平成14(ワ)2803 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年4月9日 名古屋地方裁判所
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判決文本文22,762 文字)

主文 1被告は,原告に対し,3336万1112円及びこれに対する平成12年11月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2原告のその余の請求を棄却する。 3訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。 4この判決は,主文1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求被告は,原告に対し,6024万9798円及びこれに対する平成9年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,原告が,被告の輸入した医療用漢方薬「天津当帰四逆加呉茱萸生姜湯エキス顆粒「KM」医療用(KM-38)」(以下「KM」という。)を服用したことにより腎不全に罹患したとして,被告に対し,製造物責任法に基づき,原告の被った損害6024万9798円及びこれに対する平成9年12月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1争いのない事実等(争いのない事実のほかは,各項に掲記の各証拠に弁論の全趣旨を総合して認める。)(1)当事者ア原告は,昭和29年10月27日生まれの主婦である(甲32)。 イ被告は,医薬品等の輸入販売等を目的とする株式会社であり,KMを中国天津から輸入販売してきたものである。 (2)KMの成分,効能等アKMは,日本薬局方に収載されたタイソウ,ケイヒ,シャクヤク,トウキ等を含む漢方薬で,その成分の一つである関木通の中にアリストロキア酸が含まれている。 イ被告が平成7年7月に作成した添付文書によれば,KMは「手足のしびれを感じ,下肢が冷えると下肢又は下腹部が痛くなりやすい者」に対し,そのような人の,しもやけ,頭痛,下腹部痛,腰痛に効能,効果があると謳われている。 ウKMについては,平成9年1月に1例,同年2月に2例の腎機能障害の副 えると下肢又は下腹部が痛くなりやすい者」に対し,そのような人の,しもやけ,頭痛,下腹部痛,腰痛に効能,効果があると謳われている。 ウKMについては,平成9年1月に1例,同年2月に2例の腎機能障害の副作用の情報があり,被告は,平成9年2月14日付をもって,得意先等に対し,使用注意喚起の文書を自主的に配布した。 さらに,同年7月4日,4例目の腎機能障害の副作用の情報があったことから,被告は,同月7日,KMを自主回収することを決定し,医療機関からの自主回収を開始した。被告作成の,同日付「出荷休止のお知らせ及び自主回収のお願い」と題する文書の中で,専門誌に掲載された「ウマノスズクサ科に含まれているアリストロキア酸が腎機能障害に起因している疑いがある」との報告が紹介されている。 エアリストロキア酸は,その投与量によっては,腎不全を発症させる。 オ中薬大辞典の関木通の項には,ある産婦が関木通約110äを赤豆と一緒にスープに煮て食べた後,急性腎不全,尿毒症様症状を呈したとの臨床報告及び関木通を薬用投与する場合の適量は1日3äないし6äであるとの記載がある。 カKM1日の指定服用量7äに含まれる関木通は2ä,その中に含有されるアリストロキア酸は1.0130㎎である(乙6)。 (3)原告のKM服用と腎障害ア原告は,平成7年7月26日から平成9年6月11日までの間,冷え症の治療のため,名古屋市内のA医院医師の処方により,1日3回合計4äのKMを服用してきた(甲6)。 イ原告は,平成8年末頃から口渇及び全身倦怠感,平成9年11月から嘔吐がそれぞれ出現し,同年12月8日,B病院腎内科で診察を受けたところ,腎障害の指摘を受けた。 原告は,同病院にて投薬治療を受けたが,腎障害は徐々に進行し,平成12年11月15日,血液透析を受けるに至った(以下「本件腎障害」という。)(甲 病院腎内科で診察を受けたところ,腎障害の指摘を受けた。 原告は,同病院にて投薬治療を受けたが,腎障害は徐々に進行し,平成12年11月15日,血液透析を受けるに至った(以下「本件腎障害」という。)(甲5,28)。 ウ原告は医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(以下「医薬品機構」という。)に対し,平成10年9月14日,KM等の医薬品の副作用により間質性腎炎に罹患したとして,医療費・医療手当(以下「医療費等」という。)の支給請求をした(甲4)。 エ医薬品機構は原告に対し,平成11年3月19日付で,「医薬品の副作用による疾病」を「間質性腎炎」,「副作用の原因と考えられる又は推定される医薬品」を「KM」であるとして上記医療費等の支給決定をした(甲8)。 オ原告は医薬品機構に対し,平成13年1月12日,KMによる腎機能障害を理由として障害年金支給請求をしたところ,医薬品機構は原告に対し,同年6月29日付で,「障害の状態」を「間質性腎炎による腎機能障害」,「障害(副作用)の原因と考えられる又は推定される医薬品」を「KM」であるとして,障害等級2級,平成13年2月から年額220万9200円を支給する旨の障害年金支給決定をした(甲1)。 カ原告は医薬品機構から,平成15年12月5日までに,上記障害年金として総額624万6600円の支給を受けた。 (4)KMは,製造物責任法2条1項所定の「製造物」であり,被告は,KMを業として輸入していた者であり,同法2条3項1号所定の「製造業者」にあたる。 (5)原告は平成14年7月8日に本訴を提起した。 2争点(1)KMの欠陥の有無(2)原告が罹患した本件腎障害とKMの服用との因果関係(3)損害額(4)消滅時効の成否3争点に対する当事者の主張(1)争点(1)(KMの欠陥の有無)について(原告の主張)製造物責任法上の「 (2)原告が罹患した本件腎障害とKMの服用との因果関係(3)損害額(4)消滅時効の成否3争点に対する当事者の主張(1)争点(1)(KMの欠陥の有無)について(原告の主張)製造物責任法上の「欠陥」とは,「当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物にかかる事情を考慮して,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。」