争点4)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(原告各表示は,原告の商品表示として周知著名なものであるか)について【原告の主張】以下のとおり,原告各表示は,原告の商品表示として著名なもの,又は需要者の間に広く認識されているものである。(1)原告表示1及び2ア構成原告表示1は,「セイロガン」,「糖衣」及び「」の各文字からなる表示であり,原告表示2は,これらの文字を別紙原告表示目録記載2のとおりの態様で表示したものである。イ自他商品識別機能原告表示1及び2は,① 外観において,一連のまとまった文字として構成されており,② 称呼においても,「セイロガントーイエー」と一連のものとして称呼され,広告宣伝及び取引がされている。したがって,それぞれ一連一体のものとして,自他商品識別機能を有するものである。ウ周知著名性(ア) 使用期間等原告は,昭和41年6月 のとして称呼され,広告宣伝及び取引がされている。したがって,それぞれ一連一体のものとして,自他商品識別機能を有するものである。ウ周知著名性(ア) 使用期間等原告は,昭和41年6月から,一貫して「セイロガン糖衣」又は「セイロガントーイ」の商品名で原告商品を販売してきており,昭和56年11月からは,原告表示1及び2を使用して原告商品を販売してきた。(イ) 原告商品の市場占有率原告商品は,昭和41年6月から現在まで,同種商品の市場において圧倒的な市場占有率を有している。平成13年11月から平成23年3月までの間における原告商品の販売個数は約3156万個,売上高は約185億円であり,売上高でみると87%以上の市場占有率を有しており,特に平成22年4月から平成23年3月までの間には売上高で90%を超える市場占有率を有していた。販売個数を基準としても,平成13年度から平成22年度までの間における市場占有率は,85%以上であった。(ウ) 広告宣伝原告は,原告商品を発売した当初から,テレビ・ラジオ・新聞その他の媒体による広告宣伝を継続しており,平成13年11月から平成23年3月までの間における原告商品に関する広告宣伝費は,約32億円であり,本件医薬品に関する原告の広告と併せた広告宣伝費は,73億円 以上にも上る。(エ) 需要者等の認識原告商品は,一般の雑誌にも取り上げられるなどして需要者の間に広く認識されており,取引者の間にも「セイロガントーイエー」又は「セイロガントーイ」といえば原告商品を指すものであるという認識が定着しており,平成7年4月までには著名となり,又は需要者の間に広く認識されるに至った。(2)原告表示3ア構成原告表示3は,別紙原告表示目録記載3のとおり,原告商品の包 るという認識が定着しており,平成7年4月までには著名となり,又は需要者の間に広く認識されるに至った。(2)原告表示3ア構成原告表示3は,別紙原告表示目録記載3のとおり,原告商品の包装であり,その具体的な構成は,以下のとおりのものである。(ア) 原告表示1及び2が正面及び左側面に大きく表示されている。(イ) 全体としてオレンジ色を背景としている。(ウ) 包装の正面下及び左側面右に,金色のアルファベットで大きく「」と記載されている。(エ) 上記「」の文字を横切るように,赤い線が水平に引かれている。(オ) 原告表示1及び2のうち「糖衣」の文字は,赤の背景に白抜きで記載されている。(カ) 「飲みやすい白い錠剤」と記載されている。(キ) 錠数を示す文字が包装の正面右下に記載されている。イ自他商品識別機能原告表示3の構成は,上記アのとおりのものであり,自他商品識別機能を有するものである。ウ周知著名性原告表示3は,原告商品の包装として使用された結果,前記1ウと同様,平成7年4月までには著名となり,又は需要者の間に広く認識される に至った。【被告の主張】以下のとおり,原告各表示は,原告の商品表示として著名なものではないし,需要者の間に広く認識されているものでもない。(1)原告各表示の自他商品識別機能ア原告表示1及び2原告表示1及び2は,普通名称である「正露丸」及び「糖衣」と,アルファベットの「」を組み合わせただけのものであり,自他商品識別機能を有するものではない。