と定義される(同法2条2項)ところ,この定義によれば,本件製造物たるKMは,以下のとおり,①冷え症の薬として服用されることを予定されたものが腎不全という通常許されるべき範囲を遙かに超えた結果が出たこと,又は②このような副作用が出ることを警告しなかったこと,という欠陥を有する。 ア製造物の特性製造物の特性とは,製造物自体が有する固有の事情を意味するが,医薬品の特性の項目としては,製造物の効用・有用性,製造物の表示が挙げられる。 (ア)製造物の効用・有用性最先端の医薬品のように,高度の有効性のために相当の危険性があっても,それを社会的に許容しなければならない場合があり,欠陥の有無の判断には,発生した危険な結果である副作用だけでなく,当該医薬品の薬効も考慮に入れる必要があるが,逆に当該医薬品の薬効がそれほど重要なものではなく,又は,代替性があるのに対し,重篤な副作用がある場合には,その医薬品を流通に置いておく必要はなく,欠陥があるということになる。 KMは,手足の冷えを感じ,下肢が冷えると下肢又は下腹部が痛くなりやすい者に対し,しもやけ,頭痛,下腹部痛,腰痛に効能・効果があるとされるが,このような症状の対処薬として,漢方薬以外の医薬品が多数存在しているし,漢方薬に限っても関木通を成分としないものが多数存在しており,重篤な腎機能障害を甘受してまでKMを使用 能・効果があるとされるが,このような症状の対処薬として,漢方薬以外の医薬品が多数存在しているし,漢方薬に限っても関木通を成分としないものが多数存在しており,重篤な腎機能障害を甘受してまでKMを使用する必要性は全くない。 (イ)製造物の表示医薬品の場合,効用の表示のほかに,副作用の存在と使用上の注意事項等が十分に認識・理解される必要があり,少なくとも,その医薬品を投薬する医師が明確に認識・理解できるように表示しなければならない。 仮にKMの1回の服用量中に含まれるアリストロキア酸が微量であり,数回程度の服用では腎不全を引き起こすに足りるアリストロキア酸が体内に摂取されず,長期的に服用することで初めて腎不全が生じるものだとしても,KMの効用と腎不全という重篤な副作用との相関を考慮すれば,KMの能書において,成分の表示,長期投与において腎不全が生じる危険性等の警告表示がなされなければならない。 しかし,KMにおいては,関木通に含まれるアリストロキア酸が腎機能に障害を与えることにつき,医師が入手できる添付文書に記載はない(乙5)。また,KMの添付文書をみると,その成分である関木通については「木通」と表示され,日本薬局方であることを示す「〃」がはずされているのみで,日本薬局方外であることは明記されておらず,表示として非常にわかりにくい。「木通」という記載も,一般にはアケビ科の植物を指すものと理解されており,これが関木通のことを指すことは,被告が厚生省に対し承認申請した際に添付した書類を見て初めて分かるものであるが,かかる添付書類を医療機関等は閲覧謄写できない現状においては,医師にとって,KMの添付文書に記載されている「木通」がどのような成分か知ることは不可能である。 イ通常予見される使用形態通常予見される使用形態とは,社会通念上,普通に想定される ない現状においては,医師にとって,KMの添付文書に記載されている「木通」がどのような成分か知ることは不可能である。 イ通常予見される使用形態通常予見される使用形態とは,社会通念上,普通に想定される合理的な使用形態をいうが,医薬品の場合,少なくとも能書に従って処方されているならば,これにあたるというべきである。KMは,漢方専門医に対してのみ販売されていたものではなく,医療用薬剤として医師一般に対して販売されていたものであり,医師により被告作成の能書に従って処方・投与されていたのであるから,通常の使用形態で使用されていたといえる。 ウ製造物を引き渡した時期欠陥は,当該製造物を引き渡した時期の知識,技術水準等の技術的現実可能性により判断されるべきとされ,欠陥の判断は,その時代の科学・技術の進展によって変遷する。 KMは,手足の冷えを感じ,下肢が冷えると下肢又は下腹部が痛くなりやすい者に対して,しもやけ,頭痛,下腹部痛,腰痛に効能・効果があるとされるが,このような症状の対処薬として,KMが原告に投与された平成7年当時においても,漢方薬以外の医薬品が多数存在していたし,漢方薬に限っても関木通を成分としないもの(KMと同名の「天津当帰四逆加呉茱萸生姜湯」で,日本薬局方の「木通」を成分とするもの等)が多数存在していたのであり,これらの点からすれば,重篤な腎機能障害の危険を冒してまでKMを敢えて輸入販売する必要性はなかった。 (被告の主張)原告の主張は否認し,争う。 (2)争点(2)(原告が罹患した本件腎障害とKMの服用との因果関係)について(原告の主張)アKMの服用と腎機能障害発生との間の一般的な因果関係KMの服用と腎機能障害発生との間の一般的な因果関係については,症例報告や動物実験を通じて,これを認める様々な文献(甲11ないし18)が存在している KMの服用と腎機能障害発生との間の一般的な因果関係KMの服用と腎機能障害発生との間の一般的な因果関係については,症例報告や動物実験を通じて,これを認める様々な文献(甲11ないし18)が存在している。 そして,平成11年8月10日発行の「日本内科学会雑誌」88巻8号に掲載された「薬剤性尿細管・間質性腎障害」と題する論文(甲19)には,「1993年,ベルギーにおいてダイエットのために漢方薬を服用したところ,腎機能障害を来した症例が多数出現し,Chineseherbsnephropathy と呼ばれるようになった。本邦においても,95年頃より漢方の服用により腎機能障害が出現し,Chineseherbsnephropathyと診断された症例の報告が数多く行われている」とされ,また,「Chineseherbsnephropathyの原因物質は,ウマノスズクサ科アリストロキア酸とされており,ラットに実験的投与を行ったところ,上記と同様の症状が出現することが確認されている」と記載されている(そのほかにも,アリストロキア酸による腎機能障害については,多数の論文等が発表されている。甲3,甲25,甲26)。 また,平成12年7月発行の厚生省医薬安全局「医薬品・医療用具等安全性情報」No161に掲載された「アリストロキア酸を含有する生薬・漢方薬について」と題する文書(甲20)には「アリストロキア酸はアリストロキア属の植物に含有される成分で,腎障害を引き起こすことが知られている」,「日本においては,現在,アリストロキア酸を含有する生薬・漢方薬は医薬品としての承認許可を受けたものとしては製造・輸入されていないが,アリストロキア酸を含む漢方薬の個人使用によるものと疑われる腎障害が報告されている」と記載されている(甲21)。 また,被告自身,KMについて,尿 認許可を受けたものとしては製造・輸入されていないが,アリストロキア酸を含む漢方薬の個人使用によるものと疑われる腎障害が報告されている」と記載されている(甲21)。 また,被告自身,KMについて,尿細管間質性腎炎の副作用報告があったことから,平成9年2月14日付文書により,得意先等に対し使用上の注意を促し,また,同年7月7日付文書「出荷休止のお知らせ及び自主回収のお願い」を配布して,KMの出荷休止及び医療機関からの自主回収を開始している。同月17日付の「天津当帰四逆加呉茱萸生姜湯エキス顆粒「KM」医療用(KM-38)の自主回収について」と題する文書(甲22)では,「本副作用の原因は,当該製品の原料の『関木通』に起因するものと考えられます」と被告自身が認めていた。 以上によると,アリストロキア酸は,少なくとも,その投与量によっては腎機能障害を引き起こすものであり,その意味において腎毒性を有する物質であることは明らかである。 しかも,アリストロキア酸を含有するKMは,一時に多量の投与がなされた場合でなくとも,投与が長期間にわたる場合には腎機能障害を発生させる可能性を有すると認められる。 イ原告によるKMの服用と腎不全との因果関係原告は,平成7年7月26日から平成9年6月11日までの約2年間,冷え症の治療のために,KM(1日3回合計4ä。甲5)を服用してきたところ,平成8年から口渇,全身倦怠感が出現し,平成9年11月から嘔吐が出現したため,同年12月8日B病院腎内科に受診し,腎障害の指摘を受けている(甲5)。同人は,同病院にて治療を受けたが,腎障害は徐々に進行し,平成12年11月15日からは血液透析を受けている(甲28)。 上記のとおり,KMの原料である関木通に含有されるアリストロキア酸は,腎毒性を有する物質であり,しかも,KMは一時に多量の投与が に進行し,平成12年11月15日からは血液透析を受けている(甲28)。 上記のとおり,KMの原料である関木通に含有されるアリストロキア酸は,腎毒性を有する物質であり,しかも,KMは一時に多量の投与がなされた場合でなくとも,投与が長期間にわたる場合には腎機能障害を発生させる可能性を有するものである。 原告は,平成13年6月29日付で,医薬品機構から,KMによる間質性腎炎による腎機能障害2級の障害年金支給決定を受けている(甲2)。 したがって,原告が腎不全に罹患したのは,アリストロキア酸を含有する関木通を成分とするKMの服用によるものであり,原告の腎不全とKMの服用との間には因果関係が存在する。 なお,原告はKMの服用を中止して約6か月後に初めて腎不全の指摘がなされているが,それまでに,口渇,全身倦怠感,嘔吐などの症状が出現してきていたこと,日本内科学雑誌88巻55頁以下の「薬剤性尿細管・間質性腎障害」と題する論文(甲19)には,アリストロキア酸を原因とする腎機能障害は「原因薬剤の服用を中止しても腎機能障害は進行するため予後は非常に悪い」とされており,KM服用中及び中止後に腎機能障害が進行していたことが十分に考えられるのであるから,服用中止から発症までに半年程度の期間があったとしても,このことは因果関係の存在を疑わせるものではない。 (被告の主張)アKMの歴史的安全性KMは,中国古来の漢方薬である当帰四逆加呉茱萸生姜湯の煎じ液を顆粒化したもので,当帰四逆加呉茱萸生姜湯なるものは,後漢末頃張仲景によって著された漢方の原点といわれる傷寒論に記載され,歴史的にその効果の保証された漢方薬である。 被告は,KMの輸入にあたって厚生大臣の承認を得ているが,その承認にあたっては,長年にわたる使用によっても別段の副作用が認められないことから,申請の際に安全性に にその効果の保証された漢方薬である。 被告は,KMの輸入にあたって厚生大臣の承認を得ているが,その承認にあたっては,長年にわたる使用によっても別段の副作用が認められないことから,申請の際に安全性に関する資料の添付は求められていない。 イ原因物質が検出されていないことおよそ中毒事故が発生した場合,第1に検討されるべきは,被害者からその障害の原因となり得る物質が検出されるか否かであるが,本件においては,原告からアリストロキア酸が検出された事実はない。 ウ原告が服用したKMの分量では腎毒性はないこと(ア)関木通の適量との関係KMに配合されている関木通の割合は28%であることから,原告に投与された1日3回計4äのKMに含まれる関木通の量は1.1ä強であり,中薬大辞典に記載されている適量の最低限の3分の1程度でしかない。 (イ)アリストロキア酸の無作用量との関係動物に被験物質を投与してその毒性をテストする場合,ある量以下であれば何の作用も示さないときの用量を,薬理学上,無作用量というところ,アリストロキア酸について行われた実験では,体重50㎏の人体に対して,1日500㎎,30日までは無作用であるとの結果が発表されている。 甲3の論文によっても,アリストロキア酸の最大無作用量は1㎏あたり0.2㎎とされており,体重50㎏の人体に対してみると,最大無作用量は10㎎となる。 ところが,原告に投与された1日あたりのKMに含まれるアリストロキア酸は0.5㎎にも満たない。 エ報告例がないこと天津市国家中医葯管理局の中国文献調査センターの1998年11月作成の報告書(乙4)によれば,関木通3äないし6äでは中毒と副作用の報告例はないとされる。 オ蓄積性がないこと南京医科大学における研究報告によれば,関木通により発症した急性腎障害による腎機能と組織病理学的変化は長 4)によれば,関木通3äないし6äでは中毒と副作用の報告例はないとされる。 オ蓄積性がないこと南京医科大学における研究報告によれば,関木通により発症した急性腎障害による腎機能と組織病理学的変化は長期間経てば自然に回復するのであるから,アリストロキア酸の蓄積性は否定される。 カ他の原因の可能性中高年女性が腎不全を発症することは少なくなく,その原因は多岐にわたっていることから,原告の腎不全の原因がKMだけであるとはいえない。 キ以上によると,原告の腎不全はKMの副作用によるものとは断じがたい。 (3)争点(3)(損害額)について(原告の主張)ア治療費立替金 1万6900円原告は,治療費として①平成10年2月16日,A医院に対し5700円を,②平成9年6月11日,C薬局に対し1万1220円,合計1万6900円を支払った(甲33,甲34)。 イ逸失利益 4023万2898円(ア)原告は,遅くとも,平成9年12月8日には慢性腎不全に罹患し,現在まで週3回,1回約4時間の透析療法を行っている状況であり,また,シャントが細い部分にあるため,血流が取れなくなったときはバルーンにより管を広げる手術を受けなければならず,さらに,座骨神経痛という症状もあり,透析の他にも,整形外科にも通院してリハビリを受けている。