イ原告表示3原告表示3のうち自他商品識別機能を有するのは,ラッパのマークと原告の会社名のみであり,その他の部分に自他商品識別機能はない。(2)原告各表示の周知著名性上記【原告の イ原告表示3原告表示3のうち自他商品識別機能を有するのは,ラッパのマークと原告の会社名のみであり,その他の部分に自他商品識別機能はない。(2)原告各表示の周知著名性上記【原告の主張】1ウのうち,使用期間等,原告商品の市場占有率及び広告宣伝に関する事実は知らない。なお,原告商品は,他社の販売する本件医薬品よりも単価が相当高額であるため,売上高でみると市場占有率が高いにすぎない。需要者に広く知られているのは,本件医薬品の普通名称である「正露丸」であり,原告各表示ではない。 2 争点2(被告各表示は,原告各表示と同一又は類似の商品表示であるか等)について【原告の主張】以下のとおり,被告各表示は,原告各表示と同一又は類似の商品表示である。(1)被告各表示が原告表示1及び2と同一又は類似の商品表示であることア各表示の構成(ア) 原告表示1及び2の構成 前記1【原告の主張】1アのとおり(イ) 被告各表示の構成a 被告表示1被告商品の包装(被告表示2)の正面には,別紙被告表示目録記載2「正面」のとおり,「正露丸」,「糖衣」及び「」の各文字が横3段に記載されており,右側面には,同目録記載2「右側面」のとおり,「正露丸」及び「糖衣」の各文字が横2段に記載され,その隣に「」の文字が記載されている。被告商品の包装を見た需要者らは,上から下又は左から右に順に文字を知覚するから,「正露丸糖衣」という一体の表示として,被告表示1が記載されているものと認識する。b 被告表示2被告表示2は,別紙被告表示目録記載2のとおり,被告商品の包装であり,その具体的な構成は,以下のとおりのものである。(a)被告表示1が正面及び右側面に大きく記載されている。(b)全体としてオ 被告表示2は,別紙被告表示目録記載2のとおり,被告商品の包装であり,その具体的な構成は,以下のとおりのものである。(a)被告表示1が正面及び右側面に大きく記載されている。(b)全体としてオレンジ色を背景としている。(c)正面下側及び右側面右側には,金色のアルファベットで,大きく「」と記載されている。(d)上記「」の文字を横切るように,赤い線が水平に引かれている。(e)被告表示1のうち「糖衣」の文字が,赤の背景に白抜きで記載されている。(f)「飲みやすい白い錠剤」と記載されている。(g)錠数を示す文字が正面右下に記載されている。イ類否(ア) 対比以下のとおり,被告各表示は,外観,称呼及び観念において,原告表 示1及び2と同一又は類似のものである。a 外観前記アイaのとおり,被告各表示を知覚した需要者らは,「正露丸糖衣」という一連一体の商品表示として認識する。そうすると,原告表示1及び2の外観が「セイロガン糖衣」であるのに対し,被告各表示の外観は「正露丸糖衣」である。原告表示1及び2がカタカナで「セイロガン」と記載されているのに対し,被告各表示は漢字で「正露丸」と記載されていること及び最後のアルファベットが「」と「」であることの2点で相違する。薬剤名自体,並びに,これに続けて「糖衣」及びアルファベットの順で記載されていることは共通である。b 称呼原告表示1及び2からは「セイロガントーイエー」の称呼が生じるのに対し,被告各表示からは「セイロガントーイエス」の称呼が生じる。したがって,称呼においては,最後の「ー」と「ス」が異なるにすぎず,他は共通である。c 観念原告表示1及び2からは,その周知著名性により原告商品が想起される。前記 呼が生じる。したがって,称呼においては,最後の「ー」と「ス」が異なるにすぎず,他は共通である。c 観念原告表示1及び2からは,その周知著名性により原告商品が想起される。前記aのとおり,被告各表示と原告各表示は,カタカナと漢字の違いを除けば最後の1文字しか違わないこと,前記bのとおり,称呼においてもわずかな違いがあるにすぎないことに加え,前記1【原告の主張】1のとおり,原告表示1及び2が周知著名な表示であることからすれば,被告各表示からは原告商品又は原告商品のシリーズ商品であるという観念が生じる。(イ) 取引の実情原告商品と被告商品とが並列して陳列されている場合には,被告各表示と原告表示1及び2の類似性はかえって強まる。また,両商品は,店頭で常に並列して陳列されているわけではなく,いずれも陳列されないまま,称呼のみで注文される場合もある。加えて,前記1【原告の主張】1のとおり,原告表示1及び2が周知著名なものであることからすれば,前記アのとおり,これと類似する被告各表示を知覚した需要者らは,被告各表示から原告商品を想起するのである。(2)被告表示2が原告表示3と類似の商品表示であることア構成における類似性被告表示2の構成は,以下の点において原告表示3の構成と類似する。(ア) 被告表示1が商品の正面及び右側面に大きく表示されている。(イ) 全体としてオレンジ色を背景としている。(ウ) 正面下側及び右側面右側に,金色のアルファベットで大きく一文字が記載されている。(エ) 上記ウの文字を横切るように,赤い線が水平に引かれている。(オ) 「糖衣」の文字が赤の背景に白抜きで記載されている。(カ) 「飲みやすい白い錠剤」と記載されている。(キ) 錠数を示す ) 上記ウの文字を横切るように,赤い線が水平に引かれている。(オ) 「糖衣」の文字が赤の背景に白抜きで記載されている。(カ) 「飲みやすい白い錠剤」と記載されている。(キ) 錠数を示す文字が正面右下側に記載されている。イ類否被告表示2は,原告表示3と前記アの構成が共通であるから,外観において類似のものである。また,前記1のとおり,被告表示1は,原告表示1及び2と外観,称呼及び観念において共通であるから,被告表示1が記載された被告表示2からは,原告表示1及び2が記載された原告表示3と共通の称呼及び観念が生ずる。取引の実情については,前記1イイと同様である。【被告の主張】以下のとおり,被告は,被告表示1を使用していないし,被告表示2は,原告各表示と類似の商品表示ではない。(1)被告が被告表示1を使用していないこと被告は,被告商品の包装に被告表示1を記載していないし,取引者との間でも被告表示1を使用していない。被告商品の包装(被告表示2)は,別紙被告表示目録記載2のとおりのものであり,横書きで「正露丸」,「糖衣」及び「」の文字が記載され,背景として「」の模様が記載されているものの,一連一体の表示である「正露丸糖衣」(被告表示1)は記載されていない。(2)被告表示2が原告各表示と類似の商品表示ではないこと前記1のとおり,被告表示2から被告表示1を読み取ることはできないし,「セイロガントーイエス」の称呼も生じることはないから,被告表示2は原告表示1及び2と類似の商品表示ではない。また,被告表示2は,原告表示3と以下の点で相違しているから,原告表示3と類似の商品表示でもない。ア原告表示3は,赤色のカタカナで「セイ 告表示1及び2と類似の商品表示ではない。また,被告表示2は,原告表示3と以下の点で相違しているから,原告表示3と類似の商品表示でもない。ア原告表示3は,赤色のカタカナで「セイロガン」と記載されているのに対し,被告表示2は,黒色の漢字で大きく「正露丸」と記載されている。イ原告表示3は,会社名と共に自他商品識別機能を有するラッパのマークが重要個所に記載されているのに対し,被告表示2には,そのような記載がない。ウ原告商品が84錠入りであるのに対し,被告商品はそれよりも多い90錠入りであるにもかかわらず,原告表示3の包装の方が被告表示2の包装よりも相当に大きい。エ全体の色調は,原告表示3が,黄色ないし黄色に近いオレンジ色であるのに対し,被告表示2は,橙色である。いずれも暖色系の色であるが,本件医薬品又はその糖衣錠の包装において,最も多く使われている色にすぎない。オ原告表示3のうち大きく記載されたアルファベットの「」は,金色ではなく,金茶色である。これに対し,被告表示2のうち大きく記載されたアルファベットの「」は,背景の一部が 字模様に見えるようにデザインをしたものであり,色は橙色である。