日常生活も,透析及び整形外科通院で制限されるだけでなく,炊事以外の家事はほとんどできない状態である(甲32)。 以上からすれば,原告は,KMの服用による腎機能障害により,労働能力の79%を喪失したものとみるのが相当である。 (イ)原告は主婦であり,逸失利益の算定に当たっては,平成9年の賃金センサスにより,女子労働者学 れば,原告は,KMの服用による腎機能障害により,労働能力の79%を喪失したものとみるのが相当である。 (イ)原告は主婦であり,逸失利益の算定に当たっては,平成9年の賃金センサスにより,女子労働者学歴計43歳である377万5500円を基礎年収額とするのが相当である。 (ウ)以上に基づき,就労年数を平成9年から67歳までの24年間として,ライプニッツ方式により中間利息を控除することとして(ライプニッツ係数13.489),原告の逸失利益の額を算定すると,4023万2898円(3,775,500円×0.79×13.489[円未満切捨て,以下同じ])となる。 ウ慰謝料1450万円エ弁護士費用550万円オ損益相殺について原告が支給を受けた障害年金は損益相殺されるべきであるとする被告の主張は争う。 (被告の主張)ア原告主張の損害は争う。 イなお,逸失利益について,原告は,労働能力の79%を喪失したと主張するが,過大である。 すなわち,原告の主張する血液透析治療は,多くとも週3回,1回の所要時間は4~5時間程度とされている。原告が血液透析に費やされる時間は,1回分を半日と計算しても,1週間に1.5日であり,1日あたりでは約0.21日程度である。よって,原告の労働能力喪失率は21%にすぎない。 ウまた,原告の受けている障害年金の受給は,賠償責任を負うものが明らかになった場合には停止されるが,その場合には,それまでの給付は損害賠償の一部として損益相殺の対象として減額されるべきである。 (4)争点(4)(消滅時効の成否)について(被告の主張)ア製造物責任法に基づく損害賠償請求権は,「被害者が…損害及び賠償義務者を知ったときから3年間行わないときは,時効によって消滅する。」(同法5条1項)ところ,原告の被告に対する損害賠償請求権は,いずれにしても次のとおりの時 害賠償請求権は,「被害者が…損害及び賠償義務者を知ったときから3年間行わないときは,時効によって消滅する。」(同法5条1項)ところ,原告の被告に対する損害賠償請求権は,いずれにしても次のとおりの時効の起算点から3年を経過しているから,時効消滅している。よって,本訴において,被告は消滅時効を援用する。 (ア)原告は,本訴状において,平成9年12月8日を起点として逸失利益の損害を請求しているのであるから,同日には既に損害を知っていたというべきであり,平成12年12月8日の経過により原告の被告に対する損害賠償請求権は時効消滅している。 (イ)原告は,平成10年9月14日,医薬品機構に医療費等の支給請求をしていたが,原告が上記請求をしたのは,KMを疑薬とする腎不全の発症をみたからであって,その時点で作成されていた医薬品機構に対する請求書添付の医療費・医療手当診断書には,間質性腎炎の病名,その特徴であるクレアニチン数値の増減の経過が克明に記載され,疑薬とされているKMの薬名,販売者たる被告会社名も明記されていたのであるから,平成10年9月14日には,原告は「損害及び賠償義務者を知った」といえる。よって,平成13年9月14日の経過により原告の被告に対する損害賠償請求権は時効消滅している。 (ウ)原告は,平成11年7月5日,腎不全による障害年金受給を目的とする病状診断書の作成を受けたのであるから,原告がこの日以前において障害年金の受給を必要とする程度の障害を被ったとの認識を有していたことは明らかである。よって,平成14年7月5日の経過により原告の被告に対する損害賠償請求権は時効消滅している。 イ原告は,間質性腎炎による障害が平成9年11月の発症時期以降継続しているものとして,その逸失利益も一貫して同率同額で積算請求しているのであり,障害発生時点で予測し 害賠償請求権は時効消滅している。 イ原告は,間質性腎炎による障害が平成9年11月の発症時期以降継続しているものとして,その逸失利益も一貫して同率同額で積算請求しているのであり,障害発生時点で予測し得なかった損害が発生したという事案ではないから,原告の損害発生が平成13年6月19日であり,損害賠償義務者を知ったのが平成14年4月23日であるとする原告の後記主張は事実に反するものである。 (原告の主張)ア製造物責任法に基づく損害賠償請求権について消滅時効の期間が進行するには,被害者が①損害を知ったこと及び②賠償義務者を知ったことが必要である(同法5条1項)。そして,逸失利益に関する消滅時効の起算点の要件である「損害を知りたる」とは,症状固定時あるいは症状固定診断時である。 イ損害を知った時期について(ア)「慢性腎不全」とは,腎臓の機能が徐々に低下し,末期には尿毒症となり透析治療を必要とする状態の全過程を指す幅のある概念である。すなわち,慢性腎不全の診断がなされたからといって,回復しないというのではなく,症状が固定したとはいえない。腎臓の機能が30%を切ると保存期腎不全に入り,10%を切ると末期腎不全となり,透析期腎不全に至り血液透析を必要とする。この段階にまで達すると,回復はできなくなり,いわゆる症状が固定した段階となる。 (イ)原告は,既に平成9年12月8日頃にB病院担当医から間質性腎炎(慢性腎不全)の診断は受けていたが,平成11年7月5日付の同担当医作成の障害年金診断書に基づく同月19日付医薬品機構に対する障害年金支給申請に対しては,同機構から同年12月24日付で障害年金不支給決定が通知されている(甲27)のであり,平成11年7月5日付診断書の内容を前提とすれば,原告の間質性腎炎による腎機能障害の程度は政令で定める障害等級に該当せず,後 年12月24日付で障害年金不支給決定が通知されている(甲27)のであり,平成11年7月5日付診断書の内容を前提とすれば,原告の間質性腎炎による腎機能障害の程度は政令で定める障害等級に該当せず,後遺障害は認められなかったのである。 その後,原告のCr(クレアチニン)及びBUN(尿素窒素)の値は上昇し,平成12年11月14日には,その値はそれぞれ8.4及び71と悪化の一途を辿り,翌15日からは血液透析を受けざるをえなくなったのである(甲28)。 そこで,原告はB病院担当医作成の平成12年12月21日付障害年金診断書(甲28)などを資料として,平成13年1月12日受付で医薬品機構に障害年金支給の申請を行い,同年6月29日付でようやく医薬品機構から障害年金支給決定通知を受けたのである(甲1)。 (ウ)このように,原告は,既に平成9年12月8日頃には慢性腎不全の診断は受けていたが,原告の後遺障害の症状固定日は,早くとも医薬品機構が障害年金支給決定通知をした平成13年6月29日であり,それ以前の時点では,原告は未だ治療継続中であり,症状固定していないから,後遺障害に基づく逸失利益・慰謝料等の損害額が確定しておらず,原告が損害賠償請求権を行使することはできなかったものである。 ウ賠償義務者を知った時期について原告が,賠償義務者が被告ではないかとの認識をもったのは,当裁判所がKMについて被告の賠償責任を認める判決を言い渡したことを新聞で報じられた平成14年4月23日である。 エ仮に,被告主張の消滅時効が完成しているとしても,被告の医薬品を輸入する会社としての社会的使命に照らして,被告が消滅時効を援用することは,信義誠実の原則に違反し,権利の濫用にあたる。 第3争点に対する判断1争点(1)(KMの欠陥の有無)について(1)製造物責任法2条は,「欠陥」とは 的使命に照らして,被告が消滅時効を援用することは,信義誠実の原則に違反し,権利の濫用にあたる。 第3争点に対する判断1争点(1)(KMの欠陥の有無)について(1)製造物責任法2条は,「欠陥」とは「当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう」と定めているところ,KMのような医薬品は,一定の効能がある反面,ある程度の副作用は避けられないという性質を有していることから,輸入された医薬品が「欠陥」を有するかどうかは,当該医薬品の効能,通常予見される処方によって使用した場合に生じ得る副作用の内容及び程度,副作用の表示及び警告の有無,他の安全な医薬品による代替性の有無並びに当該医薬品を引き渡した時期における薬学上の水準等の諸般の事情を総合考慮して判断するのが相当である。 (2)そこで,以上の見地から本件について検討する。 アKMの効能前記争いのない事実等によると,KMは,手足のしびれを感じ,下肢が冷えると下肢又は下腹部が痛くなりやすい者のしもやけ,頭痛,下腹部痛,腰痛に対する効能がある。 イ通常予見される処方によって使用した場合に生じ得るKMの副作用の内容及び程度(ア)通常予見される処方についてKMのような漢方薬の処方にあたっては,長期間,継続的に投与することには注意を払わなければならないが,慢性疾患で非炎症性,非進行性の患者に対しては,症状の変化が頻繁に起きるわけではないから,同一の処方を長期間継続することはあり得る(甲12,甲12添付資料13)。したがって,KMを長期間,継続的に処方することは,通常予見することができる使用形態といえる。 (イ)KMの長期間,継続的な服用と腎障害の因果関係a投与量や期間にもよ 甲12,甲12添付資料13)。したがって,KMを長期間,継続的に処方することは,通常予見することができる使用形態といえる。 (イ)KMの長期間,継続的な服用と腎障害の因果関係a投与量や期間にもよるが,アリストロキア酸がヒトに対して腎毒性を有するという一般論については争いがないところ,これを少量継続的に摂取した場合にも,ヒトに対して腎毒性を有するかどうかが問題となる。 本件全証拠によるも,少量のアリストロキア酸を継続的に摂取した場合の臨床実験等の報告等は見当たらないし,この場合にいかなる機序で腎障害が引き起こされるかについて論じた論文等も見当たらないことから,少量のアリストロキア酸を継続的に摂取した場合の腎毒性について,自然科学的な確証が得られているとまでは認めがたい。 bしかしながら,アリストロキア酸を含有する漢方薬を服用した場合の腎障害の症例が以下の論文及び報告等で紹介されている。 (a)「若年女性の急速進行性間質性腎線維症:漢方薬やせ薬との関連」(平成5年2月発行の「THELANCET」341号掲載。甲12添付資料1,甲14)及び「漢方薬におけるアリストロキア酸の同定」(平成6年1月発行「THELANCET」343号掲載。甲12添付資料2,甲15)によると,ベルギーにおいて,2種類の漢方薬(粉防己と唐厚朴)を用いた痩身療法を受けた女性9名が腎障害に罹患し,腎生検の結果,うち8名に著明な間質繊維化が認められ,後に,上記2種類の漢方薬のうちの「粉防己」については,アリストロキア酸が含まれており(何らかの原因で「粉防己」の代わりに「防己馬兜鈴」が搬入されたとの可能性が指摘されている。),上記の各腎障害はアリストロキア酸によるものである考えるに至ったこと(b)「漢方薬によると思われる成人発症Fanconi症候群を呈した一例」(平成8年第 が搬入されたとの可能性が指摘されている。),上記の各腎障害はアリストロキア酸によるものである考えるに至ったこと(b)「漢方薬によると思われる成人発症Fanconi症候群を呈した一例」(平成8年第26回日本腎臓学会西部学術大会。甲12添付資料4)及び「関西地方におけるChineseherbsnephropathyの多発状況について」(平成9年日本腎臓学会誌掲載。甲11,甲12添付資料8)によると,平成6年5月からアリストロキア酸を含有する当帰四逆加呉茱萸生姜湯を服用していた60歳の男性につき,平成7年9月に腎障害が認められ,腎生検の結果,間質の繊維化と近位尿細管上皮細胞の著名な変性,脱落が認められたこと(c)被告の厚生省に対する,KMによる尿細管間質性腎炎の副作用症例の報告(甲12添付資料7)によると,61歳の男性が,KMを,1回目に10か月間,2回目に15か月間服用したところ,1回目の服用開始より2年3か月経過した後,尿細管間質性腎炎に罹患したこと,43歳の女性が,21か月間KMを服用したところ,服用開始より1年8か月経過した後,尿細管間質性腎炎に罹患したこと,23歳の女性が,17か月間KMを服用したところ,服用開始より1年1か月経過した後,尿細管間質性腎炎に罹患したことc上記の症例は,相当期間,少量のアリストロキア酸を含有する漢方薬を継続して服用した例であると推察されるところ,いずれにおいても,腎障害に罹患している。さらに,これらの症例は,いずれもアリストロキア酸の服用が原因であると考えられている上,間質の繊維化,尿細管の病変等が認められ,症状において共通性が見受けられる。 このように,多くの症例において,考えられる原因及び症状が共通しているのであるから,このことと,アリストロキア酸には腎毒性があるとの一般論を併せ考えると,少量の れ,症状において共通性が見受けられる。 このように,多くの症例において,考えられる原因及び症状が共通しているのであるから,このことと,アリストロキア酸には腎毒性があるとの一般論を併せ考えると,少量のアリストロキア酸を継続的に摂取した場合においても腎毒性があると推認するのが相当である。 