カ原告表示3のうち「糖衣」の部分は極端に小さく記載され,「セイロガン」及び「」の記載と一体のものとされているのに対し,被告表示2のうち「糖衣」の部分は,他の部分と比べて相当に大きい。(3)取引の実情「原告商品と被告商品とが並列して陳列されている場合には類似性がかえって強まる。」とする前記【原告の主張】は,意味不明である。また,後記3【被告の主張】のとおり,並列して陳列されていてもいなくても,原告商品と被告商品との違いは明白である。そもそも 類似性がかえって強まる。」とする前記【原告の主張】は,意味不明である。また,後記3【被告の主張】のとおり,並列して陳列されていてもいなくても,原告商品と被告商品との違いは明白である。そもそも前記1【被告の主張】1のとおり,「正露丸」も「糖衣」も普通名称にすぎないから,これらの記載が共通しているからといって類似の商品表示には当たらない。 3 争点3(被告の行為は,原告商品と混同を生じさせるものであるか)について【原告の主張】前提事実4のとおり,原告商品と被告商品は,主成分が共通であり,錠剤の種類としても同一のものである。また,前記2【原告の主張】のとおり,被告各表示は,原告各表示と類似の商品表示である上,被告商品の包装(被告表示2)の正面及び右側面には,被告の名称や被告を示す商標など,その出所を示す表示が全く付されていない。したがって,需要者が被告商品を原告商品と誤認するおそれがある。【被告の主張】前記2【被告の主張】のとおり,被告は,被告表示1を使用していないし,被告表示2は,原告各表示と類似の商品表示ではない。また,被告商品の包装の左側面には,販売名として「正露丸糖衣『キョクトウ』」という記載があり,製造販売元として被告の社名及び住所も記載されているから,需要者が被告商品を原告商品と混同することはない。 4 争点4(損害額)について【原告の主張】被告は,遅くとも平成22年12月ころから被告商品を製造販売しており,これにより,原告は,少なくとも1000万円の損害を被った。【被告の主張】否認する。第4 当裁判所の判断 1 本件医薬品の名称に関する経緯事実証拠(甲30,59,乙3,4)によれば,以下の事実が認められ 00万円の損害を被った。【被告の主張】否認する。第4 当裁判所の判断 1 本件医薬品の名称に関する経緯事実証拠(甲30,59,乙3,4)によれば,以下の事実が認められる。(1)「正露丸」が本件医薬品の普通名称であること日露戦争の後,多数の業者が「征露丸」の名称をもって本件医薬品を製造販売するようになり,その結果,「征露丸」は,本件医薬品を指すものとして,日本国内において周知の表示となった。「征露丸」は,一旦商標登録されたが,同商標の登録無効の審判が請求され,大正15年6月28日,大審院において,同商標の登録を無効とする判決がされ,同商標権は失効した。太平洋戦争の後,本件医薬品の名称として「征露丸」に代わって「正露丸」が不特定多数の業者により全国的に用いられるようになった。原告は,昭和29年10月30日,「正露丸」の商標登録をしたが,同商標登録に係る商標登録無効審判についての審決取消訴訟において,同商標登録は無効とされた。その理由は,遅くとも原告が上記商標登録をした当時,「正露丸」は,本件医薬品の一般的な名称として国民の間に広く認識されていたこと,ごく普通の書体で「正露丸」の文字に「セイロガン」の文字を振り仮名のように付記したにすぎない上記商標は,商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示したにすぎない標章であるということによる。以上の事実によると,「正露丸」は,本件医薬品の名称として,遅くとも昭和29年ころまでに,普通名称となっていたということができる。 (2)「正露丸」の名称で本件医薬品を製造販売する他社の存在平成18年当時,「正露丸」又は「」の名称で本件医薬品の製造販売を行っていた業者は原告及び被告の他に少なくとも10社以上存在し, 正露丸」の名称で本件医薬品を製造販売する他社の存在平成18年当時,「正露丸」又は「」の名称で本件医薬品の製造販売を行っていた業者は原告及び被告の他に少なくとも10社以上存在し,それらの商品の包装箱は,いずれも直方体であり,包装箱全体の地色が橙色である点で共通していた。原告は,本件医薬品ないしその糖衣錠の製造販売行為自体については何ら特別の権利を有しないし,その普通名称である「正露丸」等についても他社による使用等の差止めを求めることができる権利を有しない。 2 争点2(被告各表示は,原告各表示と同一又は類似の商品表示であるか等)について本件事案の内容に鑑み,まず争点2について検討すると,以下のとおり,被告表示2が原告各表示と同一又は類似の商品表示であると認めることはできないし,被告が被告表示1を使用しているとも認められない。(1)判断基準特定の商品表示が法2条1項1号又は2号にいう他人の商品表示と類似のものか否かを判断するに当たっては,取引の実情の下において,取引者,需要者が,両者の外観,称呼,又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である。(2)原告各表示の構成ア原告表示1「セイロガン」,「糖衣」及び「」の各文字を一連一体のものとして記載したものである。イ原告表示2別紙原告表示目録記載2のとおり,原告表示1の各文字を一連一体のものとして記載したものである。具体的には,アルファベットの「」の横棒を左方に飛び出す形に意匠化し,その上に小さく黒地に白抜きで「糖衣」と記載したものである。ウ原告表示3原告は,原告商品の包装自体(全体)を原告表示3であると主張する。原告 」の横棒を左方に飛び出す形に意匠化し,その上に小さく黒地に白抜きで「糖衣」と記載したものである。ウ原告表示3原告は,原告商品の包装自体(全体)を原告表示3であると主張する。原告商品の包装の正面及び左側面は,別紙原告表示目録記載3のとおりであるが,その全体の具体的な構成は,以下のとおりである(甲3の1・2,4の1・2及び乙2)。(ア) 全体直方体で,全体の色調は明るい黄色がかった橙色である。(イ) 正面上から順に以下の記載がある。a 上部黒字で,左側に「胃腸薬」と記載されている。右側には「第2類医薬品」と記載され,四角で囲まれている。左側に黒字で「軟便」,「下痢」,「食あたり」と3段に分けて併記され,右側には大きな赤色の二重円の中に白地に赤色でラッパのマークが記載されている。b 中央原告表示2が「セイロガン」と「糖衣」の各部分に分けられ,赤字(糖衣の部分は長方形の赤地に白抜き)で2段に分けて併記されている。その下に黒字で「飲みやすい白い錠剤」と一連で記載されている。c 下部上記bの「糖衣」の文字の上部から原告表示3の正面下半分を占める大きさで,金色で大きくアルファベットの「」が記載されている。上記アルファベットの「」の横線と重なる形で,赤い線が水平に引かれている。その下の正面最下部右側には,黒字で「84錠」と記載されている。(ウ) 左側面上から順に以下の記載がある。黒字で,「軟便・下痢・食あたり」と一連で記載がされ,その右には「第2類医薬品」と記載され,四角で囲まれている。大きな赤字(糖衣の部分は長方形の赤地に白抜き)で原告表示2が記載されている。その下に黒字で「飲みやすい白い錠剤」と一連で記載されている。 第2類医薬品」と記載され,四角で囲まれている。大きな赤字(糖衣の部分は長方形の赤地に白抜き)で原告表示2が記載されている。その下に黒字で「飲みやすい白い錠剤」と一連で記載されている。右半分を占める大きさで,金色でアルファベットの「」が記載されている。上記アルファベットの「」の横線と重なる形で,赤い線が水平に引かれている。上記アルファベットの「」の左側には,上記赤い線を中断する形で,前記イaと同じ態様のラッパのマークが記載されている。(エ) 右側面上半分には,小さい赤字で保管及び服用に関する注意事項が記載されている。下半分には,小さく上記ラッパのマークが記載され,原告の会社名,住所等が記載されている。(オ) 背面最上部に,小さい赤字で原告表示1が記載されている。その右側に黒字で「第2類医薬品」と記載され,四角で囲まれている。小さい黒字で効能,用法・用量,成分・分量が記載されている。(カ) 上面最上部には,黒字で「第2類医薬品」と記載され,四角で囲まれており,その下に赤字(糖衣の部分は長方形の赤地に白抜き)で原告表示2が記載されている。