dこれに対して,被告は,ラットやヒトの臨床実験で判明した無作用量(すなわち,最大無作用量は0.2㎎/㎏であり,体重50㎏のヒトであれば,10㎎である。)及び中薬大辞典記載の関木通の適量からして,KMに含まれる関木通やアリストロキア酸によって腎障害を生じることはあり得ない旨主張する。 なるほど,「アリストロキア酸の毒性-オスラットにおける亜急性実験」(平成4年発行「Med.Sci.Res」掲載。甲18の1)によると,ラットにアリストロキア酸を4週間投与したところ,0.2㎎/㎏投与群では毒性はみられなかったが,5㎎/㎏投与群では明らかな毒性がみられ,25㎎/㎏投与群では腎病変を来たし,尿細管の壊死が目立ったことが報告されていること,KMに配合されている関木通の割合は28%であるところ,原告に投与された1日3回計4äのKMに含まれる関木通の量は1.1ä強であり,中薬大辞典に記載されている適量(1日3ないし6ä)の最低限の3分の1程度でしかないことは認められる。 しかしながら,上記無作用量に関する臨床実験は,比較的短期間に,多量のアリストロキア酸を投与した実験であって,この実験で得られたデータが,少量のアリストロキア酸を1年以上の長期間にわたって投与し続けた場合にも妥当するとは必ずしもいい難い。 すなわち,ヒトに対する臨床実験である「アリストロキア酸(NSC-50413):Phase1の臨床試験」(昭和39年11月発行「CANSERCHEMOTHERAPYREPOR は必ずしもいい難い。 すなわち,ヒトに対する臨床実験である「アリストロキア酸(NSC-50413):Phase1の臨床試験」(昭和39年11月発行「CANSERCHEMOTHERAPYREPORT」掲載。甲17の1)によると,抗腫瘍効果の臨床試験として20人の悪性腫瘍患者にアリストロキア酸を,投与量にして0.1㎎/㎏/日の5日間から2㎎/㎏の1回をそれぞれ投与したところ,0. 1㎎/㎏/日の5日間投与の方が2㎎/㎏の1回投与に比して強い毒性を示すことが報告されているのであるから,たとえ1回あたりの投与量が少なくとも,長期間継続的に投与されれば,より強い毒性を有することもあり得るというべきである。したがって,被告の前記主張を採用することはできない。 よって,少量のアリストロキア酸を継続的に摂取することによるヒトに対する腎毒性は,これを認めることができるのであるから,アリストロキア酸を含むKMは,その長期間,継続的な服用によって腎障害という副作用を引き起こし得ることが認められる。 e以上によると,アリストロキア酸を通常予見される処方によって使用した場合に生じ得る副作用として,腎障害を認めることができる。 (ウ)副作用の表示及び警告の有無KMの添付文書には,副作用として腎障害の存在が指摘されておらず,その成分として「木通」と表示されている(甲24の1ないし3,乙5)から,KMには,副作用として腎障害があることの表示及び警告はないことが認められる。 (エ)他の安全な医薬品による代替性の有無KMと同種の漢方薬が,被告以外の5社から出されているが,いずれも,関木通ではなく木通を使用していること(甲3),木通を含んだ当帰四逆加呉茱萸生姜湯は,一般に手足の冷えやしもやけなどに用いられていること(甲12添付資料12),木通は,アケビまたはミツバアケビのつる 木通ではなく木通を使用していること(甲3),木通を含んだ当帰四逆加呉茱萸生姜湯は,一般に手足の冷えやしもやけなどに用いられていること(甲12添付資料12),木通は,アケビまたはミツバアケビのつる性の茎とされ,ウマノスズクサである関木通とは異なり(甲20),アリストロキア酸は含まれていないこと(甲13)が認められる。したがって,KMと同様の漢方薬で,アリストロキア酸を含む「関木通」ではなく,アリストロキア酸を含まない「木通」を使用した漢方薬が多数存在するのであり,腎毒性を有するアリストロキア酸を含まない「木通」を使用した同様の漢方薬をもって,KMに代替することは容易に可能であったことが指摘できる。 (オ)医薬品を輸入した時期における薬学上の水準原告が服用したKMにつき,被告が輸入し,販売した時期については,個別的には特定されていないが,上記ヒトに対する臨床実験の報告(甲17の1)からして,少なくとも昭和39年の段階でヒトに対するアリストロキア酸の腎毒性は明らかであったし,上記「若年女性の急速進行性間質性腎線維症:漢方薬やせ薬との関連」及び「漢方薬におけるアリストロキア酸の同定」(甲12添付資料1・2,14,15)の症例報告からして,平成6年1月の段階で,アリストロキア酸を含む漢方薬の服用によって腎障害を来した症例を知ることは可能であったことが指摘できる。 (カ)以上の検討によると,KMの効能が,手足のしびれを感じ,下肢が冷えると下肢又は下腹部が痛くなりやすい者のしもやけ,頭痛,下腹部痛及び腰痛を改善することであるのに対し,長期間服用することによる副作用は腎障害であることから,効能と副作用を比較する限り,効能に比し副作用の重篤さは顕著であるというべきであり,平成6年1月の時点で,アリストロキア酸を漢方薬として使用した場合にも腎障害が発症する 副作用は腎障害であることから,効能と副作用を比較する限り,効能に比し副作用の重篤さは顕著であるというべきであり,平成6年1月の時点で,アリストロキア酸を漢方薬として使用した場合にも腎障害が発症することを知り得たにもかかわらず,KMには副作用として腎障害があることが表示されていない上,上記KMの効能は,アリストロキア酸を含まない「木通」を成分とした当帰四逆加呉茱萸生姜湯によって容易に代替できることが認められる。よって,KMは,製造物責任法上の欠陥を有するというべきである。 2争点(2)(原告が罹患した本件腎障害とKMの服用との因果関係)について(1)上記争点(1)についての検討結果に加えて上記争いのない事実等(第2,1,(3),ア及びイ)によると,原告が罹患した本件腎障害は,長期間にわたるKMの継続的な服用によるものと推認するのが相当であるから,原告が罹患した本件腎障害とKMの服用との間には相当因果関係を有すると認めることができる。 (2)これに対して,被告は,①原告の体内からアリストロキア酸が検出されたとの事実がない,②中高年女性が腎不全を発症することは少なくなく,原告の腎障害には他の要因も考えられる,③アリストロキア酸には蓄積性がない旨主張する。 しかしながら,上記①については,原告の体内からアリストロキア酸が検出されなかったとの事実が認められるのであればともかく,単に,原告の体内からアリストロキア酸が検出されていないというだけでは,上記推認を覆すには足りない。また,上記②については,本件全証拠によっても,中高年女性が腎不全を発症することが少なくないこと自体,これを認めるに足りる証拠がない上,仮に他の要因によって腎不全を発症しうる可能性があったとしても,その要因が具体的に主張,立証されていない以上,上記推認を覆すことはできない。次に上記 ないこと自体,これを認めるに足りる証拠がない上,仮に他の要因によって腎不全を発症しうる可能性があったとしても,その要因が具体的に主張,立証されていない以上,上記推認を覆すことはできない。次に上記③についてみるに,アリストロキア酸に蓄積性がなく,かつ,原告の本件腎障害がKMの服用中止後約半年を経過した後に発症したというのであれば,上記推認を覆すに足り得るものであるといえないでもない。なるほど,原告の本件腎障害は,KMの服用を中止した平成9年6月11日の約半年後の同年12月8日に指摘を受けたものではある。しかしながら,原告が同年12月11日に受けた検査結果によると,Cr(クレアチニン)及びBUN(尿素窒素)の値はそれぞれ3.4(正常値0.8~1. 5),41(正常値8~18)であって,当時既に原告の腎機能は相当程度低下していたことが窺われる上,平成8年末頃には口渇及び全身倦怠感,平成9年11月には嘔吐が出現していたのである(甲5)から,本件腎障害は,平成9年12月8日よりも相当以前に発症していた蓋然性が極めて高いと推察されるのであり,被告において,原告の本件腎障害の発症時期がKMの服用中止の相当期間経過後である旨を具体的に特定して主張・立証しない限り,アリストロキア酸に蓄積性がないとしても,そのことのみをもって上記推認を覆すことはできないというべきである。 3争点(3)(損害額)及び争点(4)(消滅時効の成否)について(1)前記争いのない事実に加えて後掲各証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア原告は,平成9年12月8日頃にB病院担当医から間質性腎炎(慢性腎不全)の診断を受け,平成9年12月10日から平成10年3月25日の合計106日間入院した(甲5,32)。 イ原告は,本件腎障害に罹患したことによる治療費として,平成9年6月11日,C薬局 (慢性腎不全)の診断を受け,平成9年12月10日から平成10年3月25日の合計106日間入院した(甲5,32)。 イ原告は,本件腎障害に罹患したことによる治療費として,平成9年6月11日,C薬局に対し1万1120円を,平成10年2月16日,A医院に対し5700円をそれぞれ支払った(甲33,34)。 ウ原告は医薬品機構に対し,平成10年9月14日付で,KM等の医薬品の副作用により間質性腎炎に罹患したとして,医療費等の支給請求をし,医薬品機構から,平成11年3月19日付で,「医薬品の副作用による疾病」を「間質性腎炎」,「副作用の原因と考えられる又は推定される医薬品」を「KM」であるとして上記医療費等の支給決定を受けた。 エ原告は医薬品機構に対し,平成11年7月19日付で,同月5日付のB病院担当医作成の障害年金診断書等を資料として障害年金支給請求をしたが,医薬品機構から同年12月24日付で,「医薬品の副作用による疾病等の名称は間質性腎炎による腎機能障害であり,その原因と考えられる又は推定される医薬品はKMであるが,その障害の程度は政令で定める障害等級に該当しない。」ことを理由に障害年金不支給決定が通知された(甲27)。 オその後,原告のCr(クレアチニン)及びBUN(尿素窒素)の値は上昇し,平成12年11月14日には,その値はそれぞれ8.4及び71と悪化の一途を辿り,翌15日からは血液透析を受けるようになった(甲28)。 カそこで,原告はB病院担当医作成の平成12年12月21日付障害年金診断書(甲28)などを資料として,平成13年1月12日付で医薬品機構に障害年金支給請求をし,医薬品機構から,同年6月29日付で,「障害の状態」を「間質性腎炎による腎機能障害」,「障害(副作用)の原因と考えられる又は推定される医薬品」を「KM」であるとして,障害 構に障害年金支給請求をし,医薬品機構から,同年6月29日付で,「障害の状態」を「間質性腎炎による腎機能障害」,「障害(副作用)の原因と考えられる又は推定される医薬品」を「KM」であるとして,障害等級2級,平成13年2月から年額220万9200円を支給する旨の障害年金支給決定を受けた(甲1)。 キ原告は,現在,週3回,1回約4時間の血液透析を受けており,これに加え,シャントが細い部分にあるため,血流が取れなくなったときはバルーンにより管を広げる手術を受けることもある(甲32)。 ク原告は,医師から,軽作業,軽い家事程度への生活制限を指示されており(甲28),血液透析を受ける日は,朝食と夕食を作ることしかできず,血液透析を受けない日も,余り体を使わないように気を遣いながら家事をこなすという生活をしている(甲32)。 (2)以上のとおり認められるところ,まず,争点(4)(消滅時効の成否)について判断する。 ア上記認定の事実によると,原告は,平成9年12月8日に腎障害の指摘を受けて以来,回復に向けて治療を継続したが,原告の本件腎障害は徐々に進行し,平成12年11月15日からは,血液透析を受けなければ生命を維持できない程度に達し,同日以後,週3回の血液透析を受けるに至っているというのであるから,原告の本件腎障害は,血液透析を受けた平成12年11月15日をもって症状が固定したものと認めるのが相当である。 イところで,上記のように腎機能障害の発症後,回復に向けて治療を継続するも,日々刻々と症状が進行し,一定の後遺障害を残す形で症状が固定した場合,「被害者が…損害…を知った」というためには,被害者が,治癒することのできない残存症状を後遺障害として認識し,後遺障害による損害の範囲及び損害額を把握しうる程度の事実を認識することが必要であると解すべきである。なぜ …を知った」というためには,被害者が,治癒することのできない残存症状を後遺障害として認識し,後遺障害による損害の範囲及び損害額を把握しうる程度の事実を認識することが必要であると解すべきである。なぜなら,製造物責任法が,「被害者が…損害及び賠償義務者を知った」場合に短期消滅時効を認めたのは,被害者が事実上損害賠償請求権の行使が可能な程度の認識を有するに至ったからにほかならないのであって,被害者が事実上損害賠償請求権を行使するには,抽象的に後遺障害が生じる可能性を認識するだけでは足りず,損害の範囲を確定し,損害額を概算できる程度に,後遺障害の内容及び程度を具体的に把握する必要があるといわなければならないからである。 