中央部に大きく上記ラッパのマークが記載されており,その下に黒字で「登録商標」及び「84錠」という記載がある。(キ) 底面最上部に,赤字で原告表示2をアルファベット表記にしたものが記載され,その下に,ラッパのマークが記載されている。下部には,製造番号と使用期限が記載されている。(3) 被告各表示の構成被告商品の包装の正面と右側面は,別紙被告表示目録記載2のとおりであるが,原告は,被告商品の包装自体(全体)を被告表示2であると主張し,また,その中に被告表示1を使用していると主張する。ア被告商品の包装 包装の正面と右側面は,別紙被告表示目録記載2のとおりであるが,原告は,被告商品の包装自体(全体)を被告表示2であると主張し,また,その中に被告表示1を使用していると主張する。ア被告商品の包装の構成そこで,まず,上記包装の具体的な構成をみると,以下のとおりである(甲5,乙1)。(ア) 全体直方体で,全体の色調は橙色である。(イ) 正面上から順に以下の記載がある。a 上半分赤字で「下痢・食あたり・水あたり」と記載され,赤色の下線が引かれている。黒字で大きく「正露丸」と記載されている。左側に,赤い錠剤型の楕円形が記載され,その中に白抜きで「糖衣」と記載され,その右側に,黒字で「飲みやすい」,「白い錠剤」と2段に分けて併記されている。b 下半分正面下部のほとんどを占める大きさで金色の四角形が記載され,これを下地として抜き書きすることにより,背景からアルファベットの「」の形で読み取れるように記載されている。上記「」の文字の中央を横切るように,赤い線が水平に引かれており,その中に白抜きで「」と記載されている。上記「」の文字の下部右側には,3つの白い錠剤が記載されている。正面最下部の左側には黒字で「第2類医薬品」と記載され,四角で囲まれており,その右側に黒字で「90錠」と記載されている。(ウ) 右側面上から順に以下の記載がある。a 左半分赤字で「下痢・食あたり・水あたり」と記載され,赤色の下線が引 かれている。黒字で大きく「正露丸」と書かれている。左側に赤い錠剤型の楕円形が記載され,その中に白抜きで「糖衣」と記載され,その右側に黒字で「飲みやすい」,「白い錠剤」と2段に分けて併記されている。黒字で「第2 「正露丸」と書かれている。左側に赤い錠剤型の楕円形が記載され,その中に白抜きで「糖衣」と記載され,その右側に黒字で「飲みやすい」,「白い錠剤」と2段に分けて併記されている。黒字で「第2類医薬品」と記載され,四角で囲まれており,その右側に「90錠」と記載されている。b 右半分右半分のほとんどを占める大きさで,前記イbと同様にアルファベットの「」が記載されている。上記「」の文字の中央を横切るように,赤い線が水平に引かれ,その中に白抜きで「」と記載されている。上記「」の文字の下部左側に,3つの白い錠剤が記載されている。(エ) 左側面最上部に,赤字で「販売名:正露丸糖衣「キョクトウ」」と記載され,その右には黒字で「第2類医薬品」と記載され,四角で囲まれている。その下には,小さな字で用法及び用量並びに服用及び保管上の注意が記載されている。(オ) 背面小さな字で成分及び分量,効能又は効果,被告の会社名,住所等が記載されている。(カ) 上面最上部に赤字で「下痢・食あたり・水あたり」と記載され,赤色の下線が引かれている。中央に大きく黒字で「正露丸」と記載されている。その下に赤い錠剤型の楕円形が記載され,その中に白抜きで「糖衣」と記載されている。最下部に,黒字で「第2類医薬品」と記載され,四角で囲まれており,その右側に黒字で「90錠」と記載されている。(キ) 底面上面と同じである。イ被告表示1前記アのとおり,被告商品の包装において,「正露丸」,「糖衣」及び「」の各文字が記載されてはいるものの,これらは,文字の大きさ,字体及び色が全く異なり,明確に分けて記載されていることが明らかであって,一連一体のものとして記載されて て,「正露丸」,「糖衣」及び「」の各文字が記載されてはいるものの,これらは,文字の大きさ,字体及び色が全く異なり,明確に分けて記載されていることが明らかであって,一連一体のものとして記載されているということはできないし,他に被告が被告表示1を使用しているとする主張立証はない。