ウこれを本件についてみるに,被告主張の消滅時効起算点のうち,最も遅い平成11年7月5日の時点でさえ,原告の症状は未だ固定していないばかりか,原告が同日以降に医薬品機構に対して請求した障害年金支給請求が,原告の障害の程度が政令で定める障害等級に該当しないという理由で不支給とされている。したがって,被告主張の消滅時効の起算点は,いずれの時点においても,原告が「損害…を知った」ということはできない。よって,被告主張の消滅時効の抗弁は,後遺障害に基づく逸失利益及び慰謝料については理由がないというべきであり,採用することはできない。 エ一方,原告が被った損害のうち,治療費立替分については,上記のとおり,原告の医薬品機構に対する平成10年9月14日付医療費等の支給請求について,医薬品機構から,平成11年3月19日付で,「医薬品の副作用による疾病」を「間質性腎炎」,「副作用の原因と考えられる又は推定される医薬品」を「KM」であるとして上記医療費等の支給決定を受けているのであるから,遅くとも平成11年3月19日の時点で,原告は「損害及び賠償義務 間質性腎炎」,「副作用の原因と考えられる又は推定される医薬品」を「KM」であるとして上記医療費等の支給決定を受けているのであるから,遅くとも平成11年3月19日の時点で,原告は「損害及び賠償義務者を知った」ものと認められる。この点に関して,原告は,賠償義務者が被告ではないかとの認識をもったのは,当裁判所がKMについて被告の賠償責任を認める判決を言い渡したことを新聞で報じられた平成14年4月23日である旨主張する。しかしながら,KMが被告の販売する医薬品であることは原告の平成10年9月14日付医療費等の支給請求の際に資料として添付された医療費等診断書,投薬証明書(甲5,6)及び上記平成11年3月19日付医療費等の支給決定通知によって明らかであるから,平成11年3月19日の時点で,原告に勝訴を確信し得るだけの認識がなかったとしても,原告の前記主張を採用することはできない。よって,原告の治療費立替分に関する損害賠償請求権は平成11年3月19日から3年を経過した平成14年3月19日の経過時点で時効消滅しているというべきであり,治療費立替分に関する限り,被告の消滅時効の抗弁は理由がある。 なお,原告は,医薬品を輸入する会社の社会的使命として,被告が消滅時効を援用することは信義誠実の原則に違反し,権利濫用である旨主張するが,医薬品を輸入する会社であるからといって,消滅時効の援用が信義誠実の原則に違反したり,権利濫用に該当するということはできない。 (3)そこで,すすんで争点(3)(損害額)について検討する。 ア後遺障害による逸失利益2730万7712円上記(1)に認定の事実によると,原告の労働力喪失率は56%であると認るのが相当である。そして,原告は,上記症状固定日である平成12年11月15日当時46歳であったことから,平成12年賃金センサスの46 (1)に認定の事実によると,原告の労働力喪失率は56%であると認るのが相当である。そして,原告は,上記症状固定日である平成12年11月15日当時46歳であったことから,平成12年賃金センサスの46歳女子全学歴平均である380万3400円を基準に,就労可能年数を21年とし,ライプニッツ方式により中間利息を控除し(ライプニッツ係数12.8211),これに上記労働能力喪失率を考慮して,後遺障害逸失利益を算定すると,原告の後遺障害による逸失利益は2730万7712円(3,803,400円×12.8211×0.56)となる。 なお,原告は,後遺障害の症状固定日を平成13年6月29日としながら,逸失利益算定の基礎となる始期を平成9年として請求するが,後遺障害による逸失利益は症状固定日から算定するのが相当であるから,この点に関する原告の主張は採用することができない。 イ後遺障害による慰謝料930万円上記後遺障害の程度,内容に加え,定期的に血液透析を受け続けなければ生命を維持できないこと,その他本件記録に顕れた一切の事情を考慮すると,後遺障害による慰謝料は930万円とするのが相当である。 4その他(1)損益相殺624万6600円医薬品機構の目的は,「医療費,障害年金,遺族年金等の給付を行うこと等により,医薬品の副作用による健康被害の迅速な救済を図ること」(医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法1条)であるから,原告が支給を受けた障害年金は,原告が被った障害を填補するものであると認められる。さらに,医薬品機構が給付する障害年金等は,医薬品を利用する者が拠出するものではないこと(同法31条,43条等)及び賠償責任を負担するものに対する代位の規定が定められていること(同法30条2項)を併せ考えると,原告が受給した障害年金の総額624万6600円について損 るものではないこと(同法31条,43条等)及び賠償責任を負担するものに対する代位の規定が定められていること(同法30条2項)を併せ考えると,原告が受給した障害年金の総額624万6600円について損益相殺を認めるのが相当である。 そして,原告が受給した障害年金は,原告の後遺障害の症状が固定したことを受けて支給決定されたものであることから,原告が被った損害のうち,後遺障害逸失利益及び後遺障害慰謝料に対して損益相殺すべきである。 (2)弁護士費用300万円本件事案の性質,認容額等からすると,被告において負担すべき弁護士費用は,300万円をもって相当と認める。 (3)遅延損害金の発生時期不法行為に基づく損害賠償債務は,損害の発生と同時になんらの催告を要することなく遅滞に陥ると解される(最高裁昭和37年9月4日第三小法廷判決,民集16巻9号1834号)ところ,不法行為の特則である製造物責任法による損害賠償責任についても同様に解するのが相当である。 これを本件についてみるに,原告が罹患した本件腎障害は,上記のとおり,平成12年11月15日に症状が固定したものであるから,同日をもって,後遺障害に基づく損害(逸失利益,慰謝料)が発生したということができる。そうすると,原告の損害が発生したのは平成12年11月15日というべきであるから,遅延損害金の起算日は同日とするのが相当である。 5結論以上の次第で,原告の本訴請求は,被告に対し,製造物責任法3条に基づく損害賠償として3336万1112円及びこれに対する症状固定日である平成12年11月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第8部裁 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第8部裁判長裁判官黒岩巳敏裁判官河本寿一裁判官渡辺諭

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