したがって,被告が被告表示1を使用しているとする原告の主張は採用できない。ウ被告表示2被告表示2は,前記アのとおりの構成である。 (4) 被告表示2と原告各表示との類否判断ア被告表示2と原告表示1及び2の対比以下のとおり,被告表示2と原告表示1及び2は,外観,称呼及び観念において相違しており,類似する商品表示であるとはいえない。(ア) 外観前記3ウ(同ア)の被告表示2の構成をみると,「正露丸」,「糖衣」及び「」の各文字が記載されてはいるものの,これらは,文字の大きさ,字体及び色が全く異なり,明確に分けて記載されていることが明らかであって,一連一体のものとして記載されているなどとはいえない(なお,それだけでなく,各文字の位置関係からして,被告表示2を単一の商品表示とみること自体困難というべきである。)。したがって,漢字とカタカナの表記の相違やアルファベットの相違を問題とするまでもなく,被告表示2は,一連一体のものとして「セイロガン」,「糖衣」及び「」の各文字を組み合わせた原告表示1及び2と,外観において明確に相違するものである。(イ) 称呼前記アのとおり,被告表示2は,「正露丸」,「糖衣」及び「」の各文字が一連一体のものとして記載されているとはいえないから,「セイロガントーイエス」の称呼が生じるとは認められない。他に原告表示1及び2から生じる「セイロガントーイエー」の称呼と類 」の各文字が一連一体のものとして記載されているとはいえないから,「セイロガントーイエス」の称呼が生じるとは認められない。他に原告表示1及び2から生じる「セイロガントーイエー」の称呼と類似する称呼が被告表示2から生じると認めるに足りる証拠はない。(ウ) 観念原告は,被告表示2について「正露丸」,「糖衣」及び「」の各文字が需要者から一連一体の商品表示と受け取られることを前提として,これが外観及び称呼の点において原告表示1及び2と類似するから,観念においても共通のものであると主張しているものである。しかしながら,前記ア及びイによれば,その前提を認めることができないから,この点に関する原告の主張にも理由がない。イ被告表示2と原告表示3の対比以下のとおり,被告表示2は,原告表示3と相違しており,類似する商品表示であるとはいえない。(ア) 原告表示3のうち自他商品識別機能を有する部分原告表示3のうち,「胃腸薬」,「第2類医薬品」,「軟便」,「下痢」,「食あたり」,「飲みやすい白い錠剤」,「84錠」の各記載は,いずれも単に原告商品の効能,用途,数量について普通に用いられる方法で表示したにすぎないことが明らかである。また,前記12のとおり,本件医薬品の包装について,直方体で包装箱全体の地色が橙色であることは,同種商品に見られる,ありふれた一般的な構成である。さらに,医薬品において,医薬品名に続けてアルファベットで一文字を表記することがありふれた一般的表記であることは当事者間に争いがない上,大きく金色で記載されたアルファベットの「」の文字自体によって原告の営業又は原告商品を想起させるものであるとする主張立証もない。そうすると,原告表示3のうち需要者に対する自他商品識別 ない上,大きく金色で記載されたアルファベットの「」の文字自体によって原告の営業又は原告商品を想起させるものであるとする主張立証もない。そうすると,原告表示3のうち需要者に対する自他商品識別機能を有するのは,原告表示2(ただし,正面は2段に分けて表記されている。),ラッパのマークの部分であることが認められる。(イ) 被告表示2のうち自他商品識別機能を有する部分被告表示2のうち「下痢・食あたり・水あたり」,「正露丸」,「」,「糖衣」,「飲みやすい」,「白い錠剤」,「第2類医薬品」及び「90錠」の各記載は,いずれも単に被告商品の効能,用途,数量について普通に用いられる方法で表示したにすぎないことが明らかである。また,前記12のとおり,本件医薬品の包装について,直方体で包装箱全体の地色が橙色であることは,同種商品に見られる,ありふれた一般的な構成である。医薬品において,医薬品名に続けてアルファベットで一文字を表記することがありふれた一般的表記であることは当事者間に争いがないし,金色で大きく記載されたアルファベットの「」の文字自体によって被告の営業又は被告商品を想起させるとする主張立証もない。被告も主張するとおり,「」は本件医薬品の普通名称である「」の頭文字であるほか,スーパー,スペシャルなど,「優れた」をイメージするアルファベットであることからしても,自他商品識別機能を有するとはいいがたい。これらのことからすると,被告表示2のうち,原告が,原告表示3と類似すると主張する,正面及び右側面には,何ら自他商品識別機能を有する部分はないというべきであり,被告表示2のうち自他商品識別機能を有するのは,左側面及び背面に記載された被告商品の販売名,被告の社名であると認め する,正面及び右側面には,何ら自他商品識別機能を有する部分はないというべきであり,被告表示2のうち自他商品識別機能を有するのは,左側面及び背面に記載された被告商品の販売名,被告の社名であると認められる。(ウ) 対比前記アのとおり,原告表示3のうち需要者に対する自他商品識別機能を有するのは,原告表示2(ただし,正面は2段に分けて表記されている。)及びラッパのマークの部分であるところ,前記イのとおり,被告表示2にはこれに類する表示がない。したがって,被告表示2は,原告表示3の類似の商品表示であるとは認められないというべきである。ウアンケート結果(取引の実情)について原告は,原告各表示と被告各表示が類似することなどを裏付ける証拠として,インターネットを用いたアンケート結果に係る書証(甲59ないし62)を提出している。これらの書証によれば,原告が実施したアンケート結果の概要は,要するに,① 回答者らに対し,被告商品(被告表示2の正面)を示して認識の有無等について質問した後,② 認識していると回答した約8割の回答者らに対し,原告商品を含むその他の本件医薬品の包装を見せて確認したところ,そのうちの約9割の者が原告商品と誤認していたというものである。そこで検討すると,上記アンケートの回答者らが,前記1の各事実,すなわち「正露丸」が単なる一般名称にすぎないこと及び原告以外にも本件医薬品を製造販売する業者が多数存在することなどを認識していたかについては全く明らかでない。そうすると,上記アンケートは,前記1の各事実を知らない回答者らが,被告表示2を見て本件医薬品に係る包装であると認識し,そこから本件医薬品に係る市場において大きな市場占有率を有する原告ないし原告商品を想起したにすぎないとみることも 実を知らない回答者らが,被告表示2を見て本件医薬品に係る包装であると認識し,そこから本件医薬品に係る市場において大きな市場占有率を有する原告ないし原告商品を想起したにすぎないとみることも十分に可能である。したがって,上記アンケート結果が被告各表示について原告各表示と類似することなどを裏付けるものであるとはいえない。他に,上記認定を覆すに足りる取引の実情は認められない。(5)法19条1項1号による適用除外なお念のため補足して説明すると,前記4イイで述べたとおり,被告表示2のうち「正露丸」及び「糖衣」の各文字は,それ自体としては普通名称にすぎない単語であり,医薬品についてアルファベットを付記することも慣用されている表示にすぎない。「」についても,自他商品識別機能を認めることはできない。また,被告表示2を全体としてみた場合に,これらの普通名称及び慣用表示を,普通に用いられる方法ではない態様で使用したものであると認めることもできない。要するに,被告表示2は,これら普通名称ないし慣用表示を普通に用いられる方法で使用しているにすぎないというべきである。 3 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求には理由がない。よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁 判 長 裁 判 官山田陽三 裁 判 官松川充康 裁 判 官 西田昌吾 裁判官 西田昌吾
▼ クリックして全文を表示